説明

レーダ装置及びそれを用いた電波到来方向の計測方法

【課題】レーダの検出視野内に複数の物体が存在し、それらによる反射波のドップラー周波数が同一となる状況でも、各ターゲットの方位を精度良く求めることが可能なレーダ装置を提供する。
【解決手段】レーダで観測されるドップラー信号を、同一のドップラー周波数を発生させるターゲットごとに分類し、レーダとターゲットとの相対的な位置関係が異なる時刻の反射波のデータを平均化した相関行列を作成し、前記相関行列を用いてレーダ受信器の受信強度パターンの方位角依存性を変化させることによって、ターゲットの方位を計測するレーダ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置及びそれを用いた電波到来方向の計測方法に係り、特に、連続的な電波を用いて障害物の方位を高精度に計測する車載レーダ装置に適したレーダ装置及びそれを用いた電波到来方向の計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置において、検知ターゲットの方位角を計測する方式はいくつかある。例えば、電波の照射方向を水平方向に走査するスキャン方式や、複数のアンテナで受信された信号の差異を利用するモノパルス方式がある。また近年ではMUSICやESPRITなどの到来方向推定手法(非特許文献1)が注目されている。これらの手法を車載レーダに応用する場合、受信波の全周波数の信号にMUSICやESPRITを行うのではなく、受信信号にFFTを施して得られたスペクトル上の周波数ピークを形成する信号のみに対して実施することで、演算量を削減するとともに、計測したいターゲット以外からの反射波の影響を除外している(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献2には、受信信号から相関行列を作成し、到来方位の組み合わせを探索する方位測定方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、MUSIC方式等に適用される到来波数の推定技術であって、複数のアンテナで受信された受信信号から作成した相関行列の固有値を正規化し、信号と雑音を区別するための閾値を設定し、この閾値より大きい固有値の数を到来波の数と推定するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−40806号公報
【特許文献2】特許第2630200号公報
【特許文献3】特開2006−153579号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】オーム社、菊間信良著「アダプティブアンテナ技術」、2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車で走行時に障害物や前方走行車両までの距離や方位角を計測するために、ミリ波を利用したレーダ装置が広く利用されている。レーダ装置は電波を放射し、障害物や前方走行車両などの物体による反射波を受信する。そして、受信した反射波の強弱、周波数のドップラーシフト、電波の発射から反射波の受信までの伝搬時間などを検出し、その結果から物体までの距離や方位角、相対速度などを計測する。近年では、このようなレーダ装置を自動車に搭載し、障害物や先行車両を検出し、その結果に基づいて運転制御をおこなう定速走行装置や車間距離制御装置が開発、実用化されている。
【0008】
MUSICやESPRITは高分解能な方位角の計測を可能とするが、ターゲットが複数存在しそれらによる反射波のドップラー周波数が同一となる場合、すなわち複数の反射波の相関が強い状態ではそのまま適用できない。このような状況では、MUSICやESPRITを利用する前に、例えば空間平均法を利用して相関を下げる必要がある。しかしながら、空間平均法を利用するにはアンテナ素子数を増やさなければならないという欠点がある。例えば、ターゲットがM個あって、それらによる反射波の間に相関が無い場合は(M+1)素子以上のアンテナでMUSICやESPRITを用いて方位角を計測できるが、相関が強い場合は2M素子以上必要になる。上記特許文献1、3や非特許文献1の発明は、このようなアンテナ素子数の増加という課題に対しての配慮がなされていない。
【0009】
一方、特許文献2には、アンテナ素子数を増大させずに、高分解能な方位角計測を実現できると記載されている。
【0010】
本願の発明者等は、特許文献2に記載の発明について、独自の解釈、検討により、その技術的な課題を見出した。すなわち、特許文献2に開示された方式では、ターゲットの存在を正確に検知できない場合がある。
【0011】
まず、特許文献2に記載の発明について、その原理の解釈の一例を、図19の参考図を用いて説明する。
【0012】
図19は、複数(K個)のアンテナ素子を備えたレーダの受信器である。3方向から到来する電波1の方位角を計測する状況を例にとり説明する。K個のアンテナ2で受信されたアナログ信号はA/D変換機3によりデジタル信号に変換され、その後信号処理部4で演算が行われる。ここで各チャンネルから得られた信号に対して振幅と位相の重み付け制御を行い合成することで、受信器の受信強度の方位角依存性を変化させることができる。図19の受信強度パターン5はその一例として、電波の到来方向の受信感度をゼロにした受信強度パターンを示している。この受信感度ゼロの方向をヌルと呼び、一般にK個のアンテナを有する受信器では最大で(K−1)個のヌルを生成することができる。図19の様にヌルを電波の到来方向に向けた場合、合成信号電力はゼロとなる。見方を変えてヌルを様々な方向に走査して、合成信号電力がゼロとなる条件を探すことで電波の到来方向を計測できる。
【0013】
本発明は、このような、ヌルを様々な方向に走査して合成信号電力がゼロとなる条件を探すことで電波の到来方向を計測する方式に関するものである。
【0014】
以下、特許文献2に開示された、合成信号電力の探索技術について述べる。図19を用いて説明した手法では、合成信号電力がゼロとなる条件を探索する。しかしここで生じる疑問は、合成信号電力がゼロとなるのが、ヌルを電波の到来方向に向けた時だけかという解の一意性に関する問題である。
【0015】
実際にはこの解が一意に決定できるとは限らない。これを、図20を用いて説明する。図20に示した受信強度パターン6は、ヌル1個が電波1(B)の到来方向を向いているが、残りのヌル2個は電波1(A)、1(C)の方向に向いていない。このときの合成信号は、電波1(A)、1(C)の信号を含んでいる。ところで、図19、図20に示した受信強度パターンは強度のみを表しているが実際には複素位相情報も持っている。図20において、合成信号に含まれている電波1(A)、1(C)の信号の強度が等しく、さらに位相が180度ずれている場合は、2つの信号が相殺して合成信号電力がゼロになる可能性がある。この時、ヌルが電波の到来方向を向いているという誤った判断をして、ヌルの向いている方向を出力すると、誤った角度計測結果を出力することになる。
【0016】
本発明は、上記特許文献2に記載の発明に内在する技術的な課題を解消するためになされたものである。
【0017】
すなわち、本発明の目的は、ヌルが反射波の到来方向と一致していない場合に合成信号電力がゼロになってしまうのを防ぎ、それにより誤った方位角計測結果を出力しないレーダ装置及びそれを用いた電波到来方向の計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。即ち、本発明のレーダ装置は、アンテナユニットと信号処理部を備え、送信された電波がターゲットで反射して戻ってくる電波を受信信号として受信し、信号処理に基づいて前記ターゲットの方位を計測するものであって、前記アンテナユニットは、アレイ状に配置された複数の受信アンテナを有し、前記ターゲットと該レーダ装置との相対的な位置関係が時間の経過とともに変化する状態で前記受信信号を受信し得る機能を備えており、前記信号処理部は、前記複数の受信アンテナで受信された信号を受信順に並べた信号行列を作成する信号行列作成処理部と、前記信号行列から相関行列を演算する相関行列演算処理部と、前記相関行列からターゲットの個数を推定するターゲット個数推定処理部と、前記相関行列に、重みベクトルを掛け算することにより、受信利得をゼロまたは小さくした方位角をスキャンしながら合成信号電力を計算する合成信号電力演算処理部と、前記合成信号電力をゼロまたは最小とする重みベクトルを用いたときに前記受信利得がゼロまたは小さくなっている方位角を演算し、前記ターゲットの方位角を計測する合成信号電力最小探索処理部を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ドップラー周波数が同一となるM個のターゲットによる反射波が存在する状況においても、(M+1)素子の受信アンテナを有するレーダを用いてそれぞれの方位角を安定して計測することが可能となる。
これによりアンテナ素子数の増大を抑えられるため、少ない部品点数で正確かつ高分解能な方位角計測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施例になるレーダ装置の構成を示すブロック図。
【図2】第1の実施例のレーダ装置において、2周波CW方式を採用した送信周波数パターンを示す図。
【図3】第1の実施例において、レーダ搭載車両と検知したい前方走行車両の位置関係の一例を示す図。
【図4A】図3に示した位置関係が、時間の経過とともにわずかに変動することを示す図。
【図4B】図3に示した位置関係が、時間の経過とともにわずかに変動することを示す図。
【図5】本発明の第1の実施例におる、信号処理部の処理内容を示すフローチャート。
【図6】図3のシーンで計測される周波数スペクトルの例を示す図。
【図7】第1の実施例の信号処理部で、相関行列RXXからサブ相関行列SXXを抽出する1例を示す図。
【図8A】第1の実施例の信号処理部で実行される、受信信号X1,X2,X3を信号処理して、方位角θ1方向の利得をゼロにした2つの受信強度パターンを生成する処理を説明する図。
【図8B】第1の実施例の信号処理部で実行される、受信信号X1,X2,X3を信号処理して、方位角θ1,θ2方向の利得をゼロにした1つの受信強度パターンを生成する処理を説明する図。
【図9A】本発明の比較例として、相関行列を利用した平均処理を実施しない場合の、図3のシーンに対するレーダ出力結果を示す図。
【図9B】本発明における相関行列を利用した平均処理を実施した場合の、図3のシーンに対するレーダ出力結果を示す図。
【図10】図3の状態からさらに走行車両が1台増えた場合を想定した、レーダ搭載車両と検知したい前方走行車両の位置関係の一例を示す図。
【図11】図10のシーンで計測される周波数スペクトルの例を示す図。
【図12】第1の実施例における、ターゲット分類処理部の処理内容を示すフローチャート。
【図13】図12のターゲット分類処理の対象として、時間の経過によって同一ターゲット群による反射信号のドップラー周波数がわずかに異なる例を示す図。
【図14A】図12のターゲット分類処理の対象として、時間の経過によって同一ターゲット群による反射信号から計測された距離値がわずかに異なる例を示す図。
【図14B】図12のターゲット分類処理の対象として、時間の経過によって同一ターゲット群による反射信号から計測された速度の値がわずかに異なる例を示す図。
【図15】図10のシーンに対する計測結果の例を示す図。
【図16】本発明の第2の実施例のレーダ装置の構成を示すブロック図。
【図17】本発明の第3の実施例のレーダ装置の構成を示すブロック図。
【図18】第3の実施例における信号処理部の処理内容を示すフローチャート。
【図19】特許文献2の発明についての本願の発明者等の解釈に基く、信号処理により電波の到来方向全ての利得をゼロにした受信強度パターンを示す参考図。
【図20】特許文献2の発明の課題を説明するための、信号処理により到来電波の1つの方向の利得をゼロにした受信強度パターンを示す参考図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
車載レーダの利用シーンを考えると、レーダ搭載車両と検知したいターゲットのどちらか一方、または両方が動いている場合が多い。そこで本発明では、レーダとターゲットの位置関係が時々刻々変化することを利用する。この位置関係の変化は例えば数cm程度あれば十分である。
【0022】
図20を用いて説明した誤計測が起こるか否かは、レーダからターゲットまでの距離や角度に依存する。しかし適当な距離範囲あるいは角度範囲で得られた受信信号を平均処理して使用すれば、上記のような誤計測は発生しなくなる。その原理は後の実施例にて説明する。本発明では、上記の平均処理を実施するために、所定の計測時間内に得られた受信信号を受信時刻に沿って並べた行列(以下、信号行列と呼ぶ)を作成し、その共分散行列(以下、相関行列と呼ぶ)を利用する。ここで所定の計測時間とは、例えば数十ミリ秒オーダーの時間である。
【0023】
受信信号すべてをそのまま時間的に並べてその相関行列を作ってしまうと、計測したい「ターゲット群」以外からの反射信号も混入してしまうため方位角計測性能が劣化する。ここで「ターゲット群」と呼んだ理由は、1つのドップラー信号を与えるターゲットが、単一かもしれないし、複数であるかもしれないからである。方位角を計測したいドップラー信号ごと個別に相関行列を作成することが有効である。しかし、レーダとターゲットの位置関係または相対速度関係が時々刻々変化する状況では、計測されるドップラー周波数も時々刻々変化するため、どの周波数の信号を同一のターゲット群からの反射信号として扱うかが重要である。
【0024】
本発明では、レーダ装置のターゲット信号分類処理部において、連続する時刻の計測でドップラー周波数、距離、速度の少なくとも1つ以上が近接している信号を同一ターゲット群からの信号とみなす分類を実施し、信号行列作成処理部でそのターゲット群ごとに信号行列Xを作成する。
【0025】
続いて、相関行列演算処理部で上記の信号行列の共分散行列を演算して相関行列RXXを作成する。
次に、ターゲット個数推定処理部でこの信号が何個のターゲットによる反射波を含んでいるかを計算する。
前記ターゲット個数推定処理部での結果がL個であったとすると、サブ相関行列抽出処理部11では前記相関行列から(L+1)行(L+1)列のサブ相関行列SXXを抽出する。
次に合成信号電力演算処理部で、上記サブ相関行列SXXに方位角θをパラメータに持つ重みベクトルを掛け算することで合成信号Yを計算し、それを2乗した合成信号電力(式1)を様々なθの組み合わせについて計算する。
【0026】
【数1】

【0027】
最後に、合成信号電力最小探索処理部で上記の合成受信電力(式1)を最小にする重みベクトルを与えたθを探索し、その値をターゲットの位置する方位角情報として出力する。
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0029】
以下、本発明の第一の実施形態を、図1〜図15を用いて説明する。
本実施例では、ターゲットまでの距離、速度を計測するために、2周波CW方式を採用したレーダ装置を例に取り説明するが、FMCW方式でも同じ効果を得ることができる。なおFMCW方式を採用した場合には、計測される反射信号の周波数は、ターゲットとレーダとの相対速度差で決まるドップラー周波数だけでなく、両者の距離にも依存するが、以下では簡単のために距離による周波数成分も含めてドップラー周波数と記述することにする。
【0030】
本実施例を実施するためのレーダ装置のブロック図を、図1を用いて説明する。
【0031】
車に搭載されるレーダ装置25は、アンテナユニットと信号処理部14とアナログ回路部15を備えている。アンテナユニットは、送信アンテナ19とKチャンネル(K>2)の受信アンテナ20(アンテナ素子#1〜#K)を備えている。レーダ装置25のアナログ回路部15は、送信系に、変調器16、発振器17、及び送信アンテナ19に接続された電力増幅器18を備えている。また、受信系に、Kチャンネルの受信アンテナ20の各アンテナ素子に各々対応したK組のミキサ回路21、電力増幅器22、及びA/Dコンバータ23を備えている。信号処理部14は、各A/Dコンバータ23から出力される受信信号を処理するために、ターゲット信号分類処理部7、信号行列作成処理部8、相関行列演算処理部9、ターゲット個数推定処理部10、サブ相関行列抽出処理部11、合成信号電力演算処理部12、合成信号電力最小探索処理部13、及び記憶装置(図示略)を有する。なお、信号処理部14内の各処理部(7〜13)は、例えば、コンピュータ内のメモリにロードされた各種のプログラムをCPUにて実行することにより実現される。
【0032】
本実施例では、信号処理部14のターゲット信号分類処理部7において、連続する時刻の計測で得られたドップラー周波数、距離、速度の少なくとも1つ以上が近接している受信信号を、相対的な位置関係が同じ同一ターゲット群からの反射信号とみなす分類を実施し、信号行列作成処理部8で、そのターゲット群ごとに、受信信号を受信順に並べて信号行列Xを作成する。相関行列演算処理部9では、上記信号行列の共分散行列を演算して相関行列RXXを作成する。ターゲット個数推定処理部10では、この信号が何個(L個)のターゲットによる反射波を含んでいるかを計算する。サブ相関行列抽出処理部11では、前記相関行列から(L+1)行(L+1)列のサブ相関行列SXXを抽出する。合成信号電力演算処理部12では、上記サブ相関行列SXXに方位角θをパラメータに持つ重みベクトルを掛け算することで合成信号Yを計算し、それを2乗した合成信号電力(前記式1)を様々なθの組み合わせについて計算する。合成信号電力最小探索処理部13では、上記の合成受信電力(式1)を最小にする重みベクトルを与えたθを探索し、その値をターゲットの位置する方位角情報として出力する。
【0033】
発振器17は、変調器16からの変調信号に基づき、例えば、図2で示した周波数パターンで発振する。これは2周波CW方式の送信周波数パターンの例である。発振器17から出力された信号は、電力増幅器18で増幅された後、送信アンテナ19から送信電波として監視領域へ向けて照射される。
【0034】
送信アンテナ19から送信された電波は、照射内に存在するターゲットによって反射され、返ってきた反射波は受信アンテナ20により受信される。この受信信号はミキサ回路21で送信信号とミキシングされることによってビート信号を生成させ、電力増幅器22へ出力される。電力増幅器22で増幅され出力された信号は、A/Dコンバータ23によってデジタル信号に変換された後、信号処理部14へ送られる。
【0035】
次に、図3〜図5を用いて、信号処理部14による信号処理の流れを説明する。
始めに、図3に示すようにレーダ搭載車両26の前方に検知したい車両が2台走行している状況を例にとり、説明する。なお、前方走行車両27(A)、27(B)のレーダ搭載車両26に対する相対速度は等しいが、車両27(A)、27(B)はレーダ搭載車両26とは異なる速度で走行しているものとする。この時、車両26のレーダ25で観測される、前方走行車両27(A)、27(B)による反射波のドップラー周波数は一致している。
【0036】
ただ、図3のシーンで相対的な位置関係が同じ状態で走行している場合であっても、厳密には図4Aに示すように前方走行車両27(A)、27(B)はレーダ搭載車両26に対して縦方向、横方向にわずかに移動しながら走行しているのが普通である。従って、例えばレーダ搭載車両26から前方走行車両27(A)、27(B)までの距離Rは、図4Bに示すように、時間の経過(データ取得タイミング)と共にわずかに(ΔR)変動している。一例を示すと、数十ミリ秒のデータ取得タイミング毎に、数mmの範囲のオーダーで距離が変動している。用途にもよるが、ΔR/Rは例えば0.1%以下のオーダーである。本発明では、このような、実質的に相対速度が等しいとみなせる走行状態であって、かつ、前方の複数の走行車両までの相対的位置が、データの取得タイミングレベルの時間間隔では、わずかな移動が起きることを利用する。すなわち、複数のデータの取得タイミングにまたがる方位計測周期内の受信データを平均処理することで、前記した「2つの信号が相殺して合成信号電力がゼロになる可能性」、ひいては、ヌルが電波の到来方向を向いているという誤った判断をして誤った角度計測結果が出力されるのを排除するものである。これらの詳細は、本実施例を通して明らかになる。
【0037】
なお、レーダ搭載車両26から前方の複数の車両までの距離が実質的に同じ場合でも、前方の各走行車両に路面の凹凸や勾配など走行条件にわずかな差が生じた場合、各前方走行車両における電波の最も反射強度の強い反射点(例えばパンパー等の反射部材上の点)の位置にわずかな移動が起きる。そのため、車両間の距離が同じ場合でも、このような走行条件の差による電波の反射点までの距離に変動があると、レーダで観測される前方の複数の走行車両よる反射波のドップラー周波数にはわずかな差を生ずる。本発明は、車両自体間の相対的な位置関係の変動のみならずこのような電波の反射点の変動も含めて、「相対的な位置関係」と定義する。
【0038】
また、図3の例では、前方走行車両27(A)、27(B)は走行しているが、2台とも静止していたり、あるいはターゲットが車両ではなく例えば路側の両側に固定されたポールであっても構わない。その場合でもレーダに対する相対速度が等しくなる状況は同じである。ところで、図3で説明するように複数ターゲットによる反射波のドップラー周波数が一致する場合でなくても本実施例は有効であるが、本発明の効果は特にこのような場合に顕著である。
【0039】
図5のフローチャートに示すように、信号処理部14では、初めにステップ28で、各A/Dコンバータ23から出力された受信信号に対するFFT処理が実施され、周波数スペクトルを得る。ターゲットによる反射波を受信した場合、周波数スペクトルには信号対雑音電力比(S/N)の大きい周波数ピークが観測される。
【0040】
図3のシーンでは、2つの前方走行車両27(A)、27(B)による反射波のドップラー周波数は同一なので、周波数スペクトルは図6のように1つの周波数ピーク39を持つ。周波数ピーク39の信号は2つの反射信号を含んでおり、それらは相関が強い状態であると呼ばれる。
【0041】
なお、図4を用いて説明したように前方の走行車両2台は時間の経過と共に縦方向、横方向にそれぞれ移動しているのが普通であるが、ここでは、その移動量は小さく両者の反射波のドップラー周波数は実質的に同一の周波数として観測される状況を想定している。
【0042】
このようにして、観測される周波数ピークをステップ29のピークサーチ処理で抽出する。ある時刻tにアンテナ#1(シャープと数字は複数ある受信アンテナに付けられたアンテナ素子の識別番号)から得られたある周波数ピークの複素振幅をX(t1)と表す。いまアンテナはK個あるので一度の計測で1つの周波数ピークに対して、X(t)〜Xk(t1)のK個の複素振幅が得られる。
【0043】
次のステップ30の距離、速度の計測処理で、ある時刻tに得られた複素振幅X(t1)と次の時刻t2に得られた複素振幅X(t2)から、2周波CW方式の原理に従ってターゲットまでの距離とレーダに対するターゲットの相対速度が算出される。
【0044】
次のステップ31におけるターゲット信号の分類処理は、ターゲット信号分類処理部7で実行される。今は差し当たり周波数ピークが1個しかない図3の走行シーンを想定しているので、ターゲット信号を分類せずとも正しい結果を得ることができる。なお、ターゲット信号分類処理部7の処理内容については、周波数ピークが複数存在する場合を想定して、後で図10〜図15を用いて説明する。
【0045】
次の、ステップ32の信号行列の作成処理は、信号行列作成処理部9で実行される。ステップ32では、ある周波数ピークの複素振幅X(t)〜Xk(t1)を、所定の時間内に得られた回数だけ並べて、式2で表される信号行列Xを作成する。なお、式2は例として10回の計測結果を利用する場合の数式である。
【0046】
【数2】

【0047】
次のステップ33では、相関行列演算処理部9で相関行列の作成が実行される。すなわち、ステップ33では式3により相関行列RXXを計算する。
【0048】
【数3】

【0049】
ここで、式(4)は平均処理を表し、信号行列Xを作成する時に使用した計測回数(今の例だと10)で割ることを意味する。
【0050】
【数4】

【0051】
なおここで重要なのは、車載レーダではレーダとターゲットとの相対的な位置関係が普通、時々刻々変化するため、式(4)で表される平均処理は、異なる位置関係にある時に得られた信号を平均化していると解釈できることである。
【0052】
次のステップ34のターゲット個数推定処理は、ターゲット個数推定処理部10で実行される。ステップ34では、ある周波数ピークに何個のターゲットによる反射信号が重なっているかを推定する。以下、ここで推定されたターゲット個数をLと表す。このターゲット個数推定処理は、例えば非特許文献1などで波数推定処理として紹介されている手法を採用する。図3の場合はターゲット個数L=2と求まる。
【0053】
次のステップ35において、サブ相関行列抽出処理部11で相関行列抽出処理が実行される。背景技術で記述したようにL個の反射波を分離するためにはアンテナ素子数はL+1個あれば良い。そこでステップ35では使用するアンテナ(L+1)個を選択し、相関行列RXXからその選択されたアンテナで受信された信号の相関成分を抜き出した(L+1)行(L+1)列のサブ相関行列SXXを抽出する。ここで、同じアンテナ素子が並んでいる状況を考えると、どのように(L+1)個を選択しても良いが、例えば隣り合うアンテナ(L+1)個を選ぶと測定角度範囲を最大にすることができる。一例としてアンテナ#1〜アンテナ#(L+1)を選んだ(破線内の範囲を選択した)場合のサブ相関行列を、図7に示す。
【0054】
次のステップ36の合成信号電力計算の処理は、合成信号電力演算処理部12で実行される。ステップ36では式5により、合成信号電力(式1)を計算する。
【0055】
【数5】

【0056】
ここで、Wは(L+1)行1列の重みベクトルであり、図19,図20で示したような受信強度パターンの方位角依存性を決定する因子である。
式6、はθ,θ,…,θL方向にヌルを持つ受信強度パターンで受信した合成信号電力を表す。
【0057】
【数6】

【0058】
使用するアンテナ数が3個の場合の、重みベクトルW(θ,θ)の計算方法を説明する。図8A、図8Bに示すように、まず3個あるアンテナのうち、隣り合う2つのアンテナで受信した信号から2組のペアを作る。そして式7の計算をすることにより、θ方向にヌルを持つ2つの受信強度パターンで受信した信号を得る。
【0059】
【数7】

【0060】
ここで、X1,X2,X3はある時刻に各チャンネルで受信した信号であり、またφ1は以下で定義される。
【0061】
【数8】

【0062】
続けてX12,X23を作ったのと同じ操作を繰り返し、以下の合成信号X123を作る。
【0063】
【数9】

【0064】
この合成信号X123は、θ,θ方向にヌルを持つ受信強度パターンで受信した合成信号である。式9の最終行の、横ベクトルの複素転置ベクトルが重みベクトルである。すなわち式10になる。
【0065】
【数10】

【0066】
使用するアンテナがさらに増えた場合も、Kチャンネルからアンテナペアを作って式8、式9と同等の処理を(K−1)回繰り返すことによりK行1列の重みベクトルW(θ,θ,…,θK-1)を計算することができる。
【0067】
重みベクトルは受信信号に依存しないため、予め様々なθ,θ,…,θLに対して計算しておくことができる。例えば検知角度内で0.1度刻みの値であって、全ての角度の組み合わせについて重みベクトルを用意しておく。それを用いて、様々な方向にヌルを向けた合成信号電力が計算できる。なお、実際には各アンテナ素子の利得の校正等をした重みベクトルを利用する。
【0068】
次のステップ37における合成信号電力最小探索の処理は、合成信号電力最小探索処理部13で実行される。ステップ36で計算された合成信号電力がゼロになるものを探す。実際には最小値を探す。その最小値を与えるθ,θ,…,θLの方向から反射波が来ているので、最後のステップ38の方位角出力処理で、θ,θ,…,θLをターゲットの方位角として出力する。
【0069】
以下、式3で実施した平均処理により、計測性能が向上することを説明する。ここでも図3の場合を例にとり説明する。ここでの合成信号電力の式11を書き下すと以下の式12のようになっている。
【0070】
【数11】

【0071】
【数12】

【0072】
ここでΨA1などは以下で定義される。
【0073】
【数13】

【0074】
2つのヌルがターゲット方向(θA,θB)と一致したとき、すなわち式14が成り立つときに、式11がゼロになることは容易に示せる。
【0075】
【数14】

【0076】
しかし、式11=0を満たす解がこれ以外に存在する可能性がある。一方、式3で平均処理を実施しておくと、式11は以下の式になる。
【0077】
【数15】

【0078】
なぜなら、自動車レーダでは図4を用いて説明したように、レーダとターゲットとの位置関係が時々刻々変化するため、ΨA1B1は[0,2π]の一様分布に近似され、ある時間平均をとると式16に収束することが期待されるからである。
【0079】
【数16】

【0080】
式15で、式11=0を満たすのは、式14のときだけなので、ターゲットの方位角が一意に計測できる。
【0081】
本発明の平均処理を実施する前後の計測結果の例を、図9A、図9Bに示す。40はターゲットの真の横位置、41はレーダで計測された検知ターゲットの横位置を示す。本発明を実施しない場合には、図9Aに示すように、前方走行車両27(A)、27(B)が実際に存在していなかった、ターゲットの真の横位置40よりも離れた横位置41での誤計測データが出力される。これに対し、本発明の平均処理を実施すると、図9Bに示すようにターゲットの真の横位置40上にのみ、前方走行車両27(A)、27(B)に関する計測データが安定して出力され、真の位置よりも離れた横位置41での誤計測データは無くなる。
【0082】
次に、先ほど省略したステップ31におけるターゲット信号の分類処理の内容について説明する。ここでの処理は、ステップ28で得られた周波数スペクトルに、ピークが2個以上存在するときに特に重要になる。そこで図3からさらに走行車両が1台増えた図10のシーンを例にとり説明する。なお新たに追加された前方走行車両27(C)の速度は前方走行車両27(A)、27(B)より早い場合を例にとって説明する。このときの周波数スペクトルは、図11に示すように2つの周波数ピーク39、42を持つ。
【0083】
この例のように周波数ピークが複数個存在する場合は、各周波数ピークごとに信号行列Xを作成することが有効である。そのためには、異なる時刻に得られた周波数ピーク(39、42)を同一ターゲット群に起因するピークごとに分類しなければならない。なぜなら、例えば前方走行車両27(A)、(B)の方位角を計測したい時に、前方走行車両27(C)からの信号が混入した信号行列を作ってしまうと正しい方位角が求まらないからである。例えば、式17は時刻t2で前方走行車両27(C)の信号を誤って使用した信号行列である。
【0084】
【数17】

【0085】
ここで、X1_AB(t1)などは前方走行車両27(A)、27(B)によって反射された信号を時刻t1にアンテナ1で受信した複素振幅を表している。X1_C(t)などは前方走行車両27(C)によって反射された信号を時刻t2にアンテナ1で受信した複素振幅を表している。
【0086】
このような誤った信号行列を作成しないために、ステップ31では、図12のフローチャートで詳細に示すターゲットの分類処理を実施する。まず、図12のステップ43で、前回時刻に計測されたピーク周波数の中から、最新時刻に計測されたあるピーク周波数fcurに最も近い周波数fprevを抽出する。次のステップ44で、この周波数fprevが式18を満たすか否かを判定する。
【0087】
【数18】

【0088】
ここで、ε1は予め決められた閾値である。ここでの処理内容を、図13を用いて説明する。図13の(A)は前回時刻tprevに計測された信号強度の状態、(B)は現在時刻tcurに計測された信号強度の状態を各々示している。現在時刻tcurに計測されたピーク周波数の一つfcurと、前回時刻tprevに計測されたピーク周波数の一つ39のfprevとの差(絶対値)が小さい(<ε1)ときに、両者は同じターゲット群からの反射信号であると判断される。式18を満たす場合は、ステップ45へ進む。現在時刻tcurに計測された他のピーク周波数が上記条件を満たさない場合は、ステップ48へ進み、そのピーク周波数は異なるターゲット群による信号であると判断される。
【0089】
ステップ45ではピーク周波数fcurから2周波CW方式の原理にしたがって計測された距離Rcurと、ピーク周波数fprevから計測された距離Rprevが式19を満たすか否かを判定する。
【0090】
【数19】

【0091】
ここでε2は予め決められた閾値である。ここでの処理内容を、図14Aを用いて説明する。現在時刻tcurに計測された距離値の一つRcurと、前回時刻tprevに計測された距離値の一つRprevの差(絶対値)が小さい(<ε2)ときに、両者は同じターゲット群からの反射信号であると判断される。式19を満たす場合は、ステップ46へ進む。距離値が上記条件を満たさない場合は、ステップ48へ進み、その信号は異なるターゲット群による信号であると判断される。
【0092】
ステップ46では、ピーク周波数fcurから2周波CW方式の原理にしたがって計測された速度Vcurと、ピーク周波数fprevから計測された速度Vprevが式20を満たすか否かを判定する。
【0093】
【数20】

【0094】
ここでε3は予め決められた閾値である。ここでの処理内容を、図14Bを用いて説明する。現在時刻tcurに計測された速度値の一つVcurと、前回時刻tprevに計測された速度値の一つVprevの差(絶対値)が小さい(<ε)ときに、両者は同じターゲット群からの反射信号であると判断される。式20を満たす場合は、ステップ47へ進み、2つの周波数ピークは同じターゲット群による信号であると判断する。このステップ46は、2周波CW方式を採用している場合には実質的にステップ44と同等なので省略することもできる。
【0095】
なお、本実施例のターゲットの分類処理では、(1)周波数fprevが式18を満たすか否か、(2)距離Rprevが式19を満たすか否か、及び(3)速度Vprevが式20を満たすか否か、の3つのアンド条件で判定するようにしているが、(1)〜(3)のいずれか1つの条件、あるいはいずれか2つのアンド条件で判定するようにしても良い。
【0096】
以上のターゲットの分類処理により、同一ターゲット群からの信号であると分類された信号同士だけを並べ、次に、信号行列を作成する(図5のステップ32)。
【0097】
以下、先に述べた図5のステップ32からステップ38までの処理が実行され、最終的に、最小値を与えるθ,θ,…,θLをターゲットの方位角として出力する。
【0098】
次に、図10のシーンの前方走行車両27(C)に対応する周波数ピーク42からはターゲット個数推定結果はL=1と求まる。そしてサブ相関行列抽出処理11では2行2列のサブ相関行列が抽出され、合成信号Yはθ1だけの関数になり、一個の方位角が求まる。
【0099】
図10のシーンに対する計測結果の例を図15に示す。前方の3つの走行車両27(A)、27(B)、27(C)に関する各計測データが各ターゲットの真の横位置上に安定して出力されている。
【0100】
このように、本実施例によれば、ドップラー周波数が同一となるM個のターゲットによる反射波が存在する状況においても、(M+1)素子の受信アンテナを有するレーダを用いてそれぞれのターゲットの方位角を安定して計測することが可能となる。これによりアンテナ素子数の増大を抑えられるため、少ない部品点数で正確かつ高分解能な方位角計測が可能となる。
【実施例2】
【0101】
図1に示した実施例1のレーダ装置25は、複数の受信アンテナ20(アンテナ素子#1〜#K)の各々に対応してアナログ回路部15が、複数のミキサ回路21、電力増幅器22、A/Dコンバータ23を備えているが、これに代えて図16のようにアナログ回路部15にスイッチ回路50を設け、複数の受信アンテナ20(アンテナ素子#1〜#K)を順次切り替えて、1組のミキサ回路21、電力増幅器22、A/Dコンバータ23に接続する方式としても良い。スイッチ回路50を十分早い速度で切り替えれば、実施例1と同じ手順で方位角を求めることができる。実施例1と同様に、アンテナ素子数の増大を抑えられるため、少ない部品点数で正確かつ高分解能な方位角計測が可能となる。
【0102】
また、この実施例2では、実施例1のレーダ装置25に比べて受信器のミキサ回路や電力増幅器等の数を減らせるので、回路基板の小型化やコストを下げることができる。
【実施例3】
【0103】
次に、本発明の実施例3に関わるレーダ装置のブロック図を、図17に示す。これは実施例1で示したレーダ装置25から、サブ相関行列抽出処理部11をなくしたものである。
【0104】
この時の信号処理のフローチャートを図18に示す。これは実施例1または実施例2における信号処理のフローチャート図5からステップ35をなくしたものである。他の構成、処理は、実施例1または実施例2と同じなので、説明を省略する。
【0105】
この実施例3では、サブ相関行列SXXを作成せず、相関行列RXXをそのまま用いる。それに伴い、式5は以下の式21に変更される。
【0106】
【数21】

【0107】
重みベクトル(式22)は(K−1)個の角度パラメータを持つが、誤った計測結果を出力しないように、実際にスキャンする角度パラメータをステップ34で推定されたターゲット個数Lに一致させなければならない。
【0108】
【数22】

【0109】
そこで、例えば式23に示すような制約を課す。
【0110】
【数23】

【0111】
以上により、構成されるヌルの数はL個になり、ターゲットの方位が正しく求まる。
【0112】
なお、実施例2で示したレーダ装置49から、サブ相関行列抽出処理部11をなくした構成のレーダ装置であっても、本実施例と同じ作用、効果が得られる。
【0113】
また、本発明は、車両に限らず、レーダ装置が時刻の経過とともに位置が移動する移動体に搭載されている場合の、電波到来方向の計測装置としても適用可能である。
【符号の説明】
【0114】
1…レーダ受信器に到来する電波
5…電波1の到来方向全ての受信感度をゼロにした受信強度パターン
6…電波1の到来方向1つ受信感度をゼロにした受信強度パターン
7…ターゲット信号分類処理部
8…信号行列作成処理部
9…相関行列演算処理部
10…ターゲット個数推定処理部
11…サブ相関行列抽出処理部
12…合成信号電力演算処理部
13…合成信号電力最小探索処理部
14…信号処理部
15…実施例1のレーダ装置のアナログ回路部
16…送信系に変調器
17…発振器
18…電力増幅器
19…送信アンテナ
20…受信アンテナ(アンテナ素子#1〜#K)
21…ミキサ回路
22…電力増幅器
23…A/Dコンバータ
25…実施例1のレーダ装置
26…レーダ搭載車両
27…前方走行車両
39…周波数スペクトルに現れたピーク信号
40…ターゲットの真の横位置
41…レーダで計測された検知ターゲットの横位置
42…周波数スペクトルに現れたピーク信号
49…実施例2のレーダ装置
50…受信アンテナを切り替えるスイッチ回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナユニットと信号処理部を備え、送信された電波がターゲットで反射して戻ってくる電波を受信信号として受信し、信号処理に基づいて前記ターゲットの方位を計測するレーダ装置であって、
前記アンテナユニットは、アレイ状に配置された複数の受信アンテナを有し、前記ターゲットと該レーダ装置との相対的な位置関係が時間の経過とともに変化する状態で前記受信信号を受信し得る機能を備えており、
前記信号処理部は、
前記複数の受信アンテナで受信された信号を受信順に並べた信号行列を作成する信号行列作成処理部と、
前記信号行列から相関行列を演算する相関行列演算処理部と、
前記相関行列からターゲットの個数を推定するターゲット個数推定処理部と、
前記相関行列に、重みベクトルを掛け算することにより、受信利得をゼロまたは小さくした方位角をスキャンしながら合成信号電力を計算する合成信号電力演算処理部と、
前記合成信号電力をゼロまたは最小とする重みベクトルを用いたときに前記受信利得がゼロまたは小さくなっている方位角を演算し、前記ターゲットの方位角を計測する合成信号電力最小探索処理部を備えている
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記信号行列作成処理部は、所定の方位計測周期単位で前記信号行列を作成する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記信号処理部は、
前記ターゲット個数推定結果に基づいて前記相関行列の一部を抽出し、サブ相関行列を作成するサブ相関行列抽出処理部を備えており、
前記合成信号電力演算処理部は、前記サブ相関行列に、重みベクトルを掛け算することにより、受信利得をゼロまたは小さくした方位角をスキャンしながら前記合成信号電力を計算する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記サブ相関行列は正方行列であって、その次元は前記ターゲット個数推定処理で推定された個数より1大きい
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記ターゲットと前記レーダ装置との前記相対的な位置関係は、前記ターゲットにおける前記電波の反射点と前記レーダ装置との相対的な位置関係である
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記重みベクトルは、前記複数の受信アンテナで得られた受信信号から隣り合う受信アンテナで受信された信号ごとにペアを作り、各ペアの片方の位相を回転させながら線型和を計算することで前記ペアの数と等しい数の合成信号を計算する処理を繰り返して形成される最終的に1つに集約された合成信号を前記相関行列に掛け算することにより生成される
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記重みベクトルのパラメータのうち、独立なパラメータの数は前記ターゲット個数推定処理で推定された個数と等しく、それ以外のパラメータはすべて同一の値をとる
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記レーダ装置は、アナログ回路部を備えており、
該アナログ回路部は、前記複数の受信アンテナの各々に対応するミキサ回路、電力増幅器、及びA/Dコンバータを有している
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項9】
請求項1において、
前記レーダ装置は、アナログ回路部を備えており、
該アナログ回路部は、前記複数の受信アンテナと、1組のミキサ回路、電力増幅器、A/Dコンバータ、及びスイッチ回路を備えており、
前記スイッチ回路により、前記各受信アンテナと前記1組のミキサ回路、電力増幅器及びA/Dコンバータとの接続を順次切り替える
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項10】
請求項1において、
前記レーダ装置は時刻の経過とともに位置が移動する移動体に搭載されている
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項11】
請求項1において、
前記レーダ装置は車両に搭載されている
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項12】
アンテナユニットと信号処理部を備え、送信された電波がターゲットで反射して戻ってくる電波を受信信号として受信し、信号処理に基づいて前記ターゲットの方位を計測するレーダ装置であって、
前記アンテナユニットは、アレイ状に配置された複数の受信アンテナを有し、前記ターゲットと該レーダ装置との相対的な位置関係が時間の経過とともに変化する状態で前記受信信号を受信し得る機能を備えており、
前記信号処理部は、
前記複数の受信アンテナで現在計測されたドップラー信号と過去に計測されたドップラー信号を、同一のターゲットで反射されたドップラー信号ごとに分類するターゲット信号分類処理部と、
分類されたドップラー信号ごとに前記複数の受信アンテナで受信された信号を受信順に並べた信号行列を作成する信号行列作成処理部と、
前記信号行列から相関行列を演算する相関行列演算処理部と、
前記相関行列からターゲットの個数を推定するターゲット個数推定処理部と、
前記相関行列に、重みベクトルを掛け算することにより、受信利得をゼロまたは小さくした方位角をスキャンしながら合成信号電力を計算する合成信号電力演算処理部と、
前記合成信号電力をゼロまたは最小とする重みベクトルを用いたときに、前記受信利得がゼロまたは小さくなっている方位角を演算し、前記ターゲットの方位角を計測する合成信号電力最小探索処理部を備えている
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項13】
請求項12において、
前記信号処理部は、
前記ターゲット個数推定結果に基づいて前記相関行列の一部を抽出し、サブ相関行列を作成するサブ相関行列抽出処理部を備えており、
前記合成信号電力演算処理部は、前記サブ相関行列に、重みベクトルを掛け算することにより、受信利得をゼロまたは小さくした方位角をスキャンしながら前記合成信号電力を計算する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項14】
請求項12において、
前記ターゲット信号分類処理部は、現在計測されたドップラー信号と過去に計測されたドップラー信号のドップラー周波数の差分が所定の閾値よりも小さいときに、同一のターゲットで反射されたドップラー信号であると判定する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項15】
請求項12において、
前記ターゲット信号分類処理部は、現在計測されたドップラー信号と過去に計測されたドップラー信号それぞれから計測された距離の差分が所定の閾値よりも小さいときに、同一のターゲットで反射されたドップラー信号であると判定する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項16】
請求項12において、
前記ターゲット信号分類処理部は、現在計測されたドップラー信号と過去に計測されたドップラー信号それぞれから計測された速度の差分が所定の閾値よりも小さいときに、同一のターゲットで反射されたドップラー信号であると判定する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項17】
請求項14において、
前記ターゲット信号分類処理部は、現在計測されたドップラー信号と過去に計測されたドップラー信号それぞれから計測された速度の差分が所定の閾値よりも小さく、かつ、
現在計測されたドップラー信号と過去に計測されたドップラー信号それぞれから計測された距離の差分が所定の閾値よりも小さいときに、同一のターゲットで反射されたドップラー信号であると判定する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項18】
レーダ装置を用いた電波到来方向の計測方法であって、
前記レーダ装置は、アンテナユニットと信号処理部を備え、送信された電波がターゲットで反射して戻ってくる電波を受信信号として受信し、信号処理に基づいて前記ターゲットの方位を計測するものであり、
前記アンテナユニットは、アレイ状に配置された複数の受信アンテナを有し、前記ターゲットと該レーダ装置との相対的な位置関係が時間の経過とともに変化する状態で前記受信信号を受信し得る機能を備えており、
前記複数の受信アンテナで受信された受信信号を、所定の周期で受信順に並べた信号行列を作成するステップと、
前記信号行列から相関行列を演算するステップと、
前記相関行列からターゲットの個数を推定するステップと、
前記相関行列に、重みベクトルを掛け算することにより、受信利得をゼロまたは小さくした方位角をスキャンしながら合成信号電力を計算するステップと、
前記合成信号電力をゼロまたは最小とする重みベクトルを用いたときに前記受信利得がゼロまたは小さくなっている方位角を演算し、前記ターゲットから反射された電波の到来方向を計測するステップと
を有することを特徴とする電波到来方向の計測方法。
【請求項19】
請求項18において、
前記複数の受信アンテナで現在計測されたドップラー信号と過去に計測されたドップラー信号を、同一のターゲットで反射されたドップラー信号ごとに分類するステップと、
前記分類されたドップラー信号ごとに前記複数の受信アンテナで受信された信号を並べた前記信号行列を作成するステップと
を更に有することを特徴とする電波到来方向の計測方法。
【請求項20】
請求項18において、
現在計測されたドップラー信号と過去に計測されたドップラー信号のドップラー周波数の差分が所定の閾値よりも小さいときに、同一のターゲットで反射されたドップラー信号であると判定するステップを更に有する
ことを特徴とする電波到来方向の計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−237087(P2010−237087A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86447(P2009−86447)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】