乾燥炉及び乾燥方法
【課題】被乾燥物中の暖まり易い部位に対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥技術を提供することを課題とする。
【解決手段】乾燥炉にて、(b)に示される時間Taの間、車体のサイドシルに、加熱手段から出る放射熱を加える。
【効果】サイドシルに放射熱を加えることで、サイドシルの温度を車体のドアアウタパネルの温度に確実に近似させることができる。サイドシルとドアアウタパネルを略同一に昇温させることができるので、ドアアウタパネルに対して余分な熱を与えることがない。したがって、ドアアウタパネル(被乾燥物中の暖まり易い部位)に対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥技術を提供できる。
【解決手段】乾燥炉にて、(b)に示される時間Taの間、車体のサイドシルに、加熱手段から出る放射熱を加える。
【効果】サイドシルに放射熱を加えることで、サイドシルの温度を車体のドアアウタパネルの温度に確実に近似させることができる。サイドシルとドアアウタパネルを略同一に昇温させることができるので、ドアアウタパネルに対して余分な熱を与えることがない。したがって、ドアアウタパネル(被乾燥物中の暖まり易い部位)に対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥技術を提供できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被乾燥物を熱風により乾燥させる乾燥技術に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥炉の一種に、熱風循環式乾燥炉がある。この乾燥炉では、循環している熱風により被乾燥物を乾燥させる。被乾燥物は、複数の部材の組合せであることが多く、厚肉の部位もあれば、薄肉の部位もある。厚肉の部位は熱容量が大きいので、暖まり難い部位である。一方、薄肉の部位は熱容量が小さいので、暖まり易い部位である。このような被乾燥物を熱風循環式乾燥炉で乾燥させると、暖まり易い部位の乾燥が完了しているにもかかわらず、暖まり難い部位の乾燥が完了するまで乾燥を続けることになり、乾燥時間が長くなる。そのため、暖まり難い部位の昇温速度を向上させる技術が必要となる。
【0003】
従来、被乾燥物の暖まり難い部位の昇温速度を向上させる技術として、熱風による加熱に加えて被乾燥物の局部を加熱する乾燥技術が各種提案されている(例えば、特許文献1(図4)参照。)。
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図11は従来の技術の基本構成を説明する図であり、乾燥炉100は、被乾燥物101を囲むように形成されている炉体102と、この炉体102の左壁103下部及び右壁104下部に各々設けられ熱風を取入れる一対の熱風取入口105、106と、これらの熱風取入口105、106に接続した下部ヘッダー107、108に設けられ取入れた熱風を炉体102内に噴出させる一対の熱風噴出口109、111と、左壁103上部内側及び右壁104上部内側に設けた上部ヘッダー112、113に各々設けられ炉体102内の熱風を吸込む一対の熱風吸込口114、115と、上部ヘッダー112、113に各々接続され熱風を炉体102外へ取出す一対の熱風取出口116、117とからなる。
【0005】
熱風取出口116、117に送風機が接続され、送風機の吐出側に加熱装置が接続され、加熱装置に熱風取入口105、106が接続される。加えて、被乾燥物101の下部近傍に、左右一対の加熱手段118、119が配置されている。これらの加熱手段118、119は送風機及び加熱装置に接続されている。
【0006】
乾燥炉100では、熱風噴出口109、111から噴き出た熱風を被乾燥物101に接触させて、被乾燥物101を乾燥させる。熱風は、炉体102内から熱風吸込口114、115を介して炉体102外に出され、加熱されて熱風取入口105、106を介して再度熱風噴出口109、111から噴出される。すなわち、循環する熱風により被乾燥物101を乾燥させる。
【0007】
また、被乾燥物101の底部121が厚肉であれば、底部121は熱容量が大きくて暖まり難い部位である。このような被乾燥物101の底部121に向けて、加熱手段118、119の噴出しノズル122から熱風を噴出させる。この熱風の噴射により、被乾燥物101の底部121の昇温速度を向上させることができる。
【0008】
しかし、乾燥炉100では、加熱手段118、119の噴出しノズル122から噴出される熱風が、被乾燥物101の底部121周辺で拡散するため、狙った部位に対して狙った熱量を与えることが難しい。対策として乾燥時間を長くすると、暖まり難い部位である底部121は、昇温していくが、被乾燥物101の暖まり易い部位は、既に昇温できているにもかかわらず余分な熱を受け取ることになる。これは、省エネルギーの観点から好ましくない。
【0009】
そこで、被乾燥物中の暖まり易い部位に対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥技術が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−197845公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、被乾燥物中の暖まり易い部位に対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、被乾燥物を熱風により乾燥させる乾燥炉において、前記被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位に、放射熱を加えて前記暖まり難い部位の温度が前記他の部位の温度に近似するように加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明では、加熱手段は、近赤外線ランプであることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明では、加熱手段より上流側に、暖まり難い部位の温度を測定する第1測温手段と、他の部位の温度を測定する第2測温手段とが備えられ、前記第1測温手段と前記第2測温手段との温度情報に基づいて前記加熱手段の出力を制御する制御部が備えられていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る発明は、乾燥炉を用いて、被乾燥物を熱風により乾燥させる乾燥方法において、前記被乾燥物の温度を上昇させる昇温工程と、前記被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位の温度を第1測温手段で測定し、前記他の部位の温度を第2測温手段で測定する温度測定工程と、前記被乾燥物中の暖まり難い部位に、放射熱を加えて前記暖まり難い部位の温度が前記他の部位の温度に近似するように加熱する局部加熱工程と、前記被乾燥物の温度を一定に保持する温度保持工程と、からなることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る発明では、被乾燥物は、乾燥炉に入れる前に塗装が施されている物であり、局部加熱工程で、前記被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加える時点は、第1測温手段で測定した暖まり難い部位の温度が、前記被乾燥物に塗布された塗料の架橋温度に達した時点であることを特徴とする。
【0017】
請求項6に係る発明では、放射熱の熱源は、近赤外線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明では、乾燥炉は、被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位に、放射熱を加えて暖まり難い部位の温度が他の部位の温度に近似するように加熱する加熱手段を備えている。ここで、他の部位を、暖まり易い部位に読み替えることにする。乾燥炉では、熱風で被乾燥物全体を加熱した状態で、加熱手段で被乾燥物中の暖まり難い部位を局部的に加熱する。加熱手段により出される放射熱は、電磁波の形で被乾燥物に吸収されるため、被乾燥物中の暖まり難い部位を確実に加熱できる。この加熱により、被乾燥物中の暖まり難い部位が昇温するので、暖まり難い部位の温度を、暖まり易い部位の温度に確実に近似させることができる。
【0019】
仮に、熱風で被乾燥物全体を加熱した状態で、噴射ノズルから噴射させた熱風で被乾燥物中の暖まり難い部位を局部的に加熱すると、噴射された熱風は暖まり難い部位の周辺で拡散する。この熱風の拡散により、熱風が被乾燥物中の暖まり難い部位に行き届かず、暖まり難い部位は昇温し難くなる。暖まり難い部位を昇温させるためにはさらに加熱を続ければよいが、暖まり易い部位は既に昇温しているので余分な熱を受け取ることになる。
【0020】
その点、本発明の乾燥炉では、被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加えることで、暖まり難い部位の温度を暖まり易い部位の温度に確実に近似させることができる。すなわち、被乾燥物中の暖まり難い部位と暖まり易い部位を略同一に昇温させることができるので、暖まり易い部位に対して余分な熱を与えることがない。したがって、被乾燥物中の暖まり易い部位に対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥炉を提供できる。
【0021】
請求項2に係る発明では、加熱手段は、近赤外線ランプである。赤外線として、近赤外線と、この近赤外線より波長が長い遠赤外線が知られている。また、照射対象の種類によって、吸収率(エネルギー吸収率)が異なることが知られている。本発明の被乾燥物に車体を適用すると、被乾燥物は、車体を構成する鉄系材料と、車体にアクリル系水性塗料等を塗布することにより形成される塗膜とからなる。次に示す表1で、鉄、アクリル系水性塗料の吸収率を示す。
【0022】
【表1】
【0023】
塗膜を主として加熱するのであれば、アクリル系水性塗料に74%もの吸収率を有する遠赤外線が好適である。しかし、車体の内面に塗布された塗膜には効力が及ばない。そこで、本発明では、鉄に35%もの吸収率を有する近赤外線を採用し、鉄すなわち車体を主として加熱し、車体の熱で内面の塗膜を乾燥させるようにした。結果、近赤外線を用いることで、近赤外線が直接照射されない部位に対しても、部材の熱伝導を利用して、時間を要さず被乾燥物を昇温させることができる。
【0024】
請求項3に係る発明では、乾燥炉は、加熱手段より上流側に、暖まり難い部位の温度を測定する第1測温手段と、他の部位の温度を測定する第2測温手段とを備えている。また、乾燥炉は、第1測温手段と第2測温手段との温度情報に基づいて加熱手段の出力を制御する制御部を備えている。第1測温手段で測定した暖まり難い部位の温度が、第2測温手段で測定した他の部位の温度に対して大きな差を有する場合には、制御部から加熱手段に高出力の指令を送る。一方、第1測温手段で測定した暖まり難い部位の温度が、第2測温手段で測定した他の部位の温度に対して小さな差を有する場合には、制御部から加熱手段に低出力の指令を送る。このように被乾燥物の暖まり難い部位の温度を他の部位の温度に対して比較し、温度差に応じた適切な熱量を出力するように加熱手段を制御部で制御している。したがって、加熱手段から被乾燥物の暖まり難い部位に対して適切な熱量を与えることができる。
【0025】
請求項4に係る発明では、乾燥方法は、被乾燥物を熱風により乾燥させる乾燥炉を用いて実施される。また、乾燥方法は、被乾燥物の温度を上昇させる昇温工程と、被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位の温度を第1測温手段で測定し、他の部位の温度を第2測温手段で測定する温度測定工程と、被乾燥物中の暖まり難い部位に、放射熱を加えて暖まり難い部位の温度が他の部位の温度に近似するように加熱する局部加熱工程と、被乾燥物の温度を一定に保持する温度保持工程と、からなる。ここで、他の部位を、暖まり易い部位に読み替えることにする。
【0026】
局部加熱工程で用いられる放射熱は、電磁波の形で被乾燥物に吸収されるため、被乾燥物中の暖まり難い部位を確実に加熱できる。この加熱により、被乾燥物中の暖まり難い部位が昇温するので、暖まり難い部位の温度を、暖まり易い部位の温度に確実に近似させることができる。
【0027】
仮に、熱風で被乾燥物全体を加熱した状態で、噴射ノズルから噴射させた熱風で被乾燥物中の暖まり難い部位を局部的に加熱すると、噴射された熱風は暖まり難い部位の周辺で拡散する。この熱風の拡散により、熱風が被乾燥物中の暖まり難い部位に行き届かず、暖まり難い部位は昇温し難くなる。暖まり難い部位を昇温させるためにはさらに加熱を続ければよいが、暖まり易い部位は既に昇温しているので余分な熱を受け取ることになる。
【0028】
その点、本発明の乾燥方法では、局部加熱工程で、被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加えることにより、暖まり難い部位の温度を暖まり易い部位の温度に確実に近似させることができる。すなわち、被乾燥物中の暖まり難い部位と暖まり易い部位を略同一に昇温させることができるので、暖まり易い部位に対して余分な熱を与えることがない。したがって、被乾燥物中の暖まり易い部位に対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥方法を提供できる。
【0029】
請求項5に係る発明では、被乾燥物は、乾燥炉に入れる前に塗装が施されている物である。また、局部加熱工程で、被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加える時点は、第1測温手段で測定した暖まり難い部位の温度が、被乾燥物に塗布された塗料の架橋温度に達した時点である。以下に、被乾燥物表面での塗料の乾燥機構を説明する。
【0030】
被乾燥物に霧状の塗料を噴射させると、塗料粒子が被乾燥物の表面に向かう。このとき、被乾燥物の表面温度は常温である。
塗料粒子が被乾燥物の表面に衝突すると、被乾燥物の表面に付着した塗料はうねりを起こす。同時に、塗料の揮発成分が蒸発するので、塗料はうねった状態で固まっていく。
次に、塗装が施された被乾燥物を乾燥炉に入れると、被乾燥物の表面で固まっている塗料が熱風により加熱される。加熱された塗料は、流動化する。また、塗料に、うねりの振幅方向に表面張力及び重力が働く。その後、平滑な塗膜が形成される。
被乾燥物の温度がさらに上昇し、被乾燥物の表面温度が塗料の架橋温度に達した時点で、被乾燥物の表面に放射熱を加える。この時点で既に架橋が開始されているため、塗料が流動することがなく、上記で形成された平滑な塗膜を維持できる。結果、平滑な塗膜を得ることができる。
【0031】
仮に、塗装が施された被乾燥物を乾燥炉に入れて、熱風乾燥開始と同時に被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加えると、被乾燥物に塗布された塗料が流動化する。しかし、放射熱で被乾燥物を局部加熱することにより、被乾燥物の昇温速度が大きくなるので、流動が不十分なうちに塗料が高温になり、塗料が固まっていく。そのため、塗膜が平滑になり難くなり、塗膜の品質が低下する。
【0032】
その点、本発明の乾燥方法では、被乾燥物中の暖まり難い部位の温度が、被乾燥物に塗布された塗料の架橋温度に達した時点で、被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加える。すなわち、被乾燥物の暖まり難い部位に対して、熱風乾燥開始から一定時間が経過したときに、放射熱による局部加熱を実施する。熱風乾燥開始から局部加熱開始までの間に、暖まり難い部位に塗布された塗料が流動化する。熱風乾燥開始時は被乾燥物の昇温速度が小さいので、塗料は十分に流動してから高温になり、固まっていく。そのため、平滑な塗膜を得ることができるので、塗膜の品質が向上する。
【0033】
請求項6に係る発明では、放射熱の熱源は、近赤外線である。赤外線として、近赤外線と、この近赤外線より波長が長い遠赤外線が知られている。また、照射対象の種類によって、吸収率(エネルギー吸収率)が異なることが知られている。本発明の被乾燥物に車体を適用すると、被乾燥物は、車体を構成する鉄系材料と、車体にアクリル系水性塗料等を塗布することにより形成される塗膜とからなる。次に示す表2で、鉄、アクリル系水性塗料の吸収率を示す。
【0034】
【表2】
【0035】
塗膜を主として加熱するのであれば、アクリル系水性塗料に74%もの吸収率を有する遠赤外線が好適である。しかし、車体の内面に塗布された塗膜には効力が及ばない。そこで、本発明では、鉄に35%もの吸収率を有する近赤外線を採用し、鉄すなわち車体を主として加熱し、車体の熱で内面の塗膜を乾燥させるようにした。結果、近赤外線を用いることで、近赤外線が直接照射されない部位に対しても、部材の熱伝導を利用して、時間を要さず被乾燥物を昇温させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る被乾燥物表面での塗料の乾燥機構を説明する図である。
【図2】比較例及び実施例の局部加熱開始時期を説明するグラフである。
【図3】比較例及び実施例の昇温速度を説明するグラフである。
【図4】乾燥炉の断面図である。
【図5】図4の5部拡大図である。
【図6】図5の6−6線断面図である。
【図7】図5の7−7線断面図である。
【図8】図5の8−8線断面図である。
【図9】測温手段及び加熱手段の作用を説明する図である。
【図10】乾燥方法のフロー図である。
【図11】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。また、被乾燥物に車体を適用し、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位にサイドシルを適用し、他の部位にドアアウタパネルを適用して説明する。加えて、乾燥炉に入る車体は、乾燥炉の上流側に設けられる塗装設備で塗装が施されているものとする。
【実施例】
【0038】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1(a)に示されるように、車体11(詳細後述)に霧状の塗料を噴射させると、塗料粒子12が矢印(1)のように車体11の表面13に向かう。このとき、車体11の表面温度は常温である。
【0039】
塗料粒子12が車体11の表面13に衝突すると、(b)に示されるように、車体11の表面13に付着した塗料14はうねりを起こす。同時に、塗料14の揮発成分が蒸発するので、塗料14はうねった状態で固まっていく。
【0040】
次に、塗装が施された車体11を乾燥炉(詳細後述)に入れると、車体11の表面13で固まっている塗料14が熱風により加熱される。加熱された塗料14は、流動化する。また、塗料14に、うねりの振幅方向に表面張力及び重力が働く。その後、(c)に示されるように、平滑な塗膜15が形成される。
【0041】
車体11の温度がさらに上昇し、車体11の表面温度が塗料の架橋温度に達した時点で、車体11の表面13に加熱手段(詳細後述)から出る放射熱を加える。この時点で既に架橋が開始されているため、塗料が流動することがなく、(c)で形成された平滑な塗膜15を維持できる。結果、(d)に示されるように、平滑な塗膜15を得ることができる。
【0042】
次に、局部加熱の開始時期について説明する。図2(a)で比較例を説明し、(b)で実施例を説明する。(a)に示されるように、熱風乾燥開始と同時に、車体のサイドシル(詳細後述)を、一定時間Ta熱風に加えて放射熱で局部加熱(詳細後述)すると、昇温曲線を得る。この曲線で、加熱開始時は昇温速度が大きくなる。また、局部加熱時間Ta中に、車体の表面温度は温度tcに達する。この温度tcは、塗料の架橋温度に一致する。
【0043】
車体のサイドシルに対する局部加熱を、熱風乾燥開始と同時に開始すると、サイドシルに塗布された塗料が流動化する。しかし、局部加熱によって車体の昇温速度が大きくなるので、流動が不十分なうちに塗料が高温になり、塗料が固まっていく。そのため、塗膜が平滑になり難くなり、塗膜の品質が低下する。
【0044】
(b)に示されるように、熱風乾燥開始から時間Tが経過したとき、車体のサイドシルを、一定時間Ta熱風に加えて放射熱で局部加熱する。その結果、昇温曲線を得る。この曲線で、加熱開始時の昇温速度は(a)に比べて小さくなる。また、(b)において、局部加熱開始時間Tのとき、車体の表面温度は温度tcに達する。この温度tcは、塗料の架橋温度に一致する。
【0045】
車体のサイドシルに対する局部加熱を、熱風乾燥開始から時間Tが経過したときに実施する。熱風乾燥開始から局部加熱開始までの間に、サイドシルに塗布された塗料が流動化する。熱風乾燥開始時は車体の昇温速度が小さいので、塗料は十分に流動してから高温になり、固まっていく。そのため、平滑な塗膜を得ることができるので、塗膜の品質が向上する。
【0046】
次に、局部加熱と乾燥時間の関係を説明する。図3(a)で比較例を説明し、(b)で実施例を説明する。塗装が施された車体を、熱風が循環している乾燥炉に入れて乾燥させると、(a)に示されるように、車体の目標表面温度160℃を目標時間Th=11分間保持するまでに、例えば合計41分間掛かった。
【0047】
一方、乾燥炉内で塗装が施された車体を熱風で乾燥させている状態で、(b)に示されるように、熱風乾燥開始から20分が経過したときに、一定時間Ta=1分間加熱手段から出る放射熱で、車体のサイドシルを局部加熱する。
【0048】
この局部加熱により、サイドシルの昇温速度が大きくなるので、車体のドアアウタパネル(詳細後述)の昇温曲線にサイドシルの昇温曲線が近づく。結果、サイドシルの目標表面温度160℃を目標時間Th=11分間保持するまでに、例えば合計32分間掛かった。(a)と(b)を対比すると、(b)の昇温速度を用いることで、(a)に比べてTd=9分間の時間を削減することができる。このような車体の乾燥を実施する乾燥炉を図4で説明する。
【0049】
図4に示されるように、乾燥炉20は、コンベア21で搬送されている複数の車体11を囲む炉体22を有する。この炉体22内で、車体11に塗布された塗料を、熱風により乾燥させる。熱風は炉体22内に導入された後、車体11に接触し、炉体22外へ取出される。炉体22から取出した熱風は、加熱されて再度炉体22内に導入される。すなわち、乾燥炉20は、熱風循環式乾燥炉である。
【0050】
乾燥炉20は、上流側に配置されている第1熱風加熱部23と、下流側に配置されている第2熱風加熱部24とからなる。第1熱風加熱部23は、車体11を昇温させる昇温部に相当する。また、第2熱風加熱部24は、昇温した車体11の温度を保持する保持部に相当する。
加えて、第1熱風加熱部23の終端に、局部加熱部25(詳細後述)が設けられている。次に局部加熱部25の構成を説明する。
【0051】
図5に示されるように、局部加熱部25に、車体11の局部を加熱する局部加熱装置26(詳細後述)が設けられている。局部加熱部25よりも上流側に、上流側温度測定部27が設けられ、この上流側温度測定部27に、車体11各部の温度を測定する上流側温度測定装置28(詳細後述)が設けられている。また、局部加熱部25よりも下流側に、下流側温度測定部29が設けられ、この下流側温度測定部29に、車体11各部の温度を測定する下流側温度測定装置31(詳細後述)が設けられている。次に局部加熱装置26の詳細構造を図6で説明する。
【0052】
図6に示されるように、局部加熱装置26は、炉体22内に立てた門形フレーム32に支持されている。また、局部加熱装置26は、門形フレーム32の左柱33に設けられ、車体11中で暖まり難い部位である底部左側34及び左サイドシル35に、放射熱を加えて加熱する左内側加熱手段36と、左柱33に設けられ、車体11中で、熱容量が左ドアアウタパネル37より大きくて暖まり難い部位である左サイドシル35に、放射熱を加えて左サイドシル35の温度が左ドアアウタパネル37の温度に近似するように加熱する左外側加熱手段38と、門形フレーム32の右柱39に設けられ、車体11中で暖まり難い部位である底部右側41及び右サイドシル42に、放射熱を加えて加熱する右内側加熱手段43と、右柱39に設けられ、熱容量が右ドアアウタパネル44より大きくて暖まり難い部位である右サイドシル42に、放射熱を加えて右サイドシル42の温度が右ドアアウタパネル44の温度に近似するように加熱する右外側加熱手段45と、からなる。
【0053】
左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45は、各々近赤外線ランプである。左内側加熱手段36に、左内側フィラメント46を囲んでいる左内側反射板47が設けられている。左内側フィラメント46で発生させた光を、左内側反射板47で集光させるので、指向性を持った熱線を車体11に発することができる。なお、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45の各々にも、左内側加熱手段36と同様にフィラメントを囲む反射板が設けられている。
【0054】
また、近赤外線ランプは、遠赤外線ランプに比べて比熱容量が小さいため、応答速度が速い。応答速度が速ければ、制御部からの指令に対する素早い出力制御が可能となる。加熱までの待ち時間を短くすることができるので、乾燥時間の短縮に寄与する。
【0055】
加えて、乾燥炉20に制御部48が備えられ、この制御部48は、左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45を制御する。制御部48は、上流側温度測定部(図5の符号27)及び下流側温度測定部(図5の符号29)からの温度情報に基づいて、近赤外線ランプに出力指令を送る。すなわち、制御部48で近赤外線ランプの出力を制御できる。次に上流側温度測定部の詳細構造を図7で説明する。
【0056】
図7に示されるように、上流側温度測定部27は、門形フレーム71の左柱72に設けられ、左サイドシル35の温度を測定する上流側左第1測温手段73と、左炉壁74に設けられ、左ドアアウタパネル37の温度を測定する上流側左第2測温手段75と、門形フレーム71の右柱76に設けられ、右サイドシル42の温度を測定する上流側右第1測温手段77と、右炉壁78に設けられ、右ドアアウタパネル44の温度を測定する上流側右第2測温手段79とからなる。
【0057】
上流側左第1測温手段73、上流側左第2測温手段75、上流側右第1測温手段77、上流側右第2測温手段79は、非接触式のセンサである。これらのセンサは、熱風により加熱された車体11から出る熱放射線を検出して、車体11のサイドシル及びドアアウタパネルの温度を算出する。
【0058】
加えて、上流側左第1測温手段73、上流側左第2測温手段75、上流側右第1測温手段77、上流側右第2測温手段79は、制御部48に接続されている。制御部48は、上流側左第1測温手段73と上流側左第2測温手段75の温度情報に基づいて、左内側加熱手段(図6の符号36)と左外側加熱手段(図6の符号38)に出力指令を出す。例えば、上流側左第2測温手段75で測定した左ドアアウタパネル37の温度に対して、上流側左第1測温手段73で測定した左サイドシル35の温度が低温である場合には、左内側加熱手段及び左外側加熱手段に高出力指令を出す。
【0059】
上流側温度測定部27では、上流側左第1測温手段73で測定した左サイドシル35の温度が、上流側左第2測温手段75で測定した左ドアアウタパネル37の温度に対して大きな差を有する場合には、制御部48から左内側加熱手段(図6の符号36)及び左外側加熱手段(図6の符号38)に高出力の指令を送る。一方、上流側左第1測温手段73で測定した左サイドシル35の温度が、上流側左第2測温手段75で測定した左ドアアウタパネル37の温度に対して小さな差を有する場合には、制御部48から左内側加熱手段及び左外側加熱手段に低出力の指令を送る。
【0060】
このように車体のサイドシルの温度をドアアウタパネルの温度に対して比較し、温度差に応じた適切な熱量を出力するように左内側加熱手段及び左外側加熱手段を制御部48で制御している。したがって、左内側加熱手段及び左外側加熱手段からサイドシルに対して適切な熱量を与えることができる。
【0061】
また、制御部48は、上流側右第1測温手段77と上流側右第2測温手段79の温度情報に基づいて、右内側加熱手段(図6の符号43)と右外側加熱手段(図6の符号45)にも出力指令を出す。次に下流側温度測定部の詳細構造を図8で説明する。
【0062】
図8に示されるように、下流側温度測定部29は、門形フレーム81の左柱82に設けられ、左サイドシル35の温度を測定する下流側左第1測温手段83と、左炉壁74に設けられ、左ドアアウタパネル37の温度を測定する下流側左第2測温手段84と、門形フレーム81の右柱85に設けられ、右サイドシル42の温度を測定する下流側右第1測温手段86と、右炉壁78に設けられ、右ドアアウタパネル44の温度を測定する下流側右第2測温手段87とからなる。
【0063】
下流側左第1測温手段83、下流側左第2測温手段84、下流側右第1測温手段86、下流側右第2測温手段87は、非接触式のセンサである。これらのセンサは、熱風により加熱された車体11から出る熱放射線を検出して、車体11のサイドシル及びドアアウタパネルの温度を算出する。
【0064】
加えて、下流側左第1測温手段83、下流側左第2測温手段84、下流側右第1測温手段86、下流側右第2測温手段87は、制御部48に接続されている。制御部48は、下流側左第1測温手段83と下流側左第2測温手段84の温度情報に基づいて、左内側加熱手段(図6の符号36)と左外側加熱手段(図6の符号38)に出力指令を出す。例えば、下流側左第2測温手段84で測定した左ドアアウタパネル37の温度に対して、下流側左第1測温手段83で測定した左サイドシル35の温度が高温である場合には、左内側加熱手段及び左外側加熱手段に低出力指令を出す。
【0065】
また、制御部48は、下流側右第1測温手段86と下流側右第2測温手段87の温度情報に基づいて、右内側加熱手段(図6の符号43)と右外側加熱手段(図6の符号45)にも出力指令を出す。
【0066】
以上に述べた乾燥炉の作用を次に述べる。
図9(a)に示されるように、上流側温度測定部(図7の符号27)にて、上流側左第1測温手段73で左サイドシル35の温度を測定し、上流側左第2測温手段75で左ドアアウタパネル37の温度を測定と、上流側右第1測温手段77で右サイドシル42の温度を測定し、上流側右第2測温手段79で右ドアアウタパネル44の温度を測定する。
【0067】
測定結果は、左ドアアウタパネル37の温度に対して左サイドシル35の温度が低温であり、右ドアアウタパネル44の温度に対して右サイドシル42の温度が低温であるとする。
【0068】
上記測定結果に基づいて、制御部48は、(b)に示されるように、左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45に高出力指令を出す。この指令により、左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45は、左サイドシル35及び右サイドシル42に近赤外線を集中的に照射する。左サイドシル35及び右サイドシル42が照射されることで、左ドアアウタパネル37に対する左サイドシル35の温度差と右ドアアウタパネル44に対する右サイドシル42の温度差を解消することができる。すなわち、車体11各部を均一に昇温させることができる。
【0069】
乾燥炉(図4の符号20)では、熱風で車体11全体を加熱した状態で、左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45で左サイドシル35及び右サイドシル42を局部的に加熱する。左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45により出される放射熱は、電磁波の形で左サイドシル35及び右サイドシル42に吸収されるため、左サイドシル35及び右サイドシル42を確実に加熱できる。
【0070】
この加熱により、図3(b)に示されるように、時間Taの間にサイドシルが昇温するので、サイドシルの温度を、ドアアウタパネルの温度に確実に近似させることができる。
【0071】
図9(b)において、仮に、熱風で車体11全体を加熱した状態で、噴射ノズルから噴射させた熱風で左サイドシル35及び右サイドシル42を局部的に加熱すると、噴射された熱風は左サイドシル35及び右サイドシル42の周辺で拡散する。この熱風の拡散により、熱風が左サイドシル35及び右サイドシル42に行き届かず、左サイドシル35及び右サイドシル42は昇温し難くなる。左サイドシル35及び右サイドシル42を昇温させるためにはさらに加熱を続ければよいが、左ドアアウタパネル37及び右ドアアウタパネル44は既に昇温しているので余分な熱を受け取ることになる。
【0072】
その点、本発明の乾燥炉(図4の符号20)では、車体11中の左サイドシル35及び右サイドシル42に放射熱を加えることで、左サイドシル35及び右サイドシル42の温度を左ドアアウタパネル37及び右ドアアウタパネル44の温度に確実に近似させることができる。すなわち、左サイドシル35及び右サイドシル42と、左ドアアウタパネル37及び右ドアアウタパネル44を略同一に昇温させることができるので、左ドアアウタパネル37及び右ドアアウタパネル44に対して余分な熱を与えることがない。したがって、ドアアウタパネルに対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥炉を提供できる。
【0073】
ところで、本発明では車体11の局部加熱に近赤外線を用いている。赤外線として、近赤外線と、この近赤外線より波長が長い遠赤外線が知られている。また、照射対象の種類によって、吸収率(エネルギー吸収率)が異なることが知られている。本発明の被乾燥物は、車体11を構成する鉄系材料と、車体11にアクリル系水性塗料等を塗布することにより形成される塗膜とからなる。次に示す表3で、鉄、アクリル系水性塗料の吸収率を示す。
【0074】
【表3】
【0075】
塗膜を主として加熱するのであれば、アクリル系水性塗料に74%もの吸収率を有する遠赤外線が好適である。しかし、車体の内面に塗布された塗膜には効力が及ばない。そこで、本発明では、鉄に35%もの吸収率を有する近赤外線を採用し、鉄すなわち車体を主として加熱し、車体の熱で内面の塗膜を乾燥させるようにした。
【0076】
具体的には、近赤外線を(c)に示されるように、左サイドシル35の外側塗膜91に向けて照射する。照射された近赤外線が矢印(2)のように左サイドシル35に吸収されると、左サイドシル35が加熱される。左サイドシル35の熱は、左サイドシル35の内面89側に伝わるので、左サイドシル35の内側塗膜92が乾燥する。左サイドシル35の内面89側は、近赤外線が直接照射されていない部位である。つまり、近赤外線を用いることで、近赤外線が直接照射されない部位に対しても、左サイドシル35の熱伝導を利用して、時間を要さず左サイドシル35を昇温させることができる。
【0077】
次に乾燥炉を用いて実施される乾燥方法を説明する。
図10に示されるように、ステップ(以下STと記す。)01において、被乾燥物の温度を上昇させる。具体的には図4に示されるように、第1熱風加熱部23で、車体11を昇温させる。
【0078】
ST02において、被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位の温度を第1測温手段で測定し、他の部位の温度を第2測温手段で測定する。具体的には図9(a)に示されるように、上流側温度測定部27にて、上流側左第1測温手段73で左サイドシル35の温度を測定し、上流側左第2測温手段75で左ドアアウタパネル37の温度を測定し、上流側右第1測温手段77で右サイドシル42の温度を測定し、上流側右第2測温手段79で右ドアアウタパネル44の温度を測定する。
【0079】
ST03において、被乾燥物中の暖まり難い部位に、放射熱を加えて暖まり難い部位の温度が他の部位の温度に近似するように加熱する。具体的には図9(b)に示されるように、左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45は、左サイドシル35及び右サイドシル42に近赤外線を集中的に照射する。
【0080】
ST04において、被乾燥物の温度を一定に保持する。具体的には図4に示されるように、第2熱風加熱部24で、昇温した車体11の温度を保持する。
【0081】
乾燥方法は、車体11を熱風により乾燥させる乾燥炉20を用いて実施される。また、乾燥方法は、車体11の温度を上昇させる昇温工程と、図9(a)において上流側左第1測温手段73で左サイドシル35の温度を測定し、上流側左第2測温手段75で左ドアアウタパネル37の温度を測定する温度測定工程と、図9(b)において左サイドシル35に、放射熱を加えて左サイドシル35の温度が左ドアアウタパネル37の温度に近似するように加熱する局部加熱工程と、図4において車体11の温度を一定に保持する温度保持工程と、からなる。
【0082】
図9(b)において、局部加熱工程で用いられる放射熱は、電磁波の形で車体11に吸収されるため、左サイドシル35を確実に加熱できる。図3において、時間Taの間にサイドシルを局部加熱することにより、サイドシルが昇温するので、サイドシルの温度を、ドアアウタパネルの温度に確実に近似させることができる。
【0083】
図9(b)において、仮に、熱風で車体11全体を加熱した状態で、噴射ノズルから噴射させた熱風で左サイドシル35を局部的に加熱すると、噴射された熱風は左サイドシル35の周辺で拡散する。この熱風の拡散により、熱風が左サイドシル35に行き届かず、左サイドシル35は昇温し難くなる。左サイドシル35を昇温させるためにはさらに加熱を続ければよいが、左ドアアウタパネル37は既に昇温しているので余分な熱を受け取ることになる。
【0084】
その点、本発明の乾燥方法では、局部加熱工程で、左サイドシル35に放射熱を加えることにより、左サイドシル35の温度を左ドアアウタパネル37の温度に確実に近似させることができる。すなわち、サイドシルとドアアウタパネルを略同一に昇温させることができるので、ドアアウタパネルに対して余分な熱を与えることがない。したがって、ドアアウタパネルに対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥方法を提供できる。
【0085】
加えて、車体11は、乾燥炉(図4の符号20)に入れる前に塗装が施されている物であり、局部加熱工程で、図2(b)においてサイドシルに放射熱を加える時点は、第1測温手段で測定したサイドシルの温度が、車体に塗布された塗料の架橋温度に達した時点である。
【0086】
仮に、塗装が施された車体を乾燥炉に入れて、図2(a)に示されるように熱風乾燥開始と同時に車体のサイドシルに放射熱を加えると、サイドシルに塗布された塗料が流動化する。しかし、放射熱でサイドシルを局部加熱することにより、サイドシルの昇温速度が大きくなるので、流動が不十分なうちに塗料が高温になり、塗料が固まっていく。そのため、塗膜が平滑になり難くなり、塗膜の品質が低下する。
【0087】
その点、本発明の乾燥方法では、車体のサイドシルの温度が、図2(b)に示されるようにサイドシルに塗布された塗料の架橋温度に達した時点で、サイドシルに放射熱を加える。すなわち、サイドシルに対して、熱風乾燥開始から一定時間が経過したときに、放射熱による局部加熱を実施する。熱風乾燥開始から局部加熱開始までの間に、サイドシルに塗布された塗料が流動化する。熱風乾燥開始時はサイドシルの昇温速度が小さいので、塗料は十分に流動してから高温になり、固まっていく。そのため、平滑な塗膜を得ることができるので、塗膜の品質が向上する。
【0088】
さらに、放射熱の熱源は、近赤外線である。赤外線として、近赤外線と、この近赤外線より波長が長い遠赤外線が知られている。また、照射対象の種類によって、吸収率(エネルギー吸収率)が異なることが知られている。本発明の被乾燥物は、車体を構成する鉄系材料と、車体にアクリル系水性塗料等を塗布することにより形成される塗膜とからなる。次に示す表4で、鉄、アクリル系水性塗料の吸収率を示す。
【0089】
【表4】
【0090】
塗膜を主として加熱するのであれば、アクリル系水性塗料に74%もの吸収率を有する遠赤外線が好適である。しかし、車体の内面に塗布された塗膜には効力が及ばない。そこで、本発明では、鉄に35%もの吸収率を有する近赤外線を採用し、鉄すなわち車体を主として加熱し、車体の熱で内面の塗膜を乾燥させるようにした。
【0091】
具体的には、近赤外線を図9(c)に示されるように、左サイドシル35の外側塗膜91に向けて照射する。照射された近赤外線が矢印(2)のように左サイドシル35に吸収されると、左サイドシル35が加熱される。左サイドシル35の熱は、左サイドシル35の内面89側に伝わるので、左サイドシル35の内側塗膜92が乾燥する。左サイドシル35の内面89側は、近赤外線が直接照射されていない部位である。つまり、近赤外線を用いることで、近赤外線が直接照射されない部位に対しても、左サイドシル35の熱伝導を利用して、時間を要さず左サイドシル35を昇温させることができる。
【0092】
尚、本発明に係る被乾燥物は、実施の形態では塗装が施されている車体に適用したが、塗装済みの機械や構造物にも適用可能である。
また、本発明に係る熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位は、実施の形態では車体のサイドシルに適用したが、その他の車体厚肉部であれば適用可能である。
【0093】
さらに、本発明に係る他の部位は、実施の形態ではドアアウタパネルを適用したが、フードアウタパネルやリッドアウタパネルにも適用可能であり、車体薄肉部に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の乾燥技術は、車体に塗布された塗料を乾燥させる乾燥工程に好適である。
【符号の説明】
【0095】
11…被乾燥物(車体)、20…乾燥炉、35…暖まり難い部位(左サイドシル)、36…加熱手段(左内側加熱手段)、37…他の部位(左ドアアウタパネル)、38…加熱手段(左外側加熱手段)、42…暖まり難い部位(右サイドシル)、43…加熱手段(右内側加熱手段)、44…他の部位(右ドアアウタパネル)、45…加熱手段(右外側加熱手段)、48…制御部、73…第1測温手段(上流側左第1測温手段)、75…第2測温手段(上流側左第2測温手段)、77…第1測温手段(上流側右第1測温手段)、79…第2測温手段(上流側右第2測温手段)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被乾燥物を熱風により乾燥させる乾燥技術に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥炉の一種に、熱風循環式乾燥炉がある。この乾燥炉では、循環している熱風により被乾燥物を乾燥させる。被乾燥物は、複数の部材の組合せであることが多く、厚肉の部位もあれば、薄肉の部位もある。厚肉の部位は熱容量が大きいので、暖まり難い部位である。一方、薄肉の部位は熱容量が小さいので、暖まり易い部位である。このような被乾燥物を熱風循環式乾燥炉で乾燥させると、暖まり易い部位の乾燥が完了しているにもかかわらず、暖まり難い部位の乾燥が完了するまで乾燥を続けることになり、乾燥時間が長くなる。そのため、暖まり難い部位の昇温速度を向上させる技術が必要となる。
【0003】
従来、被乾燥物の暖まり難い部位の昇温速度を向上させる技術として、熱風による加熱に加えて被乾燥物の局部を加熱する乾燥技術が各種提案されている(例えば、特許文献1(図4)参照。)。
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図11は従来の技術の基本構成を説明する図であり、乾燥炉100は、被乾燥物101を囲むように形成されている炉体102と、この炉体102の左壁103下部及び右壁104下部に各々設けられ熱風を取入れる一対の熱風取入口105、106と、これらの熱風取入口105、106に接続した下部ヘッダー107、108に設けられ取入れた熱風を炉体102内に噴出させる一対の熱風噴出口109、111と、左壁103上部内側及び右壁104上部内側に設けた上部ヘッダー112、113に各々設けられ炉体102内の熱風を吸込む一対の熱風吸込口114、115と、上部ヘッダー112、113に各々接続され熱風を炉体102外へ取出す一対の熱風取出口116、117とからなる。
【0005】
熱風取出口116、117に送風機が接続され、送風機の吐出側に加熱装置が接続され、加熱装置に熱風取入口105、106が接続される。加えて、被乾燥物101の下部近傍に、左右一対の加熱手段118、119が配置されている。これらの加熱手段118、119は送風機及び加熱装置に接続されている。
【0006】
乾燥炉100では、熱風噴出口109、111から噴き出た熱風を被乾燥物101に接触させて、被乾燥物101を乾燥させる。熱風は、炉体102内から熱風吸込口114、115を介して炉体102外に出され、加熱されて熱風取入口105、106を介して再度熱風噴出口109、111から噴出される。すなわち、循環する熱風により被乾燥物101を乾燥させる。
【0007】
また、被乾燥物101の底部121が厚肉であれば、底部121は熱容量が大きくて暖まり難い部位である。このような被乾燥物101の底部121に向けて、加熱手段118、119の噴出しノズル122から熱風を噴出させる。この熱風の噴射により、被乾燥物101の底部121の昇温速度を向上させることができる。
【0008】
しかし、乾燥炉100では、加熱手段118、119の噴出しノズル122から噴出される熱風が、被乾燥物101の底部121周辺で拡散するため、狙った部位に対して狙った熱量を与えることが難しい。対策として乾燥時間を長くすると、暖まり難い部位である底部121は、昇温していくが、被乾燥物101の暖まり易い部位は、既に昇温できているにもかかわらず余分な熱を受け取ることになる。これは、省エネルギーの観点から好ましくない。
【0009】
そこで、被乾燥物中の暖まり易い部位に対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥技術が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−197845公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、被乾燥物中の暖まり易い部位に対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、被乾燥物を熱風により乾燥させる乾燥炉において、前記被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位に、放射熱を加えて前記暖まり難い部位の温度が前記他の部位の温度に近似するように加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明では、加熱手段は、近赤外線ランプであることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明では、加熱手段より上流側に、暖まり難い部位の温度を測定する第1測温手段と、他の部位の温度を測定する第2測温手段とが備えられ、前記第1測温手段と前記第2測温手段との温度情報に基づいて前記加熱手段の出力を制御する制御部が備えられていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る発明は、乾燥炉を用いて、被乾燥物を熱風により乾燥させる乾燥方法において、前記被乾燥物の温度を上昇させる昇温工程と、前記被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位の温度を第1測温手段で測定し、前記他の部位の温度を第2測温手段で測定する温度測定工程と、前記被乾燥物中の暖まり難い部位に、放射熱を加えて前記暖まり難い部位の温度が前記他の部位の温度に近似するように加熱する局部加熱工程と、前記被乾燥物の温度を一定に保持する温度保持工程と、からなることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る発明では、被乾燥物は、乾燥炉に入れる前に塗装が施されている物であり、局部加熱工程で、前記被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加える時点は、第1測温手段で測定した暖まり難い部位の温度が、前記被乾燥物に塗布された塗料の架橋温度に達した時点であることを特徴とする。
【0017】
請求項6に係る発明では、放射熱の熱源は、近赤外線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明では、乾燥炉は、被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位に、放射熱を加えて暖まり難い部位の温度が他の部位の温度に近似するように加熱する加熱手段を備えている。ここで、他の部位を、暖まり易い部位に読み替えることにする。乾燥炉では、熱風で被乾燥物全体を加熱した状態で、加熱手段で被乾燥物中の暖まり難い部位を局部的に加熱する。加熱手段により出される放射熱は、電磁波の形で被乾燥物に吸収されるため、被乾燥物中の暖まり難い部位を確実に加熱できる。この加熱により、被乾燥物中の暖まり難い部位が昇温するので、暖まり難い部位の温度を、暖まり易い部位の温度に確実に近似させることができる。
【0019】
仮に、熱風で被乾燥物全体を加熱した状態で、噴射ノズルから噴射させた熱風で被乾燥物中の暖まり難い部位を局部的に加熱すると、噴射された熱風は暖まり難い部位の周辺で拡散する。この熱風の拡散により、熱風が被乾燥物中の暖まり難い部位に行き届かず、暖まり難い部位は昇温し難くなる。暖まり難い部位を昇温させるためにはさらに加熱を続ければよいが、暖まり易い部位は既に昇温しているので余分な熱を受け取ることになる。
【0020】
その点、本発明の乾燥炉では、被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加えることで、暖まり難い部位の温度を暖まり易い部位の温度に確実に近似させることができる。すなわち、被乾燥物中の暖まり難い部位と暖まり易い部位を略同一に昇温させることができるので、暖まり易い部位に対して余分な熱を与えることがない。したがって、被乾燥物中の暖まり易い部位に対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥炉を提供できる。
【0021】
請求項2に係る発明では、加熱手段は、近赤外線ランプである。赤外線として、近赤外線と、この近赤外線より波長が長い遠赤外線が知られている。また、照射対象の種類によって、吸収率(エネルギー吸収率)が異なることが知られている。本発明の被乾燥物に車体を適用すると、被乾燥物は、車体を構成する鉄系材料と、車体にアクリル系水性塗料等を塗布することにより形成される塗膜とからなる。次に示す表1で、鉄、アクリル系水性塗料の吸収率を示す。
【0022】
【表1】
【0023】
塗膜を主として加熱するのであれば、アクリル系水性塗料に74%もの吸収率を有する遠赤外線が好適である。しかし、車体の内面に塗布された塗膜には効力が及ばない。そこで、本発明では、鉄に35%もの吸収率を有する近赤外線を採用し、鉄すなわち車体を主として加熱し、車体の熱で内面の塗膜を乾燥させるようにした。結果、近赤外線を用いることで、近赤外線が直接照射されない部位に対しても、部材の熱伝導を利用して、時間を要さず被乾燥物を昇温させることができる。
【0024】
請求項3に係る発明では、乾燥炉は、加熱手段より上流側に、暖まり難い部位の温度を測定する第1測温手段と、他の部位の温度を測定する第2測温手段とを備えている。また、乾燥炉は、第1測温手段と第2測温手段との温度情報に基づいて加熱手段の出力を制御する制御部を備えている。第1測温手段で測定した暖まり難い部位の温度が、第2測温手段で測定した他の部位の温度に対して大きな差を有する場合には、制御部から加熱手段に高出力の指令を送る。一方、第1測温手段で測定した暖まり難い部位の温度が、第2測温手段で測定した他の部位の温度に対して小さな差を有する場合には、制御部から加熱手段に低出力の指令を送る。このように被乾燥物の暖まり難い部位の温度を他の部位の温度に対して比較し、温度差に応じた適切な熱量を出力するように加熱手段を制御部で制御している。したがって、加熱手段から被乾燥物の暖まり難い部位に対して適切な熱量を与えることができる。
【0025】
請求項4に係る発明では、乾燥方法は、被乾燥物を熱風により乾燥させる乾燥炉を用いて実施される。また、乾燥方法は、被乾燥物の温度を上昇させる昇温工程と、被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位の温度を第1測温手段で測定し、他の部位の温度を第2測温手段で測定する温度測定工程と、被乾燥物中の暖まり難い部位に、放射熱を加えて暖まり難い部位の温度が他の部位の温度に近似するように加熱する局部加熱工程と、被乾燥物の温度を一定に保持する温度保持工程と、からなる。ここで、他の部位を、暖まり易い部位に読み替えることにする。
【0026】
局部加熱工程で用いられる放射熱は、電磁波の形で被乾燥物に吸収されるため、被乾燥物中の暖まり難い部位を確実に加熱できる。この加熱により、被乾燥物中の暖まり難い部位が昇温するので、暖まり難い部位の温度を、暖まり易い部位の温度に確実に近似させることができる。
【0027】
仮に、熱風で被乾燥物全体を加熱した状態で、噴射ノズルから噴射させた熱風で被乾燥物中の暖まり難い部位を局部的に加熱すると、噴射された熱風は暖まり難い部位の周辺で拡散する。この熱風の拡散により、熱風が被乾燥物中の暖まり難い部位に行き届かず、暖まり難い部位は昇温し難くなる。暖まり難い部位を昇温させるためにはさらに加熱を続ければよいが、暖まり易い部位は既に昇温しているので余分な熱を受け取ることになる。
【0028】
その点、本発明の乾燥方法では、局部加熱工程で、被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加えることにより、暖まり難い部位の温度を暖まり易い部位の温度に確実に近似させることができる。すなわち、被乾燥物中の暖まり難い部位と暖まり易い部位を略同一に昇温させることができるので、暖まり易い部位に対して余分な熱を与えることがない。したがって、被乾燥物中の暖まり易い部位に対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥方法を提供できる。
【0029】
請求項5に係る発明では、被乾燥物は、乾燥炉に入れる前に塗装が施されている物である。また、局部加熱工程で、被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加える時点は、第1測温手段で測定した暖まり難い部位の温度が、被乾燥物に塗布された塗料の架橋温度に達した時点である。以下に、被乾燥物表面での塗料の乾燥機構を説明する。
【0030】
被乾燥物に霧状の塗料を噴射させると、塗料粒子が被乾燥物の表面に向かう。このとき、被乾燥物の表面温度は常温である。
塗料粒子が被乾燥物の表面に衝突すると、被乾燥物の表面に付着した塗料はうねりを起こす。同時に、塗料の揮発成分が蒸発するので、塗料はうねった状態で固まっていく。
次に、塗装が施された被乾燥物を乾燥炉に入れると、被乾燥物の表面で固まっている塗料が熱風により加熱される。加熱された塗料は、流動化する。また、塗料に、うねりの振幅方向に表面張力及び重力が働く。その後、平滑な塗膜が形成される。
被乾燥物の温度がさらに上昇し、被乾燥物の表面温度が塗料の架橋温度に達した時点で、被乾燥物の表面に放射熱を加える。この時点で既に架橋が開始されているため、塗料が流動することがなく、上記で形成された平滑な塗膜を維持できる。結果、平滑な塗膜を得ることができる。
【0031】
仮に、塗装が施された被乾燥物を乾燥炉に入れて、熱風乾燥開始と同時に被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加えると、被乾燥物に塗布された塗料が流動化する。しかし、放射熱で被乾燥物を局部加熱することにより、被乾燥物の昇温速度が大きくなるので、流動が不十分なうちに塗料が高温になり、塗料が固まっていく。そのため、塗膜が平滑になり難くなり、塗膜の品質が低下する。
【0032】
その点、本発明の乾燥方法では、被乾燥物中の暖まり難い部位の温度が、被乾燥物に塗布された塗料の架橋温度に達した時点で、被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加える。すなわち、被乾燥物の暖まり難い部位に対して、熱風乾燥開始から一定時間が経過したときに、放射熱による局部加熱を実施する。熱風乾燥開始から局部加熱開始までの間に、暖まり難い部位に塗布された塗料が流動化する。熱風乾燥開始時は被乾燥物の昇温速度が小さいので、塗料は十分に流動してから高温になり、固まっていく。そのため、平滑な塗膜を得ることができるので、塗膜の品質が向上する。
【0033】
請求項6に係る発明では、放射熱の熱源は、近赤外線である。赤外線として、近赤外線と、この近赤外線より波長が長い遠赤外線が知られている。また、照射対象の種類によって、吸収率(エネルギー吸収率)が異なることが知られている。本発明の被乾燥物に車体を適用すると、被乾燥物は、車体を構成する鉄系材料と、車体にアクリル系水性塗料等を塗布することにより形成される塗膜とからなる。次に示す表2で、鉄、アクリル系水性塗料の吸収率を示す。
【0034】
【表2】
【0035】
塗膜を主として加熱するのであれば、アクリル系水性塗料に74%もの吸収率を有する遠赤外線が好適である。しかし、車体の内面に塗布された塗膜には効力が及ばない。そこで、本発明では、鉄に35%もの吸収率を有する近赤外線を採用し、鉄すなわち車体を主として加熱し、車体の熱で内面の塗膜を乾燥させるようにした。結果、近赤外線を用いることで、近赤外線が直接照射されない部位に対しても、部材の熱伝導を利用して、時間を要さず被乾燥物を昇温させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る被乾燥物表面での塗料の乾燥機構を説明する図である。
【図2】比較例及び実施例の局部加熱開始時期を説明するグラフである。
【図3】比較例及び実施例の昇温速度を説明するグラフである。
【図4】乾燥炉の断面図である。
【図5】図4の5部拡大図である。
【図6】図5の6−6線断面図である。
【図7】図5の7−7線断面図である。
【図8】図5の8−8線断面図である。
【図9】測温手段及び加熱手段の作用を説明する図である。
【図10】乾燥方法のフロー図である。
【図11】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。また、被乾燥物に車体を適用し、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位にサイドシルを適用し、他の部位にドアアウタパネルを適用して説明する。加えて、乾燥炉に入る車体は、乾燥炉の上流側に設けられる塗装設備で塗装が施されているものとする。
【実施例】
【0038】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1(a)に示されるように、車体11(詳細後述)に霧状の塗料を噴射させると、塗料粒子12が矢印(1)のように車体11の表面13に向かう。このとき、車体11の表面温度は常温である。
【0039】
塗料粒子12が車体11の表面13に衝突すると、(b)に示されるように、車体11の表面13に付着した塗料14はうねりを起こす。同時に、塗料14の揮発成分が蒸発するので、塗料14はうねった状態で固まっていく。
【0040】
次に、塗装が施された車体11を乾燥炉(詳細後述)に入れると、車体11の表面13で固まっている塗料14が熱風により加熱される。加熱された塗料14は、流動化する。また、塗料14に、うねりの振幅方向に表面張力及び重力が働く。その後、(c)に示されるように、平滑な塗膜15が形成される。
【0041】
車体11の温度がさらに上昇し、車体11の表面温度が塗料の架橋温度に達した時点で、車体11の表面13に加熱手段(詳細後述)から出る放射熱を加える。この時点で既に架橋が開始されているため、塗料が流動することがなく、(c)で形成された平滑な塗膜15を維持できる。結果、(d)に示されるように、平滑な塗膜15を得ることができる。
【0042】
次に、局部加熱の開始時期について説明する。図2(a)で比較例を説明し、(b)で実施例を説明する。(a)に示されるように、熱風乾燥開始と同時に、車体のサイドシル(詳細後述)を、一定時間Ta熱風に加えて放射熱で局部加熱(詳細後述)すると、昇温曲線を得る。この曲線で、加熱開始時は昇温速度が大きくなる。また、局部加熱時間Ta中に、車体の表面温度は温度tcに達する。この温度tcは、塗料の架橋温度に一致する。
【0043】
車体のサイドシルに対する局部加熱を、熱風乾燥開始と同時に開始すると、サイドシルに塗布された塗料が流動化する。しかし、局部加熱によって車体の昇温速度が大きくなるので、流動が不十分なうちに塗料が高温になり、塗料が固まっていく。そのため、塗膜が平滑になり難くなり、塗膜の品質が低下する。
【0044】
(b)に示されるように、熱風乾燥開始から時間Tが経過したとき、車体のサイドシルを、一定時間Ta熱風に加えて放射熱で局部加熱する。その結果、昇温曲線を得る。この曲線で、加熱開始時の昇温速度は(a)に比べて小さくなる。また、(b)において、局部加熱開始時間Tのとき、車体の表面温度は温度tcに達する。この温度tcは、塗料の架橋温度に一致する。
【0045】
車体のサイドシルに対する局部加熱を、熱風乾燥開始から時間Tが経過したときに実施する。熱風乾燥開始から局部加熱開始までの間に、サイドシルに塗布された塗料が流動化する。熱風乾燥開始時は車体の昇温速度が小さいので、塗料は十分に流動してから高温になり、固まっていく。そのため、平滑な塗膜を得ることができるので、塗膜の品質が向上する。
【0046】
次に、局部加熱と乾燥時間の関係を説明する。図3(a)で比較例を説明し、(b)で実施例を説明する。塗装が施された車体を、熱風が循環している乾燥炉に入れて乾燥させると、(a)に示されるように、車体の目標表面温度160℃を目標時間Th=11分間保持するまでに、例えば合計41分間掛かった。
【0047】
一方、乾燥炉内で塗装が施された車体を熱風で乾燥させている状態で、(b)に示されるように、熱風乾燥開始から20分が経過したときに、一定時間Ta=1分間加熱手段から出る放射熱で、車体のサイドシルを局部加熱する。
【0048】
この局部加熱により、サイドシルの昇温速度が大きくなるので、車体のドアアウタパネル(詳細後述)の昇温曲線にサイドシルの昇温曲線が近づく。結果、サイドシルの目標表面温度160℃を目標時間Th=11分間保持するまでに、例えば合計32分間掛かった。(a)と(b)を対比すると、(b)の昇温速度を用いることで、(a)に比べてTd=9分間の時間を削減することができる。このような車体の乾燥を実施する乾燥炉を図4で説明する。
【0049】
図4に示されるように、乾燥炉20は、コンベア21で搬送されている複数の車体11を囲む炉体22を有する。この炉体22内で、車体11に塗布された塗料を、熱風により乾燥させる。熱風は炉体22内に導入された後、車体11に接触し、炉体22外へ取出される。炉体22から取出した熱風は、加熱されて再度炉体22内に導入される。すなわち、乾燥炉20は、熱風循環式乾燥炉である。
【0050】
乾燥炉20は、上流側に配置されている第1熱風加熱部23と、下流側に配置されている第2熱風加熱部24とからなる。第1熱風加熱部23は、車体11を昇温させる昇温部に相当する。また、第2熱風加熱部24は、昇温した車体11の温度を保持する保持部に相当する。
加えて、第1熱風加熱部23の終端に、局部加熱部25(詳細後述)が設けられている。次に局部加熱部25の構成を説明する。
【0051】
図5に示されるように、局部加熱部25に、車体11の局部を加熱する局部加熱装置26(詳細後述)が設けられている。局部加熱部25よりも上流側に、上流側温度測定部27が設けられ、この上流側温度測定部27に、車体11各部の温度を測定する上流側温度測定装置28(詳細後述)が設けられている。また、局部加熱部25よりも下流側に、下流側温度測定部29が設けられ、この下流側温度測定部29に、車体11各部の温度を測定する下流側温度測定装置31(詳細後述)が設けられている。次に局部加熱装置26の詳細構造を図6で説明する。
【0052】
図6に示されるように、局部加熱装置26は、炉体22内に立てた門形フレーム32に支持されている。また、局部加熱装置26は、門形フレーム32の左柱33に設けられ、車体11中で暖まり難い部位である底部左側34及び左サイドシル35に、放射熱を加えて加熱する左内側加熱手段36と、左柱33に設けられ、車体11中で、熱容量が左ドアアウタパネル37より大きくて暖まり難い部位である左サイドシル35に、放射熱を加えて左サイドシル35の温度が左ドアアウタパネル37の温度に近似するように加熱する左外側加熱手段38と、門形フレーム32の右柱39に設けられ、車体11中で暖まり難い部位である底部右側41及び右サイドシル42に、放射熱を加えて加熱する右内側加熱手段43と、右柱39に設けられ、熱容量が右ドアアウタパネル44より大きくて暖まり難い部位である右サイドシル42に、放射熱を加えて右サイドシル42の温度が右ドアアウタパネル44の温度に近似するように加熱する右外側加熱手段45と、からなる。
【0053】
左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45は、各々近赤外線ランプである。左内側加熱手段36に、左内側フィラメント46を囲んでいる左内側反射板47が設けられている。左内側フィラメント46で発生させた光を、左内側反射板47で集光させるので、指向性を持った熱線を車体11に発することができる。なお、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45の各々にも、左内側加熱手段36と同様にフィラメントを囲む反射板が設けられている。
【0054】
また、近赤外線ランプは、遠赤外線ランプに比べて比熱容量が小さいため、応答速度が速い。応答速度が速ければ、制御部からの指令に対する素早い出力制御が可能となる。加熱までの待ち時間を短くすることができるので、乾燥時間の短縮に寄与する。
【0055】
加えて、乾燥炉20に制御部48が備えられ、この制御部48は、左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45を制御する。制御部48は、上流側温度測定部(図5の符号27)及び下流側温度測定部(図5の符号29)からの温度情報に基づいて、近赤外線ランプに出力指令を送る。すなわち、制御部48で近赤外線ランプの出力を制御できる。次に上流側温度測定部の詳細構造を図7で説明する。
【0056】
図7に示されるように、上流側温度測定部27は、門形フレーム71の左柱72に設けられ、左サイドシル35の温度を測定する上流側左第1測温手段73と、左炉壁74に設けられ、左ドアアウタパネル37の温度を測定する上流側左第2測温手段75と、門形フレーム71の右柱76に設けられ、右サイドシル42の温度を測定する上流側右第1測温手段77と、右炉壁78に設けられ、右ドアアウタパネル44の温度を測定する上流側右第2測温手段79とからなる。
【0057】
上流側左第1測温手段73、上流側左第2測温手段75、上流側右第1測温手段77、上流側右第2測温手段79は、非接触式のセンサである。これらのセンサは、熱風により加熱された車体11から出る熱放射線を検出して、車体11のサイドシル及びドアアウタパネルの温度を算出する。
【0058】
加えて、上流側左第1測温手段73、上流側左第2測温手段75、上流側右第1測温手段77、上流側右第2測温手段79は、制御部48に接続されている。制御部48は、上流側左第1測温手段73と上流側左第2測温手段75の温度情報に基づいて、左内側加熱手段(図6の符号36)と左外側加熱手段(図6の符号38)に出力指令を出す。例えば、上流側左第2測温手段75で測定した左ドアアウタパネル37の温度に対して、上流側左第1測温手段73で測定した左サイドシル35の温度が低温である場合には、左内側加熱手段及び左外側加熱手段に高出力指令を出す。
【0059】
上流側温度測定部27では、上流側左第1測温手段73で測定した左サイドシル35の温度が、上流側左第2測温手段75で測定した左ドアアウタパネル37の温度に対して大きな差を有する場合には、制御部48から左内側加熱手段(図6の符号36)及び左外側加熱手段(図6の符号38)に高出力の指令を送る。一方、上流側左第1測温手段73で測定した左サイドシル35の温度が、上流側左第2測温手段75で測定した左ドアアウタパネル37の温度に対して小さな差を有する場合には、制御部48から左内側加熱手段及び左外側加熱手段に低出力の指令を送る。
【0060】
このように車体のサイドシルの温度をドアアウタパネルの温度に対して比較し、温度差に応じた適切な熱量を出力するように左内側加熱手段及び左外側加熱手段を制御部48で制御している。したがって、左内側加熱手段及び左外側加熱手段からサイドシルに対して適切な熱量を与えることができる。
【0061】
また、制御部48は、上流側右第1測温手段77と上流側右第2測温手段79の温度情報に基づいて、右内側加熱手段(図6の符号43)と右外側加熱手段(図6の符号45)にも出力指令を出す。次に下流側温度測定部の詳細構造を図8で説明する。
【0062】
図8に示されるように、下流側温度測定部29は、門形フレーム81の左柱82に設けられ、左サイドシル35の温度を測定する下流側左第1測温手段83と、左炉壁74に設けられ、左ドアアウタパネル37の温度を測定する下流側左第2測温手段84と、門形フレーム81の右柱85に設けられ、右サイドシル42の温度を測定する下流側右第1測温手段86と、右炉壁78に設けられ、右ドアアウタパネル44の温度を測定する下流側右第2測温手段87とからなる。
【0063】
下流側左第1測温手段83、下流側左第2測温手段84、下流側右第1測温手段86、下流側右第2測温手段87は、非接触式のセンサである。これらのセンサは、熱風により加熱された車体11から出る熱放射線を検出して、車体11のサイドシル及びドアアウタパネルの温度を算出する。
【0064】
加えて、下流側左第1測温手段83、下流側左第2測温手段84、下流側右第1測温手段86、下流側右第2測温手段87は、制御部48に接続されている。制御部48は、下流側左第1測温手段83と下流側左第2測温手段84の温度情報に基づいて、左内側加熱手段(図6の符号36)と左外側加熱手段(図6の符号38)に出力指令を出す。例えば、下流側左第2測温手段84で測定した左ドアアウタパネル37の温度に対して、下流側左第1測温手段83で測定した左サイドシル35の温度が高温である場合には、左内側加熱手段及び左外側加熱手段に低出力指令を出す。
【0065】
また、制御部48は、下流側右第1測温手段86と下流側右第2測温手段87の温度情報に基づいて、右内側加熱手段(図6の符号43)と右外側加熱手段(図6の符号45)にも出力指令を出す。
【0066】
以上に述べた乾燥炉の作用を次に述べる。
図9(a)に示されるように、上流側温度測定部(図7の符号27)にて、上流側左第1測温手段73で左サイドシル35の温度を測定し、上流側左第2測温手段75で左ドアアウタパネル37の温度を測定と、上流側右第1測温手段77で右サイドシル42の温度を測定し、上流側右第2測温手段79で右ドアアウタパネル44の温度を測定する。
【0067】
測定結果は、左ドアアウタパネル37の温度に対して左サイドシル35の温度が低温であり、右ドアアウタパネル44の温度に対して右サイドシル42の温度が低温であるとする。
【0068】
上記測定結果に基づいて、制御部48は、(b)に示されるように、左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45に高出力指令を出す。この指令により、左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45は、左サイドシル35及び右サイドシル42に近赤外線を集中的に照射する。左サイドシル35及び右サイドシル42が照射されることで、左ドアアウタパネル37に対する左サイドシル35の温度差と右ドアアウタパネル44に対する右サイドシル42の温度差を解消することができる。すなわち、車体11各部を均一に昇温させることができる。
【0069】
乾燥炉(図4の符号20)では、熱風で車体11全体を加熱した状態で、左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45で左サイドシル35及び右サイドシル42を局部的に加熱する。左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45により出される放射熱は、電磁波の形で左サイドシル35及び右サイドシル42に吸収されるため、左サイドシル35及び右サイドシル42を確実に加熱できる。
【0070】
この加熱により、図3(b)に示されるように、時間Taの間にサイドシルが昇温するので、サイドシルの温度を、ドアアウタパネルの温度に確実に近似させることができる。
【0071】
図9(b)において、仮に、熱風で車体11全体を加熱した状態で、噴射ノズルから噴射させた熱風で左サイドシル35及び右サイドシル42を局部的に加熱すると、噴射された熱風は左サイドシル35及び右サイドシル42の周辺で拡散する。この熱風の拡散により、熱風が左サイドシル35及び右サイドシル42に行き届かず、左サイドシル35及び右サイドシル42は昇温し難くなる。左サイドシル35及び右サイドシル42を昇温させるためにはさらに加熱を続ければよいが、左ドアアウタパネル37及び右ドアアウタパネル44は既に昇温しているので余分な熱を受け取ることになる。
【0072】
その点、本発明の乾燥炉(図4の符号20)では、車体11中の左サイドシル35及び右サイドシル42に放射熱を加えることで、左サイドシル35及び右サイドシル42の温度を左ドアアウタパネル37及び右ドアアウタパネル44の温度に確実に近似させることができる。すなわち、左サイドシル35及び右サイドシル42と、左ドアアウタパネル37及び右ドアアウタパネル44を略同一に昇温させることができるので、左ドアアウタパネル37及び右ドアアウタパネル44に対して余分な熱を与えることがない。したがって、ドアアウタパネルに対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥炉を提供できる。
【0073】
ところで、本発明では車体11の局部加熱に近赤外線を用いている。赤外線として、近赤外線と、この近赤外線より波長が長い遠赤外線が知られている。また、照射対象の種類によって、吸収率(エネルギー吸収率)が異なることが知られている。本発明の被乾燥物は、車体11を構成する鉄系材料と、車体11にアクリル系水性塗料等を塗布することにより形成される塗膜とからなる。次に示す表3で、鉄、アクリル系水性塗料の吸収率を示す。
【0074】
【表3】
【0075】
塗膜を主として加熱するのであれば、アクリル系水性塗料に74%もの吸収率を有する遠赤外線が好適である。しかし、車体の内面に塗布された塗膜には効力が及ばない。そこで、本発明では、鉄に35%もの吸収率を有する近赤外線を採用し、鉄すなわち車体を主として加熱し、車体の熱で内面の塗膜を乾燥させるようにした。
【0076】
具体的には、近赤外線を(c)に示されるように、左サイドシル35の外側塗膜91に向けて照射する。照射された近赤外線が矢印(2)のように左サイドシル35に吸収されると、左サイドシル35が加熱される。左サイドシル35の熱は、左サイドシル35の内面89側に伝わるので、左サイドシル35の内側塗膜92が乾燥する。左サイドシル35の内面89側は、近赤外線が直接照射されていない部位である。つまり、近赤外線を用いることで、近赤外線が直接照射されない部位に対しても、左サイドシル35の熱伝導を利用して、時間を要さず左サイドシル35を昇温させることができる。
【0077】
次に乾燥炉を用いて実施される乾燥方法を説明する。
図10に示されるように、ステップ(以下STと記す。)01において、被乾燥物の温度を上昇させる。具体的には図4に示されるように、第1熱風加熱部23で、車体11を昇温させる。
【0078】
ST02において、被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位の温度を第1測温手段で測定し、他の部位の温度を第2測温手段で測定する。具体的には図9(a)に示されるように、上流側温度測定部27にて、上流側左第1測温手段73で左サイドシル35の温度を測定し、上流側左第2測温手段75で左ドアアウタパネル37の温度を測定し、上流側右第1測温手段77で右サイドシル42の温度を測定し、上流側右第2測温手段79で右ドアアウタパネル44の温度を測定する。
【0079】
ST03において、被乾燥物中の暖まり難い部位に、放射熱を加えて暖まり難い部位の温度が他の部位の温度に近似するように加熱する。具体的には図9(b)に示されるように、左内側加熱手段36、左外側加熱手段38、右内側加熱手段43、右外側加熱手段45は、左サイドシル35及び右サイドシル42に近赤外線を集中的に照射する。
【0080】
ST04において、被乾燥物の温度を一定に保持する。具体的には図4に示されるように、第2熱風加熱部24で、昇温した車体11の温度を保持する。
【0081】
乾燥方法は、車体11を熱風により乾燥させる乾燥炉20を用いて実施される。また、乾燥方法は、車体11の温度を上昇させる昇温工程と、図9(a)において上流側左第1測温手段73で左サイドシル35の温度を測定し、上流側左第2測温手段75で左ドアアウタパネル37の温度を測定する温度測定工程と、図9(b)において左サイドシル35に、放射熱を加えて左サイドシル35の温度が左ドアアウタパネル37の温度に近似するように加熱する局部加熱工程と、図4において車体11の温度を一定に保持する温度保持工程と、からなる。
【0082】
図9(b)において、局部加熱工程で用いられる放射熱は、電磁波の形で車体11に吸収されるため、左サイドシル35を確実に加熱できる。図3において、時間Taの間にサイドシルを局部加熱することにより、サイドシルが昇温するので、サイドシルの温度を、ドアアウタパネルの温度に確実に近似させることができる。
【0083】
図9(b)において、仮に、熱風で車体11全体を加熱した状態で、噴射ノズルから噴射させた熱風で左サイドシル35を局部的に加熱すると、噴射された熱風は左サイドシル35の周辺で拡散する。この熱風の拡散により、熱風が左サイドシル35に行き届かず、左サイドシル35は昇温し難くなる。左サイドシル35を昇温させるためにはさらに加熱を続ければよいが、左ドアアウタパネル37は既に昇温しているので余分な熱を受け取ることになる。
【0084】
その点、本発明の乾燥方法では、局部加熱工程で、左サイドシル35に放射熱を加えることにより、左サイドシル35の温度を左ドアアウタパネル37の温度に確実に近似させることができる。すなわち、サイドシルとドアアウタパネルを略同一に昇温させることができるので、ドアアウタパネルに対して余分な熱を与えることがない。したがって、ドアアウタパネルに対して与えていた余分な熱量を削減できる乾燥方法を提供できる。
【0085】
加えて、車体11は、乾燥炉(図4の符号20)に入れる前に塗装が施されている物であり、局部加熱工程で、図2(b)においてサイドシルに放射熱を加える時点は、第1測温手段で測定したサイドシルの温度が、車体に塗布された塗料の架橋温度に達した時点である。
【0086】
仮に、塗装が施された車体を乾燥炉に入れて、図2(a)に示されるように熱風乾燥開始と同時に車体のサイドシルに放射熱を加えると、サイドシルに塗布された塗料が流動化する。しかし、放射熱でサイドシルを局部加熱することにより、サイドシルの昇温速度が大きくなるので、流動が不十分なうちに塗料が高温になり、塗料が固まっていく。そのため、塗膜が平滑になり難くなり、塗膜の品質が低下する。
【0087】
その点、本発明の乾燥方法では、車体のサイドシルの温度が、図2(b)に示されるようにサイドシルに塗布された塗料の架橋温度に達した時点で、サイドシルに放射熱を加える。すなわち、サイドシルに対して、熱風乾燥開始から一定時間が経過したときに、放射熱による局部加熱を実施する。熱風乾燥開始から局部加熱開始までの間に、サイドシルに塗布された塗料が流動化する。熱風乾燥開始時はサイドシルの昇温速度が小さいので、塗料は十分に流動してから高温になり、固まっていく。そのため、平滑な塗膜を得ることができるので、塗膜の品質が向上する。
【0088】
さらに、放射熱の熱源は、近赤外線である。赤外線として、近赤外線と、この近赤外線より波長が長い遠赤外線が知られている。また、照射対象の種類によって、吸収率(エネルギー吸収率)が異なることが知られている。本発明の被乾燥物は、車体を構成する鉄系材料と、車体にアクリル系水性塗料等を塗布することにより形成される塗膜とからなる。次に示す表4で、鉄、アクリル系水性塗料の吸収率を示す。
【0089】
【表4】
【0090】
塗膜を主として加熱するのであれば、アクリル系水性塗料に74%もの吸収率を有する遠赤外線が好適である。しかし、車体の内面に塗布された塗膜には効力が及ばない。そこで、本発明では、鉄に35%もの吸収率を有する近赤外線を採用し、鉄すなわち車体を主として加熱し、車体の熱で内面の塗膜を乾燥させるようにした。
【0091】
具体的には、近赤外線を図9(c)に示されるように、左サイドシル35の外側塗膜91に向けて照射する。照射された近赤外線が矢印(2)のように左サイドシル35に吸収されると、左サイドシル35が加熱される。左サイドシル35の熱は、左サイドシル35の内面89側に伝わるので、左サイドシル35の内側塗膜92が乾燥する。左サイドシル35の内面89側は、近赤外線が直接照射されていない部位である。つまり、近赤外線を用いることで、近赤外線が直接照射されない部位に対しても、左サイドシル35の熱伝導を利用して、時間を要さず左サイドシル35を昇温させることができる。
【0092】
尚、本発明に係る被乾燥物は、実施の形態では塗装が施されている車体に適用したが、塗装済みの機械や構造物にも適用可能である。
また、本発明に係る熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位は、実施の形態では車体のサイドシルに適用したが、その他の車体厚肉部であれば適用可能である。
【0093】
さらに、本発明に係る他の部位は、実施の形態ではドアアウタパネルを適用したが、フードアウタパネルやリッドアウタパネルにも適用可能であり、車体薄肉部に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の乾燥技術は、車体に塗布された塗料を乾燥させる乾燥工程に好適である。
【符号の説明】
【0095】
11…被乾燥物(車体)、20…乾燥炉、35…暖まり難い部位(左サイドシル)、36…加熱手段(左内側加熱手段)、37…他の部位(左ドアアウタパネル)、38…加熱手段(左外側加熱手段)、42…暖まり難い部位(右サイドシル)、43…加熱手段(右内側加熱手段)、44…他の部位(右ドアアウタパネル)、45…加熱手段(右外側加熱手段)、48…制御部、73…第1測温手段(上流側左第1測温手段)、75…第2測温手段(上流側左第2測温手段)、77…第1測温手段(上流側右第1測温手段)、79…第2測温手段(上流側右第2測温手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被乾燥物を熱風により乾燥させる乾燥炉において、
前記被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位に、放射熱を加えて前記暖まり難い部位の温度が前記他の部位の温度に近似するように加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする乾燥炉。
【請求項2】
前記加熱手段は、近赤外線ランプであることを特徴とする請求項1記載の乾燥炉。
【請求項3】
前記加熱手段より上流側に、前記暖まり難い部位の温度を測定する第1測温手段と、前記他の部位の温度を測定する第2測温手段とが備えられ、
前記第1測温手段と前記第2測温手段との温度情報に基づいて前記加熱手段の出力を制御する制御部が備えられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の乾燥炉。
【請求項4】
乾燥炉を用いて、被乾燥物を熱風により乾燥させる乾燥方法において、
前記被乾燥物の温度を上昇させる昇温工程と、
前記被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位の温度を第1測温手段で測定し、前記他の部位の温度を第2測温手段で測定する温度測定工程と、
前記被乾燥物中の暖まり難い部位に、放射熱を加えて前記暖まり難い部位の温度が前記他の部位の温度に近似するように加熱する局部加熱工程と、
前記被乾燥物の温度を一定に保持する温度保持工程と、からなることを特徴とする乾燥方法。
【請求項5】
前記被乾燥物は、前記乾燥炉に入れる前に塗装が施されている物であり、
前記局部加熱工程で、前記被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加える時点は、前記第1測温手段で測定した暖まり難い部位の温度が、前記被乾燥物に塗布された塗料の架橋温度に達した時点であることを特徴とする請求項4記載の乾燥方法。
【請求項6】
前記放射熱の熱源は、近赤外線であることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の乾燥方法。
【請求項1】
被乾燥物を熱風により乾燥させる乾燥炉において、
前記被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位に、放射熱を加えて前記暖まり難い部位の温度が前記他の部位の温度に近似するように加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする乾燥炉。
【請求項2】
前記加熱手段は、近赤外線ランプであることを特徴とする請求項1記載の乾燥炉。
【請求項3】
前記加熱手段より上流側に、前記暖まり難い部位の温度を測定する第1測温手段と、前記他の部位の温度を測定する第2測温手段とが備えられ、
前記第1測温手段と前記第2測温手段との温度情報に基づいて前記加熱手段の出力を制御する制御部が備えられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の乾燥炉。
【請求項4】
乾燥炉を用いて、被乾燥物を熱風により乾燥させる乾燥方法において、
前記被乾燥物の温度を上昇させる昇温工程と、
前記被乾燥物中で、熱容量が他の部位より大きくて暖まり難い部位の温度を第1測温手段で測定し、前記他の部位の温度を第2測温手段で測定する温度測定工程と、
前記被乾燥物中の暖まり難い部位に、放射熱を加えて前記暖まり難い部位の温度が前記他の部位の温度に近似するように加熱する局部加熱工程と、
前記被乾燥物の温度を一定に保持する温度保持工程と、からなることを特徴とする乾燥方法。
【請求項5】
前記被乾燥物は、前記乾燥炉に入れる前に塗装が施されている物であり、
前記局部加熱工程で、前記被乾燥物中の暖まり難い部位に放射熱を加える時点は、前記第1測温手段で測定した暖まり難い部位の温度が、前記被乾燥物に塗布された塗料の架橋温度に達した時点であることを特徴とする請求項4記載の乾燥方法。
【請求項6】
前記放射熱の熱源は、近赤外線であることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の乾燥方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−245412(P2011−245412A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120620(P2010−120620)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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