説明

レーダ装置

【課題】相対速度が0の物体があった場合でも、検出できるとともに、測定誤差を低減できるレーダ装置を提供することにある。
【解決手段】ランプ波形発生手段120A,120Bは、時間と共にその出力電圧が変化するランプ電圧を発生する。ランプ波形発生手段は、任意電流を発生する任意電流発生手段122と、任意電流発生手段が出力する電流を積分してランプ電圧を発生する積分手段124,126とを備える。スイッチ手段140は、ランプ波形発生手段120Bの出力と基準電圧とを交互に切り替えて出力する。合成手段150は、ランプ波形発生手段120Aの出力と、スイッチ手段140の出力とを合成する。高周波発生手段は、合成手段150の出力電圧を周波数信号に変換し、高周波信号を出力する。制御手段11は、任意電流発生手段122及びスイッチ手段140を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的な電波を用いて障害物を検知するレーダ装置に関し、特に、検知物の位置と自車に対する相対速度とを計測する車載用に用いるに好適なレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行時に障害物や前方走行車までの距離を計測する装置として、ミリ波を利用したレーダ装置が広く利用されている。レーダ装置は、電波を放射し、障害物や車両などの物体からの反射波を受信する。そして、受信した反射波の強弱、周波数のドップラーシフト、電波の発射から反射波の受信までの伝搬時間などを検出し、その結果から物体までの距離や相対速度を計測する。近年では、このようなレーダ装置を自動車に搭載し、障害物や先行車を検出し、その結果に基づいて運転制御をおこなう定速走行装置や車間距離制御装置が開発、実用化されている。
【0003】
以上のような目的で使用されるレーダの変調方式として、2周波CW(Continuous Wave)方式が知られている。2周波CW方式では、周波数f1、f2の2つの電波を切り替え遷移しながら送信する。そして物体で反射して戻ってきた反射波を受信し、送受信信号をミキシングすることで、周波数f1、f2の二つの送信信号に対してそれぞれビート信号が得られる。このビート信号を用いて、ターゲットとの相対速度や、ターゲットまでの距離を得ることができる。
【0004】
しかしながら、2周波CW方式では、相対速度0のターゲットについては、ドップラーシフトが生じないためビート信号が検出されず、ターゲットを検出することができないものである。また、相対速度が同じ複数のターゲットが存在する場合では、それらの反射信号が同一のビート周波数として計測されるため、分離検出することができないものである。
【0005】
それに対して、2つの送信波に周波数勾配を持たせた周波数パターンを送信するもの(以下、「2周波ランプ方式」と称する)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この方式では、例えばレーダとの相対速度が0の物体があった場合、その物体で反射して戻ってきた受信波の周波数は、その受信波を受信した時に送信している電波の周波数と異なる。そのため、送受信信号をミキシングすると、物体までの距離に応じたビート周波数が計測される。そしてその物体までの距離や相対速度は2周波CW方式と同じ演算によって求めることができる。
【0007】
また、相対速度が等しい複数の物体が存在する場合であっても、それらの物体までの距離が異なっていればビート周波数も異なる。そして物体までの距離や相対速度は2周波CW方式と同じ演算によって求めることができる。
【0008】
【特許文献1】特開平10−253753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、2周波ランプ方式においては、次の問題があることが判明した。すなわち、2周波ランプ方式のレーダでは、電波の周波数は時間に対して直線的に変化させる必要がある。放射する電波の周波数を変化させる手段として、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)を用いて、VCOの入力電圧を時間に対して直線的に変化させるのが一般的である。しかし、VCOの入力電圧に対する出力周波数の変化が直線的でない場合、時間が進むにつれて理想的な直線の傾きに対して実際の周波数がずれることになる。その結果、物体までの距離や相対速度に対して、測定誤差が生じることになる。
【0010】
すなわち、2周波CW方式レーダにおいては、レーダが放射する電波の周波数は時間に対して2つの固定値を遷移するのみであったので、VCOの入力電圧に対する出力周波数の直線性は問題とならなかったが、2周波ランプ方式のレーダでは、これが時間に対する出力周波数の直線性となり、測定誤差が生じ、レーダ性能劣化の原因となることが判明した。
【0011】
本発明の目的は、2周波ランプ方式を用いることにより、相対速度が0の物体があった場合や、相対速度が等しい複数の物体が存在する場合でも、検出できるとともに、測定誤差を低減できるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記課題を解決するために、本発明は、時間軸に対して周波数傾きを持つ少なくとも2つの周波数掃引直線に従う電波を周期的に切り替え遷移しながら送出する2周波ランプ発生手段を有し、この電波を放射しその反射波を処理して物体までの距離や相対速度を求めるレーダ装置であって、前記2周波ランプ発生手段は、時間と共にその出力電圧が変化するランプ電圧を発生する第1のランプ波形発生手段と、時間と共にその出力電圧が変化するランプ電圧を発生する第2のランプ波形発生手段と、該第2のランプ波形発生手段の出力と基準電圧とを交互に切り替えて出力するスイッチ手段と、前記第1のランプ波形発生手段の出力と、前記スイッチ手段の出力とを合成する合成手段と、該合成手段の出力電圧を周波数信号に変換し、高周波信号を出力する高周波発生手段と、前記第1及び第2のランプ波形発生手段及び前記スイッチ手段を制御する制御手段を備え、前記第1及び第2のランプ波形発生手段は、それぞれ、任意電流を発生する任意電流発生手段と、該任意電流発生手段が出力する電流を積分してランプ電圧を発生する積分手段とを備えるようにしたものである。
かかる構成により、2周波ランプ方式を用いることにより、相対速度が0の物体があった場合や、相対速度が等しい複数の物体が存在する場合でも、検出できるとともに、測定誤差を低減できるものとなる。
【0013】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記合成手段は、前記第1のランプ波形発生手段の出力電圧に対して、前記第2のランプ波形発生手段の出力を1/n倍で合成するようにしたものである。
【0014】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記制御手段は、前記任意電流発生手段が出力する電流を変化させることで、前記高周波発生手段における時間に対する周波数の変化の非直線性を補完するように、前記ランプ波形発生手段が出力するランプ電圧の非直線性を変えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、2周波ランプ方式を用いることにより、相対速度が0の物体があった場合や、相対速度が等しい複数の物体が存在する場合でも、検出できるとともに、測定誤差を低減できるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1〜図6を用いて、本発明の一実施形態によるレーダ装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態によるレーダ装置の全体構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるレーダ装置の全体構成を示すブロック図である。
【0017】
2周波ランプ信号発生手段100は、2つの送信波に周波数勾配を持たせた周波数パターンを送信する。すなわち、2周波ランプ信号発生手段100は、時間軸に対して周波数傾きを持つ少なくとも2つの周波数掃引直線に従う電波を周期的に切り替え遷移しながら送出する、2周波ランプ信号発生手段100が発生した2周波ランプ信号は、送信用電力アンプTxAmpにより増幅された上で、送信アンテナTxから放射される。ターゲットにより反射され、戻ってきた信号は、受信アンテナRxにより受信される。受信機Rcvは、受信アンテナRxにより受信された信号と、2周波ランプ信号発生手段100が発生した2周波ランプ信号と混合され、両者の位相差に対応した出力信号が得られる。受信機Revにより得られた信号は、A/D変換器によりディジタル信号に変換され、信号処理手段MPUに入力する。信号処理手段MPUは、受信機Rcvから得られた信号に、所望の演算をすることで、ターゲットとの相対速度や、ターゲットまでの距離を算出する。
【0018】
次に、図2を用いて、本実施形態によるレーダ装置に用いる2周波ランプ信号発生手段100の構成について説明する。
図2は、本発明の一実施形態によるレーダ装置に用いる2周波ランプ信号発生手段の構成を示すブロック図である。
【0019】
2周波ランプ信号発生手段100は、制御手段110と、ランプ波形発生手段120A,120Bと、基準電圧発生手段130と、スイッチ手段140と、合成手段150と、高周波発生手段160とを備えている。
【0020】
高周波発生手段160は、その内部に、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)を備えている。また、ランプ波形発生手段120A,120Bは、時間とともに、その出力電圧が変化するランプ波形信号を出力する。高周波発生手段160の中のVCOの入力電圧が、ランプ波形発生手段120A,120Bが出力するランプ波形信号に応じて変化することで、高周波発生手段160が発生する高周波の周波数を時間とともに変化させることができる。
【0021】
ここで、VCOは、入力電圧に対する出力周波数の変化が直線的でない。そこで、本実施形態におけるランプ波形発生手段120A,120Bは、このVCOにおける入力電圧に対する出力周波数の非直線性を補正して、高周波発生手段160が発生する高周波の周波数が時間とともに直線的に変化するようにしている。この原理については、図3を用いて説明する。
【0022】
ここで、図3〜図5を用いて、本実施形態によるレーダ装置に用いる2周波ランプ信号発生手段における各部の特性について説明する。
図3は、本発明の一実施形態によるレーダ装置に用いる2周波ランプ信号発生手段における各部の特性図である。図4及び図5は、2周波ランプ信号発生手段の出力信号の周波数が時間と共に非直線的に変化した場合の問題点の説明図である。
【0023】
図3において、図3(A)は、仮に、ランプ波形発生手段120Aの出力電圧Vが、時間tとともに直線的に変化した場合について示している。高周波発生手段160の中に用いられるVCOの特性は、横軸を入力電圧Vとし、縦軸を出力周波数fとすると、図示するように、下に凸の非線形性を有する。したがって、ランプ波形発生手段120Aの出力電圧Vが、時間tとともに直線的に変化した場合、高周波発生手段の出力信号の周波数fは、時間tとともに、下に凸の非直線的に変化することになる。この場合は、図4及び図5により後述する理由により、測定誤差を生じることになる。
【0024】
それに対して、図3(B)は、本実施形態において、ランプ波形発生手段120Aの出力電圧Vが、時間tとともに、上に凸の非直線的に変化させた場合について示している。高周波発生手段160の中に用いられるVCOの特性は、横軸を入力電圧Vとし、縦軸を出力周波数fとすると、図示するように、下に凸の非線形性を有する。したがって、ランプ波形発生手段120Aの出力電圧Vが、時間tとともに非直線的に変化した場合、その時間変化分を適切に制御することで、高周波発生手段の出力信号の周波数fは、時間tとともに、直線的に変化するようにできる。
【0025】
次に、図4及び図5を用いて、高周波発生手段160の出力信号が非直線的に変化した場合の問題点について説明する。
【0026】
図4(A)は、一般的なVCOの入力電圧に対する出力周波数の関係を示している。すなわち、図3(A),(B)に示したVCOの特性と同じものである。図4(B)は、ランプ信号発生手段が出力する時間に対する電圧の関係を示している。ここでは、ランプ信号発生手段が、図3(A)に示したように、直線的に変化した場合を示している。図4(C)は、図4(A)に示したVCOを用いたレーダの時間に対する出力周波数の関係を示している。
【0027】
図4(A)に示すVCOの特性として、入力電圧Vが上昇するにつれて単位電圧あたりの周波数fの変化幅(変調感度)は大きくなるものとし、電圧V1からV2の区間での変調感度をMS12、電圧V2からV3の区間での変調感度をMS23、電圧V3からV4の区間での変調感度をMS34…とする。
【0028】
図4(B)に示すランプ信号発生手段の出力は、図示のように、時間fに対して一定の傾きで電圧Vが変化するものとする。本実施形態では、2周波ランプ方式を用いるため、第1の周波数掃引直線の初期値f1を決定する電圧をV1とし、第2の周波数掃引直線の初期値f2を決定する電圧をV2とする。
【0029】
この場合に、時間に対してレーダが放射する電波の周波数は、図4(C)に示すようになる。時間T1からT2までの期間において第1の周波数掃引直線はVCO入力が電圧V1からV2まで変化するので変調感度MS12に相当する傾きS12で変化し、第2の周波数掃引直線はVCO入力が電圧V2からV3のまで変化するので変調感度MS23に相当する傾きS23で変化する。時間T2からT3までの期間においては第1の周波数掃引直線は傾きS23で変化し、第2の周波数掃引直線は傾きS34で変化する。以下同様に出力されることになり、時間が進むにつれて理想的な直線の傾きS12に対して実際の周波数がずれることになる。
【0030】
図5は、図4で説明した電波と、この電波がある距離に存在するレーダとの相対速度0の物体にあたって反射し戻ってきた電波との関係を示している。また、簡単の為単位時間毎に切替えている周波数掃引直線のうち第1の周波数掃引直線のみに着目して説明する。時間T1で送信した周波数Ft1の電波は物体にあたって反射し時間T1’後にレーダに受信されるとする。時間T1’の時点ではレーダはFt1’の周波数を出力しているのでミキサの出力はFt1’−Ft1でとなる。時間の経過と共にミキサの出力はFt2’−Ft2やFt3’−Ft3のように期待値であるFt1’−Ft1よりも大きくなり、相対速度における測定誤差となる。
【0031】
更に図4で説明したように第1の周波数掃引直線と第2の周波数掃引直線が並行でない場合には、ターゲットまでの距離を演算する際にも誤差が生じる。
【0032】
次に、図2及び図6を用いて、本実施形態によるレーダ装置に用いる2周波ランプ信号発生手段100の構成及び動作について説明する。
図6は、本発明の一実施形態によるレーダ装置に用いる2周波ランプ信号発生手段の動作説明図である。
【0033】
図2に示したランプ波形発生手段120Aと、ランプ波形発生手段120Bは、同一の構成を有している。ただし、制御手段110からランプ波形発生手段120A,120Bに与えられる制御信号が異なるため、それぞれの出力電圧は異なるものである。ここでは、ランプ波形発生手段120Aを例にして、その具体的な構成を説明する。
【0034】
ランプ波形発生手段120Aは、任意電流発生手段122と、オペアンプ124と、オペアンプ124の入出力端子間に接続されたコンデンサ126と、コンデンサ126と平行に接続されたスイッチ128とを備えている。
【0035】
任意電流発生手段122は、任意の電流を発生する手段である。任意電流発生手段122は、例えば、D/Aコンバータと、D/Aコンバータの出力に接続される抵抗とから構成される。制御手段110から任意電流発生手段122に出力するディジタル電圧値を可変することで、任意電流発生手段122の出力電流が変化する。
【0036】
オペアンプ124とコンデンサ126とにより積分器を構成する。その積分定数は、コンデンサ126の容量と入力抵抗Rinによって決定される固定値である。スイッチ128がオフからオンに変わると、積分を開始し、ランプ波形の電圧を出力する。スイッチ128のオンオフは、制御手段110によって制御される。
【0037】
ここで、前述のように、制御手段110から任意電流発生手段122に出力するディジタル電圧値を可変することで、任意電流発生手段122の出力電流が変化し、結果として、オペアンプ124の出力電圧V1は、制御手段110の出力ディジタル電圧に応じて、時間と共に、非直線的に変化するようにすることができる。すなわち、第1電圧波形Vs1の傾きS1と、第2電圧波形Vs2の傾きS2からなるランプ波形の傾きを変更できる。図6(A)の電圧V1は、ランプ波形発生手段120Aの出力を示しており、その傾きは(S1+S2)/2である。スイッチ128がオンしている期間は、例えば、40msである。スイッチ128がオンしている期間は、コンデンサ124にチャージされた電荷が放電されるに十分な短期間である。
【0038】
次に、ランプ波形発生手段120Bと、基準電圧発生手段130と、スイッチ手段140と、合成手段150との動作を説明する前に、図6(B)を用いて、合成手段150の出力電圧波形について説明する。
【0039】
図6(B)において、破線は、図6(A)における電圧V1の波形である。合成手段150の出力は、電圧Vf1から始まり、時間Ts1の間電圧が上昇する微小ランプ電圧波形と、電圧Vf2から電圧が上昇したものとして、時間Ts1が経過した時点における電圧から始まり、時間Ts2の間電圧が上昇する微小ランプ電圧波形と、電圧Vf1から始まり、時間Ts1+Ts2経過した時点における電圧から始まり、再び時間Ts1の間電圧が上昇する微小ランプ電圧波形と、電圧Vf1から始まり、時間Ts1+Ts2+Ts1経過した時点における電圧から始まり、再び時間Ts2の間電圧が上昇する微小ランプ電圧波形との繰り返し波形となる。すなわち、電圧Vf1から電圧上昇が始まる電圧波形をパルス状にした第1電圧波形Vs1と、電圧Vf2から電圧上昇が始まる電圧波形をパルス状にした第2電圧波形Vs2との間を時間単位で遷移した波形となる。第1電圧波形Vs1の傾きは、S1であり、第2電圧波形Vs2の傾きはS2である。
【0040】
ここで、時間Ts1と時間Ts2とは等しいものとして、例えば、それぞれ10μsである。すなわち、周波数100kHzのパルス波形である。このパルス波形は、時間T1,例えば、40ms毎に繰り返される。
【0041】
また、電圧Vf1は、例えば、3.497Vであり、電圧Vf2は、例えば、3.503Vである。時刻t0から時間T1後の時刻t1における電圧Vf1’は、例えば、4.498Vであり、電圧Vf2’は、例えば、4.502Vである。すなわち、時刻t0における第1電圧波形と第2電圧波形の差ΔVfは、0.006Vであるのに対して、時刻t1における第1電圧波形と第2電圧波形の差ΔVf’は、0.004Vであり、両者の差が次第に小さくなるように電圧が変化する。なお、時刻t0における第1電圧波形と第2電圧波形の差ΔVfと、時刻t1における第1電圧波形と第2電圧波形の差ΔVf’が等しいものでもよく、また、時刻t0における第1電圧波形と第2電圧波形の差ΔVfよりも、時刻t1における第1電圧波形と第2電圧波形の差ΔVf’が大きくなるように電圧が変化するものでもよい。ここでは、時刻t0における第1電圧波形と第2電圧波形の差ΔVfよりも、時刻t1における第1電圧波形と第2電圧波形の差ΔVf’が小さくなるものとして説明する。
【0042】
図6(A)に戻り、パルス状の電圧波形V2は、スイッチ手段140の出力電圧V2を示している。電圧V2は、0Vを基準としたパルス状の電圧である。パルス状の電圧は、時刻t0から時間Ts1の間ハイレベルであり、次の時間Ts2の間ローレベルである電圧の繰り返しである。時刻t0においては、パルスの波高値が、n×(Vf1−Vf2)となっている。ここで、前述の説明では、電圧Vf1は、例えば、3.497Vであり、電圧Vf2は、例えば、3.503Vであるので、nを100とすると、時刻t0におけるパルスの波高値は、0.6Vとなる。一方、時刻t1においては、パルスの波高値が、n×(Vf1’−Vf2’)となっている。前述の説明では、電圧Vf1’は、例えば、3.498Vであり、電圧Vf2’は、例えば、3.502Vであるので、nを100とすると、時刻t0におけるパルスの波高値は、0.4Vとなる。すなわち、波高値は、点線V3で示すように、0.6Vから0.4Vまで徐々に変化する電圧波形をパルス状にしたものである。ここで、点線V3で示す電圧波形は、ランプ波形であり、その傾きは、n×(S2−S1)である。
【0043】
電圧V3は、図2に示したランプ波形発生手段120Bの出力電圧である。すなわち、ランプ波形発生手段120Bの構成は、ランプ波形発生手段120Aと同様であるが、制御手段110からランプ波形発生手段120Bの任意電流発生手段に与えられるディジタル電圧を0.6Vとし、徐々に電圧値を減少させることで、図6(B)に点線V3で示される電圧を発生する。
【0044】
一方、図2の基準電圧発生手段130は、0Vを出力する。なお、基準電圧発生手段130は、他の固定値の電圧を発生するようにしてもよいものである。スイッチ手段140は、制御手段110から指令により、ランプ波形発生手段120Bの出力と、基準電圧発生手段130の出力を交互に切り替えて、合成手段150に出力する。制御手段110からスイッチ手段140に供給される切替信号は、100kHzの信号である。その結果、スイッチ手段140の出力電圧は、図6(A)に示す電圧V2の波形となる。
【0045】
図2の合成手段150は、直流分カット用のコンデンサC1と、抵抗R1と、抵抗Rnとから構成される。コンデンサC1と抵抗Rnの直列回路がスイッチ手段140の出力に接続され、抵抗R1は、ランプ波形発生手段120Aの出力に接続されている。図6(A)に示したスイッチ手段140の出力である直流パルス電圧は、コンデンサC1によって直流分をカットされ、交流パルス信号となる。ここで、抵抗R1と抵抗Rnの抵抗値の比は、1:nとしている。すなわち、コンデンサC1の出力である交流パルス信号は、1/nに減圧された上で、ランプ波形発生手段120Aの出力であるランプ電圧V1に合成される。その結果、合成手段150の出力電圧は、図6(B)に示した2種類の電圧に対するパルス状のランプ電圧Vs1,Vs2となる。
【0046】
合成手段150の出力は、高周波発生手段160の内部のVCOにより周波数信号に変換される。このとき、2種類の電圧に対するパルス状のランプ電圧Vs1,Vs2の傾きS1,S2が、図3(B)で示したように、VCOのV−f特性の非直線状の傾きを補完するように制御手段110により制御することで、高周波発生手段160が出力する高周波信号の周波数を、直線状に時間変化させることができる。
【0047】
なお、以上の説明では、ランプ波形発生手段120Bは、本来必要な差電圧(Vf2−Vf1)のn倍(上述の例では、100倍)の電圧を発生するようにしている。差電圧(Vf2−Vf1)は、上述の例では、0.006Vと数mVと小さい電圧であるが、これをn倍(例えば、100倍)することで、電圧精度を向上できる。n倍した電圧を合成手段150で1/n倍することで、本来必要とする電圧が得られ、しかも、精度を向上できるものである。
【0048】
また、ランプ波形発生手段120Aの出力電圧Vs1と、ランプ波形発生手段120Bの出力電圧Vs2の時間に対する傾きの差(S2−S1)についても同様に従来のn倍の精度が実現できるため、制御回路の設計が簡単になる。
【0049】
従来、2種類のランプ波形発生手段の直線性精度が悪い場合には、傾きS1とS2がともすれば逆転する可能性があったが、本実施形態では、逆転することが無くなる。これにより、高周波発生手段160の電圧Vに対する発振周波数fの非直線性を、高周波発生手段に入力する非直線状の電圧波形により、補完する場合にも両者の誤差分の周波数Δfを意図通りに制御することができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、高周波発生装置の電圧に対する発振周波数の直線性を補正し、高周波発生装置の出力が時間軸に対して直線的な周波数掃引直線となる様に制御することができる。その結果、2周波ランプ方式を用いることにより、相対速度が0の物体があった場合や、相対速度が等しい複数の物体が存在する場合でも、検出できるとともに、測定誤差を低減できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態によるレーダ装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態によるレーダ装置に用いる2周波ランプ信号発生手段の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態によるレーダ装置に用いる2周波ランプ信号発生手段における各部の特性図である。
【図4】2周波ランプ信号発生手段の出力信号の周波数が時間と共に非直線的に変化した場合の問題点の説明図である。
【図5】2周波ランプ信号発生手段の出力信号の周波数が時間と共に非直線的に変化した場合の問題点の説明図である。
【図6】本発明の一実施形態によるレーダ装置に用いる2周波ランプ信号発生手段の動作説明図である。
【符号の説明】
【0052】
100…2周波ランプ発生手段
120A,120B…ランプ波形発生手段
130…基準電圧発生手段
140…スイッチ手段
150…合成手段
160…高周波発生手段
128…スイッチ
124…オペアンプ
126…コンデンサ
122…任意電流発生手段
110…制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間軸に対して周波数傾きを持つ少なくとも2つの周波数掃引直線に従う電波を周期的に切り替え遷移しながら送出する2周波ランプ発生手段を有し、この電波を放射しその反射波を処理して物体までの距離や相対速度を求めるレーダ装置であって、
前記2周波ランプ発生手段は、
時間と共にその出力電圧が変化するランプ電圧を発生する第1のランプ波形発生手段と、
時間と共にその出力電圧が変化するランプ電圧を発生する第2のランプ波形発生手段と、
該第2のランプ波形発生手段の出力と基準電圧とを交互に切り替えて出力するスイッチ手段と、
前記第1のランプ波形発生手段の出力と、前記スイッチ手段の出力とを合成する合成手段と、
該合成手段の出力電圧を周波数信号に変換し、高周波信号を出力する高周波発生手段と、
前記第1及び第2のランプ波形発生手段及び前記スイッチ手段を制御する制御手段を備え、
前記第1及び第2のランプ波形発生手段は、それぞれ、任意電流を発生する任意電流発生手段と、該任意電流発生手段が出力する電流を積分してランプ電圧を発生する積分手段とを備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーダ装置において、
前記合成手段は、前記第1のランプ波形発生手段の出力電圧に対して、前記第2のランプ波形発生手段の出力を1/n倍で合成することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1記載のレーダ装置において、
前記制御手段は、前記任意電流発生手段が出力する電流を変化させることで、前記高周波発生手段における時間に対する周波数の変化の非直線性を補完するように、前記ランプ波形発生手段が出力するランプ電圧の非直線性を変えることを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−300335(P2009−300335A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157217(P2008−157217)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】