説明

中性粒子線ビーム装置

【課題】加工形状を厳密に調整するためには粒子ビームを中性化することが必要である。この中性化を、イオンビームの生成条件や加工条件とは独立に制御可能とし、品質の高い中性粒子ビームを得る。
【解決手段】プラズマを生成しイオンビームを射出するプラズマチャンバ1と、イオンビームを中性化するキャピラリ部2と、キャピラリ部を通過したビームを被加工物に照射する加工チャンバ3とを有する中性粒子線ビーム装置であって、キャピラリ部は、キャピラリ中に中性ガスを供給し排気する手段と、それらを制御しキャピラリ中の中性ガス圧を所定値に設定する制御手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細な表面形状を加工する中性粒子線ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体磁気ヘッドなどの製造工程において微細な表面形状をドライな環境で製作する手法の一つにイオンミリングイオンビームエッチング技術がある。両技術はイオン粒子を加速して被加工物の表面に照射しイオン衝突時の衝撃によって表面を構成する粒子を叩き出し表面形状を改変するものである。これらの技術は化学反応を利用するRIE(反応性イオンエッチング技術)と比較して被加工物に対する選択性が少ないという特徴がある。その一方で電荷を有する粒子を衝突させるため加工物表面に電荷が蓄積しやすくその結果被加工物に静電気に起因する損傷を与える可能性がある。この損傷可能性を低減することを目的としてイオンビームと共に電子線を加工面に照射し加工面上で再結合させることにより電荷を中和する手法が古くから行われている。
【0003】
これに対して、近年ビーム自体の中性化が検討されている。通常ビームの中性化はイオンビームと中性原子とを衝突させた場合に起こる電荷交換により実現されている。しかし中性化領域に入射するイオンビームと生成された中性ビームの比として定義される中性化率は高々6割程度に留まっている。
【0004】
従来の中性粒子線ビーム装置は図1に示すようにイオンを生成するためのプラズマチャンバ1(イオンビームをプラズマより引き出す電極11を有し、イオン銃を構成する)、引き出されたイオンを中性化する中性化チャンバ(キャピラリ部)2、および被加工物を配設しビームを照射して加工する加工チャンバ3の三ブロックから構成される。キャピラリ部2は複数の細管(キャピラリ20)を設置しその中にビームを通すことによりビームの直進性を得ると同時にキャピラリ20内でイオンビームと中性ガスを衝突させ両者の電荷交換により中性粒子ビームを得ている。
【0005】
プラズマチャンバ1は高密度のプラズマを生成するために所定のガス圧に設定された状態で外部より電力が印加されプラズマが励起される。また加工チャンバ3はビーム粒子の平均自由工程を長く保つために可能な限り低圧力に維持する必要がある。プラズマチャンバ1には放電ガスが常時供給されるためポンプの排気速度やキャピラリ部2のコンダクタンスによって決まる圧力以下となることは無い。またこの条件下ではキャピラリ20内のガス圧は一定値となりイオンビームに対する衝突断面積も一定である。従ってキャピラリ20内部での衝突断面積に依存するビーム中性化率は一定となる。しかしビームの中性化率は高いことが好ましくかつ被加工物のダメージを考慮すると装置のパラメータに依存した値で固定されることは必ずしも望ましくない。
【0006】
中性化率はキャピラリ20内の中性ガス圧に依存するが、キャピラリ20内のガス圧を変えるためには
(1)プラズマチャンバ1へのガス供給量を変更する。
(2)キャピラリ20の管径もしくは長さを変更する。
ことが必要となる。しかし前者はプラズマチャンバ1や加工チャンバ3のガス圧も変化させざるをえず、プラズマの生成条件が変化するのでプラズマ生成の安定性を阻害する可能性があり、加工チャンバ3内の衝突断面積が変化するため加工条件自体が変化する可能性がある。後者は変更に時間を要するため実用的でないという問題がある。
【特許文献1】特許3064214 イオンビームと残留ガス(中性ガス)とを接触させ中和させるとき板状電極(キャピラリ相当)にある穴の径と長さ(板の厚さ)との関係により中性化率と直進性が決定されることが示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
加工形状を厳密に調整するためには粒子ビームの厳密な制御が必須であり、そのためにはプラズマ生成チャンバ、中性化チャンバ、加工チャンバの役割を完全に分離し、独立に精度良く制御することが重要である。
【0008】
各チャンバの主な制御パラメータは
・プラズマ生成チャンバ:高周波電力、ガス圧(ガスの供給量と排気量で決まり、最適値がある)、ガス種
・中性化チャンバ:ガス種、ガス圧(これで中性化率が決まる)、形状の異方性 (粒子ビームの飛行方向を限定するために長い管を使い、加工チャンバ側へまっすぐ飛ぶもの以外は管壁に衝突させてエネルギーを失わせる)
・加工チャンバ:真空度(粒子ビームの飛来を阻害しないため、高真空が望ましい)
である。
【0009】
本発明は、この中性化を、イオンビームの生成条件や加工条件とは独立に制御可能とし、品質の高い中性粒子ビームを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
プラズマチャンバ1(電極11によりイオン銃を構成する)と被加工物を配設する加工チャンバ3との間に配設するキャピラリ部2(中性化チャンバ)に中性ガス供給口21を設け中性ガスを注入することによって中性化を促進する。ただし、中性化領域に供給されたガスは、そのままではプラズマ生成チャンバと、特に加工チャンバに流入するため、それらに影響を与えてしまう。排気口22を設け、排出することにより影響を少なくする。
【0011】
キャピラリ部からプラズマ生成チャンバ側に流入するガスは生成されるビームの品質を劣化させ、加工チャンバ側へ流入するガスは、中性化したビームと衝突してビームを散乱させるため、被加工物の加工形状を鈍らせる原因となる。
【0012】
キャピラリ部2内に中性ガスを供給・排気することによりブラズマチャンバ1および加工チャンバ3とは独立に、キャピラリ部2のガス圧を制御する。両口からのガス供給量と排気量とを制御・調整することによってキャピラリ部2内のガス圧を決定できる。接続部分の真空度を高めるために差動排気構成としている。
【0013】
中性粒子ビームはキャピラリの長手方向に速度を有するイオンビームとの衝突により生成されるので、同様に長手方向に速度を持っている。そのため、中性化ガスとは異なり影響を受けずに差動排気領域を通過する。従って、中性化ガスをプラズマ生成、加工領域に流入させずに中性化され、方向の揃った粒子ビームのみを加工領域で利用できることとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によりキャピラリ内のガス圧を変えることによって、キャピラリ内に入射したイオンビームの衝突断面積、言い換えればイオンビームと中性ガスとの衝突確率が変化するため、結果として中性化率が制御できることとなる。すなわち中性化率を変えることができる中性粒子線ビーム装置が可能となり、微細加工において被加工物表面の静電気帯電に起因する損傷を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施例1)
図2にキャピラリの構成例を示す。本図ではキャピラリ部2は2つに分割し中性ガス供給部21排気部22 と呼称する。この構成によりプラズマチャンバ1、加工チャンバ3のガス圧への影響を少なくできる。キャピラリ部2とプラズマチャンバ1とを隔てる電極にキャピラリをさらに設けるかまたは電極そのものをキャピラリ構造にすればガス圧への影響をさらに軽減できる。加工チャンバ3との間も同様である。
【0016】
プラズマ生成チャンバ1からイオンビームを引き出すためには、通常3枚程度のアパーチャグリッドと呼ばれる穴あきの電極板を使い(合わせて電極11と呼ぶ)、イオン銃とする。
【0017】
電極板のグリッドは、プラズマ側から順に、引き出し電極、加速電極、遮蔽電極と呼び、それぞれ正、負、接地電位とする。引き出し電極でプラズマ中の電子をひきつけ、イオンのみ穴を通過させ、加速電極でイオンを加速し、遮蔽電極は引き出したイオンが元に戻
らないように電位分布を調整する。
【0018】
この構成では、電位分布とイオンビームの初速度ベクトルとの兼ね合いで、進行方向がランダムにばらつくため、何らかの方法で選別することが加工形状を安定化させるために必要である。横方向の速度ベクトルを有する粒子(イオン、中性粒子の両方)はキャピラリの内壁面に衝突し運動エネルギーを失うために、加工チャンバには侵入できない。これを実現するために必要なキャピラリ長はイオンビームの初速度に依存する。通常、10mm 以上である。
【0019】
キャピラリは基本的に接地する (管の内壁面に衝突するイオンによる帯電を防止するため) ものであるので遮蔽電極を兼ねることが可能である。
(実施例2)
別の実施構成例を図3に示す。キャピラリ20を少なくとも2つに分割し、それらの間に中性ガス供給口21を、他の端部に排気口22を設けるのがより好ましい。本図ではキャピラリ部2は3つに分割しているがこれに限定されるものではない。以下の説明ではキャピラリ部2を便宜的に図左より排気部22a中性ガス供給部21排気部22bと呼称する。中性ガス供給部21より中性ガスを供給し、同時に排気部22a、22bから供給された中性ガスを排気する。片方の排気部22bだけから排気するのでもよい。
【0020】
本構成により、キャピラリ部2の両側に位置するプラズマチャンバ1、加工チャンバ3内のガス圧を変えずにキャピラリ部2内のガス圧を可変できることとなる。中性ガス供給部22の長さは所望の中性化率が得られる程度に調整しておく。
【0021】
なお、中性ガス供給部21に供給される中性ガスはプラズマチャンバ1に供給されるガスと必ずしも同一種である必要は無く、加工効率やコスト等を鑑みて別種のガスを利用することも可能である。通常、中性ガスとしては質量が重い方がよいので、例えば、イオンガスとしてアルゴン、中性ガスとしてキセノンまたは化合物ガスが考えられる。
(実施例3)
また加工チャンバ3の被加工物近傍に電位レベルが可変なビーム収集電極(図示しない。熱量計などが好適である。)を配備し、電位レベルをグランド電位とイオンビームの加速電位とに変更した場合に電極に衝突する粒子による発熱量の差を計測する。それによって電荷量を計測し、中性化率を算出し、それに基づいてキャピラリ部2への中性ガス供給量と排気量を制御する制御装置を設ける。これにより、中性化率が所定の値となるようにキャピラリ内の中性ガス圧を自動調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来例を示す図である。
【図2】実施例1の構成図である。
【図3】実施例2の構成図である。
【符号の説明】
【0023】
1 プラズマチャンバ
11 引き出し電極等
2 キャピラリ部
20 キャピラリ
21 中性ガス供給部(中性ガス供給口)
22 中性ガス排気部(排気部22a,22b)
3 加工チャンバ
31 補助電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを生成しイオンビームを射出するプラズマチャンバと、イオンビームを中性化するキャピラリ部と、キャピラリ部を通過したビームを被加工物に照射する加工チャンバとを有する中性粒子線ビーム装置であって、
キャピラリ部は、キャピラリ中に中性ガスを供給する手段と排気する手段と、それらを制御しキャピラリ中の中性ガス圧を所定値に設定する制御手段とを有する
ことを特徴とする中性粒子線ビーム装置。
【請求項2】
請求項1に記載の中性粒子線ビーム装置であって、
キャピラリ部は、それぞれプラズマチャンバと加工チャンバとに隣接する2つのキャピラリと、それらの間の中間部分とを有し、中間部分から中性ガスを供給し、キャピラリの他端の両方又は片方から排気する構成である
ことを特徴とする中性粒子線ビーム装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の中性粒子線ビーム装置であって、
キャピラリ部に供給される中性ガスはプラズマガスとは異なる種類のガスである
ことを特徴とする中性粒子線ビーム装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3に記載の中性粒子線ビーム装置であって、
加工チャンバ内においてキャピラリ部を通過して飛来する粒子ビームの電荷量を計測する電荷量測定手段と、
計測された電荷量に基づいて、キャピラリ部への中性ガス供給量を制御することによりキャピラリ内の中性ガス圧を調整する制御手段と
を有することを特徴とする中性粒子線ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−190617(P2006−190617A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2831(P2005−2831)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】