説明

レーダ装置

【課題】ターゲットにより反射された信号の直交検波後のI信号とQ信号との間に生じる位相ずれ量をリアルタイム且つ適正に補正し、ターゲットの到来角度の推定精度の劣化を抑制する。
【解決手段】所定の送信周期で高周波送信信号を送信アンテナから送信し、ターゲットに反射された反射波の信号を受信アンテナで受信する。所定の符号長の符号系列を分割したサブ符号長を有する第1、第2サブ符号系列と、第1、第2サブ符号系列にそれぞれ2種類の異なる係数を乗じた第3、第4、第5、第6サブ符号系列とから、第1送信周期では、第3サブ符号系列と第4サブ符号系列とを連結した符号を変調した第1の送信信号を生成する。第2送信周期では、第4サブ符号系列と第5サブ符号系列とを連結した符号を変調した第2の送信信号を生成する。生成された第1及び第2の送信信号を高周波送信信号に変換し、送信アンテナから送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットに反射された反射波の信号をアンテナで受信して当該ターゲットを検出するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、測定地点から電波を空間に放射し、ターゲットにより反射された反射波を受信することにより、当該測定地点とターゲットとの距離、方向等を測定する装置である。特に近年、マイクロ波又はミリ波等の波長の短い電波を用いた高分解能な測定により、自動車だけではなく歩行者等をターゲットとして検出可能なレーダ装置の開発が進められている。
【0003】
レーダ装置は、近距離にいるターゲットと遠距離にいるターゲットとからの反射波が混合された受信信号を受信する。特に、近距離にいるターゲットからの反射波の信号の自己相関特性によりレンジサイドローブが生じる場合、レーダ装置の受信の際に、このレンジサイドローブと、遠距離にいるターゲットからの反射波の信号とが混在し、従って、レーダ装置における遠距離にいるターゲットの検出精度が劣化することがある。
【0004】
また、レーダ装置は、測定地点から同じ距離に自動車と歩行者とがいる場合には、レーダ反射断面積(RCS: Radar cross section)の異なる自動車と歩行者とからの反射波がそれぞれ混合された受信信号を受信することがある。歩行者(人)のレーダ反射断面積は自動車のレーダ反射断面積に比べると低いと言われている。このため、レーダ装置は、たとえ測定地点から同じに距離に自動車と歩行者とがいる場合でも、自動車だけではなく歩行者からの反射波も適正に受信する必要がある。
【0005】
従って、上述した様な高分解能な測定が要求されるレーダ装置には、送信の際に低レンジサイドローブレベルとなる特性(以下、低レンジサイドローブ特性)を有するパルス波又はパルス変調波が送信されることが要求される。更に、当該レーダ装置における受信の際には、当該受信した信号に対して広い受信ダイナミックレンジを有することが要求される。
【0006】
上述した低レンジサイドローブ特性に関して、従来から、低レンジサイドローブ特性を有するパルス波又はパルス変調波として、相補符号を用いて送信するパルス圧縮レーダが知られている。ここで、パルス圧縮とは、パルス信号をパルス変調又は位相変調してパルス幅の広い信号を用いて送信し、受信後の信号処理において当該受信された信号を復調してパルス幅の狭い信号に変換する方法である。パルス圧縮によれば、ターゲットの探知距離を増大することができ、更に、当該探知距離に対する距離推定精度を向上することができる。
【0007】
また、相補符号は、複数、例えば2つの相補符号系列(a、b)からなり、一方の相補符号系列の自己相関演算結果と他方の相補符号系列の自己相関演算結果とにおいて、遅延時間(シフト時間)τを一致させて各自己相関演算結果を加算した場合に、レンジサイドローブがゼロとなる性質を有する。なお、パラメータnはn=1、2、・・・、Lであり、パラメータLは符号系列長を示す。
【0008】
この様な相補符号の性質に関して、図9を参照して説明する。図9は、従来の相補符号の性質を説明する説明図である。同図(a)は、一方の相補符号系列aの自己相関演算結果を示す説明図である。同図(b)は、他方の相補符号系列bの自己相関演算結果を示す説明図である。同図(c)は、2つの相補符号系列(a、b)の自己相関演算結果の加算値を示す説明図である。
【0009】
2つの相補符号系列(a、b)のうち一方の相補符号系列aの自己相関演算結果は、数式(1)に従って導出される。他方の相補符号系列bの自己相関演算結果は、数式(2)に従って導出される。なお、パラメータRは自己相関演算結果を示す。但し、n>L又はn<1の場合には、2つの相補符号系列(a、b)は共にゼロとする。なお、アスタリスク*は複素共役演算子を示す。
【数1】

【数2】

【0010】
数式(1)に従って導出された一方の相補符号系列aの自己相関演算結果Raa(τ)は、図9(a)に示す様に、遅延時間τがゼロのときにピークが立ち、遅延時間(シフト時間)τがゼロでない場合にはレンジサイドローブが存在する。同様に、数式(2)に従って導出された他方の相補符号系列bの自己相関演算結果Rbb(τ)は、図9(b)に示す様に、遅延時間τがゼロのときにピークが立ち、遅延時間τがゼロでない場合にはレンジサイドローブが存在する。
【0011】
これらの自己相関演算結果(Raa(τ)、Rbb(τ))の加算値は、図9(c)に示す様に、遅延時間τがゼロのときにピークが立ち、遅延時間τがゼロでない場合にはレンジサイドローブが存在せずにゼロになる。これを数式(3)にて示す。なお、図9(a)〜(c)の横軸は自己相関演算における遅延時間(τ)を示し、縦軸は演算された自己相関演算結果を示す。
【数3】

【0012】
また、上述した様なパルス圧縮を用いた従来のパルス圧縮レーダとして、特許文献1に示すパルス圧縮送受信装置及びパルス圧縮送受信方法が知られている。
【0013】
特許文献1では、送信装置は、相補系列の一方でパルス内位相変調した幅Tのパルスと、この送信パルス幅T以上の時間間隔wをあけ、相補系列の他方でパルス内位相変調した幅Tのパルスを送信する。更に、送信装置は、これら2連の送信パルスの反射パルス受信後に、PRI(パルス繰り返し間隔)ごとに2連の送信パルスを送信する。受信装置の相関器は、時間間隔(2T+w)の受信信号の最初の時間間隔Tの信号と、最初の送信パルスの変調に用いた相補系列で変調した参照信号との相関を求める。
【0014】
更に、受信装置の相関器は、最後の時間間隔Tの信号と、相補系列の他方の系列で変調した参照信号との相関を求める。受信信号の判断器は、相関器により求められた2つの相関結果から相関値を決定する。これにより、受信信号にドップラ周波数による位相変調がない場合のレンジサイドローブをゼロにし、ドップラ周波数による位相変調がある場合のレンジサイドローブレベルの劣化を少なくすることができる。
【0015】
また、レーダ装置による受信の際に、測定地点から近距離にいるターゲットからの到来時間の早い反射波より、遠距離にいるターゲットからの到来時間の遅い反射波の信号の減衰が大きいという性質が知られている。レーダ装置が大きな受信ダイナミックレンジを有するためには、上述した性質に関連して、ターゲットからの反射波に対してAGC(Auto Gain Control)部で当該反射波の信号を増幅することが知られている。これに関して図10を参照して説明する。
【0016】
図10は、従来のレーダ装置において反射波の信号を増幅する動作を説明する説明図である。同図(a)は、送信信号の送信区間と受信信号の測定区間とを示す説明図である。同図(b)は、受信信号の測定区間内にAGC部で増幅するゲインの変化を示す説明図である。
【0017】
図10(a)は、送信区間と非送信区間とからなる送信周期でパルス信号を間欠的に送信する場合に、非送信区間に相当する区間に当該パルス信号に対する反射波の測定区間が設けられる例を示している。この場合、図10(b)に示す様に、非送信区間からの経過時間が大きいほどAGC部のゲインを増加する。これにより、レーダ装置において、大きな受信ダイナミックレンジを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平10−268040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、従来のレーダ装置では、ターゲットにより反射された反射波の信号が直交検波された後に、当該直交検波により変換された同相信号と直交信号とに対してそれぞれAGC部で増幅する場合に、AGC部間でゲインのばらつきが生じることがある。これに関して図11を参照して説明する。図11は、従来のレーダ装置のレーダ受信部50aの内部構成を示すブロック図である。また、以下の説明において、レーダ装置のレーダ受信部で直交検波された信号の同相信号を「I信号」と記載し、当該直交検波された信号の直交信号を「Q信号」という。
【0020】
図11において、AGC部52は、受信RF部51による直交検波の後に出力されたI信号を所定のゲインで増幅する。AGC部53は、受信RF部51による直交検波の後に出力されたQ信号を所定のゲインで増幅する。AGC部52により増幅されたI信号はA/D変換部55に入力され、AGC部53により増幅されたQ信号はA/D変換部56に入力される。各A/D変換部55,56に入力されたI信号及びQ信号はそれぞれ信号処理部54で信号処理され、ターゲットとの距離及び到来角度が演算される。
【0021】
理想的には、AGC部52,53間でのゲインのばらつきは生じない。しかし、現実的には、AGC部52,53を構成する各AGC回路素子の個体差に応じて、AGC部52,53間でゲインのばらつきが生じる。この場合には、I信号とQ信号の振幅が異なり、信号処理部54において演算されるターゲットの到来角度の推定精度が劣化する。これについて図12を参照して説明する。
【0022】
図12は、従来のレーダ装置におけるAGC部のゲインのばらつきによる影響を説明する説明図である。図12において、AGC部52,53がそれぞれ理想的に動作する場合の角度と、AGC部52,53のゲインがばらついて動作する場合の角度との間には差異が生じる。この場合には、I信号とQ信号の振幅が異なり、更に、I信号の位相成分とQ信号の位相成分との間に位相ずれ量が生じる。この位相ずれ量は、信号処理部54の到来角度推定部63によりターゲットの到来角度を推定する際に、無視することができない誤差となる。従って、この位相ずれ量が生じた場合には、ターゲットの到来角度を高精度に推定することが困難になる。
【0023】
この様なAGC部52,53間のゲインのばらつきを補正する場合には、従来の方法として、当該ばらつきを補正するための補正係数をゲインに応じて予め演算し、当該演算された補正係数をテーブルとして保存するという方法が考えられる。しかしながら、図10に示した様に、AGC部52,53におけるゲインは時間と共に変わる。このため、各ゲインに応じた補正係数を予め算出するという方法は、現実的に非常に煩雑である。更に、AGC部52,53のゲインは、周囲の温度の影響を受け易いことが知られている。このため、予めテーブルに保存された補正係数がゲインの値に応じて常に適正な値になるとは限らない。
【0024】
本発明は、上述従来の事情に鑑みてなされたもので、ターゲットにより反射された反射波の信号の直交検波後のI信号とQ信号との間に生じる位相ずれ量をリアルタイム且つ適正に補正し、ターゲットの到来角度の推定精度の劣化を抑制するレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、上述したレーダ装置であって、所定の送信周期で高周波送信信号を送信アンテナから送信し、ターゲットに反射された反射波の信号を受信アンテナで受信するレーダ装置であって、所定の符号長の符号系列を分割したサブ符号長を有する第1、第2サブ符号系列と、第1、第2サブ符号系列にそれぞれ2種類の異なる係数を乗じた第3、第4、第5、第6サブ符号系列とのうち、第1送信周期では、第3サブ符号系列と第4サブ符号系列とを連結した符号を変調した第1の送信信号を生成し、第2送信周期では、第5サブ符号系列と第6サブ符号系列とを連結した符号を変調した第2の送信信号を生成する送信信号生成部と、送信信号生成部により生成された第1及び第2の送信信号を高周波送信信号に変換し、送信アンテナから送信する送信RF部とを備える。
【発明の効果】
【0026】
本発明のレーダ装置によれば、ターゲットにより反射された反射波の信号の直交検波後のI信号とQ信号との間に生じる位相ずれ量をリアルタイム且つ適正に補正し、ターゲットの到来角度の推定精度の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1の実施形態のレーダ装置の内部構成を示すブロック図
【図2】所定のパルス符号長を分割したサブ符号長を有するサブ符号系列からなる相補符号系列の生成手順を示した説明図
【図3】第1の実施形態のレーダ装置の動作に関するタイミングチャート、(a)送信区間と非送信区間とからなる送信周期の説明図、(b)測定区間の説明図、(c)送信周期ごとに相補符号系列を逐次的に切り替えて送信する様子と離散時刻との関係を説明する説明図
【図4】レーダ受信部のAGC部の動作に関するタイミングチャート、(a)送信周期ごとに相補符号系列を逐次的に切り替えて送信する様子を説明する説明図、(b)測定区間の説明図、(c)非送信区間の開始タイミングからの経過時間に応じてAGC部のゲインが変化する様子を示した説明図
【図5】複素相関値演算部及びIQ補正部の構成を示す説明図
【図6】複素相関値演算部及びIQ補正部の動作を説明するフローチャート
【図7】送信信号生成部の他の内部構成を示すブロック図、(a)送信信号生成部の変形例の内部構成を示すブロック図、(b)送信信号生成部の他の変形例の内部構成を示すブロック図
【図8】第1の実施形態の変形例におけるレーダ受信部の内部構成を示すブロック図
【図9】従来の相補符号の性質を説明する説明図、(a)一方の相補符号系列の自己相関演算結果を示す説明図、(b)他方の相補符号系列の自己相関演算結果を示す説明図、(c)2つの相補符号系列の自己相関演算結果の加算値を示す説明図
【図10】従来のレーダ装置において反射波の信号を増幅する動作を説明する説明図、(a)送信信号の送信区間と受信信号の測定区間とを示す説明図、(b)受信信号の測定区間内にAGC部で増幅するゲインの変化を示す説明図
【図11】従来のレーダ装置におけるレーダ受信部の内部構成を示すブロック図
【図12】従来のレーダ装置におけるAGC部のゲインのばらつきによる影響を説明する説明図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。また、以下の実施形態におけるレーダ装置は、送信信号の一例として、相補符号系列を用いてパルス変調したサブ符号系列からなる信号を用いて説明する。また、以下の説明において、レーダ装置により受信される受信信号には、レーダ装置からの高周波送信信号がターゲットに反射された反射波の信号と、当該レーダ装置の周囲のノイズ信号とが含まれる。
【0029】
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態のレーダ装置1の構成及び動作について図1〜図5を参照して説明する。図1は、第1の実施形態のレーダ装置1の内部構成を示すブロック図である。図2は、所定のパルス符号長Lを分割したサブ符号長を有するサブ符号系列からなる相補符号系列の生成手順を示した説明図である。
【0030】
図3は、レーダ装置1の動作に関するタイミングチャートである。同図(a)は、送信区間と非送信区間とからなる送信周期の説明図である。同図(b)は、測定区間の説明図である。同図(c)は、送信周期ごとに相補符号系列を逐次的に切り替えて送信する様子と離散時刻との関係を説明する説明図である。
【0031】
図4は、レーダ受信部3のAGC部19,20の動作に関するタイミングチャートである。同図(a)は、送信周期ごとに相補符号系列を逐次的に切り替えて送信する様子を説明する説明図である。同図(b)は、測定区間の説明図である。同図(c)は、非送信区間の開始タイミングからの経過時間に応じてAGC部19,20のゲインが変化する様子を示した説明図である。また、図5は、複素相関値演算部25とIQ補正部26の構成及び動作を説明する説明図である。
【0032】
レーダ装置1は、図1に示す様に、局部発振器Loと、送信アンテナANT0が接続されたレーダ送信部2と、受信アンテナANT1が接続されたレーダ受信部3と、受信アンテナANT2が接続されたレーダ受信部3aとを備える。第1の実施形態のレーダ装置1は、レーダ送信部2により生成された所定の間欠的な高周波送信信号を送信アンテナANT0から送信し、ターゲットに反射された反射波の信号をレーダ受信部3及びレーダ受信部3aで受信する。レーダ装置1は、各レーダ受信部3,3aで受信した受信信号からターゲットを検出する。なお、ターゲットはレーダ装置1が検出する対象の物体であり、例えば自動車又は人等であり、以下の各実施形態においても同様である。
【0033】
先ず、レーダ送信部2について説明する。レーダ送信部2は、送信信号生成部4と、送信RF部12とを備える。送信信号生成部4は、サブ符号単位相補符号生成部5と、複素係数乗算部6と、第1符号生成部7と、第2符号生成部8と、符号切換部9と、変調部10と、LPF(Low Pass Filter)11とを備える。図1では、送信信号生成部4は、LPF11を含む様に構成されているが、LPF11は送信信号生成部4と独立して構成されても良い。送信RF部12は、周波数変換部13と、増幅器14とを備える。
【0034】
送信信号生成部4は、局部発振器Loにより生成されたリファレンス信号に基づいて、当該リファレンス信号を所定倍に逓倍したタイミングクロックを生成する。送信信号生成部4の各部は、当該生成されたタイミングクロックに基づいて動作する。送信信号生成部4は、L[個]の要素(1)と要素(−1)とを有するパルス符号長Lからなる相補符号系列を2つに分割し、当該分割された各サブ符号系列を変調してベースバンド帯域の送信信号r(n)を周期的に生成する。パラメータnは離散時刻を表す。
【0035】
また、送信信号生成部4により生成される送信信号は、連続的な信号ではないものとする。例えば、図3(a)に示す様に、送信アンテナANT0から送信される高周波送信信号が存在する区間Tw[秒]では、ベースバンド帯域の送信信号r(n)としてNr[個]のサンプルが存在する。一方、当該高周波送信信号が存在しない区間(Tr−Tw)[秒]においては、ベースバンド帯域の送信信号r(n)としてNu[個]のサンプルが存在するものとする。ここで、パラメータTrは、送信アンテナANT0から送信される高周波送信信号の送信周期[秒]である。
【0036】
サブ符号単位相補符号生成部5は、パルス符号長Lを有する相補符号系列(a,b)を構成する各サブ符号系列(c,d)を生成し、更に、当該各サブ符号系列(c,d)に基づいて相補符号系列(a,b)を生成する。なお、各サブ符号系列(c,d)の符号長は、相補符号系列(a,b)のパルス符号長LをN分割したL/Nで表される。以下、各サブ符号系列の符号長を、単に「サブ符号長」という。以下の説明では、分割数N=2とした場合の動作を説明する。
【0037】
サブ符号単位相補符号生成部5は、例えば図2に示す様な手順でサブ符号系列(c,d)及び相補符号系列(a,b)を生成する。即ち、図2に示す様に、サブ符号単位相補符号生成部5は、要素(1)又は要素(−1)からなるサブ符号系列(c,d)を生成し、更に、パルス符号長L=2の符号長の相補符号系列(a,b)を生成する。ここで、一方の相補符号系列(a)は、サブ符号系列(c)とサブ符号系列(d)とが連結されたものである。他方の相補符号系列(b)は、サブ符号系列(c)とサブ符号系列(−d)とが連結されたものである。
【0038】
なお、(a、b)はそれぞれ相補符号系列を表し、(c、d)はそれぞれ相補符号系列を構成するサブ符号系列を表す。また、パラメータ(p)は、サブ符号単位相補符号生成部5により生成される相補符号系列(a,b)の符号長Lを定める。サブ符号単位相補符号生成部5は、当該生成されたサブ符号系列(c,d)を、複素係数乗算部6と、第1符号生成部7と、第2符号生成部8とにそれぞれ出力する。
【0039】
複素係数乗算部6は、サブ符号単位相補符号生成部5により出力されたサブ符号系列(c,d)を入力し、当該入力されたサブ符号系列(c,d)に対して複素係数jをそれぞれ乗算した複素サブ符号系列(jc,jd)を生成する。複素係数乗算部6は、当該生成された複素サブ符号系列(jc,jd)を、それぞれ第1符号生成部7と、第2符号生成部8とにそれぞれ出力する。
【0040】
第1符号生成部7は、サブ符号単位相補符号生成部5により出力されたサブ符号系列(c,d)と、複素係数乗算部6により出力された複素サブ符号系列(jc,jd)とを入力する。第1符号生成部7は、当該入力された各サブ符号系列及び複素サブ符号系列(c,d,jc,jd)のうち、サブ符号系列(c)と複素サブ符号系列(jd)とを連結することにより、符号系列[c、jd]を生成する。第1符号生成部7は、当該生成された符号系列[c、jd]を符号切換部9に出力する。以下の説明において、第1符号生成部7により生成された符号系列を、「Code#1」と記載する。
【0041】
第2符号生成部8は、サブ符号単位相補符号生成部5により出力されたサブ符号系列(c,d)と、複素係数乗算部6により出力された複素サブ符号系列(jc,jd)とを入力する。第2符号生成部8は、当該入力された各サブ符号系列及び複素サブ符号系列(c,d,jc,jd)のうち、サブ符号系列(d)と複素サブ符号系列(jc)とを連結することにより、符号系列[jc、d]を生成する。第2符号生成部8は、当該生成された符号系列[jc、d]を符号切換部9に出力する。以下の説明において、第2符号生成部8により生成された符号系列を、「Code#2」と記載する。
【0042】
符号切換部9は、第1符号生成部7により生成された符号系列Code#1と、第2符号生成部8により生成された符号系列Code#2とを入力する。符号切換部9は、当該入力された符号系列Code#1及び符号系列Code#2を、図3(c)に示す様に、送信周期Trごとに逐次的に切り換えて変調部10に出力する。具体的には、図3(c)の最初の送信周期Trの送信区間では、符号切換部9は、符号系列Code#1を変調部10に出力する。その次の送信周期Trの送信区間では、符号切換部9は、符号系列Code#2を変調部10に出力する。その次以降の送信周期の送信区間においても同様に、符号切換部9は、同様に符号系列Code#1と符号系列Code#2とを逐次的に切り換えて変調部10に出力する。
【0043】
変調部10は、符号切換部9により出力された符号系列Code#1又は符号系列Code#2を入力する。変調部10は、当該入力された符号系列Code#1又は符号系列Code#2に対し、各符号系列あたりNr/Lのサンプルを用いたパルス変調を行うことにより送信信号を生成する。また、変調部10は、当該入力された符号系列Code#1又は符号系列Code#2に対して、図7(b)を参照して後述する様な位相変調を行うことにより送信信号を生成しても良い。詳細は後述する。変調部10は、LPF11を介して、当該生成された送信信号のうち予め設定された制限帯域以下の送信信号r(n)のみを送信RF部12に出力する。
【0044】
送信RF部12は、局部発振器Loにより生成されたリファレンス信号に基づいて、当該リファレンス信号を所定倍数に逓倍したタイミングクロックを生成する。送信RF部12は、当該生成されたリファレンス信号に基づいて動作する。具体的には、周波数変換部13は、送信信号生成部4により生成された送信信号r(n)を入力し、当該入力されたベースバンド帯域の送信信号r(n)を周波数変換してキャリア周波数帯域の高周波送信信号を生成する。周波数変換部13は、当該生成された高周波送信信号を増幅器14に出力する。
【0045】
増幅器14は、当該出力された高周波送信信号を入力し、当該入力された高周波送信信号のレベルを所定のレベルに増幅して送信アンテナANT0に出力する。この増幅された高周波送信信号は、送信アンテナANT0を介して空間に放射する様に送信される。
【0046】
送信アンテナANT0は、送信RF部12により出力された高周波送信信号を空間に放射する様に送信する。図3(a)に示す様に、高周波送信信号は、送信周期Trのうち送信区間Twの間において送信され、非送信区間(Tr−Tw)の間においては送信されない。
【0047】
次に、レーダ受信部3,3aについて説明する。レーダ受信部3は、受信アンテナANT1と、受信RF部15と、AGC部19と、AGC部20と、信号処理部21とを備える。レーダ受信部3aは、受信アンテナANT1の代わりに、当該受信アンテナANT1と異なる他の受信アンテナANT2を備えることを除けば、レーダ受信部3と同様の構成を備える。従って、以下のレーダ受信部3,3aの説明においては、レーダ受信部3についてのみ説明する。但し、レーダ受信部3aはレーダ受信部3と同様の動作を行う。
【0048】
受信RF部15は、増幅器16と、周波数変換部17と、直交検波部18とを備える。信号処理部21は、A/D変換部22と、A/D変換部23と、基準送信信号生成部24と、複素相関値演算値25と、IQ補正部26と、平均化処理部27と、到来角度距離推定部28とを備える。
【0049】
受信アンテナANT1は、レーダ送信部2により送信された高周波送信信号がターゲットに反射された反射波の信号と、当該レーダ装置1の周囲のノイズ信号とを受信信号として受信する。なお、この反射波の信号は高周波帯域の信号である。受信アンテナANT1により受信された受信信号は、受信RF部15に入力される。図1に示す様に、第1の実施形態のレーダ装置1のレーダ受信部は2つとして説明するが、特にレーダ受信部の数は2つに限定されない。なお、レーダ装置1においては、レーダ受信部は1つの受信アンテナを保持する。
【0050】
受信アンテナANT1は、図3(b)に示す様に、高周波送信信号の送信周期Trのうち非送信区間(Tr−Tw)に相当する区間に、上述した受信信号を受信する。従って、この受信信号が受信される区間がレーダ装置1における測定区間とされる。
【0051】
受信RF部15は、局部発振器Loにより生成されたリファレンス信号に基づいて、当該リファレンス信号を所定倍に逓倍したタイミングクロックを生成する。受信RF部15は、当該生成されたタイミングクロックに基づいて動作する。具体的には、増幅器16は、受信アンテナANT1により受信された高周波帯域の受信信号を入力し、当該入力された高周波帯域の受信信号のレベルを所定のレベルに増幅して周波数変換部17に出力する。
【0052】
周波数変換部17は、当該増幅器16により出力された高周波帯域の受信信号を入力し、当該入力された高周波帯域の受信信号をベースバンド帯域に周波数変換し、当該周波数変換されたベースバンド帯域の受信信号を直交検波部18に出力する。
【0053】
直交検波部18は、周波数変換部17により出力されたベースバンド帯域の受信信号のうち一部の受信信号の位相成分を90[度]移相することにより、I信号及びQ信号からなるベースバンド帯域の受信信号を生成する。直交検波部18は、当該生成されたI信号をAGC部19に出力し、当該生成されたQ信号をAGC部20に出力する。
【0054】
AGC部19は、図4(c)に示す様に、直交検波部18により出力されたI信号を、同図(b)に示した測定区間(非送信区間)の開始タイミングからの経過時間に応じたゲインで増幅する。AGC部19のゲインは、図4(c)に示す様に、固定ではなく可変である。AGC部19は、当該増幅されたI信号をA/D変換部22に出力する。
【0055】
AGC部20は、図4(c)に示す様に、直交検波部18により出力されたQ信号を、同図(b)に示した測定区間(非送信区間)の開始タイミングからの経過時間に応じたゲインで増幅する。AGC部20のゲインは、図4(c)に示す様に、固定ではなく可変である。AGC部20は、当該増幅されたQ信号をA/D変換部23に出力する。
【0056】
A/D変換部22は、AGC部19により出力されたベースバンド帯域のI信号に対して離散時刻kにおけるサンプリングを行うことにより、当該I信号をデジタルデータに変換する。同様に、A/D変換部23は、AGC部20により出力されたベースバンド帯域のQ信号に対して離散時刻kにおけるサンプリングを行うことにより、当該Q信号をデジタルデータに変換する。ここで、パラメータkは、高周波送信信号に含まれるベースバンド帯域の送信信号r(n)のサンプル数に対応した離散時刻を表す。
【0057】
ここで、受信アンテナANT1の離散時刻kにおける受信信号は、当該受信信号の同相信号I(s、k)及び当該受信信号の直交信号Q(s、k)を用いて、数式(4)の複素信号として表される。パラメータjは、j=−1を満たす複素係数である。パラメータsは、第1の実施形態のレーダ装置1においては、受信アンテナANT1又は受信アンテナANT2を示すものであり、s=1又はs=2である。離散時刻kのAGC部19又はAGC部20のゲインを、g(k、I)又はg(k、Q)と表す。AGC部19,20の特性が理想的である場合には、k=1〜(Nr+Nu)の場合に、g(k、I)=g(k、Q)が成立する。しかし、AGC部19,20間でばらつきが生じる場合には、g(k、I)≠g(k、Q)となる。
【数4】

【0058】
なお、以下の説明において、離散時刻kは、k=1〜2(Nr+Nu)である。図3(c)に示す様に、離散時刻k=1は、高周波送信信号における符号系列Code#1の送信周期Trの開始タイミングを示す。また、離散時刻k=2(Nr+Nu)は、符号系列Code#2の送信周期Trの終了タイミングを示す。即ち、レーダ受信部3は、符号系列Code#1の高周波送信信号の送信周期Trと符号系列Code#2の高周波送信信号の送信周期Trとからの2倍の送信周期(2Tr)の区間を、信号処理部21における信号処理区間として周期的に演算する。
【0059】
また、離散時刻kは、図3(c)に示す様に、符号系列Code#1の高周波送信信号の送信開始タイミングのときにk=1であり、符号系列Code#1の高周波送信信号の送信終了タイミングのときにk=Nrである。同様に、離散時刻kは、符号系列Code#2の高周波送信信号の送信開始タイミングのときにk=(Nr+Nu)であり、符号系列Code#2の高周波送信信号の送信終了タイミングのときにk=(2Nr+Nu)である。更に、離散時刻kは、符号系列Code#2の高周波送信周期Trの終了タイミングのときにk=2(Nr+Nu)である。離散時刻kは、符号系列Code#1の高周波送信信号の送信開始タイミングから符号系列Code#2の高周波送信信号の送信終了タイミングまでの範囲が繰り返して設定される。
【0060】
基準送信信号生成部24は、送信信号生成部4の動作と同期して、当該送信信号生成部4と同様に局部発振器Loにより生成されたリファレンス信号に基づいて、当該リファレンス信号を所定倍に逓倍したタイミングクロックを生成する。基準送信信号生成部24は、当該生成されたリファレンス信号に基づいて、送信信号生成部4により生成された送信信号と同一のベースバンド帯域の基準送信信号r(n)を周期的に生成する。基準送信信号生成部24は、当該生成された基準送信信号r(n)を複素相関値演算部25に出力する。
【0061】
なお、レーダ送信部2の送信信号生成部4により生成される送信信号及び基準送信信号生成部24により生成される基準送信信号は、I信号Ir(k)及びQ信号Qr(k)からなるベースバンド帯域の信号r(n)として、数式(5)の様に表すことができる。なお、パラメータg(k)は、離散時刻kのAGC部19,20のゲインを表す。
【数5】

【0062】
複素相関値演算部25及びIQ補正部26の動作について、図5及び図6を参照して説明する。図6は、離散時刻k=1〜2(Nr+Nu)における複素相関値演算部25及びIQ補正部26の動作を説明するフローチャートである。図6のステップS11からステップS15までは複素相関値演算部25の動作であり、同図のステップS16からステップS18までの動作はIQ補正部26の動作である。
【0063】
複素相関値演算部25は、図5に示す様に、複数のシフトレジスタR1〜R8と、第1のサブ符号単位相関値演算部FRと、第2のサブ符号単位相関値演算部SRと、バッファB1,B2とを有する。IQ補正部26は、バッファB3,B4と、補正係数演算部ACCと、補正後相関値演算部M1,M2と、相補符号系列相関値演算部CCとを有する。
【0064】
図6において、各シフトレジスタR1〜R8は、A/D変換部22,23により変換された複素信号x(s、k)をそれぞれ入力する(S11)。なお、図5は、符号長L=8の場合の複素相関値演算部25の構成を示す。各シフトレジスタR1〜R8は、後述する数式(6)及び(7)におけるパラメータmをずらすことに対応して、複素信号x(s、k)を入力する。パラメータmは、相関値の演算におけるシフト時間を表す。また、第1サブ符号単位相関値演算部FR及び第2サブ符号単位相関値演算部SRは、基準送信信号生成部24により出力された基準送信信号r(n)をそれぞれ入力する(S12)。
【0065】
ここで、AGC部19,20の特性が理想的である場合には、離散時刻k=1〜2(Nr+Nu)において、g(k)=g(k、I)=g(k、Q)となる。この場合には、第1サブ符号単位相関値演算部FRは、ステップS11で入力された複素信号x(s、k)とステップS12で入力された基準送信信号r(n)の複素共役値との相関値を、数式(6)に示す様に演算する(S13)。また、第2サブ符号単位相関値演算部SRは、ステップS11で入力された複素信号x(s、k)とステップS12で入力された基準送信信号r(n)の複素共役値との相関値を、数式(7)に示す様に演算する(S13)。
【0066】
この数式(6)の演算の際、離散時刻k=1〜(Nr+Nu)の区間は、図3に示す様に符号系列Code#1の高周波送信信号の送信周期に相当する。また、数式(7)の演算の際、離散時刻k=(Nr+Nu+1)〜2(Nr+Nu)の区間は、図3に示す様に符号系列Code#2の高周波送信信号の送信周期に相当する。従って、第1サブ符号単位相関値演算部FR及び第2サブ符号単位相関値演算部SRは、それぞれステップS12において、離散時刻kの範囲に応じて、基準送信信号生成部24により出力された基準送信信号r(n)を切り換えて入力する。
【0067】
具体的には、第1サブ符号単位相関値演算部FRは、離散時刻k=1〜(Nr+Nu)の区間では、基準送信信号r(n)として、符号系列Code#1の高周波送信信号と同一の基準送信信号を入力する(S12)。また、第2サブ符号単位相関値演算部SRは、離散時刻k=(Nr+Nu+1)〜2(Nr+Nu)の区間では、基準送信信号r(n)として、符号系列Code#2の高周波送信信号と同一の基準送信信号を入力する(S12)。
【数6】

【数7】

【0068】
ここで、数式(6)におけるパラメータrCode#1(m)は、離散時刻k=1〜(Nr+Nu)の区間における符号系列Code#1の高周波送信信号と同一の基準送信信号を表す。また、同様に、数式(7)におけるパラメータrCode#2(m)は、離散時刻k=(Nr+Nu+1)〜2(Nr+Nu)の区間における符号系列Code#2の高周波送信信号と同一の基準送信信号を表す。また、アスタリスク(*)は、複素共役演算子を表す。
【0069】
一方、AGC部19,20間でばらつきが生じる場合には、パラメータg(k)≠g(k、I)≠g(k、Q)となる。この場合には、第1サブ符号単位相関値演算部FRは、サブ符号長L/N(図5の場合にはL/N=4)からなるサブ符号系列に対し、ステップS11で入力された複素信号x(s、k)とステップS12で入力された基準送信信号r(n)のサブ符号系列とのサブ符号系列相関値を演算する(S13)。また、第2のサブ符号単位相関値演算部SRは、サブ符号長L/Nからなる複素サブ符号系列に対し、ステップS11で入力された複素信号x(s、k)とステップS12で入力された基準送信信号r(n)の複素サブ符号系列との複素サブ符号系列相関値を演算する(S13)。
【0070】
具体的には、第1サブ符号単位相関値演算部FRは、離散時刻k=1〜(Nr+Nu)では、ステップS11で入力された複素信号x(s、k)とステップS12で入力された基準送信信号r(n)のサブ符号系列(c)とのサブ符号系列相関値を、数式(8)に従って演算する(S13)。また、第2サブ符号単位相関値演算部SRは、同様の離散時刻k=1〜(Nr+Nu)では、ステップS11で入力された複素信号x(s、k)とステップS12で入力された基準送信信号r(n)の複素サブ符号系列(jd)との複素サブ符号系列相関値を、数式(9)に従って演算する(S13)。
【0071】
第1サブ符号単位相関値演算部FRは、ステップS13で演算された各サブ符号系列相関値を、当該複素相関値演算部25内のバッファB1に一時的に格納し(S14)、IQ補正部26のバッファB3に出力する(S15)。更に、第2サブ符号単位相関値演算部SRは、ステップS13で演算された各複素サブ符号系列相関値を、当該複素相関値演算部25内のバッファB2に一時的に格納し(S14)、IQ補正部26のバッファB4に出力する(S15)。
【数8】

【数9】

【0072】
また、第1サブ符号単位相関値演算部FRは、離散時刻k=(Nr+Nu+1)〜2(Nr+Nu)では、ステップS11で入力された複素信号x(s、k)とステップS12で入力された基準送信信号r(n)の複素サブ符号系列(jc)との複素サブ符号系列相関値を、数式(10)に従って演算する(S13)。また、第2サブ符号単位相関値演算部SRは、同様の離散時刻k=(Nr+Nu+1)〜2(Nr+Nu)では、ステップS11で入力された複素信号x(s、k)とステップS12で入力された基準送信信号r(n)のサブ符号系列(d)とのサブ符号系列相関値を、数式(11)に従って演算する(S13)。
【0073】
第1サブ符号単位相関値演算部FRは、ステップS13で演算された各複素サブ符号系列相関値を、当該複素相関値演算部25内のバッファB1に一時的に格納し(S14)、IQ補正部26のバッファB3に出力する(S15)。更に、第2サブ符号単位相関値演算部SRは、ステップS13で演算された各サブ符号系列相関値を、当該複素相関値演算部25内のバッファB2に一時的に格納し(S14)、IQ補正部26のバッファB4に出力する(S15)。
【数10】

【数11】

【0074】
図6において、補正係数演算部ACCは、複素相関値演算部25により演算された各サブ符号系列相関値、各複素サブ符号系列相関値に基づいて、AGC部19,20の各ゲインを等しくするための補正係数を演算する(S16)。具体的には、補正係数演算部ACCは、離散時刻k=1〜(Nr+Nu)では、数式(8)及び数式(9)に従って演算された各サブ符号系列相関値、各複素サブ符号系列相関値に基づいて、数式(12)が成立するときの数式(8)又は数式(9)に係る係数を、第1補正係数H(s、k)(但し、k=1〜(Nr+Nu))として演算する(S16)。
【0075】
具体的には、第1補正係数H(s、k)は、送信信号に複素サブ符号系列を用いた場合の複素サブ符号系列相関値AC_sub(s、k+(Nr/N))と、送信信号にサブ符号系列を用いた場合のサブ符号系列相関値AC_sub(s、k)との各振幅レベル(振幅スケール)を等しくする場合の係数として演算される。この演算された第1補正係数H(s、k)は、AC_sub(s、k+(Nr/N))あるいはAC_sub(s、k)に対して乗算される。
【0076】
たとえば、送信信号に符号系列Code#1を用いた場合の相関値を演算する場合、補正係数演算部ACCは、第1補正係数H(s、k)=|AC_sub(s、k+(Nr/N)|/|AC_sub(s、k)|の比率を算出する。更に、補正後相関値演算部M2は、AC_sub(s、k+(Nr/N))に当該演算された第1補正係数H(s、k)を乗算し、数式(13)のように加算処理を行う。
【0077】
即ち、数式(12)は、離散時刻k=1〜(Nr+Nu)の場合、送信信号にサブ符号系列(c)を用いたときのサブ符号系列相関値と、送信信号に複素サブ符号系列(jd)を用いたときの複素サブ符号系列相関値との各振幅レベルが等しい場合、AGC部19,20のゲインが等しくなることを示す。即ち、数式(12)が成立する場合には、AGC部19,20のゲインにばらつきが生じないことになる。
【0078】
これにより、補正係数演算部ACCは、離散時刻k=1〜(Nr+Nu)の場合に、AGC部19,20間のばらつきにより、I信号とQ信号の振幅のスケールがずれることで生じるI信号とQ信号との間の位相ずれ量を、適正に補正するための補正係数H(s、k)を演算することができる。これにより、最終的には、レーダの測定性能を向上することができる(特に測角精度が向上する)。
【数12】

【0079】
補正後相関値演算部M2は、離散時刻k=1〜(Nr+Nu)の場合に、ステップS16により演算された第1補正係数H(s、k)と、AC_sub(s、k+(Nr/N))又はAC_sub(s、k)とを乗算する(S17)。ここでは、例えば、複素サブ符号系列相関値AC_sub(s、k+(Nr/N))と、補正係数H(s、k)とが乗算されるとする。更に、相補符号系列相関値演算部CCは、ステップS17により乗算された補正後相関値演算結果と、数式(8)に従って演算されたサブ符号系列相関値とを、数式(13)に従って加算する(S18)。この数式(13)に従って演算された相関値は、符号系列Code#1の相補符号系列の相関値を表す。
【数13】

【0080】
複素相関値演算部25及びIQ補正部26の演算は、各受信アンテナで、離散時刻k=1〜(Nr+Nu)に対して行われる。但し、レーダ装置1の測定対象となるターゲットの存在範囲が当該レーダ装置1から近距離にいるものであるという前提の下で、離散時刻kの範囲を更に限定しても良い。これにより、レーダ装置1は、複素相関値演算部25及びIQ補正部26による演算量を低減することができる。即ち、レーダ装置1は、信号処理部21による消費電力量を低減することができる。
【0081】
また、補正係数演算部ACCは、離散時刻k=(Nr+Nu+1)〜2(Nr+Nu)では、数式(10)及び数式(11)に従って演算された各サブ符号系列相関値、各複素サブ符号系列相関値に基づいて、数式(14)が成立するときの数式(10)又は数式(11)に係る係数を、第2補正係数H(s、k)(但し、k=(Nr+Nu+1)〜2(Nr+Nu))として演算する(S16)。
【0082】
具体的には、第2補正係数H(s、k)は、送信信号にサブ符号系列を用いた場合のサブ符号系列相関値AC_sub(s、k+(Nr/N))と送信信号に複素サブ符号系列を用いた場合の複素サブ符号系列相関値AC_sub(s、k)との各振幅レベル(振幅スケール)を等しくする場合の係数として演算される。この演算された第2補正係数H(s、k)は、AC_sub(s、k+(Nr/N))あるいはAC_sub(s、k)に対して乗算される。
【0083】
たとえば、送信信号に符号系列Code#2を用いた場合の相関値を演算する場合、補正係数演算部ACCは、第2補正係数H(s、k)=|AC_sub(s、k+(Nr/N))|/|AC_sub(s、k)|の比率を算出する。更に、補正後相関値演算部M1は、AC_sub(s、k+(Nr/N))に当該演算された第2補正係数H(s、k)を乗算し、数式(14)のように加算処理を行う。
【0084】
即ち、数式(14)は、離散時刻k=(Nr+Nu+1)〜2(Nr+Nu)の場合、送信信号に複素サブ符号系列(jc)を用いたときの複素サブ符号系列相関値と、送信信号にサブ符号系列(d)を用いたときのサブ符号系列相関値との各振幅レベルが等しい場合、AGC部19,20のゲインが等しくなることを示す。即ち、数式(14)が成立する場合には、AGC部19,20のゲインにばらつきが生じないことになる。
【0085】
これにより、補正係数演算部ACCは、離散時刻k=(Nr+Nu+1)〜2(Nr+Nu)の場合に、AGC部19,20間のばらつきにより生じたI信号とQ信号との間の位相ずれ量を適正に補正するための補正係数H(s、k)を演算することができる。これにより、最終的には、レーダの測定性能を向上することができる(特に測角精度が向上する)。
【数14】

【0086】
補正後相関値演算部M1は、離散時刻k=(Nr+Nu+1)〜2(Nr+Nu)の場合に、ステップS16により演算された第2補正係数H(s、k)と、AC_sub(s、k+(Nr/N))又はAC_sub(s、k)とを乗算する(S17)。ここでは、例えば、サブ符号系列相関値AC_sub(s、k+(Nr/N))と、補正係数H(s、k)とが乗算されるとする。更に、相補符号系列相関値演算部CCは、ステップS17により乗算された補正後相関値演算結果と、数式(10)に従って演算された複素サブ符号系列相関値とを、数式(15)に従って加算する(S18)。この数式(15)に従って演算された相関値は、符号系列Code#2の相補符号系列の相関値を表す。
【数15】

【0087】
複素相関値演算部25及びIQ補正部26の演算は、各受信アンテナで、離散時刻k=(Nr+Nu+1)〜2(Nr+Nu)に対して行われる。但し、レーダ装置1の測定対象となるターゲットの存在範囲が当該レーダ装置1から近距離にいるものであるという前提の下で、離散時刻kの範囲を更に限定しても良い。これにより、レーダ装置1は、複素相関値演算部25及びIQ補正部26による演算量を低減することができる。即ち、レーダ装置1は、信号処理部21による消費電力量を低減することができる。
【0088】
平均化処理部27は、数式(13)に従って演算された符号系列Code#1の相補符号系列の相関値と、数式(15)に従って演算された符号系列Code#2の相補符号系列の相関値とを加算する。但し、符号系列Code#2の相補符号系列の相関値の演算における離散時刻kは、符号系列Code#1の相補符号系列の相関値の演算における離散時刻kと比べて、送信周期Trの1周期分遅れている。
【0089】
平均化処理部27は、各符号系列の相補符号系列の相関値の演算における離散時刻kの相違を考慮して、符号系列Code#2の相補符号系列の相関値の演算における離散時刻kを送信周期Trの分だけ時間的にシフトした数式(16)の様な演算を行う。数式(16)に表される相関値は、送信信号生成部4により生成された相補符号系列(符号系列Code#1、符号系列Code#2)と受信アンテナANTsにより受信された受信信号との相関値である。ここで、離散時刻kは、k=1〜(Nr+Nu)である。レーダ装置1は、平均化処理部27による数式(16)の演算によれば、上述した数式(1)及び図8に示した様に、レンジサイドローブが低く抑制された信号を得ることができる。
【数16】

【0090】
到来角度距離推定部28は、平均化処理部27により演算された相補符号系列(符号系列Code#1、符号系列Code#2)の相関値AC(s、k)+AC(s、k+Nr+Nu)に基づいて、ターゲットの到来角度及び当該ターゲットまでの距離の推定演算を行う。到来角度距離推定部25による到来角度の推定演算は、既に公知の技術であり、例えば下記参考非特許文献1を参照することにより実現することが可能である。更に、到来角度距離推定部28によるターゲットまでの距離の推定演算は、下記参考非特許文献2を参照することにより実現可能である。
【0091】
(参考非特許文献1)JAMES A. Cadzow、「Direction of Arrival Estimation Using Signal Subspace Modeling」、IEEE、Vol.28、pp.64−79(1992)
【0092】
(参考非特許文献2)J.J.BUSSGANG、et al.、「A Unified Analysis of Range Performance of CW, Pulse, and Pulse Dopper Radar」,Proceedings of the IRE,Vol.47,Issue 10,pp.1753−1762(1959)
【0093】
例えば、到来角度距離推定部28は、ターゲットの到来角度に関して、受信アンテナANT1における相補符号系列の加算された相関値に基づいて、当該受信アンテナにおける受信信号のレベルを算出する。この受信信号のレベルには、ターゲットの到来角度の位相成分が含まれる。到来角度距離推定部28は、この受信信号のレベルが最大値をとる場合における位相成分の角度を、当該ターゲットの到来角度として推定する。
【0094】
また、例えば、到来角度距離推定部28は、ターゲットとの距離に関して、受信アンテナANT1における相補符号系列の加算された相関値に基づいて、当該相関値が最大値をとるときの離散時刻と高周波送信信号の送信時間との時間差に基づいて、当該ターゲットの距離を推定する。
【0095】
以上により、第1の実施形態のレーダ装置1によれば、ターゲットにより反射された反射波の信号の直交検波後のI信号とQ信号との間に生じる位相ずれ量を適正に補正し、ターゲットの到来角度の推定精度の劣化を抑制することができる。
【0096】
また、レーダ装置1は、高周波送信信号に対して符号長L/Nでパルス圧縮を行っているため、ターゲットにより反射された反射波の信号におけるSNR(Signal Noise Ratio)の改善された相関値を得ることができる。このため、レーダ装置1は、I信号とQ信号との間の位相ずれ量を適正に補正する補正係数を高精度に演算することができ、ターゲットの到来角度の推定劣化を抑制することができる。
【0097】
更に、レーダ装置1によれば、相補符号系列(符号系列Code#1、符号系列Code#2)を用いたことにより、低レンジサイドローブ特性を保持することができる。これにより、レーダ装置1によるターゲットの到来角度及び距離の推定劣化を抑制することができる。
【0098】
更に、レーダ装置1によれば、温度等の外部環境により影響を受けて変動するAGC部19,20のゲインのばらつき等に応じた補正係数を、予め定められた測定期間リアルタイムで演算することができる。
【0099】
〔第1の実施形態の変形例1〕
第1の実施形態では、サブ符号系列(c,d,jc,jd)を用いて相補符号系列(a,b)を、a=[c,jd]及びb=[jc,d]として表した。但し、相補符号系列(a,b)の表し方は、この表し方に限定されない。例えば、サブ符号系列c及びdに対する係数(A,B,C,D)とした場合に相補符号系列(a,b)を、a=[Ac、Bd]及びb=[Cc、Dd]の様に表した場合、第1の実施形態では各係数(A,B,C,D)=(1、j、j、1)が成立する。この他、各係数として次の各々の係数を用いた場合にも、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0100】
具体的には、第1のパターンとして相補符号系列(a,b)を、a=[jc、−d]及びb=[−c、jd]として表す。この場合には、各係数(A,B,C,D)=(j,−1,−1,j)となる。
【0101】
次に第2のパターンとして相補符号系列(a,b)を、a=[−c、−jd]及びb=[−jc、−d]として表す。この場合には、各係数(A,B,C,D)=(−1,−j,−j,−1)となる。ここで、−jは、反転した複素系列となる。
【0102】
次に第3のパターンとして相補符号系列(a,b)を、a=[jc、d]及びb=[c、jd]として表す。この場合には、各係数(A,B,C,D)=(j,1,1,j)となる。
【0103】
次に第4のパターンとして相補符号系列(a,b)を、a=[−jc、−d]及びb=[−c、−jd]として表す。この場合には、各係数(A,B,C,D)=(−j,−1,−1,−j)となる。
【0104】
最後に第5のパターンとして相補符号系列(a,b)を、a=[−c、jd]及びb=[jc、−d]として表す。この場合には、各係数(A,B,C,D)=(−1,j,j,−1)となる。
【0105】
〔第1の実施形態の変形例2〕
第1の実施形態では、レーダ受信部3のAGC部19,20のゲインの間にばらつきが生じることにより、I信号とQ信号との間に位相ずれ量が生じるという問題をレーダ装置1の構成により解決する旨を説明した。しかし、レーダ受信部3がAGC部19,20を有する場合に限らず、当該レーダ受信部3がAGC部19,20を有さない様なダイレクトコンバージョン方式のレーダ装置の場合にも、直交検波後のI信号とQ信号との間に位相ずれ量が発生することが知られている。即ち、当該ダイレクトコンバージョン方式のレーダ装置の場合でも、受信RF部の直交検波部のハードウェア的な誤差要因により、当該直交検波後のI信号とQ信号との間に位相ずれ量が生じる。
【0106】
そこで、第1の実施形態の変形例2は、第1の実施形態のレーダ受信部3におけるAGC部19,20を有さないダイレクトコンバージョン方式のレーダ装置の構成を備える。即ち、第1の実施形態の変形例2のレーダ装置は、レーダ装置1のレーダ送信部2と同様のレーダ送信部を備え、レーダ装置1のレーダ受信部3からAGC部19,20を省き、他の構成は同一の構成を有する。
【0107】
第1の実施形態の変形例2のレーダ装置によれば、第1の実施形態のレーダ装置1の様にAGC19,20を有さない場合でも、受信RF部の直交検波部のハードウェア的な誤差要因に応じて生じるI信号とQ信号との間に生じる位相ずれ量を適正に補正することができる。
【0108】
〔第1の実施形態の変形例3〕
第1の実施形態では、レーダ装置1の送信信号生成部4の構成は図1に示したとおりである。しかし、本発明のレーダ装置のレーダ送信部は、第1の実施形態における送信信号生成部4に限定されない。
【0109】
そこで、第1の実施形態の変形例3では、レーダ装置のレーダ送信部は、第1の実施形態のレーダ装置1の送信信号生成部4の代わりに、図7(a)に示す送信信号生成部4a、又は図7(b)に示す送信信号生成部4bの構成を備える。なお、第1の実施形態の変形例3のレーダ装置におけるレーダ受信部は、第1の実施形態のレーダ装置1と同様である。このため、第1の実施形態の変形例3のレーダ装置におけるレーダ受信部の説明は省略する。
【0110】
図7は、送信信号生成部の他の内部構成を示すブロック図である。同図(a)は、送信信号生成部4の変形例である送信信号生成部4aの内部構成を示すブロック図である。同図(b)は、送信信号生成部4の他の変形例である送信信号生成部4bの内部構成を示すブロック図である。
【0111】
図7(a)に示す様に、送信信号生成部4aは、第1符号記憶部7aと、第2符号記憶部8aと、符号切換部9aと、変調部10aとを備える。第1符号記憶部7aは、第1の実施形態のレーダ装置1における第1符号生成部7により生成されたサブ符号系列を予め記憶している。同様に、第2符号記憶部8aは、第1の実施形態のレーダ装置1における第2符号生成部8により生成されたサブ符号系列を予め記憶している。
【0112】
符号切換部9aは、局部発振器Loにより生成されたリファレンス信号に基づいて、当該リファレンス信号を所定倍に逓倍したタイミングクロックを生成する。符号切換部9aは、当該生成されたタイミングクロックに基づいて、第1符号記憶部7a又は第2符号記憶部8aから当該記憶されているサブ符号系列を読み出す。符号切換部9aの読み出した後の動作及び変調部10aの動作は、第1の実施形態の送信信号生成部4における符号切換部9の動作及び変調部10の動作と同一であるため、当該同一の内容の説明は省略する。
【0113】
図7(b)に示す様に、送信信号生成部4bは、サブ符号単位相補符号生成部5bと、第1符号生成部7bと、第2符号生成部8bと、符号切換部9bとを備える。また、第1符号生成部7bは、変調部31bと、90度位相シフト変調部32bと、P/S変調部33bとを備える。同様に、第2符号生成部8bは、90度位相シフト変調部34bと、変調部35bと、P/S変換部36bとを備える。
【0114】
サブ符号単位相補符号生成部5bは、第1の実施形態のサブ符号単位相補符号生成部5と同様にサブ符号系列(c)を生成し、当該生成されたサブ符号系列(c)に対して例えばI軸(同相軸)で変調を行う変調部31bに出力する。また、サブ符号単位相補符号生成部5bは、第1の実施形態のサブ符号単位相補符号生成部5と同様にサブ符号系列(d)を生成し、当該生成されたサブ符号系列(d)に対して例えばQ軸(直交軸)で変調を行う90度位相シフト変調部32bに出力する。
【0115】
サブ符号単位相補符号生成部5bは、第1の実施形態のサブ符号単位相補符号生成部5と同様にサブ符号系列(c)を生成し、当該生成されたサブ符号系列(c)に対して例えばQ軸(同相軸)で変調を行う90度位相シフト変調部34bに出力する。また、サブ符号単位相補符号生成部5bは、第1の実施形態のサブ符号単位相補符号生成部5と同様にサブ符号系列(d)を生成し、当該生成されたサブ符号系列(d)に対して例えばI軸(同相軸)で変調を行う変調部35bに出力する。
【0116】
変調部31bは、サブ符号単位相補符号生成部5bにより生成されたサブ符号系列(c)を入力し、当該サブ符号系列(c)をI軸(同相軸)で変調し、当該変調された信号をP/S変換部33bに出力する。
【0117】
90度位相シフト変調部32bは、サブ符号単位相補符号生成部5bにより生成されたサブ符号系列(d)を入力し、当該サブ符号系列(d)をQ軸(直交軸)で変調し、当該変調された信号をP/S変換部33bに出力する。なお、この90度位相シフト変調部32bがサブ符号系列(d)に対してQ軸で変調するとは、第1の実施形態の送信信号生成部4の複素係数乗算部6により複素係数jが乗算されることに相当する。
【0118】
P/S変換部33bは、変調部31bにより出力された信号と、90度位相シフト変調部32bにより出力された信号とを入力する。P/S変調部33bは、変調部31bにより出力された信号を符号切換部9bに出力し、その後、90度位相シフト変調部32bにより出力された信号を符号切換部9bに出力する。なお、この動作は、第1の実施形態の第1符号生成部7における符号系列[c、jd]を符号切換部9に出力する動作と同一である。
【0119】
90度位相シフト変調部34bは、サブ符号単位相補符号生成部5bにより生成されたサブ符号系列(c)を入力し、当該サブ符号系列(c)をQ軸(直交軸)で変調し、当該変調された信号をP/S変換部36bに出力する。なお、この90度位相シフト変調部34bがサブ符号系列(c)に対してQ軸で変調するとは、第1の実施形態の送信信号生成部4の複素係数乗算部6により複素係数jが乗算されることに相当する。
【0120】
変調部35bは、サブ符号単位相補符号生成部5bにより生成されたサブ符号系列(d)を入力し、当該サブ符号系列(d)をI軸(同相軸)で変調し、当該変調された信号をP/S変換部36bに出力する。
【0121】
P/S変換部36bは、90度位相シフト変調部34bにより出力された信号と、変調部35bにより出力された信号とを入力する。P/S変調部36bは、90度位相シフト変調部34bにより出力された信号を符号切換部9bに出力し、その後、変調部35bにより出力された信号を符号切換部9bに出力する。なお、この動作は、第1の実施形態の第1符号生成部7における符号系列[jc、d]を符号切換部9に出力する動作と同一である。
【0122】
符号切換部9bは、第1符号生成部7bにより出力された信号、即ち、変調された符号系列Code#1と、第2符号生成部8bにより出力された信号、即ち、変調された符号系列Code#2とを、図3(c)に示す様に、送信周期Trごとに逐次的に切り換えて変調部10に出力する。
【0123】
以上により、第1の実施形態の変形例3のレーダ装置によれば、第1の実施形態の送信信号生成部4の代替的構成を有することができる。特に、第1の実施形態の変形例のレーダ装置の送信信号生成部4aにおいては、当該送信信号生成部4bの構成を簡易化することができる。
【0124】
〔第1の実施形態の変形例4〕
第1の実施形態では、信号処理部21のIQ補正部26により、AGC部19,20間のゲインのばらつきにより生じたI信号とQ信号との間の位相ずれ量を適正に補正することにより、ターゲットの到来角度の推定精度の劣化を抑制する旨を説明した。
【0125】
第1の実施形態の変形例4では、第1の実施形態の平均化処理部27により加算された上述した数式(16)に示す相関値に基づいて、ターゲットの移動に伴う位相回転量を測定し、ドップラ周波数の推定を行う。
【0126】
図8は、第1の実施形態の変形例4におけるレーダ受信部3bの内部構成を示すブロック図である。図8に示す様に、レーダ受信部3bは、受信アンテナANT1と、受信RF部15と、AGC部19と、AGC部20と、信号処理部21bとを備える。信号処理部21bは、A/D変換部22と、A/D変換部23と、基準送信信号生成部24と、複素相関値演算部25と、IQ補正部26と、平均化処理部27と、位相回転量測定部29と、ドップラ周波数推定部30とを備える。レーダ受信部3bの信号処理部21のうち位相回転量測定部29及びドップラ周波数推定部30を除く他の構成は、第1の実施形態のレーダ装置1と同一であるため当該同一箇所の説明は省略する。
【0127】
位相回転量測定部29は、平均化処理部27により演算された相補符号系列の相関値を基準の相関値として、複数回の送信期間NTxにわたる各送信周期における相補符号系列の相関値に基づいて、位相回転量Δθ(k)を測定する。位相回転量測定部29は、当該測定された位相回転量Δθ(k)をドップラ周波数推定部30に出力する。
【0128】
ドップラ周波数推定部30は、位相回転量測定部29により出力された位相回転量Δθ(k)に基づいて、ターゲットの移動に伴う位相回転量、即ちドップラ周波数f(k)を、数式(17)に従って演算する。パラメータNTxは、平均化処理部27により加算された相補符号系列の相関値の観測時間[秒]である。
【数17】

【0129】
これにより、第1の実施形態の変形例4のレーダ装置によれば、平均化処理部27により演算された相補符号系列の相関値に基づいて、ターゲットの移動に伴う位相回転量及びドップラ周波数の推定を高精度に行うことができる。
【0130】
以上、添付図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本発明のレーダ装置はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0131】
上述した第1の実施形態で、平均化処理部27は、高周波送信信号の送信周期Trの2倍の送信周期分における相関値の加算結果を1つの単位として、低レンジサイドローブ特性を得ることができる旨を説明した。しかし、平均化処理部27は、当該2倍の送信周期分における相関値の加算結果を更に複数回の送信周期にわたってそれぞれ演算し、当該演算された2倍の送信周期における相関値の加算結果を平均化しても良い。これにより、レーダ装置は、ノイズ信号が更に抑制された受信信号を得ることができる。即ち、ターゲットの到来角度の推定及び距離の推定のための演算を高精度に行うことができる。
【0132】
なお、第1の実施形態において、A/D変換部22,23は、AGC部19,20で増幅されたベースバンド帯域のI信号及びQ信号に対して、離散時刻kに応じたオーバーサンプリングでデジタルデータに変換する。しかし、レーダ受信部3,3aにおいては、レーダ送信部2におけるベースバンド帯域の送信信号と同一のサンプリングレートでA/D変換を行う必要はない。
【0133】
例えば、第1の実施形態のレーダ送信部2では、符号長Lに対してNrのサンプル数を用いて、ベースバンド帯域の送信信号を生成した。これは、1つの符号あたりNr/Lサンプルのオーバーサンプリングに相当する。しかしながら、レーダ受信部3,3aにおいては、1つの符号あたり1倍のサンプル以上であれば、受信信号の信号処理は可能である。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明に係るレーダ装置は、ターゲットにより反射された信号の直交検波後のI信号とQ信号との間に生じる位相ずれ量を適正に補正し、ターゲットの到来角度の推定精度の劣化を抑制するレーダ装置として有用である。
【符号の説明】
【0135】
1 レーダ装置
2 レーダ送信部
3、3a レーダ受信部
4、4a、4b 送信信号生成部
5、5b サブ符号単位相補符号生成部
6 複素係数乗算部
7、7b 第1符号生成部
8、8b 第2符号生成部
7a 第1符号記憶部
8a 第2符号記憶部
9、9a、9b 符号切換部
10、10a、31b、35b 変調部
11 LPF
12 送信RF部
13、17 周波数変換部
14、16 増幅器
15 受信RF部
18 直交検波部
19、20 AGC部
21、21b 信号処理部
22、23 A/D変換部
24 基準送信信号生成部
25 複素相関値演算部
26 IQ補正部
27 平均化処理部
28 到来角度距離推定部
29 位相回転量測定部
30 ドップラ周波数推定部
32b、34b 90度位相シフト変調部
33b、36b P/S変換部
ACC 補正係数演算部
ANT0 送信アンテナ
ANT1、ANT2 受信アンテナ
B1、B2、B3、B4 バッファ
CC 相補符号系列相関値演算部
FR 第1サブ符号単位相関値演算部
Lo 局部発振器
M1、M2 補正後相関値演算部
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8 シフトレジスタ
SR 第2サブ符号単位相関値演算部
Tr 送信周期
Tw 送信区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の送信周期で高周波送信信号を送信アンテナから送信し、ターゲットに反射された反射波の信号を受信アンテナで受信するレーダ装置であって、
所定の符号長の符号系列を分割したサブ符号長を有する第1、第2サブ符号系列と、前記第1、第2サブ符号系列にそれぞれ2種類の異なる係数を乗じた第3、第4、第5、第6サブ符号系列とのうち、第1送信周期では、前記第3サブ符号系列と前記第4サブ符号系列とを連結した符号を変調した第1の送信信号を生成し、第2送信周期では、前記第5サブ符号系列と前記第6サブ符号系列とを連結した符号を変調した第2の送信信号を生成する送信信号生成部と、
前記送信信号生成部により生成された第1及び第2の送信信号を高周波送信信号に変換し、前記送信アンテナから送信する送信RF部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーダ装置であって、更に、
前記受信アンテナで受信した前記反射波の信号をベースバンド帯域の受信信号に変換する受信RF部と、
前記第1送信周期又は前記第2送信周期に同期して、前記送信信号生成部により生成された送信信号と同一の前記第3、第4、第5及び第6サブ符号系列を含む第1及び第2の基準送信信号を生成する基準送信信号生成部と、
前記第1送信周期では、第1の受信信号と前記第1の基準送信信号に含まれる前記第3サブ符号系列との第1相関値、及び前記第1の受信信号と前記第1の基準送信信号に含まれる前記第4サブ符号系列との第2相関値を演算し、前記第2送信周期では、第2の受信信号と前記第2の基準送信信号に含まれる前記第5サブ符号系列との第3相関値、及び前記第2の受信信号と前記第2の基準送信信号に含まれる前記第6サブ符号系列との第4相関値を演算する複素相関値演算部と、
前記第1相関値と前記第2相関値とを等しくする第1補正係数を演算し、前記第3相関値と、前記第4相関値とを等しくする第2補正係数を演算し、前記第1補正係数を用いて補正した前記第1の相関値及び前記第2の相関値を加算した第5相関値を演算し、前記第2の補正係数を用いて補正した前記第3の相関値と前記第4の相関値を加算した第6相関値を演算するIQ補正部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーダ装置であって、
前記IQ補正部により演算された第5相関値及び第6相関値に基づいて、
当該第6相関値の演算における前記第2送信周期を前記第5相関値の演算における前記第1送信周期にシフトし、当該シフトされた前記第6相関値と当該第5相関値とを加算演算する平均化処理部と、
を更に備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のレーダ装置であって、
前記平均化処理部による加算演算結果に基づいて、前記ターゲットの到来角度又は距離を演算する到来角度距離推定部と、
を更に備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載のレーダ装置であって、
前記受信RF部により変換された受信信号の同相信号のレベルを、前記送信周期のうち前記非送信区間からの経過時間に応じたゲインで増幅する第1AGC部と、
前記受信RF部により変換された受信信号の直交信号のレベル、前記送信周期のうち前記非送信区間からの経過時間に応じたゲインで増幅する第2AGC部と、を更に備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のレーダ装置であって、
前記第1AGC部により増幅された同相信号をデジタルデータに変換する第1A/D変換部と、
前記第2AGC部により増幅された直交信号をデジタルデータに変換する第2A/D変換部と、を更に備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか一項に記載のレーダ装置であって、
前記第3サブ符号系列と前記第4サブ符号系列とが連結された符号系列を記憶する第1符号系列記憶部と、
前記第5サブ符号系列と前記第6サブ符号系列とが連結された符号系列を記憶する第2符号系列記憶部と、を更に有し、
前記送信信号生成部は、前記第1、第2符号系列記憶部に記憶されている各符号系列をそれぞれ変調して前記送信信号を生成することを特徴とするレーダ装置。
【請求項8】
請求項3に記載のレーダ装置であって、
前記平均化処理部により加算演算された相関値の演算における前記第1送信周期と前記第2送信周期とを基準送信周期として、複数回の基準送信周期における加算相関値に基づいて、前記ターゲットの移動に伴って前記反射波の信号における位相回転量を測定する位相回転量演算部と、
前記位相回転量演算部により演算された位相回転量に基づいて、前記ターゲットの移動に伴って前記反射波の信号に生じるドップラ周波数を推定するドップラ周波数推定部と、
を更に備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか一項に記載のレーダ装置であって、
前記所定の符号系列は、相補符号であることを特徴とするレーダ装置。
【請求項10】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記第3サブ符号系列に乗算される係数は、1であり、
前記第4サブ符号系列に乗算される係数は、複素系列jであり、
前記第5サブ符号系列に乗算される係数は、複素系列jであり、
前記第6サブ符号系列に乗算される係数は、1であることを特徴とするレーダ装置。
【請求項11】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記第3サブ符号系列に乗算される係数は、複素系列jであり、
前記第4サブ符号系列に乗算される係数は、−1であり、
前記第5サブ符号系列に乗算される係数は、−1であり、
前記第6サブ符号系列に乗算される係数は、複素系列jであることを特徴とするレーダ装置。
【請求項12】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記第3サブ符号系列に乗算される係数は、−1であり、
前記第4サブ符号系列に乗算される係数は、反転した複素系列−jであり、
前記第5サブ符号系列に乗算される係数は、反転した複素系列−jであり、
前記第6サブ符号系列に乗算される係数は、−1であることを特徴とするレーダ装置。
【請求項13】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記第3サブ符号系列に乗算される係数は、複素系列jであり、
前記第4サブ符号系列に乗算される係数は、1であり、
前記第5サブ符号系列に乗算される係数は、1であり、
前記第6サブ符号系列に乗算される係数は、複素系列jであることを特徴とするレーダ装置。
【請求項14】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記第3サブ符号系列に乗算される係数は、反転した複素系列−jであり、
前記第4サブ符号系列に乗算される係数は、−1であり、
前記第5サブ符号系列に乗算される係数は、−1であり、
前記第6サブ符号系列に乗算される係数は、反転した複素系列−jであることを特徴とするレーダ装置。
【請求項15】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記第3サブ符号系列に乗算される係数は、−1であり、
前記第4サブ符号系列に乗算される係数は、複素系列jであり、
前記第5サブ符号系列に乗算される係数は、複素系列jであり、
前記第6サブ符号系列に乗算される係数は、−1であることを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−32229(P2012−32229A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170821(P2010−170821)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】