説明

不織布

【課題】伸長性に優れ、嵩高性に優れ、風合いが良好な不織布を提供すること。
【解決手段】2種以上の熱収縮性繊維を原料として用いた。該熱収縮性繊維のうちの1種は、偏芯の芯鞘構造を有する潜在捲縮性繊維である。該潜在捲縮性繊維の芯を構成する樹脂は、鞘を構成する樹脂よりも、その熱収縮率が大きいか又は融点が低いものである。熱収縮性繊維のうち、前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維の少なくとも1種を構成する樹脂の融点が、前記潜在捲縮性繊維に含まれる鞘を構成する樹脂の融点よりも低いことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜在捲縮性繊維を用いた不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、第1層とこれに隣接する第2層とを有し、第1層と第2層とが所定パターンの接合部によって部分的に接合されており、該接合部間で第1層が三次元的立体形状をなし、第2層がエラストマー的挙動を示す材料で構成されており、シート全体がエラストマー的挙動を示すと共に通気性を有する立体シート材料を提案した(特許文献1参照)。この立体シート材料は、その表面に多数の凹凸部を有している。そしてこの立体シート材料は、これを平面方向へ伸長させた場合の回復性及び厚み方向へ圧縮させたときの圧縮変形性が十分となる。この立体シート材料の伸長に対する回復性や、圧縮に対する変形性を高める目的で、該シート材料の第2層には、捲縮した状態の潜在捲縮性繊維が含まれている。
【0003】
潜在捲縮性繊維としては例えば、ポリプロピレンを第一成分とし、エチレン−プロピレンランダム共重合体及びエチレン−ブテン−プロピレン三元共重合体を第二成分とし、両成分がサイド・バイ・サイド型または芯鞘型の複合繊維を構成しているものが知られている(特許文献2参照)。この潜在捲縮性繊維は、加熱処理を施して捲縮を発現させると、嵩高で弾性回復に優れた性能を示すと、特許文献2には記載されている。
【0004】
しかし、この潜在捲縮性繊維を例えば前記の立体シート材料の第2層の構成繊維として用いた場合、下層である第2層の厚みが十分とは言えず、より嵩高に風合いを良くしたいという要求があった。下層の厚みが十分とならない原因の一つは、熱収縮性の大きい樹脂が繊維の表面にあることによる。具体的には、熱収縮処理工程において、外側の収縮性の大きい樹脂が内側に位置する様に捲縮することに起因して捩れの力が大きく作用し、比較的半径の小さい微細なコイル状捲縮を発現しやすいからである。また、融点が低い樹脂が外側になるため、隣接する繊維同士が熱融着し、半径の小さい微細なコイル状捲縮が発現し、繊維層の厚みが小さくなるからである。
【0005】
また本出願人は、熱収縮性繊維を含む第1繊維層と、非熱収縮性繊維からなる第2繊維層とが積層され、前記両繊維層が、熱融着によって部分的に形成された多数の熱融着部によって厚さ方向に一体化されており、前記熱融着部の間では、第1繊維層の収縮によって第2繊維層が突出して凸部を形成している立体シート材料であって、第1繊維層の最大収縮率発現温度が、第2繊維層中の前記非熱収縮性繊維の融点よりも低く、前記最大収縮率発現温度が130℃以下である立体シート材料を提案した(特許文献3参照)。なお立体シート材料にエラストマー的な性質を付与するため、該シート材料の第1繊維層には、熱収縮繊維として捲縮した状態の潜在捲縮性繊維を用いることが好ましく、潜在捲縮性繊維としては例えば、収縮率の異なる2種類の熱可塑性ポリマー材料を成分とする偏芯芯鞘型繊維又はサイド・バイ・サイド型複合繊維が挙げられる。
【0006】
前記の潜在捲縮性繊維中の第一成分と第二成分との間の相溶性が低い場合には、繊維の収縮中に両成分間で剥離が生じ、その剥離が起因して不織布の伸長性が低くなる。
【0007】
また、前記の潜在捲縮性繊維中の第一成分と第二成分との間の相溶性が低い場合には、融点が低く収縮率が大きい樹脂を芯部に用い、その周囲を融点が高く収縮率が小さい樹脂で取り囲むことで、繊維の収縮中に両成分間で剥離を防止することは出来るが、収縮率が大きい樹脂を芯部に用いることから前記潜在捲縮性繊維を用いた不織布の収縮率は低くなり、それに伴い伸長性が低くなるため、不織布の伸長性を良くしたいという要求があった。
【0008】
【特許文献1】特開2002−187228号公報
【特許文献2】特開平2−191720号公報
【特許文献3】特開2006−45724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、2種以上の熱収縮性繊維を原料として用いた不織布であって、該熱収縮性繊維のうちの1種は偏芯の芯鞘構造を有する潜在捲縮性繊維であって、
該繊維の芯を構成する樹脂は、鞘を構成する樹脂よりも、その熱収縮率が大きいか又は融点が低いものである不織布を提供することにより前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の不織布は、伸長性に優れ、嵩高性に優れ、風合いが良好となる。また、本発明の不織布は、嵩高で風合いが良く、外観が良好で、伸長性に優れる。更に、本発明の不織布の製造方法によれば、嵩高で風合いが良く、外観が良好で、伸長性に優れた不織布を効率的に製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
本発明の不織布は、2種以上の熱収縮性繊維を原料として用いている。熱収縮性繊維のうちの1種は偏芯の芯鞘構造を有する潜在捲縮性繊維であって、 該繊維の芯を構成する樹脂は、鞘を構成する樹脂よりも、その熱収縮率が大きいか又は融点が低いものである。つまり本発明の不織布は、該潜在捲縮性繊維と、該潜在捲縮性繊維とは異なる熱収縮性繊維とを原料として用いている。図1(a)には本発明に用いた潜在捲縮性繊維の断面構造が示されている。潜在捲縮性繊維は、それぞれ熱可塑性樹脂からなる芯成分及び鞘成分から構成される芯鞘型の複合繊維である。図1(a)に示すように、芯成分は繊維の芯部Cを構成している。一方、鞘成分は繊維の鞘部Sを構成している。芯部Cと鞘部Sとはその重心の位置がずれている。つまり図1(a)に示す複合繊維は偏芯の芯鞘型の繊維である。
【0013】
図1(a)に示すように、芯部Cは鞘部Sによって実質的に内包されている。従って繊維の表面には、芯部Cを構成する芯成分は露出していない。尤も、芯部Cを構成する芯成分が繊維の表面に露出していないことは本発明において必須のことではなく、芯部Cと鞘部Sとで実質的に芯鞘構造が形成されていれば、例えば図1(b)に示すように芯成分が繊維の表面に一部露出していてもよい。
【0014】
本発明に用いた潜在捲縮性繊維は、芯成分及び鞘成分の熱収縮率によって特徴付けられる。詳細には、芯成分の熱収縮率と鞘成分の熱収縮率とを比較すると、芯成分の熱収縮率の方が鞘成分の熱収縮率よりも大きくなっている。これに対して、従来の偏芯タイプの芯鞘型の潜在捲縮性繊維では、鞘成分の熱収縮率の方が芯成分の熱収縮率よりも大きくなっていた。つまり、本発明に用いた潜在捲縮性繊維は、芯成分と鞘成分の熱収縮率の大小関係が、従来の潜在捲縮性繊維と正反対になっている。このようにした理由は次の通りである。
【0015】
偏芯タイプの芯鞘型複合繊維は、芯成分と鞘成分との熱収縮性の差を利用して、繊維に三次元的なコイル状の捲縮を発現させている。従来は、潜在捲縮性繊維の鞘部に熱収縮性の大きい樹脂を用いることで、発現する捲縮を細かい形状とし、繊維の見掛け収縮率を大きくし、三次元的なコイル状の捲縮を発現させることで、潜在捲縮性繊維を用いた不織布の伸長性は大きくなると考えられてきた。ところが、芯成分と鞘成分との相溶性が低い場合には、熱収縮性の大きい樹脂を鞘部に用いると、捲縮時に両成分間で剥離が生じ、熱収縮性の大きい樹脂のみ直線状に収縮し、繊維長全体が三次元的なコイル状捲縮を発現しにくくなることが本発明者らの検討の結果判明した。特に、繊維がその長さ方向全体にわたって三次元的なコイル状捲縮を発現しない場合には、そのコイル状捲縮に由来する伸長性が発現しない。そこで本発明においては、熱収縮性の大きい樹脂を芯部に用いることで、実質的にほとんど熱収縮しない鞘成分の中で芯成分を収縮させることにより、三次元的なコイル状捲縮の発現時に、芯成分と鞘成分との剥離を防止し、繊維長全体にわたり十分な三次元的なコイル状捲縮が発現するようにしている。更に、この繊維の長さ方向全体に発現する捲縮のコイル形状が緩くなるようにしている。
【0016】
以上の説明から明らかなように、本発明に用いた潜在捲縮性繊維は、それを構成する芯成分と鞘成分との相溶性が低い場合に特にその効果が顕著になる。この観点から本発明においては、繊維中の芯成分と鞘成分との熱収縮性に十分な差があることを条件として、芯成分及び鞘成分としては相溶性の低い樹脂の組み合わせを用いることが好ましい。相溶性が低いとは、例えば溶解度パラメータSPの差が1.3(cal/cm31/2以下の樹脂の組み合わせをいう。そのような組み合わせの場合に本発明を用いると、捲縮時に芯成分と鞘成分とが剥離することが防止され、十分なコイル状捲縮が発現するという効果が一層顕著なものになる。
【0017】
熱収縮性に十分な差があり、且つ相溶性の低い樹脂の組み合わせとしては、例えば線状低密度ポリエチレン(LLDPE)とポリプロピレン(PP)との組み合わせ、LLDPEとポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。LLDPEとPPとの組み合わせの場合、前述の溶解度パラメータSPの差は、1.3(cal/cm31/2となる。
【0018】
本発明に用いた潜在捲縮性繊維において、繊維及び繊維を構成する芯成分及び鞘成分の熱収縮性の程度は、熱応力測定装置(カネボウエンジニアリング(株)社製)を用いて測定される。具体的には、110dtexの繊維束を用いて昇温速度1℃/secで加熱し、樹脂の収縮率を測定する。なお、繊維の熱収縮率については加熱温度が120℃の時のデータを表1に記載する。
【0019】
本発明に用いた潜在捲縮性繊維は、芯成分及び鞘成分の融点によっても特徴付けられる。詳細には、芯成分の融点と鞘成分の融点とを比較すると、芯成分の融点の方が鞘成分の融点よりも低くなっている。これに対して、従来の偏芯タイプの芯鞘型の潜在捲縮性繊維、例えば前記の特許文献1及び特許文献3記載の繊維では、鞘成分の融点の方が芯成分の融点よりも低くなっていた。つまり、本発明に用いた潜在捲縮性繊維は、芯成分と鞘成分の融点の高低関係が、従来の潜在捲縮性繊維と正反対になっている。このようにした理由は次の通りである。
【0020】
従来の偏芯タイプの芯鞘型複合繊維である潜在捲縮性繊維は、これに所定温度の熱を付与することでその構成樹脂の熱収縮率の差によって三次元的なコイル状捲縮を発現させるとともに、見掛けの繊維長(即ち、自由長の両末端間距離)を短くさせている。その温度(以下、熱収縮温度という)は一般に、鞘成分の樹脂の融点近傍の温度である。従って、従来の潜在捲縮性繊維を用いた不織布などの繊維集合体は、熱収縮処理を施すと、繊維集合体中の繊維の鞘部が軟化ないし溶融することによって、隣接する繊維同士が熱融着し、十分な三次元的なコイル状捲縮が発現していたとしても、そのコイル状捲縮に由来する伸長性が発現しない。また、捲縮の際に、繊維集合体中の繊維の鞘部が軟化ないし溶融することに起因して、芯成分と鞘成分との間で剥離が著しく起こり、繊維全体が三次元的なコイル形状を発現せず、そのコイル状捲縮に由来する伸長性が発現しない。とりわけ、芯成分と鞘成分との相溶性が低い場合には、繊維集合体中の繊維の鞘成分の融点近傍で熱収縮を起こさせると、芯成分と鞘成分との間で剥離が一層生じやすくなる。そこで本発明においては、融点の低い樹脂を芯部に用い、その周囲を融点の高い樹脂で取り囲むことで、熱収縮時に低融点樹脂が軟化ないし溶融して剥離が起こりやすい状態が生じても、低融点樹脂の周囲を取り囲む高融点樹脂によってその剥離を防止し、十分なコイル状捲縮が発現するようにしている。
【0021】
本発明に用いた潜在捲縮性繊維おいては、融点の低い樹脂を芯部に用い、その周囲を融点の高い樹脂で取り囲むことで、潜在捲縮性繊維の熱収縮温度を幅広く設定できるという利点もある。このことは、前記の潜在捲縮性繊維を用いる本発明の不織布の製造において、製造条件の自由度が増すという利点をもたらす。融点の低い樹脂を鞘部に用い、融点の高い樹脂を芯部に用いていた従来の潜在捲縮性繊維では、熱収縮温度を鞘部の融点以上にすると鞘部の樹脂の軟化ないし溶融が甚だしくなり、首尾良くコイル状捲縮を発現させることが容易ではなかった。
【0022】
芯成分の樹脂の融点と、鞘成分の樹脂の融点の差に特に制限はないが、捲縮の発現の高さや、繊維の紡糸のしやすさの点から、30〜135℃、特に45〜120℃であることが好ましい。
【0023】
芯成分及び鞘成分それぞれの融点は、示差走査熱量計DSC6200(セイコーインスツルメンツ株式会社製)を用いて測定される。具体的には、細かく裁断した繊維試料(サンプル質量1mg)の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、樹脂の融解ピーク温度を測定する。その融解ピーク温度を融点と定義する。
【0024】
なお、融点の低い樹脂の方が、熱収縮性が高い場合もある。従って本発明に用いた偏芯タイプの芯鞘型複合繊維からなる潜在捲縮性繊維においては、芯成分の熱収縮率が鞘成分の熱収縮率よりも高く、且つ芯成分の融点が鞘成分の融点よりも低いという実施形態を包含する。
【0025】
本発明に用いた潜在捲縮性繊維は、その収縮前は三次元的なコイル状捲縮が発現していない状態になっており、捲縮していてもその捲縮数(25.4mm当たりの山の数)が10〜20前後の二次元的な機械捲縮をごく僅かに有しているだけである。従って、通常の繊維と同様に取り扱うことが可能で、ウェブを形成させることが出来る。そして、熱収縮温度以上の熱が付与されることで収縮し三次元的なコイル状捲縮が発現する。捲縮の態様は、芯部Cと鞘部Sとの面積比や配置関係によって様々であるが、典型的な捲縮の態様はコイル状に三次元的に捲縮する態様である。本発明に用いた潜在捲縮性繊維は、その収縮後は捲縮数が40〜100前後の三次元的なコイル状捲縮を発現する。
【0026】
本発明に用いた潜在捲縮性繊維における芯部Cと鞘部Sとの比率(繊維断面の面積比、前者:後者)は3:7〜7:3、特に4:6〜6:4であることが好ましい。この範囲内であれば繊維の力学特性が十分となり、実用に耐え得る繊維となる。また芯部Cと鞘部Sの剥離を生じることなく、コイル状捲縮を発現させることが可能になる。
【0027】
本発明に用いた潜在捲縮性繊維は、二系統の押出装置を備えた紡糸装置を用い製造される。潜在捲縮性繊維の太さは、その具体的用途に応じて適切な値が選択される。一般的な範囲として、捲縮が発現する前の太さが1.0〜10dtex、特に1.7〜8.0dtexであることが、繊維の紡糸性やコスト、カード機通過性、生産性、コスト等の点から好ましい。
【0028】
本発明に用いた潜在捲縮性繊維は、公知の溶融紡糸法によって製造することができる。紡糸装置は図2に示すように二系統の押出装置1,2及び紡糸口金3を備えている。押出機1A,2A及びギアポンプ1B,2Bによって溶融された各樹脂成分は、吐出量(体積)を制御され、紡糸口金内で合流しノズルから吐出される。紡糸口金3の形状は、目的とする複合繊維の形態に応じて適切なものが選択される。紡糸口金Bの下には巻取装置4が設置されており、ノズルから吐出された溶融樹脂が所定速度で引き取られる。
【0029】
本発明に用いた潜在捲縮性繊維は、その熱収縮前は通常の繊維と同様に取り扱うことができ、またその熱収縮後は所定形状の捲縮が発現することから、この性質を利用して、例えば熱収縮前の潜在捲縮性繊維を用いて不織布を製造し、不織布の製造中又は製造後に熱を付与して潜在捲縮性繊維に捲縮を発現させ収縮させることで、該不織布に種々の特性を付与することができる。
【0030】
本発明の不織布は、芯を構成する樹脂が鞘を構成する樹脂よりも熱収縮率が大きいか又は融点が低い偏芯の芯鞘構造を有する潜在捲縮性繊維と、該潜在捲縮性繊維とは異なる熱収縮性繊維とを原料として用いており、該不織布自体が伸長性を有している。ここで、本明細書において、本発明の不織布の伸長性は、引張・圧縮試験機(株式会社エー・アンド・デイ、RTA−100)を用い引張モードで測定される。先ず、不織布10を80mm×25mmの大きさに裁断し試験片を採取する。試験片を引張・圧縮試験機に装着されたエアーチャック間に初期試料長(チャック間距離)を30mmでセットし、引張・圧縮試験機のロードセル(定格出力5kg)に取り付けられたチャックを300mm/分の速度で上昇させ、試験片を伸長させる。この一連の操作によって、不織布の長手方向(MD)及び幅方向(CD)における100gf引張伸度を求める。なお、本発明の不織布は、長手方向(MD)及び幅方向(CD)の伸度が15%以上を伸長性とする。
【0031】
本発明の不織布に用いた潜在捲縮性繊維を構成する鞘成分は、該潜在捲縮性繊維と組み合わせて用いられる熱収縮性繊維のうちの少なくとも1種の熱収縮開始温度以下では、実質的に軟化ないし溶融しない。熱収縮開始温度は一般に、繊維を構成する樹脂の融点近傍の温度である。本発明の不織布においては、前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維の少なくとも1種を構成する樹脂の融点が、該潜在捲縮性繊維に含まれる鞘を構成する樹脂の融点よりも低いことが好ましい。これによって隣接する繊維同士が熱融着するのを防いでいる。融点が低いとは、例えば融点の差が45℃以上の樹脂の組み合わせをいう。そのような組み合わせの場合に本発明を用いると、熱収縮時に前記潜在捲縮性繊維と、該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮繊維とが熱融着することが防止され、該潜在捲縮性繊維に十分なコイル状捲縮が発現するという効果が一層顕著なものになる。即ち、隣接する繊維同士が熱融着するのを防いでいるため、前記潜在捲縮性繊維に発現したコイル状捲縮に由来する伸長性を阻害しないようにしている。
【0032】
前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維の少なくとも1種は、その熱収縮率が、該潜在捲縮性繊維の熱収縮率よりも大きい性質を持つ繊維であることが好ましい。本発明の不織布の製造において、熱収縮工程の際、前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維が、該潜在捲縮性繊維の収縮を助長するからである。熱収縮率が大きいとは、例えば熱収縮率の差が48%以上の繊維の組み合わせをいう。そのような組み合わせの場合に本発明を用いると、熱収縮時に前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮繊維が、該潜在捲縮性繊維の収縮を助長するという効果が一層顕著なものになる。
【0033】
前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維は、繊維を構成する樹脂の融点近傍で良く収縮する性質を持つ繊維である。該熱収縮性繊維として例えば、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)が挙げられる。またその他の熱収縮性繊維としては、収縮率の異なる2種類の熱可塑性ポリマー材料を成分とするサイド・バイ・サイド型複合繊維が挙げられる。例えばエチレン−プロピレンランダム共重合体と線状低密度ポリエチレン(LLDPE)との組み合わせ、高密度ポリエチレン(HDPE)と線状低密度ポリエチレン(LLDPE)等が挙げられる。なお、本発明の不織布において、前記潜在捲縮性繊維に発現したコイル状捲縮に由来する伸長性を阻害しないようにするためには、前記潜在捲縮性以外の熱収縮性繊維の少なくとも1種を構成する樹脂の融点が、該潜在捲縮性繊維に含まれる鞘樹脂の融点よりも低いことが好ましい。これによって熱収縮時に前記潜在捲縮性繊維と、該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮繊維とが熱融着することが防止される。また、本発明の不織布において、前記潜在捲縮性以外の熱収縮性繊維の少なくとも1種は、該潜在捲縮性繊維よりも熱収縮率が大きい性質を持つことが好ましい。これによって、熱収縮工程の際、前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維が、該潜在捲縮性繊維の収縮を助長するようになる。また、本発明の不織布において、前記潜在捲縮性繊維に発現したコイル状捲縮に由来する伸長性を阻害しないようにするためには、前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維の少なくとも1種を構成する樹脂が、該潜在捲縮性繊維に含まれる鞘樹脂と相溶性が低いことが好ましい。これによって、熱収縮時に前記潜在捲縮性繊維と該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮繊維とが熱融着することが防止される。
【0034】
以上の観点から、本発明において用いられる、前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維としては、該熱収縮性繊維のうちの少なくとも1種を構成する樹脂と該潜在捲縮性繊維に含まれる鞘を構成する樹脂との融点に十分な差があり且つ相溶性が低いこと、及び該熱収縮性繊維のうちの少なくとも1種と該潜在捲縮性繊維との熱収縮率に十分な差があることを条件として、例えば該熱収縮性繊維のうちの少なくとも1種として線状低密度ポリエチレン(LLDPE)で構成された繊維を用い、潜在捲縮性繊維は芯樹脂がLLDPE、鞘樹脂がポリプロピレン(PP)で構成された繊維の組み合わせを用いることが好ましい。この繊維の組み合わせの場合、前述の融点の差は45℃、溶解度パラメータSPの差は1.3(cal/cm31/2、繊維の熱収縮率の差は48.3%となる。
【0035】
前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維のうち最も好ましいものは線状低密度ポリエチレン(LLDPE)で構成された単一繊維である。この繊維は、LLDPE樹脂の融点近傍で良く収縮する性質を持つ繊維である。
【0036】
前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維は、押出装置を備えた紡糸装置を用い製造される。該熱収縮性繊維の太さは、その具体的用途に応じて適切な値が選択される。一般的な範囲として、捲縮が発現する前の太さが1.0〜10dtex、特に1.7〜8.0dtexであることが、繊維の紡糸性やコスト、カード機通過性、生産性、コスト等の点から好ましい。
【0037】
前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維は、公知の溶融紡糸法によって製造することができる。紡糸装置は押出装置及び紡糸口金を備えている。押出機及びギアポンプによって溶融された樹脂成分は、吐出量(体積)を制御され、紡糸口金内で合流しノズルから吐出される。紡糸口金の形状は、目的とする複合繊維の形態に応じて適切なものが選択される。紡糸口金の直下には巻取装置が設置されており、ノズルから吐出された溶融樹脂が所定速度で引き取られる。
【0038】
前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維は、その熱収縮前は通常の繊維と同様に取り扱うことができる。この熱で収縮する性質を利用して、例えば熱収縮前の該熱収縮性繊維を原料として用いて不織布を製造し、不織布の製造中又は製造後に熱を付与して該熱収縮性繊維を収縮させることで、該不織布に種々の特性を付与することができる。
【0039】
前記潜在捲縮性繊維は熱収縮工程において緩やかなコイル状捲縮が発現しやすいので、この繊維を用いた本発明の不織布はその厚みが大きくなる。
【0040】
本発明の不織布は、前記潜在捲縮性繊維の熱収縮工程による捲縮に加え、熱収縮工程によって該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維が収縮することにより、該潜在捲縮性繊維の捲縮発現性が助長され、不織布全体が収縮するため、伸長性に優れる。更に、前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維として、該潜在捲縮性繊維よりも熱収縮率が大きい繊維を用いることにより、熱収縮工程による不織布全体の収縮が助長されて、一層伸長性に優れた不織布を得ることができる。即ち、本発明の不織布においては、前記潜在捲縮性繊維及び前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維が混合状態とされており、不織布の製造工程において、前記熱収縮性繊維の一部がコイル状捲縮を発現した前記潜在捲縮性繊維のコイル構造内に取り込まれる。コイル構造内に前記熱収縮性繊維が取り込まれるため、前記潜在捲縮性繊維及び不織布全体が更に収縮することによって、更に不織布が伸長性を示す。
【0041】
前記潜在捲縮性繊維間の自由度が高くなり、厚さ方向の圧縮回復性及び平面方向の伸長性が向上する観点から、該潜在捲縮性繊維及び該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維が混合状態とされており、隣接する繊維同士が熱融着することなく、絡み合いによってシート化されていることが好ましい。不織布の伸長性の観点から、熱収縮性繊維のうち前記潜在捲縮性繊維以外の繊維の配合量は、本発明の不織布全体に対して5−50重量%、特に10−30重量%であることが好ましい。また前記潜在捲縮性繊維の配合量は、本発明の不織布全体に対して50−95重量%、特に70−90重量%であることが好ましい。
【0042】
本発明の不織布は前記潜在捲縮性繊維及び該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維のみから構成されていてもよく、或いはそれ以外の他の繊維を混綿していてもよい。他の繊維としては、例えば通常の熱可塑性繊維や、レーヨン等の再生繊維、コットン等の天然繊維が挙げられる。これらの付加的な繊維が本発明の不織布に含まれている場合には、該繊維の配合量は、不織布全体に対して5−50重量%、特に10−30重量%であることが好ましい。
【0043】
本発明の不織布においては、前記潜在捲縮性繊維はその捲縮が発現した状態になっている。同様に、前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維は、本発明の不織布中において、収縮した状態になっている。
【0044】
本発明の不織布において、その構成繊維は、構成繊維どうしが交点において接合されているか、又は接合されていない状態になっている。交点において繊維どうしが接合されている場合、その接合様式としては、例えばエアスルー法による熱融着や、接着剤による接着などが挙げられる。
【0045】
本発明の不織布の風合い及びクッション性の観点から、不織布の見掛け厚みは0.5〜2.0mm、特に1.4〜1.6mmであることが好ましい。見掛け厚みの測定方法は、デジタルHFマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製、VH−8000)を用いて、不織布の切断面の拡大写真を得る。この切断面の拡大写真にスケールを合わせ、不織布の厚みを測定し、これを不織布の見掛け厚みとする。
【0046】
具体的な用途にもよるが、本発明の不織布は、その坪量が20〜70g/m2、特に60〜65g/m2であることが好ましい。
【0047】
本発明の不織布は以下に述べる方法で好適に製造される。先ず、繊維集合体を製造する。かかる繊維集合体としては、例えばウェブや不織布を用いることができる。不織布は、例えばエアスルー法、ヒートロール法(熱エンボス法)、エアレイド法、メルトブローン法などによって製造される。ウェブは例えばカード機によって製造される。特に、本発明の不織布を製造する際は、繊維集合体としてウェブを用いることが好ましく、このウェブには、前記潜在捲縮性繊維及び該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維が含まれている。
【0048】
次いで、繊維集合体に所定のパターンを施す。所定のパターンとして、例えば、熱エンボス又は超音波エンボスにより形成された接合部で構成されるパターンが好ましい。接合部は、互いに独立した散点状のものであっても良いし、直線状や曲線状(連続波形等を含む)、格子状、ジグザグ形状等であっても良い。接合部を散点状に配置する場合の各接合部の形状は、円形状、三角形状、四角形状等、任意の形状とすることができる。
【0049】
次いで、所定のパターンを施した繊維集合体に熱を付与し、この繊維集合体に含まれる前記潜在捲縮性繊維に捲縮を発現させ、且つ該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維を収縮させることで繊維集合体を収縮させる。前記潜在捲縮性繊維の捲縮及び前記熱収縮性繊維の収縮によって、接合部間に位置する繊維集合体の構成繊維が収縮し繊維密度が高くなる。
【0050】
本発明の不織布は単層構造とすることができるが、これに限られない。例えば不織布を2層以上の多層構造とすることもできる。不織布を2層以上の多層構造とする場合には、少なくとも最外層に前記潜在捲縮性繊維及び該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維が含まれていることが、滑らかさの一層の向上の点から好ましい。
【0051】
例えば図3(a)及び(b)には、2層構造を有する本発明の不織布の一例が模式的に示されている。不織布10は、一方の面を含む第1繊維層11と、他方の面を含む第2繊維層12とを有する。第1繊維層11及び第2繊維層12は、それぞれ繊維集合体からなる。そして、第2繊維層12の原料として2種以上の熱収縮性繊維が用いられ、該熱収縮性繊維のうちの1種として前記潜在捲縮性繊維が用いられている。第2繊維層12において、前記潜在捲縮性繊維はその捲縮が発現した状態になっている。第1繊維層11及び第2繊維層12は、互いに積層されて部分的に接合されている。第1繊維層11と第2繊維層12との接合部13は、熱及び/又は圧力の作用によって図示のように圧密化されて不織布10の他の部位よりも厚みが小さくなっている。これによって第1層11側には、所定のパターンで分散配置された多数の凸部15と、接合部13の位置に形成された多数の凹部14とが存在しており、これらの凸部15及び凹部14により不織布10の第1繊維層11の表面に凹凸形状が形成されている。
【0052】
第1繊維層11及び第2繊維層12の構成繊維は、その交点において接合されているか、又は接合されていない状態になっている。交点において繊維どうしが接合されている場合、その接合様式としては、例えばエアスルー法による熱融着や、接着剤による接着などが挙げられる。
【0053】
不織布10においては、第2繊維層12よりも第1繊維層11の方が、密度(繊維密度)が低くなっていることが好ましい。つまり、第2繊維層12よりも第1繊維層11の方が疎な構造になっていることが好ましい。これによって、第1繊維層11の側に形成されている凸部15が嵩高なものとなり、不織布10全体としてのクッション性が良好になり、風合いが向上する。また例えば、不織布10を吸収性物品の表面シートとして用い、且つ第1繊維層11を肌当接面側に配置した場合、表面シート上に排出された液が、第1繊維層11内に素早く吸収され、しかも第1繊維層11内に吸収された液が疎密勾配によりスムーズに第2繊維層12に移行するので、液が表面シートの表面に残ることに起因するむれの発生、痒みやかぶれ、不快感等を効果的に防止することができる。
【0054】
不織布10の風合い及びクッション性の観点から、第1繊維層11の見掛け厚みは、0.5mm〜2.0mm、特に1.0mm〜2.0mmであることが好ましい。第2繊維層12の見掛け厚みは、0.5〜2.0mm、特に0.7〜1.0mmであることが好ましい。見掛け厚みの測定方法は、不織布10において、繊維配向方向(不織布の製造時の流れ方向)に平行で且つ接合部13を通る線で不織布10の切断面を作る。デジタルHFマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製、VH−8000)を用いて、不織布10の切断面の拡大写真を得る。この切断面の拡大写真にスケールを合わせ、第1繊維層部及び第2繊維層部の厚みを測定し、これをそれぞれ第1繊維層11及び第2繊維層12の見掛け厚みとする。
【0055】
具体的な用途にもよるが、不織布10は、その坪量が40〜110g/m2、特に50〜90g/m2であることが好ましい。不織布10を構成する各層に関しては、第1繊維層11の坪量は20〜55g/m2、特に25〜45g/m2であることが好ましい。第2繊維層12の坪量は20〜55g/m2、特に25〜45g/m2であることが好ましい。
【0056】
不織布10は、これを例えば生理用ナプキンに用いられるウィング部の用途として用いることができる。通常、生理用ナプキンにおいては、ショーツへの固定による湾曲や着用中の動きによって様々な歪みが発生する。特にウィング部を有する生理用ナプキンにおいては、この歪みがウィング部に強く発生するため、ショーツへのフィット性の低下の原因となる。不織布10をウィング部に用いた場合、その不織布の伸長性を示す低荷重時(100gf荷重)引張伸度が、不織布10の長手方向(MD)において、15%以上であることがショーツへのフィット性の観点から好ましい。
【0057】
不織布10は、その第2繊維層12の原料として、上述した潜在捲縮性繊維及び該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維が用いられ、それによって伸長性を有するため、不織布10を生理用ナプキンのウィング部に用いた場合、ショーツに対する生理用ナプキンのフィット性が向上し、歪みやヨレが発生しにくくなるため、液漏れの原因となる着用者(装着者)と生理用ナプキンとの隙間の発生を防ぐことが出来る。なお、第2繊維層12に、通常の繊維(つまり熱収縮性を有しない繊維)を含有させることは何ら妨げられない。
【0058】
一方、第1繊維層11の構成繊維としては、例えば通常の熱可塑性繊維や、レーヨン等の再生繊維、コットン等の天然繊維が挙げられる。特に好ましい繊維は、同芯の芯鞘型の熱融着性繊維である。また、第1繊維層11の原料として、第2繊維層12の原料として用いられる前記潜在捲縮性繊維と同種又は異種の潜在捲縮捲縮性繊維を用いてもよい。
【0059】
図3に示す不織布10は以下に述べる方法で好適に製造される。先ず、第1繊維層11及び第2繊維層12を構成する繊維集合体をそれぞれ製造する。かかる繊維集合体としては、例えばウェブや不織布を用いることができる。不織布は、例えばエアスルー法、ヒートロール法(熱エンボス法)、エアレイド法、メルトブローン法などによって製造される。ウェブは例えばカード機によって製造される。特に、第1繊維層11を構成する繊維集合体として不織布を用い、第2繊維層12を構成する繊維集合体としてウェブを用いることが好ましい。第2繊維層12を構成するウェブには、前記潜在捲縮性繊維及び該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維が含まれている。
【0060】
次いで、第2繊維層12を構成する繊維集合体上に、第1繊維層11を構成する繊維集合体を重ね、これらを所定のパターンで部分的に接合する。両者を接合する方法は、少なくとも第1繊維層11の厚みが他の部位よりも減少した接合部13を形成できる限り各種の方法を用いることができる。例えば、熱エンボス又は超音波エンボスが好ましい。接合部13は、図3に示すように、互いに独立した散点状のものであっても良いし、直線状や曲線状(連続波形等を含む)、格子状、ジグザグ形状等であっても良い。接合部13を散点状に配置する場合の各接合部の形状は、円形状、三角形状、四角形状等、任意の形状とすることができる。
【0061】
接合された第1層11と第2層12に対して、熱を付与し、第2繊維層12に含まれる前記潜在捲縮性繊維に捲縮を発現させ、且つ該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維を収縮させることで第2繊維層12を収縮させる。熱の付与は、第2繊維層12に含まれる熱収縮性繊維(つまり、前記潜在捲縮性繊維及び該潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維)が熱収縮を開始する温度以上で行う。前記潜在捲縮性繊維の捲縮及び前記熱収縮性繊維の収縮によって、接合部13間に位置する第2繊維層12の構成繊維が収縮し、第2繊維層12の繊維密度が高くなる。この構成繊維の収縮に伴い、接合部13間に位置する第1捲縮繊維層11の構成繊維は、平面方向への行き場を失い厚み方向へ移動する。これによって、接合部13間が隆起して、繊維密度の低い嵩高な凸部15が形成される。また凸部15間、即ち接合部13の位置に、繊維密度の高い凹部が形成される。このようにして、第1繊維層側の表面が凹凸形状となっており、且つ第1繊維層11側から第2繊維層12側に向けて繊維密度が高くなった構造の不織布10が得られる。このような不織布の製造方法の詳細は、例えば本出願人の先の出願に係る特開2002−187228号公報や特開2004−202890号公報に記載されている。
【0062】
本発明に用いた潜在捲縮性繊維の収縮の際には、芯成分及び鞘成分として、前述の熱収縮率及び/又は融点を有する樹脂の組み合わせが用いられているので、これらの成分が剥離することが防止される。その結果、第2繊維層12の収縮が十分に行われ、繊維密度の低い嵩高な凸部15が容易に形成される。また、前記潜在捲縮性繊維の捲縮に起因して、第2繊維層に十分な伸長性が付与される。
【0063】
このようにして得られた不織布10は、先に述べた通り、生理用ナプキンに用いられるウィング部だけでなく、例えば生理用ナプキンやパンティライナ、使い捨ておむつなどの各種吸収性物品の表面シート、パンティライナなどに用いられるウィング部、外科用衣類、清掃シート等の各種の用途に用いることができる。不織布10を、特に吸収性物品の表面シート及びウィング部として用いると、肌触りが良好で装着感に優れた吸収性物品を得ることができる。不織布10を表面シート及びウィング部として用いる場合には、第1層側が、使用者の肌に接するように配されることが、肌触りを一層良好にする観点から好ましい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0065】
〔実施例1及び比較例1〜3〕
二系統の押出装置を備えた紡糸装置を用いて偏芯した芯鞘型の複合繊維からなる潜在捲縮性繊維を製造した。この潜在捲縮性繊維における芯部と鞘部の面積比は5:5であった。繊維径は2.3dtexであった。この繊維を51mmの短繊維に切断した。また、実施例1のみに用いた単一繊維からなる熱収縮性繊維の繊維径は2.3dtexであった。この繊維を51mmの短繊維に切断した。繊維の詳細は表1に示す通りである。表1に示した繊維を用い、以下の(1)−(3)の方法で、図3に示す2層構造の不織布を製造した。
【0066】
(1)第1繊維層の製造
表1に示す繊維(繊維長51mm)を原料としてカード法によってウェブを製造した。この繊維ウェブにエアスルー法により温度130℃−140℃で熱処理を施し、不織布を形成した。得られた不織布を第1繊維層として用いた。
【0067】
(2)第2繊維層の製造
実施例1では、表1に示す潜在捲縮性繊維及び熱収縮性繊維(繊維長51mm)を原料としてカード法によって坪量20g/m2の繊維ウェブを製造した。これを第2繊維層として用いた。また比較例1〜3では、表1に示す潜在捲縮性繊維(繊維長51mm)を原料として用いた以外は実施例1と同様にして第2層を製造した。
【0068】
(3)不織布の製造
第1繊維層と第2繊維層とを重ね合わせ、凹凸ロールと平滑ロールとの組み合わせからなる熱エンボス装置に通し、両繊維層を部分的に接合し積層体を得た。エンボスによる各接合部の形状は直径2mmの円形であり、エンボスパターンは図3(a)に示す通りであった。長手方向及び幅方向に隣接する各接合部の中心間距離は7mmであった。熱風炉において積層体に表1に示す温度の熱風を5〜10秒間エアスルー方式で吹き付けて熱収縮処理を行った。これによって第2繊維層に含まれる潜在捲縮性繊維及び熱収縮繊維を収縮させ、各繊維層をその面内方向に収縮させた。その結果、第1繊維層においては接合点間において凸部が多数形成された。熱収縮処理中、積層体の長手方向及び幅方向を把持してその収縮を長手方向及び幅方向ともに70%に規制し、収縮後の面積が収縮前の面積の49%になるようにした。このようにして得られた不織布はその坪量が表1に示す通りであった。
【0069】
〔評価〕
このようにして得られた不織布について、第2繊維層に含まれる繊維の捲縮状態を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。また、芯成分と鞘成分との剥離の有無を観察した。更に、不織布の長手方向(MD)及び幅方向(CD)について100gf引張伸度を以下の方法で測定し、また不織布の断面を顕微鏡観察し、第1繊維層及び第2繊維層の見掛け厚みを先に述べた方法で測定した。これらの結果を表1に示す。更に、実施例1及び比較例1〜3で得られた不織布における第2繊維層の走査型電子顕微鏡写真像を図4(a)〜(d)に示す。同図中、図4(a)が実施例1で得られた不織布についてのものであり、図4(b)〜(d)が比較例1〜3で得られた不織布についてのものである。
【0070】
〔100gf引張伸度の測定方法〕
引張・圧縮試験機(株式会社エー・アンド・デイ、RTA−100)を用い引張モードで測定した。先ず、不織布を80mm×25mmの大きさに裁断し試験片を採取する。試験片を引張・圧縮試験機に装着されたエアーチャック間に初期試料長(チャック間距離)を30mmでセットし、引張・圧縮試験機のロードセル(定格出力5kg)に取り付けられたチャックを300mm/分の速度で上昇させ、試験片を伸長させる。この一連の操作によって、不織布の長手方向(MD)及び幅方向(CD)における100gf引張伸度を求める。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1の不織布は比較例1及び2の不織布に比べて、第2繊維層の厚みが大きいことが判る。また、表1及び図4に示す結果から明らかなように、実施例1並びに比較例1〜3では、潜在捲縮性繊維に発現したコイル状捲縮の程度が相違することが判る。それによって、表1に示す結果から明らかなように、不織布の伸長性が異なる。即ち、潜在捲縮性繊維の剥離の有無及び不織布の収縮率に起因して、実施例1の不織布は比較例1〜3の不織布に比べて伸長性が高くなる。
【0073】
〔実施例2及び比較例4〜6〕
二系統の押出装置を備えた紡糸装置を用いて偏芯した芯鞘型の複合繊維からなる潜在捲縮性繊維を製造した。この潜在捲縮性繊維における芯部と鞘部の面積比は5:5であった。繊維径は2.3dtexであった。この繊維を51mmの短繊維に切断した。また、実施例2のみに用いた単一繊維からなる熱収縮性繊維の繊維径は2.3dtexであった。この繊維を51mmの短繊維に切断した。繊維の詳細は表2に示す通りである。表2に示した繊維を用い、以下の方法で、単層構造の不織布を製造した。
【0074】
表2に示した繊維を原料として用い、カード法によって坪量20g/m2の繊維ウェブを製造した。超音波エンボス法によってこの繊維ウェブにエンボス加工を施した。エンボスによる各接合部の形状は直径2mmの円形であり、エンボスパターンは図3(a)に示す通りであった。長手方向及び幅方向に隣接する各接合部の中心間距離は7mmであった。エンボス加工が施されたウェブを熱風炉に入れ、表2に示す温度の熱風を5〜10秒間エアスルー方式で吹き付けて熱収縮処理を行った。これによってウェブに含まれる潜在捲縮性繊維を捲縮させてウェブをその面内方向に収縮させた。熱収縮処理中、ウェブの長手方向及び幅方向を把持してその収縮を長手方向及び幅方向ともに70%に規制し、収縮後の面積が収縮前の面積の49%になるようにした。このようにして得られた不織布は単層構造のものであり、その坪量が表2に示す通りであった。
【0075】
〔評価〕
このようにして得られた単層構造の不織布について、実施例1等と同様にして繊維の捲縮状態及び剥離の有無を観察し、また引張伸度(MDのみ)を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示す結果から明らかなように、実施例2の不織布は比較例4〜6の不織布に比べて、繊維層の厚みが大きいことが判る。また、潜在捲縮性繊維に発現したコイル状捲縮の程度が相違することによって、表2に示す結果から明らかなように、不織布の伸長性が異なる。即ち、潜在捲縮性繊維の剥離の有無に起因して、実施例2の不織布は比較例5の不織布に比べて伸長性が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1(a)及び(b)はそれぞれ本発明に用いた潜在捲縮性繊維の断面構造を示す模式図である。
【図2】図2は二系統の押出装置及び紡糸口金を備えた紡糸装置である。
【図3】図3(a)は本発明を用いた2層構造の不織布を示す斜視図であり、図3(b)は図3(a)における厚さ方向の断面図である。
【図4】図4(a)ないし(d)は不織布の第2繊維層の走査型電子顕微鏡写真であり、実施例1で得られた写真を図4(a)に、比較例1〜3で得られた写真をそれぞれ図4(b)〜(d)に示す。
【符号の説明】
【0079】
C 芯部
S 鞘部
10 不織布
11 第1繊維層
12 第2繊維層
13 接合部
14 凹部
15 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の熱収縮性繊維を原料として用いた不織布であって、該熱収縮性繊維のうちの1種は偏芯の芯鞘構造を有する潜在捲縮性繊維であって、
該繊維の芯を構成する樹脂は、鞘を構成する樹脂よりも、その熱収縮率が大きいか又は融点が低いものである不織布。
【請求項2】
前記熱収縮性繊維のうち、前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維の少なくとも1種を構成する樹脂の融点が、前記潜在捲縮性繊維に含まれる鞘を構成する樹脂の融点よりも低い請求項1記載の不織布。
【請求項3】
前記熱収縮性繊維のうち、前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維の少なくとも1種の熱収縮率が、前記潜在捲縮性繊維の熱収縮率よりも大きい請求項1又は2記載の不織布。
【請求項4】
前記熱収縮性繊維のうち、前記潜在捲縮性繊維以外の熱収縮性繊維の少なくとも1種が、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)からなる請求項1ないし3のいずれかに記載の不織布。
【請求項5】
一方の面を含む第1繊維層と、他方の面を含む第2繊維層とを有し、両層が部分的に接合されて第1繊維層側に多数の凸部及び凹部が形成されており、第1繊維層の原料として非熱収縮繊維を用い、第2繊維層の原料として2種以上の熱収縮性繊維を用い、該熱収縮性繊維のうちの1種として前記潜在捲縮性繊維を用いた請求項1ないし4のいずれかに記載の不織布。
【請求項6】
請求項5記載の不織布の製造方法であって、第1及び第2繊維層を所定のパターンで部分的に接合し、次いで第2繊維層を構成する繊維が熱収縮を開始する温度以上で熱処理を施し、第2繊維層を熱収縮させ、第1繊維層側に多数の凸部及び凹部を形成させる不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−144321(P2008−144321A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334913(P2006−334913)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】