説明

レーダ装置、及び測定方法

【課題】レーダ装置を検査、又は調整するための作業領域を縮小でき、且つ短時間で検査、又は調整することのできるレーダ装置を提供する。
【解決手段】対象物の相対距離、相対速度、及び方位角などの相対位置を測定するときは、予め定められた期間、及び予め定められた周波数差で周期的に増減する周波数で送信信号を生成して送信し、送信された送信信号と、当該送信信号が対象物で反射した反射信号に基づき相対位置を測定する。一方、外部から検査、又は調整をする指示が与えられたときは、前述の期間に対する前述の周波数差の比を大きくしてから送信信号を生成して送信し、送信された送信信号と、当該送信信号に対する反射信号に基づいて対象物の方位角を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関し、より特定的には、上下、又は左右方向の基準方位角の検査、又は調整に用いる信号を生成するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両などの移動体の周囲に存在する対象物との相対距離、相対速度、及び対象物の存在する方向などの情報を測定するためのレーダ装置が開発され、実用化されている。このようなレーダ装置として、例えば、特許文献1に記載されるようなレーダ装置(以下、従来技術と称する)が挙げられる。
【0003】
従来技術では、ある一定の変化率で周波数が漸増、又は漸減する電磁波を放射し、放射された電磁波が対象物で反射した反射波を受信し、放射した電磁波と受信した反射波とのビート信号に基づいて対象物との相対距離や相対速度などを測定するFM−CW方式として知られる測定方式を用いている。
【0004】
そして、従来技術では、電磁波の周波数を漸増、又は漸減させるときの変化率を予め2以上設定しておき、設定された変化率毎に得られる前述のビート信号に基づき、対象物との相対距離や相対速度を測定している。
【特許文献1】特開2004−151022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、対象物との相対距離や相対速度の測定をするためのFM−CW方式などの測定方式と、対象物の存在する方向を測定するための測定方式として知られている位相比較モノパルス方式などの測定方式とを組み合わせることにより、対象物との相対距離、相対速度、及び対象物の存在する方向の3つを1つの装置で測定するためのレーダ装置が既に実用化されている。
【0006】
対象物の存在する方向を測定する測定方式では、レーダ装置の基準方位角を基準とする対象物の水平方向の角度を対象物の存在する方向として測定する。このため、対象物の存在する方向を測定するレーダ装置は、生産工程における基準方位角の検査、又は調整を必要とする。さらに、対象物の存在する方向を測定するレーダ装置は、放射した電磁波が路面、及び看板などで反射した反射波を受信することによって測定結果に生じる影響を低減するために、上下方向の取り付け角度の検査、又は調整も必要とする。
【0007】
対象物の存在する方向を測定するレーダ装置では、相対距離を測定した後に対象物の存在する方向を測定することから、基準方位角を検査、又は調整するためには、相対距離を測定できる位置、すなわち、レーダ装置の仕様によって定められる測定範囲内であって、反射波が雑音の影響などを受けない位置に検査、又は調整用の基準となる対象物(例えば、コーナーリフレクタなど)を設置しなければならない。そして、対象物の存在する方向を測定するレーダ装置が相対距離を測定するときの最長測定範囲はより長い方が好ましい場合もある。
【0008】
しかし、前述のFM−CW方式では、相対距離を測定するときの最長測定範囲を長くすることにより、最短測定範囲も長くなってしまうことが一般的に知られている。一方、相対位置を測定するレーダ装置の基準方位角を検査、又は調整するときには、限られた領域を有効に利用するため、広い作業領域を確保することがないようにするのが好ましい。つまり、レーダ装置の基準方位角を検査、又は調整するためには、相対距離を測定するときの最短測定範囲をより短くすることが好ましい。
【0009】
上述したFM−CW方式では、周波数を漸増、又は漸減させるときの変化率を大きくすると相対距離を測定するときの最短測定範囲を短くできることが知られている。したがって、上述した従来技術では、より大きい変化率で周波数を変化させている期間だけで検査、又は調整のためのデータを収集することで、基準方位角を検査、又は調整するための作業領域を縮小することができる。しかしながら、上記従来技術を用いて、より大きい変化率で周波数を変化させている期間だけで基準方位角の検査、又は調整をすると、他の変化率で周波数を変化させている期間では基準方位角の検査、又は調整をすることができなくなるため、基準方位角の検査、又は調整を開始してから完了するまでの期間が長くなってしまう。
【0010】
そもそも、FM−CW方式では、周波数を漸増、又は漸減させるときのそれぞれの期間において得られるビート信号を用いて相対距離と相対速度とを演算している。周波数を漸増、又は漸減させるときのそれぞれの期間のビート信号を得るため、上記従来技術において、通常使用時には、上記特許文献1に記載の図3、及び図6のパターンで周波数が変化する電磁波を放射しなければならない。そして、放射する電磁波の周波数が変化するときの勾配が相対的に小さい期間は、基準方位角の検査、又は調整に必要なデータを得ることができない期間であるから、当該期間分だけ検査、又は調整にかかる時間が長くなる。
【0011】
それ故に、本発明は、レーダ装置を検査、又は調整するための作業領域を縮小でき、且つ短時間で検査、又は調整することのできるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、以下に示す特徴を有する。
第1の発明は、対象物を測定するレーダ装置であって、予め定められた期間、及び予め定められた周波数差で周期的に増減する周波数で送信信号を生成して送信する送信信号生成手段と、外部から与えられるレーダ装置の検査、又は調整をする指示に応じて、送信信号生成手段にそれぞれ予め定められた期間、及び周波数差の少なくともいずれか一方を切り替えることにより、期間に対する周波数差の比を大きくする切り替え手段と、送信信号生成手段によって送信された送信信号が対象物で反射した反射信号を受信する受信手段と、送信信号生成手段によって送信された送信信号と、受信手段によって受信された反射信号とに基づき、方向をそれぞれ測定する測定手段とを備える。
【0013】
第2の発明は、上記第1の発明に従属する発明であって、切り替え手段は、レーダ装置を制御するための設備から与えられる指示に応じて、期間、及び周波数差の少なくともいずれか一方を切り替える。
【0014】
第3の発明は、上記第1乃至第2の発明のいずれか1つに従属する発明であって、測定手段は、予め定められた基準に対する方向を測定し、
切り替え手段は、レーダ装置の検査、又は調整をする指示として基準を検査、又は調整する指示に応じて、期間に対する周波数差の比を大きくする、請求項1乃至2のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【0015】
第4の発明は、上記第3の発明に従属する発明であって、測定手段は、対象物の存在する方向の水平面に沿った角度の基準となる水平方向基準が基準として予め定められており、切り替え手段は、レーダ装置の検査、又は調整をする指示として水平方向基準を検査、又は調整する指示に応じて、期間に対する周波数差の比を大きくする。
【0016】
第5の発明は、上記第3の発明に従属する発明であって、測定手段は、対象物の存在する方向の垂直面に沿った角度に対する垂直方向基準が基準として予め定められており、切り替え手段は、レーダ装置の検査、又は調整をする指示として垂直方向基準を検査、又は調整する指示に応じて、期間に対する周波数差の比を大きくする。
【0017】
第6の発明は、上記第3乃至第5の発明のいずれか1つに従属する発明であって、測定手段は、基準の調整をする指示を与えられたとき、当該基準を調整するために設置された調整対象物の方向の測定結果に当該基準を一致させる調整手段を含む。
【0018】
第7の発明は、上記第3乃至第5の発明のいずれか1つに従属する発明であって、測定手段は、基準の調整をする指示を与えられたとき、当該基準を調整するために設置された調整対象物の方向の測定結果と当該基準とをそれぞれ示す情報を生成する調整情報生成手段を含む。
【0019】
第8の発明は、上記第3乃至第5の発明のいずれか1つに従属する発明であって、測定手段は、基準の検査をする指示を与えられたとき、当該基準を検査するために設置された調整対象物の方向の測定結果と当該基準とをそれぞれ示す情報を生成する検査情報生成手段を含む。
【0020】
第9の発明は、上記第1乃至第8の発明のいずれか1つに従属する発明であって、送信信号生成手段には、第1の周波数差と、当該第1の周波数差よりも大きい第2の周波数差とが周波数差としてそれぞれ予め定められており、切り替え手段は、外部から与えられる指示に応じて、送信信号生成手段に予め定められた周波数差を第1の周波数差から第2の周波数差へ切り替えることにより、期間に対する周波数差の比を大きくする。
【0021】
第10の発明は、上記第1乃至第8の発明のいずれか1つに従属する発明であって、送信信号生成手段には、第1の期間と、当該第1の期間よりも短い第2の期間とが期間としてそれぞれ予め定められており、切り替え手段は、外部から与えられる指示に応じて、送信信号生成手段に予め定められた期間を第1の期間から第2の期間へ切り替えることにより、期間に対する周波数差の比を大きくする。
【0022】
第11の発明は、上記第1乃至第8の発明のいずれか1つに従属する発明であって、送信信号生成手段には、周波数差として、第1の周波数差と、当該第1の周波数差よりも大きい第2の周波数差とがそれぞれ予め定められており、期間として、第1の期間と、当該第1の期間よりも短い第2の期間とがそれぞれ予め定められており、切り替え手段は、外部から与えられる指示に応じて、送信信号生成手段に予め定められた周波数差を第1の周波数差から第2の周波数差へ切り替え、期間を第1の期間から第2の期間へ切り替えることにより、期間に対する周波数差の比を大きくする。
【0023】
第12の発明は、対象物を測定するレーダ装置において実行される測定方法であって、 予め定められた期間、及び予め定められた周波数差で周期的に増減する周波数で送信信号を生成して送信する送信信号生成ステップと、外部から与えられるレーダ装置の検査、又は調整をする指示に応じて、送信信号生成ステップにおいて生成される送信信号の期間、及び周波数差の少なくともいずれか一方を切り替えることにより、期間に対する周波数差の比を大きくする切り替えステップと、送信信号生成ステップにおいて送信された送信信号が対象物で反射した反射信号を受信する受信ステップと、送信信号生成ステップにおいて送信された送信信号と、受信ステップにおいて受信された反射信号とに基づき、対象物との相対距離、対象物との相対速度、及び方向をそれぞれ測定する測定ステップとを備える。
【発明の効果】
【0024】
上記第1の発明によれば、レーダ装置の検査、又は調整をする指示に応じて、送信信号生成手段が第1の変化率よりも大きい第2の変化率で送信信号を生成して最短測定距離を短縮することにより、レーダ装置の検査、又は調整をするための作業領域を縮小することができ、広い作業領域を確保する必要がなくなる。
【0025】
上記第2の発明によれば、レーダ装置の外部に存在する設備から送信信号生成手段が予め定められた期間に対する予め定められた周波数差の比を大きくする指示を与えることができる。
【0026】
上記第3の発明によれば、レーダ装置の外部に存在する設備から、測定手段が対象物の存在する方向を測定するときの基準を調整、又は検査をするときの指示を与えられたときに、当該基準を調整、又は検査するときの作業領域を縮小することができる。
【0027】
上記第4の発明によれば、測定手段が対象物の存在する水平方向の角度を測定する水平方向基準を検査、又は調整するときの作業領域を縮小することができる。
【0028】
上記第5の発明によれば、測定手段が対象物の存在する垂直方向の角度を測定する垂直方向基準を検査、又は調整するときの作業領域を縮小することができる。
【0029】
上記第6の発明によれば、測定手段が対象物の存在する方向を測定するときの基準の調整をする指示を受けた測定手段が調整対象物の測定結果に基準を一致させて、自動的に基準の調整をすることができる。
【0030】
上記第7の発明によれば、測定手段が対象物の存在する方向を測定するときの基準の調整をする指示を受けた測定手段が調整対象物の方向の測定結果と基準とを示す情報を作業者が参照して手動で調整することができる。
【0031】
上記第8の発明によれば、測定手段が対象物の存在する方向を測定するときの基準の検査をする指示を受けた測定手段が調整対象物の方向の測定結果と基準とを示す情報を作業者が参照して、調整対象物の方向の測定結果と基準とのずれを確認して検査をすることができる。
【0032】
上記第9の発明によれば、送信信号生成手段が予め定められた周波数差を第1の周波数差よりも大きい第2の周波数差に切り替えるだけで、レーダ装置の検査、又は調整をするための作業領域を縮小することができ、広い作業領域を確保する必要がなくなる。
【0033】
上記第10の発明によれば、送信信号生成手段が予め定められた期間を第1の期間よりも短い第2の期間に切り替えるだけで、レーダ装置の検査、又は調整をするための作業領域を縮小することができ、広い作業領域を確保する必要がなくなる。
【0034】
上記第11の発明によれば、送信信号生成手段が、予め定められた周波数差を第1の周波数差よりも大きい第2の周波数差へ切り替え、さらに、予め定められた期間を第1の期間よりも短い第2の期間に切り替えることにより、レーダ装置の検査、又は調整をするための作業領域を縮小することができ、広い作業領域を確保する必要がなくなる。
【0035】
また、本発明の測定方法によれば、上述した本発明に係るレーダ装置と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るレーダ調整検査システム1の構成を示すブロック図である。レーダ調整検査システム1は、レーダ操作ツール10と、レーダ装置20とからなる。
【0037】
レーダ操作ツール10は、レーダ装置20の調整、又は検査をする作業者の操作に応じて、送信信号Ssの変化率を切り替える指示を示すモード切替信号Mk、基準方位角の調整を開始する指示を示す調整開始信号Tk、及び基準方位角の検査を開始する指示を示す検査開始信号Kkをレーダ装置20の外部からそれぞれ生成する。尚、基準方位角の詳細な説明については後述する。
【0038】
レーダ装置20は、送信信号生成部101と、送信部102と、受信部103と、測定部104とを備える。送信信号生成部101は、典型的には、VCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)などで構成され、予め定められた変化率で周波数が漸次増減する送信信号Ssを生成する。また、送信信号生成部101は、レーダ操作ツール10によって生成されるモード切替信号Mkを取得したとき、送信信号Ssの周波数を漸次増減させるときの変化率を、第1の変化率と第2の変化率との間で互いに変化させる。本実施形態における送信信号Ss、第1の変化率、第2の変化率、及び送信信号生成部101の処理などの詳細な説明についてはそれぞれ後述する。
【0039】
送信部102は、典型的にはアンテナであり、送信信号生成部101によって生成された送信信号Ssを電磁波として放射する。
【0040】
受信部103は、典型的には、少なくとも2つのアンテナからなり、送信部102から放射された電磁波が対象物で反射した反射波を反射信号Hsとして受信する。尚、受信部103は、複数のアンテナ素子からなるアレイアンテナであってもよい。
【0041】
測定部104は、典型的には、DSP(Digital Signal Processor)などの演算装置であり、受信部103によって受信された反射信号Hsと、送信信号生成部101によって生成される送信信号Ssとを、それぞれ図示しないADコンバータでデジタル信号へ変換して解析した結果に基づき、反射信号Hsを反射した対象物との相対距離、相対速度、及び当該対象物の存在する方向などを測定する。対象物との相対距離、相対速度、及び対象物の存在する方向などを測定すると、測定部104は、測定した結果を示す測定結果Skを生成する。また、測定部104は、レーダ操作ツール10によって生成される信号を取得し、取得した信号に応じて基準方位角の検査、及び調整のためのそれぞれの処理をする。測定部104の処理の詳細な説明は後述する。
【0042】
尚、以下の説明では、測定部104によって測定される対象物の存在する水平方向の角度を方位角と称する。本実施形態における方位角について、図2を参照しながらより詳細に説明する。図2は、車両に搭載されたレーダ装置20の周辺を鉛直方向に見下ろしたときの基準方位角(調整済)と、対象物の方位角θ1とを示す図である。
【0043】
本実施形態に係るレーダ装置20は、図2に示すように、送信信号生成部101、送信部102、受信部103、及び測定部104などが1つのケースに収められたものとして説明を続ける。また、送信部102の電磁波の放射面、及び受信部103の反射波の受信面は、レーダ装置20のケースの同一表面上に形成されているものとする。ただし、対象物の測定が可能であれば、送信信号生成部101、送信部102、受信部103、及び測定部104は1つのケースに収められていなくてもよいし、送信部102の放射面、及び受信部103の受信面は同一の平面上に形成されていなくてもよい。
【0044】
本実施形態に係るレーダ装置20は、図2に示すように、送信部102の放射面の垂線(放射面を通る垂線)が、車両の進行方向に対して予め定められた水平方向の角度θsとなるように取り付けられる。そして、本実施形態に係る測定部104は、図2に示すように、送信部102の放射面に対する垂線の方向を測定部104の基準方位角(0°)として予め定めておき、対象物が存在する方向の水平面に沿った基準方位角に対してなす角度を測定する。
【0045】
尚、レーダ装置20を車両に取り付けるときは、前述の角度θsがどのような角度となるように取り付けてもよい。また、測定部104の基準方位角は、送信部102の放射面に対する垂線の方向であってもよいし、当該放射面に対する他の角度の方向であってもよい。
【0046】
以上が、本実施形態に係るレーダ装置20の構成のそれぞれの説明である。次に、上述した測定部104の処理の内、対象物を測定するときの処理を説明する。本実施形態に係るレーダ装置20は、送信信号生成部101によって生成される送信信号Ssと、当該送信信号Ssが対象物で反射した反射信号Hsとを測定部104で処理して対象物との相対距離、及び相対速度を測定する。より具体的には、測定部104は、受信部103を構成する1つのアンテナで受信した反射信号Hsと、送信信号生成部101によって生成される送信信号SsとをFFT(Fast Fourier Transform)解析した結果に基づき、公知のFM−CW方式で対象物との相対距離、及び相対速度を測定する。
【0047】
対象物との相対距離、及び相対速度をそれぞれ測定すると、測定部104は、受信部103を2つのアンテナで受信した反射信号Hsの内、測定した相対距離で反射した反射信号HsをそれぞれFFT解析し、互いの反射信号Hsの振幅の差、或いは位相差などに基づいて前述の方位角を測定する。以上が、本実施形態に係る測定部104が対象物を測定するときの処理の説明である。尚、測定部104が方位角を測定するときの手法は、振幅の差、或いは位相差などに基づく任意の手法であってもよいし、その他の任意の手法であってもよい。
【0048】
次に、送信信号生成部101によって生成される送信信号Ssについて説明する。レーダ装置20は、測定部104で対象物の相対距離、相対速度、及び方位角を測定するための送信信号Ssを送信信号生成部101で生成する。図3は、一例として、対象物との相対距離、相対速度、及び方位角をそれぞれ測定するときにおいて、送信信号生成部101によって第1の変化率で生成される送信信号Ssの周波数と、受信部103によって受信された反射信号Hsの周波数とを時間の経過に沿って示す図である。図3では、送信信号生成部101によって生成された送信信号Ssを実線で示し、受信部103によって受信された反射信号Hsを破線で示している。
【0049】
図3に示されるように、送信信号生成部101によって第1の変化率で生成される送信信号Ssの周波数は、周波数f1から周波数f2まで予め定められた漸増期間で漸増し、周波数f2まで漸増すると、次に、周波数f2から周波数f1まで予め定められた漸減期間で漸減する。尚、周波数f1と周波数f2との周波数差は周波数差ΔFであり、送信信号Ssの漸増期間の長さと漸減期間の長さとは予め定められた互いに等しい期間Tである。つまり、送信信号生成部101によって第1の変化率で生成される送信信号Ssの周波数は、期間Tが経過する度に周波数差が予め定められた周波数差ΔFとなるように漸増と漸減とを繰り返す。
【0050】
尚、本実施形態では、送信信号Ssの周波数を漸次増減させるときの単位時間あたりの周波数の変化の大きさを変化率と称する。また、変化率は、周波数差ΔFを期間Tで除算した値に相当する。また、周波数f1、周波数f2、及び周波数差ΔFは、それぞれ送信信号生成部101に予め定められているものとする。以上が、送信信号生成部101によって生成される送信信号Ssの説明である。
【0051】
本実施形態に係る送信信号生成部101は、レーダ操作ツール10によって生成されたモード切替信号Mkを取得し、取得したモード切替信号Mkが第1の変化率から第2の変化率へ切り替える指示を示すとき、送信信号生成部101によって生成される送信信号Ssの変化率を、第1の変化率から当該第1の変化率よりも大きい第2の変化率へ切り替える。第1の変化率から第2の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkは、測定部104の基準方位角の調整、又は検査をそれぞれ開始する前に第2の変化率へ切り替えるとき、及び測定部104の基準方位角の調整、又は検査をそれぞれ終了して第1の変化率へ切り替えるときにそれぞれ前述の作業者によって操作されたレーダ操作ツール10によって生成される。
【0052】
つまり、本実施形態に係る送信信号生成部101は、レーダ装置20の検査、又は調整中でも特に測定部104の基準方位角の調整、及び検査をするときに、それぞれ第1の変化率よりも大きい第2の変化率で送信信号Ssを生成し、その他のときには、第1の変化率で送信信号Ssを生成する。本実施形態に係るレーダ装置20が、測定部104の基準方位角の調整、及び検査をするときにそれぞれ第1の変化率よりも大きい第2の変化率の送信信号Ssを送信信号生成部101で生成する理由を説明する。その前に、まず、測定部104の基準方位角の調整について説明する。
【0053】
レーダ装置20は、使用者(例えば、レーダ装置20が搭載された車両を購入し、購入した車両を使用することに伴って当該レーダ装置20を使用する者)によって実際に使用される前の生産工程において測定部104の基準方位角の調整を必要とする。この理由は、基準方位角の調整をする前の測定部104の基準方位角は、図2に示す基準方位角(調整未済)のように、必ずしも送信部102の放射面を通る垂線の方向と一致しない場合があるからである。そして、基準方位角の調整の済んでいない測定部104で対象物の方位角を測定すると、図2に示す基準方位角(調整未済)を基準とする測定部104によって測定される方位角θ2と、実際の対象物の方位角θ1との間に誤差が生じてしまう。このため、レーダ装置20は、測定部104の基準方位角の調整を必要とする。
【0054】
基準方位角の調整をするときは、車両に搭載されたレーダ装置20(送信部102の放射面)に対して、調整後の基準方位角と一致する方向に予め定められた相対距離でコーナーリフレクタ(調整、又は検査をするために用意される対象物)を設置する。そして、レーダ装置20を動作させ、動作を開始したレーダ装置20の測定部104によって生成される測定結果Skが示すコーナーリフレクタの方位角と、基準方位角とが一致するように測定部104の基準方位角を調節する。
【0055】
コーナーリフレクタの方位角と、測定部104の基準方位角とを一致させるときは、動作を開始したレーダ装置20の測定部104によって生成される測定結果Skをディスプレイなどの表示装置に表示させ、操作者が表示装置に表示される測定結果Skを確認しながら手動で調整して一致させてもよいし、レーダ操作ツール10によって調整開始信号Tkが生成されたときに、生成された調整開始信号Tkを測定部104が取得して自動的に一致させる処理をしてもよい。本実施形態では、測定部104が調整開始信号Tkを取得したときに、コーナーリフレクタの方位角と、基準方位角とを自動的に一致させる処理を開始する場合を一例として説明する。尚、操作者が手動で基準方位角を調整するときに測定結果Skを確認するための表示装置は、レーダ操作ツール10に備えられていてもよいし、レーダ操作ツール10と異なる装置であってもよい。レーダ操作ツール10に表示装置を備えるときは、レーダ操作ツール10が測定結果Skを取得する必要がある。
【0056】
尚、測定部104がコーナーリフレクタの方位角と、基準方位角とを自動的に一致させる手法には任意の手法を用いることができるが、一例としては、測定部104が測定結果Skによって示されるコーナーリフレクタの方位角と基準方位角との差を演算し、演算した差がゼロになるように基準方位角を調整するフィードバック処理をする手法が挙げられる。以上が、測定部104の基準方位角の調整の説明である。
【0057】
次に、測定部104の基準方位角の検査について説明する。測定部104の基準方位角の検査は、測定部104の基準方位角の調整をした後に、調整が正確に完了していることを確認するために必要とされる場合や、レーダ装置20が使用者に使用されてからある期間が経過したときに経年変化によって基準方位角がずれていないかを確認するために必要とされる場合などがある。
【0058】
基準方位角の検査をするときは、車両に搭載されたレーダ装置20(送信部102の放射面)に対して、調整後の基準方位角と一致する方向に予め定められた相対距離でコーナーリフレクタを設置する。そして、操作者は、レーダ装置20を動作させ、動作を開始したレーダ装置20の測定部104によって生成される測定結果Skをディスプレイなどの表示装置に表示させ、操作者が表示装置に表示される測定結果Skを確認することによりコーナーリフレクタの方位角と、基準方位角との差が予め定められた範囲以内であるか否かを判断する。つまり、基準方位角の検査をするときの測定部104は、操作者によって操作されたレーダ操作ツール10によって生成された検査開始信号Ksを取得すると、測定結果Skを生成する処理のみをする。以上が、測定部104の基準方位角の検査の説明である。
【0059】
ところで、本実施形態に係る測定部104は、上述したように受信部103の少なくとも2つのアンテナで受信した反射信号Hsの内、測定した相対距離で反射した反射信号Hsに基づいて方位角を測定する。つまり、測定部104が対象物の方位角を測定するには、基準方位角を調整、又は検査するとき(コーナーリフレクタの方位角を測定するとき)も含めて、対象物との相対距離が測定可能な位置に対象物(コーナーリフレクタ)が存在しなければならない。対象物との相対距離が測定可能な位置とは、FM−CW方式で相対距離を測定するときの最短測定距離以上、且つ最長測定距離以下の測定範囲以内の相対距離である。
【0060】
そして、測定部104の基準方位角を調整、又は検査するための作業領域は、より狭い方が、広い作業領域を確保する必要がなくなるため、好ましい。したがって、測定部104の基準方位角を調整、又は検査するときは、測定部104の最短測定距離を、実際に使用者によって使用されるときよりも短縮した上で、レーダ装置20とコーナーリフレクタとの相対距離を測定部104の最短測定距離と略等しくする。FM−CW方式で相対距離を測定するときの最短測定距離とは、以下の数式(1)で示されるFM−CW方式における距離分解能Kbに等しい。
【0061】
【数1】

【0062】
数式(1)において、Tは前述の期間T、Fsは反射信号Hsをデジタル信号へ変換してFFT解析するときのサンプリング周波数、cは光速、FnはFFT点数、ΔFは前述の周波数差ΔFである。FFT点数Fnとは、ある時間長さを通じて受信した反射信号Hsを仮に1つのグループとしたときにFFT解析の対象となるグループの数である。数式(1)から明らかなように、最短測定距離(距離分解能Kb)は、期間Tに比例し、周波数差ΔFに反比例する。したがって、測定部104の基準方位角を調整、又は検査するときには、期間Tを短くし、周波数差ΔFを大きくすることにより、距離分解能Kb、すなわち、最短測定距離を短くすることができ、基準方位角を調整するために広い作業領域を確保する必要がなくなる。
【0063】
上述したように、変化率とは、周波数差ΔFを期間Tで除算した値に相当するため、期間Tを短くし、周波数差ΔFを大きくすることにより最短測定距離を短くするということは、送信信号Ssの周波数の変化率を大きくするということである。これが、本実施形態に係るレーダ装置20が、測定部104の基準方位角の調整、又は検査をするときに、送信信号生成部101において第1の変化率よりも大きい第2の変化率で送信信号Ssを生成する理由である。
【0064】
次に、測定部104の基準方位角の調整、又は検査をするための送信信号生成部101の処理、及び測定部104の処理について説明する。まず始めに、作業者が、レーダ装置20に電源を投入して作動させると、送信信号生成部101は、第1の変化率で送信信号Ssの生成を開始する。
【0065】
次に、作業者が、測定部104の基準方位角の調整、又は検査をするためにレーダ操作ツール10を操作して第1の変化率から第2の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを生成させる。レーダ操作ツール10によって第1の変化率から第2の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkが生成されると、送信信号生成部101は生成されたモード切替信号Mkを取得して、送信信号Ssの変化率を第1の変化率よりも大きい第2の変化率に切り替える。
【0066】
送信信号生成部101は、第1の変化率から第2の変化率に切り替えるとき、送信信号Ssの周波数の変化率が第2の変化率となるように、第1の変化率で送信信号Ssを生成するときの周波数差ΔFを広くし、さらに、期間Tを短縮する。
【0067】
図4は、送信信号生成部101によって第2の変化率で生成された送信信号Ssと、受信部103によって受信される反射信号Hsとの周波数をそれぞれ時間の経過に沿って示す図である。図4に示す送信信号Ssは、図3に示す送信信号Ssと比較して、送信信号生成部101により、期間Tを期間T2に短縮され、周波数差ΔFの中心を基準として周波数差ΔFを周波数差ΔF2に広げられ、変化率が大きくなるように生成されている。尚、送信信号生成部101が第2の変化率で送信信号Ssを生成するときの周波数f3、周波数f4、及び周波数差ΔF2、及び期間T2の値はそれぞれ送信信号生成部101に予め定めるものとする。
【0068】
図4に示す一例では、送信信号生成部101がモード切替信号Mkを取得したときに、送信信号Ssの周波数差ΔFを、周波数差ΔFの中心周波数を基準として、1.5ΔFの周波数差ΔF2に広げ、期間Tを0.5Tの期間T2に短縮している。図4に示すように、周波数差ΔFを1.5倍に広げ、期間Tを0.5倍に短縮すると、上記数式(1)より、距離分解能Kb、すなわち、最短測定距離を3分の1に縮小することができる。
【0069】
送信信号生成部101がモード切替信号Mkを取得し、第2の変化率で送信信号Ssの生成を開始した後、作業者は、測定部104に基準方位角の調整を自動的にさせるため、レーダ操作ツール10を操作して調整開始信号Tkを生成させる。レーダ操作ツール10によって調整開始信号Tkが生成され、生成された調整開始信号Tkを取得した測定部104は、上述したように予め定められた位置に設置されたコーナーリフレクタの方位角の測定結果と基準方位角とを比較しながら、互いの方位角が一致するように基準方位角を自動的に調整する処理をする。
【0070】
尚、本実施形態では、測定部104が基準方位角を自動的に調整した後、作業者が送信部102の放射面の上下方向の角度の調整を手動でしてもよい。作業者が送信部102の放射面の上下方向の角度を調整する理由は、放射した電磁波が路面、及び看板などで反射した反射波を受信することによって測定部104の測定結果に生じる影響を低減するためである。作業者が、レーダ装置20を手動で動かして、送信部102の放射面の上下方向の角度を調整するときは、測定部104によって生成される測定結果Skを表示装置に表示させ、表示装置に表示された測定結果Skを確認しながら調整する。
【0071】
一方、送信信号生成部101がモード切替信号Mkを取得し、第2の変化率で送信信号Ssの生成を開始した後、作業者は、測定部104の基準方位角の検査をするため、レーダ操作ツール10を操作して検査開始信号Kkを生成させる。レーダ操作ツール10によって検査開始信号Kkが生成され、生成された検査開始信号Kkを取得した測定部104は、コーナーリフレクタの方位角と基準方位角とをそれぞれ示す測定結果Skを生成する。作業者が、測定部104の基準方位角の検査をするときは、測定部104によって生成される測定結果Skを表示装置に表示させ、表示装置に表示された測定結果Skを視認して基準方位角とコーナーリフレクタの方位角とが予め定められた範囲以内であるか否かを確認する。
【0072】
測定部104が基準方位角の調整を完了する、又は作業者が基準方位角の検査を完了すると、作業者は、再びレーダ操作ツール10を操作し、第2の変化率から第1の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkをレーダ操作ツール10に生成させる。
【0073】
第2の変化率から第1の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを取得すると、送信信号生成部101は、送信信号Ssの変化率を第1の変化率に戻す。尚、基準方位角の調整、又は検査をする作業者は、測定部104が基準方位角の調整、又は検査を完了したときに、送信信号Ssの変化率を第1の変化率へ戻すことなく、レーダ装置20の電源を即座にオフにして停止させてもよい。以上が、作業者が基準方位角の調整、又は検査をするための送信信号生成部101の処理、及び測定部104の処理の説明である。
【0074】
本実施形態に係るレーダ装置20によれば、測定部104の基準方位角の調整をするときに送信信号生成部101が送信信号Ssの周波数の変化率を大きくして最短測定距離を短縮する、すなわち、距離分解能Kbの値を小さくすることにより、基準方位角の調整のために広い作業領域を確保する必要をなくすことができ、限られた作業領域を有効に利用することができる。
【0075】
また、本実施形態に係るレーダ装置20によれば、最短測定距離、すなわち、上述した距離分解能Kbの値を小さくすることにより、測定結果Skによって示されるコーナーリフレクタの周囲に存在する対象物の方位角とコーナーリフレクタの方位角とが、互いにより明瞭になる。このため、本実施形態に係るレーダ装置20によれば、作業領域を縮小できるだけでなく、基準方位角を調整するときの精度をより高めることができる。
【0076】
また、周期的に互いに異なる変化率で常に送信信号を生成する従来のレーダ装置の基準方位角の調整を狭い作業領域でするときには、相対的に小さい変化率で送信信号を生成している期間で得られた測定結果を無視しなければならないため、基準方位角の調整に必要な期間を短縮することができない。これに対して、本実施形態に係るレーダ装置20によれば、基準方位角の調整をしているときは、常に相対的に大きい変化率で送信信号を生成することにより、従来のレーダ装置のように無視するべき測定結果が得られる期間が生じないため、短時間で基準方位角の調整をすることができる。
【0077】
次に、本実施形態に係るレーダ装置20の処理を図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。尚、図5に示すフローチャートの処理は、基準方位角の調整、又は検査をする作業者によってレーダ装置20に電源が投入され、動作を開始した時点からレーダ装置1によって実行されるものとする。
【0078】
ステップS101において、レーダ装置20は、送信信号生成部101において第1の変化率で送信信号Ssを生成すると共に、対象物の相対位置を測定部104で測定をする。レーダ装置20は、ステップS101の処理を完了すると、ステップS102へ処理を進める。
【0079】
ステップS102において、レーダ装置20は、第1の変化率から第2の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを取得したか否かを送信信号生成部101で判断する。ステップS102において、レーダ装置20は、第1の変化率から第2の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを取得したと判断したとき、ステップS103へ処理を進める。一方、レーダ装置20は、ステップS102において、第1の変化率から第2の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを取得していないと送信信号生成部101で判断したとき、ステップS101の処理を繰り返す。
【0080】
ステップS103において、レーダ装置20は、送信信号生成部101で生成される送信信号Ssの変化率を第1の変化率から第2の変化率に切り替える。レーダ装置20は、ステップS103の処理を完了すると、ステップS104へ処理を進める。
【0081】
ステップS104において、レーダ装置20は、レーダ操作ツール10によって生成される調整開始信号Tkを取得したか否かを測定部104で判断する。レーダ装置20は、ステップS104において、調整開始信号Tkを取得したと測定部104で判断したとき、ステップS105へ処理を進める。一方、レーダ装置20は、ステップS104において、調整開始信号Tkを取得していないと測定部104で判断したとき、ステップS107へ処理を進める。
【0082】
ステップS105において、レーダ装置20は、測定部104で自動的に基準方位角を調整する。レーダ装置20は、ステップS105の処理を完了すると、ステップS106へ処理を進める。
【0083】
ステップS106において、レーダ装置20は、第2の変化率から第1の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを取得したか否かを送信信号生成部101で判断する。レーダ装置20は、ステップS106において、第2の変化率から第1の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを取得した送信信号生成部101で判断したとき、ステップS109へ処理を進める。一方、レーダ装置20は、ステップS106において、第2の変化率から第1の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを取得していないと送信信号生成部101で判断したとき、ステップS106の処理を繰り返す。
【0084】
尚、レーダ装置20が、ステップS105の処理を完了した後、ステップS106において、第2の変化率から第1の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを取得していないと送信信号生成部101で判断されるときとしては、上述したように、測定部104による基準方位角の測定が完了した後、作業者が送信部102の放射面の上下方向の角度を手動で調整しているときが一例として挙げられる。
【0085】
ステップS107において、レーダ装置20は、検査開始信号Ksを取得したか否かを測定部104で判断する。レーダ装置20は、ステップS107において、検査開始信号Ksを取得したと測定部104で判断したとき、ステップS108へ処理を進める。一方、レーダ装置20は、ステップS107において、検査開始信号Ksを取得していないと測定部104で判断したとき、ステップS104へ処理を戻す。
【0086】
ステップS108において、レーダ装置20は、第2の変化率から第1の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを取得したか否かを送信信号生成部101で判断する。レーダ装置20は、ステップS108において、第2の変化率から第1の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを取得したと送信信号生成部101で判断したとき、ステップS109へ処理を進める。一方、レーダ装置20は、ステップS108において、第2の変化率から第1の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを取得していないと送信信号生成部101で判断したとき、ステップS108の処理を繰り返す。
【0087】
尚、ステップS108において、レーダ装置20が、第2の変化率から第1の変化率へ切り替える指示を示すモード切替信号Mkを取得していないと送信信号生成部101で判断するときとしては、上述したように、検査開始信号Kkを測定部104で取得してから、測定部104によって生成される測定結果Skを作業者が視認して検査しているときが一例として挙げられる。
【0088】
ステップS109において、レーダ装置20は、送信信号生成部101で生成される送信信号Ssの変化率を第1の変化率へ戻す。レーダ装置20は、ステップS109の処理を完了すると、図5のフローチャートに示す処理を終了する。以上が、本実施形態に係るレーダ装置20の処理のフローチャートの説明である。
【0089】
尚、送信信号生成部101が送信信号Ssを生成するときの第1の変化率を第2の変化率へ切り替えて変化率を大きくするときは、周波数差ΔF、及び期間Tの両方を変化させるものとした。しかしながら、図3、及び図4から明らかなように、送信信号Ssの変化率は、周波数差ΔFを変化させずに期間Tのみを短くしても大きくなるし、期間Tを変化させずに周波数差ΔFのみを広くしても大きくなる。したがって、送信信号生成部101は、送信信号Ssを生成するときの第1の変化率を第2の変化率へ切り替えるときは、期間T、及び周波数差ΔFのいずれか一方のみを変化させて変化率を大きくしてもよい。
【0090】
また、送信信号生成部101が送信信号Ssを生成するときの第1の変化率を第2の変化率へ切り替えて変化率を大きくするということは、図3、及び図4から明らかなように、予め定められた期間T、及び予め定められた周波数差ΔFで周期的に増減する送信信号Ssの期間Tに対する周波数差ΔFの比を大きくすることに相当する。そして、第1の実施形態では、測定部104がFM−CW方式で相対距離、及び相対速度を測定する場合を一例として説明したが、本発明は、予め定められた期間、及び周波数差で周期的に変化する送信信号Ssを生成し、且つ、当該送信信号Ssと反射信号Hsとに基づき対象物との相対距離、及び相対速度を測定するのであれば他の方式で測定をする測定部を有するレーダ装置にも適用可能である。
【0091】
そして、本発明を適用することが可能な他の方式としては、2周波CW方式が一例として挙げられる。2周波CW方式では、図6に示すように、予め定められた期間T3、及び予め定められた周波数差ΔF3で周期的に増減する送信信号Ssを生成し、当該送信信号Ssと反射信号Hsとに基づいて対象物との相対距離、及び相対速度をそれぞれ測定する。そして、2周波CW方式における最短測定距離は、以下の数式(2)で示される距離分解能Δdに等しい。
【0092】
【数2】

【0093】
数式(2)において、Δφは検出可能な位相差の最小値、cは光速、ΔFは図6に示す周波数差ΔF3である。そして、数式(2)、及び図6から明らかなように期間T3を変化させることなく、周波数差ΔF3を広くして、期間T3に対する周波数差の比を大きくすることによって最短測定距離が短くなるため、上述で説明したFM−CW方式の場合と同様に、測定部の基準方位角の調整、又は検査のために広い作業領域を確保する必要がなくなる。
【0094】
尚、上述したレーダ装置20では、記憶装置(ROM、RAM、ハードディスク等)に格納された上述した処理手順を実施可能な所定のプログラムデータを、DSP、CPU或いはマイクロコンピュータなどで解釈実行することにより、図1に示す送信部102、及び受信部103以外の構成をそれぞれ実現してもよい。CPUとは、自動車などの移動体に搭載されるECU(Electric Control Unit)を構成するCPUなどであってもよい。また、この場合、プログラムデータは、記憶媒体を介して記憶装置内に導入されてもよいし、記憶媒体上から直接実行されてもよい。尚、記憶媒体とは、ROMやRAMやフラッシュメモリなどの半導体メモリ、フレキシブルディスクやハードディスクなどの磁気ディスクメモリ、CD−ROMやDVDやBDなどの光ディスクメモリ、及びメモリカードなどであってもよい。また、上述したレーダ装置20の各構成は、1以上、或いは全てが電子回路、CPU、及びマイクロコンピュータなどで実現されてもよい。
【0095】
また、上述した測定部104は、受信部103で受信された反射信号Hsを上述したように図示しないADコンバータでデジタル信号へ変換してから上述した処理をしてもよいし、可能であればアナログ信号のまま上述した処理をしてもよい。
【0096】
また、第1の実施形態では、コーナーリフレクタを最短測定距離と略同じ相対距離に設置するものとしたが、コーナーリフレクタで反射した反射信号Hsが受ける雑音の影響を考慮した相対距離に当該コーナーリフレクタを設置してもよい。このときに考慮する雑音の一例としては、レーダ装置20との相対距離が遠くなるにしたがって、レベルが減少する特性の雑音が挙げられる。
【0097】
また、第1の実施形態に係るレーダ操作ツール10は、車両に搭載されたレーダ装置20の測定部104の調整、又は検査のための設備、或いは当該設備に備えられたツールであってもよいし、作業者が持ち運ぶことが可能なツールであってもよい。
【0098】
また、第1の実施形態では、レーダ装置20が測定部104で対象物の存在する水平方向の角度を方位角として測定する場合を一例として説明したが、対象物の存在する垂直方向の角度を方位角として測定する場合にも本発明が適用できることは言うまでもない。
【0099】
以上、本発明を詳細に説明してきたが、上述の説明はあらゆる点において本発明の一例にすぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば、広い作業領域を確保することなくレーダ装置の検査、又は調整をすることができ、例えば、車両に搭載され、検査、又は調整を必要とするレーダ装置などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】第1の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示す機能ブロック図
【図2】第1の実施形態における基準方位角の一例を説明する図
【図3】第1の実施形態における送信信号の一例を示す図
【図4】第1の実施形態における送信信号の一例を示す図
【図5】第1の実施形態に係るレーダ装置の処理を示すフローチャート
【図6】送信信号の他の一例を示す図
【符号の説明】
【0102】
1 レーダ調整検査システム
10 レーダ操作ツール
20 レーダ装置
101 送信信号生成部
102 送信部
103 受信部
104 測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を測定するレーダ装置であって、
予め定められた期間、及び予め定められた周波数差で周期的に増減する周波数で送信信号を生成して放射する送信信号生成手段と、
外部から与えられる前記レーダ装置の検査、又は調整をする指示に応じて、前記送信信号生成手段にそれぞれ予め定められた前記期間、及び前記周波数差の少なくともいずれか一方を切り替えることにより、前記期間に対する前記周波数差の比を大きくする切り替え手段と、
前記送信信号生成手段によって放射された前記送信信号が前記対象物で反射した反射信号を受信する受信手段と、
前記送信信号生成手段によって放射された前記送信信号と、前記受信手段によって受信された前記反射信号とに基づき、前記方向をそれぞれ測定する測定手段とを備える、レーダ装置。
【請求項2】
前記切り替え手段は、前記レーダ装置を制御するための設備から与えられる前記指示に応じて、前記期間、及び前記周波数差の少なくともいずれか一方を切り替える、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記測定手段は、予め定められた基準に対する前記方向を測定し、
前記切り替え手段は、前記レーダ装置の検査、又は調整をする指示として前記基準を検査、又は調整する指示に応じて、前記期間に対する前記周波数差の比を大きくする、請求項1乃至2のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記測定手段は、前記対象物の存在する方向の水平面に沿った角度の基準となる水平方向基準が前記基準として予め定められており、
前記切り替え手段は、前記レーダ装置の検査、又は調整をする指示として前記水平方向基準を検査、又は調整する指示に応じて、前記期間に対する前記周波数差の比を大きくする、請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記測定手段は、前記対象物の存在する方向の垂直面に沿った角度に対する垂直方向基準が前記基準として予め定められており、
前記切り替え手段は、前記レーダ装置の検査、又は調整をする指示として前記垂直方向基準を検査、又は調整する指示に応じて、前記期間に対する前記周波数差の比を大きくする、請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記測定手段は、前記基準の調整をする指示を与えられたとき、当該基準を調整するために設置された調整対象物の前記方向の測定結果に当該基準を一致させる調整手段を含む、請求項3乃至5のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記測定手段は、前記基準の調整をする指示を与えられたとき、当該基準を調整するために設置された調整対象物の前記方向の測定結果と当該基準とをそれぞれ示す情報を生成する調整情報生成手段を含む、請求項3乃至5のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記測定手段は、前記基準の検査をする指示を与えられたとき、当該基準を検査するために設置された調整対象物の前記方向の測定結果と当該基準とをそれぞれ示す情報を生成する検査情報生成手段を含む、請求項3乃至5のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記送信信号生成手段には、第1の周波数差と、当該第1の周波数差よりも大きい第2の周波数差とが前記周波数差としてそれぞれ予め定められており、
前記切り替え手段は、外部から与えられる指示に応じて、前記送信信号生成手段に予め定められた前記周波数差を前記第1の周波数差から前記第2の周波数差へ切り替えることにより、前記期間に対する前記周波数差の比を大きくする、請求項1乃至8のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記送信信号生成手段には、第1の期間と、当該第1の期間よりも短い第2の期間とが前記期間としてそれぞれ予め定められており、
前記切り替え手段は、外部から与えられる指示に応じて、前記送信信号生成手段に予め定められた前記期間を前記第1の期間から前記第2の期間へ切り替えることにより、前記期間に対する前記周波数差の比を大きくする、請求項1乃至8のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記送信信号生成手段には、前記周波数差として、第1の周波数差と、当該第1の周波数差よりも大きい第2の周波数差とがそれぞれ予め定められており、前記期間として、第1の期間と、当該第1の期間よりも短い第2の期間とがそれぞれ予め定められており、
前記切り替え手段は、外部から与えられる指示に応じて、前記送信信号生成手段に予め定められた前記周波数差を前記第1の周波数差から前記第2の周波数差へ切り替え、前記期間を前記第1の期間から前記第2の期間へ切り替えることにより、前記期間に対する前記周波数差の比を大きくする、請求項1乃至8のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【請求項12】
対象物を測定するレーダ装置において実行される測定方法であって、
予め定められた期間、及び予め定められた周波数差で周期的に増減する周波数で送信信号を生成して送信する送信信号生成ステップと、
外部から与えられる前記レーダ装置の検査、又は調整をする指示に応じて、前記送信信号生成ステップにおいて生成される送信信号の前記期間、及び前記周波数差の少なくともいずれか一方を切り替えることにより、前記期間に対する前記周波数差の比を大きくする切り替えステップと、
前記送信信号生成ステップにおいて送信された前記送信信号が前記対象物で反射した反射信号を受信する受信ステップと、
前記送信信号生成ステップにおいて送信された前記送信信号と、前記受信ステップにおいて受信された前記反射信号とに基づき、前記対象物との相対距離、前記対象物との相対速度、及び前記方向をそれぞれ測定する測定ステップとを備える、測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−48778(P2010−48778A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215770(P2008−215770)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】