説明

乗物用シート

【課題】より適切に、且つより容易に、個々の乗員がより快適と感じることができる温度に制御することができる、乗物用シートを提供する。
【解決手段】乗員が腰を下ろすシートクッション部10と乗員が背中を凭せ掛けるシートバック部20とを有し、着座した乗員の肌温度である乗員肌温度を非接触にて検出可能な非接触温度検出手段30と、シートクッション部10あるいはシートバック部20の少なくとも一方の表面温度であるシート表面温度を検出可能なシート表面温度検出手段31と、非接触温度検出手段30にて検出した乗員肌温度と、シート表面温度検出手段31にて検出したシート表面温度と、の温度差が所定温度差範囲内となるようにシートクッション部10あるいはシートバック部20の少なくとも一方の温度を調節するシート温度調節手段10A、20A、40、41と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度調節手段を備えた乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両等の乗物に設けられている乗物用シートには、乗員への快適性をより向上させるために、暖房や冷房等の温度調節を可能としたものが提案されている。
例えば特許文献1に記載された従来技術には、車室内の空調を行う室内空調装置と、乗物用シートの温度を調節する座席空調装置とを備え、室内空調装置による乗員の前面の温度と、乗物用シートの温度との温度差が所定値以内となるように制御する車両用空調装置が開示されている。この車両用空調装置では、シート表面温度と乗員の周囲の車室内温度との温度差が所定値以内となるように制御することで、乗員の前面と背面の温度差から生じる不快感を低減させている。
また特許文献2に記載された従来技術には、自動車用シートの座面部に電気ヒータを配設するとともに、乗員の臀部が接触する個所よりも乗員の大腿部が接触する個所のほうが密となるように電気ヒータを配設し、臀部よりも大腿部のほうが温度が高くなるように構成したシート加熱装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−231411号公報
【特許文献2】特開平10−97889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、及び特許文献2に記載された従来技術では、乗員が設定した目標温度、あるいは予め設定された温度、に向けて乗物用シートの温度を制御するので、乗員が、やや暑い、やや寒い等の不快を感じる可能性がある。その場合、乗員が目標温度を微調整すれば良いが、目標温度の再設定を要するので手間である。また、個々の乗員の温度に対する感覚や体温も乗員毎に異なるものであり、すべての乗員が快適と感じる温度を適切に設定することは非常に困難である。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、より適切に、且つより容易に、個々の乗員がより快適と感じることができる温度に制御することができる、乗物用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る乗物用シートは次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、乗員が腰を下ろすシートクッション部と乗員が背中を凭せ掛けるシートバック部とを有し、着座した乗員の肌温度である乗員肌温度を非接触にて検出可能な非接触温度検出手段と、前記シートクッション部あるいは前記シートバック部の少なくとも一方の表面温度であるシート表面温度を検出可能なシート表面温度検出手段と、前記非接触温度検出手段にて検出した前記乗員肌温度と、前記シート表面温度検出手段にて検出した前記シート表面温度と、の温度差が所定温度差範囲内となるように前記シートクッション部あるいは前記シートバック部の少なくとも一方の温度を調節するシート温度調節手段と、を備えている。
【0006】
この第1の発明によれば、乗員肌温度と、シート表面温度との温度差が、所定温度差範囲内となるようにシートの温度を調節するので、乗員毎に異なる肌温度であっても、暑すぎず、且つ寒すぎず、各乗員に対して、より快適なシート温度に制御することが容易である。
【0007】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る乗物用シートであって、前記非接触温度検出手段は、前記シートバック部に設けられている。
【0008】
この第2の発明によれば、より適切な位置に設けた非接触温度検出手段を用いて、乗員の肌温度を適切に検出することができる。
【0009】
次に、本発明の第3の発明は、上記第2の発明に係る乗物用シートであって、前記非接触温度検出手段は、前記シートバック部の内部であって左右方向に対する中央近傍に設けられているとともに、前記シートバック部の上下方向に対する上方に設けられている。
【0010】
この第3の発明によれば、更に適切な位置に非接触温度検出手段を備えることで、乗員の末端部の肌温度でなく、心臓の近傍、すなわち乗員の胴体部の中央部近傍の肌温度を検出することができるので、更に適切に乗員の肌温度を検出することができる。
【0011】
次に、本発明の第4の発明は、上記第1の発明〜第3の発明のいずれか1つに係る乗物用シートであって、前記シート温度調節手段は、暖房の指示がされた場合、前記シート表面温度の方が、前記乗員肌温度よりも第1所定温度だけ高い温度となるように前記シートクッション部あるいは前記シートバック部の少なくとも一方の温度を調節し、冷房の指示がされた場合、前記シート表面温度の方が、前記乗員肌温度よりも第2所定温度だけ低い温度となるように前記シートクッション部あるいは前記シートバック部の少なくとも一方の温度を調節する。
【0012】
この第4の発明によれば、乗員毎に異なる肌温度であっても、また肌温度が緩やかに変化した場合であっても、乗員にやや暑い、またはやや寒い等の不快感を与えることなく、乗物用シートの温度を適切な温度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】乗物用シート1の一実施の形態を説明する外観図である。
【図2】図1に示す乗物用シートのB−B断面図、及び制御手段40等との接続を示す図である。
【図3】(A)は冷房制御する場合の温度制御を説明するグラフであり、(B)は暖房制御する場合の温度制御を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の乗物用シート1の一実施の形態の外観の例を示している。
●[乗物用シート1の外観(図1)と構成(図2)]
図1に示すように、乗物用シート1は、乗員が腰を下ろすシートクッション部10と、乗員が背中を凭せ掛けるシートバック部20とを備えている。なお、図1の例に示す乗物用シート1は、乗員が頭を凭せ掛けるヘッドレスト部HRも備えているが、ヘッドレスト部HRは省略してもよい。
【0015】
図2は、図1に示す乗物用シート1のB−B断面図の例を示しており、制御手段40及び操作手段41を含めた乗物用シート1の全体接続図の例を示している。
シートクッション部10は、パッド部材11の表面に表皮Hが被せられて構成されており、乗員に対向する面であるパッド部材11の表面に、冷暖房手段10A、シート表面温度検出手段31が設けられている。
同様にシートバック部20は、パッド部材21の表面に表皮Hが被せられて構成されており、乗員に対向する面であるパッド部材21の表面に、冷暖房手段20A、非接触温度検出手段30が設けられている。
冷暖房手段10A、20Aは、例えばペルチェ素子等で構成されており、制御手段40からの制御信号に基づいて、加熱あるいは冷却される。なお、冷暖房手段10A、20Aは、これらに限定されず、温風や冷風をシート内部に導入する送風機やダクトの切り替え手段や、暖房のみを可能とするヒータ手段等であってもよく、乗物用シート1を加熱あるいは冷却の少なくとも一方を可能とすることができる装置であればよい。
【0016】
シート表面温度検出手段31は、シートクッション部10における乗員が着座している個所の表皮Hの裏側、すなわちシート表面である表皮Hに接触して表皮Hの温度を検出する温度センサである。なお、シート表面温度検出手段31の周囲には冷暖房手段10Aが存在しないように、冷暖房手段10Aには穴部10Kが形成されており、当該穴部10Kにシート表面温度検出手段31が配置されている。またシート表面温度検出手段31は、乗員に異物感を与えないように、例えば薄いシート状の形状を有している。
制御手段40は、シート表面温度検出手段31からの検出信号に基づいて、シートクッション部10の表面の温度であるシート表面温度を検出することができる。
【0017】
非接触温度検出手段30は、シートバック部20におけるパッド部材21の内部に設けられており、乗員に対して非接触であるが、乗員の肌温度(体温)を検出する非接触式の温度センサである。なお、非接触温度検出手段30と乗員との間には冷暖房手段20Aが存在しないように、冷暖房手段20Aには穴部20Kが形成されており、当該穴部20Kの奥に非接触温度検出手段30が配置されている。非接触温度検出手段30は、パッド部材21の内部に設けられているので、乗員に異物感を与えない。
なお、乗員の肌温度である乗員肌温度を検出する場合、乗員の手足等の末端部よりも、乗員の胴体部の中央近傍、特に心臓の近傍の肌温度を検出すると、安定した肌温度を得ることができるので、より好ましい。
従って、非接触温度検出手段30は、シートバック部20の内部であって左右方向に対する中央近傍に設けられているとともに、シートバック部20の内部であって上下方向に対するやや上方に設けられている。
【0018】
操作手段41には、例えば、乗物用シート1を暖房制御するか冷房制御するか、を設定する暖房・冷房切り替え手段と、乗員自身の肌温度(体温)に対する温度差を設定する温度差設定手段等が設けられている。
制御手段40は、操作手段41の暖房・冷房切り替え手段、温度差設定手段、の設定状態を読み込み、非接触温度検出手段30からの検出信号に基づいて乗員肌温度を検出し、シート表面温度検出手段31からの検出信号に基づいてシートクッション部10の表面の温度であるシート表面温度を検出する。そして制御手段40は、乗員肌温度とシート表面温度との温度差が、温度差設定手段にて設定された温度差範囲(所定温度差範囲に相当)となるように、冷暖房手段10A、20Aを制御する。
なお、制御手段40、操作手段41、冷暖房手段10A、20Aにてシート温度調節手段が構成されている。
【0019】
●[冷房時の温度制御方法(図3(A))]
図3(A)は、乗員が、暖房・冷房切り替え手段にて冷房を指示(設定)し、温度差設定手段にて温度差をΔTc(例えば5℃程度)に設定した場合における制御手段40の温度制御状態を説明するグラフである。
乗員が冷房を設定しているので、乗員に快適な涼しさを感じさせるためには、乗物用シート1の表面温度を乗員の肌温度よりもやや低くすることが好ましい。更に、乗員に寒いと感じさせないために、乗物用シート1のシート表面温度と乗員肌温度との温度差が所定温度差範囲内となるように乗物用シート1の温度を調節することが好ましい。
そこで制御手段40は、非接触温度検出手段30を用いて検出した乗員肌温度に対して、シート表面温度検出手段31を用いて検出したシート表面温度がΔTc(第2所定温度に相当)だけ低い温度となるように、冷暖房手段10A、20Aを冷房制御する。
これにより、乗員毎に肌温度(体温)が異なる場合であっても、また、乗員の肌温度が緩やかに変化した場合であっても、適切かつ容易に、個々の乗員がより快適と感じる温度に、乗物用シート1の温度を調節することができる。
【0020】
●[暖房時の温度制御方法(図3(B))]
図3(B)は、乗員が、暖房・冷房切り替え手段にて暖房を指示(設定)し、温度差設定手段にて温度差をΔTh(例えば6℃程度)に設定した場合における制御手段40の温度制御状態を説明するグラフである。
乗員が暖房を設定しているので、乗員に快適な暖かさを感じさせるためには、乗物用シート1の表面温度を乗員の肌温度よりもやや高くすることが好ましい。更に、乗員に暑いと感じさせないために、乗物用シート1のシート表面温度と乗員肌温度との温度差が所定温度差範囲内となるように乗物用シート1の温度を調節することが好ましい。
そこで制御手段40は、非接触温度検出手段30を用いて検出した乗員肌温度に対して、シート表面温度検出手段31を用いて検出したシート表面温度がΔTh(第1所定温度に相当)だけ高い温度となるように、冷暖房手段10A、20Aを暖房制御する。
これにより、乗員毎に肌温度(体温)が異なる場合であっても、また、乗員の肌温度が緩やかに変化した場合であっても、適切かつ容易に、個々の乗員がより快適と感じる温度に、乗物用シート1の温度を調節することができる。
【0021】
本発明の乗物用シート1は、本実施の形態で説明した外観、構成、処理等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また、本実施の形態の説明では、シート表面温度検出手段31をシートクッション部10に設けた例を説明したが、シート表面温度検出手段31をシートバック部20に設けても良い。
また、本実施の形態の説明では、非接触温度検出手段30をシートバック部20に設けた例を説明したが、非接触温度検出手段30をシートクッション部10に設けても良い。
また、本実施の形態の説明では、冷暖房手段10A、20Aをシートクッション部10とシートバック部20に設けた例を説明したが、冷暖房手段をシートクッション部10またはシートバック部20の少なくとも一方に設けるように構成しても良い。
本発明の乗物用シート1は、車両に限定されず、種々の乗物のシートに適用することができる。
また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0022】
1 乗物用シート
10 シートクッション部
10A 冷暖房手段
10K 穴部
11 パッド部材
20 シートバック部
20A 冷暖房手段
20K 穴部
21 パッド部材
30 非接触温度検出手段
31 シート表面温度検出手段
40 制御手段
41 操作手段
H 表皮



【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が腰を下ろすシートクッション部と乗員が背中を凭せ掛けるシートバック部とを有し、
着座した乗員の肌温度である乗員肌温度を非接触にて検出可能な非接触温度検出手段と、
前記シートクッション部あるいは前記シートバック部の少なくとも一方の表面温度であるシート表面温度を検出可能なシート表面温度検出手段と、
前記非接触温度検出手段にて検出した前記乗員肌温度と、前記シート表面温度検出手段にて検出した前記シート表面温度と、の温度差が所定温度差範囲内となるように前記シートクッション部あるいは前記シートバック部の少なくとも一方の温度を調節するシート温度調節手段と、を備えている、
乗物用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用シートであって、
前記非接触温度検出手段は、前記シートバック部に設けられている、
乗物用シート。
【請求項3】
請求項2に記載の乗物用シートであって、
前記非接触温度検出手段は、前記シートバック部の内部であって左右方向に対する中央近傍に設けられているとともに、前記シートバック部の上下方向に対する上方に設けられている、
乗物用シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の乗物用シートであって、
前記シート温度調節手段は、
暖房の指示がされた場合、前記シート表面温度の方が、前記乗員肌温度よりも第1所定温度だけ高い温度となるように前記シートクッション部あるいは前記シートバック部の少なくとも一方の温度を調節し、
冷房の指示がされた場合、前記シート表面温度の方が、前記乗員肌温度よりも第2所定温度だけ低い温度となるように前記シートクッション部あるいは前記シートバック部の少なくとも一方の温度を調節する、
乗物用シート。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−239797(P2012−239797A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115654(P2011−115654)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】