説明

ロールの異物除去治具および異物除去方法

【課題】高温環境下に長時間曝されることなくロールの異物を除去する異物除去治具を提供することを目的とする。
【解決手段】金属材を載置して走行させる複数のロールが並設されるロール列に搭載され、このロールの回転によりこのロール列上を異物除去治具が走行する。この異物除去治具は、窓を有する治具本体と、鎖とで形成される。この鎖は、ロールの軸と交差する方向に延びるように取り付けられている。この鎖は所定の緩みを有している。ロール表面に鎖が接触し、ロール表面の異物を削ぎ落とす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理炉内に配設され、鋼板等の鋼材を搬送するロールの表面に付着する異物を除去する異物除去治具および異物除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の製造ラインにおいては、搬送ロールや方向転換用ロール等のロールの表面に異物が付着すると、鋼板とロールとの間に異物が噛み込まれ、鋼板の表面に押し疵が転写されて、品質欠陥の原因となる。
例えば、冷延鋼板の製造においては、鋼板の機械的特性(強度,延性,加工性等)を得るために鋼板に熱処理を施す。連続焼鈍炉で鋼板の熱処理を行う場合、鋼板を高温の焼鈍炉内で搬送ロールを介して通板すると、搬送ロール表面に酸化物(酸化系スケール)等の異物が付着堆積する。
従来から、この異物防止対策について、搬送ロールへの異物付着を防止するのではなく、搬送ロールへ付着した異物を除去することにより、鋼板への押し疵を防止する方法も種々検討されている。このようなロールへ付着した異物を機械的に除去する装置としては、特許文献1に記載されている装置がある。この装置は、ブレード状の刃をロール表面に接触させ、ロール自身の回転によってブレード刃がロール表面を掻き、異物を除去するものである。
一方、薄板鋼帯においては、特許文献2に記載されているように、薄板鋼帯に作用する張力差やハースロールの表面粗さを制御することによって異物の発生を抑制する方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3231576号公報
【特許文献2】特開2001−123230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ブレードによりロール表面の異物を除去するためには、ブレード刃とロール表面が異物除去に理想的で安定な接触状態で保持されることが望ましい。しかし、ブレード刃やブレードの固定冶具、さらには架台などには、高温環境下で長時間曝されることにより、高温クリープ変形と呼ばれる熱変形が生じる。このため、ブレード刃のロールへの接触状態が幅方向に不均一となり、また異物除去効果を発揮するのに十分なブレード刃の押し付け圧力が得られなくなる。さらに変形が進むと、ブレード刃がロール表面から浮き上がり、異物除去の機能を全く果たせなくなる。あるいは、ブレード刃が変形によりロール表面に対して立ってしまい、ロールを傷つける場合すらある。
そのため、高温環境下で、ロールにブレードを取り付けたまま使用することができず、このブレードを用いるためには、熱処理炉内の温度を下げる必要がある。熱処理炉内の温度を下げると、約1週間は操業を停止しなければならず、生産性が低下する。
一方、薄板鋼帯においては、実際に薄板鋼帯の張力差を制御することは困難である。さらに、ロールの表面粗さを制御するためには、ロール交換が必要となる。ロール交換を行うためには、熱処理炉内の温度を下げる必要がある。このため、生産性が低下する。
【0004】
そこで、高温環境下に異物除去治具が長時間曝されることなく、確実に異物除去を行うことができ、かつ、生産性を低下させないためのロールの異物除去治具およびロールの異物除去方法を提供することを本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、金属材を載置して走行させる複数のロールが並設されるロール列に搭載され、このロールの回転によりこのロール列上を走行する熱処理炉におけるロールの異物除去治具であって、矩形の板で厚さ方向に開口した窓が形成され、上記ロール列に載置したとき、上記ロールのロール軸と同一方向に延びる第1、第2の辺およびロール軸と直交方向に延びる第3、第4の辺を備えた金属製の治具本体と、両端が上記第3、第4の辺にそれぞれ固定されることにより、上記第1、第2の辺と所定角度にて交差する方向に延びるようにこれら第3、第4の辺に掛け渡され、かつ、その中間部が治具本体の下方に垂れ下がるよう所定の緩みを有する金属製の鎖と、を有する熱処理炉におけるロールの異物除去治具である。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、所定の緩みを有する金属製の鎖が設けられている。この緩みによりロールの表面に鎖が接触する。そして、ロールの異物除去治具が移動する。このため、鎖によりロールの表面に付着する異物を削ぎ落とすことができる。
【0007】
金属材とは、鉄、鋼、アルミニウム、合金等で形成された板材または帯体である。
熱処理炉は、鋼材の連続熱処理炉や、鉄材の連続熱処理炉など、400℃以上の高温雰囲気下にて熱処理を行う炉である。
ロールは、鋼製または鋼の表面に種々の合金などを被覆したハースロール、デフレクタロール、ブライドルロール、ピンチロール等がある。
異物とは、金属材を焼鈍する際に、この金属材の表面に生成する0.1〜0.5μmの酸化物系スケールや金属粉がロール表面に粒状に凝集堆積したものである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、金属材を載置して走行させる複数のロールが並設されるロール列に搭載され、このロールの回転によりこのロール列上を走行するロールの異物除去治具を用いた熱処理炉におけるロールの異物除去方法であって、矩形の板で厚さ方向に開口した窓が形成され、上記ロール列に載置したとき、上記ロールのロール軸と同一方向に延びる第1、第2の辺およびロール軸と直交方向に延びる第3、第4の辺を備えた金属製の治具本体と、両端が上記第3、第4の辺にそれぞれ固定されることにより、上記第1、第2の辺と所定角度にて交差する方向に延びるようにこれら第3、第4の辺に掛け渡され、かつ、その中間部が治具本体の下方に垂れ下がるよう所定の緩みを有する金属製の鎖と、を有するロールの異物除去治具を準備する工程と、このロールの異物除去治具をロール列に搭載し、このロールの異物除去治具を走行させる工程と、を有することにより、この鎖をロール表面に接触させ、かつ、ロールの動きにこの鎖が応動してこのロール表面の異物を削ぎ落とす熱処理炉におけるロールの異物除去方法である。
所定の緩みとは、この金属鎖の第3の辺への掛止端(掛止金具)と第4の辺の掛止端との直線距離よりも長い金属鎖がこれらの間に掛け渡されていることによって生ずる緩み(またはたるみ)のことである。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、ロール列の上にロールの異物除去治具を載置させる。その後、ロールの異物除去治具をロール列上を走行させる。ロールの異物除去治具には、所定の緩みを有する金属製の鎖を有している。このため、ロール表面に鎖が接触し、ロール表面の異物を削ぎ落とすことができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ロール列の上をロールの異物除去治具を走行させるだけで各ロール表面から付着した異物を除去することができる。このため、高温環境下にこの異物除去治具が長時間曝されることなく、ロール表面から異物を除去することができる。そして、ロール表面に鎖(所定重量の鎖の一部)が接触し、この鎖の自重によりロール表面から滑り落ちるときこのロール表面の異物を削ぎ落とすため、確実に異物除去を行うことができる。また、異物除去治具に熱変形を生じさせることがないため、変形した治具によりロールを傷つけることもなく、異物を除去することができる。さらに、稼働中の熱処理炉を完全に停止させる必要がないため、生産性を低下させることを避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施例を図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0012】
この実施例では、鋼を鋳造して鋼板を製造する熱処理を行う熱処理炉内でロール表面に付着した異物を除去する方法について説明する。具体的にはコークスと鉄鉱石を溶解させた後に酸素を吹き込みスラブを製造するスラブ製造工程と、スラブを加熱炉にて加熱した後に圧延を行う圧延工程と、圧延後に、所定の性質および状態を付与するための熱処理を行う熱処理工程とを経て鋼板が製造される。これらの工程は所定のロール列(等間隔の複数の水平ロールで構成される)により連続処理が可能に構成されている。この熱処理工程がこの実施例の対象となる。
【0013】
図1は、この発明の一実施例に係るロールの異物除去治具(以下、異物除去治具)10を示す斜視図である。
この異物除去治具10は、矩形の治具本体11を有し、この治具本体11に形成された窓11aに複数本の金属鎖12が斜めに掛け渡されて構成されている。
【0014】
上記治具本体11は、矩形の板材で、耐熱性を有する鋼材(例えばSUS304)で形成されている。平面視してこの治具本体11の中央には本体と略相似形の矩形の窓11aが形成されている。具体的には、所定厚さの矩形の鋼板を打ち抜き、矩形の窓11aを形成してある。このため、この矩形の治具本体11は、4つの帯板状の部分、すなわち2つの短辺である第1の辺11A、第2の辺11Bと、2つの長辺である第3の辺11C、第4の辺11Dとを有することとなる。
この治具本体11の長さ方向の一端部(第2の辺を構成する部分)には、この治具本体11の幅と同じ幅で所定長さの冷却部11bが設けられている。この冷却部11bの長さは、後述する隣接する2本のロール120の間の距離より長く設定されている。この冷却部11bは、治具本体11がロール列上を走行する際、各ロール120の表面に接触してそのロール表面の温度を低下させるものである。
具体的には、この治具本体11の寸法を、幅2600mm、長さ6500mm、厚さ40mmとした場合、上記窓11aの寸法は幅2000mm、長さ3200mmである。
【0015】
上記各金属鎖12は、治具本体11と同一素材で製造された多数の金属輪を連結して構成された鎖である。この金属鎖12は、ロングリングチェーンであり、所定の重量を有している。
この金属鎖12は、第3の辺11Cと第4の辺11Dとの間に掛け渡されて治具本体11に取り付けられている。本実施例では5本の金属鎖12が等間隔で掛け渡されているが、この金属鎖12の数は任意である。そして、この金属鎖12は、短辺である第1,第2の辺11A,11Bと平行にではなく、第1の辺11A(第2の辺11B)と所定角度にて交差する方向に延びている。この実施例においてその交差する角度は17°である。
また、これらの金属鎖12は、所定の緩み(たるみ)を有する長さに設けられている。具体的には、この金属鎖12の両端である両掛止端である、第3の辺11Cへの掛止部分と第4の辺11Dへの掛止部分との間の直線距離(平面視)は2088mmであるが、これらの金属鎖12全体の長さは2600mmである。よって、鋼製の各金属鎖12は、所定重量を有するため、上記窓11a内ではその中間部分が下方に所定高さだけたるみを有して治具本体11に取り付けられている。なお、この金属鎖11は、金属輪を着脱することにより、その全体の長さ調整が容易になっている。
【0016】
図2に示すように、所定長さのロール列の一部に配設される熱処理炉100は、ロール列の一部を他の部分と隔成する炉体110と、鋼材が搭載されて搬送されるロール列120と、図示しない熱源などで構成されている。熱処理炉100内では、図示しないスタンドに水平に保持されて複数のロール120が等間隔で互いに平行に並設されている。各ロール120は同一の構成であって、正逆自在に回転駆動される構成である。
また、この熱処理炉100内は温度調整装置などにより600〜1100℃に調節されるとともに、所定のガスの給排が可能に構成されている。
そして、通常運転にあっては、上流側から搬送されてきた常温〜50℃の鋼材がロール120に搭載されて走行し通板が行われ、その際所定の熱処理が施され、次工程に搬送される。
熱処理炉100には下流側に隣接して冷却設備200が設けられている。この冷却設備200は、例えばロール列の上下に配設したスプリンクラなどを含む水冷方式であって、熱処理炉100にて所定の熱処理が施された鋼材をこの設備を通板中に所定温度にまで冷却することとなる。なお、冷却設備200の下流側には他の鋼板処理設備が配設されている。
【0017】
熱処理炉100内は稼働中は高温となるため、その長期運転により、図3に示すように、各ロール120の表面には、鋼材表面からのスケールが凝着し、異物121が付着することとなる。この付着した異物121は、その後に処理される鋼材の表面に傷を発生させる原因となる。
【0018】
以上の構成からなる異物除去治具10を用いてロール表面に付着した異物を除去する方法について図4を参照して説明する。
まず、上記構成の異物除去治具10を準備する。この異物除去治具10は1台でも、異なる構成の治具を複数台用意してもよい。例えば1台の治具は、平面視して、冷却部である前方側に対して右側から左側に向かって金属鎖が斜めに掛け渡された構成とし、他の治具は、その金属鎖の左端が前方側で右端が後方側となるよう上記治具とは対称に交差して掛け渡された構成としてもよい。
そして、この異物除去治具10を熱処理炉100より上流側でロール120列の上に載置する。このとき、治具本体11にあって、その第1の辺11Aと第2の辺11Bとは、各ロール120の軸線と平行になるように、かつ、前方側である冷却部11bを下流に向けて載置する。よって、治具本体11の第3、第4の辺11C,11Dは、ロール列の延在方向に沿って配置され、各金属鎖12は各ロール120の軸線に対して斜めに交差するよう配設されることとなる。このとき、斜めになった各金属鎖12は隣り合う2本のロール120に跨る状態となり、これら2本のロール120の表面に接触する。そして、各金属鎖12は隣接する2本のロール120の間でその中間部が下側に位置した所定のたるんだ状態となる。
次に、稼働中の熱処理炉100を完全に停止させることなく、例えばガスの給排を停止し、温度をわずかに降下させた状態で、各ロール120を所定速度で正転させる。この結果、異物除去治具10はロール列上で熱処理炉100内を所定の速度で下流側に向かって走行する。このように異物除去治具10が熱処理炉100内を走行移動するに際して、治具本体11に掛け渡された複数の金属鎖12は、金属鎖12の一部がロール表面に接した状態でそのロール120が回転すると、その自重によりロール120の表面に沿ってロール120から下方に落下し、このロール120の表面に付着した異物121を削ぎ落とす。よって、この異物除去治具10によって各ロール120の中央から一端側部分(図4のX部分)の異物121を削ぎ落とすことができる。
このとき、治具本体11では、まず冷却部11bが高温のロール120表面に接するため、ロール表面温度が所定温度だけ降下する。降下したロール120の表面に金属鎖12が接触することにより、金属鎖12の熱疲労など熱負荷は緩和されることとなる。
熱処理炉100の入口から出口まで異物除去治具120が走行した後に、このロール列の各ロール120の駆動を逆転させ、熱処理炉100の出口から入口に向かって、異物除去治具10を逆走させる。逆走させることでロール120の中央から他端部側に(上記とは別の部位に)付着した異物121を削ぎ落とすことができる。
最後に、各ロール120を正転駆動させ、この異物除去治具10を熱処理炉100及び冷却設備200内を走行させる。この場合、冷却設備200では、異物除去治具10の治具本体11および金属鎖12を常温近くまで冷却することとなる。異物除去治具10をロール列上から排出するためである。
これらの工程により、きわめて短時間で熱処理炉100内の各ロール120の表面に付着した異物を除去することができる。つまり、異物除去治具10を長時間高温に曝すことなく、各ロール120の付着異物を除去することができる。また、これは、熱処理炉100の通常運転への復帰時間を短縮することができ、ほぼ連続的な鋼材の熱処理を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の一実施例に係る異物除去治具を示す斜視図である。
【図2】この発明の一実施例に係る熱処理炉を示す説明図である。
【図3】この発明の一実施例に係るロールとロールに付着した異物を示す断面図である。
【図4】この発明の一実施例に係る異物除去方法を説明するための異物除去治具の斜視図である。
【符号の説明】
【0020】
10 異物除去治具、
11 治具本体、
11a 窓、
11A 第1の辺、
11B 第2の辺、
11C 第3の辺、
11D 第4の辺、
12 金属鎖、
100 熱処理炉、
120 ロール、
121 異物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材を載置して走行させる複数のロールが並設されるロール列に搭載され、このロールの回転によりこのロール列上を走行する熱処理炉におけるロールの異物除去治具であって、
矩形の板で厚さ方向に開口した窓が形成され、上記ロール列に載置したとき、上記ロールのロール軸と同一方向に延びる第1、第2の辺およびロール軸と直交方向に延びる第3、第4の辺を備えた金属製の治具本体と、
両端が上記第3、第4の辺にそれぞれ固定されることにより、上記第1、第2の辺と所定角度にて交差する方向に延びるようにこれら第3、第4の辺に掛け渡され、かつ、その中間部が治具本体の下方に垂れ下がるよう所定の緩みを有する金属製の鎖と、
を有する熱処理炉におけるロールの異物除去治具。
【請求項2】
金属材を載置して走行させる複数のロールが並設されるロール列に搭載され、このロールの回転によりこのロール列上を走行するロールの異物除去治具を用いた熱処理炉におけるロールの異物除去方法であって、
矩形の板で厚さ方向に開口した窓が形成され、上記ロール列に載置したとき、上記ロールのロール軸と同一方向に延びる第1、第2の辺およびロール軸と直交方向に延びる第3、第4の辺を備えた金属製の治具本体と、両端が上記第3、第4の辺にそれぞれ固定されることにより、上記第1、第2の辺と所定角度にて交差する方向に延びるようにこれら第3、第4の辺に掛け渡され、かつ、その中間部が治具本体の下方に垂れ下がるよう所定の緩みを有する金属製の鎖と、を有するロールの異物除去治具を準備する工程と、
このロールの異物除去治具をロール列に搭載し、このロールの異物除去治具を走行させる工程と、
を有することにより、上記鎖をロール表面に接触させ、かつ、ロールの動きに鎖が応動してこのロール表面の異物を削ぎ落とす熱処理炉におけるロールの異物除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−142695(P2010−142695A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320123(P2008−320123)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【特許番号】特許第4481341号(P4481341)
【特許公報発行日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(508370485)
【Fターム(参考)】