説明

中性脂肪蓄積抑制剤

【課題】脂肪細胞への中性脂肪(トリグリセライド)の蓄積に対して優れた抑制効果を示し、かつ安全性の高い中性脂肪蓄積抑制剤、抗肥満剤、痩身剤を提供することにある。
【解決手段】紫苑、小豆蒄、石菖根、前胡、桑白皮及び苦木から選ばれる生薬の抽出物を有効成分とする中性脂肪蓄積抑制剤、抗肥満剤及び痩身剤を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満予防、痩身等に有用な中性脂肪蓄積抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現代は夜食・過食などの機会が多い一方、運動不足が重なり生活様式が変化してきたことに伴ない大人だけでなく子供を含め肥満傾向にある。さらに、精神的及び身体的ストレスにより生体のホルモンバランスのくずれを引き起こし、生体内での脂肪代謝が正常に機能しないことから中性脂肪の異常代謝による蓄積を生じ、肥満になる傾向にある。中性脂肪の蓄積は体の均整を損なう容姿面の問題だけでなく、動脈硬化につながる高脂血症や高血圧症などの生活習慣病の引き金となる面も併せ持つことから、その予防及び治療が求められている。また、中性脂肪の蓄積に関しては肥満症のみならずそうでない人においても多くの人が関心を抱いている。
【0003】
肥満の処置に対しては、食事療法や脂肪吸引などによる痩身法、脂肪燃焼促進法及び有酸素運動などが知られている。また、脂肪細胞中の脂肪を分解する方法などが知られている。ノルアドレナリンやアドレナリン、グルカゴンなどの生体内ホルモンは、脂肪分解の促進作用を有することが知られている。さらに、カフェイン、テオフィリンなどの化合物も同様に脂肪分解を促進する作用を有するとの報告もある。また、カフェインなどの脂肪分解性物質と成長因子を組み合わせて含有するもの(特許文献1)等が有効であると報告されている。しかし、ホルモンやカフェインなどは、副作用も予想され、痩身効果を期待して長期間使用することには問題がある。
【0004】
一方、各種の生薬抽出物は様々な薬理効果及び機能的側面から各分野で研究されている。例えば、リパーゼ活性を阻害することで肥満の予防又は改善する生薬(特許文献2、3)、脂肪分解を促進する植物及び生薬抽出物(特許文献4、5)、体内に蓄積された脂肪の利用率を促進する生薬(特許文献6)、血中脂質濃度を下げる生薬抽出物(特許文献7)、前駆脂肪細胞の分化を抑制する植物抽出物(特許文献8)及び脂肪吸収を抑制する生薬抽出物(特許文献9)などが報告されている。
【特許文献1】特表平6−506668号公報
【特許文献2】特開2005−32023号公報
【特許文献3】特開2008−74735号公報
【特許文献4】特許第3604123号公報
【特許文献5】特開2005−60366号公報
【特許文献6】特開平11−228434号公報
【特許文献7】特開2003−146901号公報
【特許文献8】特開2005−239659号公報
【特許文献9】特開2007−230984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、脂肪細胞への中性脂肪の蓄積を抑制することにより肥満を改善したり痩身を促進する生薬エキスについての報告はない。
従って、本発明の目的は、脂肪細胞への中性脂肪(トリグリセライド)の蓄積に対して優れた抑制効果を示し、かつ安全性の高い中性脂肪蓄積抑制剤、抗肥満剤、痩身剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、使用経験のある生薬に注目し、細胞に対する中性脂肪の蓄積性を評価する系を用いて種々検討してきたところ、全く意外にも、従来、肥満、脂肪、脂質などへの作用についての報告がない6種の生薬が、優れた中性脂肪蓄積抑制効果を有し、抗肥満剤や痩身剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、紫苑、小豆蒄、石菖根、前胡、桑白皮及び苦木から選ばれる生薬の抽出物を有効成分とする中性脂肪蓄積抑制剤、抗肥満剤及び痩身剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の中性脂肪蓄積抑制剤を用いれば、細胞への中性脂肪の蓄積を抑制することにより、抗肥満、痩身、ひいてはメタボリックシンドロームの予防に有用である。本発明に用いる生薬は、長い使用経験を持つことから、長期間摂取可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の中性脂肪蓄積抑制剤の有効成分は、紫苑、小豆蒄、石菖根、前胡、桑白皮及び苦木から選ばれる生薬の抽出物である。ここで、紫苑は、キク科の多年草であり、根の部分が用いられ去痰作用、抗結核作用、抗菌・抗ウイルス作用、利尿作用および鎮痛作用を有することが知られている。
小豆蒄は、ショウガ科Elettaria 属植物の果実で、用時には種子のみを用い芳香健医薬として知られている。
石菖根は、サトイモ科のセキショウの根茎を用いたものであり、鎮静作用・健胃作用・鎮痛作用・利尿作用・抗真菌作用などが知られている。
前胡は、セリ科 Umbelliferae の白花前胡 Peucedanum praeruptorum Dunn.の根を乾燥したものであり、去痰作用・冠状動脈血流量の増加作用、このほかに鎮静作用もあることが知られている。
桑白皮は、クワ科クワの根皮であり、利尿・消炎作用、このほかに降圧作用のあることが知られている。
苦木は、ニガキ Picrasma quassioides Bennet (Simarubaceae)の樹皮を除いた木部であり、苦味健医薬として知られている。
【0010】
これらの生薬の抽出物としては、中性脂肪蓄積抑制効果を損なわない条件で抽出されたものであればよく、例えば水;メチルアルコール、エチルアルコールなどの低級アルコール;プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどの多価アルコール;アセトンなどのケトン類;ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステルなどのエステル類;キシレン、ベンゼン、クロロホルムなどによる抽出物が挙げられる。これら溶媒は単独であるいは2種以上の混合溶媒を用いて抽出することもできる。これらのうち、水、低級アルコール又はこれらの混合溶媒により抽出したものが特に好ましい。
【0011】
また抽出方法も特に限定されず、浸漬法や向流抽出法を採用することができる。また抽出物は、濃縮物、乾燥品などをそのまま用いてもよく、さらに各種の精製法により精製して用いてもよい。
【0012】
後述の実施例に示すように、上記生薬の抽出物は脂肪細胞の前駆細胞である3T3−L1細胞への中性脂肪の蓄積を強く抑制する作用を有する。その作用は、他の生薬である烏薬、常実、杏仁、決明子、半夏、麻子仁に比べて極めて強力である。従って、本発明の中性脂肪蓄積抑制剤は、ヒトを含む哺乳類の抗肥満剤、痩身剤、メタボリック症候群防止剤、抗動脈硬化剤、抗高脂血症剤、皮下及び内臓脂肪貯蓄抑制剤、生活習慣病抑止剤、抗脂肪肝剤等として有用である。また、肝硬変や肝臓癌などの原因となるC型肝炎ウイルスは細胞内の中性脂肪を利用して増殖しており、さらに、ウイルスのコアと呼ばれる蛋白質の働きで、細胞内の中性脂肪が増加するという報告の見られることから新たな治療への応用が期待される。
【0013】
本発明の中性脂肪蓄積抑制剤、抗肥満剤、痩身剤(以下、中性脂肪蓄積抑制剤等という)は、経口及び外用のいずれの投与形態でも使用することができる。従って、これらの作用を目的とする医薬、医薬部外品、化粧料、機能性食品、特定保健用食品、ペットフード等として有用である。
【0014】
本発明の中性脂肪蓄積抑制剤等の経口投与用の形態としては、錠剤、顆粒、粉末、カプセル等の固形剤、ゲル剤、液剤、シロップ剤等の液剤等が挙げられる。また外用の形態としては、クリーム、軟膏、乳液、ローション、オイル、パックなどの形態が挙げられる。
【0015】
本発明の中性脂肪蓄積抑制剤等中の前記生薬抽出物の含有量は特に制限されないが、乾燥固形分として0.001〜100質量%、さらに0.1〜50質量%、特に0.1〜30質量%が好ましい。また、前記生薬抽出物以外の他の薬効成分、例えばリパーゼ阻害剤、脂肪分解促進剤、血中脂質低下剤等を配合することもできる。
【実施例】
【0016】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0017】
製造例
各生薬1重量部を30%アルコール水20重量部に一昼夜浸漬させ濾過した後、蒸発乾固する。その残渣に水2重量部を加えよく混和後、再度濾過して不溶分を除去した。
【0018】
実施例1〜12及び比較例1
実験マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を6穴マルチプレートで10%牛胎児血清を含むDME培地(ダルベッコ変法イーグル培地)により37℃で2日間培養した。その後、培地にデキサメタゾン(0.05M)、イソブチルメチルキサンチン(0.5mM)およびインスリン(1μg/mL)を加え脂肪細胞へと分化させた。分化誘導処理は2日間行い、その後は生薬抽出物を含む培地で2〜3日毎に12日間培地を交換しながら培養した。なお、培養液中の生薬抽出物濃度は0.5mg/mLとした。脂肪細胞へ分化した3T3−L1細胞はDPBS(ダルベッコ・リン酸緩衝液)で洗浄後、25mM Tris緩衝液で溶解した。中性脂肪はクロロホルム/エタノールで抽出し、クロロホルム画分を風乾し、中性脂肪測定用サンプルとした。中性脂肪はTG測定キット(和光純薬工業(株))で測定した。試験を行うにあたり、各抽出成分に細胞毒作用の無いことを確認して検討した。
【0019】
【表1】

【0020】
表1及び図1に示すように、対照群に比べ、紫苑を培地に添加した群ではTG量が70.6%、小豆蒄を培地に添加した群では54.7%、石菖根を培地に添加した群では76.1%、前胡を培地に添加した群では52.4%、桑白皮を培地に添加した群では69.9%、苦木を培地に添加した群では89.3%、中性脂肪の蓄積が減少した。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】各種生薬抽出物添加群の中性脂肪蓄積量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫苑、小豆蒄、石菖根、前胡、桑白皮及び苦木から選ばれる生薬の抽出物を有効成分とする中性脂肪蓄積抑制剤。
【請求項2】
紫苑、小豆蒄、石菖根、前胡、桑白皮及び苦木から選ばれる生薬の抽出物を有効成分とする抗肥満剤。
【請求項3】
紫苑、小豆蒄、石菖根、前胡、桑白皮及び苦木から選ばれる生薬の抽出物を有効成分とする痩身剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−105976(P2010−105976A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281281(P2008−281281)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000102496)エスエス製薬株式会社 (50)
【Fターム(参考)】