説明

ロボット制御装置

【課題】マニピュレータA、BおよびポジショナPを並行起動して、2パスのアーク溶接作業を実行させるロボット制御装置において、教示データをマニピュレータAとポジショナPの組合せ、またはマニピュレータBとポジショナPの組合せにより独立して作成する場合、一方の教示データに対して教示点の編集操作を行ったときに他方の教示データにも同様の編集操作を行う必要がある。
【解決手段】教示対象設定部6は、複数の制御対象の中からティーチペンダントTPによって選択された複数の制御対象を教示対象として設定する。教示データ合成処理部8は、選択された複数の教示データを合成して1つの再生データTdを生成する。教示データ自動修正部9は、一方の教示データに対する編集操作が行われたときに、編集操作の内容に応じて他方の教示データを自動的に修正する。教示工数の低減及び教示ミスの防止が期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台の制御対象を同期させながら駆動制御して複数パスの加工作業を同時に行わせるロボット制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、1台のロボット制御装置でマニピュレータ、ポジショナ、スライダ等の複数の制御対象を教示点単位で同期させて駆動制御することが行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1および特許文献2には、2台のマニピュレータおよび1台のポジショナを1台のロボット制御装置で動作制御することによって、ポジショナに設置したワークの複数の加工箇所に対し、2台のマニピュレータが同時に加工作業を行う、いわゆる2パスの軌跡制御を行うロボット制御装置が開示されている。以下、特許文献1および特許文献2に記載された従来技術について説明する。なお、以下では、特許文献1および特許文献2に記載された従来技術を、それぞれ従来技術1および従来技術2という。
【0004】
図6は、従来技術1について説明するための図である。同図(a)において、マニピュレータA、マニピュレータBおよびポジショナPは、図示しない1台のロボット制御装置で駆動される制御対象である。ポジショナPには、加工対象となるワークWが設置されている。ワークW上に描いた加工線SaおよびSbは、ポジショナPの回転角度を調整しながら、マニピュレータAおよびマニピュレータBの各ツール先端を移動させるべき加工線である。この加工線SaおよびSbは、後述する教示データと等価となる。
【0005】
さて、従来技術1では、複数の制御対象(マニピュレータA、マニピュレータBおよびポジショナP)に対する教示点を、1つの移動命令で記憶する方式を採用している。すなわち、同図(b)に示すような教示データ構造となっている。例えば、教示ステップ001のMOVE命令(移動命令)には、マニピュレータA、マニピュレータBおよびポジショナPの各位置データが記憶されている。この方式では、2つの加工線SaおよびSbが1つの教示データとして記憶されることになる。そして、教示データを再生運転すると複数の制御対象が各々の教示点に同時に出発して同時に到達する、いわゆる同期制御が行われる。
【0006】
図7は、従来技術2について説明するための図である。従来技術2においては、2台のマニピュレータA、Bおよび1台のポジショナPを1台のロボット制御装置で駆動する点は、上記した従来技術1と同じである。異なる点は、同図(a)に示すように、マニピュレータAおよびポジショナPを1つの教示対象U1、マニピュレータBおよびポジショナPを別の教示対象U2と設定し、同図(b)に示すように、教示対象U1の教示データT1と、教示対象U2の教示データT2とを、別々に作成しておく点である。そして、教示データT1および教示データT2を同時に再生運転し、教示点単位で同期を取ることにより、同期制御を実現している。
【0007】
従来技術2の利点は、教示データを制御対象の組合せ(マニピュレータAおよびポジショナPの組合せ、あるいはマニピュレータBおよびポジショナPの組合せ)に応じて、別々に教示することが可能な点である。この点、従来技術1では、全ての制御対象の教示点を1つの教示データとして作成する方式を採用しているため、教示点を教示する際に、全ての制御対象を手動操作で移動させる必要がある。また、作成後の教示データを動作確認する際に、両方のマニピュレータの動き(移動軌跡)を注視しておく必要がある。これに対し、従来技術2では、例えばマニピュレータAおよびポジショナPの組合せで教示を行う場合は、マニピュレータBは移動させなくても良いし、動作確認を行う場合もマニピュレータBの動き(移動軌跡)を注視しておく必要がないという利点がある。
【0008】
しかしながら、従来技術2においては、教示データT1およびT2を同時に起動すると共に、各教示点における移動開始タイミング、到達タイミング等を同期させている。実際は、補間動作を行いながらの補間点レベルでの同期制御となるために、教示データの解釈実行タイミング、演算の処理速度、扱うデータ量の大小等により、同期ズレが生じる場合がある。また、異常等の発生で再生動作が中断した場合は、その後の再開動作時に、教示データT1およびT2間で位置指令出力の同期ズレが発生してしまうことがある。
【0009】
この点、従来技術1においては、教示データを1つ再生するだけのいわゆる多軸制御を行う構成となっており、教示データ間で同期制御を行っているわけではないので、上述したような同期ズレが発生する恐れはない。
【0010】
上述したように、従来技術1では、教示データは所望の制御対象毎に作成することができるが、再生時は複数の教示データを同時に起動するために同期ズレが発生するという課題を有している。一方、従来技術2では、教示データ間で同期制御を行っていないので同期ズレは発生しないが、教示データは全ての制御対象を対象として作成する必要があるために、教示作業が繁雑になるという課題を有している。
【0011】
従来技術1および従来技術2の各々が有する課題を同時に解決する方法としては、教示作業時は、従来技術1のように所望の教示対象毎に教示データを作成する一方、再生運転時は複数の教示データを合成し、1つの教示データとして再生するようにして、従来技術2のように教示データ間で同期制御を行わない構成を採用することが考えられる。しかしながら、このように構成するだけでは、特に教示作業を行う上で、後述する課題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−75898号公報
【特許文献2】特許第3823324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術1のように、教示作業時において教示データを教示対象毎に作成する方式では、一方の教示データに対して教示点の追加、位置修正等の編集操作を行った場合、他方の教示データに対しても同様の編集操作を行う必要がある。例えば、図8に示すように、マニピュレータAおよびポジショナPによる加工線Sa(教示データT1)に、教示点X1を追加する場合を考える。同期制御を行うためには教示点数を一致させておく必要があるので、他方の加工線Sb(教示データT2)に対しても、教示点X1に対応する位置、すなわち教示点X2を追加する必要がある。より具体的には、教示データT1を編集状態にし、教示点を追加したい位置(X1)にマニピュレータAおよびポジショナPを移動させ、教示点X1を教示する。次いで、教示データT2を編集状態にし、教示点X1と対応する位置(X2)にマニピュレータBおよびポジショナPを移動させ、教示点X2を教示する、という作業が必要となる。
【0014】
このように、教示データを教示対象毎に作成する方式では、一方の教示データT1を修正した場合、他方の教示データT2にも同様の修正を行って、両教示データの教示点数を一致させておく必要がある。仮に、他方の教示データT2に対する編集操作を怠った結果、教示点数が一致しない場合は、同期ズレが発生する。あるいは、同期ズレ防止のためのエラー処理が働き、生産を停止してしまうことに繋がる。
【0015】
この点、従来技術2では、他方の加工線に対する編集操作忘れを防止したり、教示作業を軽減したりすることを目的として、一方の加工線に対する編集操作結果に応じて、自動的に他方の加工線に対しても編集操作を反映させる技術が開示されている。しかしながら、従来技術2は、1つの教示データに加工線が2つ存在することを前提に発明がなされており、教示データを教示対象毎に作成する場合については考慮されていない。
【0016】
そこで、本発明は、教示時は教示データを教示対象毎に作成し、再生時は教示された2つの教示データを合成した1つの再生データを用いることによって同期ズレを防止するとともに、一方の教示データに対して教示点の編集操作を行う場合、他方の教示データに同様の編集操作を行わなくても、対応する位置に自動的に編集操作結果を反映させることによって、教示工数を低減可能なロボット制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、
2台のマニピュレータおよび1台のポジショナを含む複数の制御対象の設置関係が予め定められた設置関係データによって定義されるとともに、前記ポジショナに設置されたワークに対する前記2台のマニピュレータによる2つの加工線が独立した教示データとして教示手段によって作成され、前記教示データに基づいて前記複数の制御対象を同期させて駆動するロボット制御装置において、
前記複数の制御対象の中から前記教示手段により選択されたいずれか一方の前記マニピュレータおよび前記ポジショナの組合せを、教示対象として設定する教示対象設定手段と、
前記教示手段からの入力に応じて前記教示対象毎に教示データを作成する作成手段と、
作成された2つの教示データを合成して1つの再生データを作成する教示データ合成手段と、
前記再生データに基づいて前記複数の制御対象を駆動する駆動制御手段と、
いずれか一方の教示データに対する編集操作が行われたときに、前記編集操作の内容に応じて他方の教示データを修正する教示データ自動修正手段と、
を備えたことを特徴とするロボット制御装置である。
【0018】
請求項2の発明は、前記教示データ合成手段は、前記教示データ自動修正手段による教示データの修正が行われた後に、前記2つの教示データを自動的に合成することを特徴とする請求項1記載のロボット制御装置である。
【0019】
請求項3の発明は、前記編集操作は、教示点の追加、位置修正または削除のいずれかの操作を含むことを特徴とする請求項1または2記載のロボット制御装置である。
【0020】
請求項4の発明は、前記編集操作が教示点の追加であるときは、前記教示データ自動修正手段は、前記追加された教示点の教示ステップ番号を抽出するとともに、他方の教示データに対して追加する教示点の位置データを前記設置関係データに基づいて算出し、この算出した位置データを有する教示点を、他方の教示データにおける前記教示ステップ番号の位置に追加することを特徴とする請求項3記載のロボット制御装置である。
【0021】
第5の発明は、前記編集操作が教示点の位置修正であるときは、前記教示データ自動修正手段は、前記位置修正された教示点の教示ステップ番号を抽出するとともに、他方の教示データに対して位置修正する教示点の位置データを前記設置関係データに基づいて算出し、この算出した位置データを、他方の教示データにおける前記教示ステップ番号に対応する教示点の位置データとすることを特徴とする請求項3記載のロボット制御装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、教示時は教示データを教示対象毎に作成し、再生時は教示された複数の教示データを合成した1つの再生データを用いることによって同期ズレを防止することができる。さらに、一方の教示データに対して教示点の編集操作を行う場合、他方の教示データに同様の編集操作を行わなくても、対応する位置に自動的に編集操作結果を反映させるようにしたことによって、教示工数を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のロボット制御装置によって2台のマニピュレータおよび1台のポジショナを同期制御するアーク溶接ロボットシステムのブロック図である。
【図2】ロボット制御装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図3】教示対象毎に作成した教示データの作成例である。
【図4】教示対象毎に作成した複数の教示データを合成した例である。
【図5】教示データ自動修正部の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図6】従来技術1について説明するための図である。
【図7】従来技術2について説明するための図である。
【図8】従来技術において加工線に教示点を追加するイメージを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
【0025】
図1は、本発明のロボット制御装置によって2台のマニピュレータおよび1台のポジショナを同期制御するアーク溶接ロボットシステムのブロック図である。
【0026】
同図において、マニピュレータAおよびBは、ワークWに対してアーク溶接を自動で行うものであり、ロボット制御装置1に接続されている。マニピュレータAおよびBは、複数のアーム部および手首部と、これらを回転駆動するための複数のサーボモータ(いずれも図示せず)とによって各々構成されている。また、各マニピュレータのアームの先端部分には、溶接トーチ(図示せず)が取り付けられている。溶接トーチは、直径1mm程度の溶接ワイヤを、ワークW上の教示された溶接箇所に導くためのものである。
【0027】
ポジショナPには、溶接箇所である加工線SaおよびSbを有するワークWが設置されている。ワークWは、ポジショナPが回転制御されることによってマニピュレータAおよびBに対して最適な溶接姿勢を取ることが可能となっている。作業者は、マニピュレータAおよびBのそれぞれが加工線SaおよびSbに沿って移動するように複数の教示点を教示する。なお、加工線SaおよびSbは、後述する対称面Tsを基準として略左右対称となっている。
【0028】
教示手段としてのティーチペンダントTPは、可搬式の教示操作盤であり、ロボット制御装置1に接続されている。ティーチペンダントTPには、手動操作する制御対象を選択する制御対象選択スイッチ、各制御対象を実際に手動操作で動かすための軸操作キー等(いずれも図示せず)が備わっている。これらのスイッチ、キー等を操作することによって制御対象を各々所望の位置に動かすことが可能となっているとともに、加工線SaおよびSbを形成するための各教示点を教示データとしてロボット制御装置1に記憶することができる。
【0029】
起動ボックスSBは、教示データの再生運転を行うための起動信号をロボット制御装置1に入力するためのものである。溶接電源WP1およびWP2は、ロボット制御装置1からの溶接制御信号を入力として、マニピュレーAおよびBに取り付けられた各溶接トーチとワークWとの間の電力供給を行う。
【0030】
ロボット制御装置1は、ティーチペンダントTPから入力された教示データを解釈し、解釈結果に基づいた所定のタイミングで、動作制御信号をマニピュレータA、BおよびポジショナPに出力する。同様に、溶接制御信号を溶接電源WP1およびWP2に出力する。
【0031】
図2は、ロボット制御装置1の内部構成を示す機能ブロック図である。ロボット制御装置1は、図示しないCPU、ROM、RAM、各種メモリ等を含むマイクロコンピュータによって構成されている。TPインターフェース2は、上述したティーチペンダントTPを接続するためのものであり、入出力インターフェース3は、上述した起動ボックスSBを接続するためのものである。
【0032】
また、図示しないROMには、各種処理を行うための制御ソフトウェアが記憶されている。本実施形態においては、同図に示すように、教示対象設定部6、教示データ作成処理部7、教示データ合成処理部8、教示データ自動修正部9、解釈実行部11、駆動指令部12および溶接制御部13の各処理部を備えている。これらの各処理は、CPUに読み込まれて実行されるものであり、CPUは、教示対象設定手段、作成手段、教示データ合成手段、駆動制御手段および教示データ自動修正手段に相当する。
【0033】
教示対象設定部6は、ティーチペンダントTPから選択された1つまたは複数の制御対象を、教示対象として設定するための処理を行う。教示データ作成処理部7は、ティーチペンダントTPからの入力に応じ、選択された教示対象毎に教示点および各種命令を、後述するハードディスク5に記憶する処理を行う。教示データ合成処理部8は、教示対象毎に作成された教示データMa、Mb等の中から、選択された複数の教示データを合成し、1つの再生データTdとして作成する処理を行う。教示データ自動修正部9は、一方の教示データに対する編集操作が行われたときに、編集操作の内容に応じて他方の教示データを修正する処理を行う。
【0034】
解釈実行部11は、ハードディスク5に格納されている再生データTdを教示ステップごとに読み出してその内容を解析し、駆動指令部12および溶接制御部13に各種制御信号を出力する。この結果、マニピュレータA、BおよびポジショナPが駆動制御されると共に、溶接制御信号を溶接電源WP1およびWP2に出力され、所定のタイミングで溶接電力の供給、シールドガスの出力等の処理が行われる。
【0035】
ハードディスク5は不揮発性メモリであり、教示対象毎に教示データを記憶する。例えば、マニピュレータAおよびポジショナPの組合せが教示対象であれば、この教示対象に対して教示した教示データMaが記憶される。同様に、マニピュレータBおよびポジショナPの組合せが教示対象であれば、この教示対象に対して教示した教示データMbが記憶される。また、教示データMaおよび教示データMbを合成した再生データTdも、このハードディスクに記憶される。教示データの合成処理については、後述する。なお、説明の都合上、教示データMa、教示データMb、再生データTdとして、1データずつ図示しているが、当然のことながら、ハードディスク5の容量が許す範囲内で、複数の教示データおよび再生データを記憶することが可能となっている。
【0036】
また、ハードディスク5には、マニピュレータA、マニピュレータBおよびポジショナPの設置関係を定義するための設置関係データが予め記憶されている。すなわち、各マニピュレータのメカニカルインターフェース座標系の原点・方向、ポジショナPを基準としたワーク座標系の原点・方向、ワールド座標系の原点・方向等を定義するデータに加えて、設置誤差を吸収したり、図1で説明した対称面Tsを定義したりするための各種パラメータ等も記憶されている。
【0037】
次に、教示対象の選択から教示データの合成までの一連の処理について説明する。1台のロボット制御装置1で駆動する複数の制御対象(本実施形態の場合は、マニピュレータA、マニピュレータBおよびポジショナP)を、どのような組合せにして教示するのかは、予め定めているものとする。例えば、本実施形態の制御対象であれば、次の組合せが考えられる。
・マニピュレータAの単独動作(教示対象G1)
・マニピュレータBの単独動作(教示対象G2)
・ポジショナPの単独動作(教示対象G3)
・マニピュレータAとポジショナPの協調動作(教示対象G4)
・マニピュレータBとポジショナPの協調動作(教示対象G5)
【0038】
以下では、マニピュレータAとポジショナPの協調動作(教示対象G4)と、マニピュレータBとポジショナPの協調動作(教示対象G5)とを教示対象として選択し、合成するまでの流れを説明する。
【0039】
(1.教示対象G4の選択)
ティーチペンダントTPから所望の組合せが選択されると、教示対象設定部6は、選択された組合せを教示対象として設定する。例えば、マニピュレータAとポジショナPの協調動作(G4)が選択された場合は、まず、手動操作が可能な制御対象としてマニピュレータAとポジショナPを選択し、動かす必要のないマニピュレータBに対しては、駆動電源を遮断するなどして手動操作を禁止する。
【0040】
(2.教示対象G4に対する教示)
ティーチペンダントTPから教示点、条件等の入力操作が行われると、教示データ作成処理部7は、入力に応じて教示データMaを作成する。このことによって、例えば、図3(a)に示す教示データMaが作成される。
【0041】
(3.教示対象G5の選択)
ティーチペンダントTPから、マニピュレータBとポジショナPの協調動作(G5)が選択される。この場合、手動操作が可能な制御対象としてマニピュレータBとポジショナPを選択し、動かす必要のないマニピュレータAに対しては、駆動電源を遮断するなどして手動操作を禁止する。
【0042】
(4.教示対象G5に対する教示)
ティーチペンダントTPから教示点、条件等の入力操作が行われると、教示データ作成処理部7は、入力に応じて教示データMbを作成する。このことによって、例えば、図3(b)に示す教示データMbが作成される。
【0043】
(5.教示データMaおよび教示データMbの合成)
ティーチペンダントTPから合成されるべき複数の教示データが選択される。ここでは、教示データMaおよび教示データMbが選択されたものとする。教示データ合成処理部8は、両教示データの教示点数が一致しているか否かを確認する。教示点の数が一致する場合は、後述するように、教示データMaと教示データMbを教示点単位で順番に合成する。教示点の数が一致しない場合は教示データを合成せずに、エラーを出力して処理を停止するようにしておく。このようにすることによって、本来合成されるべきでない教示データが誤って合成されることを防止することができる。
【0044】
合成処理は、以下のように行えばよい。まず、教示データMaを参照し、教示ステップnとして教示されている命令Cm、マニピュレータAの位置データPaおよびポジショナPの位置データPpをコピーし、再生データに書き込む。次いで、教示データMbを参照し、教示ステップnとして教示されているマニピュレータBの位置データPbを上記再生データに書き込む。この処理を、教示ステップnの数だけ繰り返せばよい。この処理によって、例えば、図4に示すように、教示データMaおよびMbが合成された再生データTdが作成される。
【0045】
ここで、ポジショナPは、両方の教示データMaおよびMbに記憶されているため、位置データPpが完全に一致している場合は上記したコピー処理で問題がない。しかしながら、現実的には両方の教示データMaおよびMbにおいてポジショナPの位置データPpが完全に一致していることはまずありえない。そこで、ポジショナPの位置データPpとして、どちらの教示データに記憶されている値を使用する(コピーする)のかを、予め定めておくようにすることが望ましい。そして、選択された2つの教示データMaおよびMb間でポジショナPの位置データPpが異なる場合は、予め定められた一方の教示データに含まれるポジショナPの位置データPpを、再生データTdの位置データPpとするように構成しておく。
【0046】
次に、教示データ自動修正部9において、一方の教示データに対して編集操作が行われたときに、他方の教示データに対して自動修正を行う際の処理について説明する。
【0047】
図5は、教示データ自動修正部9の処理の流れを説明するためのフローチャートである。以下では、図3で説明した教示データMaに対して編集操作が行われたときに、他方の教示データMbに対して自動修正を行う場合を例にして説明する。
【0048】
ステップS10において、教示データ作成処理部7によって教示データMaが編集可能な状態にされたときに、教示データ自動修正部9は、教示データMaと合成されている教示データMbを読み出す。
【0049】
ステップS20において、ティーチペンダントTPからのキー入力を監視することにより、教示データMaに対して行われる編集操作を確認する。
【0050】
ステップS30において、編集操作が教示点の削除か否かを判定する。削除である場合は、S31に移行する。削除でない場合は、ステップS40に移行する。
【0051】
ステップS31において、削除された教示ステップ番号(例えば、図3の教示ステップ003)をRAMに一時記憶し、他方の教示データMbに含まれている教示ステップ番号003を削除する。
【0052】
ステップS40において、編集操作が教示点の追加か否かを判定する。追加である場合は、ステップS41に移行する。追加でない場合は、ステップS50に移行する。
【0053】
ステップS41において、追加された教示ステップ番号(例えば、図3の教示ステップ003の次に教示点が追加されたときは、新たな教示ステップ004)をRAMに一時記憶する。同時に、当該教示ステップにおけるマニピュレータMaの位置データPaおよびポジショナPの位置データPpも一時記憶する。次いで、位置データPaと、ハードディスク5に定められている設置関係データおよび対称面Tsの情報とに基づいて、公知のミラーシフト演算を行う。演算後の値は、マニピュレータMbの位置データPbとしてRAMに一時記憶する。なお、ポジショナPの位置データPpは、単なる回転角度であるのでミラーシフト演算は行わずに、後述するステップS42で教示データMbに追加する教示点の位置データPpとしてそのまま使用する。
【0054】
ステップS42において、他方の教示データMbの該当する教示ステップ(新たな教示ステップ004)に、教示点を追加する。この教示点に含まれる位置データは、ミラーシフト演算で算出したマニピュレータMbの位置データPbと、ミラーシフト演算せずにそのまま使用するポジショナPの位置データPpである。
【0055】
ステップS50において、編集操作が位置修正であるか否かを判定する。位置修正である場合は、ステップS51に移行する。位置修正でない場合は、ステップS60に移行する。
【0056】
ステップS51において、位置修正された教示ステップ番号(例えば、図3の教示ステップ003)をRAMに一時記憶する。同時に、当該教示ステップにおけるマニピュレータMaの位置データPaおよびポジショナPの位置データPpも一時記憶する。次いで、位置データPaと、ハードディスク5に定められている設置関係データおよび対称面Tsの情報とに基づいて、公知のミラーシフト演算を行う。演算後の値は、マニピュレータMbの位置データPbとしてRAMに一時記憶する。なお、ポジショナPの位置データPpは、単なる回転角度であるのでミラーシフト演算は行わずに、後述するステップS42で教示データMbに追加する教示点の位置データPpとしてそのまま使用する。
【0057】
ステップS52において、他方の教示データMbの該当する教示点(ステップ003)の位置データを修正する。この教示点に含まれる位置データは、ミラーシフト演算で算出したマニピュレータMbの位置データPbと、ミラーシフト演算せずにそのまま使用するポジショナPの位置データPpである。
【0058】
ステップS60において、ティーチペンダントTPから編集操作の終了信号が入力されたか否かを判定する。終了信号が入力されていないときは、ステップS20に戻り、上述した処理を繰り返す。終了信号が入力されたときは、処理を終了する。
【0059】
なお、この編集操作の終了後は、教示データ合成処理部8によって、2つの教示データMaおよびMbを自動的に合成して、再生データTdを再度生成するようにしておくとさらに良い。
【0060】
以上説明したように、本発明は、教示時は教示データMaおよびMbを教示対象毎に作成し、再生時は教示された2つの教示データMaおよびMbを合成した1つの再生データTdを用いることによって同期ズレを防止するようにしている。そして、特に教示作業時において、一方の教示データMaに対して教示点の編集操作を行う場合、他方の教示データMbに同様の編集操作を行わなくても、対応する位置に自動的に編集操作結果を反映させるようにしている。このようにしたことによって、教示工数を大幅に低減することができる。
【0061】
また、教示データ自動修正部9による教示データの修正が行われた後に、2つの教示データMaおよびMbを自動的に合成するようにしたことによって、教示データの合成作業を怠ることを防止することができる。
【0062】
また、編集操作として教示点の追加、位置修正または削除のいずれかの操作を含むようにしたことによって、教示データに対する編集操作のバリエーションに対応することができる。
【0063】
また、編集操作が教示点の追加であるときは、追加された教示点の教示ステップ番号を抽出するとともに、他方の教示データに対して追加する教示点の位置データを、予め定められた設置関係データに基づいて算出し、この算出した位置データを有する教示点を、他方の教示データに追加するようにしている。このことによって、教示点の追加が行われた際に、設置関係データに基づく精度のよい位置データを有する教示点を、他方の教示データに追加することができる。
【0064】
また、編集操作が教示点の位置修正であるときは、位置修正された教示点の教示ステップ番号を抽出するとともに、他方の教示データに対して位置修正すべき教示点の位置データを、予め定められた設置関係データに基づいて算出し、この算出した位置データを、他方の教示データにおける対応する教示点の位置データとするようにしている。このことによって、教示点の位置修正が行われた際に、設置関係データに基づく精度のよい位置データを他方の教示データに反映することができる。
【0065】
なお、上記ステップS41およびS51において、マニピュレータMbの位置データPbを、設置関係データおよび対称面Tsの情報とに基づくミラーシフト演算によって算出するようにしたが、マニピュレータMbの現在位置をエンコーダから取得して位置データPbとしても良い。あるいは、マニピュレータMbの位置データPbを、ミラーシフト演算による自動算出か、エンコーダから取得したデータとするかを、予め設定可能なように構成しておくと、さらによい。
【符号の説明】
【0066】
A マニピュレータ
B マニピュレータ
Cm 命令
Ma 教示データ
Mb 教示データ
P ポジショナ
Pa 位置データ(マニピュレータA)
Pb 位置データ(マニピュレータA)
Pp 位置データ(ポジショナP)
Sa 加工線
Sb 加工線
SB 起動ボックス
T1 教示データ
T2 教示データ
Td 再生データ
TP ティーチペンダント
U1 教示対象
U2 教示対象
W ワーク
WP1 溶接電源
WP2 溶接電源
1 ロボット制御装置
2 TPインターフェース
3 入出力インターフェース
5 ハードディスク
6 教示対象設定部
7 教示データ作成処理部
8 教示データ合成処理部
9 教示データ自動修正部
11 解釈実行部
12 駆動指令部
13 溶接制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2台のマニピュレータおよび1台のポジショナを含む複数の制御対象の設置関係が予め定められた設置関係データによって定義されるとともに、前記ポジショナに設置されたワークに対する前記2台のマニピュレータによる2つの加工線が独立した教示データとして教示手段によって作成され、前記教示データに基づいて前記複数の制御対象を同期させて駆動するロボット制御装置において、
前記複数の制御対象の中から前記教示手段により選択されたいずれか一方の前記マニピュレータおよび前記ポジショナの組合せを、教示対象として設定する教示対象設定手段と、
前記教示手段からの入力に応じて前記教示対象毎に教示データを作成する作成手段と、
作成された2つの教示データを合成して1つの再生データを作成する教示データ合成手段と、
前記再生データに基づいて前記複数の制御対象を駆動する駆動制御手段と、
いずれか一方の教示データに対する編集操作が行われたときに、前記編集操作の内容に応じて他方の教示データを修正する教示データ自動修正手段と、
を備えたことを特徴とするロボット制御装置。
【請求項2】
前記教示データ合成手段は、前記教示データ自動修正手段による教示データの修正が行われた後に、前記2つの教示データを自動的に合成することを特徴とする請求項1記載のロボット制御装置。
【請求項3】
前記編集操作は、教示点の追加、位置修正または削除のいずれかの操作を含むことを特徴とする請求項1または2記載のロボット制御装置。
【請求項4】
前記編集操作が教示点の追加であるときは、前記教示データ自動修正手段は、前記追加された教示点の教示ステップ番号を抽出するとともに、他方の教示データに対して追加する教示点の位置データを前記設置関係データに基づいて算出し、この算出した位置データを有する教示点を、他方の教示データにおける前記教示ステップ番号の位置に追加することを特徴とする請求項3記載のロボット制御装置。
【請求項5】
前記編集操作が教示点の位置修正であるときは、前記教示データ自動修正手段は、前記位置修正された教示点の教示ステップ番号を抽出するとともに、他方の教示データに対して位置修正する教示点の位置データを前記設置関係データに基づいて算出し、この算出した位置データを、他方の教示データにおける前記教示ステップ番号に対応する教示点の位置データとすることを特徴とする請求項3記載のロボット制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−14307(P2012−14307A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148445(P2010−148445)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】