説明

乾燥細胞形態のための方法および組成物

細胞材料の保存を可能とする細胞材料の噴霧乾燥の方法および組成物を提供する。一つの局面において、細胞材料は一定量の賦形剤と共に噴霧乾燥される。もう一つの局面において、細胞材料は凍結保護物質を用いて噴霧乾燥される。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年8月11日に出願された米国特許出願第60/707,425号および2006年3月31日に出願された同第60/788,133号に対する優先権を主張する。双方の先行出願の全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
背景
乾燥形態(dry form)のウイルス粒子、細胞性生物体およびその他の膜結合型材料は製薬産業および一般的ヘルスケア産業において極めて有用であり得る。乾燥細胞形態(DCF)は、長期保存の有用性、食品、農業およびヒトの健康への応用における加工および送達の容易さを示す。DCFの例には、食品用途におけるドライイースト、凍結保存細胞(例えば、血球)、および遺伝子送達のための細胞全体が含まれる(Trsic-Milanovic et al., J. Serb. Chem. Soc., 66:435-42, 2001(非特許文献1); Diniz-Mendes et al., Biotechnol. Bioeng., 65:572-8, 1999(非特許文献2);およびSeville et al., J. Gene Med., 4:428-37, 2002(非特許文献3))。
【0003】
DCFは一般的には次の2つの方法によって調製される:(i)細胞形態の水性懸濁液のバルク乾燥を伴う、凍結乾燥(lyophilization)もしくは凍結乾燥(freeze drying)、または(ii)水性細胞懸濁液への大量の凍結保護物質の注入および細胞死を最小にする所定の速度での0℃未満の温度への懸濁液温度の低下を伴う、凍結保存。凍結乾燥(lyophilization)(または凍結乾燥(freeze drying))の一つの欠点は、細胞材料の大部分を保持しながら大量のDCFを低コストで調製することが困難であることである(Kirsop and Snell, eds., 1984, Maintenance of Microorganisms: A Manual of Laboratory Methods, London, Academic Press(非特許文献4))。双方の技術は、脂質二重層膜を介しての物質輸送および関連する浸透圧ストレスによって制限される。
【0004】
凍結乾燥はカルメット-ゲラン桿菌(Bacillus Calmette-Guerin;BCG)ワクチンの商業用の調製において用いられる。BCGは、結核菌(tubercle bacillus)と呼ばれる細菌、即ち、ヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる疾病である結核(TB)から保護するために、毎年、何百万人もの新生児に注射によって投与される(Roche et al., Trends Microbiol., 3:397-401, 1995(非特許文献5))。現在、TBは死因の第六位であり、世界的流行は推定で年3%の割合で増大している。BCGは、ヒトがTB感染に対して脆弱である期間、一般的にはヒトの生涯の最初の30年間の間、中等度にしか有効でないので、AIDSの出現およびTBとのその連絡のために新規のワクチンに対する緊急性が増大している(Fine, Lancet, 346:1339-1345, 1995(非特許文献6))。BCGの有効性がない一つの潜在的な理由とは、製造されたDCFにおけるBCGの生存可能性が低いことである。
【0005】
【非特許文献1】Trsic-Milanovic et al., J. Serb. Chem. Soc., 66:435-42, 2001
【非特許文献2】Diniz-Mendes et al., Biotechnol. Bioeng., 65:572-8, 1999
【非特許文献3】Seville et al., J. Gene Med., 4:428-37, 2002
【非特許文献4】Kirsop and Snell, eds., 1984, Maintenance of Microorganisms: A Manual of Laboratory Methods, London, Academic Press
【非特許文献5】Roche et al., Trends Microbiol., 3:397-401, 1995
【非特許文献6】Fine, Lancet, 346:1339-1345, 1995
【発明の開示】
【0006】
概要
本発明は、顕著な生成物収量、高い生物体活性(例えば、生存可能性)、および優れた粉末加工特性を示す噴霧乾燥された細胞材料の新規の方法および組成物の発見に、一部基づく。例えば、本明細書に記載の組成物および方法によって作製される乾燥細胞形態は低い水分含有量を有し、吸入による対象への投与に適切であり得る。乾燥細胞形態は、保存(例えば、長期保存)および送達の容易さを考慮して、凍結温度を上回る高い温度で保存される期間に活性を保持する。これらの特性は、本明細書に記載の方法および組成物を、例えば、注射、経口投与または吸入によって投与されるべきワクチン調製物のために有用とする。
【0007】
一つの局面において、本発明は、乾燥重量あたり約10%未満の(例えば、約8%、5%、4%、3%、2%または1%未満の)水、例えば自由水、細胞材料、および少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、92%、94%、96%、98%、99%、またはそれ以上)の賦形剤を有する乾燥粉末を含む。いくつかの態様において、粉末は凍結を伴わずに作製される。いくつかの態様において、粉末は噴霧乾燥によって作製される。いくつかの態様において、細胞材料には細菌(例えば、ヒト型結核菌、スメグマ菌(M. smegmatis)などのミコバクテリア属、またはカルメット-ゲラン桿菌の細菌など)、ウイルス、真核微生物、哺乳動物細胞(例えば、赤血球、幹細胞、顆粒球、線維芽球または血小板)、膜結合型細胞小器官、リポソーム、膜ベースのバイオリアクター、または膜ベースの薬物送達系が含まれる。いくつかの態様において、細胞材料の単位数に対する賦形剤の質量の比は、細胞材料1単位当たり少なくとも0.25pgの賦形剤(例えば、細胞材料1単位当たり少なくとも0.25、0.5、1、2、5、10、20、50、100、200、500、1000、2000、5000、10,000、または20,000pgの賦形剤)である。いくつかの態様において、細胞材料の質量に対する賦形剤の質量の比は少なくとも0.1(例えば、少なくとも0.25、0.5、1、2、5、10、15、20、25、30、40、50、100、200、500、1000または2000)である。粉末が生細胞(例えば、細菌)を含むいくつかの態様において、0.5%を上回る(例えば、1%、2%、4%、5%、6%、8%、10%、12%、15%、18%、20%、25%またはそれ以上の)細胞が生存可能である。いくつかの態様において、粉末中の生細胞は、0℃を上回る(例えば、4℃、10℃、20℃、25℃、30℃、40℃または50℃を上回る)温度にて10日を上回る期間(例えば、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110または120日間)保存後に、その1/1000を上回る(例えば、1/500、1/200、1/100、1/50、1/20または1/10を上回る)初期生存能を保持する。いくつかの態様において、賦形剤はロイシン、マンニトール、トレハロース、デキストラン、ラクトース、ショ糖、ソルビトール、アルブミン、グリセロール、エタノールまたはそれらの混合物を含む。いくつかの態様において、粉末は、例えば、添加された凍結保護物質または有意な量の凍結保護物質(例えば、賦形剤でない凍結保護物質)などの凍結保護物質を含まない。いくつかの態様において、粉末は、添加された塩または有意な量の塩などの塩を含まない。乾燥粉末は、例えば、吸入投与用の薬学的組成物として製剤化され得る。
【0008】
もう一つの局面において、本発明は、少なくとも0.01mg/ml(例えば、少なくとも0.1、1、2、5、10、20、50、100または200mg/ml)の賦形剤および少なくとも105単位/ml(例えば、少なくとも106、107、108、109または1010単位/ml)の細胞材料を含む水溶液を作製して、重量あたり約10%未満の(例えば、約8%、5%、4%、3%、2%または1%未満の)水、例えば自由水、と細胞材料含む乾燥粉末を作製するための条件下にて溶液を噴霧乾燥することによって、細胞材料を含む乾燥粉末を作製する方法を含む。いくつかの態様において、細胞材料の単位数に対する賦形剤の質量の比は、細胞材料1単位当たり少なくとも0.25pgの賦形剤(例えば、細胞材料1単位当たり少なくとも0.25、0.5、1、2、5、10、20、50、100、200、500、1000、2000、5000、10,000、または20,000pgの賦形剤)である。いくつかの態様において、細胞材料の質量に対する賦形剤の質量の比は少なくとも0.1(例えば、少なくとも0.25、0.5、1、2、5、10、15、20、25、30、40、50、100、200、500、1000または2000)である。細胞材料が細菌(例えば、グラム陽性菌)を含むいくつかの態様において、溶液は添加された塩または凍結保護物質を含まない。細胞材料が真核細胞(例えば、哺乳動物細胞)を含むいくつかの態様において、溶液は浸透圧を最小とするために十分な塩またはその他の溶質を含み得る。
【0009】
いくつかの態様において、溶液は、乾燥重量あたり少なくとも10%(例えば、少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、92%、94%、96%、98%、99%またはそれ以上)の賦形剤を含む。いくつかの態様において、溶液は1010単位/ml未満の(例えば、109、108、107または106単位/ml未満の)細胞材料を含む。いくつかの態様において、細胞材料には細菌(例えば、ヒト型結核菌、スメグマ菌などのミコバクテリア属、またはカルメット-ゲラン桿菌の細菌など)、ウイルス、真核微生物、哺乳動物細胞(例えば、赤血球、幹細胞、顆粒球、線維芽細胞または血小板)、膜結合型細胞小器官、リポソーム、膜ベースのバイオリアクター、または膜ベースの薬物送達系が含まれる。いくつかの態様において、賦形剤はロイシン、マンニトール、トレハロース、デキストラン、ラクトース、ショ糖、ソルビトール、アルブミン、グリセロール、エタノールまたはそれらの混合物を含む。いくつかの態様において、水溶液は、例えば、賦形剤でない凍結保護物質などの凍結保護物質を含まない。いくつかの態様において、本方法は、乾燥粉末を例えば吸入投与用などの薬学的組成物へと製剤化する工程をさらに含む。本発明は、新規の方法によって作製される細胞材料を含む乾燥粉末をさらに含む。
【0010】
もう一つの局面において、本発明は、浸透圧ストレスを下げることによって材料に対する損傷を最小とするために細胞材料を噴霧乾燥する方法を含む。浸透圧ストレスは、噴霧乾燥されるべき1単位の細胞材料(本明細書では細胞とも呼ぶ)の半径の初期値(Rc(0))を得て、(i)噴霧乾燥装置の流入および流出気体温度の差(ΔT)、(ii)平均液滴サイズ(Rd)、(iii)溶媒の蒸発潜熱(λ)、(iv)細胞材料の膜の凍結保護物質に対する水力学的透過率(Lp)、(v)細胞外溶質のモル(xes)、(vi)細胞内溶質のモル(xis)、(vii)細胞外凍結保護物質のモル(xecp)、(viii)凍結保護物質の初期細胞内濃度(Cicp(0))、(ix)細胞数(n細胞)のそれぞれについて数値を選択し、選択された数値を用いて式36

を評価し、予測乾燥時間の間Rc(t)が最小〜最大の限度内に維持されるならば、材料に対する損傷を最小とするために選択された数値の条件を用いて細胞材料を噴霧乾燥することによって、下げることができる。いくつかの態様において、本方法は予測乾燥時間を求める工程も含む。最小および最大限度は、材料に対する損傷を最小とするように選択され得る。例えば、最小限度は初期半径の少なくとも約60%(例えば、少なくとも70%、80%、90%、95%、98%または99%)であり得る。
【0011】
例えば、最大限度は多くて初期半径の約160%(例えば、多くて140%、125%、110%、105%、102%または101%)であり得る。いくつかの態様において、細胞材料には細菌(例えば、ヒト型結核菌、スメグマ菌などのミコバクテリア属、もしくはカルメット-ゲラン桿菌の細菌など)、ウイルス、真核微生物、哺乳動物細胞(例えば、赤血球、幹細胞、顆粒球、線維芽細胞もしくは血小板)、膜結合型細胞小器官、リポソーム、膜ベースのバイオリアクター、または膜ベースの薬物送達系が含まれる。いくつかの態様において、凍結保護物質は噴霧乾燥直前に細胞材料(例えば、細胞材料の内側または外側)に添加される。いくつかの態様において、本方法は、乾燥粉末を例えば、吸入投与用の薬学的組成物へと製剤化する工程をさらに含む。本発明は、新規の方法によって作製された細胞材料を含む乾燥粉末も含む。
【0012】
さらなるもう一つの局面において、本発明は、少なくとも0.01mg/ml(例えば、少なくとも0.1、1、2、5、10、20、50、100または200mg/ml)の賦形剤および少なくとも105コロニー形成単位/ml(例えば、少なくとも106、107、108、109または1010コロニー形成単位/ml)のミコバクテリウム(Mycobacterium)属の細菌を含む水溶液を作製して、約10%未満の(例えば、約8%、5%、4%、3%、2%または1%未満の)水、例えば自由水、およびミコバクテリウム属の細菌を含む乾燥粉末を作製するための条件下で溶液を噴霧乾燥することによって、約10%未満の(例えば、約8%、5%、4%、3%、2%または1%未満の)水、例えば自由水、およびミコバクテリウム属の細菌を含む乾燥粉末を作製する方法を含む。いくつかの態様において、溶液はミコバクテリウム属の細菌のコロニー形成単位当たり少なくとも0.25pgの賦形剤(例えば、コロニー形成単位当たり少なくとも0.5、1、2、5、10、15、20、25、35または50pgの賦形剤)を含む。いくつかの態様において、水溶液は、賦形剤でない凍結保護物質などの、凍結保護物質を含まない。いくつかの態様において、ミコバクテリウム属の細菌はヒト型結核菌、スメグマ菌、ウシ型結核菌(M. bovis)またはカルメット-ゲラン桿菌である。いくつかの態様において、本方法は、乾燥粉末を、例えば吸入による投与用、または粉末を液体の薬学的に許容される担体に再溶解した後の注射による投与用の薬学的組成物へと製剤化する工程をさらに含む。いくつかの態様において、本方法は、乾燥粉末を、例えば吸入による投与用または液体の薬学的に許容される担体に再溶解した後の注射による投与用のワクチンとして製剤化する工程をさらに含む。本発明は、新規の方法によって作製されるミコバクテリウム属の細菌を含む乾燥粉末も含む。
【0013】
もう一つの局面において、本発明は、乾燥重量あたり約10%未満の(例えば、約8%、5%、4%、3%、2%または1%未満の)水、例えば自由水、細胞材料、および少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、92%、94%、96%、98%、99%、またはそれ以上)の賦形剤を有する乾燥粉末を含むワクチン組成物を含む。いくつかの態様において、乾燥粉末は本明細書において説明される方法によって作製される。ワクチン組成物は非経口的または粘膜(例えば、経口もしくは吸入)投与のために製剤化され得る。いくつかの態様において、細胞材料には細菌(例えば、ヒト型結核菌、スメグマ菌などのミコバクテリア属、もしくはカルメット-ゲラン桿菌の細菌など)、ウイルス、真核微生物、哺乳動物細胞(例えば、赤血球、幹細胞、顆粒球、線維芽細胞もしくは血小板)または膜結合型細胞小器官が含まれる。ワクチン組成物は一つまたは複数のアジュバントを含み得る。いくつかの態様において、一つまたは複数のアジュバントは、乾燥粉末を形成するために細胞材料と共に噴霧乾燥される。いくつかの態様において、一つまたは複数のアジュバントは作製後に乾燥粉末と混合される。
【0014】
本発明は、本明細書に記載の乾燥粉末を含むワクチン組成物を対象(例えば、ヒトまたは動物)に投与することによって免疫化する方法も含む。いくつかの態様において、乾燥粉末は本明細書に記載の方法によって作製される。ワクチン組成物は非経口的または粘膜(例えば、経口もしくは吸入)投与のために製剤化され得る。いくつかの態様において、対象は乳児、小児または成人である。いくつかの態様において、細胞材料には細菌(例えば、ヒト型結核菌、スメグマ菌などのミコバクテリア属、またはカルメット-ゲラン桿菌の細菌など)、ウイルス、真核微生物、哺乳動物細胞(例えば、赤血球、幹細胞、顆粒球、線維芽細胞もしくは血小板)または膜結合型細胞小器官が含まれる。免疫化の方法において使用するためのワクチン組成物は一つまたは複数のアジュバントを含み得る。
【0015】
さらなる局面において、本発明は、凍結温度を上回る温度、例えば4℃〜50℃(例えば、4℃〜40℃、4℃〜30℃、4℃〜20℃、4℃〜10℃、10℃〜50℃、10℃〜40℃、10℃〜30℃)で少なくとも1日の期間(例えば、少なくとも1週間、2週間、3週間、1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、5カ月、6カ月、7カ月、8カ月、9カ月、10カ月、11カ月、1年、またはそれ以上)、粉末を維持することによって本明細書に記載の乾燥粉末を保存する方法を含む。いくつかの態様において、乾燥粉末は環境温度で維持される。いくつかの態様において、乾燥粉末は本明細書に記載の方法によって作製される。いくつかの態様において、乾燥粉末は薬学的組成物またはワクチン組成物として製剤化される。
【0016】
またさらなる局面において、本発明は、乾燥重量あたり約10%未満の(例えば、約8%、5%、4%、3%、2%または1%未満の)水、例えば自由水、細胞材料、および少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、92%、94%、96%、98%、99%、またはそれ以上)の賦形剤を有する乾燥粉末を含む薬学的またはワクチン組成物を輸送する方法を含む。本方法は、乾燥粉末(例えば、本明細書に記載の方法によって作製される乾燥粉末)を含む薬学的またはワクチン組成物を作製する工程、および薬学的またはワクチン組成物を凍結温度を上回る温度、例えば4℃〜50℃(例えば、4℃〜40℃、4℃〜30℃、4℃〜20℃、4℃〜10℃、10℃〜50℃、10℃〜40℃、10℃〜30℃)で輸送する工程を含む。いくつかの態様において、薬学的またはワクチン組成物は環境温度で輸送される。
【0017】
別途定義される場合を除いて、本明細書で用いられるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。以下に記載されるものに類似する又は同類の方法および材料を本発明の実践または試験において用いることができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書において言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、参照によりそれらの全体が組み入れられる。矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が統制する。さらに、材料、方法および実施例は専ら例示的であって、限定的であることを意図するものではない。
【0018】
本発明の一つまたは複数の態様の詳細は添付の図面および以下の説明に示される。本発明のその他の特徴、目的および利点は、説明ならびに添付の図面及び特許請求の範囲から明白となるであろう。
【0019】
詳細な説明
本発明は、乾燥細胞形態(DCF)を作製するための新規の組成物および方法に関する。これらの組成物および方法は、優れた加工特性および細胞生存可能性を持つ細胞材料の乾燥形態の大量の作製を容易にする。好ましい態様において、細胞材料は一般的には乾燥重量あたり少なくとも50%(例えば、少なくとも60%、70%、80%または90%)の初期賦形剤濃度で乾燥される。しかし、いくつかの例では、初期賦形剤濃度は25%の低さでもあり得る。これらの賦形剤は、乾燥過程中の浸透圧ストレスを低減するために細胞材料を凍結保護物質と共に乾燥するような様式で選択または加工され得る。
【0020】
本明細書に記載の組成物および方法は、例えば、医用薬、農業または食品への応用に関連する細胞材料などの任意の細胞材料を乾燥するために用いることができる。「細胞材料」は本明細書では「膜結合型材料」と互換的に用いられて、脂質二重層によって構成される膜によって囲まれた材料を指す。例示的な細胞材料には、細菌(例えば、グラム陰性およびグラム陽性細菌、ならびにそれらのワクチン形態)、膜結合型ウイルス(例えば、HIV)、真核微生物(例えば、酵母)、哺乳動物細胞(例えば、血球(例えば、臍帯血細胞)、血小板、幹細胞、顆粒球、線維芽細胞、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞)、筋細胞、皮膚細胞、骨髄細胞、およびその他の細胞)、膜結合型細胞小器官(例えば、ミトコンドリア)、リポソーム、膜ベースのバイオリアクター(Bosquillon et al., J. Control. Release, 99:357-367,2004)、ならびに膜ベースの薬物送達系(Smith et al., Vaccine, 21:2805-12, 2003)が含まれる。
【0021】
細胞材料のさらなる例には、膜結合型ウイルス(例えば、インフルエンザウイルス、狂犬病ウイルス、ワクシニアウイルス、西ナイルウイルス、HIV、HVJ(センダイウイルス)、B型肝炎ウイルス(HBV)、オルソポックスウイルス(例えば、天然痘ウイルス(smallpox virus)およびワクシニアウイルス)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、およびその他のヘルペスウイルス)が含まれる。その他の例示的細胞材料には、ウイルス感染症(例えば、AIDS、エイズ関連症候群、水痘(水痘)、感冒、サイトメガロウイルス感染症、コロラドダニ熱、デング熱、エボラ出血熱、流行性耳下腺炎、手足口病、肝炎、単純ヘルペス、帯状疱疹、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)、インフルエンザ(flu)、ラッサ熱、麻疹、マールブルグ出血熱、伝染性単核症、ムンプス、灰白髄炎、進行性多巣性白質脳症、狂犬病、風疹、SARS、痘瘡(smallpox)痘瘡(Variola)、ウイルス性脳炎、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス肺炎、ウエストナイル病、および黄熱)の原因物質、細菌感染症(例えば、炭疽、細菌性髄膜炎、ブルセラ症、カンピロバクター症、ネコ引っかき病、コレラ、ジフテリア、発疹チフス、淋疾、膿痂疹、レジオネラ症、らい(ハンセン病)、レプトスピラ症、リステリア症、ライム病、類鼻疽、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染、ノカルジア症、百日咳(pertussis)、百日咳(whooping cough)、ペスト、肺炎球菌性肺炎、オウム病、Q熱、ロッキー山紅斑熱(RMSF)、サルモネラ症、猩紅熱、細菌性赤痢、梅毒、破傷風、トラコーマ、結核、野兎病、腸チフス熱、チフスおよび尿路感染)の原因物質、寄生虫感染症(例えば、アフリカ・トリパノソーマ症、アメーバ症、回虫症、バベシア症、シャーガス病、肝吸虫症、クリプトスポリジウム症、嚢虫症、裂頭条虫症、メジナ虫症、包虫症、蟯虫症、肝蛭症、肥大吸虫症、糸状虫症、自由生活性アメーバ感染、ジアルジア症、顎口虫症、膜様条虫症、イソスポーラ症、カラアザール、リーシュマニア症、マラリア、横川吸虫症、ハエウジ症、オンコセルカ症、シラミ症、蟯虫感染、疥癬、住血吸虫症、テニア症、トキソカラ症、トキソプラズマ症、旋毛虫症(trichinellosis)、旋毛虫症(trichinosis)、鞭虫症、およびトリパノソーマ症)の原因物質、ならびに真菌感染症(例えば、アスペルギルス症、ブラストミセス症、ダンジダ症、ドコクシジオイド症、ドリプトコッカス症、ヒストプラスマ症および足部白癬)の原因物質が含まれる。さらに、疾患原因物質の弱毒化(例えば、栄養要求性の)型および疾患原因物質に対する免疫を促進し得る関連物質(例えば、BCGおよびワクシニア)を、例えばワクチンの作製のために、本明細書に記載の方法において使用することができる(例えば、Sambandamurthy et al., Nat. Med., 9:9,2002;Hondalus et al., Infect. Immun., 68:2888-98, 2000;およびSampson et al., Infect. Immun., 72:3031-37,2004を参照されたい)。
【0022】
本明細書に記載の方法および組成物と共に用いられる賦形剤には、適合性のある炭水化物、天然および合成ポリペプチド、アミノ酸、界面活性剤、ポリマー、またはそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されるわけではない。一般的な賦形剤は、乾燥されるべき細胞材料の膜に関して1.0未満の(例えば、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2または0.1未満の)反射係数を有する(例えば、Adamski and Anderson, Biophys J., 44:79-90, 1983;およびJanacek and Sigler, Physiol. Res., 49:191-195, 2000を参照されたい)。適切な炭水化物には、ガラクトース、D-マンノース、ソルボース、デキストロースなどの単糖類が含まれる。ラクトース、トレハロース、マルトース、ショ糖などの二糖類も使用できる。その他の賦形剤には、2-ヒドロックスプロピル-β-シクロデキストリンのようなシクロデキストリン;およびラフィノース、マルトデキストリン、デキストランなどの多糖類;ならびにマンニトール、キシリトール、ソルビトールなどのようなアルジトールが含まれる。適切なポリペプチドにはジペプチドであるアスパルテームが含まれる。適切なアミノ酸は、標準的な薬学的加工技術において粉末を形成する任意の天然のアミノ酸を含み、これには非極性(疎水性)アミノ酸および極性(無電荷、正に帯電および負に帯電した)アミノ酸が含まれ、これらのアミノ酸はFDAによって一般に安全(GRAS)と見なされている。非極性アミノ酸の代表的な例には、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファンおよびバリンが含まれる。極性の非電荷アミノ酸の代表的な例には、システイン、グルタミン、セリン、スレオニンおよびチロシンが含まれる。正に帯電した極性アミノ酸の代表的な例には、アルギニン、ヒスチジンおよびリジンが含まれる。負に帯電したアミノ酸の代表的な例には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれる。適切な合成有機ポリマーにはポリ[1-(2-オキソ-1-ピロリジニル)エチレン]、即ち、ポビドンまたはPVPが含まれる。
【0023】
乾燥組成物
一般的には、細胞材料は、時に凍結を伴って、比較的少量の賦形剤と共に乾燥処理される。凍結さえなければ細胞材料を所与の水分含有量(例えば、重量あたり約40%の水分)未満に乾燥することはできず活性であり続けるという事実により、凍結が行われない場合、得られる粉末は有意な量の水分を含有する傾向がある。良好な加工および安定性特性を持つ乾燥粉末は、一般的には、重量あたり10%未満、好ましくは5%未満の水分を必要とする。これは、これよりも大きな水画分は粉末の粒子間の顕著な毛細管引力を生じ、従って粉末の凝集に至るためである。従って、優れた粉末加工および安定性特性を持つDCFの達成には、大量の賦形剤を用いた噴霧乾燥を伴う。具体的には、総水分含有量が10%または5%未満の乾燥粉末を達成するためには、重量あたり少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、92%、94%、96%、98%、99%またはそれ以上)の賦形剤を細胞形態と共に乾燥しなければならず、その結果、活性を維持するために十分な水分を保持しつつ、粉末の全体的な加工特性を害するほど多くの水分を粉末に与えない、比較的少ない重量の細胞材料の画分を含む乾燥粉末が得られる。
【0024】
噴霧乾燥は、食品業界、医療業界および農業において用いられる標準的加工法である。噴霧乾燥の場合、噴霧された液滴を乾燥媒質(例えば、空気または窒素)と混合することによって水分が微粒化された供給原材料(噴霧)から蒸発する。この過程は揮発物質の液滴を乾燥させて、乾燥過程によって制御されるサイズ、形状、密度および揮発含有量の「乾燥」粒子の不揮発成分はそのまま残す。噴霧されるべき混合物は溶媒、乳剤、懸濁液または分散剤であってよい。ノズルのタイプ、ドラムのサイズ、揮発性溶液および循環ガスの流量、ならびに環境条件を含む乾燥過程の多くの因子が乾燥粒子の特性に影響を及ぼし得る(Sacchetti and Van Oort, Spray Drying and Supercritical Fluid Particle Generation Techniques, Glaxo Wellcome Inc., 1996)。
【0025】
一般的には、噴霧乾燥の過程は、混合物を小さな液滴に分散する工程、噴霧および乾燥媒質(例えば、空気)を混合する工程、噴霧から水分を蒸発させる工程、ならびに乾燥媒質から乾燥生成物を分離する工程の4つの工程を伴う(Sacchetti and Van Oort, Spray Drying and Supercritical Fluid Particle Generation Techniques, Glaxo Wellcome Inc., 1996)。
【0026】
混合物の小液滴への分散は乾燥させる体積の表面積を大幅に増大させ、その結果、乾燥過程がより迅速となる。一般的には、分散エネルギーが大きければ大きいほど、得られる液滴はより小さくなる。分散は、加圧ノズル、二液ノズル、ロータリーアトマイザー、および超音波ノズルを含む、当技術分野において公知の任意の方法によって実施され得る(Hinds, Aerosol Technology, 2nd Edition, New York, John Wiley and Sons, 1999)。いくつかの態様において、混合物は200psi未満の圧力で噴霧される。
【0027】
混合物の分散(噴霧)後、得られた噴霧剤を乾燥媒質(例えば、空気)と混合する。一般的には、混合は加熱した空気の連続流の中で起こる。熱風は噴霧液滴への熱伝達を高めて、蒸発速度を増大させる。気流は、乾燥後に大気中に排気されるか、または再循環されて再利用され得る。空気流は一般的には気流のいずれかの末端部に陽圧および/または陰圧をかけることによって維持される(Sacchetti and Van Oort, Spray Drying and Supercritical Fluid Particle Generation Techniques, Glaxo Wellcome Inc., 1996)。
【0028】
液滴が乾燥媒質に接触すると、液滴の高い比表面積および小さなサイズのために迅速に蒸発が起こる。乾燥系の特性に基づいて、残存レベルの水分は乾燥生成物内に保持され得る(Hinds, Aerosol Technology, 2nd Edition, New York, John Wiley and Sons, 1999)。
【0029】
続いて、生成物を乾燥媒質から分離する。一般的には、生成物の最初の分離は乾燥チャンバーの基部で行われて、続いて、例えばサイクロン、静電集塵器、フィルターまたはスクラバーを用いて生成物が回収される(Masters et al., Spray Drying Handbook, Harlow, UK, Longman Scientific and Technical, 1991)。
【0030】
粒子サイズ、最終湿度および収量を含む最終生成物の特性は、乾燥過程の多くの因子に左右される。一般的には、注入温度、空気流量、液体供給源の流量、液滴サイズおよび混合濃度などのパラメータは、所望の生成物が作製されるように調整される(Masters et al., Spray Drying Handbook, Harlow, UK, Longman Scientific and Technical, 1991)。
【0031】
注入温度は、乾燥チャンバーへの流入前に測定される、加温した乾燥媒質、一般的には空気の温度を指す。一般的には、注入温度は所望の通りに調整することができる。生成物回収部位での乾燥媒質の温度は流出温度として示されて、注入温度、乾燥媒質流量、および噴霧混合物の特性に依存する。一般的には、注入温度が高いと、最終生成物の水分量が減少する(Sacchetti and Van Oort, Spray Drying and Supercritical Fluid Particle Generation Techniques, Glaxo Wellcome Inc., 1996)。
【0032】
空気流量は系を通過する乾燥媒質の流れを指す。空気流は、噴霧乾燥系の一方の末端または内部において陽圧および/または陰圧を維持することによって与えることができる。一般的には、空気流量が大きければ大きいほど、粒子の乾燥装置内での滞留時間(即ち、乾燥時間)が短くなり、最終生成物の残留水分量が多くなる(Masters et al, Spray Drying Handbook, Harlow, UK, Longman Scientific and Technical, 1991)。
【0033】
液体供給源の流量は、乾燥チャンバーに供給される単位時間当たりの液体の量を指す。液体の処理量が多ければ多いほど、液滴を蒸発させて粒子とするために多大なエネルギーを必要とする。従って、流量が大きければ大きいほど流出温度は低下する。一般的には、注入温度および空気流量を一定に保持しつつ流量を減少させると、最終生成物の水分含有量が減少する(Masters et al., Spray Drying Handbook, Harlow, UK, Longman Scientific and Technical, 1991)。
【0034】
液滴のサイズとは、噴霧ノズルによって分散される液滴のサイズを指す。一般的には、液滴が小さければ小さいほど最終生成物中の水分含有量が低下し、粒子サイズも小さくなる(Hinds, Aerosol Technology, 2nd Edition, New York, John Wiley and Sons, 1999)。
【0035】
噴霧乾燥されるべき混合物の濃度も最終生成物に影響する。一般的には、噴霧される液滴当たりの材料が多くなることから(Sacchetti and Van Oort, Spray Drying and Supercritical Fluid Particle Generation Techniques, Glaxo Wellcome Inc., 1996)、濃度が高ければ高いほど最終生成物の粒子サイズは大きくなる。
【0036】
噴霧乾燥のための系は、例えば、Armfield, Inc. (Jackson, NJ)、Brinkmann Instruments (Westbury, NY)、BUCHI Analytical (New Castle, DE)、Niro Inc (Columbia, MD)、Sono-Tek Corporation (Milton, NY), Spray Drying Systems, Inc. (Randallstown, MD)、およびLabplant, Inc. (North Yorkshire, England)から市販されている。
【0037】
噴霧乾燥された粉末の最終的な水分含有量は、例えば、熱重量測定分析によるなど、当技術分野において公知の任意の方法で測定することができる。水分含有量は、熱重量測定分析により、粉末を加熱して水分の蒸発時に消失する質量を測定することによって求められる(Maa et al., Pharm. Res., 15:5, 1998)。一般的には、細胞材料(例えば、細菌)を含む試料の場合、水は2相性で蒸発する。自由水と呼ばれる最初の相は主に乾燥賦形剤の含水量である。結合水と呼ばれる第2の相は主に細胞材料の含水量である。粉末が賦形剤または細胞材料のいずれかに所望の水分含有量を含むかどうかを調べるためには、自由水および結合水の双方が測定され得る(Snyder et al., Analytica Chimica Acta, 536:283-293, 2005)。
【0038】
噴霧乾燥中の浸透圧ストレスの軽減
噴霧乾燥されるべき細胞溶液に導入される賦形剤は、細胞材料の膜に対する全体的な浸透圧ストレスを最小にし、かつ従って活性を維持するような様式で選択および/または導入され得る。上記の理由により細胞材料の質量画分に対する賦形剤の所望の質量画分を保持することは重要であるが、これらの賦形剤の性質、および噴霧乾燥前にそれらを導入する方法が重要であり、細胞生存可能性にとって決定的である場合さえある。
【0039】
細胞材料の場合、噴霧乾燥ドラム内での液滴の乾燥は、図1に示されるように、標準的な凍結乾燥過程での生物体の凍結に類似すると見なすことができる(James, "Maintenance of Parasitic Protozoa by Cryopreservation," Maintenance of Microorganisms, Academic Press, London, 1984)。
【0040】
生物体を含む液滴が蒸発する場合、液滴内(および細胞外)の塩濃度(Ces)は生物体の塩濃度(Cis)に比して高い。細胞膜は塩の輸送に関して不透過性であるが、水の輸送に関しては比較的透過性であることがその理由である。その結果、液滴の乾燥によって蒸発中の液滴の塩濃度が増加し、(膜の両面における塩濃度の不均衡によって引き起こされる)細胞膜に対する浸透圧ストレスが生じて、これが水の細胞外への押し出しを引き起こす。この脱水過程は、塩濃度の不均衡を解消することによって浸透圧ストレスを機械的に低減しようとする膜の試みと見なすことができる(Batycky et al., Phil. Trans. Roy. Soc. Lond., A355:2459-88, 1997)。
【0041】
液滴の蒸発時における細胞材料の「脱水」は、本質的に、細胞材料が凍結を受ける際に生じるのと同一の過程である。上記のように細胞材料を溶解し得る過度の脱水を避けるために、凍結保存の技術分野に関連する技術、つまり凍結保護物質の使用ならびに凍結および融解サイクルの制御が開発されている。凍結保護物質は、水よりは遅いが塩よりは早い速度で細胞膜に浸透する薬学的に不活性な物質である。これらの技術は細胞材料の噴霧乾燥の方法に関連することから、これらについて以下で簡潔に総評する(Karlsson and Toner, Biomaterials, 17: 243-256, 1996)。
【0042】
まず最初に、凍結保護物質に対する膜の半透性を考えると、凍結保護物質は膜に対する浸透圧を与える−これは、凍結保護物質の濃度に比例し、最も好成績な凍結保護物質の場合、これは同等濃度の塩によって与えられる浸透圧に極めて近い。このことは、不浸透性塩濃度と同等の凍結保護物質を含む水性媒質に浸漬される細胞膜が、凍結保護材料の存在によって著しく影響される浸透圧ストレスおよび非等張条件を経験する傾向を持つことを意味する。従って、膜を介した凍結保護物質の拡散は、塩濃度が膜のどちらか一方の側で不均等である状況であっても浸透圧ストレスを埋め合わせるための方法を与える。このため、凍結保護物質は浸透圧ストレスを拡散するための機構を与える。新規の方法と共に使用するための適切な凍結保護物質には、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびグリセロールが含まれるが、これらに限定されるわけではない(Chesne and Guillouzo, Cryobiology, 25:323-330, 1988)。いくつかの態様において、凍結保護物質は乾燥混合物から除外される。
【0043】
凍結保存のプロトコールにおいて、凍結保護物質は塩濃度に比して有意な濃度(Cecp)で細胞材料の懸濁液に添加される。細胞が過度の浸透圧ストレスに供されないようにこの添加を制御できること、即ち、凍結保護物質が細胞膜を介して拡散することができかつ細胞を脱水することがないように十分ゆっくりと凍結保護物質を添加できる点は、注目に値する。続いて、凍結−これによって、細胞内の天然の凍結保護物質のために細胞の外側で氷が形成されて、その結果、細胞外の塩濃度が上昇する−の際、凍結保護物質は、細胞膜を介して拡散することができかつ細胞の内側の濃度を上昇させることができ、このことは凍結保護物質の内部濃度(Cicp)を上昇させる。これにより、凍結が十分にゆっくりとした速度で生じる場合は特に、細胞膜に対する浸透圧が減少する。このようにして、凍結保護物質は細胞生存可能性の維持に寄与し、血液、精子およびその他の有用な細胞の保存における使用が説明付けられる(Karlsson and Toner, Biomaterials, 17: 243-256, 1996)。
【0044】
凍結保存との類似性にも関わらず、噴霧乾燥は、大量使用において特に重要となる細胞材料の特徴的な利点を与える。細胞および懸濁液のスケールに関して後者が前者よりも大幅に大量である場合、(凍結保護物質の添加または除去、および細胞の凍結に関与する)物質輸送動態要件が極めて異なるという点で、細胞の凍結保存は大量の細胞懸濁液によって誘発される。これは、凍結保存の標準的な方法による血液の凍結が臓器全体の凍結に対して容易に応用されない理由の一つであり得る。噴霧乾燥は、細胞懸濁液を大雑把に小さな凍結保存単位と見なすことができる少量(即ち、液滴)に自動的に分割する。スケールアップは噴霧される液滴の体積の有意な増大を必要としない:むしろ、スケールアップは噴霧乾燥容器のサイズの増大、ノズルを通過する懸濁液の流れの増大、およびその他の標準的なスケールアップ方法によって達成される。
【0045】
このように、噴霧乾燥は、凍結保存および凍結乾燥の技術を介してその他の方法で達成されるであろうよりも高い活性のDCFを大量に作製するための方法を提供することができる。
【0046】
以下では、膜のストレスを最小にし、従って生存可能性を最大限とする方法で細胞形態を噴霧乾燥するための基準を与える理論的形式について説明する。本方法は、凍結保護物質の使用、ならびに例えば溶媒の種類、注入気体温度、および噴霧乾燥ノズルの大きさおよび回転速度(液滴サイズ)などの標準的な噴霧乾燥パラメータの制御に依存する。
【0047】
本方法は、凍結保護物質の存在下で、懸濁された材料の膜の半径が調節可能であるように、加温された環境内で噴霧された液滴が乾燥され得る速度を決定する。このように、膜のRcminを下回る収縮またはRcmaxを上回る拡大を防ぐことができる。Rcminの場合の例証のため、懸濁されるすべての材料は、浸透圧によって引き起こされる脱水の結果として臨界径(Rccri)未満に収縮することはない。強固な細胞壁の場合、この条件はとりもなおさず非活性化に至る臨界ストレスに相当し得る。先ず、問題内で理想化された幾何学および濃度が検討され、続いて、2つの律速条件において動態が検討される。この後、系のパラメータの関数として細胞半径の変化の割合を説明するために流体動力学および物質輸送の式を展開する。
【0048】
説明を容易にするため、細胞が平衡半径Rc0の球形である、細胞の懸濁液を仮定できる。この細胞において、塩および凍結保護物質が細胞の内側ではCisおよびCicpの濃度で、細胞の外側ではCesおよびCecpの濃度で存在する。
【0049】
噴霧乾燥後直ちに、懸濁された材料の個々の液滴が形成される。ここで、細胞は噴霧溶液および噴霧過程において均等に分布し、従って噴霧された個々の液滴内で等濃度であると仮定する。噴霧乾燥中に物理的に制御することができる流量は、次式において明確に求められる。

式中、aは単位時間当たりに作出される液滴の割合であり、n細胞はそれぞれの噴霧される各液滴中に懸濁される細胞数であり、Nは体積中の総細胞数であり、t0は体積V0を噴霧するために必要な時間の量である。
【0050】
噴霧されるべき懸濁液中の細胞の体積画分はφ0として記載され、

であり、Nは懸濁液の体積φ0中の総細胞数である。
【0051】
これらの液滴は均一な半径Rd0を持つと仮定され、細胞材料の画分は

のように表すことができ、式中、nはそれぞれの噴霧した各液滴における懸濁細胞数である。
【0052】
均一性を仮定すると、当初の懸濁液において測定されたCes、Cecp、Cis、Cispの4種類の濃度は、噴霧された各液滴の細胞内における塩および凍結保護物質の初期濃度に等しい。これらの濃度は、塩および凍結保護物質の絶対モル数が各液滴内で保存されるとすると、液滴の直径および細胞の直径の変化に基づいて時間と共に変化する。
【0053】
xisおよびxes、ならびにxicpおよびxecpは、個々の液滴内に分散後の、それぞれ、細胞の外側および内側における塩および凍結保護物質のモルを示す。これにより、次が与えられる:

式中、Vc排除は、塩および/または凍結保護物質が分配できない個々の各細胞の体積であり、時間に対して一定と考えられる。パラメータXisおよびXes(細胞の内側および外側の塩のモルを表す)も、膜を介した塩の不浸透性のために時間に対して一定である。続いて、これらの表現における単一の時間の変数はRcおよびRdであり、細胞の内側および外側における凍結保護物質のモルはXicpおよびXecpである。
【0054】
個々の各液滴は、外的条件である液滴のサイズ、液滴の揮発性などに依存した速度で噴霧乾燥ドラム内で蒸発する。最初に、懸濁液の最初の希釈性状(φ0<<1)を考慮すると、個々の細胞は平均的に見て互いに遠く離れている。経時的に、細胞は次第に密着するようになり、2つの極限の状態がイメージされ得る:
【0055】
ここで、乾燥過程中はφ(t)<<1である。この場合、個々の各細胞は単離され、無限の水槽内で懸濁されているかのように塩および凍結保護物質の濃度(ならびにその結果である浸透圧ストレス)の増大に反応すると仮定される。問題の対称性(物質輸送の検討に関しては以下を参照されたい)は、液滴および細胞がすべて放射状に収縮(または膨張)するというものである。従って、図1を考えると、液体の移動ではなく浸透圧ストレスに起因する、個々の細胞の内側および周辺に生じる速度特性は、次のように表すことができる:
ν=ιrνr(t) (8)
式中、ιrは細胞の中心部を原点とする球座標系において座標rに平行な単位ベクトルであり、νr(t)は半径方向速度の大きさである。
【0056】
さらに、細胞および液滴の液体が圧縮不能ならば、
▽・v=0 (9)
または
δVr/δr=0 (10)
である。細胞中心部の半径方向速度は0でなければならないことから、常に次のように結論付けられる。
v=0 (11)
この結論は、細胞膜の任意の放射状運動が「非物質的」でなければならないことを意味して、膜の動きは近接した液体の質量平均移動と等しくないことを示す。
【0057】
従って、ケース1は、液滴内の個々の細胞の発達が拡散的に押し流される問題である。
【0058】
φ0→1の極限において、乾燥液滴内の個々の細胞は極めて密接に接触する。浸透圧ストレスの結果である細胞膜の発達は、細胞膜が隣接する細胞のすぐ側で平板化するか、いわゆる「プラトー境界」の近くで凸状にわん曲する環境内で決定される。これらの膜の状況を図2に示す。
【0059】
ケース1における基本的過程のいくつかはケース2では有効でない。先ず、細胞の排除体積によって引き起こされる液滴の「隣接」相における細胞の密着および物質輸送抵抗を考えると、外部または連続相における塩および凍結保護物質の濃度の増加は細胞膜を介しての水輸送に比して即効性であることは予想できない。このことは、液滴の体積は減少し続けるのに伴って、液滴の周辺部の塩および凍結保護物質の濃度が液滴の中心部付近の濃度に比して著しく増大し、従って、液滴周辺部の細胞は強い浸透圧ストレスを受け、中心部の細胞は浸透圧ストレスをほとんどまたは全く受けないことを意味する。さらに、乾燥過程中の各細胞の放射状の膨張または収縮を最小とする目的は、それぞれの細胞が経時的に様々な状態を経験することから、多様な意味を有する。ケース2の目的は、周辺にある最も脆弱な細胞について細胞膨張を最小とすること、または合理的な時間を与えて液滴内の最も多くの細胞を乾燥時の収縮から保護することである。(周辺部の細胞死を最小とするために必要な最終的な乾燥制限は、極限的には際限なくゆっくりとした乾燥を必要とする点に留意されたい。)
【0060】
この分析では、残りの検討は引き続き専らケース1において着目した。
【0061】
ケース1において、2つの重大な物質輸送の問題が指摘され得る。第一は、塩および凍結保護物質の濃度が時間の関数として乾燥液滴内で均等に増加するとの条件で、乾燥液滴内での塩および凍結保護物質の物質輸送に関する。細胞懸濁液の希釈のために、液滴の乾燥の問題は別に検討され得る。この後者の問題は、熱風の連続体の中で乾燥する球形の水滴の問題である。
【0062】
外部の塩および凍結保護物質の濃度が一様に突然変化する、境界のない環境内における球形細胞の物質輸送の問題は、Batyckyら(1997年)によって既に解決されている。彼らの分析では、細胞液は連続体として説明され、細胞内の塩および凍結保護物質の濃度はサイトゾル液および内部の細胞小器官全体で均質または特に平均的と見なされる。膜に対する浸透圧の標準的な定義であるレイノルズの輸送の定理および膜を介しての水浸透性に関するダルシーの法則を用いて、膜の速度は

であることが示され得るが、式中、Lpは膜の水力学的浸透率(m/s・atm)であり、σは反射係数(0<σ<1)として公知であり、塩に対して凍結保護物質に対する膜の浸透性が低減した画分を示す。
【0063】
細胞内の膜における塩および凍結保護物質の濃度の変化に関する時間割合は、関連する物質輸送保存式に対する解によって求めることができる。細胞内での塩および凍結保護物質の濃度が高いにも関わらず、一定の塩および凍結保護物質に関してフィックの拡散が仮定される。Batyckyら(1997年)に続いて、EdwardsおよびDavis (Chem. Eng. Sci,, 50:1441-54, 1995)の結果を組み入れて、これらの拡散率は細胞内での細胞小器官の存在を反映するコーススケール係数(

)として表される。
【0064】
塩濃度に関する調整微分方程式がBatyckyら(1997年)において表され得る:

初期条件は次の通りである:
t=0において、Cis=Cis(0)。式中、t=0の時、Rc(t)=Ri (16)
上記の式において、



によって関連づけられる。これらの式を解くと、

が得られる。
【0065】
凍結保護物質の濃度に関する調整微分方程式はBatyckyら(1997年)において表され得る:

これを境界条件に当てはめると、

であり、初期条件は次の通りである:
t=0の時、Cicp=Cicp(0) (23)
t=0の時、Rc(t)=Rc0 (24)
これらの関係は次の通りである:

式中、θは細胞の浸透圧的に不活性な画分(細胞小器官)であり、κはヘンリーの吸収係数の法則であり、αは細胞小器官の比表面積、Kは細胞小器官への分配係数である。
【0066】
式(14)を用いてこれらの式を解くと、

が得られる(Batycky et al. 1997)。初期条件を適用すると
t=0の時、Rc(t)=Rc0 (27)
である。ここで、λnは次の超越方程式のゼロ以外の平方根の固有値
βλn=tan(λn) (28)
であり、細胞内への半透性溶質流入速度であるPspおよび係数βは次のように定義される:

λnは拡散の迅速な時間スケールを通して本質的に一定であるが、それらは細胞膜膨張の時間スケールを通して時間内にゆっくりと変化することに留意されたい。代わって、式(28)は、細胞半径Rc(t)を液滴の蒸発速度に依存する外部の塩および凍結保護物質濃度に関連付ける。この関連を以下に説明する。
【0067】
多くの研究者らが、特に気体中の対流効果が無視される気相中での球形の液滴の乾燥について調べている。噴霧乾燥装置内での蒸発は、蒸発の調整速度および蒸発の滞留時間に依存する。滞留時間は、乾燥装置内での噴霧空気移動の関数である。液滴が周辺の空気に対して移動する場合、移動する液滴周辺の流動条件は蒸発速度に影響する。この場合、液滴は、空気および液滴の相対速度が極めて遅い空気流によって完全に影響される。境界層理論によると、相対速度0で移動する液滴の蒸発速度は静止空気条件での蒸発に一致する。従って、噴霧乾燥による液滴の蒸発は静止空気条件での蒸発と同様の機構としてモデル化される。
【0068】
実験的および理論的に液滴半径と噴霧乾燥過程の制御パラメータの間に見られる一般的な関連性は、次によって与えられる(Masters, 1991, Spray Drying Handbook, Longman Scientific and Technical, Harlow, UK):

D=2Rcであり、Kdは蒸発する液滴周囲の気体膜の平均熱伝導度であり、ρ1は気相の密度、λは液滴の蒸発潜熱、LMTDは

によって定義される対数平均温度差であり、式中、ΔT0およびΔT1は液滴および気相の初期および最終の温度差である。
(30)を積分すると、

が得られ、式中、

である。(6)および(7)に(32)を代入すると、塩および凍結保護物質の瞬間濃度の液滴蒸発パラメータに対する関連性が示される。

【0069】
噴霧乾燥のための方法は次の微分方程式によって表され得る:

上記の式を評価することによって、ストレスを最小にし、Rcmin<Rc(t)<Rcmaxの維持を可能として、または懸濁された膜結合型材料に対するストレスを最大限とするために必要な噴霧乾燥装置の流入および排出気体温度(即ち、ΔT)、ノズルの種類、液滴サイズの回転速度(Rd)、溶媒の種類(λ)、および凍結保護物質の種類(Lp)を決定することができる。これらの法則は、細胞の凍結および融解速度に関する凍結保存の法則と類似点を見出す。
【0070】
薬学的組成物
例えば、新規の組成物を用いて、または新規の方法によって作製される、本明細書に記載の乾燥細胞形態を、例えばワクチン組成物などの薬学的組成物として調製することができる。細胞材料は、薬学的に許容される様々な希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、安定剤、可溶化剤、および薬学的粉末を作製するために当技術分野において周知のその他の材料と共に噴霧乾燥され得る。または、噴霧乾燥後に、生成物は、薬学的に許容される様々な希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、安定剤、可溶化剤、アジュバント、および例えば薬学的粉末などの薬学的組成物を作製するために当技術分野において公知のその他の材料の少なくとも1つと共に製剤化され得る。「薬学的に許容される」という用語は、活性成分の生物活性の有効性に影響を及ぼさない無毒の材料を意味する。本組成物の特徴は投与の経路に依存し得る。いくつかの態様において、本組成物を、管理された温度で投与前に保存することができる。
【0071】
薬学的組成物(例えば、乾燥細胞形態を含む薬学的組成物)の投与は、吸入、経口摂取、または経皮、皮下もしくは静脈内注射のような様々な簡便な方法で実施することができる。吸入による投与が好ましい。いくつかの態様において、本組成物はワクチンとして投与される。
【0072】
乾燥細胞形態は、例えば、吸入器(例えば、米国特許第6,102,035号(粉末吸入器)および同第6,012,454号(乾燥粉末吸入器)を参照されたい)のような医療装置を用いた吸入用に製剤化することができる。吸入器は、保存に適したpHでの活性化合物のための独立したコンパートメント、および中和緩衝液のためのもう1つのコンパートメント、ならびに化合物を噴霧化直前に中和緩衝液と混合するための機構を含み得る。一つの態様において、吸入器は計量用量吸入器である。
【0073】
薬物を肺の気道に局所的に送達するために用いられる3種類の一般的な装置は、乾燥粉末吸入器(DPI)、計量用量吸入器(MDI)およびネブライザーを含む。吸入投与の最も普及している方法において用いられるMDIは、医薬を溶解型または分散剤として送達するために用いられ得る。一般的にMDIは、装置の活性化後直ちにエアロゾル化された医薬を呼吸器に強制的に送達するプレオンまたはその他の比較的高い蒸気圧の噴霧剤を含む。MDIとは異なり、DPIは一般に、乾燥粉末形態の医薬を肺に誘導するための患者の呼吸努力に完全に依存する。ネブライザーは、液体の溶液にエネルギーを与えることによって吸入される医薬のエアロゾルを形成する。フルオロケミカル媒質を用いた液体換気または肺洗浄中の薬物の直接的な肺送達についても調べられている。これらおよびその他の方法は乾燥細胞形態を送達するために使用することができる。例示的な吸入装置は米国特許第6,732,732号および同第6,766,799号に開示されている。
【0074】
本組成物は、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素またはその他の適切な気体などの適切な噴霧剤を用いて加圧パックまたはネブライザーからエアロゾルスプレーの形で便利に送達され得る。加圧エアロゾルの場合、投与単位は計量した量を送達するためのバルブを提供することによって測定することができる。吸入器または散布器で使用するための乾燥細胞形態を含むカプセルおよびカートリッジを製剤化することができる。
【0075】
必ずしも必要という訳ではないが、肺送達をさらに促進するために界面活性剤などの送達促進物質を使用することができる。本明細書で用いられる「界面活性剤」とは、2つの不混和相間の界面に干渉することによって薬物の吸収を促進する親水性および親油性部分を持つ化合物を指す。界面活性剤は、例えば、粒子凝集の減少、マクロファージによる食作用の減少など、複数の理由により乾燥粒子と共に有用である。肺界面活性剤と共役した場合、DPPCなどの界面活性剤は化合物の拡散を大幅に促進することから、化合物のより効果的な吸収が達成され得る。界面活性剤は当技術分野において周知であり、例えばホスファチジルコリン、L-α-ホスファチジルコリンジパルミトイル(DPPC)およびジホスファチジルグリセロール(DPPG)などのホスホグリセリド;ヘキサデカノール;脂肪酸;ポリエチレングリコール(PEG);ポリオキシエチレン-9;アウリルエーテル;パルミチン酸;オレイン酸;ソルビタントリオレアート(スパン(商標)85);グリココレート;サルファクチン;ポロキソマー;ソルビタン脂肪酸エステル;ソルビタントリオレアート;チロキサポール;およびリン脂質が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0076】
もう一つの局面において、乾燥細胞形態は、吸入不可能な粒子サイズを持つ、即ち、いかなる有意な量も肺に取り込まれないような大きさの、薬学的に許容される担体と共に製剤化してよい。この製剤は、乾燥細胞形態の小さな粒子(例えば、10μm未満)および担体の大きな粒子(例えば、約15〜100μm)の均一混合物であり得る。拡散後、小さな粒子は続いて肺に吸入され、大きな粒子は一般に口内に留まる。混合に適した担体は、例えば糖類、二糖類および多糖類など、味が許容可能であり、かつ、吸入または経口的摂取に関わらず毒性学的に無害である結晶性または非結晶の賦形剤を含む。典型的な例には、ラクトース、マンニトール、ショ糖、キシリトールなどが含まれる。
【0077】
経口投与では、薬学的粉末は、例えば、結合剤(例えば、α化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、充填剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロース、またはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ);崩壊剤(例えば、馬鈴薯デンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)のような薬学的に許容される賦形剤と共に簡便な方法によって調製されるタブレットまたはカプセルとして製剤化され得る。タブレットは当技術分野で周知の方法によってコーティングしてもよい。経口投与のための液体調製物は、例えば溶液、シロップもしくは懸濁液の形態を取り得て、または使用前に水もしくはその他の適切な溶媒で再溶解されるための乾燥製剤として提供されてもよい。このような液体調製物は、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または食用硬化油);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水溶媒(例えば、扁桃油、油性エステル、エチルアルコール、または分画植物油);および保存剤(例えば、メチルもしくはプロピル-p-ヒドロキシベンゾエート、またはソルビン酸)のような薬学的に許容される添加物と共に簡便な方法によって調製してよい。調製物は、適宜、緩衝剤、塩、香料、着色料および甘味料を含んでもよい。
【0078】
本組成物は、例えば、瞬時注射または連続注入による注射による非経口投与のために製剤化され得る。活性成分は、使用前に発熱物質非含有滅菌水などの適切な溶媒で再溶解するための粉末形態で提供することができる。注射用製剤は、例えば、添加保存料と共にアンプルまたは多数回使用容器に入った単位投与剤形で提供され得る。本組成物は、油性または水性溶媒中の懸濁液、溶液または乳剤のような形態をとり得て、懸濁剤、安定剤および/または分散剤のような薬剤を含んでも良い。
【0079】
アジュバント
本発明のワクチンはその他の免疫調整物質と共に製剤化され得る。特に、ワクチン組成物は一つまたは複数のアジュバントを含むことができる。本明細書に記載のワクチン組成物において用いられ得るアジュバントには次が含まれるが、これらに限定されるわけではない:
【0080】
A.鉱物含有組成物
本明細書に記載のアジュバントとしての使用に適した鉱物含有組成物には、アルミニウム塩およびカルシウム塩のような鉱物塩が含まれる。水酸化物(例えば、オキシ水酸化物)、リン酸塩(例えば、ヒドロキシリン酸塩、オルトリン酸塩)、硫酸塩など(例えば、Vaccine Design (1995) eds. Powell & Newman. ISBN: 030644867X. Plenumの第8および9章を参照されたい)のような鉱物塩、または異なる鉱物性化合物の混合物(例えば、任意で過剰なリン酸塩を伴うリン酸塩および水酸化物アジュバントの混合物)も含まれ、化合物は任意の適切な形態(例えば、ゲル、結晶性、非結晶性など)にタルク処理され、塩への吸着が好ましい。鉱物含有組成物は金属塩の粒子として製剤化されてもよい(国際公開公報第00/23105号)。
【0081】
本明細書に記載の組成物は、Al3+の用量が用量当たり0.2〜1.0mgであるようにアルミニウム塩を含んでもよい。一つの態様において、本組成物での使用のためのアルミニウムベースのアジュバントはミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム(AlK(SO4)2))、またはリン酸緩衝液中の抗原をミョウバンと混合した後に水酸化アルミニウムまたは水酸化ナトリウムのような塩基を用いて滴定および沈殿させることによってインサイチューで形成されるようなミョウバン誘導体である。
【0082】
本発明のワクチン製剤において使用するためのもう一つのアルミニウムベースのアジュバントは、優れた吸着剤であり約500m2/gの表面積を持つ水酸化アルミニウムアジュバント(Al(OH)3)または結晶性オキシ水酸化アルミニウム(AlOOH)である。または、水酸化アルミニウムアジュバントのヒドロキシル基の一部またはすべての代わりにリン酸基を含むリン酸アルミニウムアジュバント(AlPO4)またはヒドロキシリン酸アルミニウムが提供される。本明細書で提供される好ましいリン酸アルミニウムアジュバントは酸性、塩基性および中性媒質中で非結晶性および可溶性である。
【0083】
もう一つの態様において、本組成物と共に使用されるためのアジュバントはリン酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムの双方を含む。それらのより特定の態様において、アジュバントは水酸化アルミニウムに対するリン酸アルミニウムの重量あたり、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1または9:1を上回る割合など、水酸化アルミニウムを上回る量のリン酸アルミニウムを有する。より具体的には、アルミニウム塩はワクチン用量当たり0.4〜1.0mg、またはワクチン用量当たり0.4〜0.8mg、もしくはワクチン用量当たり0.5〜0.7mg、もしくはワクチン用量当たり約0.6mgが存在し得る。
【0084】
一般に、アルミニウムベースの好ましいアジュバント、または水酸化アルミニウムに対するリン酸アルミニウムのようにアルミニウムベースの多くのアジュバントの割合は、抗原が所望のpHにおいてアジュバントとして逆の電位を持つように分子間の静電引力を至適化することによって選択される。例えば、リン酸アルミニウムアジュバント(等電点=4)は、pH 7.4においてリゾチームは吸着するがアルブミンは吸着しない。アルブミンが標的である場合は、水酸化アルミニウムアジュバントが選択されるであろう(等電点=11.4)。または、水酸化アルミニウムをリン酸塩で前処理することによって等電点が低下し、より塩基性の抗原に対して好ましいアジュバントとなる。
【0085】
B.油乳剤
本組成物中でのアジュバントとしての使用に適した油乳剤組成物はスクアレン-水乳剤を含む。特に好ましいアジュバントはサブミクロンの水中油型乳剤である。本明細書で使用するための好ましいサブミクロンの水中油型乳剤は、任意で4〜5% w/vスクアレン、0.25〜1.0% w/v Tween(商標)80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)、および/または0.25〜1.0% スパン(商標)85(ソルビタントリオレアート)を含むサブミクロン水中油型乳剤のような様々な量のMTP-PEを含み、任意で例えば「MF59」として公知であるサブミクロン水中油型乳剤であるN-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1'-2'-ジパルミトイル-s-n-グリセロ-3-ヒュードロキシホスホホリロリキシ)-エチルアミン(MTP-PE)(国際公開公報第90/14837号; 米国特許第6,299,884号および同第6,451,325号、ならびにOtt et al., "MF59-Design and Evaluation of a Safe and Potent Adjuvant for Human Vaccines" in Vaccine Design: The Subunit and Adjuvant Approach (Powell, M. F. and Newman, M. J. eds.) Plenum Press, New York, 1995, pp. 277-296)を含むスクアレン/水乳剤である。MF59は、4〜5% w/vスクアレン(例えば、4.3%)、0.25〜0.5% w/v Tween(商標)80、および0.5% w/v スパン(商標)85を含み、任意でモデル110Yミクロフルイダイザー(Microfluidics, Newton, Mass.)のようなミクロフルイダイザーを用いてサブミクロン粒子に製剤化された様々な量のMTP-PEを含む。例えば、MTP-PEは一回用量当たり約0〜500.μgの量、より好ましくは一回用量当たり0〜250.μg、最も好ましくは一回用量当たり0〜100μgの量で添加され得る。例えば、「MF59-100」は一回用量当たり100μg MTP-PEを含むなどである。本明細書での使用のためのもう一つのサブミクロン水中油型乳剤であるMF69は4.3% w/vスクアレン、0.25% w/v Tween(商標)80、および0.75% w/v スパン(商標)85を含み、任意でMTP-PEを含む。さらにもう一つのサブミクロン水中油型乳剤はSAFとしても公知であり、10%スクアレン、0.4% Tween(商標)80、5% Pluronic(商標)ブロックポリマーL121、およびthr-MDPを含むMF75であり、マイクロ流動化されてサブミクロン乳剤となる。MF75-MTPは、一回用量当たり100〜400μgのMTP-PEのように、MTPを含むMF75製剤を示す。
【0086】
サブミクロン水中油型乳剤、同懸濁液の作製方法、および組成物中で使用するためのムラミルペプチドのような免疫刺激物質は、国際公開公報第90/14837号ならびに米国特許第6,299,884号および同第6,451,325号に詳細に記載されている。
【0087】
完全フロイントアジュバント(CFA)および不完全フロイントアジュバント(IFA)も本組成物中でアジュバントとして用いることができる。
【0088】
C.サポニン製剤
サポニン製剤も本組成物中でアジュバントとして用いられ得る。サポニンは、広範囲の植物種の樹皮、葉、幹、根および花にも見出されるステロールグリコシドおよびトリテルペノイドグリコシドの異種グループである。シャボンの木(Quillaia saponaria Molina)の樹皮から単離されるサポニンはアジュバントとして広く試験が行われている。スミラックスオルナータ(Smilax ornata)(サルサパリラ)、シュッコンカスミソウ(Gypsophilla paniculata)(ブライダルベール)、およびサボンソウ(Saponaria officianalis)(カスミソウ)由来のサポニンも市販されている。サポニンアジュバント製剤は、免疫刺激複合体(ISCOM)のような液体製剤に加えてQS21のような精製された製剤を含む。
【0089】
サポニン組成物は、高速薄層クロマトグラフィー(HP-TLC)および逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を用いて精製されている。QS7、QS17、QS18、QS21、QH-A、QH-BおよびQH-Cを含む、これらの技術を用いた具体的精製画分が特定されている。一般的には、サポニンはQS21である。QS21の作製方法は米国特許第5,057,540号に開示されている。サポニン製剤はコレステロールのようなステロールも含み得る(国際公開公報第96/33739号を参照されたい)。
【0090】
サポニンおよびコレステロールの組み合わせを、免疫刺激複合体(ISCOM)と呼ばれる固有の粒子を形成するために用いることができる。ISCOMは、一般的にはホスファチジルエタノールアミンまたはホスファチジルコリンのようなリン脂質も含む。ISCOMには任意の公知のサポニンを用いることができる。好ましくは、ISCOMはQuil A、QHAおよびQHCの1つまたは複数を含む。ISCOMはEP0109942、W096/11711およびW096/33739においてさらに説明されている。任意で、ISCOMは追加の界面活性剤を含まないこともある。WO00/07621を参照されたい。
【0091】
サポニンベースのアジュバントの開発の総説については、Barr, et al., Advanced Drug Delivery Reviews (1998) 32:247-271に記載されている。Sjolander, et al., Advanced Drug Delivery Reviews (1998) 32:321-338も参照されたい。
【0092】
D.ビロソームおよびウイルス様粒子(VLP)
ビロソームおよびウイルス様粒子(VLP)も、本組成物と共にアジュバントとして使用することができる。これらの構造は、一般に、任意でリン脂質と組み合わせたまたはリン脂質と共に製剤化された、ウイルス由来の1つまたは複数のタンパク質を含む。それらは一般に非病原性、非複製性であり、一般にいかなる固有のウイルスゲノムも含まない。ウイルスタンパク質は組換え技術によって作製、またはウイルス全体から単離され得る。ビロソームまたはVLPでの使用に適したこれらのウイルスタンパク質には、インフルエンザウイルス(HAまたはNAなど)、B型肝炎ウイルス(コアまたはキャプシドタンパク質など)、E型肝炎ウイルス、麻疹ウイルス、シンドビスウイルス、ロタウイルス、口蹄疫ウイルス、レトロウイルス、ノーウォークウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス、HIV、RNAファージ、Qβ-ファージ(コートタンパク質など)、GAファージ、frファージ、AP205ファージ、およびTy(レトロトランスポゾンTyタンパク質p1など)が含まれる。VLPについては、WO03/024480、WO03/024481、ならびにNiikura et al., Virology (2002) 293:273-280;Lenz et al., Journal of Immunology (2001) 5246-5355;Pinto, et al., Journal of Infectious Diseases (2003) 188:327-338;およびGerber et al., Journal of Virology (2001) 75(10):4752-4760でさらに考察されている。ビロソームについては、例えば、Gluck et al., Vaccine (2002) 20:B10-B16でさらに考察されている。免疫増強再構成インフルエンザビロソーム(IRIV)は鼻腔内三価インフレキサル(INFLEXAL)(商標)製剤(Mischler & Metcalfe (2002) Vaccine 20 Suppl 5:B17-23)およびインフルバックプラス(INFLUVAC PLUS)(商標)製剤におけるサブユニット抗原送達系として用いられる。
【0093】
E.細菌性または微生物性誘導体
本組成物での使用に適したアジュバントは、次のような細菌性または微生物性誘導体を含む。
【0094】
(1)腸内細菌性リポ多糖類(LPS)の無毒性誘導体
このような誘導体には、モノホスホリル脂質A(MPL)および3-O-脱アシル化MPL(3dMPL)が含まれる。3dMPLは、3De-O-アシル化モノホスホリル脂質Aと4、5または6アシル化鎖の混合物である。3 De-O-アシル化モノホスホリル脂質Aの好ましい「小型粒子」の形態はEP 0 689 454に開示されている。3dMPLのこのような「小型粒子」は、0.22ミクロンの膜を介して濾過滅菌されるのに十分な小ささである(EP 0 689 454を参照されたい)。その他の無毒性LPS誘導体には、例えば、RC-529などのアミノアルキルグルコサミニドホスフェート誘導体のようなホノホスホリル脂質A模倣物が含まれる。Johnson et al. (1999) Bioorg. Med. Chem. Lett., 9:2273-2278を参照されたい。
【0095】
(2)脂質A誘導体
脂質A誘導体には、OM-174のような大腸菌(Escherichia coli)由来の脂質Aの誘導体が含まれる。OM-174については、例えば、Meraldi et al., Vaccine (2003) 21:2485-2491;およびPajak, et al,. Vaccine (2003) 21:836-842で記載されている。
【0096】
(3)免疫刺激オリゴヌクレオチド
アジュバントとしての使用に適した免疫刺激オリゴヌクレオチドは、CpGモチーフ(非メチル化シトシンおよびこれに続いてグアノシンを含みリン酸結合により連結した配列)を含むヌクレオチド配列を含む。パリンドロームまたはポリ(dG)配列を含む細菌性二本鎖RNAまたはオリゴヌクレオチドも免疫刺激性であることが示されている。
【0097】
CpGはホスホロチオエート修飾のようなヌクレオチド修飾/類似体を含み、二本鎖または一本鎖であり得る。任意で、グアノシンは2'-デオキシ-7-デアザグアノシンのような類似体と置換され得る。想定される類似置換の例として、Kandimalla, et al., Nucleic Acids Research (2003) 31(9): 2393-2400;W002/26757およびW099/62923を参照されたい。CpGオリゴヌクレオチドのアジュバント効果については、Krieg, Nature Medicine (2003) 9(7): 831-835;McCluskie, et al., FEMS Immunology and Medical Microbiology (2002) 32:179-185;W098/40100;米国特許第6,207,646号;米国特許第6,239,116号および米国特許第6,429,199号においてさらに考察されている。
【0098】
CpG配列は、GTCGTTまたはTTCGTTモチーフのようにTLR9に方向付けられ得る。Kandimalla, et al., Biochemical Society Transactions (2003) 31 (part 3): 654-658を参照されたい。CpG配列は、CpG-A ODNのようにTh1免疫応答の誘発に対して特異的であり得て、またはCpG-B ODNのようにB細胞応答の誘発に対してより特異的であり得る。CpG-AおよびCpG-B ODNについては、Blackwell, et al., J. Immunol. (2003) 170(8):4061-4068;Krieg, TRENDS in Immunology (2002) 23(2): 64-65およびW001/95935で考察されている。一般的には、CpGはCpG-A ODNである。
【0099】
一般的には、CpGオリゴヌクレオチドは、5'末端がレセプター認識のために接触可能なように構築される。任意で、2つのCpGオリゴヌクレオチド配列は「イムノマー」を形成するようにそれらの3'末端で接続し得る。例えば、Kandimalla, et al., BBRC (2003) 306:948-953;Kandimalla, et al., Biochemical Society Transactions (2003) 31 (part 3):664-658;Bhagat et al., BBRC (2003) 300:853-861およびW003/035836を参照されたい。
【0100】
(4)ADP-リボシル化毒素およびその無毒化誘導体
細菌性のADPリボシル化毒素およびその無毒化誘導体は本組成物においてアジュバントとして使用され得る。一般的には、このタンパク質は大腸菌(即ち、大腸菌熱不安定エンテロトキシン「LT」)、コレラ(「CT」)または百日咳(「PT」)から誘導される。無毒化されたADPリボシル化毒素の粘膜アジュバントとしての使用についてはWO95/17211に、また非経口的アジュバントについてはWO98/42375に記載されている。好ましくは、アジュバントは、LT-K63、LT-R72およびLTR192Gのような無毒化されたLT変異型である。ADPリボシル化毒素およびその無毒化誘導体、特にLT-K63およびLT-R72のアジュバントとしての使用は次の参考文献に記載されている:Beignon, et al., Infection and Immunity (2002) 70(6):3012-3019;Pizza, et al., Vaccine (2001) 19:2534-2541;Pizza, et al., Int. J. Med. Microbiol. (2000) 290(4-5):455-461;Scharton-Kersten et al., Infection and Immunity (2000) 68(9):5306-5313;Ryan et al., Infection and Immunity (1999) 67(12):6270-6280;Partidos et al., Immunol. Lett. (1999) 67(3):209-216;Peppoloni et al., Vaccines (2003) 2(2):285-293;およびPine et al., J. Control Release (2002) 85(1-3):263-270。アミノ酸置換に関する数値への言及は、一般的には、Domenighini et al., Mol. Microbiol (1995) 15(6):1165-1167に記載されるADPリボシル化毒素のAおよびBサブユニットのアラインメントに基づく。
【0101】
F.生体接着剤および粘膜接着剤
生体接着剤および粘膜接着剤も本組成物中でアジュバントとして用いられ得る。適切な生体接着剤には、エステル型ヒアルロン酸ミクロスフェア(Singh et al. (2001) J. Cont. Rele. 70:267-276)、またはポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、多糖類およびカルボキシメチルセルロースの架橋結合した誘導体などの粘膜接着剤が含まれる。キトサンおよびその誘導体も組成物中でアジュバントとして用いられ得る。例えば、WO99/27960を参照されたい。
【0102】
G.粒子
微粒子およびナノ粒子(例えば、重合ナノ粒子)も組成物中でアジュバントとして用いられ得る。微粒子(一般的には、直径〜100nmから〜150μm、例えば、直径〜200nmから〜30μm、または直径〜500nmから〜10μmなどの粒子)およびナノ粒子(一般的には、〜10nmから〜1000nm、例えば、直径〜10nmから〜100nm、直径〜20nmから〜500nm、または直径〜50nmから〜300nmなどの粒子)は、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)と共に、生分解性および無毒の材料(例えば、ポリ(α-ヒドロキシ酸)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリカプロラクトンなど)から形成することができる。任意で、(例えば、SDSを用いて)負に荷電した表面または(例えば、CTABのような陽イオン性界面活性剤を用いて)正に荷電した表面を持つように粒子を操作してもよい。高濃度の薬剤を所望の位置に送達するように、特異性に関して粒子を操作することができる。例えば、Matsumoto et al., Intl. J, Pharmaceutics, 185:93-101,1999;Williams et al., J. Controlled Release, 91:167-172, 2003;Leroux et al., J, Controlled Release, 39:339-350, 1996;Soppimath et al., J. Controlled Release, 70:1-20, 2001;Chawla et al., Intl. J. Pharmaceutics, 249:127-138,2002;Brannon-Peppas, Intl. J. Pharmaceutics, 116, 1-9, 1995;Bodmeier et al., Intl. J. Pharmaceutics, 43:179-186, 1988;Labhasetwar et al., Adv. Drug Delivery Reviews, 24:63-85,1997;Pinto-Alphandary et al., Intl. J. Antimicrobial Agents, 13:155-168, 2000;Potineni et al., J. Controlled Release, 86:223-234, 2003;Kost et al., Adv. Drug Delivery Reviews, 46:125-148, 2001;およびSaltzman et al., Drug Discovery, 1:177-186,2002を参照されたい。
【0103】
粒子、好ましくはナノ粒子は、ミクロンのサイズスケールの構造凝集物に構築され得て、親油性および/または親水性分子(通常は、薬学的な「賦形剤」)の混合物からなるシェルまたはマトリックスを有する。ナノ粒子は前記の方法で形成することができて、細胞材料を粒子の本体として、粒子の表面に、または粒子に内包して組み入れることができる。凝集粒子のシェルまたはマトリックスは、脂質、アミノ酸、糖、高分子のような薬学的な賦形剤を含むことができて、核酸ならびに/またはペプチドおよび/もしくはタンパク質、ならびに/または小分子抗原を組み入れることもできる。抗原性材料の組み合わせも用いることができる。これらの凝集粒子は次の方法で形成することができる。
【0104】
米国特許出願2004/0062718は、ワクチンとしての使用のための多孔性ナノ粒子凝集粒子(PNAP)の作製方法を説明している。抗原はナノ粒子を構成する、ナノ粒子の表面に結合する、またはナノ粒子内に内包されることによってナノ粒子と会合することが可能であり、またはこれを微粒子のシェル内に組み入れることが可能であり、これは従って、液性および細胞性免疫の双方を惹起する。PNAPを作製するその他の例示的方法は、Johnson and Prud'homme, Austral. J. Chem., 56:1021-1024, 2003に記載されている。
【0105】
これらの粒子は、Edwards, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 19:12001-12005, 2002が記載したように、より小さなサブユニットの粒子からなるより大きな粒子を形成するために凝集する(それらは、大型粒子の重要な特徴も維持しつつ、それらの小型のサブユニットの固有の特性を維持するのでトロヤ粒子と呼ばれる)。作用物質は、サブユニットの粒子内またはより小さな粒子凝集物から作られるより大きな粒子内に内包され得る。
【0106】
粒子は吸入に適した乾燥粉末の形とすることができる。特定の態様において、粒子は約0.4g/cm3未満のタップ密度を持つことができる。約0.4g/cm3未満のタップ密度を持つ粒子は、本明細書では「空気力学的軽粒子」と呼ばれる。約0.1g/cm3未満のタップ密度を持つ粒子がより好ましい。空気力学的軽粒子は、好ましいサイズ、例えば、少なくとも約5ミクロンの幾何学的体積中位粒径(volume median geometric diameter;VMGD)を有する。一つの態様において、VMGDは約5ミクロンから約30ミクロンまでである。もう一つの態様において、粒子は約9ミクロンから約30ミクロンの範囲のVMGDを有する。その他の態様において、粒子は、少なくとも5ミクロン、例えば約5ミクロンから約30ミクロンまでの中位径、質量中位径(MMD)、質量中位外被径(MMED)、または幾何学的質量中位径(MMGD)を有する。空気力学的軽粒子は、好ましくは、約1ミクロンから約5ミクロンの、本明細書において「空気力学的径」とも記載される「空気力学的質量中位径(MMAD)」を有する。一つの態様において、MMADは約1ミクロンから約3ミクロンまでである。もう一つの態様において、MMADは約3ミクロンから約5ミクロンまでである。
【0107】
もう一つの態様において、粒子は約0.4g/cm3未満の、本明細書において「質量密度」とも記載される外被質量密度を有する。等方性粒子の外被質量密度は、粒子の質量をそれが含まれることができる最小球形外被体積で割った値として定義される。
【0108】
タップ密度は、Dual Platform Microprocessor Controlled Tap Density Tester(Vankel, N.C.)またはGeopyc(商標)装置(Micrometrics Instrument Corp., Norcross, Ga. 30093)のような当業者に公知の装置を用いることによって測定することができる。タップ密度は外被質量密度の標準的な基準である。タップ密度は、USP Bulk Density and Tapped Density, United States Pharmacopia convention, Rockville, Md., 10th Supplement, 4950-4951,1999の方法を用いて求めることができる。低タップ密度に寄与し得る特徴には、不規則な表面構造および多孔性構造が含まれる。
【0109】
粒子の直径、例えば、それらのVMGDは、Multisizer IIe、(Coulter Electronic, Luton, Beds, England)またはレーザー回折装置(例えば、Holes、Sympatec, Princeton, N.J.製)のような電気的ゾーン感知装置を用いて測定することができる。粒径を測定するためのその他の装置は当技術分野において周知である。試料中の粒子の直径は、粒子組成物および合成法のような要因によって変動する。試料中の粒子サイズの分布は、呼吸器内部の標的部位内での至適沈着を可能とするように選択することができる。
【0110】
粒子は、肺深部または気道上部もしくは中央部などの呼吸器の特定の領域への局所的な送達のために、適切な材料、表面粗度、直径およびタップ密度で作製することができる。例えば、高密度または大きな粒子が上部気道送達のために用いられ得て、または同一もしくは異なる治療用物質を提供する試料中のサイズの異なる粒子の混合物は1回の投与で肺の異なる標的領域に投与することができる。中央部および上部気道への送達には、約3〜約5ミクロンの空気力学的直径を持つ粒子が好ましい。肺深部への送達には、約1〜約3ミクロンの空気力学的直径を持つ粒子が好ましい。
【0111】
エアロゾルの慣性嵌入および重力沈下は、正常な呼吸条件下での肺の気道および腺房における主な沈着機構である(Edwards, J. Aerosol Sci., 26:293-317,1995)。双方の沈着機構の重要性は、エアロゾルの質量に比例して増大し、粒子(または外被)の体積には比例しない。肺におけるエアロゾル沈着部位は(少なくとも、約1ミクロンを上回る平均空気力学的直径の粒子に関しては)エアロゾルの質量によって決定されることから、その他のすべての物理的パラメータが等しい場合は、粒子表面の不規則性および粒子の多孔度を増すことによってタップ密度を低下させることで肺へのより大きな粒子外被体積の送達が可能となる。
【0112】
肺における最大沈着を提供するために空気力学的直径を算出することができるが、これは、約5ミクロン未満の、好ましくは約1〜約3ミクロンの直径を有する極めて小さい粒子の使用によって予め達成され、それらはその後食作用に供される。より大きな直径を有するが十分に軽い(従って、「空気力学的に軽い」と特徴づけられる)粒子の選択は肺への同等の送達をもたらすが、大きな粒子は貪食されない。改善された送達は、滑らかな表面を持つ粒子に比して粗いまたは不均一な表面を持つ粒子を使用することによって得ることができる。
【0113】
所定のサイズ分布を有する粒子試料を提供するために、例えば、濾過または遠心分離によって、適切な粒子を作製または分離することができる。例えば、試料中の約30%、50%、70%または80%を上回る粒子が少なくとも約5ミクロンの選択された範囲内の直径を持つことができる。特定のパーセントの粒子が収まるべき選択された範囲は、例えば、約5〜約30ミクロンであり、または任意で約5〜約15ミクロンであってもよい。一つの好ましい態様において、粒子の少なくとも一部は約9〜約11ミクロンの直径を有する。任意で、少なくとも約90%、または任意で約95%もしくは約99%が選択された範囲内の直径を持つ粒子試料を作製することもできる。粒子試料中に空気力学的に軽い、大きな直径の粒子がより高い割合で存在することは、それに組み入れられた治療用または診断用物質の肺深部への送達を促進する。直径の大きな粒子とは、一般に、少なくとも約5ミクロンの幾何学的中位径を持つ粒子を意味する。
【0114】
抗原提示細胞(「APC」)を標的とするための好ましい粒子は、APCによる貪食の限界である400nmの最小直径を有する。取り込みのために組織および標的細胞を介して輸送するための好ましい粒子は10nmの最小直径を有する。最終的な製剤は、肺送達に適しておりかつ室温で安定な乾燥粉末を形成し得る。
【0115】
H.リポソーム
アジュバントとしての使用に適したリポソーム製剤の例は、米国特許第6,090,406号、同第5,916,588号、およびEP 0 626 169に記載されている。
【0116】
I.ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステル製剤
本組成物中での使用に適したアジュバントはポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステルを含む。例えば、WO99/52549を参照されたい。このような製剤は、オクトキシノールのような少なくとも一つの追加の非イオン性界面活性剤と組み合わせたポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはエステル界面活性剤(WO01/21152)と同様に、オクトキシノールと組み合わせたポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(WO01/21207)をさらに含むことができる。好ましいポリオキシエチレンエーテルは次の群より選択される:ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル(ラウレス9)、ポリオキシエチレン-9-ステオリルエーテル、ポリオキシエチレン-8-ステオリルエーテル、ポリオキシエチレン-4-ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン-35-ラウリルエーテル、およびポリオキシエチレン-23-ラウリルエーテル。
【0117】
J.ポリホスファーゼン(PCPP)
PCPP製剤は、例えばAndrianov et al., Biomaterials (1998) 19(1-3):109-115およびPayne et al., Adv. Drug. Delivery Review (1998) 31(3):185-196に記載されている。
【0118】
K.ムラミルペプチド
アジュバントとしての使用に適したムラミルペプチドの例には、N-アセチル-ムラミル-L-スレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、N-アセチル-ノルムラミル-1-アラニル-d-イソグルタミン(nor-MDP)、およびN-アセチルヌラミル-1-アラニル-d-イソグルタミニル-1-アラニン-2-(1'-2'-ジパルミトイル-s-n-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリロキシ)-エチルアミンMTP-PE)が含まれる。
【0119】
L.イミダゾギノリン化合物
本組成物においてアジュバントとしての使用に適したイミダゾキノリン化合物の例にはイミキモドおよびその類似体が含まれて、Stanley, Clin. Exp. Dermatol. (2002) 27(7):571-577;Jones, Curr. Opin. Investig. Drugs (2003) 4(2):214-218;ならびに米国特許第4,689,338号、同第5,389,640号、同第5,268,376号、同第4,929,624号、同第5,266,575号、同第5,352,784号、同第5,494,916号、同第5,482,936号、同第5,346,905号、同第5,395,937号、同第5,238,944号、および同第5,525,612号においてさらに詳細に記載されている。
【0120】
M.チオセミカルバゾン化合物
チオセミカルバゾン化合物の例、ならびに組成物中でのアジュバントとしての使用に適したすべての化合物に関する製剤化、製造およびスクリーニングの方法には、WO04/60308に記載されたものが含まれる。チオセミカルバゾンは、TNF-αのようなサイトカインの作製のためにヒト末梢血単核細胞の刺激に特に有効である。
【0121】
N.トリプタントリン化合物
トリプタントリン化合物の例、ならびに組成物中でのアジュバントとしての使用に適したすべての化合物に関する製剤化、製造およびスクリーニングの方法には、WO04/64759に記載されたものが含まれる。トリプタントリン化合物は、TNF-αのようなサイトカインの作製のためにヒト末梢血単核細胞の刺激に特に有効である。
【0122】
O.ヒト免疫調節物質
本組成物中でのアジュバントとしての使用に適したヒト免疫調節物質には、インターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-12など)のようなサイトカイン、インターフェロン(例えば、インターフェロン-γ)、マクロファージコロニー刺激因子、および腫瘍壊死因子が含まれる。
【0123】
本組成物は、上記に明記されるアジュバントの1つまたは複数の局面の組み合わせも含み得る。例えば、次のアジュバント組成物が本発明において用いられ得る:
(1)サポニンおよび水中油型乳剤(WO99/11241);
(2)サポニン(例えば、QS21)+無毒性LPS誘導体(例えば、3dMPL)(WO94/00153を参照されたい);
(3)サポニン(例えば、QS21)+無毒性LPS誘導体(例えば、3dMPL)+コレステロール;
(4)サポニン(例えば、QS21)+3dMPL+IL-12(任意で、+ステロール)(WO98/57659);
(5)3dMPLと、例えばQS21および/または水中油型乳剤の組み合わせ(欧州特許出願0835318、0735898および0761231を参照されたい);
(6)マイクロ流動化されてサブミクロン乳剤となるか、またはボルテックスされてより大きな粒子サイズの乳剤を産生するかのいずれかである、10%スクアラン、0.4% Tween(商標)80、5% Pluronic(商標)-ブロックポリマーL121、およびthr-MDPを含む、SAF;
(7)2%スクアラン、0.2%Tween(商標)80、ならびにモノリン脂質A(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)および細胞壁骨格(CWS)、好ましくはMPL+CWS(Detox(商標))からなる群の1つまたは複数の細菌細胞壁成分を含むRibi(商標)アジュバントシステム(RAS)(Ribi Immunochem);
(8)(アルミニウム塩のような)1つまたは複数の鉱物塩+(3dPMLのような)LPSの無毒性誘導体;および
(9)(アルミニウム塩のような)1つまたは複数の鉱物塩+(CpGモチーフを含むヌクレオチド配列のような)免疫刺激性オリゴヌクレオチド。
【0124】
アルミニウム塩およびMF59は注射可能ワクチンと使用するための典型的なアジュバントである。細菌性毒素および生体接着剤は、経鼻または吸入ワクチンのように、経粘膜により送達されるワクチンとの使用のための典型的アジュバントである。粘膜ワクチンのために有用なその他のアジュバントは、例えば、Stevceva and Ferrari, Curr. Pharm. Des., 11:801-11,2005、およびCox et al., Vet. Res., 37:511-39, 2006において考察されている。
【0125】
実施例
実施例1:スメグマ菌の懸濁液の噴霧乾燥
賦形剤を使用せずに細胞形態を噴霧乾燥すると粉末の水分が多すぎて作製または加工できないことを説明するため、スメグマ菌をモデル微生物として使用した。乾燥粉末は、注入温度、流量、および賦形剤濃度をすべて制御したBuchi(登録商標)ミニスプレードライヤーB290(Brinkmann Instruments, Westbury, NY)を用いて噴霧乾燥により形成された。
【0126】
微生物は、賦形剤を添加せずに噴霧乾燥された。精製スメグマ菌の溶液をPBS-Tween(登録商標)80で洗って、細菌濃度 3×108CPU/mLにて90mLの水に再懸濁した。19.5℃および湿度 48%の環境条件において、スメグマ菌溶液を注入温度130℃、流出温度 50℃、流量 22mL/分にて噴霧乾燥した。細菌凝集塊は噴霧乾燥装置シリンダー内で凝集して、粉末としてシリンダーから放出することができなかった。噴霧乾燥装置内で採取された材料は湿っていて、加工はほとんど不可能であった。
【0127】
実施例2:ロイシンを用いたスメグマ菌の噴霧乾燥
比較的少量の賦形剤は適切な乾燥粉末に至らないことを説明するために、ロイシンをモデル賦形剤として用いてスメグマ菌を噴霧乾燥した。乾燥した溶液は、溶液400mLについて、4mg/mLのロイシン溶液 80%(重量あたり)および3×109CFU/mLのスメグマ菌懸濁液 20%から構成された。溶液は、スプレーノズルへの到達直前にインラインで混合した。20℃および湿度 69%の環境条件において、注入温度150℃、流出温度 60℃、流量 8mL/分にて溶液を噴霧乾燥した。平均液滴サイズは50〜60ミクロンと推定された。この過程は噴霧乾燥装置のサイクロンを介して生成物を作製したが、生成物は過度に湿っていて収量が低かった。生存可能な細菌を含む黄色粉末が得られた(図3)。しかし、この粉末は凝集して、不満足な流動特性を示した。
【0128】
実施例3:高濃度ロイシンを用いたスメグマ菌の噴霧乾燥
ロイシンのような賦形剤の高濃度によって良好な噴霧乾燥粉末を得ることができて、賦形剤の濃度が高くても生物体の生存可能性は上昇する。この場合も、4mg/mLのロイシン溶液の90%および95%を3×109CFU/mLのスメグマ菌懸濁液の10%および5%と混合することによって400ml溶液を調製した。同じく、溶液はスプレーノズルへの到達直前にインラインで混合した。20℃および湿度 69%の環境条件において、注入温度150℃、流出温度 55℃、流量 8mL/分にて溶液を噴霧乾燥した。平均液滴サイズは50〜60ミクロンと推定された。
【0129】
表1は噴霧乾燥の結果を示す。すべての場合において、噴霧乾燥により、高い生成物収量の、エアロゾル拡散に適した生存可能な白色微粉末が得られた。生存可能性は、ハイグロマイシンを添加した7H9寒天平板培地でのコロニー形成単位として測定された。95:5(ロイシン:スメグマ菌)粉末では90:10粉末に比して著しく高い生物体生存可能性(約20〜80倍)が観察されて(図4)、噴霧乾燥中の微生物保護に対する添加される賦形剤の重要性を示す。水分含有量は粉末の全体的な外観に基づいて求められる。水分含有量の定量的解析には、熱重量測定法(TGA)が用いられる。図5は、90:10のロイシン:スメグマ菌を用いて噴霧乾燥された、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するスメグマ菌を示す蛍光顕微鏡写真である。この顕微鏡写真は、粉末の粒子の一部のみが蛍光スメグマ菌(緑色)を含むことを示す。
【0130】
(表1)ロイシンを用いたスメグマ菌の噴霧乾燥

【0131】
表1の生成物収量は、噴霧した溶液中の溶質の質量に対する最終生成物の質量の割合として求められる。最終生成物の質量には、粉末中の任意の残留水分が含まれる。一般的には、ある程度の質量は乾燥装置に付着して回収不能である。
【0132】
実施例4:マンニトールを用いたスメグマ菌の噴霧乾燥
微生物の噴霧乾燥がその他の賦形剤を用いて実施できることを実証するために、糖であるマンニトールを用いてさらなる実験が実施された。溶液200mL中に10mg/mLのマンニトール溶液 95%および3×109CFU/mLのスメグマ菌懸濁液 5%からなる賦形剤溶液を噴霧ノズルへの到達直前にインラインで混合することによって作製した。21.9℃および湿度 63%の環境条件において、注入温度145℃、流出温度 55℃、流量 12mL/分にて溶液を噴霧乾燥した。平均液滴サイズは50〜60ミクロンと推定された。噴霧乾燥により、50%の生産物収量にて生存可能な細菌を含むエアロゾル拡散に適した生存可能な白色微粉末が得られた。
【0133】
実施例5:乾燥スメグマ菌の保存中の生存可能性
噴霧乾燥したスメグマ菌の保存期間中の生存可能性を調べるために、実施例3の通りに噴霧乾燥を行って、得られた粉末を密閉容器に入れて4℃、25℃および40℃にて1〜2週間、保存した。生存可能性はプレート上でのコロニー形成単位として測定された。95:5のロイシン:スメグマ菌粉末は4℃または25℃での1週間保存後に実質的な生存可能性を維持したが、40℃での保存後には有意に生存可能ではなかった。90:10のロイシン:スメグマ菌粉末は4℃での1週間保存後に生存可能性を保持したが、これよりも高い温度では生存可能ではなかった。95:5ロイシン:スメグマ菌粉末の25℃での1週間保存後の電子顕微鏡写真を図6に示す。
【0134】
実施例6:凍結保護物質を用いた噴霧乾燥のモデリング
噴霧乾燥の際に賦形剤を導入する様式が生存可能性の保持において重要な要因として機能し得ることを示すために、3つの異なる条件下での噴霧乾燥中における細胞材料の体積をモデル化するために式36を使用した:凍結保護物質なし、細胞の内側および外側で等濃度の凍結保護物質、ならびに細胞の外側よりも内側で高い濃度の凍結保護物質(図7)。目的は、膜のストレスが細胞内、細胞の外側、または細胞の両側のいずれにおいても凍結保護物質(賦形剤)の導入によって最小とされ得るパラダイムを示すことであった。
【0135】
モデリングはMathematica(登録商標)プログラム(Wolfram, Inc., Champaign, IL)を用いて実施した。3つのすべてのプロットについて、初期細胞半径(Rc(0))を1μmに設定し、初期液滴半径(Rd0)を25μmとし、相対細胞体積を時間に対してプロットした。Lpは1.0μm/(atm 分)に設定した;R気体は0.08205745867258821(atm L)/(K mol)に設定した;Tは295.15Kに設定した。3つのすべてのケースにおいて、k=-(KdLMTD)/(λρ1)(式33)。LMTDは、注入温度 500℃、流出温度 200℃、初期液滴温度 20℃、および最終液滴温度 65℃と設定して求めた。これらの値を式30に代入して、LMTD=((500℃-20℃)-(200℃-65℃))/(2.303*log10((500℃-20℃)/(200℃-65℃)))が得られた。Kdは0.02kcal/(m 時間℃)にて設定した:λは530kcal/kgに設定した;ρ1は1000kg/m3に設定した。細胞数(n細胞)は100とし、排除体積(V排除)は初期体積の0.46倍とした。

は10−6とした。
【0136】
凍結保護物質の濃度が細胞の内側よりも外側で低い図7の曲線(a)では、細胞外の塩の量(xes)を初期液滴体積(Vd0=4/3π(Rd0)3)の0.26M倍と設定し、細胞内の塩の量(xis)を初期液滴体積の0.26M倍と設定し、細胞外の凍結保護物質の量(xecp)を0molとし、細胞内凍結保護物質の濃度(Cicp(0))を1Mとした。曲線(a)を求めるために、これらの条件を用いて式36を時刻0から0.105秒まで評価した。
【0137】
細胞の外側または内側に凍結保護物質が存在しない図7の曲線(b)では、細胞外および細胞内の塩の量(xesおよびxis)をそれぞれ初期液滴体積の0.26M倍と設定した。細胞内凍結保護物質の量(xecp)および濃度(Cicp(0))は、それぞれ、0molおよび0Mとした。曲線(b)を求めるために、これらの条件を用いて式36を時刻0から0.105秒まで評価した。
【0138】
細胞内の凍結保護物質の濃度が細胞外の凍結保護物質の濃度と等しい図7の曲線(c)では、細胞外および細胞内の塩の量(xesおよびxis)を初期液滴体積の0.26M倍とした。細胞の内側(Cicp(0))および外側の凍結保護物質の濃度を1Mと設定して、細胞外凍結保護物質の量(xecp)は初期液滴体積の1M倍とした。曲線(c)を求めるために、これらの条件を用いて式36を時刻0から0.105秒まで評価した。
【0139】
これらの結果は、凍結保護物質賦形剤の導入の方法によって極めて異なる体積偏差(または膜ストレス)特性が得られることを示す。この洞察から、細胞活性の消失を最小とする細胞形態を噴霧乾燥するための方法を導くことができる。
【0140】
実施例7:スメグマ菌を用いて膜浸透圧ストレスを最小とすることによる細胞生存可能性の最適化
膜ストレスの最小化がどのようにして乾燥した細胞生存可能性を向上させ得るかを説明するために、実施例3の通り、4mg/mLのロイシン溶液 95%を3×109CFU/mLのスメグマ菌懸濁液 5%と混合することによって400mlの溶液を調製した。但し、この場合はスメグマ菌懸濁液にグリセロールを添加しなかった。これらの同一の溶液も、前述のすべての実施例で用いられた蒸留水の代わりに等張生理食塩液(0.9%NaCl)を用いて、グリセロールを添加せずに噴霧乾燥した。この場合も、溶液はスプレーノズルへの到達直前にインラインで混合した。20℃および湿度 69%の環境条件において、溶液は注入温度150℃、流出温度 55℃、流量 8mL/分にて噴霧乾燥した。平均液滴サイズは50〜60ミクロンと推定された。
【0141】
(表2)グリセロールを用いた場合および用いない場合の95:5(スメグマ菌/ロイシン)の噴霧乾燥

【0142】
表2は、グリセロールを用いた場合および用いない場合の95:5 ロイシン/スメグマ菌混合物における噴霧乾燥の結果を示す。すべての場合において、噴霧乾燥により、高い生成物収量の、エアロゾル拡散に適した生存可能な白色微粉末が得られた。生存可能性は、ハイグロマイシンを添加した7H9寒天平板培地でのコロニー形成単位として測定された。グリセロールを用いない場合は、95:5(ロイシン:スメグマ菌)粉末についてグリセロールを用いた場合よりも著しく高い微生物生存可能性が認められた。95:5(ロイシン:スメグマ菌)混合物をグリセロールを添加せずに0.9%等張生理食塩液を添加して噴霧乾燥した場合は、グリセロールおよび生理食塩液を添加しなかった95:5(ロイシン:スメグマ菌)に比して低い細胞生存可能性が認められ(図8)、噴霧乾燥中に微生物を保護するためには噴霧乾燥溶液から浸透圧の点で活性な物質を除去することが重要であることを示している。
【0143】
これらの結果は、細胞材料の懸濁液の乾燥中に凍結保護物質または塩が存在することは細胞膜に対する有意なストレスを招いて、恐らく噴霧乾燥中の細胞死のために、生存可能性の低下を引き起こし得るという実施例6の予測を追認するものである。
【0144】
実施例8:スメグマ菌の高生存可能性を伴う噴霧乾燥粉末における高い細胞含有量
噴霧乾燥細胞の高い生存可能性の保持が噴霧乾燥粉末中の自由水の減少を招き、従って高い細胞含有量に至り得ることを説明するために、実施例7の通り、グリセロールの非存在下及び塩の非存在下で、4mg/mLのロイシン溶液 90%、50%、40%、30%、20%および10%を3×109CFU/mLのスメグマ菌懸濁液 10%、50%、60%、70%、80%および90%と混合して400mlの溶液を調製した。この場合も、溶液はスプレーノズルへの到達直前にインラインで混合した。20℃および湿度 69%の環境条件において、注入温度150℃、流出温度 55℃、流量 8mL/分にて溶液を噴霧乾燥した。平均液滴サイズは50〜60ミクロンと推定された。
【0145】
表9は噴霧乾燥後の生存可能性の結果を示す。前述の実施例と同様に、賦形剤の濃度が低下すると生存可能性が低下し、良好な細胞生存可能性には高レベルの賦形剤が必要であることが実証された。しかし、前述の実施例とは異なって、50%と低い賦形剤濃度において優れた生存可能性をもつ乾燥微粉末が得られた。これは、細胞完全性が維持される場合、および/または、グリセロールの場合のように液体を室温に維持する添加物が使用されない場合は、(90%未満の)低濃度の賦形剤が良好な結果を示し得ることを表すと思われる。生存可能性はハイグロマイシンを添加した7H9寒天平板培地上でのコロニー形成単位として測定されて、結果は各割合につき4回の反復試験で示される。
【0146】
これらの結果は、凍結保護物質の排除によって低い賦形剤濃度での細胞生存可能性が上昇したことを示している。
【0147】
実施例9:スメグマ菌を用いた噴霧乾燥粉末の貯蔵寿命安定性
乾燥後、凍結しなくても細胞の生存可能性を一定期間維持できることを説明するために、実施例8において50:50および95:5ロイシン:スメグマ菌を用いて調製された粉末を4℃、25℃および40℃のバルク保存条件に置いて、生存可能性をハイグロマイシン加7H9寒天平板培地上のコロニー形成単位として測定した。
【0148】
図10および11は2粉末の生存可能性の結果を時間の関数として示す。生存可能性は数カ月間維持され、最も急激な生存可能性の低下は最初の3カ月間であり、これよりも長い期間には生存可能性は安定していた。4℃の条件で保存された粉末は、3カ月を超えて当初の生存可能性の1/10よりも高い生存可能性を維持した。25℃の条件で保存された粉末は送達に最適な閾値106を上回る生存可能性を維持して、40℃の条件で保存された粉末は2カ月間、生存可能性を維持した。50:50および95:5の粉末間の経時的にの生存可能性の差は、水分含有量に影響する粉末内の細菌濃度の差に起因する可能性が高かった。
【0149】
実施例10:モノリン脂質Aを用いた安定性の影響
親油性物質であるモノリン脂質A(MpLA)の噴霧乾燥スメグマ菌の安定性に対する影響について調べた。油性の被膜がより長期の時点での生存可能性を高めるために細菌内の内部水保持の方法として用いることができるかどうかを明らかにするための実験が実施された。スメグマ菌は、上記のように、4g/mlロイシン溶液 95%およびスメグマ菌懸濁液 5%を0.25% MpLAと共に用いて噴霧乾燥した。溶液は、注入温度 124℃、流出温度 45℃で噴霧乾燥した。環境条件は31.6℃、相対湿度 34%であった。これらの条件で66%の物質収量が得られた。
【0150】
図12Aおよび12Bに示す通り、MpLAで処理した細菌は16週間の期間を通してMpLA未処理細菌に対して比較的生存可能性を維持することができた。生存可能性は1年までの保存期間後に測定される。
【0151】
実施例11:様々な界面活性剤の影響
生存可能性に影響することなく多くの分散剤を用いて前述の結果を得ることができることを説明するために、0.05%チロキサポール(前述の実施例で用いられた分散剤)を0.05%および0.1%Pluronic(商標)-F68と共に用いて、95:5および50:50のスメグマ菌製剤を調製した。これらの実験の結果を図13に示す。これらのPluronic(商標)-F68の使用は、チロキサポールを用いて作製された粉末に比して、得られる粉末の生存可能性に有意な影響を及ぼさなかった。
【0152】
実施例12:ウシ型結核菌BCGを用いた噴霧乾燥粉末の貯蔵寿命安定性
本発明者らの結論のワクチン生物体に対する適応性を説明するために、本発明者らはウシ型結核菌BCGを用いて同様の実験を実施した。本発明者らは塩または凍結保護物質を使用せずに実施例3と同一の手順を用いて、95:5のロイシン:ウシ型結核菌BCG粉末を調製して、乾燥した材料を4℃、25℃および40℃のバルク貯蔵条件におき、生存可能性を7H9寒天平板培地上でのコロニー形成単位として測定した。図14は、2種の粉末についての生存可能性の結果を3カ月後までの時間の関数として示す。4℃の条件で保存した粉末は、3カ月の保存期間を通して当初の生存可能性をほぼ維持した。25℃の条件で保存した粉末は同等の生存可能性を維持したが、3カ月の時点で若干の低下が認められた。これらの生存可能性の結果は、図9および10におけるスメグマ菌について示した結果と同様である。
【0153】
実施例13:哺乳動物細胞の噴霧乾燥
膜浸透圧ストレスを最小限とした高ロイシン濃度製剤が細菌以外の細胞にも応用可能であることを示すために、本発明者らは、培養NIH 3T3マウス胎児線維芽細胞および初代回収ラット心線維芽細胞を用いて実験を行った。
【0154】
本発明者らは次の3つの製剤を調製した:本発明者らは、蒸留水1ml当たり1000000個の線維芽細胞および1ml当たり4mgのロイシンを30/70、50/50および70/30のロイシン溶液/細胞溶液の体積/体積比で懸濁した。本発明者らは、これらの製剤をスメグマ菌を用いた実施例3と同様の条件で噴霧乾燥した。
【0155】
すべての実験は、初代回収ラット心線維芽細胞およびNIH 3T3マウス胎児線維芽細胞が噴霧乾燥過程に生残する能力において概ね等しいことを示している。ロイシンの高濃度は噴霧乾燥時の生存可能性を高めると思われる;しかし、線維芽細胞の細胞膜は細菌の膜よりも剛性が低く、細胞内の浸透圧の面で活性な物質によって生じる浸透圧ストレスに対してより感受性であることを考えると、PBS(表3)または「タイロード」液(表4)中で細胞を噴霧乾燥することによって高い生存可能性および低い真の浸透圧ストレスが得られた。細胞およびロイシンはいずれもPBSまたはタイロードに懸濁して、30/70、50/50および70/30のロイシン溶液/細胞溶液の体積/体積比にて上記の通り噴霧乾燥した。後者について、噴霧乾燥後に生存可能なNIH 3T3マウス胎児線維芽細胞を回収して、図15に示すように噴霧乾燥1カ月後に観察した。
【0156】
(表3)リン酸緩衝生理食塩液(PBS)の製剤

【0157】
(表4)タイロード哺乳動物細胞外電解質溶液の製剤

【0158】
噴霧乾燥後、70/30、50/50および30/70の製剤から生存可能なNIH 3T3マウス胎児線維芽細胞および初代回収ラット線維芽細胞を回収して、プレートに播種した。図16および17は、噴霧乾燥後3および8日目の播種細胞を示す。これらの図は、賦形剤濃度(ロイシン濃度)が高ければ高いほど乾燥時に高い生存可能細胞数が得られることを示す。
【0159】
その他の態様
本発明の多くの態様が説明されている。それにも関わらず、本発明の趣旨および範囲内から逸脱することなく様々な変更が行われ得ることが理解されるであろう。従って、その他の態様は添付の特許請求の範囲の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】水に取り囲まれた細胞材料のモデルを表す図である。Rcは細胞の半径を示す。Ces、Cecp、CisおよびCicpは、それぞれ、細胞外の塩、細胞外の凍結保護物質、細胞内の塩および細胞内の凍結保護物質の濃度を示す。
【図2】図2Aは平行な膜の二次元像である。図2Bは凸状のプラトー境界部の二次元像である。
【図3】80:20のロイシン:スメグマ菌の噴霧乾燥生成物の電子顕微鏡写真である。
【図4】95:5のロイシン:スメグマ菌の噴霧乾燥生成物の電子顕微鏡写真である。
【図5】90:10のロイシン:スメグマ菌の噴霧乾燥生成物の蛍光顕微鏡写真である。用いられたスメグマ菌はGFPを発現し、顕微鏡写真において蛍光を示す。
【図6】25℃で1週間保存後の95:5 ロイシン:スメグマ菌の電子顕微鏡写真である。
【図7】以下の条件下での乾燥液滴における相対細胞体積(V/V0)を示す数的溶液のグラフである:(a)細胞外よりも細胞内の凍結保護物質の量が多い;(b)凍結保護物質なし;(c)細胞内および細胞外の凍結保護物質が等量。
【図8】同等の浸透圧ストレスの結果である噴霧乾燥したスメグマ菌の生存可能性に対するグリセロールおよび塩の影響を示すグラフである。
【図9】噴霧乾燥した粉末中の賦形剤(ロイシン)溶液のパーセントに対するスメグマ菌の生存可能性収量を示すグラフである。
【図10】50:50 ロイシン/スメグマ菌粉末における3つの保存条件での経時的にのスメグマ菌生存可能性収量を示す折れ線グラフである。
【図11】95:5 ロイシン/スメグマ菌粉末における3つの安定性条件での経時的にのスメグマ菌生存可能性収量を示す折れ線グラフである。示した結果は5回の実験の平均である。
【図12】図12Aおよび図12Bは、モノリン脂質Aを伴うまたは伴わない、95:5 ロイシン/スメグマ菌粉末における3つの安定性条件での経時的にのスメグマ菌生存可能性収量を示す折れ線グラフである。
【図13】界面活性剤であるチロキサポールおよびPluronic(商標)-F68の存在下で噴霧乾燥した95:5および50:50 ロイシン/スメグマ菌の生存可能性収量を示すグラフである。
【図14】2つの保存条件での経時的にのウシ型結核菌BCGの生存可能性収量を示す折れ線グラフである。
【図15】噴霧乾燥後1カ月の生存可能NIH 3T3マウス胎児線維芽細胞の顕微鏡写真である。
【図16】噴霧乾燥後3および8日目の初代回収ラット心線維芽細胞の一連の20倍位相差顕微鏡像である。
【図17】噴霧乾燥後3および8日目のNIH 3T3マウス胎児線維芽細胞の一連の20倍位相差顕微鏡像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥重量あたり約10%未満の水、細胞材料、および少なくとも約25%の賦形剤を含む、乾燥粉末。
【請求項2】
有意な量の塩または凍結保護物質を含まない、請求項1記載の乾燥粉末。
【請求項3】
細胞材料が細菌、ウイルス、真核微生物、哺乳動物細胞、膜結合型細胞小器官、リポソーム、膜ベースのバイオリアクター、または膜ベースの薬物送達系を含む、請求項1記載の乾燥粉末。
【請求項4】
細胞材料が細菌を含む、請求項3記載の乾燥粉末。
【請求項5】
1%を上回る細菌が生存可能である、請求項4記載の乾燥粉末。
【請求項6】
細菌がヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)またはスメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)の細菌である、請求項4記載の乾燥粉末。
【請求項7】
細菌がカルメット-ゲラン桿菌(Bacillus Calmette-Guerin)(BCG)の細菌である、請求項4記載の乾燥粉末。
【請求項8】
細胞材料が哺乳動物細胞を含む、請求項3記載の乾燥粉末。
【請求項9】
哺乳動物細胞が赤血球、幹細胞、顆粒球、線維芽細胞または血小板を含む、請求項8記載の乾燥粉末。
【請求項10】
細胞材料が生細胞を含む、請求項1記載の乾燥粉末。
【請求項11】
賦形剤がロイシン、マンニトール、トレハロース、デキストラン、ラクトース、ショ糖、ソルビトール、アルブミン、グリセロール、エタノールまたはそれらの混合物を含む、請求項1〜10のいずれか一項記載の乾燥粉末。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項記載の乾燥粉末を作製する工程;および
乾燥粉末を薬学的組成物へと製剤化する工程
を含む、薬学的組成物の調製法。
【請求項13】
薬学的組成物が吸入による投与のために製剤化される、請求項11記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1mg/mlの賦形剤および少なくとも105単位/mlの細胞材料を含む水溶液を提供する工程;ならびに
細胞材料を含み重量あたり約10%未満の水を有する乾燥粉末を作製するための条件下で、溶液を噴霧乾燥する工程
を含む、細胞材料を含む乾燥粉末を作製する方法。
【請求項15】
細胞材料が細菌、ウイルス、真核微生物、哺乳動物細胞、膜結合型細胞小器官、リポソーム、膜ベースのバイオリアクター、または膜ベースの薬物送達系を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
細胞材料が細菌を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
細菌がヒト型結核菌またはスメグマ菌の細菌である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
細菌がカルメット-ゲラン桿菌(BCG)の細菌である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
細胞材料が哺乳動物細胞を含む、請求項14記載の方法。
【請求項20】
哺乳動物細胞が赤血球、幹細胞、顆粒球、線維芽細胞または血小板を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
賦形剤がロイシン、マンニトール、トレハロース、デキストラン、ラクトース、ショ糖、ソルビトール、アルブミン、グリセロール、エタノールまたはそれらの混合物を含む、請求項14〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
乾燥粉末を薬学的組成物へと製剤化する工程をさらに含む、請求項14〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
請求項14〜22のいずれか一項記載の方法によって作製される、乾燥粉末。
【請求項24】
噴霧乾燥されるべき1単位の細胞材料の半径の初期値(Rc(0))を得る工程;
予想乾燥時間を調べる工程;
(i)噴霧乾燥装置の注入および流出気体温度の差(ΔT)、
(ii)平均液滴サイズ(Rd)、
(iii)溶媒の気化潜熱(λ)、
(iv)細胞材料の膜の凍結保護物質に対する水力学的透過率(Lp)、
(v)細胞外溶質のモル(xes)、
(vi)細胞内溶質のモル(xis)、
(vii)細胞外凍結保護物質のモル(xecp)、
(viii)凍結保護物質の初期細胞内濃度(Cicp(0))、および
(ix)細胞数(n細胞
のそれぞれについて数値を選択する工程;
数値を用いて式36

を評価する工程;ならびに
予想乾燥時間の間Rc(t)が最小〜最大の限度値内に維持されるならば、選択された数値の条件を用いて細胞材料を噴霧乾燥する工程
を含む、細胞材料を噴霧乾燥する方法。
【請求項25】
乾燥中の細胞材料に対する損傷が最小となるように数値が選択される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
細胞材料が細菌、真核微生物、哺乳動物細胞、膜結合型細胞小器官、リポソーム、膜ベースのバイオリアクター、または膜ベースの薬物送達系を含む、請求項24または25記載の方法。
【請求項27】
細胞材料が細菌を含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
細菌がヒト型結核菌またはスメグマ菌の細菌である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
細菌がカルメット-ゲラン桿菌(BCG)の細菌である、請求項27記載の方法。
【請求項30】
細胞材料が哺乳動物細胞を含む、請求項26記載の方法。
【請求項31】
哺乳動物細胞が赤血球、幹細胞、顆粒球、または血小板を含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
細胞材料の噴霧乾燥直前に細胞に凍結保護物質を添加する工程をさらに含む、請求項24〜31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
凍結保護物質が細胞の内側に添加される、請求項32記載の方法。
【請求項34】
凍結保護物質が細胞の外側に添加される、請求項32記載の方法。
【請求項35】
請求項25〜34のいずれか一項記載の方法によって作製される、乾燥粉末。
【請求項36】
噴霧乾燥された細胞材料を薬学的組成物へと製剤化する工程をさらに含む、請求項25〜34のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
少なくとも1mg/mlの賦形剤および少なくとも105コロニー形成単位/mlのミコバクテリウム(Mycobacterium)属の細菌を含む水溶液を提供する工程;ならびに
重量あたり約10%未満の水およびミコバクテリウム属の細菌を含む乾燥粉末を作製するための条件下で、溶液を噴霧乾燥する工程
を含む、重量あたり約10%未満の水およびミコバクテリウム属の細菌を含む乾燥粉末を作製する方法。
【請求項38】
水溶液が添加された塩または凍結保護物質を含まない、請求項36記載の方法。
【請求項39】
請求項36記載の方法によって作製される、乾燥粉末。
【請求項40】
乾燥粉末を薬学的組成物へと製剤化する工程をさらに含む、請求項37または38記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2009−508472(P2009−508472A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526276(P2008−526276)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/031580
【国際公開番号】WO2007/022053
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(507244910)プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ (18)
【Fターム(参考)】