説明

中性子散乱分光分析の分野における中性子放射線の2次元検出システム

本発明は、中性子ビーム(10)を放出する手段(1)と、試料(3)を支えるため適合したサポート手段(2)と、中性子放射線による活性化に適合した光電子放出手段(5)と、冷却低光レベル電荷結合検出装置(7)とを備える中性子放射線の2次元検出システムに関する。放出手段(1)はモノクロ中性子ビーム(10)を放出する。システムは、サポート手段(2)と光電子放出手段(5)との間に位置し、試料(3)によって透過されたモノクロ中性子ビーム(12)の少なくとも実質的な部分を捕捉するため適合したフィルタ手段(4)と、電荷結合検出装置(7)の上流に位置し、電荷結合検出装置(7)と連結されている増幅手段(6)とをさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分光分析の分野に関し、特に中性子散乱分光分析に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子散乱は、物質組織の研究のためのX線散乱に相補的である非常に強力な技術である。中性子散乱技術は、数オングストローム(Å)から数百、さらには数千オングストロームまでのスケールで構造的組織を特徴付ける強力な手段を提供する。X線放射線が原子の電子雲と相互作用するX線散乱とは異なって、中性子は試料の原子核と相互作用する。結果として生じる散乱は、各同位元素に固有であり、特に水素および重水素に対して非常に異なるので、同位体コントラストが有機材料に作成される。さらに、X線技術とは異なって、中性子散乱技術は、非破壊的な方法であり、X線放射線よりはるかに長い侵入長を示す。
【0003】
2次元位置感応画像蓄積検出器と関連付けられた中性子散乱技術は、散乱空間の2次元観察を可能にさせる。
【0004】
第1の検出器のグループは、ワイヤーチャンバーと組み合わされた気体検出器で構成されている(R.Allemand,J.Bourdel,E.Roudaut,P.Convert,K.Ideb,J.Jacobe,J.P.Cotton,B.Farnoux,「Nucl.Instr.Meth.」,126,29[1975];Y.Giomataris,Ph.Rebourgeard,J.P.Robert,G.Charpak,「NIM」A376[1996]29;C.Petrillo et al.,「Nucl.Instr.and Meth」A378[1996]541およびA424[1999]523;G.Brickner et al.,「Nucl.Instr.and Meth」A392[1997]68を参照のこと)。この検出カテゴリーは、通常、小さな角度の中性子散乱現象の研究に集中している。これらの分光計は低いスペクトル分解能を有する。
【0005】
第2の2次元検出装置のグループは、レーザーと一体となったシンチレータを備えるイメージプレートタイプの装置(C.Wilkinson et al.,「Neutrons,X−Rays and Gamma Rays」1737[1992]329)で構成されている。この原理は、最初にシンチレーティングプレートを充電し、次に電荷の数を明らかにするレーザーを使用してプレートを読み出し、最後にコンピュータによって管理される増加とからなる三つのステップを備える。この技術は、X線拡散のため広く使用され、中性子使用のため適合させることは依然として非常に難しい。
【0006】
広角度における観察は、通常、同時に二方向ではなく、単一方向に沿って逆空間を走査することにより実行され、これは、リニアマルチカウンター、または、2若しくは3軸弾性拡散分光計の事例である。
【0007】
それにもかかわらず、広角度の2次元観察は、特に、圧力勾配、流量などのような異方性応力の作用の影響を受ける構造化材料および/または流体の場合に、局所組織の研究のため重要である。
【0008】
中性子グラフィは、通常、試料を通る透過/吸収の特性の像を明らかにするため、試料の軌道に載せられた入射ポリクロマティック中性子ビームを使用することにある。
【0009】
電荷結合検出器に連結された中性子に感応するシンチレータを使用する中性子グラフィ領域における検出器が提案されている(S.Koemer,E.Lehmann,P.Vontobel,「Nucl.Inst.and Meth.」A454[2000]158〜164を参照のこと)。それにもかかわらず、この検出器は、信号の定量的測定に適合せず、分子または原子スケールでの材料の組織の定量的特徴付けのための十分な感度がない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、特に広い拡散角度で試料によって散乱された中性子の個数の定量的検出を可能にし、かつ、少なくとも1つの上記不利点を解決する中性子放射線の2次元検出システムを提供することである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このため、本発明によれば、特許請求の範囲に記載されているような中性子放射線の2次元検出システムが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
より詳細には、中性子ビームを放出する手段と、試料を支えるため適合したサポート手段と、中性子放射線による活性化に適合した光電子放出手段と、冷却低光レベル電荷結合検出装置とを備える中性子放射線の2次元検出システムであって、放出手段がモノクロ中性子ビームを放出し、システムが、サポート手段と光電子放出手段との間に位置し試料によって透過されたモノクロ中性子ビームの少なくとも実質的な部分を捕捉するため適合したフィルタ手段と、電荷結合検出装置の上流に位置し電荷結合検出装置と連結されている増幅手段とをさらに備えることを特徴とする、2次元検出システムが提供される。
【0013】
本発明による中性子放射線の2次元検出システムの好ましいが、しかし、限定的ではない態様は以下の通りである。
【0014】
フィルタ手段は試料によって透過されたモノクロ中性子ビーム全体を捕捉する。
【0015】
光電子放出手段は単一の原子核反応から発生するアルファ線を放出する。これは、たとえば、硫化リチウムまたはフッ化リチウムに基づく複合材料のようなリチウムベースのシンチレータである。
【0016】
光電子放出手段は、5から100cmの長さ、5から100cmの幅、および、1.2mm以下の厚さを有するプレートの形をしている。このプレートは平面状でも曲面状でもよい。
【0017】
光電子放出手段は、光不透過性であり、中性子透過性であり、光電子放出手段の入口に位置する表面で裏打ちされている。この不透過性表面は、剛性材料から作られてもよく、たとえば、アルミニウムに形成され、光電子放出手段を所定の位置に保持するため適合している。
【0018】
電荷結合検出装置は、少なくとも12ビット、好ましくは、16ビットで符号化ができる。
【0019】
電荷結合検出装置は、可変ポーズ時間に適合したカメラである。
【0020】
光電子放出手段、増幅手段、および、電荷結合検出装置は、光電子放出手段によって放出された光放射線以外の光放射線が内部に侵入できないように設計されたボックスの中に収納されている。光電子放出手段、および、増幅手段と連結された電荷結合検出手段は、それぞれ、ボックスの入口端および出口端を形成する。
【0021】
システムは、試料のサポート手段と光電子放出手段との間のパラサイト放射の影響を低減させる能力がある保護手段をさらに備える。この保護手段は、底面として光電子放出手段を有し、試料のサポート手段と光電子放出手段との間に位置している円錐状またはピラミッド状のエレメントでもよい。この保護手段は、円筒部およびテーパー付き端部を備え、ボックスを取り囲むケーシングでもよい。
【0022】
保護手段は、試料から発生していないパラサイト放射を吸収するため適合した側壁を含む。
【0023】
保護手段は不活性気体またはプライマリバキュームを収容し、不活性気体はヘリウム、アルゴンまたは窒素である。
【0024】
ボックスは中性子およびガンマ線を吸収するため適合した内壁を備える。
【0025】
システムは、増幅手段へ向かって光電子放出手段によって放出された光放射だけを反射するよう適合した平面状または曲面状をしたミラーをさらに備える。このミラーは、アルミニウム処理された石英から作られてもよく、10mm以下の厚さである。
【0026】
システムは中性子およびガンマ線を吸収する手段をさらに備え、この吸収手段は光電子放出手段の出口に配置されている。
【0027】
増幅手段および電荷結合検出装置は、ガンマ線を止めるシールドによって取り囲まれている。このシールドは、厚さと密度の積が34以上であるような厚さおよび密度を有する金属である。たとえば、2cmの厚さのタングステンのシールドが使用される。
【0028】
システムは、放出手段とサポート手段との間に配置され、0.5から15mmの径を有する出力中性子ビームを出力するコリメーション装置をさらに備える。
【0029】
本発明は、試料へ向かって中性子ビームを放出するステップと、試料から出力された中性子ビームを光子に変換するステップと、冷却低光レベル電荷転送検出装置によって放出された光子を検出するステップと、からなるステップを備える中性子放射線の2次元検出方法であって、試料へ向かって放出された中性子ビームをモノクロ中性子ビームに変換するステップと、試料によって透過されたモノクロ中性子ビームの少なくとも実質的な部分を捕捉するように、試料から出力された中性子ビームをフィルタするステップと、冷却低光レベル電荷転送検出装置の上流で光子放射線を増幅するステップと、からなるステップをさらに備えることを特徴とする2次元検出方法にも関係する。
【0030】
本発明のその他の特殊な特長および利点は、単に例示的であって限定的ではなく、添付図面を参照して読まれるべき以下の説明から明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
中性子放射線の2次元検出システムは、図1、2および3を参照して記載されている。異なる図面に表された等価的なエレメントは同じ参照番号が付けられている。
【0032】
図1は本発明の第1の実施形態による中性子放射線の2次元検出システムの概略図を示す。この検出システムは、放出手段1と、試料3を支えるため適合したサポート手段2と、フィルタ手段4と、光電子放出手段5と、増幅手段6と、電荷結合検出装置7とを備える。
【0033】
本発明による検出システムは、中性子放射線によって活性化された材料によって生じる光電子放出の現象を使用する。多数の公知の材料が通常は寿命の短い放射線を放出するため中性子と相互作用する。たとえば、これは、アルファ線を放出するヘリウム3またはリチウム6、ガンマ線を放出するカドミウムおよびガドリニウム、または、アルファ線とガンマ線の両方を放出するホウ素の状況である。光電子放出原子または分子を含有する複合材料マトリックスに挿入されたとき、これらの材料は中性子放射線の作用によって活性化され得るシンチレータを形成する。
【0034】
これらのシンチレータは、2つの基本的なカテゴリーを含み、すなわち、数種類の原子核反応を伴い、したがって、複数のエネルギー転送に基づいているシンチレータと、単一の原子核反応を伴い、したがって、単一のエネルギー転送だけを必要とするシンチレータとを含む。検出システムの光電子放出手段5は、第2のカテゴリーのシンチレータであり、換言すると、この光電子放出手段は光電子放出を生じるために単一のエネルギー転送だけを伴い、この光電子放出手段5は、入射中性子をアルファ線に変換する原子核反応を使用する。たとえば、光電子放出手段5は、リチウムベースのシンチレータであり、特に、リチウム6ベースのシンチレータである。たとえば、0.5から30オングストローム(Å)の波長を有する中性子の場合、以下の反応:
【数1】

が起きる。
【0035】
中性子のシンチレータへの衝突は、リチウムをヘリウム(アルファ線)と三重水素に変換し、ある量のエネルギーを放出する。光電子放出原子または分子は帯電し、このエネルギーを光放射に変換する。
【0036】
フッ化リチウムまたは硫化リチウムに基づく複合材料は光電子放出手段5を形成するために好んで使用される。硫化リチウムに基づく複合材料からなり、1吸収中性子当たりに1.5×10光子の変換比率を有するシンチレータは、中性子放射によって作られたエネルギーを光放射に変換する。シンチレータマトリックスのドーピングに依存する放出波長は約λ=450nmに等しい。入射中性子当たりの大量の放出光子とは別に、このシンチレータは、特に中性子放射線に対する感度が高く、その理由は、X線放射線またはガンマ線のようなその他の放射線はリチウムと非常に僅かしか相互作用しないからである。したがって、このことは、中性子と接触する環境によって放出された2次ガンマ線に起因するパラサイト効果を低減させる手段を提供する。
【0037】
シンチレータは、長さおよび幅が5から100cmまで変化し、厚さが1.2mm以下の寸法を有するプレートの形でもよい。シンチレータの薄い厚さは、プレート内の光子の吸収を制限し、よって、より大きな光放射を生じる。シンチレータは剛性サポートによって所定の位置に保持されている。シンチレータの前面は、光不透過性であり、かつ、中性子透過性である表面34で裏打ちされている。典型的に、厚さが1mm以下であるアルミニウムプレートが、剛性サポートと、光不透過性であり、かつ、中性子透過性である表面34の両方として使用される。
【0038】
プレートの形をしたシンチレータは平面状でも曲面状でもよい。曲面の形をしたシンチレータは、図4に示されているように、長さと幅が5から100cmまで変化する寸法を有する長方形プレートによって定められた球または円筒の一部によって画定される。球または円筒の半径は、試料−シンチレータ距離と中性子波長とに応じて決められる。このことは一定の散乱因子(弾性散乱)を用いた観察を可能にする。
【0039】
放出手段1は、モノクロ中性子ビーム10を出力するように構成されている。このモノクロ中性子ビームは、サポート手段2に載せられた試料3に衝突する。モノクロ中性子ビーム10の試料3との接触は、試料3の組織の散乱特性を引き起こす。
【0040】
フィルタ手段4は、試料3と光電子放出手段5との間に設置され、試料3によって透過されたモノクロ中性子ビーム12の実質的な部分を捕捉するように設計されている。実際、試料3によって拡散されたモノクロ中性子ビーム13だけが試料3の構造的組織の特徴付けを可能にする。したがって、フィルタ手段4は、散乱されたモノクロ中性子ビーム13だけがシンチレータに到達しシンチレータを活性化するように、透過されたモノクロ中性子ビーム12の全部ではないとしても殆どを捕捉するため適合している。さらに、散乱強度は透過強度よりはるかに低いので、透過中性子に対応する信号は散乱中性子に起因する信号よりはるかに高い強度を有する。よって、透過モノクロ中性子ビーム12を捕捉することは、要求された観察のため適した強度で機能する手段を提供する。
【0041】
電荷結合検出装置7は、光電子放出手段5によって放出された光放射を定量的に測定する手段を提供する。たとえば、ペルティエ効果を使用し、その結果として、低い背景雑音を有する、冷却低光レベル電荷結合検出装置が使用される(冷却温度は−10℃から−45℃まで変化する)。
【0042】
増幅手段6は電荷結合検出装置7への入力光信号を増加させる。よって、マイクロチャネルプレート増幅器の使用は、シンチレータから出力された光放射の強度を著しく増加させる手段を提供する。電荷結合検出装置7とマイクロチャネルプレート増幅器は様々な方式で接続され、この接続は簡単な光接続であり、または、マイクロチャネルプレート増幅器を電荷結合検出装置7のピクセルに接続する光ファイバにより構成されている。
【0043】
電荷結合検出装置7によって行われた測定が定量的であるためには、多数の光レベルを同時に観察できることが必要である。よって、少なくとも12ビットで符号化される電荷結合検出装置7が必要である。拡散信号の最適な測定は、たとえば、符号無しフォーマット(0から65536レベルまでの正整数)または符号付きフォーマット(−32767から+32767まで変化する負整数および正整数)で画像を生成する能力がある16ビットで符号化された電荷結合検出装置7を使用することによって達成される。ピクセル毎に蓄積されるべき強度データの範囲はこのような電荷結合検出装置の場合には広いので、FITまたはFITS(フレキシブル画像転送システム)フォーマットのような適切なデータ蓄積フォーマットが選択されるべきである。
【0044】
さらに、試料3の特徴付けは、測定量が決められた時間に亘って積分可能であるならば、より良くなる。よって、可変ポーズ時間を有するカメラのような可変間隔に亘る捕捉能力を有する電荷結合検出装置7が使用される。最後に、多数のピクセルを備え、よって、観察可能な表面の寸法とは無関係に良好な分解能を提供するため適合した電荷結合検出装置7を使用することが有用である。
【0045】
図2は本発明の第2の実施形態による中性子放射線の2次元検出システムの概略図を示す。
【0046】
光電子放出手段5、増幅手段6、および、電荷結合検出装置7は、ボックス24で囲まれている。より詳細には、光電子放出手段5はボックス24への入力壁を形成し、増幅手段6と連結された電荷結合検出装置7はボックス24の出力端に位置している。ボックス24は黒色であり、シンチレータによって放出された光源以外の光源が侵入しないように設計されている。
【0047】
ボックス24の内壁25の組成は、シンチレータによって透過された中性子放射線およびガンマ線が吸収されるような組成である。よって、たとえば、ボックス24の内壁25は炭化ホウ素によって覆われている。
【0048】
検出システムの入力におけるパラサイト放射は、特に、試料−シンチレータ距離が10cmより長くなるときに、測定を妨げる可能性がある。円錐またはピラミッド形状のエレメント22が次にボックスの入口に設けられ、シンチレータはこのようなエレメントの底面を形成する。この円錐またはピラミッド形状のエレメント22は、パラサイト放射の影響を低減するように作られている。よって、この円錐またはピラミッド形状のエレメント22は、X放射線、中性子放射線またはガンマ線のような試料から発生していないパラサイト放射を吸収する能力を有する側壁28を備える。円錐またはピラミッド形状のエレメント22は、中性子と周囲空気との間の相互作用、特に、空気による、または、空気中に含有された湿気による中性子の吸収および散乱を妨げるように、(ヘリウム、アルゴンまたは窒素のような)不活性気体、または、プライマリバキュームをさらに収容する。円錐またはピラミッド形状のエレメント22の入口窓は中性子透過性壁29を備える。最後に、ボックス24と円錐またはピラミッド形状のエレメント22とによって形成された組立体はリークタイトにされている。
【0049】
パラサイト放射の影響を低減させる代替的な手段は、図3に示されているような、円筒部33およびテーパー付き端32を備えるエンクロージャ30を設けることである。円錐またはピラミッド形状のエレメント22と同じように、エンクロージャ30は、X放射線、中性子放射線またはガンマ線のような試料から発生していないパラサイト放射を吸収する能力を有する側壁を備える。エンクロージャ30は、中性子と周囲空気との間の相互作用、特に、空気による、または、空気中に含有された湿気による中性子の吸収および拡散を妨げるように、ヘリウムまたはプライマリバキュームのような不活性気体をさらに収容する。エンクロージャ30は中性子透過性壁31を備える。
【0050】
ボックス24への入力壁を形成する光電子放出手段5の内面には、中性子放射線およびガンマ線を吸収する手段23がさらに裏打ちされてもよい。この吸収手段23はホウ素ガラスプレートでもよく、したがって、シンチレータから漏れた中性子を吸収する能力があるが、直接ビームから出力されたガンマ線を低減させるためにも役立つ。ホウ素ガラスプレート上にマークされているグリッドは、電荷結合検出装置7の視野のインデキシングを容易化するためにも設けられてもよい。視野は、拡散スペクトルが公知である基準単結晶試料(たとえば、NaCl(単結晶塩)、Si(シリコン))を使用してインデックス付けすることも可能である。
【0051】
シールド27は、検出信号の信号/雑音比を高めるために、電荷結合検出装置7および増幅手段6によって形成された組立体の周りに設けることが可能である。シンチレータによって透過され、たとえば、空気と相互作用する中性子によって放出されたガンマ線のような放射は、はっきりと背景雑音を増加させる。厚さ(cm単位)と密度によって定義されたシールドを考えると、パラサイトガンマ線を吸収し、よって、背景雑音を減少させるために、シールド密度とシールド厚さの積が34以上であるようなシールドを設けることが必要である。たとえば、タングステン(密度18)の状態である2cmの厚さのシールドが使用される。
【0052】
ミラー26はボックス24内に設置されている。このミラー26は平面状でも曲面状でもよく、光電子放出手段5によって放出された光放射14だけを、すなわち、シンチレータのシンチレータ長さに対応する波長を有する放射線だけを反射する能力があり、その他の放射線15はしたがって透過または吸収され、反射されない。その結果として、ミラー26は、間接的な視野セットアップを可能にさせ、よって、放射による電荷結合検出装置7の破損の危険性を取り除く。このことは、増幅手段6に連結された電荷結合検出装置7をボックス24の側壁に設置し、光電子放出手段5から出力されたビーム(14、15)の方向から26°から45°の方向にミラー26を合わせることによって行われる。硫化リチウムに基づく複合材料からなるシンチレータのような青色(λ=450nm)の光放射を放出するシンチレータの場合、薄いアルミニウム処理された石英ミラーのような青色に大きな反射能力を有するミラー26が選択される。
【0053】
コリメーション装置21は、放出手段1からの出力、かつ、試料3のサポート手段2の正面に設けられている。コリメーション装置21は、放出手段1から出力されたモノクロ中性子ビーム10を案内し平行にする。したがって、得られるモノクロ中性子ビーム11の径は、分析されるべき試料のサイズに応じて選択されたコリメーション装置21で使用されるダイヤフラムの組に依存して0.5から15mmである。
【0054】
実験は、測定の分解能は本質的に選択されたコリメーションに依存し、検出システムの固有分解能はコリメーションが全体的な分解能に与える影響と比べると無視できることを示す。したがって、モノクロ中性子ビーム11の径を定め、その結果としてコリメーターの長さのようなコリメーション装置のパラメータ、使用されるコリメーションダイヤフラム、および、試料とシンチレータとの間の距離を定める試料のサイズは、全体的な分解能を最適化するために考慮される必要がある。たとえば、小さな試料の場合、モノクロ中性子ビームの径は1から2mmの程度である。100から150mmのオーダーの試料−シンチレータ距離によって得られる結果は、10mmビームおよび1mに等しい試料−シンチレータ距離を用いる2軸モノ検出器タイプの従来型の検出機器で得られる分解能と同等である。しかし、限られた寸法を有するこのコンフィギュレーションに属する2軸モノ検出器タイプの従来型の検出機器は、拡散空間の小さな部分だけを対象とするが、本発明による検出システムは、単一ショットで拡散空間の非常に大きな部分の測定を可能にする。
【0055】
ここで、本発明による中性子放射線の2次元検出システムを用いて得られた実験結果を示す。種々の公知の試料がテスト測定を行い、従来型の分光計との比較を行うために選択された。
【0056】
第1の回折実施例は単結晶サファイアに関する。サファイアは菱面体晶系(三方晶)に結晶化する。単配向は非常に多種多様の反射を生じるので(すなわち、サファイアは、等価な距離に対して異なる角度分布を有するので)、この結晶は、テストを実施するために有用である。試料は、直径が16mmであり、厚さが10mmの円盤である。
【0057】
実験条件は、12mmのコリメーション出力径が、80mmの試料−シンチレータ距離、2.3秒のポーズ時間、80画像で平均化された測定である。
【0058】
図5および6は、それぞれ、8ビットおよび16ビットで符号化された電荷結合検出装置を用いて測定されたサファイア結晶のブラッグ反射のセクションである。16ビットで符号化された低レベル電荷結合検出装置から得られた測定値は、信号が飽和していることも示している8ビットで符号化された電荷結合検出装置から得られた測定値より非常に精細であることがわかる。図6のブラッグ反射セクションの精度は、本発明による検出システムが通常の検出技術より真に勝っていることを示す。
【0059】
第2の実施例は液晶に関する。大気温度で、液晶は、ロッド状の液晶分子積層によって特徴付けられたスメクティック相を示す。これらの層を分離する距離は約29Åである。これは小さな角度の散乱を意味するので、シンチレータは前に選択された位置(80mm)から移動されなければならない。選択された試料−シンチレータ距離は190mmであり、試料におけるコリメーション出力径が8mmである。
【0060】
試料はモノドメイン配向されているので、スメクティック相の法線は入射ビームに水平であり垂直である。セルは、12mmの径を有し、1mmの厚さの円盤の形をしている。図7は、直接ビームの両側にあり、142ピクセル(30.5mm)によって分離された2つのピークを示す。これらのピークはスメクティック反射のオーダー001に対応している。対応する拡散ベクトルは、Qh=0.21Å−1であり、すなわち、特性層の厚さが29.19Åに等しい。縦軸に沿った中間高さでのピークの幅はΔQh=0.052Å−1であると推定される。横方向における中間高さでの幅はΔQk=0.075Å−1である。
【0061】
20mmコリメーションを用いる3軸分光計で測定された同じ試料は、中間高さでの等価的な幅、すなわち、縦方向におけるΔQh=0.052Å−1および横方向におけるΔQk=0.0125Å−1によって特徴付けられる。写真フィルム上のX線拡散は、定性的にこのプロセスを用いて得られた画像と類似した画像を与える。このことは小さな角度の拡散分光計(DNPA)の場合には、ブラッグ反射の形がそのときには波長の低分解能(この場合には約10%)によって非常に大きく変更されるので成り立たない。
【0062】
読者は多数の変形例が本書に記載された新しい教示および利点から逸脱することなく行われることを理解するであろう。したがって、このタイプの全ての変形例は、添付の特許請求の範囲に記載されているような中性子放射線の2次元検出システムの範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施形態による中性子放射線の2次元検出システムの概略図を示す。
【図2】本発明の第2の実施形態による中性子放射線の2次元検出システムの概略図を示す。
【図3】本発明の第3の実施形態による中性子放射線の2次元検出システムの概要図を示す。
【図4】本発明の第4の実施形態による中性子放射線の2次元検出システムの概要図を示す。
【図5】8ビットで符号化された電荷結合検出装置を用いて測定された単結晶サファイアのブラッグ反射のセクションを示す図である。
【図6】16ビットで符号化された電荷結合検出装置を用いて測定された単結晶サファイアのブラッグ反射のセクションを示す図ある。
【図7】本発明による検出システムを使用して小さな角度で測定された配向層状結晶上のブラッグ反射のオーダー001の3次元観察を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子ビーム(10)を放出する手段(1)と、試料(3)を支えるため適合したサポート手段(2)と、中性子放射線による活性化に適合した光電子放出手段(5)と、冷却低光レベル電荷結合検出装置(7)とを備える中性子放射線の2次元検出システムであって、
前記放出手段(1)がモノクロ中性子ビーム(10)を放出し、
前記サポート手段(2)と前記光電子放出手段(5)との間に位置し前記試料(3)によって透過されたモノクロ中性子ビーム(12)の少なくとも実質的な部分を捕捉するため適合したフィルタ手段(4)と、前記電荷結合検出装置(7)の上流に位置し前記電荷結合検出装置(7)と連結されている増幅手段(6)とをさらに備えることを特徴とする、
中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項2】
前記フィルタ手段(4)が前記試料(3)によって透過された前記モノクロ中性子ビーム(12)の全体を捕捉することを特徴とする、請求項1に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項3】
前記光電子放出手段(5)が単一の原子核反応から発生するアルファ線を放出することを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項4】
前記光電子放出手段(5)がリチウムベースのシンチレータであることを特徴とする、請求項3に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項5】
前記リチウムベースのシンチレータが硫化リチウムに基づく複合材料であることを特徴とする、請求項4に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項6】
前記リチウムベースのシンチレータがフッ化リチウムに基づく複合材料であることを特徴とする、請求項4に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項7】
前記光電子放出手段(5)が、5から100cmの長さ、5から100cmの幅、および、1.2mm以下の厚さを有するプレートの形をしていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項8】
前記光電子放出手段(5)が平面状であることを特徴とする、請求項3から7のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項9】
前記光電子放出手段(5)が、長さと幅が5から10cmまで変化する寸法を有する平面によって定められた円筒の一部分によって画定された曲面状であることを特徴とする、請求項3から7のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項10】
前記光電子放出手段(5)が球の一部分によって画定された曲面状であることを特徴とする、請求子3から7のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項11】
前記光電子放出手段(5)が、光不透過性であり、中性子放射線透過性であり、前記光電子放出手段(5)の入口に位置する表面(34)で裏打ちされていることを特徴とする、請求項3から10のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項12】
前記不透過性表面(34)が前記光電子放出手段(5)を所定の位置に保持するため適合した剛性材料から作られていることを特徴とする、請求項11に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項13】
前記不透過性表面がアルミニウムプレートであることを特徴とする、請求項11または12のいずれかに記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項14】
前記電荷結合検出装置(7)が少なくとも12ビットで符号化できることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項15】
前記電荷結合検出装置(7)が16ビットで符号化できることを特徴とする、請求項14に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項16】
前記電荷結合検出装置(7)が可変ポーズ時間に適合したカメラであることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項17】
前記光電子放出手段(5)、前記増幅手段(6)、および、前記電荷結合検出装置(7)が、前記光電子放出手段(5)によって放出された光放射線以外の光放射線が内部に侵入できないように設計されたボックス(24)の中に収納されていることを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項18】
前記光電子放出手段(5)、および、前記増幅手段(6)と連結された前記電荷結合検出手段(7)がそれぞれ前記ボックス(24)の入口端および出口端を形成することを特徴とする、請求項17に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項19】
前記試料(3)の前記サポート手段(2)と前記光電子放出手段(5)との間のパラサイト放射の影響を低減させる能力がある保護手段をさらに備えることを特徴とする、請求項18に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項20】
前記保護手段が、底面として前記光電子放出手段(5)を有し、前記試料(3)の前記サポート手段(2)と前記光電子放出手段(5)との間に位置している円錐またはピラミッド形状のエレメント(22)であることを特徴とする、請求項19に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項21】
前記保護手段が、円筒部(33)およびテーパー付き端部(32)を備え、前記ボックス(24)を取り囲むケーシング(30)であることを特徴とする、請求項19に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項22】
前記保護手段が前記試料(3)から発生していないパラサイト放射を吸収するため適合した側壁を含むことを特徴とする、請求項19から21のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項23】
前記保護手段が不活性気体またはプライマリバキュームを収容することを特徴とする、請求項19から21のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項24】
前記不活性気体がヘリウムであることを特徴とする、請求項23に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項25】
前記不活性気体がアルゴンであることを特徴とする、請求項23に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項26】
前記不活性気体が窒素であることを特徴とする、請求項23に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項27】
前記ボックス(24)が中性子およびガンマ線を吸収するため適合した内壁(25)を備えることを特徴とする、請求項17から26のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項28】
前記増幅手段へ向かって前記光電子放出手段(5)によって放出された光放射(14)だけを反射するため適合したミラー(26)をさらに備えることを特徴とする、請求項1から27のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項29】
前記ミラー(26)がアルミニウム処理された石英から作られ、10mm以下の厚さであることを特徴とする、請求項28に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項30】
前記ミラー(26)が平面状であることを特徴とする、請求項28または29のいずれかに記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項31】
前記ミラー(26)が曲面状であることを特徴とする、請求項28または29のいずれかに記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項32】
前記光電子放出手段(5)の出口に配置され、中性子およびガンマ線を吸収する手段(23)をさらに備えることを特徴とする、請求項1から31のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項33】
前記増幅手段(6)および前記電荷結合検出装置(7)がガンマ線を止めるシールド(27)によって取り囲まれていることを特徴とする、請求項1から32のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項34】
前記シールド(27)が厚さと密度の積が34以上であるような厚さおよび密度を有する金属であることを特徴とする、請求項33に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項35】
前記シールド(27)が約2cmの厚さのタングステンで作られていることを特徴とする、請求項33または34のいずれかに記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項36】
前記放出手段(1)と前記サポート手段(2)との間に配置され、0.5から15mmの径を有する出力中性子ビーム(11)を出力するコリメーション装置(21)をさらに備えることを特徴とする、請求項1から35のいずれか一項に記載の中性子放射線の2次元検出システム。
【請求項37】
試料へ向かって中性子ビームを放出するステップと、
前記試料から出力された前記中性子ビームを光子に変換するステップと、
冷却低光レベル電荷転送検出装置によって放出された前記光子を検出するステップと、
からなるステップを備える中性子放射線の2次元検出方法であって、
前記試料へ向かって放出された前記中性子ビームをモノクロ中性子ビームに変換するステップと、
前記試料によって透過された前記モノクロ中性子ビームの少なくとも実質的な部分を捕捉するように、前記試料から出力された前記中性子ビームをフィルタするステップと、
前記冷却低光レベル電荷転送検出装置の上流で光子放射線を増幅するステップと、
からなるステップをさらに備えることを特徴とする、中性子放射線の2次元検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−533458(P2008−533458A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500205(P2008−500205)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際出願番号】PCT/EP2006/060611
【国際公開番号】WO2006/095013
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【出願人】(502142323)コミサリア、ア、レネルジ、アトミク (195)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【Fターム(参考)】