レーダ装置
【課題】ターゲットから反射波を受信した際に、当該ターゲットが上方構造物であるか車両であるかを判別できるようにする。
【解決手段】演算処理器26は、反射波の強度の2階微分値を算出し、当該2階微分値に基づいてターゲット32が上方構造物であるか車両であるかを判別する。または、反射波の強度波形を周波数成分に分離し、特定の周波数成分の強度に基づいてターゲット32が上方構造物であるか車両であるかを判別する。
【解決手段】演算処理器26は、反射波の強度の2階微分値を算出し、当該2階微分値に基づいてターゲット32が上方構造物であるか車両であるかを判別する。または、反射波の強度波形を周波数成分に分離し、特定の周波数成分の強度に基づいてターゲット32が上方構造物であるか車両であるかを判別する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に搭載され、進行方向の障害物や先行車両を検知するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の進行方向の障害物、先行車両の検知や、当該障害物や先行車両との相対距離を求めるために、車両にレーダ装置が搭載されている。
【0003】
レーダ装置は車両のフロント部に搭載されており、レーダ装置の送信アンテナから車両の進行方向に向かって送信波が出力される。送信波が先行車両や障害物等に当たって反射すると、その反射波はレーダ装置の受信アンテナに受信される。ここで、先行車両や障害物等の反射源を以下ではターゲットと総称する。
【0004】
反射波が受信アンテナに受信された後、レーダ装置内の演算処理器は送信波と反射波のずれ(遅延時間)に基づいて車両とターゲットの相対距離を算出する。また、演算処理器は警報器と接続しており、相対距離の算出の結果、ターゲットが車両に近接し、衝突の可能性があると判断された場合には警報器に警報指令を送る。警報指令を受けた警報器が警報を鳴らしたり、警告メッセージを表示することによりドライバーに車両の減速や障害物や先行車両からの回避を促している。
【0005】
ここで、警報指令を送るに当たり、演算処理器ではターゲットの高さを判定している。ターゲットの高さが低く、車両が容易に乗り越えることができる場合は車両がターゲットに衝突することはないので警報器に警報指令を送る必要はない。したがって、ターゲットを検知したときに当該ターゲットの高さを求め、その上で警報指令の要否を決定している。
【0006】
ターゲットの高さを求める手法として、反射波の強度(振幅)を利用する手法が従来から知られている。反射波の強度は車両とターゲットの相対距離によって変動することが知られており、さらにこの変動の傾向はターゲットの高さによって異なることが知られている。そこで特許文献1においては、レーダ装置とターゲットの相対距離に対する反射波の強度の軌跡を予め実験等により取得し、さらにこの軌跡をターゲットの高さ別に取得し、この高さ別軌跡データをレーダ装置のメモリに記憶させている。そして、車両運転中にレーダ装置が検知した反射波の強度の軌跡とメモリに記憶されている複数個の高さ別軌跡データとを比較し(パターンマッチングし)、メモリに記憶された高さ別軌跡データの中から、レーダ装置が検知した反射波の軌跡との差異が最小である軌跡データを抽出し、当該軌跡データに対応するターゲットの高さをレーダ装置が検知したターゲットの高さと推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−122391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、安全性向上のためには、可及的早期に、言い換えると、車両から見てまだ遠い地点に存在するターゲットを検知できることが望ましい。これは、送信波を生成する発信器の出力を従来よりも増加させ、レーダ装置の検知可能範囲を広げることで実現可能となる。発振器の出力を増加させることにより、従来50m程度であった検知可能範囲を150m程度まで広げることが可能となる。
【0009】
一方、送信波の伝搬特性を考慮すると、レーダ装置の検知可能範囲は進行方向だけでなく水平方向および垂直方向にも広がる。その結果、従来送信波が届かなかった路上標識や跨道橋(陸橋)等の上方構造物に送信波が反射することになる。これら上方構造物は車両と衝突する危険性はないので、上方構造物を検知したことに応じて警報指令を送信することは避けなければならない。そのためにはターゲットを検知した後に当該ターゲットの高さを求めて上方障害物であるか先行車両であるかを判別し、その上で警報指令の要否を判定する必要がある。
【0010】
しかし、検知可能範囲を広げることにより、受信アンテナが受信する反射波には多くのノイズが含まれるようになり、その結果、先行車両と上方構造物は高さが異なるもののその反射波強度には明確な差異が表れなくなってしまう。従来技術にかかるレーダ装置を使用したときの、上方構造物からの反射波の強度波形を図12に、先行車両からの反射波の強度波形を図13に示す。これらの図から明らかなように、従来技術においては上方構造物と先行車両との間には明確な差はなく、反射波強度に基づいてもターゲットが先行車両であるか上方構造物であるかを判別することは困難であった。
【0011】
そこで本発明は、上方構造物と先行車両との判別を可能にする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、送信波を発振する発振器と、前記送信波を出力する送信アンテナと、ターゲットからの反射波を受信する受信アンテナと、前記反射波の前記受信アンテナへの入射角に基づいて、前記反射波のノイズ除去を行う角度検出器と、前記ノイズ除去後の前記反射波の強度を算出するとともに、前記ターゲットまでの相対距離を求める演算処理器と、を備え、前記演算処理器は、前記相対距離に対する前記強度の2階微分値に基づいて所定の処理を行うことを特徴とする、レーダ装置である。
【0013】
また、本願発明は、送信波を発振する発振器と、前記送信波を出力する送信アンテナと、ターゲットからの反射波を受信する受信アンテナと、前記反射波の前記受信アンテナへの入射角に基づいて、前記反射波のノイズ除去を行う角度検出器と、前記ノイズ除去後の前記反射波の強度を算出するとともに、前記ターゲットまでの相対距離を求める演算処理器と、を備え、前記演算処理器は、前記相対距離に対する前記強度の周波数成分のうち、予め定めた帯域の周波数成分の強度に基づいて所定の処理を行うことを特徴とする、レーダ装置である。
【0014】
また、上記発明において、前記演算処理装置は、前記所定の処理として、前記ターゲットの高さを求めることが好適である。
【0015】
また、上記発明において、前記演算処理装置は、前記所定の処理として、前記ターゲットの高さに基づいて、ターゲットの属性を判定することが好適である。
【0016】
また、上記発明において、前記角度検出器は、前記受信アンテナに入射した前記反射波の入射角を求め、予め定めた水平方向の入射角範囲外の反射波を排除することにより前記反射波のノイズ除去を行うことが好適である。
【発明の効果】
【0017】
本願発明者らは、上方構造物からの反射波強度と、先行車両からの反射波強度とについて、相対距離に対してそれぞれの強度をプロットし、さらに各強度に対して2階微分を行った結果、両者の間に有意な差異が生じ、それぞれを判別できることを見出した。そこで本願発明では、反射波強度の2階微分値に基づいてターゲットの属性(車両であるか上方構造物であるか)を判別している。このように本願発明では、従来判別が困難であった車両と上方構造物との判別を可能にしている。
【0018】
また、本願発明者らは、上方構造物からの反射波強度と、先行車両からの反射波強度とについて、相対距離に対してそれぞれの強度をプロットし、さらに各強度の波形を周波数成分を比較したところ、両者の間に有意な差異が生じ、それぞれを判別できることを見出した。そこで本願発明では、特定の帯域の周波数成分の強度に基づいてターゲットの属性を判別している。このように本願発明では、従来判別が困難であった車両と上方構造物との判別を可能にしている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る車載レーダ装置を例示する図である。
【図2】送信波の波形を例示する図である。
【図3】直接反射波と間接反射波とを例示する図である。
【図4】反射波の入射角を絞る手段を例示する図である。
【図5】上方構造物からの反射波の波形を例示する図である。
【図6】先行車両からの反射波の波形を例示する図である。
【図7】レーダ装置とターゲットとの相対距離を求める方法を説明する図である。
【図8】レーダ装置とターゲットとの相対距離を求める方法を説明する図である。
【図9】反射波強度について2階微分を行ったときの図である。
【図10】警報指令の要否判定のフローチャートを示す図である。
【図11】反射波強度の波形を周波数成分ごとに分離したときの図である。
【図12】上方構造物からの反射波の波形を例示する図である。
【図13】先行車両からの反射波の波形を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態に係るレーダ装置の構成について、図1を用いて説明する。レーダ装置10は図示しない車両のフロント部に搭載される。レーダ装置10はFM−CW(Frequency−Modulated Continuous Waves)方式のレーダであり、FM波を出力するために周波数可変の発振器12を備えている。発振器12は分配器14を経て送信アンテナ16に接続される。さらにレーダ装置10は受信アンテナ18を備え、受信アンテナ18はミキサ20に接続している。ミキサ20は上述した分配器14にも接続され、さらにローパスフィルタを有するフィルタ回路22にも接続されている。フィルタ回路22はA/D変換器24に接続され、さらにA/D変換器24は演算処理器26に接続されている。
【0021】
次に、レーダ装置10の各構成の作用について説明する。発振器12は発振周波数を変調させながらFM波である送信波を生成する。具体的には図2のように送信波の波形が三角状になるように送信波を変調させる。
【0022】
送信アンテナ16は発振器12により生成された送信波を出力する。ここで、車両の進行方向から大きく外れたターゲットからの反射を防ぐために、送信アンテナ16は送信波の出力角を所定の角度に絞っている。本実施形態においては送信波の出力角を水平方向、垂直方向ともに7.0〜7.5°となるように設定している。こうすることにより、この角度設定の下では、レーダ装置10が搭載された車両から150m離れた地点において、送信波は垂直方向について約9m+レーダ装置10の設置高さ分まで広がる。また水平方向については18mまで広がる。
【0023】
一方、道路上に設置される跨道橋(陸橋)や標識等の上方構造物の設置高さは法令により5.0m以上と決められている。上記の出力角を考慮すると、車両と上方構造物との相対距離が約80m以上になると送信波が上方構造物に反射することになる。
【0024】
車両30の進行方向の先行車両や上方構造物等のターゲット32に送信波が当たると、その反射波は受信アンテナ18に受信される。図3に示すように、反射波はターゲット32から直接受信アンテナ18に向かう直接反射波34と、ターゲット32から路面36に一度反射した後に受信アンテナ18に向かう間接反射波38とに分けられる。受信アンテナ18は直接反射波34と間接反射波38との合成波を反射波として受信する。直接反射波34と間接反射波38とはターゲット32から受信アンテナ18までの経路長が異なるため、直接反射波34と間接反射波38とは互いに干渉し合い、干渉の度合いによって両者を合成した反射波の強度(振幅)Iが増減する。干渉の度合いはターゲット32から受信アンテナ18までの経路長によって変化する。すなわち、ターゲット32の高さH、および受信アンテナ18とターゲット32との相対距離Rによって反射波の強度Iは変化する。
【0025】
なお、直接反射波34と間接反射波38の他にも、路上に設けられた交通量測定のための路側器等からの信号や、進行方向からみて側方にあるガードレール等からの反射波が受信アンテナ18に受信され得る。そこで、直接反射波34と間接反射波38以外の信号をノイズとして排除するために、受信アンテナ18に入射する信号の入射角を限定する手段を受信アンテナ18に備えても良い。具体的には図4に示すように、受信アンテナ18−1〜18−nを水平方向に複数個並べるとともに、受信アンテナ18−1〜18−nに接続し、これらの信号を受ける角度検出器39を設ける。角度検出器は周知のMUSIC(Multiple−Signal−Classification)法やESPRIT(Estimation−od−Signal−Parameters−via−Rotational−Invariance−Techniques)法などの演算を行うことにより受信アンテナ18−1〜18−nに入射した受信信号の入射角を算出する。本実施形態では、角度検出器39の図示しないメモリに、受信アンテナ18−1〜18−nに入射する反射波の水平方向における入射角範囲を定める入射角条件(例えば、車両の進行方向に平行な角度を0°として、水平方向について入射角を±5°以内に限定)を記憶させている。角度検出器39が各受信アンテナ18−1〜18−nから信号を受信すると、角度検出器39は受信アンテナ18−1〜18−nに入射した受信信号の入射角と入射角条件とを比較する。もし、入射角が入射角条件で定める角度よりも大きければ角度検出器39は当該受信信号を排除する。他方、入射角が入射角条件を満足すれば角度検出器39は当該受信信号をミキサ20に送信する。
【0026】
図5に、上方構図物からの反射波強度のグラフを示し、図6に、先行車両からの反射波強度のグラフを示す。両図とも、実線はノイズ除去されていない(入射角を限定していない)反射波強度を示し、破線はノイズ除去後の(入射角条件を満たす反射波のみに限定された)反射波強度を示している。
【0027】
図1に戻り、受信アンテナ18により受信された反射波はミキサ20に送られる。ミキサ20は分配器14にも接続されており、発振器12からの送信波がこの分配器14からミキサ20に送られる。
【0028】
ミキサ20では送信波40と反射波42とをミキシングしたビート信号を生成する。ビート信号とは、送信波40と反射波42との周波数の違いから生じるビート(うなり)の信号を指しており、送信波40に対する反射波42の遅延時間(時間ずれ)によって生じる。このビート信号はフィルタ回路22を経てA/D変換器24によりデジタル信号に変換され、演算処理器26に送られる。演算処理器26はビート信号に基づいてターゲット32と車両30との相対距離Rを算出する。
【0029】
ビート信号から車両30とターゲット32の相対距離Rを求める方法について、以下に説明する。車両30は走行中であることから、ドプラ効果の影響を受けて図5上段に示すように反射波42は送信波40に対して縦軸(周波数)方向にオフセットする。このオフセットの量は、frをビート周波数、fbをドプラ周波数とすると、半周期ごとにfr+fbからfr−fbに変化する。これを受けて、図5中段および下段に示すように、送信波40と反射波42とを混合させたビート信号44の周波数も半期ごとにfr+fbからfr−fbに切り替わる。この現象を利用して、ビート信号44を高速フーリエ変換(FFT)等により周波数成分に変換してfr+fbとfr−fbの値を求めることにより、ビート周波数frを求めることができる。
【0030】
ドプラ効果を取り除いたときの送信波40と反射波42の波形を図6上段に示す。またこのときのビート信号44の周波数変化を図6下段に示す。図6上段に示すように、送信波40と反射波42との間には遅延時間Δtが生じている。送信波40と反射波42の伝搬速度をc(例えば光の速度:3×108m/s)とすると、車両30とターゲット32との相対距離(半径距離)Rは下記数式1により表される。
【0031】
【数1】
【0032】
さらに、送信波40の変調繰り返し周期(既知)を1/fm、変調周波数幅(既知)をΔfとすると、図6上段の幾何的関係から、
【0033】
【数2】
【0034】
数式1と数式2より、
【0035】
【数3】
【0036】
演算処理器26は上述した演算を行うことにより車両30とターゲット32との相対距離Rを求める。
【0037】
また、演算処理器26は車両30とターゲット32との相対距離Rを求めると同時に、反射波42の信号強度(振幅)Iも求めている。求められた強度Iは相対距離Rと対応付けて図示しないメモリに記憶される。
【0038】
上述したように、検知可能範囲を拡大すると、送信波が上方構造物に当たるようになる。そこで、本願発明者らは、送信波が上方構造物に当たる領域において先行車両の反射波強度Iと上方構造物の反射波強度Iを採取し、相対距離Rに対応させてこれらの強度Iをプロットしてそれぞれの波形について解析した結果、反射波強度Iに対して2階微分を行うことにより、反射波源であるターゲット32が上方構造物であるか先行車両であるかを判別できることを見出した。
【0039】
図9には、上方構造物として標識、跨道橋、鉄柱、その他の金属体の4種類を選択してそれぞれ相対距離Rに対応付けて反射波強度Iを採取するとともに、先行車両についても反射波強度Iを採取し、さらにこれらの反射波強度Iに対して2階微分を行った結果が示されている。なお、これらの上方構造物はほぼ同じ高さに設置されている。また、角度検出器39によりノイズ除去された反射波を2階微分の対象としている。
【0040】
図9において、先行車両を太線で示し、上方構造物は細線にて示す。また、縦軸は強度Iの2階微分値、横軸は車両と上方構造物又は先行車両との相対距離Rを示している。ここで、上述したように、車両30とターゲット32との相対距離Rが80m以上になると受信アンテナ18には上方構造物の反射波が入射するようになる。したがって強度Iをサンプリングする相対距離Rの範囲(以下、検出範囲と呼ぶ)について最小値を80mとし、また最大検出範囲が150mであることを考慮して、検出範囲の最大値を150mよりも手前の140mとしている。
【0041】
図9に示されているように、各上方構造物と比較して先行車両の波形は上下の変動が少ないことが理解される。上方構造物はいずれも同じ高さに設置されていることから、強度Iの2階微分を行うことにより、ターゲット32は高さ別に分けられたということができる。ターゲット32を高さ別に分けることにより、先行車両と上方構造物とを判別することができる。
【0042】
ここで、上方構造物と先行車両の各値について、縦軸(強度の2階微分値)の値が2以上であるマーカー(座標点)の個数をそれぞれ計測したところ、両者の間には明確な差異が現れた。下記表1にてそれぞれの計測結果を示す。
【表1】
【0043】
表1に示すように、上方構造物と比較して先行車両のマーカーの個数が著しく少ないことが理解される。この結果を利用して、反射波強度Iの2階微分値について閾値を設定し(例えば2)、受信アンテナ18が受信した反射波の強度Iの2階微分値のうち、閾値よりも大きな値を有するマーカーの個数を計測し、当該マーカーの個数が予め定めた個数(例えば5個)よりも多い場合にはターゲット32を上方構造物であると判断することができる。
【0044】
上述の知見に基づいた演算処理器26の判定フローチャートを図10に示す。演算処理器26は、受信アンテナ18から角度検出器39を経由して受信した反射波について、ターゲット32とレーダ装置10との相対距離Rを算出し、相対距離Rが予め定めた検出範囲に含まれているときは、反射波の強度Iを求め、当該強度を相対距離Rに対応付けて図示しないメモリに記憶する(S1)。この対応付け処理を全検出範囲について行う(S2)。次に、記憶された反射波強度Iについて2階微分を行う(S3)。次に、2階微分値と予め設定された閾値とを比較し、閾値以上の値を有するマーカーの個数を計測する(S4)。次に、計測されたマーカーの個数と予め設定された判断基準(例えば5個)とを比較し(S5)、判断基準を超えていなければターゲット32は先行車両であると判断し、警報器に対して警報指令を送る(S6)。他方、判断基準を超えていればターゲット32は上方構造物であると判断し、警報器に警報指令を送らない(S7)。このように、本実施形態においては反射波強度の2階微分を行うことにより、従来判別が困難であった先行車両と情報構造物との判別を可能にしている。なお、(S6)において警報器に警報指令を送ることに加えて、もしくはこれに代えて、車両の制御を行うコントロールユニットに対して減速指令を送ったり、シートベルトの張力(テンション)を増加させる指令を送るようにしても良い。
【0045】
また、本願発明者らは、上述の実施形態に代えて、反射波強度Iを周波数成分ごとに分離し、各周波数成分の強度Iを解析することによっても、先行車両と上方構造物との判別を行うことができることを見出した。
【0046】
図11には、上方構造物として標識、跨道橋、その他の金属体の4種類を選択してそれぞれ反射波強度Iを採取するとともに、先行車両についても反射波強度Iを採取し、これらの反射波強度Iに対して高速フーリエ変換(FFT)を行った結果が示されている。なお、先行車両を太線で示し、その他の上方構造物を細線で示している。また、縦軸は各周波数成分の強度の相対値を示し、横軸は周波数スペクトルを意味するビン(bin)を示している。なお、図9と同様に、角度検出器39によりノイズ除去された反射波を高速フーリエ変換の対象としている。また、相対距離Rについて検出範囲を80m〜140mに限定している。
【0047】
図11に示されているように、先行車両の上方構造物のマーカーは上方構造物の群から明確に離れていることが理解される。つまり、強度Iを周波数成分に分けることで、ターゲット32を高さ別に分けることができる。ターゲット32を高さ別に分けることにより、先行車両と上方構造物とを判別することができる。
【0048】
ここで、周波数スペクトル(横軸)が8bin以上の領域における上方構造物と先行車両の強度(縦軸)の平均値をそれぞれ算出したところ、両者の間には有意な差異が現れた。下記表2にてそれぞれの算出結果を示す。
【表2】
【0049】
表2に示すように、先行車両の強度平均値は上方構造物の平均値と比較して著しく小さい値を取ることが理解される。この結果を利用して、反射波強度Iの周波数成分のうち所定の周波数帯における強度の平均値を算出し、当該平均値が予め定めた値(例えば0)よりも小さい場合にはターゲット32を先行車両であると判断することができる。
【0050】
上述の知見に基づいた演算処理器26の判定フローチャートは、図10に示したS3、S4,S5が下記のS3’、S4’、S5’に置き換わったものになる。すなわち、演算処理器26は、検出範囲(R=80m〜150m)における反射波強度Iについて高速フーリエ変換を行う(S3’)。次に、周波数スペクトルが8bin以上の周波数成分を抽出し、予め定めた周波数帯域について強度Iの平均値を求める。(S4’)次に、平均値の値と、予め図示しないメモリに記憶された基準値(例えば0)とを比較し、(S5’)、当該平均値が基準値以下であればターゲット32は先行車両であると判断し、警報器に対して警報指令を送る(S6)。他方、平均値が基準値を越えている場合は、反射源であるターゲット32は上方構造物であると判断し、警報器に警報指令を送らない(S7)。
【0051】
以上説明したように、本実施形態においては従来判別が困難であった先行車両と情報構造物との判別を可能にしている。これにより、上方構造物を検知したときに誤って警報指令が送られることを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0052】
10 レーダ装置、12 発振器、14 分配器、16 送信アンテナ、18 受信アンテナ、20 ミキサ、22 フィルタ回路、24 A/D変換器、26 演算処理器、30 車両、32 ターゲット、34 直接反射波、36 路面、38 間接反射波、39 角度検出器、40 送信波、42 反射波、44 ビート信号。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に搭載され、進行方向の障害物や先行車両を検知するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の進行方向の障害物、先行車両の検知や、当該障害物や先行車両との相対距離を求めるために、車両にレーダ装置が搭載されている。
【0003】
レーダ装置は車両のフロント部に搭載されており、レーダ装置の送信アンテナから車両の進行方向に向かって送信波が出力される。送信波が先行車両や障害物等に当たって反射すると、その反射波はレーダ装置の受信アンテナに受信される。ここで、先行車両や障害物等の反射源を以下ではターゲットと総称する。
【0004】
反射波が受信アンテナに受信された後、レーダ装置内の演算処理器は送信波と反射波のずれ(遅延時間)に基づいて車両とターゲットの相対距離を算出する。また、演算処理器は警報器と接続しており、相対距離の算出の結果、ターゲットが車両に近接し、衝突の可能性があると判断された場合には警報器に警報指令を送る。警報指令を受けた警報器が警報を鳴らしたり、警告メッセージを表示することによりドライバーに車両の減速や障害物や先行車両からの回避を促している。
【0005】
ここで、警報指令を送るに当たり、演算処理器ではターゲットの高さを判定している。ターゲットの高さが低く、車両が容易に乗り越えることができる場合は車両がターゲットに衝突することはないので警報器に警報指令を送る必要はない。したがって、ターゲットを検知したときに当該ターゲットの高さを求め、その上で警報指令の要否を決定している。
【0006】
ターゲットの高さを求める手法として、反射波の強度(振幅)を利用する手法が従来から知られている。反射波の強度は車両とターゲットの相対距離によって変動することが知られており、さらにこの変動の傾向はターゲットの高さによって異なることが知られている。そこで特許文献1においては、レーダ装置とターゲットの相対距離に対する反射波の強度の軌跡を予め実験等により取得し、さらにこの軌跡をターゲットの高さ別に取得し、この高さ別軌跡データをレーダ装置のメモリに記憶させている。そして、車両運転中にレーダ装置が検知した反射波の強度の軌跡とメモリに記憶されている複数個の高さ別軌跡データとを比較し(パターンマッチングし)、メモリに記憶された高さ別軌跡データの中から、レーダ装置が検知した反射波の軌跡との差異が最小である軌跡データを抽出し、当該軌跡データに対応するターゲットの高さをレーダ装置が検知したターゲットの高さと推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−122391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、安全性向上のためには、可及的早期に、言い換えると、車両から見てまだ遠い地点に存在するターゲットを検知できることが望ましい。これは、送信波を生成する発信器の出力を従来よりも増加させ、レーダ装置の検知可能範囲を広げることで実現可能となる。発振器の出力を増加させることにより、従来50m程度であった検知可能範囲を150m程度まで広げることが可能となる。
【0009】
一方、送信波の伝搬特性を考慮すると、レーダ装置の検知可能範囲は進行方向だけでなく水平方向および垂直方向にも広がる。その結果、従来送信波が届かなかった路上標識や跨道橋(陸橋)等の上方構造物に送信波が反射することになる。これら上方構造物は車両と衝突する危険性はないので、上方構造物を検知したことに応じて警報指令を送信することは避けなければならない。そのためにはターゲットを検知した後に当該ターゲットの高さを求めて上方障害物であるか先行車両であるかを判別し、その上で警報指令の要否を判定する必要がある。
【0010】
しかし、検知可能範囲を広げることにより、受信アンテナが受信する反射波には多くのノイズが含まれるようになり、その結果、先行車両と上方構造物は高さが異なるもののその反射波強度には明確な差異が表れなくなってしまう。従来技術にかかるレーダ装置を使用したときの、上方構造物からの反射波の強度波形を図12に、先行車両からの反射波の強度波形を図13に示す。これらの図から明らかなように、従来技術においては上方構造物と先行車両との間には明確な差はなく、反射波強度に基づいてもターゲットが先行車両であるか上方構造物であるかを判別することは困難であった。
【0011】
そこで本発明は、上方構造物と先行車両との判別を可能にする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、送信波を発振する発振器と、前記送信波を出力する送信アンテナと、ターゲットからの反射波を受信する受信アンテナと、前記反射波の前記受信アンテナへの入射角に基づいて、前記反射波のノイズ除去を行う角度検出器と、前記ノイズ除去後の前記反射波の強度を算出するとともに、前記ターゲットまでの相対距離を求める演算処理器と、を備え、前記演算処理器は、前記相対距離に対する前記強度の2階微分値に基づいて所定の処理を行うことを特徴とする、レーダ装置である。
【0013】
また、本願発明は、送信波を発振する発振器と、前記送信波を出力する送信アンテナと、ターゲットからの反射波を受信する受信アンテナと、前記反射波の前記受信アンテナへの入射角に基づいて、前記反射波のノイズ除去を行う角度検出器と、前記ノイズ除去後の前記反射波の強度を算出するとともに、前記ターゲットまでの相対距離を求める演算処理器と、を備え、前記演算処理器は、前記相対距離に対する前記強度の周波数成分のうち、予め定めた帯域の周波数成分の強度に基づいて所定の処理を行うことを特徴とする、レーダ装置である。
【0014】
また、上記発明において、前記演算処理装置は、前記所定の処理として、前記ターゲットの高さを求めることが好適である。
【0015】
また、上記発明において、前記演算処理装置は、前記所定の処理として、前記ターゲットの高さに基づいて、ターゲットの属性を判定することが好適である。
【0016】
また、上記発明において、前記角度検出器は、前記受信アンテナに入射した前記反射波の入射角を求め、予め定めた水平方向の入射角範囲外の反射波を排除することにより前記反射波のノイズ除去を行うことが好適である。
【発明の効果】
【0017】
本願発明者らは、上方構造物からの反射波強度と、先行車両からの反射波強度とについて、相対距離に対してそれぞれの強度をプロットし、さらに各強度に対して2階微分を行った結果、両者の間に有意な差異が生じ、それぞれを判別できることを見出した。そこで本願発明では、反射波強度の2階微分値に基づいてターゲットの属性(車両であるか上方構造物であるか)を判別している。このように本願発明では、従来判別が困難であった車両と上方構造物との判別を可能にしている。
【0018】
また、本願発明者らは、上方構造物からの反射波強度と、先行車両からの反射波強度とについて、相対距離に対してそれぞれの強度をプロットし、さらに各強度の波形を周波数成分を比較したところ、両者の間に有意な差異が生じ、それぞれを判別できることを見出した。そこで本願発明では、特定の帯域の周波数成分の強度に基づいてターゲットの属性を判別している。このように本願発明では、従来判別が困難であった車両と上方構造物との判別を可能にしている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る車載レーダ装置を例示する図である。
【図2】送信波の波形を例示する図である。
【図3】直接反射波と間接反射波とを例示する図である。
【図4】反射波の入射角を絞る手段を例示する図である。
【図5】上方構造物からの反射波の波形を例示する図である。
【図6】先行車両からの反射波の波形を例示する図である。
【図7】レーダ装置とターゲットとの相対距離を求める方法を説明する図である。
【図8】レーダ装置とターゲットとの相対距離を求める方法を説明する図である。
【図9】反射波強度について2階微分を行ったときの図である。
【図10】警報指令の要否判定のフローチャートを示す図である。
【図11】反射波強度の波形を周波数成分ごとに分離したときの図である。
【図12】上方構造物からの反射波の波形を例示する図である。
【図13】先行車両からの反射波の波形を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態に係るレーダ装置の構成について、図1を用いて説明する。レーダ装置10は図示しない車両のフロント部に搭載される。レーダ装置10はFM−CW(Frequency−Modulated Continuous Waves)方式のレーダであり、FM波を出力するために周波数可変の発振器12を備えている。発振器12は分配器14を経て送信アンテナ16に接続される。さらにレーダ装置10は受信アンテナ18を備え、受信アンテナ18はミキサ20に接続している。ミキサ20は上述した分配器14にも接続され、さらにローパスフィルタを有するフィルタ回路22にも接続されている。フィルタ回路22はA/D変換器24に接続され、さらにA/D変換器24は演算処理器26に接続されている。
【0021】
次に、レーダ装置10の各構成の作用について説明する。発振器12は発振周波数を変調させながらFM波である送信波を生成する。具体的には図2のように送信波の波形が三角状になるように送信波を変調させる。
【0022】
送信アンテナ16は発振器12により生成された送信波を出力する。ここで、車両の進行方向から大きく外れたターゲットからの反射を防ぐために、送信アンテナ16は送信波の出力角を所定の角度に絞っている。本実施形態においては送信波の出力角を水平方向、垂直方向ともに7.0〜7.5°となるように設定している。こうすることにより、この角度設定の下では、レーダ装置10が搭載された車両から150m離れた地点において、送信波は垂直方向について約9m+レーダ装置10の設置高さ分まで広がる。また水平方向については18mまで広がる。
【0023】
一方、道路上に設置される跨道橋(陸橋)や標識等の上方構造物の設置高さは法令により5.0m以上と決められている。上記の出力角を考慮すると、車両と上方構造物との相対距離が約80m以上になると送信波が上方構造物に反射することになる。
【0024】
車両30の進行方向の先行車両や上方構造物等のターゲット32に送信波が当たると、その反射波は受信アンテナ18に受信される。図3に示すように、反射波はターゲット32から直接受信アンテナ18に向かう直接反射波34と、ターゲット32から路面36に一度反射した後に受信アンテナ18に向かう間接反射波38とに分けられる。受信アンテナ18は直接反射波34と間接反射波38との合成波を反射波として受信する。直接反射波34と間接反射波38とはターゲット32から受信アンテナ18までの経路長が異なるため、直接反射波34と間接反射波38とは互いに干渉し合い、干渉の度合いによって両者を合成した反射波の強度(振幅)Iが増減する。干渉の度合いはターゲット32から受信アンテナ18までの経路長によって変化する。すなわち、ターゲット32の高さH、および受信アンテナ18とターゲット32との相対距離Rによって反射波の強度Iは変化する。
【0025】
なお、直接反射波34と間接反射波38の他にも、路上に設けられた交通量測定のための路側器等からの信号や、進行方向からみて側方にあるガードレール等からの反射波が受信アンテナ18に受信され得る。そこで、直接反射波34と間接反射波38以外の信号をノイズとして排除するために、受信アンテナ18に入射する信号の入射角を限定する手段を受信アンテナ18に備えても良い。具体的には図4に示すように、受信アンテナ18−1〜18−nを水平方向に複数個並べるとともに、受信アンテナ18−1〜18−nに接続し、これらの信号を受ける角度検出器39を設ける。角度検出器は周知のMUSIC(Multiple−Signal−Classification)法やESPRIT(Estimation−od−Signal−Parameters−via−Rotational−Invariance−Techniques)法などの演算を行うことにより受信アンテナ18−1〜18−nに入射した受信信号の入射角を算出する。本実施形態では、角度検出器39の図示しないメモリに、受信アンテナ18−1〜18−nに入射する反射波の水平方向における入射角範囲を定める入射角条件(例えば、車両の進行方向に平行な角度を0°として、水平方向について入射角を±5°以内に限定)を記憶させている。角度検出器39が各受信アンテナ18−1〜18−nから信号を受信すると、角度検出器39は受信アンテナ18−1〜18−nに入射した受信信号の入射角と入射角条件とを比較する。もし、入射角が入射角条件で定める角度よりも大きければ角度検出器39は当該受信信号を排除する。他方、入射角が入射角条件を満足すれば角度検出器39は当該受信信号をミキサ20に送信する。
【0026】
図5に、上方構図物からの反射波強度のグラフを示し、図6に、先行車両からの反射波強度のグラフを示す。両図とも、実線はノイズ除去されていない(入射角を限定していない)反射波強度を示し、破線はノイズ除去後の(入射角条件を満たす反射波のみに限定された)反射波強度を示している。
【0027】
図1に戻り、受信アンテナ18により受信された反射波はミキサ20に送られる。ミキサ20は分配器14にも接続されており、発振器12からの送信波がこの分配器14からミキサ20に送られる。
【0028】
ミキサ20では送信波40と反射波42とをミキシングしたビート信号を生成する。ビート信号とは、送信波40と反射波42との周波数の違いから生じるビート(うなり)の信号を指しており、送信波40に対する反射波42の遅延時間(時間ずれ)によって生じる。このビート信号はフィルタ回路22を経てA/D変換器24によりデジタル信号に変換され、演算処理器26に送られる。演算処理器26はビート信号に基づいてターゲット32と車両30との相対距離Rを算出する。
【0029】
ビート信号から車両30とターゲット32の相対距離Rを求める方法について、以下に説明する。車両30は走行中であることから、ドプラ効果の影響を受けて図5上段に示すように反射波42は送信波40に対して縦軸(周波数)方向にオフセットする。このオフセットの量は、frをビート周波数、fbをドプラ周波数とすると、半周期ごとにfr+fbからfr−fbに変化する。これを受けて、図5中段および下段に示すように、送信波40と反射波42とを混合させたビート信号44の周波数も半期ごとにfr+fbからfr−fbに切り替わる。この現象を利用して、ビート信号44を高速フーリエ変換(FFT)等により周波数成分に変換してfr+fbとfr−fbの値を求めることにより、ビート周波数frを求めることができる。
【0030】
ドプラ効果を取り除いたときの送信波40と反射波42の波形を図6上段に示す。またこのときのビート信号44の周波数変化を図6下段に示す。図6上段に示すように、送信波40と反射波42との間には遅延時間Δtが生じている。送信波40と反射波42の伝搬速度をc(例えば光の速度:3×108m/s)とすると、車両30とターゲット32との相対距離(半径距離)Rは下記数式1により表される。
【0031】
【数1】
【0032】
さらに、送信波40の変調繰り返し周期(既知)を1/fm、変調周波数幅(既知)をΔfとすると、図6上段の幾何的関係から、
【0033】
【数2】
【0034】
数式1と数式2より、
【0035】
【数3】
【0036】
演算処理器26は上述した演算を行うことにより車両30とターゲット32との相対距離Rを求める。
【0037】
また、演算処理器26は車両30とターゲット32との相対距離Rを求めると同時に、反射波42の信号強度(振幅)Iも求めている。求められた強度Iは相対距離Rと対応付けて図示しないメモリに記憶される。
【0038】
上述したように、検知可能範囲を拡大すると、送信波が上方構造物に当たるようになる。そこで、本願発明者らは、送信波が上方構造物に当たる領域において先行車両の反射波強度Iと上方構造物の反射波強度Iを採取し、相対距離Rに対応させてこれらの強度Iをプロットしてそれぞれの波形について解析した結果、反射波強度Iに対して2階微分を行うことにより、反射波源であるターゲット32が上方構造物であるか先行車両であるかを判別できることを見出した。
【0039】
図9には、上方構造物として標識、跨道橋、鉄柱、その他の金属体の4種類を選択してそれぞれ相対距離Rに対応付けて反射波強度Iを採取するとともに、先行車両についても反射波強度Iを採取し、さらにこれらの反射波強度Iに対して2階微分を行った結果が示されている。なお、これらの上方構造物はほぼ同じ高さに設置されている。また、角度検出器39によりノイズ除去された反射波を2階微分の対象としている。
【0040】
図9において、先行車両を太線で示し、上方構造物は細線にて示す。また、縦軸は強度Iの2階微分値、横軸は車両と上方構造物又は先行車両との相対距離Rを示している。ここで、上述したように、車両30とターゲット32との相対距離Rが80m以上になると受信アンテナ18には上方構造物の反射波が入射するようになる。したがって強度Iをサンプリングする相対距離Rの範囲(以下、検出範囲と呼ぶ)について最小値を80mとし、また最大検出範囲が150mであることを考慮して、検出範囲の最大値を150mよりも手前の140mとしている。
【0041】
図9に示されているように、各上方構造物と比較して先行車両の波形は上下の変動が少ないことが理解される。上方構造物はいずれも同じ高さに設置されていることから、強度Iの2階微分を行うことにより、ターゲット32は高さ別に分けられたということができる。ターゲット32を高さ別に分けることにより、先行車両と上方構造物とを判別することができる。
【0042】
ここで、上方構造物と先行車両の各値について、縦軸(強度の2階微分値)の値が2以上であるマーカー(座標点)の個数をそれぞれ計測したところ、両者の間には明確な差異が現れた。下記表1にてそれぞれの計測結果を示す。
【表1】
【0043】
表1に示すように、上方構造物と比較して先行車両のマーカーの個数が著しく少ないことが理解される。この結果を利用して、反射波強度Iの2階微分値について閾値を設定し(例えば2)、受信アンテナ18が受信した反射波の強度Iの2階微分値のうち、閾値よりも大きな値を有するマーカーの個数を計測し、当該マーカーの個数が予め定めた個数(例えば5個)よりも多い場合にはターゲット32を上方構造物であると判断することができる。
【0044】
上述の知見に基づいた演算処理器26の判定フローチャートを図10に示す。演算処理器26は、受信アンテナ18から角度検出器39を経由して受信した反射波について、ターゲット32とレーダ装置10との相対距離Rを算出し、相対距離Rが予め定めた検出範囲に含まれているときは、反射波の強度Iを求め、当該強度を相対距離Rに対応付けて図示しないメモリに記憶する(S1)。この対応付け処理を全検出範囲について行う(S2)。次に、記憶された反射波強度Iについて2階微分を行う(S3)。次に、2階微分値と予め設定された閾値とを比較し、閾値以上の値を有するマーカーの個数を計測する(S4)。次に、計測されたマーカーの個数と予め設定された判断基準(例えば5個)とを比較し(S5)、判断基準を超えていなければターゲット32は先行車両であると判断し、警報器に対して警報指令を送る(S6)。他方、判断基準を超えていればターゲット32は上方構造物であると判断し、警報器に警報指令を送らない(S7)。このように、本実施形態においては反射波強度の2階微分を行うことにより、従来判別が困難であった先行車両と情報構造物との判別を可能にしている。なお、(S6)において警報器に警報指令を送ることに加えて、もしくはこれに代えて、車両の制御を行うコントロールユニットに対して減速指令を送ったり、シートベルトの張力(テンション)を増加させる指令を送るようにしても良い。
【0045】
また、本願発明者らは、上述の実施形態に代えて、反射波強度Iを周波数成分ごとに分離し、各周波数成分の強度Iを解析することによっても、先行車両と上方構造物との判別を行うことができることを見出した。
【0046】
図11には、上方構造物として標識、跨道橋、その他の金属体の4種類を選択してそれぞれ反射波強度Iを採取するとともに、先行車両についても反射波強度Iを採取し、これらの反射波強度Iに対して高速フーリエ変換(FFT)を行った結果が示されている。なお、先行車両を太線で示し、その他の上方構造物を細線で示している。また、縦軸は各周波数成分の強度の相対値を示し、横軸は周波数スペクトルを意味するビン(bin)を示している。なお、図9と同様に、角度検出器39によりノイズ除去された反射波を高速フーリエ変換の対象としている。また、相対距離Rについて検出範囲を80m〜140mに限定している。
【0047】
図11に示されているように、先行車両の上方構造物のマーカーは上方構造物の群から明確に離れていることが理解される。つまり、強度Iを周波数成分に分けることで、ターゲット32を高さ別に分けることができる。ターゲット32を高さ別に分けることにより、先行車両と上方構造物とを判別することができる。
【0048】
ここで、周波数スペクトル(横軸)が8bin以上の領域における上方構造物と先行車両の強度(縦軸)の平均値をそれぞれ算出したところ、両者の間には有意な差異が現れた。下記表2にてそれぞれの算出結果を示す。
【表2】
【0049】
表2に示すように、先行車両の強度平均値は上方構造物の平均値と比較して著しく小さい値を取ることが理解される。この結果を利用して、反射波強度Iの周波数成分のうち所定の周波数帯における強度の平均値を算出し、当該平均値が予め定めた値(例えば0)よりも小さい場合にはターゲット32を先行車両であると判断することができる。
【0050】
上述の知見に基づいた演算処理器26の判定フローチャートは、図10に示したS3、S4,S5が下記のS3’、S4’、S5’に置き換わったものになる。すなわち、演算処理器26は、検出範囲(R=80m〜150m)における反射波強度Iについて高速フーリエ変換を行う(S3’)。次に、周波数スペクトルが8bin以上の周波数成分を抽出し、予め定めた周波数帯域について強度Iの平均値を求める。(S4’)次に、平均値の値と、予め図示しないメモリに記憶された基準値(例えば0)とを比較し、(S5’)、当該平均値が基準値以下であればターゲット32は先行車両であると判断し、警報器に対して警報指令を送る(S6)。他方、平均値が基準値を越えている場合は、反射源であるターゲット32は上方構造物であると判断し、警報器に警報指令を送らない(S7)。
【0051】
以上説明したように、本実施形態においては従来判別が困難であった先行車両と情報構造物との判別を可能にしている。これにより、上方構造物を検知したときに誤って警報指令が送られることを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0052】
10 レーダ装置、12 発振器、14 分配器、16 送信アンテナ、18 受信アンテナ、20 ミキサ、22 フィルタ回路、24 A/D変換器、26 演算処理器、30 車両、32 ターゲット、34 直接反射波、36 路面、38 間接反射波、39 角度検出器、40 送信波、42 反射波、44 ビート信号。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波を発振する発振器と、
前記送信波を出力する送信アンテナと、
ターゲットからの反射波を受信する受信アンテナと、
前記反射波の前記受信アンテナへの入射角に基づいて、前記反射波のノイズ除去を行う角度検出器と、
前記ノイズ除去後の前記反射波の強度を算出するとともに、前記ターゲットまでの相対距離を求める演算処理器と、を備え、
前記演算処理器は、前記相対距離に対する前記強度の2階微分値に基づいて所定の処理を行うことを特徴とする、レーダ装置。
【請求項2】
送信波を発振する発振器と、
前記送信波を出力する送信アンテナと、
ターゲットからの反射波を受信する受信アンテナと、
前記反射波の前記受信アンテナへの入射角に基づいて、前記反射波のノイズ除去を行う角度検出器と、
前記ノイズ除去後の前記反射波の強度を算出するとともに、前記ターゲットまでの相対距離を求める演算処理器と、を備え、
前記演算処理器は、前記相対距離に対する前記強度の周波数成分のうち、予め定めた帯域の周波数成分の強度に基づいて所定の処理を行うことを特徴とする、レーダ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーダ装置であって、
前記演算処理装置は、前記所定の処理として、前記ターゲットの高さを求めることを特徴とする、レーダ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のレーダ装置であって、
前記演算処理装置は、前記所定の処理として、前記ターゲットの高さに基づいて、ターゲットの属性を判定することを特徴とする、レーダ装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載のレーダ装置であって、
前記角度検出器は、前記受信アンテナに入射した前記反射波の入射角を求め、予め定めた水平方向の入射角範囲外の反射波を排除することにより前記反射波のノイズ除去を行うことを特徴とする、レーダ装置。
【請求項1】
送信波を発振する発振器と、
前記送信波を出力する送信アンテナと、
ターゲットからの反射波を受信する受信アンテナと、
前記反射波の前記受信アンテナへの入射角に基づいて、前記反射波のノイズ除去を行う角度検出器と、
前記ノイズ除去後の前記反射波の強度を算出するとともに、前記ターゲットまでの相対距離を求める演算処理器と、を備え、
前記演算処理器は、前記相対距離に対する前記強度の2階微分値に基づいて所定の処理を行うことを特徴とする、レーダ装置。
【請求項2】
送信波を発振する発振器と、
前記送信波を出力する送信アンテナと、
ターゲットからの反射波を受信する受信アンテナと、
前記反射波の前記受信アンテナへの入射角に基づいて、前記反射波のノイズ除去を行う角度検出器と、
前記ノイズ除去後の前記反射波の強度を算出するとともに、前記ターゲットまでの相対距離を求める演算処理器と、を備え、
前記演算処理器は、前記相対距離に対する前記強度の周波数成分のうち、予め定めた帯域の周波数成分の強度に基づいて所定の処理を行うことを特徴とする、レーダ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーダ装置であって、
前記演算処理装置は、前記所定の処理として、前記ターゲットの高さを求めることを特徴とする、レーダ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のレーダ装置であって、
前記演算処理装置は、前記所定の処理として、前記ターゲットの高さに基づいて、ターゲットの属性を判定することを特徴とする、レーダ装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載のレーダ装置であって、
前記角度検出器は、前記受信アンテナに入射した前記反射波の入射角を求め、予め定めた水平方向の入射角範囲外の反射波を排除することにより前記反射波のノイズ除去を行うことを特徴とする、レーダ装置。
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2012−2637(P2012−2637A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137206(P2010−137206)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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