説明

二段過給システムにおける高圧段タービンの過回転防止方法

【課題】加減速時に高圧段タービンが過回転を起こすことを防止し得る二段過給システムにおける高圧段タービンの過回転防止方法を提供する。
【解決手段】エンジン1からの排気を高圧段タービン3を迂回させて低圧段タービン7に導くバイパス流路12と、該バイパス流路12の途中に装備されて流路を開閉するバイパスバルブ13とを備え、高圧段タービン3のタービン回転数を回転センサ14により常時監視し、車両の加速又は減速が確認された時に、高圧段タービン3の現在のタービン回転数と前回エンジンサイクルでのタービン回転数とに基づき次回エンジンサイクルでのタービン回転数を推定し、その推定値が加速時と減速時の夫々について個別に規定されている規定値を下まわっていなかった時にバイパスバルブ13を開けてバイパス流路12を開通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧段ターボチャージャと低圧段ターボチャージャとからなる二段過給システムにおける高圧段タービンの過回転防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は従来における二段過給システムを模式的に示したもので、車両搭載のエンジン1から送出される排気2により高圧段タービン3を作動させ且つ高圧段コンプレッサ4で圧縮した吸気5をエンジン1へ送給する高圧段ターボチャージャ6と、該高圧段ターボチャージャ6の高圧段タービン3から送出される排気2により低圧段タービン7を作動させ且つ低圧段コンプレッサ8で圧縮した吸気5を前記高圧段コンプレッサ4へ送給する低圧段ターボチャージャ9とが備えられている。
【0003】
また、エンジン排気流路の高圧段タービン3よりも上流側からエンジン吸気流路の高圧段コンプレッサ4よりも下流側へ至るEGR配管10が設けられ、該EGR配管10には、エンジン吸気流路へ還流すべき排気2の流量を調整するEGRバルブ11が設けられている(より詳細には還流される排気2を水冷するEGRクーラも装備されている)。
【0004】
而して、斯かる二段過給システムにおいては、エンジン1が稼動状態である時に、エンジン1から送出される排気2が、高圧段タービン3へ流入して高圧段コンプレッサ4を駆動した後、低圧段タービン7へ流入して低圧段コンプレッサ8を駆動し、該低圧段コンプレッサ8に流入して圧縮された吸気5は、高圧段コンプレッサ4に送給され、該高圧段コンプレッサ4で再び圧縮されてエンジン1へ送給されるので、シリンダへの吸気5の送給量が増加し、1サイクル当たりの燃料噴射量を多くすれば、エンジン1の出力を高めることができる。
【0005】
また、前記排気2の一部がEGR配管10へ流入し、EGRバルブ11で流量調整が行われた排気2が、吸気5と一緒にエンジン1へ送給され、これによりシリンダ内の燃焼温度の低下が図られ、NOxの発生が低減される。
【0006】
尚、前述の如き二段過給システムと関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、下記の特許文献1、2等が既に存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−147030号公報
【特許文献2】特開平5−180089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この種の二段過給システムにおいては、低速中負荷域での燃費向上、トルクアップや高EGR率の実現のために、比較的小径の高圧段ターボチャージャ6を採用することが検討されているが、このような比較的小径の高圧段ターボチャージャ6では、車両の加減速時にタービン慣性により高圧段タービン3が過回転を起こし易いという不具合があり、より具体的には、加速時に高圧段タービン3がオーバーシュート(ターボ過給圧が設定よりも高まってしまうこと:エンジンやタービンに負担がかかり過ぎて故障の原因になる)を起こしたり、減速時にタービン慣性により高圧段タービン3が回り続けて過給圧が下がるのが遅れ、これにより定常になっても排気タービン圧が高いままとなって排気の再循環量が過剰となり、エンジン1の各シリンダにおける燃焼性が悪化して排気2中に煙が発生する虞れがあった。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑みてなしたもので、加減速時に高圧段タービンが過回転を起こすことを防止し得る二段過給システムにおける高圧段タービンの過回転防止方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車両搭載のエンジンから送出される排気によって高圧段タービンを作動させ且つ高圧段コンプレッサで圧縮した吸気をエンジンへ送給する高圧段ターボチャージャと、該高圧段ターボチャージャの高圧段タービンから送出される排気によって低圧段タービンを作動させ且つ低圧段コンプレッサで圧縮した吸気を前記高圧段コンプレッサへ送給する低圧段ターボチャージャとを備えた二段過給システムにおける高圧段タービンの過回転防止方法であって、エンジンからの排気を高圧段タービンを迂回させて低圧段タービンに導くバイパス流路と、該バイパス流路の途中に装備されて流路を開閉するバイパスバルブとを備え、高圧段タービンのタービン回転数を回転センサにより常時監視し、車両の加速又は減速が確認された時に、高圧段タービンの現在のタービン回転数と前回エンジンサイクルでのタービン回転数とに基づき次回エンジンサイクルでのタービン回転数を推定し、その推定値が加速時と減速時の夫々について個別に規定されている規定値を下まわっていなかった時にバイパスバルブを開けてバイパス流路を開通することを特徴とするものである。
【0011】
而して、このようにすれば、車両の加速時に高圧段タービンの回転数が急上昇しても、そのタービン回転数が回転センサにより常時監視されて、次回エンジンサイクルでのタービン回転数が推定されるようになっているので、高圧段タービンがオーバーシュートを起こさない範囲で加速時の規定値を適切に設定しておけば、次回エンジンサイクルでのタービン回転数の推定値が規定値以上となった時にバイパスバルブが開いてバイパス流路が開通され、エンジンからの排気が高圧段タービンを迂回して流れることでタービン回転数が下がり、高圧段タービンのオーバーシュートが防止されることになる。
【0012】
一方、車両の減速時にタービン慣性により高圧段タービンが回り続けても、そのタービン回転数が回転センサにより常時監視されて、次回エンジンサイクルでのタービン回転数が推定されるようになっているので、減速後の定常時にも排気の再循環量が過剰とならない範囲で加速時の規定値を適切に設定しておけば、次回エンジンサイクルでのタービン回転数の推定値が規定値を下まわっていなかった時にバイパスバルブが開いてバイパス流路が開通され、エンジンからの排気が高圧段タービンを迂回して流れることでタービン回転数が惰性回転を続けずに早期に下がり、減速後の定常時に排気の再循環量が過剰となってエンジンでの燃焼性が悪化することで起こる煙の発生が防止されることになる。
【0013】
また、本発明においては、次回エンジンサイクルでのタービン回転数を推定するにあたり、現在のタービン回転数に対し、前回エンジンサイクルから現在までのタービン回転数の時間変化量を、次回エンジンサイクルまでの回転数増減分として合算すると共に、バイパスバルブの応答遅れに相当するタービン回転数の時間変化量を更に合算して推定値を算出すると良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二段過給システムにおける高圧段タービンの過回転防止方法によれば、低速中負荷域での燃費向上、トルクアップや高EGR率の実現のために、高圧段ターボチャージャの小径化を図っても、高圧段タービンが加減速時に過回転を起こすことを確実に防止することができるので、加速時における高圧段タービンのオーバーシュートや、減速後の定常復帰で排気の再循環量が過剰となることに伴う煙の発生を確実に防止することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】図1の制御装置における制御手順を示すフローチャートである。
【図3】従来の二段過給システムの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1及び図2は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図3と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0018】
図1に示す如く、本形態例においては、先に図3で説明した従来の二段過給システムと基本的な構成が同じ二段過給システムを対象としているが、ここに図示している例では、エンジン1からの排気2を高圧段タービン3を迂回させて低圧段タービン7に導くバイパス流路12が設けられ、該バイパス流路12の途中に流路を開閉するバイパスバルブ13が設けられている。
【0019】
また、高圧段ターボチャージャ6の高圧段タービン3に回転センサ14が取り付けられ、該回転センサ14により前記高圧段タービン3のタービン回転数が検出されて、その検出信号14aがエンジン制御コンピュータ(ECU:Electronic Control Unit)を成す制御装置15に入力されるようになっている。
【0020】
ここで、前記制御装置15にあっては、前記回転センサ14からの検出信号14aに基づき高圧段タービン3のタービン回転数を回転センサ14により常時監視し、車両の加速又は減速が確認された時に、高圧段タービン3の現在のタービン回転数と前回エンジンサイクルでのタービン回転数とに基づき次回エンジンサイクルでのタービン回転数を推定し、その推定値が加速時と減速時の夫々について個別に規定されている規定値を下まわっていなかった時にバイパスバルブ13を開操作する制御信号15aを出力してバイパス流路12を開通するようになっている。
【0021】
即ち、前記制御装置15においては、図2にフローチャートで示す如き制御手順でバイパスバルブ13の制御が実施されるようになっており、先ずステップS1で車両の加速又は減速が判定されるようになっている。
【0022】
ここで、前記制御装置15は、エンジン制御コンピュータ(ECU:Electronic Control Unit)も兼ねているので、アクセル開度や燃料噴射量といった情報を把握しており、これらアクセル開度や燃料噴射量の単位時間当たりの変化率から車両の加減速の判定を行うことが可能である。
【0023】
そして、ステップS1で加速又は減速の判定が成された場合には、次のステップS2へと進んで、現在のタービン回転数と前回エンジンサイクルでのタービン回転数とに基づき次回エンジンサイクルでのタービン回転数が推定され、この推定値が加速時と減速時の夫々について個別に規定されている規定値を下まわっているか否かが判定されるようになっている。
【0024】
ここで、次回エンジンサイクルでのタービン回転数を推定するにあたっては、現在のタービン回転数に対し、前回エンジンサイクルから現在までのタービン回転数の時間変化量を、次回エンジンサイクルまでの回転数増減分として合算すれば良く、例えば、ステップS1で加速の判定が出ていたならば、前回エンジンサイクルから現在までのタービン回転数の時間変化量を、次回エンジンサイクルまでの回転数増加分として加算すれば良く、ステップS1で減速の判定が出ていたならば、前回エンジンサイクルから現在までのタービン回転数の時間変化量を、次回エンジンサイクルまでの回転数減少分として減算すれば良い。
【0025】
また、バイパスバルブ13の応答遅れに相当するタービン回転数の時間変化量を更に合算して推定値を算出することが好ましく、このようにすれば、より精度の高い推定値を算出することが可能となる。尚、この時間変化量については、例えば、エンジン回転数と負荷の二次元制御マップからバイパスバルブ13の応答遅れに相当するタービン回転数の時間変化量を読み出すことが可能である。
【0026】
この際、バイパスバルブ13の応答遅れに相当するタービン回転数の時間変化量を読み出すための二次元制御マップは、加速用と減速用の二種類を制御装置15に備えておき、加速時にはプラスの値で、減速時にはマイナスの値で読み出されるようにしておけば良い。
【0027】
更に、加速時用として規定される規定値は、高圧段タービン3がオーバーシュートを起こさない範囲のタービン回転数に規定されたものであり、減速時用として規定される規定値は、減速後の定常時にも排気の再循環量が過剰とならない範囲のタービン回転数に規定されたものである。
【0028】
そして、先のステップS2で推定値が規定値を下まわっていないと判定された場合には、ステップS3へ進んでバイパスバルブ13を開操作する制御信号15aが出力され、推定値が規定値を下まわっていると判定された場合には、ステップS4へ進んで既に車両が加速又は減速の状態にないか否かが判定され、車両の加速又は減速が継続していれば、ステップS2に戻って同じ制御が繰り返され、既に車両の加速又は減速が終わっていれば、加減速時の制御は終了することになる。
【0029】
前述の如き図2の制御手順でバイパスバルブ13の制御を実施すれば、車両の加速時に高圧段タービン3の回転数が急上昇しても、そのタービン回転数が回転センサ14により常時監視され、次回エンジンサイクルでのタービン回転数の推定値が規定値以上となった時にバイパスバルブ13が開いてバイパス流路12が開通され、エンジン1からの排気が高圧段タービン3を迂回して流れることでタービン回転数が下がり、高圧段タービン3のオーバーシュートが防止されることになる。
【0030】
一方、車両の減速時にタービン慣性により高圧段タービン3が回り続けても、そのタービン回転数が回転センサ14により常時監視され、次回エンジンサイクルでのタービン回転数の推定値が規定値を下まわっていなかった時にバイパスバルブ13が開いてバイパス流路12が開通され、エンジン1からの排気が高圧段タービン3を迂回して流れることでタービン回転数が惰性回転を続けずに早期に下がり、減速後の定常時に排気の再循環量が過剰となってエンジン1での燃焼性が悪化することで起こる煙の発生が防止されることになる。
【0031】
従って、上記形態例によれば、低速中負荷域での燃費向上、トルクアップや高EGR率の実現のために、高圧段ターボチャージャ6の小径化を図っても、高圧段タービン3が加減速時に過回転を起こすことを確実に防止することができるので、加速時における高圧段タービン3のオーバーシュートや、減速後の定常復帰で排気の再循環量が過剰となることに伴う煙の発生を確実に防止することができる。
【0032】
尚、本発明の二段過給システムにおける高圧段タービンの過回転防止方法は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、次回エンジンサイクルでのタービン回転数の推定値の算出については、先に形態例で説明した以外の手法を用いることも可能であること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
1 エンジン
2 排気
3 高圧段タービン
4 高圧段コンプレッサ
5 吸気
6 高圧段ターボチャージャ
7 低圧段タービン
8 低圧段コンプレッサ
9 低圧段ターボチャージャ
10 EGR配管
11 EGRバルブ
12 バイパス流路
13 バイパスバルブ
14 回転センサ
14a 検出信号
15 制御装置
15a 制御信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両搭載のエンジンから送出される排気によって高圧段タービンを作動させ且つ高圧段コンプレッサで圧縮した吸気をエンジンへ送給する高圧段ターボチャージャと、該高圧段ターボチャージャの高圧段タービンから送出される排気によって低圧段タービンを作動させ且つ低圧段コンプレッサで圧縮した吸気を前記高圧段コンプレッサへ送給する低圧段ターボチャージャとを備えた二段過給システムにおける高圧段タービンの過回転防止方法であって、エンジンからの排気を高圧段タービンを迂回させて低圧段タービンに導くバイパス流路と、該バイパス流路の途中に装備されて流路を開閉するバイパスバルブとを備え、高圧段タービンのタービン回転数を回転センサにより常時監視し、車両の加速又は減速が確認された時に、高圧段タービンの現在のタービン回転数と前回エンジンサイクルでのタービン回転数とに基づき次回エンジンサイクルでのタービン回転数を推定し、その推定値が加速時と減速時の夫々について個別に規定されている規定値を下まわっていなかった時にバイパスバルブを開けてバイパス流路を開通することを特徴とする二段過給システムにおける高圧段タービンの過回転防止方法。
【請求項2】
次回エンジンサイクルでのタービン回転数を推定するにあたり、現在のタービン回転数に対し、前回エンジンサイクルから現在までのタービン回転数の時間変化量を、次回エンジンサイクルまでの回転数増減分として合算すると共に、バイパスバルブの応答遅れに相当するタービン回転数の時間変化量を更に合算して推定値を算出することを特徴とする請求項1に記載の二段過給システムにおける高圧段タービンの過回転防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−52584(P2011−52584A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201763(P2009−201763)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】