説明

中空シリコーン系微粒子含有熱可塑性樹脂フィルム

【課題】 本発明は、生産性が良く熱可塑性樹脂との相溶性に優れる中空シリコーン系微粒子を含有することにより、透明性に優れた熱可塑性樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】 内部に空洞を有し、外殻部がシリコーン系化合物(A)からなる中空シリコーン系微粒子を含有することを特徴とする、熱可塑性樹脂フィルム。熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記中空シリコーン系微粒子を0.01〜20重量部含有することが好ましい。シリコーン系化合物(A)は、SiO4/2単位、RSiO3/2単位およびRSiO2/2単位からなる群より選ばれる1単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空シリコーン系微粒子を含有する熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルムは、その優れた物理的および化学的特性から、ディスプレイ、磁気テープ、電気絶縁用、包装材料などに広く用いられている。特に近年、ディスプレイ、電気絶縁用途では高性能化により、更なるフィルムの薄膜化が必要となり、薄膜フィルムでの透明性、耐擦傷性などの向上が求められている。
【0003】
従来、熱可塑性フィルムの耐磨耗性、耐擦傷性を向上させるために、二酸化珪素、二酸化チタンなどの各種無機化合物微粒子をフィルム中に含有させて、表面に凹凸を形成する方法が知られている(特許文献1)。この方法により耐磨耗性は向上するが、無機化合物粒子は熱可塑性樹脂との密着性や親和性が不十分であるため、フィルム成形時に無機化合物粒子と熱可塑性樹脂の界面で剥離したり、ボイドによりHazeが高くなる問題があった。
【0004】
一方、近年になり前記無機微粒子の代わりに細孔を有する無機複合酸化物粒子を用いる方法が開示されている(特許文献2)。この方法では、細孔内部に熱可塑性樹脂が入りこみ複合化されることにより、Hazeの上昇を抑えている。しかし、無機複合酸化物粒子内に細孔を形成するためには、20時間以上の反応が必要で製造工程が長く、また熱可塑性樹脂との密着性のためには2種以上の無機酸化物粒子が必要などの問題があった。
【特許文献1】特開昭61−98729号公報
【特許文献2】国際公報WO95/33787
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生産性が良く熱可塑性樹脂との相溶性に優れる中空シリコーン系微粒子を含有することにより、透明性に優れた熱可塑性樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、内部に空洞を有し、外殻部がシリコーン系化合物(A)からなる中空シリコーン系微粒子を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムが、透明性に優れていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち本発明は、内部に空洞を有し、外殻部がシリコーン系化合物(A)からなる中空シリコーン系微粒子を含有することを特徴とする、熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【0008】
好ましい実施態様は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記中空シリコーン系微粒子を0.01〜20重量部添加することを特徴とする、前記の熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【0009】
好ましい実施態様は、シリコーン系化合物(A)が、SiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基を持つ有機基の少なくとも1種を示す)およびRSiO2/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基を持つ有機基の少なくとも1種を示す)からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるシリコーン系化合物(A)であることを特徴とする、前記の中空シリコーン系微粒子に関する。
【0010】
好ましい実施態様は、前記中空シリコーン系微粒子が下記工程(a)〜工程(b)により製造されたものであることを特徴とする、前記熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【0011】
(a)有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)からなる粒子を、シリコーン系化合物(A)により被覆して、コアシェル粒子(D)を製造する工程。
【0012】
(b)コアシェル粒子(D)中の有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)からなる粒子を除去する工程。
【0013】
好ましい実施態様は、前記工程(b)において、有機溶剤を用いてコアシェル粒子(D)中の有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)からなる粒子を除去することを特徴とする、前記熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の中空シリコーン系微粒子は、生産性が良く、壊れ難く、粒子表面に有機基を持つため、熱可塑性樹脂との相溶性に優れている。この中空シリコーン系微粒子を含有することにより、透明性に優れた熱可塑性樹脂フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、中空シリコーン系微粒子を含有する熱可塑性樹脂フィルムを提供するものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
<中空シリコーン系微粒子>
本発明に用いる中空シリコーン系微粒子は、外周部がシリコーン系化合物(A)からなる中空構造の粒子である。このような中空シリコーン系微粒子は、例えば、有機又は無機のコア粒子をシリコーン系化合物(A)で被覆した後、コア粒子を除去することによって得られる。簡便な方法で空隙率を高くできるという点からは、有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)からなる粒子を、SiO4/2単位、RSiO3/2単位およびRSiO2/2単位からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるシリコーン系化合物(A)で被覆した後、有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)を除去することにより得られる中空シリコーン系微粒子であることが好ましい。
【0017】
本発明の有機高分子粒子(B)の組成については限定されるものではなく、例えば、ポリアクリル酸ブチル、ポリブタジエン、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体等に代表される軟質重合体でもよく、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸ブチル−スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体等の硬質重合体でも問題なく使用できる。後の凝固工程での除去性という点から、これらのうち軟質重合体が好ましく、ポリアクリル酸ブチルがより好ましい。
【0018】
本発明の有機高分子粒子(B)の製造法は、特に限定されず、乳化重合法、マイクロサスペンジョン重合法、ミニエマルション重合法、水系分散重合法など公知の方法が使用できる。なかでも、粒子径の制御が容易であり、工業生産にも適する点から、乳化重合法により製造することが特に好ましい。通常、乳化重合法で製造された有機高分子粒子(B)は球状になるため、これをコアとして用いると、球状の空洞を一つ有する中空シリコーン粒子を製造することができる。有機高分子粒子(B)のラテックスに無機塩などを加えて一部凝集させたものをコアに用いると、連球状など不定形の空洞を有する中空シリコーン粒子や、複数の空洞を有する中空シリコーン粒子を製造することもできる。空隙率を高くしやすいという点からは、中心部に球状の空洞を一つ有する構造にすることが好ましい。
【0019】
前記有機高分子粒子(B)の重合にはラジカル重合開始剤が用いられうる。ラジカル重合開始剤の具体例としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などが挙げられる。上記重合を、例えば、硫酸第一鉄−ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ−エチレンジアミンテトラアセティックアシッド・2Na塩、硫酸第一鉄−グルコース−ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄−ピロリン酸ナトリウム−リン酸ナトリウムなどのレドックス系で行うと、低い重合温度でも効率的に重合を完了することができる。
【0020】
本発明の有機高分子粒子(B)は、後の段階で行なわれる有機高分子の除去を有機溶媒により行う場合を考慮すると非架橋高分子であることが好ましく、有機高分子粒子(B)の分子量は低い方が好ましい。具体的には、重量平均分子量が30000未満であることが好ましく、さらには10000未満であることがより好ましい。有機高分子粒子(B)の重量平均分子量を低くするためには、例えば、連鎖移動剤の使用、高い重合温度に設定、多量の開始剤を使用するなど種々の手段を適宜組み合わせて選択することができる。連鎖移動剤の具体例としてはt−ドデシルメルカプタンやn−ドデシルメルカプタンなどが挙げられる。有機溶剤に溶解しやすい有機高分子粒子(B)が得られるという点からは、連鎖移動剤の使用量は原料モノマー100重量部あたり0.1〜40重量部が好ましく、5〜35重量部がより好ましく、15〜30重量部が特に好ましい。有機高分子粒子(B)の重量平均分子量の下限値は特に制限されるものではないが、合成の難易度の点から、概ね2000程度である。なお、重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析(ポリスチレン換算)によって測定できる。
【0021】
本発明においては、有機高分子粒子(B)の粒子径分布を狭くするためにシード重合法を利用することもできる。中空シリコーン系微粒子が均一な屈折率を有するという点からは、有機高分子粒子(B)の粒子径分布は狭い方が好ましい。なお、ラテックス状態の有機高分子粒子(B)やコアシェル粒子(D)の体積平均粒子径は、光散乱法または電子顕微鏡観察から求められうる。体積平均粒子径および粒子径分布は、例えば、リード&ノースラップインスツルメント(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS)社製のMICROTRAC UPAを用いることにより測定することができる。
【0022】
本発明における有機溶剤(C)は、水に溶けず、乳化剤により微粒子を形成できるものであればよく、具体例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明においては、有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)からなる粒子がコアシェル粒子(D)の製造におけるコアとして用いられうる。本発明では最終的に有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)を除去する。有機高分子粒子(B)および有機溶剤(C)を併用しても良く、有機高分子粒子(B)または有機溶剤(C)の単独使用でも良い。前記粒子において、有機高分子粒子(B)および有機溶剤(C)を併用する場合の使用割合については、重量比で有機高分子粒子(B)/有機溶剤(C)が100/0〜1/99の範囲が好ましい。
【0024】
本発明の中空シリコーン系微粒子において外周部となるシリコーン系化合物(A)は、SiO4/2単位、RSiO3/2単位およびRSiO2/2単位からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であることが好ましい。複数のRは各々同じであっても良く、異なっていても良い。
【0025】
前記SiO4/2単位の原料としては、例えば、四塩化ケイ素、テトラアルコキシシラン、水ガラスおよび金属ケイ酸塩からなる群より選択される1種または2種以上が挙げられる。テトラアルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、およびそれらの縮合物などが挙げられる。
【0026】
前記RSiO3/2単位の原料としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等などを挙げることができ、これらは1種または2種以上を組み合わせて適宜使用できる。
【0027】
前記RSiO2/2単位の原料としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、エチルフェニルジエトキシシランなど、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサンなどの環状化合物のほかに、直鎖状あるいは分岐状のオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0028】
本発明のシリコーン系化合物(A)100モル%中のRSiO3/2単位の割合は、コアシェル粒子(D)の粒子径分布の安定性の観点から、50〜100モル%であることが好ましく、更には75〜100モル%であることがより好ましい。RSiO3/2単位の割合が50モル%未満になると、コアシェル粒子(D)の外に小粒子径の新粒子が生成することがある。
【0029】
本発明では、中空シリコーン系微粒子に柔軟性を持たせたい場合にRSiO2/2単位を少量混入することができる。シリコーン系化合物(A)100モル%中のRSiO2/2単位の割合は20モル%以下であることが好ましく、さらには10モル%以下であることがより好ましい。RSiO2/2単位の割合が20モル%を越えると最終の中空シリコーン系微粒子が柔軟になり過ぎて形状保持性に問題が起こる場合がある。なお、シリコーン系化合物(A)中のRSiO2/2単位の割合の下限値は0モル%である。
【0030】
本発明において、シリコーン系化合物(A)100モル%中のSiO4/2単位の割合は、中空シリコーン粒子の形状保持性の観点から、0〜50モル%であることが好ましく、更には0〜10モル%であることがより好ましい。SiO4/2単位の割合が50モル%を越えると、得られる粒子が無機物に近づき、熱可塑性樹脂との相溶性が低下したり、微粒子が凝集したりする。その結果、得られる熱可塑性樹脂フィルムの透明性が大きく低下する場合がある。
【0031】
本発明では、有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)との合計量と、シリコーン系化合物(A)との重量比率は必ずしも制限されるものではないが、2/98〜95/5であることが好ましく、さらには10/90〜50/50がより好ましい。当該比率が2/98より小さいと最終の中空シリコーン系微粒子の空隙率が低くなり過ぎる場合がある。また、逆に比率が95/5より大きいと中空シリコーン系微粒子の強度が不足して加工中に壊れる場合がある。
【0032】
本発明のコアシェル粒子(D)の体積平均粒子径は0.001〜1μmの範囲であることが好ましく、更には0.002〜0.5μmの範囲であることがより好ましい。0.001μmより小さい粒子や1μmより大きな粒子を合成することは可能であるが、安定的に合成することは難しい傾向がある。
【0033】
本発明のコアシェル粒子(D)の粒子径分布は特に制限されるものではないが、中空シリコーン系微粒子が均一な屈折率を有するという点からは、コアシェル粒子(D)の粒子径分布は狭い方が好ましい。
【0034】
本発明では、例えば、有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)と、酸触媒を含む5〜120℃の水に対し、乳化剤、SiO4/2単位の原料、SiO3/2単位の原料、およびRSiO2/2単位の原料と水の混合物をラインミキサーやホモジナイザーで乳化した乳化液を一括あるいは連続的に追加することにより、シリコーン系化合物(A)で被覆されたコアシェル粒子(D)を得ることができる。乳化液の追加は一括でも連続でも構わない。時間的には長くなるが、ラテックス状粒子の安定性や粒子径分布を重視するなら連続追加を採用することが好ましい。乳化液の追加前に酸触媒を添加して、直ちに加水分解と縮合反応が進む条件で連続追加を行うと、コアシェル粒子(D)は時間とともに大きく成長し、通常のシード重合のように、狭い粒子径分布を示すものを得ることができる。30分乃至1時間の比較的短い時間の連続追加を行うと、比較的良い生産性と狭い粒子径分布を両立することもできる。
【0035】
本発明に使用できる乳化剤としては、アニオン系乳化剤やノニオン系乳化剤が好適に使用されうる。アニオン系乳化剤の具体例としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなどが挙げられるが、特にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好適に用いられる。ノニオン系乳化剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルやポリオキシエチレンラウリルエーテルなどが挙げられる。
【0036】
本発明に用いることのできる酸触媒は、例えば、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類、および硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類が挙げられる。これらの中では、オルガノシロキサンの乳化安定性に優れる観点から、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。
【0037】
コアシェル粒子(D)を製造する際の反応のための加熱は、適度な重合速度が得られるという点で5〜120℃が好ましく、20〜80℃がより好ましい。
【0038】
本発明の中空シリコーン系微粒子を水系で合成したコアシェル粒子(D)から得る場合、ラテックス中からコアシェル粒子(D)を抽出して脱水するために、金属塩や有機溶剤を加えてろ過する処理を加えても良い。得られる中空シリコーン系微粒子の残存金属イオン成分量が少なく、熱可塑性樹脂への分散性が良いという観点からは、本発明の中空シリコーン系微粒子は、水系で乳化剤を用いて合成された体積平均粒子径が0.001〜1μmの粒子を有機溶剤によりラテックス中から抽出し脱水したものであることが好ましい。抽出に使用する有機溶剤としてはアセトンやメチルエチルケトン等の弱親水性溶剤が好ましく挙げられる。有機溶剤の種類や使用量を適切に選択すれば、抽出と同時にコアの除去を行うこともできる。
【0039】
本発明において、コアシェル粒子(D)中から有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)からなる粒子を除去する方法としては、例えば、有機溶剤を用いる方法、燃焼による方法などがあげられる。コアシェル粒子(D)中の有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)からなる粒子を除去するのに使用される有機溶剤としては、コアになる有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)からなる粒子を溶解し、シェルになるシリコーン系化合物(A)を溶解しないものが好ましい。具体例としては、アセトン、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン等が挙げられる。
【0040】
また、本発明では、コアを除去したのちさらにシリコーン系微粒子を有機溶剤で洗浄することもできる。洗浄に用いることのできる有機溶剤の具体例としては、メタノール、n−ヘキサン等が挙げられる。
【0041】
有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)からなる粒子を除去して得られる、本発明の中空シリコーン系微粒子の体積平均粒子径は0.001〜1μmの範囲であることが好ましく、更には0.002〜0.5μmの範囲であることがより好ましい。0.001μmより小さい粒子や1μmより大きな粒子は熱可塑性樹脂フィルムの透明性を低下させる傾向がある。
【0042】
<熱可塑性樹脂フィルム>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムとは、熱可塑性樹脂を溶融押出等でシート化した後、延伸等のフィルム加工したフィルムである。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステルなどの熱加工可能な熱可塑性樹脂が挙げられ、これら熱可塑性樹脂を積層した積層フィルム、または上記熱可塑性樹脂の1種または2種以上を混合して用いることもできる。
【0043】
熱可塑性樹脂フィルム中の中空シリコーン系微粒子の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部が好ましく、さらには、0.05〜5重量部であることがより好ましい。中空シリコーン系微粒子の含有量が0.01重量部より少ないと、透明性向上の十分な効果が得られず、逆に20重量部より多いと、Hazeが向上して透明性が悪化する場合がある。
【0044】
本発明において、中空シリコーン系微粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂フィルム製造工程のいずれかの段階において添加することができる。例えば、中空シリコーン系微粒子の粉末を直接、熱可塑性樹脂に添加する方法や、有機溶媒中で中空シリコーン系微粒子と熱可塑性樹脂を混ぜ合わせて、中空シリコーン系微粒子/熱可塑性樹脂粉末を得た後、熱可塑性樹脂に添加することもできる。
【0045】
熱可塑性樹脂フィルムの延伸方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることが出来る。例えば、樹脂を溶融押出してシート化した後、一軸または二軸延伸を行い、フィルムを得ることができる。延伸方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、逐次または同時延伸法、Tダイ法、キャスティング法、分散液キャスティング法、チューブ法、ゾーン延伸法、インフレーション法などが挙げられる。また、延伸温度としては、一般的に該樹脂の結晶分散温度付近または、ガラス転移温度近辺で行うと分子配向性の良い配向フィルムが得られ、また融点近傍の温度で延伸を行うと分子配向がほとんど起こらず無配向フィルムを得ることができる。熱可塑性樹脂フィルムとしては、配向フィルムおよび無配向フィルムのいずれでも良いが、一般的に分子配向度が増加すると弾性率、機械的強度なども増加するため、配向フィルムが特に好ましい。
【0046】
このようにして得られた熱可塑性樹脂フィルムは、反射防止フィルム、導電性フィルム、電気絶縁材料、プリント回路基板、磁気テープ、粘着テープ、包装材料、フレキシブルディスク、コンデンサー、写真フィルム、製版材料、印刷材料、建築材料などに用いることができる。
【実施例】
【0047】
本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。なお、以下の実施例および比較例における測定および試験はつぎのように行った。
【0048】
[体積平均粒子径]
有機高分子粒子、コアシェル粒子をラテックスの状態で測定した。測定装置として、日機装株式会社社製のMICROTRAC UPA150を用いて、光散乱法により体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0049】
[有機高分子の重量平均分子量]
有機高分子の重量平均分子量は、GPC測定データよりポリスチレン標準試料で作成した検量線を用いて換算して求めた。
【0050】
[熱可塑性樹脂塊の透明性]
中空シリコーン系微粒子と熱可塑性樹脂を混練した後の樹脂塊の状態を以下基準により評価した。
【0051】
良(○)・・・・透明
不良(×)・・・黄変
[Haze測定]
濁度計(日本電色工業株式会社製、濁度計NDH−300A)により、Hazeを測定した。
【0052】
[散乱光透過率の測定]
分光光度計(日本分光株式会社製 紫外可視分光光度計V−560型、積分球装置ISV−469型)により全光線透過率と直線光透過率を測定し、全光線透過率から直線光透過率を差し引いた値を、散乱光透過率として可視光域での極小値を読み取った。
【0053】
(製造例1)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水400重量部(種々の希釈水も含む水の総量)およびドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(SDBS)8重量部(固形分)を混合した後、50℃に昇温し、液温が50℃に達した後、窒素置換を行った。その後、ブチルアクリレート10重量部、t−ドデシルメルカプタン3重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.01重量部の混合液を加えた。30分後、硫酸第一鉄(FeSO・7HO)0.002重量部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩0.005重量部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.2重量部を加えてさらに1時間重合させた。その後ブチルアクリレート90重量部、t−ドデシルメルカプタン27重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.1重量部の混合液を3時間かけて連続追加した。2時間の後重合を行い、ラテックス状の有機高分子粒子(P−1)を得た。このラテックスの体積平均粒子径は0.06μm、重量平均分子量は4000であった。
【0054】
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水500重量部(種々の希釈水も含む水の総量)、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)3重量部、上記有機高分子粒子(P−1)のラテックス25重量部(固形分)を混合した。この時のpHは1.8であった。80℃に昇温し、窒素置換を行った。その後、別途純水100重量部、SDBS(固形分)0.5重量部、メチルトリメトキシシラン(MTMS)75重量部の混合液を30分かけて一定速度で全量を追加した。追加終了後、5時間撹拌を続けた後、25℃に冷却して20時間放置し、ラテックス状のコアシェル粒子を得た。このコアシェル粒子の体積平均粒子径は0.07μmであった。
【0055】
つづいて、室温で、ラテックス状のコアシェル粒子100重量部に対し、アセトンをまず50重量部を加えて5分間撹拌し、その後アセトン150重量部を加えて25分間撹拌して凝固粒子を得た。その後、この凝固液を50℃に加温して1時間撹拌を行って、3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離した。上澄液を除いた後、濾紙を用いて凝固粒子層を単離した。それをメタノール70重量%、n−ヘキサン30重量%の混合溶剤300重量部に分散させ、50℃に加温した後1時間撹拌を行った。この分散液を3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離した。濾紙を用いて凝固粒子層を単離して、中空シリコーン系微粒子を得た。この中空シリコーン系微粒子をイソプロピルアルコール(IPA)に分散させ、粒子含有量が5重量%の中空シリコーン系微粒子のイソプロピルアルコール(IPA)分散液を得た。
【0056】
(製造例2)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水400重量部(種々の希釈水も含む水の総量)およびドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(SDBS)12重量部(固形分)を混合した後、50℃に昇温し、液温が50℃に達した後、窒素置換を行った。その後、ブチルアクリレート10重量部、t−ドデシルメルカプタン3重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.01重量部の混合液を加えた。30分後、硫酸第一鉄(FeSO・7HO)0.002重量部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩0.005重量部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.2重量部を加えてさらに1時間重合させた。その後ブチルアクリレート90重量部、t−ドデシルメルカプタン27重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.1重量部の混合液を3時間かけて連続追加した。2時間の後重合を行い、ラテックス状の有機高分子粒子(P−2)を得た。このラテックスの体積平均粒子径は0.02μm、重量平均分子量は4000であった。
【0057】
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水500重量部(種々の希釈水も含む水の総量)、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)3重量部、上記有機高分子粒子(P−2)のラテックス25重量部(固形分)を混合した。この時のpHは1.8であった。80℃に昇温し、窒素置換を行った。その後、別途純水100重量部、SDBS(固形分)0.5重量部、メチルトリメトキシシラン(MTMS)75重量部の混合液を30分かけて一定速度で全量を追加した。追加終了後、5時間撹拌を続けた後、25℃に冷却して20時間放置し、ラテックス状のコアシェル粒子を得た。このコアシェル粒子の体積平均粒子径は0.02μmであった。
【0058】
つづいて、室温で、ラテックス状のコアシェル粒子100重量部に対し、アセトンをまず50重量部を加えて5分間撹拌し、その後アセトン150重量部を加えて25分間撹拌して凝固粒子を得た。その後、この凝固液を50℃に加温して1時間撹拌を行って、3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離した。上澄液を除いた後、濾紙を用いて凝固粒子層を単離した。それをメタノール70重量%、n−ヘキサン30重量%の混合溶剤300重量部に分散させ、50℃に加温した後1時間撹拌を行った。この分散液を3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離した。濾紙を用いて凝固粒子層を単離して、中空シリコーン系微粒子を得た。この中空シリコーン系微粒子をイソプロピルアルコール(IPA)に分散させ、粒子含有量が5重量%の中空シリコーン系微粒子のイソプロピルアルコール(IPA)分散液を得た。
【0059】
(実施例1)
製造例1で得られた中空シリコーン系微粒子のIPA5%分散液33重量%(固形分量)とヒタロイド1007(日立化成工業株式会社製)67重量%(固形分量)を撹拌した。得られた混合液に等量の水を加えて、ガーゼにより濾過した後の残渣をMeOHにより洗浄した。その後、オーブンにて50℃で2日間乾燥した後、110℃で5時間乾燥して中空シリコーン系微粒子/ヒタロイド1007粉末を得た。
【0060】
ポリメタクリル酸メチル樹脂(住友化学株式会社製、商品名スミペックスMH)100重量部、フェノール系酸化防止剤0.2重量部(株式会社ADEKA製、商品名AO−60)、リン系酸化防止剤(株式会社ADEKA製、商品名HP−10)0.2重量部、および上記粉末0.4重量部(中空シリコーン系微粒子0.13重量部)を、プラストミル「MODEL20C200」(東洋精機株式会社製)を用いて所定の条件(試料量:45g、チャンバー設定温度:180℃、予熱時間:無し、スクリュー回転数:100rpm、ブレード:ローラ型R60B2軸、チャンバー容量:60CC、ミキサー:チッカ耐磨耗ローラミキサーR60HT、混練時間:5分間)で塊状のサンプルを得た。この塊状のサンプルを、プレス機「ミニテストプレス−10」(東洋精機株式会社製)を用いて所定の条件(プレス温度:220℃、無圧で5分間プレス後、10MPaで2分間プレス)でプレス成形を行い、100μmのシート状サンプルを得た。得られたシート状サンプルを用いて、各特性を評価した。評価結果を、表1に示す。
【0061】
(実施例2)
実施例1に記載の方法において、中空シリコーン系微粒子/ヒタロイド1007粉末を4重量部(中空シリコーン系微粒子1.3重量部)用いた以外は、実施例1と同様にシート状サンプルを作成し、各特性を評価した。評価結果を、表1に示す。
【0062】
(実施例3)
実施例1記載の方法において、製造例1で得られた中空シリコーン系微粒子のIPA分散液の代わりに、製造例2で得られた中空シリコーン系微粒子のIPA分散液を用いた以外は、実施例1と同様にシート状サンプルを作成し、各特性を評価した。評価結果を、表1に示す。
【0063】
(比較例1)
ポリメタクリル酸メチル樹脂(住友化学株式会社製、商品名スミペックスMH)100重量部、フェノール系酸化防止剤0.2重量部(株式会社ADEKA製、商品名AO−60)、リン系酸化防止剤(株式会社ADEKA製、商品名HP−10)0.2重量部を、実施例1と同様にシート状サンプルを作成し、各特性を評価した。評価結果を、表1に示す。
【0064】
【表1】

表1から明らかなように、中空シリコーン系微粒子を添加することにより、熱可塑性樹脂との混練後の樹脂塊に黄変が見られず、熱可塑性樹脂フィルムにおいてHazeおよび散乱光透過率を低減させて、透明性を高めることが可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空洞を有し、外殻部がシリコーン系化合物(A)からなる中空シリコーン系微粒子を含有することを特徴とする、熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記中空シリコーン系微粒子を0.01〜20重量部含有することを特徴とする、請求項1記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
シリコーン系化合物(A)が、SiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基を持つ有機基の少なくとも1種を示す)およびRSiO2/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基を持つ有機基の少なくとも1種を示す)からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の中空シリコーン系微粒子。
【請求項4】
前記中空シリコーン系微粒子が下記工程(a)〜工程(b)により製造されたものであることを特徴とする、請求項1又は2いずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
(a)有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)からなる粒子を、シリコーン系化合物(A)により被覆して、コアシェル粒子(D)を製造する工程。
(b)コアシェル粒子(D)中の有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)からなる粒子を除去する工程。
【請求項5】
前記工程(b)において、有機溶剤を用いてコアシェル粒子(D)中の有機高分子粒子(B)および/または有機溶剤(C)からなる粒子を除去することを特徴とする、請求項4記載の熱可塑性樹脂フィルム。

【公開番号】特開2009−57449(P2009−57449A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225396(P2007−225396)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】