説明

乳化剤

本発明は、乳化剤、乳化剤の製造方法、および各種用途、主として食物や化粧品用途におけるその使用に関する。本発明はまた、弾性ゲル化フォームの製造のための、乳化剤の使用に関する。本発明による乳化剤は、特定の種類の酵素を用いて酵素変換し、特定のエステル化反応で修飾した澱粉をベースとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化剤、乳化剤の製造方法、およびその各種用途、主として食物や化粧品用途における、その使用に関する。
【0002】
日常生活で見られる多くの製品、特に食料品および化粧品は、コロイド系の例である。コロイド系は、固体、液体または気体の小さな粒子がキャリヤーの容積中に均質に分布して存在することを特徴としている。粒子はコロイド系の分散または不連続相と呼ばれることが多く、一方キャリヤーは典型的には連続相と呼ばれている。コロイド系の典型的例としては、分散相が小さな気泡からなるアイスクリームやパン、および分散相が水性の液体連続相に分散した液状油の小滴から構成されているサラダドレッシングが挙げられる。
【0003】
分散相と連続相とが両方とも液体であるコロイド系は、エマルションとして分類される。エマルションは、一方の液相が他方に小さな液滴の形態で分散している2種類の不混和性液体の均質混合物である。伝統的エマルションは、相の組成によって分類される。連続相が水でありかつ不連続相が油であるときには、エマルションは水中油(O/W)エマルションとして分類される。逆の状態は、油中水(W/O)エマルションと呼ばれている。一般に、O/Wエマルションは白くてクリーム状であるが、W/Oエマルションは色が濃く脂っぽい手触りである。
【0004】
エマルションを包含する総てのコロイド系は、2相に分離するのを防止するのに典型的には安定化を必要とする点が共通している。固体および液体エマルションの安定化要件は異なっている。例えば、マーガリンのような脂肪スプレッドでは、W/Oエマルションは三次元網状組織中の結晶化脂肪によって本質的に安定する。液体エマルション系は、一層動的な系である。油を水中で激しく攪拌すると、初期の形態のエマルションが形成される。このエマルションは極めて不安定であり、系は短時間内に油層と水層とに分離する。乳化剤を用いるのは、安定化のためである。
【0005】
様々な化学生成物や組成物が、食品および化粧品産業において乳化剤として用いられている。多くの機能の中で、乳化剤はエマルションの連続相の粘性または流動性の安定剤としても機能する。典型的には、エマルションは保管安定性(shelf-stability)があることが望ましく、乳化剤はその目的の達成に有益であり得る。
【0006】
アラビアゴムは、その保管安定により多くの用途、特にエマルションの冷蔵または冷凍保管において好ましい。これは、菓子、シロップ、フレーバー油エマルション、アイスクリームおよび飲料のような食品の乳化剤および安定剤として用いられている。これは、水溶性が極めて高く、粘度が低く、臭気、色およびフレーバーがないことを特徴とする分岐した置換ヘテロポリサッカリドである。これは、中東およびアフリカで生産される天然に産出するゴムである。しかしながら、これは高価な生成物であり、その供給および品質は予測できない。
【0007】
多くの用途において、アルキルまたはアルケニルスクシネート化澱粉はアラビアゴムに取って代わることができる。特に、オクテニルスクシネート化澱粉は、乳化剤として広く用いられてきた。これらの澱粉の使用により、価格を減少させ、供給安定性を向上させることができる。
【0008】
澱粉それ自身は、必要な親油基を欠いているため、乳化剤としての使用には適さない。従って、それは水不溶性物質を含んでなる系とは混和性でない。澱粉を、オクテニルコハク酸無水物のような環状ジカルボン酸無水物で処理することによって両親媒性を導入し、アルキルまたはアルケニルジカルボン酸澱粉(alkyl or alkenyl dicarboxylic starch)を形成することができる。この修飾の結果、澱粉は水溶液中で安定するので、退化(retrogradation)は妨げられる。これらの澱粉の重要な利点は、疎水性が導入されながら、それらの親水性が保持されることである。
【0009】
多くの用途において、エマルション安定性の更なる改善、ひいては改良された乳化剤が依然として求められている。本発明は、このような状況において行われた。
【0010】
本発明は、エマルション安定化特性を改良した乳化剤を提供する。特に、本発明は、澱粉を、疎水性試薬を用いてエーテル化、エステル化またはアミド化し、グリコシルトランスフェラーゼ(E.C.2.4)を用いて酵素変換することによって得られる、疎水性澱粉を含んでなる乳化剤であって、疎水性試薬が、7〜24個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル鎖を含んでなる乳化剤を提供する。本発明による乳化剤は2種類の不混和性液相からなるエマルションの安定化に用いることができるだけでなく、他の種類のコロイド系、とりわけ、液体、油または水の連続相中の気体の分散相からなるフォームの安定化に用いることもできる。本発明の他の利点は、下記の詳細な説明および添付の実施例から明らかになるであろう。
【0011】
オクテニルコハク酸化澱粉を様々な酵素による処理が従来技術で提案されたことは、注目すべきことである。
欧州特許出願第0913406号明細書において、グルコアミラーゼの使用が提案されている。この酵素を用いることによって、乳化剤ではなくカプセル化剤が得られる程度まで好適に澱粉が分解されることが述べられている。本発明によれば、このような分解は望ましくない。
【0012】
欧州特許出願第0332027号明細書には、β-アミラーゼの使用が開示されている。しかしながら、得られた生成物の55%は、デキストロース当量(DE)が約50(マルトース)であることが注目される。生成物の残りは、安定ないわゆるβ-限界デキストリンである。これは、乳化には、得られた生成物のうち約45%のみを用いることができることを暗示している。なぜなら、DEが20を上回る生成物はエマルションの安定化を不十分にしかできないことが周知であるからである。
【0013】
本発明による乳化剤のベースとなっている澱粉は、おおむね任意の植物源から誘導することができる。キャッサバまたはジャガイモ澱粉のような根または塊茎澱粉、およびトウモロコシ、コメ、小麦または大麦澱粉のような穀物および果実澱粉を用いることができる。エンドウまたはマメ澱粉のような豆科澱粉を用いることもできる。
【0014】
天然澱粉は、澱粉の2成分であるアミロースとアミロペクチンの比が多かれ少なかれ一定である。トウモロコシまたはコメ澱粉のような幾つかの澱粉の中には、実質的にアミロースのみを含む天然品種が存在する。通常はワキシー澱粉(waxy starches)と呼ばれているこれらの澱粉を用いることもできる。ジャガイモまたはキャッサバ澱粉のような他の澱粉の中には、実質的にアミロペクチンのみを含む、遺伝子修飾されたまたは突然変異体の品種もある。典型的には澱粉の乾燥重量に対して80重量%を上回る、好ましくは95重量%を上回るアミロペクチンを含んでなるこれらの品種の使用も、本発明の範囲内にあることが理解されるであろう。さらには、高アミロースジャガイモ澱粉のようなアミロース含量が高い澱粉の品種を、本発明による乳化剤の製造に用いることもできる。本発明によれば、総てのアミロース/アミロペクチン比の澱粉を用いることができる。
【0015】
本発明による乳化剤を製造するには、澱粉には2つの処理を施さなければならない。澱粉についてグリコシルトランスフェラーゼ(E.C.2.4)を用いた酵素変換(enzymatic conversion)を行い、かつそれを疎水性試薬と反応させなければならない。これらの処理を任意の順序で行って、良好な生成物品質を得ることができることが分かった。澱粉を最初に酵素で処理した後に疎水性試薬と反応させるときには、疎水化における置換度(DS)を高くすることができ、エマルションに一層大きな安定化能を生じることが分かった。また、澱粉をこの順序で処理するときには、一層均質な生成物が得られる。一方、澱粉を最初に疎水性試薬と反応させた後に酵素を作用させるときには、相対的に精製および洗浄処理をほとんど必要としない一層純粋な生成物が得られる。
【0016】
本発明による澱粉の酵素転化に用いられる酵素は、クラスE.C.2.4のグリコシルトランスフェラーゼである。好ましい酵素は、ヘキソシルトランスフェラーゼ(E.C.2.4.1)のクラスに属するものである。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、澱粉を水性媒質中で、4-α-グルカノトランスフェラーゼ(E.C.2.4.1.25)のクラス由来の酵素またはこの酵素に対応する活性を有する酵素で処理する。このクラスの酵素の典型的かつ関連した活性は、EP-A-0 932 444 号明細書などに開示されているように、1,4-α-D-グルカンの切片を、受容体(acceptor)の新たな4-位に移すことにあり、この受容体はグルコースまたは1,4-α-D-グルカンであってよい。
【0018】
4-α-グルカノトランスフェラーゼは、様々な生物から得ることができる。文献から、これらの酵素は真核生物(eukarya)および細菌の代表的なものに存在することが知られている。また、これらの酵素は、原始的な細菌の代表的なものに存在することも知られている。かなりの高温、例えば、約70℃の温度に耐性を有する4-α-グルカノトランスフェラーゼを用いるのが好ましい。典型的な例としては、Thermus thermophilus、Thermotoga maritimaおよび原始的細菌の好熱性の代表的なもの由来の4-α-グルカノトランスフェラーゼが挙げられる。しかしながら、例えば、ジャガイモまたはEscherichia coli由来の熱安定性でない4-α-グルカノトランスフェラーゼである、D酵素およびアミロマルターゼはそれぞれ、用いることができる。4-α-グルカノトランスフェラーゼは、α-アミラーゼ活性のないものであるべきであり、これは当業者であれば精製などによって容易に達成することができる。
【0019】
本発明の別の好ましい態様によれば、澱粉を、水性媒質中でシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(E.C.2.4.1.19)のクラス由来の酵素またはこの酵素に対応する活性を有する酵素で処理する。この種類の酵素は、例えば、WO-A-89/01043号明細書、WO-A-92/13962号明細書、およびEP-A-0 690 170号明細書に開示されているように、1,4-α-D-グルコシド結合を形成することによって1,4-α-D-グルカン鎖の一部を環化する。
【0020】
シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼは、R.L. Whistler et al.,「澱粉: 化学および製造技術(Starch: Chemistry and Technology)」, 第2版, 1984年, Academic Press, pp. 143-144 、D. Duchene,「第5回シクロデキストリン国際討論会議事録(Minutes of the Fifth International Symposium on Cyclodextrins)」, Editions de Sante, パリ 1990年, pp. 19-61、およびA.R. Hedges, 「第6回シクロデキストリン国際討論会議事録(Minutes of the Sixth International Symposium on Cyclodextrins)」, Editions de Sante, パリ, 1992年, pp. 23-58に開示されているような様々な供給源から得ることができる。
【0021】
本発明の更に別の好ましい態様によれば、澱粉を、水性媒質中で1,4-α-グルカン分岐酵素(E.C.2.4.1.18)のクラス由来の酵素またはこの酵素に対応する活性を有する酵素で処理する。この種類の酵素は、例えば、EP-A-0 690 170号明細書に開示されているように、1,4-α-D-グルカン鎖の切片を同様なグルカン鎖の第一ヒドロキシル基に移す。
【0022】
1,4-α-グルカン分岐酵素(branching enzyme)は、多くの供給源、例えば、Bacillus stearothermophilus種の細菌から得ることができる。このような1,4-α-グルカン分岐酵素の具体例は、EP-A-0 418 945号明細書に開示されている。
【0023】
酵素変換は、ゼラチン化澱粉、および顆粒状のままであるが膨潤状態、すなわち部分的にゼラチン化状態になっている澱粉のいずれでも行うことができる。しかしながら、澱粉はゼラチン化状態の方が好ましい。ゼラチン化は、スチーム注入装置(steam injection device、例えば、ジェットクッカー)で回分的または連続的に行うことができる。酵素は、ゼラチン化の前、またはこちらの方が好ましいがゼラチン化の後に加えることができる。
【0024】
酵素変換を行うための反応条件は、用いる澱粉およびグリコシルトランスフェラーゼの種類によって変化し、例えば、4-α-グルカノトランスフェラーゼ、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ、および1,4-α-グルカン分岐酵素に関する上記で引用した公表文献に基づいて当業者が容易に決定することができる。実際には、これは通常は酵素が最適活性および安定性を有するpHおよび温度またはその附近で行われる。用いられる酵素の量は特に重要ではなく、主として転換に対して望ましく配分される時間によって変化する。
【0025】
酵素変換の進行は選択される酵素の種類によっても変化するが、粘度またはゲル強度を測定することによって追跡することができる。典型的には、酵素変換は、平衡の状態に到達し、それ以上の転換が起こらないときに停止される。
【0026】
所望な酵素変換が起こった後、酵素は、所望ならば反応混合物を加熱することなどによって失活させることができる。酵素変換を部分ゼラチン化澱粉を用いて行った場合には、ゼラチン化は澱粉を加熱によって失活させた時点に完了することができる。所望ならば、酵素を、透析のような既知の分離手法によって澱粉から除くことができる。
【0027】
本発明によれば、疎水性置換基をエーテル、エステルまたはアミド化結合によって澱粉に結合させる。
疎水性基をエーテル結合を介して澱粉に結合させるときには、疎水性試薬は、好ましくはハロゲン化物、ハロヒドリン、エポキシドまたはグリシジル基を反応性部位として含む。この薬剤のアルキル鎖は4〜24個の炭素原子、好ましくは7〜20個の炭素原子の間で変化することができる。エーテル結合を提供するための適当な疎水性試薬の例は、臭化セチル、臭化ラウリル、ブチレンオキシド、エポキシド化大豆脂肪アルコール、エポキシド化アマニ脂肪アルコール、アリルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、デカングリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ラウリルフェニルグリシジルエーテル、ミリストイルグリシジルエーテル、セチルグリシジルエーテル、パルミチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、リノリルグリシジルエーテルおよびそれらの混合物である。本発明により澱粉と反応させる目的で用いることができる他のエーテル化剤は、少なくとも4個の炭素原子を含むハロゲン化アルキル、例えば、1-ブロモデカン、10-ブロモ-1-デカノール、および1-ブロモドデカンである。
【0028】
本発明の一態様によれば、帯電した疎水性基が導入される。澱粉と、第四アンモニウム基、例えば、1-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウム塩またはグリシジルトリアルキルアンモニウム塩を含んでなる試薬とを反応させることによって、疎水性のカチオン性基をエーテル結合を介して結合させることができる。この第四アンモニウム基のアルキル鎖は1〜24個の炭素原子、好ましくは7〜20個の炭素原子の間で変化することができ、第四アンモニウム基のアルキル鎖の少なくとも1個は、4〜24個の炭素原子を含んでなる。好ましくは、他のアルキル鎖は、炭素原子が7個未満である。例えば、1-クロロ-2-ヒドロキシプロピルジメチルラウリルアンモニウム塩、1-クロロ-2-ヒドロキシプロピルジメチルミリストイルアンモニウム塩、1-クロロ-2-ヒドロキシプロピルジメチルセチル、1-クロロ-2-ヒドロキシプロピルジメチルステアリル、グリシジルジメチルラウリルアンモニウム塩、グリシジルジメチルミリストイルアンモニウム塩、グリシジルジメチルセチルアンモニウム塩、グリシジルジメチルステアリルアンモニウム塩、ジアルキルアミノエチルハロゲン化物、または上記のものの混合物を、疎水性カチオン化試薬として応用することができる。疎水性のカチオン性基は、クロロエチルジアルキルアミン塩酸塩のような第三アンモニウム基との反応によって導入することができる。この第三アンモニウム基のアルキル鎖は、1〜24個の炭素原子の間で変化することができる。疎水性のカチオン性基を導入する反応は、EP-A-0 189 935号明細書に開示されている手順と同様の方法で行うことができる。疎水性のアニオン性基は、例えば、EP-A-0 689 829号明細書に開示されている手順と同様の方法で2-クロロ-アミノジアルキル酸を試薬として適用して結合させることができる。
【0029】
疎水性基をエステル結合を介して澱粉に結合させるときには、アルキル無水物のような数種類の試薬を用いることができる。アルキル鎖は4〜24個の炭素、好ましくは7〜20個の炭素の間で変化することができる。特に、オクタン酸酢酸無水物(octanoic acetic anhydride)、デカン酸酢酸無水物(decanoic acetic anhydride)、ラウロイル酢酸無水物(lauroyl acetic anhydride)、ミリストイル酢酸無水物(myristoyl acetic anhydride)は、適当なアルキル無水物である。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、疎水性アニオン性基はアミロペクチン澱粉に結合させることができる。これは、特定の澱粉をアルキルコハク酸無水物またはアルケニルコハク酸無水物と反応させることによって行うことができる。アルキル鎖は、4〜24個の炭素、好ましくは7〜20個の炭素の間で変化することができる。オクテニルコハク酸無水物、ノニルコハク酸無水物、デシルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物が特に一般的に用いられる。所望なアルキルまたはアルケニルコハク酸基を導入するためのエステル化反応は、任意の既知の方法で、例えばUS-A-5,776,476に開示されている手順と同様の方法で行うことができる。好ましくは、澱粉を、8〜12個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を含んでなるアルキルまたはアルケニルコハク酸無水物と反応させる。オクテニルコハク酸無水物、ノニルコハク酸無水物、デシルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物が好ましく、特に好ましいものはオクテニルコハク酸無水物である。従って、アルキルまたはアルケニルスクシネート化澱粉は、好ましくはオクテニルスクシネート化、ノニルスクシネート化、デシルスクシネート化、またはドデセニルスクシネート化澱粉であり、更に好ましくはオクテニルスクシネート化澱粉である。
【0031】
アミド基によってカルボキシメチルアミロペクチン澱粉に結合した疎水性基を調製するには、WO-A-94/24169号明細書に記載の手順を同様に用いることができる。アミド基の導入に適当な試薬の例としては、8〜30個の炭素原子を有する飽和または不飽和炭化水素基を含んでなる脂肪アミンが挙げられる。分岐炭化水素基は除外されないが、直鎖が好ましい。好ましくは、脂肪族基は、C12〜C24脂肪アミンに由来する。脂肪アミンがn-ドデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-オクタデシルアミン、ココアミン(cocoamine)、獣脂アミン(tallowamine)、水素化N-獣脂-1,3-ジアミノプロパン、N-水素化獣脂-1,3-ジアミノプロパンおよびN-オレイル-1,3-ジアミノプロパンからなる群から選択されるときに、特に好ましい結果が得られる。このような脂肪アミンはArmeenおよびDuomeen (AKZO Chemicals)の商品名で知られている。
【0032】
疎水性置換の程度、すなわち本発明による方法で達成されるグルコース単位1モル当たりの疎水性置換のモル平均数として定義されるDSは、生成物の想定される用途によって変化してよい。一般に、DSは0より大きく、好ましくは0.005〜約0.5であり、更に好ましくは0.01〜0.1である。意外なことには、DSが極めて小さくても、比較的大きな効果を生じることは注目すべきことである。
【0033】
疎水性試薬との反応は、澱粉の懸濁液中で、すなわち予めゼラチン化されていない澱粉を用いて、澱粉の懸濁液中で、または半乾燥条件下で行うことができる。疎水化を酵素変換の後に行うときには、澱粉は典型的には既にゼラチン化されている。
【0034】
好ましくは、反応を懸濁液または溶液中で行うときには、水を溶媒として用いる。用いる疎水性試薬の水への溶解度が低いときには、水と適当な水と混合する有機溶媒との組合せを用いることができる。適当な有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、t-ブタノール、sec-ブタノール、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、およびアセトンが挙げられるが、これらに限定されない。溶液中の反応は、好ましくは20重量%を上回る澱粉と80重量%未満の溶媒とを含んでなる反応混合物を用いて行われる。更に好ましくは、反応混合物中の澱粉含量は20〜40重量%であるが、溶媒含量は好ましくは80〜60重量%である。所望ならば、溶液を、例えば透析、限外濾過、超遠心などを用いて濃縮および/または精製することができる。乾燥機(ドラム乾燥機、噴霧乾燥機)と組み合わせたオートクレーブを、反応容器として用いることができる。反応を、同様な反応について周知である条件下で更に行う。pHは、好ましくは7〜13の間にある。好ましくは、本発明による方法は、アルカリ金属水酸化物などのような苛性アルカリ触媒の存在下で行われる。具体的態様によれば、苛性アルカリ触媒は、実際に試薬として含まれるような量で用いられる。
【0035】
本発明による乳化剤は、多くの用途、特に食品および化粧品産業において用いることができる。本発明は、エマルションを安定化するための上記のような乳化剤の使用、並びにエマルションを含んでなるまたはエマルションの形態を有する食品および化粧品であって、上記乳化剤が乳化剤として含まれているものも包含することを理解されるであろう。本発明による乳化剤は、化粧品において、例えばヘアコンディショナー、シャンプー、皮膚軟化剤、ローション、およびクリームの、乳化剤、増粘剤または界面活性剤として用いることができる。
【0036】
好ましい態様によれば、本発明による乳化剤は、カゼインまたはカゼイン塩のようなタンパク質を基剤とする乳化剤、またはモノステアリン酸グリセロールまたはジステアリン酸グリセロールのような他の乳化剤に代えて、またはパン製品や乳化ソース中の卵に代えて用いることができる。本発明による乳化剤は、典型的には高温でもその乳化特性を保持するので、これに関して一層用途が広いが、卵黄は65℃を越える温度では変性する。また、本発明による乳化剤を用いることによって、サルモネラのような卵に存在することが多い細菌を導入する危険性が減少する。
【0037】
本発明による乳化剤を用いて、特に高アミロース含量を有する澱粉を基剤とするときには、弾性ゲル化フォーム(elastic gelled foam)を作製することができることも見出した。この態様によれば、澱粉の乾燥重量に対して20〜70重量%、より好ましくは30〜50重量%のような高アミロース含量を有する澱粉を用いるのが好ましい。このようなフォームは、水中で、澱粉を混合物の重量に対して例えば20重量%の量で激しく混合することによって調製することができる。このようなフォームは、食品および化粧品産業のいずれにおいても、例えば、ホイップクリーム、メレンゲ、シャンプー、シェービングクリーム、入浴またはシャワーゲル、および液体石鹸として応用することができる。
【0038】
別の態様によれば、本発明による乳化剤を製紙に用いることができる。これに関する好ましい応用としては、アルケニルコハク酸無水物(alkenyl succinic anhydride;ASA)および/またはアルケニルケテン二量体(alkenyl ketene dimmer;AKD)エマルションを安定化するための本発明による乳化剤の使用である。これに関する別の好ましい用途としては、ビニルモノマーの乳化重合における本発明による乳化剤の使用であって、表面サイジングまたはコーティングされた紙(surface sizing or coating paper)に用いることができるエマルションを得る使用である。
【0039】
本発明を、下記の非制限的実施例によって説明する。
実施例1: オクテニルコハク酸化(succinilated)し更に分岐した澱粉の調製
水中5モルの通常のジャガイモ澱粉 (20%乾燥分)を、160℃の温度で噴射加熱(jet cook)した。250 g澱粉(乾燥物質)に相当する溶液の量を、5リットルの二重壁付ガラス反応装置に移し、温度を65℃に設定した。pHを6.5に調整し、澱粉1g当たり200 Uの酵素(Rhodothermus Marinus分岐酵素, 供給業者: TNO Food - Groningen)を加えた。一定の混合を加えながら、反応を65℃で48時間進行させた。
【0040】
次いで、溶液を30℃に冷却し、溶液のpHを4.4重量% NaOH水溶液を加えて8.5に設定した。溶液にオクテニルコハク酸無水物をDsmaxを0.028とする量で徐々に加えた。添加中、反応混合物のpHは8.5の一定に保った。4時間の反応後、混合物を中和してpH 6.2とした。
【0041】
生成物を、エタノールを用いて凝集させた。ブレンダーに、800 mlエタノール(95%)を満たした。ブレンダーをその最大速度の50%で混合しながら、200 mlの澱粉溶液を徐々に加えた。次いで、混合速度を最高速度まで30秒間上げ、混合物をブッフナー漏斗を用いて濾過した。生成物を800 mlエタノールに再懸濁し、最高速度で混合し、濾過して、乾燥した。
【0042】
実施例2: オクテニルコハク酸化(succinilated)アミロマルターゼ澱粉の調製
水中10モルの通常のジャガイモ澱粉を含む懸濁液(20%乾燥分)を、160℃の温度で噴射加熱した。次いで、溶液中の乾燥物質の量を、質量および溶液の濃度(ブリックス%)を測定することによって計算した。溶液を10リットルの二重壁付ガラス反応装置に移し、温度を70℃に設定した。pHを6.2に調整し、澱粉1g当たり2 Uの酵素(アミロマルターゼ, 供給業者: TNO Food - Groningen)を加えた。一定の混合を加えながら、反応を70℃で24時間進行させた。次に、溶液を160℃の温度で噴射加熱することによって酵素を失活させた。再度、溶液中の乾燥物質の量を、質量と溶液の濃度(ブリックス%)を測定することによって計算した。
【0043】
次いで、溶液を30℃に冷却し、4.4重量% NaOH水溶液を加えて溶液のpHを8.5に調整した。この溶液に、オクテニルコハク酸無水物をDsmaxが0.028となる量で徐々に加えた。添加中、反応混合物のpHを8.5の一定に保った。4時間反応後、混合物を中和してpH 6.2とし、入口温度220℃および出口温度103℃を適用して、溶液を噴霧乾燥した。
【0044】
実施例3: アミロマルターゼ処理したオクテニルコハク酸化(succinlated)澱粉の調製
アミロース含量が36重量%であるジャガイモ澱粉15モルを含む39%(W/W)澱粉懸濁液を水道水で調製し、4.4重量% NaOH水溶液を加えて懸濁液のpHを8.5に設定した。温度を20℃に設定し、オクテニルコハク酸無水物をDsmaxが0.02となる量で溶液に徐々に加えた。反応中に、pHは4.4% NaOH (W/V)を用いて8.5に保持した。4時間の反応後、混合物をpH 6.2まで中和し、ブッフナー漏斗を用いて15リットルの水道水で洗浄した。生成物を36% (W/W)懸濁液として8バールおよび6 rpm (4ロール, スリット幅 0.3 mm)でドラム乾燥し、粉砕した (Peppink, 250 μm篩)。
【0045】
次いで、10モルのドラム乾燥したオクテニルコハク酸化(succinilated)澱粉 を、70℃の温度にて、攪拌Terlet反応装置(stirred Terlet reactor)で水道水に10%濃度(W/W)で溶解した。均質な溶液について、ペーストを少なくとも4時間攪拌した後、酵素を加えた。溶液のpHを6.2に設定して、澱粉(乾燥物質)1 g当たり 2 Uの酵素(アミロマルターゼ, 供給業者: TNO Food - Groningen)を加えた。24時間後に溶液を160℃で噴射加熱することによって、反応を停止した。この後、溶液を入口温度220℃および出口温度103℃をt適用して噴霧乾燥した。
【0046】
実施例4: 乳化特性
生成物を実施例1- 3に記載の方法で調製した。澱粉6 gをヒマワリ油10 mlに懸濁させ、0.02%アジ化ナトリウム溶液190 mlを加えた。プレエマルションを、Silverstonホモジナイザーを1分間最高速度で用いて調製した。これらのエマルションを、表1のスキームに準じて微小流動化装置(micro-fluidiser)を用いて調製した。結果を、表2にまとめた。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
表2は、更に分岐した(additionally branched)およびアミロマルターゼ処理した、澱粉のオクテニルコハク酸誘導体が、より安定なエマルションを開発することができることを示している。置換度(DS)はケン化および酸-塩基滴定によって測定し、デキストロース当量(DE)はLuff-Schoorlによって測定した。
【0050】
実施例5: フォーム試験
実施例1〜3に記載の生成物40 gと脱イオン水(demi water) 160 gとを、泡立て器を用いてHobartミキサーで最高速度にて2〜3分間泡立てた。混合時間は2〜3分間の間で変化し、生成物の泡の発達状態によって変化する。
【0051】
アミロマルターゼ処理した、中高アミロースジャガイモ澱粉(medium high amylose potato)のオクテニルコハク酸誘導体は、弾性ゲル化フォームを生成した。中高アミロースジャガイモ澱粉のブランク(blank)は、幾分脆いゲル化フォームを生成した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉を、疎水性試薬を用いてエーテル化、エステル化またはアミド化し、グリコシルトランスフェラーゼ(E.C.2.4)を用いて酵素変換することによって得られる、疎水性澱粉を含んでなる乳化剤であって、前記疎水性試薬が、7〜24個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル鎖を含んでなる、乳化剤。
【請求項2】
前記疎水性澱粉が、アルキルまたはアルケニルスクシネート化澱粉である、請求項1に記載の乳化剤。
【請求項3】
前記アルキルまたはアルケニルスクシネート化澱粉が、オクテニルスクシネート化、ノニルスクシネート化、デシルスクシネート化、またはドデセニルスクシネート化澱粉である、請求項2に記載の乳化剤。
【請求項4】
澱粉がオクテニルスクシネート化澱粉である、請求項3に記載の乳化剤。
【請求項5】
前記アルキルまたはアルケニルスクシネート化澱粉の置換度(DS)が、0.005〜0.5であり、好ましくは0.01〜0.1である、先行するいずれかの請求項に記載の乳化剤。
【請求項6】
前記グリコシルトランスフェラーゼが、4-α-グルカノトランスフェラーゼ(E.C.2.4.1.25)である、先行するいずれかの請求項に記載の乳化剤。
【請求項7】
前記グリコシルトランスフェラーゼが、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ (E.C.2.4.1.19)である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の乳化剤。
【請求項8】
前記グリコシルトランスフェラーゼが、1,4-α-グルカン分岐酵素 (E.C.2.4.1.18)である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の乳化剤。
【請求項9】
前記澱粉が、ジャガイモ、キャッサバ、小麦、大麦、トウモロコシ、コメ、エンドウ、またはマメ澱粉である、先行するいずれかの請求項に記載の乳化剤。
【請求項10】
前記澱粉のアミロース含量が、前記澱粉の乾燥重量に対して20-〜70重量%であり、好ましくは 30〜50重量%である、請求項9に記載の乳化剤。
【請求項11】
前記澱粉のアミロペクチン含量が、前記澱粉の乾燥重量に対して80重量%を上回り、好ましくは95重量%を上回る、請求項9に記載の乳化剤。
【請求項12】
澱粉を、7〜24個の炭素原子を有するアルキル鎖を含む疎水性試薬を用いてエーテル化、エステル化またはアミド化し、グリコシルトランスフェラーゼ(E.C.2.4)を用いて酵素変換することを含んでなる、先行するいずれかの請求項に記載の乳化剤の製造方法。
【請求項13】
澱粉を、7〜24個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を含んでなる疎水性試薬を用いてエステル化する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
澱粉を、最初にグリコシルトランスフェラーゼ(E.C.2.4)を用いて酵素変換した後、アルキルまたはアルケニルコハク酸無水物を用いてエステル化する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
澱粉を、最初にアルキルまたはアルケニルコハク酸無水物を用いてエステル化した後、グリコシルトランスフェラーゼ(E.C.2.4)による酵素変換を行う、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の乳化剤が乳化剤として含まれている、エマルションを含んでなるかまたは該エマルションの形態である、食品または化粧品。
【請求項17】
エマルションを安定化させるための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の乳化剤の使用。
【請求項18】
弾性ゲル化フォームの製造のための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の乳化剤の使用。
【請求項19】
アルケニルコハク酸無水物(ASA)および/またはアルケニルケテン二量体(AKD)エマルションを安定化させるための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の乳化剤の使用。
【請求項20】
ビニルモノマーの乳化重合における、請求項1〜11のいずれか一項に記載の乳化剤の使用。
【請求項21】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の乳化剤を含んでなる、フォーム。

【公表番号】特表2009−501076(P2009−501076A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521339(P2008−521339)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【国際出願番号】PCT/NL2006/000347
【国際公開番号】WO2007/008066
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(501270999)
【氏名又は名称原語表記】COOPERATIE AVEBE U.A.
【Fターム(参考)】