説明

乾燥沈降シリカを用いて熱及び/又は音響絶縁材料とその製造方法

本発明は乾燥した沈降シリカから製作される熱及び又は音響絶縁板材の製造方法に関し、フィルタプレスにより沈降シリカ粒子を含有する水性分散体を圧縮ろ過して圧縮ろ過ケーキを形成し、次いで得られた圧縮状態の前記ろ過ケーキを乾燥することより乾燥沈降シリカを製造する。本発明はまた乾燥沈降シリカを用いて熱及び/又は音響絶縁材料、例えば耐熱材又は高温耐熱材を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に板状形を有し、特に熱及び/又は音響絶縁材料に適した、乾燥シリカを基材とする多孔質材料に関する。本発明はまたこれらの材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱及び/又は音響絶縁材料に使用される各種の材料が知られている。これらの材料は通常長方形又は正方形の板の形で提供され、特に住居用の家屋又は建物で、特に壁、天井などの熱絶縁及び/又は音響絶縁に使用される。
【0003】
通常、これらの熱絶縁及び/又は音響絶縁効果を有する板材は、微細粒子の多孔質凝集体であり、実質的に低い熱伝導性であって、例えば粉末状の、カーボンブラック、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、熱分解シリカ及び/又は沈降シリカ等の粒子よりなる。
【0004】
特に、絶縁板が充分な機械的強度を確保し、実用的な取り扱いを可能にするためには、従来、繊維材料等の強化充填材を絶縁板材の構造中に配合している。
【0005】
熱絶縁性板材の他のより特定的な利用方法には、高温度に加熱される囲壁、例えば工業用の熱囲壁(炉又はオーブン等)又は家庭用の熱囲壁(特に熱分解炉)の熱絶縁がある。この種の熱絶縁性板材の他の用途には特に火災の初期延焼を抑制し或いは火災を閉じこめるための防火扉や防火壁の製造がある。
【0006】
材料は、特定の用途において、例えば炉またはオーブン内での温度サイクルに応じて、一般に大きく変動する温度に曝される。この熱的変動は特定の用途では到底許容できない材料の膨張・収縮現象を引き起こす傾向があり、また、比較的長期のうちに材料の構造を脆弱化する大きい機械的応力を生じることが多い。強化材の混合は通常このような現象を抑制するが、しかし、こうした現象を抑制して材料に充分な機械的強度を保証するには常に充分とは言い難い。
【0007】
その上、高温度に加熱される囲壁の熱絶縁の場合には、特に大きい熱絶縁特性が一般に必要とされる。この種の用途に適した熱絶縁特性を有する絶縁性板材を得るには、一般に、例えば二酸化チタン粒子のような「混濁剤」を板材に混合することが推奨されている。これらの混濁剤は少なくとも赤外線の一部を反射し、吸収し、及び/又は散乱させ、それにより材料に熱遮断効果を与える。それにも拘わらず、これらの混濁剤が単に存在しているだけでは、常に最適な熱絶縁性が得られるとは限らない。
【0008】
熱絶縁及び/又は音響絶縁材料を製造する従来の方法は、それらの構成成分を乾式圧縮(突き固め)すること、すなわち低熱伝導性の粒子を通常は補強材及び場合により混濁剤と共に加圧することよりなる。この方法では一般にこれらの構成成分の微細な粒子又は粉末の混合物を多孔性の容器、例えばガラス繊維から製作した袋又はクッション材に収容し、次いで高圧(通常1MPa以上)をこの袋に加えて粒子同士を結合し、それにより特定の機械的な強度を有する圧縮された材料を得る。
【0009】
乾式圧縮法により得られる板材の物理的及び/又は機械的な特性は通常不十分である。このため材料の熱及び音響的な絶縁性は、特に材料に導入される粒子がカーボンブラック、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム等の場合に劣る。より良好な絶縁特性はシリカ粒子を使用するときに得られるが、しかし、これらの粒子を一緒に使用すると、機械的に不十分な特性となり、脆くてクラックを生じがちである。
【0010】
この問題を解決し、良好な機械的と同時に良好な熱的及び音響的な絶縁特性を提供する材料を得るために、成分の乾式圧縮の代わりに、シリカ粒子と場合により添加剤を含有する水性ペーストを乾燥する方法が開発されている。特にEP0594469は、沈降シリカの粉砕したケーキに少なくとも強化材を添加し、場合によりさらに混濁剤を添加した水性混合物を乾燥し、こうして得られた乾燥シリカを基材とする絶縁板の製造法を記載している。このEP0594469の方法により得られた材料は、充分な機械特性と少なくとも乾式圧縮法により得られたものと同様な、そして通常はそれより優れた熱絶縁及び音響絶縁特性を有している。この点に関して、乾式圧縮の代わりに水性スラリーを乾燥する工程は、特に材料の微細な空孔容積の増大を可能にするようである。EP0594469の方法はまた、特に粉末を混合しそれを乾式圧縮する面倒で費用のかさむ工程を回避できる点で、乾式圧縮法よりも経済的に有利である。
【0011】
EP0594469に記載された種類の乾燥シリカを基材とする絶縁性板材の製造方法において、乾燥工程に付せられる水性組成物は一般に少なくとも10%の固形分を含むスラリーであり、流動化されてから金型に装入され、次いで乾燥される。
【0012】
本発明者らは、沈降シリカの粒子を基本にした水性組成物の乾燥により得られる絶縁材料の特性が、沈降シリカの分散体をフィルタプレス上でろ過することにより得たケーキのような予め圧縮した水性組成物を乾燥させることにより、さらに改善されることを見いだした。
【0013】
これに関して、本発明者らにより実施された研究は、沈降シリカの水性分散体をフィルタプレスでろ過することにより得たケーキに対して乾燥を実施する方が、EP0594469に記載されている次工程で流動化したケーキを乾燥するよりも、実際に有利であることを示した。
【0014】
換言すると、本発明者は意外なことに、EP0594469の方法を特にその工程の一つを省略することにより、より安価な方法で選りすぐれた材料を提供することができることを見いだした。さらに、フィルタプレスにより圧縮(突き固め)されたシリカケーキを直接乾燥することにより、圧縮ケーキがすでにフィルタプレス内形成されている限り、乾燥工程のための金型の使用は最早必要が無くなり、これはさらに材料の製造コストを低下する。
【0015】
特定の理論には拘束されるつもりはないが、EP0594469で使用された粉砕された組成物に乾燥を実施する代わりに、圧縮された水性組成物に乾燥を実施すると、得られる全空孔容積を減じることが無く材料中に存在する空孔の寸法を減じることができ、それが熱絶縁性及び音響絶縁性を高めるものと思われる。
【0016】
本発明により得られる材料はとりわけ真空中で使用するのに適し、特に有用な機械及び熱絶縁性を発揮する。
【0017】
上記の種々の要素に鑑みて、本発明は、従来公知のシリカ製板材と同等又はそれ以上に優れた機械強度及び熱及び/又は音響絶縁特性を有する乾燥シリカ製板材よりなる絶縁材料を、従来の方法よりも安価に製造できる方法を提供することを目的とする。
【0018】
本発明はまた熱及び音響絶縁に適し、特に高温度での熱絶縁に適した乾燥シリカを基材とする新規な材料を提供することを目的とする。この点に関し、本発明は特に取り扱いを可能にするに充分な機械強度を有する乾燥シリカの板材を提供すことを目的とする。本発明はより具体的には真空中で使用するのに適し、特に真空中での熱絶縁を実現するに適した材料を提供することを目的とする。
【0019】
このように、本発明の一つの形態によると、
(A)フィルタプレスにより沈降シリカ粒子を含有する水性分散体Dを圧縮ろ過して圧縮ろ過ケーキを形成し、次いで(B)前記工程(A)で得られた圧縮状態の前記ろ過ケーキを乾燥することより乾燥沈降シリカを製造し、得られた乾燥沈降シリカを用いて熱及び/又は音響絶縁材料を製造する方法が提供される。
【0020】
本明細書において、「熱及び/又は音響絶縁材料」とは取り扱いに対して充分な機械的強度を有し、熱及び/又は音響の放射の吸収、反射及び/又は散乱特性を有するものを指す。
【0021】
本発明により製造される熱及び/又は音響絶縁材料は粒子よりなる板材、好ましくは長方形又は正方形の板材の形態を有すると有利である。本発明の方法では、工程(B)の乾燥は、工程(A)で得られた圧縮ケーキに含まれる水を実質的に除去することよりなる。この工程(B)は場合によりフィルタプレス内で得られる圧縮ケーキを離型した後に行うことができる。この圧縮ケーキがこの状態で乾燥される限り、工程(B)は一般に固形の単一ブロックを形成させることになり、この形状は工程(A)で用いられる、圧縮ケーキに対する金型の役割を果たすフィルタプレスにより規制される。
【0022】
その結果、所定の形状の絶縁板材を得たい場合には、こうした形状(例えば長方形又は正方形)を有するフィルタプレス内で工程(A)を実施するのが最も有利である。
【0023】
別法として、工程(A)で得られる圧縮ケーキをフィルタプレスから離型し、次いで所望の形状に切断し、続いて工程(B)で乾燥することができる。しかしこの場合には、工程(A)で形成された圧縮ケーキの圧縮状態を最低限度でしか変化させないようにする必要がある。これには、できるだけ最小限度の振動しか与えないようにして離型を行う必要がある。
【0024】
製造される絶縁材料の形態がどのようなものであっても、本発明の重要な工程の一つは圧縮されたろ過ケーキを製造する工程(A)である。本発明により実施される作業では、工程(A)で実施されるケーキの圧縮が大きいほど、次の工程(B)での乾燥で得られる材料中に存在する空孔の寸法が減少し、絶縁の質を改善することが観察される。しかし、余りに過度の圧縮は逆に材料中の空孔の容積を減じ、絶縁特性を阻害する。従って、一般に程よい圧力下に工程(A)のケーキの圧縮を行うことが必要である。好ましくは、工程(A)のフィルタプレスによるろ過は、2−10バール(0.2−1.0MPa)の圧力下に行う。加圧は有利には3バール(0.3MPa)以上、より好ましくは4バール(0.4MPa)以上である。中でも、得られる材料の微細な空孔容積の減少を最大限抑制するには、好ましくは8バール(0.8MPa)以下、より好ましくは7バール(0.7MPa)以下、さらに好ましくは6バール(0.6MPa)以下にする。特別な利益は、工程(A)の圧縮を実施する圧力は2−7バール(0.2−0.7MPa)、より好ましくは4.5−5.5バール(0.45−0.55MPa)であり、代表的には約5バール(0.5MPa)である。
【0025】
一般に、工程(A)で得られるろ過圧縮ケーキは、固形分を少なくとも10重量%、好ましくは15重量%を含有し、35重量%まで含有する。通常はこの固形分は20−30重量%、代表的には25重量%である。このためには、工程(A)の加圧ろ過は、特に材料の内部に最適な空孔率を実現するために、一般には10分間、代表的には約10−40分間、好ましくは少なくとも20分間行う。
【0026】
有利な実施形態によると、工程(A)の加圧ろ過は2つの工程を含む。すなわち
(A1)中間圧力、例えば0.5−2バール(0.05−0.2MPa)、典型的には1バール(0.1MPa)の圧力下で、5−10分間のろ過する工程、及びそれに次く
(A2)得られるフィルタケーキを、前記工程(A1)よりも高い圧力、例えば2−10バール(0.2−1.0MPa)、好ましくは3−8バール(0.3−0.8MPa)、有利には約5バール(0.5MPa)、より好ましくは4−6バール(0.4−0.6MPa)の圧力下、少なくとも2分間(実施例1参照)、通常は5−30分間、有利には少なくとも15分間圧縮する工程である。
【0027】
原則として、工程(A1)及び(A2)の実施は特に後続の乾燥工程(B)でクラックを生じる危険を減じる。
【0028】
工程(A)の正確な実施形態がいかなるものであっても、この工程は一般に周囲温度(代表的には10−30℃)で実施される。しかし、或る実施形態では、例えばろ過速度を増大するために、より高温度(代表的には30−80℃)の使用も可能である。
【0029】
工程(A)のフィルタプレスでろ過される沈降シリカを主体とする水性分散体Dとしては、一般に沈降シリカ粒子を主体とする任意の分散体が使用できる。本書の用語「沈降シリカ」は、任意の沈降法に従ったケイ酸塩と酸の反応により得られる任意のシリカを意味し、このような方法には特に酸をケイ酸塩原料に添加するか、或いは酸とケイ酸塩の全量又は一部を同時に水に又はケイ酸塩原料に加える等の方法がある。一般に分散体Dはこれらの反応から得られるシリカスラリであり、場合によりこれにさらに種々の添加剤を加えることができる。
【0030】
好ましくは水性分散体D中に存在する沈降シリカは乾燥すると、80−400m2/g、好ましくは100−350m2/gのBET比表面積、及び80−350m2/g、好ましくは100−250m2/gのCETAB比表面積を有する。
【0031】
本発明の方法に使用するのに特に適する沈降シリカの例には、EP0520862、WO95/09127、WO95/09128、又はWO03/016215号に記載されている方法により得られる沈降シリカがある。
【0032】
工程(A)の圧力ろ過に掛けられる分散体Dの固形分の初期含有量は広範囲に変動しうる。しかし、この初期含有量は5−30重量%、好ましくは15−25重量%であることが好ましい。好ましくは、水性分散体D中の沈降シリカは固形分の過半部であり、分散体D中の全固形分の重量を基準にして、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より有利には少なくとも80重量%のを占める。
【0033】
通常は、工程(A)で使用される水性分散体Dは沈降シリカの他に強化充填材を含有する。この充填材は一般にこの方法から得られる絶縁板材の機械的強度を補強するために使用される。適当な場合には、この強化充填材は好ましくは強化繊維であり、ケイ酸アルミナ繊維、アルミナ繊維、鉱物ウール繊維、ガラス繊維、石英繊維、セラミック繊維、重合体繊維、セルロース繊維よりなる群から選択され、中でも好ましい繊維はガラス繊維、ポリアミドのような重合体繊維である。
【0034】
使用される強化充填材の性質がどんなものでも、工程(A)の水性分散体D中に強化充填材が存在する場合には、シリカ/強化充填材の重量比は75/25−99/1、好ましくは85/15−98/2であることが望ましい。
【0035】
特に高温度用の熱絶縁体に適した材料を調製したい場合には、工程(A)で使用する水性分散体Dは沈降シリカ及び場合により強化充填材の他に、混濁剤、すなわち赤外線の少なくとも一部を反射、吸収及び/又は散乱させることができる物質を含有することができる。適宜に使用すると、この混濁剤は赤外線に対するバリアーとして作用する。好ましくは、通常は粒子形態の、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、二酸化チタン、二酸化マンガン、イルメナイト、石英粉、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タンタル、カーボンブラック、及びグラファイトよりなる群から選択される。二酸化チタンと鉱物質(特にイルメナイト)の粒子は本発明に適した混濁剤である。
【0036】
混濁剤が工程(A)で使用される分散体D中に存在する場合には、通常分散体D中の混濁剤の重量比(シリカ/混濁剤)は50/50−99/1、より好ましくは70/30−90/10の範囲にある。
【0037】
分散体Dの正確な組成がどんな場合でも、工程(A)はこの分散体Dに加圧ろ過を実施するものであり、それにより分散対中の固形分と実質的に同一の組成を有する圧縮ケーキを形成する。
【0038】
特に分散体Dが溶解した成分(例えば沈降シリカの沈降反応から生成する酸又は塩)を含む場合には、工程(A)は1回以上の洗浄(水又は溶媒による)を含むと有利である。しかし、洗浄は工程(A)で粉砕されたケーキが生じないように行うことのが適当である。何故なら、本発明の工程(B)は圧縮状態のろ過ケーキに対して行われる必要があるからである。従って、洗浄を行う場合には、一般にフィルタプレス上で、有利には加圧下に洗浄を実施して、適正な圧縮ケーキを得ることが望ましい。
【0039】
本発明の工程(B)は工程(A)から得られた圧縮ケーキに存在する水分を実質的に除去し、水分を広くは15重量%以下、代表的には1−10重量%にする。この乾燥工程は一般に粒子同士の凝集を適正にし、材料の絶縁特性やさらには機械特性に影響しやすいクラックの発生を回避するために実施される。
【0040】
工程(B)の乾燥は工程(A)で得られた圧縮ケーキをろ過に使用したフィルタプレス内に保持することにより実施できる。しかし、工程(A)で得られた圧縮ケーキは一般に充分圧縮(突き固め)されているので、その圧縮特性に影響しないでフィルタプレスから離型することができる。
【0041】
工程(A)から得られた圧縮ケーキを、工程(B)の乾燥に掛ける前に離型したい場合には、工程(A)を行う前にフィルタプレスの表面を予め有機油又はシリコン油等の離型剤で被覆しておくと有利である。離型剤の存在により圧縮ケーキはさらに容易に離型しうるので、乾燥前の圧縮ケーキの圧縮状態が乱されることはさらに減少する。
【0042】
本発明の1つの実施の形態によると、本発明の工程(B)では工程(A)で得られた圧縮ケーキが室温、すなわち温度10−30℃、好ましくは15−25℃で乾燥される。圧縮ケーキの初期水分と組成に依存して、この実施形態での蒸発時間は広範囲に変わりうる。しかし、通常の乾燥時間は10−20日間か、又はそれより短い。
【0043】
他の実施形態によると、工程(B)は工程(A)で得られた圧縮ろ過ケーキを漸進的に上昇する温度、一般に室温(代表的には20℃)から少なくとも100℃に、場合により200℃までも、できるだけ低い昇温速度、例えば2℃/分以下、代表的には0.5℃/分以下の昇温速度で加熱する。好ましくは漸進的な昇温を実施する場合には、1つの、又は2つの、又はそれ以上の中間温度レベルに維持すると有利であることが分かった。通常、工程(B)はEP0594469に記載されている乾燥条件で実施することができる。特に、クラックの発生を抑制するために、工程(B)を乾燥工程中に周囲湿度を制御しながら実施することがしばしば有利である。
【0044】
他の実施形態によると、本発明は上記の方法で得られる乾燥沈降シリカを基材とする温度及び/又は音響絶縁性多孔質材料を提供することを目的とする。これらの材料は通常長方形又は正方形の板材(パネル)として提供される。
【0045】
これらの材料は、高い絶縁特性、特に高い熱絶縁特性を付与する従来の多孔質熱及び/又は音響絶縁材料とは異なる。
【0046】
一般に、本発明の材料は小寸法の空孔を有する多孔質構造を有する。ここで使用する「空孔寸法」とは、例えばMicromeritics Autopore III 9420多孔計(商品名)を使用するなどの水銀多孔測定法に従って決定される空孔直径を指す。水銀多孔測定法では、試験すべき多孔質試料の調製は、試料をオーブン中200℃にて2時間乾燥し、オーブンから取り出して試験容器に5分間置き、次いで回転羽根ポンプ等により真空脱気を行う。空孔直径は接触角140℃及び表面張力γが484 N/m(又はダイン/cm)でWashburn式に従って算出される。
【0047】
上記の方法に従った水銀多孔測定によると、本発明の絶縁材料中の空孔の多くの部分は1000nmよりも小さい空孔寸法を有する。
【0048】
このように、水銀多孔測定により、一般に本発明の材料中では、1000nm未満の空孔寸法の空孔の空孔容積は材料の全空孔容積の少なくとも40%、通常は少なくとも50%を占める。多くの場合、本発明の方法により得られる材料中の1000nm未満の空孔の空孔容積は材料の全空孔容積の少なくとも60%、さらには少なくとも70%さえも占める。
【0049】
さらに、本発明による材料中に存在する1000nm未満の空孔寸法のうち、100nm未満の寸法の空孔は過半部を占めることが分かった。すなわち、水銀多孔測定によると、1000nm未満の寸法を有する空孔の空孔容積を基準にして、100nm未満の寸法を有する空孔の空孔容積は少なくとも50%、通常は少なくとも60%、さらに好ましくは少なくとも70%である。原則としてこの100nm未満の寸法を有する空孔の空孔容積の割合は工程(A)におけるろ過圧力が高いほど大きい。
【0050】
上記の比較的小さい空孔寸法に加えて、本発明の多孔質材料は一般に比較的大きい空孔容積を有する。本書で「空孔容積」とは上記の水銀多孔測定で決定される材料の空孔の容積を意味する。この全空孔容積は一般に1−5cm3/gであり、通常は1.2−4cm3/g、好適には1.5cm3/g以上、好ましくは2cm3/g以上、さらに好ましくは2.5cm3/g以上である。一般に100nm未満の空孔寸法を有する空孔の容積は少なくとも1cm3/gであり、通常は少なくとも1.1cm3/gである。大きい孔径を有する材料は一般に工程(A)でろ過を実施する圧力が比較的小さいとき、通常5バール(0.5MPa)、例えば2−5.5バール(0.2−0.55MPa)以下のときに得られる。しかし、できるだけ高い機械的強度を有する材料を得るには、工程(A)を高い圧力、有利には少なくとも3バール(0.3MPa)以上、好ましくは4バール(0.4MPa)以上で実施する必要がある。
【0051】
材料が工程(A)での分散体Dのろ過により得られるろ過ケーキの乾燥により得られる限り、本発明の絶縁材料は、水性分散体Dの固形分の組成に非常に近い又は多くの場合それと同一の組成を有する。このように、本発明の材料は、材料の全量を基準にして、大部分が、すなわち少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、さらに好ましくは少なくとも80重量%の乾燥沈降シリカより構成される。
【0052】
使用される分散体Dの性質に依存して、本発明の材料は乾燥ケイ素以外の他の成分、例えば強化充填材及び/又は混濁剤を含有することができる。
【0053】
有利な実施の形態によると、本発明の材料は沈降シリカの他に強化充填材を含有する分散体Dから得られる材料である。一般に、掛かる材料は75−99重量%、好ましくは85−98重量%の乾燥シリカと、1−25重量%、好ましくは1.5−10重量%の強化充填材を含む。
【0054】
この実施形態による材料は特に壁、天井等の建築又は住宅用の熱及び音響絶縁材に適している。熱絶縁性はさらに防火材料としても適当である。
【0055】
他の実施の形態によると、本発明の材料は沈降シリカの他に混濁剤及び場合によりさらに強化充填材を含む分散体Dから得ることができる。
【0056】
一般に、かかる材料は50−90重量%、好ましくは65−75重量%の乾燥シリカと、9−50重量%、好ましくは20−30重量%の混濁剤と、0−15重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%、さらに好ましくは1−10重量%の強化充填材を含む。
【0057】
この具体的な実施形態による材料は、高温での熱絶縁、特に高温に加熱される防火壁等の囲壁の熱絶縁に使用される。これらの材料はまた壁や天井の絶縁のような通常の熱又は音響絶縁体を構成するのにも使用できる。
【0058】
より一般的には、本発明の方法で得られる材料は特に減少した圧力下での熱絶縁、その他の熱絶縁及び/又は音響絶縁材にとして使用できる。
【0059】
本発明の材料この一般的な使用及び上記の他の特定の材料利用は、本発明の他の主題を構成する。
本発明の他の特性及び利点は、以下の実施例を参照すればさらに明らかとなろう。
【0060】
実施例1 絶縁性シリカ板材の製造
25Lのステンレス鋼製の反応器に、SiO2/Na2O重量比(Rw)が3.48であって、SiO2の濃度が5g/Lのケイ酸ナトリウムの水溶液6.7Lを導入した。次いで溶液を撹拌し、温度80℃に加熱した。温度を80℃に維持しながら、濃度80g/Lの硫酸水溶液を媒体のpHが4になるまで添加した。
媒体の温度を80℃に保持しながら、反応器に、
濃度が230g/LでRwが3.48の水性ケイ酸ナトリウムの水溶液(S1)を流量50g/分で、
濃度が80g/Lの硫酸の水溶液(S2)を反応混合物のpHがケイ酸ナトリウムと硫酸の同時添加の期間中4の値に維持されるように制御された流量で、
同時添加した。
溶液(S1)及び(S2)の上記条件下での同時添加は80分間行った。
【0061】
80分間の同時添加後に、溶液(S2)の供給を停止し、溶液(S1)の導入を混合溶液のpHが8になるまで維持した。
pH8が得られたら、溶液(S1)と(S2)を組合わせた添加をさらに20分間行った。その際の溶液(S1)の流量は50g/分であり、溶液(S2)の流量は混合溶液のpHをこの第2の同時添加期間中8に維持する流量であった。
この第2の同時添加が終了した後、溶液(S1)の添加を停止し、硫酸溶液(S2)の反応混合物の添加によりpHを4にした。これら全ての段階で反応混合物は80℃に維持した。
これらの複数の異なった反応が終了すると、反応スラリーが得られた。その中から複数の試料を250mL採取した。
【0062】
これらの250mLの反応スラリー試料に、撹拌しながら1重量%濃度のFA10(分子量5×106 mol/gに等しい分子量のポリオキシエチレン)溶液2mLを添加した。得られた混合物を7cmの内径を有するフィルタプレスに導入した。反応スラリー中に含まれた水の最初の除去を行うために圧力1バール(0.1MPa)を加えた。こうして得られたケーキを、次いで1バールの洗浄圧力で、150mlの脱塩水で二度洗浄した。これらの洗浄工程(フィルタプレス上で実施)の後、フィルタプレスの圧力を5バール(0.5MPa)に増大し、その圧力を2分間維持した。こうして22重量%の固形分を含有するシリカケーキが得られた。この濃縮ケーキをフィルタプレスから離型し、室温に放置して乾燥した。
【0063】
15日の後に、固形分95重量%の乾燥ケーキが得られた。このケーキは下記の特性のシリカ板材であった。
密度:0.27
全空孔容積:3.63cm3/g
空孔分布:
・1000nm超の空孔寸法:31%
・100nmと1000nmの間の空孔寸法:29%
・100nm未満の空孔寸法:40%
【0064】
実施例2 絶縁性シリカ板材の製造
EP520862の例1に記載された方法に従ってシリカケーキを調製した。フィルタプレス上でのろ過工程で得られた21重量%の固形分を有するケーキを水で希釈して、固形分13.5重量%を有するシリカ懸濁物(スラリー)を得た。このシリカ懸濁物のpHが5になるまで硫酸(80g/Lの溶液)を添加した。
この調製されたシリカ懸濁物(固形分13.5重量%、pH5)100gに、撹拌しながら1gのポリアミド繊維分散体(平均長さ4mm、平均直径200μm)を撹拌しながら添加した。
【0065】
得られた混合物を上記実施例1で用いたフィルタプレス(直径7cmの内径を有するフィルタプレス)上でろ過した。5バール(0.5MPa)の圧縮圧力を印加して、固形分27重量%の圧縮ケーキを得た。このようにして得られたケーキを離型し、実施例1の場合と同様に周囲温度で放置し乾燥した。10日の経過後、固形分95%のケーキを得た。これにより、機械特性が良好で密度が0.4のシリカ板材が得られた。
得られたシリカ板材は全空孔容積3.3mL/g、100nm未満の空孔寸法を有する空孔の空孔容積は1.2mL/gであった。
【0066】
実施例3 熱伝導率の測定
実施例1,2の2種のシリカ板材の熱伝導率の測定をCTメータを使用して行った。利用した原理はISO8814−1規格の「熱衝撃プローブ」法によるものである。具体的には、実施例1,2のシリカ板材の熱伝導係数を種々の圧力下に、次の方法で測定した。
熱衝撃プローブを被試験材料の内部に挿入する。
混合物を周囲温度(20℃)で熱的に安定させた後、前記プローブの加熱素子による熱束を発生させることにより材料の熱平衡を擾乱する。
材料に挿入したプローブに備わっている熱センサーにより、下記式に相当する材料の温度の変化を記録する。
T(t)=Q/(4πλ)×(Ln(t)+A)
ここに
T:熱センサーにより記録された温度(℃)
t:時間
Q:熱束(W/m)
λ:材料の熱伝導率(W/m/K)
A:定数
線形回帰により、種々の圧力下での材料の熱伝導率を決定する。
測定は、各材料について、圧力を上昇しながら0.03mバール(3Pa)から大気圧までの5つの圧力で行った。
得られた結果は下記の表1,2に記載する。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フィルタプレスにより沈降シリカ粒子を含有する水性分散体Dを圧縮ろ過して圧縮ろ過ケーキを形成し、次いで(B)前記工程(A)で得られた圧縮状態の前記ろ過ケーキを乾燥することより乾燥沈降シリカを製造し、乾燥沈降シリカを用いて熱及び/又は音響絶縁材料を製造する方法。
【請求項2】
前記工程(A)における前記フィルタプレスによるろ過は、圧力0.2−1.0MPa、好ましくは0.3−0.8MPaの圧力下に行われる請求項1の方法。
【請求項3】
前記工程(A)は、(A1)中間圧力下でろ過し、次いで(A2)得られるろ過ケーキを圧力0.2−1.0MPa、好ましくは0.3−0.8MPaで圧縮することよりなる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(A)で得られるろ過ケーキは固形分を10−35重量%、好ましくは20−30重量%含有している請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(A)で使用される水性分散体Dは乾燥されたときにBET比表面積80−400m2/g及びCTAB比表面積80−350m2/gを有する沈降シリカを含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(A)で使用される水性分散体Dはさらに強化充填材を含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記強化充填材はケイ酸アルミニウム繊維、アルミナ繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、石英繊維、セラミック繊維、ポリマー繊維、及びセルロース繊維よりなる群からから選択される一種以上である請求項6の方法。
【請求項8】
前記水性分散体Dのシリカ/強化充填材の重量比は75/25−99/1である請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
工程(A)で使用される水性分散体Dはさらに赤外線の少なくとも一部を反射し、吸収し及び/又は散乱させる混濁剤を含有する請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記混濁剤は酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、二酸化チタン、酸化マンガン、イルメナイト、石英粉末、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タンタル、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタンよりなる群から選択され、好ましくは二酸化チタンである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記水性分散体Dのシリカ/混濁剤の重量比は50/50−99/1である請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(B)は、前記工程(A)で得られる圧縮ろ過ケーキを温度10−30℃で乾燥させることからなる請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(B)は、前記工程(A)で得られる圧縮ろ過ケーキを、周囲温度から低くとも100℃の温度まで2℃/分未満の昇温速度で漸進的に加熱することにより実施され、好ましくはその間に1つ以上の中間温度の段階に維持することを含む請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法により得られた乾燥沈降シリカよりなる多孔質熱及び/又は音響絶縁材料。
【請求項15】
前記絶縁材料は、長方形板又は正方形板の形状を有する請求項14の絶縁材料。
【請求項16】
1000nm未満の孔径を有する空孔の容積が、前記絶縁材料の容積の少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%を占める請求項14又は15の絶縁材料。
【請求項17】
100nm未満の孔径を有する空孔の容積が、1000nm未満の孔径を有する空孔の容積の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%を占める請求項15又は16の絶縁材料。
【請求項18】
1−5cm3/gの全空孔容積を有する請求項14〜17のいずれか一項に記載の絶縁材料。
【請求項19】
100nm未満の孔径を有する空孔の容積が少なくとも1cm3/gである請求項14〜18のいずれか一項に記載の絶縁材料。
【請求項20】
請求項6〜8のいずれかの方法により得られた乾燥沈降シリカ及び強化充填材を含有している多孔質熱及び/又は音響絶縁材料。
【請求項21】
75−99重量%の乾燥沈降シリカ及び1−25重量%の強化充填材よりなる請求項19に記載の絶縁材料。
【請求項22】
請求項9〜11のいずれかの方法により得られた乾燥沈降シリカ及び混濁剤を含有している多孔質熱及び/又は音響絶縁材料。
【請求項23】
50−90重量%の乾燥沈降シリカ、9−50重量%の混濁剤、及び0−15重量%の強化充填材よりなる請求項22に記載の絶縁材料。
【請求項24】
請求項14〜22のいずれか一項に記載の材料を使用した熱及び/又は音響絶縁材料のパネル。
【請求項25】
請求項14〜22のいずれか一項に記載の材料を減圧下に用いた熱及び/又は音響絶縁材料のパネル。
【請求項26】
請求項19又は20のいずれか一項に記載の熱及び/又は音響絶縁材料を用いた住宅壁、天井壁又は耐火壁。
【請求項27】
請求項21又は22のいずれか一項に記載の材料を使用した、高温熱絶縁材、特に高温囲壁の絶縁または防火壁。

【公表番号】特表2007−527349(P2007−527349A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516338(P2006−516338)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001669
【国際公開番号】WO2005/003057
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(390023135)ロディア・シミ (146)
【Fターム(参考)】