説明

亜鉛めっきまたは合金化亜鉛めっきケイ素鋼

本発明は、溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関し、鋼板の組成が、重量で、0.01≦C≦0.22%、0.50≦Mn≦2.0%、0.2≦Si≦3.0%、0.005≦Al≦2.0%、Mo<1.0%、Cr≦1.0%、P<0.02%、Ti≦0.20%、V≦0.40%、Ni≦1.0%、Nb≦0.20%を含み、組成の残部は鉄および精錬に起因する不可避的不純物であり、鋼板は、Si窒化物、Mn窒化物、Al窒化物、SiおよびMn、またはAlおよびSi、またはAlおよびMnを含む複合窒化物、またはSi、MnおよびAlを含む複合窒化物から選択される少なくとも1種の窒化物の内部窒化物の層を含み、上記鋼板は窒化鉄のさらなる外層を含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い含有量のケイ素を含む溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板は、自動車メーカーへの納入前に、耐腐食性を高めるために溶融亜鉛めっきをすることによって一般に行なわれる亜鉛系コーティングで被覆される。亜鉛浴から出た後に、亜鉛めっき鋼板は、多くの場合、鋼の鉄と亜鉛コーティングとの合金化を促進するアニールをうける(いわゆる合金化亜鉛めっき)。亜鉛−鉄合金からなるこの種のコーティングは、亜鉛コーティングよりも良好な溶接性を示す。
【0003】
動力駆動の地上車両の構造を軽量化する要件を満足するために、例えば、TRIP鋼などの高引張強度鋼板を使用することが知られており(用語TRIPは、変態誘起塑性を表す)、それは、非常に高い機械的強度と非常に高レベルの変形の可能性とを兼ね備えている。TRIP鋼は、フェライト、残留オーステナイト、および任意にマルテンサイトおよび/またはベイナイトを含む微構造を有し、TRIP鋼が600から1000MPaの引張強度を達成することを可能にする。この種の鋼は、例えば、長尺材や補強材などの構造部品や安全部品などのエネルギー吸収部品を製造するために広く使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ほとんどの高強度鋼板は、鋼に多量のケイ素を添加することによって得られる。ケイ素は、フェライトを安定させ、鋼の降伏強度Rを改善し、TRIP鋼板の場合には、ケイ素は、また、残留オーステナイトが分解して炭化物を形成することを防ぐ。
【0005】
しかしながら、鋼板が0.2重量%より多いケイ素を含む場合、酸化ケイ素がアニールの間に鋼板の表面上に形成されるので、鋼板の亜鉛めっきは困難を伴う。これらの酸化ケイ素は、溶融亜鉛に対して悪い湿潤性を示し、鋼板のめっき性能を悪化する。この問題を解決するために、低いケイ素含有量(0.2重量%未満)を有する高強度鋼を使用することが知られている。しかしながら、これは大きな欠点を有する:高レベルの引張強度、すなわち約800MPaが、炭素の含有量が増大される場合のみ達成されることができる。しかし、これは、溶接されたポイントの機械的抵抗を低下させる影響を有する。
【0006】
他方、いかに外部選択的酸化のためにTRIP鋼の組成が鉄に対して拡散バリアの役割をするにしても、合金化亜鉛めっき工程の間の合金化速度は、大きくスローダウンされ、合金化亜鉛めっき処理の温度は高くされなければならない。TRIP鋼板の場合には、合金化亜鉛めっき処理の温度の高まりは、高温での残留オーステナイトの分解のためにTRIP効果の維持に不利である。TRIP効果を維持するために、鋼に多量のモリブデン(0.15重量%より多い)が添加されなければならず、その結果、炭化物の析出が遅延されることができる。しかしながら、これは、鋼板のコストに影響を有する。
【0007】
確かに、残留オーステナイトが変形の影響でマルテンサイトに変わるので、TRIP鋼板が変形される場合にTRIP効果が観察され、TRIP鋼板の強度は高まる。
【0008】
したがって、本発明の目的は、前述の欠点を改善することであり、高いケイ素含有量(0.2重量%より多い)を有し、高い機械的特性を示す溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提案することである。
【0009】
さらに、本発明の他の目的は、鋼板の表面の良好な湿潤性および非被覆部分がないことを保証し、したがって、良好な付着性および鋼板上での亜鉛系または亜鉛−鉄コーティングの良好な外観を保証する高いケイ素含有量を有する鋼板に溶融亜鉛めっきをするまたは合金化溶融亜鉛めっきをする方法を提案することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、TRIP鋼板が合金化亜鉛めっきされる場合にTRIP効果を維持することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のために、本発明の第1の主題は、溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板であり、鋼板の組成が、重量で、
0.01≦C≦0.22%
0.50≦Mn≦2.0%
0.2≦Si≦3.0%
0.005≦Al≦2.0%
Mo<1.0%
Cr≦1.0%
P<0.02%
Ti≦0.20%
V≦0.40%
Ni≦1.0%
Nb≦0.20%を含み、
組成の残部は鉄および精錬に起因する不可避的不純物であり、上記鋼板は、Si窒化物、Mn窒化物、Al窒化物、SiおよびMnを含む複合窒化物、SiおよびAlを含む複合窒化物、MnおよびAlを含む複合窒化物、およびSi、MnおよびAlを含む複合窒化物からなる群から選択される少なくとも1種の窒化物の内部窒化物の層を含む。
【0012】
本発明の第2の主題は、この溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法であり、方法は:
(a)上記組成を有する鋼板に炉内でアニールを施して、アニールされた鋼板を形成するステップであって、
上記炉は、
−30℃未満の露点を有する非窒化雰囲気で、上記鋼板が周囲温度から加熱温度T1に予熱される第1の加熱帯域と、
−30から−10℃の露点を有する窒化雰囲気で、上記予熱された鋼板が上記加熱温度T1から加熱温度T2に加熱される第2の加熱帯域と、
−30℃未満の露点を有する非窒化雰囲気で、上記予熱された鋼板が、さらに、上記加熱温度T2から浸漬温度T3に加熱される第3の加熱帯域と、
−30℃未満の露点を有する非窒化雰囲気で、上記加熱された鋼板が上記浸漬温度T3で時間t3の間浸漬される浸漬帯域と、
−30℃未満の露点を有する非窒化雰囲気で、上記鋼板が浸漬温度T3から温度T4に冷却される冷却帯域とを含むステップと、
(b)上記アニールされた鋼板に溶融亜鉛めっきをして、亜鉛系被覆鋼板を形成するステップと、
(c)任意に、上記亜鉛系被覆鋼板に合金化処理を施して、合金化亜鉛めっき鋼板を形成するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】溶融亜鉛めっきされたサンプルA、C、DおよびEの写真であり、点線は、溶融亜鉛浴のレベルを表す。
【図2】本発明によってアニールされたサンプルAの断面図の顕微鏡写真を表す。
【図3】窒化雰囲気でアニールされたサンプルEの断面図の顕微鏡写真を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得るために、次の元素を含む鋼板が提供される:
0.01から0.22重量%の含有量の炭素。この元素は、良好な機械的特性を得るために不可欠であるが、それは、溶接性を低下しないように余りに多量で存在してはいけない。焼入性を促進するとともに十分な降伏強度Rを得、さらに安定化残留オーステナイトを形成するために、炭素含有量は0.01重量%未満であってはいけない。ベイナイト変態は、高温で形成されるオーステナイト構造から起こり、フェライト/ベイナイト薄層が形成される。オーステナイトと比較してフェライト中の炭素の非常に低い溶解度のために、オーステナイトの炭素は薄層間で拒絶される。ケイ素およびマンガンのために、炭化物の析出はほとんどない。したがって、層間オーステナイトは、いかなる炭化物が析出されることなく炭素で発展的に強化される。この強化は、オーステナイトが安定された状態であり、すなわち、室温にクールダウンする際に、このオーステナイトのマルテンサイト変態は起こらない、
0.50から2.0重量%の含有量のマンガン。マンガンは、焼入性を促進して高い降伏強度Rを達成することを可能する。マンガンは、オーステナイトの形成を促進し、マルテンサイト変態開始温度Msを低下するとともにオーステナイトを安定させることに寄与する。しかしながら、鋼板の熱処理の間に示される可能性がある偏析を防ぐために、あまりにも高いマンガン含有量を有する鋼を回避することが必要である。さらに、マンガンを過剰に添加すると、脆性を引き起こす厚い内部酸化マンガン層が形成され、亜鉛系コーティングの付着性は十分ではない、
0.2から3.0重量%の含有量のケイ素。ケイ素は鋼の降伏強度Rを改善する。この元素は、室温でフェライトおよび残留オーステナイトを安定させる。ケイ素は、オーステナイトからの冷却の際にセメンタイトの析出を抑制して、炭化物の成長を相当に遅延させる。これは、セメンタイト中のケイ素の溶解度が非常に低いということ、およびケイ素がオーステナイト中の炭素の活性を高めるということに起因する。したがって、形成するいかなるセメンタイト核もケイ素に富んだオーステナイト領域に囲まれ、析出物−マトリックス界面に拒絶される。このケイ素に富んだオーステナイトは、また、炭素がよりリッチであり、セメンタイトの成長は、セメンタイトと、近隣するオーステナイト領域と間の低下された炭素活性傾斜に起因する低下された拡散のためにスローダウンされる。したがって、このケイ素の添加は、TRIP効果を得るのに十分な残留オーステナイトの量を安定させることに寄与する。鋼板の湿潤性を改善するアニールステップの間に、内部ケイ素窒化物、およびケイ素、アルミニウムおよびマンガンを含む複合窒化物は、鋼板の表面下に形成、分散される。しかしながら、ケイ素を過剰に添加すると、浸漬の間に望まれない外部選択的酸化を引き起こし、それは、湿潤性および合金化亜鉛めっき速度を損なう、
0.005から2.0重量%の含有量のアルミニウム。アルミニウムは、ケイ素のように、フェライトを安定させるとともに、鋼板がクールダウンするにつれてフェライトの形成を高める。それは、セメンタイト中にあまり溶けやすくなく、ベイナイト変態温度で鋼を保持する場合にセメンタイトの析出を回避するとともに、残留オーステナイトを安定させるために、この点で使用されることができる。鋼を脱酸するために最小量のアルミニウムが必要である、
1.0未満の含有量のモリブデン。モリブデンは、マルテンサイトの形成を助け、耐腐食性を高める。しかしながら、過剰のモリブデンは、溶接部での冷間割れの現象を促進し、鋼のじん性を低下する可能性がある。
【0015】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板が望まれる場合、従来の方法では、亜鉛めっき後の再加熱の間に、炭化物の析出を防ぐために、Moを添加することが必要である。ここで、ケイ素、アルミニウムおよびマンガンの内部窒化の結果、亜鉛めっき鋼板の合金化処理は、内部窒化物を含まない従来の亜鉛めっき鋼板より低温で行なわれることができる。その結果、従来の亜鉛めっき鋼板の合金化処理の間の場合のように、ベイナイト変態を遅延させる必要はないので、モリブデンの含有量は低下されることができ、0.01重量%未満とすることができる、
1.0重量%を超えない含有量のクロム。クロム含有量は、鋼に亜鉛めっきをする場合に外観の問題を回避するために限定されなければならない、
0.02重量%を超えない、好ましくは0.015重量%を超えない含有量のリン。リンは、ケイ素と相まって、炭化物の析出を抑制することによって残留オーステナイトの安定性を高める、
0.20重量%を超えない含有量のチタン。チタンは、Rの降伏強度を改善するが、その含有量は、じん性を低下しないようにするために、0.20重量%に限定されなければならない、
0.40重量%を超えない含有量のバナジウム。バナジウムは、微細化強化によってRの降伏強度を改善し、鋼の溶接性を改善する。しかしながら、0.40重量%より多いと、鋼のじん性は低下され、溶接部にクラックが現われる危険性がある、
1.0重量%を超えない含有量のニッケル。ニッケルはRの降伏強度を高める。その含有量は、一般に、そのコストが高いために1.0重量%に限定される、
0.20重量%を超えない含有量のニオブ。ニオブは炭窒化物の析出を促進し、それによって、Rの降伏強度を高める。しかしながら、0.20重量%より多いと、溶接性および熱間成形性が低下される。
【0016】
組成の残部は、通常発見されると予測される鉄および他の元素、および所望の特性に影響がない割合の鋼の精錬に起因する不純物からなる。
【0017】
鋼板は、まず、アニールが施されてアニールされた鋼板を形成し、その後に溶融亜鉛浴内で溶融亜鉛めっきされ、任意に熱処理されて合金化亜鉛めっき鋼板を形成する。
【0018】
上記アニールは、第1の加熱帯域、第2の加熱帯域、第3の加熱帯域、浸漬帯域、その後の冷却帯域を含む炉内で行なわれる。
【0019】
鋼板は、予熱された鋼板を形成するために、−30℃未満の露点を有する非窒化雰囲気で、周囲温度から加熱温度T1に第1の加熱帯域で予熱される。
【0020】
鋼板の第1の加熱の間に、鋼の表面上での鉄の酸化を回避するために、露点を限定することが必須であり、それは、湿潤性を損なう。
【0021】
加熱温度T1は好ましくは450から550℃である。これは、温度が450℃より低い場合、Si、MnおよびAlの選択的酸化の反応は可能性がないからである。実際、この反応は、拡散制御機構であり、熱的に活性化される。さらに、鋼板の温度が第1の加熱ステップの間に550℃より高い場合に、ケイ素、アルミニウムおよびマンガンが鉄より酸化可能であるので、Siおよび/またはAlおよび/またはMnの薄い外層が鋼板の表面上に形成される。外部酸化物のこの層は鋼板の湿潤性を損なう。
【0022】
この予熱された鋼板は、次いで、加熱された鋼板を形成するために、上記加熱温度T1から加熱温度T2に第2の加熱帯域で加熱される。上記加熱ステップは、−30から−10℃の露点を有する窒化雰囲気で行なわれ、その効果は、窒化ケイ素、窒化マンガン、窒化アルミニウム、ケイ素およびマンガンを含む複合窒化物、ケイ素およびアルミニウムを含む複合窒化物、マンガンおよびアルミニウムを含む複合窒化物、およびケイ素、マンガンおよびアルミニウムを含む複合窒化物からなる群から選択される少なくとも1種の窒化物の内部窒化物の層の析出によって、鋼板の表面で遊離ケイ素、アルミニウムおよびマンガンを減少させてケイ素、アルミニウムおよびマンガンの表面酸化を抑制することである。これらの条件で、窒化鉄のさらなる外層が、上記加熱された鋼板の表面上に形成されないことに留意されなければならない。したがって、上記鋼板の湿潤性は損なわれない。
【0023】
第2の加熱帯域では、露点が−30℃以上であることが必須である。これは、ケイ素、マンガンおよびアルミニウムの表面酸化が回避されず、湿潤性が損なわれるからである。しかしながら、露点が−10℃より高い場合、鋼表面上の酸素吸着はあまりにも強くなり、必要とされる窒素吸着を防ぐ。
【0024】
上記第2の加熱帯域内の窒化雰囲気は、3から10体積%のアンモニア(NH)、3から10体積%の水素を含むことができ、組成の残部は窒素および不可避的不純物である。含有量が3%未満のアンモニアである場合、内部窒化物の層は、湿潤性を改善するほど厚くなく、一方、過剰のアンモニアは厚い層の形成をもたらし、鋼の機械的特性が損なわれる。
【0025】
第2の加熱ステップの間、鋼の表面上でのアンモニアの分離は、鋼板を透過する窒素流の生成を可能にする。この窒素流は、ケイ素、アルミニウムおよびマンガンの内部窒化をもたらし、ケイ素、アルミニウムおよびマンガンの外部酸化を回避する。
【0026】
加熱温度T2は好ましくは480から720℃である。
【0027】
加熱された鋼板は、次いで、さらに、浸漬温度T3に第3の加熱帯域で加熱され、浸漬帯域で上記浸漬温度T3で時間t3の間浸漬され、その後、浸漬温度T3から温度T4にクールダウンされる。
【0028】
第3の加熱帯域、浸漬帯域および冷却帯域内の雰囲気は、露点が−30℃未満である雰囲気であり、その結果、鋼板の酸化が回避され、したがって、湿潤性は損なわれない。
【0029】
第1の加熱帯域および第3の加熱帯域、浸漬帯域、および冷却帯域での雰囲気は、3から10体積%の水素を含み、組成の残部が窒素および不可避的不純物とすることができる非窒化雰囲気である。
【0030】
確かに、完全な窒化アニールで、すなわち、第1の加熱帯域、第2の加熱帯域、第3の加熱帯域、浸漬帯域および冷却帯域内の雰囲気が窒化雰囲気である場合、約10μmの外部窒化鉄層が内部窒化物の層上に形成される。したがって、鋼板の湿潤性、機械的特性および成形性は損なわれる。
【0031】
フェライト、残留オーステナイト、および任意にマルテンサイトおよび/またはベイナイトを含むTRIP微構造を有する溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得るために、上記浸漬温度T3は好ましくは720から850℃であり、時間t3は好ましくは20から180sである。したがって、加熱温度T2はT1からT3である。
【0032】
鋼板が温度T3である場合、フェライトおよびオーステナイトからなる二重相構造が形成される。T3が850℃より高い場合、オーステナイトの体積比は過剰に成長し、鋼の表面の外部選択的酸化が生じる。しかし、T3が720℃より低い場合、オーステナイトの十分な体積比を形成するのに必要な時間は長すぎる。
【0033】
これらの条件で、上記内部窒化物は、好ましくは鋼板の表面から2.0から12.0μmの深さで形成される。
【0034】
時間t3が180sより長い場合、オーステナイト粒は粗くなり、形成後の鋼の降伏強度Rは限定される。さらに、鋼の焼入性は低減され、鋼の表面上に外部選択的酸化が生じる可能性がある。しかしながら、鋼板が20s未満の時間t3の間浸漬される場合、形成されるオーステナイトの割合は不十分であり、十分な残留オーステナイト、および任意にマルテンサイトおよび/またはベイナイトは冷却の間に生じない。
【0035】
加熱された鋼板は、上記溶融亜鉛浴の冷却または再加熱を回避するために、溶融亜鉛浴の温度に近い温度T4で冷却される。それ故に、T4は460から510℃である。したがって、均質的な構造を有する亜鉛系コーティングが得られることができる。
【0036】
鋼板が冷却される場合、鋼板は、温度が好ましくは450から500℃である溶融亜鉛浴内で溶融めっきされる。
【0037】
溶融亜鉛めっき鋼板が必要な場合、鋼板中のモリブデンの含有量は0.01重量%より多くすることができ(しかし、常に1.0重量%に限定される)、溶融亜鉛浴は好ましくは0.14から0.3重量%のアルミニウムを含み、残部は亜鉛および不可避的不純物である。脆く、したがって成形されることができない鉄と亜鉛の界面合金の形成を抑制するために、アルミニウムが溶融亜鉛浴に添加される。帯鋼が亜鉛浴に浸漬される場合、FeAlの薄い層(0.2μm未満の厚み)が鋼と亜鉛の界面に形成される。この層は、鋼に対する亜鉛の良好な付着性を保証し、その非常に薄い厚みにより成形されることができる。しかしながら、アルミニウムの含有量が0.3重量%より多い場合、一掃されたコーティングの外観は、液体亜鉛の表面上での酸化アルミニウムのあまりに強い成長のために損なわれる。
【0038】
溶融亜鉛浴を出ると、鋼板は、亜鉛系コーティングの厚みを調整するために、ガスの噴射によって一掃される。この厚みは、一般に3から20μmであり、要求される耐腐食性によって決まる。
【0039】
合金化溶融亜鉛めっきが必要な場合、鋼板中のモリブデンの含有量は好ましくは0.01重量%未満であり、溶融亜鉛浴は、好ましくは0.08から0.135重量%の溶解されたアルミニウムを含み、残部は亜鉛および不可避的不純物である。溶融亜鉛を脱酸するとともに、亜鉛系コーティングの厚みを制御することをより簡単にするために、アルミニウムが溶融亜鉛浴に添加される。その条件では、デルタ相(FeZn)の析出が、鋼と亜鉛の界面に沿って引き起こされる。
【0040】
溶融亜鉛浴を出ると、鋼板は、亜鉛系コーティングの厚みを調整するためにガスの噴射によって一掃される。この厚みは、一般に3から10μmであり、要求される耐腐食性によって決まる。上記亜鉛系被覆鋼板は、亜鉛−鉄合金からなるコーティングが、コーティングの亜鉛への鋼からの鉄の拡散によって得られるように、最終的に加熱処理される。
【0041】
この合金化処理は、10から30sの浸漬時間t5の間、460から510℃の温度T5で上記鋼板を維持することによって行なわれることができる。ケイ素、アルミニウムおよびマンガンの外部選択的酸化がない結果、この温度T5は従来の合金化温度より低い。その理由で、鋼に多量のモリブデンは要求されず、鋼中のモリブデンの含有量は0.01重量%未満に限定されることができる。温度T5が460℃未満である場合、鉄と亜鉛の合金化は可能ではない。温度T5が510℃より高い場合、望まれない炭化物の析出のために、安定したオーステナイトを形成することは困難になり、TRIP効果は得られることができない。合金中の平均鉄含有量が8から12重量%であるように時間t5は調整され、それは、コーティングの溶接性を改善するとともに、形成する間の粉末化を制限するための良好な妥協である。
【0042】
本発明は、以下に、限定しない表示によって付与される実施例によって、図1、図2、および図3を参照して説明される。
【0043】
組成が表Iで与えられる鋼から製造される厚み0.8mmの鋼に由来するサンプル(AからE)を使用して、第1の試験が行なわれた。鋼板のアニールは、第1の加熱帯域、第2の加熱帯域、第3の加熱帯域、浸漬帯域、その後の冷却帯域を含む放射管炉内で行なわれる。
【0044】
表I:重量%での本発明による鋼板の化学組成、組成の残部は鉄および不可避的不純物である(サンプルAからE)。
【表1】

【0045】
本発明によってアニールされたサンプルAの湿潤性および付着性は、まず、従来の方法でアニールされ溶融亜鉛めっきされたサンプルBの湿潤性および付着性と比較される。窒化雰囲気で行なわれる少なくとも1つのステップを含むアニールで、しかし本発明と異なる条件でアニールされたサンプルC、DおよびEでも比較が行なわれる。結果は表IIに示される。
【0046】
1.本発明による溶融アニール鋼板の製造
サンプルAが、雰囲気が−40℃の露点を有する第1の加熱帯域で、周囲温度(T=20℃)から500℃に加熱される。上記第1の加熱帯域内の雰囲気は5体積%の水素を含み、残部は窒素および不可避的不純物である。
【0047】
次いで、サンプルAは、雰囲気が−20℃の露点を有する第2の加熱帯域で500℃から700℃に加熱される。上記第2の加熱帯域内の雰囲気は窒化雰囲気であり、8体積%のアンモニア、5体積%の水素を含み、残部は窒素および不可避的不純物である。
【0048】
最後に、サンプルAは、さらに、第3の加熱帯域で700℃から800℃に加熱され、浸漬帯域で800℃で50s間浸漬され、次いで、冷却帯域で460℃にクールダウンされる。第3の加熱帯域、浸漬帯域および冷却帯域内の雰囲気は−40℃の露点を有し、5体積%の水素を含み、残部は窒素および不可避的不純物である。
【0049】
2.従来のアニール鋼板の製造
サンプルBが非窒化雰囲気で従来の方法でアニールされる。サンプルBは、雰囲気が−40℃の露点を有する第1帯域、第2帯域および第3帯域で、周囲温度(T=20℃)から800℃に加熱される。
【0050】
次いで、サンプルBは、浸漬帯域で、50s間800℃で浸漬され、次いで、冷却帯域で460℃にクールダウンされる。浸漬帯域および冷却帯域内の雰囲気は−40℃の露点を有する。
【0051】
上記第1の加熱帯域、第2の加熱帯域、第3の加熱帯域、浸漬帯域および冷却帯域内の雰囲気は5体積%の水素を含み、残部は窒素および不可避的不純物である。
【0052】
3.アニールが窒化雰囲気で行なわれる少なくとも1つのステップを含むアニール鋼板の製造
サンプルCが、雰囲気が−40℃の露点を有する第1の加熱帯域で、周囲温度(T=20℃)から500℃に加熱される。上記第1の加熱帯域内の雰囲気は5体積%の水素を含み、残部は窒素および不可避的不純物である。
【0053】
次いで、サンプルCは、雰囲気が−20℃の露点を有する第2の加熱帯域で、500から600℃に加熱される。上記第2の加熱帯域内の雰囲気は窒化雰囲気であり、8体積%のアンモニア、5体積%の水素を含み、残部は窒素および不可避的不純物である。
【0054】
最後に、サンプルCは、第3の加熱帯域で600℃から800℃に加熱され、浸漬帯域で800℃で50s間浸漬され、冷却帯域で460℃にクールダウンされる。第3の加熱帯域、浸漬帯域および冷却帯域内の雰囲気は−40℃の露点を有し、5体積%の水素を含み、残部は窒素および不可避的不純物である。
【0055】
サンプルDが、雰囲気が−40℃の露点を有する第1の加熱帯域で、周囲温度(T=20℃)から600℃に加熱される。上記第1の加熱帯域内の雰囲気は5体積%の水素を含み、残部は窒素および不可避的不純物である。
【0056】
次いで、サンプルDは、雰囲気が−20℃の露点を有する第2の加熱帯域で、600から700℃に加熱される。上記第2の加熱帯域内の雰囲気は窒化雰囲気であり、8体積%のアンモニア、5体積%の水素を含み、残部は窒素および不可避的不純物である。
【0057】
最後に、サンプルDは、さらに、第3の加熱帯域で700から800℃に加熱され、浸漬帯域で800℃で50s間浸漬され、冷却帯域で460℃にクールダウンされる。第3の加熱帯域、浸漬帯域および冷却帯域内の雰囲気は−40℃の露点を有し、5体積%の水素を含み、残部は窒素および不可避的不純物である。
【0058】
サンプルEが、第1の加熱帯域、第2の加熱帯域および第3の加熱帯域で、周囲温度(T=20℃)から800℃に加熱され、浸漬帯域で800℃で50s間浸漬され、次いで、冷却帯域で460℃にクールダウンされる。上記第1の加熱帯域、第2の加熱帯域、第3の加熱帯域、浸漬帯域および冷却帯域内の雰囲気は−20℃の露点を有する。雰囲気は、8体積%のアンモニア、5体積%の水素を含み、残部は窒素および不可避的不純物である窒化雰囲気である。
【0059】
冷却後に、サンプルA、B、C、DおよびEは、溶融亜鉛浴内で溶融亜鉛めっきされ、溶融亜鉛浴は、0.12重量%のアルミニウムを含み、残部は亜鉛および不可避的不純物である。上記溶融亜鉛浴の温度は460℃である。窒素で一掃し、亜鉛コーティングを冷却した後に、亜鉛コーティングの厚みは7μmである。
【0060】
図1は、溶融亜鉛めっきされたサンプルA、C、DおよびEの写真である。点線は、溶融亜鉛浴のレベルを表す。亜鉛系コーティングはこの線の下に表されている。
【表2】

【0061】
図2は、本発明によってアニールされたサンプルAの断面図の顕微鏡写真を表し、鋼板が13μmの厚みを有する内部窒化物の層を含むことが分かる。
【0062】
図3は、窒化雰囲気でアニールされたサンプルEの断面図の顕微鏡写真を表し、鋼板が8μmの厚みを有する内部窒化物の層および8μmの厚みを有する窒化鉄のさらなる外層を含むことが分かる。
【0063】
溶融亜鉛めっきされたサンプルAは、次いで、480℃に加熱すること、およびこの温度で19s間維持することによって合金化処理が施される。本発明者らは、本発明による得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板のTRIP微構造がこの合金化処理によって失われなかったことを確認した。
【0064】
サンプルBの亜鉛系コーティングの合金化を得るために、サンプルBを540℃に加熱し、この温度で20s間維持することが必要である。本発明者らは、そのような処理で、炭化物の析出が生じ、残留オーステナイトは室温にクールダウンする間にもはや維持されず、TRIP効果が消滅したことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、
鋼板の組成が、重量で、
0.01≦C≦0.22%
0.50≦Mn≦2.0%
0.2≦Si≦3.0%
0.005≦Al≦2.0%
Mo<1.0%
Cr≦1.0%
P<0.02%
Ti≦0.20%
V≦0.40%
Ni≦1.0%
Nb≦0.20%を含み、
組成の残部が鉄および精錬に起因する不可避的不純物であり、
鋼板が、Si窒化物、Mn窒化物、Al窒化物、SiおよびMnを含む複合窒化物、SiおよびAlを含む複合窒化物、およびSi、MnおよびAlを含む複合窒化物からなる群から選択される少なくとも1種の窒化物の内部窒化物の層を含み、前記鋼板が、窒化鉄のさらなる外層を含まないことを特徴とする、溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記鋼板が、さらに、重量%で、P≦0.015%を含む、請求項1に記載の溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記鋼板が、さらに、重量%で、Mo<0.01%を含む、請求項1または2に記載の溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記鋼板の微構造が、フェライト、残留オーステナイト、および任意にマルテンサイトおよび/またはベイナイトを含むTRIP微構造である、請求項1から3のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記内部窒化物が、鋼板の表面から2.0から12.0μmの深さで形成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
(a)請求項1から3に記載の組成を有する鋼板に炉内でアニールを施して、アニールされた鋼板を形成するステップであり、
前記炉が、
−30℃未満の露点を有する非窒化雰囲気で、前記鋼板が周囲温度から加熱温度T1に予熱される第1の加熱帯域と、
−30から−10℃の露点を有する窒化雰囲気で、前記予熱された鋼板が前記加熱温度T1から加熱温度T2に加熱される第2の加熱帯域と、
−30℃未満の露点を有する非窒化雰囲気で、前記予熱された鋼板が、さらに、前記加熱温度T2から浸漬温度T3に加熱される第3の加熱帯域と、
−30℃未満の露点を有する非窒化雰囲気で、前記加熱された鋼板が前記浸漬温度T3で時間t3の間浸漬される浸漬帯域と、
−30℃未満の露点を有する非窒化雰囲気で、前記鋼板が浸漬温度T3から温度T4に冷却される冷却帯域とを含むステップと、
(b)前記アニールされた鋼板に溶融亜鉛めっきをして、亜鉛系被覆鋼板を形成するステップと、
(c)任意に、前記亜鉛系被覆鋼板に合金化処理を施して、合金化亜鉛めっき鋼板を形成するステップとを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法。
【請求項7】
第2の加熱帯域内の前記窒化雰囲気が、3から10体積%のアンモニア、3から10体積%の水素を含み、組成の残部が窒素および不可避的不純物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記加熱温度T1が450から550℃である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記加熱温度T2が480から750℃である、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記浸漬温度T3が720から850℃である、請求項6から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
時間t3が20から180sである、請求項6から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
第1の加熱帯域、第3の加熱帯域、浸漬帯域および冷却帯域内の前記非窒化雰囲気が、3から10体積%の水素を含み、組成の残部が窒素および不可避的不純物である、請求項6から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記温度T4が460から510℃である、請求項6から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
溶融亜鉛めっき鋼板が必要な場合、0.14から0.3重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛および不可避的不純物である溶融浴内で、前記還元された鋼板を溶融めっきすることによって溶融亜鉛めっきが行なわれる、請求項6から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板が必要な場合、0.08から0.135重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛および不可避的不純物である溶融浴内で、前記還元された鋼板を溶融めっきすることによって溶融亜鉛めっきが行なわれる、請求項6から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記鋼板のモリブデンの含有量が0.01重量%未満である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
10から30sの浸漬時間t5の間、460から510℃の温度T5で前記亜鉛系被覆鋼板を加熱することによって、前記合金化処理が行なわれる、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記溶融浴の温度が450から500℃である、請求項14から17のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−534278(P2010−534278A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514159(P2010−514159)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【国際出願番号】PCT/IB2008/001434
【国際公開番号】WO2009/004424
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(506166491)アルセロールミタル・フランス (43)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】