説明

三次元位置推定システム、及び、ダイポールアレイアンテナ

【課題】 精確に受信波の到来方向の推定を行うことが可能なダイポールアレイアンテナ、及び、当該ダイポールアレイアンテナを用いて地中の詳細な三次元位置情報を得ることのできるボアホールレーダシステムを提供する。
【解決手段】 給電線とアンテナ素子間の干渉、或いはアンテナ素子間の共振の影響により受信波の到来方向の推定が困難な第1及び第2周波数帯域と、受信波の到来方向の推定が可能な第3周波数帯域とを有するダイポールアレイアンテナを用いて、当該ダイポールアレイアンテナによる受信波の時間領域波形のうち第1及び第2周波数帯域に係る成分を帯域通過フィルタにより取り除く処理をおこない、当該フィルタ処理後の時間領域波形を解析することにより受信波の到来方向の推定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋め込まれた坑井内にアンテナを配置し、地中に放射された電磁波の地中内の亀裂、断層、地下水などによる散乱波又は反射波を当該アンテナが受信し、受信した散乱波又は反射波を解析することで地中内の亀裂、断層、地下水などの位置及び形状を計測する三次元位置推定システム、及びこれに用いるアンテナ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
直径10cmほどの坑井内に電磁波を受信・送信するためのアンテナを配置し、地中内の亀裂、断層、地下水などの位置及び形状を計測可能なボアホールレーダが1970年代以降、国際的に研究開発されている。送受信に使用する電磁波の周波数は10〜500MHz程度で、地中での波長は20cm〜数m程度である。水を含まない岩石、砂や土は電磁気学的には空気に近く、亀裂や断層中へ水が流入すると含水率が高くなり、電磁気学的なコントラストが生じる。即ち、ボアホールレーダでは地中の含水率の空間分布を推定することで、亀裂や断層の位置を推定できることになる。ボアホールレーダでは坑井の形状による制約から、通常、ダイポールアンテナを用いるが、この場合、坑井の周方向で無指向性となる。このため、一本の坑井に送信アンテナ及び受信アンテナを挿入した場合、物体が存在する深度や距離に対する推定に限定されていた。複数の坑井を掘削することは困難な場合も多いため、坑井の周方向で指向性をもつアンテナ、及び、一本の坑井だけで三次元推定が可能な指向性ボアホールレーダの開発が急務となっていた。
【0003】
ボアホールレーダに用いる指向性アンテナの例として、直交クロスループアンテナを用いる構成(非特許文献1)、キャビティバックドダイポールアンテナを用いる構成(特許文献1)、ダイポールアレイアンテナを用いる構成(非特許文献2及び3)が、夫々、開発されている。
【0004】
非特許文献1に示されている構成は、ループアンテナを直交配置し、ループアンテナの八の字の指向性パターンを利用して振幅情報のみで受信波の到来方向を推定するものであるが、位相情報は用いられず高分解能計測には向かない。
【0005】
特許文献1に開示されている構成は、ダイポールアンテナの一側面に反射板をつけたキャビティバックドダイポールアンテナを坑井内で回転させることによって生じる受信信号の振幅変化により受信波の到来方向を推定するものであり、送信用としても受信用としても使用可能であるが、アンテナを回転させるための機械的動作が必要になる。
【0006】
そこで、複数のダイポールアンテナを、各ダイポールアンテナの軸が互いに平行になるように、かつダイポールアンテナの軸に直交する平面上で円形に配列させたダイポールアレイアンテナが非特許文献2及び3において提案されている。これは、受信波の到達時刻をダイポールアンテナ毎に計測し、各ダイポールアンテナ間の受信波の到達時刻の差から受信波の到来方向を推定するもので、送信用としても受信用としても使用可能であり、アンテナを回転させる機械的動作が必要ない、という利点があり、各ダイポールアンテナからの受信信号の位相情報を用いて到来方向推定を行うことにより高分解能な指向性レーダシステムが構築可能となる。
【0007】
実際に坑井内で使用されるダイポールアレイアンテナ800の構成例を図8に示す。ダイポールアレイアンテナ800は、中心の給電線の外周上に複数(例えば、4個)のダイポールアンテナ801a〜801dを配列して構成されている。図8(A)に側面図を、図8(B)に給電線に対して垂直方向から見た図を示す。尚、図8(A)では、簡単のため、中心の給電線804を挟んで向かい合う二本のダイポールアンテナ801a,801cのみ図示し、他のダイポールアンテナ801b,801dの図示は割愛している。当該ダイポールアレイアンテナ800はFRP(Fiber Reinforced Plastics)製ベッセルで覆われた状態で坑井内に挿入される。各ダイポールアンテナ801a〜801dが受信した受信信号は、給電点の変圧比が1:1のRFトランス802a〜802d、及び、ダイポールアンテナ毎に一対の同軸ケーブル803a〜803dを介して給電線804へと伝送される。各同軸ケーブル803a〜803dは、夫々、中心を通る給電線804に束ねられた後、当該給電線804を介して受信信号が地上へと伝送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2004−503755号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】E.Mundary,外3名, "Borehole radar probing in salt deposits", Sixth Int. Sym. On salt, (カナダ), 1983年, Vol. 1, p. 585-599.
【非特許文献2】S.Ebihara, "Directional borehole radar with dipole antenna array using optical modulators", IEEE Trans. Geoscience and Remote Sensing, 2004年1月, Vol. 42, No. 1, p. 45-58.
【非特許文献3】M.Sato,外1名, "A Novel Directional Borehole Radar System Using Optical Electric Field Sensors", IEEE Trans. Geoscience and Remote Sensing, 2007年8月, Vol. 45, No. 8, p. 2529-2535.
【非特許文献4】S.Ebihara,外1名, "Resonance Analysis of a Circular Dipole Array Antenna in Cylindrically Layered Media for Directional Borehole Radar", IEEE Trans. Geoscience and Remote Sensing, 2006年1月, Vol. 44, No. 1, p. 22-31.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ダイポールアレイアンテナを用いて受信波の到来方向を推定する場合、実際には、中心導体柱である給電線の共振により受信波が給電線から等方的に散乱され、当該散乱波が受信波と干渉することにより、受信波の到来方向の推定が困難となる周波数帯(以下、第1周波数帯域と称す)が存在し、精確に受信波の到来方向の推定を行うことができない。
【0011】
更に、ダイポールアンテナ間の共振(Phase Sequence Resonance)により受信波が散乱されることにより、受信波の到来方向の推定が困難となる周波数帯(以下、第2周波数帯域と称す)が存在し、精確に受信波の到来方向の推定を行うことができない。
【0012】
このうち、前者の第1周波数帯域については、中心導体柱である給電線部分を極力短くすることにより排除可能である。具体的には、給電点で光変調器によって受信電圧信号を光信号に変換し、受信信号を光ファイバで地上へ伝送することにより給電線部分を排除した構成が非特許文献2及び3に開示されている。しかしながら、光変調器とダイポールアンテナ間のインピーダンス整合が極めて悪く、レーダシステム全体の感度が低下する。また、光変調器を用いるため、受信用としてのみ使用可能であり、送信用アンテナとして使用することはできない。更に言えば、光変調器は高価である。
【0013】
尚、後者の第2周波数帯域については、光変調器を用いて当該第1周波数帯域を排除した構成において、計算機シミュレーションによる解析が本願発明者によりなされており、解析の結果が非特許文献4により示されている。
【0014】
本発明は、第1周波数帯域と第2周波数帯域が同時に存在する場合に係る上記の問題を解決するものであり、精確に受信波の到来方向の推定を行うことが可能なダイポールアレイアンテナ、及び、当該ダイポールアレイアンテナから受信した受信波を解析することにより地中の詳細な三次元位置情報を得ることのできるボアホールレーダシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る三次元位置推定システムは、地中に掘削された坑井内に、中心導体柱の外周に前記中心導体柱と平行な方向に伸びる複数のアンテナ素子が配置された、前記中心導体柱の長さよりも前記アンテナ素子の長さが短いダイポールアレイアンテナを設置し、前記ダイポールアレイアンテナが受信した地中から到来する電磁波を前記アンテナ素子毎に解析し、前記電磁波の前記アンテナ素子間の遅延時間を求めることにより前記電磁波の到来方向の推定を行い、地中の三次元位置情報を得る三次元位置推定システムであって、前記ダイポールアレイアンテナが受信した前記電磁波のうち、前記中心導体柱と前記アンテナ素子間の干渉の影響により受信波の到来方向の推定が困難な第1周波数帯域と、前記アンテナ素子間の共振の影響により受信波の到来方向の推定が困難な第2周波数帯域を帯域通過フィルタにより通過させず、受信波の到来方向の推定が可能な第3周波数帯域のみ通過させる処理を行った後、当該フィルタ処理後の時間領域の前記電磁波を前記アンテナ素子毎に解析することを第1の特徴とする。
【0016】
更に、本発明に係る三次元位置推定システムは、上記第1の特徴に加えて、前記ダイポールアレイアンテナは、前記中心導体柱に散乱され前記アンテナ素子に受信される散乱波の受信電圧と直接前記アンテナ素子に受信される受信電圧との比により表される干渉度I(f)が、周波数の増加に伴い、一旦極大値を取った後減少して−10dB以下となる最小の周波数で定義される、前記第1周波数帯域の上限周波数が、PSR(Phase Sequence Resonance)における0次の振動に対応する電界強度が1次の振動に対応する電界強度と一致する周波数で定義される、前記第2周波数帯域の下限周波数よりも小さく、前記ダイポールアレイアンテナが受信した前記電磁波のうち、周波数が前記上限周波数と前記下限周波数の間の帯域を前記第3周波数帯域とすることを第2の特徴とする。
【0017】
本発明に係るダイポールアレイアンテナは、地中に掘削された坑井内に設置される、中心導体柱の外周に、前記中心導体柱と平行な方向に伸びる複数のアンテナ素子が配置されたダイポールアレイアンテナであって、前記ダイポールアレイアンテナは、前記中心導体柱の長さよりも前記アンテナ素子の長さが短く、前記中心導体柱と前記アンテナ素子間の干渉の影響により受信波の到来方向の推定が困難な第1周波数帯域と、前記アンテナ素子間の共振の影響により受信波の到来方向の推定が困難な第2周波数帯域と、受信波の到来方向の推定が可能な第3周波数帯域とを有することを第1の特徴とする。
【0018】
更に、本発明に係るダイポールアレイアンテナは、上記第1の特徴に加えて、前記中心導体柱に散乱され前記アンテナ素子に受信される散乱波の受信電圧と、直接前記アンテナ素子に受信される受信電圧との比により表される干渉度I(f)が、周波数の増加に伴い、一旦極大値を取った後減少して−10dB以下となる最小の周波数で定義される、前記第1周波数帯域の上限周波数が、PSR(Phase Sequence Resonance)における0次の振動に対応する電界強度が1次の振動に対応する電界強度と一致する周波数で定義される、前記第2周波数帯域の下限周波数よりも小さいことを第2の特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る受信波の到来方向の推定方法は、本発明の第1又は第2の何れかの特徴のダイポールアンテナが受信した地中から到来する電磁波のうち、前記第1周波数帯域と前記第2周波数帯域を帯域通過フィルタにより通過させず、前記第3周波数帯域のみを通過させた後、当該フィルタ処理後の時間領域の受信波形を解析することを第1の特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の三次元位置推定システムは、ダイポールアレイアンテナにより受信した受信波信号のうち、上述の第1周波数帯域、及び、第2周波数帯域に係る周波数帯を予め帯域通過フィルタにより減衰させ、ダイポールアレイアンテナにより受信した受信波のうち、ダイポールアンテナと給電線間の干渉及びダイポールアンテナ相互間の干渉の影響を受けず、到来方向の推定が可能な周波数帯域(第3周波数帯域)のみを用いて受信波の解析をすることにより、受信波の到来方向の推定を精確に行うことができ、結果、地中の詳細な三次元位置情報を得ることができる。
【0021】
特に、第1周波数帯域が低周波数側、第2周波数帯域が高周波側にあり、第1周波数帯域と第2周波数帯域とが互いに重なり合わない場合には、第1周波数帯の上限周波数f0と第2周波数帯の下限周波数f1の間の帯域を第3周波数帯域とし、受信波の到来方向の推定が可能な第3周波数帯域のみを帯域通過フィルタにより通過させることにより、受信波の到来方向の推定を精確に行うことができる。
【0022】
ここで、受信波の到来方向の推定が困難な第1周波数帯域および第2周波数帯域が生じる原因について、詳しく説明する。
【0023】
第1周波数帯域は、中心導体柱である給電線での半波長共振によって給電線に過大な電流が流れることにより、給電線から等方的に散乱波が放射され、全てのダイポールアンテナで同じ信号が受信されることに起因して生じる。これにより、給電線に散乱された後ダイポールアンテナに受信される散乱波の受信電圧と、直接ダイポールアンテナに受信される受信電圧との比により表される、給電線とダイポールアンテナ間の干渉の大きさを表す指標(以下、干渉度と称す)I(f)が極大値をとる。
【0024】
以下、具体的に説明する。図9に示されるように、坑井内にある二つのダイポールアンテナAとAに角周波数ωの正弦波が入射し、ダイポールアンテナAの受信電圧をY(t)、Aの受信電圧をY(t)とすると、時刻tにおける受信電圧は複素数表記で数1のように表される。このとき二つのアンテナ間に生じる受信波の位相遅延時間τはt−tである。
【0025】
ここで、給電線を導体棒で近似し、この導体棒で散乱波が発生し、当該散乱波が夫々のアンテナの受信電圧に同様に付加され、各受信電圧が複素数表記で数2のように表されるとする。このとき、干渉度I(f)を数3で定義する。
【0026】
【数1】


【数2】


【数3】

【0027】
このとき、位相遅延τは数4で表される。ただし、θ及びθは夫々、θ=argY(0)=∠Y(0)及びθ=argY(0)=∠Y(0)で表される初期位相である。
【0028】
【数4】


【0029】
ダイポールアンテナ間の間隔を7cmとし、均質媒質中に各ダイポールアンテナが存在すると仮定して位相遅延時間を計算した結果を図10に示す。給電線との干渉が全く無い場合、遅延時間は0.7nsであるが、干渉度が高くなるにつれ遅延時間が低下する。一般のレーダシステムでは0.3ns以下の遅延時間差を検出することは難しく、受信波の到来方向を推定することは困難であるが、0.5ns程度の遅延時間差であれば現在のレーダシステムで容易に推定することができる。そこで、干渉度が−10dB以下となる周波数帯域を用いることにより、好適に受信波の到来方向の推定を行うことができる。
【0030】
このため、第1周波数帯域の上限周波数は、前述の干渉度I(f)が周波数の増加に伴い一旦極大値を取った後減少して−10dB以下となる最小の周波数f0として定義することができる。
【0031】
上記の理由により、第1周波数帯域は給電線である中心導体柱の半波長共振周波数fr付近に存在する。当該共振周波数frは、主として給電線の長さ2h’、給電線の周囲の誘電率に依存し、給電線が比誘電率εの均質媒質中にあると仮定すると、下記の数5で近似される。ここでνは真空中の電磁波の速度である。
【0032】
【数5】

【0033】
より精確には、干渉度I(f)は、アンテナを覆うFRP製ベッセルの周囲に円筒状に存在する坑井内の媒質(主として水)の影響を考慮した上で、アンテナ周囲に存在する円筒状境界面からの散乱波を考慮したモーメント法によるアンテナ特性の解析を行い、入射電磁波を介して中心導体及び各ダイポールアンテナに誘起される受信電圧を夫々求め、ダイポールアンテナの給電点に誘起される受信電圧のうち、中心導体柱による寄与分を算出することにより求めることができる。
【0034】
次に、第2周波数帯域は、ダイポールアンテナ間の共振現象(Phase Sequence Resonance、以下PSRと称す)により受信波の到来方向に無関係な電磁界がダイポールアンテナ周辺で発生することに起因して生じる。非特許文献4によれば、ダイポールアンテナの数をMとすると、この共振は1次からM/2次(Mが奇数の場合は(M−1)/2次)まで存在し、これらの共振周波数は主としてダイポールアンテナが単体で存在したときの半波長共振周波数付近に存在する。
【0035】
このため、第2周波数帯域の下限周波数を、当該PSR現象において1次の振動に対応する電界強度が周波数の上昇に伴って増加し、0次の振動に対応する電界強度(即ち、全アンテナにおいて同位相で観測される成分であり、十分に低い周波数でアンテナ間の相互作用が小さい場合は入射波の電界強度とみなせる)が1次のそれと一致する周波数f1として定義することができる。
【0036】
上記の理由により、第2周波数帯域は当該ダイポールアンテナの半波長共振周波数fR付近に存在し、M個のダイポールアンテナが比誘電率ε’の均質媒質中にあると仮定すると、fRは下記の数6で近似される。ここでhは当該ダイポールアンテナの長さである。
【0037】
【数6】

【0038】
ここで、上記数5及び数6において、比誘電率ε、ε’は共にアンテナ周囲に存在する水或いは岩石の影響を受けるが、本発明のアンテナは線状であり、FRP製のベッセルに収納されているため、アンテナ近傍の媒質は空気が多く、ε=ε’と近似できる。このとき、h<h’、即ち、アンテナの長さよりも給電線の長さの方が長ければ、fr<fRとなり、第1周波数帯域が第2周波数帯域よりも低周波数側に位置するので、第1周波数帯域の上限周波数f0が第2周波数帯域の下限周波数f1よりも小さければ、周波数がf0からf1の間の帯域を第3周波数帯域として帯域通過フィルタにより通過させることにより、受信波の到来方向の推定を精確に行うことが可能になる。
【0039】
図11は、ダイポールアレイアンテナを用いて受信波形の解析を行う場合に、受信波の到来方向の推定が困難な第1及び第2周波数帯域と受信波の到来方向の推定が可能な第3周波数帯域との位置関係を、具体的に、ダイポールアレイアンテナの主要な設計パラメータ毎に場合分けし、干渉度I(f)のグラフと共に示す図である。
【0040】
給電線(中心導体柱)の端部にダイポールアンテナが配置された、給電線の長さがダイポールアンテナの長さよりも十分長いダイポールアレイアンテナを坑井内に設置する場合、図11(A)に示されるように、f0<f1であり、第1周波数帯域が低周波数側に、第2周波数域が高周波数側に位置し、第1周波数帯域と第2周波数帯域は互いに重なり合わないので、第1周波数帯域と第2周波数帯域の間、f0とf1の間の帯域を第3周波数帯域とし、当該第3周波数帯域のみを帯域通過フィルタにより通過させることにより、受信波の到来方向の推定を精確に行うことが可能になる。
【0041】
給電線(中心導体柱)の端部にダイポールアンテナが配置された、給電線の長さがダイポールアンテナの長さよりも長いが、絶対的には十分短いダイポールアレイアンテナを坑井内に設置する場合には、図11(B)に示されるように、fr及びf0が高周波側にシフトするが、同時にfr及びf0が高周波側にシフトするに従い坑井の影響により給電線の共振が抑制されるため、干渉度の極大値が低下する。この場合、給電線による干渉の影響は無視することができ、PSRのみが問題になる。第2周波数帯域の下限f1以下の周波数帯域を帯域通過フィルタにより通過させることにより、受信波の到来方向の推定を精確に行うことが可能になる。
【0042】
給電線(中心導体柱)の端部にダイポールアンテナが配置され、給電線の長さがダイポールアンテナの長さよりも短いダイポールアレイアンテナを坑井内に設置する場合、図11(C)及び図11(D)に示されるように、f1<f0であり、第2周波数帯域が低周波数側に位置する。この場合、第2周波数帯域より高周波側の周波数帯域を帯域通過フィルタにより通過させることにより、受信波の到来方向の推定を行うことが可能になると考えられる。
【0043】
一方、給電線(中心導体柱)の中央部にダイポールアンテナが配置された、給電線の長さがダイポールアンテナの長さよりも十分長いダイポールアレイアンテナを坑井内に設置する場合、図11(E)に示されるように、共振周波数frよりも低い周波数で干渉度が低くなる傾向があり、第1周波数帯域よりも低周波数側の周波数帯域を帯域通過フィルタにより通過させることにより、受信波の到来方向の推定を精確に行うことが可能になる。
【0044】
尚、ダイポールアンテナを空気中に設置した場合には、中心導体柱である給電線の半波長共振だけでなく、より高次の共振も干渉度に影響を与えるため、使用可能な周波数帯域が制限される。給電線の端部にダイポールアンテナが配置された、給電線の長さがダイポールアンテナの長さよりも十分長いダイポールアレイアンテナの場合には、図11(F)に示されるように、第2周波数帯域の下限周波数f1以下で、かつ給電線とダイポールアンテナとの干渉の影響を受けない周波数帯域のみ帯域通過フィルタにより通過させ、第2周波数帯域と複数の第1周波数帯域を帯域通過フィルタにより通過させないことにより、受信波の到来方向の推定を精確に行うことが可能になる。
【0045】
尚、上記第1〜第3周波数帯域の位置関係については、一般的な傾向を述べたに過ぎず、給電線及びダイポールアンテナの長さ等、ダイポールアレイアンテナの形状のほか、アンテナを収納するベッセルの形状や、坑井内外の媒質にも依存するため、所望の第3周波数帯域を有するアンテナの作製に当たっては、当該アンテナの実際の使用環境における干渉度I(f)、及びPSRの電界強度を予めアンテナ特性の解析シミュレーションにより求めながら、アンテナの設計を行うことが重要である。
【0046】
また、本発明のダイポールアレイアンテナは、上述の第1及び第2周波数帯域が互いに重なり合わず、受信波の到来方向の推定が可能な第3周波数帯域を有するように設計され、当該ダイポールアレイアンテナが受信した受信波のうち、受信波の到来方向の推定が困難な第1周波数帯域及び第2周波数帯域を帯域通過フィルタにより通過させず、受信波の到来方向の推定が可能な第3周波数帯域のみを用いて受信波の解析を行うことにより、受信波の到来方向の推定を精確に行うことができる。
【0047】
特に、第1周波数帯域が低周波数側、第2周波数帯域が高周波側にあり、第1周波数帯域の上限周波数f0が第2周波数帯域の下限周波数f1よりも低周波数側にあるようにアンテナを設計することにより、周波数がf0からf1の間の周波数帯域を第3周波数帯域として、受信波の到来方向の推定が可能な第3周波数帯域のみを用いて受信波の解析を行うことができるので、受信波の到来方向の推定を精確に行うことができる。
【0048】
ここで、f0及びf1は、給電線の長さ及び太さ(直径)、ダイポールアンテナの長さ、直径、数、及び給電線との位置関係等、ダイポールアレイアンテナの形状に依存し、また、ダイポールアレイアンテナを収納するベッセルの形状に依存するが、一般的な傾向については既に図11を用いて説明した通りであり、給電線の長さがダイポールアンテナの長さよりも十分長ければf0<f1を満足する。更に、坑井外の媒質(水、岩石など)の影響により、数5及び数6における媒質の比誘電率ε、ε’が変調され、f0及びf1が増減する。本発明のダイポールアレイアンテナはFRP製のベッセルに収納されているため、アンテナ近傍の媒質は空気が多く、ε≒ε’であり、f0とf1の増減は同様に起こるため、f0<f1の関係は坑井外の媒質に拘わらず成立する。
【0049】
従って、坑井の外の媒質や坑井の直径などは、予め代表的なパラメータを用いてf0及びf1を設定した上で、当該設定条件を満足するアンテナを設計し、その後、測定する実験場の状態を反映したアンテナ特性の解析シミュレーションを行うことによりf0及びf1を再設定することができる。これにより、フィルタ処理により通過させる第3周波数帯域を微調整することができ、受信波の到来方向の推定が可能な第3周波数帯域を用いて、受信波の到来方向の推定を精確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る三次元位置推定システムの構成図。
【図2】干渉度I(f)の周波数依存性を示す図。
【図3】PSR(Phase Sequence Resonance)において、1次の振動が発生する周波数fRとm次の振動に対応する電界強度の周波数依存性を示す図。
【図4】受信波のパワースペクトルと帯域通過フィルタの周波数特性を示す。
【図5】入射パルスの時間領域波形に基づき受信波の到来方向の推定を行った結果を示す。
【図6】本発明の方法を用いて、入射パルスの時間領域波形に基づき受信波の到来方向の推定を行った結果を示す。
【図7】受信波の到来方向の推定を行う方法を示す図。
【図8】ダイポールアレイアンテナの構成図。
【図9】電磁波の入射によってアンテナ素子に受信電圧が誘起される様子を示す図。
【図10】干渉度I(f)のモデル計算の結果を示す図。
【図11】ダイポールアレイアンテナの構成と干渉度I(f)の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下において、本発明に係る三次元位置推定システムの一実施形態(以下、適宜「本システム100」と称する)につき、図面を参照して説明する。図1は、本システム100の構成図である。本システム100は一周波数fで利得(振幅)と位相を測定し、この周波数fを掃引することで周波数領域のデータを直接取得するステップ周波数連続波(SFCW)レーダシステムであり、電磁波を送信する為の坑井101と、坑井101から送信され、地中で反射・散乱された電磁波を受信する為の坑井102が地中に設けられている。坑井101内にはFRP製ベッセル103が、フォトダイオード(図示せず)、アンプ(図示せず)、及び、送信アンテナ106を収納して構成され、坑井内101に挿入されている。坑井102内にはFRP製ベッセル107が、ダイポールアレイアンテナ108、電気/光変換ユニット109、及び、ダイポールアレイアンテナ108の坑井内の向きを知る為の方位計110を収納して構成され、坑井102内に挿入されている。尚、坑井内の、FRP製ベッセル103、107の周囲は通常水(地下水)或いは空気で覆われている。
【0052】
ベクトルネットワークアナライザ111は、地上に設けられ、ステップ周波数連続波(SFCW)を出力する。当該連続波は電気/光変換部112内のアンプ113により増幅され、レーザダイオード114により光信号に変換されて、光ファイバを介して坑井101内の送信アンテナ部103に送信される。
【0053】
坑井101内に挿入されたFRP製ベッセル103は、地上から送信された光信号をフォトダイオード(図示せず)により電気信号に変換し、アンプ(図示せず)により増幅した後、送信アンテナ106を介して地中から電磁波を放射する。
【0054】
坑井102内に挿入されたFRP製ベッセル107は、送信アンテナ106から送信され、地中から反射、或いは散乱された電磁波をダイポールアレイアンテナ108を介して受信する。尚、ダイポールアレイアンテナ108は、特性インピーダンス50Ωの同軸ケーブルで各ダイポールアンテナへ接続されており、これによりインピーダンス整合が改善されている。当該同軸ケーブルは、夫々、中心に集められ、円柱状に束ねられて給電線を構成し、当該給電線を介して受信信号が電気/光変換ユニット109に伝送される。電気/光変換ユニット109は、当該受信信号をアンプにより増幅し、レーザダイオードにより光信号に変換して、これによりS/N比が向上された受信信号を光ファイバを介して地上に送信する。
【0055】
地上に送信された受信信号は、光/電気変換部117のフォトダイオード118により電気信号に変換され、アンプ119により増幅された後、当該受信信号がベクトルネットワークアナライザ111に入力される。これにより、周波数領域の受信波データを得る。当該受信波データはGPIBインタフェースを介してパソコン120に送られる。パソコン120は、当該周波数領域の受信波データを取り込み、ケーブル及び電子回路で生じる減衰や遅延時間の補正を行った後、フィルタ処理を行う。このとき、ダイポールアンテナと給電線間の干渉、或いは各ダイポールアンテナ間の共振の影響により受信波の到来方向の推定が困難な周波数帯域を通過させず、受信波の到来方向の推定が可能な周波数帯域のみ通過させるフィルタ処理を行い、当該フィルタ処理後のデータを逆フーリエ変換することで時間領域の受信波形を得る。当該受信波形をダイポールアンテナ毎に解析し、受信波の到達時刻を求めることによりダイポールアンテナ毎の遅延時間を求め、受信波の到来方向の推定を精確に行うことが可能になる。送信アンテナ106から放射され、地中内の亀裂、断層、地下水などにより反射或いは散乱された電磁波を受信用ダイポールアレイアンテナ108が受信する。受信用ダイポールアレイアンテナ108と送信アンテナ106の双方を深度方向に走査し、地中物体から反射或いは散乱された受信波の到来方向の推定を精確に行い、推定された受信波の到来方向と受信波の到来時刻との関係を解析することにより、地中の詳細な三次元位置情報を得ることができる。
【0056】
以下に、本発明に係る受信波の到来方向の推定方法について、具体的に説明する。
【0057】
まず、f0(第1周波数帯域の上限)<f1(第2周波数帯域の下限)となるようにダイポールアレイアンテナを設計する。坑井の外の媒質については代表的パラメータを代入し、アンテナ特性の解析シミュレーションを行い、干渉度、及びPSRにおける各振動の電界強度を求める。ここでは、当該計算結果に基づき、直径10cmの坑井内で使用するための、長さ1.34m、直径5mmの給電線の端部に長さ0.2m、直径2mmのダイポールアンテナが4個、給電線に対して半径3.5cmの円周上に等間隔に配置されたダイポールアレイアンテナを直径9cmのFRP製ベッセル内に収納して作製した。
【0058】
次に、坑井の外の岩石を採出して、坑井の外の媒質の比誘電率(=9.7)を求める。坑井の壁とベッセルの間は水(比誘電率80)で満たされ、ベッセルの周囲には水の円筒状の層が形成されているとして、干渉度及びPSRにおけるm次(m=0、1、2)の振動に対応する電界強度を、再度計算しなおすことができる。当該計算結果を図2及び図3に示す。図2は干渉度I(f)の周波数依存性を示すグラフ、図3はPSRにおける振動の電界強度の周波数依存性を示すグラフである。尚、図3中、0次、1次、2次の振動に対応する電界強度を夫々、破線、点線、一点鎖線で示し、全ての振動成分の和で表される、実際の受信電圧を実線で示している。図2及び図3において、干渉度I(f)が−10dB以下となる上限周波数f0、及び、PSRにおける1次の振動に対応する電界強度が0次のそれと等しくなる下限周波数f1は、f0=138MHz、f1=277MHzであり、f0<f1である。
【0059】
坑井102の送信アンテナ部を介してステップ周波数連続波(SFCW)が放射され、ダイポールアレイアンテナに受信された電磁波の受信電圧のパワースペクトルを、送信アンテナ給電点での送信電圧の大きさに対するダイポールアレイアンテナで受信された受信電圧の大きさの比として、四つのダイポールアンテナ毎に図4(a)に示す。当該受信電磁波に対し、異なる帯域通過フィルタAとBを用いてフィルタ処理を行い、受信波の到来方向の推定を行った。当該帯域通過フィルタAとBの周波数特性を図4(b)及び図4(c)に示す。図4(b)に示されるフィルタAは広帯域で通過するハニングウィンドウ型のフィルタであり、図4(c)に示されるフィルタBは本発明の、ダイポールアンテナと給電線間の、及び、ダイポールアンテナ間の干渉を考慮した、f0とf1の間の第3周波数帯域のみを通過させるハニングウィンドウ型のフィルタである。
【0060】
図5(a)に図4(b)のフィルタAの周波数特性を逆フーリエ変換することに得られる、フィルタAの周波数特性を持つ入射パルスの時間領域波形を示す。図5(a)に示される入射パルスが送信されたとき、当該入射パルス波が各ダイポールアンテナにて受信される受信波の時間領域波形は、図4(a)のパワースペクトルを用いて、図4(a)のパワースペクトルに図4(b)で示されるフィルタを乗じて逆フーリエ変換することにより得られる。図5(b)に当該受信波のダイポールアンテナ毎の時間領域波形を示す。図5(c)に、図5(b)の時間領域波形を用いて受信波の到来方向の推定を行った結果を示す。到来方向の推定が精確に行えているのは直接波の初動部分である55ns〜60ns付近に限られていることが分かる。
【0061】
図6(a)に図4(c)のフィルタBの周波数特性を逆フーリエ変換することに得られる、フィルタBの周波数特性を持つ入射パルスの時間領域波形を示す。図6(a)に示される入射パルスが送信されたとき、当該入射パルス波が各ダイポールアンテナにて受信される受信波の時間領域波形は、図4(a)のパワースペクトルを用いて、図4(a)のパワースペクトルに図4(c)で示されるフィルタを乗じて逆フーリエ変換することにより得られる。図6(b)に当該受信波のダイポールアンテナ毎の時間領域波形を示す。図6(c)に、図6(b)の時間領域波形を用いて受信波の到来方向の推定を行った結果を示す。直接波のエネルギーが高い、50nsから70nsの全領域において到来方向の推定が精確に行えていることがわかる。
【0062】
図5(c)及び図6(c)の点Xに相当する、受信波の63ns付近の時間領域波形を用いて、受信波の到来方向の推定を行った場合の結果を図7に示す。図7中の丸印は、各ダイポールアンテナが受信した受信波の到来時刻と当該アンテナの存在する方向を示す。図7では、ダイポールアンテナ毎の受信波形間の位相遅延(波形の位相が同じところの時間差)、即ち到来波の受信波形が極大・極小になる時間のダイポールアンテナ毎の差を解析することにより受信波の到来方向の推定を行っている。当該ダイポールアンテナ毎の到来時間差は、円周上に配列しているダイポールアンテナの方位角に対し正弦関数で表されるので、実際に測定された当該ダイポールアンテナ毎の到来時間を正弦関数で近似し、最小自乗法を用いてフィッティングし、正弦関数の極小点を求めることにより、受信波の到来方向及び到来時間の推定を行うことができる。
【0063】
図7(a)は図4(b)に示される広帯域フィルタAを用いてフィッティングを行った場合の結果であり、正弦関数によるフィッティングがうまくいっていないことが分かる。これはダイポールアンテナと給電線間の干渉、及びダイポールアンテナ間の干渉により、受信波の到来方向の推定が困難な周波数帯域が広帯域フィルタAに含まれているためである。このため、推定された受信波の到来方向と真の方向とのずれが非常に大きく、受信波の到来方向の推定を行うことができていない。
【0064】
図7(b)は図4(c)に示される、ダイポールアンテナと給電線間の、及び、ダイポールアンテナ間の干渉を考慮した、f0とf1の間の第3周波数帯域のみを通過させるフィルタBを用いてフィッティングを行った場合の結果であり、各到来時間は正弦関数で非常に良くフィッティングできている。このため、推定された受信波の到来方向は真の方向とほぼ一致し、受信波の到来方向の推定を精確に行うことができている。
【0065】
従って、本発明の受信波の到来方向の推定が可能な第3周波数帯域を有するダイポールアンテナを用いて電磁波を受信し、当該受信波のうち到来方向の推定が困難な第1及び第2周波数帯域の周波数成分を帯域通過フィルタにより通過させない処理を行うことにより、受信波の到来方向の推定を精確に行うことができる。
【0066】
以上、上述の実施形態は本発明の好適な実施形態の一例である。本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形実施が可能である。
【0067】
〈別実施形態〉
以下、本発明の別実施形態について説明する。
【0068】
〈1〉上述の本システム100は、送信アンテナ106を送信用の坑井101内に、受信アンテナ108を受信用の坑井102内に、夫々別々の坑井に挿入する構成であるが、送信アンテナ106と受信アンテナ108の双方とも同一の坑井内に挿入して使用することもでき、これにより不要な坑井を掘削する必要が無くなる。送信アンテナ106から放射され、地中内の亀裂、断層、地下水などにより反射された電磁波を受信用ダイポールアレイアンテナ108が受信する。受信用ダイポールアレイアンテナ108と送信アンテナ106の両方を同一坑井で深度方向に走査し、地中物体からの反射受信波の到来方向の推定を精確に行い、推定された受信波の到来方向と受信波の到来時刻との関係を解析することにより、地中の詳細な三次元位置情報を得ることができる。
【0069】
〈2〉また、上述の本システム100は、ベクトルネットワークアナライザ111が発生したステップ周波数連続波をダイポールアレイアンテナが受信し、ベクトルネットワークアナライザ111により得られる周波数領域のデータを直接解析し、受信波の到来方向の推定を行う構成であるが、所定の周波数特性を持つ送信パルスをダイポールアンテナが受信し、受信した時間領域の波形を解析することにより受信波の到来方向の推定を行うシステム構成としても良い。この場合、上記第3周波数帯域のみに周波数成分を持つ送信パルスを坑井101の送信アンテナ106から送信し、坑井102のダイポールアンテナ108が受信した時間領域の受信波形を解析することにより本発明の効果が得られる。
【0070】
〈3〉上述の本システム100では、ダイポールアンテナ毎の受信波形間の位相遅延を用いて受信波の到来方向の推定を行っているが、上記第3周波数帯域が高周波数帯域にあり、ダイポールアンテナ毎の受信波形間の位相差がπ以上ずれる場合には、この推定方法は適用できない。しかしながら、この場合であっても、当該第3周波数帯域のみを通過させるフィルタを用いて受信波形をフィルタ処理し、処理後の受信波形間の群遅延(時間領域で受信波形の包絡線を取り、当該包絡線が極大値を取る時刻の時間差)を求めることにより受信波の到来方向の推定を精確に行うことができる。
【0071】
〈4〉上述の実施形態において、給電線(中心導体柱)の端部にダイポールアンテナを配置したアレイアンテナを設計し、受信波の到来方向の推定を精確に行う方法を開示したが、図1の受信アンテナ108の構成に見られるような、給電線の端部と中央部に、上下二つのダイポールアレイアンテナを配置した場合についても、同様に受信波の到来方向の推定を精確に行うことができる。この場合、上下のアンテナ間の干渉が問題になるが、ダイポールアンテナ間の干渉は軸に垂直な方向で強く、軸方向では弱いため、上下のアンテナ間の間隔が開いているならば、上下のアレーアンテナ間の干渉は殆ど起こらず、上下のアレーアンテナ夫々について、独立にアンテナの設計を行うことができる。即ち、上側に設置されたアレーアンテナの干渉度I(f)及びPSRが生じる周波数帯域については図11(E)で、下側に設置されたアレーアンテナのそれは図11(A)で、夫々近似される。上下に二つのダイポールアレイアンテナを配置し、上下方向のダイポールアンテナ間の受信波の到来時間差を解析することにより、受信アンテナを坑井の深さ方向に移動させることなく、受信波の到来方向の方位角のみならず、受信波の到来方向の仰角についても精確に推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、入射電磁波の地中からの反射波を受信することにより、地中内の亀裂、断層、地下水などの位置及び形状を計測する三次元位置推定システム、及びこれに用いるアンテナ素子に利用可能である。
【符号の説明】
【0073】
100: 本発明に係る三次元位置推定システム
101,102: 坑井
103,107: FRP製ベッセル
106: 送信アンテナ
108: 受信アンテナ(ダイポールアレイアンテナ)
109: 電気/光変換ユニット
110: 方位計
111: ベクトルネットワークアナライザ
112: 電気/光変換部
113,119: アンプ
114: レーザダイオード
117: 光/電気変換部
118: フォトダイオード
120: パソコン
800: ダイポールアレイアンテナ
801a〜801d: アンテナ素子(ダイポールアンテナ)
802a〜802d: RFトランス
803a〜803d: 同軸ケーブル
804: 中心導体柱(給電線)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に掘削された坑井内に、
中心導体柱の外周に前記中心導体柱と平行な方向に伸びる複数のアンテナ素子が配置された、前記中心導体柱の長さよりも前記アンテナ素子の長さが短いダイポールアレイアンテナを設置し、
前記ダイポールアレイアンテナが受信した地中から到来する電磁波を前記アンテナ素子毎に解析し、前記電磁波の前記アンテナ素子間の遅延時間を求めることにより前記電磁波の到来方向の推定を行い、地中の三次元位置情報を得る三次元位置推定システムであって、
前記ダイポールアレイアンテナが受信した前記電磁波のうち、前記中心導体柱と前記アンテナ素子間の干渉の影響により受信波の到来方向の推定が困難な第1周波数帯域と、前記アンテナ素子間の共振の影響により受信波の到来方向の推定が困難な第2周波数帯域を帯域通過フィルタにより通過させず、受信波の到来方向の推定が可能な第3周波数帯域のみ通過させる処理を行った後、当該フィルタ処理後の時間領域の前記電磁波を前記アンテナ素子毎に解析することを特徴とする三次元位置推定システム。
【請求項2】
前記ダイポールアレイアンテナは、
前記中心導体柱に散乱され前記アンテナ素子に受信される散乱波の受信電圧と直接前記アンテナ素子に受信される受信電圧との比により表される干渉度I(f)が、周波数の増加に伴い、一旦極大値を取った後減少して−10dB以下となる最小の周波数で定義される、前記第1周波数帯域の上限周波数が、
PSR(Phase Sequence Resonance)における0次の振動に対応する電界強度が1次の振動に対応する電界強度と一致する周波数で定義される、前記第2周波数帯域の下限周波数よりも小さく、
前記ダイポールアレイアンテナが受信した前記電磁波のうち、周波数が前記上限周波数と前記下限周波数の間の帯域を前記第3周波数帯域とすることを特徴とする請求項1に記載の三次元位置推定システム。
【請求項3】
地中に掘削された坑井内に設置される、
中心導体柱の外周に、前記中心導体柱と平行な方向に伸びる複数のアンテナ素子が配置されたダイポールアレイアンテナであって、
前記ダイポールアレイアンテナは、
前記中心導体柱の長さよりも前記アンテナ素子の長さが短く、
前記中心導体柱と前記アンテナ素子間の干渉の影響により受信波の到来方向の推定が困難な第1周波数帯域と、前記アンテナ素子間の共振の影響により受信波の到来方向の推定が困難な第2周波数帯域と、受信波の到来方向の推定が可能な第3周波数帯域とを有することを特徴とするダイポールアレイアンテナ。
【請求項4】
前記中心導体柱に散乱され前記アンテナ素子に受信される散乱波の受信電圧と、直接前記アンテナ素子に受信される受信電圧との比により表される干渉度I(f)が、周波数の増加に伴い、一旦極大値を取った後減少して−10dB以下となる最小の周波数で定義される、前記第1周波数帯域の上限周波数が、
PSR(Phase Sequence Resonance)における0次の振動に対応する電界強度が1次の振動に対応する電界強度と一致する周波数で定義される、前記第2周波数帯域の下限周波数よりも小さいことを特徴とする請求項3に記載のダイポールアレイアンテナ。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のダイポールアレイアンテナが受信した地中から到来する電磁波のうち、前記第1周波数帯域と前記第2周波数帯域を帯域通過フィルタにより通過させず、前記第3周波数帯域のみを通過させた後、当該フィルタ処理後の時間領域の受信波形を解析することを特徴とする受信波の到来方向の推定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−164327(P2010−164327A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4685(P2009−4685)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(509013688)
【Fターム(参考)】