説明

並列チューブ集合体の製造方法

【課題】チューブの初期変形の少ない、チューブを並列に並べて一体とする並列チューブ集合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】高分子材料で形成されたチューブ10を少なくとも2本並行に並べる工程と、並行に並べられたチューブ10同士が接触する箇所に熱風を吹き付けて局所的に加熱し、チューブ10同士を熱溶着する工程とを備える並列チューブ集合体の製造方法。チューブ同士が接触する箇所に熱風を吹き付けて局所的に加熱し、チューブ同士を熱溶着するので、熱溶着の際の加熱の影響を受ける箇所が小さくなり、チューブの断面の変形を抑えて熱溶着することができる。さらに、熱溶着されたチューブ10を加温して熱固定する工程を備えることにより、並列チューブ集合体の変形を小さく抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブを並行に並べて一体とした並列チューブ集合体の製造方法に関し、特に、インクが詰まりにくいチューブを並べた並列チューブ集合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
業務用の大型インクジェットプリンタにおいては、インクタンクからインクチューブを用いてインクジェットヘッドへインクを供給している。印刷を停止しているときにもインクチューブ中にインクは残留し、このインクから溶媒や水分が蒸発すると、インクの濃度が濃くなり、粘性が高くなって、インクの詰まり等を生ずることがある。そこで、インクチューブには、ガスバリア性あるいは水蒸気バリア性が要求される。また、インクチューブにインクが染みないこと、すなわち耐着色性も要求される。さらに、印刷時のインクジェットヘッドの動きの抵抗とならないように、剛性が小さいことも要求される。そこで、内層および外層の材料にポリエチレンを用い、中間層にエチレンビニルアルコール共重合体もしくはポリ塩化ビニリデンを用いたインクチューブが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−300652号公報(第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、カラーインクジェットプリンタでは、色毎にインクタンクとインクジェットヘッドとインクチューブとを備え、複数のインクチューブがプリンタ内で異なる動きをする。複数のインクチューブがそれぞれ異なる動きをすると、インクチューブ同士でこすれて表面を損傷したり、インクチューブ同士が絡んで動きを拘束し、ひいてはインクジェットヘッドの動きに対し大きな抵抗となったりする可能性がある。そこで、複数本のチューブを一つにまとめることが要求されるが、まとめるのに接着剤等を用いると、インクチューブの剛性が高くなりインクジェットヘッドの動きの抵抗が大きくなるという問題が生じ、また、インクチューブに変形を加えると、インクチューブが全体として曲がった状態(カールともいう)になり、あるいは、インクチューブの断面がインクの流動に影響を及ぼす程度に変形してしまうという問題が生ずることが懸念される。そこで本発明は、チューブの初期変形の少ない、チューブを並行に並べて一体とする並列チューブ集合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る並列チューブ集合体の製造方法は、例えば図1および図6に示すように、高分子材料で形成されたチューブ10を、少なくとも2本並行に並べる工程(ステップS20)と;並行に並べられたチューブ10同士が接触する箇所に熱風を吹き付けて局所的に加熱し、チューブ10同士を熱溶着する工程(ステップS30)とを備える。
【0005】
このように構成すると、チューブ同士が接触する箇所に熱風を吹き付けて局所的に加熱し、チューブ同士を熱溶着するので、熱溶着の際の加熱の影響を受ける箇所が小さくなる。よって、チューブの断面の変形を抑えて熱溶着することができる。
【0006】
また、請求項2に記載の発明に係る並列チューブ集合体の製造方法は、例えば図1および図6に示すように、請求項1に記載の並列チューブ集合体の製造方法において、熱溶着されたチューブ10を加温して熱固定する工程(ステップS40)を備える。
【0007】
このように構成すると、熱溶着後に熱固定を行うので、その後の並列チューブ集合体の変形を小さく抑えることができる。
【0008】
また、請求項3に記載の発明に係る並列チューブ集合体の製造方法は、例えば図1および図6に示すように、請求項1または請求項2に記載の並列チューブ集合体の製造方法において、チューブ10がボビン30に巻きつけられており、チューブ10をボビン30から繰り出す工程(ステップS10)を備える。
【0009】
このように構成すると、チューブをボビンに巻いておくことにより、予めチューブを製造しておき、ボビンに巻かれた折れ曲がりなどの変形のないチューブから、並列チューブ集合体を製造することができる。また、チューブをボビンに巻いておくことができるので、チューブの輸送や貯蔵を行い易い。
【0010】
また、請求項4に記載の発明に係る並列チューブ集合体の製造方法は、例えば図4に示すように、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の並列チューブ集合体の製造方法において、熱溶着する工程が、開口部55がチューブ10に対しチューブ10の長手方向に相対的に移動しながら行われ、開口部55がチューブ10に対し相対的に移動している間に、熱溶着する工程が停止される。
【0011】
このように構成すると、並行に並べられたチューブ同士が熱溶着された部分と、熱溶着されない部分とを備えた並列チューブ集合体が製造できる。よって、例えば、1本1本のチューブを異なる位置のノズルに連結する端部においてはチューブ同士が熱溶着されておらず、その他の部分では一つのまとまりとしてチューブを熱溶着した並列チューブ集合体となる。
【0012】
また、請求項5に記載の発明に係る並列チューブ集合体の製造方法は、例えば図2に示すように、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の並列チューブ集合体の製造方法において、チューブ10が内層10aと内層10aよりも外側に配置された外層10eとの2層を有し、内層10aの高分子材料は外層10eの高分子材料より結晶融解温度が高い材料で形成されている。
【0013】
このように構成すると、外層を熱溶着させる温度で熱風を吹き付けても、内層は溶融せずにその断面の形状を保持するので、熱溶着時の熱による内層断面の変形を抑えることができ、チューブを流れる流体の流れに影響することがない。
【0014】
また、請求項6に記載の発明に係る並列チューブ集合体の製造方法は、例えば図2に示すように、請求項5に記載の並列チューブ集合体の製造方法において、外層10eの高分子材料がエチレン・α−オレフィン共重合体であり、内層10aの高分子材料がポリエチレンである。
【0015】
このように構成すると、内層のポリエチレンは結晶融解温度が高く、外層のエチレン・α−オレフィン共重合体はポリエチレンに比較して結晶融解温度が低く軟質であるので、エチレン・α−オレフィン共重合体を熱溶着させる温度で熱風を吹き付けても、ポリエチレンは溶融せずに形状を保持し、熱溶着によるチューブ断面の変形を抑えることができ、チューブを流れる流体の流れに影響することがない。また、外層のエチレン・α−オレフィン共重合体が軟質であるので、並列チューブ集合体は曲がり易く、曲げられてもキンクを生じにくい。
【0016】
また、請求項7に記載の発明に係る並列チューブ集合体の製造方法は、例えば図2に示すように、請求項5または請求項6に記載の並列チューブ集合体の製造方法において、チューブ10が、外層10eと内層10aとの間に、エチレン・ビニルアルコール共重合体の中間層10cを有する多層チューブである。
【0017】
このように構成すると、エチレンビニルアルコール共重合体の中間層を有するので、水蒸気やガスが極めて透過しにくく、チューブを流れる流体の蒸発あるいは外気のチューブ内への侵入を防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る並列チューブ集合体の製造方法によれば、高分子材料で形成されたチューブを少なくとも2本並行に並べる工程と、並行に並べられたチューブ同士が接触する箇所に熱風を吹き付けて局所的に加熱し、チューブ同士を熱溶着する工程を備えるので、熱溶着の際の加熱の影響を受ける箇所を小さくすることができる。よって、チューブの断面の変形を抑えて熱溶着することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一又は相当する装置には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態である、業務用インクジェットプリンタに用いる並列チューブ集合体20の製造方法を説明する模式図であり、(a)は全体図、(b)は(a)におけるb−b矢視図である。図1(a)において、製造工程は左側から右側に流れて処理される。チューブ10は本製造に先駆けてボビン30に巻かれている。並列チューブ集合体20の製造において、チューブ10の製造を別途行っておき、ボビン30に巻きつけておくことで、チューブ10の製造と切り離して並列チューブ集合体20を製造できるので、自由度が増し、並列チューブ集合体20の製造速度が、チューブ10の製造速度に左右されることもない。チューブ10をボビン30に巻きつけておくことにより、チューブの折れ曲がりを防止でき、また、輸送や貯蔵を行い易くなる。しかし、チューブ10はボビン30に巻きつけてなくてもよく、チューブを並列チューブ集合体を製造するのと同時に製造してもよい。
【0021】
ここで、図2を参照して、並列チューブ集合体20の製造に用いられるチューブの典型例について説明する。図2は、並列チューブ集合体20の製造に用いられるチューブの断面図であり、(a)は内層と外層に加え中間層を有するチューブ10、(b)は内層と外層とを備えるチューブ12の断面図である。
【0022】
図2(a)に示すチューブ10は、内層10aと中間層10cと外層10eとを有し、内層10aと中間層10cとの間に接着層10b、中間層10cと外層10eとの間に接着層10dを有する。外層10eは、チューブ10同士を熱溶着して並列チューブ集合体20とするときに熱溶着される層であり、熱溶着しやすいように、かつ、熱溶着のときの温度上昇により他の層10a〜10dが融解しあるいは大きく軟化して変形することがないよう、他の層10a〜10dより結晶融解温度が低い高分子材料で形成されることが好ましい。ここで、結晶融解温度は、典型的にはJIS;K7121(プラスチックの転移温度の測定方法)の示差走査熱量測定(DSC)法によるピーク温度を用いて特定する。また、外層10eは、チューブ10が曲げ変形するときに、最も大きくひずみを生ずる部分であるので、軟らかい高分子材料で形成されることが好ましい。そこで、業務用インクジェットプリンタに用いるインクチューブ用の並列チューブ集合体においては、エチレン・α−オレフィン共重合体が好適に用いられる。エチレン・α−オレフィン共重合体は、結晶融解温度が94℃程度と、後述のポリエチレンの結晶融解温度121℃程度、エチレン・ビニルアルコール共重合体の結晶融解温度172℃程度あるいは低密度ポリエチレン(LDPE)系接着剤の結晶融解温度112℃程度より低く、かつ、軟らかい。また、エチレン・α−オレフィン共重合体は、水蒸気バリア性、ガスバリア性が高いので、チューブ10の内容物からの水分、溶媒等の蒸発、あるいは、内容物への空気の混入を防止する観点からも好ましい。なおここで、高分子材料とは、熱可塑性樹脂(Thermo Plastics)であり、周知の加熱手段により溶融、溶着、熱変形、結晶化度を高めることのできる樹脂をいう。
【0023】
内層10aは、チューブ10を流れる流体と直接接する層であり、流体により変質しない高分子材料で形成されることが好ましい。業務用インクジェットプリンタに用いるインクチューブ用の並列チューブ集合体においては、ポリエチレンが好適に用いられる。ポリエチレンを内層10aに用いると、インクにより着色することがなく、また、水蒸気バリア性、ガスバリア性が高いので、チューブ10の内容物からの水分、溶媒等の蒸発、あるいは、内容物への空気の混入を防止する観点からも好ましい。
【0024】
中間層10cは、水蒸気バリア層あるいはガスバリア層とするために備えられる層である。そのため、水蒸気バリア性あるいはガスバリア性が極めて高い高分子材料で形成される。例えば、エチレン・ビニルアルコール共重合体が好適に用いられる。エチレン・ビニルアルコール共重合体は、水酸基を有するので反応性の高い高分子材料ではあるが、内層10aと外層10eとに挟まれているので、反応をする物質と接触することがなく、反応による変質等を生ずることがない。
【0025】
接着層10b、10dは、内層10aと中間層10cおよび中間層10cと外層10eとの間に介在し、内層10aと中間層10cおよび中間層10cと外層10eを接着する層である。接着するための層であるので、接着層10b、10dは薄く形成される。接着層10b、10dは、典型的には、入手が容易なLDPE系接着剤で形成される。このように3層(接着層を含めると5層)の多層チューブとすることにより、優れた熱溶着性、可撓性、耐着色性、極めて高いガスバリア性あるいは水蒸気バリア性を有するチューブ10となる。なお、多層チューブとは、単層でない2層以上のチューブをいい、特に3層以上のチューブを指すことが多い。
【0026】
なお、高度のガスバリア性あるいは水蒸気バリア性が要求されない場合には、図2(b)に示すように、内層12aと外層12cとを有し、内層12aと外層12cとの間に接着層12bを有するチューブ12を用いて、並列チューブ集合体20を製造してもよい。チューブ12は、チューブ10から中間層10cを省略したのと同じ構成となる。中間層10cとして好適に用いられるエチレン・ビニルアルコール共重合体が、比較的高価な材料であるためこれを省略する。チューブ12とすることにより、安価に並列チューブ集合体20を製造することができる。典型的な業務用インクジェットプリンタに用いるインクチューブ用の並列チューブ集合体20を製造するためのチューブ12では、外径4mmで、外層12cを0.25mm、接着層12bを0.03mm、内層12aを0.12mmの厚さとする。用途等に応じて他のチューブを用いて、並列チューブ集合体20を製造してもよい。
【0027】
図1(a)に戻って、並列チューブ集合体20の製造方法の説明を続ける。ボビン30から繰り出された6本のチューブ10は、ガイドローラ32に案内されて、溝付プレート40上で並行に整列される。ガイドローラ32は、ボビン30から溝付プレート40に繰り出されるチューブ10の繰り出される方向を変えると共に、繰り出されることにより生ずるチューブ10の張力を調整し、複数のチューブ10が、溝付プレート40上でたわむことなく、平行に並列されるようにする。チューブ10の張力の調整は、ガイドローラ32でチューブ10の方向を変える大きさを調整することにより、すなわち、ガイドローラ32の位置をずらすことにより行う。図1では、各チューブ10に対し1個のガイドローラ32しか示していないが、各チューブ10に対しガイドローラ32を複数備えてもよい。
【0028】
図1(b)に示すように、溝付プレート40は、各チューブ10がその上を移動する溝44を有し、溝44は、チューブ10が互いに接触するように接近して配列されている。図1では、6本のチューブ10を並列に一体化しており、溝付プレート40にも6本の溝44が形成されているものとして示されているが、溝44の本数は、チューブ10の本数より多ければ何本でもよい。また、チューブ10の本数も6本に限られることはなく、用途に応じて本数は増減される。なお、溝44は、チューブ10同士が熱溶着されるところで、チューブ10が接触するように接近し、その上流側では、熱溶着されるチューブ10の間に熱風を吹きつけるためのビームノズル50(50A、50B、50Cを総称して50と記す。)が配置されるスペースが確保されるように間隔が開けられている。溝付プレート40には、冷却媒体Cが導入され、溝44の表面を冷却する構造となっている。例えば、溝44の表面は5〜10℃の低温に冷却される。溝付プレート40が冷却されているので、後述のように、チューブ10が熱風を吹き付けられても、溝付プレート40上を走行する部分のチューブ10の温度上昇が防止される。よって、温度上昇によりチューブ10の表面が軟化することが防止され、摩擦抵抗の増大が回避される。冷却媒体Cとしては、典型的には冷却水が用いられ、溝付プレート40中で溝44の近くに冷却水流路42が配置される。
【0029】
なお、溝付プレート40の代わりに、溝付ローラ(不図示)を用いて、チューブ10を整列してもよい。溝付ローラとは、溝付プレート40と同様の平行な溝が表面に形成されたローラであり、溝付ローラは送られるチューブ10と同じ速さで溝が移動するように、回転する。このように、チューブ10と同じ速さで移動する溝付ローラ上でチューブ10を整列すると、チューブ10と溝との間に生ずる摩擦抵抗が問題とならないので、冷却媒体で溝の表面を冷却しなくてもよい。しかし、溝付プレート40を用いれば、チューブ10を連続する面で支えることができるので、チューブ10に生ずる変形を抑えることができ、また、チューブ10が振動することを防止できる。また、チューブ10が送られるのと同じ速さで溝が移動するように制御することもなく、構成が簡単になる。
【0030】
溝付プレート40上で並行に並べられたチューブ10同士が接触し始める位置で、チューブ10の接触する部分(接合部ともいう)に、ビームノズル50より熱風Aが吹き付けられる。熱風Aを吹き付けることにより、例えば外層10e(図2参照)が94℃程度の結晶融解温度を有するエチレン・α−オレフィン共重合体で形成されているときは、接合部を100℃程度に加熱し、熱溶着させる。
【0031】
ここで、図3を参照して、熱風Aを吹き出すビームノズル50について説明する。図3は、ビームノズルの構成を説明する斜視図で、(a)はノズル本体52とノズル先端54とを備えるビームノズル50A(50B)、(b)はノズル本体52に熱風Aを逃がす開閉弁57を備えるビームノズル56、(c)はノズル先端59の向きが可変に構成されたビームノズル58を示す。先ず、(a)に示すビームノズル50Aについて説明する。ビームノズル50Aは、高温空気を供給する配管(不図示)と接続される配管より太いあるいはほぼ同径の筒形のノズル本体52と、ノズル本体52の、配管と接続する端面と反対側の端面から突出する細い径のノズルであるノズル先端54とを備える。
【0032】
ノズル先端54の開口端の開口部55は、熱溶着するチューブ10より小さく形成されるのが一般的である。開口部55がチューブ10より小さいとは、チューブ10が並列に並べられた方向における開口部55の長さ(幅)が、チューブ10の並列に並べられた方向における幅より小さいことをいう。このように、開口部55の幅がチューブ10の幅より小さいので、開口部から吹き出した熱風Aは、チューブ10が接触し熱溶着される接合部だけを局所的に加熱する。ここで、「局所的に加熱する」とは、熱溶着される部分だけが溶融するように加熱することを指すが、熱溶着される部分の近傍が溶融する場合を含んでもよい。熱溶着される部分の近傍は、例えば溶着される箇所からチューブ10の外周の10分の1以下の範囲のように、その範囲が溶融しても、チューブ10の断面が全体として変形せず、内部の流体の流れに影響するほどには変形しない範囲をいう。チューブ10の加熱される範囲が接合部あるいはその近傍に限られるので、チューブ10の断面が全体として加熱され変形することがなく、断面の変形を抑えることができる。円形断面の場合には、チューブ10の真円度を維持し易い。また、チューブ10の外層10e(図2参照)の軟化による溝付プレート40との摩擦の増大が防止でき、加えて、熱風を熱溶着する箇所にだけ吹き付けるので無駄がなく、効率が高くなる。なお、開口部55から吹き出した熱風Aは、周りの空気を巻き込みながらチューブ10の接合部に到達するので、その間に熱風Aの流れは太くなる。そこで、開口部55とチューブ10の接合部との距離によっても異なるが、開口部55の幅は、チューブ10の幅の2分の1以下とするのが好ましく、さらに好ましくは4分の1以下とする。このように開口部55の幅を小さく形成することで、チューブ10の接合部に吹き付けられる熱風Aの流れが細くなり、接合部を局所的に加熱できる。
【0033】
例えば、前述の4mmの外径の外層がエチレン・α−オレフィン共重合体で形成され、ビームノズルに対し毎分2mの速さで相対的に移動しているチューブを熱溶着するときには、0.5mmの内径の円形の開口部を有するビームノズルを用いる。ビームノズルには温度190℃、圧力9.5Pa(G)の高温空気を供給し、開口部をチューブの接合部から1mm離して、熱風を吹き付ける。その結果、接合部が約100℃に加熱される。
【0034】
ビームノズル50Aは、2本のノズル先端54を備える。このように、複数本のノズル先端54を備えることにより、同時に複数箇所の熱溶着を行うことができるので、効率が高まる。しかし、多数のノズル先端54を備え、多数の開口部55から同時に熱風を吹き付けると、チューブ10の周囲で熱風が充満し、チューブ10全体が加熱される可能性がある。そこで、ノズル先端54の本数をあまり増やすことなく、例えば、2本以下、3本以下とすることが好ましい。なお、ビームノズル50C(図1参照)のように、ノズル先端の本数は1本でもよい。
【0035】
熱溶着を停止するときには、熱風Aのチューブ10への吹付けを停止すればよい。しかし、熱風Aの吹付けを開始するときに、配管(不図示)、ノズル本体52、ノズル先端54自体の温度が低下していて、また、配管、ノズル本体52、ノズル先端54に温度が低下した空気が残留していると、所定の温度の熱風Aを吹き出すまでの過渡期が生ずる。過渡期に所定の温度以下の熱風Aを吹き付けても、チューブ10が熱溶着せず、しかし、熱による変形が生じうるので、過渡期が生ずることは好ましくはない。また、熱風Aが所定の温度に上昇するまで、長時間にわたり熱風Aを吹き付け続けると、チューブ10の広い範囲が高温となるので、好ましくない。そこで、熱溶着を停止するときには、ビームノズル50からは熱風Aを吹き出し続けたまま、熱風Aがチューブ10にかからない様にする。典型的には、ビームノズル50をチューブ10の接合部から離間させ、また、熱溶着を開始するときには、熱風Aを吹き出しているビームノズル50をチューブ10の接合部に接近させる。
【0036】
あるいは、図3(b)に示すように、ビームノズル56のノズル本体52から開閉弁57付きの短管を分岐し、熱溶着を停止するときには、開閉弁57を開き、ビームノズル56に供給される高温空気を短管から放出してもよい。短管の断面をノズル先端54の断面より十分に大きくすることで、流体抵抗の差により、ビームノズル56に供給される高温空気の殆どを短管から放出することができる。すると、開口部55からは僅かな熱風しか排出されず、チューブ10が高温に加熱されなくなる。また、熱溶着を開始するときには、開閉弁57を閉じる。このときには、ノズル先端54およびノズル本体52内の一部に空気が残留しているが、残留空気の量は微量であり、かつ、ノズル本体52に高温空気が流れていることで、ノズル本体52およびノズル先端54自体は高温に加熱されており、また、そのために残留する空気の温度も高く維持される。よって、所定の温度の熱風Aが吹き出すまでの過渡期は、実質的に無視できる程度に短くなる。
【0037】
また、図3(c)に示すように、ノズル先端59の向きを可変とし、熱溶着を停止するときには開口部55をチューブ10の接合部から離れた方向に向け、熱溶着を開始するときには開口部55をチューブ10の方向に向けてもよい。ノズル先端59の向きを可変とするには、ノズル先端59自体が変形してもよいが、ノズル本体52の端面にノズル先端59を傾斜して接続し、その端面を回転してもよい。ノズル先端59の向きを変えるのに、端面を回転するだけであれば、構成が単純となり、また、迅速に向きを変えることができる。よって、熱溶着の停止と開始を迅速に切り替えることができる。
【0038】
ビームノズル50を移動させることにより熱溶着の停止と開始を行うと、ビームノズル50の構成は容易であり、また、開口部55を離間させることで、チューブ10に熱風Aの影響を及ばないようにすることができる。また、ビームノズル56のように開閉弁57の開閉により熱溶着の停止と開始を行うと、可動部を小さくすることができ、機械的な故障の低減につながる。また、ビームノズル58のようにノズル先端59の向きを変えることにより熱溶着の停止と開始を行うと、熱溶着の停止と開始の切換えを迅速に行うことができる。
【0039】
図1に戻って、並列チューブ集合体の製造方法の説明を続ける。6本のチューブ10を並列チューブ集合体20にするために、ビームノズル50が3個使用される。これは、2本のノズル先端54(図3参照)を有するビームノズル50Aで3本のチューブを熱溶着して1つにまとめ、別の2本のノズル先端54を有するビームノズル50Bで別の3本のチューブを熱溶着して1つにまとめ、3本のチューブがまとめられたもの同士を1本のノズル先端54を有するビームノズル50Cで熱溶着して一つの並列チューブ集合体とするからである。なお、チューブ10を熱溶着して順次まとめる方法は上記に限られない。ビームノズル50A、50Bが2本のノズル先端54を有し、6本のチューブをまとめるには、上記の方法が熱溶着の回数が少なく、すなわち用いるビームノズル50の数が少なくて済む。また、各ビームノズル50A、50B、50Cは、チューブ10の移動方向、すなわちチューブ10の長手方向で、異なった位置に配置される。このように各ビームノズル50A、50B、50Cを異なった位置に配置することで、各ビームノズル50A、50B、50Cから吹き付けられた熱風Aが狭い範囲に充満することを防止し、チューブ10の熱溶着する箇所以外の箇所が、熱風Aにより変形するほどに高温に加熱されることが防止される。しかし、各ビームノズル50A、50B、50Cは、チューブ10の長手方向で同じ位置に配置されてもよい。
【0040】
熱溶着したチューブ10は、続いて熱水噴射口60から噴射される熱水Hを浴びせられ、加温される。あるいは、熱水を貯留する槽(不図示)に浸して加温してもよい。加温される温度は、チューブ10を構成する高分子材料の結晶融解温度のいずれより低く、軟化点温度のいずれより高い温度である。このように、結晶融解温度より低く、軟化点温度より高い温度に加温されることにより、チューブ10を形成する高分子材料は分子配向が解きほぐされ、また、結晶化度も高められ、形状が安定化する。このように加温して、分子配向を整え、結晶化度を高めることを、熱固定(Heat set)という。熱固定するための温度は、軟化点以上であれば良いが、所望の程度まで熱固定するのに要する時間は温度に依存し、温度が高いほど短くなる。そこで、通常は、結晶融解温度に近い温度まで加温して短時間で熱固定を行う。
【0041】
熱固定のための加温は、熱水Hでなく、熱風あるいは熱放射で行ってもよい。熱水Hを用いると、水の熱容量が大きいので、6本のチューブ10を均一な温度に加温でき、温度ムラを小さくでき、均質に熱固定することができる。熱固定は、後工程での取り扱いに適するように、高分子材料の結晶化度を加熱処理で所定水準までに高める操作であり、その効果として形成された高分子材料の寸法が経時的に変化することを抑えることができる。すなわち、寸法安定性が高められる。図2(a)に示すチューブ10を用いた並列チューブ集合体20では、熱固定を行わないと成形直後の寸法に比べてその最大10%程度の寸法減少を生じるが、熱固定を行うことにより成形直後の寸法に比べて5%程度以内の寸法減少に抑えることができ、熱固定の処理の仕方によっては、3%程度以内の寸法減少に抑えることができる。結晶化度を加熱処理により所定水準まで高める操作として、例えば、熱水の槽に並列チューブ集合体20を所定時間浸して、均一な加熱で結晶化度を所定水準にまで高めることができる。この熱固定により、エチレン・α−オレフィン共重合体の結晶化度は20%程度に高まり、高い寸法安定性を得ることができる。また、熱風で行うと、熱溶着するための熱風を用いて熱溶着するよりも低い温度の熱風を容易に作れ、熱源の加熱が空気だけで済む。また、水を用いないので、熱固定した後に乾燥させるなどの手間がなくなる。また、熱放射を用いると、やはり水を用いないので、熱固定した後に乾燥させるなどの手間がなくなり、さらに、迅速に容易に熱固定を開始し、停止することができる。
【0042】
熱固定した6本のチューブ10は、一対のローラ70により引き取られ、下流側に送られる。一対のローラ70は、並列に熱溶着され熱固定された6本のチューブ10を並列に並んだ面と直交する方向から挟み、すなわち、1本1本のチューブ10を挟み、ローラ70の回転により、図1(a)の左方向から引き取り右方向に送り出す。ローラ70により並列に熱溶着され熱固定された6本のチューブ10が引き取られることにより、熱溶着する前のチューブ10はボビン30から繰り出される。チューブ10が熱固定され、形状を安定化した後にローラ70で挟んでいるので、チューブ10の断面の変形は抑えられる。また、特に表面に並行に並んだチューブ10の形状に合わせた溝を形成したローラ70を用いてチューブ10を挟むことにより、チューブ10の外面に付着する熱水Hが除去される。
【0043】
ローラ70から送り出された並列に熱溶着され熱固定された6本のチューブ10を、カッター80で所定の長さに切断し、並列チューブ集合体20が製造される。熱固定された後にカッター80で所定の長さに切断することにより、熱水噴射口60から噴射される熱水Hがチューブ10の内面に入り込むことがない。
【0044】
次に、図4を参照して、熱溶着工程を定期的に停止する並列チューブ集合体の製造方法について説明する。図4は、チューブ10の送り(引き取り)と熱溶着工程との関係を説明する図である。図において、チューブ10は図中の矢印Tのとおり、左から右に送られ、熱固定の工程は省略してある。すなわち、ビームノズル50A〜Cより右側に描かれているチューブ10は、熱溶着がなされたチューブ10である。図中、(4)で示した位置は、熱溶着が開始されたチューブ10の箇所を示し、それ以前(右側)では、熱溶着は行われず、チューブ10は溶着されず、離れ離れになっている。
【0045】
熱溶着は、位置(3)、(2)、(1)で行われ、6本のチューブ10は一つにまとめられる。熱溶着を停止する場合には、位置(1)で先ずビームノズル50Aでの熱溶着を停止する。ビームノズル50での熱溶着が停止されている間も、チューブ10は送られ続ける。すなわち、ビームノズル50とチューブ10とはチューブ10の長手方向に相対的に移動し続けている。位置(1)で熱溶着を停止した箇所のチューブ10が位置(2)に到達すると、ビームノズル50Bでの熱溶着を停止する。次に、この熱溶着を停止した箇所のチューブ10が位置(3)に到達すると、ビームノズル50Cでの熱溶着を停止する。すなわち、ビームノズル50A、ビームノズル50B、ビームノズル50Cは、チューブ10上の同じ箇所で熱溶着を停止する。なお、熱溶着を開始するときにも、上記と同様に、チューブ10上の同じ箇所で熱溶着が開始されるように、時間差を設けてビームノズル50A、ビームノズル50B、ビームノズル50Cでの熱溶着を開始する。この時間差は、ビームノズル間の距離をチューブ10の送り速度で除した時間である。これらの熱溶着の停止と開始は、不図示のコントローラにより制御されることが好ましい。コントローラでは、チューブ10の送りに応じて、熱溶着の停止と開始を制御する。また、コントローラでは、チューブ10の送り、すなわち、ローラ70(図1参照)の回転速度や、カッター80(図1参照)の作動も制御するように構成してもよい。なお、各ビームノズル50A、50B、50Cがチューブ10の長手方向で同じ位置に配置されている場合には、各ビームノズル50A、50B、50Cの熱溶着の開始あるいは停止を同時に行うことで足り、制御が容易になる。
【0046】
図5に、上記に説明した方法により製造した並列チューブ集合体22を示す。図5は、両端にチューブ10が離れ離れになったチューブ非接合部26を有し、その間でチューブ10が熱溶着されたチューブ接合部24を有する並列チューブ集合体22の正面図である。このように、両端にチューブ非接合部26を有することにより、並列チューブ集合体22全体としては一つにまとめられチューブ10同士のこすれや絡みを防止しつつ、各々のチューブ10を接続する相手方が離間していても接続しやすい並列チューブ集合体22となる。特に、インクジェットプリンタのように、各インクジェットヘッドが相対的に移動する場合に、それぞれのインクジェットヘッドに小さな抵抗で追従することができ、各インクボトルが離れていても、簡単に接続することができる並列チューブ集合体22となるので、好適である。
【0047】
図6に、並列チューブ集合体20(図1参照)の製造工程をまとめて示す。図6は、並列チューブ集合体20の製造工程のフローチャートである。まず、6個のボビンからそれぞれチューブ(単チューブ)10(図1参照)を繰り出す(ステップS10)。6本のチューブ10の張力を調整し、各チューブ10を並行に整列する(ステップS20)。整列したチューブ10同士を、チューブ10同士が接触する箇所に熱風を吹き付け局所的に加熱して、熱溶着する(ステップS30)。次に、熱溶着されたチューブ10を加温し、熱固定する(ステップS40)。熱固定したチューブ10を引き取り(ステップS50)、所定の長さにカットする(ステップS60)。以上により、チューブ断面の変形が抑えられ、また、カールが抑えられた並列チューブ集合体20が製造される。
【0048】
これまでの説明では、チューブが送られ(引き取られ)ながら、固定したビームノズルから熱風を吹き付けて熱溶着するものとして説明したが、所定長さのチューブを溝付プレート上に並列して静止して置き、チューブに沿って移動するビームノズルから熱風を吹き付けて、熱溶着をしてもよい。この場合には、ビームノズルをチューブに接近させて熱溶着した後、チューブ(溝付プレート)から離間させてビームノズルを熱溶着を開始する位置に戻す、いわゆるボックスモーションを行う。チューブは、ビームノズルが離間して移動している間に、熱溶着の済んだものから、これから熱溶着を行うものに置き換える。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態である、並列チューブ集合体の製造方法を説明する模式図であり、(a)は全体図、(b)は(a)におけるb−b矢視図である。
【図2】並列チューブ集合体の製造に用いられるチューブの断面図であり、(a)は内層と外層に加え中間層を有するチューブ、(b)は内層と外層とを備えるチューブの断面図である。
【図3】ビームノズルの構成を説明する斜視図で、(a)はノズル本体とノズル先端とを備えるビームノズル、(b)はノズル本体に熱風を逃がす開閉弁を備えるビームノズル、(c)はノズル先端の向きが可変に構成されたビームノズルを示す。
【図4】チューブの送りと熱溶着工程との関係を説明する図である。
【図5】両端のチューブが離れ離れになった並列チューブ集合体の正面図である。
【図6】並列チューブ集合体の製造工程のフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
10、12 チューブ
20、22 並列チューブ集合体
24 チューブ接合部
26 チューブ非接合部
30 ボビン
32 ガイドローラ
40 溝付プレート
42 冷却媒体流路
44 溝
50、56、58 ビームノズル
52 ノズル本体
54 ノズル先端
55 開口部
57 開閉バルブ
59 可動ノズル先端
60 熱水噴射口
70 ローラ
80 カッター
A 熱風
C 冷却媒体
H 熱水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料で形成されたチューブを、少なくとも2本並行に並べる工程と;
前記並行に並べられたチューブ同士が接触する箇所に熱風を吹き付けて局所的に加熱し、該チューブ同士を熱溶着する工程とを備える;
並列チューブ集合体の製造方法。
【請求項2】
前記熱溶着されたチューブを加温して熱固定する工程を備える;
請求項1に記載の並列チューブ集合体の製造方法。
【請求項3】
前記チューブがボビンに巻きつけられており、該チューブを該ボビンから繰り出す工程を備える;
請求項1または請求項2に記載の並列チューブ集合体の製造方法。
【請求項4】
前記熱溶着する工程が、前記開口部が前記チューブに対し前記チューブの長手方向に相対的に移動しながら行われ、前記開口部が前記チューブに対し相対的に移動している間に、前記熱溶着する工程が停止される;
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の並列チューブ集合体の製造方法。
【請求項5】
前記チューブが内層と前記内層よりも外側に配置された外層との2層を有し、内層の高分子材料は外層の高分子材料より結晶融解温度が高い材料で形成されている;
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の並列チューブ集合体の製造方法。
【請求項6】
前記外層の高分子材料がエチレン・α−オレフィン共重合体であり、前記内層の高分子材料がポリエチレンである;
請求項5に記載の並列チューブ集合体の製造方法。
【請求項7】
前記チューブが、前記外層と内層との間に、エチレン・ビニルアルコール共重合体の中間層を有する多層チューブである;
請求項5または請求項6に記載の並列チューブ集合体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−307875(P2007−307875A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141886(P2006−141886)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(391049851)クレハプラスチックス株式会社 (1)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】