説明

ワイヤ放電加工用電極線

【課題】従来から、放電加工の際に、断線頻度の少ない電極線の出現が要望されていた。
【解決手段】 本発明のワイヤ放電加工用電極線は、導電性金属ワイヤの表面に1〜50,000平方マイクロメートルの大きさからなる斑点状の絶縁膜(金属酸化膜等)をまだら状に施した電極線であり、好ましくは、その導電性金属ワイヤの導電度が、8.7m/(Ω・mm2)以上で、銅亜鉛合金を中心心材とし、その周りに銅亜鉛合金中心心材より高亜鉛濃度の銅亜鉛合金を施した2層構造を有している電極線であり、位置決め等の接触検知性能に影響を及ぼすことなく、断線頻度を低減することを可能にするワイヤ放電加工用電極線である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工用電極線に関するもので、導電性金属ワイヤの表面に1〜50,000平方マイクロメートルの大きさからなる斑点状の絶縁膜(金属酸化膜等)をまだら状に施すことにより、位置決め等の接触検知性能に影響を及ぼすことなく、かつ、放電加工中の異常放電による断線頻度を低減することが可能なワイヤ放電加工用電極線に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工とは、ワイヤ放電加工用電極線と切削物との間で放電現象を起こさせ、切削物である鉄、鋼、銅合金等の金属塊を糸のこ式に溶融切断する加工方法で、複雑な形状の加工に適した加工方法である。この様な電極線には、加工コストを抑えることができるように高速加工が可能で、かつ安価な電極線が望まれてきた。また、使い勝手という面からは、無人加工に対応ができ、自動結線を可能にする電極線や、加工時間のロスが少ない電極線や、切削物の加工面の悪化を引き起こす恐れのある断線等の発生が少ない電極線も望まれてきた。また、最近は切削物として金属に限らず、導電性セラミックスや導電性ダイヤモンド等の導電性の低い非金属塊加工に適したワイヤが望まれつつある。従来のこのような電極線には、十分な特性が得られないまでもそのコストメリットの良さから亜鉛35〜45wt%を有する銅亜鉛合金が広く一般的に使用されてきた。しかしながら、亜鉛35〜45wt%を含有する銅亜鉛合金からなる電極線は構造が単層であるのでコスト的には申し分ないが、切削物を溶融切断する加工速度の高速化という面からみると必ずしも十分であるとはいえなかった。
【0003】
一般に、亜鉛含有量が高くなればなる程、切削物を溶融切断する加工速度が速くなることは周知の事実である。しかしながら、亜鉛濃度が40wt%を越えてしまうと伸線加工性が極端に悪くなり、伸線加工が困難となってしまう。そのため、電極線の消耗部分である表層のみを高亜鉛な銅−亜鉛合金状態にした2層構造の電極線が、高速加工を可能にする電極線として実用化されている。また、更なる高速化を狙って2層構造の電極線の上に、更に最表層の亜鉛を施した3層構造の電極線も実用化されてきている。
【0004】
一方、加工速度の高速化は電極線のみならずワイヤ放電加工機本体でもかなり研究が進んでいる。その研究のかいあって、現在では切削物を溶融切断する加工速度は飛躍的に向上した。反面、加工速度の飛躍的向上は電極線へのダメージも増大させた。その結果、放電加工中に電極線が断線してしまうという現象を引き起こすことになる。しかしながら、この断線も加工機本体のセンシングとコントロールにより頻度を多少減少させることができた。しかしながら、それでもまだ十分とはいえなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、従来から、放電加工の際に、断線頻度の少ない電極線の出現が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、これらの問題を解決するために、鋭意検討した結果、
断線を引き起こす原因は、色々な要因(たとえば冷却効果や電極線の振動等)が複雑に絡み合って発生するため完全になくすことはできない問題である。しかしながら、我々は、高速加工時の電極線断線に着目し、高速加工時に発生した様々な断線モードを観察、解析することで、その断線の多くは加工中にちょっとした要因で発生する集中放電に原因があると推定するに至った。更に、詳細に説明すると高速放電加工中に何らかの要因で加工機本体のコントロールを超えて集中放電が発生するとその集中放電による温度上昇と機械的外圧に電極線が耐えられなくなり、断線を引き起こすということである。つまり、裏を返せば、集中放電を少なくすることで放電加工中の断線頻度は減少するという結論に至った。そこで、我々は、導電性金属ワイヤの表面に1〜50,000平方マイクロメートルの大きさからなる斑点状の絶縁膜(金属酸化膜等)をまだら状に施すことで、その絶縁膜(金属酸化膜等)が一時的な絶縁回復に作用し、集中放電の発生を抑制することができ、結果として断線頻度が減少するということを見出した。
【発明の効果】
【0007】
以上説明の様に、本発明のワイヤ放電加工用電極線は、位置決め等の接触検知性能に影響を及ぼすことなく、放電加工中の異常放電による断線頻度を低減することができるだけでなく、加工速度も向上するという優れたワイヤ放電加工用電極線であり、その工業的価値は非常に大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のワイヤ放電加工用電極線の実施例を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0009】
第1実施例としては、図1(イ)に示すように、導電性金属ワイヤの表面に、1〜50,000平方マイクロメートルの大きさからなる斑点状の絶縁膜をまだら状に施したワイヤ放電加工用電極線である。ここで、絶縁膜の代表的な例としては、1.酸化銅、酸化亜鉛、酸化マンガンに代表される金属酸化膜、2.印刷インキ等の印刷、3.ガラスや高分子などのコーティング膜等が挙げられる。また、絶縁膜(金属酸化膜等)に範囲を設けたのは、放電パルス時間およびワイヤの送り速度より、これ以上の大きさだと加工速度の低下を招く恐れがあり、これ以下の大きさだと一時的な絶縁回復に寄与しないことが推定されるためである。
【実施例2】
【0010】
第2実施例としては、図には示さないが、第1実施例の導電性金属ワイヤの導電度が、8.7m/(Ω・mm2)以上であるワイヤ放電加工用電極線である。ここで、導電性金属ワイヤの導電度を8.7m/(Ω・mm2)以上としたのは、それ未満だと電極線の電気抵抗が大きすぎて放電パルス電圧の低下を招き、結果として加工速度の低下が引き起こる可能性があるためである。
【実施例3】
【0011】
第3実施例としては、図1(ロ)に示すように、第1、第2実施例の導電性金属ワイヤ2は、銅亜鉛合金4を中心心材とし、その周りに銅亜鉛合金中心心材より高亜鉛濃度の銅亜鉛合金被覆層5を施したワイヤ放電加工用電極線である。
【実施例4】
【0012】
第4実施例としては、図1(ハ)に示すように、第1、第2実施例の導電性金属ワイヤ2は、JISH 3260に記載されるC2400W銅合金(亜鉛20%丹銅)6を中心心材とし、その周りに亜鉛42〜50%黄銅被覆層7を施したワイヤ放電加工用電極線である。
次に、第4実施例の具体例を下記に示す。
外径が、0.78mmからなる日本工業規格JISH3260に記載される導電度18m(Ω・mm2)のC2400W銅合金(亜鉛20%丹銅)表層に厚さ28μmの純亜鉛のめっきを施す、その後、850℃の温度雰囲気に17秒さらし、熱拡散により亜鉛42〜50%黄銅を表層に持つ2層構造の金属ワイヤを作成する。この際、金属ワイヤ最表面には酸化亜鉛および酸化銅からなる酸化物が存在する。この酸化物を除去せず、0.30mmまで冷間伸線して本発明の電極線1を作成した。また、比較電極線として、この酸化物をそれぞれ2種類の方法で除去し、その後、冷間伸線した比較電極線AおよびBを作成した。比較電線Aは、金属酸化膜を酸により、化学的に除去し、比較電線Bは、シェービングにより物理的に除去したものである。
【0013】
本発明の電極線1と比較電極線(A、B)をワイヤ放電加工機(RA90AT)にセットし、厚さ50mmのダイス鋼(SKD−11)を下記3種類の条件にて20mm加工し断線回数と加工速度を計測した。この3種類の条件の違いはピーク電流の大きさの違いのみであり、他の設定値(例えば、コントロール回路や走行テンション)は同じ設定で行った。数字が大きくなるに従って高速加工のセッティングになる。次に、電極線表面を100倍の金属顕微鏡で観察し酸化物の大きさを観察した。最後に、ワイヤ表面に酸化物があることで懸念される位置決め精度の検証を行った。本発明の電極線と比較電極線(A、B)を断線回数と加工速度と位置決めについての比較試験結果を下記の表1に示す。
【0014】

【表1】

【0015】
本発明の電極線1は、比較電極線(A、B)に比べて、断線頻度ばかりでなく、加工速度も良好な結果を示していることがわかる。
【0016】
本発明の電極線は、以上のように述べた実施例に限るものではない。要は、瞬間的に集中放電を起こさせない作用をもっている物体や仕組みが放電加工良好な電極線の表層に存在していれば、我々が望む効果を期待できるのは明らかであり、本特許の範囲内の変形であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0017】
また、本発明の電極線は、導電性セラミックスや導電性ダイヤモンド等の導電性の低い非金属塊加工にも優れた効果を発揮するものと推定する。なぜならば、導電性の低い非金属塊の放電加工はその加工途中に短絡を引き起こす頻度が多いという事実がある。つまり、本発明の電極線は表面に絶縁膜である金属酸化膜等があることで、短絡からの復帰が従来電極線に比べると高いと推定されるからである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(イ)は、本発明の第1実施例のワイヤ放電加工用電極線1Aの斜視図で、(ロ)は、本発明の第3実施例のワイヤ放電加工用電極線1Bの斜視図で、(ハ)は、本発明の第4実施例のワイヤ放電加工用電極線1Cの斜視図である。
【図2】(イ)は、比較電極線A(金属酸化膜を酸により化学的に除去)の斜視図で、(ロ)は、比較電極線B(金属酸化膜をシェ−ビングにより物理的に除去)の斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
1A 本発明の第1実施例のワイヤ放電加工用電極線
1B 本発明の第3実施例のワイヤ放電加工用電極線
1C 本発明の第4実施例のワイヤ放電加工用電極線
2 導電性金属ワイヤ
3 絶縁膜(金属酸化膜等)
4 銅亜鉛合金
5 銅亜鉛合金被覆層(中心心材の銅亜鉛合金よりも高亜鉛濃度)
6 亜鉛20%丹銅
7 亜鉛42〜50%黄銅被覆層
A 比較電極線(金属酸化膜を酸により化学的に除去)
B 比較電極線(金属酸化膜をシェ−ビングにより物理的に除去)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属ワイヤの表面に、1〜50,000平方マイクロメートルの大きさからなる斑点状の絶縁膜をまだら状に施したことを特徴とするワイヤ放電加工用電極線。
【請求項2】
請求項1の導電性金属ワイヤの導電度が、8.7m/(Ω・mm2)以上であることを特徴とするワイヤ放電加工用電極線。
【請求項3】
請求項1、請求項2の導電性金属ワイヤは、銅亜鉛合金を中心心材とし、その周りに銅亜鉛合金中心心材より高亜鉛濃度の銅亜鉛合金被覆層を施したことを特徴とするワイヤ放電加工用電極線。
【請求項4】
請求項1、請求項2の導電性金属ワイヤは、JISH 3260に記載されるC2400W銅合金(亜鉛20%丹銅)を中心心材とし、その周りに亜鉛42〜50%黄銅被覆層を施したことを特徴とするワイヤ放電加工用電極線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−281337(P2006−281337A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101791(P2005−101791)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(390002598)沖電線株式会社 (45)
【Fターム(参考)】