説明

二光子吸収材料とその用途

【課題】小型で安価なレーザを使って、二光子吸収を利用した実用用途を実現するために、高効率の二光子吸収材料を提供する。また、イオン化ポテンシャルが高い電子吸引性化合物と、電子供与性基を有することにより前記電子吸引性化合物で化学増感され得るパイ電子共役系の二光子吸収化合物とを含有する二光子吸収材料の二光子吸収を利用して書き換えできない方式で記録を行った後、光を記録材料に照射してその発光強度の違いを検出することにより再生することを特徴とする二光子吸収光記録再生方法及びそのような記録再生が可能な二光子吸収光記録材料を提供する。さらに、それらを用いた二光子吸収三次元光記録材料及び二光子吸収三次元光記録方法及び再生方法を提供する。
【解決手段】非環状で、末端の少なくとも一つが電子供与基で修飾されたパイ電子共役系からなる二光子吸収化合物と電子吸引性化合物を含有する二光子吸収材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二光子吸収材料に関し、高い二光子吸収断面積を有する二光子吸収材料に関する。また、三次元メモリ材料、光制限材料、光造形用光硬化樹脂の硬化材料、光化学療法用材料、二光子蛍光顕微鏡用蛍光色素材料などの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
二光子吸収材料とは、非共鳴領域の波長において分子を励起することが可能な材料で、この時励起に用いた光子の2倍のエネルギー準位に、実励起状態が存在する材料のことである。
【0003】
ところで、二光子吸収現象とは、三次の非線形光学効果の一種で、分子が二つのフォトンを同時に吸収して、基底状態から励起状態へ遷移する現象であり、古くから知られていたがJean−Luc Bredas等が1998年に分子構造とメカニズムの関係を解明して以来(Science,281,1653 (1998))、近年になって二光子吸収能を有する材料に関する研究が進むようになった。
【0004】
しかしながらこのような二光子同時吸収の遷移効率は、一光子吸収に較べて極めて低くく、極めて大きなパワー密度の光子を必要とするため、通常に使用されるレーザー光強度では殆ど無視され、ピーク光強度(最大発光波長における光強度)が高いモード同期レーザーのようなフェムト秒程度の極超短パルスレーザーを用いると、観察されることが確認されている。
【0005】
二光子吸収の遷移効率は印加する光電場の二乗に比例する(二光子吸収の二乗特性)。このため、レーザーを照射した場合、レーザースポット中心部の電界強度の高い位置でのみ二光子の吸収が起こり、周辺部の電界強度の弱い部分では二光子の吸収は全く起こらない。三次元空間においては、レーザー光をレンズで集光した焦点の電界強度の大きな領域でのみ二光子吸収が起こり、焦点から外れた領域では電界強度が弱いために二光子吸収が全く起こらない。印加された光電場の強度に比例してすべての位置で励起が起こる一光子の線形吸収に比べて、二光子吸収は、この二乗特性に由来して空間内部のピンポイントのみでしか励起が起こらないため、空間分解能が著しく向上する。
【0006】
この特性を利用して、記録媒体の所定の位置に二光子吸収によりスペクトル変化、屈折率変化または偏光変化を生じさせ、ビットデータを記録する三次元メモリの研究が進められている。二光子吸収は、光の強度の二乗に比例して生じるため、二光子吸収を利用したメモリは、一光子吸収を利用したメモリに比べて、スポットサイズを小さくすることができ、超解像記録が可能となる。その他この二乗特性に由来する高い空間分解能の特性から、光制限材料、光造形用光硬化樹脂の硬化材料、二光子蛍光顕微鏡用蛍光色素材料などの用途への開発も進められている。
【0007】
さらに、二光子吸収を誘起する場合には、化合物の線形吸収帯が存在する波長領域よりも長波長でかつ吸収の存在しない、近赤外領域の短パルスレーザーを用いることが可能である。化合物の線形吸収帯が存在しない、いわゆる透明領域の近赤外光を用いるため、励起光が吸収や散乱を受けずに試料内部まで到達でき、かつ二光子吸収の二乗特性のために試料内部のピンポイントを高い空間分解能で励起できるため、二光子吸収及び二光子発光は生体組織の二光子造影や二光子フォトダイナミックセラピー(PDT)などの光化学療法応用面でも期待されている。また、二光子吸収、二光子発光を用いると、入射した光子のエネルギーよりも高いエネルギーの光子を取り出せるため、波長変換デバイスという観点からアップコンバージョンレージングに関する研究も報告されている。
【0008】
二光子吸収材料としてはこれまでに多数の無機材料が見出されてきた。ところが無機物においては、所望の二光子吸収特性や、素子製造のために必要な諸物性を最適化するためのいわゆる分子設計が困難であることから実用するのは非常に困難であった。一方、有機化合物は分子設計により所望の二光子吸収の最適化が可能であるのみならず、その他の諸物性のコントロールも可能であるため、実用の可能性が高く、有望な二光子吸収材料として注目を集めている。
【0009】
従来の有機系二光子吸収材料としては、ローダミン、クマリンなどの色素化合物、ジチエノチオフェン誘導体、オリゴフェニレンビニレン誘導体などの化合物が知られている。しかしながら、分子あたりの二光子吸収能を示す二光子吸収断面積が小さく、特にフェムト秒パルスレーザーを用いた場合の二光子吸収断面積は、200(GM:×10-50cm4・s・molecule-1・photon-1)未満のものが殆どで工業的な実用化には至っていない。
【0010】
〈二光子吸収材料を用いた三次元多層光メモリへの応用〉
最近、インターネット等のネットワークやハイビジョンTVが急速に普及している。また、HDTV(High Definition Television)の放映も間近にひかえて、民生用途においても50GB以上、好ましくは100GB以上の画像情報を安価簡便に記録するための大容量記録媒体の要求が高まっている。さらにコンピューターバックアップ用途、放送バックアップ用途等、業務用途においては、1TB程度あるいはそれ以上の大容量の情報を高速かつ安価に記録できる光記録媒体が求められている。そのような中、DVD±Rのような従来の2次元光記録媒体は物理原理上、たとえ記録再生波長を短波長化したとしてもせいぜい25GB程度で、将来の要求に対応できる程の充分大きな記録容量が期待できるとは言えない状況である。
【0011】
そのような状況の中、究極の高密度、高容量記録媒体として、三次元光記録媒体が俄然、注目されてきている。三次元光記録媒体は、三次元(膜厚)方向に何十、何百層もの記録を重ねることで、従来の二次元記録媒体の何十、何百倍もの超高密度、超高容量記録を達成しようとするものである。三次元光記録媒体を提供するためには、三次元(膜厚)方向の任意の場所にアクセスして書き込みできなければならないが、その手段として、二光子吸収材料を用いる方法とホログラフィ(干渉)を用いる方法とある。二子吸収材料を用いる三次元光記録媒体では、上記で説明した物理原理に基づいて何十、何百倍にもわたっていわゆるビット記録が可能であって、より高密度記録が可能であり、まさに究極の高密度、高容量光記録媒体であると言える。二光子吸収材料を用いた3次元光記録媒体としては、記録再生に蛍光性物質を用いて蛍光で読み取る方法(レウ"ィッチ、ユージーン、ポリス他、特表2001−524245号公報[特許文献1]、パベル、ユージエン他、特表2000−512061号公報[特許文献2])、フォトクロミック化合物を用いて吸収または蛍光で読み取る方法(コロティーフ、ニコライ・アイ他、特表2001−522119号公報[特許文献3]、アルセノフ、ウ"ラディミール他、特表2001−508221号公報[特許文献4])等が提案されているが、いずれも具体的な2光子吸収材料の提示はなく、また抽象的に提示されている二光子吸収化合物の例も2光子吸収効率の極めて小さい二光子吸収化合物を用いている。さらに、これらの特許文献に用いているフォトクロミック化合物は可逆材料であるため、非破壊読み出し、記録の長期保存性、再生のS/N比等に問題があり、光記録媒体として実用性のある方式であるとは言えない。特に非破壊読出し、記録の長期保存性等の点では、不可逆材料を用いて反射率(屈折率または吸収率)または発光強度の変化で再生するのが好ましいが、このような機能を有する2光子吸収材料を具体的に開示している例はなかった。
【0012】
また、河田聡、川田善正、特開平6−28672号公報[特許文献5]、河田聡、川田善正他、特開平6−118306号公報[特許文献6]には、屈折率変調により三次元的に記録する記録装置、及び再生装置、読み出し方法等が開示されているが、二光子吸収三次元光記録材料を用いた方法についての記載はない。
【0013】
上に述べたように、非共鳴2光子吸収により得た励起エネルギーを用いて反応を起こし、その結果レーザー焦点(記録)部と非焦点(非記録)部で光を照射した際の発光強度を書き換えできない方式で変調することができれば、三次元空間の任意の場所に極めて高い空間分解能で発光強度変調を起こすことができ、究極の高密度記録媒体と考えられる3次元光記録媒体への応用が可能となる。さらに、非破壊読み出しが可能で、かつ不可逆材料であるため良好な保存性も期待でき実用的である。
【0014】
しかし、現時点で利用可能な二光子吸収化合物では、二光子吸収能が低いため、光源としては非常に高出力のレーザーが必要で、かつ記録時間も長くかかる。特に三次元光記録媒体に使用するためには、速い転送レート達成のために、高感度にて発光能の違いによる記録を二光子吸収により行うことができる二光子吸収三次元光記録材料の構築が必須である。そのためには、高効率に二光子を吸収し励起状態を生成することができる二光子吸収化合物と、二光子吸収化合物励起状態を用いて何らかの方法にて二光子吸収光記録材料の発光能の違いを効率的に形成できる記録成分を含む材料が有力であるが、そのような材料は今までほとんど開示されておらず、そのような材料の構築が望まれていた。
【0015】
そのため、二光子吸収材料に関して、従来から、多くの提案(例えば、特許文献7の特開2005−213434号公報、特許文献8の特開2005−82507号公報、特許文献9の特開2004−168690号公報等)がなされており、また、我々も、既に多くの当該材料関連技術を提案(例えば、特許文献10の特開2007−241168号公報、特許文献11の特開2007−241170、特許文献12の特開2007−246422号公報、特許文献13の特開2007−246463号公報、特許文献14の特開2007−246790号公報、特許文献15の特開2008−69294号公報、特許文献16の特開2008−74708号公報等参照)してきた。
【0016】
また、我々は、二光子吸収材料の増感技術に関する従来例として、表面プラズモン増強場による物理的増感機構を、多光子吸収素子に付与することを提案(例えば、特許文献17の特開2006−330683公報参照)している。
さらに、三次元メモリ媒体(材料)に関する従来例としては、特許文献18の特開2004−100606号公報記載のもの、特許文献19の特表2005−517769号公報記載のもの、特許文献20の特表2004−534849号公報記載のものがある。
【0017】
また、光制限素子(材料)に関する従来例として、特許文献21の特開平08−320422号公報記載のものがあり、さらに、光造形技術に関する従来例として、例えば、特許文献22の特開2005−134783号公報記載のものがある。
また、二光子特性を利用した(蛍光)顕微鏡に関する従来例には、特許文献23の特開平09−230246号公報記載のもの、特許文献24の特開平10−142507号公報記載のもの、特許文献25の特開2005−165212号公報記載のものがある。
【0018】
いずれも従来の技術例には、二光子吸収材料そのものの出願で二光子吸収の増感法に関する記述はなく、また、前記特許文献17記載の技術は、金属微粒子のプラズモン場を利用する物理増感であり、化学用増感法に関する記述は当該特許文献中にない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
二光子吸収現象を利用すると、上記のように極めて高い空間分解能を特徴とする種々の応用が可能となるが、現時点で利用可能な二光子吸収化合物では二光子吸収能が低いため、二光子吸収を誘起する励起光源としては高価で非常に高出力のレーザが必要である。従って、小型で安価なレーザを使って、二光子吸収を利用した実用用途を実現するためには、高効率の二光子吸収材料の開発が必須であり、したがって本発明の目的は、高効率の二光子吸収材料を提供することにある。
【0020】
また本発明の目的は、イオン化ポテンシャルが高い電子吸引性化合物と、電子供与性基を有することにより前記電子吸引性化合物で化学増感され得るパイ電子共役系の二光子吸収化合物とを含有する二光子吸収材料の二光子吸収を利用して書き換えできない方式で記録を行った後、光を記録材料に照射してその発光強度の違いを検出することにより再生することを特徴とする二光子吸収光記録再生方法及びそのような記録再生が可能な二光子吸収光記録材料を提供することにある。
【0021】
さらに本発明の目的は、それらを用いた二光子吸収三次元光記録材料及び二光子吸収三次元光記録方法及び再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、下記(1)〜(18)によって解決される。
(1) 非環状で、末端の少なくとも一つが電子供与基で修飾されたパイ電子共役系からなる二光子吸収化合物と電子吸引性化合物を含有する二光子吸収材料。
(2) 該二光子吸収化合物のイオン化ポテンシャルが、該電子吸引性化合物のイオン化ポテンシャルより低いことを特徴とする前記第(1)項に記載の二光子吸収材料。
(3) 該二光子吸収化合物が、(電子供与基)−(パイ電子共役基)構造、または(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造、または(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子吸引基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造のいずれかであることを特徴とする前記第(1)項に記載の二光子吸収材料。
(4) 該電子吸引性化合物が、シアノ、ハロゲン、モノ-、ジ-又はトリ-ハロゲン化アルキル、アミド、N-(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、エステル基の電子吸引基を有する化合部及び有機カチオン化合物のいずれかであることを特徴とする前記第(1)項に記載の二光子吸収材料。
(5) 該二光子吸収化合物が、(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造、または(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子吸引基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造のいずれかであり、該電子供与基がアルコキシ基、アルキルチオ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基のいずれかであることを特徴とする前記第(1)項に記載の二光子吸収材料。
(6) 該二電子吸引性化合物が、ニトロ基を有する化合物、シアノ基を有する化合物、アミニウム塩化合物、ピリジニウム塩化合物のいずれかであることを特徴とする前記第(1)項に記載の二光子吸収材料。
(7) 前記第(1)項に記載の二光子吸収材料を含む光記録材料。
(8) 前記第(1)項に記載の二光子吸収材料を含む光制限材料。
(9) 前記第(1)項に記載の二光子吸収材料を含む光造形材料。
(10) 前記第(1)項に記載の二光子吸収材料を含む二光子励起蛍光材料。
(11) 平面上に形成され、該平面に対し平面上、及び垂直方向に記録再生が可能な三次元光記録媒体において、前記第(1)項に記載の二光子吸収材料が、光記録が行われる記録層の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする三次元光記録媒体。
(12) 制御光により信号光の光透過光強度を制限する素子を備えた光制限方法において、前記第(1)項に記載の二光子吸収材料が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限方法。
(13) 光硬化性樹脂に光を照射して光造形を行う方法において、前記第(1)項に記載の二光子吸収材料が、前記光硬化性樹脂の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光造形方法。
(14) 試料中の被分析物に前記第(1)項に記載の二光子吸収材料を選択的に担持させ、該被分析物に光照射して前記二光子吸収材料の二光子蛍光光を発現、検出することによって、被分析物を検出することを特徴とする二光子励起蛍光検出方法。
(15) 光硬化性樹脂に集光したレーザー光を照射して光造形を行う光造形装置において、前記第(1)項に記載の二光子吸収材料が、前記光硬化性樹脂の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光造形装置。
(16) 制御光により信号光の光透過光強度を制限する素子を備えた光制限装置において、前記第(1)項に記載の二光子吸収材料が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限装置。
(17) 制御光により信号光の光の進路を制限する素子を備えた光制限装置において、前記第(1)項に記載の二光子吸収材料が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限装置。
(18) 試料中の被分析物に前記第(1)項に記載の二光子吸収材料を選択的に担持させ、該被分析物に光照射して前記二光子吸収材料の二光子蛍光光を発現、検出することによって、被分析物を検出することを特徴とする二光子励起蛍光検出装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、効率良く二光子を吸収し、スペクトル、屈折率または偏光状態の変化を、高感度に実現する二光子吸収性有機材料、すなわち二光子吸収断面積の大きな有機材料、特にその化学増感材料提供されるという極めて優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)三次元多層光メモリの記録/再生のシステム概略図である。 (b)記録媒体の概略断面図である。
【図2】一光子励起し得る波長の信号光を光スイッチングする光制御素子の一例である。
【図3】二光子励起させる全光スイッチングする光制御素子の動作例である。
【図4】出力光の光路を光スイッチングする光制御素子の一例である。
【図5】光造形装置を示す図である。
【図6】光導波路である。
【図7】二光子励起蛍光顕微鏡である。
【図8】測定システム概略を示す図である。
【図9】透過率変化の波形を示すグラフである。
【図10】二光子吸収断面積の測定結果である。
【図11】二光子吸収断面積の測定結果である。
【図12】二光子吸収断面積の測定結果である。
【図13】二光子吸収断面積の測定結果である。
【図14】二光子吸収断面積の測定結果である。
【図15】二光子吸収断面積の測定結果である。
【図16】二光子吸収断面積の測定結果である。
【図17】二光子吸収断面積の測定結果である。
【図18】二光子吸収断面積の測定結果である。
【図19】二光子吸収断面積の測定結果である。
【図20】膜の吸収スペクトルと膜の蛍光特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の二光子吸収光記録材料は、スピンコーター、ロールコーターまたはバーコーターなどを用いることによって基板上に直接塗布することも、あるいはフィルムとしてキャストしついで通常の方法により基板にラミネートすることもでき、それらにより2光子吸収光記録材料とすることができる。
【0026】
ここで、「基板」とは、任意の天然又は合成支持体、好適には柔軟性又は剛性フィルム、シートまたは板の形態で存在することができるものを意味する。
基板として好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、樹脂下塗り型ポリエチレンテレフタレート、火炎又は静電気放電処理されたポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ガラス等である。また、この基板にはあらかじめ、トラッキング用の案内溝やアドレス情報が付与されたものであっても良い。
【0027】
使用した溶媒は乾燥時に蒸発除去することができる。蒸発除去には加熱や減圧を用いても良い。
さらに、二光子吸収光記録材料の上に、酸素遮断や層間クロストーク防止のための保護層(中間層)を形成してもよい。保護層(中間層)は、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレートまたはセロファンフィルムなどのプラスチック製のフィルムまたは板を静電的な密着、押し出し機を使った積層等により貼合わせるか、前記ポリマーの溶液を塗布してもよい。また、ガラス板を貼合わせてもよい。また、保護層と感光膜の間および/または、基材と感光膜の間に、気密性を高めるために粘着剤または液状物質を存在させてもよい。さらに感光膜間の保護層(中間層)にもあらかじめ、トラッキング用の案内溝やアドレス情報が付与されたものであっても良い。
【0028】
上述した三次元多層光記録媒体の任意の層に焦点を合わせ、記録再生を実施することで、本発明の三次元記録媒体として機能する。また、層間を保護層(中間層)で区切っていなくとも、二光子吸収色素特性から深さ方向の三次元記録が可能である。
以下、三次元多層光メモリの好ましい実施形態(具体例)を示すが、本発明はこれらの実施形態により何ら限定されず、三次元記録(平面及び膜厚方向に記録)が可能な構造であれば、他にどのような構造であっても構わない。三次元多層光メモリの記録/再生のシステム概略図を図1-(a)に、記録媒体の概略断面図を図1-(b)に示す。
【0029】
図中(b)の記録媒体においては、平らな支持体(基板1)に本発明の二光子吸収化合物を用いた記録層と、クロストーク防止用の中間層(保護層)が交互に50層ずつ積層され、各層はスピンコート法により成膜されている。記録層の厚さは0.01〜0.5μ、中間層の厚さは0.1μ〜5μが好ましく、この構造であれば、現在普及しているCD/DVDと同じディスクサイズで、テラバイト級の超高密度光記録が実現できる。更にデータの再生方法(透過/或いは反射型)により、基板1と同様の基板2(保護層)、或いは高反射率材料からなる反射層が構成される。
【0030】
記録時は単一ビームが使用され、この場合フェムト秒オーダーの超短パルス光を利用することができる。また再生時は、データ記録に使用するビームとは異なる波長、或いは低出力の同波長の光を用いることもできる。記録及び再生は、ビット単位/ページ単位のいずれにおいても実行可能であり、面光源や二次元検出器等を利用する並行記録/再生は、転送レートの高速化に有効である。
【0031】
なお、本発明に従い同様に形成される三次元多層光メモリの形態としては、カード状、プレート状、テープ状、ドラム状等が考えられる。
【0032】
〈二光子吸収材料を用いた光制限素子への応用〉
光通信や光情報処理では、情報等の信号を光で搬送するためには変調、スイッチング等の光制御が必要になる。この種の光制御には、電気信号を用いた電気−光制御方法が従来採用されている。しかし電気−光制御方法は、電気回路のようなCR時定数による帯域制限、素子自体の応答速度や電気信号と光信号との間の速度の不釣合いで処理速度(>10 ps)が制限されることなどの制約があり、光の利点である広帯域性や高速性を十分に生かすためには、光信号によって光信号を制御する光−光制御技術が非常に重要になってくる。この要求に応えるものとして本発明の二光子吸収材料を加工して作製した光学素子は、
【0033】
光を照射することで引き起こされる透過率や屈折率、吸収係数などの光学的変化を利用し、電子回路技術を用いずに光の強度や周波数を直接光で変調することで、光通信、光交換、光コンピューター、光インターコネクション等における高速光スイッチなどに応用することが可能である。
【0034】
二光子吸収による光学特性変化を利用する本発明の光制限素子は、通常の半導体材料により形成される光制限素子や、一光子励起によるものに比べ、応答速度にはるかに優れた素子(<1 ps)を提供することができ、また高感度ゆえに、S/N比の高い信号特性に優れた光制限素子を提供することができる。
【0035】
(一光子吸収/過飽和吸収を利用した光スイッチ例および問題点)
利用できる現象
・SHB(スペクトル ホール バーニング)
・励起し吸収
・ISBT(サブバンド間遷移)
・QCSE(量子閉じ込めシャタルク効果)
【0036】
問題点
・超高速応答を得るのが難しい
・素子作製(組成、構造)が複雑
・対応波長域が狭いことが多い → 波長選択制が狭い
・偏波依存性が大きい系が多い
【0037】
(本発明における二光子吸収を利用した光スイッチの利点)
利用できる現象
・二光子吸収の非線形性利点
・原理的に超高速応答
・素子作製(組成、構造)が容易
・対応波長域が広い → 波長選択制が広い
・偏波依存性がない
【0038】
(吸収特性の変化の応用例)
図2は、本発明の二光子吸収材料を、二光子励起し得る波長の制御光により二光子励起させることによって、一光子励起し得る波長の信号光を光スイッチングする光制御素子の一例である。光学素子として、保護層で狭持された二光子吸収材料の形態を示すが、この構成が本発明を限定するものではない。
制御光及び信号光から入射したレーザー光は、集光装置により集光され、制御光の強度が極めて強い場合のみ光学素子により吸収され、一光子励起波長の透過率が変化する。二光子吸収の非線形性に伴う透過率の変化を利用することにより、信号光を制御光の強弱で光スイッチが可能となる。
【0039】
図3は、本発明の二光子吸収材料を、二光子励起し得る波長(λ1)の信号光と二光子励起し得る波長(λ2)の制御光により二光子励起させる全光スイッチングする光制御素子の動作例である。
制御光及び信号光であるレーザー光は、集光装置により二光子吸収材料を主構成要素とする光制限素子に集光され、制御光がoffの場合は信号光がそのまま出力され、制御光がonの場合は信号光と共に二光子吸収され出力は無くなる。制御光の on/off によ、信号光の光スイッチが可能となる。
【0040】
(屈折率の変化の応用例)
図4は、本発明の二光子吸収材料を、二光子励起し得る波長の制御光により二光子励起させることによって、出力光の光路を光スイッチングする光制御素子の一例である。
制御光及び信号光から入射したレーザー光は、集光装置により二光子吸収材料を主構成要素とする光導波路の分岐路部位に集光され、制御光の強度が極めて強い場合のみ光導波路の分岐路部位により吸収され、その部位の屈折率が変化する。二光子吸収による光導波路の分岐路部位の屈折率変化、信号光の光導波路の屈折率、および出力光の光導波路の屈折率を調整することにより出力光の光路を切り替えることができる。二光子吸収の非線形性に伴う屈折率の変化を利用することにより、光導波路の光路の光スイッチングが可能となる。
【0041】
本光制限素子の公知文献として特開平8−320422号公報が挙げられる。これによると光照射により屈折率が変化する光屈折率材料に、その屈折率が変化する波長の光を照射してフォーカシングを行い、屈折率分布を形成する光導波路として開示されている。すなわち、本発明の高い二光子吸収能を有した材料、薄膜、もしくは光硬化性樹脂等に分散させた固体物を光学素子として配置し、ひとつの波長(λ1)の光で励起状態に励起され、さらにその状態から他の波長(λ2)の光で他の状態に励起されることにより波長による屈折率変化分布を利用した光導波路の設計が可能となる。また、二光子吸収材料はその多くが蛍光を有するものが多く、光デバイスの一方の出射端またはその近傍に蛍光物質を配置し、他方から励起光(λ1)を出射させ、励起光と蛍光(λ2)で屈折率分布を形成することもできる。この場合、通常蛍光の方が励起光より弱いので、感度は蛍光の波長において大きくすることが望ましい。
蛍光物質としては、蛍光色素を光硬化性物質や種々の樹脂等に分散させたものなどが例示される。
【0042】
〈二光子吸収材料、光造形用材料を用いた光造形装置への応用〉
光造形用二光子光硬化性樹脂とは、光を照射することにより二光子重合反応を起こし、液体から固体へと変化する特性を持った樹脂のことである。主成分はオリゴマーと反応性希釈剤からなる樹脂成分と光重合開始剤(必要に応じ光増感材料を含む)である。オリゴマーは重合度が2〜20程度の重合体であり、末端に多数の反応基を持つ。さらに、粘度、硬化性等を調整するため、反応性希釈剤が加えられている。光を照射すると、重合開始剤または光増感材料が二光子吸収し、重合開始剤から直接または光増感材料を介して反応種が発生し、オリゴマー、反応性希釈剤の反応基に反応して重合が開始される。その後、これらの間で連鎖的重合反応を起し三次元架橋が形成され、短時間のうちに三次元網目構造を持つ固体樹脂へと変化する。
光硬化性樹脂は光硬化インキ、光接着剤、積層式立体造形などの分野で使用されており、様々な特性を持つ樹脂が開発されている。特に、積層式立体造形においては反応性が良好であること、硬化時の堆積収縮が小さいこと、硬化後の機械特性が優れる事が重要になっている。
【0043】
本発明の二光子吸収材料は、このような要求を満たす、二光子吸収重合開始剤または二光子吸収光増感材料として用いることができる。本発明の二光子吸収材料は従来に比べ二光子吸収感度が高いため高速造形が可能となり、また二光子吸収現象を利用するため、微細で三次元的な造形を実現することができる。
【0044】
本発明においては、光増感材料として利用する本発明の二光子吸収材料を紫外線硬化樹脂等に分散させて感光物固体を形成し、この感光物固体の所望の個所に光照射を行うことで、照射光の焦点付近のみに硬化反応を起こさせ、超精密三次元造形物を形成する。
【0045】
図5は、本発明の二光子吸収材料を用いて光造形を行う場合の光造形装置の一例である。光源(21)からのパルスレーザー光を可動形式のミラー(22)及び集光レンズ(23)を介し本発明の二光子吸収材料(24)に集光すると、集光点近傍のみに光子密度の高い領域が形成される。このとき、ビームの各断面を通過するフォトンの総数は一定のため、焦点面内でビームを二次元的に走査した場合、各断面における光強度の総和は一定である。しかしながら、二光子吸収の発生確率は光強度の二乗に比例するため、光強度の大きい集光点近傍にのみ二光子吸収の発生の高い領域が形成される。集光点は可動形式のミラー(22)や可動ステージ(25)(ガルバノミラー及びZステージ)を制御することで光硬化樹脂液内において自由に変化させることができるため、任意の位置にナノメートルオーダーの精度で樹脂を局所的に硬化することができ、所望の三次元加工物を容易に形成することができる。
【0046】
また、このように作製される造形物の一例として、図6には光導波路を挙げた。近年、大容量アーカイブ用途の記録媒体が求められる一方で、ユビキタスネットワークの実現に向けた光ファイバ通信の開発による情報伝送の高速化及び大容量化も求められている。その一つに、WDM(波長多重通信)と呼ばれる波長の異なる光の不干渉性を利用した大容量伝送技術が知られているが、そのWDMにおいては、特定の波長の光信号を合波或いは分波する素子が不可欠であり、そのための素子として光導波路が用いられている。
【0047】
光導波路においては、素子内部にある特定の屈折率分布などを形成させることで、電気回路中を電子が流れるように光信号をその分布に沿って導くことができる。このような波長による屈折率変化を利用する光導波路構造は、図2に示す光造形装置を用い、本発明の二光子吸収材料を含む薄膜、または本発明の二光子吸収材料を光硬化性樹脂等に分散させた固体物を光造形することで形成することができる。
【0048】
本発明で用い得る造形物作製法に関する公知技術としては特開2005−134873号公報記載のものが挙げられる。これによるとパルスレーザー光を感光性高分子膜の表面にマスクを介さず干渉露光させている。レーザー光は、感光性高分子膜の感光性機能を発揮させる波長成分をもった光からなり、感光性高分子の種類、または感光性高分子の感光性機能を有する基又は部位に応じて選択されている。
【0049】
また光導波路に関する公知技術としては、特開平08‐320422号公報記載の光屈折率材料に光を照射して形成される光導波路をはじめ、特開2004‐277416号公報、特開平11‐167036号公報、特開2005‐257741号公報等で開示されているものが挙げられる。
従来に比べ、本発明の二光子吸収材料を利用した光造形物の特徴は以下のようである。即ち、
i)回折限界をこえる加工分解能
二光子吸収の光強度に対する非線形性によって、焦点以外の領域では光硬化性樹脂が硬化しない。このため照射光の回折限界を超えた加工分解能を実現できる。
ii)超高速造形
本発明の二光子吸収材料を用いて加工される造形物においては、従来に比べ、二光子吸収感度が高いため、ビームのスキャン速度を速くする事ができる。
iii)三次元加工性
光硬化性樹脂は、二光子吸収を誘起する近赤外光に対して透明である。したがって焦点光を樹脂の内部へ深く集光した場合でも、内部硬化が可能である。従来のSIHでは、ビームを深く集光した場合、光吸収によって集光点の光強度が小さくなり、内部硬化が困難になる問題点が、本発明ではこうした問題点を確実に解決することができる。
iv)高い歩留り
従来法では樹脂の粘性や表面張力によって造形物が破損、変形するという問題があったが、本手法では、樹脂の内部で造形を行うためこうした問題が解消される。
v)大量生産への適用:超高速造形を利用することによって、短時間に、連続的に多数個の部品あるいは可動機構の製造が可能である。
【0050】
(二光子吸収材料を用いた二光子励起蛍光検出方法、装置への応用)
二光子励起蛍光検出法とは、二光子蛍光材料を結合させて標識した被分析物を含む試料に、近赤外のパルスレーザーを集光しながら走査し、被分析物が二光子励起されたときに発生する蛍光を検出することで三次元的に像を得る検出方法の事である。図7にそのような光検出デバイスの一例として、二光子励起蛍光顕微鏡を示した。
【0051】
図7の装置は、近赤外域波長のサブピコ秒単色コヒーレントパルスを発生する光源(51)から、レーザー光を発生させ、ダイクロイックミラー(52)を経て、集光装置(53)により集光し、本発明の二光子吸収材料を結合させた被分析物を含む試料(54)中で焦点を結ばせることより、二光子蛍光を発生させる。試料上でレーザー光を操作し、各場所の蛍光強度を光検出器(56)で検出し、蛍光強度と得られた位置情報とをコンピューター上でプロットすることで、三次元蛍光像を得ることができる。この場合、該顕微鏡には所望の集光位置をレーザービームで走査するための走査機構が備えられており、例えばステージ(55)に置かれた試料を移動させても良く、また或いは可動ミラー(ガルバノミラーなど)を用いてレーザービームを走査してもよい。
【0052】
このような構成をとる二光子励起蛍光顕微鏡は光軸方向に高分解能の像を得ることができるが、共焦点ピンホール板を用いることで、面内、光軸方向共にさらに分解能をあげることができる。
【0053】
このように用いられる二光子蛍光材料は、被分析物の染色、または被分析物に分散させることで使用することができ、工業用途のみならず、生体細胞等の三次元画像マイクロイメージングにも用いることができる。また生体適合性のポリマーと混合することで光線力学的治療法(PDT)における光感受性材料として用いることも可能である。
【0054】
二光子励起蛍光顕微鏡の公知文献としては特開平9−230246が挙げられる。たとえば走査型蛍光顕微鏡は、所望の大きさに拡大されたコリメート光を発するレーザー照射光学系と、複数の集光素子が形成された基板とを備え、該集光素子の集光位置が対物レンズ系の像位置に一致するように配され、かつ、前記の集光素子が形成された基板と対物レンズ系との間に、長波長を透過し短波長を反射するビームスプリッタが配され、標本面で多光子吸収による蛍光を発生させることを特徴とするものである。このような構成により、多光子吸収そのものの非線形効果を利用して、光軸方向の高分解能を得ることができる。加えて、共焦点ピンホール板を用いれば、さらなる高分解能(面内、光軸方向共)が得られる。このような二光子光学素子は上述の光制御素子と全く同様に本発明の高い二光子吸収能を有した材料、薄膜、もしくは光硬化性樹脂等に分散させた固体物を光学素子として用いる事が可能である。
【0055】
本発明の二光子吸収材料は二光子励起レーザー走査顕微鏡をはじめとする二光子励起蛍光を検出する装置への適用が可能である。しかも、従来の二光子励起蛍光材料に比較し、大きな二光子吸収断面積を有しているので、低濃度で高い二光子吸収(発光)特性を発揮する。従って、本発明によれば、高感度な二光子吸収材料が得られるだけでなく、材料に照射する光の強度を強くする必要がなくなり、材料の劣化、破壊を抑制することができ、材料中の他成分の特性に対する悪影響も低下させることができる。同様に生体への適用をする場合でも、照射する光の強度を下げることができるため、生体へのダメージが低減可能となる。
【0056】
(光線力学療法)
光線力学療法(Photodynamic Therapy : PDT)は、ヒト医学においてはすでに一部の早期悪性腫瘍に対して臨床応用が行われている治療法である。
【0057】
光感受性物質(二光子吸収材料)を腫瘍細胞や腫瘍組織内の新生血管の内皮細胞内に取り込ませて、患部にレーザー光が照射されることにより、活性酸素を発生させる。この活性酸素により、腫瘍細胞や組織が傷害を受けて腫瘍が消失すると考えられている。PDTは、この光線力学的反応を利用した治療法であり、PDTはそれ自身毒性が低い光感受性物質と低出力のレーザー光を使用するため、生体への負担が少ないのが特徴である。また、この光感受性物質が二光子吸収材料であって用いる光の波長が生体を透過する程度の長波長である場合、生体への負担はなお一層低減される。治療法としては腫瘍の画像診断を行い、腫瘍の位置と大きさを確認する。腫瘍全体にレーザー光を照射できるように、CT画像をもとにして腫瘍にファイバーを設置し、レーザー光を照射する。
【0058】
外科的療法では身体を切開してさらに腫瘍を手術によって摘出するため、身体の機能や形態を損なってしまうことがあるが、PDTの場合、可能な限り正常組織を温存して治療できるメリットがある。
【0059】
本発明の二光子吸収材料はそれそのもの単独もしくは各種の樹脂との混合の薄膜、あるいはバルクで種々のデバイスへの応用が可能である。
【0060】
例えば、光ディスクでは上記薄膜が基板と接しており、その基板材料はポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ガラス等である。また、積層する場合であれば、中間層(仕切層)に該薄膜表面が接している。中間層の具体例としてはポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレートまたはセロファンフィルムなどのプラスチック製のフィルムまたは種々の光硬化樹脂等が挙げられる。
【0061】
次に、各種光学デバイス、光造形デバイスに応用するにしても、各種樹脂に混合されているか、光硬化樹脂に混合され用いる。
従って、本発明の二光子吸収材料の使用要件としては、該材料が各種樹脂、またはガラスに混合されているか、二光子吸収材料層界面が各種樹脂、またはガラスに接していることである。
【0062】
言い換えれば、本発明の二光子吸収材料はミクロレベル、又はマクロレベルで各種樹脂、又はガラスに接している構成となっている。
本発明の二光子吸収材料について述べる。
本発明の二光子吸収材料は、1)非環状で末端の少なくとも一つが電子供与基で修飾されたパイ電子共役系からなる二光子吸収化合物と、2)イオン化ポテンシャルが該二光子吸収化合物より大きな電子吸引性化合物の両所を少なくとも含有して構成される。
【0063】
該二光子吸収化合物は、(電子供与基)−(パイ電子共役基)構造、または(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造、または(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子吸引基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造のいずれかが好ましく、電子供与性が大きいほどその増感効果が大きくなることから、(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造、または(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子吸引基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造のいずれかであり、該電子供与基がアルコキシ基、アルキルチオ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基のいずれかであることがより好ましい。
【0064】
本発明の増感現象は、該二光子吸収化合物の電子供与基部と該電子吸引性化合物の電子吸引部との電子的な相互作用により得られ、より大きな相互作用が得られる両者の電子状態として、イオン化ポテンシャルが該二光子吸収化合物より該電子吸引性化合物の大なることがが好ましい。
【0065】
該電子吸引性化合物は、シアノ、ハロゲン、モノ-、ジ-又はトリ-ハロゲン化アルキル、アミド、N-(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、エステル基等の電子吸引基を有する化合部及び有機カチオン化合物のいずれかが好ましく、電子吸引性が大きいほどその増感効果が大きくなることから、ニトロ基を有する化合物、シアノ基を有する化合物、アミニウム塩化合物、ピリジニウム塩化合物のいずれかであることがより好ましい。
【0066】
本発明に適用できる代表的な二光子吸収化合物例としては以下のものが挙げられる。
【0067】
【化1】

【0068】
式中X1 、X2 はそれぞれ独立にその少なくとも一方が電子供与基で置換されているアリール基又ヘテロ環基を表し、Yは酸素原子、硫黄原子またはシアノ基、カルボキシル基を含む原子団を表す。
式中R1、R5は水素又はメチレン基で、該メチレン基は互いに結合し、環を形成している。R2〜R4、R6〜R8は各々水素原子または置換基を表し、R1〜R4及びR5〜R8のうちのいくつかが互いに結合して環を形成してもよく、nおよびmが2以上の場合、同一でも異なってもよい。
m、nは0から2の整数を表す。
【0069】
【化2】

【0070】
式中、Z1、Z2はそれぞれ独立にその少なくとも一方が電子供与基で置換されている5または6員環を形成する原子群を表し、Yは酸素原子、硫黄原子またはシアノ基、カルボキシル基を含む原子団を表す。式中R、Rは水素又はメチレン基で、該メチレン基は互いに結合し、環を形成している。R〜R、R〜R10は各々水素原子または置換基を表し、R〜R及びR〜R10のうちのいくつかが互いに結合して環を形成してもよく、nおよびmが2以上の場合、同一でも異なってもよい。R11、R12はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基又はヘテロ環基を表し、m、nは0から2の整数を表す。
【0071】
【化3】

【0072】
一般式中、Xは5員または6員の含窒素複素環を形成する原子群を表わし、Yは5員または6員環を形成する原子群を表わし、Zはアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはヘテロ環基を表す。
、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、または置換基を表し、R、R、R、Rのうちのいくつかが互いに結合して環を形成してもよい。nおよびmはそれぞれ独立に1〜4の整数を表し、nおよびmが2以上の場合、複数個のR、R、RおよびRは同一でもそれぞれ異なってもよい。
【0073】
【化4】

【0074】
式中、R〜Rは、それぞれ同一又は相異なって、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシ基を示し、R及びR10は、それぞれ同一又は相異なって、ピリジル基を示し、nは1〜4の整数を示す。
【0075】
【化5】

【0076】
式中X、Xはそれぞれ独立にその少なくとも一方が電子供与基で置換されているアリール基又ヘテロ環基を表し、R〜Rは各々水素原子または置換基を表し、R〜Rのうちのいくつかが互いに結合して環を形成してもよく、nおよびmが2以上の場合、複数個のR〜Rは同一でも異なってもよく、nおよびmは各々1〜4の整数を表す。
【0077】
【化6】

【0078】
式中X、Xはそれぞれ独立にその少なくとも一方が電子供与基で置換されているアリール基又ヘテロ環基を表し、R〜Rは各々水素原子または置換基を表し、R〜Rのうちのいくつかが互いに結合して環を形成してもよく、nおよびmが2以上の場合、複数個のR〜Rは同一でも異なってもよく、nおよびmは各々1〜4の整数を表す。
【0079】
【化7】

【0080】
式中Arは置換若しくは無置換の、チオフェン、ビフェニル、フルオレン又はアントラセンの二価基を表し、X、Xはそれぞれ独立にその少なくとも一方が電子供与基で置換されているアリール基又ヘテロ環基を表し、R〜Rは各々水素原子または置換基を表し、R〜Rのうちのいくつかが互いに結合して環を形成してもよく、nおよびmが2以上の場合、複数個のR〜Rは同一でも異なってもよく、nおよびmは各々1〜4の整数を表す。
【0081】
【化8】

【0082】
下記一般式で表される繰り返し単位を有する二光子吸収材料。
【0083】
式中Arは置換若しくは無置換の、ビチオフェン、トリフェニルアミン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、ベンゾチアジアゾールから選ばれる二価基であり、Rはそれぞれ独立に水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のフェニル基である。
【0084】
【化9】

【0085】
下記一般式で表される繰り返し単位を有する二光子吸収材料。
【0086】
式中、Arは置換基を有しても良い芳香族炭化水素基もしくは複素環基の二価基をArは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、複素環基の二価基もしくは単結合を表し、mは0または1を表す。
【0087】
【化10】

【0088】
式中、Ar、Ar及びArは置換または無置換の芳香族炭化水素基の二価基を表し、Arは置換または無置換の芳香族炭化水素基を表し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシ基、もしくは置換または無置換のアルキルチオ基から選択される基を表す。m及びnはそれぞれ独立に0から2までの整数であって、nは0または1である。
【0089】
【化11】

【0090】
式中R、Rは水素又はメチレン基で、該メチレン基は互いに結合し、環を形成している。R〜R、R〜Rは各々水素原子または置換基を表し、R〜R及びR〜Rのうちのいくつかが互いに結合して環を形成してもよく、nおよびmが2以上の場合、同一でも異なってもよい。X、X、Yは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基及びジアリールアミノ基を表し、X、Xの少なくとも一方が電子供与基を表し、m、nは0から2の整数を表す。
本発明でいう電子供与基とは、分子の特定の位置について、炭素原子よりも電子密度を増加させる効果を持つ性質の置換基を電子供与性基と呼び、代表的なものとして、それぞれ置換または未置換のアルコキシ基、アルキルチオ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基が挙げられる。
【0091】
本発明に適用できる代表的な電子吸引性化合物例としては以下のものが挙げられる。
【0092】
【化12】

【0093】
式中、R、Rはシアノ、ハロゲン、モノ−、ジ−又はトリ-ハロゲン化アルキル、アミド、N−(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、エステル基を表し、R,Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアルキルチオ基、置換または無置換のアミノ基を表わす。
【0094】
【化13】

【0095】
式中、R、R、R、Rは水素原子、シアノ、ハロゲン、モノ−、ジ−又はトリ-ハロゲン化アルキル、アミド、N−(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、エステル基、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアルキルチオ基、置換または無置換のアミノ基を表し、R、Rはシアノ、ハロゲン、モノ−、ジ−又はトリ-ハロゲン化アルキル、アミド、N−(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、エステル基を表わす。
【0096】
【化14】

【0097】
式中、R、R、R、Rはシアノ、ハロゲン、モノ−、ジ−又はトリ−ハロゲン化アルキル、アミド、N−(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、エステル、アミノ基を表わし、Rは置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基を表わす。
【0098】
【化15】

【0099】
式中、R、R、R、Rはシアノ、ハロゲン、モノ−、ジ−又はトリ−ハロゲン化アルキル、アミド、N−(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、エステル基を表わす。
【0100】
【化16】

【0101】
式中、R、Rはシアノ、ハロゲン、モノ−、ジ-又はトリ−ハロゲン化アルキル、アミド、N−(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、エステル基を表し、R,Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアルキルチオ基、置換または無置換のアミノ基を表わす。
【0102】
【化17】

【0103】
式中、R、R、R、Rは水素原子、シアノ、ハロゲン、モノ−、ジ−又はトリ−ハロゲン化アルキル、アミド、N−(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、エステル基、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアルキルチオ基、置換または無置換のアミノ基を表わす。
【0104】
【化18】

【0105】
式中、R、R、R、Rは水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基を表し、Lは二値の連結基を表し、Xはカウンターイオンを表わす。
【0106】
【化19】

【0107】
式中、R、R、R、Rは水素原子、ハロゲン、モノ−、ジ−又はトリ−ハロゲン化アルキル、アミド、N−(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、エステル基、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアルキルチオ基、置換または無置換のアミノ基を表し、Xはカウンターイオンを表わす。
Yは、−O−、−S−、−CR−、−NR−のいずれかで、R、R、Rは置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基を表わす。
【0108】
【化20】

【0109】
式中、R、R、Rは水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基を表し、R、R、R、Rは水素原子、ハロゲン、モノ−、ジ−又はトリ−ハロゲン化アルキル、アミド、N−(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、エステル基、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアルキルチオ基、置換または無置換のアミノ基を表し、Lは二値の連結基を表し、Xはカウンターイオンを表わす。
【0110】
未置換のアルキル基、および未置換のアルコキシ基中のアルキル基としては、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基があげられ、置換アルキル基、および置換アルコキシ基中の置換アルキル基としては、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシプロピル基等のヒドロキシ置換アルキル基;カルボキシメチル基、2−カルボキシエチル基、3−カルボキシプロピル基等のカルボキシ置換アルキル基;2−シアノエチル基、シアノメチル基などのシアノ置換アルキル基;2−アミノエチル基などのアミノ置換アルキル基;2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基、2−クロロプロピル基、2,2,2−トリフルオロエチル基などのハロゲン原子置換アルキル基;ベンジル基、p−クロロベンジル基、2−フェニルエチル基などのフェニル置換アルキル基;2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−(n)プロポキシエチル基、2−(iso)プロポキシエチル基、2−(n)ブトキシエチル基、2−(iso)ブトキシエチル基、2−(2−エチルヘキシルオキシ)エチル基、3−メトキシプロピル基、4−メトキシブチル基、2−メトキシプロピル基等のアルコキシ置換アルキル基;2−(2−メトキシエトキシ)エチル基、2−(2−エトキシエトキシ)エチル基、2−(2−(n)プロポキシエトキシ)エチル基、2−(2−(iso)プロポキシエトキシ)エチル基、2−(2−(n)ブトキシエトキシ)エチル基、2−(2−(iso)ブトキシエトキシ)エチル基、2−{2−(2−エチルヘキシルオキシ)エトキシ}エチル基等のアルコキシアルコキシ置換アルキル基;アリルオキシエチル基、2−フェノキシエチル基、2−ベンジルオキシエチル基等の置換アルキル基;2−アセチルオキシエチル基、2−プロピオニルオキシエチル基、2−(n)ブチリルオキシエチル基、2−(iso)ブチリルオキシエチル基、2−トリフルオロアセチルオキシエチル基等のアシルオキシ置換アルキル基;メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、(n)プロポキシカルボニルメチル基、(iso)プロポキシカルボニルメチル基、(n)ブトキシカルボニルメチル基、(iso)ブトキシカルボニルメチル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニルメチル基、ベンジルオキシカルボニルメチル基、フルフリルオキシカルボニルメチル基、テトラヒドロフルフリルオキシカルボニルメチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、2−エトキシカルボニルエチル基、2−(n)プロポキシカルボニルエチル基、2−(iso)プロポキシカルボニルエチル基、2−(n)ブトキシカルボニルエチル基、2−(iso)ブトキシカルボニルエチル基、2−(2−エチルヘキシルオキシカルボニル)エチル基、2−ベンジルオキシカルボニルエチル基、2−フルフリルオキシカルボニルエチル基等の置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル置換アルキル基;2−メトキシカルボニルオキシエチル基、2−エトキシカルボニルオキシエチル基、2−(n)プロポキシカルボニルオキシエチル基、2−(iso)プロポキシカルボニルオキシエチル基、2−(n)ブトキシカルボニルオキシエチル基、2−(iso)ブトキシカルボニルオキシエチル基、2−(2−エチルヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル基、2−ベンジルオキシカルボニルオキシエチル基、2−フルフリルオキシカルボニルオキシエチル基等の置換もしくは非置換のアルコキシカルボニルオキシ置換アルキル基;フルフリル基、テトラヒドロフルフリル基等のヘテロ環置換アルキル基等があげられる。
また、シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0111】
アルキル基およびアルコキシ基中のアルキル基の具体例としては、例えば、次のものが挙げられる。なお、これらのアルキル基は、ハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、イソアミル基、2−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、n−オクチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基等の一級アルキル基;イソプロピル基、sec−ブチル基、1−エチルプロピル基、1−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−メチルヘプチル基、1−エチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、1−メチルヘキシル基、1−エチルヘプチル基、1−プロピルブチル基、1−イソプロピル−2−メチルプロピル基、1−エチル−2−メチルブチル基、1−プロピル−2−メチルプロピル基、1−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、1−イソプロピルぺンチル基、1−イソプロピル−2−メチルブチル基、1−イソプロピル−3−メチルブチル基、1−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−プロピルヘキシル基、1−イソブチル−3−メチルブチル基等の二級アルキル基;tert−ブチル基、tert−ヘキシル基、tert−アミル基、tert−オクチル基等の三級アルキル基;シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−エチルシクロヘキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、4−(2−エチルヘキシル)シクロヘキシル基、ボルニル基、イソボルニル基、アダマンタン基等のシクロアルキル基等が挙げられる。
またアリ−ル基としてはフェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基、ジ(tert-ブチル)フェニル基、ブチルフェニル基、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、トリメトキシフェニル基、ブトキシフェニル基などが挙げられ、またこれらのアリ−ル基はハロゲン等の置換基で置換されていてもよい。
【実施例】
【0112】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0113】
下記(化1)の二光子吸収化合物と(化2)の電子吸引性化合物のTHF溶液を作製した。各溶液を10/0、8/2、6/4、4/6、2/8、0/10の割合で混合し(溶液中のトータル分子数は一定)、下記の二光子吸収断面積の評価方法により、その二光子吸収断面積を測定した。Z−scan測定法の透過率変化の波形を図9に、二光子吸収断面積の測定結果を図10に、その増感係数を(表1)に示す。
尚、増感係数とは、二光子吸収化合物と電子吸引性化合物の混合系で最も大きく得られた二光子吸収断面積を二光子吸収化合物単独の二光子吸収断面積で割ったもので、1以上であれば増感効果が得られたことを示す。
【0114】
【化21】

【実施例2】
【0115】
【実施例3】
【0116】
【実施例4】
【0117】
(実施例2)〜(実施例4)
実施例1において、(A−1)の電子吸引性化合物のかわりに、それぞれ(A−2)、(A−3)、(A−4)とし、実施例1同様の評価をおこなった。二光子吸収断面積の測定結果を図11、図12、図13に、その増感係数を(表1)に示す。
【0118】
【化22】

【実施例5】
【0119】
【実施例6】
【0120】
【実施例7】
【0121】
(実施例5)〜(実施例7)
実施例1において、
【0122】
(化T−1)の二光子吸収化合物のかわりに、それぞれ(化T−2)、(化T−3)、(化T−4)とし、実施例1同様の評価をおこなった。二光子吸収断面積の測定結果を図14、図15、図16に、その増感係数を(表1)に示す。
【0123】
【化23】

【実施例8】
【0124】
【実施例9】
【0125】
【実施例10】
【0126】
【実施例11】
【0127】
【実施例12】
【0128】
(実施例8)〜(実施例12)
実施例1において、(化A−1)の電子吸引性化合物のかわりに、それぞれ(化A−5)、(化A−6)、(化A−7)、(化A−8)、(化A−9)とし、実施例1同様の評価をおこなった。その増感係数を(表1)に示す。
【0129】
【化24】

【実施例13】
【0130】
【実施例14】
【0131】
【実施例15】
【0132】
【実施例16】
【0133】
【実施例17】
【0134】
【実施例18】
【0135】
【実施例19】
【0136】
(実施例13〜実施例19)
実施例1において、(化T−1)の二光子吸収化合物のかわりに、それぞれ(化T−5)、(化T−6)、(化T−7)、(化T−8)、(化T−9)、(化T−10)、(化T−11)とし、実施例1同様の評価をおこなった。その増感係数を(表1)に示す。
【0137】
【化25】

【0138】
(比較例1〜3)
実施例1において、(化T−1)の二光子吸収化合物のかわりに、電子供与性化合物(化T−12)とし、実施例1同様の評価をおこなった。その増感係数を(表1)に示す。
【0139】
【化26】

【0140】
(比較例4)
実施例1において、(化A−1)の電子吸引性化合物のかわりに、それぞれ電子供与性化合物(化D−1)、(化D−2)、および上記二光子吸収化合物(化T−2)とし、実施例1同様の評価をおこなった。二光子吸収断面積の測定結果を図17、図18、図19に、その増感係数を(表1)に示す。
【0141】
【化27】

【0142】
(評価結果)
【0143】
【表1】

【実施例20】
【0144】
上記結果で大きな増感効率が得られた二光子吸収化合物(化T−1)と電子吸引性化合物(化A−6)の相互作用を調べるため、二光子吸収化合物(化T−1)単独及び二光子吸収化合物(化T−1)と電子吸引性化合物(化A−6)の混合系(100/25 mol比)の膜の吸収スペクトルと膜の蛍光特性を評価し、それぞれ図20、(表2)に結果を示す。
【0145】
【表2】

図20と表2の結果から、二光子吸収化合物(化T−1)と電子吸引性化合物(化A−6)の混合系では、二光子吸収化合物(化T−1)から電子吸引性化合物(化A−6)への電荷移動相互作用が生じていると考えられ、それが二光子吸収の増感現象を引き起こしていると想定できる。
二光子吸収化合物から電子吸引性化合物へ電子を与える場合、電子移動が効率良く起こるためには、二光子吸収化合物のイオン化ポテンシャルが、該電子吸引性化合物のイオン化ポテンシャルより低いことが好ましい。
【0146】
実施例で用いた代表的な二光子吸収化合物、電子吸引性化合物、電子供与性化合物の光電子分光法(理研計器:AC−2)で測定したイオン化ポテンシャルの結果を(表3)に示す。二光子吸収の増感現象が効率良く得られる系では上記関係が満たされている。
【0147】
【表3】

【0148】
■ 非環状で末端の少なくとも一つが電子供与基で修飾されたパイ電子共役系からなる二光子吸収化合物と電子吸引性化合物を共存させることで二光子吸収能が増感される。
■ 二光子吸収化合物から電子吸引性化合物への電荷移動相互作用に起因することから、電荷移動が効率良く起こるためには、二光子吸収化合物のイオン化ポテンシャルが、電子吸引性化合物のイオン化ポテンシャルより低いことが好ましい。
■ 実施例18,19及び実施例17と比較例4の結果から、(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造、または(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子吸引基)−(パイ電子。
【0149】
[二光子吸収断面積の評価方法]
測定システム概略図を図8示す。
測定光源:フェムト秒チタンサファイアレーザ
波長 :720〜920nm
パルス幅:100fs
繰り返し:80MHz
光パワー:800mW
測定方法:Zスキャン法
光源波長:780〜900nm
キュベット内径:1mm
測定光パワー:約500mW
繰り返し周波数:80MHz
集光レンズ:f=75mm
集光径:〜40μm
【0150】
集光されている光路部分に試料溶液を充填した石英セルを置き、その位置を光路に沿って移動させることによりZ−scan測定を実施した。
透過率を測定し、その結果から理論式(I)により非線形吸収係数を求めた。
【0151】
【数1】

【0152】
(上記式中、Tは透過率(%)、I0は励起光密度[GW/cm]、L0は試料セル長[cm]、βは非線形吸収係数[cm/GW]を示す。)
【0153】
この非線形吸収係数から、下記式(II)により二光子吸収断面積σ2を求めた。
(σ2の単位は1GM=1×10−50cm・s・photon−1である。)
【0154】
【数2】

【0155】
(上記式中、hはプランク定数[J・s]、νは入射レーザ光の振動数[s−1]、Nはアボガドロ数、Cは溶液濃度[mol/L]を示す。)
【符号の説明】
【0156】
(図5について)
21 光源
22 可動形式のミラー
23 集光レンズ
24 二光子吸収材料
25 可動ステージ
(図7について)
51 光源
52 ダイクロイックミラー
53 集光装置
54 試料
55 可動または固定ステージ
56 光検出器
【先行技術文献】
【特許文献】
【0157】
【特許文献1】特表2001−524245号公報
【特許文献2】特表2000−512061号公報
【特許文献3】特表2001−522119号公報
【特許文献4】特表2001−508221号公報
【特許文献5】特開平6−28672号公報
【特許文献6】特開平6−118306号公報
【特許文献7】特開2005−213434
【特許文献8】特開2005−82507
【特許文献9】特開2004−168690
【特許文献10】特開2007−241168
【特許文献11】特開2007−241170
【特許文献12】特開2007−246422
【特許文献13】特開2007−246463
【特許文献14】特開2007−246790
【特許文献15】特開2008−69294
【特許文献16】特開2008−74708
【特許文献17】特開2006−330683
【特許文献18】特開2004−100606
【特許文献19】特表2005−517769
【特許文献20】特表2004−534849
【特許文献21】特開平08−320422
【特許文献22】特開2005−134783
【特許文献23】特開平09−230246
【特許文献24】特開平10−142507
【特許文献25】特開2005−165212
【非特許文献1】Jean-Luc Bredas et al Science,281,1653 (1998)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非環状で、末端の少なくとも一つが電子供与基で修飾されたパイ電子共役系からなる二光子吸収化合物と電子吸引性化合物を含有する二光子吸収材料。
【請求項2】
該二光子吸収化合物のイオン化ポテンシャルが、該電子吸引性化合物のイオン化ポテンシャルより低いことを特徴とする請求項1に記載の二光子吸収材料。
【請求項3】
該二光子吸収化合物が、(電子供与基)−(パイ電子共役基)構造、または(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造、または(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子吸引基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の二光子吸収材料。
【請求項4】
該電子吸引性化合物が、シアノ、ハロゲン、モノ-、ジ-又はトリ-ハロゲン化アルキル、アミド、N-(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、エステル基の電子吸引基を有する化合部及び有機カチオン化合物のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の二光子吸収材料。
【請求項5】
該二光子吸収化合物が、(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造、または(電子供与基)−(パイ電子共役基)−(電子吸引基)−(パイ電子共役基)−(電子供与基)構造のいずれかであり、該電子供与基がアルコキシ基、アルキルチオ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の二光子吸収材料。
【請求項6】
該二電子吸引性化合物が、ニトロ基を有する化合物、シアノ基を有する化合物、アミニウム塩化合物、ピリジニウム塩化合物のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の二光子吸収材料。
【請求項7】
請求項1に記載の二光子吸収材料を含む光記録材料。
【請求項8】
請求項1に記載の二光子吸収材料を含む光制限材料。
【請求項9】
請求項1に記載の二光子吸収材料を含む光造形材料。
【請求項10】
請求項1に記載の二光子吸収材料を含む二光子励起蛍光材料。
【請求項11】
平面上に形成され、該平面に対し平面上、及び垂直方向に記録再生が可能な三次元光記録媒体において、請求項1に記載の二光子吸収材料が、光記録が行われる記録層の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする三次元光記録媒体。
【請求項12】
制御光により信号光の光透過光強度を制限する素子を備えた光制限方法において、請求項1に記載の二光子吸収材料が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限方法。
【請求項13】
光硬化性樹脂に光を照射して光造形を行う方法において、請求項1に記載の二光子吸収材料が、前記光硬化性樹脂の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光造形方法。
【請求項14】
試料中の被分析物に請求項1に記載の二光子吸収材料を選択的に担持させ、該被分析物に光照射して前記二光子吸収材料の二光子蛍光光を発現、検出することによって、被分析物を検出することを特徴とする二光子励起蛍光検出方法。
【請求項15】
光硬化性樹脂に集光したレーザー光を照射して光造形を行う光造形装置において、請求項1に記載の二光子吸収材料が、前記光硬化性樹脂の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光造形装置。
【請求項16】
制御光により信号光の光透過光強度を制限する素子を備えた光制限装置において、請求項1に記載の二光子吸収材料が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限装置。
【請求項17】
制御光により信号光の光の進路を制限する素子を備えた光制限装置において、請求項1に記載の二光子吸収材料が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限装置。
【請求項18】
試料中の被分析物に請求項1に記載の二光子吸収材料を選択的に担持させ、該被分析物に光照射して前記二光子吸収材料の二光子蛍光光を発現、検出することによって、被分析物を検出することを特徴とする二光子励起蛍光検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−217579(P2010−217579A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65026(P2009−65026)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】