レーダ装置
【課題】レーダ装置において、自車両の走行環境が閉空間であるか否かを、当該レーダ装置単体で精度良く判定すると共に、物標の認識精度が低下することを防止すること。
【解決手段】取得したビート信号のパワースペクトルを求め(S140)、そのパワースペクトルから検出した周波数ピークに従って物標候補を認識する(S170)。さらに、パワー積分値が基準閾値以上であれば、走行環境が閉空間であるものと判定する(S180)。基準停止物ペアから、規定された方向に沿って接続基準距離の範囲内に存在する停止物ペアを順次接続してグループ化した停止物群によって形成される領域を道路端として認識する(S190)。ただし、接続基準距離は、走行環境が閉空間であれば、走行環境が開放空間であるときに比べて、短い距離に設定される。履歴追尾処理、物体認識処理(S200,S210)により、移動物体を認識する。
【解決手段】取得したビート信号のパワースペクトルを求め(S140)、そのパワースペクトルから検出した周波数ピークに従って物標候補を認識する(S170)。さらに、パワー積分値が基準閾値以上であれば、走行環境が閉空間であるものと判定する(S180)。基準停止物ペアから、規定された方向に沿って接続基準距離の範囲内に存在する停止物ペアを順次接続してグループ化した停止物群によって形成される領域を道路端として認識する(S190)。ただし、接続基準距離は、走行環境が閉空間であれば、走行環境が開放空間であるときに比べて、短い距離に設定される。履歴追尾処理、物体認識処理(S200,S210)により、移動物体を認識する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ波の送受信信号を混合してなるビート信号を信号処理して、レーダ波を反射した物標について検出するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載して用いられるレーダ装置が知られている。この種のレーダ装置では、時間軸に沿って三角波状に周波数変調したレーダ波を、予め規定された測定サイクル毎に送信して、該レーダ波が物標にて反射した反射波を受信する。そして、レーダ波の送信信号と反射波の受信信号とを混合して生成したビート信号を周波数解析することで導出したパワースペクトルにおいて、周波数における強度(即ち、パワー)が判定閾値を超えて極大となる周波数ピークを物標候補として検出する。その物標候補が、1ないし複数回の測定サイクルに渡って継続して検出され、かつ予め規定された規定条件を満たせば、該物標候補を物標(先行車両や路側物)として認識している。
【0003】
ところで、このようなレーダ装置を搭載した自車両がトンネル内のような閉空間を走行する場合、該レーダ装置では、物標が反射した反射波を直接受信することに加えて、物標にて反射された後、更にトンネル壁面やトンネル天井面、トンネル内の設置物(例えば、ジェットファン)にて反射した反射波を受信する。
【0004】
このとき、レーダ装置では、後者の反射波に基づく周波数ピークを、実際には存在しない物標(いわゆる虚像(ゴースト))であるにも拘わらず、物標候補として検出してしまうという問題があった。
【0005】
この問題を解決するために、自車両が走行する道路環境がトンネル内であれば、判定閾値を変更するレーダ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
ただし、特許文献1に記載されたレーダ装置では、自車両が走行する道路環境がトンネル内であるか否かの判定を、自車両に設けられた照度センサからの照度値に基づいて行っており、その照度値が予め規定された規定閾値未満であればトンネル内であるものと判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−51771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このため、例えば、夜間のように常時照度が低い道路環境下を自車両が走行する場合、照度センサからの照度値が常時規定閾値未満となる。この結果、特許文献1に記載のレーダ装置では、自車両がトンネル外の開放空間を走行しているにも拘わらず、トンネル内を走行しているものと誤判定してしまい、パワースペクトルにおける周波数ピークが物標候補であるか否か、ひいては、物標の認識精度が低下するという問題があった。
【0008】
つまり、特許文献1に記載のレーダ装置では、自車両の走行環境が閉空間であるか否かをレーダ装置単体で精度良く判定できない上に、照度値が低い道路環境下では、物標の認識精度が低下するという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、レーダ装置において、自車両の走行環境が閉空間であるか否かを、当該レーダ装置単体で精度良く判定すると共に、物標の認識精度が低下することを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明は、車両に搭載して用いられるレーダ装置に関する。
本発明のレーダ装置では、送受信手段が、時間と共に周波数が直線的に変化するように周波数変調されたレーダ波を、予め規定された測定サイクル毎に送信し、物標にて反射された該レーダ波である反射波を受信すると共に、レーダ波の送信信号と反射波の受信信号とを混合することでビート信号を生成する。そのビート信号が生成される毎に、周波数解析手段が、該ビート信号に含まれる周波数と各周波数における強度とを表すパワースペクトルを導出し、そのパワースペクトルが生成される毎に、物標候補検出手段が、該パワースペクトルにて周波数における強度が極大値となる各周波数を表す周波数ピークを、物標である可能性がある物標候補として検出し、各物標候補の位置及び速度を導出する。
【0011】
そして、道路形状認識手段が、物標候補検出手段にて1ないし複数回の測定サイクルで検出された物標候補のうち、停止している物標候補について、基点となる物標候補の位置から、設定された第一基準距離の範囲内に存在する物標候補を予め規定された方向に沿って順に接続してグループ化し、そのグループ化した物標候補の位置を接続順に結んだ領域である道路端を少なくとも含む道路形状を認識する。さらに、物体認識手段が、物標候補検出手段にて検出された物標候補のうち、移動している物標候補について、規定回数の測定サイクルに渡って、先の測定サイクルにて検出された物標候補の位置に基づいて予測した予測位置から、設定された第二基準距離の範囲内に、次の測定サイクルにて検出された物標候補が存在すれば、該物標候補を移動物体として認識する。
【0012】
これと共に、本発明のレーダ装置では、走行環境推定手段が、周波数解析手段で導出されたパワースペクトルにおける予め定められた規定周波数域での周波数における強度を積分した積分値が、予め定められた基準閾値以上であれば、自車両が走行する道路環境を表す走行環境が、道路の走行面の上方に存在する空間が覆われた閉空間であるものと推定し、その推定の結果、走行環境が閉空間であれば、基準距離補正手段が、道路形状認識手段で用いる第一基準距離、及び物体認識手段で用いる第二基準距離の少なくとも一方を、走行環境が開放空間である場合に比べて短縮する。
【0013】
本発明の発明者らは、図11に示すように、ビート信号を周波数解析することで生成したパワースペクトルのフロアレベル(即ち、周波数における強度)は、トンネル内のような閉空間を走行中には、トンネル外などの開放空間を走行中に比べて上昇するという知見を得た。このようにパワースペクトルのフロアレベルが上昇する理由は、物標やトンネル内に設置された物体(照明、反射板、ジェットファンなど)にて反射した反射波を直接受信することに加えて、トンネル壁面やトンネル天井面にて複数回反射した反射波を受信するためである。
【0014】
特に、複数回反射した反射波は、物標からレーダ装置で受信されるまでの経路が長くなることから、図11に示すように、ビート信号における高周波数域のフロアレベルを上昇させることになる。このため、本発明における規定周波数域として、閉空間を走行中に生成したパワースペクトルと、開放空間を走行中に生成したパワースペクトルとのフロアレベルの差が顕著に表れる周波数帯域が設定される。この周波数帯域とは、例えば、図11に示すように、ビート信号における高周波数域(例えば、当該レーダ装置から離れた位置に対応する周波数帯)であることが好ましい。
【0015】
本発明のレーダ装置は、このような知見に基づいてなされたものであって、積分値が基準閾値以上であれば、走行環境が閉空間であるものと推定する。これにより、本発明のレーダ装置によれば、自車両の走行環境が閉空間であるか否かを、該レーダ装置単体で精度良く判定することができる。
【0016】
さらに、本発明のレーダ装置では、自車両の走行環境が閉空間であれば、第一基準距離または第二基準距離を短縮する。これにより、本発明のレーダ装置によれば、複数回反射した反射波に基づき物標候補として検出された虚像(即ち、実際には存在しないにも拘わらず、物標候補として検出されるゴースト)が、道路形状認識手段にて認識される道路端や物体認識手段にて認識される移動物体に含まれることを防止できる。すなわち、本発明のレーダ装置によれば、閉空間を走行中において、道路端や移動物体の認識精度が低下することを防止できる。
【0017】
また、本発明のレーダ装置では、自車両が走行する道路の照度値に拘わらず、自車両の走行環境が閉空間でなければ、第一基準距離及び第二基準距離を維持している。このため、例えば、夜間の開放空間のように、低照度値かつ閉空間ではない道路環境下を走行中であっても、道路端や移動物体の認識精度を、高照度値かつ開放空間である道路環境下を走行中と同レベルに維持することができる。
【0018】
つまり、本発明のレーダ装置によれば、自車両の走行環境が閉空間であるか否かをレーダ装置単体で精度良く判定できると共に、照度が低い道路環境下における物標の認識精度が低下することを防止できる。
【0019】
なお、本発明における基準閾値は、開放空間を走行中に導出されるパワースペクトルの規定周波数域での積分値よりも大きな値であり、例えば、予め実験などで求めた、開放空間を走行中におけるパワースペクトルの規定周波数域での平均の積分値に、所定の値を加えたもの(ただし、閉空間を走行中におけるパワースペクトルの規定周波数域での積分値以下となることが好ましい。)でも良い。さらに、本発明において、物体候補検出手段が導出する物標候補の速度は、レーダ装置(即ち、レーダ装置を搭載した自車両)と物標候補との間の相対速度でも良いし、物標候補の速度そのものでも良い。
【0020】
ところで、自車両の前方を走行する先行車両の中に、トラックのような大型車両が存在する場合、該大型車両の後方部で反射され、かつレーダ装置で直接受信する反射波は、複数となることがある。この場合、これらの複数の反射波それぞれに基づいて認識される個々の移動物体は、本来、1つの移動物体として検出されることが望ましい。
【0021】
そこで、本発明のレーダ装置における物体認識手段では、移動物体確定手段が、1回の測定サイクルで認識した複数の移動物体について、基点となる移動物体の位置から、予め規定された方向に沿って設定距離の範囲内に存在する移動物体を順に接続してグループ化し、そのグループ化した移動物体群を1つの移動物体として認識しても良い。
【0022】
この場合、本発明のレーダ装置では、走行環境推定手段での推定の結果、走行環境が閉空間であれば、距離短縮手段が、移動物体確定手段で用いる設定距離を、走行環境が開放空間である場合に比べて短縮しても良い(請求項2)。
【0023】
このような本発明のレーダ装置によれば、走行環境が閉空間であるときに、移動物体(実像)の周辺に検出された虚像を、誤って接続してグループ化することを防止できる。
通常、先行車両等の実像に対する虚像は、実像から車幅方向にシフトした位置に検出されることが多い。
【0024】
このため、本発明における基準距離補正手段は、車幅方向に沿った距離を、第一基準距離または第二基準距離として短縮しても良い(請求項3)。
このような本発明のレーダ装置によれば、道路形状認識手段にて認識される道路端や、物体認識手段にて認識される移動物体に、虚像が含まれることをより確実に低減できる。
【0025】
本発明において、走行環境推定手段は、規定周波数域での周波数における強度を、複数回の測定サイクルに渡って積分することで、積分値を導出するようになされていても良い(請求項4)。
【0026】
このような本発明のレーダ装置によれば、周波数方向に加えて時間方向に沿って周波数における強度を積分することで積分値を導出するため、自車両の走行環境が閉空間であるか否かをより正確に推定することができる。
【0027】
さらに、本発明のレーダ装置では、走行環境推定手段での推定の結果、走行環境が閉空間であれば、虚像補正手段が、物体認識手段で認識した移動物体が虚像であるか否かを判定し、その判定の結果、移動物体が虚像である場合、該移動物体の位置を、道路形状認識手段で認識した道路形状に基づく道路上へと補正しても良い(請求項5)。
【0028】
このような本発明のレーダ装置によれば、認識された移動物体が虚像であったとしても、その移動物体の位置を、移動物体が本来存在すると考えられる位置へと補正することができる。この結果、本発明のレーダ装置によれば、移動物体の位置を、より正確に認識することができる。
【0029】
よって、レーダ装置にて認識した移動物体に関する情報を用いて、車両の制御(例えば、プリクラッシュセーフティ制御や、オートクルーズ制御)を実行する場合には、自車両がより安全に走行するように、それらの制御を実行することができる。
【0030】
特に、本発明における虚像補正手段は、移動物体の位置が、道路端よりも予め定められた距離以上道路外となる外側であれば、該移動物体が虚像であるものと判定し、該移動物体の位置を、規定された軸を対称軸として線対称となる位置へと補正しても良い(請求項6)。
【0031】
このような本発明のレーダ装置によれば、移動物体が虚像であるか否か、特に、実像である移動物体からの反射波が、トンネル壁やトンネル天井面にて更に反射した後に受信することで出現する、いわゆる、ミラーゴーストを容易に判定することができる。
【0032】
そして、本発明において、虚像である移動物体を補正する際の対称軸として、道路形状が直線路であれば、道路端が規定されても良いし(請求項7)、道路形状が曲線路であれば、虚像であると認識した移動物体の位置と自車両の位置とを結ぶ直線と、道路端との交点を接点とした道路端の接線を規定しても良い(請求項8)。
【0033】
これらのように対称軸を規定することで、本発明のレーダ装置によれば、道路形状が直線路であっても、曲線路であっても、移動物体の位置を補正することができる。
また、本発明における虚像補正手段は、移動物体が、道路形状認識手段で認識した道路端上に重なって存在する場合、移動物体を虚像であるものと判定し、該移動物体の位置を、道路端に基づく車線上へと補正しても良い(請求項9)。
【0034】
このような本発明のレーダ装置によれば、道路端(例えば、トンネル壁)に重なる位置に存在する移動物体が虚像であることを、容易に判定することができる。これにより、レーダ装置にて認識される移動物体の挙動を、実像の挙動へと修正することができる。
【0035】
なお、トンネル、覆道、及びアンダーパスといった道路環境を走行中には、ビート信号を周波数解析することで生成されたパワースペクトルのフロアレベルが上昇するという、閉空間の特徴が現れる。
【0036】
このため、本発明における走行環境推定手段は、トンネル、覆道、及びアンダーパスのうち、少なくとも1つを閉空間としても良い(請求項10)。
ただし、ここでいう覆道とは、いわゆる、スノーシェッドや、ロックシェッドなどの道路の走行面の上方に存在する空間を覆う構造物が設けられた道路である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】走行支援制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】レーダ装置が実行するメイン処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】走行環境判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】走行環境判定処理において導出するパワー積分値について説明する説明図である。
【図5】道路形状認識処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】履歴追尾処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】物体認識処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】ゴースト修正の処理内容について説明する説明図である。
【図9】ゴースト修正の処理内容について説明する説明図である。
【図10】ゴースト修正の処理内容について説明する説明図である。
【図11】本発明において、走行環境が閉空間であるか否かを判定する原理を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
〈走行支援制御システムについて〉
図1は、本発明が適用されたレーダセンサを用いて構成され、自動車に搭載して用いられる走行支援制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【0039】
走行支援制御システム1は、レーダ波を送受信することで、自車両の周辺に存在する物標を検出し、該物標に関する情報(以下、物標情報とする)を生成するレーダセンサ30と、そのレーダセンサ30にて生成された物標情報に基づいて自車両を制御する走行支援電子制御装置(以下、走行支援ECUとする)10とを備えている。なお、本実施形態の物標情報は、検出した物標の位置と、自車両と物標との間の相対速度とを少なくとも含むものである。
【0040】
この走行支援ECU10は、少なくともROM、RAM、CPUを備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、少なくともLAN通信バスを介して通信を行うためのバスコントローラを備えている。
【0041】
また、走行支援ECU10には、図示しない警報ブザー、モニター、クルーズコントロールスイッチ、目標車間設定スイッチ等が接続されている他、LAN通信バスを介して、ブレーキ電子制御装置(ブレーキECU)や、エンジン電子制御装置(エンジンECU)、シートベルト電子制御装置(シートベルトECU)等が接続されている。なお、本実施形態では、LAN通信バスを介して行うECU間のデータ通信は、車載ネットワークで一般的に行われているCAN(Robert Bosch社が提案した「Controller Area Network」)プロトコルを用いている。
【0042】
つまり、走行支援ECU10は、レーダセンサ30からの物標情報に基づいて、自車両の走行を支援する走行支援制御を実行するように構成されている。本実施形態における走行支援制御として、例えば、先行車両と自車両との車間距離を予め設定された距離に保持するアダプティブクルーズ制御や、自車両と先行車両との車間距離が予め設定された距離以下となると、警告を出力したり、シートベルトを巻き上げたりするプリクラッシュセーフティ制御がある。
〈レーダセンサの構成について〉
次に、レーダセンサ30は、FMCW方式のいわゆるミリ波レーダ装置として構成されたものであり、時間に対して周波数が直線的に増加する上り区間、及び周波数が直線的に減少する下り区間を有するように周波数変調されたミリ波帯の高周波信号を生成する発振器31と、発振器31が生成する高周波信号を増幅する増幅器32と、増幅器32の出力を送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する分配器34と、送信信号Ssに応じたレーダ波を放射する送信アンテナ36と、レーダ波を受信するn個の受信アンテナからなる受信側アンテナ部40とを備えている。なお、受信側アンテナ部40を構成する受信アンテナには、それぞれ、チャンネルCh1〜CHnが割り当てられている。
【0043】
また、レーダセンサ30は、受信側アンテナ部40を構成する受信アンテナのいずれかを順次選択し、選択された受信アンテナからの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ41と、受信スイッチ41から供給される受信信号Srを増幅する増幅器42と、増幅器42にて増幅された受信信号Srにローカル信号Lを混合して、送信信号Ssと受信信号Srとの周波数の差を表すビート信号BTを生成するミキサ43と、ミキサ43が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ44と、フィルタ44の出力をサンプリングしデジタルデータに変換するA/D変換器45と、ビート信号BTのサンプリングデータを用いて、レーダ波を反射した物標を検出すると共に、その物標についての物標情報を生成するメイン処理を実行する信号処理部46とを備えている。
【0044】
この信号処理部46は、少なくとも、ROM、RAM、CPUを備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、さらに、A/D変換器45を介して取り込んだデータに対して、高速フーリエ変換(FFT)処理等を実行するための演算処理装置(例えば、DSP)を備えている。
【0045】
つまり、このように構成されたレーダセンサ30では、信号処理部46からの指令に従って発振器31が振動すると、その発振器31で生成され、増幅器32で増幅した高周波信号を、分配器34が電力分配することにより、送信信号Ss及びローカル信号Lを生成し、このうち送信信号Ssを送信アンテナ36を介してレーダ波として送信する。
【0046】
そして、送信アンテナ36から送出されて物標に反射されたレーダ波(即ち、反射波)は、受信側アンテナ部40を構成する全ての受信アンテナにて受信され、受信スイッチ41によって選択されている受信チャンネルCHi(i=1〜n)の受信信号Srのみが増幅器32で増幅された後、ミキサ43に供給される。すると、ミキサ43では、この受信信号Srに分配器34からのローカル信号Lを混合することによりビート信号BTを生成する。そして、このビート信号BTは、フィルタ44にて不要な信号成分が除去された後、A/D変換器45にてサンプリングされ、信号処理部46に取り込まれる。
【0047】
なお、受信スイッチ41は、レーダ波の一変調周期の間に、全てのチャンネルCH1からCHnが所定回(例えば、512回)ずつ選択されるよう切り替えられ、また、A/D変換器45は、この切り替えタイミングに同期してサンプリングを実行する。つまり、レーダ波の一変調周期の間に、各チャンネルCH1〜CHn毎かつレーダ波の上り、及び下り区間毎にサンプリングデータが蓄積されることになる。
〈メイン処理の処理内容について〉
次に、レーダセンサ30にて実行されるメイン処理について説明する。
【0048】
このメイン処理は、予め規定された規定時間間隔(即ち、測定サイクル)毎に起動されるものであり、起動されると、図2に示すように、まず、発振器31を起動してレーダ波の送信を開始する(S110)。続いて、A/D変換器45を介してビート信号BTのサンプリング値を取得し(S120)、必要なだけサンプリング値を取得すると、発振器31を停止することにより、レーダ波の送信を停止する(S130)。
【0049】
次に、S130にて取得したサンプリング値について周波数解析(本実施形態では、FFT処理)を実行し、受信チャンネルCH1〜CHn毎かつ上り/下り区間毎にビート信号BTのパワースペクトルを求める(S140)。このパワースペクトルは、ビート信号BTに含まれる周波数と、その周波数における強度とを表したものである。
【0050】
続いて、上り区間、及び下り区間のそれぞれについて、パワースペクトル上に存在する各周波数ピークを検出する(S150)。具体的には、受信チャンネルCH毎に求められたパワースペクトルを、全ての受信チャンネルで相加平均した平均スペクトルを導出し、その平均スペクトルの中で、予め設定された設定閾値を超える周波数における強度のピーク点に対応する(即ち、周波数における強度が極大値となる)周波数を周波数ピークとして検出する。
【0051】
そして、S140で求めたパワースペクトルに基づき、物標である可能性がある物標候補が存在する方位を推定する方位解析を実行する(S160)。本実施形態における方位解析としては、半値角の狭いアンテナのヌル点を利用し、パワースペクトルから、MUSICスペクトルを求める周知のMUSIC法を用いる。このMUSIC法によれば、MUSICスペクトルのピーク点が、物標候補が存在する方位を表す指標となる。
【0052】
さらに、上り区間のビート信号BTから求められた周波数ピークと、下り区間のビート信号BTから求められた周波数ピークとを、同一物標にてレーダ波を反射したとみなせるもの同士でマッチングして登録するペアマッチングを実行する(S170)。具体的には、上り区間の周波数ピークと下り区間の周波数ピークとの電力差、及び角度差が予め規定された許容範囲内であるか否かを判定し、その判定の結果、電力差及び角度差が共に、許容範囲内であれば、両周波数ピークをマッチングして、そのマッチングした周波数ピークのペアを登録する。この登録された周波数ピークのペアは、それぞれ、物標候補に対応する。
【0053】
なお、本実施形態のペアマッチング(S170)では、登録された周波数ピークのペアに対して、FMCW方式のレーダ装置における周知の手法により、レーダセンサ30から物標候補までの距離、物標候補と自車両との相対速度を導出する。本実施形態では、このとき、物標候補と自車両との相対速度、及び自車両の車速に基づいて、各物標候補の速度を導出すると共に、その物標候補が、停止物であるか移動物であるかを判定する。そして、導出された距離及び相対速度(速度)に、物標候補が存在する方位を加えた情報を、物標情報として生成する。
【0054】
さらに、詳しくは後述する、走行環境判定処理(S180)、道路形状認識処理(S190)、履歴追尾処理(S200)、物体認識処理(S210)を実行する。そして、外挿補間(S220)、ゴースト修正(S230)を実行した後、選択された物体に関する物標情報を走行支援ECU10に出力する(S240)。
〈走行環境判定処理の処理内容について〉
次に、メイン処理のS180にて実行される走行環境判定処理について、図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0055】
この走行環境判定処理は、起動されると、まず、図4に示す平均スペクトル(パワースペクトル)において、予め規定された規定周波数域での周波数における強度を積分した積分値(以下、パワー積分値とする)を導出する(S310)。なお、本実施形態における規定周波数域は、道路の走行面の上方に存在する空間が覆われた閉空間を走行中に生成したパワースペクトルと、道路の走行面の上方に存在する空間が覆われていない開放空間を走行中に生成したパワースペクトルとのフロアレベルの差が顕著に表れるビート信号BTにおける高周波帯域(図11参照)として規定されている。本実施形態において、閉空間とは、例えば、トンネル内や、覆道(スノーシェッドや、ロックシェッド)、アンダーパスといった道路環境である。
【0056】
続いて、その導出したパワー積分値が、予め定められた基準閾値よりも大きいか否かを判定する(S320)。なお、本実施形態において、基準閾値とは、開放空間を走行中に導出されるパワー積分値よりも大きな値であり、例えば、予め実験などで求めた、開放空間を走行中におけるパワー積分値に、所定の値を加えたもの(ただし、閉空間を走行中におけるパワー積分値以下)である。
【0057】
S320での判定の結果、パワー積分値が基準閾値以下であれば(S320:NO)、詳しくは後述するS370へと進む。一方、パワー積分値が基準閾値よりも大きければ(S320:YES)、閉空間カウンタのカウント値CNTIPが、カウント値の上限として設定された上限値CNTIPMAX未満であるか否かを判定する(S330)。
【0058】
そのS330での判定の結果、カウント値CNTIPが上限値CNTIPMAX未満であれば(S330:YES)、カウント値CNTIPをインクリメントする(S340)。さらに、カウント値CNTIPが、予め設定された閾値THCA(ただし、閾値THCA≦上限値CNTIPMAX)よりも大きいか否かを判定する(S350)。
【0059】
そのS350での判定の結果、カウント値CNTIPが閾値THCAよりも大きければ(S350:YES)、自車両が走行している道路環境を表す走行環境が閉空間となってからの経過時間が、予め規定された規定時間を超えたものと判断して、走行環境が閉空間であることを表す閉空間フラグをセットする(S360)。そして、その後、本走行環境判定処理を終了して、メイン処理のS190へと進む。
【0060】
一方、S350での判定の結果、カウント値CNTIPが閾値THCA以下であれば(S350:NO)、走行環境が閉空間となってからの経過時間が規定時間以下であるもの判断して、閉空間フラグをセットすることなく、走行環境判定処理を終了してメイン処理のS190へと進む。なお、S330での判定の結果、カウント値CNTIPが上限値CNTIPMAX以上であれば(S330:NO)、閉空間フラグがセットされた状態を維持したまま、本走行環境判定処理を終了して、メイン処理のS190へと進む。
【0061】
次に、S320での判定の結果、パワー積分値が基準閾値以下である場合に進むS370では、カウント値CNTIPが「0」よりも大きいか否かを判定する。その判定の結果、カウント値CNTIPが「0」よりも大きければ(S370:YES)、カウント値CNTIPをデクリメントする(S380)。ただし、本実施形態において、カウント値CNTIPの最小値は「0」である。
【0062】
続いて、カウント値CNTIPが「0」であるか否かを判定する(S390)。その判定の結果、カウント値CNTIPが「0」であれば(S390:YES)、走行環境が開放空間となってからの経過時間が、所定時間以上であるものと判断して、閉空間フラグを解除する(S400)。その後、本走行環境判定処理を終了して、メイン処理のS190へと進む。
【0063】
一方、S390での判定の結果、カウント値CNTIPが「0」でなければ(S390:NO)、走行環境が開放空間となってからの経過時間が、所定時間未満であるものと判断して、閉空間フラグがセットされた状態を維持したまま、本走行環境判定処理を終了し、メイン処理のS190へと進む。なお、S370での判定の結果、カウント値CNTIPが「0」以下であれば(S370:NO)、走行環境が開放空間で継続しているものと判断して、閉空間フラグを解除した状態に維持したまま、本走行環境判定処理を終了し、メイン処理のS190へと進む。
【0064】
つまり、走行環境判定処理では、S140にて求めたパワースペクトルに基づくパワー積分値が、規定時間以上継続して基準閾値以上であれば、走行環境が閉空間であるものとして判定して、閉空間フラグをセットする。一方、パワー積分値が所定時間以上継続して基準閾値未満であれば、走行環境が開放空間であるものと判定し、閉空間フラグを解除する。
〈道路形状認識処理の処理内容について〉
次に、メイン処理のS190にて実行される道路形状認識処理は、起動されると、図5に示すように、まず、前回の測定サイクル、及び今回の測定サイクルで登録した周波数ピークのペアの中で、停止物であること表す周波数ピークのペア(以下、停止物ペアとする)を、予め用意された物標配置マップにセットする(S510)。この物標配置マップは、自車両の進行方向と、自車両からの横位置とを軸として、それらの軸が直交する平面状のマップであり、物標候補が位置する方位と、自車両から物標候補までの距離に応じて、各物標候補をマッピングするものである。
【0065】
続いて、メイン処理を前回実行した際に(即ち、前回の測定サイクルにおける道路形状認識処理で)認識した道路形状に基づき、物標配置マップにセットされた停止物ペアのうち、道路の走行路面上に存在する停止物ペアを除去する(S520)。
【0066】
そして、先の走行環境判定処理で判定した走行環境が、閉空間であるか否かを判定する(S530)。その判定の結果、走行環境が閉空間でなければ、即ち、開放空間であれば(S530:NO)、本発明の第一基準距離に相当する接続基準距離を、予め規定された開放空間距離に設定する(S540)。一方、走行環境が閉空間であれば(S530:YES)、接続基準距離を、開放空間距離よりも短い距離である閉空間距離に設定する(S550)。
【0067】
具体的に、本実施形態のS530では、閉空間フラグがセットされていれば、走行環境が閉空間であるものと判定し、閉空間フラグがセットされていなければ、走行環境が開放空間であるものと判定する。
【0068】
続いて、物標配置マップにおいて、自車両の右側にて、自車両に最も近い位置に存在する停止物ペアを基点として(以下、基点とする停止物ペアを基準停止物ペアとする)、停止物ペアを順次接続して、停止物群Rを生成する。(S560)。このS560では、基準停止物ペアから、自車両の進行方向を基準軸とした反時計回りの方向に沿って、設定された接続基準距離の範囲内に最初に存在する停止物ペアを接続する。さらに、その接続した停止物ペアを基準停止物ペアとして、自車両の進行方向を基準軸とした反時計回りの方向に沿って接続基準距離の範囲内に最初に存在する停止物ペアを接続することを繰り返して、停止物ペア群をグループ化する。
【0069】
さらに、物標配置マップにおいて、自車両の左側にて、自車両に最も近い位置に存在する停止物ペアを基準停止物ペアとして、停止物ペアを順次接続して、停止物群Lを生成する。(S570)。このS570にて停止物群Lを生成する方法は、基準軸から接続基準距離の範囲内に存在する停止物ペアを探索する方向が、時計回りであるという点を除けば、S560における停止物群Rを生成する方法と同様であるため、ここでの詳しい説明は省略する。なお、停止物群Rとは、S560においてグループ化された停止物ペア群であり、停止物群Lとは、S560においてグループ化された停止物ペア群である。
【0070】
そして、S560にて生成した停止物群R、及びS570にて生成した停止物群Lそれぞれを、自車両が走行している道路の右端、左端として確定する(S580)。以下、右端、左端をまとめて、道路端と称す。
【0071】
さらに、道路端に対応する停止物群L,Rによって形成される領域、即ち、停止物群L,Rを構成する停止物ペアの位置を接続順に結んだ領域を、予め用意されたテーブルである道路端テーブルにセットする(S590)。続いて、物標配置マップにセットされている停止物ペアの中で、道路端に対応する停止物ペア以外の停止物ペア(図5中、異常ペア)を除去する(S600)。
【0072】
その後、メイン処理のS200へと進む。
つまり、本実施形態の道路形状認識処理では、S170にて生成した物標情報に基づいて、基準停止物ペアから、自車両の進行方向を基準軸として規定された方向に沿って、設定された接続基準距離の範囲内に最初に存在する停止物ペアを順次接続する。そして、このように接続することでグループ化された停止物群によって形成される領域を道路端(即ち、道路形状)として認識する。ただし、本実施形態の道路形状認識処理では、停止物ペアを接続する際に用いられる接続基準距離は、走行環境が開放空間であれば、開放空間距離に設定され、走行環境が閉空間であれば、開放空間距離よりも短い閉空間距離に設定される。
〈履歴追尾処理の処理内容について〉
次に、メイン処理のS200にて実行される履歴追尾処理は、起動されると、図6に示すように、まず、走行環境が閉空間であるか否かを判定する(S710)。
【0073】
そのS710での判定の結果、走行環境が閉空間でなければ、即ち、開放空間であれば(S710:NO)、本発明の第二基準距離に相当する追尾基準距離DR、及び本発明の設定基準距離に相当するセグメント距離DRSを、予め規定された開放距離に設定する(S720)。一方、走行環境が閉空間であれば(S710:YES)、追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSを、開放距離よりも短い距離である閉塞距離に設定する(S730)。なお、S720やS730にて追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSとして設定される開放距離または閉塞距離は、同一名称の閉塞距離や開放距離であっても、追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSに対して互いに異なる距離が設定されても良い。
【0074】
そして、前回の測定サイクルで登録された周波数ピークのペア(以下、前サイクルペアとする)と、今回の測定サイクルで登録された周波数ピークのペア(以下、今サイクルペアとする)との組み合わせを設定する(S740)。その組み合わせた周波数ピークのペア(以下、組合せペアと称す)のいずれか1つを取り出す(S750)。
【0075】
続いて、S750で取り出した組合せペアのうち、前サイクルペアの物標情報に基づいて予測され、その前サイクルペアに対応する今サイクルペアが存在する位置(以下、予測位置とする)、及び今サイクルペアの速度(以下、予測速度とする)を導出する(S760)。この予測位置及び予測速度の導出は、周知の処理であるため、ここでの詳しい説明は省略するが、例えば、カルマンフィルタなどを用いて、時系列に沿った周波数ピークのペア(即ち、物標候補)の挙動を予測し、その予測した結果を、予測位置及び予測速度とすることが考えられる。
【0076】
そして、S760で導出した予測位置及び予測速度と、今サイクルペアから導出された位置及び速度とに基づいて、両者の位置差分、及び速度差分を導出する(S770)。すなわち、位置差分とは、今サイクルペアから導出された位置(即ち、今サイクルペアに対応する物標候補の位置)と予測位置との差分であり、速度差分とは、今サイクルペアから導出された速度(即ち、今サイクルペアに対応する物標候補の速度)と予測速度との差分である。
【0077】
続いて、S770で導出した位置差分が追尾基準距離DRより小さく、かつ速度差分が予め規定された上限速度差DVよりも小さいか否かを判定する(S780)。その判定の結果、位置差分及び速度差分の両者が共に小さい場合にのみ(S780:YES)、組合せペアを構成する周波数ピークのペアは履歴接続があるものとして、今サイクルペアの検出カウンタのカウント値CNTiを、前サイクルペアの検出カウンタのカウント値CNTiに1を加算した値へと更新する(S790)。
【0078】
そして、先のS740にて設定した全ての組合せペアについて、上述のS750〜S790のステップを実行したか否かを判定し(S800)、未処理の組合せペアがあれば(S800:NO)、S750へと戻る。一方、全ての組合せペアについて処理が完了していれば(S800:YES)、本履歴追尾処理を終了して、メイン処理のS210へと進む。
【0079】
つまり、本実施形態の履歴追尾処理では、前サイクルペアとの履歴接続がある今サイクルペアには、対応する前サイクルペアの情報(検出カウンタのカウント値CNTi)が引き継がれ、前サイクルペアとの履歴接続が無い今サイクルペアについては、検出カウンタのカウント値CNTiが0に維持される。ただし、本実施形態の履歴追尾処理では、履歴接続の可否を判定する際に用いる追尾基準距離DRは、走行環境が開放空間であれば、開放距離に設定され、走行環境が閉空間であれば、開放距離よりも短い閉塞距離に設定される。
〈物体認識処理の処理内容について〉
次に、メイン処理のS210にて実行される物体認識処理は、起動されると、図7に示すように、ペア登録された今サイクルペアの中から、1つの今サイクルペアを取り出す(S910)。その取り出した今サイクルペアの検出カウンタのカウント値CNTiが、予め設定された認識閾値CNTTSD(本発明の規定回数に相当)以上であるか否かを判定する(S920)。
【0080】
その判定の結果、検出カウンタのカウント値CNTiが認識閾値CNTTSD以上であれば(S920:YES)、S910で取り出した今サイクルペアに対応する物標候補が、移動物体(例えば、先行車両)であることを確定して、移動物体登録を実行する(S930)。一方、検出カウンタのカウント値CNTiが認識閾値CNTTSD未満であれば(S920:NO)、S930を実行することなく、S940へと進む。そして、全ての今サイクルペアについて、上述したS910〜S930のステップを実行したか否かを判定し(S940)、未処理の今サイクルペアがあれば(S940:NO)、S910へと戻る。
【0081】
一方、全ての今サイクルペアについて、S910〜S930のステップが完了していれば(S940:YES)、S930にて登録された移動物体の中から、2つの移動物体を選択し、それらの選択された移動物体間の距離(以下、物体間距離と称す)、及びそれらの選択された移動物体間の相対速度(以下、物体間相対速度)を導出する(S950)。その物体間距離が、先のS720またはS730にて設定されたセグメント距離DRSよりも小さく、かつ物体間相対速度が予め規定された相対速度である規定相対速度DRVよりも小さいか否かを判定する(S960)。
【0082】
そのS960での判定の結果、物体間距離がセグメント距離DRSよりも小さく、かつ物体間相対速度が規定相対速度DRVよりも小さければ(S960:YES)、その物体間距離及び物体間相対速度を導出した際の2つの移動物体が、1つの移動物体であるものとして、両移動物体に対応する移動物体登録を修正する(S970)。一方、S960での判定の結果、物体間距離がセグメント距離DRS以上、または、物体間相対速度が規定相対速度DRV以上であれば(S960:NO)、その物体間距離を導出した際の2つの移動物体は、それぞれ別の移動物体であるものと判断して、S970を実行することなく、S980へと進む。
【0083】
そして、移動物体の全ての組合せについて、上述したS950〜S970のステップを実行したか否かを判定し(S980)、未処理の移動物体の組合せがあれば(S980:NO)、S950へと戻る。一方、全ての移動物体の組合せについてS950〜S970のステップを実行していれば、本物体認識処理を終了して、メイン処理のS220へと進む。
【0084】
つまり、本実施形態の物体認識処理では、認識閾値CNTTSD以上の履歴接続が確認された周波数ピークのペアを移動物体として確定して登録し、さらに、登録された移動物体の中に、複数(例えば、2つ)の移動物体で1つの移動物体を構成するものがあれば、登録した移動物体を修正する。ただし、本実施形態の物体認識処理では、複数の移動物体で1つの物体を構成しているか否かの判定を行う際のセグメント距離DRSは、走行環境が開放空間であれば、開放距離に設定され、走行環境が閉空間であれば、開放距離よりも短い閉塞距離に設定されている。
【0085】
次に、メイン処理のS220で実行される外挿補間は、前回の測定サイクルで登録された移動物体の中で、今回の測定サイクルに検出された周波数ピークのペアと履歴接続がないもののうち、履歴接続が途絶えてから予め規定された外挿期間内のものについては、周波数ピークのペアの外挿を許可することにより、移動物体の登録を継続する。そして、外挿期間が経過した後に、履歴接続が再開された周波数ピークのペアが検出されなければ、その移動物体の登録を削除する。この外挿補間は、周知の処理であるため、これ以上の詳しい説明は省略する。
〈ゴースト修正処理の処理内容について〉
続いて、メイン処理のS230で実行されるゴースト修正処理について説明する。
【0086】
本実施形態のゴースト修正処理では、走行環境が閉空間であれば、登録された個々の移動物体が虚像であるか否かを判定し、その判定の結果、移動物体が虚像であれば、その虚像と判定された移動物体の位置を、対応する実像(即ち、真の移動物体)の位置へと修正したり、その虚像を削除したりする。
【0087】
本実施形態のゴースト処理では、道路形状認識処理で認識した道路形状に基づく道路(トンネル)が直線路であれば、例えば、図8に示すように、登録された移動物体の中で、道路形状認識処理で認識した道路端に基づく道路外に存在し、かつその道路端から、予め定められた距離以上離れた位置(図中(L+LWG,δ))に存在する移動物体A'を、虚像(ゴースト)と判定する。そして、虚像と判定された移動物体A'の位置を、道路端を対称軸として線対称となる位置(図中、移動物体A(r,δ)、LWG=LWR)へと補正(修正)する。
【0088】
本実施形態のゴースト処理では、道路形状認識処理で認識した道路形状に基づく道路(トンネル)が曲線路であれば、例えば、図9に示すように、登録された移動物体の中で、道路形状認識処理で認識した道路端に基づく道路外に存在し、かつその道路端から、予め定められた距離以上離れた位置(図中(L+LWG,δ))に存在する移動物体A'を、虚像(ゴースト)と判定する。そして、虚像と判定された移動物体A'の位置を、該移動物体A'の位置と自車両の位置とを結ぶ直線と、道路端との交点を接点(図中、B(a,b))とした道路端の接線を対称軸として線対称となる位置(図中、移動物体A(r,δ)、LWG=LWR)へと補正(修正)する。
【0089】
また、本実施形態のゴースト処理では、例えば、図10に示すように、登録された移動物体の中で、道路形状認識処理で認識した道路端に重なる位置に存在する移動物体A'を、虚像(ゴースト)と判定する。そして、虚像と判定された移動物体A'の位置を、道路端から最も近い車線上の位置(図中、破線で描かれた円の位置)へと補正(修正)する。
【0090】
これら図8,9,10に示すゴースト修正処理は、移動物体A及び移動物体A'の両方が登録されているときに実行しても良いし、移動物体A'のみが登録され、移動物体Aが登録されていないときに、実行しても良い。
【0091】
続いて、メイン処理のS240では、移動物体に関する物標情報を走行支援ECU10に出力する。
そして、その後、本メイン処理を終了し、次回の測定サイクルまで待機する。
[実施形態の効果]
以上説明したように、レーダセンサ30では、ビート信号を周波数解析することで導出したパワースペクトルに基づくパワー積分値が規定時間以上継続して基準閾値以上であれば、走行環境が閉空間であるものとして判定して、パワー積分値が所定時間以上継続して基準閾値未満であれば、走行環境が開放空間であるものと判定している。これにより、レーダセンサ30によれば、走行環境が閉空間であるか否かを、該レーダ装置単体で精度良く判定することができる。
【0092】
さらに、レーダセンサ30では、接続基準距離、追尾基準距離DR、及びセグメント距離DRSを、走行環境が開放空間であれば、開放空間距離、または開放距離に設定し、走行環境が閉空間であれば、開放空間距離(または開放距離)よりも短い閉空間距離(閉塞距離)に設定する。これにより、レーダセンサ30によれば、複数回反射した反射波に基づき物標候補として検出した虚像(即ち、実際には存在しないにも拘わらず、物標候補として検出されるゴースト)が、道路端や移動物体に含まれることを防止できる。
【0093】
また、レーダセンサ30によれば、走行環境が開放空間であれば、接続基準距離、追尾基準距離DR、及びセグメント距離DRSが、開放空間距離または開放距離に維持される。このため、例えば、夜間の開放空間のように、低照度値かつ閉空間ではない道路環境下を走行中であっても、道路端や移動物体の認識精度を、高照度値かつ開放空間である道路環境下を走行中と同レベルに維持することができる。
【0094】
つまり、レーダセンサ30によれば、自車両の走行環境が閉空間であるか否かをレーダ装置単体で精度良く判定できると共に、照度が低い道路環境下における物標の認識精度が低下することを防止できる。
【0095】
さらに、レーダセンサ30では、認識した移動物体が虚像であれば、その虚像の位置を、対応する実像の位置へと修正している。このため、レーダセンサ30によれば、認識した移動物体が虚像であったとしても、その移動物体の位置を、移動物体が本来存在すると考えられる位置へと補正することができ、ひいては、移動物体の位置を、より正確に認識することができる。
【0096】
これらの結果、走行支援制御システム1によれば、レーダセンサ30にて認識した移動物体に関する情報を用いて、車両の制御(例えば、プリクラッシュセーフティ制御や、オートクルーズ制御)を実行する場合には、自車両がより安全に走行するように、それらの制御を実行することができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0097】
例えば、上記実施形態では、走行環境に応じた接続基準距離の設定を、道路形状認識処理(S530〜S550)において実行していたが、この走行環境に応じた接続基準距離の設定タイミングは、これに限るものではない。つまり、走行環境に応じた接続基準距離の設定タイミングは、走行環境判定処理の終了直後であっても良いし、走行環境判定処理内であっても良い。換言すれば、S530〜S550のステップが、前者の場合、メイン処理における走行環境判定処理の直後に実行されても良く、後者の場合、走行環境判定処理のS360かつS400以降に実行されても良い。
【0098】
また、上記実施形態では、走行環境に応じた追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSの設定を、履歴追尾処理(S710〜S730)において実行していたが、この走行環境に応じた追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSの設定タイミングは、これに限るものではない。例えば、走行環境に応じた追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSの設定タイミングは、走行環境判定処理の終了直後であっても良いし、走行環境判定処理内であっても良い。
【0099】
なお、接続基準距離、追尾基準距離DR、及びセグメント距離DRSは、自車両の進行方向に沿った距離と、自車両の車幅方向に沿った距離(以下、横距離)とを有していても良い。この場合、接続基準距離として道路形状認識処理のS550で設定する閉空間距離や、追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSとして履歴追尾処理のS730で設定する閉塞距離は、少なくとも横距離であることが好ましい。
【0100】
また、上記実施形態のゴースト修正(S230)では、登録された移動物体の中で、道路形状認識処理で認識した道路端に基づく道路外に存在し、かつその道路端からの距離LWGが、道路端から道路内までの距離LWRに合致する移動物体A'を虚像(ゴースト)と判定していたが、移動物体が虚像であるか否かの判定方法は、これに限るものではなく、周知の手法を用いて、登録された個々の移動物体が虚像であるか否かを判定しても良い。この場合、虚像の位置を、対応する実像の位置へと修正する方法についても、周知の手法を用いればよい。
[実施形態と特許請求の範囲との対応関係]
最後に、上記実施形態の記載と、特許請求の範囲の記載との関係を説明する。
【0101】
上記実施形態のメイン処理におけるS110〜S130が、本発明の送受信手段に相当し、S140が、本発明の周波数解析手段に相当し、S150〜S170が、本発明の物標候補検出手段に相当し、S190(即ち、道路形状認識処理)が、本発明の道路形状認識手段に相当し、S200〜S220(即ち、履歴追尾処理、物体認識処理、外挿補間)が、本発明の物体認識手段に相当する。
【0102】
そして、上記実施形態のメイン処理におけるS180(即ち、走行環境判定処理)が、本発明の走行環境推定手段に相当し、道路形状認識処理におけるS530〜S550、及び履歴追尾処理におけるS710〜S730が、本発明の基準距離補正手段に相当する。
【0103】
さらに、物体認識処理におけるS950〜S980が、本発明の移動物体確定手段に相当し、履歴追尾処理におけるS710〜S730が、本発明の距離短縮手段に相当し、メイン処理におけるS230が、本発明の虚像補正手段に相当する。
【符号の説明】
【0104】
1…走行支援制御システム 10…走行支援ECU 30…レーダセンサ 31…発振器 32…増幅器 34…分配器 36…送信アンテナ 40…受信側アンテナ部 41…受信スイッチ 42…増幅器 43…ミキサ 44…フィルタ 45…A/D変換器 46…信号処理部
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ波の送受信信号を混合してなるビート信号を信号処理して、レーダ波を反射した物標について検出するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載して用いられるレーダ装置が知られている。この種のレーダ装置では、時間軸に沿って三角波状に周波数変調したレーダ波を、予め規定された測定サイクル毎に送信して、該レーダ波が物標にて反射した反射波を受信する。そして、レーダ波の送信信号と反射波の受信信号とを混合して生成したビート信号を周波数解析することで導出したパワースペクトルにおいて、周波数における強度(即ち、パワー)が判定閾値を超えて極大となる周波数ピークを物標候補として検出する。その物標候補が、1ないし複数回の測定サイクルに渡って継続して検出され、かつ予め規定された規定条件を満たせば、該物標候補を物標(先行車両や路側物)として認識している。
【0003】
ところで、このようなレーダ装置を搭載した自車両がトンネル内のような閉空間を走行する場合、該レーダ装置では、物標が反射した反射波を直接受信することに加えて、物標にて反射された後、更にトンネル壁面やトンネル天井面、トンネル内の設置物(例えば、ジェットファン)にて反射した反射波を受信する。
【0004】
このとき、レーダ装置では、後者の反射波に基づく周波数ピークを、実際には存在しない物標(いわゆる虚像(ゴースト))であるにも拘わらず、物標候補として検出してしまうという問題があった。
【0005】
この問題を解決するために、自車両が走行する道路環境がトンネル内であれば、判定閾値を変更するレーダ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
ただし、特許文献1に記載されたレーダ装置では、自車両が走行する道路環境がトンネル内であるか否かの判定を、自車両に設けられた照度センサからの照度値に基づいて行っており、その照度値が予め規定された規定閾値未満であればトンネル内であるものと判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−51771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このため、例えば、夜間のように常時照度が低い道路環境下を自車両が走行する場合、照度センサからの照度値が常時規定閾値未満となる。この結果、特許文献1に記載のレーダ装置では、自車両がトンネル外の開放空間を走行しているにも拘わらず、トンネル内を走行しているものと誤判定してしまい、パワースペクトルにおける周波数ピークが物標候補であるか否か、ひいては、物標の認識精度が低下するという問題があった。
【0008】
つまり、特許文献1に記載のレーダ装置では、自車両の走行環境が閉空間であるか否かをレーダ装置単体で精度良く判定できない上に、照度値が低い道路環境下では、物標の認識精度が低下するという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、レーダ装置において、自車両の走行環境が閉空間であるか否かを、当該レーダ装置単体で精度良く判定すると共に、物標の認識精度が低下することを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明は、車両に搭載して用いられるレーダ装置に関する。
本発明のレーダ装置では、送受信手段が、時間と共に周波数が直線的に変化するように周波数変調されたレーダ波を、予め規定された測定サイクル毎に送信し、物標にて反射された該レーダ波である反射波を受信すると共に、レーダ波の送信信号と反射波の受信信号とを混合することでビート信号を生成する。そのビート信号が生成される毎に、周波数解析手段が、該ビート信号に含まれる周波数と各周波数における強度とを表すパワースペクトルを導出し、そのパワースペクトルが生成される毎に、物標候補検出手段が、該パワースペクトルにて周波数における強度が極大値となる各周波数を表す周波数ピークを、物標である可能性がある物標候補として検出し、各物標候補の位置及び速度を導出する。
【0011】
そして、道路形状認識手段が、物標候補検出手段にて1ないし複数回の測定サイクルで検出された物標候補のうち、停止している物標候補について、基点となる物標候補の位置から、設定された第一基準距離の範囲内に存在する物標候補を予め規定された方向に沿って順に接続してグループ化し、そのグループ化した物標候補の位置を接続順に結んだ領域である道路端を少なくとも含む道路形状を認識する。さらに、物体認識手段が、物標候補検出手段にて検出された物標候補のうち、移動している物標候補について、規定回数の測定サイクルに渡って、先の測定サイクルにて検出された物標候補の位置に基づいて予測した予測位置から、設定された第二基準距離の範囲内に、次の測定サイクルにて検出された物標候補が存在すれば、該物標候補を移動物体として認識する。
【0012】
これと共に、本発明のレーダ装置では、走行環境推定手段が、周波数解析手段で導出されたパワースペクトルにおける予め定められた規定周波数域での周波数における強度を積分した積分値が、予め定められた基準閾値以上であれば、自車両が走行する道路環境を表す走行環境が、道路の走行面の上方に存在する空間が覆われた閉空間であるものと推定し、その推定の結果、走行環境が閉空間であれば、基準距離補正手段が、道路形状認識手段で用いる第一基準距離、及び物体認識手段で用いる第二基準距離の少なくとも一方を、走行環境が開放空間である場合に比べて短縮する。
【0013】
本発明の発明者らは、図11に示すように、ビート信号を周波数解析することで生成したパワースペクトルのフロアレベル(即ち、周波数における強度)は、トンネル内のような閉空間を走行中には、トンネル外などの開放空間を走行中に比べて上昇するという知見を得た。このようにパワースペクトルのフロアレベルが上昇する理由は、物標やトンネル内に設置された物体(照明、反射板、ジェットファンなど)にて反射した反射波を直接受信することに加えて、トンネル壁面やトンネル天井面にて複数回反射した反射波を受信するためである。
【0014】
特に、複数回反射した反射波は、物標からレーダ装置で受信されるまでの経路が長くなることから、図11に示すように、ビート信号における高周波数域のフロアレベルを上昇させることになる。このため、本発明における規定周波数域として、閉空間を走行中に生成したパワースペクトルと、開放空間を走行中に生成したパワースペクトルとのフロアレベルの差が顕著に表れる周波数帯域が設定される。この周波数帯域とは、例えば、図11に示すように、ビート信号における高周波数域(例えば、当該レーダ装置から離れた位置に対応する周波数帯)であることが好ましい。
【0015】
本発明のレーダ装置は、このような知見に基づいてなされたものであって、積分値が基準閾値以上であれば、走行環境が閉空間であるものと推定する。これにより、本発明のレーダ装置によれば、自車両の走行環境が閉空間であるか否かを、該レーダ装置単体で精度良く判定することができる。
【0016】
さらに、本発明のレーダ装置では、自車両の走行環境が閉空間であれば、第一基準距離または第二基準距離を短縮する。これにより、本発明のレーダ装置によれば、複数回反射した反射波に基づき物標候補として検出された虚像(即ち、実際には存在しないにも拘わらず、物標候補として検出されるゴースト)が、道路形状認識手段にて認識される道路端や物体認識手段にて認識される移動物体に含まれることを防止できる。すなわち、本発明のレーダ装置によれば、閉空間を走行中において、道路端や移動物体の認識精度が低下することを防止できる。
【0017】
また、本発明のレーダ装置では、自車両が走行する道路の照度値に拘わらず、自車両の走行環境が閉空間でなければ、第一基準距離及び第二基準距離を維持している。このため、例えば、夜間の開放空間のように、低照度値かつ閉空間ではない道路環境下を走行中であっても、道路端や移動物体の認識精度を、高照度値かつ開放空間である道路環境下を走行中と同レベルに維持することができる。
【0018】
つまり、本発明のレーダ装置によれば、自車両の走行環境が閉空間であるか否かをレーダ装置単体で精度良く判定できると共に、照度が低い道路環境下における物標の認識精度が低下することを防止できる。
【0019】
なお、本発明における基準閾値は、開放空間を走行中に導出されるパワースペクトルの規定周波数域での積分値よりも大きな値であり、例えば、予め実験などで求めた、開放空間を走行中におけるパワースペクトルの規定周波数域での平均の積分値に、所定の値を加えたもの(ただし、閉空間を走行中におけるパワースペクトルの規定周波数域での積分値以下となることが好ましい。)でも良い。さらに、本発明において、物体候補検出手段が導出する物標候補の速度は、レーダ装置(即ち、レーダ装置を搭載した自車両)と物標候補との間の相対速度でも良いし、物標候補の速度そのものでも良い。
【0020】
ところで、自車両の前方を走行する先行車両の中に、トラックのような大型車両が存在する場合、該大型車両の後方部で反射され、かつレーダ装置で直接受信する反射波は、複数となることがある。この場合、これらの複数の反射波それぞれに基づいて認識される個々の移動物体は、本来、1つの移動物体として検出されることが望ましい。
【0021】
そこで、本発明のレーダ装置における物体認識手段では、移動物体確定手段が、1回の測定サイクルで認識した複数の移動物体について、基点となる移動物体の位置から、予め規定された方向に沿って設定距離の範囲内に存在する移動物体を順に接続してグループ化し、そのグループ化した移動物体群を1つの移動物体として認識しても良い。
【0022】
この場合、本発明のレーダ装置では、走行環境推定手段での推定の結果、走行環境が閉空間であれば、距離短縮手段が、移動物体確定手段で用いる設定距離を、走行環境が開放空間である場合に比べて短縮しても良い(請求項2)。
【0023】
このような本発明のレーダ装置によれば、走行環境が閉空間であるときに、移動物体(実像)の周辺に検出された虚像を、誤って接続してグループ化することを防止できる。
通常、先行車両等の実像に対する虚像は、実像から車幅方向にシフトした位置に検出されることが多い。
【0024】
このため、本発明における基準距離補正手段は、車幅方向に沿った距離を、第一基準距離または第二基準距離として短縮しても良い(請求項3)。
このような本発明のレーダ装置によれば、道路形状認識手段にて認識される道路端や、物体認識手段にて認識される移動物体に、虚像が含まれることをより確実に低減できる。
【0025】
本発明において、走行環境推定手段は、規定周波数域での周波数における強度を、複数回の測定サイクルに渡って積分することで、積分値を導出するようになされていても良い(請求項4)。
【0026】
このような本発明のレーダ装置によれば、周波数方向に加えて時間方向に沿って周波数における強度を積分することで積分値を導出するため、自車両の走行環境が閉空間であるか否かをより正確に推定することができる。
【0027】
さらに、本発明のレーダ装置では、走行環境推定手段での推定の結果、走行環境が閉空間であれば、虚像補正手段が、物体認識手段で認識した移動物体が虚像であるか否かを判定し、その判定の結果、移動物体が虚像である場合、該移動物体の位置を、道路形状認識手段で認識した道路形状に基づく道路上へと補正しても良い(請求項5)。
【0028】
このような本発明のレーダ装置によれば、認識された移動物体が虚像であったとしても、その移動物体の位置を、移動物体が本来存在すると考えられる位置へと補正することができる。この結果、本発明のレーダ装置によれば、移動物体の位置を、より正確に認識することができる。
【0029】
よって、レーダ装置にて認識した移動物体に関する情報を用いて、車両の制御(例えば、プリクラッシュセーフティ制御や、オートクルーズ制御)を実行する場合には、自車両がより安全に走行するように、それらの制御を実行することができる。
【0030】
特に、本発明における虚像補正手段は、移動物体の位置が、道路端よりも予め定められた距離以上道路外となる外側であれば、該移動物体が虚像であるものと判定し、該移動物体の位置を、規定された軸を対称軸として線対称となる位置へと補正しても良い(請求項6)。
【0031】
このような本発明のレーダ装置によれば、移動物体が虚像であるか否か、特に、実像である移動物体からの反射波が、トンネル壁やトンネル天井面にて更に反射した後に受信することで出現する、いわゆる、ミラーゴーストを容易に判定することができる。
【0032】
そして、本発明において、虚像である移動物体を補正する際の対称軸として、道路形状が直線路であれば、道路端が規定されても良いし(請求項7)、道路形状が曲線路であれば、虚像であると認識した移動物体の位置と自車両の位置とを結ぶ直線と、道路端との交点を接点とした道路端の接線を規定しても良い(請求項8)。
【0033】
これらのように対称軸を規定することで、本発明のレーダ装置によれば、道路形状が直線路であっても、曲線路であっても、移動物体の位置を補正することができる。
また、本発明における虚像補正手段は、移動物体が、道路形状認識手段で認識した道路端上に重なって存在する場合、移動物体を虚像であるものと判定し、該移動物体の位置を、道路端に基づく車線上へと補正しても良い(請求項9)。
【0034】
このような本発明のレーダ装置によれば、道路端(例えば、トンネル壁)に重なる位置に存在する移動物体が虚像であることを、容易に判定することができる。これにより、レーダ装置にて認識される移動物体の挙動を、実像の挙動へと修正することができる。
【0035】
なお、トンネル、覆道、及びアンダーパスといった道路環境を走行中には、ビート信号を周波数解析することで生成されたパワースペクトルのフロアレベルが上昇するという、閉空間の特徴が現れる。
【0036】
このため、本発明における走行環境推定手段は、トンネル、覆道、及びアンダーパスのうち、少なくとも1つを閉空間としても良い(請求項10)。
ただし、ここでいう覆道とは、いわゆる、スノーシェッドや、ロックシェッドなどの道路の走行面の上方に存在する空間を覆う構造物が設けられた道路である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】走行支援制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】レーダ装置が実行するメイン処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】走行環境判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】走行環境判定処理において導出するパワー積分値について説明する説明図である。
【図5】道路形状認識処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】履歴追尾処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】物体認識処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】ゴースト修正の処理内容について説明する説明図である。
【図9】ゴースト修正の処理内容について説明する説明図である。
【図10】ゴースト修正の処理内容について説明する説明図である。
【図11】本発明において、走行環境が閉空間であるか否かを判定する原理を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
〈走行支援制御システムについて〉
図1は、本発明が適用されたレーダセンサを用いて構成され、自動車に搭載して用いられる走行支援制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【0039】
走行支援制御システム1は、レーダ波を送受信することで、自車両の周辺に存在する物標を検出し、該物標に関する情報(以下、物標情報とする)を生成するレーダセンサ30と、そのレーダセンサ30にて生成された物標情報に基づいて自車両を制御する走行支援電子制御装置(以下、走行支援ECUとする)10とを備えている。なお、本実施形態の物標情報は、検出した物標の位置と、自車両と物標との間の相対速度とを少なくとも含むものである。
【0040】
この走行支援ECU10は、少なくともROM、RAM、CPUを備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、少なくともLAN通信バスを介して通信を行うためのバスコントローラを備えている。
【0041】
また、走行支援ECU10には、図示しない警報ブザー、モニター、クルーズコントロールスイッチ、目標車間設定スイッチ等が接続されている他、LAN通信バスを介して、ブレーキ電子制御装置(ブレーキECU)や、エンジン電子制御装置(エンジンECU)、シートベルト電子制御装置(シートベルトECU)等が接続されている。なお、本実施形態では、LAN通信バスを介して行うECU間のデータ通信は、車載ネットワークで一般的に行われているCAN(Robert Bosch社が提案した「Controller Area Network」)プロトコルを用いている。
【0042】
つまり、走行支援ECU10は、レーダセンサ30からの物標情報に基づいて、自車両の走行を支援する走行支援制御を実行するように構成されている。本実施形態における走行支援制御として、例えば、先行車両と自車両との車間距離を予め設定された距離に保持するアダプティブクルーズ制御や、自車両と先行車両との車間距離が予め設定された距離以下となると、警告を出力したり、シートベルトを巻き上げたりするプリクラッシュセーフティ制御がある。
〈レーダセンサの構成について〉
次に、レーダセンサ30は、FMCW方式のいわゆるミリ波レーダ装置として構成されたものであり、時間に対して周波数が直線的に増加する上り区間、及び周波数が直線的に減少する下り区間を有するように周波数変調されたミリ波帯の高周波信号を生成する発振器31と、発振器31が生成する高周波信号を増幅する増幅器32と、増幅器32の出力を送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する分配器34と、送信信号Ssに応じたレーダ波を放射する送信アンテナ36と、レーダ波を受信するn個の受信アンテナからなる受信側アンテナ部40とを備えている。なお、受信側アンテナ部40を構成する受信アンテナには、それぞれ、チャンネルCh1〜CHnが割り当てられている。
【0043】
また、レーダセンサ30は、受信側アンテナ部40を構成する受信アンテナのいずれかを順次選択し、選択された受信アンテナからの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ41と、受信スイッチ41から供給される受信信号Srを増幅する増幅器42と、増幅器42にて増幅された受信信号Srにローカル信号Lを混合して、送信信号Ssと受信信号Srとの周波数の差を表すビート信号BTを生成するミキサ43と、ミキサ43が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ44と、フィルタ44の出力をサンプリングしデジタルデータに変換するA/D変換器45と、ビート信号BTのサンプリングデータを用いて、レーダ波を反射した物標を検出すると共に、その物標についての物標情報を生成するメイン処理を実行する信号処理部46とを備えている。
【0044】
この信号処理部46は、少なくとも、ROM、RAM、CPUを備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、さらに、A/D変換器45を介して取り込んだデータに対して、高速フーリエ変換(FFT)処理等を実行するための演算処理装置(例えば、DSP)を備えている。
【0045】
つまり、このように構成されたレーダセンサ30では、信号処理部46からの指令に従って発振器31が振動すると、その発振器31で生成され、増幅器32で増幅した高周波信号を、分配器34が電力分配することにより、送信信号Ss及びローカル信号Lを生成し、このうち送信信号Ssを送信アンテナ36を介してレーダ波として送信する。
【0046】
そして、送信アンテナ36から送出されて物標に反射されたレーダ波(即ち、反射波)は、受信側アンテナ部40を構成する全ての受信アンテナにて受信され、受信スイッチ41によって選択されている受信チャンネルCHi(i=1〜n)の受信信号Srのみが増幅器32で増幅された後、ミキサ43に供給される。すると、ミキサ43では、この受信信号Srに分配器34からのローカル信号Lを混合することによりビート信号BTを生成する。そして、このビート信号BTは、フィルタ44にて不要な信号成分が除去された後、A/D変換器45にてサンプリングされ、信号処理部46に取り込まれる。
【0047】
なお、受信スイッチ41は、レーダ波の一変調周期の間に、全てのチャンネルCH1からCHnが所定回(例えば、512回)ずつ選択されるよう切り替えられ、また、A/D変換器45は、この切り替えタイミングに同期してサンプリングを実行する。つまり、レーダ波の一変調周期の間に、各チャンネルCH1〜CHn毎かつレーダ波の上り、及び下り区間毎にサンプリングデータが蓄積されることになる。
〈メイン処理の処理内容について〉
次に、レーダセンサ30にて実行されるメイン処理について説明する。
【0048】
このメイン処理は、予め規定された規定時間間隔(即ち、測定サイクル)毎に起動されるものであり、起動されると、図2に示すように、まず、発振器31を起動してレーダ波の送信を開始する(S110)。続いて、A/D変換器45を介してビート信号BTのサンプリング値を取得し(S120)、必要なだけサンプリング値を取得すると、発振器31を停止することにより、レーダ波の送信を停止する(S130)。
【0049】
次に、S130にて取得したサンプリング値について周波数解析(本実施形態では、FFT処理)を実行し、受信チャンネルCH1〜CHn毎かつ上り/下り区間毎にビート信号BTのパワースペクトルを求める(S140)。このパワースペクトルは、ビート信号BTに含まれる周波数と、その周波数における強度とを表したものである。
【0050】
続いて、上り区間、及び下り区間のそれぞれについて、パワースペクトル上に存在する各周波数ピークを検出する(S150)。具体的には、受信チャンネルCH毎に求められたパワースペクトルを、全ての受信チャンネルで相加平均した平均スペクトルを導出し、その平均スペクトルの中で、予め設定された設定閾値を超える周波数における強度のピーク点に対応する(即ち、周波数における強度が極大値となる)周波数を周波数ピークとして検出する。
【0051】
そして、S140で求めたパワースペクトルに基づき、物標である可能性がある物標候補が存在する方位を推定する方位解析を実行する(S160)。本実施形態における方位解析としては、半値角の狭いアンテナのヌル点を利用し、パワースペクトルから、MUSICスペクトルを求める周知のMUSIC法を用いる。このMUSIC法によれば、MUSICスペクトルのピーク点が、物標候補が存在する方位を表す指標となる。
【0052】
さらに、上り区間のビート信号BTから求められた周波数ピークと、下り区間のビート信号BTから求められた周波数ピークとを、同一物標にてレーダ波を反射したとみなせるもの同士でマッチングして登録するペアマッチングを実行する(S170)。具体的には、上り区間の周波数ピークと下り区間の周波数ピークとの電力差、及び角度差が予め規定された許容範囲内であるか否かを判定し、その判定の結果、電力差及び角度差が共に、許容範囲内であれば、両周波数ピークをマッチングして、そのマッチングした周波数ピークのペアを登録する。この登録された周波数ピークのペアは、それぞれ、物標候補に対応する。
【0053】
なお、本実施形態のペアマッチング(S170)では、登録された周波数ピークのペアに対して、FMCW方式のレーダ装置における周知の手法により、レーダセンサ30から物標候補までの距離、物標候補と自車両との相対速度を導出する。本実施形態では、このとき、物標候補と自車両との相対速度、及び自車両の車速に基づいて、各物標候補の速度を導出すると共に、その物標候補が、停止物であるか移動物であるかを判定する。そして、導出された距離及び相対速度(速度)に、物標候補が存在する方位を加えた情報を、物標情報として生成する。
【0054】
さらに、詳しくは後述する、走行環境判定処理(S180)、道路形状認識処理(S190)、履歴追尾処理(S200)、物体認識処理(S210)を実行する。そして、外挿補間(S220)、ゴースト修正(S230)を実行した後、選択された物体に関する物標情報を走行支援ECU10に出力する(S240)。
〈走行環境判定処理の処理内容について〉
次に、メイン処理のS180にて実行される走行環境判定処理について、図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0055】
この走行環境判定処理は、起動されると、まず、図4に示す平均スペクトル(パワースペクトル)において、予め規定された規定周波数域での周波数における強度を積分した積分値(以下、パワー積分値とする)を導出する(S310)。なお、本実施形態における規定周波数域は、道路の走行面の上方に存在する空間が覆われた閉空間を走行中に生成したパワースペクトルと、道路の走行面の上方に存在する空間が覆われていない開放空間を走行中に生成したパワースペクトルとのフロアレベルの差が顕著に表れるビート信号BTにおける高周波帯域(図11参照)として規定されている。本実施形態において、閉空間とは、例えば、トンネル内や、覆道(スノーシェッドや、ロックシェッド)、アンダーパスといった道路環境である。
【0056】
続いて、その導出したパワー積分値が、予め定められた基準閾値よりも大きいか否かを判定する(S320)。なお、本実施形態において、基準閾値とは、開放空間を走行中に導出されるパワー積分値よりも大きな値であり、例えば、予め実験などで求めた、開放空間を走行中におけるパワー積分値に、所定の値を加えたもの(ただし、閉空間を走行中におけるパワー積分値以下)である。
【0057】
S320での判定の結果、パワー積分値が基準閾値以下であれば(S320:NO)、詳しくは後述するS370へと進む。一方、パワー積分値が基準閾値よりも大きければ(S320:YES)、閉空間カウンタのカウント値CNTIPが、カウント値の上限として設定された上限値CNTIPMAX未満であるか否かを判定する(S330)。
【0058】
そのS330での判定の結果、カウント値CNTIPが上限値CNTIPMAX未満であれば(S330:YES)、カウント値CNTIPをインクリメントする(S340)。さらに、カウント値CNTIPが、予め設定された閾値THCA(ただし、閾値THCA≦上限値CNTIPMAX)よりも大きいか否かを判定する(S350)。
【0059】
そのS350での判定の結果、カウント値CNTIPが閾値THCAよりも大きければ(S350:YES)、自車両が走行している道路環境を表す走行環境が閉空間となってからの経過時間が、予め規定された規定時間を超えたものと判断して、走行環境が閉空間であることを表す閉空間フラグをセットする(S360)。そして、その後、本走行環境判定処理を終了して、メイン処理のS190へと進む。
【0060】
一方、S350での判定の結果、カウント値CNTIPが閾値THCA以下であれば(S350:NO)、走行環境が閉空間となってからの経過時間が規定時間以下であるもの判断して、閉空間フラグをセットすることなく、走行環境判定処理を終了してメイン処理のS190へと進む。なお、S330での判定の結果、カウント値CNTIPが上限値CNTIPMAX以上であれば(S330:NO)、閉空間フラグがセットされた状態を維持したまま、本走行環境判定処理を終了して、メイン処理のS190へと進む。
【0061】
次に、S320での判定の結果、パワー積分値が基準閾値以下である場合に進むS370では、カウント値CNTIPが「0」よりも大きいか否かを判定する。その判定の結果、カウント値CNTIPが「0」よりも大きければ(S370:YES)、カウント値CNTIPをデクリメントする(S380)。ただし、本実施形態において、カウント値CNTIPの最小値は「0」である。
【0062】
続いて、カウント値CNTIPが「0」であるか否かを判定する(S390)。その判定の結果、カウント値CNTIPが「0」であれば(S390:YES)、走行環境が開放空間となってからの経過時間が、所定時間以上であるものと判断して、閉空間フラグを解除する(S400)。その後、本走行環境判定処理を終了して、メイン処理のS190へと進む。
【0063】
一方、S390での判定の結果、カウント値CNTIPが「0」でなければ(S390:NO)、走行環境が開放空間となってからの経過時間が、所定時間未満であるものと判断して、閉空間フラグがセットされた状態を維持したまま、本走行環境判定処理を終了し、メイン処理のS190へと進む。なお、S370での判定の結果、カウント値CNTIPが「0」以下であれば(S370:NO)、走行環境が開放空間で継続しているものと判断して、閉空間フラグを解除した状態に維持したまま、本走行環境判定処理を終了し、メイン処理のS190へと進む。
【0064】
つまり、走行環境判定処理では、S140にて求めたパワースペクトルに基づくパワー積分値が、規定時間以上継続して基準閾値以上であれば、走行環境が閉空間であるものとして判定して、閉空間フラグをセットする。一方、パワー積分値が所定時間以上継続して基準閾値未満であれば、走行環境が開放空間であるものと判定し、閉空間フラグを解除する。
〈道路形状認識処理の処理内容について〉
次に、メイン処理のS190にて実行される道路形状認識処理は、起動されると、図5に示すように、まず、前回の測定サイクル、及び今回の測定サイクルで登録した周波数ピークのペアの中で、停止物であること表す周波数ピークのペア(以下、停止物ペアとする)を、予め用意された物標配置マップにセットする(S510)。この物標配置マップは、自車両の進行方向と、自車両からの横位置とを軸として、それらの軸が直交する平面状のマップであり、物標候補が位置する方位と、自車両から物標候補までの距離に応じて、各物標候補をマッピングするものである。
【0065】
続いて、メイン処理を前回実行した際に(即ち、前回の測定サイクルにおける道路形状認識処理で)認識した道路形状に基づき、物標配置マップにセットされた停止物ペアのうち、道路の走行路面上に存在する停止物ペアを除去する(S520)。
【0066】
そして、先の走行環境判定処理で判定した走行環境が、閉空間であるか否かを判定する(S530)。その判定の結果、走行環境が閉空間でなければ、即ち、開放空間であれば(S530:NO)、本発明の第一基準距離に相当する接続基準距離を、予め規定された開放空間距離に設定する(S540)。一方、走行環境が閉空間であれば(S530:YES)、接続基準距離を、開放空間距離よりも短い距離である閉空間距離に設定する(S550)。
【0067】
具体的に、本実施形態のS530では、閉空間フラグがセットされていれば、走行環境が閉空間であるものと判定し、閉空間フラグがセットされていなければ、走行環境が開放空間であるものと判定する。
【0068】
続いて、物標配置マップにおいて、自車両の右側にて、自車両に最も近い位置に存在する停止物ペアを基点として(以下、基点とする停止物ペアを基準停止物ペアとする)、停止物ペアを順次接続して、停止物群Rを生成する。(S560)。このS560では、基準停止物ペアから、自車両の進行方向を基準軸とした反時計回りの方向に沿って、設定された接続基準距離の範囲内に最初に存在する停止物ペアを接続する。さらに、その接続した停止物ペアを基準停止物ペアとして、自車両の進行方向を基準軸とした反時計回りの方向に沿って接続基準距離の範囲内に最初に存在する停止物ペアを接続することを繰り返して、停止物ペア群をグループ化する。
【0069】
さらに、物標配置マップにおいて、自車両の左側にて、自車両に最も近い位置に存在する停止物ペアを基準停止物ペアとして、停止物ペアを順次接続して、停止物群Lを生成する。(S570)。このS570にて停止物群Lを生成する方法は、基準軸から接続基準距離の範囲内に存在する停止物ペアを探索する方向が、時計回りであるという点を除けば、S560における停止物群Rを生成する方法と同様であるため、ここでの詳しい説明は省略する。なお、停止物群Rとは、S560においてグループ化された停止物ペア群であり、停止物群Lとは、S560においてグループ化された停止物ペア群である。
【0070】
そして、S560にて生成した停止物群R、及びS570にて生成した停止物群Lそれぞれを、自車両が走行している道路の右端、左端として確定する(S580)。以下、右端、左端をまとめて、道路端と称す。
【0071】
さらに、道路端に対応する停止物群L,Rによって形成される領域、即ち、停止物群L,Rを構成する停止物ペアの位置を接続順に結んだ領域を、予め用意されたテーブルである道路端テーブルにセットする(S590)。続いて、物標配置マップにセットされている停止物ペアの中で、道路端に対応する停止物ペア以外の停止物ペア(図5中、異常ペア)を除去する(S600)。
【0072】
その後、メイン処理のS200へと進む。
つまり、本実施形態の道路形状認識処理では、S170にて生成した物標情報に基づいて、基準停止物ペアから、自車両の進行方向を基準軸として規定された方向に沿って、設定された接続基準距離の範囲内に最初に存在する停止物ペアを順次接続する。そして、このように接続することでグループ化された停止物群によって形成される領域を道路端(即ち、道路形状)として認識する。ただし、本実施形態の道路形状認識処理では、停止物ペアを接続する際に用いられる接続基準距離は、走行環境が開放空間であれば、開放空間距離に設定され、走行環境が閉空間であれば、開放空間距離よりも短い閉空間距離に設定される。
〈履歴追尾処理の処理内容について〉
次に、メイン処理のS200にて実行される履歴追尾処理は、起動されると、図6に示すように、まず、走行環境が閉空間であるか否かを判定する(S710)。
【0073】
そのS710での判定の結果、走行環境が閉空間でなければ、即ち、開放空間であれば(S710:NO)、本発明の第二基準距離に相当する追尾基準距離DR、及び本発明の設定基準距離に相当するセグメント距離DRSを、予め規定された開放距離に設定する(S720)。一方、走行環境が閉空間であれば(S710:YES)、追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSを、開放距離よりも短い距離である閉塞距離に設定する(S730)。なお、S720やS730にて追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSとして設定される開放距離または閉塞距離は、同一名称の閉塞距離や開放距離であっても、追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSに対して互いに異なる距離が設定されても良い。
【0074】
そして、前回の測定サイクルで登録された周波数ピークのペア(以下、前サイクルペアとする)と、今回の測定サイクルで登録された周波数ピークのペア(以下、今サイクルペアとする)との組み合わせを設定する(S740)。その組み合わせた周波数ピークのペア(以下、組合せペアと称す)のいずれか1つを取り出す(S750)。
【0075】
続いて、S750で取り出した組合せペアのうち、前サイクルペアの物標情報に基づいて予測され、その前サイクルペアに対応する今サイクルペアが存在する位置(以下、予測位置とする)、及び今サイクルペアの速度(以下、予測速度とする)を導出する(S760)。この予測位置及び予測速度の導出は、周知の処理であるため、ここでの詳しい説明は省略するが、例えば、カルマンフィルタなどを用いて、時系列に沿った周波数ピークのペア(即ち、物標候補)の挙動を予測し、その予測した結果を、予測位置及び予測速度とすることが考えられる。
【0076】
そして、S760で導出した予測位置及び予測速度と、今サイクルペアから導出された位置及び速度とに基づいて、両者の位置差分、及び速度差分を導出する(S770)。すなわち、位置差分とは、今サイクルペアから導出された位置(即ち、今サイクルペアに対応する物標候補の位置)と予測位置との差分であり、速度差分とは、今サイクルペアから導出された速度(即ち、今サイクルペアに対応する物標候補の速度)と予測速度との差分である。
【0077】
続いて、S770で導出した位置差分が追尾基準距離DRより小さく、かつ速度差分が予め規定された上限速度差DVよりも小さいか否かを判定する(S780)。その判定の結果、位置差分及び速度差分の両者が共に小さい場合にのみ(S780:YES)、組合せペアを構成する周波数ピークのペアは履歴接続があるものとして、今サイクルペアの検出カウンタのカウント値CNTiを、前サイクルペアの検出カウンタのカウント値CNTiに1を加算した値へと更新する(S790)。
【0078】
そして、先のS740にて設定した全ての組合せペアについて、上述のS750〜S790のステップを実行したか否かを判定し(S800)、未処理の組合せペアがあれば(S800:NO)、S750へと戻る。一方、全ての組合せペアについて処理が完了していれば(S800:YES)、本履歴追尾処理を終了して、メイン処理のS210へと進む。
【0079】
つまり、本実施形態の履歴追尾処理では、前サイクルペアとの履歴接続がある今サイクルペアには、対応する前サイクルペアの情報(検出カウンタのカウント値CNTi)が引き継がれ、前サイクルペアとの履歴接続が無い今サイクルペアについては、検出カウンタのカウント値CNTiが0に維持される。ただし、本実施形態の履歴追尾処理では、履歴接続の可否を判定する際に用いる追尾基準距離DRは、走行環境が開放空間であれば、開放距離に設定され、走行環境が閉空間であれば、開放距離よりも短い閉塞距離に設定される。
〈物体認識処理の処理内容について〉
次に、メイン処理のS210にて実行される物体認識処理は、起動されると、図7に示すように、ペア登録された今サイクルペアの中から、1つの今サイクルペアを取り出す(S910)。その取り出した今サイクルペアの検出カウンタのカウント値CNTiが、予め設定された認識閾値CNTTSD(本発明の規定回数に相当)以上であるか否かを判定する(S920)。
【0080】
その判定の結果、検出カウンタのカウント値CNTiが認識閾値CNTTSD以上であれば(S920:YES)、S910で取り出した今サイクルペアに対応する物標候補が、移動物体(例えば、先行車両)であることを確定して、移動物体登録を実行する(S930)。一方、検出カウンタのカウント値CNTiが認識閾値CNTTSD未満であれば(S920:NO)、S930を実行することなく、S940へと進む。そして、全ての今サイクルペアについて、上述したS910〜S930のステップを実行したか否かを判定し(S940)、未処理の今サイクルペアがあれば(S940:NO)、S910へと戻る。
【0081】
一方、全ての今サイクルペアについて、S910〜S930のステップが完了していれば(S940:YES)、S930にて登録された移動物体の中から、2つの移動物体を選択し、それらの選択された移動物体間の距離(以下、物体間距離と称す)、及びそれらの選択された移動物体間の相対速度(以下、物体間相対速度)を導出する(S950)。その物体間距離が、先のS720またはS730にて設定されたセグメント距離DRSよりも小さく、かつ物体間相対速度が予め規定された相対速度である規定相対速度DRVよりも小さいか否かを判定する(S960)。
【0082】
そのS960での判定の結果、物体間距離がセグメント距離DRSよりも小さく、かつ物体間相対速度が規定相対速度DRVよりも小さければ(S960:YES)、その物体間距離及び物体間相対速度を導出した際の2つの移動物体が、1つの移動物体であるものとして、両移動物体に対応する移動物体登録を修正する(S970)。一方、S960での判定の結果、物体間距離がセグメント距離DRS以上、または、物体間相対速度が規定相対速度DRV以上であれば(S960:NO)、その物体間距離を導出した際の2つの移動物体は、それぞれ別の移動物体であるものと判断して、S970を実行することなく、S980へと進む。
【0083】
そして、移動物体の全ての組合せについて、上述したS950〜S970のステップを実行したか否かを判定し(S980)、未処理の移動物体の組合せがあれば(S980:NO)、S950へと戻る。一方、全ての移動物体の組合せについてS950〜S970のステップを実行していれば、本物体認識処理を終了して、メイン処理のS220へと進む。
【0084】
つまり、本実施形態の物体認識処理では、認識閾値CNTTSD以上の履歴接続が確認された周波数ピークのペアを移動物体として確定して登録し、さらに、登録された移動物体の中に、複数(例えば、2つ)の移動物体で1つの移動物体を構成するものがあれば、登録した移動物体を修正する。ただし、本実施形態の物体認識処理では、複数の移動物体で1つの物体を構成しているか否かの判定を行う際のセグメント距離DRSは、走行環境が開放空間であれば、開放距離に設定され、走行環境が閉空間であれば、開放距離よりも短い閉塞距離に設定されている。
【0085】
次に、メイン処理のS220で実行される外挿補間は、前回の測定サイクルで登録された移動物体の中で、今回の測定サイクルに検出された周波数ピークのペアと履歴接続がないもののうち、履歴接続が途絶えてから予め規定された外挿期間内のものについては、周波数ピークのペアの外挿を許可することにより、移動物体の登録を継続する。そして、外挿期間が経過した後に、履歴接続が再開された周波数ピークのペアが検出されなければ、その移動物体の登録を削除する。この外挿補間は、周知の処理であるため、これ以上の詳しい説明は省略する。
〈ゴースト修正処理の処理内容について〉
続いて、メイン処理のS230で実行されるゴースト修正処理について説明する。
【0086】
本実施形態のゴースト修正処理では、走行環境が閉空間であれば、登録された個々の移動物体が虚像であるか否かを判定し、その判定の結果、移動物体が虚像であれば、その虚像と判定された移動物体の位置を、対応する実像(即ち、真の移動物体)の位置へと修正したり、その虚像を削除したりする。
【0087】
本実施形態のゴースト処理では、道路形状認識処理で認識した道路形状に基づく道路(トンネル)が直線路であれば、例えば、図8に示すように、登録された移動物体の中で、道路形状認識処理で認識した道路端に基づく道路外に存在し、かつその道路端から、予め定められた距離以上離れた位置(図中(L+LWG,δ))に存在する移動物体A'を、虚像(ゴースト)と判定する。そして、虚像と判定された移動物体A'の位置を、道路端を対称軸として線対称となる位置(図中、移動物体A(r,δ)、LWG=LWR)へと補正(修正)する。
【0088】
本実施形態のゴースト処理では、道路形状認識処理で認識した道路形状に基づく道路(トンネル)が曲線路であれば、例えば、図9に示すように、登録された移動物体の中で、道路形状認識処理で認識した道路端に基づく道路外に存在し、かつその道路端から、予め定められた距離以上離れた位置(図中(L+LWG,δ))に存在する移動物体A'を、虚像(ゴースト)と判定する。そして、虚像と判定された移動物体A'の位置を、該移動物体A'の位置と自車両の位置とを結ぶ直線と、道路端との交点を接点(図中、B(a,b))とした道路端の接線を対称軸として線対称となる位置(図中、移動物体A(r,δ)、LWG=LWR)へと補正(修正)する。
【0089】
また、本実施形態のゴースト処理では、例えば、図10に示すように、登録された移動物体の中で、道路形状認識処理で認識した道路端に重なる位置に存在する移動物体A'を、虚像(ゴースト)と判定する。そして、虚像と判定された移動物体A'の位置を、道路端から最も近い車線上の位置(図中、破線で描かれた円の位置)へと補正(修正)する。
【0090】
これら図8,9,10に示すゴースト修正処理は、移動物体A及び移動物体A'の両方が登録されているときに実行しても良いし、移動物体A'のみが登録され、移動物体Aが登録されていないときに、実行しても良い。
【0091】
続いて、メイン処理のS240では、移動物体に関する物標情報を走行支援ECU10に出力する。
そして、その後、本メイン処理を終了し、次回の測定サイクルまで待機する。
[実施形態の効果]
以上説明したように、レーダセンサ30では、ビート信号を周波数解析することで導出したパワースペクトルに基づくパワー積分値が規定時間以上継続して基準閾値以上であれば、走行環境が閉空間であるものとして判定して、パワー積分値が所定時間以上継続して基準閾値未満であれば、走行環境が開放空間であるものと判定している。これにより、レーダセンサ30によれば、走行環境が閉空間であるか否かを、該レーダ装置単体で精度良く判定することができる。
【0092】
さらに、レーダセンサ30では、接続基準距離、追尾基準距離DR、及びセグメント距離DRSを、走行環境が開放空間であれば、開放空間距離、または開放距離に設定し、走行環境が閉空間であれば、開放空間距離(または開放距離)よりも短い閉空間距離(閉塞距離)に設定する。これにより、レーダセンサ30によれば、複数回反射した反射波に基づき物標候補として検出した虚像(即ち、実際には存在しないにも拘わらず、物標候補として検出されるゴースト)が、道路端や移動物体に含まれることを防止できる。
【0093】
また、レーダセンサ30によれば、走行環境が開放空間であれば、接続基準距離、追尾基準距離DR、及びセグメント距離DRSが、開放空間距離または開放距離に維持される。このため、例えば、夜間の開放空間のように、低照度値かつ閉空間ではない道路環境下を走行中であっても、道路端や移動物体の認識精度を、高照度値かつ開放空間である道路環境下を走行中と同レベルに維持することができる。
【0094】
つまり、レーダセンサ30によれば、自車両の走行環境が閉空間であるか否かをレーダ装置単体で精度良く判定できると共に、照度が低い道路環境下における物標の認識精度が低下することを防止できる。
【0095】
さらに、レーダセンサ30では、認識した移動物体が虚像であれば、その虚像の位置を、対応する実像の位置へと修正している。このため、レーダセンサ30によれば、認識した移動物体が虚像であったとしても、その移動物体の位置を、移動物体が本来存在すると考えられる位置へと補正することができ、ひいては、移動物体の位置を、より正確に認識することができる。
【0096】
これらの結果、走行支援制御システム1によれば、レーダセンサ30にて認識した移動物体に関する情報を用いて、車両の制御(例えば、プリクラッシュセーフティ制御や、オートクルーズ制御)を実行する場合には、自車両がより安全に走行するように、それらの制御を実行することができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0097】
例えば、上記実施形態では、走行環境に応じた接続基準距離の設定を、道路形状認識処理(S530〜S550)において実行していたが、この走行環境に応じた接続基準距離の設定タイミングは、これに限るものではない。つまり、走行環境に応じた接続基準距離の設定タイミングは、走行環境判定処理の終了直後であっても良いし、走行環境判定処理内であっても良い。換言すれば、S530〜S550のステップが、前者の場合、メイン処理における走行環境判定処理の直後に実行されても良く、後者の場合、走行環境判定処理のS360かつS400以降に実行されても良い。
【0098】
また、上記実施形態では、走行環境に応じた追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSの設定を、履歴追尾処理(S710〜S730)において実行していたが、この走行環境に応じた追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSの設定タイミングは、これに限るものではない。例えば、走行環境に応じた追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSの設定タイミングは、走行環境判定処理の終了直後であっても良いし、走行環境判定処理内であっても良い。
【0099】
なお、接続基準距離、追尾基準距離DR、及びセグメント距離DRSは、自車両の進行方向に沿った距離と、自車両の車幅方向に沿った距離(以下、横距離)とを有していても良い。この場合、接続基準距離として道路形状認識処理のS550で設定する閉空間距離や、追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSとして履歴追尾処理のS730で設定する閉塞距離は、少なくとも横距離であることが好ましい。
【0100】
また、上記実施形態のゴースト修正(S230)では、登録された移動物体の中で、道路形状認識処理で認識した道路端に基づく道路外に存在し、かつその道路端からの距離LWGが、道路端から道路内までの距離LWRに合致する移動物体A'を虚像(ゴースト)と判定していたが、移動物体が虚像であるか否かの判定方法は、これに限るものではなく、周知の手法を用いて、登録された個々の移動物体が虚像であるか否かを判定しても良い。この場合、虚像の位置を、対応する実像の位置へと修正する方法についても、周知の手法を用いればよい。
[実施形態と特許請求の範囲との対応関係]
最後に、上記実施形態の記載と、特許請求の範囲の記載との関係を説明する。
【0101】
上記実施形態のメイン処理におけるS110〜S130が、本発明の送受信手段に相当し、S140が、本発明の周波数解析手段に相当し、S150〜S170が、本発明の物標候補検出手段に相当し、S190(即ち、道路形状認識処理)が、本発明の道路形状認識手段に相当し、S200〜S220(即ち、履歴追尾処理、物体認識処理、外挿補間)が、本発明の物体認識手段に相当する。
【0102】
そして、上記実施形態のメイン処理におけるS180(即ち、走行環境判定処理)が、本発明の走行環境推定手段に相当し、道路形状認識処理におけるS530〜S550、及び履歴追尾処理におけるS710〜S730が、本発明の基準距離補正手段に相当する。
【0103】
さらに、物体認識処理におけるS950〜S980が、本発明の移動物体確定手段に相当し、履歴追尾処理におけるS710〜S730が、本発明の距離短縮手段に相当し、メイン処理におけるS230が、本発明の虚像補正手段に相当する。
【符号の説明】
【0104】
1…走行支援制御システム 10…走行支援ECU 30…レーダセンサ 31…発振器 32…増幅器 34…分配器 36…送信アンテナ 40…受信側アンテナ部 41…受信スイッチ 42…増幅器 43…ミキサ 44…フィルタ 45…A/D変換器 46…信号処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間と共に周波数が直線的に変化するように周波数変調されたレーダ波を、予め規定された測定サイクル毎に送信し、物標にて反射された該レーダ波である反射波を受信すると共に、前記レーダ波の送信信号と前記反射波の受信信号とを混合することでビート信号を生成する送受信手段と、
前記送受信手段でビート信号を生成する毎に、該ビート信号に含まれる周波数と各周波数における強度とを表すパワースペクトルを導出する周波数解析手段と、
前記周波数解析手段でパワースペクトルが生成される毎に、該パワースペクトルにて周波数における強度が極大値となる各周波数を表す周波数ピークを、物標である可能性がある物標候補として検出し、各物標候補の位置及び速度を導出する物標候補検出手段と、
前記物標候補検出手段にて1ないし複数回の測定サイクルで検出された物標候補のうち、停止している物標候補について、基点となる物標候補の位置から、設定された第一基準距離の範囲内に存在する物標候補を予め規定された方向に沿って順に接続してグループ化し、そのグループ化した物標候補の位置を接続順に結んだ領域である道路端を少なくとも含む道路形状を認識する道路形状認識手段と、
前記物標候補検出手段にて検出された物標候補のうち、移動している物標候補について、規定回数の測定サイクルに渡って、先の測定サイクルにて検出された物標候補の位置に基づいて予測した予測位置から、設定された第二基準距離の範囲内に、次の測定サイクルにて検出された物標候補が存在すれば、該物標候補を移動物体として認識する物体認識手段と
を備え、車両に搭載して用いられるレーダ装置であって、
前記周波数解析手段で導出されたパワースペクトルにおける予め定められた規定周波数域での周波数における強度を積分した積分値が、予め定められた基準閾値以上であれば、自車両が走行する道路環境を表す走行環境が、道路の走行面の上方に存在する空間が覆われた閉空間であるものと推定する走行環境推定手段と、
前記走行環境推定手段での推定の結果、前記走行環境が閉空間であれば、前記道路形状認識手段で用いる第一基準距離、及び前記物体認識手段で用いる第二基準距離の少なくとも一方を、前記走行環境が開放空間である場合に比べて短縮する基準距離補正手段と
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記物体認識手段は、
1回の測定サイクルで認識した複数の移動物体について、基点となる移動物体の位置から、予め規定された方向に沿って設定基準距離の範囲内に存在する移動物体を順に接続してグループ化し、そのグループ化した移動物体群を1つの移動物体として認識する移動物体確定手段を備え、
前記走行環境推定手段での推定の結果、前記走行環境が閉空間であれば、前記移動物体確定手段で用いる設定基準距離を、前記走行環境が開放空間である場合に比べて短縮する距離短縮手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記基準距離補正手段は、
車幅方向に沿った距離を、前記第一基準距離または前記第二基準距離として短縮することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記走行環境推定手段は、
前記規定周波数域での周波数における強度を、複数回の測定サイクルに渡って積分することで、前記積分値を導出することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記走行環境推定手段での推定の結果、前記走行環境が閉空間であれば、前記物体認識手段で認識した移動物体が虚像であるか否かを判定し、その判定の結果、前記移動物体が虚像である場合、該移動物体の位置を、前記道路形状認識手段で認識した道路形状に基づく道路上へと補正する虚像補正手段
を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記虚像補正手段は、
前記移動物体の位置が、前記道路端よりも予め定められた距離以上道路外となる外側であれば、該移動物体が虚像であるものと判定し、
該移動物体の位置を、規定された軸を対称軸として線対称となる位置へと補正することを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記虚像補正手段は、
前記道路形状が直線路であれば、前記道路端を対称軸として規定することを特徴とする請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記虚像補正手段は、
前記道路形状が曲線路であれば、虚像であると認識した移動物体の位置と自車両の位置とを結ぶ直線と、前記道路端との交点を接点とした道路端の接線を、前記対称軸として規定することを特徴とする請求項6または請求項7に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記虚像補正手段は、
前記移動物体が、前記道路形状認識手段で認識した道路端上に重なって存在する場合、前記移動物体を虚像であるものと判定し、
該移動物体の位置を、前記道路端に基づく車線上へと補正することを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記走行環境推定手段は、
トンネル、覆道、及びアンダーパスのうち、少なくとも1つを前記閉空間とすることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項1】
時間と共に周波数が直線的に変化するように周波数変調されたレーダ波を、予め規定された測定サイクル毎に送信し、物標にて反射された該レーダ波である反射波を受信すると共に、前記レーダ波の送信信号と前記反射波の受信信号とを混合することでビート信号を生成する送受信手段と、
前記送受信手段でビート信号を生成する毎に、該ビート信号に含まれる周波数と各周波数における強度とを表すパワースペクトルを導出する周波数解析手段と、
前記周波数解析手段でパワースペクトルが生成される毎に、該パワースペクトルにて周波数における強度が極大値となる各周波数を表す周波数ピークを、物標である可能性がある物標候補として検出し、各物標候補の位置及び速度を導出する物標候補検出手段と、
前記物標候補検出手段にて1ないし複数回の測定サイクルで検出された物標候補のうち、停止している物標候補について、基点となる物標候補の位置から、設定された第一基準距離の範囲内に存在する物標候補を予め規定された方向に沿って順に接続してグループ化し、そのグループ化した物標候補の位置を接続順に結んだ領域である道路端を少なくとも含む道路形状を認識する道路形状認識手段と、
前記物標候補検出手段にて検出された物標候補のうち、移動している物標候補について、規定回数の測定サイクルに渡って、先の測定サイクルにて検出された物標候補の位置に基づいて予測した予測位置から、設定された第二基準距離の範囲内に、次の測定サイクルにて検出された物標候補が存在すれば、該物標候補を移動物体として認識する物体認識手段と
を備え、車両に搭載して用いられるレーダ装置であって、
前記周波数解析手段で導出されたパワースペクトルにおける予め定められた規定周波数域での周波数における強度を積分した積分値が、予め定められた基準閾値以上であれば、自車両が走行する道路環境を表す走行環境が、道路の走行面の上方に存在する空間が覆われた閉空間であるものと推定する走行環境推定手段と、
前記走行環境推定手段での推定の結果、前記走行環境が閉空間であれば、前記道路形状認識手段で用いる第一基準距離、及び前記物体認識手段で用いる第二基準距離の少なくとも一方を、前記走行環境が開放空間である場合に比べて短縮する基準距離補正手段と
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記物体認識手段は、
1回の測定サイクルで認識した複数の移動物体について、基点となる移動物体の位置から、予め規定された方向に沿って設定基準距離の範囲内に存在する移動物体を順に接続してグループ化し、そのグループ化した移動物体群を1つの移動物体として認識する移動物体確定手段を備え、
前記走行環境推定手段での推定の結果、前記走行環境が閉空間であれば、前記移動物体確定手段で用いる設定基準距離を、前記走行環境が開放空間である場合に比べて短縮する距離短縮手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記基準距離補正手段は、
車幅方向に沿った距離を、前記第一基準距離または前記第二基準距離として短縮することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記走行環境推定手段は、
前記規定周波数域での周波数における強度を、複数回の測定サイクルに渡って積分することで、前記積分値を導出することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記走行環境推定手段での推定の結果、前記走行環境が閉空間であれば、前記物体認識手段で認識した移動物体が虚像であるか否かを判定し、その判定の結果、前記移動物体が虚像である場合、該移動物体の位置を、前記道路形状認識手段で認識した道路形状に基づく道路上へと補正する虚像補正手段
を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記虚像補正手段は、
前記移動物体の位置が、前記道路端よりも予め定められた距離以上道路外となる外側であれば、該移動物体が虚像であるものと判定し、
該移動物体の位置を、規定された軸を対称軸として線対称となる位置へと補正することを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記虚像補正手段は、
前記道路形状が直線路であれば、前記道路端を対称軸として規定することを特徴とする請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記虚像補正手段は、
前記道路形状が曲線路であれば、虚像であると認識した移動物体の位置と自車両の位置とを結ぶ直線と、前記道路端との交点を接点とした道路端の接線を、前記対称軸として規定することを特徴とする請求項6または請求項7に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記虚像補正手段は、
前記移動物体が、前記道路形状認識手段で認識した道路端上に重なって存在する場合、前記移動物体を虚像であるものと判定し、
該移動物体の位置を、前記道路端に基づく車線上へと補正することを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記走行環境推定手段は、
トンネル、覆道、及びアンダーパスのうち、少なくとも1つを前記閉空間とすることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図11】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図11】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−58018(P2012−58018A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199988(P2010−199988)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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