説明

ロボットプログラム調整装置

【課題】試行錯誤を行うことなしに、負荷の大きい軸に掛かる負荷を軽減する。
【解決手段】複数の軸を有するロボットアームの動作プログラムを調整するロボットプログラム調整装置(11)が、ロボットアームの動作プログラムから動作命令を順次読込んでシミュレーションを実行することにより、過負荷が掛かる軸を複数の軸から特定する過負荷特定手段(12)と、過負荷特定手段により特定された軸以外の軸に対して付加的な動作を生成して、特定された軸の負荷を軽減する付加的動作生成手段(13)と、付加的動作生成手段により生成された付加的な動作に基づいてロボットアームの動作プログラムを調整するプログラム調整手段(15)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の軸を有するロボットアームの動作プログラムを調整するロボットプログラム調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、オフラインで作成されたロボットの動作プログラムは、そのまま現場で使用されることはほとんどなく、修正されてから使用されている。これは、オフライン上の世界とオンライン上(現場)の世界で、ワークとロボットの相対的位置関係やロボットの姿勢などが微妙に異なり、ずれを生じるためである。
【0003】
特許文献1には、シミュレーションを用いて動作プログラムを修正する際に、ロボットの各軸の負荷を算出することが開示されている。
【特許文献1】特開2007−054942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1においては、オフラインによるロボットの各軸の負荷を算出できた場合であっても、そのような負荷もしくは各軸の速度および減速機の寿命がロボットの動作に悪影響を与えるか否かを判断できなかった。つまり、オフラインによるロボットの各軸の負荷、速度および減速機の寿命を考慮していないので、ロボットの動作を高精度で推定することはできず、動作プログラムを正確に修正するのは限界があった。
【0005】
さらに、特許文献1に開示されるようにロボットの各軸の負荷を算出できた場合であっても、負荷が比較的大きい軸について、その負荷を軽減するためには試行錯誤が必要であった。
【0006】
つまり、従来技術において軸に掛かる負荷を軽減するためには、動作プログラム内の教示点を変更しつつロボットを実際に動作させて、負荷が軽減したかを調べ、負荷が軽減されるまで教示点を変更する必要があった。このことは、ロボットシステムの構築に多大な時間を必要とする。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、試行錯誤を行うことなしに、負荷の大きい軸についての負荷を軽減することのできるロボットプログラム調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、複数の軸を有するロボットアームの動作プログラムを調整するロボットプログラム調整装置において、前記ロボットアームの前記動作プログラムから動作命令を順次読込んでシミュレーションを実行することにより、過負荷が掛かる軸を前記複数の軸から特定する過負荷特定手段と、該過負荷特定手段により特定された軸以外の軸に対して付加的な動作を生成して、前記特定された軸の負荷を軽減する付加的動作生成手段と、該付加的動作生成手段により生成された付加的な動作に基づいて前記ロボットアームの前記動作プログラムを調整するプログラム調整手段と、を具備するロボットプログラム調整装置が提供される。
【0009】
すなわち1番目の発明においては、過負荷特定手段により特定された軸の負荷は、付加的動作生成手段によってその軸以外の軸に分散される。このため、試行錯誤を行うことなしに、特定された軸の負荷を軽減できる。
【0010】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記特定された軸以外の軸が、前記特定された軸よりも前記ロボットアームの先端側に位置している。
すなわち2番目の発明においては、特定された軸の負荷を比較的簡易な操作により軽減できる。
【0011】
3番目の発明によれば、1番目の発明において、前記特定された軸以外の軸が、前記特定された軸よりも前記ロボットアームの基端側に位置している。
すなわち3番目の発明においては、特定された軸よりも先端側の軸が存在しない場合、または特定された軸よりも先端側の軸を移動させられない場合であっても、特定された軸の負荷を軽減できる。
【0012】
4番目の発明によれば、1番目から3番目のいずれかの発明において、前記付加的な動作が二つ以上生成された場合には、これら付加的な動作のうちの少なくとも二つを合成するようにした。
すなわち4番目の発明においては、複数の付加的な動作を合成することによって、ロボットの動作時間を短縮することができる。
【0013】
5番目の発明によれば、2番目の発明において、前記付加的な動作は、前記ロボットアームのハンドに把持されたワークの重心が前記特定された軸の回転中心あるいは移動方向の延長線上に位置するように、前記特定された軸よりも前記ロボットアームの先端側に位置する軸を移動させることを含む。
すなわち5番目の発明においては、ワークの重心を前記特定された軸の回転中心あるいは移動方向の延長線上に位置させることにより、特定された軸に負荷が掛かるのを最小限にすることができる。
【0014】
6番目の発明によれば、3番目の発明において、前記付加的な動作は、前記特定された軸よりも前記ロボットアームの基端側の軸の回転中心あるいは移動方向と前記ロボットアームのハンドに把持されたワークの重心との間の水平方向距離が最小になるように、前記特定された軸よりも前記ロボットアームの先端側に位置する軸を動作させることを含む。
すなわち6番目の発明においては、ワークに作用する力が水平方向成分を含まないようにすることにより、特定された軸に負荷が掛かるのを最小限にすることができる。
【0015】
7番目の発明によれば、1番目から6番目のいずれかの発明において、前記付加的動作生成手段は、前記付加的な動作に基づいて、前記ロボットアームが周辺機器に干渉するかをチェックする干渉チェック手段を含む。
すなわち7番目の発明においては、ロボットアームが周辺機器に干渉するのを事前に予測して、ロボットのプログラムを再度調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明に基づくロボットプログラム調整装置の概念図である。図1に示されるように、ロボットシステム10は、被加工物すなわちワークWを把持するハンド26を備えたハンドリングロボット25を含んでいる。図示されるように、ハンドリングロボット25(以下、ロボット25)は六自由度の多関節型ロボットアームであり、六つの軸J1〜J6を有している。図1から分かるように、これら軸J1〜J6は、ロボット25のベース27からハンド26に向かって、つまりロボット25の基端から先端に向かって順番に配置されている。
【0017】
さらに、ロボットシステム10は、ハンドリングロボット25を制御するロボット制御装置11と、ロボット制御装置11に接続されるパーソナルコンピュータ等の入力装置20と、LCDディスプレイ等の表示手段24と、ロボット制御装置11に接続されると共にロボット25の教示操作を行うための教示操作盤22とを含んでいる。
【0018】
ロボット制御装置11はデジタルコンピュータであり、六つの軸J1〜J6のうちの過負荷が掛かる軸を特定する過負荷特定手段12と、過負荷特定手段12により特定された軸の負荷を軽減するために、特定された軸以外の軸に対して付加的な動作を生成する付加的動作生成手段13と、付加的動作生成手段13により生成された付加的な動作に基づいてロボットアームの動作プログラムを調整するプログラム調整手段15とを含んでいる。
【0019】
さらに、図1に示されるように、付加的動作生成手段13は付加的な動作を含んだ新たな動作プログラム下でロボットアームが周辺機器に干渉するか否かをチェックする干渉チェック手段14を含んでいる。また、ロボット制御装置11は、ロボットの各軸J1〜J6における負荷トルクおよび速度、ならびに各軸に備えられた減速機(図示しない)の寿命を算出する算出手段16を含んでいる。
【0020】
また、図示されるように、ロボット制御装置11はロボット25の動作プログラムおよび各種データを記憶する記憶部17を含んでいる。そして、過負荷特定手段12、付加的動作生成手段13、プログラム調整手段15、算出手段16および記憶部17は双方向性バス18により互いに接続されている。
【0021】
図2は本発明に基づくロボットプログラム調整装置による作業の流れを示すフローチャートである。以下、図2を参照しつつ、本発明に基づくプログラム調整装置について説明する。はじめに、図2のステップ101において、ロボット25、ワークWおよび周辺機器(図面には示していない)の三次元モデルを表示手段24に表示する。
【0022】
次いで、ステップ102において、ロボット25の評価基準を設定する。ロボット25の評価基準は、各軸J1〜J6の負荷トルクおよび速度、ならびに各軸に備えられた減速機の寿命である。操作者は、図1に示される入力装置20を用いて、これら評価基準を設定する。
【0023】
あるいは、評価基準(負荷トルク、速度および減速機の寿命)は、例えばロボットの軸番号iおよびワークWの種類などの関数として予め求められたマップから選択するようにしてもよい。参考のために、負荷トルクTの評価基準のマップを図3に示す。なお、各軸の速度および減速機の寿命についてのマップは図示しないが同様であるものとする。
【0024】
また、評価基準は、負荷トルク、速度および減速機の寿命のうちの少なくとも一つを設定すれば足りる。しかしながら、負荷トルク、速度および減速機の寿命の全てを設定した場合には、ロボットの動作を高精度で推定できるのは言うまでもない。
【0025】
次いで、ステップ103において、記憶部17からロボット25の動作プログラムを読込んで、表示手段24上にてシミュレーションを実行する。これにより、各軸J1〜J6の位置およびトルク(ニュートンオイラートルク)を単位時間毎に算出する。
【0026】
次いで、ステップ104において、各軸J1〜J6の負荷トルクおよび速度ならびに軸J1〜J6における減速機(図示しない)の寿命を算出する。はじめに、シミュレーション結果における各軸J1〜J6の位置および時間の関係から、軸J1〜J6の負荷トルク、厳密にはサーボモータの負荷トルクを以下の式(1)より算出する。
負荷トルク=ニュートンオイラートルク+摩擦力+ロータイナーシャ駆動力 (1) ここで、摩擦力およびロータイナーシャ駆動力のそれぞれは、ロボット25およびサーボモータに応じて定まる所定値であり、これら所定値は記憶部17に予め記憶されているものとする。式(1)から算出された各軸J1〜J6におけるサーボモータの負荷トルクは、動作プログラムの行に関連付けられて記憶部17に記憶される。
【0027】
次いで、ロボット25の各軸J1〜J6に備えられた減速機(図示しない)の寿命L10を以下の式(2)〜式(5)より算出する。
【数1】

ここで、Ti(1≦i≦n)は各軸Ji(1≦i≦n)に掛かる負荷トルクを表しており、Ni(1≦i≦n)は各軸Jiの速度を表している。また、時間ti(1≦i≦n)は動作プログラムにおいて予め定められた単位時間、例えば8msecである。なお、図1に示される実施形態においては、n=6である。
また、T0、N0は、それぞれ負荷トルクおよび速度の初期値である。さらに、寿命L10は、複数の減速機を同じ条件で使用したときに、複数の減速機のうちの10%が使用不能になるまでの時間を表している。
【0028】
さらに、各軸J1〜J6の速度Niは、ステップ103において単位時間毎に算出された各軸J1〜J6の位置から算出される。算出された負荷トルク、速度および減速機の寿命は記憶部17に記憶される。
【0029】
次いで、ステップ105において、過負荷特定手段12は、負荷トルク、速度および減速機の寿命がそれぞれの評価基準を上回る、動作プログラム内における動作を特定する。図4(a)は時間と各軸の負荷トルクとの関係を示す図である。図4(a)において横軸は時間を表し、縦軸は各軸の負荷トルクを表している。図4(a)においては、負荷トルクTiは或る特定の時間帯Z1においてその評価基準を上回っている。
【0030】
次いで、過負荷特定手段12は、負荷トルクTiが評価基準を上回っている時間帯Z1に相当する動作プログラム内の行を特定する(図4(a)の右方に示される或る軸Jiについての動作プログラムを参照されたい)。ここでは、プログラムの行番号3において、或る軸が位置3(イチ[3])に移動するときにその軸の負荷トルクTiが評価基準を上回るものとする。このような処理を全ての軸J1〜J6について行う。これにより、過負荷特定手段12は、過負荷が掛かっている軸と、過負荷が掛かっているときにおける動作プログラム内の行とを特定する。
【0031】
過負荷特定手段12は、同様に、各軸J1〜J6の速度および減速機の寿命についても、それぞれの評価基準よりも上回っている時間帯を特定する。各軸J1〜J6の速度および減速機の寿命を用いることにより、ロボット25の動作を高精度で推定することが可能となる。しかしながら、少なくとも負荷トルクTiについて、評価基準を上回る軸と、それに対応する動作プログラム内の行とが特定される。
【0032】
次いで、ステップ106において動作プログラムの改良を行う。このステップは、具体的には図5のフローチャートに示される。図5においては負荷トルクが過剰である場合について説明しているが、軸J1〜J6の速度および減速機の寿命の場合でも概ね同様である。
【0033】
図5のステップ201においては、図2のステップ105で特定された軸Ji(i=1〜n)および動作プログラムの行を読出す。次いで、ステップ202において、特定された軸Jiがロボット25の先端側に位置しているか否かが判定される。具体的には、i≧5であるか否かが判定される。
【0034】
特定された軸Jiが先端側の軸でない場合、つまりi<5である場合には、ステップ203に進む。ステップ203においては、特定された軸Jiよりも先端側に位置する軸を移動させることにより、特定された軸Jiの負荷を軽減する。
【0035】
図6は特定された軸よりも先端側に位置する軸を移動させる第一の例を説明する図である。図6に示されるように、ロボット25を軸J4回り(矢印A1)に回転させるときに、軸J4に負荷が掛かることになる。
【0036】
図7(a)は図6に示される第一の例の他の図である。図7(a)から分かるように、ロボット25を軸J4回りに回転させるときには、実際には軸J6も約180°回転することに留意されたい。
【0037】
このような場合には、付加的動作生成手段13によって、軸J4よりもロボット25の先端側に位置する軸J5を図6の矢印B1方向に回転移動させる付加的な動作が生成される。また、図7(a)と同様な図である図7(b)に示されるように、軸J4よりもロボット25の先端側に位置する他の軸J6を図7(b)の矢印B2方向に回転させる付加的動作も同時に生成される(図7(b)におけるイチ[5]からイチ[6]への回転移動を参照されたい)。
【0038】
これにより、図6から分かるように、特定された軸J4の回転中心の延長線上に、ワークWの重心が位置するようになる。つまり、図6および図7に示される場合においては、特定された軸J4の延長線上にワークWの重心が位置するように、特定された軸J4よりも先端側に位置する軸J5および軸J6をそれぞれ矢印B1、B2方向に回転移動させる。
【0039】
このような回転移動により、軸J4に掛かる負荷の少なくとも一部は他の軸J5、J6に分散されるようになる。それゆえ、ロボット25を軸J4回り(矢印A1)に回転させるときに軸J4に掛かる負荷を低減させることが可能となる。
【0040】
図10は直動軸を含む場合の一つの例を示す図である。図10に示されるロボット25においては軸J1〜軸J6が軸であり、さらにロボット25はハンド26に関連づけられた新たな軸J7を含んでいる。軸J7は、直線運動の軸(以下、「直動軸」と称す)であり、ハンド26は軸J7に沿って線形運動できるものとする。
【0041】
図10においては、ロボット25を軸J5回り(矢印A4)に回転させるときに、軸J5に負荷が掛かることになる。このような場合には、付加的動作生成手段13によって、軸J5よりもロボット25の先端側に位置する軸J7上のハンド26を軸J5に向かって線形移動させる付加的な動作が生成される。
【0042】
これにより、図10から分かるように、軸J5の回転中心と負荷の重心、例えばワークの重心との間の水平方向距離が短くなる。従って、軸J5に掛かる負荷を低減させることが可能となる。それゆえ、或る軸に負荷が掛かる場合には、その軸よりもロボットの先端側に位置する軸が軸または直動軸であっても、その軸に掛かる負荷を低減させられることが分かるであろう。
【0043】
図8は特定された軸よりも先端側に位置する軸を移動させる第二の例を説明する図である。図8に示される場合においては、ロボット25を軸J1回り(矢印A2)に回転させるときに、軸J1に負荷が掛かる。
【0044】
このような場合には、付加的動作生成手段13によって、軸J1よりもロボット25の先端側に位置する軸J2および軸J3をそれぞれの矢印B3、B4方向に回転移動させる付加的な動作が作成される。これにより、特定された軸J1の回転中心の延長線上に、ワークWの重心が位置するようになる。
【0045】
このような回転移動により、軸J1に掛かる負荷の少なくとも一部は他の軸J2および軸J3に分散されるようになる。従って、ロボット25を軸J1回り(矢印A2)に回転させるときに軸J1に掛かる負荷を低減させられる。つまり、図8に示される場合においては、特定された軸J1の延長線上にワークWの重心が位置するように、特定された軸J1よりも先端側に位置する軸J2および軸J3をそれぞれ矢印B3、B4方向に回転移動させる。
【0046】
再び図5を参照すると、ステップ202において、特定された軸Jiがロボット25の先端側に位置している、つまりi≧5であると判定された場合には、ステップ204に進む。ステップ204においては、特定された軸Jiよりも基端側に位置する軸を移動させることにより、特定された軸Jiの負荷を軽減する。
【0047】
図9は特定された軸よりも基端側に位置する軸を移動させる例を説明する図である。図9に示される場合においては、ロボット25を軸J6回り(矢印A3)に回転させるときに、軸J6に負荷が掛かる。
【0048】
このような場合には、付加的動作生成手段13によって、軸J6よりもロボット25の基端側に位置する軸J5を矢印B5方向に回転移動させる付加的な動作が作成される。これにより、ワークWの重心と軸J5との間の水平方向距離が短くなるかまたはゼロになる。
【0049】
このように軸J5を移動させることにより、軸J6に掛かる負荷の少なくとも一部は他の軸J5に分散される。従って、ロボット25を軸J6回り(矢印A3に回転させるときに軸J6に掛かる負荷を低減させられる。つまり、図9に示される場合においては、特定された軸J6に作用する力の水平方向成分が低下または排除されるように、特定された軸J6よりも基端側に位置する軸J5を矢印B5方向に回転移動させる。
【0050】
再び図5を参照すると、ステップ203または204において先端側または基端側の軸を移動させた後においては、それぞれステップ205または206において、再度のシミュレーションを行う。そして、特定された軸Jiに対する負荷が軽減されたか否かを判定する。
【0051】
ステップ205または206において負荷が軽減されたと判定された場合には、ステップ209に進む。一方、負荷が軽減されていない、または負荷がほとんど軽減されていないと判定された場合には、ステップ207に進む。ステップ207においては、特定された軸Ji以外の軸を所定の微小量だけわずかながら回転移動させる。
【0052】
ステップ207において回転移動される軸は、ステップ203、204において回転移動された軸とは異なるのが好ましい。これにより、ステップ203、204で行われたのと同様な処理を再度行うのが回避される。
【0053】
例えば図6を参照して説明したようにステップ203において軸J5および/または軸J6を回転移動させた場合には、未だ回転移動されていなくて、且つ特定された軸J4に最も近い軸J3を所定の微少量だけ回転移動するようにする。
【0054】
次いで、ステップ208に進んで、再度のシミュレーションを行い、特定された軸Jiに掛かる負荷が軽減されたか否かが判定される。そして、ステップ208において負荷が軽減されていないと判定された場合には、ステップ207に戻る。そして、前回のステップ207において回転移動された軸を所定の微少量だけさらに回転移動させるか、さらに別の軸を所定の微少量だけ回転移動させる。その後、ステップ208に再び進んで、負荷が軽減されたか否かを判定し、特定された軸Jiにおける負荷が軽減されたと判定されるまで処理を繰返すものとする。
【0055】
特定された軸Jiにおける負荷が軽減されたと判定された場合には、特定された軸Jiの負荷を軽減するための他の軸の付加的な動作命令を記憶部17に記憶して、ステップ209に進む。ステップ209においては、プログラム調整手段15が、他の軸の動作命令を既存の動作プログラムに挿入する。
【0056】
例えば図4(b)に示されるように、特定された軸J4が位置3(イチ[3])に移動するときに負荷が掛かる場合には、イチ[1]とイチ[3]との間にイチ[5]およびイチ[6]へと移動するという付加的な動作命令(図7(b)を参照されたい)が作成される。そのような場合には、図4(b)に示されるように、イチ[5]への動作命令およびイチ[6]への動作命令が既存の動作プログラムに挿入される。
【0057】
次いで、図5のステップ210において、動作の合成を行う。図4(c)に示されるように、二つ以上の動作命令、例えばイチ[5]への動作命令およびイチ[6]への動作命令が追加された場合には、これらを合成するようにしてもよい。例えば、図7(b)におけるイチ[5]を経由することなしに、軸J5回りの回転動作を行いつつ、イチ[6]まで移動する命令に変更する。これにより、ロボット25の動作時間の短縮を図ることができる。さらに、二つ以上の動作命令を連続的かつ滑らかに合成して、ロボット25の動作が途中で中断されないようにするのが好ましく、それにより、ロボット25の動作時間をさらに短縮することができる。
【0058】
その反面、ステップ210において動作の合成を行う場合には、特定された軸Ji、例えば軸J4に掛かる負荷はそれほど低減しない。従って、このステップ210は必ずしも行う必要はなく、操作者がロボット25の動作時間の短縮を優先した場合に限られる。
【0059】
また、図5には示していないものの、ステップ210終了後に再度シミュレーションを行い、干渉チェック手段14によってロボット25が他の周辺機器等に干渉するか否かを表示手段24上の三次元モデルを用いてチェックするのが好ましい。干渉することが判明した場合には、ロボットの動作プログラムを再度調整し、動作プログラムをより適切に修正することができる。
【0060】
このように、本発明においては、付加的動作生成手段13が他の軸についての付加的な動作を作成することにより、特定された軸Jiの負荷を、他の軸に分散させることが可能となる。従って、本発明においては、試行錯誤を行うことなしに、負荷が大きいと特定された軸の負荷を、試行錯誤を行うことなしに軽減することが可能となる。
【0061】
さらに、本発明においては、負荷が大きい軸の動作を簡単に改良することのできるロボットシステムの教示および立ち上げを実現でき、その結果、工数の削減も可能となる。また、仮に過負荷によりロボットの動作に障害が発生した場合であっても、その原因を検証および調査して、ロボットの動作の改良を容易に行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に基づくロボットプログラム調整装置を含むロボットシステムの基本構成を示す図である。
【図2】ロボットプログラム調整装置による作業の流れを示すフローチャートである。
【図3】トルクのマップを示す図である。
【図4】(a)時間と各軸の負荷トルクとの関係を示す図である。(b)ロボットの動作プログラムの第一の図である。(c)ロボットの動作プログラムの第二の図である。
【図5】図2に示されるフローチャートの一部を示す図である。
【図6】特定された軸よりも先端側に位置する軸を移動させる第一の例を説明する図である。
【図7】(a)図6に示される第一の例の他の図である。(b)負荷が軽減されるようにした図7(a)と同様な図である。
【図8】特定された軸よりも先端側に位置する軸を移動させる第二の例を説明する図である。
【図9】特定された軸よりも基端側に位置する軸を移動させる例を説明する図である。
【図10】直動軸を含む場合の一つの例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
10 ロボットシステム
11 ロボット制御装置(ロボットプログラム調整装置)
12 過負荷特定手段
13 付加的動作生成手段
14 干渉チェック手段
15 プログラム調整手段
16 算出手段
17 記憶部
18 双方向性バス
20 入力手段
22 教示操作盤
24 表示手段
25 ロボット
26 ハンド
27 ベース
Ji、J1〜J6 軸
Ti 負荷トルク
Ni 速度
L10 減速機の寿命
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の軸を有するロボットアームの動作プログラムを調整するロボットプログラム調整装置において、
前記ロボットアームの前記動作プログラムから動作命令を順次読込んでシミュレーションを実行することにより、過負荷が掛かる軸を前記複数の軸から特定する過負荷特定手段と、
該過負荷特定手段により特定された軸以外の軸に対して付加的な動作を生成して、前記特定された軸の負荷を軽減する付加的動作生成手段と、
該付加的動作生成手段により生成された付加的な動作に基づいて前記ロボットアームの前記動作プログラムを調整するプログラム調整手段と、を具備するロボットプログラム調整装置。
【請求項2】
前記特定された軸以外の軸が、前記特定された軸よりも前記ロボットアームの先端側に位置している、請求項1に記載のロボットプログラム調整装置。
【請求項3】
前記特定された軸以外の軸が、前記特定された軸よりも前記ロボットアームの基端側に位置している、請求項1に記載のロボットプログラム調整装置。
【請求項4】
前記付加的な動作が二つ以上生成された場合には、これら付加的な動作のうちの少なくとも二つを合成するようにした、請求項1から3のいずれか一項に記載のロボットプログラム調整装置。
【請求項5】
前記付加的な動作は、前記ロボットアームのハンドに把持されたワークの重心が前記特定された軸の回転中心あるいは移動方向の延長線上に位置するように、前記特定された軸よりも前記ロボットアームの先端側に位置する軸を移動させることを含む請求項2に記載のロボットプログラム調整装置。
【請求項6】
前記付加的な動作は、前記特定された軸よりも前記ロボットアームの基端側の軸の回転中心あるいは移動方向と前記ロボットアームのハンドに把持されたワークの重心との間の水平方向距離が最小になるように、前記特定された軸よりも前記ロボットアームの先端側に位置する軸を動作させることを含む請求項3に記載のロボットプログラム調整装置。
【請求項7】
前記付加的動作生成手段は、前記付加的な動作に基づいて、前記ロボットアームが周辺機器に干渉するかをチェックする干渉チェック手段を含む、請求項1から6のうちのいずれか一項に記載のロボットプログラム調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−43165(P2009−43165A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209913(P2007−209913)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】