説明

ワークへのローラ組付方法及び装置

【課題】ワークのスプライン溝内にローラを組み付けるに際し、特別な位置決め手段を必要とせず、簡素で且つ安価な装置により組付けることができるようにし、製品形態に制約を受けず、また、組付手順も簡単な操作で済むようにする。
【解決手段】内面に内側スプライン溝3aを有するムーバブルプーリ3の筒内に、外面に外側スプライン溝2aを有するプーリシャフト2を嵌挿し、ローラガイド16で保持するローラ4をプーリシャフト2の外面に向けて押圧しながらプーリシャフト2を独立に回転させることで、外側スプライン溝2a内にローラ4を押し込み、次いで、ローラ押込みバー17でローラ4を下方に押圧しながら、ムーバブルプーリ3を独立に回転させて内側スプライン溝3a内にローラ4を挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の無段変速機のプーリを構成する固定シーブと可動シーブのスプライン溝にローラを組み付ける技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の無段変速機のプーリは、固定シーブと可動シーブの複数のスプライン溝にボールやローラ等を挿入して相互の軸方向の相対移動を可能にしているが、固定シーブと可動シーブのスプライン溝にボールを組み付ける技術として、例えば、位置決め治具により、固定シーブや可動シーブに形成される内外のスプライン溝を位相合わせし、この位置決め治具をクランパにより把持して回転方向の位置決めを行うような技術(例えば、特許文献1参照。)や、特定の1ヶ所のスプライン溝の溝部間にボール押込み用のロッドを挿入して固定シーブと可動シーブを概略位相合せし、その状態で残り二ヶ所のスプライン溝にボールを挿入し、その後、最初の1ヶ所のスプライン溝にボールを挿入するような技術(例えば、特許文献2参照。)などが知られている。
また、固定シーブと可動シーブのスプライン溝の位相合わせを、挿入されるボールを用いて行うような技術(例えば、特許文献3参照。)も知られている。
【特許文献1】特許第3247361号公報
【特許文献2】特開平8−99235号公報
【特許文献3】特開平6−91454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、特許文献1や特許文献2の技術の場合、ボールを組み付ける前に、固定シーブと可動シーブを位置決めし、両シーブに形成したスプライン溝の位相合せを行ったり、ボールを挿入するときに設備との間で位置合わせを行ったりするような必要があり、精度良く溝を合わせるには、位置決め治具や位置決めロッド等にも装置が必要で、その構成も複雑化するとともに、生産効率の低下や、製作コストの上昇に繋がるおそれもある。
【0004】
一方、特許文献3の技術の場合、両者のスプライン溝を位相合せするための格別な装置等は必要としないが、軸部材の位置決めが必要であり、また、ボールを組付ける際、上方に仮支持される軸部材を下降させながら回転させることにより、位相が合致した時点でボールを可動シーブの溝内に落とし込んで位相合わせを自動的に行うようにしているため、ボールの離脱を防止するリテーナの組付位置等が制約され、製品の形態等が限られてしまうとともに、軸部材にある程度の重量がある場合、この重量を受けながらゆっくり下降させないとボールに傷がついたり、かじったりするという問題が生じ、かじり等を防止しようとすると、ゆっくり作業せざるを得ず、サイクルタイムが長くなるという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、固定シーブと可動シーブのようなスプライン溝を有するワークに対して、スプライン溝内にローラを組み付けるに際し、特別な位置決め手段を必要とせず、簡素で且つ安価な装置により組付けることができるようにし、製品形態に制約を受けず、また、組付手順も簡単な操作で済むようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、内面に内側スプライン溝を有する筒部材の筒内に、外面に外側スプライン溝を有する軸部材を嵌挿し、両者のスプライン溝の位相を合せてスプライン溝部内にローラを組み付ける方法において、前記ローラを軸部材の外面に向けてラジアル方向に押圧しながら軸部材を回転させてローラを外側スプライン溝に係合させ、その後、外側スプライン溝に係合したローラを組付け方向に押圧するとともに、前記筒部材を回転させ、ローラと内側スプライン溝の位相が合った際、組付け方向の押圧力によりローラを内側スプライン溝に挿入するようにした。
【0007】
このように、軸部材の外面に向けてラジアル方向にローラを押圧し、軸部材を回転させることでローラを外側スプライン溝に係合させるようにすれば、特別な位置決め装置がなくても自動的にローラを外側スプライン溝内に嵌合させることができ、また、その後、ローラを組付け方向に押圧し、筒部材を回転させることでローラを内側スプライン溝に係合させれば、特別な位置決め装置がなくても内側スプライン溝にも嵌合させた状態で挿入することができる。
すなわち、特別に位置決め装置を設けなくても、外側スプライン溝と内側スプライン溝に組み付けることができ、また、操作も簡単である。
【0008】
また、本発明では、ローラ組付装置として、筒部材を嵌挿する軸部材を軸直状態で載置せしめる受台と、軸部材と筒部材とをそれぞれ独立に回転させることのできる第1、第2の回転手段と、軸部材の外面にローラを押圧する第1のローラ押圧手段と、位相の合ったスプライン溝部内にローラを挿入する第2のローラ押圧手段を設けた。
【0009】
そして、第1のローラ押圧手段により、ローラを軸部材の外面に向けてラジアル方向に押圧し、第1の回転手段により軸部材を回転させることで、ローラを外側スプライン溝に係合させ、その後、第2のローラ押圧手段により、ローラを組付方向に押圧し、第2の回転手段により筒部材を回転させることで、ローラを内側スプライン溝に挿入する。
この際、装置構成としては、ローラを押圧する第1、第2のローラ押圧手段と、軸部材と筒部材とを独立に回転させる第1、第2の回転手段を設けるだけで、複雑な位相合せ機構等は不要なため、簡素な構成となる。
【発明の効果】
【0010】
内側スプライン溝を有する筒部材の筒内に、外側スプライン溝を有する軸部材を嵌挿し、第1のローラ押圧手段により軸部材の外面に向けてラジアル方向にローラを押圧しながら第1の回転手段で軸部材を回転させることで、ローラを外側スプライン溝に係合させ、その後、第2のローラ押圧手段でローラを組付け方向に押圧しながら第2の回転手段で筒部材を回転させることで、ローラを内側スプライン溝に係合させるようにすれば、複雑な位置決め装置等が不要となり、装置構成も簡素になるとともに、組付け手順も簡単になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
ここで、図1は本発明に係るローラ組付装置の正面図、図2は同側面図、図3は無段変速機のプーリの説明図、図4は外側、内側スプライン溝の位相合わせの状態を示す説明図、図5は装置の要部を説明するための説明図、図6はローラガイドの平面視による説明図、図7、図8はローラ組付方法の説明図である。
【0012】
本発明に係るローラ組付方法及び装置は、本実施形態では、自動車の無段変速機の可変プーリの組付けに適用され、簡素な装置構成で、特別な位置決め手段を必要とせず、しかも製品形態に制約を受けず、また、組付手順も簡単な操作で済むようにされている。
【0013】
すなわち、この可変プーリ1は、図3に示すように、固定シーブとなる軸部材としてのプーリシャフト2と、このプーリシャフト2の外面に嵌合する可動シーブとなる筒部材としてのムーバブルプーリ3を備えており、前記プーリシャフト2の外面には、円周上等間隔に三ヶ所の外側スプライン溝2a(図4)が軸方向に沿って形成されるとともに、前記ムーバブルプーリ3の筒内面には、円周上等間隔に三ヶ所の内側スプライン溝3a(図4)が軸方向に沿って形成されている。
【0014】
そして、それぞれのプーリシャフト2の外側スプライン溝2aとムーバブルプーリ3の内側スプライン溝3aは位相を合せた状態とされ、各スプライン溝2a、3a間には、ローラ4が組み込まれるとともに、組付状態において、ムーバブルプーリ3はプーリシャフト2の軸方向に移動可能にされている。
そして、本発明は、プーリシャフト2とムーバブルプーリ3との間に、ローラ4を組み付けるための技術である。
【0015】
本組付装置10は、図1、図2に示すように、ドライブ側のプーリ1とドリブン側のプーリ1を同時に組み付けることができるよう、ほぼ同じような装置構成が左右に一対設けられており、いずれの側の装置でも、ムーバブルプーリ3の筒内にプーリシャフト2を嵌挿させた状態でプーリシャフト2下面を支えることのできる受台11と、プーリシャフト2の上端部を上から押え付けて回転自在に支持することのできる昇降自在なセンタ部材12と、プーリシャフト2を独自に回転させることのできる第1の回転手段13(図2)と、ムーバブルプーリ3を独自に回転させることのできる第2の回転手段14(図2)と、パーツフィーダー15(図2)から供給されるローラ4をプーリシャフト2の外面に向けて押圧することのできる第1のローラ押圧手段としてのローラガイド16と、ローラ4を上から押圧することのできる第2のローラ押圧手段としてのローラ押込みバー17を備えている。
なお、図1の左方のプーリ1はドライブ側のプーリであり、右方のプーリ1はドリブン側のプーリである。
【0016】
前記第1の回転手段13と、第2の回転手段14は、図2及び図5に示すように、ガイドレール19に沿って進退動可能なホルダ架台20に取り付けられる第1摩擦車21、及び第2摩擦車22と、第1、第2摩擦車21、22を回転させるための第1、及び第2駆動モータ23、24を備えており、ホルダ架台20が前進すると、第1摩擦車21は、前記受台11上に回転自在に設けられる回転円盤部11aの周面に当接可能にされ、また、第2摩擦車22は、ムーバブルプーリ3の周面に当接可能にされている。
【0017】
そして、前記プーリシャフト2は、受台11の回転円盤部11a上に載置できるようにされ、第1駆動モータ23が作動すると第1摩擦車21が回転して回転円盤部11aを連れ回し、プーリシャフト2を独立に回転させることができるようにされている。また、第1駆動モータ23の出力軸と第1摩擦車21との間には、不図示のスリップクラッチが設けられ、このスリップクラッチがすべるとプーリシャフト2への回転伝達が停止してプーリシャフト2の回転が停止するようにされている。
また、第2駆動モータ24が作動すると、第2摩擦車22が回転し、ムーバブルプーリ3を独立に連れ回すことができるようにされている。
【0018】
前記ローラガイド16は、図6にも示すように、エアシリンダ等の駆動源26によって進退動自在にされ、パーツフィーダー15から送給ホース27を介して送り込まれるローラ4を一時的に保持し且つローラを送り出す筒部を備えたローラガイドアウタ28と、送り込まれたローラ4の背面側を保持するバックアップ材30を備えており、このバックアップ材30の先端部には、半円弧状の凹部が形成されるとともに、ローラガイドアウタ28は、ガイドホルダ31に対して前後方向に摺動可能に保持され、またスプリング32によって前方に付勢されている。
【0019】
そして、ローラガイド16が、図6(a)に示すように、後方に後退した状態でローラ4がローラガイドアウタ28内に送り込まれると、バックアップ材30先端の半円弧状凹部がローラ4の背面側を保持した状態となり、駆動源26の作動によってローラガイド16が前方に前進し、ローラガイドアウタ28の先端がプーリシャフト2の外面に当接して押圧力を受け、スプリング32を縮めながら後退すると、相対的にローラ4が前進するようにしている。そして、最終的には、図6(b)に示すように、ローラ4がローラガイドアウタ28の筒先に飛び出し、その前面部がプーリシャフト2に当接するようにしている。
【0020】
前記ローラ押込みバー17は、プーリシャフト2に当接したローラ4の上端部に当接して、ローラ4を下方に押圧できるようにされており、駆動源により上下動自在にされている。
【0021】
以上のようなローラ組付装置における組付方法について説明する。
受台11の回転円盤部11a上に、ムーバブルプーリ3の筒内を嵌挿するプーリシャフト2が載置され、プーリシャフト2の上端部をセンタ部材12で押え付けて位置決め保持すると、図7(a)に示すローラガイド16が前進し、図7(b)に示すように、ローラガイド16前面がプーリシャフト2の外面に当接した後、ローラ4の前面がプーリシャフト2に当接し、ローラ4がプーリシャフト2外面をラジアル方向に軽い力で押圧した状態になる。
【0022】
次いで、第1駆動モータ23が作動し、第1摩擦車21を通して回転円盤部11aが連れ回されると、プーリシャフト2が回転を始め、図7(c)に示すように、プーリシャフト2の最初の外側スプライン溝2aがローラ4の位置までくると、ローラ4は当該外側スプライン溝2a内に押込まれる。すると、ラジアル方向の圧力変化により、第1駆動モータ23の出力軸と第1摩擦車21間に配設されるスリップクラッチの作用により、格別な位置決め手段がなくてもプーリシャフト2の回転は自動的に停止する。
【0023】
また、ローラ4が外側スプライン溝2aに入ると、ローラガイド16によりローラ4に向けてラジアル方向の圧力をかけたまま、図8(d)に示すように、このローラ4の上方からローラ押込みバー17が降下し、ローラ4の上面を下方に向けて所定圧で押圧する。
【0024】
次いで、第2駆動モータ24が作動し、第2摩擦車22がムーバブルプーリ3を連れ回す。そして、図8(e)に示すように、ムーバブルプーリ3の最初の内側スプライン溝3aがローラ4の位置までくると、ローラ4はローラ押込みバー17の押圧力により内側スプライン溝3aに入り込む。この際、ローラ4は外側スプライン溝2aにも入ったままの状態である。
すなわち、ローラ4は両方のスプライン溝2a、3a内に挿入される。
【0025】
ローラ4の挿入が終えると、図8(f)に示すように、一旦、ローラガイド16が後退し、パーツフィーダー15から次のローラ4が供給された後、残り二ヶ所のスプライン溝2a、3aにローラ4を挿入する。
このローラ4の挿入も概ね前記要領と同一であるが、この時は、既にプーリシャフト2とムーバブルプーリの位相が合った状態であるため、上記と同様の手順でローラ4をプーリシャフト2の外側スプライン溝2aに嵌合させると、そのままローラ押込みバー17を降下させれば、ローラ3aはリムーバブルプーリ3の内側スプライン溝3aに入り込む。
【0026】
以上のような要領により、特別な位置決め手段を必要とせず、簡素な装置構成で、組付手順も簡単な操作で行うことができる。
【0027】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載される事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
自動車の無段変速機のプーリ等のように、軸部材と筒部材のスプライン溝にローラを挿入して組付ける際、軸部材と筒部材の位相合わせを行うための特別な位置決め機構等を必要とせず、また、製品の形態にも制約を受けず、しかも簡単な手順で組み付けられるため生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るローラ組付装置の正面図
【図2】同側面図
【図3】無段変速機のプーリの説明図
【図4】外側、内側スプライン溝の位相合わせの状態を示す説明図
【図5】装置の要部を示す説明図
【図6】ローラガイドの平面視による説明図
【図7】ローラ組付方法の説明図その1
【図8】ローラ組付方法の説明図その2
【符号の説明】
【0030】
1…可変プーリ、2…プーリシャフト(軸部材)、2a…外側スプライン溝、3…ムーバブルプーリ(筒部材)、3a…内側スプライン溝、4…ローラ、10…組付装置、11…受台、13…第1の回転手段、14…第2の回転手段、16…ローラガイド(第1のローラ押圧手段)、17…ローラ押込みバー(第2のローラ押圧手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に内側スプライン溝を有する筒部材の筒内に、外面に外側スプライン溝を有する軸部材を嵌挿し、両者のスプライン溝の位相を合せてスプライン溝部内にローラを組み付ける方法であって、前記ローラを軸部材の外面に向けてラジアル方向に押圧しながら軸部材を回転させてローラを外側スプライン溝に係合させる工程と、外側スプライン溝に係合したローラを組付け方向に押圧する工程と、前記筒部材を回転させ、ローラと内側スプライン溝の位相が合った際、組付け方向の押圧力によりローラを内側スプライン溝に挿入する工程とを備えたことを特徴とするワークへのローラ組付方法。
【請求項2】
内面に内側スプライン溝を有する筒部材の筒内に、外面に外側スプライン溝を有する軸部材を嵌挿し、両者のスプライン溝の位相を合せてスプライン溝部内にローラを組み付ける装置であって、前記筒部材を嵌挿する軸部材を軸直状態で載置せしめる受台と、前記軸部材と筒部材とをそれぞれ独立に回転させることのできる第1、第2の回転手段と、前記軸部材の外面にローラを押圧する第1のローラ押圧手段と、位相の合ったスプライン溝部内にローラを挿入する第2のローラ押圧手段を備えたことを特徴とするワークへのローラ組付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−159338(P2006−159338A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353240(P2004−353240)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】