説明

レーダシステム

【課題】目標を安定して追尾することが可能なレーダシステムを提供する。
【解決手段】Xバンドのレーダ映像中に偽像又はクラッタが存在し、さらに、各ARPA装置8a、8bが同一の目標をそれぞれ追尾している場合に、追尾部17bの目標追尾部26は、Sバンドの目標の位置を指示機16aに送信し、指示機16aの追尾位置比較部44は、受信した指示機16bからの目標の位置と、追尾部17aの目標追尾部26からのXバンドの目標の位置との差分を求め、前記差分が所定の閾値を上回るときに前記差分を追尾部17aの目標追尾部26に出力する。該目標追尾部26は、前記差分を用いて目標の位置を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶に搭載され、レーダ装置が生成したレーダ映像を利用して他の船舶等の物標との衝突を予防する自動衝突予防援助装置(以下、ARPA装置ともいう。)を備えるレーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、多くの船舶には、自船に設置されたレーダ装置が生成したレーダ映像を利用して他の船舶等の物標との衝突を予防するARPA装置が搭載されている(特許文献1参照)。
【0003】
この場合、前記船舶には、Xバンド(9GHz帯)用のレーダ装置と、Sバンド(3GHz帯)用のレーダ装置とがそれぞれ搭載されているので、ARPA装置は、前記Xバンド用のレーダ装置が生成したレーダ映像を一方の表示手段の画面上に表示させ、前記Sバンド用のレーダ装置が生成したレーダ映像を他方の表示手段の画面上に表示させることが可能である。
【0004】
また、前記ARPA装置は、前記各レーダ映像に基づいて、自船に衝突するおそれのある所定の物標を、追尾(捕捉)すべき目標として選択し、選択した目標を追尾すると共に、前記各表示手段の画面上に前記レーダ映像と前記目標の追尾状況とをそれぞれ表示させることも可能である。
【0005】
【特許文献1】特開2005−308532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、各表示手段の画面上にそれぞれ表示されるレーダ映像は、レーダ装置の周波数バンドの違いにより見え方が異なる場合がある。すなわち、Xバンド用のレーダ装置は、水面近傍の物標や、海面反射等のノイズを検知し易く、一方で、Sバンド用のレーダ装置は、水面近傍の物標や前記ノイズを検出しにくいので、Xバンド用のレーダ装置が生成したレーダ映像を表示する表示手段の画面上には、海面反射のノイズに起因した映像(クラッタ)が表示される。これに対して、Sバンド用のレーダ装置が生成したレーダ映像を表示する表示手段の画面上には、このようなクラッタは表示されにくい。
【0007】
そのため、ARPA装置は、Sバンドのレーダ映像を表示する表示手段の画面表示に基づいて目標を追尾することは可能であるが、Xバンドのレーダ映像を表示する表示手段の画面表示に基づいて目標を追尾しようとする場合、当該目標の追尾が不安定となる状況が発生するおそれがある。すなわち、Xバンドのレーダ映像を表示する表示手段の画面上には、本来の目標を示す映像以外に、前述したクラッタが表示されるので、前記目標を示す映像が前記クラッタに埋もれた状態で画面上に表示されていると、前記ARPA装置は、前記目標ではなく、前記クラッタを誤って追尾するおそれがある。
【0008】
また、表示手段の画面上には、物標以外に、当該物標の二次反射や多重反射に起因した映像(偽像)も表示される。この場合、レーダ装置を構成するアンテナの自船における配置位置によっては、一方の表示手段の画面上に偽像が表示され、他方の表示手段の画面上に前記偽像が表示されない状況が発生するときがある。従って、ARPA装置は、前記目標ではなく、前記偽像を誤って追尾するおそれもある。
【0009】
この発明は、このような問題を考慮してなされたものであり、目標を安定して追尾することが可能なレーダシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るレーダシステムは、
船舶に搭載され、ネットワークを介して接続された少なくとも第1及び第2のARPA装置を備え、
前記各ARPA装置は、
前記船舶に搭載されたレーダ装置が生成したレーダ映像を画面上に表示する表示手段と、
前記画面上に表示される前記レーダ映像に基づいて、所定の物標を、追尾すべき目標として選択する目標選択手段と、
前記目標を追尾し、一方で、前記船舶に対する前記目標の位置を前記ネットワークを介して他のARPA装置に送信可能な目標追尾手段と、
自己のARPA装置が追尾している前記目標の位置と、前記他のARPA装置から前記ネットワークを介して受信し且つ前記他のARPA装置が追尾した目標の位置とを比較する追尾位置比較手段と、
をそれぞれ有し、
前記各ARPA装置が同一の目標をそれぞれ追尾している場合に、
前記第1のARPA装置の追尾位置比較手段は、前記第1のARPA装置が追尾している前記目標の位置と、前記第2のARPA装置から前記ネットワークを介して受信し且つ前記第2のARPA装置が追尾した前記目標の位置との差分を、前記第1のARPA装置の目標追尾手段に出力し、
当該目標追尾手段は、前記差分を用いて前記目標の位置を補正し、補正した前記位置に基づいて前記目標を追尾することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、複数のARPA装置が船舶に搭載されている場合に、自己のARPA装置において、偽像やクラッタにより目標の追尾が不安定になる状況であっても、偽像やクラッタのない他のARPA装置からの目標の位置を用いて前記自己のARPA装置が追尾している目標の位置を補正することで、当該目標を安定して追尾することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、この発明の実施形態に係るレーダシステム2を搭載する船舶4の概略システム構成図である。
【0013】
レーダシステム2は、Xバンド用のレーダ装置6aと、Sバンド用のレーダ装置6bとを備えている。レーダ装置6a、6bは、アンテナ10a、10b、送受信機12a、12b、レーダ処理装置14a、14b及びARPA装置8a、8bからそれぞれ構成されている。ARPA装置8aは、レーダ処理装置14aに接続される指示機16aと、レーダ処理装置14a及び指示機16aに接続される追尾部17aとから構成され、一方で、ARPA装置8bは、レーダ処理装置14bに接続される指示機16bと、レーダ処理装置14b及び指示機16bに接続される追尾部17bとから構成されている。また、各指示機16a、16bは、船舶4内のネットワーク18を介して接続されている。
【0014】
アンテナ10a、10bは、自船である船舶4における見晴らしの良好な箇所にそれぞれ設けられている。送受信機12a、12bは、水平面内で一定方向にアンテナ10a、10bを回転させながら、該アンテナ10a、10bより外部にレーダパルスを送信させ、物標(例えば、他の船舶)からの前記レーダパルスの反射波を受信する。レーダ処理装置14a、14bは、送受信機12a、12bからの前記反射波の受信信号に対して、所定の信号処理(例えば、スイープ相関処理、スキャン相関処理等のクラッタ抑圧処理や、表示器36(図2参照)の画面に対応した座標系の映像を得るための座標変換処理(スキャンコンバージョン)等の信号処理)をそれぞれ行う。従って、ARPA装置8aには、レーダ処理装置14aからスキャン毎に前記信号処理後の映像(Xバンドのレーダ映像)が入力され、一方で、ARPA装置8bには、レーダ処理装置14bからスキャン毎にSバンドのレーダ映像が入力される。
【0015】
図2は、ARPA装置8a、8bを構成する指示機16a、16b及び追尾部17a、17bの構成ブロック図である。なお、各ARPA装置8a、8bは、略同一構成であるので、図2では、1台のARPA装置のみ図示している。
【0016】
各指示機16a、16bは、目標選択手段としての目標選択部22及びポインティングデバイス24、表示手段としての表示制御部34及び表示器36、操作部38、送受信部40、補正指示機指定部(補正ARPA装置指定手段)42並びに追尾位置比較部(追尾位置比較手段)44から構成されている。また、ARPA機能を有する追尾部17a、17bは、ARPA目標検出部20、目標追尾部(目標追尾手段)26及び目標針路速力演算部28から構成されている。
【0017】
レーダ処理装置14a、14b(図1参照)から各指示機16a、16bに入力されたレーダ映像は、表示制御部34によりCRTやLCD等の表示器36の画面上に例えばPPI(Plane Position Indicator)表示される。なお、キーボードやキーパッド等の操作部38は、表示器36の輝度や表示レンジを手動設定するために使用される。
【0018】
また、前記レーダ映像は、追尾部17a、17bにも入力され、ARPA目標検出部20は、前記レーダ映像中、物標(例えば、他の船舶)とみなし得る映像を検出し、検出した前記物標を示す映像を目標選択部22に出力する。なお、物標を示す映像は、前記レーダ映像に含まれているので、表示器36の画面上には、該物標を示す映像も表示されている。
【0019】
指示機16a、16bの使用者(繰船者)は、所定数(2以上の自然数)の範囲内で、表示器36の画面上に表示されている物標を示す映像の中から所定の物標を示す映像を、マウスやトラックボール等のポインティングデバイス24を操作して選択する。目標選択部22は、選択された物標の映像がARPA目標検出部20にて検出した物標を示す映像に該当すれば、この映像をARPA装置8a、8bにて追尾すべき目標を示す映像(以下、目標映像ともいう。)として指定する。
【0020】
目標追尾部26は、あるスキャンにおいて目標選択部22で目標映像が指定された際に、後のスキャンにおけるレーダ映像中のどの映像が前記目標映像であるのかをスキャン毎に且つ物標を示す映像毎に逐次判別することにより、指定された目標(目標映像)を追尾し、さらに、船舶4に対する目標の位置を目標針路速力演算部28に出力する。なお、前記使用者がポインティングデバイス24を操作して前記所定数の範囲内で複数の物標を示す映像を目標映像として指定した場合に、目標追尾部26は、指定された目標(目標映像)毎に追尾を行う。
【0021】
目標針路速力演算部28は、目標追尾部26からの前記目標の位置に基づいて、目標の針路(現在の移動方向)及び速力(単位時間当たりの移動量)を求め、前記目標の移動速度ベクトルを示す映像や各種シンボルを発生させる。これらのベクトルやシンボルは、表示制御部34を介して表示器36の画面上に表示される。また、前記移動速度ベクトルは、前記目標の相対運動を示す速度ベクトル(相対速度ベクトル)であるため、目標針路速力演算部28では、目標追尾部26にて得られる情報、すなわち、自船としての船舶4に対する目標(他の船舶)の相対運動及びその履歴を示す情報(目標の位置等)の他にも、図示しないジャイロコンパス等により得られる自船針路や、スピードログ等により得られる自船速力等、船舶4の真運動を示す情報等に基づき真速度ベクトルを算出することもできる。
【0022】
ところで、表示器36の画面上に表示されるレーダ映像は、船舶4(図1参照)におけるアンテナ10a、10bの配置位置や、レーダ装置6a、6bの周波数バンドの違いにより見え方が異なる。特に、Xバンド用のレーダ装置6aは、Sバンド用のレーダ装置6bと比較して、水面近傍の物標や、海面反射等のノイズを検知し易いので、指示機16aの表示器36の画面上に表示されるXバンドのレーダ映像には、海面反射のノイズに起因した映像(クラッタ)が表示される。そのため、レーダ処理装置14aが生成したXバンドのレーダ映像を利用して目標(目標映像)を追尾しようとする場合に、追尾部17aの目標追尾部26は、前記目標ではなく、クラッタを誤って追尾することで、前記目標の追尾が不安定となるおそれがある。
【0023】
また、表示器36の画面上には、物標を示す映像以外に、当該物標の二次反射や多重反射に起因した映像(偽像)も表示される。この場合、船舶4におけるアンテナ10a、10bの配置位置によっては、指示機16aの表示器36の画面上に偽像が表示され、指示機16bの表示器36の画面上に前記偽像が表示されない状況が発生するときがある。従って、ARPA装置8aは、前記目標ではなく、前記偽像を誤って追尾するおそれもある。
【0024】
そこで、各ARPA装置8a、8bの指示機16a、16b内には、上述した送受信部40、補正指示機指定部42及び追尾位置比較部44がそれぞれ配置されている(図2参照)。
【0025】
少なくともレーダ処理装置14a(図1参照)が生成したXバンドのレーダ映像中に偽像又はクラッタが存在し(より詳細には、前記偽像又は前記クラッタに目標映像が埋もれていて、前記偽像又は前記クラッタと前記目標映像との区別がつきにくく)、さらに、各追尾部17a、17bの目標追尾部26が同一の目標(目標映像)をそれぞれ追尾している場合に、前記使用者は、各表示器36の画面上にそれぞれ表示される前記Xバンドのレーダ映像と前記Sバンドのレーダ映像とを対比して、前記Xバンドのレーダ映像中の偽像又はクラッタによりARPA装置8aが誤った追尾を行うおそれがあるものと判断し、指示機16bのポインティングデバイス24を操作して、指示機16bの表示器36の画面上に表示されたSバンドのレーダ映像中の目標映像を選択する。
【0026】
これにより、指示機16bの補正指示機指定部42は、目標選択部22からの前記目標映像を選択したことを示す信号を検出し、その検出結果を目標追尾部26に出力する。追尾部17bの目標追尾部26は、船舶4に対する目標の位置を送受信部40及びネットワーク18を介して指示機16aに送信する。
【0027】
指示機16aの追尾位置比較部44は、ネットワーク18及び送受信部40を介し受信したARPA装置8b側の前記目標の位置と、追尾部17aの目標追尾部26からの船舶4に対する目標の位置との差分を求め、求めた差分が所定の閾値を上回るときに追尾部17aの目標追尾部26が誤った追尾を行っているものと判定し、前記差分を当該目標追尾部26に出力する。なお、ARPA装置8bから指示機16aに送信される目標の位置は、前回のスキャンにおける目標の位置であるため、追尾位置比較部44では、今回のスキャンにおけるARPA装置8aでの目標の位置と、前回のスキャンにおけるARPA装置8bでの目標の位置との差分を求める。
【0028】
目標追尾部26は、入力された前記差分を用いて前記目標の位置を補正し、補正した目標の位置を目標針路速力演算部28に出力する。
【0029】
この実施形態に係るレーダシステム2は、以上のように構成されており、次に、ARPA装置8a、8bの具体的処理について、図1〜図5を参照しながら説明する。ここでは、レーダ映像中にクラッタが存在する場合の処理について説明する。
【0030】
図3は、ARPA装置8a、8bの前記処理を示すシーケンス図であり、図4A〜図5は、この処理中のレーダ映像の画面表示を示す説明図である。なお、図4A〜図5において、aの文字が付された参照数字は、Xバンドのレーダ映像が入力されるARPA装置8a(図1及び図2参照)側であることを示し、bの文字が付された参照数字は、Sバンドのレーダ映像が入力されるARPA装置8b側であることを示している。また、この処理では、ARPA装置8a、8bは、共に同一の目標を追尾し、その目標が表示器36a、36bの画面50a、50b上で、目標映像54a、54bとして表示されているものとする。
【0031】
図4Aにおいて、画面50a上には、自船としての船舶4(図1参照)を示す映像52aと、目標映像54aと、クラッタを示す映像56aと、追尾部17aの目標追尾部26(図2参照)による目標映像54aの追尾状況(該目標追尾部26が追尾している目標の位置)を示すシンボル57aとがそれぞれ表示され、一方で、画面50b上には、船舶4を示す映像52bと、目標映像54bと、クラッタを示す映像56bと、追尾部17bの目標追尾部26による目標映像54bの追尾状況(該目標追尾部26が追尾している目標の位置)を示すシンボル57bとがそれぞれ表示されている。なお、図4Aでは、映像52a、52bは画面50a、50bの中心にそれぞれ表示され、以下同様とする。また、画面50bには、ポインティングデバイス24の操作によって画面50b上を移動可能な+字状のカーソル58bも表示されている。
【0032】
ここで、追尾部17a、17bの目標追尾部26(図1及び図2参照)が同一の目標(目標映像54a、54b)をそれぞれ追尾している場合に、画面50a上に映像56aが存在し、この映像56aによって目標映像54aが埋もれて表示されていると、ARPA装置8a側では、映像56aが目標映像であると誤って認識し、この映像56aを追尾対象として追尾を行う。そのため、本来、ARPA装置8a、8bによる目標映像54a、54bの追尾により、画面50a、50b上、目標映像54a、54bとシンボル57a、57bとがそれぞれ同一位置に重なり合って表示されるところ、画面50a上では、目標映像54aとクラッタを示す映像56aとの区別がつきにくいので、ARPA装置8aは、映像56aを誤って追尾し、この結果、追尾中の目標の位置を示すシンボル57aは、目標映像54aとは異なる位置に表示される(図3のステップS1及び図4B参照)。なお、画面50b上では、目標映像54bとクラッタを示す映像56bとの区別がつきやすい(目標映像54bが映像56bに埋もれていない)ので、ARPA装置8bは、目標映像54bを追尾し、この結果、追尾中の目標の位置を示すシンボル57bと目標映像54bとは同一位置に表示される(図4A参照)。
【0033】
そこで、使用者は、画面50a、50bに表示されたレーダ映像を対比し、画面50a上の映像56aによりARPA装置8aが誤った追尾を行っているものと判断し、指示機16bのポインティングデバイス24を操作して、画面50b上に表示された目標映像54b(シンボル57b)にカーソル58bを合わせ(図4C参照)、該カーソル58bをクリックする(図3のステップS2参照)。ポインティングデバイス24の操作に基づくカーソル58bのクリックに起因して、表示制御部34により画面50b上にはメニュー画像60bが表示される(図3のステップS3及び図4D参照)。
【0034】
ここで、使用者が指示機16bのポインティングデバイス24を操作して、メニュー画像60b中の「補正するターゲットに指定」の項目をクリックすると(図4E参照)、目標選択部22から前記項目がクリックされたことを示す信号が出力される。補正指示機指定部42は、前記信号が出力されるか否かを一定周期毎に監視しており(ステップS4)、前記信号を検出した場合に、ARPA装置8a側のシンボル57aが示す目標の位置を補正すべきものと把握して、その検出結果を目標追尾部26に出力する。
【0035】
目標追尾部26は、入力された前記検出結果に基づいて、Sバンドのレーダ映像中のシンボル57bが示す目標の位置を送受信部40及びネットワーク18を介して指示機16aに送信する(ステップS5)。
【0036】
指示機16aの追尾位置比較部44は、シンボル57bが示す目標の位置を受信したか否かを一定周期毎に監視しており(ステップS6)、ネットワーク18及び送受信部40を介して前記目標の位置を受信した際に、受信した位置が前記目標の位置であることを把握し(ステップS7)、次に、この目標の位置と、追尾部17aの目標追尾部26からのシンボル57aが示す目標の位置との差分を求め、求めた差分が所定の閾値を上回るか否かを判定する(ステップS8)。前記差分が前記閾値を上回る場合に、追尾位置比較部44は、当該目標追尾部26が、目標映像54aではなく、クラッタを示す映像56aを誤って追尾しているものと判定し、前記差分を目標追尾部26に出力する。
【0037】
目標追尾部26は、入力された前記差分を用いてシンボル57aが示す目標の位置をシンボル57bが示す目標の位置に応じた所定位置にまで補正する(図3のステップS9及び図5参照)。これにより、画面50aにおける補正後のシンボル57aの位置は、正しい目標(目標映像54a)の位置となり、目標追尾部26は、補正した目標の位置を目標針路速力演算部28に出力する。
【0038】
なお、上記したARPA装置8a、8bの処理では、レーダ映像中にクラッタが存在する場合について説明したが、レーダ映像中に偽像が存在する場合でも、同様の処理により、目標の位置を補正することが可能である。
【0039】
このように、この実施形態に係るレーダシステム2は、複数のARPA装置8a、8bが船舶4に搭載されている場合に、自己のARPA装置8aにおいて、偽像やクラッタにより目標の追尾が不安定になる状況(追尾対象が偽像やクラッタを示す映像56aに乗り移った状況)でも、偽像やクラッタのない他のARPA装置8bからの目標の位置を用いてARPA装置8aにおける目標の位置を補正することで、当該目標を安定して追尾することができる。
【0040】
また、指示機16bの補正指示機指定部42は、使用者のポインティングデバイス24の操作によるメニュー画像60bのクリックを検出し、追尾部17bの目標追尾部26は、この検出結果に基づいて、Sバンドの目標の位置(シンボル57bが示す目標の位置)をネットワーク18を介して指示機16aに送信し、指示機16aの追尾位置比較部44は、Xバンドの目標の位置(シンボル57aが示す目標の位置)と、指示機16bからネットワーク18を介して受信したSバンドの目標の位置との差分が所定の閾値を上回るか否かを判定し、前記差分が前記閾値を上回ると判定したときに、該差分を追尾部17aの目標追尾部26に出力する。これにより、目標追尾部26では、シンボル57aが示す目標の位置を確実に補正して、補正後の目標の位置にて、目標を一層安定して追尾することができる。
【0041】
この実施形態では、2つの指示機16a、16b間で目標の位置を補正する場合について説明したが、ネットワーク18を介して3以上の指示機を接続し、これらの指示機間で目標の位置を補正してもよい。また、この実施形態では、Xバンドの目標の位置を用いて、Sバンドの目標の位置を補正することも可能である。
【0042】
さらに、上記の説明では、送受信部40、補正指示機指定部42及び追尾位置比較部44は、指示機16a、16bに配置されているが、これらの構成要素は、ARPA装置8a、8b内に配置されていればよいので、例えば、追尾部17a、17b内に配置することや、ARPA装置8a、8b内であって、指示機16a、16b及び追尾部17a、17b外に配置することも可能である。
【0043】
なお、この発明は、上述した実施形態に限らず、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この実施形態に係るレーダシステムを搭載する船舶の概略システム構成図である。
【図2】図1のARPA装置の構成ブロック図である。
【図3】ARPA装置間の処理を示すシーケンス図である。
【図4】図4A〜図4Eは、図3の処理中のレーダ映像の画面表示を示す説明図である。
【図5】図3の処理中のレーダ映像の画面表示を示す説明図である。
【符号の説明】
【0045】
2…レーダシステム 4…船舶
6a、6b…レーダ装置 8a、8b…ARPA装置
10a、10b…アンテナ 12a、12b…送受信機
14a、14b…レーダ処理装置 16a、16b…指示機
17a、17b…追尾部 18…ネットワーク
20…ARPA目標検出部 22…目標選択部
24…ポインティングデバイス 26…目標追尾部
28…目標針路速力演算部 34…表示制御部
36、36a、36b…表示器 38…操作部
40…送受信部 42…補正指示機指定部
44…追尾位置比較部 50a、50b…画面
52a、52b、56a、56b…映像 54a、54b…目標映像
57a、57b…シンボル 58b…カーソル
60b…メニュー画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭載され、ネットワークを介して接続された少なくとも第1及び第2のARPA装置を備え、
前記各ARPA装置は、
前記船舶に搭載されたレーダ装置が生成したレーダ映像を画面上に表示する表示手段と、
前記画面上に表示される前記レーダ映像に基づいて、所定の物標を、追尾すべき目標として選択する目標選択手段と、
前記目標を追尾し、一方で、前記船舶に対する前記目標の位置を前記ネットワークを介して他のARPA装置に送信可能な目標追尾手段と、
自己のARPA装置が追尾している前記目標の位置と、前記他のARPA装置から前記ネットワークを介して受信し且つ前記他のARPA装置が追尾した目標の位置とを比較する追尾位置比較手段と、
をそれぞれ有し、
前記各ARPA装置が同一の目標をそれぞれ追尾している場合に、
前記第1のARPA装置の追尾位置比較手段は、前記第1のARPA装置が追尾している前記目標の位置と、前記第2のARPA装置から前記ネットワークを介して受信し且つ前記第2のARPA装置が追尾した前記目標の位置との差分を、前記第1のARPA装置の目標追尾手段に出力し、
当該目標追尾手段は、前記差分を用いて前記目標の位置を補正し、補正した前記位置に基づいて前記目標を追尾することを特徴とするレーダシステム。
【請求項2】
請求項1記載のレーダシステムにおいて、
前記各ARPA装置は、前記目標の位置を補正すべきARPA装置を指定する補正ARPA装置指定手段をさらに有し、
少なくとも前記第1のARPA装置の表示手段の画面上に偽像又はクラッタが表示され、さらに、前記各ARPA装置が同一の目標をそれぞれ追尾している場合に、
前記第2のARPA装置の補正ARPA装置指定手段は、前記第1のARPA装置の表示手段の画面上における前記偽像又は前記クラッタの表示に基づいて前記第2のARPA装置の目標選択手段が前記目標を選択したことを検出し、その検出結果を前記第2のARPA装置の目標追尾手段に出力し、
当該目標追尾手段は、前記検出結果に基づいて前記目標の位置を前記ネットワークを介して前記第1のARPA装置に送信し、
前記第1のARPA装置の追尾位置比較手段は、前記第1のARPA装置が追尾している前記目標の位置と、前記第2のARPA装置から前記ネットワークを介して受信し且つ前記第2のARPA装置が追尾した前記目標の位置との差分が所定の閾値を上回るか否かを判定し、前記差分が前記閾値を上回ると判定したときに、該差分を前記第1のARPA装置の目標追尾手段に出力することを特徴とするレーダシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−122063(P2009−122063A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298982(P2007−298982)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】