説明

ロボット関節部の防滴構造及びシールリング

【課題】 シールリングによるシール力がアップして異物等の侵入をなくし、防滴効果の向上を図る。
【解決手段】 シールリング10は、本体部11から径方向中心に向かって傾斜する形態の内向きリップ部12を有する構成であり、本体部11は回転軸9に嵌着されており、内向きリップ部12はハウジング4aにおける回転軸貫通孔4b周辺外面4cに接触させる構成としている。そして、前記ハウジング4a内部を外部より相対的に高い気圧状態としている。前記内向きリップ部12はハウジング4aの内圧によりハウジング4aの外面4cに圧接するようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールリングとハウジング内外圧力差を併用したロボットの関節部における防滴構造及びシールリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットの関節部においては、駆動アクチュエータ例えばサーボモータによって駆動される回転軸がアームなどのハウジングを貫通する構成であり、この貫通部分の防滴構造としては、図5に示すように、シールリングとしていわゆるVリング21を使用している。この場合、Vリング21は、回転軸22が貫通するハウジング23の貫通孔23aをシールするものであり、本体部21aと、この本体部21aの内周縁部から径方向外側へ傾斜するリップ部21bとから構成されている。
【0003】
そして、前記本体部21aは、前記回転軸22に嵌着され、リップ部21b先端部は、ハウジング23の貫通孔23aの周囲外面に接触させている。これにて関節部におけるハウジング23内外間の防滴を図っている。
なお、本発明と直接関係はないがVリングに関する技術として特許文献1、2がある。
【特許文献1】特開2000−283296号公報
【特許文献2】実公平7−44860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、防滴構造の強化を図るために、前記Vリング21を用いるのに加えて、ハウジング23内部を外部よりも相対的に高い空気圧として、ハウジング23外部から内部への液、空気、異物等の侵入を防止することが考えられているが、ハウジング23の内圧が相対的に高いことから、Vリングのリップ部21bが浮く虞があり、異物等が侵入する不具合がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シールリングと、ハウジング内外圧力差付加とにより防滴を図るについて、シールリングによるシール力がアップして異物等の侵入を防止でき、防滴効果が飛躍的に向上するロボット関節部の防滴構造及びシールリングを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1のロボット関節部の防滴構造によれば、ロボットの関節部においてハウジングの回転軸貫通孔部分をシールするシールリングを設けると共に、前記ハウジング内部を外部より相対的に高い気圧状態とすることにより前記ハウジング内への異物等の侵入を防止するロボット関節部の防滴構造であって、前記シールリングを、前記回転軸に嵌着される本体部から径方向中心に向かって傾斜する形態の内向きリップ部を有する構成とし、該内向きリップ部を前記ハウジングにおける前記回転軸貫通孔周辺外面に接触させる構成としたことを特徴とするものであり、これにより、リップの内側に高圧力が作用してハウジング外面に圧接するようになり、シールリングによるシール力がアップして異物等の侵入を防止でき、もって、防滴効果が飛躍的に向上する。
【0007】
前記シールリングは、前記内向きリップ部の他に、この内向きリップ部の外側において径方向外側に向かって傾斜する形態の外向きリップ部を有する構成としても良い(請求項2のロボット関節部の防滴構造)。このようにすると、内向きリップ部と外向きリップ部とで二重にシールすることができ、しかも、ハウジングの内外の圧力関係がいずれが高い状況でも一方のリップ部の対ハウジング接触圧が強化され、常にシール力がアップする。
【0008】
また、この場合、ハウジングに、内向きリップ部と外向きリップ部とこれらが接触する前記ハウジング外面とで形成される空間部にグリス等の潤滑剤を封入することができてシール性が向上する。
さらにまた、ハウジングに、内向きリップ部と外向きリップ部とこれらが接触する前記ハウジング外面とで形成される空間部を前記ハウジング内部及び外部より相対的に負圧とするための通気路を形成しても良い(請求項3のロボット関節部の防滴構造)。このようにすると、前記空間部を前記通気路を介して負圧状態とすることができて、内向きリップ部及び外向きリップ部の両方ともハウジング外面に密着させることができ、ハウジング内部及び外部のいずれに対してもシール性がアップする。
【0009】
請求項4のシールリングによれば、回転軸に嵌着される本体部と、この本体部から径方向中心に向かって傾斜する形態に形成された内向きリップ部とを有する構成であるから、気圧の内外差がある部分でのシール強化を図ることができる。
この場合、前記内向きリップ部の他に、この内向きリップ部の外側において径方向外側に向かって傾斜する形態の外向きリップ部を有する構成としても良く(請求項5のシールリング)、このようにすると、気圧の内外差がある部分でのシール強化を図ることができることに加え、二重シールによるシール性の強化も図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の第1の実施例につき図1及び図2を参照して説明する。図2には多関節型(6軸)ロボット1を示している。このロボット1は、ベース2上に、この場合6軸のアームを有し、そのアームの先端に、図示しないハンド等のツールを取り付けて構成される。
具体的には、前記ベース2上には、第1関節J1を介して第1のアーム3が回転可能に連結されている。この第1のアーム3には、第2関節J2を介して上方に延びる第2のアーム4の下端部が回転可能に連結され、さらに、この第2のアーム4の先端部には、第3関節J3を介して第3のアーム5が回転可能に連結されている。
【0011】
この第3のアーム5の先端には第4関節J4を介して第4のアーム6が回転可能に連結され、この第4のアーム6の先端には第5関節J5を介して第5のアーム7が回転可能に連結され、この第5のアーム7には第6関節J6を介して第6のアーム8が回転可能に連結されている。なお、各関節J1〜J6においては、図示しない例えばサーボモータにより各アーム3〜8を回転駆動するようになっている。
【0012】
さて、上記関節J2、J3においては、本発明に係る防滴構造が図1に示すように施されている。すなわち、例えば関節J2部分においては、アーム駆動のための回転軸9が第2のアーム4のハウジング4aの回転軸貫通孔4bを貫通している。
そして、前記回転軸9にはシールリング10が嵌着され、これにより前記回転軸貫通孔4bをシールしている。前記シールリング10は例えば樹脂製であって、平板状の本体部11と内向きリップ部12とを一体に有して構成されている。なお、シールリング10はゴム製であっても良い。
【0013】
前記本体部11は平面的に見ると円形板状をなして、中心部に嵌合孔11aが形成されている。また内向きリップ部12は前記本体部11の外周縁部から径方向中心に向かって傾斜する形態に形成されている。
上記シールリング10は、その本体部11の嵌合孔11aがハウジング4a外部において回転軸9外周に嵌着されている。そして、内向きリップ部12先端がハウジング4aにおける前記回転軸貫通孔4b周辺外面4cに接触している。
【0014】
さらに、前記回転軸9には、シールリング10を押えるための押さえ13が取り付けられており、この押さえ13は回転軸9と一体回転するように取り付けられていて、シールリング10の軸方向移動(ハウジング4aから離れる方向の移動)を阻止している。
そして、この場合、前記ハウジング4a内部は外部より相対的に高い気圧状態となるようにエアが供給されている。なおハウジング4a外部は大気圧状態である。
【0015】
上記構成においては、ハウジング4a内部における高い圧力が回転軸貫通孔4bを通して内向きリップ部12内側に作用し、該内向きリップ部12をハウジング4a外面4cに圧接させる。この結果、シールリング10によるシール力がアップして、ハウジング4a内部から外部への異物等(気体や液体或いは固形物など)の侵入を防止でき、防滴効果が飛躍的に向上する。
【0016】
このシールリング10によれば、気圧の内外差がある部分でのシール強化を図ることができる。
図3は本発明の第2の実施例を示しており、この第2の実施例におけるシールリング14は、前記内向きリップ部12の他に、該内向きリップ部12の外側において径方向外側に向かって傾斜する形態の外向きリップ部15を形成している。
【0017】
これによれば、内向きリップ部12と外向きリップ部15とで二重にシールすることができ、しかも、ハウジング4aの内外の圧力関係がいずれが高い状況でも一方のリップ部のハウジング接触圧が強化され、常にシール力がアップする。
この場合、内向きリップ部12と外向きリップ部15とハウジング4aの外面4cの間に空間部Kが形成されることから、この空間部Kをグリス等の潤滑剤の充填部として利用でき、シール性がさらに強化される。
【0018】
このシールリング14によれば、気圧の内外差がある部分でのシール強化を図ることができることに加え、二重シールによるシール性の強化も図ることができる。
また、図4は本発明の第3の実施例を示している。すなわち、ハウジング4aに、内向きリップ部12と外向きリップ部15とこれらが接触する前記ハウジング4aの外面4cとで形成される空間部Kを前記ハウジング4a内部及び外部より相対的に負圧とするための通気路16を形成し、この通気路16に配管17aを介して真空引きポンプ17を接続している。このポンプ17の駆動により、前記空間部Kがハウジング4a内部に対しても、また外部に対しても負圧状態とされる。
【0019】
この実施例によれば、前記空間部Kを前記通気路16を介して負圧状態とすることができて、内向きリップ部12及び外向きリップ部15の両方ともハウジング4aの外面4cに密着させることができ、ハウジング4a内部及び外部のいずれに対してもシール性を大幅にアップさせることができ、もって、防滴効果がさらに向上する。
なお、本発明のシールリングはロボット以外にも防滴構造一般に適用して実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施例を示す関節部分の防滴構造の断面図
【図2】ロボット全体の外観斜視図
【図3】本発明の第2の実施例を示す図1相当図
【図4】本発明の第3の実施例を示す図1相当図
【図5】従来例を示す図1相当図
【符号の説明】
【0021】
図面中、1はロボット、2はベース、3〜8は第1ないし第6のアーム、J1〜J6は関節、9は回転軸、10はシールリング、11は本体部、12は内向きリップ部、14はシールリング、15は外向きリップ部、16は通気路を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの関節部においてハウジングの回転軸貫通孔部分をシールするシールリングを設けると共に、前記ハウジング内部を外部より相対的に高い気圧状態とすることにより前記ハウジング内への異物等の侵入を防止するロボット関節部の防滴構造であって、
前記シールリングを、前記回転軸に嵌着される本体部から径方向中心に向かって傾斜する形態の内向きリップ部を有する構成とし、該内向きリップ部を前記ハウジングにおける前記回転軸貫通孔周辺外面に接触させる構成としたことを特徴とするロボット関節部の防滴構造。
【請求項2】
請求項1に記載のロボット関節部の防滴構造において、
前記シールリングは、前記内向きリップ部の他に、この内向きリップ部の外側において径方向外側に向かって傾斜する形態の外向きリップ部を有することを特徴とするロボット関節部の防滴構造。
【請求項3】
請求項2に記載のロボット関節部の防滴構造において、
ハウジングには、内向きリップ部と外向きリップ部とこれらが接触する前記ハウジング外面とで形成される空間部を前記ハウジング内部及び外部より相対的に負圧とするための通気路が形成されていることを特徴とするロボット関節部の防滴構造。
【請求項4】
回転軸に嵌着される本体部と、
この本体部から径方向中心に向かって傾斜する形態に形成された内向きリップ部と
を有することを特徴とするシールリング。
【請求項5】
請求項4に記載のシールリングにおいて、
前記内向きリップ部の他に、この内向きリップ部の外側において径方向外側に向かって傾斜する形態の外向きリップ部を有することを特徴とするシールリング。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−75930(P2006−75930A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260876(P2004−260876)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】