説明

ロール支持装置

【課題】 外筒の回転方向に拘らず、軸受内部に存在するグリース又はこのグリース中の基油の外部への漏出を有効に防止する。
【解決手段】 使用時にも回転しないロール軸の両端寄り部分にリング状部材を介してシールリング19aを外嵌固定すると共に、使用時に回転する外筒の両端寄り部分に当て部材を内嵌固定し、更に、この当て部材の軸方向外側面と上記シールリング19aの軸方向内側面とを、隙間を介して対向させる。この軸方向内側面の円周方向等間隔複数個所に凸部39、39を形成する。これら各凸部39、39は略台形とし、円周方向両側に存在する傾斜側面40a、40bを、径方向外方に向かう程互いに遠ざかる方向に傾斜させる。上記隙間部分に入り込んだグリース又は基油は、上記各凸部40a、40bにより、径方向内方に送り出され、上記軸受側に還流される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特に鉄鋼設備等に使用され、薄板材等の被矯正材のそりや歪みを矯正する目的で、この被矯正材に曲げ方向と引っ張り方向との力を加える事により塑性伸びを生じさせる為のテンションレベラーに組み込むワークロール、中間ロール、バックアップロール等のロール支持装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上記テンションレベラーには、ワークロール、中間ロール、バックアップロール等の複数のロール支持装置を組み込んでいる。例えば、図6は、これらロール支持装置のうち、バックアップロールの従来から考えられている構造の1例を示している。ロールである外筒1は、固定のロール軸2に対し、複数の針状ころ軸受3と玉軸受4とにより回転自在に支持している。このうちの玉軸受4を構成する内輪5の軸方向内(軸方向に関して「内」とは、外筒1及びロール軸2の軸方向中央側を言い、図1、2、6の左側。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)端面は、上記ロール軸2の外周面に形成した段差面6に突き当てており、上記内輪5の軸方向外(軸方向に関して「外」とは、外筒1及びロール軸2の軸方向端側を言い、図1、2、6の右側。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)端面は、上記ロール軸2の端部に外嵌したリング状部材7の内端面(図6の左端面)に突き当てている。このリング状部材7は、円筒状の本体部8の外端部(図6の右端部)外周面に外向フランジ状の鍔部9を設けている。そして、このリング状部材7の外端面を、上記ロール軸2の端部外周面に係止した止め輪10により抑え付ける事により、このリング状部材7が上記玉軸受4から離れる方向に変位するのを阻止している。この構成により、上記内輪5は、上記ロール軸2に対する軸方向の変位が阻止される。
【0003】
又、上記リング状部材7の中間部内周面に係止溝11を全周に亙って形成すると共に、この係止溝11に係止したOリング12を、この係止溝11の底面と上記ロール軸2の外周面との間で弾性的に圧縮して、上記リング状部材7の内周面と上記ロール軸2の外周面との間を密封している。又、上記玉軸受4を構成する外輪13は、外輪間座14を介して、上記外筒1の中間部内周面に形成した段差面18に突き当てている。
【0004】
更に、この外筒1の端部内周面に、ゴム製の筒部15と摺接板16とにより構成した当て部材17を圧入固定している。又、上記リング状部材7の本体部8にゴム製のシールリング19を外嵌固定すると共に、このシールリング19に設けたシールリップ20の先端縁を、上記摺接板16の軸方向外側面に摺接させている。そしてこの構成により、上記外筒1の内周面と上記ロール軸2の外周面との間に存在し、前記針状ころ軸受3及び玉軸受4を設置した内部空間25を外部から遮断している。この為、上記外筒1の外部からこの内部空間25内に冷却水等の異物が進入する事が阻止される。即ち、バックアップロールは前記テンションレベラーに組み込んで使用するが、被矯正材の矯正に伴う温度上昇を抑えるべく、この被矯正材に冷却水を注ぐ必要がある。但し、この冷却水がバックアップロール内に入り込むと、軸受3、4の潤滑性が悪化して耐久性の低下を招く可能性がある。この為、上述の従来構造の場合には、上記当て部材17の軸方向外側面に上記シールリング19に設けたシールリップ20の先端縁を摺接させる事により、上記内部空間25内に冷却水等の異物が進入する事を阻止している。
【0005】
又、上記リング状部材7に設けた鍔部9の外周面は、軸方向外端(図6の右端)に向かう程直径が小さくなる方向に傾斜したテーパ面部21としている。又、上記外筒1の端部内周面に、端部開口に向かう程拡径したテーパ面部23を設けている。更に、上記鍔部9の下端部外周面に、軸方向全長に亙る水抜き溝22を設けている。従って、上記外筒1の端部内周面と上記鍔部9の外周面との間を通じて、この鍔部9よりも上記軸受3、4側の内部空間内に冷却水等の水が進入した場合でも、この水を上記水抜き溝22を通じて上記外筒1外に排出し易くできる。尚、図示の例の場合には、上記リング状部材7に設けた鍔部9の外周面を、軸方向外端に向かう程直径が小さくなる方向に傾斜したテーパ面部21としているが、この外周面を単なる円筒面とする事も、従来から考えられている。又、図示の例の場合には、上記外筒1の端部内周面に端部開口に向かう程拡径したテーパ面部23を設けているが、この端部内周面を単なる円筒面とする事も、従来から考えられている。
【0006】
上述の様に構成するロール支持装置であるバックアップロールは、ロール軸2の両端部を固定の支持部に固定した状態で、図示しない中間ロール、ワークロール等と組合せ、テンションレベラーとして使用する。この場合、上記外筒1の外周面には中間ロールを構成する外筒を押し付け、摩擦により、バックアップロールの外筒1を回転させる。尚、テンションレベラーの種類により中間ロールを省略し、ワークロールを構成する外筒の外周面にバックアップロールの外筒1を、直接押し付ける場合もある。又、バックアップロールの使用時には、被矯正材の温度上昇を抑えるべく、この被矯正材に冷却水を注ぐ。
【0007】
上述の図6に示した従来構造の場合には、前記内部空間25内に冷却水等の異物が進入する事を阻止する為に、前記当て部材17の軸方向外側面に、前記シールリング19に設けたシールリップ20の先端縁を摺接させている。例えば、このシールリップ20の外周面付近に冷却水が溜まると、この冷却水は、上記シールリップ20に直径を縮める方向の力を加える。但しこの場合には、この冷却水により、このシールリップ20の先端縁が上記当て部材17の軸方向外側面に強く押し付けられる為、この冷却水が上記内部空間25内へ進入する事を阻止できる。この様に、上述の図6に示した従来構造の場合には、外部から冷却水等の異物が内部空間25内に進入するのを防止する面からは有効であるが、この内部空間25内で、前記針状ころ軸受3及び玉軸受4内に存在するグリース又はこのグリース中の基油が外部に漏出するのを防止する面からは、未だ改良の余地がある。
【0008】
即ち、上記各軸受3、4内には潤滑の為のグリースが存在するが、バックアップロールの使用時には、例えば、玉軸受4を構成する保持器26が、各玉27、27の転動面とこれら各玉27、27を保持するポケット28、28の内面との間に存在する隙間の存在等により、径方向に振動する。この保持器26が径方向に振動すると、ポンピング作用が生じて、この保持器26の内周面と内輪5の外周面との間からグリース又はこのグリース中の基油が絞り出される。そして、このグリース又は基油が軸方向外方に押し出され、上記当て部材17を構成する摺接板16の内周縁と上記リング状部材7の外周面との間部分を通じて、この摺接板16の軸方向外側面とリング状部材7の外周面及び上記シールリップ20の内周面とで囲まれた空間24内に流れ込む。この結果、上記グリース又は基油は、上記軸受3、4側の内部空間25内に戻る事なく上記空間24内に溜まっていく。そして、この空間24内に溜まったグリース又は基油が、上記シールリップ20と摺接板16との摺接部を押し広げ、この摺接部から外部に漏出する可能性がある。この様に、上述の図6に示した従来構造の場合には、上記内部空間25内のグリース又は基油が外部に漏出するのを有効に防止する面からは、未だ改良の余地がある。
【0009】
又、このグリース又は基油の漏出防止を図れる手段を採用する場合に、外筒1の回転方向によりこの漏出防止の効果に違いが生じるものを採用する事は、各部材の組み付け作業時に、使用時の外筒1の回転方向との関係を考慮しつつ組み付ける必要が生じ、組み付け作業が面倒になる為、好ましくない。
尚、本発明に関連する先行技術文献として、特許文献1〜3がある。
【0010】
【特許文献1】実公平5−20891号公報
【特許文献2】実開平5−28504号公報
【特許文献3】実開平6−32731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明のシールリング付ロール支持装置は、この様な事情に鑑みて、外筒の回転方向に拘らず、軸受内部に存在するグリース又はこのグリース中の基油の外部への漏出を有効に防止できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のシールリング付ロール支持装置は、前述の図6に示した従来から考えられているシールリング付ロール支持装置と同様に、使用時に回転する外筒と、この外筒の内径側に設けられ使用時にも回転しないロール軸と、これら外筒の内周面とロール軸の外周面との間に設けられた軸受と、このロール軸の端部外周面に外嵌支持されて、この端部外周面に係止された止め輪と共に上記軸受の軸方向の変位を阻止するリング状部材と、このリング状部材に外嵌支持されたシールリングと、上記外筒の端部寄りに内嵌固定された第二のリング状部材とを備え、上記シールリングの一部をこの第二のリング状部材に摺接又は近接対向させる事により、上記外筒の内周面と上記ロール軸の外周面との間に存在し上記軸受を設置した内部空間を外部から遮断する。
そして、本発明のシールリング付ロール支持装置にあっては、上記第二のリング状部材の軸方向外側面と上記シールリングの軸方向内側面とを隙間を介して対向させると共に、これら軸方向外側面と軸方向内側面とのうちの一方の側面の円周方向複数個所に、この一方の側面から他方の側面に向けて突出した凸部を形成している。そして、これら各凸部を、円周方向両側に存在する面同士が径方向外方に向かう程互いに遠ざかる様に形成している。
【発明の効果】
【0013】
上述の様に構成する本発明のシールリング付ロール支持装置の場合、シールリングの軸方向内側面と第二のリング状部材の軸方向外側面とのうちの一方の側面に複数の凸部を形成しており、しかも、これら各凸部を、円周方向両側に存在する面同士が径方向外方に向かう程互いに遠ざかる様に形成している。この為、上記シールリングと第二のリング状部材とが相対回転した場合に、上記シールリングの軸方向内側面と第二のリング状部材の軸方向外側面との間部分に達したグリース又は基油が、上記各凸部の存在により径方向内方に押し戻される。この為、このグリース又は基油が、軸受側に還流して、上記シールリングと第二のリング状部材との間部分を通じて外部に漏出する事を防止できる。又、上記各凸部を、円周方向両側に存在する面同士が径方向外方に向かう程互いに遠ざかる様に形成している為、外筒の回転方向に拘らず、上記各凸部部分に達したグリース又は基油を上記軸受側に還流させる事ができる。この結果、本発明の場合には、外筒の回転方向に拘らず、軸受内部に存在するグリース又は基油が外筒外に漏出する事を、有効に防止できる。そしてこの様にグリース又は基油の漏出を有効に防止できれば、上記軸受内のグリースの量を十分に確保できると共に、このグリースを軸受の潤滑に有効利用でき、シールリング付ロール支持装置の耐久性の向上を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施する場合に好ましくは、上記外筒の両端部のうち、少なくとも一端部内周面に、一端開口に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜したテーパ面部を設けている。
この好ましい構成によれば、使用時に冷却水等の異物が上記外筒の両端部から内側に進入した場合でも、この外筒の回転に伴う遠心力の作用により上記異物を外筒外に有効に排出し易くできる。この為、上記外筒の内周面とロール軸の外周面との間に存在する軸受を設置した内部空間内に上記異物が進入する事を有効に防止でき、耐久性をより向上させる事ができる。
【実施例】
【0015】
図1〜4は、本発明の実施例を示している。尚、本実施例の特徴は、外筒1の回転方向に拘らず、針状ころ軸受3及び玉軸受4の内部に存在するグリース又はこのグリース中の基油の外部への漏出を有効に防止すべく、ロール軸2の両端部にリング状部材7aを介して外嵌支持したシールリング19aと、外筒1の両端寄り部分に内嵌固定した第二のリング状部材である、当て部材17aとの構造を工夫した点にある。本実施例に於いて、その他の構造は、前述の図6に示した従来から考えられている構造とほぼ同様である為、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本実施例の特徴部分、並びに前述の図6に示した従来構造と異なる部分を中心に説明する。
【0016】
本実施例の場合、上記ロール軸2の両端寄り部分に、その外端部(図1の右端部)に外向フランジ状の鍔部9aを設けたリング状部材7aを外嵌支持している。又、この鍔部9aの外周面に、軸方向外端(図1の右端)に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜したテーパ面部21aを設けている。そして、このテーパ面部21aを、上記外筒1の両端寄り部分内周面に形成したテーパ面部23に、部分円すい筒状の微小隙間を介して対向させている。又、上記テーパ面部21aの下端部に、内部に入り込んだ冷却水等の水を排出する為の水抜き溝22を形成している。
【0017】
特に、本実施例の場合には、上記リング状部材7aの本体部8にシールリング19aを外嵌固定している。このシールリング19aは、全体を合成ゴムの如きエラストマー等の弾性材により造っており、円筒状の本体部29と、この本体部29の軸方向内側面(図1、2の左側面)の外径寄り部分に軸方向に対し傾斜する方向に突出形成した傾斜筒部30とを備える。この傾斜筒部30は、軸方向内方(図1、2の左方)に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい筒状である。又、この傾斜筒部30の軸方向内端に円輪部31を連結すると共に、この円輪部31の軸方向外側面の外周縁部に筒状の突部32を、軸方向に突出形成している。上記本体部29と傾斜筒部30の基端部とには、補強板34を包埋支持している。
【0018】
一方、前記外筒1の両端寄り部分内周面に設けた大径段部33の内周面で、軸方向に関して前記玉軸受4及びシールリング19aの間に位置する部分に第二のリング状部材である、当て部材17aを固定している。この当て部材17aは、ゴム製の筒部15と、この筒部15の内周側に結合固定した摺接板16aとから成る。この摺接板16aは、金属板により、断面L字形で全体を円環状に造っており、この摺接板16aを構成する筒部35の軸方向外端部に、軸方向外端に向かう程直径が小さくなる方向に傾斜した、部分円すい筒状の傾斜筒部36を形成している。
【0019】
この様な当て部材17aは、上記大径段部33の軸方向内端に存在する段差面38に外径寄り部分側面を突き当てた状態で、上記大径段部33に圧入により内嵌固定している。この状態で、上記円輪部37の内周縁を、前記リング状部材7aの軸方向内端寄り部分外周面に、微小隙間を介して近接対向させている。又、上記円輪部37の軸方向外側面を、上記シールリング19aを構成する円輪部31の軸方向内側面に、隙間41を介して対向させている。更に、上記摺接板16aに形成した傾斜筒部36の内周面に、上記シールリング19aの外周縁部に設けた突部32の先端縁を、全周に亙り摺接させている。この構成により、上記外筒1の内周面とロール軸2の外周面との間に存在し前記各針状ころ軸受3及び上記各玉軸受4を設置した内部空間25が、外部から遮断される。
【0020】
更に、本実施例の場合には、上記摺接板16aの円輪部37の軸方向外側面と隙間41を介して対向する、上記シールリング19aの円輪部31の軸方向内側面の円周方向等間隔複数個所に、それぞれが軸方向内側に向けて突出する凸部39、39を形成している。これら各凸部39、39は、図3に斜格子で示す様に、それぞれの径方向外端の辺の長さが径方向内端の辺の長さよりも長い、略台形に形成している。従って、これら各凸部39、39の円周方向両側に存在する傾斜側面40a、40bは、径方向外方に向かう程互いに遠ざかる方向に傾斜している。
【0021】
上述の様に構成する本実施例の場合には、シールリング19aの円輪部31の軸方向内側面に軸方向内方に向けて突出する複数の凸部39、39を形成しており、しかも、これら各凸部39、39を、円周方向両側に存在する傾斜側面40a、40b同士が径方向外方に向かう程互いに遠ざかる様に形成している。この為、上記シールリング19aと、このシールリング19aと隙間41を介して対向した当て部材17aとが相対回転した場合に、このシールリング19aの円輪部31の軸方向内側面と、上記当て部材17aを構成する摺接板16aの軸方向外側面との隙間41部分に達したグリース又は基油が、上記各凸部39、39の存在により径方向内方に押し戻される。この為、このグリース又は基油が、軸受3、4側に還流して、上記シールリング19aと当て部材17aとの間部分を通じて外部に漏出する事を防止できる。
【0022】
具体的に説明すると、例えば、本実施例のシールリング付ロール支持装置である、バックアップロールの使用時に外筒1が回転すると、上記各玉軸受2の複数の玉27が、保持器26と共に回転する。この際、この保持器26が、各玉27の転動面とこれら各玉27を保持するポケット28との間の隙間の存在等により、径方向に振動する。そして上記保持器26が径方向に振動すると、この振動によるポンピング作用により、上記玉軸受4内のグリース又はこのグリース中の基油の一部が、内輪5の端部外周面と保持器26の端部内周面との間に絞り出される。この絞り出されたグリース又は基油の一部は、図1、2に矢印イで示す様に、玉軸受4から軸方向外側に排出された後、リング状部材7aの外周面と摺接板16aの内周縁との間部分を通じて、この摺接板16aの軸方向外側面とシールリング19aの軸方向内側面及びリング状部材7aの外周面とで囲まれた空間42内に流れ込む。そして、この空間42内に流れ込んだグリース又は基油が、外径側に送られて、図1、2に矢印ロで示す様に、上記摺接板16aを構成する円輪部37の軸方向外側面と、上記シールリング19aの円輪部31の軸方向内側面との間の隙間41部分に入り込む。
【0023】
この隙間41部分に入り込んだグリース又は基油の一部は、上記シールリング19aの円輪部31の軸方向内側面で、円周方向に隣り合う凸部39、39同士の間に存在する凹部43、43内に入り込む。上記外筒1の回転に伴い、この外筒1に固定した当て部材17aは、図3に実線矢印αで示す方向に回転する。この際、上記シールリング19aは回転しないが、上記当て部材17aとシールリング19aとの相対回転により、上記凹部43、43内に入り込んだグリース又は基油が、上記当て部材17aの回転と同方向の、図3の実線矢印α方向に移動する(連れ回る)。この結果、上記各凹部43、43内に入り込んだグリース又は基油が、前記各凸部39、39の傾斜側面40a、40bのうち、上記当て部材17aの回転方向後側の傾斜側面40aに、実線矢印α方向の大きな速度S(図4)で衝突する。この速度Sは、この傾斜側面40aと平行な速度成分H(図4)を有する。この為、上記グリース又は基油は、この傾斜側面40aに沿って、図3、4に実線矢印ハで示す様に、径方向内方に送り出される。
【0024】
又、前記隙間41部分に入り込んだグリース又は基油のうち、上記凹部43、43内に入り込まず、上記各凸部39、39と上記円輪部37の軸方向外側面との間に流れ込んだグリース又は基油も、漸次これら各凸部39、39にこすり取られて、上記各凹部43、43内に取り込まれる。そして、このグリース又は基油も上記傾斜側面40aに沿って、図3、4に実線矢印ハで示す様に、径方向内方に送り出される。
【0025】
上述の様に作用する結果、上記隙間41部分に入り込んだグリース又は基油は、径方向内方に送り出され、前記軸受3、4が存在する内部空間25内に還流される。言い換えれば、本実施例の場合には、上記シールリング19aの軸方向内側面に形成した各凸部39、39同士の間に存在する凹部43、43が、グリース溜めの役割を果たし、上記各凸部39、39がこのグリースを吸い上げるポンプの役割を果たす。尚、前記外筒1が上述した場合と逆方向である、図3の点線矢印βで示す方向に回転した場合には、上記各凹部43、43内に入り込んだグリース又は基油が、上記各凸部39、39の傾斜側面のうちの傾斜側面40bに沿って、同図に点線矢印ニで示す様に、径方向内方に送り出され、上述した場合と同様に、上記内部空間25内に還流される。
【0026】
この様に本実施例の場合には、上記各凸部39、39の形状を略台形とし、円周方向両側に存在する面を、径方向外方に向かう程互いに遠ざかる方向に径方向に対し傾斜した傾斜側面40a、40bとしている為、上記外筒1の回転方向に拘らず、上記隙間41部分に達したグリース又は基油を、上記軸受3、4側の内部空間25に還流させる事ができる。この結果、上記外筒1の回転方向に拘らず、これら軸受3、4の内部に存在するグリース又は基油が、シールリング19aと当て部材17aとの摺接部を通じて外筒1外に漏出する事を、有効に防止できる。そしてこの様にグリース又は基油の漏出を有効に防止できれば、上記軸受3、4内のグリースの量を十分に確保できると共に、このグリースを軸受3、4の潤滑に有効利用でき、バックアップロールの耐久性の向上を図れる。この為、本実施例の様に、玉軸受4として、両端部にシールリングを設けない、所謂オープンタイプの構造を使用した場合でも、耐久性を十分に確保し易くでき、低コスト化に寄与できる。但し、このシールリングの採用によるコスト上昇を許容できる場合に、上記玉軸受4として、両端部のうちの少なくとも一端部にシールリングを設けた構造を採用できる事は勿論である。
【0027】
又、本実施例の場合には、前記外筒1の両端部内周面に、端部開口に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜したテーパ面部23を設けている。この為、バックアップロールの使用時に冷却水等の異物が上記外筒1の両端部から内側に進入した場合でも、この外筒1の回転に伴う遠心力の作用により上記異物を外筒1外に有効に排出し易くできる。この為、上記外筒1の内周面とロール軸2の外周面との間に存在する軸受3、4を設置した内部空間25内に上記異物が進入する事を有効に防止でき、耐久性をより向上させる事ができる。
【0028】
尚、本実施例の場合には、リング状部材7aに外嵌固定したシールリング19aの各凸部39、39を、このシールリング19aの他の部分と同様の、合成ゴムの如きエラストマー等の弾性材製としている。但し、本発明は、各凸部の材料として、鉄、鋼等の金属板、合成樹脂等を使用する事もでき、材料を特に限定するものではない。
【0029】
又、上述した実施例1の構造の場合、シールリング19aの軸方向内側面に凸部39、39を形成しているが、各凸部39、39は、この軸方向内側面と対向する、当て部材17aの軸方向外側面に形成する事もできる。この様に構成した場合、上記シールリング19aと当て部材17aとの相対回転により、この当て部材17aの軸方向外側面で、円周方向に隣り合う各凸部39、39同士の間部分に存在する凹部内に入り込んだグリース又は基油が、上記当て部材17aの回転方向と逆方向に、各凸部39、39の傾斜側面に衝突する。そして、これら傾斜側面に沿って径方向内方に送り出される。この結果、上記各凸部39、39を当て部材17aの側に形成した場合も、この当て部材17aの軸方向外側面と上記シールリング19aの軸方向内側面との間の隙間41部分に入り込んだグリース又は基油を、軸受3、4側に還流させる事ができる。
【0030】
又、上記各凸部39、39の形状は、上述した形状以外にも、図5(A)(B)に示す様な形状も採用可能である。このうちの図5(A)に示した構造の場合には、各凸部39a、39aの形状を略三角形としている。この場合も、円周方向両側に存在する面を、傾斜側面40a、40bとし、これら傾斜側面40a、40bを径方向外方に向かう程互いに遠ざかる方向に傾斜させている。これに対して図5(B)に示した構造の場合には、各凸部39b、39bの形状を略半円とし、円周方向両側に存在する面を曲面としている。そして、これら各凸部39b、39bの円周方向両側に存在する曲面を、径方向外方に向かう程互いに遠ざかる様に形成している。この様に、各凸部39b、39bの円周方向両側に存在する面を曲面とした場合も、上述の実施例1、及び、図5(A)の凸部39、39aの場合と同様に作用して、グリース又は基油を径方向内方に送り出す事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1を示す部分断面図。
【図2】図1のA部拡大断面図。
【図3】図2のシールリングの円輪部を左方から見た部分拡大図。
【図4】図3から1個の凸部のみを取り出し、傾斜側面に沿ってグリース又は基油が流れる様子を説明する為の模式図。
【図5】シールリングの軸方向内側面に形成する凸部の形状の別の2例を示す部分斜視図。
【図6】バックアップロールの従来構造の1例を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0032】
1 外筒
2 ロール軸
3 針状ころ軸受
4 玉軸受
5 内輪
6 段差面
7、7a リング状部材
8 本体部
9、9a 鍔部
10 止め輪
11 係止溝
12 Oリング
13 外輪
14 外輪間座
15 筒部
16、16a 摺接板
17、17a 当て部材
18 段差面
19、19a シールリング
20 シールリップ
21、21a テーパ面部
22 水抜き溝
23 テーパ面部
24 空間
25 内部空間
26 保持器
27 玉
28 ポケット
29 本体部
30 傾斜筒部
31 円輪部
32 突部
33 大径段部
34 補強板
35 筒部
36 傾斜筒部
37 円輪部
38 段差面
39、39a、39b 凸部
40a、40b 傾斜側面
41 隙間
42 空間
43 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に回転する外筒と、この外筒の内径側に設けられ使用時にも回転しないロール軸と、これら外筒の内周面とロール軸の外周面との間に設けられた軸受と、このロール軸の端部外周面に外嵌支持されて、この端部外周面に係止された止め輪と共に上記軸受の軸方向の変位を阻止するリング状部材と、このリング状部材に外嵌支持されたシールリングと、上記外筒の端部寄りに内嵌固定された第二のリング状部材とを備え、上記シールリングの一部をこの第二のリング状部材に摺接又は近接対向させる事により、上記外筒の内周面と上記ロール軸の外周面との間に存在し上記軸受を設置した内部空間を外部から遮断するシールリング付ロール支持装置であって、
上記第二のリング状部材の軸方向外側面と上記シールリングの軸方向内側面とを隙間を介して対向させると共に、これら軸方向外側面と軸方向内側面とのうちの一方の側面の円周方向複数個所に、この一方の側面から他方の側面に向けて突出した凸部を形成しており、これら各凸部は、円周方向両側に存在する面同士が径方向外方に向かう程互いに遠ざかる様に形成されているシールリング付ロール支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−349076(P2006−349076A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177175(P2005−177175)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】