レーダ装置
【課題】物標情報を高精度に求めることが可能なレーダ装置を提供すること。
【解決手段】本発明が適用されたレーダ装置は、FMCW方式のレーダ装置であり、変調周期毎に、受信結果を表すビート信号からスナップショットデータを生成する。また、各変調周期のスナップショットデータから生成した変調周期毎の自己相関行列を、複数周期分平均化し、その平均化後の自己相関行列に基づき、MUSIC法により物標方位を求める。但し、平均化は、各変調周期のスナップショットデータに含まれる雑音成分の量(干渉量)に基づき、加重平均により行う。即ち、各変調周期の自己相関行列に作用させる重み付け係数を、その変調周期の干渉量に応じた値に設定する(S570)。干渉量が小さい場合には重み付け係数を大きく、干渉量が大きい場合には、干渉量を小さくといった具合である。
【解決手段】本発明が適用されたレーダ装置は、FMCW方式のレーダ装置であり、変調周期毎に、受信結果を表すビート信号からスナップショットデータを生成する。また、各変調周期のスナップショットデータから生成した変調周期毎の自己相関行列を、複数周期分平均化し、その平均化後の自己相関行列に基づき、MUSIC法により物標方位を求める。但し、平均化は、各変調周期のスナップショットデータに含まれる雑音成分の量(干渉量)に基づき、加重平均により行う。即ち、各変調周期の自己相関行列に作用させる重み付け係数を、その変調周期の干渉量に応じた値に設定する(S570)。干渉量が小さい場合には重み付け係数を大きく、干渉量が大きい場合には、干渉量を小さくといった具合である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ波を送信すると共に、送信したレーダ波の反射波を受信し、その受信信号に基づき、反射波の発生元である物標の位置・速度・方位等の物標情報を求めるレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダ装置としては、自車前方に向けてレーダ波を発射し、その反射波の受信結果に基づいて、自車前方に存在する車両までの距離や方位、この車両と自車との相対速度を求める車載用のレーダ装置が知られている。また、この種のレーダ装置としては、FMCW方式のレーダ装置(以下、「FMCWレーダ装置」と表現する。)が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
FMCWレーダ装置では、図10上段に実線で示すように、三角波上の変調信号により周波数変調され周波数が時間に対して直線的に漸次増減する送信信号Ssをレーダ波として送信し、図11(a)に示すようにして、物標により反射されたレーダ波(反射波)を受信する。
【0004】
この時、反射波の受信信号Srは、図10上段に点線で示すように、レーダ波が物標との間を往復するのに要する時間、即ち、物標までの距離に応じた時間trだけ遅延し、物標との相対速度に応じた周波数fdだけ周波数が下がる方向にドップラシフトする。
【0005】
FMCWレーダ装置では、このような受信信号Srと送信信号Ssとをミキサで混合することにより、ビート信号BT(図10下段参照)を生成する。
そして、送信信号Ssの周波数が増加する上り区間のビート信号BTの周波数fb1と、送信信号Ssの周波数が減少する下り区間のビート信号BTの周波数fb2とから、物標との距離D及び相対速度Vを、式(1)〜(4)に従って算出する。但し、cは電波伝搬速度,fmは送信信号の変調周波数、Δfは送信信号の周波数変動幅、f0は送信信号の中心周波数である。
【0006】
【数1】
即ち、FMCWレーダ装置では、ビート信号BTをフーリエ変換し、周波数解析することで、上り区間におけるビート信号BTの反射波成分の周波数fb1と、下り区間におけるビート信号BTの反射波成分の周波数fb2とを特定し、この周波数fb1,fb2から、前方に位置する物標までの距離D及び相対速度Vを求める。
【0007】
また、物標方位については、受信アンテナであるアレーアンテナの各アンテナ素子が受信する反射波に、到来方向に応じた位相差が生じることを利用して求める。複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナを用いて、物体の方位を求める方法としては、各アンテナ素子が受信した受信信号についての自己相関行列を生成し、この自己相関行列に基づき、角度スペクトルを生成し、この角度スペクトルを解析することで、方位を求める方法が知られている。例えば、方位算出方法としては、MUSIC法やディジタルビームフォーミング(DBF)法、CAPON法などが知られている。
【0008】
ここで、方位算出方法として知られているMUSIC法について、その概要を説明する。尚、アレーアンテナは、K個のアンテナ素子を一直線上に等間隔で配置した、所謂リニアアレーアンテナであるものとする(図1参照)。
【0009】
まず、アレーアンテナの各アンテナ素子に対応するビート信号BTをフーリエ変換し、パワーのピークが立つピーク周波数での各アンテナ素子のフーリエ変換値を配列して、式(5)に示す受信ベクトルXを構成する。次に、この受信ベクトルXを用いて、式(6)に示すK行K列の自己相関行列Rxxを求める。
【0010】
【数2】
ここで、受信ベクトルXの要素xk(k=1,…,K)は、K個の各アンテナ素子について共通して得られたピーク周波数におけるk番目のアンテナ素子のフーリエ変換値(複素数)である。また、上式におけるTは、ベクトル転置を示し、Hは、複素共役転置を示す。
【0011】
ピーク周波数は、各アンテナ素子の受信信号に雑音が混入していない理想的な状態において、反射波成分の周波数を示すので、上述した周波数fb1,fb2のいずれかに該当することになる。
【0012】
一般的には、ビート信号BTを、上り区間及び下り区間の各区間に分けてフーリエ変換し、区間毎にピーク周波数を求めると共に、区間毎に、ピーク周波数での各アンテナ素子のフーリエ変換値を配列して式(5)に示す受信ベクトルXを構成する。そして、区間毎に、当該区間に対応する受信ベクトルについての自己相関行列を生成し、区間毎に、対応する自己相関行列を用いて、以下の手順で反射波を発生させた物標の方位を算出する。
【0013】
具体的には、自己相関行列Rxxの固有値λ1,…,λK(但し、λ1≧λ2≧…λk)を求め、熱雑音電力に対応する閾値λthより大きい固有値の数から到来波数Mを推定すると共に、熱雑音電力以下となる(K−M)個の固有値λM+1,…,λKに対応する固有ベクトルeM+1,…,eKを、算出する。
【0014】
そして、熱雑音電力以下となる(K−M)個の固有値λM+1,…,λKに対応した固有ベクトルeM+1,…,eKからなる雑音固有ベクトルENと、方位θに対するアレーアンテナの複素応答、即ち、ステアリングベクトルa(θ)とから、角度スペクトルとして、下式の評価関数PMU(θ)で表されるMUSICスペクトルを求める。
【0015】
【数3】
評価関数PMU(θ)で表されるMUSICスペクトルは、図11(b)に示すように、方位θが到来波の到来方向と一致すると発散して、鋭いピークが立つため、到来波の方位θ1,…,θM、即ち、反射波を発生させた物標の方位は、MUSICスペクトルのピーク(ヌルポイント)を抽出することにより求めることができる。
【0016】
即ち、従来装置では、区間毎に、ビート信号のパワースペクトルからピーク周波数を求め、その周波数の到来波の方位θ1,…,θMをMUSICスペクトルのピークから求めることにより、反射波の発生元である各物標の方位θを求めている。
【0017】
尚、区間毎に物標の方位θを求めるのは、車両前方に複数の車両が存在する場合、複数の反射波をアレーアンテナが同時に受信することになり、上り区間及び下り区間の各区間において、ビート信号BTのパワースペクトルから、複数のピーク周波数が検出されるためである。
【0018】
各区間において複数のピーク周波数が存在する場合、上り区間及び下り区間において、どの周波数の組合せが、上記周波数fb1,fb2の組合せか正確に特定できない。このため、従来装置では、上り区間及び下り区間の各区間において、各ピーク周波数の方位θを求めることで、方位θの組合せが合致する上り区間のピーク周波数と、下り区間のピーク周波数とを、上記周波数fb1,fb2の組合せと特定し、各物標までの距離D、及び、物標との相対速度V、及び、物標の方位θを求めている。
【0019】
ところで、ビート信号には、複数の物標から反射されたレーダ波の成分だけでなく、図12(a)に示すように、反対車線の車両のレーダ装置や後方車両のレーダ装置から飛来してくる反射波ではないレーダ波の成分や、その他の種々の雑音成分が含まれる。
【0020】
このため、従来では、送信信号の変調周期(1/fm)を1サイクルとして、各サイクル毎に、そのサイクルで得られたビート信号から上記手法で自己相関行列Rxxを算出し、時間的に連続する複数サイクル分の自己相関行列Rxxを、等価平均して、区間平均相関行列R0を求め、この区間平均相関行列R0に基づき、上記手法でMUSICスペクトルを求めて、物標の方位θを求めることにより、雑音の影響を抑えている。
【0021】
【数4】
尚、上式は、SNNサイクル分の自己相関行列Rxxを等価平均して、区間平均相関行列R0を求める例である。Rxx(i)は、等価平均の対象となる自己相関行列Rxxの内、第iサイクルの自己相関行列Rxxを表す。
【0022】
このように区間平均相関行列R0を求めれば、雑音の影響を緩和することができて、サイクル毎に自己相関行列Rxxから物標の方位θを求める場合よりも、正確に、物標方位θを求めることができる。
【0023】
また、ビート信号BTのパワースペクトルからピーク周波数を求めて、そのピーク周波数から物標の位置・速度を求める際にも、1サイクル毎に、パワースペクトルから物標の位置・速度を求める動作を行うと、雑音成分の影響を受けやすくなる。
【0024】
このため、従来装置では、時間的に連続する複数サイクル分のビート信号BTのパワースペクトルを、等価平均して、その平均化したパワースペクトルからピーク周波数を求め、このピーク周波数から物標の位置・速度を求めることで、雑音の影響を抑えるようにしている。
【特許文献1】特開2006−284182号公報
【特許文献2】特開2006−300720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、複数サイクル分の自己相関行列やパワースペクトルを等価平均する従来方法では、十分に高精度に、物標の位置・速度・方位等の物標情報を求めることができないといった問題があった。即ち、従来手法では、物標情報の高精度化に限界があった。
【0026】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、レーダ装置において、物標の位置・速度・方位等の物標情報を、従来よりも高精度に求めることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
まず、発明の構成がもたらす作用・効果を明確にするために、従来、高精度化を阻害する原因となっている雑音の発生メカニズムについて説明する。具体的には、レーダ装置の受信信号において、他車両から飛来してくるレーダ波成分が混入した場合を考える。
【0028】
レーダ装置は、メーカや機種あるいはレーダ個体差等の違いにより、そのレーダ波の変調周期や変調の傾きが異なるので、受信信号Srと送信信号Ssとをミキサで混合することにより、ビート信号BTを生成する際に、受信信号Srに、図12(b)に示すような、自車両のレーダ装置とは異なる変調周期や変調傾きのレーダ波成分(他車両のレーダ波成分)が含まれると、送信信号Ssと受信信号Srとの周波数差の信号であるビート信号BTにおいては、周波数帯域が大きく広がる。
【0029】
従来のレーダ装置では、この雑音成分を含むビート信号BTをローパスフィルタに通すことにより高周波成分を取り除くのであるが、ローパスフィルタを通したところで除去できない雑音成分がビート信号BTに残る。
【0030】
一方、ローパスフィルタを通したビート信号BTは、信号処理のために、アナログ信号からディジタル信号に変換される。しかしながら、除去できなかった雑音成分を含むビート信号BTをディジタル信号に変換すると、アナログ−ディジタル変換時のサンプリング周波数の1/2より高周波領域の信号成分が、存在しない周波数成分(折り返し歪み)としてディジタル信号に現れる。
【0031】
そして、この雑音成分が結果的に、周波数解析の際にパワースペクトルにおいて誤ったピークを示すことになり、物標の位置・速度・方位等の算出に誤差が生じるのである。従来では、このような現象が、高精度化を阻害する要因となっていた。
【0032】
ところで、このような雑音成分は、図12(b)に示すように、時間領域において、局部的に現れる。
従って、複数サイクル分の自己相関行列やパワースペクトルを等価平均する従来方法では、雑音成分の影響が、物標情報を算出する際の精度に大きく及ぶものの、局部的に現れる雑音成分を抑えるように、複数サイクル分の自己相関行列やパワースペクトルを加重平均すれば、物標情報の高精度化を図ることができる。
【0033】
本発明者らは、こうした点に着目して、次の発明をするに至った。尚、以上では、雑音成分の発生メカニズムについて、FMCWレーダ装置を前提として話をしたが、以下に説明する本発明は、FMCWレーダ装置に限定されるものではなく、局部的に雑音成分が発生する信号を処理する全てのレーダ装置に有効である。
【0034】
物標情報の高精度化を実現するためになされた本発明(請求項1記載)のレーダ装置は、レーダ波を送信すると共に、送信したレーダ波の反射波をアレーアンテナで受信する送受信手段を備え、送受信手段から出力されるアレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に基づき、アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物標の方位を求めるレーダ装置であって、データ収集手段と、自己相関行列生成手段と、区間平均相関行列生成手段と、方位算出手段と、混入量推定手段と、係数決定手段と、を備える。
【0035】
データ収集手段は、送受信手段から出力される各アンテナ素子の受信信号から、受信信号のサンプルを取得することで、各アンテナ素子のサンプルの集合としての単位データを生成する動作、を繰返し実行し、自己相関行列生成手段は、データ収集手段の動作により生成される単位データ毎に、当該単位データに基づく自己相関行列を生成する。
【0036】
区間平均相関行列生成手段は、この自己相関行列生成手段が単位データ毎に生成する自己相関行列の所定個を時間平均することによって、時間平均後の自己相関行列としての区間平均相関行列を生成し、方位算出手段は、区間平均相関行列生成手段が生成した区間平均相関行列に基づき、レーダ波を反射した物標の方位を求める。
【0037】
一方、混入量推定手段は、データ収集手段により生成される単位データ毎に、当該単位データの雑音混入量を、推定する。即ち、当該単位データを構成する各アンテナ素子のサンプルに含まれる雑音の混入量を推定する。
【0038】
そして、係数決定手段は、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列の夫々に作用させる重み付け係数を、重み付け係数を作用させる自己相関行列の生成時に用いられる単位データに対し混入量推定手段が推定した上記単位データの雑音混入量に基づき、決定する。
【0039】
即ち、区間平均相関行列生成手段は、平均算出の対象とする所定個の自己相関行列の夫々に対し、係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、上記区間平均相関行列として、係数決定手段により決定された重み付け係数により上記所定個の自己相関行列を加重平均してなる自己相関行列を生成する。
【0040】
このように構成されたレーダ装置によれば、雑音混入量に基づき、自己相関行列を重み付けして、区間平均相関行列を求め、この区間平均相関行列に基づき、物標方位を求めるので、従来装置よりも高精度に物標方位を求めることができる。
【0041】
詳述すると、従来装置では、平均算出の対象とする所定個の自己相関行列を等価平均していたので、局部的に雑音が発生している場合であっても、その影響が区間平均相関行列に大きく及んで、高精度に物標方位を求めることができないといった問題があったが、本発明によれば、局部的な雑音が発生した時期の自己相関行列の重み付けを低くして、区間平均相関行列を求めることができるので、局部的に発生した雑音の影響が、区間平均相関行列に大きく及ぶのを抑えることができ、結果として、高精度に物標方位を求めることができる。
【0042】
尚、この発明は、上述したように、FMCW方式のレーダ装置の類に適用することができる。即ち、上述の発明は、送受信手段が、周波数変調された送信信号に従い、レーダ波を送信すると共に、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に、送信信号を混合することにより、各アンテナ素子の受信信号を、受信信号と送信信号とを混合してなるビート信号に変換して、出力する構成にされたレーダ装置に適用することができる(請求項2)。この場合には、送受信手段から出力される各アンテナ素子のビート信号から、当該ビート信号のサンプルを取得して、単位データを生成するように、データ収集手段を構成する。
【0043】
また、本発明を、FMCW方式のレーダ装置に適用する場合には、データ収集手段を、送信信号の変調周期(1/fm)毎に、単位データを生成する構成にすることができる。
この他、レーダ装置は、単位データを構成する各アンテナ素子のサンプルを、時間領域から周波数領域へ変換することで、当該変換後のデータとして、各アンテナ素子の周波数領域データを生成する動作を、単位データ毎に実行する変換手段と、アレーアンテナを構成するアンテナ素子の内、予め参照対象のアンテナ素子として定められた少なくとも一つのアンテナ素子の周波数領域データに基づき、反射波成分の周波数である反射波周波数を推定する周波数推定手段と、を備える構成にすることができる。
【0044】
また、自己相関行列生成手段は、単位データ毎に、当該単位データに基づいて生成された各アンテナ素子の周波数領域データが示す値であって、周波数推定手段により推定された反射波周波数での値を、ベクトル要素として配列してなる受信ベクトルを生成し、この受信ベクトルについての自己相関行列を生成し、周波数推定手段は、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列のグループ毎に、当該自己相関行列の生成時に適用する反射波周波数を推定する構成にすることができる(請求項3)。
【0045】
また、時間領域を周波数領域に変換する方法としては、フーリエ変換(離散フーリエ変換/高速フーリエ変換)や離散コサイン変換等による変換方法が知られており、変換手段は、例えば、各アンテナ素子のサンプルを、時間領域から周波数領域へフーリエ変換する構成にすることができる(請求項4)。
【0046】
一方、周波数推定手段は、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列の生成時に用いられる周波数領域データの内、参照対象のアンテナ素子毎に所定個ある周波数領域データを、参照対象のアンテナ素子毎に、時間平均することによって、参照対象のアンテナ素子毎に、時間平均後の周波数領域データとしての区間平均周波数領域データを生成する平均化手段を備える構成にすることができる。
【0047】
即ち、周波数推定手段は、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列のグループ毎に、平均化手段により生成された参照対象のアンテナ素子毎の区間平均周波数領域データに基づいて、当該自己相関行列の生成時に適用する反射波周波数を推定する構成にすることができる。
【0048】
また、平均化手段は、参照対象のアンテナ素子毎に、次のようにして区間平均周波数領域データを生成する構成にすることができる。
即ち、平均化手段は、上記所定個の周波数領域データの夫々に対し、当該周波数領域データに基づいて生成される自己相関行列に作用させる重み付け係数として係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、上記区間平均周波数領域データとして、係数決定手段により決定された重み付け係数により所定個の周波数領域データを加重平均してなる周波数領域データを生成する構成にすることができる(請求項5)。
【0049】
従来装置では、所定個の周波数領域データを等価平均することで、区間平均周波数領域データを生成し、この区間平均周波数領域データに基づき、反射波周波数を推定していたので、雑音が局部的に発生している場合でも、物標方位を高精度に算出することができなかったが、本発明によれば、加重平均により局部的に発生した雑音の影響を小さくすることができるので、精度よく、反射波周波数を推定することができ、結果として、高精度に物標方位を算出することができる。
【0050】
また、上記周波数推定手段は、具体的に、参照対象のアンテナ素子毎に加重平均により得られた区間平均周波数領域データを、等価平均して、唯一の周波数領域データを生成し、この周波数領域データに基づいて、反射波周波数を推定する構成にすることができる(請求項6)。
【0051】
ところで、レーダ装置は、請求項6記載のように、周波数領域データを時間方向に加重平均して、アンテナ素子毎の区間平均周波数領域データを求めてから、これらを等価平均して、反射波周波数の推定に用いる唯一の周波数領域データを生成する構成にされてもよいし、アンテナ素子毎の周波数領域データを等価平均するなどして、単位データ毎に代表的な周波数領域データを生成し、この代表的な周波数領域データを、時間方向に加重平均することで、反射波周波数の推定に用いる唯一の周波数領域データを生成する構成にされてもよい。
【0052】
即ち、周波数推定手段は、単位データ毎に、当該単位データから得られた参照対象のアンテナ素子の夫々に対応する周波数領域データを、統計的にまとめることによって、一つの単位データに対し、唯一の代表的な周波数領域データを生成する統計化手段と、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列の生成時に用いられる単位データの夫々に対して統計化手段が生成した上記代表的な周波数領域データの所定個を、時間平均することで、時間平均後の周波数領域データとしての区間平均周波数領域データを生成する平均化手段と、を備え、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列のグループ毎に、平均化手段により生成された唯一の区間平均周波数領域データに基づき、自己相関行列の生成時に適用する反射波周波数を推定する構成にすることができる。
【0053】
また、平均化手段は、平均算出の対象とする所定個の上記代表的な周波数領域データの夫々に対し、当該代表的な周波数領域データに対応する単位データに基づいて生成される自己相関行列に作用させる重み付け係数として係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、上記区間平均周波数領域データとして、係数決定手段により決定された重み付け係数により所定個の上記代表的な周波数領域データを加重平均してなる周波数領域データ、を生成する構成にすることができる(請求項7)。
【0054】
この他、統計化手段は、上記代表的な周波数領域データとして、参照対象のアンテナ素子の夫々から得られた周波数領域データを等価平均してなる周波数領域データを生成する構成にすることができる(請求項8)。
【0055】
また、混入量推定手段は、単位データ毎に、アレーアンテナを構成するアンテナ素子の内、予め雑音解析対象のアンテナ素子として定められた一つ又は複数のアンテナ素子の夫々について、当該アンテナ素子のサンプルにおける予め定められた高周波領域のパワーの中央値又は平均値を、雑音解析値として求め、求めたアンテナ素子毎の雑音解析値を指標に、上記単位データの雑音混入量を推定する構成にすることができる(請求項9)。
【0056】
このように「高周波領域のパワー」から雑音混入量を推定して自己相関行列を加重平均すれば、高精度に、物標方位を算出することができる。
また、混入量推定手段は、雑音解析対象のアンテナ素子の夫々について、「サンプルにおける高周波領域のパワーの中央値又は平均値」に代え、「サンプルにおける全時間領域のパワーの平均値」を雑音解析値として求めて、これを指標に、単位データの雑音混入量を推定する構成にされてもよい(請求項10)。
【0057】
この他、混入量推定手段は、雑音解析対象のアンテナ素子の夫々について、「サンプルにおける高周波領域のパワーの中央値又は平均値」に代え、「サンプルにおいてパワーが閾値以上となった時間領域の時間長さ」を雑音解析値として求めて、これを指標に、上記単位データの雑音混入量を推定する構成にすることもできる(請求項11)。
【0058】
このように「全時間領域のパワーの平均値」や「パワーが閾値以上の時間長さ」から雑音混入量を推定して、自己相関行列を加重平均しても、高精度に、物標方位を算出することができる。
【0059】
尚、雑音解析対象のアンテナ素子を、複数定める場合、混入量推定手段は、雑音解析対象のアンテナ素子の夫々について求めた雑音解析値の等価平均値又は中央値を、単位データの雑音混入量であると推定する構成にすることができる(請求項12)。
【0060】
また、雑音解析対象のアンテナ素子を、一つのみ定める場合、混入量推定手段は、雑音解析対象のアンテナ素子について求めた雑音解析値を、単位データの雑音混入量であると推定する構成にされればよい(請求項13)。
【0061】
一方、係数決定手段は、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列である第1自己相関行列Rxx[1]から第N自己相関行列Rxx[N]の夫々に作用させる重み付け係数w[i](但し、w[i]は、第i自己相関行列Rxx[i](i=1,…,N)に作用させる重み付け係数である。)を、重み付け係数w[i]を作用させる自己相関行列Rxx[i]の生成時に用いられる単位データに対し混入量推定手段が推定した上記単位データの雑音混入量q[i]の逆数(1/q[i])と、第1自己相関行列Rxx[1]から第N自己相関行列Rxx[N]の夫々に対応する雑音混入量q[i]の逆数の総和{(1/q[1])+…+(1/q[N])}との比(1/q[i])/{(1/q[1])+…+(1/q[N])}に決定する構成にすることができる(請求項14)。
【0062】
このように重み付け係数w[i]を決定すれば、自己相関行列を、雑音混入量に応じて適切に重み付けし、区間平均相関行列を求めることができる。
この他、係数決定手段は、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列について、自己相関行列毎に、当該自己相関行列の生成時に用いられる単位データに対し混入量推定手段が推定した上記単位データの雑音混入量を、予め定められた閾値と比較し、上記単位データの雑音混入量が閾値未満の自己相関行列に作用させる重み付け係数を、予め定められた第一の値に決定し、上記単位データの雑音混入量が閾値以上の自己相関行列に作用させる重み付け係数を、第一の値よりも小さい予め定められた第二の値に決定する構成にされてもよい(請求項15)。
【0063】
このように重み付け係数w[i]を決定すれば、簡単な演算にて重み付け係数w[i]を決定することができて、レーダ装置の処理負荷を抑えることができる。尚、第二の値は、ゼロより大きい値に設定されてもよいし、ゼロに設定されてもよい。即ち、雑音混入量が閾値以上の自己相関行列については、区間平均相関行列の算出に用いないようにしてもよい。また、請求項15記載のように重み付け係数w[i]を決定する場合には、必要に応じて、重み付け係数の総和を1に規格化するとよい。
【0064】
この他、方位算出手段は、区間平均相関行列生成手段による区間平均相関行列の生成サイクル毎に、区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列を、区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化するように補正し、当該補正後の区間平均相関行列として、平滑相関行列を生成する平滑相関行列生成手段を備えて、区間平均相関行列の生成サイクル毎に、平滑相関行列生成手段が生成した平滑相関行列に基づき、レーダ波を反射した物標の方位を求める構成にされるとよい(請求項16)。
【0065】
このようにして、物標方位を算出すれば、一層、方位の算出精度を上げることができる。周知のレーダ装置では、レーダ波を連続的に送信しておらず、断続的にレーダ波を送信している。従って、他車両のレーダ波との干渉による精度悪化を考慮した場合には、常に他車両のレーダ波との干渉を受けるわけではない。従って、最新の区間平均相関行列を、過去の区間平均相関行列で平滑化するように補正すれば、雑音の酷い時期の影響を抑えることができて、一層、高精度に方位を求めることができる。
【0066】
尚、平滑相関行列生成手段は、区間平均相関行列の生成サイクル毎に、区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列R1を、前サイクルにおいて生成した平滑相関行列R2preと予め定められた忘却係数β(但し、0<β<1)とに基づき補正することにより、最新の区間平均相関行列R1を、区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化し、今サイクルの平滑相関行列R2を生成する構成にすることができる。具体的に、平滑相関行列生成手段は、次式
R2=β・R2pre+(1−β)・R1 (10)
に従って平滑相関行列R2を生成する構成にすることができる(請求項17)。
【0067】
また、方位算出手段は、区間平均相関行列の生成サイクル毎に、混入量推定手段により推定された上記区間平均相関行列の生成時に用いられる所定個の自己相関行列の夫々に対応する上記単位データの雑音混入量に基づき、区間平均相関行列生成手段にて生成される最新の区間平均相関行列を、上記平滑相関行列の生成に用いるべきか否かを判断する採用可否判断手段を備える構成にされると一層好ましい。
【0068】
即ち、平滑相関行列生成手段は、採用可否判断手段により肯定判断されると、区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列を、前サイクルにおいて生成した平滑相関行列により補正し、当該補正後の区間平均相関行列を、今サイクルの平滑相関行列として生成することにより、最新の区間平均相関行列を、区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化する一方、採用可否判断手段により否定判断されると、最新の区間平均相関行列を用いずに、最新の区間平均相関行列及び前サイクルにおいて生成した平滑相関行列の内、前サイクルにおいて生成した平滑相関行列のみを用いて、今サイクルの平滑相関行列を生成する構成にされると好ましい。
【0069】
このようにレーダ装置を構成すれば、雑音混入量が極端に多い時期に生成された区間平均相関行列を、平滑相関行列の生成に用いずに済み、物標方位として、誤った方位が算出されるのを防止することができる(請求項18)。
【0070】
具体的に、平滑相関行列生成手段は、採用可否判断手段により肯定判断されると、式(10)に従う平滑相関行列R2を生成する一方、採用可否判断手段により否定判断されると、最新の区間平均相関行列R1を用いずに前サイクルにおいて生成した平滑相関行列R2preを、今サイクルの平滑相関行列R2とする構成にすることができる(請求項19)。
【0071】
この他、採用可否判断手段は、最新の区間平均相関行列の生成時に用いられる所定個の自己相関行列の夫々に対応する上記単位データの雑音混入量に、当該自己相関行列に作用させる重み付け係数として係数決定手段により決定された重み付け係数と同一の重み付け係数を作用させて、上記単位データの雑音混入量についての加重平均を算出し、算出した加重平均が、予め定められた閾値以下である場合には、最新の区間平均相関行列を、平滑相関行列の生成に用いるべきであると肯定判断し、算出した加重平均が、閾値より大きい場合には、最新の区間平均相関行列を、平滑相関行列の生成に用いるべきではないと否定判断する構成にすることができる(請求項20)。
【0072】
このように採用可否判断手段を構成すれば、雑音の多い時期に生成された区間平均相関行列を、物標方位の算出に用いずに済み、誤った方位を物標方位として算出してしまうのを適切に防止することができる。
【0073】
また、周波数領域データを加重平均し、反射波周波数を推定する上述の技術は、物標の位置や速度を求める際にも用いることができる。換言すると、上述の発明は、方位を算出する機能を備えず、周波数解析により得られたパワースペクトルに基づき、上述の式(1)〜(4)を用いて、位置・速度を求めるレーダ装置にも適用することができる。
【0074】
具体的に、レーダ装置は、レーダ波を送信すると共に、送信したレーダ波の反射波をアンテナで受信する送受信手段を備え、送受信手段から出力されるアンテナの受信信号に基づき、反射波の発生元である物標に関する情報としての物標情報を求めるレーダ装置であって、次のデータ収集手段と、変換手段と、混入量推定手段と、平均化手段と、物標情報算出手段と、係数決定手段と、を備えた構成にすることができる(請求項21)。
【0075】
データ収集手段は、送受信手段から出力される受信信号のサンプルを取得する動作を繰返し実行し、変換手段は、データ収集手段により取得されたサンプル毎に、当該サンプルを、時間領域から周波数領域へ変換して(例えば、請求項23記載のようにフーリエ変換して)、変換後のデータとしての周波数領域データを生成し、平均化手段は、変換手段により生成された所定個のサンプルに対応する周波数領域データを、時間平均することで、時間平均後の周波数領域データとしての区間平均周波数領域データを生成する。
【0076】
そして、物標情報算出手段は、平均化手段により生成された区間平均周波数領域データに基づき、物標情報を求める。
一方、混入量推定手段は、データ収集手段により取得されるサンプル毎に、当該サンプルに含まれる雑音の混入量を推定し、係数決定手段は、平均化手段が平均算出の対象とする所定個の周波数領域データの夫々に作用させる重み付け係数を、周波数領域データの変換前データであるサンプルに対して混入量推定手段が推定した雑音の混入量に基づき、決定する。
【0077】
即ち、平均化手段は、所定個の周波数領域データの夫々に対し、係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、上記区間平均周波数領域データとして、係数決定手段により決定された重み付け係数により上記所定個の周波数領域データを加重平均してなる周波数領域データ、を生成する。
【0078】
このように構成されたレーダ装置によれば、請求項5〜請求項8記載のレーダ装置と同様、平均算出の対象とする周波数領域データに夫々に対して、雑音混入量に対応する重み付け係数を作用させ、区間平均周波数領域データとして、雑音混入量を考慮した加重平均を算出するので、等価平均する従来装置よりも、高精度に物標情報を求めることができる。
【0079】
また、この発明は、送受信手段が、周波数変調された送信信号に従い、レーダ波を送信すると共に、アンテナの受信信号に、送信信号を混合することにより、アンテナの受信信号を、受信信号と送信信号とを混合してなるビート信号に変換して出力し、データ収集手段が、上記サンプルとして、送受信手段から出力されるビート信号から、ビート信号のサンプルを取得する構成にされたレーダ装置に適用することができる。
【0080】
この他、物標情報算出手段は、上記区間平均周波数領域データに基づき、反射波成分の周波数である反射波周波数を推定し、推定した反射波周波数から、上記物標情報として、物標の位置及び速度の少なくとも一方を求める構成にすることができる(請求項22)。
【0081】
また、混入量推定手段は、請求項9記載のレーダ装置と同様、サンプル毎に、サンプルにおける予め定められた高周波領域のパワーの中央値又は平均値を求めて、求めた高周波領域のパワーの中央値又は平均値を、雑音の混入量であると推定する構成にすることができる(請求項24)。
【0082】
このように「高周波領域のパワー」から雑音混入量を推定して、周波数領域データを加重平均すれば、雑音の影響を抑えて、高精度に物標情報を算出することができる。
また、混入量推定手段は、「サンプルにおける高周波領域のパワーの中央値又は平均値」に代えて、「サンプルにおける全時間領域のパワーの平均値」を求め、これを雑音混入量であると推定する構成にされてもよいし(請求項25)、「サンプルにおいてパワーが閾値以上となった時間領域の時間長さ」を求め、これを雑音混入量であると推定する構成にされてもよい(請求項26)。
【0083】
このように「全時間領域のパワーの平均値」や「パワーが閾値以上の時間長さ」から雑音混入量を推定して、周波数領域データを加重平均しても、雑音の影響を抑えて、高精度に物標情報を算出することができる。
【0084】
また、係数決定手段は、請求項14記載のレーダ装置と同様、平均化手段が平均算出の対象とする所定個の周波数領域データである第1周波数領域データF[1]から第N周波数領域データF[N]の夫々に作用させる重み付け係数w[i](但し、w[i]は、第i周波数領域データF[i](i=1,…,N)に作用させる重み付け係数である。)を、重み付け係数w[i]を作用させる周波数領域データ[i]の変換前データであるサンプルに対し混入量推定手段が推定した雑音混入量q[i]の逆数(1/q[i])と、第1周波数領域データF[1]から第N周波数領域データF[N]までの夫々に対応する雑音混入量q[i]の逆数の総和{(1/q[1])+…+(1/q[N])}との比(1/q[i])/{(1/q[1])+…+(1/q[N])}に決定する構成にすることができる(請求項27)。
【0085】
このようにして重み付け係数w[i]を決定すれば、周波数領域データを、雑音混入量に応じて適切に重み付けし、区間平均周波数領域データを求めることができる。
また、係数決定手段は、簡単な演算にて重み付け係数w[i]を決定することができるように、請求項15記載のレーダ装置と同様、平均化手段が平均算出の対象とする所定個の周波数領域データについて、周波数領域データ毎に、当該周波数領域データの変換前データであるサンプルに対し混入量推定手段が推定した雑音混入量を、予め定められた閾値と比較し、雑音混入量が閾値未満の周波数領域データに作用させる重み付け係数を、予め定められた第一の値に決定し、雑音の混入量が閾値以上の周波数領域データに作用させる重み付け係数を、第一の値よりも小さい予め定められた第二の値に決定する構成にされてもよい(請求項28)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0086】
以下に本発明の実施例について、図面と共に説明する。
【実施例1】
【0087】
図1は、本実施例のレーダ装置1の構成を表すブロック図である。本実施例のレーダ装置1は、FMCW方式の車載型レーダ装置であり、周波数が時間に対して直線的に漸次増減するミリ波帯の高周波信号を生成する発振器11と、発振器11が生成する高周波信号を増幅する増幅器13と、増幅器13の出力を送信信号Ss(図10上段参照)とローカル信号Lとに電力分配する分配器15と、送信信号Ssに応じたレーダ波を放射する送信アンテナ17と、物標(前方車両等)により反射されたレーダ波(反射波)を受信するK個のアンテナ素子からなる受信アンテナ19と、を備える。
【0088】
更に、このレーダ装置1は、受信アンテナ19を構成するアンテナ素子AN_1〜AN_Kのいずれかを順次選択し、選択されたアンテナ素子からの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ21と、受信スイッチ21から供給される受信信号Srを増幅する増幅器23と、増幅器23にて増幅された受信信号Sr及びローカル信号Lを混合して、ビート信号BTを生成(図10下段参照)するミキサ25と、ミキサ25が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ27(ローパスフィルタ)と、フィルタ27の出力をディジタルデータに変換するA/D変換器29と、マイクロコンピュータを中心に構成される信号処理部30と、を備える。
【0089】
信号処理部30は、発振器11の起動/停止等を制御する他、マイクロコンピュータにおけるプログラムの実行により、A/D変換器29から入力されるビート信号BTのディジタルデータを用いた信号処理や、信号処理により得られた物標情報を車間制御ECU40に送信する処理等を行う。
【0090】
また、受信アンテナ19は、K個のアンテナ素子が、一列に等間隔で配置されたリニアアレーアンテナであり、各アンテナ素子AN_1〜AN_Kは、ビーム幅がいずれも送信アンテナ17のビーム幅全体を含むように設定されている。
【0091】
以下では、K個のアンテナ素子の夫々を番号付けして、第iアンテナ素子(i=1,2,…,K)と表現し、第iアンテナ素子から得られる信号(データ)を、第iチャネルの信号(データ)とも表現する。
【0092】
このように構成された本実施例のレーダ装置1では、信号処理部30からの指令に従って発振器11が起動する。そして、当該起動により発振器11が生成した高周波信号は、増幅器13にて増幅された後、分配器15に入力され、分配器15によって電力分配される。これにより、レーダ装置1では、送信信号Ss及びローカル信号Lが生成され、送信信号Ssは、送信アンテナ17を介し、周波数変調されたレーダ波として送出される。
【0093】
一方、送信アンテナ17から送出され物標に反射して戻ってきたレーダ波(反射波)は、受信アンテナ19を構成する各アンテナ素子AN_1〜AN_Kにて受信される。そして、各アンテナ素子AN_1〜AN_Kからは、受信スイッチ21に向けて、その受信信号Srが出力される。
【0094】
また、受信スイッチ21からは、受信スイッチ21によって選択された第iアンテナ素子(i=1,…,K)の受信信号Srのみが増幅器23に出力され、増幅器23で増幅された受信信号Srは、ミキサ25に供給される。
【0095】
ミキサ25では、受信信号Srに分配器15からのローカル信号Lが混合されて、ビート信号BTが生成される。このビート信号BTは、フィルタ27にて不要な信号成分が除去された後、A/D変換器29でディジタルデータに変換され、信号処理部30に出力される。
【0096】
但し、受信スイッチ21は、レーダ波の一変調周期(1/fm)の間に、全てのアンテナ素子AN_1〜AN_Kを所定回ずつ選択するように、切り替えられる。そして、A/D変換器29は、この切替タイミングに同期してサンプリングを行うことで、各アンテナ素子AN_1〜AN_Kのビート信号BTをディジタルデータに変換する。
【0097】
また、信号処理部30は、プログラムの実行によって、ビート信号BTのディジタルデータを解析し、反射波の発生元である物標(前方車両)までの距離や、自車両に対する物標の相対速度を算出すると共に、自車両進行方向(アンテナ方向)を基準とした物標の方位を算出する。
【0098】
続いて、信号処理部30が、物標の位置・相対速度・方位を算出するために、繰返し実行する物標推定処理について説明する。図2は、信号処理部30が繰返し実行する物標推定処理を表すフローチャートである。以下では、繰返し実行される物標推定処理の1サイクルのことを、「物標推定サイクル」と表現する。
【0099】
物標推定処理を開始すると、信号処理部30は、A/D変換器29から入力される各チャネルのビート信号BTのディジタルデータを、送信信号の変調周期(1/fm)に合わせて、変調周期毎に取得する。具体的には、上り区間及び下り区間の各区間に分けてディジタルデータを取得し、これらを内蔵のメモリ(RAM)に記憶する。
【0100】
このようにして信号処理部30は、区間毎及びチャネル毎にビート信号BTのサンプルとしてのスナップショットデータを生成する処理を、図1下段に示すように、変調周期毎に繰返し実行し、各チャネルのスナップショットデータを、上り区間及び下り区間の夫々について、所定個(SSN個とする。)生成する(S110)。即ち、SSN周期分のスナップショットデータを生成する。
【0101】
具体的に、スナップショットデータは、A/D変換器29でサンプリングされるビート信号の信号値(電圧値)の時系列データである。スナップショットデータは、1変調周期における該当区間(上り区間又は下り区間)の全時間領域の信号値からなる時系列データであってもよいし、該当区間における特定の時間領域の信号値からなる時系列データであってもよい。
【0102】
S110での処理を終えると、信号処理部30は、S120に移行し、各スナップショットデータのトレンド除去を行う。具体的には、スナップショットデータに含まれる直流成分を除去する(図7右段参照)。
【0103】
また、S120での処理を終えると、信号処理部30は、S130に移行して、パワーが予め設計段階で定められた閾値Thpより大きい時間領域の信号値を、ゼロ、又は、当該時間領域前後の信号値の平均値で置換する処理を、スナップショットデータ毎に実行することにより、各スナップショットデータから干渉成分を除去する。
【0104】
S130での処理を終えると、信号処理部30は、S110で生成された各スナップショットデータであって、S120及びS130による処理後の各スナップショットデータを、周波数解析する。具体的には、各スナップショットデータをFFT処理(高速フーリエ変換)することで、各スナップショットデータを時間領域から周波数領域に変換し、各スナップショットデータについてのフーリエ変換値(複素数)を得ると共に、このフーリエ変換値から、各スナップショットデータについてのパワースペクトルを得る(S140)。周知のようにパワースペクトルは、フーリエ変換値の絶対値の二乗により求められる。
【0105】
また、この処理を終えると、信号処理部30は、処理対象区間を、上り区間に設定して(S150)、S160〜S280の処理を実行する。
具体的に、S160では、処理対象区間についての重み付け係数算出処理を実行することで、後続のS170で加重平均を求める際に用いる処理対象区間の重み付け係数を決定する。図3は、信号処理部30が実行する重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【0106】
重み付け係数算出処理を開始すると、信号処理部30は、変数iを値1に設定した後(S510)、S520に移行する。そして、S520では、チャネル毎に、当該チャネルの第i変調周期における処理対象区間のスナップショットデータに基づき算出されたパワースペクトルから、予め設計段階で定められた周波数ωmaxよりも高周波領域の成分を抽出する処理を行う。
【0107】
尚、以下では、SSN周期分のスナップショットデータの内、先頭周期を第1変調周期として、第i変調周期において得られたスナップショットデータのことを、第i変調周期におけるスナップショットデータという。
【0108】
S520においては、処理対象区間が上り区間である場合、チャネル毎に、第i変調周期における上り区間のスナップショットデータをフーリエ変換して得られたパワースペクトルから、上記周波数ωmaxよりも高周波領域の成分(パワースペクトル)を抽出する処理を行う。
【0109】
このような処理を、第1チャネルから第Kチャネルのパワースペクトルについて行うと、信号処理部30は、S530に移行し、チャネル毎に(換言すれば、抽出した高周波領域成分毎に)、上記抽出した高周波領域成分のパワーの中央値を求めて、求めた中央値を、干渉量q[i,k]に設定する。尚、q[i,k]は、第kチャネルにおける第i変調周期の干渉量を表す。
【0110】
即ち、S530では、第kチャネルの第i変調周期における処理対象区間のスナップショットデータをフーリエ変換して得られたパワースペクトルPik(ω)から抽出された高周波領域成分のパワーPik(ω>ωmax)の中央値median(Pik(ω>ωmax))を、第kチャネルにおける第i変調周期の干渉量q[i,k]に設定する動作を、k=1,…,Kについて実行する。
【0111】
q[i,k]=median(Pik(ω>ωmax)) (11)
尚、ここでいう中央値は、周知のように、中央値を求める対象の集合において、値の小さい要素から順に並べたときに、順番的に真ん中となる要素の値のことをいう。即ち、S530では、上記高周波領域に属する各周波数のパワー値を、小さい値から順に並べたときの中央の値を求めて、これを干渉量q[i,k]に設定する。
【0112】
また、S530での処理を終えると、信号処理部30は、各チャネルの干渉量q[i,k](k=1,…,K)の等価平均値を、第i変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[i]に設定する(S540)。
【0113】
【数5】
但し、S540では、式(13)に従い、第i変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[i]を設定してもよい(変形例)。
【0114】
【数6】
即ち、第i変調周期における各チャネルの干渉量q[i,k](k=1,…,K)の中央値を、第i変調周期の代表干渉量q[i]に設定してもよい。
【0115】
また、S540での処理を終えると、信号処理部30は、S550に移行し、変数i=SNNであるか否かを判断し、変数i=SNNではないと判断すると(S550でNo)、S560に移行して、変数iを1カウントアップした後(i←i+1)、S520に移行する。そして、カウントアップ後の変数iの値に基づき、S520〜S550の処理を実行する。
【0116】
このようにして、信号処理部30は、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期について、処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]を算出する。
そして、変数i=SNNであると判断すると(S550でYes)、S570に移行し、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]に基づき、今回の物標推定サイクルにおいて処理対象区間の加重平均に用いる重み付け係数w[i]を、次式に従い、i=1,…,SNNの夫々について算出する。
【0117】
【数7】
尚、w[i]は、第i変調周期の値に対して作用させる重み付け係数を表す。また、式(14)は、干渉量q[i]がデシベル値でない場合の重み付け係数w[i]を表す。換言すると、干渉量q[i]がデシベル値である場合には、値が対数表示であることを考慮して、次式に従い、重み付け係数w[i]を算出する。
【0118】
【数8】
このようにしてS570での処理を終えると、信号処理部30は、重み付け係数算出処理を終了する。
【0119】
また、S160での重み付け係数算出処理を終えると、信号処理部30は、チャネル毎に、式(17)に従い、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間のパワースペクトルPik(ω)を時間平均して、区間平均パワースペクトルPk(ω)を算出する(S170)。
【0120】
【数9】
即ち、第i変調周期のパワースペクトルPik(ω)に対して、第i変調周期の重み付け係数w[i]を作用させることにより、第k(k=1,…,K)チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)として、各変調周期での干渉量(雑音混入量)を考慮したパワースペクトルPik(ω)の加重平均を算出する。
【0121】
また、各チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)を算出すると、信号処理部30は、これらの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)に基づき、各チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)に共通するピーク周波数を特定する(S180)。尚、ここでいうピーク周波数とは、パワースペクトルにおいて、パワーが所定の閾値より大きいピークの周波数のことである。
【0122】
具体的に、ここでは、各チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)に共通するピーク周波数を特定するために、各チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)を等価平均して、代表パワースペクトルP(ω)を算出する。
【0123】
【数10】
そして、この代表パワースペクトルP(ω)において、パワーが所定の閾値より大きい各ピークの周波数を、ピーク周波数ωn(n=1,…,N)として特定する。尚、Nは、ピーク周波数の個数に一致する。
【0124】
但し、S180では、各チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)を等価平均して、代表パワースペクトルP(ω)を算出しなくてもよく、例えば、第1チャネルから第Kチャネルの内、予め定められた単一の代表チャネル(第k0チャネルとする)の区間平均パワースペクトルPk0(ω)を、代表パワースペクトルP(ω)と取扱って、この代表パワースペクトルP(ω)に基づき、ピーク周波数ωn(n=1,…,N)を特定しても構わない(変形例)。
【0125】
このようにしてピーク周波数ωn(n=1,…,N)を特定し終えると、信号処理部30は、S190に移行し、特定したN個のピーク周波数ωnの一つを、処理対象周波数ω’に設定する。
【0126】
その後、S200に移行して、第1変調周期から第SNN変調周期までの変調周期毎に、各チャネルの処理対象区間のスナップショットデータをフーリエ変換して得られた処理対象周波数ω’でのフーリエ変換値Fik(ω’)から、式(19)及び式(20)に従って、処理対象区間の自己相関行列Rxx[i,ω’]を生成する(S200)。
【0127】
【数11】
尚、Fik(ω’)は、第kチャネルの第i変調周期における処理対象区間のスナップショットデータをフーリエ変換して得られる処理対象周波数ω’でのフーリエ変換値(複素数)を表す。また、自己相関行列Rxx[i,ω’]は、受信ベクトルXi(ω’)の自己相関行列を表す。また、受信ベクトルXi(ω’)は、第i変調周期の処理対象区間における各チャネルの処理対象周波数ω’でのフーリエ変換値Fik(ω’)を、ベクトル要素として配列してなるベクトルである(式(20)参照)。
【0128】
即ち、S200では、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期に対応する合計SNN個の自己相関行列Rxx[i,ω’](i=1,…,SNN)を算出する。
また、この処理を終えると、信号処理部30は、S210に移行し、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期に対応する処理対象区間の自己相関行列Rxx[i,ω’]を加重平均して、区間平均相関行列R1[ω’]を算出する(S210)。
【0129】
【数12】
即ち、第i変調周期の自己相関行列Rxx[i,ω’]に、第i変調周期の代表干渉量q[i]に基づいて決定した第i変調周期の重み付け係数w[i]を作用させることにより、自己相関行列Rxx[i,ω’]の時間平均として、各変調周期に対応する自己相関行列Rxx[i,ω’]を重み付け係数w[i]で加重平均してなる区間平均相関行列R1[ω’]を算出する。
【0130】
また、区間平均相関行列R1[ω’]を算出した後には、S220に移行し、図4に示す指数平滑相関行列算出処理を実行する。図4は、信号処理部30が実行する指数平滑相関行列算出処理を表すフローチャートである。
【0131】
指数平滑相関行列算出処理を開始すると、信号処理部30は、まず、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[i]と、処理対象区間の重み付け係数w[i]と、に基づき、次式に従って、干渉残存量qrを算出する(S610)。
【0132】
【数13】
即ち、第i変調周期の代表干渉量q[i]に重み付け係数w[i]を作用させることにより、第1変調周期から第SNN変調周期の代表干渉量q[i]を加重平均して、干渉残存量qrを算出する。
【0133】
そして、干渉残存量qrを算出し終えると、S620に移行し、算出した干渉残存量qrと、予め設計段階で定められた閾値Thxとの比較により、今回の物標推定サイクルにおいて算出された最新の区間平均相関行列R1[ω’]を指数平滑相関行列の算出に用いるべきか否かを、判断する。
【0134】
具体的には、干渉残存量qrが閾値Thx以下である場合、最新の区間平均相関行列R1[ω’]を指数平滑相関行列の算出に用いるべきと判断する(S620でYes)。一方、干渉残存量qrが閾値Thxより大きい場合には、最新の区間平均相関行列R1[ω’]に対応するビート信号BTに強い雑音成分が含まれる可能性が高いとして、最新の区間平均相関行列R1[ω’]を指数平滑相関行列の算出に用いるべきではないと判断する(S620でNo)。
【0135】
そして、S620でYesと判断した場合には、S630に移行し、処理対象周波数ω’の指数平滑相関行列R2[ω’]を、次式に従って、算出する。
【0136】
【数14】
尚、βは忘却係数であって、0<β<1を満足する値を採る。具体的に、忘却係数βは、設計段階で固定値に定められてもよいし、干渉残存量qrに応じて可変に定められてもよい。また、R2pre[ω’]は、前回の物標推定サイクルにおいて算出された処理対象周波数ω’の指数平滑相関行列R2[ω’]を表す。
【0137】
但し、S630の実行時には、指数平滑相関行列R2[ω’]の算出に必要な前回の指数平滑相関行列R2pre[ω’]が存在しない場合がある。この場合には、最新の区間平均相関行列R1[ω’]を指数平滑相関行列R2[ω’]に設定する(R2[ω’]=R1[ω’])ことで、指数平滑相関行列R2[ω’]を生成する。このようにして、S630での処理を終えると、信号処理部30は、当該指数平滑相関行列算出処理を終了する。
【0138】
一方、S620でNoと判断すると、信号処理部30は、S640に移行し、最新の区間平均相関行列R1[ω’]を用いずに、今回の指数平滑相関行列R2[ω’]を、前回の物標推定サイクルにおいて算出された処理対象周波数ω’の指数平滑相関行列R2pre[ω’]に設定する。
【0139】
但し、指数平滑相関行列R2[ω’]の設定に必要な指数平滑相関行列R2pre[ω’]が存在しない場合には、例外的に、最新の区間平均相関行列R1[ω’]を指数平滑相関行列R2[ω’]に設定する(R2[ω’]=R1[ω’])。その後、当該指数平滑相関行列算出処理を終了する。
【0140】
また、S220での処理を終えると、信号処理部30は、S220で求めた指数平滑相関行列R2[ω’]の固有値λ1,…,λK(但し、λ1≧λ2≧…λk)を算出すると共に、各固有値に対応する固有ベクトルe1,…,eKを算出する(S230)。
【0141】
更には、熱雑音電力に対応する予め定められた閾値より大きい固有値の数Mを、到来波数Mであると推定すると共に(S240)、熱雑音電力(閾値)以下となる(K−M)個の固有値λM+1,…,λKに対応した固有ベクトルeM+1,…,eKからなる雑音固有ベクトルEN(式(7)参照)と、方位θに対するアレーアンテナの複素応答、即ち、ステアリングベクトルa(θ)とから、式(8)に従って、MUSICスペクトルを求める(S250)。
【0142】
そして、求めたMUSICスペクトルにおいて、値PMU(θ)が、予め定められた閾値以上の各ピークに対応する方位θ(最大M個)を、物標の方位であると推定する(S260)。
【0143】
また、この処理を終えると、S270に移行して、S180で特定した全ピーク周波数ωn(n=1,…,N)を対象に、S200〜S260の処理を実行したか否かを判断する。
【0144】
そして、全ピーク周波数ωn(n=1,…,N)を対象に、S200〜S260の処理を実行していないと判断すると(S270でNo)、S190に移行し、未処理のピーク周波数ωnを一つ選択して、これを処理対象周波数ω’に設定し、この処理対象周波数ω’でのMUSICスペクトルを求めて、物標方位を推定する(S260)。
【0145】
このようにして、信号処理部30は、上り区間における各ピーク周波数ωn(n=1,…,N)毎にMUSICスペクトルを求めて、各MUSICスペクトルから物標方位θを推定する。
【0146】
そして、S180で特定した全ピーク周波数ωn(n=1,…,N)を対象に、S200〜S260の処理を実行したと判断すると(S270でYes)、現在設定されている処理対象区間が下り区間であるか否かを判断する(S280)。尚、物標推定処理開始後、初回のS280実行時には、処理対象区間が上り区間に設定されているため、その場合には、S280で、否定判断する(S280でNo)。
【0147】
そして、否定判断した場合には、処理対象区間を、上り区間から下り区間に変更した後(S290)、S160に移行し、下り区間について上述の処理(S160〜S270)を実行する。このような手順により、下り区間における各ピーク周波数について、対応するMUSICスペクトルから物標方位θを求める。
【0148】
そして、下り区間の全ピーク周波数を対象に、MUSICスペクトルを求めて物標方位を推定し終えると、S270でYesと判断し、S280でYesと判断して、S300に移行する。
【0149】
また、S300に移行すると、信号処理部30は、上り区間の各ピーク周波数の物標方位θ及び下り区間の各ピーク周波数の物標方位θを指標に、ペアマッチ処理を実行する。
反射波に対応するビート信号BTの周波数fb1,fb2は、上述したように上り区間及び下り区間において夫々異なるので、ここでは、ペアマッチ処理により、同一反射波成分のピーク周波数のペア(上述した周波数fb1,fb2に対応するピーク周波数のペア)を求める。
【0150】
そして、ペアマッチ処理によりペアと判定した上り区間及び下り区間のピーク周波数の組合せに基づき、ペア毎に、反射波の発生元である物標の自車からの距離D、及び、自車を基準とした相対速度Vを、式(1)〜(4)に従って算出する(S310)。
【0151】
即ち、上り区間のピーク周波数を、周波数fb1とみなし、下り区間のピーク周波数を、周波数fb2とみなして、物標の自車からの距離D、及び、自車を基準とした物標の相対速度Vを、式(1)〜(4)に従って算出する。
【0152】
そして、これらの結果に基づき、各物標の距離D及び相対速度V及び方位θの情報を、物標情報として、車間制御ECU40に出力する(S320)。その後、当該物標推定処理を終了する。
【0153】
以上、第一実施例について説明したが、このレーダ装置1によれば、各変調周期での干渉量qに基づき、自己相関行列Rxxを重み付けして、区間平均相関行列R1を求め、この区間平均相関行列R1に基づき、物標方位θを求めるので、従来装置よりも高精度に物標方位θを求めることができる。
【0154】
即ち、従来装置では、所定個の自己相関行列Rxxを等価平均して、区間平均相関行列R1を求めるので、その等価平均の対象である自己相関行列Rxxに対応する受信信号に強い干渉が発生していると、その影響が区間平均相関行列R1にも大きく及んで、高精度に物標方位を求めることができなくなるが、本発明によれば、局部的な干渉が発生した場合に、当該局部的な干渉が発生した時期の自己相関行列Rxxの重み付けを低くして、区間平均相関行列R1を求めることができるので、その影響が、区間平均相関行列R1に大きく及ぶのを抑えることができ、結果として、高精度に物標方位θを求めることができる。
【0155】
また、このレーダ装置1では、各変調周期のパワースペクトルPik(ω)を重み付け係数w[i]により加重平均して、区間平均パワースペクトルPk(ω)を求め、この区間平均パワースペクトルPk(ω)に基づき、ピーク周波数(反射波成分の周波数)を特定するので、精度よく、反射波成分の周波数を推定することができ、結果として、高精度に物標方位を求めることができる。
【0156】
即ち、従来装置では、区間平均パワースペクトルを、各変調周期のパワースペクトルを等価平均することにより求めていたが、本実施例によれば、干渉量qを考慮して、局部的な雑音の影響を抑えるように区間平均パワースペクトルを求め、これに基づいて、ピーク周波数ωnを特定するので、高精度に物標方位を求めることができる。
【0157】
尚、本実施例と「特許請求の範囲」に記載の各手段との対応関係は、次の通りである。送受信手段は、レーダ装置1における信号処理部30を除く各部に対応する。また、データ収集手段は、信号処理部30が実行するS110の処理により実現され、「単位データ」は、各変調周期毎及び各区間毎に生成される各チャネルのスナップショットデータの集合に対応する。
【0158】
また、自己相関行列生成手段は、信号処理部30がS200にて変調周期毎に、処理対象区間の自己相関行列Rxxを生成する動作にて実現されており、区間平均相関行列生成手段は、信号処理部30が実行するS210の処理にて実現されている。その他、方位算出手段は、信号処理部30が実行するS220〜S260の処理にて実現されている。
【0159】
また、混入量推定手段(請求項9,請求項12,請求項24)は、信号処理部30が実行するS520〜S540の処理により実現され、「単位データの雑音混入量」は、各変調周期の代表干渉量q[i]に対応する。
【0160】
尚、「雑音解析対象のアンテナ素子」は、本実施例において、受信アンテナ19を構成する全アンテナ素子に対応するが、変形例としては、一部のアンテナ素子を対象に、S530,S540の処理を実行して、代表干渉量q[i]を求めることが考えられる。
【0161】
また、本実施例では、S520において、高周波領域成分のパワーの中央値を求めて、求めた中央値を、干渉量q[i,k]に設定するようにしたが、S520では、高周波領域成分のパワーの等価平均値を求めて、求めた等価平均値を、干渉量q[i,k]に設定するようにレーダ装置1を構成してもよい。即ち、パワースペクトルが示す高周波領域における各周波数(ω>ωmax)のパワーを等価平均してなる値を、干渉量q[i,k]に設定してもよい。
【0162】
この他、係数決定手段(請求項14,請求項27)は、本実施例において、信号処理部30が実行するS570の処理により実現されている。
また、変換手段は、信号処理部30が実行するS140の処理により実現され、「周波数領域データ」は、スナップショットデータをフーリエ変換して得られるパワースペクトルに対応する。この他、周波数推定手段(請求項5,請求項6)は、信号処理部30が実行するS170,S180の処理により実現され、「反射波周波数を推定する動作」は、ピーク周波数を特定する動作に対応する。
【0163】
また、平均化手段(請求項5,請求項21)は、信号処理部30が実行するS170の処理により実現され、区間平均周波数領域データは、区間平均パワースペクトルPk(ω)に対応する。
【0164】
この他、方位算出手段が備える平滑相関行列生成手段は、信号処理部30が実行するS630,S640の処理にて実現され、採用可否判断手段は、S610,S620の処理により実現されている。また、物標情報算出手段は、信号処理部30が実行するS180,S300,S310の処理により実現されている。
【実施例2】
【0165】
続いて、第二実施例について説明する。但し、第二実施例のレーダ装置1は、S160で実行する重み付け係数算出処理の内容が、第一実施例と異なる程度であるため、以下では、第二実施例の信号処理部30が実行する重み付け係数算出処理の内容を、選択的に説明する。
【0166】
図5は、第二実施例の重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。尚、前提として、本実施例のレーダ装置1では、第1チャネルから第KチャネルまでのK個のチャネルの内の一つが、設計段階で予め代表チャネルとして定められているものとする。
【0167】
図5に示す重み付け係数算出処理を開始すると、信号処理部30は、変数iを値1に設定した後(S510)、代表チャネルの第i変調周期における処理対象区間のスナップショットデータをフーリエ変換してなるパワースペクトルから、予め設計段階で定められた周波数ωmaxよりも高周波領域の成分(パワースペクトル)を抽出する(S522)。
【0168】
その後、S532に移行し、代表チャネルにおける上記抽出した高周波領域成分のパワーの中央値を求めて、求めた中央値を、第i変調周期の代表干渉量q[i]に設定する。ここで、代表チャネルが、第k=k0チャネルであるとすると、代表干渉量q[i]は、q[i]=median(Pik0(ω>ωmax))となる。
【0169】
また、S532での処理を終えると、信号処理部30は、S550に移行し、変数i=SNNであるか否かを判断し、変数i=SNNではないと判断すると(S550でNo)、S560に移行して、変数iを1カウントアップした後(i←i+1)、S522に移行する。このようにして、信号処理部30は、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]を設定する。
【0170】
そして、変数i=SNNであると判断すると(S550でYes)、S570に移行し、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]に基づき、今回の物標推定サイクルにおいて処理対象区間の加重平均に用いる重み付け係数w[i](i=1,…,SNN)を、第一実施例と同様、式(14)又は式(16)に従って算出する。このようにしてS570での処理を終えると、信号処理部30は、重み付け係数算出処理を終了する。
【0171】
このように代表チャネルを定めて、代表チャネルのパワースペクトルに基づき、重み付け係数w[i]を算出するようにすれば、信号処理部30の演算負荷を抑えることができる。
【0172】
尚、第二実施例の手法で重み付け係数w[i]を求める場合には、S170において、代表チャネルのみについて、区間平均パワースペクトルPk(ω)を算出し、代表チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)を、上記代表パワースペクトルP(ω)と取扱って、この代表パワースペクトルP(ω)に基づき、ピーク周波数ωn(n=1,…,N)を特定し、後続の処理を実行するのが演算負荷抑制の観点から好ましい。
【0173】
また、S532においては、第一実施例におけるS530での処理と同様、「高周波領域成分のパワーの中央値」に代えて、「高周波領域成分のパワーの等価平均値」を、干渉量q[i]に設定することができる。
【0174】
尚、本発明の混入量推定手段(請求項13,請求項24)は、本実施例において、信号処理部30が実行するS522,S532の処理により実現されている。
【実施例3】
【0175】
続いて、第三実施例について説明する。但し、第三実施例のレーダ装置1は、S160で実行する重み付け係数算出処理の内容が、第一実施例と異なる程度であるため、以下では、第三実施例の信号処理部30が実行する重み付け係数算出処理の内容を、選択的に説明する。図6は、第三実施例のレーダ装置1が、信号処理部30において実行する重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【0176】
図6に示す重み付け係数算出処理を開始すると、信号処理部30は、第一実施例と同様に、S510〜S560の処理を実行する。そして、S550で、変数i=SNNであると判断すると(S550でYes)、S572に移行する。
【0177】
そして、S572では、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]に基づき、今回の物標推定サイクルにおいて処理対象区間の加重平均に用いる重み付け係数w[i]を、次式に従い、i=1,…,SNNの夫々について算出する。
【0178】
【数15】
即ち、第i変調周期の代表干渉量q[i]が、予め定められた閾値Tht未満である場合には、第i変調周期の重み付け係数w[i]を、「1」に設定し、第i変調周期の代表干渉量q[i]が、予め定められた閾値Tht以上である場合には、第i変調周期の重み付け係数w[i]を、「0」に設定する。
【0179】
また、S572での処理を終えると、信号処理部30は、S573に移行し、各重み付け係数w[i](i=1,…,SNN)を、重み付け係数w[i]の総和が1になるように規格化する。
【0180】
即ち、S572で設定した各重み付け係数w[i](i=1,…,SNN)の値を、式(25)に示すように、S572で設定した重み付け係数w[i]の総和で除算した値に更新する。
【0181】
【数16】
その後、当該重み付け係数算出処理を終了する。
【0182】
本実施例のように、重み付け係数w[i]を算出すれば、第一実施例の手法よりも、信号処理部30における演算負荷を抑えることができる。
尚、本実施例におけるS510〜S560の各ステップは、第二実施例におけるS510〜S560の各ステップに置き換えられてもよい。このようにすれば、代表チャネルの干渉量のみに基づいて、重み付け係数w[i]を算出することになるので、一層、演算負荷を抑えることができる。また、本発明の係数決定手段(請求項15,請求項28)は、信号処理部30が実行するS572,S573の処理により実現されている。
【実施例4】
【0183】
続いて、第四実施例について説明する。第四実施例は、干渉量として、スナップショットデータにおける干渉発生時間を採用するようにしたものである。また、それに伴って、信号処理部30が実行する物標推定処理及び重み付け係数算出処理の一部を、第一実施例のレーダ装置1に対して変更したものである。
【0184】
即ち、第四実施例のレーダ装置1は、物標推定処理及び重み付け係数算出処理の一部内容が、第一実施例と異なる程度のものである。従って、以下では、第四実施例の信号処理部30が実行する物標推定処理及び重み付け係数算出処理の内容を、選択的に説明する。
【0185】
図7は、第四実施例の信号処理部30が繰返し実行する物標推定処理の一部を抜粋して表したフローチャートである。
信号処理部30は、図7に示す物標推定処理を開始すると、第一実施例と同様に、各チャネルのスナップショットデータを、上り区間及び下り区間の夫々について、SSN周期分生成し(S110)、これら各スナップショットデータのトレンド除去を行う(S120)。
【0186】
その後、S123に移行し、スナップショットデータ毎に、スナップショットデータが示す全時間領域でのパワーの中央値Csを算出する。スナップショットデータが示す信号値がBT(t)であるとすると、パワーをBT2(t)として、中央値Cs=median(BT2(t))を算出する。
【0187】
また、この処理を終えると、信号処理部30は、スナップショットデータ毎に、S123で算出した中央値Csを用いて、次の処理を行う。即ち、スナップショットデータから得られた中央値Csに予め設計段階で定められた閾値Thsを加算して、判定値(Cs+Ths)を求め、当該スナップショットデータにおいて、パワーBT2(t)が判定値(Cs+Ths)を超える時間tnを求める(S124)。
【0188】
尚、ここでは、スナップショットデータにおいて、パワーBT2(t)が判定値(Cs+Ths)より大きい時間の総計を、時間tnとして求める。但し、スナップショットデータ内において、パワーBT2(t)が判定値(Cs+Ths)より大きい期間が複数期間ある場合には、複数期間の内、時間長さが最も長い期間の時間を、時間tnとしてもよい。
【0189】
そして、求めた時間tnを、干渉発生時間tinf[i,k,pd]に設定する。尚、干渉発生時間tinf[i,k,pd]は、第kチャネルにおける第i変調周期のpd区間でのスナップショットデータの干渉発生時間を表すものとする。また、pdは、「上り」を表す値「0」又は「下り」を表す値「1」を採るものとする。
【0190】
即ち、信号処理部30は、第i変調周期の第kチャネルのpd区間におけるスナップショットデータに基づいて、上記手順により求めた時間tnを、干渉発生時間tinf[i,k,pd]に設定する。
【0191】
また、このようにして、S124での処理を終えると、信号処理部30は、第一実施例と同様に、S130以降の処理を実行する。但し、S160においては、図8に示す重み付け係数算出処理を実行する。図8は、第四実施例において信号処理部30が実行する重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【0192】
この重み付け係数算出処理を開始すると、信号処理部30は、変数iを値1に設定し(S510)、その後、S534に移行して、チャネル毎に、当該チャネルの第i変調周期における処理対象区間(pd区間)の干渉発生時間tinf[i,k,pd]を、当該チャネルの第i変調周期の干渉量q[i,k]に設定する(q[i,k]←tinf[i,k,pd])。
【0193】
そして、S534の処理後には、S540に移行し、S534で設定した干渉量q[i,k]を用いて、式(12)又は式(13)に従い、第i変調周期の代表干渉量q[i]を設定する。
【0194】
また、S540での処理を終えると、信号処理部30は、S550に移行し、変数i=SNNであるか否かを判断し、変数i=SNNではないと判断すると(S550でNo)、S560に移行して、変数iを1カウントアップした後(i←i+1)、S534に移行する。このようにして、信号処理部30は、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]を算出する。
【0195】
そして、変数i=SNNであると判断すると(S550でYes)、S574に移行し、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]に基づき、式(14)に従い、今回の物標推定サイクルにおいて処理対象区間の加重平均に用いる重み付け係数w[i](i=1,…,SNN)を算出する。このようにしてS574での処理を終えると、信号処理部30は、重み付け係数算出処理を終了する。
【0196】
本実施例のように、干渉発生時間tinfを干渉量qに設定して、重み付け係数w[i]を算出するようにしても、適切に重み付け係数w[i]を求めることができ、雑音により物標方位等の算出精度が悪化するのを抑えることができる。
【0197】
尚、本実施例では、第二実施例と同様に代表チャネルを定めるようにしてもよく、代表チャネルの第i変調周期における処理対象区間の干渉発生時間tinf[i,k0,pd]を、第i変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[i]に設定するように、S534,S540の処理を置き換えてもよい。
【0198】
また、本発明の混入量推定手段(請求項11,請求項26)は、信号処理部30が実行するS123,S124,S534,S540の処理により実現されている。
【実施例5】
【0199】
続いて、第五実施例について説明する。第五実施例は、干渉量として、スナップショットデータにおける全時間領域のパワーの平均値を採用するようにしたものである。また、それに伴って、信号処理部30が実行する物標推定処理及び重み付け係数算出処理の一部を、第一実施例のレーダ装置1に対して変更したものである。
【0200】
即ち、第五実施例のレーダ装置1は、物標推定処理及び重み付け係数算出処理の一部内容が、第一実施例と異なる程度のものである。従って、以下では、第五実施例の信号処理部30が実行する物標推定処理及び重み付け係数算出処理の内容を、選択的に説明する。
【0201】
図9(a)は、第五実施例のレーダ装置1において、信号処理部30が繰返し実行する物標推定処理の一部を抜粋して表したフローチャートである。
信号処理部30は、図9(a)に示す物標推定処理を開始すると、第一実施例と同様に、各チャネルのスナップショットデータを、上り区間及び下り区間の夫々について、SSN周期分取得し(S110)、これら各スナップショットデータのトレンド除去を行う(S120)。
【0202】
また、この処理を終えると、S125に移行し、スナップショットデータ毎に、当該スナップショットデータが示す全時間領域のパワーの平均値Msを算出する。即ち、スナップショットデータがL個の信号値の時系列データからなり、スナップショットデータが示す時刻tでの信号値がBT(t)であるとすると、次式
【0203】
【数17】
に従って、スナップショットデータが示す全時間領域のパワーの平均値Msを算出する。尚、以下では、第kチャネルにおける第i変調周期のpd区間でのスナップショットデータに基づいて求めた平均値Msを、パワー平均値Ms[i,k,pd]と表記する。
【0204】
また、この処理を終えると、信号処理部30は、第一実施例と同様に、S130以降の処理を実行するが、S160においては、図9(b)に示す重み付け係数算出処理を実行する。図9(b)は、信号処理部30が実行する第五実施例の重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【0205】
この重み付け係数算出処理を開始すると、信号処理部30は、変数iを値1に設定した後(S510)、S535に移行し、チャネル(k=1,…,K)毎に、当該チャネルの第i変調周期における処理対象区間(pd区間)のパワー平均値Ms[i,k,pd]を、当該チャネルにおける第i変調周期の干渉量q[i,k]に設定する(q[i,k]←Ms[i,k,pd])。
【0206】
そして、S535で設定した干渉量q[i,k]を用いて、式(12)又は式(13)に従い、第i変調周期の代表干渉量q[i]を設定する(S540)。このような処理を、i=1〜SNNについて実行し、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期について、処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]を算出する。
【0207】
その後には、算出した上記第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期の代表干渉量q[1]〜q[SNN]に基づき、今回の物標推定サイクルにおいて処理対象区間の加重平均に用いる重み付け係数w[i](i=1,…,SNN)を、式(14)に従い、算出する。但し、代表干渉量q[i]がデシベル値である場合には、式(16)に従い、重み付け係数w[i]を算出する(S570)。その後、信号処理部30は、重み付け係数算出処理を終了する。
【0208】
本実施例のように、パワー平均値Msを干渉量qに設定して、重み付け係数w[i]を算出するようにしても、適切に重み付け係数w[i]を求めることができ、雑音により物標方位等の算出精度が悪化するのを抑えることができる。
【0209】
尚、本実施例においても、第二実施例と同様に代表チャネルを定めるようにしてもよく、代表チャネルの第i変調周期における処理対象区間のパワー平均値Ms[i,k0,pd]を、第i変調周期の代表干渉量q[i]に設定するように、S535,S540の処理を置き換えてもよい。
【0210】
また、本発明の混入量推定手段(請求項10,請求項25)は、信号処理部30が実行するS125,S535,S540の処理により実現されている。
以上、第一実施例から第五実施例までを説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【0211】
例えば、上記実施例では、チャネル毎に、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における当該チャネルのパワースペクトルPik(ω)に基づき、区間平均パワースペクトルPk(ω)を算出し、その後、各チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)を等価平均して、代表パワースペクトルP(ω)を算出するようにしたが、次のような手順で、代表パワースペクトルP(ω)を算出しても、等価な結果を得ることができる。
【0212】
即ち、変調周期毎に、第1チャネルから第KチャネルまでのパワースペクトルPik(ω)を等価平均して、変調周期毎のパワースペクトルPi(ω)を算出し、
【0213】
【数18】
各変調周期のパワースペクトルPi(ω)を、重み付け係数w[i]を用いて、次式
【0214】
【数19】
に従い加重平均することにより、代表パワースペクトルP(ω)を算出してもよい。この場合には、式(28)で算出された代表パワースペクトルP(ω)に基づき、ピーク周波数ωn(n=1,…,N)を特定することになる。
【0215】
その他、第一実施例〜第五実施例においては、S130の処理を実行しないようにしてもよい。この場合には、雑音の影響が大きくなるが、一方で、信号処理部30の演算負荷を抑えることができる。
【0216】
また、受信アンテナ19は、アンテナ素子が等間隔に配置されたアレーアンテナでなくてもよく、例えば、アンテナ素子が不等間隔に配置されたアレーアンテナであってもよい。
【0217】
また、上記実施例では、各アンテナ素子の信号を受信スイッチ21により切り替えて受信するタイプのレーダ装置1について説明したが、本発明は、当然のことながら、各アンテナ素子の信号を同時に受信するタイプのレーダ装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0218】
【図1】レーダ装置1の構成を表すブロック図である。
【図2】信号処理部30が実行する物標推定処理を表すフローチャートである。
【図3】信号処理部30が実行する重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【図4】信号処理部30が実行する指数平滑相関行列算出処理を表すフローチャートである。
【図5】第二実施例の重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【図6】第三実施例の重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【図7】第四実施例の物標推定処理を表すフローチャートである。
【図8】第四実施例の重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【図9】第五実施例の物標推定処理(a)及び重み付け係数算出処理(b)を表すフローチャートである。
【図10】送信信号Ss及び受信信号Sr及びビート信号BTの態様を表す説明図である。
【図11】物標の方位推定に関する説明図である。
【図12】雑音の発生メカニズムに関する説明図である。
【符号の説明】
【0219】
1…レーダ装置、11…発振器、13,23…増幅器、15…分配器、17…送信アンテナ、19…受信アンテナ、21…受信スイッチ、25…ミキサ、27…フィルタ、29…A/D変換器、30…信号処理部
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ波を送信すると共に、送信したレーダ波の反射波を受信し、その受信信号に基づき、反射波の発生元である物標の位置・速度・方位等の物標情報を求めるレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダ装置としては、自車前方に向けてレーダ波を発射し、その反射波の受信結果に基づいて、自車前方に存在する車両までの距離や方位、この車両と自車との相対速度を求める車載用のレーダ装置が知られている。また、この種のレーダ装置としては、FMCW方式のレーダ装置(以下、「FMCWレーダ装置」と表現する。)が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
FMCWレーダ装置では、図10上段に実線で示すように、三角波上の変調信号により周波数変調され周波数が時間に対して直線的に漸次増減する送信信号Ssをレーダ波として送信し、図11(a)に示すようにして、物標により反射されたレーダ波(反射波)を受信する。
【0004】
この時、反射波の受信信号Srは、図10上段に点線で示すように、レーダ波が物標との間を往復するのに要する時間、即ち、物標までの距離に応じた時間trだけ遅延し、物標との相対速度に応じた周波数fdだけ周波数が下がる方向にドップラシフトする。
【0005】
FMCWレーダ装置では、このような受信信号Srと送信信号Ssとをミキサで混合することにより、ビート信号BT(図10下段参照)を生成する。
そして、送信信号Ssの周波数が増加する上り区間のビート信号BTの周波数fb1と、送信信号Ssの周波数が減少する下り区間のビート信号BTの周波数fb2とから、物標との距離D及び相対速度Vを、式(1)〜(4)に従って算出する。但し、cは電波伝搬速度,fmは送信信号の変調周波数、Δfは送信信号の周波数変動幅、f0は送信信号の中心周波数である。
【0006】
【数1】
即ち、FMCWレーダ装置では、ビート信号BTをフーリエ変換し、周波数解析することで、上り区間におけるビート信号BTの反射波成分の周波数fb1と、下り区間におけるビート信号BTの反射波成分の周波数fb2とを特定し、この周波数fb1,fb2から、前方に位置する物標までの距離D及び相対速度Vを求める。
【0007】
また、物標方位については、受信アンテナであるアレーアンテナの各アンテナ素子が受信する反射波に、到来方向に応じた位相差が生じることを利用して求める。複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナを用いて、物体の方位を求める方法としては、各アンテナ素子が受信した受信信号についての自己相関行列を生成し、この自己相関行列に基づき、角度スペクトルを生成し、この角度スペクトルを解析することで、方位を求める方法が知られている。例えば、方位算出方法としては、MUSIC法やディジタルビームフォーミング(DBF)法、CAPON法などが知られている。
【0008】
ここで、方位算出方法として知られているMUSIC法について、その概要を説明する。尚、アレーアンテナは、K個のアンテナ素子を一直線上に等間隔で配置した、所謂リニアアレーアンテナであるものとする(図1参照)。
【0009】
まず、アレーアンテナの各アンテナ素子に対応するビート信号BTをフーリエ変換し、パワーのピークが立つピーク周波数での各アンテナ素子のフーリエ変換値を配列して、式(5)に示す受信ベクトルXを構成する。次に、この受信ベクトルXを用いて、式(6)に示すK行K列の自己相関行列Rxxを求める。
【0010】
【数2】
ここで、受信ベクトルXの要素xk(k=1,…,K)は、K個の各アンテナ素子について共通して得られたピーク周波数におけるk番目のアンテナ素子のフーリエ変換値(複素数)である。また、上式におけるTは、ベクトル転置を示し、Hは、複素共役転置を示す。
【0011】
ピーク周波数は、各アンテナ素子の受信信号に雑音が混入していない理想的な状態において、反射波成分の周波数を示すので、上述した周波数fb1,fb2のいずれかに該当することになる。
【0012】
一般的には、ビート信号BTを、上り区間及び下り区間の各区間に分けてフーリエ変換し、区間毎にピーク周波数を求めると共に、区間毎に、ピーク周波数での各アンテナ素子のフーリエ変換値を配列して式(5)に示す受信ベクトルXを構成する。そして、区間毎に、当該区間に対応する受信ベクトルについての自己相関行列を生成し、区間毎に、対応する自己相関行列を用いて、以下の手順で反射波を発生させた物標の方位を算出する。
【0013】
具体的には、自己相関行列Rxxの固有値λ1,…,λK(但し、λ1≧λ2≧…λk)を求め、熱雑音電力に対応する閾値λthより大きい固有値の数から到来波数Mを推定すると共に、熱雑音電力以下となる(K−M)個の固有値λM+1,…,λKに対応する固有ベクトルeM+1,…,eKを、算出する。
【0014】
そして、熱雑音電力以下となる(K−M)個の固有値λM+1,…,λKに対応した固有ベクトルeM+1,…,eKからなる雑音固有ベクトルENと、方位θに対するアレーアンテナの複素応答、即ち、ステアリングベクトルa(θ)とから、角度スペクトルとして、下式の評価関数PMU(θ)で表されるMUSICスペクトルを求める。
【0015】
【数3】
評価関数PMU(θ)で表されるMUSICスペクトルは、図11(b)に示すように、方位θが到来波の到来方向と一致すると発散して、鋭いピークが立つため、到来波の方位θ1,…,θM、即ち、反射波を発生させた物標の方位は、MUSICスペクトルのピーク(ヌルポイント)を抽出することにより求めることができる。
【0016】
即ち、従来装置では、区間毎に、ビート信号のパワースペクトルからピーク周波数を求め、その周波数の到来波の方位θ1,…,θMをMUSICスペクトルのピークから求めることにより、反射波の発生元である各物標の方位θを求めている。
【0017】
尚、区間毎に物標の方位θを求めるのは、車両前方に複数の車両が存在する場合、複数の反射波をアレーアンテナが同時に受信することになり、上り区間及び下り区間の各区間において、ビート信号BTのパワースペクトルから、複数のピーク周波数が検出されるためである。
【0018】
各区間において複数のピーク周波数が存在する場合、上り区間及び下り区間において、どの周波数の組合せが、上記周波数fb1,fb2の組合せか正確に特定できない。このため、従来装置では、上り区間及び下り区間の各区間において、各ピーク周波数の方位θを求めることで、方位θの組合せが合致する上り区間のピーク周波数と、下り区間のピーク周波数とを、上記周波数fb1,fb2の組合せと特定し、各物標までの距離D、及び、物標との相対速度V、及び、物標の方位θを求めている。
【0019】
ところで、ビート信号には、複数の物標から反射されたレーダ波の成分だけでなく、図12(a)に示すように、反対車線の車両のレーダ装置や後方車両のレーダ装置から飛来してくる反射波ではないレーダ波の成分や、その他の種々の雑音成分が含まれる。
【0020】
このため、従来では、送信信号の変調周期(1/fm)を1サイクルとして、各サイクル毎に、そのサイクルで得られたビート信号から上記手法で自己相関行列Rxxを算出し、時間的に連続する複数サイクル分の自己相関行列Rxxを、等価平均して、区間平均相関行列R0を求め、この区間平均相関行列R0に基づき、上記手法でMUSICスペクトルを求めて、物標の方位θを求めることにより、雑音の影響を抑えている。
【0021】
【数4】
尚、上式は、SNNサイクル分の自己相関行列Rxxを等価平均して、区間平均相関行列R0を求める例である。Rxx(i)は、等価平均の対象となる自己相関行列Rxxの内、第iサイクルの自己相関行列Rxxを表す。
【0022】
このように区間平均相関行列R0を求めれば、雑音の影響を緩和することができて、サイクル毎に自己相関行列Rxxから物標の方位θを求める場合よりも、正確に、物標方位θを求めることができる。
【0023】
また、ビート信号BTのパワースペクトルからピーク周波数を求めて、そのピーク周波数から物標の位置・速度を求める際にも、1サイクル毎に、パワースペクトルから物標の位置・速度を求める動作を行うと、雑音成分の影響を受けやすくなる。
【0024】
このため、従来装置では、時間的に連続する複数サイクル分のビート信号BTのパワースペクトルを、等価平均して、その平均化したパワースペクトルからピーク周波数を求め、このピーク周波数から物標の位置・速度を求めることで、雑音の影響を抑えるようにしている。
【特許文献1】特開2006−284182号公報
【特許文献2】特開2006−300720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、複数サイクル分の自己相関行列やパワースペクトルを等価平均する従来方法では、十分に高精度に、物標の位置・速度・方位等の物標情報を求めることができないといった問題があった。即ち、従来手法では、物標情報の高精度化に限界があった。
【0026】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、レーダ装置において、物標の位置・速度・方位等の物標情報を、従来よりも高精度に求めることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
まず、発明の構成がもたらす作用・効果を明確にするために、従来、高精度化を阻害する原因となっている雑音の発生メカニズムについて説明する。具体的には、レーダ装置の受信信号において、他車両から飛来してくるレーダ波成分が混入した場合を考える。
【0028】
レーダ装置は、メーカや機種あるいはレーダ個体差等の違いにより、そのレーダ波の変調周期や変調の傾きが異なるので、受信信号Srと送信信号Ssとをミキサで混合することにより、ビート信号BTを生成する際に、受信信号Srに、図12(b)に示すような、自車両のレーダ装置とは異なる変調周期や変調傾きのレーダ波成分(他車両のレーダ波成分)が含まれると、送信信号Ssと受信信号Srとの周波数差の信号であるビート信号BTにおいては、周波数帯域が大きく広がる。
【0029】
従来のレーダ装置では、この雑音成分を含むビート信号BTをローパスフィルタに通すことにより高周波成分を取り除くのであるが、ローパスフィルタを通したところで除去できない雑音成分がビート信号BTに残る。
【0030】
一方、ローパスフィルタを通したビート信号BTは、信号処理のために、アナログ信号からディジタル信号に変換される。しかしながら、除去できなかった雑音成分を含むビート信号BTをディジタル信号に変換すると、アナログ−ディジタル変換時のサンプリング周波数の1/2より高周波領域の信号成分が、存在しない周波数成分(折り返し歪み)としてディジタル信号に現れる。
【0031】
そして、この雑音成分が結果的に、周波数解析の際にパワースペクトルにおいて誤ったピークを示すことになり、物標の位置・速度・方位等の算出に誤差が生じるのである。従来では、このような現象が、高精度化を阻害する要因となっていた。
【0032】
ところで、このような雑音成分は、図12(b)に示すように、時間領域において、局部的に現れる。
従って、複数サイクル分の自己相関行列やパワースペクトルを等価平均する従来方法では、雑音成分の影響が、物標情報を算出する際の精度に大きく及ぶものの、局部的に現れる雑音成分を抑えるように、複数サイクル分の自己相関行列やパワースペクトルを加重平均すれば、物標情報の高精度化を図ることができる。
【0033】
本発明者らは、こうした点に着目して、次の発明をするに至った。尚、以上では、雑音成分の発生メカニズムについて、FMCWレーダ装置を前提として話をしたが、以下に説明する本発明は、FMCWレーダ装置に限定されるものではなく、局部的に雑音成分が発生する信号を処理する全てのレーダ装置に有効である。
【0034】
物標情報の高精度化を実現するためになされた本発明(請求項1記載)のレーダ装置は、レーダ波を送信すると共に、送信したレーダ波の反射波をアレーアンテナで受信する送受信手段を備え、送受信手段から出力されるアレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に基づき、アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物標の方位を求めるレーダ装置であって、データ収集手段と、自己相関行列生成手段と、区間平均相関行列生成手段と、方位算出手段と、混入量推定手段と、係数決定手段と、を備える。
【0035】
データ収集手段は、送受信手段から出力される各アンテナ素子の受信信号から、受信信号のサンプルを取得することで、各アンテナ素子のサンプルの集合としての単位データを生成する動作、を繰返し実行し、自己相関行列生成手段は、データ収集手段の動作により生成される単位データ毎に、当該単位データに基づく自己相関行列を生成する。
【0036】
区間平均相関行列生成手段は、この自己相関行列生成手段が単位データ毎に生成する自己相関行列の所定個を時間平均することによって、時間平均後の自己相関行列としての区間平均相関行列を生成し、方位算出手段は、区間平均相関行列生成手段が生成した区間平均相関行列に基づき、レーダ波を反射した物標の方位を求める。
【0037】
一方、混入量推定手段は、データ収集手段により生成される単位データ毎に、当該単位データの雑音混入量を、推定する。即ち、当該単位データを構成する各アンテナ素子のサンプルに含まれる雑音の混入量を推定する。
【0038】
そして、係数決定手段は、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列の夫々に作用させる重み付け係数を、重み付け係数を作用させる自己相関行列の生成時に用いられる単位データに対し混入量推定手段が推定した上記単位データの雑音混入量に基づき、決定する。
【0039】
即ち、区間平均相関行列生成手段は、平均算出の対象とする所定個の自己相関行列の夫々に対し、係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、上記区間平均相関行列として、係数決定手段により決定された重み付け係数により上記所定個の自己相関行列を加重平均してなる自己相関行列を生成する。
【0040】
このように構成されたレーダ装置によれば、雑音混入量に基づき、自己相関行列を重み付けして、区間平均相関行列を求め、この区間平均相関行列に基づき、物標方位を求めるので、従来装置よりも高精度に物標方位を求めることができる。
【0041】
詳述すると、従来装置では、平均算出の対象とする所定個の自己相関行列を等価平均していたので、局部的に雑音が発生している場合であっても、その影響が区間平均相関行列に大きく及んで、高精度に物標方位を求めることができないといった問題があったが、本発明によれば、局部的な雑音が発生した時期の自己相関行列の重み付けを低くして、区間平均相関行列を求めることができるので、局部的に発生した雑音の影響が、区間平均相関行列に大きく及ぶのを抑えることができ、結果として、高精度に物標方位を求めることができる。
【0042】
尚、この発明は、上述したように、FMCW方式のレーダ装置の類に適用することができる。即ち、上述の発明は、送受信手段が、周波数変調された送信信号に従い、レーダ波を送信すると共に、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に、送信信号を混合することにより、各アンテナ素子の受信信号を、受信信号と送信信号とを混合してなるビート信号に変換して、出力する構成にされたレーダ装置に適用することができる(請求項2)。この場合には、送受信手段から出力される各アンテナ素子のビート信号から、当該ビート信号のサンプルを取得して、単位データを生成するように、データ収集手段を構成する。
【0043】
また、本発明を、FMCW方式のレーダ装置に適用する場合には、データ収集手段を、送信信号の変調周期(1/fm)毎に、単位データを生成する構成にすることができる。
この他、レーダ装置は、単位データを構成する各アンテナ素子のサンプルを、時間領域から周波数領域へ変換することで、当該変換後のデータとして、各アンテナ素子の周波数領域データを生成する動作を、単位データ毎に実行する変換手段と、アレーアンテナを構成するアンテナ素子の内、予め参照対象のアンテナ素子として定められた少なくとも一つのアンテナ素子の周波数領域データに基づき、反射波成分の周波数である反射波周波数を推定する周波数推定手段と、を備える構成にすることができる。
【0044】
また、自己相関行列生成手段は、単位データ毎に、当該単位データに基づいて生成された各アンテナ素子の周波数領域データが示す値であって、周波数推定手段により推定された反射波周波数での値を、ベクトル要素として配列してなる受信ベクトルを生成し、この受信ベクトルについての自己相関行列を生成し、周波数推定手段は、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列のグループ毎に、当該自己相関行列の生成時に適用する反射波周波数を推定する構成にすることができる(請求項3)。
【0045】
また、時間領域を周波数領域に変換する方法としては、フーリエ変換(離散フーリエ変換/高速フーリエ変換)や離散コサイン変換等による変換方法が知られており、変換手段は、例えば、各アンテナ素子のサンプルを、時間領域から周波数領域へフーリエ変換する構成にすることができる(請求項4)。
【0046】
一方、周波数推定手段は、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列の生成時に用いられる周波数領域データの内、参照対象のアンテナ素子毎に所定個ある周波数領域データを、参照対象のアンテナ素子毎に、時間平均することによって、参照対象のアンテナ素子毎に、時間平均後の周波数領域データとしての区間平均周波数領域データを生成する平均化手段を備える構成にすることができる。
【0047】
即ち、周波数推定手段は、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列のグループ毎に、平均化手段により生成された参照対象のアンテナ素子毎の区間平均周波数領域データに基づいて、当該自己相関行列の生成時に適用する反射波周波数を推定する構成にすることができる。
【0048】
また、平均化手段は、参照対象のアンテナ素子毎に、次のようにして区間平均周波数領域データを生成する構成にすることができる。
即ち、平均化手段は、上記所定個の周波数領域データの夫々に対し、当該周波数領域データに基づいて生成される自己相関行列に作用させる重み付け係数として係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、上記区間平均周波数領域データとして、係数決定手段により決定された重み付け係数により所定個の周波数領域データを加重平均してなる周波数領域データを生成する構成にすることができる(請求項5)。
【0049】
従来装置では、所定個の周波数領域データを等価平均することで、区間平均周波数領域データを生成し、この区間平均周波数領域データに基づき、反射波周波数を推定していたので、雑音が局部的に発生している場合でも、物標方位を高精度に算出することができなかったが、本発明によれば、加重平均により局部的に発生した雑音の影響を小さくすることができるので、精度よく、反射波周波数を推定することができ、結果として、高精度に物標方位を算出することができる。
【0050】
また、上記周波数推定手段は、具体的に、参照対象のアンテナ素子毎に加重平均により得られた区間平均周波数領域データを、等価平均して、唯一の周波数領域データを生成し、この周波数領域データに基づいて、反射波周波数を推定する構成にすることができる(請求項6)。
【0051】
ところで、レーダ装置は、請求項6記載のように、周波数領域データを時間方向に加重平均して、アンテナ素子毎の区間平均周波数領域データを求めてから、これらを等価平均して、反射波周波数の推定に用いる唯一の周波数領域データを生成する構成にされてもよいし、アンテナ素子毎の周波数領域データを等価平均するなどして、単位データ毎に代表的な周波数領域データを生成し、この代表的な周波数領域データを、時間方向に加重平均することで、反射波周波数の推定に用いる唯一の周波数領域データを生成する構成にされてもよい。
【0052】
即ち、周波数推定手段は、単位データ毎に、当該単位データから得られた参照対象のアンテナ素子の夫々に対応する周波数領域データを、統計的にまとめることによって、一つの単位データに対し、唯一の代表的な周波数領域データを生成する統計化手段と、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列の生成時に用いられる単位データの夫々に対して統計化手段が生成した上記代表的な周波数領域データの所定個を、時間平均することで、時間平均後の周波数領域データとしての区間平均周波数領域データを生成する平均化手段と、を備え、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列のグループ毎に、平均化手段により生成された唯一の区間平均周波数領域データに基づき、自己相関行列の生成時に適用する反射波周波数を推定する構成にすることができる。
【0053】
また、平均化手段は、平均算出の対象とする所定個の上記代表的な周波数領域データの夫々に対し、当該代表的な周波数領域データに対応する単位データに基づいて生成される自己相関行列に作用させる重み付け係数として係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、上記区間平均周波数領域データとして、係数決定手段により決定された重み付け係数により所定個の上記代表的な周波数領域データを加重平均してなる周波数領域データ、を生成する構成にすることができる(請求項7)。
【0054】
この他、統計化手段は、上記代表的な周波数領域データとして、参照対象のアンテナ素子の夫々から得られた周波数領域データを等価平均してなる周波数領域データを生成する構成にすることができる(請求項8)。
【0055】
また、混入量推定手段は、単位データ毎に、アレーアンテナを構成するアンテナ素子の内、予め雑音解析対象のアンテナ素子として定められた一つ又は複数のアンテナ素子の夫々について、当該アンテナ素子のサンプルにおける予め定められた高周波領域のパワーの中央値又は平均値を、雑音解析値として求め、求めたアンテナ素子毎の雑音解析値を指標に、上記単位データの雑音混入量を推定する構成にすることができる(請求項9)。
【0056】
このように「高周波領域のパワー」から雑音混入量を推定して自己相関行列を加重平均すれば、高精度に、物標方位を算出することができる。
また、混入量推定手段は、雑音解析対象のアンテナ素子の夫々について、「サンプルにおける高周波領域のパワーの中央値又は平均値」に代え、「サンプルにおける全時間領域のパワーの平均値」を雑音解析値として求めて、これを指標に、単位データの雑音混入量を推定する構成にされてもよい(請求項10)。
【0057】
この他、混入量推定手段は、雑音解析対象のアンテナ素子の夫々について、「サンプルにおける高周波領域のパワーの中央値又は平均値」に代え、「サンプルにおいてパワーが閾値以上となった時間領域の時間長さ」を雑音解析値として求めて、これを指標に、上記単位データの雑音混入量を推定する構成にすることもできる(請求項11)。
【0058】
このように「全時間領域のパワーの平均値」や「パワーが閾値以上の時間長さ」から雑音混入量を推定して、自己相関行列を加重平均しても、高精度に、物標方位を算出することができる。
【0059】
尚、雑音解析対象のアンテナ素子を、複数定める場合、混入量推定手段は、雑音解析対象のアンテナ素子の夫々について求めた雑音解析値の等価平均値又は中央値を、単位データの雑音混入量であると推定する構成にすることができる(請求項12)。
【0060】
また、雑音解析対象のアンテナ素子を、一つのみ定める場合、混入量推定手段は、雑音解析対象のアンテナ素子について求めた雑音解析値を、単位データの雑音混入量であると推定する構成にされればよい(請求項13)。
【0061】
一方、係数決定手段は、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列である第1自己相関行列Rxx[1]から第N自己相関行列Rxx[N]の夫々に作用させる重み付け係数w[i](但し、w[i]は、第i自己相関行列Rxx[i](i=1,…,N)に作用させる重み付け係数である。)を、重み付け係数w[i]を作用させる自己相関行列Rxx[i]の生成時に用いられる単位データに対し混入量推定手段が推定した上記単位データの雑音混入量q[i]の逆数(1/q[i])と、第1自己相関行列Rxx[1]から第N自己相関行列Rxx[N]の夫々に対応する雑音混入量q[i]の逆数の総和{(1/q[1])+…+(1/q[N])}との比(1/q[i])/{(1/q[1])+…+(1/q[N])}に決定する構成にすることができる(請求項14)。
【0062】
このように重み付け係数w[i]を決定すれば、自己相関行列を、雑音混入量に応じて適切に重み付けし、区間平均相関行列を求めることができる。
この他、係数決定手段は、区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする所定個の自己相関行列について、自己相関行列毎に、当該自己相関行列の生成時に用いられる単位データに対し混入量推定手段が推定した上記単位データの雑音混入量を、予め定められた閾値と比較し、上記単位データの雑音混入量が閾値未満の自己相関行列に作用させる重み付け係数を、予め定められた第一の値に決定し、上記単位データの雑音混入量が閾値以上の自己相関行列に作用させる重み付け係数を、第一の値よりも小さい予め定められた第二の値に決定する構成にされてもよい(請求項15)。
【0063】
このように重み付け係数w[i]を決定すれば、簡単な演算にて重み付け係数w[i]を決定することができて、レーダ装置の処理負荷を抑えることができる。尚、第二の値は、ゼロより大きい値に設定されてもよいし、ゼロに設定されてもよい。即ち、雑音混入量が閾値以上の自己相関行列については、区間平均相関行列の算出に用いないようにしてもよい。また、請求項15記載のように重み付け係数w[i]を決定する場合には、必要に応じて、重み付け係数の総和を1に規格化するとよい。
【0064】
この他、方位算出手段は、区間平均相関行列生成手段による区間平均相関行列の生成サイクル毎に、区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列を、区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化するように補正し、当該補正後の区間平均相関行列として、平滑相関行列を生成する平滑相関行列生成手段を備えて、区間平均相関行列の生成サイクル毎に、平滑相関行列生成手段が生成した平滑相関行列に基づき、レーダ波を反射した物標の方位を求める構成にされるとよい(請求項16)。
【0065】
このようにして、物標方位を算出すれば、一層、方位の算出精度を上げることができる。周知のレーダ装置では、レーダ波を連続的に送信しておらず、断続的にレーダ波を送信している。従って、他車両のレーダ波との干渉による精度悪化を考慮した場合には、常に他車両のレーダ波との干渉を受けるわけではない。従って、最新の区間平均相関行列を、過去の区間平均相関行列で平滑化するように補正すれば、雑音の酷い時期の影響を抑えることができて、一層、高精度に方位を求めることができる。
【0066】
尚、平滑相関行列生成手段は、区間平均相関行列の生成サイクル毎に、区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列R1を、前サイクルにおいて生成した平滑相関行列R2preと予め定められた忘却係数β(但し、0<β<1)とに基づき補正することにより、最新の区間平均相関行列R1を、区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化し、今サイクルの平滑相関行列R2を生成する構成にすることができる。具体的に、平滑相関行列生成手段は、次式
R2=β・R2pre+(1−β)・R1 (10)
に従って平滑相関行列R2を生成する構成にすることができる(請求項17)。
【0067】
また、方位算出手段は、区間平均相関行列の生成サイクル毎に、混入量推定手段により推定された上記区間平均相関行列の生成時に用いられる所定個の自己相関行列の夫々に対応する上記単位データの雑音混入量に基づき、区間平均相関行列生成手段にて生成される最新の区間平均相関行列を、上記平滑相関行列の生成に用いるべきか否かを判断する採用可否判断手段を備える構成にされると一層好ましい。
【0068】
即ち、平滑相関行列生成手段は、採用可否判断手段により肯定判断されると、区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列を、前サイクルにおいて生成した平滑相関行列により補正し、当該補正後の区間平均相関行列を、今サイクルの平滑相関行列として生成することにより、最新の区間平均相関行列を、区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化する一方、採用可否判断手段により否定判断されると、最新の区間平均相関行列を用いずに、最新の区間平均相関行列及び前サイクルにおいて生成した平滑相関行列の内、前サイクルにおいて生成した平滑相関行列のみを用いて、今サイクルの平滑相関行列を生成する構成にされると好ましい。
【0069】
このようにレーダ装置を構成すれば、雑音混入量が極端に多い時期に生成された区間平均相関行列を、平滑相関行列の生成に用いずに済み、物標方位として、誤った方位が算出されるのを防止することができる(請求項18)。
【0070】
具体的に、平滑相関行列生成手段は、採用可否判断手段により肯定判断されると、式(10)に従う平滑相関行列R2を生成する一方、採用可否判断手段により否定判断されると、最新の区間平均相関行列R1を用いずに前サイクルにおいて生成した平滑相関行列R2preを、今サイクルの平滑相関行列R2とする構成にすることができる(請求項19)。
【0071】
この他、採用可否判断手段は、最新の区間平均相関行列の生成時に用いられる所定個の自己相関行列の夫々に対応する上記単位データの雑音混入量に、当該自己相関行列に作用させる重み付け係数として係数決定手段により決定された重み付け係数と同一の重み付け係数を作用させて、上記単位データの雑音混入量についての加重平均を算出し、算出した加重平均が、予め定められた閾値以下である場合には、最新の区間平均相関行列を、平滑相関行列の生成に用いるべきであると肯定判断し、算出した加重平均が、閾値より大きい場合には、最新の区間平均相関行列を、平滑相関行列の生成に用いるべきではないと否定判断する構成にすることができる(請求項20)。
【0072】
このように採用可否判断手段を構成すれば、雑音の多い時期に生成された区間平均相関行列を、物標方位の算出に用いずに済み、誤った方位を物標方位として算出してしまうのを適切に防止することができる。
【0073】
また、周波数領域データを加重平均し、反射波周波数を推定する上述の技術は、物標の位置や速度を求める際にも用いることができる。換言すると、上述の発明は、方位を算出する機能を備えず、周波数解析により得られたパワースペクトルに基づき、上述の式(1)〜(4)を用いて、位置・速度を求めるレーダ装置にも適用することができる。
【0074】
具体的に、レーダ装置は、レーダ波を送信すると共に、送信したレーダ波の反射波をアンテナで受信する送受信手段を備え、送受信手段から出力されるアンテナの受信信号に基づき、反射波の発生元である物標に関する情報としての物標情報を求めるレーダ装置であって、次のデータ収集手段と、変換手段と、混入量推定手段と、平均化手段と、物標情報算出手段と、係数決定手段と、を備えた構成にすることができる(請求項21)。
【0075】
データ収集手段は、送受信手段から出力される受信信号のサンプルを取得する動作を繰返し実行し、変換手段は、データ収集手段により取得されたサンプル毎に、当該サンプルを、時間領域から周波数領域へ変換して(例えば、請求項23記載のようにフーリエ変換して)、変換後のデータとしての周波数領域データを生成し、平均化手段は、変換手段により生成された所定個のサンプルに対応する周波数領域データを、時間平均することで、時間平均後の周波数領域データとしての区間平均周波数領域データを生成する。
【0076】
そして、物標情報算出手段は、平均化手段により生成された区間平均周波数領域データに基づき、物標情報を求める。
一方、混入量推定手段は、データ収集手段により取得されるサンプル毎に、当該サンプルに含まれる雑音の混入量を推定し、係数決定手段は、平均化手段が平均算出の対象とする所定個の周波数領域データの夫々に作用させる重み付け係数を、周波数領域データの変換前データであるサンプルに対して混入量推定手段が推定した雑音の混入量に基づき、決定する。
【0077】
即ち、平均化手段は、所定個の周波数領域データの夫々に対し、係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、上記区間平均周波数領域データとして、係数決定手段により決定された重み付け係数により上記所定個の周波数領域データを加重平均してなる周波数領域データ、を生成する。
【0078】
このように構成されたレーダ装置によれば、請求項5〜請求項8記載のレーダ装置と同様、平均算出の対象とする周波数領域データに夫々に対して、雑音混入量に対応する重み付け係数を作用させ、区間平均周波数領域データとして、雑音混入量を考慮した加重平均を算出するので、等価平均する従来装置よりも、高精度に物標情報を求めることができる。
【0079】
また、この発明は、送受信手段が、周波数変調された送信信号に従い、レーダ波を送信すると共に、アンテナの受信信号に、送信信号を混合することにより、アンテナの受信信号を、受信信号と送信信号とを混合してなるビート信号に変換して出力し、データ収集手段が、上記サンプルとして、送受信手段から出力されるビート信号から、ビート信号のサンプルを取得する構成にされたレーダ装置に適用することができる。
【0080】
この他、物標情報算出手段は、上記区間平均周波数領域データに基づき、反射波成分の周波数である反射波周波数を推定し、推定した反射波周波数から、上記物標情報として、物標の位置及び速度の少なくとも一方を求める構成にすることができる(請求項22)。
【0081】
また、混入量推定手段は、請求項9記載のレーダ装置と同様、サンプル毎に、サンプルにおける予め定められた高周波領域のパワーの中央値又は平均値を求めて、求めた高周波領域のパワーの中央値又は平均値を、雑音の混入量であると推定する構成にすることができる(請求項24)。
【0082】
このように「高周波領域のパワー」から雑音混入量を推定して、周波数領域データを加重平均すれば、雑音の影響を抑えて、高精度に物標情報を算出することができる。
また、混入量推定手段は、「サンプルにおける高周波領域のパワーの中央値又は平均値」に代えて、「サンプルにおける全時間領域のパワーの平均値」を求め、これを雑音混入量であると推定する構成にされてもよいし(請求項25)、「サンプルにおいてパワーが閾値以上となった時間領域の時間長さ」を求め、これを雑音混入量であると推定する構成にされてもよい(請求項26)。
【0083】
このように「全時間領域のパワーの平均値」や「パワーが閾値以上の時間長さ」から雑音混入量を推定して、周波数領域データを加重平均しても、雑音の影響を抑えて、高精度に物標情報を算出することができる。
【0084】
また、係数決定手段は、請求項14記載のレーダ装置と同様、平均化手段が平均算出の対象とする所定個の周波数領域データである第1周波数領域データF[1]から第N周波数領域データF[N]の夫々に作用させる重み付け係数w[i](但し、w[i]は、第i周波数領域データF[i](i=1,…,N)に作用させる重み付け係数である。)を、重み付け係数w[i]を作用させる周波数領域データ[i]の変換前データであるサンプルに対し混入量推定手段が推定した雑音混入量q[i]の逆数(1/q[i])と、第1周波数領域データF[1]から第N周波数領域データF[N]までの夫々に対応する雑音混入量q[i]の逆数の総和{(1/q[1])+…+(1/q[N])}との比(1/q[i])/{(1/q[1])+…+(1/q[N])}に決定する構成にすることができる(請求項27)。
【0085】
このようにして重み付け係数w[i]を決定すれば、周波数領域データを、雑音混入量に応じて適切に重み付けし、区間平均周波数領域データを求めることができる。
また、係数決定手段は、簡単な演算にて重み付け係数w[i]を決定することができるように、請求項15記載のレーダ装置と同様、平均化手段が平均算出の対象とする所定個の周波数領域データについて、周波数領域データ毎に、当該周波数領域データの変換前データであるサンプルに対し混入量推定手段が推定した雑音混入量を、予め定められた閾値と比較し、雑音混入量が閾値未満の周波数領域データに作用させる重み付け係数を、予め定められた第一の値に決定し、雑音の混入量が閾値以上の周波数領域データに作用させる重み付け係数を、第一の値よりも小さい予め定められた第二の値に決定する構成にされてもよい(請求項28)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0086】
以下に本発明の実施例について、図面と共に説明する。
【実施例1】
【0087】
図1は、本実施例のレーダ装置1の構成を表すブロック図である。本実施例のレーダ装置1は、FMCW方式の車載型レーダ装置であり、周波数が時間に対して直線的に漸次増減するミリ波帯の高周波信号を生成する発振器11と、発振器11が生成する高周波信号を増幅する増幅器13と、増幅器13の出力を送信信号Ss(図10上段参照)とローカル信号Lとに電力分配する分配器15と、送信信号Ssに応じたレーダ波を放射する送信アンテナ17と、物標(前方車両等)により反射されたレーダ波(反射波)を受信するK個のアンテナ素子からなる受信アンテナ19と、を備える。
【0088】
更に、このレーダ装置1は、受信アンテナ19を構成するアンテナ素子AN_1〜AN_Kのいずれかを順次選択し、選択されたアンテナ素子からの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ21と、受信スイッチ21から供給される受信信号Srを増幅する増幅器23と、増幅器23にて増幅された受信信号Sr及びローカル信号Lを混合して、ビート信号BTを生成(図10下段参照)するミキサ25と、ミキサ25が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ27(ローパスフィルタ)と、フィルタ27の出力をディジタルデータに変換するA/D変換器29と、マイクロコンピュータを中心に構成される信号処理部30と、を備える。
【0089】
信号処理部30は、発振器11の起動/停止等を制御する他、マイクロコンピュータにおけるプログラムの実行により、A/D変換器29から入力されるビート信号BTのディジタルデータを用いた信号処理や、信号処理により得られた物標情報を車間制御ECU40に送信する処理等を行う。
【0090】
また、受信アンテナ19は、K個のアンテナ素子が、一列に等間隔で配置されたリニアアレーアンテナであり、各アンテナ素子AN_1〜AN_Kは、ビーム幅がいずれも送信アンテナ17のビーム幅全体を含むように設定されている。
【0091】
以下では、K個のアンテナ素子の夫々を番号付けして、第iアンテナ素子(i=1,2,…,K)と表現し、第iアンテナ素子から得られる信号(データ)を、第iチャネルの信号(データ)とも表現する。
【0092】
このように構成された本実施例のレーダ装置1では、信号処理部30からの指令に従って発振器11が起動する。そして、当該起動により発振器11が生成した高周波信号は、増幅器13にて増幅された後、分配器15に入力され、分配器15によって電力分配される。これにより、レーダ装置1では、送信信号Ss及びローカル信号Lが生成され、送信信号Ssは、送信アンテナ17を介し、周波数変調されたレーダ波として送出される。
【0093】
一方、送信アンテナ17から送出され物標に反射して戻ってきたレーダ波(反射波)は、受信アンテナ19を構成する各アンテナ素子AN_1〜AN_Kにて受信される。そして、各アンテナ素子AN_1〜AN_Kからは、受信スイッチ21に向けて、その受信信号Srが出力される。
【0094】
また、受信スイッチ21からは、受信スイッチ21によって選択された第iアンテナ素子(i=1,…,K)の受信信号Srのみが増幅器23に出力され、増幅器23で増幅された受信信号Srは、ミキサ25に供給される。
【0095】
ミキサ25では、受信信号Srに分配器15からのローカル信号Lが混合されて、ビート信号BTが生成される。このビート信号BTは、フィルタ27にて不要な信号成分が除去された後、A/D変換器29でディジタルデータに変換され、信号処理部30に出力される。
【0096】
但し、受信スイッチ21は、レーダ波の一変調周期(1/fm)の間に、全てのアンテナ素子AN_1〜AN_Kを所定回ずつ選択するように、切り替えられる。そして、A/D変換器29は、この切替タイミングに同期してサンプリングを行うことで、各アンテナ素子AN_1〜AN_Kのビート信号BTをディジタルデータに変換する。
【0097】
また、信号処理部30は、プログラムの実行によって、ビート信号BTのディジタルデータを解析し、反射波の発生元である物標(前方車両)までの距離や、自車両に対する物標の相対速度を算出すると共に、自車両進行方向(アンテナ方向)を基準とした物標の方位を算出する。
【0098】
続いて、信号処理部30が、物標の位置・相対速度・方位を算出するために、繰返し実行する物標推定処理について説明する。図2は、信号処理部30が繰返し実行する物標推定処理を表すフローチャートである。以下では、繰返し実行される物標推定処理の1サイクルのことを、「物標推定サイクル」と表現する。
【0099】
物標推定処理を開始すると、信号処理部30は、A/D変換器29から入力される各チャネルのビート信号BTのディジタルデータを、送信信号の変調周期(1/fm)に合わせて、変調周期毎に取得する。具体的には、上り区間及び下り区間の各区間に分けてディジタルデータを取得し、これらを内蔵のメモリ(RAM)に記憶する。
【0100】
このようにして信号処理部30は、区間毎及びチャネル毎にビート信号BTのサンプルとしてのスナップショットデータを生成する処理を、図1下段に示すように、変調周期毎に繰返し実行し、各チャネルのスナップショットデータを、上り区間及び下り区間の夫々について、所定個(SSN個とする。)生成する(S110)。即ち、SSN周期分のスナップショットデータを生成する。
【0101】
具体的に、スナップショットデータは、A/D変換器29でサンプリングされるビート信号の信号値(電圧値)の時系列データである。スナップショットデータは、1変調周期における該当区間(上り区間又は下り区間)の全時間領域の信号値からなる時系列データであってもよいし、該当区間における特定の時間領域の信号値からなる時系列データであってもよい。
【0102】
S110での処理を終えると、信号処理部30は、S120に移行し、各スナップショットデータのトレンド除去を行う。具体的には、スナップショットデータに含まれる直流成分を除去する(図7右段参照)。
【0103】
また、S120での処理を終えると、信号処理部30は、S130に移行して、パワーが予め設計段階で定められた閾値Thpより大きい時間領域の信号値を、ゼロ、又は、当該時間領域前後の信号値の平均値で置換する処理を、スナップショットデータ毎に実行することにより、各スナップショットデータから干渉成分を除去する。
【0104】
S130での処理を終えると、信号処理部30は、S110で生成された各スナップショットデータであって、S120及びS130による処理後の各スナップショットデータを、周波数解析する。具体的には、各スナップショットデータをFFT処理(高速フーリエ変換)することで、各スナップショットデータを時間領域から周波数領域に変換し、各スナップショットデータについてのフーリエ変換値(複素数)を得ると共に、このフーリエ変換値から、各スナップショットデータについてのパワースペクトルを得る(S140)。周知のようにパワースペクトルは、フーリエ変換値の絶対値の二乗により求められる。
【0105】
また、この処理を終えると、信号処理部30は、処理対象区間を、上り区間に設定して(S150)、S160〜S280の処理を実行する。
具体的に、S160では、処理対象区間についての重み付け係数算出処理を実行することで、後続のS170で加重平均を求める際に用いる処理対象区間の重み付け係数を決定する。図3は、信号処理部30が実行する重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【0106】
重み付け係数算出処理を開始すると、信号処理部30は、変数iを値1に設定した後(S510)、S520に移行する。そして、S520では、チャネル毎に、当該チャネルの第i変調周期における処理対象区間のスナップショットデータに基づき算出されたパワースペクトルから、予め設計段階で定められた周波数ωmaxよりも高周波領域の成分を抽出する処理を行う。
【0107】
尚、以下では、SSN周期分のスナップショットデータの内、先頭周期を第1変調周期として、第i変調周期において得られたスナップショットデータのことを、第i変調周期におけるスナップショットデータという。
【0108】
S520においては、処理対象区間が上り区間である場合、チャネル毎に、第i変調周期における上り区間のスナップショットデータをフーリエ変換して得られたパワースペクトルから、上記周波数ωmaxよりも高周波領域の成分(パワースペクトル)を抽出する処理を行う。
【0109】
このような処理を、第1チャネルから第Kチャネルのパワースペクトルについて行うと、信号処理部30は、S530に移行し、チャネル毎に(換言すれば、抽出した高周波領域成分毎に)、上記抽出した高周波領域成分のパワーの中央値を求めて、求めた中央値を、干渉量q[i,k]に設定する。尚、q[i,k]は、第kチャネルにおける第i変調周期の干渉量を表す。
【0110】
即ち、S530では、第kチャネルの第i変調周期における処理対象区間のスナップショットデータをフーリエ変換して得られたパワースペクトルPik(ω)から抽出された高周波領域成分のパワーPik(ω>ωmax)の中央値median(Pik(ω>ωmax))を、第kチャネルにおける第i変調周期の干渉量q[i,k]に設定する動作を、k=1,…,Kについて実行する。
【0111】
q[i,k]=median(Pik(ω>ωmax)) (11)
尚、ここでいう中央値は、周知のように、中央値を求める対象の集合において、値の小さい要素から順に並べたときに、順番的に真ん中となる要素の値のことをいう。即ち、S530では、上記高周波領域に属する各周波数のパワー値を、小さい値から順に並べたときの中央の値を求めて、これを干渉量q[i,k]に設定する。
【0112】
また、S530での処理を終えると、信号処理部30は、各チャネルの干渉量q[i,k](k=1,…,K)の等価平均値を、第i変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[i]に設定する(S540)。
【0113】
【数5】
但し、S540では、式(13)に従い、第i変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[i]を設定してもよい(変形例)。
【0114】
【数6】
即ち、第i変調周期における各チャネルの干渉量q[i,k](k=1,…,K)の中央値を、第i変調周期の代表干渉量q[i]に設定してもよい。
【0115】
また、S540での処理を終えると、信号処理部30は、S550に移行し、変数i=SNNであるか否かを判断し、変数i=SNNではないと判断すると(S550でNo)、S560に移行して、変数iを1カウントアップした後(i←i+1)、S520に移行する。そして、カウントアップ後の変数iの値に基づき、S520〜S550の処理を実行する。
【0116】
このようにして、信号処理部30は、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期について、処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]を算出する。
そして、変数i=SNNであると判断すると(S550でYes)、S570に移行し、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]に基づき、今回の物標推定サイクルにおいて処理対象区間の加重平均に用いる重み付け係数w[i]を、次式に従い、i=1,…,SNNの夫々について算出する。
【0117】
【数7】
尚、w[i]は、第i変調周期の値に対して作用させる重み付け係数を表す。また、式(14)は、干渉量q[i]がデシベル値でない場合の重み付け係数w[i]を表す。換言すると、干渉量q[i]がデシベル値である場合には、値が対数表示であることを考慮して、次式に従い、重み付け係数w[i]を算出する。
【0118】
【数8】
このようにしてS570での処理を終えると、信号処理部30は、重み付け係数算出処理を終了する。
【0119】
また、S160での重み付け係数算出処理を終えると、信号処理部30は、チャネル毎に、式(17)に従い、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間のパワースペクトルPik(ω)を時間平均して、区間平均パワースペクトルPk(ω)を算出する(S170)。
【0120】
【数9】
即ち、第i変調周期のパワースペクトルPik(ω)に対して、第i変調周期の重み付け係数w[i]を作用させることにより、第k(k=1,…,K)チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)として、各変調周期での干渉量(雑音混入量)を考慮したパワースペクトルPik(ω)の加重平均を算出する。
【0121】
また、各チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)を算出すると、信号処理部30は、これらの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)に基づき、各チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)に共通するピーク周波数を特定する(S180)。尚、ここでいうピーク周波数とは、パワースペクトルにおいて、パワーが所定の閾値より大きいピークの周波数のことである。
【0122】
具体的に、ここでは、各チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)に共通するピーク周波数を特定するために、各チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)を等価平均して、代表パワースペクトルP(ω)を算出する。
【0123】
【数10】
そして、この代表パワースペクトルP(ω)において、パワーが所定の閾値より大きい各ピークの周波数を、ピーク周波数ωn(n=1,…,N)として特定する。尚、Nは、ピーク周波数の個数に一致する。
【0124】
但し、S180では、各チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)を等価平均して、代表パワースペクトルP(ω)を算出しなくてもよく、例えば、第1チャネルから第Kチャネルの内、予め定められた単一の代表チャネル(第k0チャネルとする)の区間平均パワースペクトルPk0(ω)を、代表パワースペクトルP(ω)と取扱って、この代表パワースペクトルP(ω)に基づき、ピーク周波数ωn(n=1,…,N)を特定しても構わない(変形例)。
【0125】
このようにしてピーク周波数ωn(n=1,…,N)を特定し終えると、信号処理部30は、S190に移行し、特定したN個のピーク周波数ωnの一つを、処理対象周波数ω’に設定する。
【0126】
その後、S200に移行して、第1変調周期から第SNN変調周期までの変調周期毎に、各チャネルの処理対象区間のスナップショットデータをフーリエ変換して得られた処理対象周波数ω’でのフーリエ変換値Fik(ω’)から、式(19)及び式(20)に従って、処理対象区間の自己相関行列Rxx[i,ω’]を生成する(S200)。
【0127】
【数11】
尚、Fik(ω’)は、第kチャネルの第i変調周期における処理対象区間のスナップショットデータをフーリエ変換して得られる処理対象周波数ω’でのフーリエ変換値(複素数)を表す。また、自己相関行列Rxx[i,ω’]は、受信ベクトルXi(ω’)の自己相関行列を表す。また、受信ベクトルXi(ω’)は、第i変調周期の処理対象区間における各チャネルの処理対象周波数ω’でのフーリエ変換値Fik(ω’)を、ベクトル要素として配列してなるベクトルである(式(20)参照)。
【0128】
即ち、S200では、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期に対応する合計SNN個の自己相関行列Rxx[i,ω’](i=1,…,SNN)を算出する。
また、この処理を終えると、信号処理部30は、S210に移行し、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期に対応する処理対象区間の自己相関行列Rxx[i,ω’]を加重平均して、区間平均相関行列R1[ω’]を算出する(S210)。
【0129】
【数12】
即ち、第i変調周期の自己相関行列Rxx[i,ω’]に、第i変調周期の代表干渉量q[i]に基づいて決定した第i変調周期の重み付け係数w[i]を作用させることにより、自己相関行列Rxx[i,ω’]の時間平均として、各変調周期に対応する自己相関行列Rxx[i,ω’]を重み付け係数w[i]で加重平均してなる区間平均相関行列R1[ω’]を算出する。
【0130】
また、区間平均相関行列R1[ω’]を算出した後には、S220に移行し、図4に示す指数平滑相関行列算出処理を実行する。図4は、信号処理部30が実行する指数平滑相関行列算出処理を表すフローチャートである。
【0131】
指数平滑相関行列算出処理を開始すると、信号処理部30は、まず、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[i]と、処理対象区間の重み付け係数w[i]と、に基づき、次式に従って、干渉残存量qrを算出する(S610)。
【0132】
【数13】
即ち、第i変調周期の代表干渉量q[i]に重み付け係数w[i]を作用させることにより、第1変調周期から第SNN変調周期の代表干渉量q[i]を加重平均して、干渉残存量qrを算出する。
【0133】
そして、干渉残存量qrを算出し終えると、S620に移行し、算出した干渉残存量qrと、予め設計段階で定められた閾値Thxとの比較により、今回の物標推定サイクルにおいて算出された最新の区間平均相関行列R1[ω’]を指数平滑相関行列の算出に用いるべきか否かを、判断する。
【0134】
具体的には、干渉残存量qrが閾値Thx以下である場合、最新の区間平均相関行列R1[ω’]を指数平滑相関行列の算出に用いるべきと判断する(S620でYes)。一方、干渉残存量qrが閾値Thxより大きい場合には、最新の区間平均相関行列R1[ω’]に対応するビート信号BTに強い雑音成分が含まれる可能性が高いとして、最新の区間平均相関行列R1[ω’]を指数平滑相関行列の算出に用いるべきではないと判断する(S620でNo)。
【0135】
そして、S620でYesと判断した場合には、S630に移行し、処理対象周波数ω’の指数平滑相関行列R2[ω’]を、次式に従って、算出する。
【0136】
【数14】
尚、βは忘却係数であって、0<β<1を満足する値を採る。具体的に、忘却係数βは、設計段階で固定値に定められてもよいし、干渉残存量qrに応じて可変に定められてもよい。また、R2pre[ω’]は、前回の物標推定サイクルにおいて算出された処理対象周波数ω’の指数平滑相関行列R2[ω’]を表す。
【0137】
但し、S630の実行時には、指数平滑相関行列R2[ω’]の算出に必要な前回の指数平滑相関行列R2pre[ω’]が存在しない場合がある。この場合には、最新の区間平均相関行列R1[ω’]を指数平滑相関行列R2[ω’]に設定する(R2[ω’]=R1[ω’])ことで、指数平滑相関行列R2[ω’]を生成する。このようにして、S630での処理を終えると、信号処理部30は、当該指数平滑相関行列算出処理を終了する。
【0138】
一方、S620でNoと判断すると、信号処理部30は、S640に移行し、最新の区間平均相関行列R1[ω’]を用いずに、今回の指数平滑相関行列R2[ω’]を、前回の物標推定サイクルにおいて算出された処理対象周波数ω’の指数平滑相関行列R2pre[ω’]に設定する。
【0139】
但し、指数平滑相関行列R2[ω’]の設定に必要な指数平滑相関行列R2pre[ω’]が存在しない場合には、例外的に、最新の区間平均相関行列R1[ω’]を指数平滑相関行列R2[ω’]に設定する(R2[ω’]=R1[ω’])。その後、当該指数平滑相関行列算出処理を終了する。
【0140】
また、S220での処理を終えると、信号処理部30は、S220で求めた指数平滑相関行列R2[ω’]の固有値λ1,…,λK(但し、λ1≧λ2≧…λk)を算出すると共に、各固有値に対応する固有ベクトルe1,…,eKを算出する(S230)。
【0141】
更には、熱雑音電力に対応する予め定められた閾値より大きい固有値の数Mを、到来波数Mであると推定すると共に(S240)、熱雑音電力(閾値)以下となる(K−M)個の固有値λM+1,…,λKに対応した固有ベクトルeM+1,…,eKからなる雑音固有ベクトルEN(式(7)参照)と、方位θに対するアレーアンテナの複素応答、即ち、ステアリングベクトルa(θ)とから、式(8)に従って、MUSICスペクトルを求める(S250)。
【0142】
そして、求めたMUSICスペクトルにおいて、値PMU(θ)が、予め定められた閾値以上の各ピークに対応する方位θ(最大M個)を、物標の方位であると推定する(S260)。
【0143】
また、この処理を終えると、S270に移行して、S180で特定した全ピーク周波数ωn(n=1,…,N)を対象に、S200〜S260の処理を実行したか否かを判断する。
【0144】
そして、全ピーク周波数ωn(n=1,…,N)を対象に、S200〜S260の処理を実行していないと判断すると(S270でNo)、S190に移行し、未処理のピーク周波数ωnを一つ選択して、これを処理対象周波数ω’に設定し、この処理対象周波数ω’でのMUSICスペクトルを求めて、物標方位を推定する(S260)。
【0145】
このようにして、信号処理部30は、上り区間における各ピーク周波数ωn(n=1,…,N)毎にMUSICスペクトルを求めて、各MUSICスペクトルから物標方位θを推定する。
【0146】
そして、S180で特定した全ピーク周波数ωn(n=1,…,N)を対象に、S200〜S260の処理を実行したと判断すると(S270でYes)、現在設定されている処理対象区間が下り区間であるか否かを判断する(S280)。尚、物標推定処理開始後、初回のS280実行時には、処理対象区間が上り区間に設定されているため、その場合には、S280で、否定判断する(S280でNo)。
【0147】
そして、否定判断した場合には、処理対象区間を、上り区間から下り区間に変更した後(S290)、S160に移行し、下り区間について上述の処理(S160〜S270)を実行する。このような手順により、下り区間における各ピーク周波数について、対応するMUSICスペクトルから物標方位θを求める。
【0148】
そして、下り区間の全ピーク周波数を対象に、MUSICスペクトルを求めて物標方位を推定し終えると、S270でYesと判断し、S280でYesと判断して、S300に移行する。
【0149】
また、S300に移行すると、信号処理部30は、上り区間の各ピーク周波数の物標方位θ及び下り区間の各ピーク周波数の物標方位θを指標に、ペアマッチ処理を実行する。
反射波に対応するビート信号BTの周波数fb1,fb2は、上述したように上り区間及び下り区間において夫々異なるので、ここでは、ペアマッチ処理により、同一反射波成分のピーク周波数のペア(上述した周波数fb1,fb2に対応するピーク周波数のペア)を求める。
【0150】
そして、ペアマッチ処理によりペアと判定した上り区間及び下り区間のピーク周波数の組合せに基づき、ペア毎に、反射波の発生元である物標の自車からの距離D、及び、自車を基準とした相対速度Vを、式(1)〜(4)に従って算出する(S310)。
【0151】
即ち、上り区間のピーク周波数を、周波数fb1とみなし、下り区間のピーク周波数を、周波数fb2とみなして、物標の自車からの距離D、及び、自車を基準とした物標の相対速度Vを、式(1)〜(4)に従って算出する。
【0152】
そして、これらの結果に基づき、各物標の距離D及び相対速度V及び方位θの情報を、物標情報として、車間制御ECU40に出力する(S320)。その後、当該物標推定処理を終了する。
【0153】
以上、第一実施例について説明したが、このレーダ装置1によれば、各変調周期での干渉量qに基づき、自己相関行列Rxxを重み付けして、区間平均相関行列R1を求め、この区間平均相関行列R1に基づき、物標方位θを求めるので、従来装置よりも高精度に物標方位θを求めることができる。
【0154】
即ち、従来装置では、所定個の自己相関行列Rxxを等価平均して、区間平均相関行列R1を求めるので、その等価平均の対象である自己相関行列Rxxに対応する受信信号に強い干渉が発生していると、その影響が区間平均相関行列R1にも大きく及んで、高精度に物標方位を求めることができなくなるが、本発明によれば、局部的な干渉が発生した場合に、当該局部的な干渉が発生した時期の自己相関行列Rxxの重み付けを低くして、区間平均相関行列R1を求めることができるので、その影響が、区間平均相関行列R1に大きく及ぶのを抑えることができ、結果として、高精度に物標方位θを求めることができる。
【0155】
また、このレーダ装置1では、各変調周期のパワースペクトルPik(ω)を重み付け係数w[i]により加重平均して、区間平均パワースペクトルPk(ω)を求め、この区間平均パワースペクトルPk(ω)に基づき、ピーク周波数(反射波成分の周波数)を特定するので、精度よく、反射波成分の周波数を推定することができ、結果として、高精度に物標方位を求めることができる。
【0156】
即ち、従来装置では、区間平均パワースペクトルを、各変調周期のパワースペクトルを等価平均することにより求めていたが、本実施例によれば、干渉量qを考慮して、局部的な雑音の影響を抑えるように区間平均パワースペクトルを求め、これに基づいて、ピーク周波数ωnを特定するので、高精度に物標方位を求めることができる。
【0157】
尚、本実施例と「特許請求の範囲」に記載の各手段との対応関係は、次の通りである。送受信手段は、レーダ装置1における信号処理部30を除く各部に対応する。また、データ収集手段は、信号処理部30が実行するS110の処理により実現され、「単位データ」は、各変調周期毎及び各区間毎に生成される各チャネルのスナップショットデータの集合に対応する。
【0158】
また、自己相関行列生成手段は、信号処理部30がS200にて変調周期毎に、処理対象区間の自己相関行列Rxxを生成する動作にて実現されており、区間平均相関行列生成手段は、信号処理部30が実行するS210の処理にて実現されている。その他、方位算出手段は、信号処理部30が実行するS220〜S260の処理にて実現されている。
【0159】
また、混入量推定手段(請求項9,請求項12,請求項24)は、信号処理部30が実行するS520〜S540の処理により実現され、「単位データの雑音混入量」は、各変調周期の代表干渉量q[i]に対応する。
【0160】
尚、「雑音解析対象のアンテナ素子」は、本実施例において、受信アンテナ19を構成する全アンテナ素子に対応するが、変形例としては、一部のアンテナ素子を対象に、S530,S540の処理を実行して、代表干渉量q[i]を求めることが考えられる。
【0161】
また、本実施例では、S520において、高周波領域成分のパワーの中央値を求めて、求めた中央値を、干渉量q[i,k]に設定するようにしたが、S520では、高周波領域成分のパワーの等価平均値を求めて、求めた等価平均値を、干渉量q[i,k]に設定するようにレーダ装置1を構成してもよい。即ち、パワースペクトルが示す高周波領域における各周波数(ω>ωmax)のパワーを等価平均してなる値を、干渉量q[i,k]に設定してもよい。
【0162】
この他、係数決定手段(請求項14,請求項27)は、本実施例において、信号処理部30が実行するS570の処理により実現されている。
また、変換手段は、信号処理部30が実行するS140の処理により実現され、「周波数領域データ」は、スナップショットデータをフーリエ変換して得られるパワースペクトルに対応する。この他、周波数推定手段(請求項5,請求項6)は、信号処理部30が実行するS170,S180の処理により実現され、「反射波周波数を推定する動作」は、ピーク周波数を特定する動作に対応する。
【0163】
また、平均化手段(請求項5,請求項21)は、信号処理部30が実行するS170の処理により実現され、区間平均周波数領域データは、区間平均パワースペクトルPk(ω)に対応する。
【0164】
この他、方位算出手段が備える平滑相関行列生成手段は、信号処理部30が実行するS630,S640の処理にて実現され、採用可否判断手段は、S610,S620の処理により実現されている。また、物標情報算出手段は、信号処理部30が実行するS180,S300,S310の処理により実現されている。
【実施例2】
【0165】
続いて、第二実施例について説明する。但し、第二実施例のレーダ装置1は、S160で実行する重み付け係数算出処理の内容が、第一実施例と異なる程度であるため、以下では、第二実施例の信号処理部30が実行する重み付け係数算出処理の内容を、選択的に説明する。
【0166】
図5は、第二実施例の重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。尚、前提として、本実施例のレーダ装置1では、第1チャネルから第KチャネルまでのK個のチャネルの内の一つが、設計段階で予め代表チャネルとして定められているものとする。
【0167】
図5に示す重み付け係数算出処理を開始すると、信号処理部30は、変数iを値1に設定した後(S510)、代表チャネルの第i変調周期における処理対象区間のスナップショットデータをフーリエ変換してなるパワースペクトルから、予め設計段階で定められた周波数ωmaxよりも高周波領域の成分(パワースペクトル)を抽出する(S522)。
【0168】
その後、S532に移行し、代表チャネルにおける上記抽出した高周波領域成分のパワーの中央値を求めて、求めた中央値を、第i変調周期の代表干渉量q[i]に設定する。ここで、代表チャネルが、第k=k0チャネルであるとすると、代表干渉量q[i]は、q[i]=median(Pik0(ω>ωmax))となる。
【0169】
また、S532での処理を終えると、信号処理部30は、S550に移行し、変数i=SNNであるか否かを判断し、変数i=SNNではないと判断すると(S550でNo)、S560に移行して、変数iを1カウントアップした後(i←i+1)、S522に移行する。このようにして、信号処理部30は、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]を設定する。
【0170】
そして、変数i=SNNであると判断すると(S550でYes)、S570に移行し、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]に基づき、今回の物標推定サイクルにおいて処理対象区間の加重平均に用いる重み付け係数w[i](i=1,…,SNN)を、第一実施例と同様、式(14)又は式(16)に従って算出する。このようにしてS570での処理を終えると、信号処理部30は、重み付け係数算出処理を終了する。
【0171】
このように代表チャネルを定めて、代表チャネルのパワースペクトルに基づき、重み付け係数w[i]を算出するようにすれば、信号処理部30の演算負荷を抑えることができる。
【0172】
尚、第二実施例の手法で重み付け係数w[i]を求める場合には、S170において、代表チャネルのみについて、区間平均パワースペクトルPk(ω)を算出し、代表チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)を、上記代表パワースペクトルP(ω)と取扱って、この代表パワースペクトルP(ω)に基づき、ピーク周波数ωn(n=1,…,N)を特定し、後続の処理を実行するのが演算負荷抑制の観点から好ましい。
【0173】
また、S532においては、第一実施例におけるS530での処理と同様、「高周波領域成分のパワーの中央値」に代えて、「高周波領域成分のパワーの等価平均値」を、干渉量q[i]に設定することができる。
【0174】
尚、本発明の混入量推定手段(請求項13,請求項24)は、本実施例において、信号処理部30が実行するS522,S532の処理により実現されている。
【実施例3】
【0175】
続いて、第三実施例について説明する。但し、第三実施例のレーダ装置1は、S160で実行する重み付け係数算出処理の内容が、第一実施例と異なる程度であるため、以下では、第三実施例の信号処理部30が実行する重み付け係数算出処理の内容を、選択的に説明する。図6は、第三実施例のレーダ装置1が、信号処理部30において実行する重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【0176】
図6に示す重み付け係数算出処理を開始すると、信号処理部30は、第一実施例と同様に、S510〜S560の処理を実行する。そして、S550で、変数i=SNNであると判断すると(S550でYes)、S572に移行する。
【0177】
そして、S572では、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]に基づき、今回の物標推定サイクルにおいて処理対象区間の加重平均に用いる重み付け係数w[i]を、次式に従い、i=1,…,SNNの夫々について算出する。
【0178】
【数15】
即ち、第i変調周期の代表干渉量q[i]が、予め定められた閾値Tht未満である場合には、第i変調周期の重み付け係数w[i]を、「1」に設定し、第i変調周期の代表干渉量q[i]が、予め定められた閾値Tht以上である場合には、第i変調周期の重み付け係数w[i]を、「0」に設定する。
【0179】
また、S572での処理を終えると、信号処理部30は、S573に移行し、各重み付け係数w[i](i=1,…,SNN)を、重み付け係数w[i]の総和が1になるように規格化する。
【0180】
即ち、S572で設定した各重み付け係数w[i](i=1,…,SNN)の値を、式(25)に示すように、S572で設定した重み付け係数w[i]の総和で除算した値に更新する。
【0181】
【数16】
その後、当該重み付け係数算出処理を終了する。
【0182】
本実施例のように、重み付け係数w[i]を算出すれば、第一実施例の手法よりも、信号処理部30における演算負荷を抑えることができる。
尚、本実施例におけるS510〜S560の各ステップは、第二実施例におけるS510〜S560の各ステップに置き換えられてもよい。このようにすれば、代表チャネルの干渉量のみに基づいて、重み付け係数w[i]を算出することになるので、一層、演算負荷を抑えることができる。また、本発明の係数決定手段(請求項15,請求項28)は、信号処理部30が実行するS572,S573の処理により実現されている。
【実施例4】
【0183】
続いて、第四実施例について説明する。第四実施例は、干渉量として、スナップショットデータにおける干渉発生時間を採用するようにしたものである。また、それに伴って、信号処理部30が実行する物標推定処理及び重み付け係数算出処理の一部を、第一実施例のレーダ装置1に対して変更したものである。
【0184】
即ち、第四実施例のレーダ装置1は、物標推定処理及び重み付け係数算出処理の一部内容が、第一実施例と異なる程度のものである。従って、以下では、第四実施例の信号処理部30が実行する物標推定処理及び重み付け係数算出処理の内容を、選択的に説明する。
【0185】
図7は、第四実施例の信号処理部30が繰返し実行する物標推定処理の一部を抜粋して表したフローチャートである。
信号処理部30は、図7に示す物標推定処理を開始すると、第一実施例と同様に、各チャネルのスナップショットデータを、上り区間及び下り区間の夫々について、SSN周期分生成し(S110)、これら各スナップショットデータのトレンド除去を行う(S120)。
【0186】
その後、S123に移行し、スナップショットデータ毎に、スナップショットデータが示す全時間領域でのパワーの中央値Csを算出する。スナップショットデータが示す信号値がBT(t)であるとすると、パワーをBT2(t)として、中央値Cs=median(BT2(t))を算出する。
【0187】
また、この処理を終えると、信号処理部30は、スナップショットデータ毎に、S123で算出した中央値Csを用いて、次の処理を行う。即ち、スナップショットデータから得られた中央値Csに予め設計段階で定められた閾値Thsを加算して、判定値(Cs+Ths)を求め、当該スナップショットデータにおいて、パワーBT2(t)が判定値(Cs+Ths)を超える時間tnを求める(S124)。
【0188】
尚、ここでは、スナップショットデータにおいて、パワーBT2(t)が判定値(Cs+Ths)より大きい時間の総計を、時間tnとして求める。但し、スナップショットデータ内において、パワーBT2(t)が判定値(Cs+Ths)より大きい期間が複数期間ある場合には、複数期間の内、時間長さが最も長い期間の時間を、時間tnとしてもよい。
【0189】
そして、求めた時間tnを、干渉発生時間tinf[i,k,pd]に設定する。尚、干渉発生時間tinf[i,k,pd]は、第kチャネルにおける第i変調周期のpd区間でのスナップショットデータの干渉発生時間を表すものとする。また、pdは、「上り」を表す値「0」又は「下り」を表す値「1」を採るものとする。
【0190】
即ち、信号処理部30は、第i変調周期の第kチャネルのpd区間におけるスナップショットデータに基づいて、上記手順により求めた時間tnを、干渉発生時間tinf[i,k,pd]に設定する。
【0191】
また、このようにして、S124での処理を終えると、信号処理部30は、第一実施例と同様に、S130以降の処理を実行する。但し、S160においては、図8に示す重み付け係数算出処理を実行する。図8は、第四実施例において信号処理部30が実行する重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【0192】
この重み付け係数算出処理を開始すると、信号処理部30は、変数iを値1に設定し(S510)、その後、S534に移行して、チャネル毎に、当該チャネルの第i変調周期における処理対象区間(pd区間)の干渉発生時間tinf[i,k,pd]を、当該チャネルの第i変調周期の干渉量q[i,k]に設定する(q[i,k]←tinf[i,k,pd])。
【0193】
そして、S534の処理後には、S540に移行し、S534で設定した干渉量q[i,k]を用いて、式(12)又は式(13)に従い、第i変調周期の代表干渉量q[i]を設定する。
【0194】
また、S540での処理を終えると、信号処理部30は、S550に移行し、変数i=SNNであるか否かを判断し、変数i=SNNではないと判断すると(S550でNo)、S560に移行して、変数iを1カウントアップした後(i←i+1)、S534に移行する。このようにして、信号処理部30は、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]を算出する。
【0195】
そして、変数i=SNNであると判断すると(S550でYes)、S574に移行し、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]に基づき、式(14)に従い、今回の物標推定サイクルにおいて処理対象区間の加重平均に用いる重み付け係数w[i](i=1,…,SNN)を算出する。このようにしてS574での処理を終えると、信号処理部30は、重み付け係数算出処理を終了する。
【0196】
本実施例のように、干渉発生時間tinfを干渉量qに設定して、重み付け係数w[i]を算出するようにしても、適切に重み付け係数w[i]を求めることができ、雑音により物標方位等の算出精度が悪化するのを抑えることができる。
【0197】
尚、本実施例では、第二実施例と同様に代表チャネルを定めるようにしてもよく、代表チャネルの第i変調周期における処理対象区間の干渉発生時間tinf[i,k0,pd]を、第i変調周期における処理対象区間の代表干渉量q[i]に設定するように、S534,S540の処理を置き換えてもよい。
【0198】
また、本発明の混入量推定手段(請求項11,請求項26)は、信号処理部30が実行するS123,S124,S534,S540の処理により実現されている。
【実施例5】
【0199】
続いて、第五実施例について説明する。第五実施例は、干渉量として、スナップショットデータにおける全時間領域のパワーの平均値を採用するようにしたものである。また、それに伴って、信号処理部30が実行する物標推定処理及び重み付け係数算出処理の一部を、第一実施例のレーダ装置1に対して変更したものである。
【0200】
即ち、第五実施例のレーダ装置1は、物標推定処理及び重み付け係数算出処理の一部内容が、第一実施例と異なる程度のものである。従って、以下では、第五実施例の信号処理部30が実行する物標推定処理及び重み付け係数算出処理の内容を、選択的に説明する。
【0201】
図9(a)は、第五実施例のレーダ装置1において、信号処理部30が繰返し実行する物標推定処理の一部を抜粋して表したフローチャートである。
信号処理部30は、図9(a)に示す物標推定処理を開始すると、第一実施例と同様に、各チャネルのスナップショットデータを、上り区間及び下り区間の夫々について、SSN周期分取得し(S110)、これら各スナップショットデータのトレンド除去を行う(S120)。
【0202】
また、この処理を終えると、S125に移行し、スナップショットデータ毎に、当該スナップショットデータが示す全時間領域のパワーの平均値Msを算出する。即ち、スナップショットデータがL個の信号値の時系列データからなり、スナップショットデータが示す時刻tでの信号値がBT(t)であるとすると、次式
【0203】
【数17】
に従って、スナップショットデータが示す全時間領域のパワーの平均値Msを算出する。尚、以下では、第kチャネルにおける第i変調周期のpd区間でのスナップショットデータに基づいて求めた平均値Msを、パワー平均値Ms[i,k,pd]と表記する。
【0204】
また、この処理を終えると、信号処理部30は、第一実施例と同様に、S130以降の処理を実行するが、S160においては、図9(b)に示す重み付け係数算出処理を実行する。図9(b)は、信号処理部30が実行する第五実施例の重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【0205】
この重み付け係数算出処理を開始すると、信号処理部30は、変数iを値1に設定した後(S510)、S535に移行し、チャネル(k=1,…,K)毎に、当該チャネルの第i変調周期における処理対象区間(pd区間)のパワー平均値Ms[i,k,pd]を、当該チャネルにおける第i変調周期の干渉量q[i,k]に設定する(q[i,k]←Ms[i,k,pd])。
【0206】
そして、S535で設定した干渉量q[i,k]を用いて、式(12)又は式(13)に従い、第i変調周期の代表干渉量q[i]を設定する(S540)。このような処理を、i=1〜SNNについて実行し、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期について、処理対象区間の代表干渉量q[1]〜q[SNN]を算出する。
【0207】
その後には、算出した上記第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期の代表干渉量q[1]〜q[SNN]に基づき、今回の物標推定サイクルにおいて処理対象区間の加重平均に用いる重み付け係数w[i](i=1,…,SNN)を、式(14)に従い、算出する。但し、代表干渉量q[i]がデシベル値である場合には、式(16)に従い、重み付け係数w[i]を算出する(S570)。その後、信号処理部30は、重み付け係数算出処理を終了する。
【0208】
本実施例のように、パワー平均値Msを干渉量qに設定して、重み付け係数w[i]を算出するようにしても、適切に重み付け係数w[i]を求めることができ、雑音により物標方位等の算出精度が悪化するのを抑えることができる。
【0209】
尚、本実施例においても、第二実施例と同様に代表チャネルを定めるようにしてもよく、代表チャネルの第i変調周期における処理対象区間のパワー平均値Ms[i,k0,pd]を、第i変調周期の代表干渉量q[i]に設定するように、S535,S540の処理を置き換えてもよい。
【0210】
また、本発明の混入量推定手段(請求項10,請求項25)は、信号処理部30が実行するS125,S535,S540の処理により実現されている。
以上、第一実施例から第五実施例までを説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【0211】
例えば、上記実施例では、チャネル毎に、第1変調周期から第SNN変調周期までの各変調周期における当該チャネルのパワースペクトルPik(ω)に基づき、区間平均パワースペクトルPk(ω)を算出し、その後、各チャネルの区間平均パワースペクトルPk(ω)(k=1,…,K)を等価平均して、代表パワースペクトルP(ω)を算出するようにしたが、次のような手順で、代表パワースペクトルP(ω)を算出しても、等価な結果を得ることができる。
【0212】
即ち、変調周期毎に、第1チャネルから第KチャネルまでのパワースペクトルPik(ω)を等価平均して、変調周期毎のパワースペクトルPi(ω)を算出し、
【0213】
【数18】
各変調周期のパワースペクトルPi(ω)を、重み付け係数w[i]を用いて、次式
【0214】
【数19】
に従い加重平均することにより、代表パワースペクトルP(ω)を算出してもよい。この場合には、式(28)で算出された代表パワースペクトルP(ω)に基づき、ピーク周波数ωn(n=1,…,N)を特定することになる。
【0215】
その他、第一実施例〜第五実施例においては、S130の処理を実行しないようにしてもよい。この場合には、雑音の影響が大きくなるが、一方で、信号処理部30の演算負荷を抑えることができる。
【0216】
また、受信アンテナ19は、アンテナ素子が等間隔に配置されたアレーアンテナでなくてもよく、例えば、アンテナ素子が不等間隔に配置されたアレーアンテナであってもよい。
【0217】
また、上記実施例では、各アンテナ素子の信号を受信スイッチ21により切り替えて受信するタイプのレーダ装置1について説明したが、本発明は、当然のことながら、各アンテナ素子の信号を同時に受信するタイプのレーダ装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0218】
【図1】レーダ装置1の構成を表すブロック図である。
【図2】信号処理部30が実行する物標推定処理を表すフローチャートである。
【図3】信号処理部30が実行する重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【図4】信号処理部30が実行する指数平滑相関行列算出処理を表すフローチャートである。
【図5】第二実施例の重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【図6】第三実施例の重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【図7】第四実施例の物標推定処理を表すフローチャートである。
【図8】第四実施例の重み付け係数算出処理を表すフローチャートである。
【図9】第五実施例の物標推定処理(a)及び重み付け係数算出処理(b)を表すフローチャートである。
【図10】送信信号Ss及び受信信号Sr及びビート信号BTの態様を表す説明図である。
【図11】物標の方位推定に関する説明図である。
【図12】雑音の発生メカニズムに関する説明図である。
【符号の説明】
【0219】
1…レーダ装置、11…発振器、13,23…増幅器、15…分配器、17…送信アンテナ、19…受信アンテナ、21…受信スイッチ、25…ミキサ、27…フィルタ、29…A/D変換器、30…信号処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ波を送信すると共に、前記送信したレーダ波の反射波をアレーアンテナで受信する送受信手段を備え、前記送受信手段から出力される前記アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に基づき、前記アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物標の方位を求めるレーダ装置であって、
前記送受信手段から出力される前記各アンテナ素子の受信信号から、受信信号のサンプルを取得することで、前記各アンテナ素子のサンプルの集合としての単位データを生成する動作、を繰返し実行するデータ収集手段と、
前記単位データ毎に、当該単位データに基づく自己相関行列を生成する自己相関行列生成手段と、
前記自己相関行列生成手段が前記単位データ毎に生成する自己相関行列の所定個を時間平均することによって、時間平均後の自己相関行列としての区間平均相関行列を生成する区間平均相関行列生成手段と、
前記区間平均相関行列生成手段が生成した前記区間平均相関行列に基づき、前記レーダ波を反射した物標の方位を求める方位算出手段と、
前記単位データ毎に、当該単位データの雑音混入量を、推定する混入量推定手段と、
前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列の夫々に作用させる重み付け係数を、前記重み付け係数を作用させる自己相関行列の生成時に用いられる前記単位データに対し前記混入量推定手段が推定した前記単位データの雑音混入量に基づき、決定する係数決定手段と、
を備え、
前記区間平均相関行列生成手段は、前記所定個の自己相関行列の夫々に対し、前記係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、前記区間平均相関行列として、前記係数決定手段により決定された重み付け係数により前記所定個の自己相関行列を加重平均してなる自己相関行列、を生成すること
を特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記送受信手段は、周波数変調された送信信号に従い、レーダ波を送信すると共に、前記アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に、前記送信信号を混合することにより、前記各アンテナ素子の受信信号を、前記受信信号と前記送信信号とを混合してなるビート信号に変換する構成にされ、
前記データ収集手段は、前記サンプルとして、前記送受信手段から出力される前記各アンテナ素子のビート信号から、当該ビート信号のサンプルを取得して、前記単位データを生成する構成にされていること
を特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記単位データ毎に、当該単位データを構成する前記各アンテナ素子のサンプルを、時間領域から周波数領域へ変換することで、当該変換後のデータとして、前記各アンテナ素子の周波数領域データを生成する変換手段と、
前記アレーアンテナを構成するアンテナ素子の内、予め参照対象のアンテナ素子として定められた少なくとも一つのアンテナ素子の前記周波数領域データに基づき、反射波成分の周波数である反射波周波数を推定する周波数推定手段と、
を備え、
前記自己相関行列生成手段は、前記単位データ毎に、当該単位データに基づいて生成された前記各アンテナ素子の前記周波数領域データが示す値であって、前記周波数推定手段により推定された反射波周波数での値を、ベクトル要素として配列してなる受信ベクトルを生成して、当該受信ベクトルについての自己相関行列を生成する構成にされ、
前記周波数推定手段は、前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列のグループ毎に、当該自己相関行列の生成時に適用する前記反射波周波数を推定する構成にされていること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記変換手段は、前記各アンテナ素子のサンプルを、時間領域から周波数領域へフーリエ変換する構成にされていることを特徴とする請求項3記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記周波数推定手段は、
前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列の生成時に用いられる前記周波数領域データの内、前記参照対象のアンテナ素子毎に前記所定個ある周波数領域データを、前記参照対象のアンテナ素子毎に、時間平均することによって、前記参照対象のアンテナ素子毎に、前記時間平均後の周波数領域データとしての区間平均周波数領域データを生成する平均化手段
を備えており、前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列のグループ毎に、前記平均化手段により生成された前記参照対象のアンテナ素子毎の前記区間平均周波数領域データに基づいて、当該自己相関行列の生成時に適用する前記反射波周波数を推定する
構成にされ、更に、
前記平均化手段は、前記参照対象のアンテナ素子毎に、
前記所定個の周波数領域データの夫々に対し、当該周波数領域データに基づいて生成される自己相関行列に作用させる重み付け係数として前記係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、前記区間平均周波数領域データとして、前記係数決定手段により決定された重み付け係数により前記所定個の周波数領域データを加重平均してなる周波数領域データを生成する
構成にされていること
を特徴とする請求項3又は請求項4記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記周波数推定手段は、前記参照対象のアンテナ素子毎に得られた前記区間平均周波数領域データを等価平均してなる周波数領域データに基づいて、前記反射波周波数を推定する構成にされていること
を特徴とする請求項5記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記周波数推定手段は、
前記単位データ毎に、当該単位データから得られた前記参照対象のアンテナ素子の夫々に対応する前記周波数領域データを、統計的にまとめることによって、一つの前記単位データに対し、唯一の代表的な周波数領域データを生成する統計化手段と、
前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列の生成時に用いられる前記単位データの夫々に対して前記統計化手段が生成した前記代表的な周波数領域データの所定個を、時間平均することで、前記時間平均後の周波数領域データとしての区間平均周波数領域データを生成する平均化手段と、
を備えており、前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列のグループ毎に、前記平均化手段により生成された唯一の前記区間平均周波数領域データに基づき、当該自己相関行列の生成時に適用する前記反射波周波数を推定する
構成にされ、更に、
前記平均化手段は、平均算出の対象とする前記所定個の前記代表的な周波数領域データの夫々に対し、当該代表的な周波数領域データに対応する前記単位データに基づいて生成される自己相関行列に作用させる重み付け係数として前記係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、前記区間平均周波数領域データとして、前記係数決定手段により決定された重み付け係数により前記所定個の前記代表的な周波数領域データを加重平均してなる周波数領域データ、を生成する構成にされていること
を特徴とする請求項3又は請求項4記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記統計化手段は、前記代表的な周波数領域データとして、前記参照対象のアンテナ素子の夫々から得られた前記周波数領域データを等価平均してなる周波数領域データを生成する構成にされていること
を特徴とする請求項7記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記混入量推定手段は、前記単位データ毎に、
前記アレーアンテナを構成するアンテナ素子の内、予め雑音解析対象のアンテナ素子として定められた一つ又は複数のアンテナ素子の夫々について、当該アンテナ素子のサンプルにおける予め定められた高周波領域のパワーの中央値又は平均値を、雑音解析値として求め、求めたアンテナ素子毎の前記雑音解析値を指標に、前記単位データの雑音混入量を推定する
構成にされていることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記混入量推定手段は、前記単位データ毎に、
前記アレーアンテナを構成するアンテナ素子の内、予め雑音解析対象のアンテナ素子として定められた一つ又は複数のアンテナ素子の夫々について、当該アンテナ素子のサンプルにおける全時間領域のパワーの平均値を、雑音解析値として求め、求めたアンテナ素子毎の前記雑音解析値を指標に、前記単位データの雑音混入量を推定する
構成にされていることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記混入量推定手段は、前記単位データ毎に、
前記アレーアンテナを構成するアンテナ素子の内、予め雑音解析対象のアンテナ素子として定められた一つ又は複数のアンテナ素子の夫々について、当該アンテナ素子のサンプルにおいてパワーが閾値以上となった時間領域の時間長さを、雑音解析値として求め、求めたアンテナ素子毎の前記雑音解析値を指標に、前記単位データの雑音混入量を推定する
構成にされていることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記雑音解析対象のアンテナ素子は、複数定められており、
前記混入量推定手段は、前記雑音解析対象のアンテナ素子の夫々について求めた前記雑音解析値の等価平均値又は中央値を、前記単位データの雑音混入量であると推定する構成にされていることを特徴とする請求項9〜請求項11のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記雑音解析対象のアンテナ素子は、一つのみ定められており、
前記混入量推定手段は、前記雑音解析対象のアンテナ素子について求めた前記雑音解析値を、前記単位データの雑音混入量であると推定する構成にされていることを特徴とする請求項9〜請求項11のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記係数決定手段は、
前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列である第1自己相関行列Rxx[1]から第N自己相関行列Rxx[N]の夫々に作用させる重み付け係数w[i](但し、w[i]は、第i自己相関行列Rxx[i](i=1,…,N)に作用させる重み付け係数である。)を、
重み付け係数w[i]を作用させる自己相関行列Rxx[i]の生成時に用いられる前記単位データに対し前記混入量推定手段が推定した前記単位データの雑音混入量q[i]の逆数(1/q[i])と、第1自己相関行列Rxx[1]から第N自己相関行列Rxx[N]の夫々に対応する前記雑音混入量q[i]の逆数の総和{(1/q[1])+…+(1/q[N])}との比(1/q[i])/{(1/q[1])+…+(1/q[N])}
に決定することを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記係数決定手段は、
前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列について、前記自己相関行列毎に、当該自己相関行列の生成時に用いられる前記単位データに対し前記混入量推定手段が推定した前記単位データの雑音混入量を、予め定められた閾値と比較し、
前記単位データの雑音混入量が前記閾値未満の自己相関行列に作用させる重み付け係数を、予め定められた第一の値に決定し、前記単位データの雑音混入量が前記閾値以上の自己相関行列に作用させる重み付け係数を、前記第一の値よりも小さい予め定められた第二の値に決定する
ことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項16】
前記方位算出手段は、
前記区間平均相関行列生成手段による前記区間平均相関行列の生成サイクル毎に、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列を、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化するように補正し、当該補正後の区間平均相関行列として、平滑相関行列を生成する平滑相関行列生成手段
を備え、
前記区間平均相関行列の生成サイクル毎に、前記平滑相関行列生成手段が生成した平滑相関行列に基づき、前記レーダ波を反射した物標の方位を求める構成にされていること
を特徴とする請求項1〜請求項15のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項17】
前記平滑相関行列生成手段は、前記区間平均相関行列の生成サイクル毎に、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列R1を、前サイクルにおいて生成した平滑相関行列R2preと予め定められた忘却係数βとに基づき補正することにより、最新の区間平均相関行列R1を、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化し、今サイクルの平滑相関行列R2として、次式
R2=β・R2pre+(1−β)・R1
に従う平滑相関行列R2を生成する構成にされていること
を特徴とする請求項16記載のレーダ装置。
【請求項18】
前記方位算出手段は、
前記区間平均相関行列の生成サイクル毎に、前記混入量推定手段により推定された前記区間平均相関行列の生成時に用いられる前記所定個の自己相関行列の夫々に対応する前記単位データの雑音混入量に基づき、前記区間平均相関行列生成手段にて生成される最新の前記区間平均相関行列を、前記平滑相関行列の生成に用いるべきか否かを判断する採用可否判断手段
を備え、
前記平滑相関行列生成手段は、
前記採用可否判断手段により肯定判断されると、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列を、前サイクルにおいて生成した平滑相関行列により補正し、当該補正後の区間平均相関行列を、今サイクルの平滑相関行列として生成することにより、最新の区間平均相関行列を、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化する一方、
前記採用可否判断手段により否定判断されると、前記最新の区間平均相関行列を用いずに、前記最新の区間平均相関行列及び前サイクルにおいて生成した前記平滑相関行列の内、前サイクルにおいて生成した前記平滑相関行列のみを用いて、今サイクルの平滑相関行列を生成する構成にされていることを特徴とする請求項16又は請求項17記載のレーダ装置。
【請求項19】
前記平滑相関行列生成手段は、
前記採用可否判断手段により肯定判断されると、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列R1を、前サイクルにおいて生成した平滑相関行列R2preと予め定められた忘却係数βとに基づき補正することにより、最新の区間平均相関行列R1を、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化し、今サイクルの平滑相関行列R2として、次式
R2=β・R2pre+(1−β)・R1
に従う平滑相関行列R2を生成する一方、
前記採用可否判断手段により否定判断されると、前記最新の区間平均相関行列R1を用いずに前サイクルにおいて生成した平滑相関行列R2preを、今サイクルの平滑相関行列R2とする構成にされていること
を特徴とする請求項18記載のレーダ装置。
【請求項20】
前記採用可否判断手段は、前記最新の区間平均相関行列の生成時に用いられる前記所定個の自己相関行列の夫々に対応する前記単位データの雑音混入量に、前記自己相関行列に作用させる重み付け係数として前記係数決定手段により決定された重み付け係数と同一の重み付け係数を作用させて、前記単位データの雑音混入量についての加重平均を算出し、前記算出した加重平均が、予め定められた閾値以下である場合には、前記最新の区間平均相関行列を、前記平滑相関行列の生成に用いるべきであると肯定判断し、前記算出した加重平均が、前記閾値より大きい場合には、前記最新の区間平均相関行列を、前記平滑相関行列の生成に用いるべきではないと否定判断する構成にされていることを特徴とする請求項18又は請求項19記載のレーダ装置。
【請求項21】
レーダ波を送信すると共に、前記送信したレーダ波の反射波をアンテナで受信する送受信手段を備え、前記送受信手段から出力される前記アンテナの受信信号に基づき、前記反射波の発生元である物標に関する情報としての物標情報を求めるレーダ装置であって、
前記送受信手段から出力される前記受信信号のサンプルを取得する動作、を繰返し実行するデータ収集手段と、
前記データ収集手段により取得された前記サンプル毎に、当該サンプルを、時間領域から周波数領域へ変換して、変換後のデータとしての周波数領域データを生成する変換手段と、
前記データ収集手段により取得される前記サンプル毎に、当該サンプルに含まれる雑音の混入量を、推定する混入量推定手段と、
前記変換手段により生成された所定個の前記サンプルに対応する前記周波数領域データを、時間平均することで、前記時間平均後の周波数領域データとしての区間平均周波数領域データを生成する平均化手段と、
前記平均化手段により生成された区間平均周波数領域データに基づき、前記物標情報を求める物標情報算出手段と、
前記平均化手段が平均算出の対象とする前記所定個の周波数領域データの夫々に作用させる重み付け係数を、前記周波数領域データの変換前データである前記サンプルに対して前記混入量推定手段が推定した前記雑音の混入量に基づき、決定する係数決定手段と、
を備え、
前記平均化手段は、前記所定個の周波数領域データの夫々に対し、前記係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、前記区間平均周波数領域データとして、前記係数決定手段により決定された重み付け係数により前記所定個の周波数領域データを加重平均してなる周波数領域データ、を生成する構成にされていること
を特徴とするレーダ装置。
【請求項22】
前記送受信手段は、周波数変調された送信信号に従い、レーダ波を送信すると共に、前記アンテナの受信信号に、前記送信信号を混合することにより、前記アンテナの受信信号を、前記受信信号と前記送信信号とを混合してなるビート信号に変換し、
前記データ収集手段は、前記サンプルとして、前記送受信手段から出力される前記ビート信号から、当該ビート信号のサンプルを取得し、
前記物標情報算出手段は、前記区間平均周波数領域データに基づき、反射波成分の周波数である反射波周波数を推定し、推定した前記反射波周波数から、前記物標情報として、物標の位置及び速度の少なくとも一方を求める構成にされていること
を特徴とする請求項21記載のレーダ装置。
【請求項23】
前記変換手段は、前記サンプルを、時間領域から周波数領域へフーリエ変換する構成にされていることを特徴とする請求項21又は請求項22記載のレーダ装置。
【請求項24】
前記混入量推定手段は、前記サンプル毎に、前記サンプルにおける予め定められた高周波領域のパワーの中央値又は平均値を求めて、求めた前記高周波領域のパワーの中央値又は平均値を、前記雑音の混入量であると推定する構成にされていることを特徴とする請求項21〜請求項23のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項25】
前記混入量推定手段は、前記サンプル毎に、前記サンプルにおける全時間領域のパワーの平均値を求めて、求めた前記全時間領域のパワーの平均値を、前記雑音の混入量であると推定する構成にされていることを特徴とする請求項21〜請求項23のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項26】
前記混入量推定手段は、前記サンプル毎に、前記サンプルにおいてパワーが閾値以上となった時間領域の時間長さを求めて、求めた前記時間長さを、前記雑音の混入量であると推定する構成にされていることを特徴とする請求項21〜請求項23のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項27】
前記係数決定手段は、前記平均化手段が平均算出の対象とする前記所定個の周波数領域データである第1周波数領域データF[1]から第N周波数領域データF[N]の夫々に作用させる重み付け係数w[i](但し、w[i]は、第i周波数領域データF[i](i=1,…,N)に作用させる重み付け係数である。)を、
重み付け係数w[i]を作用させる周波数領域データ[i]の変換前データである前記サンプルに対し前記混入量推定手段が推定した前記雑音の混入量q[i]の逆数(1/q[i])と、第1周波数領域データF[1]から第N周波数領域データF[N]までの夫々に対応する前記雑音混入量q[i]の逆数の総和{(1/q[1])+…+(1/q[N])}との比(1/q[i])/{(1/q[1])+…+(1/q[N])}
に決定することを特徴とする請求項21〜請求項26のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項28】
前記係数決定手段は、
前記平均化手段が平均算出の対象とする前記所定個の周波数領域データについて、前記周波数領域データ毎に、当該周波数領域データの変換前データである前記サンプルに対し前記混入量推定手段が推定した前記雑音の混入量を、予め定められた閾値と比較し、
前記雑音の混入量が前記閾値未満の周波数領域データに作用させる重み付け係数を、予め定められた第一の値に決定し、前記雑音の混入量が前記閾値以上の周波数領域データに作用させる重み付け係数を、前記第一の値よりも小さい予め定められた第二の値に決定する
ことを特徴とする請求項21〜請求項26のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項1】
レーダ波を送信すると共に、前記送信したレーダ波の反射波をアレーアンテナで受信する送受信手段を備え、前記送受信手段から出力される前記アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に基づき、前記アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物標の方位を求めるレーダ装置であって、
前記送受信手段から出力される前記各アンテナ素子の受信信号から、受信信号のサンプルを取得することで、前記各アンテナ素子のサンプルの集合としての単位データを生成する動作、を繰返し実行するデータ収集手段と、
前記単位データ毎に、当該単位データに基づく自己相関行列を生成する自己相関行列生成手段と、
前記自己相関行列生成手段が前記単位データ毎に生成する自己相関行列の所定個を時間平均することによって、時間平均後の自己相関行列としての区間平均相関行列を生成する区間平均相関行列生成手段と、
前記区間平均相関行列生成手段が生成した前記区間平均相関行列に基づき、前記レーダ波を反射した物標の方位を求める方位算出手段と、
前記単位データ毎に、当該単位データの雑音混入量を、推定する混入量推定手段と、
前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列の夫々に作用させる重み付け係数を、前記重み付け係数を作用させる自己相関行列の生成時に用いられる前記単位データに対し前記混入量推定手段が推定した前記単位データの雑音混入量に基づき、決定する係数決定手段と、
を備え、
前記区間平均相関行列生成手段は、前記所定個の自己相関行列の夫々に対し、前記係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、前記区間平均相関行列として、前記係数決定手段により決定された重み付け係数により前記所定個の自己相関行列を加重平均してなる自己相関行列、を生成すること
を特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記送受信手段は、周波数変調された送信信号に従い、レーダ波を送信すると共に、前記アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に、前記送信信号を混合することにより、前記各アンテナ素子の受信信号を、前記受信信号と前記送信信号とを混合してなるビート信号に変換する構成にされ、
前記データ収集手段は、前記サンプルとして、前記送受信手段から出力される前記各アンテナ素子のビート信号から、当該ビート信号のサンプルを取得して、前記単位データを生成する構成にされていること
を特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記単位データ毎に、当該単位データを構成する前記各アンテナ素子のサンプルを、時間領域から周波数領域へ変換することで、当該変換後のデータとして、前記各アンテナ素子の周波数領域データを生成する変換手段と、
前記アレーアンテナを構成するアンテナ素子の内、予め参照対象のアンテナ素子として定められた少なくとも一つのアンテナ素子の前記周波数領域データに基づき、反射波成分の周波数である反射波周波数を推定する周波数推定手段と、
を備え、
前記自己相関行列生成手段は、前記単位データ毎に、当該単位データに基づいて生成された前記各アンテナ素子の前記周波数領域データが示す値であって、前記周波数推定手段により推定された反射波周波数での値を、ベクトル要素として配列してなる受信ベクトルを生成して、当該受信ベクトルについての自己相関行列を生成する構成にされ、
前記周波数推定手段は、前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列のグループ毎に、当該自己相関行列の生成時に適用する前記反射波周波数を推定する構成にされていること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記変換手段は、前記各アンテナ素子のサンプルを、時間領域から周波数領域へフーリエ変換する構成にされていることを特徴とする請求項3記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記周波数推定手段は、
前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列の生成時に用いられる前記周波数領域データの内、前記参照対象のアンテナ素子毎に前記所定個ある周波数領域データを、前記参照対象のアンテナ素子毎に、時間平均することによって、前記参照対象のアンテナ素子毎に、前記時間平均後の周波数領域データとしての区間平均周波数領域データを生成する平均化手段
を備えており、前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列のグループ毎に、前記平均化手段により生成された前記参照対象のアンテナ素子毎の前記区間平均周波数領域データに基づいて、当該自己相関行列の生成時に適用する前記反射波周波数を推定する
構成にされ、更に、
前記平均化手段は、前記参照対象のアンテナ素子毎に、
前記所定個の周波数領域データの夫々に対し、当該周波数領域データに基づいて生成される自己相関行列に作用させる重み付け係数として前記係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、前記区間平均周波数領域データとして、前記係数決定手段により決定された重み付け係数により前記所定個の周波数領域データを加重平均してなる周波数領域データを生成する
構成にされていること
を特徴とする請求項3又は請求項4記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記周波数推定手段は、前記参照対象のアンテナ素子毎に得られた前記区間平均周波数領域データを等価平均してなる周波数領域データに基づいて、前記反射波周波数を推定する構成にされていること
を特徴とする請求項5記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記周波数推定手段は、
前記単位データ毎に、当該単位データから得られた前記参照対象のアンテナ素子の夫々に対応する前記周波数領域データを、統計的にまとめることによって、一つの前記単位データに対し、唯一の代表的な周波数領域データを生成する統計化手段と、
前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列の生成時に用いられる前記単位データの夫々に対して前記統計化手段が生成した前記代表的な周波数領域データの所定個を、時間平均することで、前記時間平均後の周波数領域データとしての区間平均周波数領域データを生成する平均化手段と、
を備えており、前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列のグループ毎に、前記平均化手段により生成された唯一の前記区間平均周波数領域データに基づき、当該自己相関行列の生成時に適用する前記反射波周波数を推定する
構成にされ、更に、
前記平均化手段は、平均算出の対象とする前記所定個の前記代表的な周波数領域データの夫々に対し、当該代表的な周波数領域データに対応する前記単位データに基づいて生成される自己相関行列に作用させる重み付け係数として前記係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、前記区間平均周波数領域データとして、前記係数決定手段により決定された重み付け係数により前記所定個の前記代表的な周波数領域データを加重平均してなる周波数領域データ、を生成する構成にされていること
を特徴とする請求項3又は請求項4記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記統計化手段は、前記代表的な周波数領域データとして、前記参照対象のアンテナ素子の夫々から得られた前記周波数領域データを等価平均してなる周波数領域データを生成する構成にされていること
を特徴とする請求項7記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記混入量推定手段は、前記単位データ毎に、
前記アレーアンテナを構成するアンテナ素子の内、予め雑音解析対象のアンテナ素子として定められた一つ又は複数のアンテナ素子の夫々について、当該アンテナ素子のサンプルにおける予め定められた高周波領域のパワーの中央値又は平均値を、雑音解析値として求め、求めたアンテナ素子毎の前記雑音解析値を指標に、前記単位データの雑音混入量を推定する
構成にされていることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記混入量推定手段は、前記単位データ毎に、
前記アレーアンテナを構成するアンテナ素子の内、予め雑音解析対象のアンテナ素子として定められた一つ又は複数のアンテナ素子の夫々について、当該アンテナ素子のサンプルにおける全時間領域のパワーの平均値を、雑音解析値として求め、求めたアンテナ素子毎の前記雑音解析値を指標に、前記単位データの雑音混入量を推定する
構成にされていることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記混入量推定手段は、前記単位データ毎に、
前記アレーアンテナを構成するアンテナ素子の内、予め雑音解析対象のアンテナ素子として定められた一つ又は複数のアンテナ素子の夫々について、当該アンテナ素子のサンプルにおいてパワーが閾値以上となった時間領域の時間長さを、雑音解析値として求め、求めたアンテナ素子毎の前記雑音解析値を指標に、前記単位データの雑音混入量を推定する
構成にされていることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記雑音解析対象のアンテナ素子は、複数定められており、
前記混入量推定手段は、前記雑音解析対象のアンテナ素子の夫々について求めた前記雑音解析値の等価平均値又は中央値を、前記単位データの雑音混入量であると推定する構成にされていることを特徴とする請求項9〜請求項11のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記雑音解析対象のアンテナ素子は、一つのみ定められており、
前記混入量推定手段は、前記雑音解析対象のアンテナ素子について求めた前記雑音解析値を、前記単位データの雑音混入量であると推定する構成にされていることを特徴とする請求項9〜請求項11のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記係数決定手段は、
前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列である第1自己相関行列Rxx[1]から第N自己相関行列Rxx[N]の夫々に作用させる重み付け係数w[i](但し、w[i]は、第i自己相関行列Rxx[i](i=1,…,N)に作用させる重み付け係数である。)を、
重み付け係数w[i]を作用させる自己相関行列Rxx[i]の生成時に用いられる前記単位データに対し前記混入量推定手段が推定した前記単位データの雑音混入量q[i]の逆数(1/q[i])と、第1自己相関行列Rxx[1]から第N自己相関行列Rxx[N]の夫々に対応する前記雑音混入量q[i]の逆数の総和{(1/q[1])+…+(1/q[N])}との比(1/q[i])/{(1/q[1])+…+(1/q[N])}
に決定することを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記係数決定手段は、
前記区間平均相関行列生成手段が平均算出の対象とする前記所定個の自己相関行列について、前記自己相関行列毎に、当該自己相関行列の生成時に用いられる前記単位データに対し前記混入量推定手段が推定した前記単位データの雑音混入量を、予め定められた閾値と比較し、
前記単位データの雑音混入量が前記閾値未満の自己相関行列に作用させる重み付け係数を、予め定められた第一の値に決定し、前記単位データの雑音混入量が前記閾値以上の自己相関行列に作用させる重み付け係数を、前記第一の値よりも小さい予め定められた第二の値に決定する
ことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項16】
前記方位算出手段は、
前記区間平均相関行列生成手段による前記区間平均相関行列の生成サイクル毎に、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列を、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化するように補正し、当該補正後の区間平均相関行列として、平滑相関行列を生成する平滑相関行列生成手段
を備え、
前記区間平均相関行列の生成サイクル毎に、前記平滑相関行列生成手段が生成した平滑相関行列に基づき、前記レーダ波を反射した物標の方位を求める構成にされていること
を特徴とする請求項1〜請求項15のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項17】
前記平滑相関行列生成手段は、前記区間平均相関行列の生成サイクル毎に、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列R1を、前サイクルにおいて生成した平滑相関行列R2preと予め定められた忘却係数βとに基づき補正することにより、最新の区間平均相関行列R1を、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化し、今サイクルの平滑相関行列R2として、次式
R2=β・R2pre+(1−β)・R1
に従う平滑相関行列R2を生成する構成にされていること
を特徴とする請求項16記載のレーダ装置。
【請求項18】
前記方位算出手段は、
前記区間平均相関行列の生成サイクル毎に、前記混入量推定手段により推定された前記区間平均相関行列の生成時に用いられる前記所定個の自己相関行列の夫々に対応する前記単位データの雑音混入量に基づき、前記区間平均相関行列生成手段にて生成される最新の前記区間平均相関行列を、前記平滑相関行列の生成に用いるべきか否かを判断する採用可否判断手段
を備え、
前記平滑相関行列生成手段は、
前記採用可否判断手段により肯定判断されると、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列を、前サイクルにおいて生成した平滑相関行列により補正し、当該補正後の区間平均相関行列を、今サイクルの平滑相関行列として生成することにより、最新の区間平均相関行列を、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化する一方、
前記採用可否判断手段により否定判断されると、前記最新の区間平均相関行列を用いずに、前記最新の区間平均相関行列及び前サイクルにおいて生成した前記平滑相関行列の内、前サイクルにおいて生成した前記平滑相関行列のみを用いて、今サイクルの平滑相関行列を生成する構成にされていることを特徴とする請求項16又は請求項17記載のレーダ装置。
【請求項19】
前記平滑相関行列生成手段は、
前記採用可否判断手段により肯定判断されると、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された最新の区間平均相関行列R1を、前サイクルにおいて生成した平滑相関行列R2preと予め定められた忘却係数βとに基づき補正することにより、最新の区間平均相関行列R1を、前記区間平均相関行列生成手段にて生成された過去の区間平均相関行列で平滑化し、今サイクルの平滑相関行列R2として、次式
R2=β・R2pre+(1−β)・R1
に従う平滑相関行列R2を生成する一方、
前記採用可否判断手段により否定判断されると、前記最新の区間平均相関行列R1を用いずに前サイクルにおいて生成した平滑相関行列R2preを、今サイクルの平滑相関行列R2とする構成にされていること
を特徴とする請求項18記載のレーダ装置。
【請求項20】
前記採用可否判断手段は、前記最新の区間平均相関行列の生成時に用いられる前記所定個の自己相関行列の夫々に対応する前記単位データの雑音混入量に、前記自己相関行列に作用させる重み付け係数として前記係数決定手段により決定された重み付け係数と同一の重み付け係数を作用させて、前記単位データの雑音混入量についての加重平均を算出し、前記算出した加重平均が、予め定められた閾値以下である場合には、前記最新の区間平均相関行列を、前記平滑相関行列の生成に用いるべきであると肯定判断し、前記算出した加重平均が、前記閾値より大きい場合には、前記最新の区間平均相関行列を、前記平滑相関行列の生成に用いるべきではないと否定判断する構成にされていることを特徴とする請求項18又は請求項19記載のレーダ装置。
【請求項21】
レーダ波を送信すると共に、前記送信したレーダ波の反射波をアンテナで受信する送受信手段を備え、前記送受信手段から出力される前記アンテナの受信信号に基づき、前記反射波の発生元である物標に関する情報としての物標情報を求めるレーダ装置であって、
前記送受信手段から出力される前記受信信号のサンプルを取得する動作、を繰返し実行するデータ収集手段と、
前記データ収集手段により取得された前記サンプル毎に、当該サンプルを、時間領域から周波数領域へ変換して、変換後のデータとしての周波数領域データを生成する変換手段と、
前記データ収集手段により取得される前記サンプル毎に、当該サンプルに含まれる雑音の混入量を、推定する混入量推定手段と、
前記変換手段により生成された所定個の前記サンプルに対応する前記周波数領域データを、時間平均することで、前記時間平均後の周波数領域データとしての区間平均周波数領域データを生成する平均化手段と、
前記平均化手段により生成された区間平均周波数領域データに基づき、前記物標情報を求める物標情報算出手段と、
前記平均化手段が平均算出の対象とする前記所定個の周波数領域データの夫々に作用させる重み付け係数を、前記周波数領域データの変換前データである前記サンプルに対して前記混入量推定手段が推定した前記雑音の混入量に基づき、決定する係数決定手段と、
を備え、
前記平均化手段は、前記所定個の周波数領域データの夫々に対し、前記係数決定手段により決定された重み付け係数を作用させることにより、前記区間平均周波数領域データとして、前記係数決定手段により決定された重み付け係数により前記所定個の周波数領域データを加重平均してなる周波数領域データ、を生成する構成にされていること
を特徴とするレーダ装置。
【請求項22】
前記送受信手段は、周波数変調された送信信号に従い、レーダ波を送信すると共に、前記アンテナの受信信号に、前記送信信号を混合することにより、前記アンテナの受信信号を、前記受信信号と前記送信信号とを混合してなるビート信号に変換し、
前記データ収集手段は、前記サンプルとして、前記送受信手段から出力される前記ビート信号から、当該ビート信号のサンプルを取得し、
前記物標情報算出手段は、前記区間平均周波数領域データに基づき、反射波成分の周波数である反射波周波数を推定し、推定した前記反射波周波数から、前記物標情報として、物標の位置及び速度の少なくとも一方を求める構成にされていること
を特徴とする請求項21記載のレーダ装置。
【請求項23】
前記変換手段は、前記サンプルを、時間領域から周波数領域へフーリエ変換する構成にされていることを特徴とする請求項21又は請求項22記載のレーダ装置。
【請求項24】
前記混入量推定手段は、前記サンプル毎に、前記サンプルにおける予め定められた高周波領域のパワーの中央値又は平均値を求めて、求めた前記高周波領域のパワーの中央値又は平均値を、前記雑音の混入量であると推定する構成にされていることを特徴とする請求項21〜請求項23のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項25】
前記混入量推定手段は、前記サンプル毎に、前記サンプルにおける全時間領域のパワーの平均値を求めて、求めた前記全時間領域のパワーの平均値を、前記雑音の混入量であると推定する構成にされていることを特徴とする請求項21〜請求項23のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項26】
前記混入量推定手段は、前記サンプル毎に、前記サンプルにおいてパワーが閾値以上となった時間領域の時間長さを求めて、求めた前記時間長さを、前記雑音の混入量であると推定する構成にされていることを特徴とする請求項21〜請求項23のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項27】
前記係数決定手段は、前記平均化手段が平均算出の対象とする前記所定個の周波数領域データである第1周波数領域データF[1]から第N周波数領域データF[N]の夫々に作用させる重み付け係数w[i](但し、w[i]は、第i周波数領域データF[i](i=1,…,N)に作用させる重み付け係数である。)を、
重み付け係数w[i]を作用させる周波数領域データ[i]の変換前データである前記サンプルに対し前記混入量推定手段が推定した前記雑音の混入量q[i]の逆数(1/q[i])と、第1周波数領域データF[1]から第N周波数領域データF[N]までの夫々に対応する前記雑音混入量q[i]の逆数の総和{(1/q[1])+…+(1/q[N])}との比(1/q[i])/{(1/q[1])+…+(1/q[N])}
に決定することを特徴とする請求項21〜請求項26のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項28】
前記係数決定手段は、
前記平均化手段が平均算出の対象とする前記所定個の周波数領域データについて、前記周波数領域データ毎に、当該周波数領域データの変換前データである前記サンプルに対し前記混入量推定手段が推定した前記雑音の混入量を、予め定められた閾値と比較し、
前記雑音の混入量が前記閾値未満の周波数領域データに作用させる重み付け係数を、予め定められた第一の値に決定し、前記雑音の混入量が前記閾値以上の周波数領域データに作用させる重み付け係数を、前記第一の値よりも小さい予め定められた第二の値に決定する
ことを特徴とする請求項21〜請求項26のいずれかに記載のレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−71958(P2010−71958A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243145(P2008−243145)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(502324066)株式会社デンソーアイティーラボラトリ (332)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(502324066)株式会社デンソーアイティーラボラトリ (332)
【Fターム(参考)】
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