説明

一酸化炭素及び/又は窒素酸化物の除去用触媒並びにその製造方法

【課題】一酸化炭素(CO)及び/又は窒素酸化物(NOx)の除去活性が高く、かつ触媒活性の劣化が少ない高耐久性の触媒、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】金ナノ粒子が酸化鉄に担持された触媒の製造方法であって、(1)3価の鉄の塩及び無機アルカリ成分を水中で混合して水性混合物を得る工程、(2)得られた水性混合物に金化合物を加えて沈殿物を析出させる工程、及び(3)得られた沈殿物を焼成する工程、を含む製造方法、並びに、該製造方法により製造される金ナノ粒子が酸化鉄に担持された触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金ナノ粒子が酸化鉄に担持された一酸化炭素及び/又は窒素酸化物除去用触媒、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンからの排ガスなどを浄化する排ガス浄化触媒として、アルミナなどの多孔質酸化物担体にPt、Rh、Pd等の貴金属を担持したものが広く知られている。
【0003】
近年では、Pt、Rh、Pd等の貴金属の代わりにAuを用いた触媒の研究も進められており、一例として、アルミナなどの担体にAu微粒子を担持した触媒は、可燃性ガス(CO等)の酸化活性に優れていることが知られている。しかし、Au微粒子は耐熱性が低いという問題があり、この問題を克服するべく、これまでにも低温で活性を示す触媒が種々提案されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、硝酸第二鉄と塩化金酸(HAuCl)の水溶液を、炭酸ナトリウム水溶液に添加して得られる沈殿物を、焼成して得られるAu−Fe系触媒が、−30℃以下でも一酸化炭素を完全に燃焼できることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、酸化鉄の水性懸濁液に塩化金酸の水溶液及び炭酸ナトリウムの水溶液を加えて得られる触媒が、酸化触媒、還元触媒、可燃性ガスセンサ素子等に用いられることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、Feを含有する多孔性セラミック担体材料を、金化合物(例えば、テトラクロロ金酸−四水和物)の溶液に含浸するか、又は金化合物の懸濁液で被覆した後、か焼することにより得られる触媒が、50℃を下回る温度でCO酸化できることが記載されている。
【0007】
しかし、これらの触媒は比較的高い活性を有するが、空気中常温で放置した場合に活性の劣化が顕著であるため大いに改善の余地があった。
【0008】
この問題を解決するため、特許文献4では、金ナノ粒子を担持した酸化鉄からなる触媒にアルカリ多孔質体を共存させた複合体が、長期間触媒活性を維持できることを報告している。
【0009】
近年、脚光を浴びている燃料電池においては、水素とCOを含む改質ガスからCOを高選択的に除去できる触媒が求められている。
【0010】
火力発電所等から排出されるNOxは、高温下(300℃以上)でアンモニアを還元剤として用いた触媒により除去されている。また、ガソリンエンジンから排出されるNOx除去は、高温下(500℃以上)、3元系触媒、即ち、排ガス中の炭化水素(HC)と一酸化炭素(CO)と窒素酸化物(NOx)の3物質を酸化・還元することによって同時に除去が行われている。
【0011】
一方、ディーゼルエンジン等から排出されるNOxを低温(200℃以下)で除去できる有効な触媒は、現状では実用化の目処が立っていない。
【特許文献1】特開昭60−238148号公報(例えば、実施例2、図3等)
【特許文献2】特開昭63−252908号公報(例えば、請求項1)
【特許文献3】特開平2−303539号公報(例えば、請求項1等)
【特許文献4】特開2004−188243号公報(例えば、請求項1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、一酸化炭素(CO)及び/又は窒素酸化物(NOx)の除去活性が高く、かつ触媒活性の劣化が少ない高耐久性の触媒を提供すること、並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の従来技術の課題に鑑みて鋭意研究を行った結果、金ナノ粒子が酸化鉄に担持された触媒(以下、「Au−Fe系触媒」とも記載する。)に着目し、その製造工程において酸化鉄の形成方法及びその上に金ナノ粒子を析出させる方法を工夫することによって、高いCO選択的酸化、NO還元等が可能であり、かつ触媒活性の劣化が少ない(耐久性に優れる)触媒が得られることを見出した。かかる知見に基づき、さらに研究を重ねた結果本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、以下のAu−Fe系触媒及びその製造方法を提供する。
【0015】
項1. 金ナノ粒子が酸化鉄に担持された触媒の製造方法であって、(1)3価の鉄の塩及び無機アルカリ成分を水中で混合して水性混合物を得る工程、(2)得られた水性混合物に金化合物を加えて沈殿物を析出させる工程、及び(3)得られた沈殿物を焼成する工程、を含む製造方法。
【0016】
項2. 工程(1)において、3価の鉄の塩を含む水溶液に無機アルカリ成分を加えてpHを5〜11に調整して混合する項1に記載の製造方法。
【0017】
項3. 工程(3)において、焼成温度が100〜600℃である項1又は2に記載の製造方法。
【0018】
項4. 前記3価の鉄の塩が硝酸鉄、硫酸鉄又は塩化鉄であり、無機アルカリ成分がMgO、CaO、LiOH、NaOH、KOH、MgO、CaO、NaCO、KCO、NaHCO又はKHCOであり、金化合物が塩化金酸、塩化金、テトラクロロ金(III)アンモニウム、臭化金、シアン化金又は水酸化金である項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
項5. 項1〜4のいずれかに記載される製造方法により製造された、金ナノ粒子が酸化鉄に担持された触媒。
【0020】
項6. 項5に記載される触媒を用いてCOを含有するガスからCOを除去する方法。
【0021】
項7. 項5に記載される触媒を用いて窒素酸化物を含有するガスから窒素酸化物を除去する方法。
【0022】
項8. 項2に記載される触媒を含む改質ガス処理用触媒。
【0023】
項9. 項5に記載される触媒を用いて改質ガスからCOを除去する方法。
【0024】
項10. 項5に記載される触媒を含む燃焼ガス処理用触媒。
【0025】
項11. 項5に記載される触媒を用いて燃焼ガスからCO及びNOを除去する方法。
【0026】
項12. 項5に記載される触媒を基材に担持してなるフィルター。
【発明の効果】
【0027】
本発明のAu−Fe系触媒は、従来のAu−Fe系触媒に比べて高いCO酸化活性を有し、特に室温付近の比較的低温でも高い活性を有している。
【0028】
また、触媒活性の劣化が少ないという特徴も有している。特に、触媒を長期間継続して使用した場合、触媒を使用せず長期間空気中で放置した場合、及び両者を繰り返した場合のいずれでも触媒活性の劣化が少ない点(つまり高耐久性である点)は特筆すべきである。
【0029】
また、水素及びCOを含む混合ガスから高選択的にCOを酸化除去することができるため、例えば、燃料電池用の改質ガスからのCO除去触媒として有効に用いられる。
【0030】
さらに、本発明のAu−Fe系触媒を用いてNO、CO、O、N等を含む燃焼ガスを処理することにより、NOをほぼ完全にNに還元し(NOは生成せず)、COをほぼ完全にCOに酸化できる。そのため、自動車の排ガス(特に、ディーゼルエンジンの排ガス)の浄化用触媒として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の金ナノ粒子が酸化鉄に担持された触媒(Au−Fe系触媒)は、(1)3価の鉄の塩及び無機アルカリ成分を水中で混合して水性混合物を得る工程、(2)得られた水性混合物に金化合物を加えて沈殿物を析出させる工程、及び(3)得られた沈殿物を焼成する工程、を含む製造方法により製造される。
【0032】
工程(1):
工程(1)では、3価の鉄の塩及び無機アルカリ成分を水中で混合して水性混合物を得る。3価の鉄の塩としては、3価の鉄(Fe(III))の硝酸塩(硝酸鉄)、硫酸塩(硫酸鉄)、塩化物塩(塩化鉄)等が挙げられ、好ましくは硝酸鉄(Fe(NO・9HO)である。
【0033】
無機アルカリ成分としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩等が挙げられる。具体的には、MgO、CaO、LiOH、NaOH、KOH、MgO、CaO、NaCO、KCO、NaHCO、KHCO等が挙げられ、好ましくはNaCO、KCO等のアルカリ金属の炭酸塩である。
【0034】
3価の鉄の塩及び無機アルカリ成分を含む水性混合物の調製法は特に限定はないが、両者を混合した時のpHを5〜11の範囲に設定することが好ましい。より好ましくはpH7〜10、特に好ましくはpH8〜9である。この範囲にすると、担体として好適な酸化鉄の前駆体を形成することができるため好ましい。
【0035】
水性混合物の調製法は、3価の鉄の塩の水溶液及び無機アルカリ成分の水性混合物を混合する方法、3価の鉄の塩及び無機アルカリ成分を水に溶解する方法等いずれの方法も採用できる。水性混合物のpH調整の簡便さから、3価の鉄の塩(特に硝酸鉄)を含む水溶液に無機アルカリ成分(特にNaCO、KCO又はその水溶液)を加えて調製するのが好ましい。なお、水は、蒸留水、純水を用いることが好ましい。
【0036】
3価の鉄の塩及び無機アルカリ成分を含む水性混合物の混合は、例えば、常圧下、上記した混合手段を用いて、液温30〜80℃において、30分〜3時間程度混合することが好ましい。この混合過程を経ることより結晶構造が整った酸化鉄が形成され、その後の金化合物との接触により高活性かつ耐久性に優れるAu−Fe系触媒が得られる。混合手段は特に限定はなく、例えば、撹拌、超音波処理等が挙げられる。
【0037】
上記水性混合物中の3価の鉄の塩の濃度は、0.01〜20wt%、好ましくは0.1〜15wt%、より好ましくは1〜10wt%に調整される。また、上記水性混合物中の無機アルカリ成分の濃度は、0.1〜20wt%、好ましくは0.5〜10wt%、より好ましくは1〜5wt%に調整される。この範囲にすると、上記のpHに調整することが容易となり、好適な酸化鉄の前駆体を形成することができるため好ましい。
【0038】
特に好ましい典型例としては、3価の鉄の塩として硝酸鉄、無機アルカリ成分としてNaCOを用い、水溶液中の硝酸鉄濃度が0.1〜15wt%、NaCO濃度が0.5〜10wt%として、50〜70℃において、30分〜90分程度混合することが挙げられる。
【0039】
工程(2):
工程(2)では、上記(1)で得られた水性混合物に金化合物を加えて沈殿物を析出させる。
【0040】
金化合物としては水溶性の金塩が好ましく、具体例として塩化金酸(HAuCl・4H0)、塩化金、テトラクロロ金(III)アンモニウム、臭化金、シアン化金、水酸化金等が挙げられる。
【0041】
金化合物の水溶液の調製法は特に限定はなく、金化合物を水中に溶解すればよい。水は、蒸留水、純水を用いることが好ましい。水溶液中の金化合物の濃度は、0.01〜30wt%、好ましくは0.1〜20wt%、より好ましくは1〜15wt%である。
【0042】
上記(1)で得られた水性混合物に金化合物の水溶液を加える条件は特に限定はないが、加える時の水溶液の温度は、例えば、30〜80℃程度であり、金化合物の水溶液を一度に加えてもよく、複数回に分けて加えてもよい。金化合物の水溶液を加えた後、液温30〜80℃で10分〜2時間程度混合する。これにより沈殿物が析出(共沈)する。この沈殿物を水で洗浄し、乾燥(例えば、30〜200℃程度で3〜48時間程度)して固形物とする。必要に応じこれを粉砕した後、工程(3)に供する。
【0043】
工程(3):
工程(3)では、上記(2)で得られた沈殿物を焼成しAu−Fe系触媒を得る。
【0044】
焼成は、通常、常圧下、空気雰囲気下、100〜600℃、好ましくは150〜400℃、より好ましくは150〜250℃の温度で行うことができる。
【0045】
かくして、本発明のAu−Fe系触媒が製造される。本発明のAu−Fe系触媒は、担体であるFe上にAuのナノ粒子が担持された構造を有している。触媒中のAu担持量は、0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。
【0046】
Fe上のAuナノ粒子の平均粒径は、1〜25nm程度である。Au−Fe系触媒の比表面積は、BET法による測定値として、20m/g以上、好ましくは150m/g以上である。
【0047】
Au−Fe系触媒の形態としては、その使用目的に応じて適宜選択可能であるが、例えば、粉末状、顆粒状、ペレット状、ハニカム状等が挙げられる。
【0048】
本発明のAu−Fe系触媒は、特許文献1〜3に記載されたAu−Fe系触媒の組成と近似するが、特許文献1〜3の触媒に比べて、高い活性と極めて優れた耐久性を有している。本発明の触媒がこのような優れた性質を発現する理由は、今のところ明らかではないがおそらく製造方法の相違に起因すると考えられる。
【0049】
つまり、本発明の触媒は、上記のように工程(1)〜(3)を経て(即ち、硝酸第二鉄と炭酸ナトリウムを含む水性混合物を得た後これに塩化金酸を加えて)製造されるが、特許文献1及び3の触媒は硝酸第二鉄と塩化金酸の水溶液を炭酸ナトリウム水溶液に添加して製造され、また、特許文献2の触媒は単離された酸化鉄の水性懸濁液に塩化金酸の水溶液及び炭酸ナトリウムの水溶液を加えて製造されるものであり、製造方法において明確に相違する。本発明の触媒は、このような製造方法の相違により、従来にないFe担体への金ナノ粒子の担持形態をとることになり、より高活性かつ高耐久性が発揮されるに至ったと考えられる。
【0050】
また、本発明のAu−Fe系触媒は、水素及びCOを含む混合ガスから高選択的にCOを酸化除去することができる。そのため、例えば、燃料電池用の改質ガスからのCO除去用触媒として有効に用いられる。
【0051】
また、本発明のAu−Fe系触媒は、比較的少ないAu担持量で高い触媒活性が発揮されるため、高価なAuの担持量を減らすことができ、コストパフォーマンスにも優れている。
【0052】
本発明のAu−Fe系触媒は、上記のような優れた特性を有しているため、例えば、家庭用空気浄化装置、ガス湯沸かし器への付属機器(不完全燃焼時のCO除去)、防毒マスク、タバコのCO除去用等のフィルター、ストーブ、ファンフィーター等の暖房器具への付属器具(不完全燃焼時のCO除去)等に用いる触媒として有用である。
【0053】
例えば、フィルター加工の例として、粉体状のAu−Fe系触媒を、接着剤等を介して基材表面に担持してフィルターを製造することができる。基材としてはフィルター用途に用いることができるものであれば特に限定はなく、例えば、材質とてしては、樹脂、セラミック、ガラス、金属、紙、天然繊維等が、構造としては不織布、網、ハニカム、焼結体、発泡体、布、等が挙げられる。
【0054】
さらに、本発明のAu−Fe系触媒を用いてNO、CO、O、N等を含む燃焼ガスを処理することにより、NOをほぼ完全にNに還元し(NOは生成せず)、COをほぼ完全にCOに酸化できる。そのため、自動車の排ガス(特に、ディーゼルエンジンの排ガス)の浄化用触媒、火力発電所の排ガス浄化用触媒等として有用である。
【実施例】
【0055】
本発明を、実施例を用いて更に詳述するが、これに限定されるものではない。
[実施例1](本発明の触媒)
15.17 gのFe(NO3)3・9H2Oを純水100 mLに溶かした水溶液を60℃水浴中に浸し、0.3MのNa2CO3水溶液加えてpH = 8.3に調整した。その後同温で1時間撹拌した後、HAuCl4・4H2O 0.45 gを純水100 mLに溶かした水溶液(Au 20wt%溶液)を加えて混合し、更に同温で30分攪拌して沈殿物を析出させた。
【0056】
該沈殿物をろ紙でろ過し、ろ紙上の沈殿物を水で念入りに洗浄した。これを80℃で12時間真空乾燥した後,空気雰囲気下200℃で2時間焼成してAu-Fe2O3系触媒を得た。触媒の金担持量は3wt%(仕込重量より)であった。
【0057】
なお、HAuCl4・4H2O水溶液を一度に加えてもゆっくり滴下しても、得られるAu-Fe2O3系触媒の物性にほとんど変化は見られなかった。
【0058】
実施例1で得られた触媒のTEM写真を図2に示す。
[比較例1]
15.17 gのFe(NO3)3・9H2Oを純水100 mLに溶かした水溶液、及び0.45 gのHAuCl4・4H2Oを純水100 mLに溶かした水溶液(Au 20wt%溶液)を加え、これを60℃水浴で加温し、これに0.3MのNa2CO3水溶液を加えてpH = 8.3に調整した。混合液を同温で1時間撹拌して沈殿物を析出させた。
【0059】
該沈殿物をろ紙でろ過し、ろ紙上の沈殿物を水で念入りに洗浄した。これを80℃で12時間真空乾燥した後、空気雰囲気下200℃で2時間焼成してAu-Fe2O3系触媒を得た。触媒の金担持量は3wt%(仕込重量より)であった。
[比較例2]
0.3MのNa2CO3水溶液(pH = 8.3)を60℃水浴中に浸し、これに撹拌しながら15.17 gのFe(NO3)3・9H2O及び0.45 gのHAuCl4・4H2Oを純水200 mLに溶かした水溶液を滴下して沈殿物を析出させた。滴下の間、0.3MのNa2CO3水溶液を適宜加えて水溶液のpHを8.3に調製した。
【0060】
該沈殿物をろ紙でろ過し、ろ紙上の沈殿物を水で念入りに洗浄した。これを80℃で12時間真空乾燥した後,空気雰囲気下200℃で2時間焼成してAu-Fe2O3系触媒を得た。触媒の金担持量は3wt%(仕込重量より)であった。
【0061】
なお、上記実施例1及び比較例1,2における製造工程の模式図を図1に示す。
【0062】
上記実施例比較例で得られたAu-Fe2O3系触媒について、細孔分布及び比表面積を自動比表面積・細孔分布測定装置(BELSORP-mini、日本ベル株式会社製)を用いて測定した。細孔分布はBJH法,比表面積はBET法に基づいて算出した。その結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
[試験例1]触媒活性試験(CO酸化)
上記実施例1及び比較例1,2で得られた粉末状の触媒0.1g(かさ密度=1.02g/cm3)を、内径4mmのステンレス管に隙間なく充填し、触媒充填管型反応器とした。CO、空気の流量をMass flow controllerにより調整し、CO濃度500ppmを含む空気を触媒充填管型反応器に流量60mL/minで供給した。反応温度は室温から200℃まで変化させ、反応ガス中のCO濃度をマイクロガスクロマトグラフにより定量・分析した。なお、標準の反応条件は空間速度;SV=37,000 h-1、接触時間;W/F= 81.5kg-cat min mol-1であった。図3に各触媒によるCO酸化反応の結果を示す。
【0065】
実施例1により作製した触媒では、室温から200℃までほぼ100%の反応率を得ることができた。これに対し、比較例1,2により作製した触媒では、いずれも室温から200℃未満の温度範囲では充分な反応率が得られないことが分かった。これから、実施例1及び比較例1,2の触媒は、ほとんど同程度の細孔径を有するにもかかわらず、触媒の調製条件によりCO酸化活性が大きく異なることがわかる。これは触媒の表面積や細孔径よりも、Fe2O3上へのAu担持状態の寄与が大きいと考えられる。
【0066】
本発明の実施例1の触媒が、比較例1,2の触媒よりも高活性である理由は、今のところ明らかではない。おそらく、実施例1の製法では、比較例1,2の製法と比較して、酸化鉄の結晶構造のより整った状態で塩化金酸と混合されて製造されている。そのため、実施例1の触媒では、金粒子がCOを化学吸着しやすい部分(つまり、Fe2O3の表面)により多く担持されて活性が高くなっていると考えられる。
[試験例2]改質ガス中のCO選択的除去
上記実施例1で得られた粉末状の触媒0.1g(かさ密度=1.02g/cm3)を、試験例1と同様に内径4mmのステンレス管に隙間なく充填し、触媒充填管型反応器とした。改質ガス組成に相当するCO、H2及び空気の混合ガス(ガス中の水素濃度10%)の流量をMass flow controllerによりCO濃度が500ppmになるように調整し、触媒を充填した管型反応器に流量60mL/minで供給した。反応ガス中のCO濃度を、マイクロガスクロマトグラフを用いて定量・分析した。尚、空間速度SV = 37,000 h-1、接触時間W/F = 81.5 kg-cat・min・mol-1で実験を行った。
【0067】
反応温度範囲を30〜70℃として、CO酸化反応を検討した。結果を図4に示す。この結果から、30〜70℃の範囲で実施例1の触媒はCOを選択的に酸化できることが示された。
[試験例3]CO酸化及びNO還元
上記実施例1で得られた触媒を用いて、燃焼ガス組成に近いCO及びNOを含む混合ガスの処理を行った。試験条件、試験方法及び測定器は下記の通り。
(試験条件)
触媒:Au担持酸化鉄(Au/Fe2O3)(実施例1)
触媒担持濃度:3wt%(仕込み量)
触媒形状:粉末
充填触媒量: 0.73g (かさ密度1.20g/cm3)
反応器内の触媒の占める体積:0.6cm3
反応器系:内径 10mm
試験ガス:CO 約500ppm、O2 約7.5%、N2Balance
測定温度:常温(24℃程度)
流量:100 ml/min
SV値:10,000/h
(測定器)
MicroGC「CP-2003」(GLサイエンス)
NOx-ANALYZER「ECA-88A」(YANACO)
(試験方法)
各ガスボンベからマスフローメーターで流量調節を行いながら、上記試験ガスを混合し、ブランクガス濃度をCO測定器およびNOx測定器にて測定した。恒温槽(触媒)を所定温度まで加熱した後、試験ガスを装置に流し、パージを行った後、同測定器にて測定し、除去率を算出した。装置の模式図を図5に示す。
【0068】
測定結果を図6に示す。これより、常温(24℃)において、NOをほぼ完全にNに還元し(NOは生成せず)、COをほぼ完全にCOに酸化できることが分かった。もちろん、測定温度がこれよりも高い場合には、より高い活性を示す。
[試験例4]触媒耐久性試験(CO酸化)
上記実施例1で得られた触媒を用いて、試験例3の装置を用いて触媒耐久性試験を行った。
【0069】
なお、試験ガス:CO 約500ppm、NO2 約100ppm、O2約7.5%、N2 Balanceを用いた。
【0070】
測定結果を図7に示す。これより、常温(24℃)において、2000時間を経過してもCOをほぼ完全にCOに酸化できることが分かった。実施例1で得られた触媒は、長期間高い活性が維持されることが明らかとなった。
[試験例5]参照金触媒との比較試験
実施例1の触媒と参照金触媒(Gold reference catalyst Type C、ズードケミー触媒(株)製造、World Gold Council提供)についてCO処理の比較試験を行った。参照金触媒のスペックは、組成はAu−Fe、金担持量は4.4wt%のものを使用した。試験は、試験例3の装置を用いたが、触媒の占める体積のみ試験例3の10分の1すなわち0.06 cm3とし、他の条件を試験例3と同じとし、空間速度を10倍のSV=100,000 h-1として試験を行った。触媒充填量は、実施例1の触媒が0.073g(かさ密度=1.20g/cm3)、参照金触媒が0.085g(かさ密度=1.39g/cm3)とした。また、試験時間は6時間(360分)とした。
【0071】
本比較試験ではSVを基準に測定を行っているため、充填する触媒のかさ密度が異なれば触媒充填量が異なる。即ち、実施例1の触媒よりかさ密度が大きい参照金触媒のほうが、触媒充填量を基準とすれば有利な条件で比較試験を行っている。
【0072】
実施例1の触媒及び参照金触媒の結果を、それぞれ図8(a)及び図8(b)に示す。
【0073】
図8(a)より、実施例1の触媒では、開封直後と3日間空気中放置後のいずれも90%以上のCO除去率を示した。
【0074】
これに対し、図8(b)より、参照金触媒では、開封直後では初期は高活性(除去率100%)であったが時間と共に劣化し6時間後には80%をきる除去率となった。また、3日空気中放置後では初期に30%の除去率を示した後、6時間後には10%を下回る除去率に低下した。
【0075】
このことから、実施例1の触媒が、既存の金触媒に対し、非常に高い活性をおよび、耐久性を示すことが示された。
[試験例6]高濃度CO試験
実施例1の粉体状の触媒0.73g (かさ密度1.20g/cm3)を内径4mmの管に充填し、管内で触媒がφ4mm、高さ4.77cmの円筒形になるようにし、触媒の占める体積が0.6cm3であるような触媒充填管型反応器とした。この反応器に、CO 5000ppmを含む空気を流量100ml/minで流すことで、空間速度;SV=10000hr−1の条件とし、反応器の出口でCO濃度の測定をおこなったところCOの処理率は100%であった。
【0076】
このように高濃度COであっても、高いCO除去活性を示すことが分かった。
[試験例7]フィルター加工試験
実施例1の粉体状の触媒を、100mm×100mm×5mmのウレタンフォーム不織布表面に担持した。担持方法は、不織布表面に粘着剤をつけた後、触媒をふりかけることにより、ウレタンフォーム表面に担持させた。余分な触媒は払い落とし、ウレタンフォーム表面に実施例1の触媒が担持された触媒フィルターを作成した。担持量は、0.75g/cm2であった。このフィルターを直径10mmの大きさに切りだし、これを内径10mmの管型反応器に充填し触媒充填型反応器とした。この反応器に、CO約500ppm、O2約7.5ppm、Nバランスの試験ガスを100mL/minで送気し触媒活性試験を行った。その結果を図10に示す。
【0077】
この結果から、実施例1の触媒を不織布に担持しフィルター化した場合でも、触媒粉体のみの場合と同様、COの常温酸化活性を有すことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1及び比較例1,2の各触媒の製造工程の模式図を示す。
【図2】実施例1の触媒のTEM写真である。
【図3】試験例1における、実施例1及び比較例1,2の各触媒の活性試験(CO酸化)結果を示すグラフである。
【図4】試験例2における、実施例1の触媒の改質ガス中のCO選択的除去の結果を示すグラフである。
【図5】試験例3で用いた装置の模式図である。
【図6】試験例3における、実施例1の触媒を用いたCO及びNOを含む混合ガスの処理試験の結果を示すグラフである。
【図7】試験例4における、実施例1の触媒を用いた触媒耐久性試験(CO酸化)の結果を示すグラフである。
【図8】試験例5における、実施例1の触媒及び参照金触媒のCO処理の比較試験結果を示す。図8(a)が実施例1の触媒の結果であり、図8(b)が参照金触媒の結果である。
【図9】試験例6における、高濃度COガス(CO 5000 ppm)の処理試験の結果を示す。
【図10】試験例7における、COガス(CO 500 ppm)の処理試験の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金ナノ粒子が酸化鉄に担持された触媒の製造方法であって、(1)3価の鉄の塩及び無機アルカリ成分を水中で混合して水性混合物を得る工程、(2)得られた水性混合物に金化合物を加えて沈殿物を析出させる工程、及び(3)得られた沈殿物を焼成する工程、を含む製造方法。
【請求項2】
工程(1)において、3価の鉄の塩を含む水溶液に無機アルカリ成分を加えてpHを5〜11に調整して混合する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(3)において、焼成温度が100〜600℃である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記3価の鉄の塩が硝酸鉄、硫酸鉄又は塩化鉄であり、無機アルカリ成分がMgO、CaO、LiOH、NaOH、KOH、MgO、CaO、NaCO、KCO、NaHCO又はKHCOであり、金化合物が塩化金酸、塩化金、テトラクロロ金(III)アンモニウム、臭化金、シアン化金又は水酸化金である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載される製造方法により製造された、金ナノ粒子が酸化鉄に担持された触媒。
【請求項6】
請求項5に記載される触媒を用いてCOを含有するガスからCOを除去する方法。
【請求項7】
請求項5に記載される触媒を用いて窒素酸化物を含有するガスから窒素酸化物を除去する方法。
【請求項8】
請求項2に記載される触媒を含む改質ガス処理用触媒。
【請求項9】
請求項5に記載される触媒を用いて改質ガスからCOを除去する方法。
【請求項10】
請求項5に記載される触媒を含む燃焼ガス処理用触媒。
【請求項11】
請求項5に記載される触媒を用いて燃焼ガスからCO及びNOを除去する方法。
【請求項12】
請求項5に記載される触媒を基材に担持してなるフィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−279439(P2008−279439A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103001(P2008−103001)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(504061112)京都ナノケミカル株式会社 (8)
【Fターム(参考)】