説明

ワークの研削加工方法及び研削盤、それに用いる移動経路データの演算プログラム並びにその記憶媒体

【課題】砥石車の先端形状データとワークの加工形状データとに基づいて、傾斜角が3次元曲面的に変化するワークの被研削斜面に対する砥石車の移動経路データを求めてNCプログラムを容易に生成することができる研削盤を提供する。
【解決手段】CPU42に設けられた先端形状三次元座標データ変換部51によって砥石車の先端形状の三次元座標データを演算する。加工形状三次元座標データ変換部52によって、ワークの加工形状三次元座標データを演算する。両座標データに基づいて、移動経路データ演算部53によって傾斜角が3次元曲面的に変化するワークの被研削斜面に対する砥石車の移動経路データを演算する。この移動経路データに基づいて、NC指令データ演算部54によってNC指令データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの三次元曲面の被研削面の研削加工方法及び研削盤、それに用いる移動経路データの演算プログラム並びにその記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図5に示すように、自動車のオートマチックの減速機構に用いられ、かつ回転運動を伝達するスプライン軸32は突条32a及び溝32bを備えている。このスプライン軸32は図6に示す冷間鍛造用金型によって押出成形されるようになっている。この金型は外側に位置する外側金型15と、外側金型15の内側に位置する内側金型20とによって構成されている。前記外側金型15の円環状をなす金型本体15aの内周面15bには、多数の突条17が本体15aの円周方向に等ピッチで一体に形成されている。前記各突条17は、金型本体15aの中心軸線O(図6の紙面直交)方向に関して、図7に示すように横断面がほぼ台形状で大きさが変化しないストレート部18と、中心軸線O方向に関して、横断面が台形状で、その大きさが変化する傾斜部19とによって構成されている。前記ストレート部18の左右両側の被研削斜面18aの前記内周面15bに対する傾斜角α、被研削頂面18bの内周面15bからの高さ及び幅はどの部位も同じに設定されている。前記傾斜部19の左右両側の被研削斜面19aの前記内周面15bに対する傾斜角βは、傾斜部19の先端に行くほど小さくなるように設定されている。傾斜部19の被研削頂面19bの幅は前記被研削頂面18bの幅と同じとなるように、かつ被研削頂面19bの高さは先端ほど低くなるように形成されている。
【0003】
図6に示すように、前記内側金型20の円環状をなす金型本体20aの外周面には、前記外側金型15のストレート部18及び傾斜部19と同様のストレート部18及び傾斜部19が設けられている。そして、外側金型15及び内側金型20の隙間に円筒状の素材(図示略)を前記傾斜部19側から押し込むことによって、図5に示すスプライン軸32が鍛造成形される。
【0004】
前記ストレート部18及び傾斜部19の研削は、図8に示す砥石車23によって行われる。この砥石車23の先端部の左右両側には、前記ストレート部18、傾斜部19の被研削斜面18a,19aを研削する傾斜研削面23aが設けられている。砥石車23の先端外周面には、前記被研削頂面18b,19bを研削する頂面研削面23bが形成されている。ストレート部18の被研削斜面18a又は被研削頂面18bの研削は、予めそれぞれ設定された移動経路データに基づいて前記砥石車23を前記中心軸線O方向に平行移動させることによって容易に行うことができる。又、傾斜部19の被研削頂面19bは曲面が二次元的に変化するが、それに合わせて砥石車23の移動経路データを容易に設定することができ、砥石車23をNC指令制御により移動させて被研削頂面19bの研削を行うことができる。
【0005】
前記傾斜部19の被研削斜面19aは、前記内周面15bに対する傾斜角βが傾斜部19の先端に行くに従って連続的に小さくなる。即ち、被研削斜面19aの傾斜角βが変化すると、該斜面19aと砥石車23の傾斜研削面23aとの線接触部が3次元曲面的に変化する。しかし、従来は砥石車23の傾斜研削面23aを刻々変化する被研削斜面19aに適正に線接触させて自動的に研削を行なうことができなかった。このため、作業者が表示装置の表示画面に表示された外側金型15と、砥石車23の傾斜研削面23aとの位置関係、つまり傾斜部19の被研削斜面19aの傾斜角βの変化を目視で確認しながら、砥石車23の傾斜研削面23aが前記被研削斜面19aに常に適正に線接触されるように、該砥石車23の3軸移動機構を手動操作することにより行われていた。即ち、図9に示すように、傾斜部19の被研削斜面19aの小さくなった傾斜角βに応じて、砥石車23の回転軸線Lを2次元的に変化させて中心軸線L´とするだけでは、本来、被研削斜面19aに線接触される筈の傾斜研削面23aが被研削斜面19aに接触される前に、他の接触してはいけない傾斜研削面23aがストレート部18側の被研削斜面19aに干渉し、適正な線接触が行われず、研削動作を適正に行うことができない。従って、前述した干渉を避けるために、作業者は図10に示すように、砥石車23を傾斜させて傾斜研削面23aが被研削斜面19aに適正に線接触されるように3軸移動機構を手動操作するようにしていた。
【0006】
ところが、上記従来の傾斜部19の被研削斜面19aの研削方法は、熟練された作業者の勘によって行われているので、研削作業の時間が長くなり、ワークの研削作業の能率を向上することができないという問題があった。又、手動操作により行うために、被研削斜面19aの研削加工精度を向上することができないという問題もあった。
【0007】
一方、ワークの研削盤として、特許文献1に開示されたものが提案されている。この研削盤は、砥石車とワークとの相対的位置を制御して、前記ワークの研削加工を行うようになっている。この研削盤には、ワーク及びダミーワークを支持して砥石車に対して相対的にX,Y軸方向へ移動自在なワークテーブルを備えている。又、この研削盤は、前記ワーク及びダミーワークの研削加工を行うための砥石車と、この砥石車によってダミーワークに転写された砥石車の先端形状を撮像するためのカメラと、このカメラによって撮像された前記先端形状の画像データを格納するための画像データメモリとを備えている。前記研削盤は、ワークの加工形状のデータを格納する形状データメモリと、形状データメモリに格納されているデータに基づいてワークの加工形状を表示画面に表示するとともに、画像データメモリに格納されている画像データに基づく砥石車の先端形状を前記表示画面に表示するための表示手段とを備えている。さらに、この研削盤は、前記表示画面内においてワークの前記加工形状に対して前記砥石車の先端形状を移動するための画面操作手段と、ワークの前記加工形状に対して砥石車の前記先端形状を順次接触したときの教示位置のデータを順次格納するための教示データメモリと、この教示データメモリに格納された教示位置データに基づいて、ワークに対する砥石車の移動経路を求めてNCプログラムを生成するNCプログラム生成手段と備えている。さらに、研削盤はこの生成されたNCプログラムによって研削盤を制御するためのNC制御手段を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001‐105119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1に開示された研削盤は、ワークの研削精度を向上することができる反面、次のような問題があった。すなわち、砥石車によってダミーワークの研削を行い、ダミーワークに転写された砥石車の先端形状をカメラによって撮像するため、準備作業が面倒であるという問題があった。又、画面操作手段によって、表示画面内においてワークの加工形状に対して砥石車の先端形状を移動することにより、ワークの加工形状に対して砥石車の先端形状を順次接触させたときの教示位置のデータを教示データメモリに順次格納するため、教示位置データの取得作業が非常に面倒であるという問題があった。
【0010】
本発明は、砥石車の先端形状データとワークの加工形状データとに基づいて、ワークの被研削斜面の傾斜角が3次元曲面的に変化してもワークの被研削斜面に対する砥石車の移動経路データを容易に演算することができるワークの研削加工方法及び研削盤、それに用いる移動経路データの演算プログラム並びにその記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、ワークテーブルに支持され、3次元曲面的に傾斜角が変化する被研削斜面を有するワークと、先端に傾斜研削面を有する砥石車とを相対移動させてワークの研削を行う研削加工方法において、砥石車の先端形状データを、記憶媒体に記憶する工程と、ワークの前記被研削斜面の加工形状データを、記憶媒体に記憶する工程と、前記先端形状データ及び加工形状データに基づいて、ワークに対する砥石車の移動経路データを演算する工程と、前記移動経路データに基づいて、ワークテーブル及び砥石車の相対移動を制御してワークの研削加工を行う工程とを備え、前記移動経路データの演算は、ワークの前記被研削斜面に対して、砥石車の傾斜研削面が適正に線接触されるように、つまり、砥石車の傾斜研削面のうち正規に前記被研削斜面に接触される傾斜研削面以外の傾斜研削面が前記被研削斜面と干渉するのを回避するように行われるものであることを要旨とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、ワークテーブルに支持され、3次元曲面的に傾斜角が変化する被研削斜面を有するワークと、先端に傾斜研削面を有する砥石車とを相対移動させてワークの研削を行う研削盤において、砥石車の先端形状データを記憶する記憶媒体と、ワークの被研削斜面の加工形状データを記憶する記憶媒体と、前記先端形状データ及び加工形状データに基づいて、ワークに対する砥石車の移動経路データを演算する移動経路データ演算手段と、移動経路データに基づいて、ワークテーブル及び砥石車の相対移動を制御してワークの研削加工を行う動作指令手段とを備え、前記移動経路データ演算手段は、ワークの前記被研削斜面に対して、砥石車の傾斜研削面が適正に線接触されるように、つまり、砥石車の傾斜研削面のうち正規に前記被研削斜面に接触される傾斜研削面以外の傾斜研削面が前記被研削斜面と干渉するのを回避する機能を備えていることを要旨とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記ワークは筒状をなす金型であって、その金型本体の内周面には、スプライン軸を成形するための複数の突条が所定のピッチで形成され、前記各突条は横断面が台形状に形成され、各突条は横断面形状が変化しないストレート部と、高さが低くなるとともに、左右両側の被研削斜面の傾斜角が先端に行くに従い小さくなる傾斜部とによって形成され、前記ストレート部の被研削斜面及び傾斜部の被研削斜面がワークの加工形状データとして記憶媒体に記憶され、砥石車の先端の左右両側の前記被研削斜面を研削する傾斜研削面が先端形状データとして記憶媒体に記憶されていることを要旨とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3において、前記砥石車の先端形状データは、三次元座標データ変換部によって、先端形状三次元座標データに変換され、ワークの加工形状データは加工形状三次元座標データ変換部によって、加工形状三次元座標データに変換され、前記移動経路データ演算手段は、前記先端形状三次元座標データ及び加工形状三次元座標データに基づいて移動経路データを演算するように構成されていることを要旨とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか一項において、ベッドの上面には、X軸移動体が水平X軸方向の往復動可能に装着され、該X軸移動体の上面には、ワークテーブルが水平X軸方向と直交する垂直Z軸の周りでC軸方向に旋回移動可能に装着され、砥石車は前記X軸及びZ軸と直交する水平Y軸方向に往復動可能に装着されるとともに、Y軸の周りでB軸方向に旋回移動可能に装着されていることを要旨とする。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項2〜5のいずれか一項に記載の研削盤に用いるプログラムであって、砥石車の先端形状データを、記憶媒体に記憶する工程と、ワークの前記被研削斜面の加工形状データを、記憶媒体に記憶する工程と、前記先端形状データ及び加工形状データに基づいて、ワークに対する砥石車の移動経路データを演算する工程と、前記移動経路データの演算は、ワークの前記被研削斜面に対して、砥石車の傾斜研削面が適正に線接触されるように、つまり、砥石車の傾斜研削面のうち正規に前記被研削斜面に接触される傾斜研削面以外の傾斜研削面が前記被研削斜面と干渉するのを回避するように行われるものであることを要旨とする。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項6の移動経路データの演算プログラムを記憶した記憶媒体であることを要旨とする。
(作用)
この発明は、砥石車の先端形状データ及びワークの加工形状データに基づいて、移動経路データ演算手段によって、ワークの被研削斜面に対する砥石車の移動経路データが演算される。即ち、移動経路データ演算手段によって、ワークの被研削斜面に対して、砥石車の傾斜研削面が適正に線接触されるように、つまり、砥石車の傾斜研削面のうち正規に前記被研削斜面に接触される傾斜研削面以外の傾斜研削面が前記被研削斜面と干渉するのを回避するように、移動経路データが演算される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、砥石車の先端形状データとワークの加工形状データとに基づいて、被研削斜面の傾斜角が3次元曲面的に変化するワークの被研削斜面に対する砥石車の移動経路データを容易に演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の研削盤の制御システムのブロック回路図。
【図2】研削盤の略体正断面図。
【図3】金型の突条の研削作業を説明するための部分拡大平断面図。
【図4】同じく金型の突条の研削作業を説明するための部分拡大平断面図。
【図5】スプライン軸の横断面図。
【図6】金型の正面図。
【図7】外側金型の部分拡大斜視図。
【図8】金型に形成されたストレート部の斜面の研削方法を説明するための部分正面図。
【図9】金型に形成された傾斜部の斜面の手動操作に基づく研削方法を説明するための部分正面図。
【図10】手動操作に基づく傾斜部の斜面の研削方法を説明するための部分正面図。
【図11】(a)〜(c)は、砥石車の先端部の形状の別の実施形態を示す部分正面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した研削盤の一実施形態を図1〜図7にしたがって説明する。この実施形態におけるワークは背景の技術で述べた図6及び図7に示す外側金型15と同じ外側金型である。最初に、図2に基づいて研削盤について説明する。
【0021】
ベット10の上面には、X軸移動機構12によってX軸(図2の左右)方向に往復されるX軸移動体11が装着されている。該X軸移動体11の上面にはC軸移動機構14によってC軸方向、つまり上下方向に指向するZ軸の周りで水平方向に旋回されるワークテーブル13が装着されている。前記ワークテーブル13の上面には支持治具16を介して前記金型15が支持されている。
【0022】
前記ベット10の上面には、図示しないコラム及び案内機構を介して、3軸移動体21が装着されている。この3軸移動体21の下端部には、軸22を介して背景技術で述べた砥石車23と同じ砥石車23が回転可能に支持されている。前記3軸移動体21はY軸移動機構24によって、図2のX軸と直交するY軸(紙面と直交する水平)方向に往復動されるようになっている。前記3軸移動体21は、Z軸移動機構25によってZ軸(上下)方向に往復動されるようになっている。さらに、3軸移動体21は、B軸移動機構26によって、前記Y軸を中心に上下方向に旋回するB軸方向に往復移動されるようになっている。
【0023】
前記3軸移動体21には、前記砥石車23を回転するための駆動機構が備えられている。この駆動機構について説明すると、前記3軸移動体21の上端部にはモータ27が取り付けられ、該モータ27の出力軸28には、駆動プーリ29が連結されている。前記砥石車23に連結された前記軸22には、従動プーリ30が連結され、前記駆動プーリ29及び従動プーリ30にはベルト31が掛装されている。そして、前記モータ27が駆動されると、駆動プーリ29、ベルト31及び従動プーリ30などを介して砥石車23が回転されるようになっている。
【0024】
次に、図1に基づいて研削盤の制御システムについて説明する。
動作指令手段としての制御装置41には、中央演算処理装置(CPU)42が備えられている。このCPU42には、研削作業の各種の動作プログラムを予め記録した読み出し専用のリードオンリーメモリ(ROM)43が接続されている。又、CPU42には、各種のデータを記憶するための読み出し書き込み可能な記憶媒体としてのランダムアクセスメモリ(RAM)44が接続されている。このRAM44は、前記砥石車23の先端形状データD23(傾斜研削面23a及び頂面研削面23bの形状データを総称して言う)を記憶するための先端形状データメモリ45を備えている。又、RAM44は、外側金型の被研削面の加工形状データD15(斜面18a,19a、頂面18b,19bの加工形状データを総称して言う)を記憶するための加工形状データメモリ46を備えている。
【0025】
前記CPU42には、例えば、前記先端形状データD23あるいは加工形状データD15などの各種のデータを入力するための入力装置47が接続されている。前記CPU42には、表示手段48が接続され、該表示手段48には、例えば、砥石車23の先端形状あるいは外側金型の突条17の各部の形状を目視で確認することができる表示画面49が備えられている。前記CPU42には、図示しないデータバス及び駆動回路を介して前述したX軸移動機構12、C軸移動機構14、Y軸移動機構24、Z軸移動機構25及びB軸移動機構26のサーボモータM12、M14、M24、M25、M26が接続されている。
【0026】
次に、前記CPU42の各種の機能について説明する。
前記CPU42には、前記先端形状データメモリ45に記憶された砥石車23の先端形状データD23を、先端形状三次元座標データD23Aに変換するための先端形状三次元座標データ変換部51が設けられている。又、CPU42には、加工形状データメモリ46に記憶された砥石車23の加工形状データD15を、加工形状三次元座標データD15Aに変換するための加工形状三次元座標データ変換部52が設けられている。
【0027】
前記CPU42には、前記先端形状三次元座標データD23A及び加工形状三次元座標データD15Aに基づいて、砥石車23の移動経路データD23B(詳細は後述する)を演算するための移動経路データ演算手段としての移動経路データ演算部53が設けられている。該移動経路データ演算部53によって、次のような演算動作が行われる。即ち、前記傾斜部19の被研削斜面19aは、外側金型15の中心軸線O方向に行くにしたがって傾斜角βが連続的に小さくなり、被研削斜面19aと砥石車23の傾斜研削面23aとの線接触部が3次元曲面的に変化する。この明細書では「線接触部が3次元曲面的に変化する」と同意義で、場合に応じて「被研削斜面19aの傾斜角βが3次元曲面的に変化する」と表現する。そのため、前記砥石車23の傾斜研削面23aが外側金型15の中心軸線O方向のいずれの位置においても、前記被研削斜面19aに対して常に線接触(実際には帯状の細長い領域で接触)されるように移動経路データD23Bが演算される。即ち、この移動経路データD23Bは、前記砥石車23の傾斜研削面23aが本来接触してはいけない前記ストレート部18側の傾斜部19の被研削斜面19aに干渉しないデータである。さらに詳述すると、傾斜部19の被研削斜面19aに対する砥石車23の傾斜研削面23aの干渉度合を、前記先端形状三次元座標データD23A及び加工形状三次元座標データD15Aに基づいて演算することができる。従って、前記移動経路データ演算部53によって前記干渉度合を打ち消すように移動経路データD23Bが演算される。
【0028】
前記CPU42には、前記移動経路データD23Bに基づいて、前記各モータM12、M14、M24〜M26に動作指令を出力するためのNC指令データ演算部54が設けられている。このNC指令データによって、ワークテーブル13及び砥石車23が前述した5軸方向に相対移動制御され、外側金型の突条17の研削が行われる。
【0029】
次に、前記のように構成された研削盤による外側金型の突条17の研削作業について説明する。
最初に、図1に示す入力装置47を用いて、前記砥石車23の傾斜研削面23a、頂面研削面23bの側面形状データD23a、頂面形状データD23bを、砥石車23の先端形状データD23として、前記先端形状データメモリ45に予め記憶させる。又、図6に示すストレート部18の斜面18a及び頂面18bの斜面形状データD18a及び頂面形状データD18bを、加工形状データメモリ46に予め記憶させる。さらに、傾斜部19の被研削斜面19a及び頂面19bの加工形状データD19a及び加工形状データD19bを、前記加工形状データメモリ46に予め記憶させる。
【0030】
次に、入力装置47を操作することによって、先端形状三次元座標データ変換部51を作動させて、先端形状データメモリ45に記憶された先端形状データD23を先端形状三次元座標データD23Aに変換する。同様に、入力装置47を操作することによって、加工形状三次元座標データ変換部52を作動させて、加工形状データメモリ46に記憶された加工形状データD15を、加工形状三次元座標データD15Aに変換する。
【0031】
次に、入力装置47を操作することによって移動経路データ演算部53を作動させて、前記先端形状三次元座標データD23A及び加工形状三次元座標データD15Aに基づいて、移動経路データD23Bを演算する。
【0032】
移動経路データD23Bは、図6に示す一つの突条17に関して、ストレート部18の左側の斜面18aと、傾斜部19の左側の被研削斜面19aとを連続して研削する第1移動経路データD231と、頂面18b及び頂面19bを連続して研削する第2移動経路データD232と、ストレート部18の右側の斜面18aと、傾斜部19の右側の被研削斜面19aとを連続して研削する第3移動経路データD233とに区分されている。これら第1〜第3移動経路データD231〜D233の演算動作が終了すると、NC指令データ演算部54が作動され、各移動経路データD231〜D233に基づいて砥石車23の第1〜第3NC指令データが演算される。これらのNC指令データに基づいて、ワークテーブル13及び砥石車23が5軸方向に相対移動され、例えば第1移動経路データD231に関するNC指令データによって、図6に示す外側金型のストレート部18の左側の斜面18a及び傾斜部19の左側の被研削斜面19aが傾斜研削面23aによって適正に研削される。なお、図3は砥石車23の傾斜研削面23aによってストレート部18の斜面18aが研削されている状態を示し、図4は傾斜研削面23aによって、傾斜部19の被研削斜面19aが研削されている状態を示す。
【0033】
上記実施形態の研削盤によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、図7に示すように、先端形状データメモリ45に記憶された砥石車23の先端形状データD23と、加工形状データメモリ46に記憶された外側金型の加工形状データD15とを、それぞれ先端形状三次元座標データD23A及び加工形状三次元座標データD15Aに変換する。そして、両座標データD23A,D15Aに基づいて、砥石車23の移動経路データD23B(第1〜第3移動経路データD231〜D233)を演算するようにした。即ち、外側金型15の傾斜部19の前記傾斜角βが三次元曲面的に変化する被研削斜面19aに対して、砥石車23の傾斜研削面23aが適正に線接触されるように、つまり、砥石車23の傾斜研削面23aのうち正規に前記被研削斜面19aに接触される傾斜研削面23a以外の傾斜研削面23aが前記被研削斜面19aと干渉するのを回避するように行われる。このため、前記傾斜角βが三次元曲面的に変化する被研削斜面19aの砥石車23による研削作業を容易に行うことができる。
【0034】
(2)上記実施形態では、図2に示すように、外側金型15をX軸移動機構12及びC軸移動機構14によってX軸方向及びC軸方向にそれぞれ移動制御するとともに、3軸移動体21及び砥石車23を、Y軸移動機構24、Z軸移動機構25及びB軸移動機構26によって、Y軸方向、Z軸方向及びB軸方向にそれぞれ移動制御するようにした。このため、例えば、外側金型の傾斜部19の被研削斜面19aの傾斜角βが複雑に変化する場合にも、ワークテーブル13及び砥石車23の相対移動制御を容易に行い、外側金型15の研削を適正に行うことができる。
【0035】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・図11(a)に示すように砥石車23の先端形状を半円弧研削部23cにしたり、図11(b)に示すように傾斜研削面23aによって山形状にしたり、図11(c)に示すように、一つの傾斜研削面23aと一つの頂面研削面23bとにより形成したりしてもよい。このように前記砥石車23の先端形状を、それぞれ複数種類用意し、それらの複数種の先端形状データを予め記憶媒体に記憶させるとともに、砥石車23が変更になった場合に、複数種の先端形状データの中から選択できるようにしてもよい。
【0036】
・前記実施形態では、研削盤に備えられた制御装置41によって、移動経路データの演算プログラムを生成するようにしたが、この移動経路データの演算プログラムを研削盤と無関係のパーソナルコンピュータに付与し、演算された移動経路データを、記憶媒体により、又は有線あるいは無線により研削盤の制御装置41に送信するようにしてもよい。
【0037】
・砥石車23の移動経路データを移動経路データ演算部53によって演算する際に、前記傾斜部19の被研削斜面19aの傾斜角βが変化する研削予定線を通り、かつ該斜面19aと直交する垂直座標面上に砥石車23の回転軸線を位置させるようにしてもよい。
【0038】
・研削盤に用いる砥石車の移動経路データのプログラムであって、砥石車の先端形状データを、記憶媒体に記憶する工程と、ワークの前記被研削斜面の加工形状データを、記憶媒体に記憶する工程と、前記先端形状データ及び加工形状データに基づいて、ワークに対する砥石車の移動経路データを演算する工程とを備え、前記移動経路データの演算は、ワークの前記被研削斜面に対して、砥石車の傾斜研削面が適正に線接触されるように、つまり、砥石車の傾斜研削面のうち正規に前記被研削斜面に接触される傾斜研削面以外の傾斜研削面が前記被研削斜面と干渉するのを回避するように行われるものである砥石車の移動経路データの演算プログラムとして具体化してもよい。又、その演算プログラムを記憶した磁気記憶媒体(フレキシブルディスク)あるいはUSBメモリ等の記憶媒体として具体化してもよい。
【0039】
・X,Y,Z軸の3軸方向に砥石車23を移動制御する研削盤に具体化してもよい。又、X,Y,Z,C軸の4軸方向あるいはX,Y,Z,B軸の4軸方向に砥石車23を移動制御する研削盤に具体化してもよい。
【0040】
・例えば斜歯歯車の研削盤として具体化してもよい。
【符号の説明】
【0041】
β…傾斜角、Y,23…砥石車、D15,D19a,D19b…加工形状データ、D23…先端形状データ、D15A…加工形状三次元座標データ、D23A…先端形状三次元座標データ、D23B,D231〜D233…移動経路データ、11…X軸移動体、13…ワークテーブル、15…金型、17…突条、18…ストレート部、19…傾斜部、19a…被研削斜面、22…軸、23a…傾斜研削面、52…加工形状三次元座標データ変換部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークテーブルに支持され、3次元曲面的に傾斜角が変化する被研削斜面を有するワークと、先端に傾斜研削面を有する砥石車とを相対移動させてワークの研削を行う研削加工方法において、
砥石車の先端形状データを、記憶媒体に記憶する工程と、
ワークの前記被研削斜面の加工形状データを、記憶媒体に記憶する工程と、
前記先端形状データ及び加工形状データに基づいて、ワークに対する砥石車の移動経路データを演算する工程と、
前記移動経路データに基づいて、ワークテーブル及び砥石車の相対移動を制御してワークの研削加工を行う工程と
を備え、
前記移動経路データの演算は、ワークの前記被研削斜面に対して、砥石車の傾斜研削面が適正に線接触されるように、つまり、砥石車の傾斜研削面のうち正規に前記被研削斜面に接触される傾斜研削面以外の傾斜研削面が前記被研削斜面と干渉するのを回避するように行われるものであることを特徴とするワークの研削加工方法。
【請求項2】
ワークテーブルに支持され、3次元曲面的に傾斜角が変化する被研削斜面を有するワークと、先端に傾斜研削面を有する砥石車とを相対移動させてワークの研削を行う研削盤において、
砥石車の先端形状データを記憶する記憶媒体と、
ワークの被研削斜面の加工形状データを記憶する記憶媒体と、
前記先端形状データ及び加工形状データに基づいて、ワークに対する砥石車の移動経路データを演算する移動経路データ演算手段と、
移動経路データに基づいて、ワークテーブル及び砥石車の相対移動を制御してワークの研削加工を行う動作指令手段と
を備え、
前記移動経路データ演算手段は、ワークの前記被研削斜面に対して、砥石車の傾斜研削面が適正に線接触されるように、つまり、砥石車の傾斜研削面のうち正規に前記被研削斜面に接触される傾斜研削面以外の傾斜研削面が前記被研削斜面と干渉するのを回避する機能を備えていることを特徴とする研削盤。
【請求項3】
請求項2において、前記ワークは筒状をなす金型であって、その金型本体の内周面には、スプライン軸を成形するための複数の突条が所定のピッチで形成され、前記各突条は横断面が台形状に形成され、各突条は横断面形状が変化しないストレート部と、高さが低くなるとともに、左右両側の被研削斜面の傾斜角が先端に行くに従い小さくなる傾斜部とによって形成され、前記ストレート部の被研削斜面及び傾斜部の被研削斜面がワークの加工形状データとして記憶媒体に記憶され、砥石車の先端の左右両側の前記被研削斜面を研削する傾斜研削面が先端形状データとして記憶媒体に記憶されていることを特徴とする研削盤。
【請求項4】
請求項2又は3において、前記砥石車の先端形状データは、三次元座標データ変換部によって、先端形状三次元座標データに変換され、ワークの加工形状データは加工形状三次元座標データ変換部によって、加工形状三次元座標データに変換され、前記移動経路データ演算手段は、前記先端形状三次元座標データ及び加工形状三次元座標データに基づいて移動経路データを演算するように構成されていることを特徴とする研削盤。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項において、ベッドの上面には、X軸移動体が水平X軸方向の往復動可能に装着され、該X軸移動体の上面には、ワークテーブルが水平X軸方向と直交する垂直Z軸の周りでC軸方向に旋回移動可能に装着され、砥石車は前記X軸及びZ軸と直交する水平Y軸方向に往復動可能に装着されるとともに、Y軸の周りでB軸方向に旋回移動可能に装着されていることを特徴とする研削盤。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか一項に記載の研削盤に用いるプログラムであって、
砥石車の先端形状データを、記憶媒体に記憶する工程と、
ワークの前記被研削斜面の加工形状データを、記憶媒体に記憶する工程と、
前記先端形状データ及び加工形状データに基づいて、ワークに対する砥石車の移動経路データを演算する工程と、
前記移動経路データの演算は、ワークの前記被研削斜面に対して、砥石車の傾斜研削面が適正に線接触されるように、つまり、砥石車の傾斜研削面のうち正規に前記被研削斜面に接触される傾斜研削面以外の傾斜研削面が前記被研削斜面と干渉するのを回避するように行われるものであることを特徴とする研削盤に用いる移動経路データの演算プログラム。
【請求項7】
請求項6の移動経路データの演算プログラムを記憶した記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−11499(P2012−11499A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149917(P2010−149917)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000150604)株式会社ナガセインテグレックス (35)
【Fターム(参考)】