説明

丈高構造物の減衰

垂直な2つの部材を備える丈高な構造物に、垂直方向に配向された減衰要素が設けられ、その減衰要素が、2つの部材間の相対垂直運動を減衰するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丈高な構造物、特に高層建築物の運動を減衰するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
高層建築物などの丈高な構造物は、しばしば、横方向の力に対して抵抗を付与する幾つかの構造システムを組み込んで構築される。通常、一般に建築物の本体内部に「コア」が在り、外側周りに、また時には内側にも、梁や柱の「フレーム」が在る。各階床は、コアならびに外側および/または内側の柱によって垂直に支持されている。
【0003】
丈高な構造物の設計に際して、渦発生およびその他の空気力学的影響により発生しがちな突風による構造物の動的共振応答が、側方抵抗性構造物の剛性および強度を大幅に増加する必要性を生じさせることがしばしば起こる。また、風が引き起こす建築物の横揺れは、一般に居住者に感じ取られ、このことが動的応答を低減させることを必要とする設計上の問題点である。揺れという範疇では、地震もまた強い横揺れを引き起こすので、この場合も側方動的応答および損傷を低減することが望ましい。構造要素を追加し、またはそれらの寸法を増加することによって建築物の剛性および/または質量を増加させることにより、風が引き起こす運動を低減することができるが、それはまた、建築物およびその基礎の費用を増加させ、有効床面積を減少させることになる。剛性の増強は、必ずしも揺れに対する性能を改善するとは限らない。
【0004】
建築物に減衰(エネルギーの消散)を加えると、動的応答が減少し、それによって建築物の構造材および基礎への負荷が減少する。建築物に十分な減衰が加えられた場合、構造材の寸法および基礎を減少させることができ、また、居住者が気付いて不快に感じる建築物の揺れの危険性を減少させまたは排除することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
構造物へ減衰要素を組み込むことにより、構造要素寸法の減少を通じて大幅に費用が削減され、また風および地震により負荷が掛かる際に優れた特性を得る構造物、方法、システム、及び建築物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の態様で、減衰要素を組み込んだ改良構造を提供することを試みる。
【0007】
したがって、第1の態様から見ると、本発明は、2つの垂直に延設する部材と、垂直に配向された減衰要素とを備え、減衰要素が2つの部材間の相対垂直運動を減衰するように配置されている丈高な構造を提供する。
【0008】
垂直に延設するとは、2つの部材が垂直方向の広がりを有することを意味し、構造物が静止しているときほぼ垂直であることが好ましい。横揺れが起こると、部材および減衰要素は、構造物が運動するのに従って、当然ある程度垂直方向から外れた運動をする。別様に定義すると、垂直方向に延設するとは、構造物が静止しているとき、部材が、それら自体の重量と、もしあれば支持する各階床の重量とを、曲げ作用ではなくて、圧縮または引張作用によって概ね支持していることを意味すると取ることができる。
【0009】
構造物が横揺れする際に、部材の回転および2つの部材間の剪断運動が、部材の長手方向における部材間の相対運動を生じる。この運動を減衰させる減衰要素を設けることによって、構造物の横揺れを効果的に解消することができ、上記の利点が得られる。また、垂直減衰要素を使用すると、減衰要素が、各コア間、またはコアと隣接するフレーム間などの、静的軸方向収縮の差異の影響を吸収することができるという付加的利点がある。
【0010】
減衰要素は、受動方式である、粘性ダンパ、粘弾性ダンパ、ヒステリシスダンパもしくは摩擦ダンパ、または能動制御式の減衰機構などのいかなるエネルギー消散要素または連結機構でもよい。
【0011】
提供される比較的高レベルの減衰構造により、丈高な構造物で考慮されるべき風の作用による側方力が軽減され、また、より数少なくかつ/または小さい構造要素およびより小さい基礎を使用することができ、それにより、建設費用が削減され、地震で構造物が受ける損傷が軽減される。
【0012】
好ましい実施形態では、丈高な構造物は高層建築物である。上記の利点に加えて、新たな減衰が建築物に適用されると、建築物の揺れが建築物の居住者に感知されにくくなる。
【0013】
本発明は、高さが60mを超す、より詳細には高さが80mを超す建築物に、特に用途があると考えられる。
【0014】
1つまたは複数の減衰要素が、構造物の高さにおける上側75%以内に配置されることが好ましい。
【0015】
垂直に延設する部材は、コア、側柱、耐震壁、端壁、または、単に、減衰を目的として構造物に追加された垂直要素でもよい。したがって、通常、2つの部材は、コアと別のコア、またはコアと側柱であってもよく、あるいは柱の2つの2次部材の間にあってもよい。コア、柱、および耐震壁は、しばしば既存の丈高な構造物の主要要素であり、その結果、既存の構造物に、本発明による減衰要素を組み込み改良することができる。
【0016】
好ましい実施形態では、垂直方向に延設する部材の1つから延設する水平要素を備え、減衰要素がその水平要素、より詳細には水平要素の先端と別の垂直方向に延設する部材との間の相対運動を減衰する。2つの水平要素を使用して、垂直方向に延設する部材のそれぞれに1つずつ結合し、減衰要素を両水平要素間に結合することもできる。
【0017】
水平要素を使用することによって、垂直要素の回転が水平要素の長さと組み合わさって相対運動を増幅する。したがって、減衰要素がより大きな相対運動を減衰するように作用することができ、それにより、減衰がより効果的になる。さらに、この配置により、ある程度の距離を空けて配置された垂直方向に延設する部材間の減衰も可能になる。
【0018】
水平要素は相対的に剛性が高いことが好ましい。それにより、2つの垂直部材間の、水平要素を伝わる荷重経路における力および減衰要素が、水平要素を大きく変形させることはなく、したがって、最大限の変位が減衰要素に加えられることが保証される。
【0019】
好ましい実施形態では、垂直方向に延設する部材はコアと側柱を備え、水平要素は、コアと柱の間に水平方向に延設するアウトリガーである。アウトリガーは、コアまたは柱のどちらかに連結され得る。そのアウトリガーの自由端にある減衰要素が、他方のコアまたは柱に連結される。この配置により、従来のタイプのコアおよび側柱構造体で本発明を容易に実現することが可能になる。
【0020】
このアウトリガー配置は、建築物の剛性を高めるためにコアおよび側柱構造体を堅く連結する周知のアウトリガーとは対照的である。周知の堅く連結されたアウトリガーを用いる設計は、本発明の減衰配置に比較して、構造要素がより大きくなり、建造費がより高くなる。
【0021】
水平要素は、その延設方向に直角な水平方向の幅が相対的に薄くなり得、すなわち、その水平要素は、構造物の床平面図で視ると、垂直部材から細長く延設し得る。水平要素は、その幅より、側面から視たときの丈の方が実質的に高いことが好ましい。構造物が高層建築物である場合、水平要素は、建築物の1階分を超える高さで延設し得る。この丈高で薄い構成は、水平要素が平面図で見て薄いので、垂直方向の剛性は高いが軽いため、建築するのに安価な水平要素を実現する。水平要素は、床平面図の分割壁部材の一部として好都合に配置することができるので、建築物の間取りを妨害することもない。特に好ましい実施形態では、建築物は60階または高さ210m程度であり、水平要素は2階分一杯に渡って垂直に延設する。水平要素は、実用性のために戸口または通路を形成する開口を有することができる。特に、水平要素が複数階の床層を横断する場合には、戸口が存在し得る。
【0022】
垂直部材の周りに、複数の減衰要素を同じ高さに配置することができる。それらの減衰要素は、単一のコアを複数の側柱に結合することができる。複数の水平要素が使用される場合、コアから様々な平面図上の方向へ全体的に延設する要素が存在し得る。たとえば、コアから互いに反対方向に延設する水平要素が存在し得る。または、より好ましくは、コア周りに90°間隔で全体的に延設する要素が存在し得る。各水平要素には減衰要素が連結されている。建築物中に複数の減衰要素を配置することによって、横揺れが起こり得る全ての方向での減衰の付加が実現される。対称構造物では、このタイプの減衰は、一般に対称な減衰要素配置によって達成される。床平面図において非対称な構造物では、ダンパの非対称な配置が必要になり得る。非対称性は、たとえば、ダンパの数もしくは抵抗特性、または任意の水平要素の寸法を変えることによって達成することができる。直交する2方向で動的運動に対する感度が異なる建築物、たとえば床平面図として長方形の建築物の場合、減衰要素は、致命的方向の横揺れに対してより大きな減衰をもたらすように配置することができる。このことは、致命的な度合いが低い方向の横揺れを抑えるために作用する減衰要素は、数を少なく、もしくは能力を低く、あるいは省けることを意味する。
【0023】
それぞれの組が構造物の異なる高さにある複数組の減衰要素が存在し得る。所定の減衰比に対して、複数の高さに減衰要素を分散させることによって、構造物の局所減衰による力を軽減することができる。減衰要素に加わる最大力は構造物の設計において問題点になり得る。
【0024】
垂直方向に延設する部材は、近接して配置された2つのコア、またはコアと、近接して配置された端壁もしくは柱とでよく、1つまたは複数の減衰要素が、比較的短い水平要素であるコーベルまたはブラケットを用いて部材間に連結されている。この場合、垂直部材の相対運動は、構造物が横揺れするときの剪断運動である。
【0025】
好ましい実施形態では、垂直部材は、荷重支持部材、及び減衰を目的として設けられた非荷重支持部材である。非荷重支持部材とは、構造物が静止しているとき、自重以外に大きな荷重を全く支持しないことを意味する。すなわち、階床、外装材、負荷される重力荷重構造の重量は他の部材によって支持される。非荷重支持部材は、主として、構造物の横揺れ中に生じる動的荷重を支持する。これらの動的荷重は、減衰要素によって非荷重支持部材へ伝えられる。付加的な非荷重支持部材は、荷重支持部材に並べて配置され得る。減衰要素が、2つの垂直部材上のブラケット、またはコーベルなどの短い水平要素間に連結される。このように付加的な非荷重支持垂直部材を使用することによって、構造物の残りの部分は静加重を支持するように従来の様式で設計することができる。
【0026】
第2の態様から見ると、本発明は、丈高な構造物に対して減衰を付与する方法を提供し、その構造物は垂直方向に延設する2つの部材を有し、その方法は、垂直方向に作用し、2つの部材間の相対運動を減衰する減衰要素を設けるステップを含む。
【0027】
垂直方向に延設するという用語は、本発明の第1の態様に関するのと同じことを意味する。この方法で使用される垂直部材および減衰要素は、上記の好ましい特徴を包含し得る。
【0028】
この方法は、丈高な構造物、好ましくは高層建築物の建設に使用することができ、または、別法として、この方法を、既存の建築物に減衰要素を組み込み改良するために使用することができる。
【0029】
別の態様では、本発明は、コア間、またはコアから側柱などの他の垂直要素へ水平方向に延設する高剛性の「アウトリガー」構造体を用いることによって優れたレベルの構造減衰を高層建築物に付加するシステムであって、エネルギーを消散する連結機構をアウトリガーの荷重経路内に組み込んだシステムを提供する。エネルギー消散連結機構または減衰要素は、粘性(すなわち、速度の何乗かで増加する)、粘弾性(すなわち、エネルギーの消散と剛性とをもたらす)、ヒステリシス、または摩擦によるものでよい。
【0030】
さらに広範な態様から、本発明は、建築物が横揺れするとき、互いに相対的に垂直方向に運動することができる2つの部材と、2つの部材間に配置され、その相対垂直運動を減衰することができるダンパとを備える建築物を提供する。
【0031】
好ましくは、ダンパは、運動を減衰するためにほぼ垂直に作用するように配置されている。
【0032】
好ましくは、2つの部材は垂直方向に配置され、その結果、特に好ましい実施形態では、ダンパは、部材にほぼ平行な方向に作用する。
【0033】
別の態様では、本発明は、建築物が横揺れするとき、互いに相対的に運動することができる2つの部材と、その相対運動を減衰するために、2つの部材と平行な方向に作用するように配置されたダンパとを備える建築物を提供する。
【0034】
本発明のいくつかの好ましい実施形態が、添付図面を参照して、単なる例として次に記載される。
【発明の効果】
【0035】
構造物へ減衰要素を組み込むことにより、構造要素寸法の減少を通じて大幅に費用が削減され、また風および地震により負荷が掛かる際に優れた特性を得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
図1は本発明の原理を示す。
【0037】
図1に、コア1および側柱2の形態の垂直部材を有する丈高な構造物が概略的に示されている。垂直方向に作用する減衰要素3が、構造物が横揺れしたときコア1と柱2との間の相対垂直運動を減衰するように配置されている。構造物の垂直位置または静止位置が、破線で示されている。説明のために横揺れの量が誇張されていることが理解されよう。減衰要素3は、水平方向に延設する相対的に剛性の高いアウトリガー4形態の水平要素を介してコア1に堅く連結されている。
【0038】
図2は、図1の構造物と同様な構造である高層建築物を示す。コア1および柱2が、多数の階床5を支えている。高い位置に配置された実施形態のアウトリガー4が、その外側端部で、図示されていない減衰要素によって柱2に連結されている。
【0039】
動的負荷によって引き起こされる丈高な構造物の横揺れ中、コア1および側柱2(または別のコア)は、曲げ作用によって、時間的なある瞬間にはアウトリガー4の高さのところで、垂直線に対してある角度、たとえばθを有している。
【0040】
アウトリガー4は、側柱2に堅く連結されてはおらず、垂直方向に作用し相対的に柔軟な減衰要素3を介して連結されている。アウトリガー4は相対的に剛性が高く殆ど変形しないので、その最外端は、ほぼLとθの積(L・θ)の直線的変位によって垂直方向に移動する。ここで、Lは、コアの中心から側柱までの水平距離である。これにより、減衰要素3に同じ変位(L・θ)が付加される。この垂直相対変位は、構造物がその横揺れモードで振動すると連続的に変化し、減衰要素3が、長さを変え、揺れに抵抗する力を発生する。すなわち、構造中の運動エネルギーをエネルギー消散装置内の熱エネルギーに変換する。
【0041】
図3は、図2に示すタイプの建築物に使用することができる水平要素4および減衰要素3の配置を示す透視図である。水平要素4は、コア1の周りに対称的に対で設けられた8つのアウトリガー4である。垂直部材は、コア1、および各アウトリガー4に1本ずつの8本の側柱2である。アウトリガー4は、2階分の深さの鉄筋コンクリート壁の形態を取り、1つのアウトリガー4につき3つの減衰要素3(この場合は粘性ダンパ)がアウトリガー4と側柱2との間の連結部に設けられている。
【0042】
図4は、1つのアウトリガー4の側面図であり、床梁5が示されている。隙間6が、アウトリガー4と図示されている最下層の階床との間に設けられている。アウトリガー4と床梁5を両立させ、アウトリガー4の端部と側柱2との間の垂直運動を可能にするためには、床5はアウトリガー4とは独立に張られる必要がある。これを達成することができる1つの方式が図5に示されており、この場合は、アウトリガー4は2階床分の高さである。図5には、アウトリガー4の底部に隙間6が示されており、別の隙間6が、図示されている上層の階床とアウトリガーとの間に設けられている。アウトリガー4が自在に動くことができるために、アウトリガー4は、階床または床梁5に接触することなく中層の階床のスロット中を移動することができる。
【0043】
実際には、システムの有効性は、アウトリガーの可撓性も含めて、構造システムの様々な構成要素の相対的な剛性に依存している。減衰は、アウトリガー1つにつき1つまたは複数の減衰ユニットによって行われ得る。単純化のために、単一の減衰要素3がしばしば示され、または言及されるが、それを、複数の減衰要素3によって置き換えることができることは理解されるべきである。
【0044】
図6は、アウトリガー4と柱2との間の減衰要素3からなる連結機構を概略的に示す。横揺れ、垂直柱2とコア1との相対運動、および、矢印によって示されているように、アウトリガー4が連結されているところのコア1の回転を生じさせると、減衰要素3に沿う相対運動が発生し、それによって、減衰要素3が構造の揺れを減衰させる。
【0045】
図7は、図6に示された配置とは別の配置であり、この場合は、アウトリガー4は柱2に連結され、そのとき、減衰要素3は、コア1とアウトリガー4との間に装着されている。
【0046】
減衰要素3は、図8に示すように、2つのコアまたは耐震壁1間に装着することができる。複数の減衰要素3が、コーベル形態の短い水平要素4に連結され、建築物の全高さに渡って2つのコア構造物1間に減衰をもたらす。
【0047】
図9は、建築物のコアまたは耐震壁1の「フランジ」と端壁または柱2との間に設けられた減衰要素3を有する床平面図である。減衰要素3は、図8の実施形態のように短い水平コーベルによって支持することもできるが、図10に側面図を示すように、垂直部材上に直接付けたブラケットに単純に固定することもできる。階床5の周りの隙間6によって、壁1、2間において妨害のない相対運動が可能になり、また、2つの耐震壁またはコア1は相互連結桁7によって結合することができる。
【0048】
図11では、減衰要素3が、荷重支持柱2および非荷重支持柱8に連結されている。柱2は、階床部材5および建築物の他の部材の支持を行い、一方、非荷重支持柱8は、減衰を目的として、建築物が動く際に動的荷重を支持するために設けられているが、大きな静止加重を支持することは全くない。減衰要素3は、それぞれの柱2、8に設けられた短い水平要素4に結合されている。
【0049】
別の実施形態では、図11の柱2は、コア1または建築物の別の垂直部材であってもよいことは理解されよう。
【0050】
図12〜16は、2つの中央エレベータシャフトコア構造物1ならびに多数の側壁および側柱2を有する、60階、高さ210mの鉄筋コンクリート建築物に装着された減衰システムを示す。図12は、コア1および側柱2を示す、建築物の典型的な階床の床平面図である。この塔の平面寸法は、ほぼ36m×39mである。2つのコア1は、各階床層で、従来の鉄筋コンクリート連結梁によって連結されている。側壁と側柱2もまた、各階床層で、床梁5によって連結されている。
【0051】
図13は、高層建築物の高さに沿った断面図を示す。これには、中央コア1、側梁および側柱2、ならびに塔の中間の高さをちょうど超えたところのアウトリガー壁要素4が示されている。
【0052】
アウトリガー4の層の床平面図が図14に示されている。減衰要素3が、アウトリガー4の端部に配置され、側柱2に連結されている。4対のアウトリガー4が、中央コア1から建築物の4つの側面に向かって延びている。床平面図はまた、アウトリガーを有する層で階床を通常通りに使用することができるようにアウトリガー4に形成された戸口9を示す。
【0053】
図14の左上のアウトリガー4の詳細な構造が、図15に部分断面図で示されている。他のアウトリガー4も同様な構造を有するが、当然寸法は異なっている。図15では、アウトリガー4は、各階床5層に1つずつ、2つの戸口9を有する。減衰要素3は、アウトリガー4と側柱2との間に結合されている。
【0054】
達成できる減衰は、アウトリガー4の端部のダンパ3の抵抗が変化するのにつれて変化する。所定の構造物に対して、最適なダンパ抵抗のレベルが存在する。その値は、構造物全体およびダンパシステムの有限要素法モデルの解析を通じて試行錯誤することによって得ることができる。減衰は、複素モーダル解析として周知の数学的手法、または問題が順解析によって解かれる定常応答解析によって得ることができる。ノーマル・モーダル・メソド(normal modal method)は適切ではない。
【0055】
線形粘性ダンパを使用したこの構造物に関して、図16は、各アウトリガーでの総ダンパ抵抗Cによって全体の加算減衰がどのように変わるかを示す。全体の減衰は、臨界減衰の比として表され、Cは、各ダンパでの単位相対速度当たりの力、この場合はMN/m/sで測定される。2つの曲線は、建築物の2つの直交する水平方向の横揺れに関する。
【0056】
図示されていない実施形態では、上記の様々なタイプの減衰配置を組み合わせることができる。たとえば、建築物は、コアと側柱との間の図2〜7のようなアウトリガー水平要素、ならびに、2つのコアの間に図8のように配置された減衰要素、および/または図9または11のように配置された減衰要素を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】垂直部材間への減衰要素の配置を示す、横揺れ状態の構造物の図である。
【図2】アウトリガーを有する、コアと側柱との構造を示す図である。
【図3】減衰要素の配置の実施形態の透視図である。
【図4】図3の水平要素および減衰要素の1つの側面図である。
【図5】図4に示された部材の断面図である。
【図6】アウトリガーを有する実施形態の図である。
【図7】別のアウトリガーの実施形態の図である。
【図8】2つの耐震壁またはコア間の減衰要素を示す図である。
【図9】耐震壁と端壁との間の減衰要素を示す図である。
【図10】図9の実施形態の減衰要素の詳細を示す側面図である。
【図11】荷重支持柱および非荷重支持柱を有する実施形態の図である。
【図12】高層建築物の階床の床平面図である。
【図13】高層建築物の側面図である。
【図14】高層建築物のアウトリガー層での階床の床平面図である。
【図15】図14のアウトリガーの側面図である。
【図16】減衰がダンパの抵抗によってどのように変化するかを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直方向に延設する2つの部材と、垂直方向に配向された減衰要素とを備える丈高な構造物であって、前記減衰要素が、前記2つの部材間の相対垂直運動を減衰するように配置される、構造物。
【請求項2】
前記部材が垂直である、請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記丈高な構造物が高層建築物である、請求項1または2に記載の構造物。
【請求項4】
前記部材が、コアおよび側柱を備える、請求項1、2または3に記載の構造物。
【請求項5】
前記構造物が前記部材の1つから延設する水平要素を備え、前記減衰要素が、前記水平要素と他の前記垂直部材との間の相対運動を減衰するように配置されている、前記請求項のいずれかに記載の構造物。
【請求項6】
前記水平要素は相対的に剛性が高い、請求項5に記載の構造物。
【請求項7】
前記水平要素が、前記垂直部材間に水平方向に延設したアウトリガーである、請求項5または6に記載の構造物。
【請求項8】
前記水平要素は、前記要素の延設方向に直角な水平方向の幅が相対的に薄い、請求項5、6または7に記載の構造物。
【請求項9】
前記水平要素が、その幅より、側面から視たときの丈の方が実質的に高い、請求項8に記載の構造物。
【請求項10】
前記構造物が高層建築物であり、前記水平要素の高さが前記建築物の1階分を超えて延設する、請求項5から9のいずれかに記載の構造物。
【請求項11】
前記水平要素が、階床面積を分割する壁の一部を形成する、請求項5から10のいずれかに記載の構造物。
【請求項12】
前記水平要素が、実用性のために戸口または通路を形成する開口を有する、請求項5から11のいずれかに記載の構造物。
【請求項13】
前記垂直部材の周りに同じ高さに配置された複数の減衰要素を備える、前記請求項のいずれかに記載の構造物。
【請求項14】
前記減衰要素が、コアを複数の側柱に結合する、請求項13に記載の構造物。
【請求項15】
前記複数の減衰要素の少なくとも一部を支持する複数の水平要素を備え、前記水平要素のそれぞれに減衰要素が連結されている、請求項13または14に記載の構造物。
【請求項16】
水平要素同士がコアから互いに反対の水平方向に延設する、請求項15に記載の構造物。
【請求項17】
水平要素がコア周りに、等角度、好ましくは60°、90°、または120°の間隔で延設する、請求項15に記載の構造物。
【請求項18】
前記垂直方向に延設する部材が近接して配置されている、請求項1、2または3に記載の構造物。
【請求項19】
前記減衰要素が、前記垂直方向に延設する部材間に、比較的短い水平要素またはブラケットを用いて連結されている、請求項18に記載の構造物。
【請求項20】
前記垂直方向に延設する部材の周りに同じ高さに複数の減衰要素を備える、請求項18または19に記載の構造物。
【請求項21】
前記垂直方向に延設する部材が、2つのコア、またはコアと端壁もしくは柱とを備える、請求項18、19または20に記載の構造物。
【請求項22】
前記垂直部材が、荷重支持部材と、非荷重支持部材とを備え、前記非荷重支持部材は減衰を目的として設けられている、請求項18、19または20に記載の構造物。
【請求項23】
前記非荷重支持部材が前記荷重支持部材に並んで配置される、請求項22に記載の構造物。
【請求項24】
複数組の減衰要素を備え、前記それぞれの組が前記構造物の異なる高さにある、前記請求項のいずれかに記載の構造物。
【請求項25】
前記減衰要素が、受動方式である、粘性ダンパ、粘弾性ダンパ、ヒステリシスダンパもしくは摩擦ダンパ、または能動制御式の減衰機構を備える、前記請求項のいずれかに記載の構造物。
【請求項26】
前記構造物が、高さ60mを超え、好ましくは高さ80mを超える建築物である、前記請求項のいずれかに記載の構造物。
【請求項27】
1つまたは複数の前記減衰要素が、前記構造物の高さにおける上側75%以内に配置される、前記請求項のいずれかに記載の構造物。
【請求項28】
丈高な構造物に減衰を付与する方法であって、前記構造物が、垂直方向に延設する2つの部材を有し、垂直方向に作用し前記2つの部材間の相対運動を減衰する減衰要素を備えたステップを含む方法。
【請求項29】
前記丈高な構造物を建設する際に前記減衰要素を組み込むステップを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
既存の構造物に前記減衰要素を組み込み改良するステップを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記丈高な構造物が高層建築物である、請求項28、29または30に記載の方法。
【請求項32】
水平要素が、コアと側柱との間に設けられる、請求項28から31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記垂直方向に延設する部材の1つから延設する水平要素を設けるステップを含み、前記減衰要素が前記水平要素と他の前記垂直部材との間の相対運動を減衰する、請求項28から32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記水平要素が相対的に剛性の高い、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記水平要素が、前記垂直方向に延設する部材間に設けられた水平方向に延設するアウトリガーである、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記水平要素は、前記要素の延設方向に直角な水平方向の幅が相対的に薄い、請求項33、34または35に記載の方法。
【請求項37】
前記水平要素が、その幅より、側面から視たときの丈の方が実質的に高い、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記構造物が高層建築物であり、前記水平要素の高さが前記建築物の1階分を超えて延設する、請求項33から37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
前記水平要素が、階床面積を分割する壁の一部を形成する、請求項33から38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記水平要素には、実用性のために戸口または通路を形成する開口が設けられている、請求項33から39のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
前記垂直方向に延設する部材の周りに同じ高さに配置された複数の減衰要素を設けるステップを含む、請求項33から40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
前記減衰要素が、コアと複数の側柱との間に設けられる、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
複数の水平要素が、前記複数の減衰要素の少なくとも一部を支持するために設けられ、前記水平要素のそれぞれに減衰要素が連結されている、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
水平要素同士が前記コアから互いに反対の水平方向に延設する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
水平要素が、前記コアの周りに90°間隔で延設する、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記垂直方向に延設する部材が近接して配置されている、請求項28から31のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
前記減衰要素が、前記垂直方向に延設する部材間に、比較的短い水平要素またはブラケットを用いて連結されている、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記垂直部材の周りに同じ高さに複数の減衰要素を設けるステップを含む、請求項46または47に記載の方法。
【請求項49】
前記垂直方向に延設する部材が、2つのコア、またはコアと端壁もしくは柱とを備える、請求項46、47または48に記載の方法。
【請求項50】
1つの垂直方向に延設する部材が前記構造物の荷重支持部材を備える方法であって、減衰を目的として、非荷重支持の垂直方向に延設する部材を設けるステップを含む、請求項46、47または48のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
前記非荷重支持部材が前記荷重支持部材に並んで配置される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
複数組の減衰要素を前記構造物の様々な高さに設けるステップを含む、請求項28から51のいずれかに記載の方法。
【請求項53】
前記減衰要素が、受動方式である、粘性ダンパ、粘弾性ダンパ、ヒステリシスダンパもしくは摩擦ダンパ、または能動制御式の減衰機構を備える、請求項28から52のいずれかに記載の方法。
【請求項54】
前記構造物が、高さ60mを超え、好ましくは高さ80mを超える建築物である、請求項28から53のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
1つまたは複数の前記減衰要素が、前記構造物の高さにおける上側75%以内に配置される、請求項28から54のいずれかに記載の方法。
【請求項56】
コア間、またはコアから側柱などの他の垂直要素へ水平方向に延設する高剛性の「アウトリガー」構造体を用いることによって、優れたレベルの構造減衰を高層建築物に付加するシステムであって、エネルギーを消散する連結機構を前記アウトリガーの荷重経路内に組み込んだシステム。
【請求項57】
建築物が横揺れすると、互いに相対的に垂直方向に運動することができる2つの部材と、前記2つの部材間に配置され、前記相対垂直運動を減衰することができるダンパとを備える建築物。
【請求項58】
前記部材がほぼ垂直方向に配置される、請求項57に記載の建築物。
【請求項59】
前記ダンパがほぼ垂直方向に作用する、請求項57または58に記載の建築物。
【請求項60】
建築物が揺動すると、互いに相対的に運動することができる2つの部材と、前記相対運動を減衰するために、前記2つの部材と平行な方向に作用するように配置されたダンパとを備える建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2009−512796(P2009−512796A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536128(P2008−536128)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【国際出願番号】PCT/GB2006/003919
【国際公開番号】WO2007/045900
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(502348291)オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・インターナショナル・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Ove Arup & Partners International Limited
【住所又は居所原語表記】13Fitzroy Street London W1P 6BQ United Kingdom
【Fターム(参考)】