説明

レーダ装置

【課題】空間均一性がない場所でも、複数台のレーダ装置を設置することなく、風速ベクトルの計測精度を高めることができるようにする。
【解決手段】送受信部1により生成されたレーザ光のビーム方向を切り換えながら、そのレーザ光を大気中に放射するビーム放射部2と、そのビーム放射部2によりレーザ光が放射される方向に設置され、そのレーザ光のビーム方向を観測点4が存在している方向に切り換える反射鏡3a,3b,3cとを設け、その観測点4により反射されたビーム方向が異なるレーザ光A’,B’,C’のドップラー速度を解析し、複数のドップラー速度を合成して風速ベクトルを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、任意の観測点の風速や風向を観測するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置は、大気のドップラー速度を計測することにより、風速を観測するようにしている。特に、送信波としてレーザ光を用いるレーザレーダでは、大気中のエアロゾルが散乱体となるため、エアロゾルのドップラー速度を計測することにより、風速を観測することになる。
レーダ装置により直接的に計測されるのはドップラー速度であり、そのドップラー速度は、風速の視線方向成分である。
風は、風速以外に風向の成分を備えているが、同じ風を複数の視線方向から計測すれば、複数の視線方向の風速成分が得られるため、これらの風速成分を合成することにより、風速ベクトル(風速、風向)を得ることができる。
【0003】
同じ風を複数の視線方向から観測する一つの方法として、相互に異なる位置にレーダ装置を配置して、複数台のレーダ装置がエアロゾルのドップラー速度を計測することが考えられる。
ただし、この場合、複数台のレーダ装置を設置する場所を確保する必要があるため、設置場所に制約がある場合には不向きである。
【0004】
一方、1台のレーダ装置で、同じ風を複数の視線方向から観測する手法として、風の空間的均一性を仮定しているものがある(例えば、非特許文献1参照)。
実際の風の空間分布には不均一性があるが、非特許文献1に開示されているレーダ装置では、各ビーム方向において、ドップラー速度を時間平均することにより、視線方向の風速に含まれている空間不均一成分を抑圧して、風速ベクトルを算出するようにしている。
しかし、地上付近の風は、地上構造物の影響を受けて、空間的な均一性が低くなるため、時間平均だけでは十分に空間不均一性を抑圧することができない場合がある。そのため、空間均一性を仮定した風速計測方式を使用することができないことがある。
【0005】
【非特許文献1】H.Sauvageot著「Radar Meteorology」Artech House,1992、P210〜212.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のレーダ装置は以上のように構成されているので、地形や地上構造物の影響を受けて風の均一性が乱される場所では、風速ベクトルの計測精度が劣化することがある課題があった。
また、風が空間的に比較的均一な場所においても、僅かな空間不均一によって風速ベクトルの計測精度が劣化することがあるため、時間平均処理を十分な時間実施して、空間不均一性を抑圧する必要がある。そのため、時間分解能が高い風速ベクトルの計測を実施することができない課題もあった。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、空間均一性がない場所でも、複数台のレーダ装置を設置することなく、風速ベクトルの計測精度を高めることができるレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るレーダ装置は、電磁波生成手段により生成された電磁波のビーム方向を切り換えながら、その電磁波を大気中に放射する電磁波放射手段と、その電磁波放射手段により電磁波が放射される方向に設置され、その電磁波のビーム方向を観測点が存在している方向に切り換えるビーム方向切換手段とを設け、その観測点により反射されたビーム方向が異なる複数の電磁波のドップラー速度を解析し、複数のドップラー速度を合成して風速ベクトルを算出するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、電磁波生成手段により生成された電磁波のビーム方向を切り換えながら、その電磁波を大気中に放射する電磁波放射手段と、その電磁波放射手段により電磁波が放射される方向に設置され、その電磁波のビーム方向を観測点が存在している方向に切り換えるビーム方向切換手段とを設け、その観測点により反射されたビーム方向が異なる複数の電磁波のドップラー速度を解析し、複数のドップラー速度を合成して風速ベクトルを算出するように構成したので、空間均一性がない場所でも、複数台のレーダ装置を設置することなく、風速ベクトルの計測精度を高めることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるレーダ装置を示す構成図であり、図において、送受信部1は電磁波であるレーザ光を生成して、そのレーザ光をビーム放射部2に出力する一方、ビーム放射部2により受信されたレーザ光(観測点4により反射されたレーザ光)に対する周波数の変換処理や増幅処理などの受信処理を実施する。なお、送受信部1は電磁波生成手段を構成している。
【0011】
ビーム放射部2は送受信部1により生成されたレーザ光のビーム方向を切り換えながら、そのレーザ光A,B,Cを大気中に放射する一方、観測点4により反射されたレーザ光A’,B’,C’を順次受信する。即ち、ビーム放射部2は送受信部1により生成されたレーザ光のビーム方向を切り換えながら、そのレーザ光A,B,Cが観測点4に集光するように順番に反射鏡3a,3b,3cに向けて放射する一方、観測点4により反射されたレーザ光A’,B’,C’を反射鏡3a,3b,3c経由で順番に受信する。
なお、ビーム放射部2は電磁波放射手段及び電磁波受信手段を構成している。
【0012】
反射鏡3a,3b,3cはビーム放射部2によりレーザ光A,B,Cが放射される方向に設置されており、反射鏡3a,3b,3cはビーム放射部2から放射されたレーザ光A,B,Cを反射して、そのレーザ光A,B,Cのビーム方向を観測点4が存在している方向に切り換える。なお、反射鏡3a,3b,3cはビーム方向切換手段を構成している。
信号処理部5は送受信部1による受信処理後のレーザ光A’,B’,C’のドップラー速度を解析し、複数のドップラー速度を合成して風速ベクトルを算出する。なお、信号処理部5は風速ベクトル算出手段を構成している。
【0013】
次に動作について説明する。
送受信部1は、単一周波数の連続波であるレーザ光を生成し、そのレーザ光をビーム放射部2に出力する。
ビーム放射部2は、送受信部1からレーザ光を受けると、そのレーザ光Aを反射鏡3aに向けて放射する。
反射鏡3aは、ビーム放射部2から放射されたレーザ光Aを反射するが、反射後のレーザ光Aのビーム方向が観測点4の方向を向くように、鏡の設置角度が調整されている。
なお、ビーム放射部2は、レーザ光Aを放射する際、そのレーザ光Aが観測点4に集光するように、そのレーザ光Aの焦点距離を調整している。
【0014】
ビーム放射部2は、上記のようにして、レーザ光Aを反射鏡3aに向けて放射すると、風の時間変化が小さいと見なせる時間内(例えば、数秒以内)に、レーザ光Bを反射鏡3bに向けて放射する。
反射鏡3bは、ビーム放射部2から放射されたレーザ光Bを反射するが、反射後のレーザ光Bのビーム方向が観測点4の方向を向くように、鏡の設置角度が調整されている。
なお、ビーム放射部2は、レーザ光Bを放射する際、そのレーザ光Bが観測点4に集光するように、そのレーザ光Bの焦点距離を調整している。
【0015】
ビーム放射部2は、上記のようにして、レーザ光Bを反射鏡3bに向けて放射すると、風の時間変化が小さいと見なせる時間内(例えば、数秒以内)に、レーザ光Cを反射鏡3cに向けて放射する。
反射鏡3cは、ビーム放射部2から放射されたレーザ光Cを反射するが、反射後のレーザ光Cのビーム方向が観測点4の方向を向くように、鏡の設置角度が調整されている。
なお、ビーム放射部2は、レーザ光Cを放射する際、そのレーザ光Cが観測点4に集光するように、そのレーザ光Cの焦点距離を調整している。
これにより、反射鏡3a,3b,3cにより反射されたレーザ光A,B,Cは、観測点4の一点で交わるように集光される。
【0016】
観測点4に集光されたレーザ光A,B,Cは観測点4に反射され、観測点4の反射波であるレーザ光A’,B’,C’は、レーザ光A,B,Cと逆の経路でビーム放射部2に戻るようになる。
即ち、観測点4の反射波であるレーザ光A’は、反射鏡3aに反射されて、ビーム放射部2に戻り、観測点4の反射波であるレーザ光B’は、反射鏡3bに反射されて、ビーム放射部2に戻り、観測点4の反射波であるレーザ光C’は、反射鏡3cに反射されて、ビーム放射部2に戻る。
つまり、ビーム放射部2により放射されたレーザ光A,B,Cが観測点4で集光されているので、観測点4の近傍に存在する大気中のエアロゾル(反射物)からの反射波が卓越的にビーム放射部2に戻るようになる。
【0017】
ビーム放射部2は、観測点4に反射されたレーザ光A’,B’,C’を順番に受信し、そのレーザ光A’,B’,C’を順番に送受信部1に出力する。
送受信部1は、ビーム放射部2からレーザ光A’,B’,C’を受けると、そのレーザ光A’,B’,C’に対する受信処理を実施する。
具体的には、後段の信号処理部5における信号処理を容易にするために、そのレーザ光A’,B’,C’を低周波の信号に変換する周波数変換処理や、信号強度を高める増幅処理などを実施する。
【0018】
信号処理部5は、送受信部1から受信処理後のレーザ光A’,B’,C’を受けると、そのレーザ光A’,B’,C’のドップラー速度を解析し、複数のドップラー速度を合成して風速ベクトルを算出する。
具体的には、次の通りである。
【0019】
信号処理部5は、受信信号であるレーザ光A’,B’,C’がドップラー効果によって周波数がシフトしているので、レーザ光A’,B’,C’の周波数解析を実施することにより、レーザ光A’,B’,C’のドップラー周波数をそれぞれ算出する。
なお、レーザ光A’,B’,C’の周波数解析は、例えば、フーリエ変換を用いればよく、受信信号をフーリエ変換すれば、大気のドップラースペクトルを算出することができる。
このドップラースペクトルは、大気のドップラー周波数の周波数点において、信号強度が卓越してスペクトルピークが得られる。
このスペクトルピークを検出して、そのピークの周波数を抽出すると、このピークの周波数が大気のドップラー周波数の計測値になる。
【0020】
信号処理部5は、レーザ光A’,B’,C’のドップラー周波数Fdをそれぞれ算出すると、レーザ光A’,B’,C’のドップラー周波数Fdからレーザ光A’,B’,C’のドップラー速度Vdをそれぞれ算出する。
Vd=λ・Fd/2
ただし、λはレーザ光A’,B’,C’の波長である。
【0021】
信号処理部5は、レーザ光A’,B’,C’のドップラー速度Vdをそれぞれ算出すると、それらのドップラー速度Vdを合成することにより、大気のドップラー速度(合成後のドップラー速度)である風速ベクトル(風速のビーム方向成分)を算出する。
なお、風速ベクトルは、3次元で定義されるため、観測点4を独立な3方向から観測したドップラー速度があれば、それらのドップラー速度から算出することができる。ここで、独立な3方向とは、3つのビーム方向の中に互いに平行なビーム方向が含まれていないことを意味する。
【0022】
図1の例では、3つの反射鏡3a,3b,3cを用いて、独立な3方向から観測点4のドップラー速度を計測するようにしているが、4つ以上の反射鏡を用いて、独立な4方向以上からドップラー速度を計測して風速ベクトルを算出するようにしてもよい。
この場合、ドップラー速度の計測に冗長性があるため、例えば、最小二乗法などの最適化手法によって風速ベクトルを算出することになる。
【0023】
また、一般的に、鉛直方向の風速成分は水平方向の風速成分に比べて小さいため、鉛直方向の風速をほぼ0と見なすことができることが多い。
このような場合には、2つの反射鏡を用いて、独立な2方向からドップラー速度を計測して、水平風速を得るようにしてもよい。
【0024】
図1の例では、レーザ光A,B,Cが観測点4で交わるように、反射鏡3a,3b,3cの鏡の設置角度が調整されているが、空間的に風が均一であると見なせる範囲をレーザ光A,B,Cが通過するように調整されていれば、必ずしも正確に3つのレーザ光A,B,Cが観測点4で交わる必要はない。
また、レーザ光A,B,Cを集光する距離についても、空間的に風が均一であると見なせる範囲であれば、ビーム毎の集光点が空間的にずれていてもよい。
図1の例では、独立な3方向からの観測を時間的に切り換えて実行するものについて示したが、送受信部1を3つ用意することにより、3方向を同時に計測するようにしてもよい。
【0025】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、送受信部1により生成されたレーザ光のビーム方向を切り換えながら、そのレーザ光を大気中に放射するビーム放射部2と、そのビーム放射部2によりレーザ光が放射される方向に設置され、そのレーザ光のビーム方向を観測点4が存在している方向に切り換える反射鏡3a,3b,3cとを設け、その観測点4により反射されたビーム方向が異なるレーザ光A’,B’,C’のドップラー速度を解析し、複数のドップラー速度を合成して風速ベクトルを算出するように構成したので、空間均一性がない場所でも、複数台のレーダ装置を設置することなく、風速ベクトルの計測精度を高めることができる効果を奏する。
なお、空間均一性を確保するために、時間平均処理を実施する必要がないので、時間分解能が高い風速ベクトルの計測が可能になる。したがって、この実施の形態1のレーダ装置は、例えば、突風などを計測するのに適している。
【0026】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、送受信部1により生成されたレーザ光を観測点4に集光させることにより距離分解能を得て、観測点4の風速ベクトルを計測するものについて示したが、送受信部1がレーザ光をパルス変調し、ビーム放射部2が反射鏡3a,3b,3cに向けて変調後のレーザ光であるパルス信号を放射することにより距離分解能を得て、観測点4の風速ベクトルを計測するようにしてもよい。
具体的には、以下の通りである。
【0027】
ビーム放射部2が送受信部1によりパルス変調されたレーザ光を大気中に放射する場合、そのレーザ光が反射される観測点4までの伝搬距離に比例する遅延時間に、そのレーザ光の反射波がビーム放射部2に受信される。
したがって、ビーム放射部2により異なるタイミングで受信されたレーザ光の反射波から得られる計測結果は、異なる距離の風速ベクトルに対応することになる。
即ち、ビーム放射部2から異なる距離に位置する複数の点の風速ベクトルが計測されることになる。
ただし、観測点4から大きく離れている点においては、レーザ光の通過位置が空間的に離れたものとなるため、空間均一性を満足しなくなる可能性がある。よって、複数の点の風速を計測する場合でも、観測点4に比較的近い位置にある点に限定した計測となる。
【0028】
図2はこの発明の実施の形態2によるレーダ装置の風速計測例を示す説明図である。
ただし、図2では説明の簡単化のため、2つのレーザ光A,B(パルス変調されたレーザ光)を放射するものについて示しているが、上記実施の形態1と同様に、3つのレーザ光A,B,Cを放射するようにしてもよい。
図において、11a,12a,13aは反射鏡3aにより反射されたレーザ光Aを受けることにより、風速ベクトルが計測される観測点であり、観測点11a,12a,13aは、ビーム放射部2からの距離が相互に相違している。
また、11b,12b,13bは反射鏡3bにより反射されたレーザ光Bを受けることにより、風速ベクトルが計測される観測点であり、観測点11b,12b,13bは、ビーム放射部2からの距離が相互に相違している。
【0029】
これらの観測点11a,12a,13a,11b,12b,13bのうち、観測点12aと観測点12bは、2つのレーザ光A,Bが交わる位置に存在し、それ以外の観測点11a,13a,11b,13bは、2つのレーザ光A,Bが交わる位置には存在しない。
しかし、観測点11a,13a,11b,13bは、レーザ光A,Bが交わる観測点12a,12bから空間的に近い位置に存在するので、風の空間均一性を満足する。
そのため、観測点12a,12bだけでなく、観測点11a,13a,11b,13bにおいても、風速ベクトルを計測することができる。
【0030】
この実施の形態2によれば、距離分解能を得るためにパルス変調されたレーザ光を放射するようにしているので、ビーム放射部2における観測点4に対するビームの集光機能が不要になる効果が得られる。
また、複数の観測点11a,12a,13a,11b,12b,13bの風速ベクトルを計測することができる効果を奏する。
【0031】
なお、この実施の形態2では、送受信部1がレーザ光をパルス変調するものについて示したが、距離分解能を取得することが可能な変調方式であれば、パルス変調に限るものではなく、例えば、パルス圧縮方式などの他の変調方式でレーザ光を変調するようにしてもよい。
【0032】
実施の形態3.
図3はこの発明の実施の形態3によるレーダ装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
上記実施の形態1では、ビーム照射部2から放射されるレーザ光A,B,Cの本数分だけ反射鏡3a,3b,3cが設置(レーザ光の本数がN(Nは2以上の自然数)であれば、反射鏡がN個設置)されているものについて示したが、図3に示すように、ビーム照射部2から放射されるレーザ光A,B,Cの本数より1本少ない分だけ反射鏡3a,3bを設置(レーザ光の本数がN(Nは2以上の自然数)であれば、反射鏡をN−1個設置)するようにしてもよい。
【0033】
この場合、ビーム照射部2から放射されるレーザ光A,Bについては、反射鏡3a,3b経由で観測点4に放射するが、残りのレーザ光Cについては、ビーム放射部2から直接観測点4に放射するようにする。
ただし、ビーム放射部2から観測点4までのレーザ光Cの伝搬距離が、ビーム放射部2から観測点4までのレーザ光A,Bの伝搬距離より短くなるため、上記実施の形態1と同様に、ビーム放射部2がビームの集光機能によってレーザ光A,B,Cを観測点4に集光させることにより距離分解能を得る場合、ビーム方向に応じて焦点距離を変更する必要がある。
一方、上記実施の形態2と同様に、レーザ光A,B,Cをパルス変調することにより距離分解能を得る場合には、距離がレーザ光A,B,Cの反射波の遅延時間に対応するので、レーザ光A,B,Cの反射波を受信してサンプリングする時間をビーム方向毎に設定すれば、全てのレーザ光A,B,Cで観測点4の風速ベクトルを計測することができる。
【0034】
この実施の形態3によれば、1つのビーム方向の反射鏡3cが不要になるため、反射鏡の設置に要するスペースが少なくなるとともに、反射鏡の設置及び調整に要する手間が少なくなる効果が得られる。
【0035】
実施の形態4.
図4はこの発明の実施の形態4によるレーダ装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
ビームずれ検出部6は信号処理部5により解析されたレーザ光A’,B’,C’のドップラー速度における時間変動を相互に比較し、その比較結果を参照して、ビーム方向が観測点4からずれているレーザ光A,B,Cを検出する。なお、ビームずれ検出部6はビームずれ検出手段を構成している。
【0036】
上記実施の形態1では、ビーム放射部2から放射されたレーザ光A,B,Cが観測点4を通るように、反射鏡3a,3b,3cの向きが設定されている必要がある。
しかし、反射鏡3a,3b,3cの向きが時間の経過に伴ってずれると(例えば、地震などが発生すると、反射鏡3a,3b,3cの向きがずれることがある)、レーザ光A,B,Cが観測点4から離れた位置を通過するようになるため、風速ベクトルの計測精度が劣化する。
そこで、この実施の形態4では、反射鏡3a,3b,3cの向きのずれに起因するビームずれを自動的に検出するようにしている。
具体的には、次の通りである。図5はこの発明の実施の形態4によるレーダ装置の処理内容を示すフローチャートである。
【0037】
ビームずれ検出部6は、上記実施の形態1〜3と同様にして、信号処理部5がレーザ光A’,B’,C’のドップラー速度を算出すると、信号処理部5からレーザ光A’,B’,C’のドップラー速度を複数時刻分入力する。
そして、ビームずれ検出部6は、レーザ光A’,B’,C’の中から、任意の2つのレーザ光を選択する(ステップST1)。ここでは、説明の便宜上、レーザ光A’,B’を選択するものとする。
ビームずれ検出部6は、任意の2つのレーザ光A’,B’を選択すると、レーザ光A’のドップラー速度とレーザ光B’のドップラー速度との相互相関係数を算出する(ステップST2)。
K=ΣV1,i×V2,i/(ΣV1,i2×ΣV2,i21/2
ただし、Kは相互相関係数、V1,iはi番目に観測されたレーザ光A’のドップラー速度、V2,iはi番目に観測されたレーザ光B’のドップラー速度である。
また、Σはi=1〜Nまでのドップラー速度、または、ドップラー速度の2乗値の総和を意味する記号である。Nは各ドップラー速度のデータ数である。
【0038】
ここで、ビーム方向が異なるドップラー速度は、同じ風を異なる方向に射影したものであり、両者は異なる値を有する。しかし、風速が大きいときは、いずれの方向への射影成分も大きくなり、逆に風速が小さいときは、いずれの方向への射影成分も小さくなることから、ドップラー速度の時間変動のパタンは、いずれのビーム方向でも同様の特徴を有することになる。
したがって、2つのドップラー速度の時間変動パタンが類似する場合は、2つのドップラー速度が同じ空間位置で計測されたものであると見なすことができる。逆に2つのドップラー速度の時間変動パタンが類似しない場合は、2つのドップラー速度が別の空間位置で計測されたものであるとみなすことができる。このため、時間変動パタンの類似性が低い場合には、ビームずれの発生を認定することができる。
【0039】
ビームずれ検出部6は、上記のようにして、レーザ光A’,B’を選択して、レーザ光A’,B’のドップラー速度に係る相互相関係数Kを算出すると、レーザ光A’,B’,C’の中から、レーザ光A’,B’以外の組み合わせも選択し、同様にして、ドップラー速度に係る相互相関係数Kを算出する(ステップST3)。
即ち、レーザ光B’,C’を選択して、レーザ光B’,C’のドップラー速度に係る相互相関係数Kを算出し、また、レーザ光C’,A’を選択して、レーザ光C’,A’に係るドップラー速度の相互相関係数Kを算出する。
【0040】
ビームずれ検出部6は、上記のようにして、各組み合わせのドップラー速度の相互相関係数Kを算出すると、これらの相互相関係数Kと予め設定された閾値を比較し、これらの相互相関係数Kの中に、予め設定された閾値より小さい相互相関係数Kがあれば(ステップST4)、ビーム方向が観測点4からずれているレーザ光の存在を認定して、ビームずれの発生を使用者に知らせるため、例えば、レーダ装置のランプを点灯するなどの処理を実施する(ステップST5)。また、風速ベクトルが自動記録される場合には、ビームずれが発生している可能性があることを示すフラグを書き込むようにしてもよい。
【0041】
ここでは、ビームずれ検出部6が、ビーム方向が観測点4からずれているレーザ光の存在を認定するものについて示したが、下記に示すように、ビームずれ検出部6がビームずれが発生しているレーザ光を検出するようにしてもよい。
例えば、レーザ光A’,B’のドップラー速度に係る相互相関係数Kと、レーザ光C’,A’に係るドップラー速度の相互相関係数Kとが閾値より小さい場合、両方の相互相関係数Kに関係しているレーザ光Aのビームずれが検出される。
また、レーザ光A’,B’のドップラー速度に係る相互相関係数Kと、レーザ光B’,C’に係るドップラー速度の相互相関係数Kとが閾値より小さい場合、両方の相互相関係数Kに関係しているレーザ光Bのビームずれが検出される。
また、レーザ光B’,C’のドップラー速度に係る相互相関係数Kと、レーザ光C’,A’に係るドップラー速度の相互相関係数Kとが閾値より小さい場合、両方の相互相関係数Kに関係しているレーザ光Cのビームずれが検出される。
【0042】
以上で明らかなように、この実施の形態4によれば、信号処理部5により解析されたレーザ光A’,B’,C’のドップラー速度における時間変動を相互に比較し、その比較結果を参照して、ビーム方向が観測点4からずれているレーザ光A,B,Cを検出するように構成したので、使用者がビームずれを解消して、風速ベクトルの計測精度を高めることができる効果を奏する。
【0043】
なお、この実施の形態4では、2つのドップラー速度の時間変動の類似度として、相互相関係数を算出するものについて示したが、時間変動成分を強調するために、2つのドップラー速度の時間変動成分における相互相関係数を算出するようにしてもよい。
即ち、ビームずれ検出部6がレーザ光A’,B’,C’のドップラー速度の平均値(時間的に変動しない成分)を計算し、レーザ光A’,B’,C’のドップラー速度からレーザ光A’,B’,C’のドップラー速度の平均値をそれぞれ減算するようにする。
A”=レーザ光A’のドップラー速度−レーザ光A’のドップラー速度の平均値
B”=レーザ光B’のドップラー速度−レーザ光B’のドップラー速度の平均値
C”=レーザ光C’のドップラー速度−レーザ光C’のドップラー速度の平均値
そして、ビームずれ検出部6が、減算後のドップラー速度A”,B”に係る相互相関係数K、減算後のドップラー速度B”,C”に係る相互相関係数K、減算後のドップラー速度C”,A”に係る相互相関係数Kを算出するようにする。
【0044】
この実施の形態4では、ビームずれ検出部6が相互相関係数を算出するものについて示したが、時間変動の類似度を表すものであれば、相互相関係数に限るものではなく、相互相関係数以外の量を評価値として算出するようにしてもよい。
【0045】
実施の形態5.
図6はこの発明の実施の形態5によるレーダ装置を示す構成図であり、図において、図4と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
反射鏡制御部7はビームずれ検出部6によりビーム方向が観測点4からずれているレーザ光が検出されると、反射鏡調整部8a,8b,8cを制御して、そのレーザ光のビーム方向を調整する。
反射鏡調整部8a,8b,8cは反射鏡3a,3b,3cにおける鏡面の法線の方位角と仰角の2軸(反射鏡軸)の変更が可能な架台で構成されており、反射鏡制御部7の指示の下、ビーム方向が観測点4からずれているレーザ光のビーム方向を調整する。
なお、反射鏡制御部7及び反射鏡調整部8a,8b,8cからビーム方向調整手段が構成されている。
図7はこの発明の実施の形態5によるレーダ装置の処理内容を示すフローチャートである。
【0046】
次に動作について説明する。
反射鏡制御部7は、ビームずれ検出部6が、上記実施の形態4と同様にして、ビーム方向が観測点4からずれているレーザ光を検出すると、反射鏡調整部8a,8b,8cを制御して、そのレーザ光のビーム方向を調整する。
具体的には、下記の通りである。
【0047】
反射鏡制御部7は、ビームずれ検出部6により算出された相互相関係数Kの中で、一番低い相互相関係数Kを特定し、その相互相関係数Kに係るレーザ光の組み合わせを抽出する(ステップST11)。ここでは、説明の便宜上、レーザ光A’,B’のドップラー速度に係る相互相関係数Kが最も低く、レーザ光A’,B’の組み合わせを抽出するものとする。
【0048】
反射鏡制御部7は、レーザ光A’,B’の組み合わせを抽出すると、レーザ光A’について、他のレーザ光との相互相関係数Kの平均値を算出する(ステップST12)。
図6の例では、レーザ光A’以外には、レーザ光B’,C’が存在しているので、レーザ光A’,B’のドップラー速度に係る相互相関係数Kと、レーザ光C’,A’のドップラー速度に係る相互相関係数との平均値を算出する。
【0049】
次に、反射鏡制御部7は、レーザ光B’について、他のレーザ光との相互相関係数Kの平均値を算出する(ステップST13)。
図6の例では、レーザ光B’以外には、レーザ光C’,A’が存在しているので、レーザ光A’,B’のドップラー速度に係る相互相関係数Kと、レーザ光B’,C’のドップラー速度に係る相互相関係数との平均値を算出する。
【0050】
反射鏡制御部7は、レーザ光A’についての相互相関係数Kの平均値とレーザ光B’についての相互相関係数Kの平均値とを比較し、その平均値が小さい方のレーザ光を選択する(ステップST14)。
反射鏡制御部7は、例えば、レーザ光A’を選択すると、反射鏡調整部8aを制御して、レーザ光A’についての相互相関係数Kが大きくなるように、反射鏡3aの向きを調整する(ステップST15)。
また、レーザ光B’を選択すると、反射鏡調整部8bを制御して、レーザ光B’についての相互相関係数Kが大きくなるように、反射鏡3bの向きを調整する(ステップST15)。
【0051】
具体的には、次のようにして、反射鏡の向きを調整する。
反射鏡の向きは反射面の法線ベクトルで定義され、法線ベクトルは、例えば仰角と方位角というように、2次元で表現することができる。よって、反射鏡の向きの修正は2つの軸(例えば、仰角と方位角)で調整することができる。ここでは、反射鏡軸(1)と反射鏡軸(2)の2軸で反射鏡の軸が調整されるものとして説明する。
【0052】
例えば、レーザ光Aを反射する反射鏡3aの向きを調整する場合、反射鏡調整部8aが反射鏡制御部7の指示の下、反射鏡3aの反射鏡軸(1)を正の方向に修正し、ビームずれ検出部6がレーザ光A’,B’のドップラー速度をそれぞれ複数回計測して、レーザ光A’,B’のドップラー速度に係る相互相関係数Kを算出する。
反射鏡制御部7は、レーザ光A’,B’のドップラー速度に係る相互相関係数Kが、ビーム方向の修正前と比べて大きくなれば、ビーム修正方向が適切であると判断して、この方向へのビーム方向の修正を維持する。
逆に、レーザ光A’,B’のドップラー速度に係る相互相関係数Kが、ビーム方向の修正前と比べて小さくなれば、ビーム修正方向が逆向きであると判断して、ビーム修正方向を逆向きに変更する(反射鏡軸(1)の負の方向にビーム修正方向を変更する)。
【0053】
次に、反射鏡調整部8aが反射鏡制御部7の指示の下、反射鏡3aの反射鏡軸(2)を正の方向に修正し、ビームずれ検出部6がレーザ光A’,B’のドップラー速度をそれぞれ複数回計測して、レーザ光A’,B’のドップラー速度に係る相互相関係数Kを算出する。
反射鏡制御部7は、レーザ光A’,B’のドップラー速度に係る相互相関係数Kが、ビーム方向の修正前と比べて大きくなれば、ビーム修正方向が適切であると判断して、この方向へのビーム方向の修正を維持する。
逆に、レーザ光A’,B’のドップラー速度に係る相互相関係数Kが、ビーム方向の修正前と比べて小さくなれば、ビーム修正方向が逆向きであると判断して、ビーム修正方向を逆向きに変更する(反射鏡軸(2)の負の方向にビーム修正方向を変更する)。
【0054】
反射鏡調整部8aは、反射鏡制御部7の指示の下、反射鏡軸(1)と反射鏡軸(2)のビーム方向修正を交互に繰返しながら、相互相関係数Kが十分に大きくなるまで、あるいは、相互相関係数Kが変化しなくなるまで実施する。
【0055】
以上で明らかなように、この実施の形態5によれば、ビームずれ検出部6によりビーム方向が観測点4からずれているレーザ光が検出されると、反射鏡調整部8a,8b,8cを制御して、そのレーザ光のビーム方向を調整するように構成したので、ビームずれが発生しても、自動的にビームずれを解消して、風速ベクトルの計測精度を高めることができる効果を奏する。
【0056】
なお、この実施の形態5では、1つのレーザ光のビーム方向のみを調整するものについて示したが、ビームずれ検出部6によりビームずれが検出されたレーザ光が複数存在する場合、複数のレーザ光のビーム方向を調整するようにする。
【0057】
上記実施の形態1〜5では、送信波としてレーザ光を用いるレーダ装置について説明したが、レーダ装置が送信波として電波を用いるようにしてもよく、同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーダ装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2によるレーダ装置の風速計測例を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態3によるレーダ装置を示す構成図である。
【図4】この発明の実施の形態4によるレーダ装置を示す構成図である。
【図5】この発明の実施の形態4によるレーダ装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態5によるレーダ装置を示す構成図である。
【図7】この発明の実施の形態5によるレーダ装置の処理内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1 送受信部(電磁波生成手段)、2 ビーム放射部(電磁波放射手段、電磁波受信手段)、3a,3b,3c 反射鏡(ビーム方向切換手段)、4 観測点、5 信号処理部(風速ベクトル算出手段)、6 ビームずれ検出部(ビームずれ検出手段)、7 反射鏡制御部(ビーム方向調整手段)、8a,8b,8c 反射鏡調整部(ビーム方向調整手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を生成する電磁波生成手段と、上記電磁波生成手段により生成された電磁波のビーム方向を切り換えながら、その電磁波を大気中に放射する電磁波放射手段と、上記電磁波放射手段により電磁波が放射される方向に設置され、その電磁波のビーム方向を観測点が存在している方向に切り換えるビーム方向切換手段と、上記観測点により反射されたビーム方向が異なる複数の電磁波を受信する電磁波受信手段と、上記電磁波受信手段により受信された複数の電磁波のドップラー速度を解析し、複数のドップラー速度を合成して風速ベクトルを算出する風速ベクトル算出手段とを備えたレーダ装置。
【請求項2】
電磁波放射手段は、大気中に放射する電磁波を観測点に集光させる集光機能を備えていることを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
電磁波生成手段は、距離分解能を取得することが可能な変調方式で電磁波を変調し、変調後の電磁波を電磁波放射手段に出力することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
電磁波放射手段により切り換えられるビーム方向の数がN個である場合、N個のビーム方向切換手段が設置され、その電磁波放射手段から放射される電磁波がN個のビーム方向切換手段に反射されて観測点に放射されることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項5】
電磁波放射手段により切り換えられるビーム方向の数がN個である場合、N−1個のビーム方向切換手段が設置され、その電磁波放射手段から放射される電磁波がN−1個のビーム方向切換手段に反射されて観測点に放射されるとともに、その電磁波放射手段から放射される電磁波が直接観測点に放射されることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項6】
風速ベクトル算出手段により解析された複数の電磁波のドップラー速度における時間変動を相互に比較し、その比較結果を参照して、ビーム方向が観測点からずれている電磁波を検出するビームずれ検出手段を設けたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項7】
ビームずれ検出手段は、複数の電磁波のドップラー速度における相互相関係数を算出し、その相互相関係数が予め設定された閾値より小さければ、ビーム方向が観測点からずれている電磁波の存在を認定することを特徴とする請求項6記載のレーダ装置。
【請求項8】
ビームずれ検出手段は、複数の電磁波のドップラー速度の変動成分における相互相関係数を算出し、その相互相関係数が予め設定された閾値より小さければ、ビーム方向が観測点からずれている電磁波の存在を認定することを特徴とする請求項6記載のレーダ装置。
【請求項9】
ビームずれ検出手段によりビーム方向が観測点からずれている電磁波が検出されると、ビーム方向切換手段により切り換えられる電磁波のビーム方向を調整するビーム方向調整手段を設けたことを特徴とする請求項6記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−170859(P2007−170859A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365292(P2005−365292)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】