説明

乾麺のクラック発生予測装置および分別システム

【課題】乾麺におけるクラックの発生を事前に予測することができる乾麺のクラック発生予測装置を提供する。
【解決手段】光源部1のハロゲンランプ4から発せられた光が円偏光フィルタ5で円偏光に変換されると共にコンデンサレンズ6で集光されて試料Sに照射され、試料Sを透過した光が対物レンズ7で平行光に変換された後、楕円偏光解析器8を通してCCDカメラ9に到達し、試料Sの複屈折性に起因して試料Sを透過する際に生じた位相差をコントラストに変換した位相差像がCCDカメラ9で取得される。位相差像のデータに基づき、予測部3で、試料Sが有する複屈折位相差量が計測されると共に計測された複屈折位相差量から試料S内の残留応力の大きさが評価され、評価された残留応力の大きさに応じて、試料Sにおけるクラック発生の有無が予測される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乾麺のクラック発生予測装置に係り、特に、パスタ等の乾麺におけるクラックの発生を予測する装置に関する。
また、この発明は、クラックの発生が予測された乾麺を分別する乾麺の分別システムにも関している。
【背景技術】
【0002】
一般に、パスタ等の乾麺は、その断面形状に対応する形状のノズル孔が形成されたダイスを用いて麺材料を押出成形した後、乾燥させることにより製造される。これらの乾麺は、それぞれの種類に応じた形状、色彩等を有しているが、製造ラインにおいて大量に乾麺を製造する際には、種々の要因により形状不良、色むら等を生じた欠陥品が発生することがある。
【0003】
そこで、製造工場から出荷される製品の品質向上のために、製造された乾麺の外観検査を行う装置が使用されている。例えば、特許文献1には、即席ラーメンのカラー画像を取得することにより形状異常、色彩異常を検査する検査装置が開示され、特許文献2には、CCDカメラでパスタを撮影して色彩異常を生じたパスタを検出する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−35675号公報
【特許文献2】特開2005−324101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2のように、乾麺の光学像を捉えることにより、製造された乾麺から外観異常を生じたものを検出することができる。
しかしながら、製造直後の外観には何ら異常が認められなかったにも関わらず、その後の時間の経過に伴って軸方向にクラックが発生する乾麺の存在が知られている。このようなクラックを生じる乾麺は、製品の見栄えを損なうこととなるが、製造直後にはクラックがまだ発生していないため、特許文献1および2に開示されているような装置を製造ラインに直結して外観検査を行っても、見つけることができなかった。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、乾麺におけるクラックの発生を事前に予測することができる乾麺のクラック発生予測装置を提供することを目的とする。
また、この発明は、このようなクラック発生予測装置でクラックの発生が予測された乾麺を分別する乾麺の分別システムを提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る乾麺のクラック発生予測装置は、乾麺に偏光を照射する光源部と、光源部から照射された偏光に対する乾麺の透過光に基づいて乾麺の位相差像を取得する撮像部と、撮像部で取得された位相差像に基づいて乾麺が有する複屈折位相差量を計測すると共に計測された複屈折位相差量から乾麺内の残留応力を評価して乾麺におけるクラック発生の有無を予測する予測部とを備えたものである。
【0008】
好ましくは、光源部は、ハロゲンランプと、ハロゲンランプからの光を円偏光に変換する円偏光フィルタと、円偏光フィルタで変換された円偏光を乾麺に集光するためのコンデンサレンズとを含み、撮像部は、乾麺からの光を平行光に変換する対物レンズと、対物レンズで変換された平行光から楕円偏光を解析するための楕円偏光解析器と、楕円偏光解析器を透過した光により乾麺の位相差像を取得するCCDカメラとを含んでいる。
また、予測部は、計測された複屈折位相差量に基づいて乾麺の軸方向の残留応力を演算し、演算された残留応力が所定のしきい値を超えた場合に乾麺にクラックが発生すると予測することができる。
【0009】
この発明に係る乾麺の分別システムは、乾麺を搬送する搬送手段と、搬送手段で搬送される乾麺におけるクラック発生の有無を予測する上記のクラック発生予測装置と、クラック発生予測装置でクラックの発生が予測された乾麺を搬送手段から分別する分別手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、撮像部が乾麺の位相差像を取得し、予測部がこの位相差像に基づいて乾麺が有する複屈折位相差量を計測すると共に複屈折位相差量から乾麺内の残留応力を評価するので、乾麺におけるクラックの発生を事前に予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に係る乾麺のクラック発生予測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】残留応力と複屈折との関係を模式的に示す図である。
【図3】時間が経過してもクラックが発生しなかったパスタを示し、(A)は位相差像、(B)は光学顕微鏡像を表す写真である。
【図4】時間の経過に伴ってクラックが発生したパスタを示し、(A)は位相差像、(B)は光学顕微鏡像を表す写真である。
【図5】実施の形態2に係る乾麺の分別システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に示す好適な実施の形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る乾麺のクラック発生予測装置の構成を示す。クラック発生予測装置は、乾麺からなる試料Sに対向して配置された光源部1を有し、試料Sを挟むように光源部1に対向して撮像部2が配置されている。さらに、撮像部2に予測部3が接続されている。
【0013】
光源部1は、試料Sに円偏光を照射するもので、ハロゲンランプ4と、ハロゲンランプ4から発せられた光を円偏光に変換する円偏光フィルタ5と、円偏光フィルタ5で変換された円偏光を試料Sに集光するためのコンデンサレンズ6を有している。円偏光フィルタ5は、干渉フィルタとポラライザと1/4波長板を順次光軸上に配列することで形成することができる。
【0014】
また、撮像部2は、光源部1から照射された円偏光に対する試料Sの透過光に基づいて試料Sの位相差像を取得するもので、試料Sを透過した光を平行光に変換する対物レンズ7と、対物レンズ7で変換された平行光から楕円偏光を解析するための楕円偏光解析器8と、楕円偏光解析器8を透過した光により試料Sの位相差像を取得するCCDカメラ9を有している。楕円偏光解析器8は、光軸上に配列された液晶光学素子とアナライザから形成されている。
【0015】
予測部3は、撮像部2により取得された位相差像に基づいて試料Sが有する複屈折位相差量を計測し、計測された複屈折位相差量から試料S内の残留応力を評価して試料Sにおけるクラック発生の有無を予測するものである。
【0016】
本発明者等は、種々の実験および検討を重ねた結果、ダイスに形成されたノズル孔から麺材料を押出成形してパスタ等の乾麺を製造する際に、図2に示されるように、乾麺に作用する軸方向の応力が残留応力として乾麺内に残り、この残留応力が所定量以上に大きくなると、時間の経過に伴って高い確率でクラックの発生につながることを見出した。
一般に、光学的に等方性の物質であっても、一方向に応力を受けると、複屈折性が発現し、応力が加えられた方向に振動成分を有する光の速度が低くなることが知られている。このため、図2に示されるように、軸方向の残留応力を有する乾麺に対し、軸方向に直角の振動面を有する偏光P1と軸方向の振動面を有する偏光P2を入射させると、残留応力の大きさに応じて乾麺内における偏光P2の伝搬速度が偏光P1の伝搬速度よりも低くなり、乾麺を透過した偏光P1と偏光P2の間に位相差が発生する。
【0017】
そこで、本発明者等は、この実施の形態1に係るクラック発生予測装置のように、光源部1から試料Sに円偏光を照射し、撮像部2で試料Sを透過した後の楕円偏光を解析して位相差像を取得し、予測部3で位相差像から試料Sが有する複屈折位相差量を計測して試料S内の残留応力の大きさを評価することにより、その後のクラック発生の有無を予測することができることに想到した。
【0018】
次に、図1に示した乾麺のクラック発生予測装置の動作について説明する。
まず、光源部1のハロゲンランプ4から発せられた光が円偏光フィルタ5で円偏光に変換されると共にコンデンサレンズ6で集光されて試料Sに照射される。試料Sを透過した光は、対物レンズ7で平行光に変換された後、楕円偏光解析器8を通してCCDカメラ9に到達する。これにより、試料Sの複屈折性に起因して試料Sを透過する際に生じた位相差をコントラストに変換した位相差像がCCDカメラ9で取得される。
【0019】
この位相差像のデータは、CCDカメラ9から予測部3に送られ、予測部3で、位相差像のデータに基づいて試料Sが有する複屈折位相差量が計測されると共に計測された複屈折位相差量から試料S内の残留応力の大きさが評価される。さらに、予測部3では、評価された残留応力の大きさが予め設定された所定のしきい値と比較され、残留応力の大きさが所定のしきい値以下である場合には、試料Sにクラックは発生しないという予測がなされ、一方、残留応力の大きさが所定のしきい値を超えている場合には、試料Sにクラックが発生するという予測がなされる。
【0020】
ここで、製造時から時間が経過してもクラックが発生しなかったパスタと、製造後にクラックが発生したパスタからなる2つの試料Sについてそれぞれ撮像部2で取得された位相差像を図3および図4に示す。
図3は、クラックが発生しなかったパスタを示すもので、(A)が位相差像、(B)は参考のために撮影された光学顕微鏡像を示す。位相差像には、複屈折性が発現されている兆候は見られず、光学顕微鏡像においても特に異常は見られない。
【0021】
これに対し、図4は、時間の経過に伴ってクラックが発生したパスタを示すもので、図3と同様に、(A)が位相差像、(B)が光学顕微鏡像である。光学顕微鏡像には明瞭に現れていないが、位相差像には、軸方向に沿って明らかにコントラストの異なる帯状部分を確認することができる。軸方向に沿った残留応力の存在により、帯状部分と他の領域との間で複屈折性が発現し、コントラストの差を形成しているものと思われる。このような残留応力に起因して、クラックの発生がもたらされる。
【0022】
以上のように、撮像部2が試料Sの位相差像を取得し、予測部3が位相差像に基づいて試料Sが有する複屈折位相差量を計測すると共に複屈折位相差量から試料S内の残留応力を評価するので、試料Sにおけるクラックの発生を事前に予測することが可能となる。
なお、複屈折位相差量は、偏光が透過する試料Sの厚さにも影響を受けるので、試料Sの厚さが異なる場合には、それに伴って、残留応力の大きさを比較するための所定のしきい値の値を調整することが好ましい。
【0023】
実施の形態2
図5に実施の形態2に係る乾麺の分別システムの構成を示す。分別システムは、試料Sを搬送する搬送コンベヤ11と、この搬送コンベヤ11を駆動する搬送コンベヤ駆動部12を有しており、搬送コンベヤ11の上方に、試料Sを1本ずつ搬送コンベヤ11上に供給するフィーダー13が配置されている。搬送コンベヤ11による搬送方向に対して、フィーダー13の下流側に、実施の形態1に示した乾麺のクラック発生予測装置が配置されている。クラック発生予測装置の光源部1が搬送コンベヤ11の下方に位置し、搬送コンベヤ11の上方には、光源部1に対向するように撮像部2が配置され、撮像部2に予測部3が接続されている。
なお、搬送コンベヤ11のコンベヤベルトは、光源部1からの光を透過するように透光性を有すると共に光学的に等方性の材料から形成されている。
【0024】
搬送コンベヤ11の下流側には、載置された試料Sが滑落するような傾斜を有するシュート14が配置され、さらに、シュート14の下流側に、製品としての試料Sを排出する排出コンベヤ15が配置され、排出コンベヤ15に排出コンベヤ駆動部16が接続されている。
また、シュート14は、傾斜角がさらに大きくなるように回動可能に取り付けられており、このシュート14を回動させるためのシュート駆動部17がシュート14に接続され、シュート14の下方には、異常品と判定された試料Sを回収する回収部18が配置されている。
【0025】
そして、クラック発生予測装置の予測部3、搬送コンベヤ駆動部12、フィーダー13、排出コンベヤ駆動部16およびシュート駆動部17に制御部19が接続されている。
なお、搬送コンベヤ11、搬送コンベヤ駆動部12、排出コンベヤ15および排出コンベヤ駆動部16により搬送手段が構成され、シュート14とシュート駆動部17により分別手段が構成されている。
【0026】
まず、制御部19によりシュート駆動部17が制御されて、図5に実線で示されるように、シュート14が搬送コンベヤ11の下流端と排出コンベヤ15の上流端との間をほぼつなぐ回動位置Aに維持されると共に、制御部19の制御の下で、搬送コンベヤ駆動部12および排出コンベヤ駆動部16により搬送コンベヤ11および排出コンベヤ15がそれぞれ駆動される。
この状態で、フィーダー13から試料Sが1本ずつ搬送コンベヤ11上に供給される。試料Sが搬送コンベヤ11により搬送されてクラック発生予測装置の光源部1の直上にまで到達すると、光源部1から発せられた偏光が透光性を有するコンベヤベルトを介して試料Sに照射され、撮像部2で位相差像が取得され、予測部3で試料S内の残留応力が評価され、試料Sにおけるクラック発生の有無が予測される。
【0027】
予測部3における予測結果は、制御部19に出力され、制御部19は、時間が経過してもクラックは発生しないと予測された試料Sに対して、シュート14を回動させることなく、搬送コンベヤ11から排出コンベヤ15へと搬送させる。すなわち、試料Sは、搬送コンベヤ11の下流端から回動位置Aに維持されているシュート14上に搬送され、シュート14の上面を滑落して排出コンベヤ15の上流端に至り、排出コンベヤ15によって排出される。
【0028】
一方、時間の経過に伴ってクラックが発生すると予測された試料Sに対しては、制御部19は、シュート駆動部17を制御してシュート14を図5に破線で示された回動位置Bにまで回動する。これにより、試料Sは、搬送コンベヤ11の下流端から排出コンベヤ15の上流端に到達することができず、異常品として、シュート14の下方に配置された回収部18に回収される。
クラックの発生が予測された試料Sが回収部18に落下した後、シュート14はシュート駆動部17により回動位置Aに戻される。
【0029】
このようにして、クラックが発生しないと予測された試料Sのみを排出コンベヤ15から排出し、クラックの発生が予測された試料Sを回収部18に回収することができる。
なお、この発明に係る乾麺のクラック発生予測装置および乾麺の分別システムは、スパゲティ等のパスタの他、そば、うどん、ラーメン等の各種の乾麺に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 光源部、2 撮像部、3 予測部、4 ハロゲンランプ、5 円偏光フィルタ、6 コンデンサレンズ、7 対物レンズ、8 楕円偏光解析器、9 CCDカメラ、11 搬送コンベヤ、12 搬送コンベヤ駆動部、13 フィーダー、14 シュート、15 排出コンベヤ、16 排出コンベヤ駆動部、17 シュート駆動部、18 回収部、19
制御部、S 試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾麺に偏光を照射する光源部と、
前記光源部から照射された偏光に対する前記乾麺の透過光に基づいて前記乾麺の位相差像を取得する撮像部と、
前記撮像部で取得された位相差像に基づいて前記乾麺が有する複屈折位相差量を計測すると共に計測された複屈折位相差量から前記乾麺内の残留応力を評価して前記乾麺におけるクラック発生の有無を予測する予測部と
を備えたことを特徴とする乾麺のクラック発生予測装置。
【請求項2】
前記光源部は、ハロゲンランプと、前記ハロゲンランプからの光を円偏光に変換する円偏光フィルタと、前記円偏光フィルタで変換された円偏光を前記乾麺に集光するためのコンデンサレンズとを含み、
前記撮像部は、前記乾麺からの光を平行光に変換する対物レンズと、前記対物レンズで変換された平行光から楕円偏光を解析するための楕円偏光解析器と、前記楕円偏光解析器を透過した光により前記乾麺の位相差像を取得するCCDカメラとを含む請求項1に記載の乾麺のクラック発生予測装置。
【請求項3】
前記予測部は、計測された複屈折位相差量に基づいて前記乾麺の軸方向の残留応力を演算し、演算された残留応力が所定のしきい値を超えた場合に前記乾麺にクラックが発生すると予測する請求項1または2に記載の乾麺のクラック発生予測装置。
【請求項4】
乾麺を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段で搬送される乾麺におけるクラック発生の有無を予測する請求項1〜3のいずれか一項に記載のクラック発生予測装置と、
前記クラック発生予測装置でクラックの発生が予測された乾麺を前記搬送手段から分別する分別手段と
を備えたことを特徴とする乾麺の分別システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−3123(P2013−3123A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138100(P2011−138100)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000226998)株式会社日清製粉グループ本社 (125)
【出願人】(506158197)公立大学法人 滋賀県立大学 (29)
【Fターム(参考)】