レーザ顕微鏡装置
【課題】コヒーレントアンチストークスラマン散乱光および多光子励起の蛍光の観察を同一の装置において両立することを可能とし、種々の観察方法により標本を観察する。
【解決手段】標本A中の分子の特定の振動周波数に略等しい周波数差を有する2つの異なる周波数を有するパルスレーザ光を導光する2つの光路13,14と、2つの光路13,14を導光されてきたパルスレーザ光を合波する合波装置9と、合波されたパルスレーザ光を標本Aに照射する集光レンズ105と、2つの光路13,14を導光される各パルスレーザ光のチャープレートを検出する周波数特性検出装置10と、検出された各パルスレーザ光のチャープレートが略同等となるように、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートを調節可能な周波数分散量調節装置6とを備えるレーザ顕微鏡装置1を採用する。
【解決手段】標本A中の分子の特定の振動周波数に略等しい周波数差を有する2つの異なる周波数を有するパルスレーザ光を導光する2つの光路13,14と、2つの光路13,14を導光されてきたパルスレーザ光を合波する合波装置9と、合波されたパルスレーザ光を標本Aに照射する集光レンズ105と、2つの光路13,14を導光される各パルスレーザ光のチャープレートを検出する周波数特性検出装置10と、検出された各パルスレーザ光のチャープレートが略同等となるように、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートを調節可能な周波数分散量調節装置6とを備えるレーザ顕微鏡装置1を採用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
標本中の分子の特定の振動を利用し、分子からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させ、この散乱光を検出することで標本の観察を行うコヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照)。このコヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡は、標本の分子の特定の振動を利用しているため、蛍光顕微鏡のように、観察対象を蛍光プローブであらかじめ標識する必要がない。また、利用する振動を変更することで観察する分子を変更することができる。
【0003】
従来、このコヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡の光源には、比較的狭い周波数スペクトル帯域を有した2つの異なる周波数を有するピコ秒パルスレーザが用いられている。このような顕微鏡によれば、これら2つのピコ秒パルスレーザ光の周波数差が、標本の分子の特定の振動周波数に一致するように調節した状態で標本面に集光する。このとき、焦点面近傍に広がる光子密度が高い極めて狭い空間において、2つのピコ秒パルスレーザ光の周波数差が分子の特定の振動周波数に共鳴し、強いコヒーレントアンチストークスラマン散乱光が発生する。このコヒーレントアンチストークスラマン散乱光は、照射した2つのピコ秒パルスレーザ光の周波数よりも高い周波数を有する(つまり短い波長を有する)。したがって、このコヒーレントアンチストークスラマン散乱光だけを分光的に選択して検出することで標本の分子の観察を行うことができる。
【0004】
また、フェムト秒パルスレーザ光を標本面に集光することで、焦点面近傍に広がる極めて狭い空間において光子密度を高めて蛍光物質を多光子励起し、鮮明な蛍光画像を得ることができる多光子励起型のレーザ顕微鏡が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特表2002−520612号公報
【特許文献2】特開2002−243641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の従来例のように、コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡において、標本の分子の特定の振動からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を効率的に発生させるためには、周波数帯域が狭い(または、パルス幅が比較的広い)ピコ秒パルスレーザ光を用いるのが良い。なぜならば、周波数帯域が広いパルスレーザ光を用いてしまうことで、2つのパルスレーザ光の周波数差の中に、分子の特定の振動周波数に一致しない周波数差成分も生じてしまうからである。それら分子の特定の振動周波数に一致しない周波数差成分は、分子の特定の振動に共鳴したコヒーレントアンチストークスラマン散乱光の発生に寄与しない。結果として、2つのパルスレーザ光のエネルギーを、分子の特定の振動からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させるために効率的に利用できなくなってしまう。
【0007】
一方、多光子励起型のレーザ顕微鏡においては、蛍光の励起効率をより高め、かつ、標本に与えるダメージをより軽減して観察を行うことを目的として、周波数帯域が広い(または、パルス幅が極端に狭い)フェムト秒レーザ光が使用され、加えて、フーリエ限界パルスに近い状態で使用される。上記理由から、コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡と多光子励起型のレーザ顕微鏡の両観察方法は、使用するパルスレーザ光の仕様が相違するため、同一の顕微鏡装置によって達成することが困難である。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察および多光子蛍光観察を同一の装置において両立することを可能とし、種々の観察方法により標本を観察することができるレーザ顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、標本中の分子の特定の振動周波数に略等しい周波数差を有する2つの異なる周波数を有するパルスレーザ光を導光する2つの光路と、該2つの光路を導光されてきたパルスレーザ光を合波する合波手段と、該合波手段により合波されたパルスレーザ光を標本に照射する照射手段と、前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光のチャープレートを検出する周波数特性検出手段と、該周波数特性検出手段により検出された各パルスレーザ光のチャープレートが略同等となるように、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートを調節可能な周波数分散量調節手段とを備えるレーザ顕微鏡装置を採用する。
【0010】
本発明に係るレーザ顕微鏡装置によれば、2つの光路を導光される各パルスレーザ光が合波手段により合波され、照射手段により標本に照射される。この際、2つの光路を導光される各パルスレーザ光のチャープレートが周波数特性検出手段により検出される。そして、周波数特性検出手段により検出された各パルスレーザ光のチャープレートが略同等となるように、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートが周波数分散量調節手段により調節される。これにより、時間軸上の各時刻において、2つのパルスレーザ光の周波数差を常に一定に保つように調節することが可能となる。
【0011】
このように2つのパルスレーザ光の周波数差を時間軸上で一定に保った状態で、標本面上に集光することにより、フェムト秒レーザ光のように比較的広い周波数帯域を有するパルスレーザ光であっても、2つのパルスレーザ光のエネルギーを効率的にコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させるために用いることができる。
【0012】
また、フェムト秒レーザ光のような周波数帯域が比較的広いパルスレーザ光を利用した場合には、いずれか一方のパルスレーザ光を標本に集光することにより、多光子励起光効果を発生させることができる。
以上のように、本発明に係るレーザ顕微鏡装置によれば、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光および多光子蛍光を効率的に発生させ、鮮明なコヒーレントアンチストークスラマン散乱光画像および多光子蛍光画像を取得することが可能となる。
【0013】
上記発明において、前記周波数分散量調節手段が、標本面上におけるパルスレーザ光が略フーリエ限界パルスに近づくように、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートを調節可能であることとしてもよい。
このようにすることで、周波数分散量調節手段により、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートを調節し、標本面上において略フーリエ限界パルスに近づけることができる。これにより、多光子励起光効果を効率的に発生させて、より鮮明な多光子蛍光観察を行うことができる。
【0014】
上記発明において、前記周波数特性検出手段が、さらに、前記二つの光路を導光される各パルスレーザ光の周波数差を検出し、該周波数検出手段により検出された周波数差を所定の周波数差に調節するための周波数差調節手段を備えることとしてもよい。
周波数差調節手段は、一方のパルスレーザ光に対して、他方のパルスレーザ光の時間的な重なりを調節することで、2つのパルスレーザ光の周波数差を2つのパルスレーザ光の周波数帯域内において任意に調節することが可能である。これにより、時間軸上で一定に保った2つのパルスレーザ光の周波数差を確認し、所定の周波数差と一致させることが可能となり、所望のコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を、より正確に得ることが可能となる。
【0015】
上記発明において、フェムト秒パルスレーザ光を射出するレーザ光源と、該レーザ光源から射出されたフェムト秒パルスレーザ光を少なくとも前記2つの光路に分岐する分波手段と、該分波手段により分岐された前記2つの光路を導光されるパルスレーザ光の周波数差が標本中の分子の特定の振動周波数に略等しくなるように、一方の光路を導光されるパルスレーザ光の周波数をその周波数帯域を変更または拡大するように変換する変換する周波数変換手段とを備えることとしてもよい。
【0016】
このようにすることで、単一のレーザ光源から射出されたフェムト秒パルスレーザ光を分波手段により2つの光路に分岐し、周波数変換手段により、2つの光路を導光されるパルスレーザ光の周波数差が標本中の分子の特定の振動周波数に略等しくなるように一方の光路を導光されるパルスレーザ光の周波数を変換することができる。これにより、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させることのできる2つのパルスレーザ光を得ることができ、これらパルスレーザ光のレーザ光源を共通化して装置構成を簡略化することができる。
【0017】
上記発明において、前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光の周波数特性を表示する表示手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、表示手段に各パルスレーザ光の周波数特性を表示させつつ、周波数分散量調節手段によりパルスレーザ光のチャープレートを調節、確認することができる。これにより、容易かつ確実に、2つのパルスレーザ光の周波数差を常に一定に保つように調節することが可能となる。
【0018】
上記発明において、前記周波数特性検出手段が、検出された前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光の周波数特性値、あるいは周波数特性を演算にて求めるための中間値を記憶する記憶手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、周波数特性を求めるのに必要な種々の演算が容易に実現できるようになるほか、周波数特性値を種々装置へ出力したり、後工程で確認したりすることも容易となる。
【0019】
上記発明において、周波数特性検出手段が、前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光のスペクトログラムを検出する検出手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、検出すべき周波数特性の演算が比較的容易に実現できるようになるほか、表示手段にて該周波数特性を確認する際に、その確認も容易になる。
【0020】
上記発明において、前記周波数特性検出手段が、前記2つの光路を導光される該パルスレーザ光の相互相関信号を検出する検出手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、より簡便な構成で、安価に周波数特性を検出することができるようになる。
【0021】
上記発明において、前記周波数変換手段が、フォトニッククリスタルファイバであることとしてもよい。
周波数変換手段としてフォトニッククリスタルファイバを用いることにより、簡易かつ安価に、周波数分散が与えられた広い周波数スペクトル帯域を有するパルスレーザ光を得ることが可能となる。また、用いるフォトニッククリスタルファイバの種類を選定することで、さまざまな周波数スペクトル成分および帯域を有するパルスレーザ光を得ることができる。このため、標本中の分子のさまざまな振動周波数に一致させるように、2つのパルスレーザ光の周波数差を調節することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光および多光子蛍光の観察を同一の装置において両立することを可能とし、種々の観察方法により標本を観察することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1について、図1から図5を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1は、図1に示されるように、レーザ光源装置2と、レーザ光源装置2からのレーザ光を標本Aに照射して標本Aを観察するための顕微鏡本体3とを備えている。
【0024】
レーザ光源装置2は、フェムト秒パルスレーザ光を出射する単一のレーザ光源4と、レーザ光源4から発せられたフェムト秒パルスレーザ光を2つに分岐する分波装置5(分波手段)と、分波装置5により分岐された2つのフェムト秒パルスレーザ光L1,L2をそれぞれ通過させる2つの光路13,14と、2つの光路13,14を通過してきた2つのパルスレーザ光L1’,L2’を合波する合波装置(合波手段)9とを備えている。
【0025】
第1の光路13には、フェムト秒パルスレーザ光L1に与える周波数分散量を調節可能な周波数分散量調節装置(周波数分散量調節手段)6が設けられている。
周波数分散量調節装置6は、例えば、相互の間隔を調節可能な一対のプリズム(図示略)と、ミラー(図示略)とを備えている。一対のプリズムを通過したフェムト秒パルスレーザ光L1は、ミラーによって折り返された後に再度プリズム対を通過し同一の光路13上に戻されるようになっている。この場合に、プリズムの間隔を調節することにより、周波数分散量調節装置6を通過するパルスレーザ光L1に与える周波数分散量を調節することでそのパルスレーザ光のチャープレートが調節できるようになっている(例えば、特許文献2参照)。また、上記プリズム対の代わりに回折格子対(図示略)を用いてもよい。
【0026】
また、周波数分散量調節装置6は、周波数分散量調節装置6を通過したパルスレーザ光L1’が、標本Aにおいて略フーリエ限界パルスに近づくような分散量およびチャープレートを設定することができるようになっている。これにより、レーザ光源4から標本Aまでの全光路において生じる周波数分散によってフェムト秒パルスレーザ光L1のパルス幅の広がりを補償することができ、標本A上に集光される時点でのフェムト秒パルスレーザ光が、略フーリエ限界に近いパルス幅を達成することができるようになっている。
なお、周波数分散量調節装置6は、後述する周波数特性検出装置(周波数特性検出手段)10により検出された各パルスレーザ光のチャープレートに基づいて制御される。
【0027】
第2の光路14には、フェムト秒パルスレーザ光L2を通過させるフォトニッククリスタルファイバ(周波数変換手段)7と、フォトニッククリスタルファイバ7通過後のパルスレーザ光L2’の光路長を調節する周波数差調節装置(周波数差調節手段)8が設けられている。
【0028】
フォトニッククリスタルファイバ7は、通過させるフェムト秒パルスレーザ光L2の周波数帯域を変更または拡大してパルスレーザ光L2’を生成し、光路13,14を導光されるパルスレーザ光L1’,L2’に標本A中の観測すべき分子の特定の振動周波数に略等しい周波数差を与えるようになっている。
【0029】
周波数差調節装置(周波数差調節手段)8は、例えば、ミラー及びリフレクタにより構成される(図示略)。より具体的には、光路14上に配されるミラーによりパルスレーザ光L2’の光路14を略90°折り返し、この折り返したL2’の光路上に配されるリフレクタで略180°さらに折り返して戻し、さらにもう1枚の光路14上に配されるミラーにより元の光路14に戻すように配置されている。光路14上に配されるミラーとリフレクタの間隔を調節することでパルスレーザ光L2’の光路長を変化させることができる。これにより、パルスレーザ光L2’が標本Aに到達する際のタイミングを調節することができる。
【0030】
合波装置(合波手段)9は、光路14を通過してきたパルスレーザ光L2’から所望の周波数帯域の成分を切り出すフィルタ(図示略)と、該フィルタを通過したパルスレーザ光L2’と光路13を通過してきたパルスレーザ光L1’とを合波して、ほぼそれらが同軸に導波するようにしたパルスレーザ光L3を生成する合波部(図示略)とを備えている。すなわち、このパルスレーザ光L3は、パルスレーザ光L1’と該フィルタを通過したパルスレーザ光L2’成分を両方含んだ光波である。合波装置9のフィルタにパルスレーザ光L2’を通過させることで、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させるに際して不要な周波数成分を除去することができる。
【0031】
顕微鏡本体3は、例えば、レーザ走査型顕微鏡であって、レーザ光源装置2から出射されたパルスレーザ光L3を2次元的に走査するスキャナ101およびレンズ群102と、スキャナ101により走査されたパルスレーザ光L3を標本A面に集光する集光レンズ(照射手段)105と、標本Aにおいて発生し、集光レンズ105によって集光された蛍光を検出する第1の光検出器104と、標本Aを透過する方向に発生するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を集光する集光レンズ107と、集光レンズ107により集光されたコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を検出する第2の光検出器108とを備えている。
【0032】
図中、符号103はダイクロイックミラー、符号106は顕微鏡ステージである。なお、標本Aにおいて発生した蛍光は、集光レンズ107により集光され第2の検出器108で検出されてもよい。また、標本Aにおいて発生したコヒーレントアンチストークスラマン散乱光は集光レンズ105により集光され第1の検出器104で検出されてもよい。
【0033】
また、レーザ光源装置2は、顕微鏡へ導光されたパルスレーザ光L3に含まれるパルスレーザ光L1’及びL2’の周波数特性を検出するための周波数特性検出装置10と、集光レンズ105と標本A間に設定されるパルスレーザ光標本点19上に設置され、パルスレーザ光L3を周波数特性検出装置10へ導光するためのパルスレーザ光導光部18とを備えている。このパルスレーザ光導光部18は、図示しない折り返しミラーやプリズム等で、パルスレーザ光L3の光軸を、周波数特性検出装置10の方向に変更して、光路15のパルスレーザ光L4として空間的に入射させることができる。その際にはレンズ等を使っても良い。また、ファイバを使って導光するようにすることもできる。レンズやプリズム、ファイバ光学系を使用する場合には、それらにより付与されるチャープ量を予め評価し、後述する極短パルス光測定部201による計測値を補正する必要がある。
【0034】
周波数特性検出装置10は、図2に示されるように極短パルス光測定部201とチャープ評価部202から構成される。極短パルス光測定部201は、図3に示されるような、パルスレーザ光L1’、L2’に含まれる周波数と時間成分の分布であるスペクトログラムS1=S1(v1,T1)、S2=S2(v2,T2)を測定し、そこからチャープレートC1(C1=Δv1/ΔT1)、C2(C2=Δv2/ΔT2)を、各パルスの周波数幅Δvとパルスの時間幅ΔTを用いて算出する手段である。該手段の一つとして、FROG(Frequency-Resolved Optical Grating)検出装置を用いることができる(例えば、非特許文献1参照)。
なお、前述の極短パルス光測定部201は、FROG以外にGRENOUILLE、SPIDER(Spectral phase Interferometry for direct Electric field Reconstruction),Sonogramであってもよい(例えば非特許文献2〜4参照)。
【非特許文献1】Journal of optical society America B 11, 2206-2215 (1994)“Frequency-Resolved Optical Gating With the Use of Second-Harmonic Generation”
【非特許文献2】Optics Express 11, 68-78 (2003)“Measuring spatial chirp in ultrashort pulses using single-shot Frequency-Resolved Optical Gating,”
【非特許文献3】Optics Letters 23, 792-5 (1998)“Spectral phase interferometry for direct electric-field reconstruction of ultrashort optical pulses”
【非特許文献4】IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL. 13, NO. 5“Optical Sampling System at 1.55 _m for the Measurement of Pulse Waveform and Phase Employing Sonogram Characterization”
【0035】
図2に示すように、チャープ評価部202は、次の(1),(2),(3)の機能を備える。すなわち、(1)極短パルス光測定部201によって測定される、パルスレーザ光L1’,L2’のパルスレーザ光標本点19におけるスペクトログラムS1,S2、チャープレートC1,C2、およびパルスの周波数幅Δvとパルスの時間幅ΔT等の周波数特性データを記憶する機能、および(2)チャープレートC1,C2から、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートの差ΔC(ΔC=C1−C2)を演算し、かつスペクトログラムデータに基づいてパルスレーザ光L1’,L2’の周波数差Ωを演算しそれぞれ記憶する機能、および(3)表示画面を有し、各パルスレーザ光のスペクトログラムS1,S2とチャープレートの差ΔC、および周波数差Ωを図や数値などで画面上に表示する機能を備える。チャープ評価部202は、レーザ顕微鏡装置を制御するコンピュータや画像やデータ表示用の表示装置で、これらの機能を達成することができる。
【0036】
上記のように構成されたレーザ顕微鏡装置1の作用について以下に説明する。
まず、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1を使用して、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光による標本Aの観察を行う場合について以下に説明する。
レーザ光源4を作動させてフェムト秒パルスレーザ光を出射させると、レーザ光源4から発せられたフェムト秒パルスレーザ光は、分波装置5により2つの光路13,14に分岐される。
【0037】
第1の光路13に分岐されたフェムト秒パルスレーザ光L1が、第1の光路13上に配置されている周波数分散量調節装置6を通過させられることによって発生するパルスレーザ光L1’には、初期の周波数分散量が与えられる。一方、第2の光路14に分岐されたフェムト秒パルスレーザ光L2は、フォトニッククリスタルファイバ7を通過させられることにより、第1の光路13のフェムト秒パルスレーザ光L1に比べて周波数スペクトルが変更または拡大された広帯域光(パルスレーザ光L2’)となる。また、同時に、パルスレーザ光L2’にはフォトニッククリスタルファイバ7を通過することにより所定の周波数分散量が与えられる。さらにこれらパルスレーザ光L1’,L2’には、合波装置9から標本A面上までの光学系を通過することによりこれら光学系全系の周波数分散量が加えられる。
【0038】
このように周波数分散量が与えられたパルスレーザ光L1’,L2’を、集光レンズ105と標本A間に位置するパルスレーザ光標本点19から、パルスレーザ光導光部18によって周波数特性検出装置10へと入射させ、極短パルスレーザ光測定部201によって周波数特性を測定する。チャープ評価部202は、これらの測定データに基づき、標本A面上におけるパルスレーザ光L1’,L2’のスペクトログラムS1,S2と、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレート差ΔCと、周波数差Ωを演算、記憶、表示する。
【0039】
この際、図4(a)に示されるように、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートが相違する場合には、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差Ωは時間軸上の各時刻において異なり、一定に保たれない。この状態においては、標本A中の分子の特定の振動モードに対応する周波数差と異なる周波数差のパルス成分はノイズとなるため、パルスレーザ光L1’,L2’のエネルギーを、標本A中の分子の特定の振動モードのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光の発生に効率よく利用することができない。
【0040】
そこで、周波数特性検出装置10において検出されたパルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートが標本Aにおいて略同等となるように周波数分散量調節装置6を作動させて、図4(a)の矢印P1に示されるようにチャープレートを変化させる。なお、この際、周波数分散量調節装置6の操作は、周波数特性検出装置10からの制御信号11にて行う。すなわち、チャープ評価部202にて表示されるパルスレーザ光L1’,L2’のスペクトログラムとチャープレート差ΔCの値を目視で確認しながらユーザが手動で行ってもよいし、チャープ評価装置202にて計算されるチャープレート差ΔCの目標値を設定しておいて自動的に制御信号を出すようにしてもよい。これらの機能によって、顕微鏡操作者は、標本A面上におけるパルスレーザ光L1’,L2’のスペクトログラムS1,S2、チャープレートの差ΔC、周波数差Ωなどの周波数特性を、視覚的に捉えたり、数値情報として確認・認識できるようになる。
【0041】
また、2つのパルスレーザ光L1‘,L2’の周波数差Ωを時間軸上で一定に保った状態でも、パルスレーザ光L1’,L2’のパルスのタイミングによっては、図4(b)に示されるように、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差が標本A中の分子の特定の振動周波数Ω’に一致しない場合がある。この場合には周波数差調節装置8により、第2の光路14を通過するパルスレーザ光L2’を時間軸方向に遅延させる。すなわち、図4(b)に矢印P2で示されるように、パルスレーザ光L2’のパルスタイミングを調節する。これにより、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差を、標本A中の分子の特定の振動周波数Ω’に一致させることができる。なお、この際の周波数差調節装置8の操作は、周波数特性検出装置10からの制御信号12にて行う。すなわち、チャープ評価部202にて表示される周波数差Ωの値を目視で確認しながらユーザが手動で行ってもよいし、チャープ評価装置202にて計算される周波数差Ωの許容範囲を決めておき、所定の振動周波数とその範囲に入るように自動的に制御信号を出すようにしてもよい。
【0042】
以上のように周波数分散量調節装置6および/または周波数調節装置8を作動させることで、合波装置9に到達する2つの光路13,14のパルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートCと周波数差Ωが調節される。その後、パルスレーザ光L1’,L2’は、合波装置9によって合波され、同軸上のパルスレーザ光L3となる。
【0043】
このように合波されたパルスレーザ光L3は、顕微鏡本体3に入射させられ、スキャナ101によって2次元的に走査された後、レンズ群102と集光レンズ105を介して標本Aに集光される。これにより、パルスレーザ光L3が集光された各位置において、標本A中の所定の分子の振動周波数に合わせたコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を効率よく発生させることができる。
【0044】
標本Aにおいて発生したコヒーレントアンチストークスラマン散乱光は、標本Aを挟んで集光レンズ105とは反対側に配置された集光レンズ107によって集光され、第2の光検出器108により検出される。そして、パルスレーザ光L3の標本Aでの集光位置の座標と、第2の光検出器108により検出されたコヒーレントアンチストークスラマン散乱光の光強度とを対応づけて記憶することにより、2次元的なコヒーレントアンチストークスラマン散乱光画像を得ることができる。
【0045】
上述のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、2つの光路13,14を導光されるパルスレーザ光L1’,L2’の標本Aの位置におけるチャープレートが周波数特性検出装置10により検出される。そして、周波数特性検出装置10により検出されたパルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートが略同等となるように、第1の光路13を導光されるパルスレーザ光L1’の周波数分散量を周波数分散量調節装置6により調節することで、時間軸上の各時刻において、2つのパルスレーザ光L1’,L2’の周波数差を標本A中の分子の所定の振動周波数に一致させることが可能となる。このようにすることで、パルスレーザ光L1’,L2’のエネルギーを効率的に標本A中の分子の特定の振動周波数からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光の発生に利用することができる。
【0046】
また、周波数調節装置8により、2つの光路13,14を通過して合波装置9に入射されるパルスレーザ光L1’,L2’が標本Aに到達するタイミングを調節することで、標本Aにおいて2つのパルスレーザ光L1’,L2’の周波数差Ωを、標本A中の分子の所望の振動周波数に一致させることができる。これにより、効率的かつ正確にコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させることが可能となる。また、周波数差Ωを任意に調節することができるため、標本A中の別の分子の振動周波数に一致させることもスキャンしてその分布を観測することも可能となる。
【0047】
また、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性を測定する場合、集光レンズ105直後の標本点19以外に、20や21など集光レンズ105より手前(光源)側の光路上の点を標本点としてパルス光の周波数特性を測定してもよい。標本点19の位置であれば、その周波数特性は、ほぼ標本Aの位置での周波数特性に一致するが、この位置の場合には、以下の方法により、標本Aにおける周波数特性を算出する必要がある。すなわち、集光レンズ105の手前で周波数特性を測定することにより取得される、ΔvA,ΔTA,CAと、これと同一の標本点において、集光レンズ105の後の略標本位置Aに挿入したミラー(図示略)からの反射光の周波数特性を測定することにより取得される、ΔvB,ΔTB,CBを用いると、標本A面でのチャープレートは次式で計算される。
【0048】
【数1】
【0049】
なお、この場合、該標本点には、図示しないミラーとビームスプリッタを切り替えて配置できるようにし、始めにミラーで集光レンズ105の手前でパルスレーザ光L3の光軸を周波数特性検出装置10の方向に変更して空間的に入射させ測定し、続いてビームスプリッタに切り替えて、上述の挿入したミラーで集光レンズ105を往復して戻ってきたパルスレーザ光L3の光軸を周波数特性検出装置10の方向に変更して空間的に入射させ測定すればよい。
【0050】
また、周波数変換手段として、フォトニッククリスタルファイバ7を使用することで、装置を簡易かつ安価に構成することができる。
また、周波数調節手段として、ミラー(リフレクタ)を有する周波数調節装置8を採用することで、装置を簡易かつ安価に構成することができる。
【0051】
また、標本Aにおいて発生したコヒーレントアンチストークスラマン散乱光は、集光レンズ105により集光され、ダイクロイックミラー103によって分岐されて第1の光検出器104により検出されてもよい。
【0052】
次に、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1を使用して、多光子励起型の蛍光による標本Aの観察を行う場合について以下に説明する。
この場合には、周波数特性検出装置10により測定された標本Aにおけるパルスレーザ光L1’のチャープレートが大きくなるように周波数分散量調節装置6を作動させる。具体的には、図5に示すように、パルスレーザ光L1’が標本A面において略フーリエ限界パルスに近づくようにパルスレーザ光L1’の周波数分散量を設定する。すなわち、図5(a)のP3の方向に分散量調節装置6を作動させ、図5(b)のようにチャープレートを増大させる。このように設定されたパルスレーザ光L1’を集光レンズ105により標本Aに集光することで、標本Aにおける集光位置において多光子励起効果を効率よく発生させ、明るい蛍光を得ることができる。
【0053】
標本Aにおいて発生した蛍光は、集光レンズ105によって集光された後、ダイクロイックミラー103によって分岐されて第1の光検出器104により検出される。そして、パルスレーザ光L1’の標本Aでの集光位置の座標と、第1の光検出器104により検出された蛍光強度とを対応づけて記憶することにより、2次元的な多光子蛍光画像を得ることができる。また、標本Aにおいて発生した蛍光は、集光レンズ107によって集光され、第2の光検出器108により検出されてもよい。
【0054】
上述のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、周波数特性検出装置10によりパルスレーザ光L1’の標本Aにおけるチャープレートを検出し、周波数分散装置6によりパルスレーザ光L1’の周波数分散量を調節することで、パルスレーザ光L1’が標本Aにおいて略フーリエ限界パルスとなるようにすることができる。これにより、多光子励起光効果を効率的に発生させて、鮮明な多光子蛍光観察を行うことができる。
【0055】
なお、多光子蛍光観察時における周波数分散量調節装置6の操作は、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察時と同様に、ユーザによる手動としてもよいし、自動としても良い。また、標本Aにおいて発生した蛍光は、集光レンズ107によって集光され、第2の光検出器108により検出されてもよい。
また、多励起型の蛍光観察と同様の条件で、SHG(第二高調波)光、THG(第3高調波)光観察などの観察も行うことができる。
【0056】
以上のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察、多光子励起型の蛍光観察およびSHG光観察を切り替えて効率よく行うことができる。すなわち、1台のレーザ顕微鏡装置1により、3種類の観察を効率よく行うことができ、マルチモーダルな観察を達成することができる。
【0057】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置について、図6、図7、図8を参照して説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置51が第1の実施形態と異なる点は、パルスレーザ光の周波数特性を顕微鏡本体53内の標本点において検出するのではなく、レーザ光源装置52内の光路13及び14から引き出して検出し、その結果から標本Aでのパルスレーザ光の周波数特性を演算により見積もる機能を持つ点である。以下、本実施形態のレーザ顕微鏡装置51について、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる上述の点について主に説明する。
【0058】
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置51は、図6に示されるように、レーザ光源装置52と、レーザ光源装置52からのレーザ光を標本Aに照射して標本Aを観察するための顕微鏡本体53とを備えている。
【0059】
レーザ光源装置52は、図6に示されるように、光路13上のパルスレーザ光L1’及び光路14上のパルスレーザ光L2’上の合波装置(合波手段)9より手前の位置に、パルスレーザ光導光手段としてのビームスプリッタ22と23をそれぞれ備えている。これらにより、パルスレーザ光L1’,L2’の一部が折り返され、光路16、17を通るパルスレーザ光L6,L7となる。この光路16、17には、合波装置9と略同一の光学要素で構成される合波装置24が更に配置される。この合波装置24により、光路16、17を通るパルスレーザ光L6,L7は、ほぼそれらの光軸が同軸に導波するパルスレーザ光L8(光路25)となる。このパルスレーザ光L8は、この光路25上に配置された周波数特性検出装置(周波数特性検出手段)50により周波数特性が測定される。なおレーザ光源装置52のその他の部分の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0060】
なお顕微鏡本体53は、図6に示されるように、上記に伴い、第1の実施形態では顕微鏡本体内にあった標本点(符号19,20,21)が顕微鏡本体外に出ており、これに付随した変更はあるが、その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0061】
周波数特性検出装置50は、図7に示されるように、極短パルス光測定部201とチャープ量評価部502から構成される。極短パルス光測定部201としては、例えばFROG検出装置等、第1の実施形態と同様の装置で構成される。一方チャープ量評価部502は、第1の実施形態とは異なり、計測したパルスレーザ光L8(光路25)に含まれるパルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性から、標本A上におけるパルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性を演算により見積もる機能を加えて備えており、具体的にはレーザ顕微鏡装置を制御するコンピュータ中にソフトウエアとして実現されている。
【0062】
周波数特性検出装置50の該機能につき、図7を用いてさらに詳しく説明する。入力されたパルスレーザ光L8(光路25)は、極短パルス光測定部201において、パルスレーザ光L1’,L2’それぞれの周波数特性として、チャープレートC、パルス時間幅ΔT(ΔT1,ΔT2)パルス周波数幅Δv(Δv1, Δv2)、パルス中心周波数v0(中心波長λ0)、スペクトログラムSが計測される。なお、この計測された周波数特性は、合波装置24を配したことにより、ほぼ光路13、14上の合波装置9の位置でのパルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性に等しい(図8(a)参照)。
【0063】
チャープ量評価部502は、極短パルス光測定部201において計測された、L1’,L2’のパルスレーザ光の周波数特性値(C、ΔT、Δv、v0(λ0)、S)を記憶し、標本Aにおけるチャープレート値とチャープレート差ΔCを以下の演算過程によって計算し、記憶する機能を持つ。
【0064】
[チャープレートの演算過程]
極短パルス光測定部201において測定された、パルスレーザ光L1’,L2’それぞれのチャープレート値Cおよびパルスの時間幅ΔTの情報から、以下の計算式により標本Aにおけるパルスレーザ光の周波数幅Δvcalcおよびパルス時間幅ΔTcalcが計算され、チャープレートCcalcが求まる。(例えば、非特許文献5参照)
【非特許文献5】電気情報通信学会編、「超高速光技術」、第4章
【0065】
【数2】
iはパルスレーザ光L1’,L2’に対応する添字を表す(i=1またはi=2)。
【0066】
【数3】
【0067】
Lは合波装置9から標本Aまでの光学系に存在する各光学素子の物質長、nは各光学素子の屈折率、λ0(i)はパルスレーザ光L1’,L2’の中心波長、cは光速である。なお、計算に必要なLやnの波長依存データは、テーブルとして記憶されており、観察時に対物を変更したり、波長を変更したりしても、上述の演算過程が実行できるようになっている。
チャープレート差ΔCは上記で求めたL1’のチャープレートとL2’のチャープレートの差より求めることができる。
【0068】
さらにチャープ量評価部502は、標本A上にパルスレーザ光L1’,L2’が到達する時間差ΔTdelayを以下の演算過程により計算し、これより周波数差Ωを概算し、またこれらを記憶する演算機能を備える。これによって、求められたΔTdelay及び周波数差Ωも記憶される。
[到達時間差ΔTdelayの演算過程]
【0069】
【数4】
iはパルスレーザ光L1’,L2’に対応する添字を表す(i=1またはi=2)。
【0070】
ここで、DT’1,DT’2は:パルスレーザ光が合波装置9から標本Aに到達するまでの時間、DT12は極短パルス光測定部201で測定されるパルスレーザ光L1’,L2’の時間差である。
Lは合波装置9から標本Aまでの光学系に存在する各光学素子の物質長、nは各光学素子の屈折率、λ0(i)はパルスレーザ光L1’,L2’の中心波長、cは光速である。
【0071】
以上の演算により算出された、標本Aにおけるパルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性を模式的に示すと図8(b)のようになる。なお、図8(b)は、スペクトルグラムの略中心値を直線にて模式化して示してある。パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差については、このスペクトルグラムS1及びS2の時間軸上の重なり部分の周波数差を求め、その平均値として概算するようになっている。
【0072】
さらにチャープ量評価部502は、標本Aにおけるパルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性を図や数値表示できるようになっている。より具体的には、図7及び図8(b)に示すように、L1’,L2’のチャープレート差ΔC、タイミング差ΔTdelay、周波数差Ω及び、前述のスペクトルグラムの模式図を示すようになっている。
【0073】
次に、この周波数特性検出装置50の作用について説明する。前述の第1の実施形態でも示したように、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートが標本Aにおいて略同等となるように周波数分散量調節装置6を作動させて、図8(b)の矢印P4に示されるようにチャープレートを変化させる。なお、この際、周波数分散量調節装置6の操作は、周波数特性検出装置50からの制御信号11にて行う。すなわち、チャープ評価部502にて表示されるパルスレーザ光L1’,L2’の模式的なスペクトログラムやチャープレート差ΔCcalcの値を目視で確認しながらユーザが手動で行ってもよいし、チャープ評価装置502にて計算されるチャープレート差の目標値を設定しておいて自動的に制御信号を出すようにしてもよい。
【0074】
また、2つのパルスレーザ光L1‘,L2’の周波数差を時間軸上で一定に保った状態でも、パルスレーザ光L1’,L2’のパルスのタイミングによっては、図8(b)に示されるように、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差が観測すべき標本A中の分子の特定の振動周波数に一致しない場合がある(図中で示したΩ“)。この場合には周波数差調節装置8により、第2の光路14を通過するパルスレーザ光L1’を時間軸方向に遅延させる。すなわち、図8(b)に矢印P5で示されるように、パルスレーザ光L2’のパルスタイミングを調節する。これにより、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差Ωを、標本A中の分子の特定の振動周波数に一致させることができる。なお、この際の周波数差調節装置8の操作は、周波数特性検出装置50からの制御信号12にて行う。すなわち、チャープ評価部502にて表示されるパルスレーザ光L1’,L2’の到達時間差ΔTdelayや周波数差Ωの値を目視で確認しながらユーザが手動で行ってもよいし、チャープ評価装置502にて計算される周波数差Ωの許容範囲を決めておき、所定の振動周波数とその範囲に入るように自動的に制御信号を出すようにしてもよい。
【0075】
これらの機能によって、顕微鏡操作者は、標本Aにおけるパルスレーザ光L1’,L2’のスペクトログラムS1,S2、チャープレートの差ΔCcalc、周波数差Ωなどの周波数特性を、視覚的に捉えたり、数値情報として確認・認識できるようになる。
【0076】
このように、顕微鏡装置53内にパルスレーザ光L3の周波数特性を測定するための標本点を設けられない場合でも、パルスレーザ光L3が集光された標本Aの各位置において、標本A中の分子の特定の振動周波数を選択し、該振動周波数からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を効率的に発生させることができる。
【0077】
また、周波数特性検出装置50により、パルスレーザ光L1’の標本Aでの周波数特性を求め、これによりチャープレートC1を大きくするように周波数分散量調節装置6を作動させることで、第1の光路13を導光されるパルスレーザ光L1’の周波数分散量を調節し、標本Aにおいて略フーリエ限界パルスとすることができる。これにより、多光子励起光効果を効率的に発生させて、鮮明な多光子蛍光観察を行うことができる。
【0078】
なお、多光子蛍光観察時における周波数分散量調節装置6の操作は、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察時と同様に、ユーザによる手動としてもよいし、自動としても良い。
また、多励起型の蛍光観察と同様の条件で、SHG(第二高調波)光、THG(第3高調波)光観察などの観察も行うことができる。
【0079】
以上のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置51によれば、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察、多光子励起型の蛍光観察およびSHG光観察を切り替えて効率よく行うことができる。すなわち、1台のレーザ顕微鏡装置1により、3種類の観察を効率よく行うことができ、マルチモーダルな観察を達成することができる。
【0080】
なお、本実施形態において、光路13上のパルスレーザ光L1′及び光路14上のパルスレーザ光L2’上の合波装置(合波手段)9より手前の位置に、パルスレーザ光導光手段としてのビームスプリッタ22と23をそれぞれ備え、さらに合波装置9と略同一の光学要素で構成される合波装置24を配して、光路25上の合波であるパルスレーザ光L8を作り、これを周波数特性検出装置50に導波させ周波数特性を測定するようにしたが、合波装置9で合波したパルスレーザ光L3を直接分波してこれを周波数特性検出装置50に導波させ周波数特性を測定するようにしても、同様の作用と効果を得ることができる。
【0081】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置について、図9〜図13を参照して説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置61が第1、第2の実施形態と異なる点は、標本Aでのパルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性の検出を、パルスレーザ光L1’,L2’の相互相関信号を計測することによって可能にする点である。以下、本実施形態のレーザ顕微鏡装置61について、第1、第2の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0082】
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置61は、図9に示されるように、レーザ光源装置62と、レーザ光源装置62からのレーザ光を標本Aに照射して標本Aを観察するための顕微鏡本体63とを備えている。
【0083】
図9に示すように、レーザ光源装置62内の分波装置(分波手段)65では、レーザ光源4から出射されたフェムト秒パルスレーザ光を3分岐し、そのうち2つを光路13および14へ導光し、パルスレーザ光L1,L2とし、残りの1つのフェムト秒パルスレーザ光を光路26へ導光し、パルスレーザ光L9とする。このパルスレーザ光L9は、標本Aにおけるパルスレーザ光L1’,L2’の相互相関波形計測用の参照パルスとして用いる。
【0084】
周波数特性検出装置60は、図10に示すように、相互相関計601およびチャープ量評価装置602から構成される。パルスレーザ光L1’,L2’は集光レンズ105を透過後、パルスレーザ光標本点19から、第1の実施形態と同様のパルスレーザ光導光部18によって周波数特性検出装置60へ導光される。周波数特性検出装置60へ導光されたパルスレーザ光L1’,L2’は、該装置に備えられた、相互相関計601へ入射させられる。また、参照パルスであるパルスレーザ光L9(以降、参照パルス光L9と呼ぶ)も相互相関計601へ導光させられる。
【0085】
相互相関計601は図11に示すように、パルスレーザ光L1’,L2’に対する、参照パルス光L9の遅延時間を調節するための参照パルスタイミング調節装置603と、パルスレーザ光L1’,L2’の相互相関波形f=f(t)を検出するための二光子吸収光検出装置604を備える。参照パルスタイミング調節装置603は、周波数分散量調節装置6と同様なミラー及びリフレクタにより構成され、光路長を調整することで、パルスレーザ光L1’,L2’に対する参照パルスレーザ光L9の遅延時間を変更可能となっている。二光子吸収光検出器604は、パルスレーザ光L1’およびL2’に対する二光子吸収波長帯に感度を有する光電変換素子であり、例えばGaAsPやGaPフォトダイオードを使用できる(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献3】特開2008−20247号公報 なお相互相関波形の検出には、前記の二光子吸収光検出器以外に第二高調波発生等の非線形光学結晶を使用してもよい。
【0086】
チャープ量評価装置602は、相互相関計601で計測される相互相関信号f=f(t)の記憶、表示機能を備える。さらにチャープ量評価装置602は、相互相関信号f(t)のフーリエ変換波形F(v)を計算し、かつ、フーリエスペクトルF(v)におけるバンド周波数を算出する演算機能及びその記憶、表示機能を備える。これらの機能は、他の実施例同様に、顕微鏡装置を制御するコンピュータやグラフィカルユーザインタフェースや画像表示用の表示装置でこれらの機能を実現する。
【0087】
上記のように構成されたレーザ顕微鏡装置61の作用について周波数特性検出装置60の機能を中心に以下に説明する。
図9に示すように、レーザ光源4を作動させてフェムト秒パルスレーザ光を出射させると、レーザ光源4から発せられたフェムト秒パルスレーザ光は、分波装置65により3つの光路13,14および26に分岐される。光路13及び14上のフェムト秒パルスパルスレーザー光L1、L2が、レーザ光源装置62を通過し、顕微鏡本体63を通過し、さらに周波数特性検出装置60にパルスレーザ光L1’,L2’として導光されるまでの構成及び作用は第1の実施形態と同様である。
【0088】
図11に示すように、周波数特性検出装置60中の相互相関計601において、パルスレーザ光L1’,L2’及び参照パルスレーザ光L9を二光子吸収検出器604にミラーやビームスプリッタ等で折り返して入力する。この時、参照パルスタイミング調節装置603により、パルスレーザ光L1’,L2’に対する参照パルスレーザ光L9のパルスの遅延時間τを掃引することにより、図12(b)及び図13(b)に示すようなパルスレーザ光L1’,L2’についての相互相関信号f(t)を取得できる。相互相関信号f(t)において観測されるビート信号は、パルスレーザ光L1’,L2’の合成波L3における、パルスレーザ光L1’,L2’の差周波成分の周波数ビートを反映する。図12(c)に示すように、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートが等しくない場合には、該ビート信号は多数の異なる周波数成分を含み、相互相関波形f(t)のフーリエスペクトルF(v)に明瞭なピークは観測されない(図12(a)参照)。一方、図13(c)に示すように、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートが略等しい場合には、該ビート信号には略単一の周波数成分しか含まれないので、相互相関波形f(t)のフーリエスペクトルF(v)において、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差Ωの位置に、単一ピークが観測される。(図13(a)参照。)このように、パルスレーザ光L1’,L2’の相互相関信号のフーリエスペクトル情報から、パルスレーザ光L1’,L2’における周波数線形チャープのチャープレートの一致と周波数差を検出することが可能である。
【0089】
チャープ量評価装置602に表示される、相互相関波形のフーリエ変換スペクトルF(v)および相互相関波形f(t)を参照しながら、ユーザが手動で周波数分散量調節装置6を操作し、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートを略等しくすることが可能である。あるいは、チャープ量評価装置602にフーリエスペクトルのバンド幅を計算する機能を備えさせ、該バンド幅の許容幅を設定した上で、該許容幅内にフーリエスペクトルのバンド幅が収まるように周波数分散量調節装置6を自動制御することによっても、チャープレートを略等しくすることが可能である。なお、この際、周波数分散量調節装置6の操作は、周波数特性検出装置60からの制御信号11にて行う。
【0090】
さらに、パルスレーザ光のチャープレートを略等しく設定した後に、フーリエ変換スペクトルF(v)を参照しながら、ユーザが手動で周波数差調節装置8を操作することにより、周波数差Ωを所望の周波数差に設定することが可能である。あるいは、チャープ量評価装置602に所望の周波数差の許容値を決めておき、所定の周波数範囲に入るように周波数差調節装置8を自動制御することによっても、周波数差Ωを所望の周波数差に設定することが可能である。なお、この際の周波数差調節装置8の操作は、周波数特性検出装置60からの制御信号12にて行う。
【0091】
この方法によれば、FROGのように比較的大型でコストが高く、かつ周波数特性の解析に時間を要する極短パルスレーザ計測手段を使用せずに、低コストかつ簡便にパルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートの調節、および周波数差Ωを調節でき、パルスレーザ光L3が集光された標本Aの各位置において、標本A中の分子の特定の振動周波数を選択し、該振動周波数からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を効率的に発生させることができる。
【0092】
また、図示しないシャッタ等で光路14からのレーザパルスL2’を遮断し、パルスレーザ光L1’及び略フーリエ限界パルスの参照パルス光L9のみを周波数特性検出装置60に入力させ、これらの相互相関波形を検出すれば、これは標本Aの位置でのパルスレーザ光L1’の周波数特性を示すことになる。この相互相関波形の相互相関幅を狭くなるように周波数分散量調節装置6を作動させることで、第1の光路13を導光されるパルスレーザ光L1’の周波数分散量を調節し、標本Aの測定点上において略フーリエ限界パルスとすることができる。これにより、多光子励起光効果を効率的に発生させて、鮮明な多光子蛍光観察を行うことができる。
【0093】
なお、多光子蛍光観察時における周波数分散量調節装置6の操作は、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察時と同様に、ユーザによる手動としてもよいし、自動としても良い。
また、多励起型の蛍光観察と同様の条件で、SHG(第二高調波)光、THG(第3高調波)光観察などの観察も行うことができる。
【0094】
以上のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置61によれば、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察、多光子励起型の蛍光観察およびSHG光観察を切り替えて効率よく、より簡便かつ安価に行うことができる。すなわち、1台のレーザ顕微鏡装置1により、3種類の観察を簡便且つ安価に効率よく行うことができ、マルチモーダルな観察を達成することができる。
【0095】
なお、本実施形態の周波数特性検出装置60に第1の実施形態及び第2の実施形態と同一の極短パルスレーザ光測定部201をさらに備え、図示しないビームスプリッタ等によって光路15を分波し、相互相関計203および極短パルスレーザ光測定部201の両方へパルスレーザ光L4(パルスレーザ光L1’,L2’)を入射させるようにしてもよい。この場合、低コストかつ簡便な上記方法と、より精度の高い方法を状況に合わせて選択できるようになる。
【0096】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、周波数分散量調節装置6として、プリズム対とミラーとを備えて、周波数分散量を連続的に変更可能なものを例示したが、これに代えて、回折格子対、誘電体多層膜鏡等でもよい。また、ガラスや色素溶液等周波数分散量が固定のもの、それらを複数用意し、段階的に切り替える方式のものや、第1の光路13上に挿脱されてパルスレーザ光L1’に与える分散量を切り替える方式のものを採用してもよい。
【0097】
また、周波数分散量調節装置6は、例えば、板厚の変化する楔状のガラス板のように所定の周波数分散特性を有する材質からなる部材(図示略)であってもよい。部材が本来持つ周波数分散特性により、部材を通過するフェムト秒パルスレーザ光L1に所定の周波数分散を与えることができる。また、フェムト秒パルスレーザ光L1の通過する位置の部材の厚みを変化させることにより、与える周波数分散量が調節できる。また、周波数分散量調節装置6は、所望の周波数分散量を得るように調製された光ファイバであってもよいし、ファイバーブラッググレーティング等でもよい。
【0098】
また、周波数分散量調節装置6は、第2の光路14に設けられていてもよいし、両光路13,14にそれぞれ設けられていてもよい。特に、周波数分散装置を両光路13,14に設けることで、両光路13,14を通過してくるパルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートC1,C2を小さくしてCARSスペクトルのスペクトル分解能を向上させることができる。また、周波数量分散調節装置6がレーザ光源4と分波装置5との間に設けられていても、第2の光路14において所定の周波数分散量を与えることで、マルチモーダルな観察が可能となる。
【0099】
また、周波数分散量調節装置6で、パルスレーザ光L1’及びL2’のチャープレートを略一致させずに少し異ならせ、パルスレーザ光L1’とL2’の周波数差に一定量の幅を与えてもよい。その場合CARS光の発生効率は低下するが、標本周囲の環境変化によってスペクトル形状が変化する場合においてもCARSイメージを取得することが可能であり、異なる分子のCARSイメージを同時に観測したりすることも可能となる。
【0100】
また、周波数変換装置7には、フォトニッククリスタルファイバを用いたが、これらは特定の周波数範囲をカバーする複数のフォトニッククリスタルファイバで構成してもよい。その場合、これら複数のフォトニッククリスタルファイバを機械的に選択交換しても良いし、それらを直列に並べても良い。また、入射したフェムト秒パルスレーザ光を広い周波数スペクトル帯域に変換する機能を持つものであれば、フォトニッククリスタルファイバ以外の非線形光学材料や素子を用いてももちろんよい。
【0101】
また、少なくとも一方の光路13,14に、減光フィルタのような光量調節手段(図示略)を配置することにしてもよい。これにより、2つの光路13,14を通過してくるパルスレーザ光L1’,L2’の光量バランスを図ることができる。
また、各光路にファイバを設けて各パルスレーザ光を導光することとしてもよい。但し、この場合にはファイバにより与えられる周波数分散量を予め測定し、周波数特性検出装置10、50、60で実測または算出される周波数分散量を補正する必要がある。
【0102】
また、第1の光路13を通過するパルスレーザ光L1’に与える周波数分散量を、標本Aにおいて略フーリエ限界パルスに近づくように設定して行われる多光子励起の蛍光観察の際には、第2の光路14をシャッタ等により制限することとしてもよい。多光子励起の蛍光観察時には第2の光路14への分岐は不要となるので、これを制限することによって、多光子蛍光画像に発生するノイズや標本Aに与えるダメージを低減することができる。
【0103】
また本発明の各実施形態では、一つのフェムト秒レーザから出射されるフェムト秒パルスレーザ光を合波装置により分岐するようにしたが、1台のレーザから複数の周波数のフェムト秒パルスレーザ光が出射されるレーザを用いるようにしてもよい。また、周波数の異なるフェムト秒パルスレーザ光が出射される複数のレーザーを同期させた上で用いても良い。その場合には分波装置を省略することができる。
【0104】
また本発明は、レーザ顕微鏡装置に関するものであるが、その応用分野は、細胞や組織等の生体試料あるいは生体以外の有機・無機等の試料を顕微観察する通常の顕微鏡装置に限定されず、人体や動物等生体をin−vivo観察するあるいは構造物を非破壊で観察するための内視鏡的顕微観察装置にも適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る周波数特性検出装置の作用効果を説明するためのフローチャート図である。
【図3】図1の標本Aにおけるパルスレーザ光の周波数の時間分布の一例を示すグラフであり、(a)パルスレーザ光L1’(b)パルスレーザ光L2’をそれぞれ示している。
【図4】図1のレーザ顕微鏡装置の2つの光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレート及び周波数差を調節する機能を説明するための図である。
【図5】図1のレーザ顕微鏡装置の多光子励起蛍光観察時におけるチャープレートを調節する機能を説明するための図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る周波数特性検出装置の作用効果を説明するためのフローチャート図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る2つの光路を導光されるパルスレーザ光の、標本Aでのチャープレート及び周波数差を調節する機能を説明するための図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る周波数特性検出装置の作用効果を説明するためのフローチャート図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る相互相関計の装置図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る周波数特性検出装置の作用効果を説明するための図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る周波数特性検出装置の作用効果を説明するための図である。
【符号の説明】
【0106】
A 標本
L1,L2 フェムト秒パルスレーザ光
L1’,L2’,L3,L4,L6,L7,L8,L9 パルスレーザ光
Ω,Ω’ 周波数(差)
1,51,61 レーザ顕微鏡装置
2,52,62 レーザ光源装置
3,53,63 顕微鏡本体
4 レーザ光源
5 分波装置(分波手段)
6 周波数分散量調節装置(周波数分散量調節手段)
7 フォトニッククリスタルファイバ(周波数変換手段)
8 周波数差調節装置(周波数差調節手段)
9 合波装置(合波手段)
10,50,60 周波数特性検出装置(周波数特性検出手段)
13,14,15 光路
104,108 光検出器
105 集光レンズ(照射手段)
107 集光レンズ
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
標本中の分子の特定の振動を利用し、分子からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させ、この散乱光を検出することで標本の観察を行うコヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照)。このコヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡は、標本の分子の特定の振動を利用しているため、蛍光顕微鏡のように、観察対象を蛍光プローブであらかじめ標識する必要がない。また、利用する振動を変更することで観察する分子を変更することができる。
【0003】
従来、このコヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡の光源には、比較的狭い周波数スペクトル帯域を有した2つの異なる周波数を有するピコ秒パルスレーザが用いられている。このような顕微鏡によれば、これら2つのピコ秒パルスレーザ光の周波数差が、標本の分子の特定の振動周波数に一致するように調節した状態で標本面に集光する。このとき、焦点面近傍に広がる光子密度が高い極めて狭い空間において、2つのピコ秒パルスレーザ光の周波数差が分子の特定の振動周波数に共鳴し、強いコヒーレントアンチストークスラマン散乱光が発生する。このコヒーレントアンチストークスラマン散乱光は、照射した2つのピコ秒パルスレーザ光の周波数よりも高い周波数を有する(つまり短い波長を有する)。したがって、このコヒーレントアンチストークスラマン散乱光だけを分光的に選択して検出することで標本の分子の観察を行うことができる。
【0004】
また、フェムト秒パルスレーザ光を標本面に集光することで、焦点面近傍に広がる極めて狭い空間において光子密度を高めて蛍光物質を多光子励起し、鮮明な蛍光画像を得ることができる多光子励起型のレーザ顕微鏡が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特表2002−520612号公報
【特許文献2】特開2002−243641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の従来例のように、コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡において、標本の分子の特定の振動からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を効率的に発生させるためには、周波数帯域が狭い(または、パルス幅が比較的広い)ピコ秒パルスレーザ光を用いるのが良い。なぜならば、周波数帯域が広いパルスレーザ光を用いてしまうことで、2つのパルスレーザ光の周波数差の中に、分子の特定の振動周波数に一致しない周波数差成分も生じてしまうからである。それら分子の特定の振動周波数に一致しない周波数差成分は、分子の特定の振動に共鳴したコヒーレントアンチストークスラマン散乱光の発生に寄与しない。結果として、2つのパルスレーザ光のエネルギーを、分子の特定の振動からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させるために効率的に利用できなくなってしまう。
【0007】
一方、多光子励起型のレーザ顕微鏡においては、蛍光の励起効率をより高め、かつ、標本に与えるダメージをより軽減して観察を行うことを目的として、周波数帯域が広い(または、パルス幅が極端に狭い)フェムト秒レーザ光が使用され、加えて、フーリエ限界パルスに近い状態で使用される。上記理由から、コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡と多光子励起型のレーザ顕微鏡の両観察方法は、使用するパルスレーザ光の仕様が相違するため、同一の顕微鏡装置によって達成することが困難である。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察および多光子蛍光観察を同一の装置において両立することを可能とし、種々の観察方法により標本を観察することができるレーザ顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、標本中の分子の特定の振動周波数に略等しい周波数差を有する2つの異なる周波数を有するパルスレーザ光を導光する2つの光路と、該2つの光路を導光されてきたパルスレーザ光を合波する合波手段と、該合波手段により合波されたパルスレーザ光を標本に照射する照射手段と、前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光のチャープレートを検出する周波数特性検出手段と、該周波数特性検出手段により検出された各パルスレーザ光のチャープレートが略同等となるように、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートを調節可能な周波数分散量調節手段とを備えるレーザ顕微鏡装置を採用する。
【0010】
本発明に係るレーザ顕微鏡装置によれば、2つの光路を導光される各パルスレーザ光が合波手段により合波され、照射手段により標本に照射される。この際、2つの光路を導光される各パルスレーザ光のチャープレートが周波数特性検出手段により検出される。そして、周波数特性検出手段により検出された各パルスレーザ光のチャープレートが略同等となるように、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートが周波数分散量調節手段により調節される。これにより、時間軸上の各時刻において、2つのパルスレーザ光の周波数差を常に一定に保つように調節することが可能となる。
【0011】
このように2つのパルスレーザ光の周波数差を時間軸上で一定に保った状態で、標本面上に集光することにより、フェムト秒レーザ光のように比較的広い周波数帯域を有するパルスレーザ光であっても、2つのパルスレーザ光のエネルギーを効率的にコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させるために用いることができる。
【0012】
また、フェムト秒レーザ光のような周波数帯域が比較的広いパルスレーザ光を利用した場合には、いずれか一方のパルスレーザ光を標本に集光することにより、多光子励起光効果を発生させることができる。
以上のように、本発明に係るレーザ顕微鏡装置によれば、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光および多光子蛍光を効率的に発生させ、鮮明なコヒーレントアンチストークスラマン散乱光画像および多光子蛍光画像を取得することが可能となる。
【0013】
上記発明において、前記周波数分散量調節手段が、標本面上におけるパルスレーザ光が略フーリエ限界パルスに近づくように、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートを調節可能であることとしてもよい。
このようにすることで、周波数分散量調節手段により、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートを調節し、標本面上において略フーリエ限界パルスに近づけることができる。これにより、多光子励起光効果を効率的に発生させて、より鮮明な多光子蛍光観察を行うことができる。
【0014】
上記発明において、前記周波数特性検出手段が、さらに、前記二つの光路を導光される各パルスレーザ光の周波数差を検出し、該周波数検出手段により検出された周波数差を所定の周波数差に調節するための周波数差調節手段を備えることとしてもよい。
周波数差調節手段は、一方のパルスレーザ光に対して、他方のパルスレーザ光の時間的な重なりを調節することで、2つのパルスレーザ光の周波数差を2つのパルスレーザ光の周波数帯域内において任意に調節することが可能である。これにより、時間軸上で一定に保った2つのパルスレーザ光の周波数差を確認し、所定の周波数差と一致させることが可能となり、所望のコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を、より正確に得ることが可能となる。
【0015】
上記発明において、フェムト秒パルスレーザ光を射出するレーザ光源と、該レーザ光源から射出されたフェムト秒パルスレーザ光を少なくとも前記2つの光路に分岐する分波手段と、該分波手段により分岐された前記2つの光路を導光されるパルスレーザ光の周波数差が標本中の分子の特定の振動周波数に略等しくなるように、一方の光路を導光されるパルスレーザ光の周波数をその周波数帯域を変更または拡大するように変換する変換する周波数変換手段とを備えることとしてもよい。
【0016】
このようにすることで、単一のレーザ光源から射出されたフェムト秒パルスレーザ光を分波手段により2つの光路に分岐し、周波数変換手段により、2つの光路を導光されるパルスレーザ光の周波数差が標本中の分子の特定の振動周波数に略等しくなるように一方の光路を導光されるパルスレーザ光の周波数を変換することができる。これにより、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させることのできる2つのパルスレーザ光を得ることができ、これらパルスレーザ光のレーザ光源を共通化して装置構成を簡略化することができる。
【0017】
上記発明において、前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光の周波数特性を表示する表示手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、表示手段に各パルスレーザ光の周波数特性を表示させつつ、周波数分散量調節手段によりパルスレーザ光のチャープレートを調節、確認することができる。これにより、容易かつ確実に、2つのパルスレーザ光の周波数差を常に一定に保つように調節することが可能となる。
【0018】
上記発明において、前記周波数特性検出手段が、検出された前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光の周波数特性値、あるいは周波数特性を演算にて求めるための中間値を記憶する記憶手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、周波数特性を求めるのに必要な種々の演算が容易に実現できるようになるほか、周波数特性値を種々装置へ出力したり、後工程で確認したりすることも容易となる。
【0019】
上記発明において、周波数特性検出手段が、前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光のスペクトログラムを検出する検出手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、検出すべき周波数特性の演算が比較的容易に実現できるようになるほか、表示手段にて該周波数特性を確認する際に、その確認も容易になる。
【0020】
上記発明において、前記周波数特性検出手段が、前記2つの光路を導光される該パルスレーザ光の相互相関信号を検出する検出手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、より簡便な構成で、安価に周波数特性を検出することができるようになる。
【0021】
上記発明において、前記周波数変換手段が、フォトニッククリスタルファイバであることとしてもよい。
周波数変換手段としてフォトニッククリスタルファイバを用いることにより、簡易かつ安価に、周波数分散が与えられた広い周波数スペクトル帯域を有するパルスレーザ光を得ることが可能となる。また、用いるフォトニッククリスタルファイバの種類を選定することで、さまざまな周波数スペクトル成分および帯域を有するパルスレーザ光を得ることができる。このため、標本中の分子のさまざまな振動周波数に一致させるように、2つのパルスレーザ光の周波数差を調節することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光および多光子蛍光の観察を同一の装置において両立することを可能とし、種々の観察方法により標本を観察することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1について、図1から図5を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1は、図1に示されるように、レーザ光源装置2と、レーザ光源装置2からのレーザ光を標本Aに照射して標本Aを観察するための顕微鏡本体3とを備えている。
【0024】
レーザ光源装置2は、フェムト秒パルスレーザ光を出射する単一のレーザ光源4と、レーザ光源4から発せられたフェムト秒パルスレーザ光を2つに分岐する分波装置5(分波手段)と、分波装置5により分岐された2つのフェムト秒パルスレーザ光L1,L2をそれぞれ通過させる2つの光路13,14と、2つの光路13,14を通過してきた2つのパルスレーザ光L1’,L2’を合波する合波装置(合波手段)9とを備えている。
【0025】
第1の光路13には、フェムト秒パルスレーザ光L1に与える周波数分散量を調節可能な周波数分散量調節装置(周波数分散量調節手段)6が設けられている。
周波数分散量調節装置6は、例えば、相互の間隔を調節可能な一対のプリズム(図示略)と、ミラー(図示略)とを備えている。一対のプリズムを通過したフェムト秒パルスレーザ光L1は、ミラーによって折り返された後に再度プリズム対を通過し同一の光路13上に戻されるようになっている。この場合に、プリズムの間隔を調節することにより、周波数分散量調節装置6を通過するパルスレーザ光L1に与える周波数分散量を調節することでそのパルスレーザ光のチャープレートが調節できるようになっている(例えば、特許文献2参照)。また、上記プリズム対の代わりに回折格子対(図示略)を用いてもよい。
【0026】
また、周波数分散量調節装置6は、周波数分散量調節装置6を通過したパルスレーザ光L1’が、標本Aにおいて略フーリエ限界パルスに近づくような分散量およびチャープレートを設定することができるようになっている。これにより、レーザ光源4から標本Aまでの全光路において生じる周波数分散によってフェムト秒パルスレーザ光L1のパルス幅の広がりを補償することができ、標本A上に集光される時点でのフェムト秒パルスレーザ光が、略フーリエ限界に近いパルス幅を達成することができるようになっている。
なお、周波数分散量調節装置6は、後述する周波数特性検出装置(周波数特性検出手段)10により検出された各パルスレーザ光のチャープレートに基づいて制御される。
【0027】
第2の光路14には、フェムト秒パルスレーザ光L2を通過させるフォトニッククリスタルファイバ(周波数変換手段)7と、フォトニッククリスタルファイバ7通過後のパルスレーザ光L2’の光路長を調節する周波数差調節装置(周波数差調節手段)8が設けられている。
【0028】
フォトニッククリスタルファイバ7は、通過させるフェムト秒パルスレーザ光L2の周波数帯域を変更または拡大してパルスレーザ光L2’を生成し、光路13,14を導光されるパルスレーザ光L1’,L2’に標本A中の観測すべき分子の特定の振動周波数に略等しい周波数差を与えるようになっている。
【0029】
周波数差調節装置(周波数差調節手段)8は、例えば、ミラー及びリフレクタにより構成される(図示略)。より具体的には、光路14上に配されるミラーによりパルスレーザ光L2’の光路14を略90°折り返し、この折り返したL2’の光路上に配されるリフレクタで略180°さらに折り返して戻し、さらにもう1枚の光路14上に配されるミラーにより元の光路14に戻すように配置されている。光路14上に配されるミラーとリフレクタの間隔を調節することでパルスレーザ光L2’の光路長を変化させることができる。これにより、パルスレーザ光L2’が標本Aに到達する際のタイミングを調節することができる。
【0030】
合波装置(合波手段)9は、光路14を通過してきたパルスレーザ光L2’から所望の周波数帯域の成分を切り出すフィルタ(図示略)と、該フィルタを通過したパルスレーザ光L2’と光路13を通過してきたパルスレーザ光L1’とを合波して、ほぼそれらが同軸に導波するようにしたパルスレーザ光L3を生成する合波部(図示略)とを備えている。すなわち、このパルスレーザ光L3は、パルスレーザ光L1’と該フィルタを通過したパルスレーザ光L2’成分を両方含んだ光波である。合波装置9のフィルタにパルスレーザ光L2’を通過させることで、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させるに際して不要な周波数成分を除去することができる。
【0031】
顕微鏡本体3は、例えば、レーザ走査型顕微鏡であって、レーザ光源装置2から出射されたパルスレーザ光L3を2次元的に走査するスキャナ101およびレンズ群102と、スキャナ101により走査されたパルスレーザ光L3を標本A面に集光する集光レンズ(照射手段)105と、標本Aにおいて発生し、集光レンズ105によって集光された蛍光を検出する第1の光検出器104と、標本Aを透過する方向に発生するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を集光する集光レンズ107と、集光レンズ107により集光されたコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を検出する第2の光検出器108とを備えている。
【0032】
図中、符号103はダイクロイックミラー、符号106は顕微鏡ステージである。なお、標本Aにおいて発生した蛍光は、集光レンズ107により集光され第2の検出器108で検出されてもよい。また、標本Aにおいて発生したコヒーレントアンチストークスラマン散乱光は集光レンズ105により集光され第1の検出器104で検出されてもよい。
【0033】
また、レーザ光源装置2は、顕微鏡へ導光されたパルスレーザ光L3に含まれるパルスレーザ光L1’及びL2’の周波数特性を検出するための周波数特性検出装置10と、集光レンズ105と標本A間に設定されるパルスレーザ光標本点19上に設置され、パルスレーザ光L3を周波数特性検出装置10へ導光するためのパルスレーザ光導光部18とを備えている。このパルスレーザ光導光部18は、図示しない折り返しミラーやプリズム等で、パルスレーザ光L3の光軸を、周波数特性検出装置10の方向に変更して、光路15のパルスレーザ光L4として空間的に入射させることができる。その際にはレンズ等を使っても良い。また、ファイバを使って導光するようにすることもできる。レンズやプリズム、ファイバ光学系を使用する場合には、それらにより付与されるチャープ量を予め評価し、後述する極短パルス光測定部201による計測値を補正する必要がある。
【0034】
周波数特性検出装置10は、図2に示されるように極短パルス光測定部201とチャープ評価部202から構成される。極短パルス光測定部201は、図3に示されるような、パルスレーザ光L1’、L2’に含まれる周波数と時間成分の分布であるスペクトログラムS1=S1(v1,T1)、S2=S2(v2,T2)を測定し、そこからチャープレートC1(C1=Δv1/ΔT1)、C2(C2=Δv2/ΔT2)を、各パルスの周波数幅Δvとパルスの時間幅ΔTを用いて算出する手段である。該手段の一つとして、FROG(Frequency-Resolved Optical Grating)検出装置を用いることができる(例えば、非特許文献1参照)。
なお、前述の極短パルス光測定部201は、FROG以外にGRENOUILLE、SPIDER(Spectral phase Interferometry for direct Electric field Reconstruction),Sonogramであってもよい(例えば非特許文献2〜4参照)。
【非特許文献1】Journal of optical society America B 11, 2206-2215 (1994)“Frequency-Resolved Optical Gating With the Use of Second-Harmonic Generation”
【非特許文献2】Optics Express 11, 68-78 (2003)“Measuring spatial chirp in ultrashort pulses using single-shot Frequency-Resolved Optical Gating,”
【非特許文献3】Optics Letters 23, 792-5 (1998)“Spectral phase interferometry for direct electric-field reconstruction of ultrashort optical pulses”
【非特許文献4】IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL. 13, NO. 5“Optical Sampling System at 1.55 _m for the Measurement of Pulse Waveform and Phase Employing Sonogram Characterization”
【0035】
図2に示すように、チャープ評価部202は、次の(1),(2),(3)の機能を備える。すなわち、(1)極短パルス光測定部201によって測定される、パルスレーザ光L1’,L2’のパルスレーザ光標本点19におけるスペクトログラムS1,S2、チャープレートC1,C2、およびパルスの周波数幅Δvとパルスの時間幅ΔT等の周波数特性データを記憶する機能、および(2)チャープレートC1,C2から、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートの差ΔC(ΔC=C1−C2)を演算し、かつスペクトログラムデータに基づいてパルスレーザ光L1’,L2’の周波数差Ωを演算しそれぞれ記憶する機能、および(3)表示画面を有し、各パルスレーザ光のスペクトログラムS1,S2とチャープレートの差ΔC、および周波数差Ωを図や数値などで画面上に表示する機能を備える。チャープ評価部202は、レーザ顕微鏡装置を制御するコンピュータや画像やデータ表示用の表示装置で、これらの機能を達成することができる。
【0036】
上記のように構成されたレーザ顕微鏡装置1の作用について以下に説明する。
まず、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1を使用して、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光による標本Aの観察を行う場合について以下に説明する。
レーザ光源4を作動させてフェムト秒パルスレーザ光を出射させると、レーザ光源4から発せられたフェムト秒パルスレーザ光は、分波装置5により2つの光路13,14に分岐される。
【0037】
第1の光路13に分岐されたフェムト秒パルスレーザ光L1が、第1の光路13上に配置されている周波数分散量調節装置6を通過させられることによって発生するパルスレーザ光L1’には、初期の周波数分散量が与えられる。一方、第2の光路14に分岐されたフェムト秒パルスレーザ光L2は、フォトニッククリスタルファイバ7を通過させられることにより、第1の光路13のフェムト秒パルスレーザ光L1に比べて周波数スペクトルが変更または拡大された広帯域光(パルスレーザ光L2’)となる。また、同時に、パルスレーザ光L2’にはフォトニッククリスタルファイバ7を通過することにより所定の周波数分散量が与えられる。さらにこれらパルスレーザ光L1’,L2’には、合波装置9から標本A面上までの光学系を通過することによりこれら光学系全系の周波数分散量が加えられる。
【0038】
このように周波数分散量が与えられたパルスレーザ光L1’,L2’を、集光レンズ105と標本A間に位置するパルスレーザ光標本点19から、パルスレーザ光導光部18によって周波数特性検出装置10へと入射させ、極短パルスレーザ光測定部201によって周波数特性を測定する。チャープ評価部202は、これらの測定データに基づき、標本A面上におけるパルスレーザ光L1’,L2’のスペクトログラムS1,S2と、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレート差ΔCと、周波数差Ωを演算、記憶、表示する。
【0039】
この際、図4(a)に示されるように、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートが相違する場合には、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差Ωは時間軸上の各時刻において異なり、一定に保たれない。この状態においては、標本A中の分子の特定の振動モードに対応する周波数差と異なる周波数差のパルス成分はノイズとなるため、パルスレーザ光L1’,L2’のエネルギーを、標本A中の分子の特定の振動モードのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光の発生に効率よく利用することができない。
【0040】
そこで、周波数特性検出装置10において検出されたパルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートが標本Aにおいて略同等となるように周波数分散量調節装置6を作動させて、図4(a)の矢印P1に示されるようにチャープレートを変化させる。なお、この際、周波数分散量調節装置6の操作は、周波数特性検出装置10からの制御信号11にて行う。すなわち、チャープ評価部202にて表示されるパルスレーザ光L1’,L2’のスペクトログラムとチャープレート差ΔCの値を目視で確認しながらユーザが手動で行ってもよいし、チャープ評価装置202にて計算されるチャープレート差ΔCの目標値を設定しておいて自動的に制御信号を出すようにしてもよい。これらの機能によって、顕微鏡操作者は、標本A面上におけるパルスレーザ光L1’,L2’のスペクトログラムS1,S2、チャープレートの差ΔC、周波数差Ωなどの周波数特性を、視覚的に捉えたり、数値情報として確認・認識できるようになる。
【0041】
また、2つのパルスレーザ光L1‘,L2’の周波数差Ωを時間軸上で一定に保った状態でも、パルスレーザ光L1’,L2’のパルスのタイミングによっては、図4(b)に示されるように、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差が標本A中の分子の特定の振動周波数Ω’に一致しない場合がある。この場合には周波数差調節装置8により、第2の光路14を通過するパルスレーザ光L2’を時間軸方向に遅延させる。すなわち、図4(b)に矢印P2で示されるように、パルスレーザ光L2’のパルスタイミングを調節する。これにより、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差を、標本A中の分子の特定の振動周波数Ω’に一致させることができる。なお、この際の周波数差調節装置8の操作は、周波数特性検出装置10からの制御信号12にて行う。すなわち、チャープ評価部202にて表示される周波数差Ωの値を目視で確認しながらユーザが手動で行ってもよいし、チャープ評価装置202にて計算される周波数差Ωの許容範囲を決めておき、所定の振動周波数とその範囲に入るように自動的に制御信号を出すようにしてもよい。
【0042】
以上のように周波数分散量調節装置6および/または周波数調節装置8を作動させることで、合波装置9に到達する2つの光路13,14のパルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートCと周波数差Ωが調節される。その後、パルスレーザ光L1’,L2’は、合波装置9によって合波され、同軸上のパルスレーザ光L3となる。
【0043】
このように合波されたパルスレーザ光L3は、顕微鏡本体3に入射させられ、スキャナ101によって2次元的に走査された後、レンズ群102と集光レンズ105を介して標本Aに集光される。これにより、パルスレーザ光L3が集光された各位置において、標本A中の所定の分子の振動周波数に合わせたコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を効率よく発生させることができる。
【0044】
標本Aにおいて発生したコヒーレントアンチストークスラマン散乱光は、標本Aを挟んで集光レンズ105とは反対側に配置された集光レンズ107によって集光され、第2の光検出器108により検出される。そして、パルスレーザ光L3の標本Aでの集光位置の座標と、第2の光検出器108により検出されたコヒーレントアンチストークスラマン散乱光の光強度とを対応づけて記憶することにより、2次元的なコヒーレントアンチストークスラマン散乱光画像を得ることができる。
【0045】
上述のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、2つの光路13,14を導光されるパルスレーザ光L1’,L2’の標本Aの位置におけるチャープレートが周波数特性検出装置10により検出される。そして、周波数特性検出装置10により検出されたパルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートが略同等となるように、第1の光路13を導光されるパルスレーザ光L1’の周波数分散量を周波数分散量調節装置6により調節することで、時間軸上の各時刻において、2つのパルスレーザ光L1’,L2’の周波数差を標本A中の分子の所定の振動周波数に一致させることが可能となる。このようにすることで、パルスレーザ光L1’,L2’のエネルギーを効率的に標本A中の分子の特定の振動周波数からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光の発生に利用することができる。
【0046】
また、周波数調節装置8により、2つの光路13,14を通過して合波装置9に入射されるパルスレーザ光L1’,L2’が標本Aに到達するタイミングを調節することで、標本Aにおいて2つのパルスレーザ光L1’,L2’の周波数差Ωを、標本A中の分子の所望の振動周波数に一致させることができる。これにより、効率的かつ正確にコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させることが可能となる。また、周波数差Ωを任意に調節することができるため、標本A中の別の分子の振動周波数に一致させることもスキャンしてその分布を観測することも可能となる。
【0047】
また、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性を測定する場合、集光レンズ105直後の標本点19以外に、20や21など集光レンズ105より手前(光源)側の光路上の点を標本点としてパルス光の周波数特性を測定してもよい。標本点19の位置であれば、その周波数特性は、ほぼ標本Aの位置での周波数特性に一致するが、この位置の場合には、以下の方法により、標本Aにおける周波数特性を算出する必要がある。すなわち、集光レンズ105の手前で周波数特性を測定することにより取得される、ΔvA,ΔTA,CAと、これと同一の標本点において、集光レンズ105の後の略標本位置Aに挿入したミラー(図示略)からの反射光の周波数特性を測定することにより取得される、ΔvB,ΔTB,CBを用いると、標本A面でのチャープレートは次式で計算される。
【0048】
【数1】
【0049】
なお、この場合、該標本点には、図示しないミラーとビームスプリッタを切り替えて配置できるようにし、始めにミラーで集光レンズ105の手前でパルスレーザ光L3の光軸を周波数特性検出装置10の方向に変更して空間的に入射させ測定し、続いてビームスプリッタに切り替えて、上述の挿入したミラーで集光レンズ105を往復して戻ってきたパルスレーザ光L3の光軸を周波数特性検出装置10の方向に変更して空間的に入射させ測定すればよい。
【0050】
また、周波数変換手段として、フォトニッククリスタルファイバ7を使用することで、装置を簡易かつ安価に構成することができる。
また、周波数調節手段として、ミラー(リフレクタ)を有する周波数調節装置8を採用することで、装置を簡易かつ安価に構成することができる。
【0051】
また、標本Aにおいて発生したコヒーレントアンチストークスラマン散乱光は、集光レンズ105により集光され、ダイクロイックミラー103によって分岐されて第1の光検出器104により検出されてもよい。
【0052】
次に、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1を使用して、多光子励起型の蛍光による標本Aの観察を行う場合について以下に説明する。
この場合には、周波数特性検出装置10により測定された標本Aにおけるパルスレーザ光L1’のチャープレートが大きくなるように周波数分散量調節装置6を作動させる。具体的には、図5に示すように、パルスレーザ光L1’が標本A面において略フーリエ限界パルスに近づくようにパルスレーザ光L1’の周波数分散量を設定する。すなわち、図5(a)のP3の方向に分散量調節装置6を作動させ、図5(b)のようにチャープレートを増大させる。このように設定されたパルスレーザ光L1’を集光レンズ105により標本Aに集光することで、標本Aにおける集光位置において多光子励起効果を効率よく発生させ、明るい蛍光を得ることができる。
【0053】
標本Aにおいて発生した蛍光は、集光レンズ105によって集光された後、ダイクロイックミラー103によって分岐されて第1の光検出器104により検出される。そして、パルスレーザ光L1’の標本Aでの集光位置の座標と、第1の光検出器104により検出された蛍光強度とを対応づけて記憶することにより、2次元的な多光子蛍光画像を得ることができる。また、標本Aにおいて発生した蛍光は、集光レンズ107によって集光され、第2の光検出器108により検出されてもよい。
【0054】
上述のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、周波数特性検出装置10によりパルスレーザ光L1’の標本Aにおけるチャープレートを検出し、周波数分散装置6によりパルスレーザ光L1’の周波数分散量を調節することで、パルスレーザ光L1’が標本Aにおいて略フーリエ限界パルスとなるようにすることができる。これにより、多光子励起光効果を効率的に発生させて、鮮明な多光子蛍光観察を行うことができる。
【0055】
なお、多光子蛍光観察時における周波数分散量調節装置6の操作は、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察時と同様に、ユーザによる手動としてもよいし、自動としても良い。また、標本Aにおいて発生した蛍光は、集光レンズ107によって集光され、第2の光検出器108により検出されてもよい。
また、多励起型の蛍光観察と同様の条件で、SHG(第二高調波)光、THG(第3高調波)光観察などの観察も行うことができる。
【0056】
以上のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1によれば、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察、多光子励起型の蛍光観察およびSHG光観察を切り替えて効率よく行うことができる。すなわち、1台のレーザ顕微鏡装置1により、3種類の観察を効率よく行うことができ、マルチモーダルな観察を達成することができる。
【0057】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置について、図6、図7、図8を参照して説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置51が第1の実施形態と異なる点は、パルスレーザ光の周波数特性を顕微鏡本体53内の標本点において検出するのではなく、レーザ光源装置52内の光路13及び14から引き出して検出し、その結果から標本Aでのパルスレーザ光の周波数特性を演算により見積もる機能を持つ点である。以下、本実施形態のレーザ顕微鏡装置51について、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる上述の点について主に説明する。
【0058】
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置51は、図6に示されるように、レーザ光源装置52と、レーザ光源装置52からのレーザ光を標本Aに照射して標本Aを観察するための顕微鏡本体53とを備えている。
【0059】
レーザ光源装置52は、図6に示されるように、光路13上のパルスレーザ光L1’及び光路14上のパルスレーザ光L2’上の合波装置(合波手段)9より手前の位置に、パルスレーザ光導光手段としてのビームスプリッタ22と23をそれぞれ備えている。これらにより、パルスレーザ光L1’,L2’の一部が折り返され、光路16、17を通るパルスレーザ光L6,L7となる。この光路16、17には、合波装置9と略同一の光学要素で構成される合波装置24が更に配置される。この合波装置24により、光路16、17を通るパルスレーザ光L6,L7は、ほぼそれらの光軸が同軸に導波するパルスレーザ光L8(光路25)となる。このパルスレーザ光L8は、この光路25上に配置された周波数特性検出装置(周波数特性検出手段)50により周波数特性が測定される。なおレーザ光源装置52のその他の部分の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0060】
なお顕微鏡本体53は、図6に示されるように、上記に伴い、第1の実施形態では顕微鏡本体内にあった標本点(符号19,20,21)が顕微鏡本体外に出ており、これに付随した変更はあるが、その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0061】
周波数特性検出装置50は、図7に示されるように、極短パルス光測定部201とチャープ量評価部502から構成される。極短パルス光測定部201としては、例えばFROG検出装置等、第1の実施形態と同様の装置で構成される。一方チャープ量評価部502は、第1の実施形態とは異なり、計測したパルスレーザ光L8(光路25)に含まれるパルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性から、標本A上におけるパルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性を演算により見積もる機能を加えて備えており、具体的にはレーザ顕微鏡装置を制御するコンピュータ中にソフトウエアとして実現されている。
【0062】
周波数特性検出装置50の該機能につき、図7を用いてさらに詳しく説明する。入力されたパルスレーザ光L8(光路25)は、極短パルス光測定部201において、パルスレーザ光L1’,L2’それぞれの周波数特性として、チャープレートC、パルス時間幅ΔT(ΔT1,ΔT2)パルス周波数幅Δv(Δv1, Δv2)、パルス中心周波数v0(中心波長λ0)、スペクトログラムSが計測される。なお、この計測された周波数特性は、合波装置24を配したことにより、ほぼ光路13、14上の合波装置9の位置でのパルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性に等しい(図8(a)参照)。
【0063】
チャープ量評価部502は、極短パルス光測定部201において計測された、L1’,L2’のパルスレーザ光の周波数特性値(C、ΔT、Δv、v0(λ0)、S)を記憶し、標本Aにおけるチャープレート値とチャープレート差ΔCを以下の演算過程によって計算し、記憶する機能を持つ。
【0064】
[チャープレートの演算過程]
極短パルス光測定部201において測定された、パルスレーザ光L1’,L2’それぞれのチャープレート値Cおよびパルスの時間幅ΔTの情報から、以下の計算式により標本Aにおけるパルスレーザ光の周波数幅Δvcalcおよびパルス時間幅ΔTcalcが計算され、チャープレートCcalcが求まる。(例えば、非特許文献5参照)
【非特許文献5】電気情報通信学会編、「超高速光技術」、第4章
【0065】
【数2】
iはパルスレーザ光L1’,L2’に対応する添字を表す(i=1またはi=2)。
【0066】
【数3】
【0067】
Lは合波装置9から標本Aまでの光学系に存在する各光学素子の物質長、nは各光学素子の屈折率、λ0(i)はパルスレーザ光L1’,L2’の中心波長、cは光速である。なお、計算に必要なLやnの波長依存データは、テーブルとして記憶されており、観察時に対物を変更したり、波長を変更したりしても、上述の演算過程が実行できるようになっている。
チャープレート差ΔCは上記で求めたL1’のチャープレートとL2’のチャープレートの差より求めることができる。
【0068】
さらにチャープ量評価部502は、標本A上にパルスレーザ光L1’,L2’が到達する時間差ΔTdelayを以下の演算過程により計算し、これより周波数差Ωを概算し、またこれらを記憶する演算機能を備える。これによって、求められたΔTdelay及び周波数差Ωも記憶される。
[到達時間差ΔTdelayの演算過程]
【0069】
【数4】
iはパルスレーザ光L1’,L2’に対応する添字を表す(i=1またはi=2)。
【0070】
ここで、DT’1,DT’2は:パルスレーザ光が合波装置9から標本Aに到達するまでの時間、DT12は極短パルス光測定部201で測定されるパルスレーザ光L1’,L2’の時間差である。
Lは合波装置9から標本Aまでの光学系に存在する各光学素子の物質長、nは各光学素子の屈折率、λ0(i)はパルスレーザ光L1’,L2’の中心波長、cは光速である。
【0071】
以上の演算により算出された、標本Aにおけるパルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性を模式的に示すと図8(b)のようになる。なお、図8(b)は、スペクトルグラムの略中心値を直線にて模式化して示してある。パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差については、このスペクトルグラムS1及びS2の時間軸上の重なり部分の周波数差を求め、その平均値として概算するようになっている。
【0072】
さらにチャープ量評価部502は、標本Aにおけるパルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性を図や数値表示できるようになっている。より具体的には、図7及び図8(b)に示すように、L1’,L2’のチャープレート差ΔC、タイミング差ΔTdelay、周波数差Ω及び、前述のスペクトルグラムの模式図を示すようになっている。
【0073】
次に、この周波数特性検出装置50の作用について説明する。前述の第1の実施形態でも示したように、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートが標本Aにおいて略同等となるように周波数分散量調節装置6を作動させて、図8(b)の矢印P4に示されるようにチャープレートを変化させる。なお、この際、周波数分散量調節装置6の操作は、周波数特性検出装置50からの制御信号11にて行う。すなわち、チャープ評価部502にて表示されるパルスレーザ光L1’,L2’の模式的なスペクトログラムやチャープレート差ΔCcalcの値を目視で確認しながらユーザが手動で行ってもよいし、チャープ評価装置502にて計算されるチャープレート差の目標値を設定しておいて自動的に制御信号を出すようにしてもよい。
【0074】
また、2つのパルスレーザ光L1‘,L2’の周波数差を時間軸上で一定に保った状態でも、パルスレーザ光L1’,L2’のパルスのタイミングによっては、図8(b)に示されるように、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差が観測すべき標本A中の分子の特定の振動周波数に一致しない場合がある(図中で示したΩ“)。この場合には周波数差調節装置8により、第2の光路14を通過するパルスレーザ光L1’を時間軸方向に遅延させる。すなわち、図8(b)に矢印P5で示されるように、パルスレーザ光L2’のパルスタイミングを調節する。これにより、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差Ωを、標本A中の分子の特定の振動周波数に一致させることができる。なお、この際の周波数差調節装置8の操作は、周波数特性検出装置50からの制御信号12にて行う。すなわち、チャープ評価部502にて表示されるパルスレーザ光L1’,L2’の到達時間差ΔTdelayや周波数差Ωの値を目視で確認しながらユーザが手動で行ってもよいし、チャープ評価装置502にて計算される周波数差Ωの許容範囲を決めておき、所定の振動周波数とその範囲に入るように自動的に制御信号を出すようにしてもよい。
【0075】
これらの機能によって、顕微鏡操作者は、標本Aにおけるパルスレーザ光L1’,L2’のスペクトログラムS1,S2、チャープレートの差ΔCcalc、周波数差Ωなどの周波数特性を、視覚的に捉えたり、数値情報として確認・認識できるようになる。
【0076】
このように、顕微鏡装置53内にパルスレーザ光L3の周波数特性を測定するための標本点を設けられない場合でも、パルスレーザ光L3が集光された標本Aの各位置において、標本A中の分子の特定の振動周波数を選択し、該振動周波数からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を効率的に発生させることができる。
【0077】
また、周波数特性検出装置50により、パルスレーザ光L1’の標本Aでの周波数特性を求め、これによりチャープレートC1を大きくするように周波数分散量調節装置6を作動させることで、第1の光路13を導光されるパルスレーザ光L1’の周波数分散量を調節し、標本Aにおいて略フーリエ限界パルスとすることができる。これにより、多光子励起光効果を効率的に発生させて、鮮明な多光子蛍光観察を行うことができる。
【0078】
なお、多光子蛍光観察時における周波数分散量調節装置6の操作は、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察時と同様に、ユーザによる手動としてもよいし、自動としても良い。
また、多励起型の蛍光観察と同様の条件で、SHG(第二高調波)光、THG(第3高調波)光観察などの観察も行うことができる。
【0079】
以上のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置51によれば、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察、多光子励起型の蛍光観察およびSHG光観察を切り替えて効率よく行うことができる。すなわち、1台のレーザ顕微鏡装置1により、3種類の観察を効率よく行うことができ、マルチモーダルな観察を達成することができる。
【0080】
なお、本実施形態において、光路13上のパルスレーザ光L1′及び光路14上のパルスレーザ光L2’上の合波装置(合波手段)9より手前の位置に、パルスレーザ光導光手段としてのビームスプリッタ22と23をそれぞれ備え、さらに合波装置9と略同一の光学要素で構成される合波装置24を配して、光路25上の合波であるパルスレーザ光L8を作り、これを周波数特性検出装置50に導波させ周波数特性を測定するようにしたが、合波装置9で合波したパルスレーザ光L3を直接分波してこれを周波数特性検出装置50に導波させ周波数特性を測定するようにしても、同様の作用と効果を得ることができる。
【0081】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置について、図9〜図13を参照して説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置61が第1、第2の実施形態と異なる点は、標本Aでのパルスレーザ光L1’,L2’の周波数特性の検出を、パルスレーザ光L1’,L2’の相互相関信号を計測することによって可能にする点である。以下、本実施形態のレーザ顕微鏡装置61について、第1、第2の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0082】
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置61は、図9に示されるように、レーザ光源装置62と、レーザ光源装置62からのレーザ光を標本Aに照射して標本Aを観察するための顕微鏡本体63とを備えている。
【0083】
図9に示すように、レーザ光源装置62内の分波装置(分波手段)65では、レーザ光源4から出射されたフェムト秒パルスレーザ光を3分岐し、そのうち2つを光路13および14へ導光し、パルスレーザ光L1,L2とし、残りの1つのフェムト秒パルスレーザ光を光路26へ導光し、パルスレーザ光L9とする。このパルスレーザ光L9は、標本Aにおけるパルスレーザ光L1’,L2’の相互相関波形計測用の参照パルスとして用いる。
【0084】
周波数特性検出装置60は、図10に示すように、相互相関計601およびチャープ量評価装置602から構成される。パルスレーザ光L1’,L2’は集光レンズ105を透過後、パルスレーザ光標本点19から、第1の実施形態と同様のパルスレーザ光導光部18によって周波数特性検出装置60へ導光される。周波数特性検出装置60へ導光されたパルスレーザ光L1’,L2’は、該装置に備えられた、相互相関計601へ入射させられる。また、参照パルスであるパルスレーザ光L9(以降、参照パルス光L9と呼ぶ)も相互相関計601へ導光させられる。
【0085】
相互相関計601は図11に示すように、パルスレーザ光L1’,L2’に対する、参照パルス光L9の遅延時間を調節するための参照パルスタイミング調節装置603と、パルスレーザ光L1’,L2’の相互相関波形f=f(t)を検出するための二光子吸収光検出装置604を備える。参照パルスタイミング調節装置603は、周波数分散量調節装置6と同様なミラー及びリフレクタにより構成され、光路長を調整することで、パルスレーザ光L1’,L2’に対する参照パルスレーザ光L9の遅延時間を変更可能となっている。二光子吸収光検出器604は、パルスレーザ光L1’およびL2’に対する二光子吸収波長帯に感度を有する光電変換素子であり、例えばGaAsPやGaPフォトダイオードを使用できる(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献3】特開2008−20247号公報 なお相互相関波形の検出には、前記の二光子吸収光検出器以外に第二高調波発生等の非線形光学結晶を使用してもよい。
【0086】
チャープ量評価装置602は、相互相関計601で計測される相互相関信号f=f(t)の記憶、表示機能を備える。さらにチャープ量評価装置602は、相互相関信号f(t)のフーリエ変換波形F(v)を計算し、かつ、フーリエスペクトルF(v)におけるバンド周波数を算出する演算機能及びその記憶、表示機能を備える。これらの機能は、他の実施例同様に、顕微鏡装置を制御するコンピュータやグラフィカルユーザインタフェースや画像表示用の表示装置でこれらの機能を実現する。
【0087】
上記のように構成されたレーザ顕微鏡装置61の作用について周波数特性検出装置60の機能を中心に以下に説明する。
図9に示すように、レーザ光源4を作動させてフェムト秒パルスレーザ光を出射させると、レーザ光源4から発せられたフェムト秒パルスレーザ光は、分波装置65により3つの光路13,14および26に分岐される。光路13及び14上のフェムト秒パルスパルスレーザー光L1、L2が、レーザ光源装置62を通過し、顕微鏡本体63を通過し、さらに周波数特性検出装置60にパルスレーザ光L1’,L2’として導光されるまでの構成及び作用は第1の実施形態と同様である。
【0088】
図11に示すように、周波数特性検出装置60中の相互相関計601において、パルスレーザ光L1’,L2’及び参照パルスレーザ光L9を二光子吸収検出器604にミラーやビームスプリッタ等で折り返して入力する。この時、参照パルスタイミング調節装置603により、パルスレーザ光L1’,L2’に対する参照パルスレーザ光L9のパルスの遅延時間τを掃引することにより、図12(b)及び図13(b)に示すようなパルスレーザ光L1’,L2’についての相互相関信号f(t)を取得できる。相互相関信号f(t)において観測されるビート信号は、パルスレーザ光L1’,L2’の合成波L3における、パルスレーザ光L1’,L2’の差周波成分の周波数ビートを反映する。図12(c)に示すように、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートが等しくない場合には、該ビート信号は多数の異なる周波数成分を含み、相互相関波形f(t)のフーリエスペクトルF(v)に明瞭なピークは観測されない(図12(a)参照)。一方、図13(c)に示すように、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートが略等しい場合には、該ビート信号には略単一の周波数成分しか含まれないので、相互相関波形f(t)のフーリエスペクトルF(v)において、パルスレーザ光L1’,L2’の周波数差Ωの位置に、単一ピークが観測される。(図13(a)参照。)このように、パルスレーザ光L1’,L2’の相互相関信号のフーリエスペクトル情報から、パルスレーザ光L1’,L2’における周波数線形チャープのチャープレートの一致と周波数差を検出することが可能である。
【0089】
チャープ量評価装置602に表示される、相互相関波形のフーリエ変換スペクトルF(v)および相互相関波形f(t)を参照しながら、ユーザが手動で周波数分散量調節装置6を操作し、パルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートを略等しくすることが可能である。あるいは、チャープ量評価装置602にフーリエスペクトルのバンド幅を計算する機能を備えさせ、該バンド幅の許容幅を設定した上で、該許容幅内にフーリエスペクトルのバンド幅が収まるように周波数分散量調節装置6を自動制御することによっても、チャープレートを略等しくすることが可能である。なお、この際、周波数分散量調節装置6の操作は、周波数特性検出装置60からの制御信号11にて行う。
【0090】
さらに、パルスレーザ光のチャープレートを略等しく設定した後に、フーリエ変換スペクトルF(v)を参照しながら、ユーザが手動で周波数差調節装置8を操作することにより、周波数差Ωを所望の周波数差に設定することが可能である。あるいは、チャープ量評価装置602に所望の周波数差の許容値を決めておき、所定の周波数範囲に入るように周波数差調節装置8を自動制御することによっても、周波数差Ωを所望の周波数差に設定することが可能である。なお、この際の周波数差調節装置8の操作は、周波数特性検出装置60からの制御信号12にて行う。
【0091】
この方法によれば、FROGのように比較的大型でコストが高く、かつ周波数特性の解析に時間を要する極短パルスレーザ計測手段を使用せずに、低コストかつ簡便にパルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートの調節、および周波数差Ωを調節でき、パルスレーザ光L3が集光された標本Aの各位置において、標本A中の分子の特定の振動周波数を選択し、該振動周波数からのコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を効率的に発生させることができる。
【0092】
また、図示しないシャッタ等で光路14からのレーザパルスL2’を遮断し、パルスレーザ光L1’及び略フーリエ限界パルスの参照パルス光L9のみを周波数特性検出装置60に入力させ、これらの相互相関波形を検出すれば、これは標本Aの位置でのパルスレーザ光L1’の周波数特性を示すことになる。この相互相関波形の相互相関幅を狭くなるように周波数分散量調節装置6を作動させることで、第1の光路13を導光されるパルスレーザ光L1’の周波数分散量を調節し、標本Aの測定点上において略フーリエ限界パルスとすることができる。これにより、多光子励起光効果を効率的に発生させて、鮮明な多光子蛍光観察を行うことができる。
【0093】
なお、多光子蛍光観察時における周波数分散量調節装置6の操作は、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察時と同様に、ユーザによる手動としてもよいし、自動としても良い。
また、多励起型の蛍光観察と同様の条件で、SHG(第二高調波)光、THG(第3高調波)光観察などの観察も行うことができる。
【0094】
以上のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置61によれば、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光観察、多光子励起型の蛍光観察およびSHG光観察を切り替えて効率よく、より簡便かつ安価に行うことができる。すなわち、1台のレーザ顕微鏡装置1により、3種類の観察を簡便且つ安価に効率よく行うことができ、マルチモーダルな観察を達成することができる。
【0095】
なお、本実施形態の周波数特性検出装置60に第1の実施形態及び第2の実施形態と同一の極短パルスレーザ光測定部201をさらに備え、図示しないビームスプリッタ等によって光路15を分波し、相互相関計203および極短パルスレーザ光測定部201の両方へパルスレーザ光L4(パルスレーザ光L1’,L2’)を入射させるようにしてもよい。この場合、低コストかつ簡便な上記方法と、より精度の高い方法を状況に合わせて選択できるようになる。
【0096】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、周波数分散量調節装置6として、プリズム対とミラーとを備えて、周波数分散量を連続的に変更可能なものを例示したが、これに代えて、回折格子対、誘電体多層膜鏡等でもよい。また、ガラスや色素溶液等周波数分散量が固定のもの、それらを複数用意し、段階的に切り替える方式のものや、第1の光路13上に挿脱されてパルスレーザ光L1’に与える分散量を切り替える方式のものを採用してもよい。
【0097】
また、周波数分散量調節装置6は、例えば、板厚の変化する楔状のガラス板のように所定の周波数分散特性を有する材質からなる部材(図示略)であってもよい。部材が本来持つ周波数分散特性により、部材を通過するフェムト秒パルスレーザ光L1に所定の周波数分散を与えることができる。また、フェムト秒パルスレーザ光L1の通過する位置の部材の厚みを変化させることにより、与える周波数分散量が調節できる。また、周波数分散量調節装置6は、所望の周波数分散量を得るように調製された光ファイバであってもよいし、ファイバーブラッググレーティング等でもよい。
【0098】
また、周波数分散量調節装置6は、第2の光路14に設けられていてもよいし、両光路13,14にそれぞれ設けられていてもよい。特に、周波数分散装置を両光路13,14に設けることで、両光路13,14を通過してくるパルスレーザ光L1’,L2’のチャープレートC1,C2を小さくしてCARSスペクトルのスペクトル分解能を向上させることができる。また、周波数量分散調節装置6がレーザ光源4と分波装置5との間に設けられていても、第2の光路14において所定の周波数分散量を与えることで、マルチモーダルな観察が可能となる。
【0099】
また、周波数分散量調節装置6で、パルスレーザ光L1’及びL2’のチャープレートを略一致させずに少し異ならせ、パルスレーザ光L1’とL2’の周波数差に一定量の幅を与えてもよい。その場合CARS光の発生効率は低下するが、標本周囲の環境変化によってスペクトル形状が変化する場合においてもCARSイメージを取得することが可能であり、異なる分子のCARSイメージを同時に観測したりすることも可能となる。
【0100】
また、周波数変換装置7には、フォトニッククリスタルファイバを用いたが、これらは特定の周波数範囲をカバーする複数のフォトニッククリスタルファイバで構成してもよい。その場合、これら複数のフォトニッククリスタルファイバを機械的に選択交換しても良いし、それらを直列に並べても良い。また、入射したフェムト秒パルスレーザ光を広い周波数スペクトル帯域に変換する機能を持つものであれば、フォトニッククリスタルファイバ以外の非線形光学材料や素子を用いてももちろんよい。
【0101】
また、少なくとも一方の光路13,14に、減光フィルタのような光量調節手段(図示略)を配置することにしてもよい。これにより、2つの光路13,14を通過してくるパルスレーザ光L1’,L2’の光量バランスを図ることができる。
また、各光路にファイバを設けて各パルスレーザ光を導光することとしてもよい。但し、この場合にはファイバにより与えられる周波数分散量を予め測定し、周波数特性検出装置10、50、60で実測または算出される周波数分散量を補正する必要がある。
【0102】
また、第1の光路13を通過するパルスレーザ光L1’に与える周波数分散量を、標本Aにおいて略フーリエ限界パルスに近づくように設定して行われる多光子励起の蛍光観察の際には、第2の光路14をシャッタ等により制限することとしてもよい。多光子励起の蛍光観察時には第2の光路14への分岐は不要となるので、これを制限することによって、多光子蛍光画像に発生するノイズや標本Aに与えるダメージを低減することができる。
【0103】
また本発明の各実施形態では、一つのフェムト秒レーザから出射されるフェムト秒パルスレーザ光を合波装置により分岐するようにしたが、1台のレーザから複数の周波数のフェムト秒パルスレーザ光が出射されるレーザを用いるようにしてもよい。また、周波数の異なるフェムト秒パルスレーザ光が出射される複数のレーザーを同期させた上で用いても良い。その場合には分波装置を省略することができる。
【0104】
また本発明は、レーザ顕微鏡装置に関するものであるが、その応用分野は、細胞や組織等の生体試料あるいは生体以外の有機・無機等の試料を顕微観察する通常の顕微鏡装置に限定されず、人体や動物等生体をin−vivo観察するあるいは構造物を非破壊で観察するための内視鏡的顕微観察装置にも適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る周波数特性検出装置の作用効果を説明するためのフローチャート図である。
【図3】図1の標本Aにおけるパルスレーザ光の周波数の時間分布の一例を示すグラフであり、(a)パルスレーザ光L1’(b)パルスレーザ光L2’をそれぞれ示している。
【図4】図1のレーザ顕微鏡装置の2つの光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレート及び周波数差を調節する機能を説明するための図である。
【図5】図1のレーザ顕微鏡装置の多光子励起蛍光観察時におけるチャープレートを調節する機能を説明するための図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る周波数特性検出装置の作用効果を説明するためのフローチャート図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る2つの光路を導光されるパルスレーザ光の、標本Aでのチャープレート及び周波数差を調節する機能を説明するための図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置の全体構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る周波数特性検出装置の作用効果を説明するためのフローチャート図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る相互相関計の装置図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る周波数特性検出装置の作用効果を説明するための図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る周波数特性検出装置の作用効果を説明するための図である。
【符号の説明】
【0106】
A 標本
L1,L2 フェムト秒パルスレーザ光
L1’,L2’,L3,L4,L6,L7,L8,L9 パルスレーザ光
Ω,Ω’ 周波数(差)
1,51,61 レーザ顕微鏡装置
2,52,62 レーザ光源装置
3,53,63 顕微鏡本体
4 レーザ光源
5 分波装置(分波手段)
6 周波数分散量調節装置(周波数分散量調節手段)
7 フォトニッククリスタルファイバ(周波数変換手段)
8 周波数差調節装置(周波数差調節手段)
9 合波装置(合波手段)
10,50,60 周波数特性検出装置(周波数特性検出手段)
13,14,15 光路
104,108 光検出器
105 集光レンズ(照射手段)
107 集光レンズ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本中の分子の特定の振動周波数に略等しい周波数差を有する2つの異なる周波数を有するパルスレーザ光を導光する2つの光路と、
該2つの光路を導光されてきたパルスレーザ光を合波する合波手段と、
該合波手段により合波されたパルスレーザ光を標本に照射する照射手段と、
前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光のチャープレートを検出する周波数特性検出手段と、
該周波数特性検出手段により検出された各パルスレーザ光のチャープレートが略同等となるように、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートを調節可能な周波数分散量調節手段と
を備えるレーザ顕微鏡装置。
【請求項2】
前記周波数分散量調節手段が、標本面上におけるパルスレーザ光が略フーリエ限界パルスに近づくように、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートを調節可能である請求項1に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項3】
前記周波数特性検出手段が、さらに、前記二つの光路を導光される各パルスレーザ光の周波数差を検出し、
該周波数特性検出手段により検出された周波数差を所定の周波数差に調節するための周波数差調節手段を備える請求項1または請求項2に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項4】
フェムト秒パルスレーザ光を射出するレーザ光源と、
該レーザ光源から射出されたフェムト秒パルスレーザ光を少なくとも前記2つの光路に分岐する分波手段と、
該分波手段により分岐された前記2つの光路を導光されるパルスレーザ光の周波数差が標本中の分子の特定の振動周波数に略等しくなるように、一方の光路を導光されるパルスレーザ光の周波数をその周波数帯域を変更または拡大するように変換する周波数変換手段とを備える請求項1から請求項3のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項5】
前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光の周波数特性を表示する表示手段を備える請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項6】
前記周波数特性検出手段が、検出された前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光の周波数特性値、あるいは周波数特性を演算にて求めるための中間値を記憶する記憶手段を備える請求項1から請求項5のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項7】
前記周波数特性検出手段が、前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光のスペクトログラムを検出する検出手段を備える請求項1から請求項6のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項8】
前記周波数特性検出手段が、前記2つの光路を導光される該パルスレーザ光の相互相関信号を検出する検出手段を備える請求項1から請求項7のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項9】
前記周波数変換手段が、フォトニッククリスタルファイバである請求項1から請求項8のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項1】
標本中の分子の特定の振動周波数に略等しい周波数差を有する2つの異なる周波数を有するパルスレーザ光を導光する2つの光路と、
該2つの光路を導光されてきたパルスレーザ光を合波する合波手段と、
該合波手段により合波されたパルスレーザ光を標本に照射する照射手段と、
前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光のチャープレートを検出する周波数特性検出手段と、
該周波数特性検出手段により検出された各パルスレーザ光のチャープレートが略同等となるように、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートを調節可能な周波数分散量調節手段と
を備えるレーザ顕微鏡装置。
【請求項2】
前記周波数分散量調節手段が、標本面上におけるパルスレーザ光が略フーリエ限界パルスに近づくように、少なくとも一方の光路を導光されるパルスレーザ光のチャープレートを調節可能である請求項1に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項3】
前記周波数特性検出手段が、さらに、前記二つの光路を導光される各パルスレーザ光の周波数差を検出し、
該周波数特性検出手段により検出された周波数差を所定の周波数差に調節するための周波数差調節手段を備える請求項1または請求項2に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項4】
フェムト秒パルスレーザ光を射出するレーザ光源と、
該レーザ光源から射出されたフェムト秒パルスレーザ光を少なくとも前記2つの光路に分岐する分波手段と、
該分波手段により分岐された前記2つの光路を導光されるパルスレーザ光の周波数差が標本中の分子の特定の振動周波数に略等しくなるように、一方の光路を導光されるパルスレーザ光の周波数をその周波数帯域を変更または拡大するように変換する周波数変換手段とを備える請求項1から請求項3のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項5】
前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光の周波数特性を表示する表示手段を備える請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項6】
前記周波数特性検出手段が、検出された前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光の周波数特性値、あるいは周波数特性を演算にて求めるための中間値を記憶する記憶手段を備える請求項1から請求項5のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項7】
前記周波数特性検出手段が、前記2つの光路を導光される各パルスレーザ光のスペクトログラムを検出する検出手段を備える請求項1から請求項6のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項8】
前記周波数特性検出手段が、前記2つの光路を導光される該パルスレーザ光の相互相関信号を検出する検出手段を備える請求項1から請求項7のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項9】
前記周波数変換手段が、フォトニッククリスタルファイバである請求項1から請求項8のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−66239(P2010−66239A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235635(P2008−235635)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]