説明

二輪車用後部油圧緩衝器

【課題】 車両のブレーキ操作に連動して後部油圧緩衝器の伸びを抑え、後輪の接地抜けを防止すること。
【解決手段】 二輪車用後部油圧緩衝器10において、油溜室70がピストン側油室13Bに連通する第1の油溜室71と第1の油溜室71に連通する第2の油溜室72に分断され、第1の油溜室71を第1の加圧ガス室71Aにより加圧し、第2の油溜室72を第2の加圧ガス室72Aにより加圧し、第1の油溜室71と第2の油溜室72の連通部に絞り弁78を設け、車両のブレーキ操作に連動して該絞り弁78を絞り操作し、第1の油溜室71から第2の油溜室72への油の流れを許容するチェック弁79を設けたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二輪車用後部油圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車用懸架装置として、特許文献1に記載の如く、前輪の上下動に応じた油圧を発生する前部油圧緩衝器と後輪の上下動に応じた油圧を発生する後部油圧緩衝器とを油圧調整装置を介して連結することにより車体の姿勢変化を抑制するようにしたものがある。車両のブレーキ操作により前部油圧緩衝器が沈み込むとき、この前部油圧緩衝器の油圧変化によって作動する油圧調整装置が後部油圧緩衝器を収縮させて車体重心を下げ、結果として車体重心に作用する慣性力が前輪の接地点まわりに発生する車体浮き上がり回転力を抑える。後輪の接地抜けを防止し、車体の安定性を向上できる。
【特許文献1】特開2005-231603
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の二輪車用懸架装置では、前部油圧緩衝器と後部油圧緩衝器の他に油圧調整装置を必要とするし、この油圧調整装置を前部油圧緩衝器と後部油圧緩衝器のそれぞれにつなぐ油圧ホース配管が必要になる。
【0004】
また、車両のブレーキ操作に関係しない前部油圧緩衝器の油圧変化も後部油圧緩衝器の作動に影響し、ブレーキ操作そのものだけにより後部油圧緩衝器の伸縮動作を制御するところがない。
【0005】
本発明の課題は、車両のブレーキ操作に連動して後部油圧緩衝器の伸びを抑え、後輪の接地抜けを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、ダンパシリンダ内に油室を形成し、ダンパシリンダ内にピストンロッドを摺動自在に挿入し、該ピストンロッドの先端部に設けたピストンにより、ダンパシリンダ内の油室を、ピストンロッドを収容するロッド側油室と、ピストンロッドを収容しないピストン側油室に区画し、ピストンに設けたロッド側油室とピストン側油室の連絡路に減衰力発生装置を設け、ダンパシリンダにサブタンクを結合し、ダンパシリンダ内のピストン側油室に連通する油溜室をサブタンクに設け、ピストン側油室と油溜室の連絡路に圧側減衰力発生装置を設けた二輪車用後部油圧緩衝器において、油溜室がピストン側油室に連通する第1の油溜室と第1の油溜室に連通する第2の油溜室に分断され、第1の油溜室を第1の加圧ガス室により加圧し、第2の油溜室を第2の加圧ガス室により加圧し、第1の油溜室と第2の油溜室の連通部に絞り弁を設け、車両のブレーキ操作に連動して該絞り弁を絞り操作し、第1の油溜室から第2の油溜室への油の流れを許容するチェック弁を設けたものである。
【0007】
請求項2の発明は、ダンパシリンダ内に油室を形成し、ダンパシリンダ内にピストンロッドを摺動自在に挿入し、該ピストンロッドの先端部に設けたピストンにより、ダンパシリンダ内の油室を、ピストンロッドを収容するロッド側油室と、ピストンロッドを収容しないピストン側油室に区画し、ピストンに設けたロッド側油室とピストン側油室の連絡路に減衰力発生装置を設け、ダンパシリンダにサブタンクを結合し、ダンパシリンダ内のピストン側油室に連通する油溜室をサブタンクに設け、ピストン側油室と油溜室の連絡路に圧側減衰力発生装置を設けた二輪車用後部油圧緩衝器において、油溜室を加圧する加圧ガス室を設け、この加圧ガス室が、油溜室を直接的に加圧する第1の加圧ガス室と、第1の加圧ガス室に連通する第2の加圧ガス室に分断され、第1の加圧ガス室と第2の加圧ガス室の連通部に絞り弁を設け、車両のブレーキ操作に連動して該絞り弁を絞り操作し、第1の加圧ガス室から第2の加圧ガス室への加圧ガスの流れを許容するチェック弁を設けたものである。
【発明の効果】
【0008】
(請求項1)
後部油圧緩衝器(リアクッション)のピストンロッドを伸長させるロッド反力は、油溜室に連通するピストン側油室の圧力にピストンロッドの断面積を乗じたものである。ブレーキ操作に連動して絞り弁が絞られ又は閉じられた後は、ピストン側油室には第1の油溜室だけが連通し、第2の油溜室は切り離される。ピストン側油室の圧力は、第1の油溜室を加圧する第1の加圧ガス室の圧力だけにより加圧され、第2の油溜室を加圧する第2の加圧ガス室の圧力分が減じられる。これにより、後部油圧緩衝器のピストンロッドを伸長させるロッド反力は低下し、ピストンロッドの伸びは抑えられる。
【0009】
(a)ブレーキ操作により前部油圧緩衝器(フロントフォーク)が沈み込んでも、後部油圧緩衝器のピストンロッドの伸びが抑えられるから、車体重心の上昇が抑えられ、車体重心に作用する慣性力が前輪の接地点まわりに発生する車体浮き上がり回転力も抑えられる結果、後輪の接地抜けを防止し、車体の安定性を向上できる。
【0010】
(b)後部油圧緩衝器だけにより、上述(a)の如くに、車両のブレーキ操作に連動して後部油圧緩衝器の伸びを抑え、後輪の接地抜けを防止することができる。絞り弁が閉じられているときに、後輪が路面から突き上げられても、ロッド反力が低いから、この突き上げの吸収性が良い。
【0011】
(c)第1の油溜室から第2の油溜室への油の流れを許容するチェック弁を設けた。絞り弁が閉じられているときに、後輪が路面から突き上げられても、この突き上げによるダンパシリンダ内の圧力をチェック弁の開き動作によって確実に吸収できる。
【0012】
(請求項2)
後部油圧緩衝器(リアクッション)のピストンロッドを伸長させるロッド反力は、油溜室に連通するピストン側油室の圧力にピストンロッドの断面積を乗じたものである。ブレーキ操作に連動して絞り弁が絞られ又は閉じられた後は、ピストン側油室及び油溜室の圧力は、第1の加圧ガス室の圧力だけにより加圧され、第2の加圧ガス室の圧力分が減じられる。これにより、後部油圧緩衝器のピストンロッドを伸長させるロッド反力は低下し、ピストンロッドの伸びは抑えられる。
【0013】
(d)ブレーキ操作により前部油圧緩衝器(フロントフォーク)が沈み込んでも、後部油圧緩衝器のピストンロッドの伸びが抑えられるから、車体重心の上昇が抑えられ、車体重心に作用する慣性力が前輪の接地点まわりに発生する車体浮き上がり回転力も抑えられる結果、後輪の接地抜けを防止し、車体の安定性を向上できる。
【0014】
(e)後部油圧緩衝器だけにより、上述(d)の如くに、車両のブレーキ操作に連動して後部油圧緩衝器の伸びを抑え、後輪の接地抜けを防止することができる。絞り弁が閉じられているときに、後輪が路面から突き上げられても、ロッド反力が低いから、この突き上げの吸収性が良い。
【0015】
(f)第1の加圧ガス室から第2のガス室への加圧ガスの流れを許容するチェック弁を設けた。絞り弁が閉じられているときに、後輪が路面から突き上げられても、この突き上げによるダンパシリンダ内の圧力をチェック弁の開き動作によって確実に吸収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は実施例1の後部油圧緩衝器を示す全体図、図2はダンパシリンダを示す断面図、図3はサブタンクを示す断面図、図4は実施例1の作動を示す模式図、図5は実施例2の後部油圧緩衝器の要部を示す断面図、図6は実施例2の作動を示す模式図である。
【実施例】
【0017】
(実施例1)(図1〜図4)
自動二輪車のリアクッションを構成する後部油圧緩衝器10は、図1に示す如く、シリンダ11に中空ピストンロッド12を挿入し、シリンダ11とピストンロッド12の外側部に懸架スプリング13を介装している。
【0018】
シリンダ11は車体側取付部14を備え、ピストンロッド12に車輪側取付部15を備える。シリンダ11の外周部にはばね受け調整装置16とばね受け17が螺着され、ピストンロッド12にはばね受け18が固定されており、ばね受け17とばね受け18の間に懸架スプリング13を介装し、ばね受け調整装置16により懸架スプリング13の設定長さを調整可能としている。懸架スプリング13の弾発力が、車両が路面から受ける衝撃力を吸収する。
【0019】
シリンダ11は、ピストンロッド12が貫通するロッドガイド21を備える。ロッドガイド21は、Oリング22を介してシリンダ11に液密に挿着されるとともに、オイルシール23、ブッシュ24、ダストシール25を備える内径部にピストンロッド12を液密に摺動自在としている。
【0020】
尚、シリンダ11は、ロッドガイド21の外側に圧側バンパ26を備え、ピストンロッド12が備えるバンパストッパ27を圧側バンパ26に衝合して最圧縮ストロークを規制する。また、シリンダ11は、ロッドガイド21の内側端面にリバウンドスプリング28を備え、ピストンロッド12が備えるピストンボルト29をリバウンドスプリング28に衝合して伸び切りストロークを規制する。
【0021】
後部油圧緩衝器10は、ピストンバルブ装置(伸側減衰力発生装置)30と、ベースバルブ装置(圧側減衰力発生装置)50とを有している。後部油圧緩衝器10は、ピストンバルブ装置30とベースバルブ装置50が発生する減衰力により、懸架スプリング13による衝撃力の吸収に伴うシリンダ11とピストンロッド12の伸縮振動を抑制する。
【0022】
(ピストンバルブ装置30)(図2)
後部油圧緩衝器10は、シリンダ11内に油室31を形成し、シリンダ11内に摺動自在に挿入しているピストンロッド12の先端部のピストンボルト29に設けたピストン32により、油室31を、ピストンロッド12を収容するロッド側油室31Aと、ピストンロッド12を収容しないピストン側油室31Bに区画し、ピストン32にピストンバルブ装置30を設けている。
【0023】
ピストンバルブ装置30は、ロッド側油室31Aとピストン側油室31Bの連絡路としての伸側流路33(不図示)と圧側流路34をピストンの32に設け、伸側流路33と圧側流路34のそれぞれに伸側ディスクバルブ33Aと圧側ディスクバルブ34Aを備える。ピストンバルブ装置30では、伸側ディスクバルブ33Aの撓み変形に基づく伸側減衰力を、圧側ディスクバルブ34Aの撓み変形に基づく圧側減衰力より大きくなるように設定している。
【0024】
また、ピストンバルブ装置30は、スライダ装置41により操作される減衰力調整ロッド42をピストンロッド12の中空部に進退自在に通し、この調整ロッド42の先端のニードル弁43により、ピストンロッド12に設けてあるロッド側油室31Aとピストン側油室31Bとのバイパス流路44の開口面積を調整可能としている。バイパス流路44のピストン側油室31Bに臨む開口には伸側チェック弁45が設けられ、後部油圧緩衝器10の伸び時におけるバイパス流路44からピストン側油室31Bへの流れのみを許容している。
【0025】
従って、油圧緩衝器10の圧縮時には、ピストン側油室31Aの油が圧側流路34を通り圧側ディスクバルブ34Aを開いてロッド側油室31Aに導かれる。
【0026】
また、油圧緩衝器10の伸長時には、シリンダ11とピストンロッド12の相対速度が低速のとき、ロッド側油室31Aの油がニードル弁43のあるバイパス流路44を通ってピストン側油室31Bへ流れ、この間のニードル弁43による絞り抵抗により伸側の減衰力を生ずる。この減衰力は、スライダ装置41の回転操作により調整される。
【0027】
また、油圧緩衝器10の伸長時で、シリンダ11とピストンロッド12の相対速度が中高速のとき、ロッド側油室31Aの油が伸側流路33を通り伸側ディスクバルブ33Aを撓み変形させてピストン側油室31Bへ導かれ、伸側の減衰力を生ずる。
【0028】
(ベースバルブ装置50)(図3)
油圧緩衝器10は、シリンダ11にサブタンク51を一体的に結合し、シリンダ11のピストン側油室31Bに連通する油溜室70をサブタンク51に設け、ピストン側油室31Bと油溜室70を連結するようにサブタンク51に設けた連絡路52にベースバルブ装置50を設けている。
【0029】
ベースバルブ装置50は、図3に示す如く、サブタンク51のキャップ53A、53Bに固定されたホルダ53Cの先端側に、連絡路52を2室に区画する隔壁部材54がナットにより固定され、隔壁部材54にはそれらの2室を連絡する圧側流路55と伸側流路56が設けられ、圧側流路55と伸側流路56のそれぞれに圧側ディスクバルブ55Aと伸側ディスクバルブ56Aを備える。
【0030】
ベースバルブ装置50は、ホルダ53C内に隔壁部材54の圧側流路55と伸側流路56のバイパス流路57を形成し、バイパス流路57にニードル弁58を介装し、ニードル弁58はキャップ53Aに回動操作可能に設けたアジャストロッド59により進退自在に操作される。バイパス流路57の油溜室70側に臨む開口には圧側チェック弁60が設けられ、油圧緩衝器10の圧縮時におけるバイパス流路57から油溜室70への流れのみを許容している。
【0031】
また、ベースバルブ装置50は、キャップ53Aの外周にアジャストレバー61を回動操作可能に設け、このアジャストレバー61はキャップ53Bに装填してある押動ピン62を介して、圧側ディスクバルブ55Aのための初期荷重設定ばね63の初期荷重を調整する。
【0032】
従って、後部油圧緩衝器10の圧縮時には、シリンダ11に進入したピストンロッド12の進入容積分の油が、ピストン側油室31Bから連絡路52を通って油溜室70に排出される。
【0033】
このとき、シリンダ11とピストンロッド12の相対速度が低速のときには、バイパス流路57に設けてあるニードル弁58による絞り抵抗により、圧側の減衰力を得る。この減衰力は、アジャストロッド59によるニードル弁58の位置調整により調整される。
【0034】
また、シリンダ11とピストンロッド12の相対速度が中高速のときには、圧側流路55に設けてある圧側ディスクバルブ55Aの撓み変形により、圧側の減衰力を得る。この減衰力は、アジャストレバー61によりばね63の初期荷重を調整することにより調整される。
【0035】
後部油圧緩衝器10の伸長時には、シリンダ11から退出するピストンロッド12の退出容積分の油が、油溜室70から伸側流路56、伸側ディスクバルブ56Aを通ってピストン側油室31Bに返送される。
【0036】
しかるに、後部油圧緩衝器10は、車両のブレーキ操作に連動して伸びを抑え、後輪の接地抜けを防止するため、以下の構成を具備する。
【0037】
後部油圧緩衝器10は、図3に示す如く、サブタンク51に設けられる油溜室70を、サブタンク51に設けた固定隔壁部51Aにより、ピストン側油室31Bに連絡路52を介して連通する第1の油溜室71と、第1の油溜室71に連通する第2の油溜室72に2分し、第1の油溜室71を第1の加圧ガス室71Aにより加圧し、第2の油溜室72を第2の加圧ガス室72Aにより加圧する。第1の加圧ガス室71Aは、サブタンク51に形成される第1の油溜室71の背面側に液密に摺動可能に装填されるフリーピストン73と、サブタンク51における該フリーピストン73の背面側に螺着されて液密に封着される封止キャップ74との間に区画され、加圧ガスを封入して構成される。第2の加圧ガス室72Aは、サブタンク51に形成される第2の油溜室72の背面側に液密に装填されるダイアフラム75と、ダイアフラム75の基部が嵌着されてサブタンク51に止め輪により係止されて液密に封着される封止キャップ76との間に区画され、加圧ガスを封入して構成される。封止キャップ76に第2の加圧ガス室72Aのためのガス圧力調整部76Aを備える。
【0038】
ここで、後部油圧緩衝器10は、サブタンク51の固定隔壁部51Aに設けた第1の油溜室71と第2の油溜室72の連通部77に絞り弁78を設け、該絞り弁78は車両のブレーキ操作に連動して絞り操作され、連通部77の通路面積を絞り又は閉じる。絞り弁78は、ブレーキ操作により駆動される機械的操作部又は電気的操作部により絞り操作される。
【0039】
また、後部油圧緩衝器10は、第1の油溜室71から第2の油溜室72への油の流れを許容し、第2の油溜室72から第1の油溜室71への油の流れを阻止するチェック弁79をサブタンク51の固定隔壁部51A内に設けてある。
【0040】
以下、後部油圧緩衝器10が油溜室70を第1の油溜室71と第2の油溜室72に2分し、これらの連通部77に絞り弁78を設け、この絞り弁78をブレーキ操作に連動して絞り操作することの作用について説明する。尚、後部油圧緩衝器10のピストンロッド12を伸長させるロッド反力は、油溜室70に連通するピストン側油室31Bの圧力にピストンロッド12の断面積Aを乗じたものである。
【0041】
(1)油圧緩衝器10の図4(A)に示す伸切端で、絞り弁78が開き状態にある初期段階で、第1の加圧ガス室71Aの容積はV0、圧力はPa、第2の加圧ガス室72Aの容積はV10、圧力はPaである。尚、ピストンロッド12の断面積はAとする。
【0042】
(2)車両の走行中、ブレーキ操作の直前で、油圧緩衝器10は図4(B)に示す如くの圧縮状態にあり、絞り弁78は開き状態にあるとき、ピストンロッド12の圧縮ストロークStにより、第1の加圧ガス室71Aの容積はVa、圧力はPbに変化し、第2の加圧ガス室72Aの容積はVb、圧力はPbに変化する。ピストンロッド12の進入容積は、A=1.54cm2、St=3cmとするとき、4.6cm3になる。
【0043】
(3)上述(2)においてブレーキ操作されると、絞り弁78が閉じられ、油圧緩衝器10は図4(C)に示す如くの伸切端へ移行していく。絞り弁78が閉じられるので、ピストンロッド12が退出する容積4.6cm3の全てが第1の加圧ガス室71Aの容積の増加分になる。第1の加圧ガス室71Aの容積をV、圧力はPとする。
【0044】
(4)上述(1)、(2)においてボイルの法則(PV=一定)を適用すると、
PaV0=PbVa …(1)
PaV10=PbVb …(2)
であり、Pa=10kgf/cm2、V0=15.7cm3、V10=88cm3とするとき、Va=157/Pb、Vb=880/Pbになる。第1の加圧ガス室71Aと第2の加圧ガス室72Aの容積の変化量の合計はピストンロッド12の進入容積4.6cm3に相当することから、
第1の加圧ガス室71Aの容積の変化量=15.7−Va …(3)
第2の加圧ガス室72Aの容積の変化量=88−Vb …(4)
(15.7−Va)+(88−Vb)=4.6 …(5)
より、
Va+Vb=99.1 …(6)
になる。この(6)式に前述(1)式、(2)式を代入し、
Va+Vb=157/Pb+880/Pb=99.1より、Pb=10.46kgf/cm2になる。
【0045】
前述(2)のブレーキ操作直前の第1の加圧ガス室71Aの圧力がPb=10.46kgf/cm2となる。ここで、前述(1)、(2)の第1の加圧ガス室71AにPV=一定を適用すると、PaV0=PbVa、10×15.7=10.46×Vaより、Va=15cm3になる。
【0046】
前述(3)において、第1の加圧ガス室71Aの容積は、ピストンロッド12の進入容積の全てが増加するから、ここにPV=一定を適用すると、
PbVa=PV …(7)
になる。これにより、10.46×15=P(15+4.6)、P=8kgf/cm2を得る。
【0047】
即ち、ブレーキ操作直前の第1の加圧ガス室71A及び第2の加圧ガス室72Aの圧力はPa=10kgf/cm2であり、ピストン側油室31BはこのPaにより加圧され、ピストンロッド12に及ぶロッド反力F1は、F1=Pa×A=10Aになる。
【0048】
これに対し、ブレーキ操作時の第1の加圧ガス室71Aの圧力はP=8kgf/cm2であり、ピストン側油室31BはこのPにより加圧され、ピストンロッド12に及ぶロッド圧力F2は、F2=P×A=8Aになる。
【0049】
従って、車両がブレーキ操作されると、油圧緩衝器10のピストンロッド12を伸長させるロッド圧力F2は低下し、ピストンロッド12の伸びは抑えられる。
【0050】
従って、本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)ブレーキ操作により前部油圧緩衝器(フロントフォーク)が沈み込んでも、後部油圧緩衝器10のピストンロッド12の伸びが抑えられるから、車体重心の上昇が抑えられ、車体重心に作用する慣性力が前輪の接地点まわりに発生する車体浮き上がり回転力も抑えられる結果、後輪の接地抜けを防止し、車体の安定性を向上できる。
【0051】
(b)後部油圧緩衝器10だけにより、上述(a)の如くに、車両のブレーキ操作に連動して後部油圧緩衝器10の伸びを抑え、後輪の接地抜けを防止することができる。絞り弁78が閉じられているときに、後輪が路面から突き上げられても、ロッド反力が低いから、この突き上げの吸収性が良い。
【0052】
(c)第1の油溜室71から第2の油溜室72への油の流れを許容するチェック弁79を設けた。絞り弁78が閉じられているときに、後輪が路面から突き上げられても、この突き上げによるダンパシリンダ内の圧力をチェック弁79の開き動作によって確実に吸収できる。
【0053】
(実施例2)(図5、図6)
実施例2の後部油圧緩衝器10は、基本的構成を実施例1の後部油圧緩衝器10と同一にするとともに、車両のブレーキ操作に連動して伸びを抑え、後輪の接地抜けを防止するため、以下の構成を具備する。
【0054】
後部油圧緩衝器10は、図5に示す如く、ダンパシリンダ11に中間ハウジング80を介してサブタンク90を一体的に結合し、ダンパシリンダ11のピストン側油室31Bに連通する油溜室70をサブタンク90に設け、ピストン側油室31Bと油溜室70を連絡するように中間ハウジング80に設けた連絡路81に前述のベースバルブ装置50を設けている。
【0055】
後部油圧緩衝器10は、図5に示す如く、油溜室70を加圧する加圧ガス室100をサブタンク90に設ける。加圧ガス室100は、サブタンク90に設けた固定隔壁部91により、油溜室70を直接的に加圧する第1の加圧ガス室101と、第1の加圧ガス室101に連通する第2の加圧ガス室102に2分される。第1の加圧ガス室101は、サブタンク90に形成される油溜室70の背面側に液密に摺動自在に装填されるフリーピストン103と、サブタンク90における該フリーピストン103の背面側に設けられている固定隔壁部91との間に区画される。第2の加圧ガス室102は、上ガス室102Aと下ガス室102Bからなる。第2の加圧ガス室102の上ガス室102Aは、サブタンク90の固定隔壁部91の背面側に液密に装填されるダイアフラム104と、ダイアフラム104の基部が嵌着されてサブタンク90に止め輪により係止されて液密に封着される封止キャップ105との間に区画され、加圧ガスを封入して構成される。封止キャップ105に上ガス室102Aのためのガス圧力調整部105Aを備える。第2の加圧ガス室102の下ガス室102Bは、サブタンク90の固定隔壁部91とダイアフラム104との間に区画される。第2の加圧ガス室102は、上ガス室102Aと下ガス室102Bを単にダイアフラム104により区画し、上ガス室102Aと下ガス室102Bの各ガス圧力を常に同一とするものであり、ダイアフラム104を撤去して上ガス室102Aと下ガス室102Bの区別をなくした単一室としても良い。
【0056】
ここで、後部油圧緩衝器10は、サブタンク90の固定隔壁部91に設けた第1の加圧ガス室101と第2の加圧ガス室102の連通部106に絞り弁107を設け、該絞り弁107は車両のブレーキ操作に連動して絞り操作され、連通部106の通路面積を絞り又は閉じる。絞り弁107は、ブレーキ操作により駆動される機械的操作部又は電気的操作部により絞り操作される。
【0057】
また、後部油圧緩衝器10は、第1の加圧ガス室101から第2の加圧ガス室102への加圧ガスの流れを許容し、第2の加圧ガス室102から第1の加圧ガス室101への加圧ガスの流れを阻止するチェック弁108をサブタンク90の固定隔壁部91内に設けてある。
【0058】
以下、後部油圧緩衝器10が加圧ガス室100を第1の加圧ガス室101と第2の加圧ガス室102に2分し、これらの連通部106に絞り弁107を設け、この絞り弁107をブレーキ操作に連動して絞り操作することの作用について説明する。尚、後部油圧緩衝器10のピストンロッド12を伸長させるロッド反力は、油溜室70に連通するピストン側油室31Bの圧力にピストンロッド12の断面積Aを乗じたものである。
【0059】
(1)後部油圧緩衝器10の図6(A)に示す伸切端で、絞り弁107が開き状態にある初期段階で、第1の加圧ガス室101の容積はV0、圧力はP0、第2の加圧ガス室102の容積はV10、圧力はP0であるとする。尚、ピストンロッド12の断面積はA、加圧ガス室100(101、102)の断面積はBとする。
【0060】
(2)車両の走行中、ブレーキ操作の直前で、後部油圧緩衝器10は図6(B)に示す如くの圧縮状態にあり、絞り弁107は開き状態にあるとき、ピストンロッド12の圧縮ストロークStにより、第1の加圧ガス室101の容積はVb、圧力はPbに変化し、第2の加圧ガス室102の圧力もPbに変化する。第2の加圧ガス室102の容積はV10である。
【0061】
(3)上述(2)においてブレーキ操作されると、絞り弁107が閉じられ、後部油圧緩衝器10は図6(C)に示す如くの伸切側へ移行していく。第1の加圧ガス室101の容積はV0、圧力はPaに変化する。第2の加圧ガス室102の容積はV10、圧力はPbである。
【0062】
(4)上述(1)、(2)においてボイルの法則(PV=一定)を適用すると、
P0(V10+V0)=Pb(V10+Vb) …(1)
となる。また、上述(2)、(3)においてボイルの法則を適用すると、
PbVb=PaV0 …(2)
となる。
【0063】
このとき、後部油圧緩衝器10の各諸元を以下の通りとする。V0=25.1cm3(B=12.57cm2、第1の加圧ガス室101の初期高さ2cm)、Vb=20.5cm3(A=1.54cm2、St=3cm、ピストンロッド12の進入体積4.6cm3)、P0=10kgf/cm2、V10=125.7cm3(B=12.57cm2、第2の加圧ガス室102の高さ10cm)
【0064】
後部油圧緩衝器10の各諸元を前述(1)式に代入し、Pb=10.3kgf/cm2を得る。他方、後部油圧緩衝器10の各諸元を前述(2)式に代入し、Pa=8.3kgf/cm2を得る。
【0065】
即ち、ブレーキ操作直前の第1の加圧ガス室101及び第2の加圧ガス室102の圧力はPb=10.3kgf/cm2であり、ピストン側油室31BはこのPbにより加圧され、ピストンロッド12に及ぶロッド反力F1は、F1=Pb×A=10.3Aになる。
【0066】
これに対し、ブレーキ操作時の第1の加圧ガス室101の圧力はPa=8.3kgf/cm2であり、ピストン側油室31BはこのPaにより加圧され、ピストンロッド12に及ぶロッド反力F2は、F2=Pa×A=8.3Aになる。
【0067】
従って、車両がブレーキ操作されたとき、後部油圧緩衝器10のピストンロッド12を伸長させるロッド反力F2は低下し、ピストンロッド12の伸びは抑えられる。
【0068】
従って、本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)ブレーキ操作により前部油圧緩衝器(フロントフォーク)が沈み込んでも、後部油圧緩衝器10のピストンロッド12の伸びが抑えられるから、車体重心の上昇が抑えられ、車体重心に作用する慣性力が前輪の接地点まわりに発生する車体浮き上がり回転力も抑えられる結果、後輪の接地抜けを防止し、車体の安定性を向上できる。
【0069】
(b)後部油圧緩衝器10だけにより、上述(a)の如くに、車両のブレーキ操作に連動して後部油圧緩衝器10の伸びを抑え、後輪の接地抜けを防止することができる。絞り弁107が閉じられているときに、後輪が路面から突き上げられても、ロッド反力が低いから、この突き上げの吸収性が良い。
【0070】
(c)第1の加圧ガス室101から第2のガス室102への加圧ガスの流れを許容するチェック弁108を設けた。絞り弁107が閉じられているときに、後輪が路面から突き上げられても、この突き上げによるダンパシリンダ11内の圧力をチェック弁108の開き動作によって確実に吸収できる。
【0071】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は実施例1の後部油圧緩衝器を示す全体図である。
【図2】図2はダンパシリンダを示す断面図である。
【図3】図3はサブタンクを示す断面図である。
【図4】図4は実施例1の作動を示す模式図である。
【図5】図5は実施例2の後部油圧緩衝器の要部を示す断面図である。
【図6】図6は実施例2の作動を示す模式図である。
【符号の説明】
【0073】
10 後部油圧緩衝器
11 ダンパシリンダ
12 ピストンロッド
30 ピストンバルブ装置(減衰力発生装置)
31 油室
31A ロッド側油室
31B ピストン側油室
32 ピストン
50 ベースバルブ装置(圧側減衰力発生装置)
51 サブタンク
70 油溜室
71 第1の油溜室
71A 第1の加圧ガス室
72 第2の油溜室
72A 第2の加圧ガス室
77 連通部
78 絞り弁
79 チェック弁
90 サブタンク
100 加圧ガス室
101 第1の加圧ガス室
102 第2の加圧ガス室
106 連通部
107 絞り弁
108 チェック弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンパシリンダ内に油室を形成し、
ダンパシリンダ内にピストンロッドを摺動自在に挿入し、該ピストンロッドの先端部に設けたピストンにより、ダンパシリンダ内の油室を、ピストンロッドを収容するロッド側油室と、ピストンロッドを収容しないピストン側油室に区画し、
ピストンに設けたロッド側油室とピストン側油室の連絡路に減衰力発生装置を設け、
ダンパシリンダにサブタンクを結合し、ダンパシリンダ内のピストン側油室に連通する油溜室をサブタンクに設け、
ピストン側油室と油溜室の連絡路に圧側減衰力発生装置を設けた二輪車用後部油圧緩衝器において、
油溜室がピストン側油室に連通する第1の油溜室と第1の油溜室に連通する第2の油溜室に分断され、第1の油溜室を第1の加圧ガス室により加圧し、第2の油溜室を第2の加圧ガス室により加圧し、
第1の油溜室と第2の油溜室の連通部に絞り弁を設け、車両のブレーキ操作に連動して該絞り弁を絞り操作し、
第1の油溜室から第2の油溜室への油の流れを許容するチェック弁を設けたことを特徴とする二輪車用後部油圧緩衝器。
【請求項2】
ダンパシリンダ内に油室を形成し、
ダンパシリンダ内にピストンロッドを摺動自在に挿入し、該ピストンロッドの先端部に設けたピストンにより、ダンパシリンダ内の油室を、ピストンロッドを収容するロッド側油室と、ピストンロッドを収容しないピストン側油室に区画し、
ピストンに設けたロッド側油室とピストン側油室の連絡路に減衰力発生装置を設け、
ダンパシリンダにサブタンクを結合し、ダンパシリンダ内のピストン側油室に連通する油溜室をサブタンクに設け、
ピストン側油室と油溜室の連絡路に圧側減衰力発生装置を設けた二輪車用後部油圧緩衝器において、
油溜室を加圧する加圧ガス室を設け、この加圧ガス室が、油溜室を直接的に加圧する第1の加圧ガス室と、第1の加圧ガス室に連通する第2の加圧ガス室に分断され、
第1の加圧ガス室と第2の加圧ガス室の連通部に絞り弁を設け、車両のブレーキ操作に連動して該絞り弁を絞り操作し、
第1の加圧ガス室から第2の加圧ガス室への加圧ガスの流れを許容するチェック弁を設けたことを特徴とする二輪車用後部油圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−202783(P2009−202783A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48399(P2008−48399)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】