説明

亜鉛表面の金属被覆前処理

本発明は亜鉛めっきおよび/または亜鉛合金めっきされた鋼材表面または少なくとも部分的に亜鉛表面を有する接合された金属構造部品を、複数の処理工程を含む表面処理により金属被覆前処理する方法に関する。本発明の方法においては、処理後の亜鉛表面上に、特に100mg/m2以下のモリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル、鉛、錫および/または好ましくは鉄による金属被覆層が形成される。本発明の他の態様には、本発明の金属被覆前処理が施されているが、その後の被覆が施されていない、または次の被覆が予定されている金属構造部材、並びに自動車製造工程における車体製造、造船、建設、および白物家電製品の製造を目的とする上記構造部材の利用も含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の処理工程を含む表面処理において、亜鉛めっき及び/又は亜鉛合金めっきされた鋼材表面又は接合された金属部品を、少なくとも部分的に亜鉛表面において金属被覆前処理する方法に関するものである。本発明の方法において、100mg/m2以下の、特に、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル、鉛、錫及び/又は、好ましくは鉄の金属層被覆が、処理された亜鉛表面上に形成される。このように金属被覆された亜鉛表面は、引続き施される不動態化工程及び被覆工程(図1、方法II−V)用の出発材料としてきわめて好適なものであり、かつ特に、亜鉛めっきされた金属表面の本発明の前処理後に、防食被覆層のきわめて高い効果を創出する。この方法を、亜鉛めっきされた鋼板に適用すると、塗料被覆層の腐食による、特に切断縁部における、表層剥離を抑制する、従って、他の様相において、本発明は、本発明の金属被覆前処理が施され、その後の被覆を施されていない、又は次に被覆を施される金属構造部材並びに自動車構造における車体製造、造船、建設工業及び自動家電製品の製造における前記金属構造部材の使用を包含するものである。
【背景技術】
【0002】
現在において、種々の表面仕上げされた鋼材が、製鋼業において製造され、今日においてはドイツにおける薄い板状金属製品の約80%は表面仕上げされた形態で供給されている。このような製品の製造のために、これらの薄いシート状金属製品は、広範囲に異なる金属材料又は広範囲に異なる金属基材材料と、表面材料との組み合わせが1つの部品中に存在できるようにさらに加工されており、この加工は、製品に対する要求を満たすようになされなければならない。このさらなる加工において特に、表面仕上げされた鋼板の加工において、加工に供された材料は所望寸法に切断され成形され、溶接又は接着性結合方法により接合される。これらの加工操作は、自動車製造における広汎な車体製造において通常のことであり、この車体製造においては、主として、コイル被覆工業からの亜鉛めっき鋼板がさらに加工され、例えば亜鉛めっきされていない鋼板及び/又はアルミニウム板に接合される。車体はスポット溶接により互に接合された多数の板状金属部品からなるものである。
【0003】
1部品中の金属板材料の種々な組み合わせ及び表面仕上げされた鋼板の主用途から、防食保護に対する特別な要求が発生しており、この防食保護は異種金属接触腐食及び切断縁部の腐食という結果を減小させ得るものでなければならない。電気めっき法又は溶融めっき法により鋼板に被覆された金属亜鉛被覆層は、陰極防食効果を与え、この保護効果は、切断縁部及び亜鉛被覆層に機械的に発生した損傷部におけるより貴なコア材の活性溶出を防止するものであり、コア材の物質特性を確保するために腐食速度そのものを減少させることは同様に重要なことである。従って、少なくとも1層の無機化成処理層及び1層の有機バリヤー層からなる腐食防止被覆層の要望が高いのである。
【0004】
切断縁部及び加工又は他の影響により亜鉛被覆層に生じたすべての損傷部においてコア材と金属被覆層との間のガルバニ結合(galvanie coupling)が被覆物質の妨害なしの活発な局部溶解を惹起し、この現象は、換言すれば有機バリヤー層の表層剥離の活性化反応を構成するものである。塗料の剥離又は「ふくれ(blistering)」の現象は、特に切断縁部において認められ、ここではあまり貴ではない被覆物質の妨害なしの腐食が発生することと同じことが、反則的には互に異なる金属物質が、接合技法により直接に接合している部分における局部において発生する。このような「欠陥部」(切断縁部、金属被覆層における損傷、スポット溶接部)の局部的活性化及びこれによる、前記欠陥部から生ずる塗料の腐食剥離は、直接接触する金属との電位差が大きければ大きい程、一層顕著である。切断縁部における塗料密着に関する同様に良好な結果は、より貴な金属により合金化された亜鉛被覆層、例えば鉄により合金化された亜鉛被覆層、を有する鋼板(galvannealed steel)により提供される。
【0005】
鋼板の製造者は鋼板工場において金属被覆層による表面仕上げに加えて、他の腐食性被覆層特に塗料被覆層を組合せる傾向が増大していると考えており、従って切断縁部の腐食及びそこに塗料の付着及びまた加工工業における、特に自動車製造における接触腐食と結び着いた問題を効果的に防止することが可能な防食処理に対する要望が増加している。
【0006】
先行技術において、前記切断縁部の保護の問題を解決する種々の前処理が知られている。ここで述べる本質的手法は有機バリヤー層の、表面仕上げされた鋼板に対する接着性を向上させることである。
【0007】
ドイツ特許公開DE19733972号は、鋼板製造工場における亜鉛めっき、及び亜鉛合金めっきされた鋼材表面を、アルカリ性不動態化前処理する方法を記載しているものであって、最も適切な先行技術と考えるべきものである。この方法においては、表面仕上げされた鋼板を、マグネシウムイオン、鉄(III)イオン及び錯化剤を含むアルカリ性処理剤と接触させる。前記亜鉛表面は、予じめ規定された9.5を超えるpH値において不動態化されて防食性層を形成する。DE19733927(公開)の記載によれば、上記の方法により不動態化された表面は、ニッケル及びコバルトを使用する方法に匹敵する塗料接着性を提供する。必要により防食保護増進のためのこの前処理の後に、塗料系を塗布する前の、他の処理工程、例えば、クロムなしの後不動態化工程を施してもよい。しかしながらこの前処理システムは、切断縁部における腐食によって生ずる塗料の剥離を、満足できる程度に防止することはできないことが見出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】ドイツ特許公開DE19733972号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、鋼板上の亜鉛層における欠陥特に、切断縁部における欠陥により発生した塗料の剥離の防止を、先行技術に対比して著しく改善するための、亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきされた鋼材表面を前処理する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決は、亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきされた鋼材表面を金属被覆前処理する方法による達成され、この方法において、前記亜鉛表面をpH値が9以下の水性処理液(1)に接触させ、このとき前記水性処理液(1)中には金属(A)のカチオン及び/又は化合物が存在し、前記水性処理剤(1)中の前記金属(A)のカチオン及び/又は化合物の所定処理温度及び濃度において、前記金属(A)からなる金属電極上で測定された前記水性処理剤(1)の還元酸化電位Eredoxが、前記金属(A)のいかなるカチオン及び/又は化合物も含まないという点においてのみ、前記水性処理液とは異なる水性処理液(2)に接触している前記亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきされた鋼材表面における電極電位EZnよりも、貴な値(more anodie)を示すようにする。
【0011】
本発明に係る上記方法は、少なくとも一部分に亜鉛表面を有する鋼板及び/又は金属部品の接合体、例えば車体などのようなすべての金属表面に対して好適なものである。素材としては、特に鉄系表面と亜鉛系表面との組合せが好ましい。
【0012】
本発明に用いられている用語「前処理(pretreatment)」は、無機バリヤー層(例えばリン酸塩層、クロメート層)を用いて、不動態化(保護膜の形成)すること、又は塗装前処理として清浄化された金属表面を調整する工程のことである。前記表面調整とは、防食保護された表面処理のための一連の処理工程の終りにおいて得られる、防食性及び塗料密着性の改善を意味する。図1は、本発明における典型的な一連の工程の代表例として示したもので、本発明の前処理から特定の範囲まで効果を得ることができる。
【0013】
金属被覆(metallizing)のような前記前処理を特定する呼称が、前処理方法であると理解すべきであって、この前処理方法は亜鉛表面上に、金属カチオン(A)による金属析出沈着を直接に発生させるものであって、それによって金属被覆前処理が成功裡に施された後には、本願明細書の実施例部分に記載された分析の結果によれば元素(A)の少なくとも50原子%(at%)が、金属状態において亜鉛表面上に存在している。
【0014】
本発明により、酸化還元電位Eredoxは、市販の標準参照電極、例えば、塩化銀電極を基準にして、金属(A)の金属電極上の処理剤(1)中において直接測定される、例えば下記構成の電気化学的測定系が用いられる
Eredox(単位:ボルト(V)):Ag/AgCl/1M KCl//metal(A)/M(1)
上記式中 Ag/AgCl/1M KCl=0.2368V
但し、標準水素電極(SHE)に対比
M(1)は金属(A)カチオン及び/又は化合物を含む本発明の処理剤
(A)を示す。
【0015】
処理剤(2)液中の亜鉛電極において測定された電極電位EZnにおいても、市販の標準参照電極に関して上記と同様であるが、この場合、処理剤(2)が金属(A)のカチオン及び/又は化合物が含まれていないという点においてのみ、処理剤(1)とは異なっている。
Zn(単位:ボルト):Ag/AgCl/1M KCl//Zn/M(2)
【0016】
本発明方法は、亜鉛表面の金属被覆前処理が酸化還元電位Eredoxが、電極電位EZnよりもさらに貴であるということ、すなわちEredox−EZn>0であるということを特徴とするものである。
【0017】
上記定義に従う酸化還元電位Eredoxと電極電位EZnとの電位差は、無電流金属被覆前処理における電動起電力(Electromotor force,(EMF))として、すなわち熱力学的駆動力として認められる。この電動機出力(EMF)は下記の型の電気化学的測定系(measuring chain)に対応するものである。
Zn/M(2)//金属(A)/M(1)
上記式においてM(1)は金属(A)のカチオン及び/又は化合物を含む初期剤(1)を表し、M(2)は、金属(A)のカチオン及び/又は化合物を含まないということのみでM(1)と異なる処理剤(2)を表す。
【0018】
本発明の方法において、前記水性処理剤(1)中の金属(A)のカチオン及び/又は化合物の酸化還元電位Eredoxが、前記水性処理剤(2)と接触している亜鉛表面の電極電位EZnよりも、少なくとも+50mV、好ましくは少なくとも+100mV、特に好ましくは少なくとも+300mVだけより貴な値であって、最高800mVだけより貴な値であれば有利である。若し、前記EMFが+50mV未満の場合には亜鉛めっき表面の十分な金属被覆は、技術的に実現可能な接触時間内には達成不能であり、それによって、それに続く不動態化化成処理において金属(A)上の金属被覆層は、亜鉛めっき表面から完全に除去され、かくて前記前処理の効果は帳消しにされる。反対に、若し、前記EMFが高か過ぎるならば例えば+800mVより高いならば、短時間のうちに、亜鉛めっき表面の金属被覆が完了し金属(A)による亜鉛めっき表面の甚だしい被覆がなされ、それによって次の化成処理において、所望の無機腐食防止及び密着促進層の形成が発現せず、或は少なくとも遅延されるようになる。
【0019】
金属(A)のカチオン及び/又は化合物の濃度が少なくとも0.001M、好ましくは少なくとも0.01Mであり、しかし、0.2M以下、好ましくは0.1M以下にすると、前記金属被覆が特に効率よくなることが見出されている。
【0020】
前記前処理によって、亜鉛めっき表面上に金属状態が沈着される金属(A)のカチオン及び/又は化合物は、好ましくは、鉄、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル、鉛、及び/又は錫のカチオン及び/又は化合物から選ばれる。これらの中では鉄(II)イオン及び/又は鉄(II)化合物の形状にある鉄、例えば硫酸鉄(II)が特に好まれる。前記硫酸塩にくらべて、乳酸鉄(II)及び/又はグルコン酸鉄(II)などの有機塩は、鉄(II)カチオンとともに低腐食性のアニオンを発生させるので特に好まれている。
【0021】
前記の好ましい金属(A)の選択によって種々の金属(A)が、処理剤(1)中に、隣り合って存在しているときには、前記各種の金属(A)の酸化還元電位Eredoxの測定は、個別に、水性媒体中に他の金属が存在しない状態でなされなければならない。このため、本発明方法に好適な処理剤(1)は、上記に規定された酸化還元電位Eredoxに関する前記条件を満たす金属(A)の少なくとも1種を含んでいる。
【0022】
しかし、前記元素の1種により、専ら(exclusively)形成されている前記金属(A)のカチオン及び/又は化合物を含む前記処理剤(1)が特に好まれている。
【0023】
さらに、前述の電動機出力(EMF)用条件を満足させ、また、標準水素電極(SHE)の定常電圧E0Hzよりも、好ましくは100mV以上、特に好ましくは、定常電位E0Hzよりも200mV以上より貴な金属(A)の標準電位E0Meを有する前述のような金属(A)のカチオン及び/又は化合物が特に好まれており、この場合、前記金属(A)の標準電位E0Meは、25℃において、活性度(activity)1を有する金属カチオンMen+の水溶液中における可逆反応
Me0→Men++ne-
に基づくものである。
【0024】
若し、前記第2条件が満たされないならば、本発明方法に続く化成処理において、均一性が低く、より多くの欠点を有する不動態層が本発明方法の後の化成処理において形成される。その理由は、基体表面の酸洗い速度(pickling rate)の低下にある。極端な場合、本発明方法において前処理された基体表面の不動態化成は、それに続く後の工程においては全く発生しない。同様の現象が有機被覆工程においても発生する。このような現象は本発明の前処理の直後に発生し、かつ基体の酸洗作用により開始される自己析出プロセスに基づくもの(自己伝達浸漬被覆(autophoretic dip continy)、略称:AC、自己析出被覆に用いられる)である。
【0025】
金属(A)のカチオン及び/又は化合物の析出(沈着)速度を増大させるための、本発明の前処理方法において、すなわち亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきされた表面の金属被覆において、還元効果を有する促進剤を、水性処理剤(1)に添加することが好ましい。リン又は窒素のオキソ酸及びその塩類は、使用可能な促進剤と考えられ、この場合には、少なくとも1個のりん原子又は窒素原子が中間酸化段階において、存在する。このような促進剤は、例えば次亜硝酸、二酸化窒素、亜硝酸、次燐酸、ハイポジホスホン酸(hypodiphosphoric acid)、ジ燐酸塩(III,V)、ホスホン酸、ジホスホン酸及び特に好ましくはホスフィン酸及びその塩類などを包含する。
【0026】
さらに、当業者がリン酸塩処理において、先行技術から熟知している促進剤もまた使用することができる。前記促進剤の還元性に加えて、これら促進剤は減極特性を有しており、これら促進剤は水素捕捉剤として働らき、従って亜鉛めっき鋼材表面の金属被覆をさらに促進する。これらの促進剤は、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、ニトログアニジン、N−メチルモルホリンN−オキシド、グルコヘプトナート(glucoheptonate)、アスコルビン酸(ascorlic acid)及び還元糖などを包含する。
【0027】
前記促進剤の、前記水性処理剤(1)中の金属(A)のカチオン及び/又は化合物の濃度に対するモル比は2:1以下であることが好ましく、特に1:1以下であることが好ましく、1:5以上であることが好ましい。
【0028】
必要により、本願発明における水性処理剤(1)は、さらに少量の銅(II)カチオンを含んでいてもよく、この銅カチオンもまた金属として金属(A)のカチオン及び/又は化合物とともに、前記亜鉛めっき表面上に、同時に析出沈着することができる。しかし、大量ではないが、銅の、ほとんど完全な表面被覆接合が行われるということに注目すべきである。それは、この被覆接合がなければ、次に施される化成処理は完全に抑制され、及び/又は塗料の密着は明らかに悪化されるからである。従って、水性処理剤(1)は、さらに、50ppm以下の、好ましくは10ppm以下の、しかし0.1ppm以上の銅(II)カチオンを含有すべきである。
【0029】
さらに、金属被覆前処理用の前記水性処理剤(1)は、コンパクトな吸着物層を生成させることによって、金属被覆のための表面そのものを抑制せずに、金属表面から不純物を除去することのできる界面活性剤をさらに含んでいてもよい。好ましくは平均HLB値が8以上14以下の非イオン性界面活性剤をこの目的に用いてもよい。
【0030】
鉄(II)のカチオン及び/又は化合物が本発明の前処理方法に使用された場合には、一面においては、前記水性処理剤のpH値を2以上6以下、好ましくは4以下にして低pH値における亜鉛めっき鋼表面の過剰酸洗を防止しなければならないが、他方、上記のようにすると前記表面の金属被覆を抑制するので、処理溶液中の鉄(II)イオンの安定性を確保しなければならない。
【0031】
また、鉄(II)を含む処理溶液は、安定化のために、酸素リガンド及び/又は窒素リガンドを有す。キレート錯化剤を含んでいてもよい。このような処理溶液は、鉄(II)イオンが、前記リガンドにより亜鉛(II)イオンのようには強く錯化しないものであるから、金属被覆のための前記EMFを増進させるために、好適なものである。錯化剤の添加によるEMFの増強は、処理時間の短縮及び亜鉛めっき表面を鉄で適度に被覆することを達成するために有効なことである。
【0032】
キレート性錯化剤(chelating complexing agents)は、特に、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、モノイソプロパノール−アミン、アミノエチルエタノールアミン、1−アミノ−2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシ−ヘキサン、N−(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、1,2−ジアミノプロパン四酢酸、1,3−ジアミノプロパン四酢酸、酒石酸、乳酸、ムチン酸、グルコン酸、及び/又はグルコヘプトン酸(glucoheptonic acid)と、上記化合物の塩及び立体異性体、並びにソルビトール、グルコース及びグルコサミンと、それらの立体異性体から選ばれた化合物を包含する。
【0033】
上記に列記した錯化剤を含む前記水性処理剤(1)の特に有効な組成は、前記キレート性錯化剤の濃度の二価鉄のカチオン及び/又は化合物の濃度に対する比を、1:5以上5:1以下、好ましくは、2:1以下にすることよって得られる。このモル比が1:5より低いときには、金属被覆用EMFにおける重要でない変化がわずかになるだけである。上記モル比が5:1より高いときにも、上記と同様の状態が生じ、この場合大量の遊離錯化剤が存在していて、金属被覆用のEMFは、その大部分が効果なしに存在し、かつこの処理は不経済である。
【0034】
さらに、ポリビニルフェノール化合物と、ホルムアルデヒド及び脂肪酸アミノアルコールとのマンニッヒ付加反応生成物に基づく酸化及び/又は窒素リガンドを有する水溶性及び/又は水分散性重合体錯化剤が用いられる。このような重合体は米国特許第5,298,289号に詳細に記述されており、ここではその発明の錯化性重合体化合物として記述されている。これらの中で、特に好適なものは、
x−(N−R1−N−R2−アミノメチル)−4−ヒドロキシスチレンモノマー単位
を含む水溶性及び/又は水分散性重合体錯化剤であり、この錯化剤において、芳香族環上における置換位置xは、x=2,3,5又は6でありR1は炭素原子数が4以下のアルキル基であり、またR2は一般実験式:H(HOH)mCH2−の置換基を表し、前記式中の、ヒドロキシメチレン基の数mは3以上5以下である。このような錯化性重合体化合物としては、ポリ(5−ビニル−2−ヒドロキシ−N−ベンジル−N−グルカミン)が、その顕著な錯化性により特に好まれている。
【0035】
鉄(II)イオンの錯化と、低分子量の錯化剤とが類似していることにより、水溶性及び/又は水分散性重合体化合物のモノマー単位の濃度の、金属(A)のカチオン及び/又は化合物の濃度に対する比と定義されたキレート性錯化剤のモル比5:1以下、好ましくは2:1以下でありかつ1:5以上であるときに重合体化合物に対して、特に有効である。
【0036】
錫のカチオン及び/又は化合物が本発明の前処理方法における酸化段階+II及び+IVにおいて使用される場合には、水性処理剤(1)のpH値は4以上であり8以下であることが好ましく、特に6以下であることが好ましい。
【0037】
亜鉛めっき及び/又は亜鉛合金めっきされた鋼の表面を表面処理する工程鉄の一部を構成する本発明の前処理方法に対して、ストリップ鋼の製造およびストリップ鋼の精製において従来から使用されてきた塗布法(application methods)が好適である。この塗布法は特に浸漬法及びスプレー法を包含する。しかし、水性処理剤(1)による接触時間又は前処理時間は、1秒間以上でかつ30秒以下、好ましくは10秒以下にするべきである。時間内において、好ましくは1mg/m2以上、好ましくは100mg/m2以上の、特に好ましくは50mg/m2以下の層状被覆量をもって、金属(A)の金属被覆層が得られる。前記層状の金属被覆層の量は、本発明においては、本発明の前処理の直後において、亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきされた鋼表面の単位面積当りの金属元素(A)の質量により表される。
【0038】
前記好ましい接触時間及び層状被覆量並びに好ましい塗布方法は、同様に、数枚の金属材料から構成された構造部材の本発明方法による前処理に対しても適用される。但し、前記金属材料は、少なくとも部分的に亜鉛表面を有するものに限る。
【0039】
また、本発明の対象物は、亜鉛合金めっき鋼材表面と、水性処理剤(1)との組み合わせを包含し、この場合、亜鉛合金めっき鋼材表面における合金成分が、前記水性処理剤(1)中の、カチオン及び/又は化合物の形態にある金属(A)と同一の元素(A)である。例えば火炎亜鉛めっきされたGalvannealed(商標)高級金属プレートを、本発明方法に従って、鉄イオンを含有する処理剤(1)によって、前処理されてもよく、その結果、次に防食層を塗布することにより、腐食性及び層間剥離性が若干改善される。
【0040】
本発明の前処理方法は、特に切断部分、表面欠陥部及びバイメタンの接触部おける防食保護及び塗料の密着が最適化されるように、下流における亜鉛めっき及び/又は亜鉛合金めっきされた鋼材表面の表面処理に適応せしめられる。従って本発明は、種々の後処理方法、例えば化成被覆及び塗料被覆を包含する。前記後処理を前述の前処理と組合せて用いられたときに、防食保護に関して所望の結果が得られる。図1は自動車製造における金属表面の防食被覆のための本発明方法に好ましい種々の工程を示している。これらの方法は、鋼製造工場(コイル産業)において開始され、自動車製造工場における塗装工程(「塗装工場」)へと続く。
【0041】
従って、他の様相において、本発明は金属被覆により前処理された亜鉛めっき及び/又は亜鉛合金めっき鋼材表面上における不動態化化成被覆層の形成(図1の方法IIa)に関するものであり、前記前処理と化成被覆との間に、すすぎ洗い工程及び/又は乾燥工程はあってもよく、なくてもよい。
【0042】
クロムを含む化成溶液をこの目的に用いてもよいが、しかしクロムを含まない化成溶液の使用が好ましい。本発明方法に従って前処理された金属表面を永久有機防食被覆を施す前に処理し得る好ましい化成溶液は、DE19923084A及びそれに引用されている文献中に開示されている。これらの文献の教示によれば、クロム不含有水性化成処理剤は、Ti,Si及び/又はZrのヘキサフルオロアニオンに加えて、追加活性成分として、下記のものを含むことができる。すなわち錯化性を有するりん酸、Co,Ni,V,Fe,Mn,Mo及びWの1種以上の化合物、水溶性又は水分散性フィルム形成性有機重合体又は共重合体、及び有機ホスホン酸などである。前記化成溶液中に使用され得る前記有機フィルム形成重合体の詳細なリストは、前記文献の第4ページ第17乃至39行に記載されている。
【0043】
上記記載に引続き、前記文献は前記化成溶液に使用可能な追加成分として錯化性有機ホスホン酸の非常に綿密なリストを開示している。これらの成分の特殊な実例を、上記に引用したDE19923084A中に見出すことができる。
【0044】
さらに、ポリビニルフェノール化合物とホルムアルデヒド及び脂肪族アミノアルコールとのマンニッヒ付加反応生成物に基づく酸素及び/又は窒素リガンドを有する水溶性及び/又は水分散性重合体錯化剤を用いてもよい。このような重合体は米国特許第5,298,289号に開示されている。
【0045】
本発明における化成処理用の方法パラメータ、例えば処理温度、処理時間及び接触時間などは、表面面積m2当り、少なくとも0.05mmol、好ましくは少なくとも0.2mmol、但し、3.5mmol以下、好ましくは2.0mmol以下、特に好ましくは1.0mmol以下の、前記化成溶液の不可欠成分である金属Mを含む化成被覆層を形成するように選択されるべきである。金属Mを例示すればCr(III),B,Si,Ti,Zr,Hfなどが包含される。亜鉛表面の金属Mによる被覆密度は例えば、X−線蛍光分析法により測定することができる。
【0046】
前記金属被覆前処理に続く化成処理を含む本発明方法(IIa)の特別な様相において、クロム非含有化成処理剤は、さらに銅イオンを含んでいる。このような化成処理剤中の、ジルコニウム及び/又はチタンから選ばれた金属原子Mの、銅原子に対するモル比は、少なくとも0.1mmolの、好ましくは少なくとも0.3mmolの、しかし2mmol以下の、銅を含む化成処理層を形成するように選択されることが好ましい。
【0047】
本発明は、また、亜鉛めっき及び/又は亜鉛合金めっきされた鋼材表面の金属被覆前処理及び化成処理を含む下記方法工程:
i)必要により前記金属の表面を清浄化/グリース除去し、
ii)本発明方法に従って水性処理剤(1)をもって前処理して金属被覆し、
iii)必要によりすすぎ洗い及び/又は乾燥工程を施し、
iv)6価クロム不含有化成処理を施す。但し、この化成処理において、表面積m2当り0.05乃至3.5mmolの金属Mを含む化成被膜層を形成し、前記金属Mは、前記化成溶液の不可欠成分を構成するものであって、前記金属MはCr(III),B,Si,Ti,Zr及びHfから選ばれる。
を含む方法(IIa)に係るものである。
【0048】
金属被覆前処理の次に化成処理が施されて、薄い無定形の無機被覆層が形成される方法(IIa)の代りに、別の方法(図1のIIb)、すなわち、本発明の金属被覆前処理の次にリン酸亜鉛処理が施され、好ましくは3g/m2以上の被覆量を有する結晶性リン酸塩層が形成される方法が用いられる。しかし、本発明方法によれば、前記方法(IIa)の方が好ましい。その理由は方法(IIa)の方法の方が工程の複雑さが低く、予じめ金属被覆処理された亜鉛めっき表面上の化成被膜層の、防食保護における向上が顕著であることにある。
【0049】
さらに、金属被覆前処理及びそれに続く化成処理の後に、通常、特に有機塗料又は塗料システム(図1、方法III−V)を塗布するための、追加処理工程が施される。
【0050】
従って、他の様相において、本発明は六法(III)に関するものである。方法(III)は、前記方法(II)の方法連鎖(i〜iv)を拡張するものであって、方法(III)において有機溶剤又は溶剤混合物中に溶解又は分散された有機樹脂成分を含む有機被覆剤(1)が塗布され、この被覆剤(1)は、少なくとも下記の有機樹脂成分:
a)ヒドロキシル基含有ポリエーテルとして、ビスフェノール−エピクロロヒドリン重縮合生成物を主成分として含むエポキシ樹脂、
b)ブロックされた脂肪族ポリイソシアネート、
c)ブロックされていない脂肪族ポリイソシアネート、及び
d)ヒドロキシル基含有ポリエステル及びヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートから選ばれた少なくとも1種の反応成分、
を含むものである。
【0051】
前記成分a)は、エピクロロヒドリンと、反応性基以外のエポキシ基を実質的に含まないビスフェノールとの十分に反応した重縮合反応性生物である。この重合体は、ヒドロキシル基含有ポリエーテルの形態にあり、これは例えばそのヒドロキシル基によって、ポリイソシアネートによる架橋反応に参加できるものである。
【0052】
この重合体にビスフェノール成分は例えばビスフェノールA及びビスフェノール下から選んでもよい。前記重合体の平均分子量は、20,000〜60,000の範囲内にあることが好ましく、特に30,000〜50,000の範囲内にあることが好ましい。(前記平均分子量は、製造者の指示書に従って、例えばゲル浸透クロマトグラフにより測定することができる。また前記重合体のOH数(OHnumber)は170〜210の範囲内にあることが好ましく、180〜200の範囲内にあることが特に好ましい。前記重合体は、前記エステル樹脂を基準にして、5〜7質量%の範囲内にあるヒドロキシル基含有率を有することが好ましい。
【0053】
前記脂肪族ポリイソシアネートb)及びc)はHD1、特にHD1三量体を主成分として含むものであることが好ましい。通常のポリイソシアネートブロッキング剤を、ブロックされた脂肪族ポリイソシアネートb)のブロッキング剤として用いることができる。これに記載できるブロッキング剤の実例は、ブタノンオキシム、ジメチルピラゾール、マロン酸エステル、ジイソプロピルアミン/マロン酸エステル、ジイソプロピルアミン/トリアゾール及びε−カプロラクタムを包含する。ブロッキング剤として、マロン酸エステルと、ジイソプロピルアミンの組合せを用いることが好ましい。
【0054】
成分g)のブロックされたNCO基の含有率は8〜10質量%の範囲内にあることが好ましく、特に8.5乃至9.5質量%の範囲内にあることが好ましい。またその当量は350乃至600g/molの範囲内にあることが好ましく、特に450乃至500g/molの範囲内にあることが好ましい。
【0055】
前記ブロックされていない脂肪族ポリイソシアネートc)は200〜250g/molの範囲内の当量と、15質量%乃至23質量%の範囲内のNCO基含有率を有することが好ましい。例えば、200乃至230g/molの範囲内の、特に、210乃至220g/molの範囲内の当量と18質量%乃至22質量%の範囲内の、好ましくは19質量%乃至21質量%の範囲内のNCO基含有率を有する脂肪族ポリイソシアネートを選択してもよい。他の好適な脂肪族ポリイソシアネートとしては220g/mol乃至250g/molの範囲内の、例えば特に230乃至240g/molの範囲内の当量と、15質量%乃至20質量%の範囲内の好ましくは16.5質量%乃至19質量%の範囲内のNCO基含有率を有するものがある。前述の脂肪族ポリイソシアネートの各々は、成分c)を構成してもよい。しかし、成分c)はこれら2種のポリイソシアネートの混合物を含んでいてもよい。成分c)に対して前記2種のポリイソシアネートの混合物が用いられるときには、初めに述べたポリイソシアネートの、最後に述べたポリイソシアネートに対する量比は、1:1乃至1:3の範囲内にあることが好ましい。
【0056】
成分d)はヒドロキシル基含有ポリエステル及びヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートから選択される。例えば3乃至12mgKOH/gの範囲内の、特に4乃至9mgKOH/gの範囲内の酸価を有するヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートを使用してもよい。前記ヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートのヒドロキシル基含有率は1乃至5質量%の範囲内に、特に2乃至4質量%の範囲内にあることが好ましい。またその当量は、500乃至700g/molの範囲内に、特に550乃至600g/molの範囲内にあることが好ましい。
【0057】
成分d)として、ヒドロキシル基含有ポリエステルが用いられたときにはそれは200乃至300g/molの範囲内の、特に240乃至280g/molの範囲内の当量を有する分岐鎖ポリエステルから選ぶことができる。さらに300乃至500g/molの範囲内の、特に350乃至450g/molの範囲内の当量を有する弱く分岐しているポリエステルもまた好適である。これらの互に異なるポリエステルは、単独に、或は混合物として成分d)を構成することができる。勿論、ヒドロキシル基含有ポリエステルと、ヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートとの混合物もまた成分d)として用いることができる。
【0058】
従って、本発明方法(III)における被覆剤(1)はブロックされた脂肪族及びポリイソシアネートb)及びブロックされていない脂肪族ポリイソシアネートc)を含むものである。前記ヒドロキシル基含有成分a)及びd)はこれら2種のポリイソシアネートタイプ成分に対する潜在的反応成分として、利用できる。処理剤(2)を硬化させると、成分a)及びd)の各々と、成分b)及びc)の各々との発生可能な反応によってポリウレタンの複雑な重合体ネットワーク構造が得られる。さらに成分d)としてヒドロキシル基含有ポリ(メタ)アクリレートが用いられる場合には、これらの成分の二重結合を介して、他の架橋結合が形成され得る。若し、前記ポリ(メタ)アクリレートの二重結合のすべてが、硬化工程において架橋され、それによって、特に表面に存在しているすべての二重結合は、次に前記表面に塗布された塗料、特にそれが重合可能な二重結合を有する成分を含む塗料、に対して向上した密着性を発現することができる。このような観点から成分d)は少なくとも部分的にヒドロキシ基含有ポリ(メタ)アクリレートからなるものであることが好ましい。
【0059】
本発明方法(IV)における被覆剤(1)の硬化工程において、前記ブロックされていない脂肪族ポリイソシアネートc)は、先ず、成分a)及びd)の一方又は両方と反応することが予想される。若し、成分d)のヒドロキシル基が成分a)のヒドロキシル基よりも高い活性を有しているならば、成分c)の、成分d)との反応は、硬化工程の最初に行われることが好ましい。
【0060】
他面において前記ブロックされた脂肪族ポリイソシアネートb)は、ブロック除去温度に達したときにのみ、成分a)及びb)の一方又は両方と反応する。このとき、相互反応剤a)及びb)のうちの反応性OH基の数が少ないもののみが、ポリウレタンを形成するために利用可能である。このことは、得られるポリウレタンのネットワーク構造に関して、例えば、成分a)のOH基の反応性が成分d)のOH基の反応性よりも低いときには、一方においては成分c)及びd)の反応から、また他方においては成分a)及びb)の反応から2種のポリウレタンネットワーク構造が形成される。
【0061】
本発明方法(III)における被覆剤(1)は1面では成分a)及びb)を含み、他面では成分c)及びd)を、好ましくは、下記相対的質量比:
a):b)=1:08乃至1:1.3
及び
c):d)=1:1.4乃至1:2.3
で含有する。
【0062】
一面では成分a)及びb)及び他面では成分b)及びc)は、好ましくは下記相互的質量比:
a):d)=1:2乃至1:6(好ましくは1:3乃至1:5)
及び
b):c)=1:0.5乃至1:5(好ましくは1:1乃至1:3)
をなして用いられる。
【0063】
上述の4種の成分a)乃至d)の好ましい絶対量比は、必要により用いられる導電性顔料の密度に依存して定まる(図1、方法IIIb)ので、後記のように設定される。
前記被覆剤(1)は、好ましくは成分a)乃至b)に添加された1種の導電性顔料又は複数種の導電性顔料の混合物を含有する。これらの顔料はカーボンブラック及び黒鉛と同様の、比較的低い密度を有するものであってもよく、或は金属鎖と同様の比較的高い密度を有するものであってもよい。前記被覆剤(1)中の前記導電性顔料の絶対含有率はその密度に依存する。その理由は、導電性顔料の効果は、硬化された被覆層内における導電性顔料の質量含有率の方に、導電性顔料の体積含有率よりも低く依存するということにある。
【0064】
一般に、前記被覆剤(1)が、その合計質量を基準にして、(0.8乃至8)ρ質量%の導電性顔料を含むということが実状である。上記ρは前記導電性顔料の密度(単位:g/cm3)或は、複数の導電性顔料の混合物の平均密度(単位:g/cm3)を表す。この被覆剤(1)は、好ましくは、その合計質量に対して、(2乃至6)ρ質量%導電性顔料を含有する。
【0065】
これは、例えば、被覆剤(1)が導電性顔料として、2.2g/cm2の密度を有する黒鉛のみを含む場合には、前記被覆剤(1)は好ましくは少なくとも1.76質量%の、特に少なくとも4.4質量%の、但し好ましくは17.6質量%以下の、特に13.2質量%以下の、黒鉛を含むということを意味する。また密度7.9g/cm2を有する鉄粉を、単一種の導電性顔料として使用されたときには、この被覆剤(1)は、好ましくは、その合計質量を基準にして、6.32質量%以上の、特に15.8質量%以上の,かつ63.2質量%以下の、特に47.4質量%以下の鉄粉を含有する。従って、導電性顔料の質量基準の含有率は、4.8g/cm3の密度を有するMoS2を除き、導電性顔料として、例えば2.7g/cm3の密度を有するアルミニウム又は7.1g/cm3の密度を有する亜鉛を用いる場合には、後述のように算出される。
【0066】
しかし、被覆剤(1)が単一の導電性顔料のみならず、少なくとも2種の導電性顔料の混合物を含み、好ましくはそれらが密度において互に大いに異る場合に、特性の好ましい組み合わせを得ることができる。例えば前記混合物の第1成分がカーボンブラック、黒鉛又はアルミニウムのように軽い導電性顔料であり、前記混合物の第2成分が、亜鉛又は鉄のように重い導電性顔料であるような導電性顔料混合物を用いることができる。これらの場合、前記混合物の平均密度は、この混合物中の成分の質量による含有量及びそれらのそれぞれの密度から算出することができ、得られた平均密度を前記式中の密度ρとして用いる。
【0067】
従って、本発明方法(IIIb)における被覆剤(1)の特別の実施態様は、この被覆剤が3g/cm3未満の密度を有する導電性顔料及び4g/cm3より高い密度を有する導電性顔料を含み、前記処理剤(2)の合計質量を基準にする導電性顔料の合計質量含有率が、(0.8乃至8)ρ質量%(但し、ρは前記複数の導電性顔料の混合物の平均密度(単位:g/cm3)を表す)であることを特徴とするものである。
【0068】
例えば、前記被覆剤(1)は、前記導電性顔料として、1成分としてカーボンブラック又は黒鉛と、他の成分として鉄粉との混合物を含むことができる。1成分としてのカーボンブラック又は黒鉛と、他の成分としての鉄粉との実質比は、1:0.1乃至1:10の範囲内、特に1:0.5乃至1:2の範囲内にあってもよい。
【0069】
前記被覆剤(1)は、また軽い導電性顔料として、アルミニウムフレーク、黒鉛及び/又はカーボンブラックを含んでいてもよく、この場合、黒鉛及び/又はカーボンブラックの使用が好まれている。特に、カーボンブラック及び黒鉛は、形成される被覆層に導電性を発生させるだけでなく、得られる被覆層に、4以下の所望の低モース硬度を与え、かつ成形し易くすることに寄与する。特に、黒鉛の潤滑効果は、成形用工具上における磨耗の減少に貢献する。この硬化は潤滑効果を有する顔料、例えば、硫化モリブデンを用いることによってさらに向上する。添加用潤滑剤及び成形助剤として、前記被覆剤(1)はワックス及び/又はテフロン(登録商標)を含んでいてもよい。
【0070】
最高3g/cm3の比重を有する前記導電性顔料は小さなビーズ又はこのビーズの凝集体の形状をなしていてもよい。これらのビーズ及びビーズ凝集体が2μm未満の直系を有することが好ましい。しかし、これらの導電性顔料は、好ましくは2μm未満の厚さを有するフレークの形状をなしていることが好ましい。
【0071】
本発明方法(III)における前記被覆剤(1)は少なくとも上述の樹脂成分と溶剤とを含んでいる。前記樹脂成分a)乃至d)は、通常、その市販形状において、有機溶剤中の溶液又は分散液の形状をなしている。これらの成分から調製された被覆剤(1)は、さらにそれらの溶剤を含んでいる。
【0072】
前記被覆剤(1)において、黒鉛のような導電性顔料、及び必要により他の顔料、例えば特定の飲食性顔料がさらに含まれているかいないかに拘りなく、被覆剤(1)が、それをコイルコーティング法により、基体上に塗布することを可能にする粘度を有することが望ましい。必要があるならば、溶剤が、被覆剤にさらに添加されていてもよい。この溶剤の化学特性が通常、相当する溶剤中に含まれる原料を選択することにより定まる。例えば溶剤は、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、酢酸ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、プロピレングリコール−メチルエーテル、プロピレン−n−ブチルエーテル、酢酸メトキシプロピル、酢酸n−ブチル、キシレン、グルタル酸ジメチルエーテル、アジピン酸、ジメチルエステル及び/又はこはく酸ジメチルエステルを含むことができる。
【0073】
前記被覆剤(1)中の一方では、溶剤の好ましい含有量(単位:質量%)及び他方では有機樹脂成分の好ましい含有量(単位:質量%)は被覆剤(1)中の導電性顔料の含有量(単位:質量%)に依存する。導電性顔料の密度が高い程、全被覆剤(1)中の導電性顔料の好ましい質量含有量は高くなり溶剤及び樹脂成分の質量含有量は低くなる。従って、溶剤及び樹脂成分の好ましい質量含有量は、使用される導電性顔料の密度ρ、及び/又は導電性顔料の混合物の平均密度ρに依存する。
【0074】
一般に本発明方法(III)における被覆剤(1)は、好ましくは、その被覆剤(1)の合計質量%を基準として、〔(25乃至60)×フィッティング係数〕質量%、好ましくは〔(35乃至55)×フィッティング係数−〕質量%の有機溶剤及び〔(20乃至45)×フィッティング係数〕質量%、好ましくは〔(25乃至40)×フィッティング係数〕質量%の有機樹脂成分を含有する。この場合、有機樹脂成分と溶剤との合計含有量(質量%)は〔93×フィッティング係数〕質量%以下、好ましくは〔87×フィッティング係数〕質量%以下であり、フィッティング係数〔100−2.8ρ〕は93.85であり、ρは導電性顔料の密度(g/cm3)又は導電性顔料混合物の平均密度(g/cm3)である。
【0075】
前記個別樹脂成分a)に関し、前記被覆剤(1)がこの被覆剤(1)の合計質量を基準として、〔(2乃至8)×フィッティング係数〕質量%、好ましくは〔(3乃至5)×フィッティング係数〕質量%の樹脂成分(a)を含むことが好ましく、この場合フィッティング係数は〔100−2.8ρ〕=93.85であり、ρは導電性顔料の密度又は導電性顔料混合物の平均密度である。被覆剤(1)中の、樹脂成分b)乃至d)の好ましい質量含有量は、上述の各個樹脂成分の好ましい質量比を用いて、前記樹脂成分a)の質量含有量から算出することができる。例えば被覆剤の全量中における樹脂成分b)の含有量は〔(2乃至9)×フィッティング係数〕質量%、好ましくは〔(3乃至6)×フィッティング係数〕質量%であってもよいく、樹脂成分(c)の含有量は〔(4乃至18)×フィッティング係数〕質量%、好ましくは〔(6乃至12)×フィッティング係数〕質量%であってもよく、樹脂成分d)の含有量は〔(7乃至30)×フィッティング係数〕質量%、好ましくは〔(10乃至20)×フィッティング係数〕質量%であってもよい。「フィッティング係数」の意味は前述のとおりである。
【0076】
さらに、層b)に対しては、それが腐食防止剤及び/又は防錆顔料をさらに含むことが好ましい。腐食防止剤又は防食性顔料としては、先行技術においてこの目的用として既知のものを用いることができる。その例としては、酸化マグネシウム顔料、特にナノスケール状のもの、微細に粉砕された又は極めて微細に粉砕された硫酸バリウム、或は硅酸カルシウムを主成分として含む防食性顔料などをあげることができる。さらに前記防食性顔料の、被覆剤(1)の全質量を基準にする好ましい質量含有量は、使用された防食性顔料の密度に依存する。本発明方法(III)における被覆剤(1)は、好ましくは、被覆剤の全質量を基準にして、〔(5乃至25)×フィッティング係数〕質量%、特に〔(10乃至20)×フィッティング係数〕質量%の防食性顔料を含むことが好ましい。この場合、フィッティング係数は〔100−2.8ρ〕=93.85であり、ρは導電性顔料の密度(g/cm3)又は導電性顔料混合物の平均密度(g/cm3)である。
【0077】
本発明方法(III)において、被覆剤(1)を熱処理した後に得られた被覆層の機械的及び化学的性質は、それが充填剤をさらに含むことによりさらに改善することができる。例えば充填剤は硅酸又はシリコン酸化物(必要により疎水性化される)、アルミニウム酸化物(塩基性酸化アルミニウムを包含する)、酸化チタン及び硫酸バリウムから選ぶことができる。充填剤の好ましい含有量については、前記被覆剤(1)が〔(0.1乃至3)×フィッティング係数〕質量%、好ましくは〔(0.4乃至2)×フィッティング係数〕質量%の、硅酸、及び/又はシリコン酸化物、二酸化チタン及び硫酸バリウムから選ばれた充填剤を含むことがよい。この場合、フィッティング係数は〔100−2.8ρ〕=93.85であり、ρは導電性顔料の密度又は導電性顔料混合物の平均密度である。
【0078】
潤滑剤又は再成型助剤がさらに使用される場合には、被覆剤に、その合計質量を基準として、好ましくはワックス、硫酸モリブデン及びテフロン(登録商標)から選ばれた潤滑剤又は成形助剤を、好ましくは〔(0.5乃至20)×フィッティング係数〕質量%、特に〔(1乃至10)×フィッティング係数〕質量%の含有量で含有するようにする。この場合、フィッティング係数は〔100−2.8ρ〕=93.85であり、ρは導電性顔料の密度(g/cm3)又は導電性顔料混合物の平均密度である。
【0079】
本発明方法(III)は、有機塗料の塗布を含み、従って、下記工程連鎖:
i)必要により原料材の表面を清浄化/油脂分除去し、
ii)本発明に従う水性処理剤(1)によって、金属被覆前処理し
iii)必要によりすすぎ洗い及び/又は乾燥工程を施し、
iv)クロム(VI)非含有化成処理を施して、表面積m2当り0.01乃至0.7mmolの金属Mを含む化成被膜層を形成し、但し金属Mは、化成処理液の不可欠成分を構成し、この金属MはCr(III),B,Si,Ti,Zr及びHfから選ばれ、
v)必要によりすすぎ洗い及び/又は乾燥工程を施し、
vi)前述の記載事項に従う被覆剤(1)を、被覆し、そして、120乃至260℃との好ましくは150乃至170℃の温度範囲において硬化する。
ことから構成される。
【0080】
全工程(i)−(vi)はストリップ処理法により実施されることが好ましく、工程(vi)においては液状被覆剤(1)が、硬化の後に、得られる層が、0.5乃至10μmの範囲内の所望の層厚さになるような量で塗布される。従って、被覆材(1)は、所謂コイルコーティング法により塗布されることが好ましく、このコイルコーティング法において浮動している金属ストリップが連続的に被覆される。この被覆剤(1)は、従来技術において慣用の種々の方法により塗布することができる。例えば所望の潤滑被膜厚さに直接規制するために、塗布ローラーを用いてもよい。別の方法として、金属ストリップを被覆剤(1)中に浸漬し、或は被覆剤(1)をスプレーし、その後に、絞りローラーを用いて所望の潤滑被膜厚さに規定する。
【0081】
金属層、例えば亜鉛層又は亜鉛合金層により直前に被覆された金属ストリップが、電気めっき又は溶融浸漬めっきされるときは前記金属被覆前処理(ii)を施す前に金属表面を清浄化する必要はない。しかし、前記金属ストリップが既に貯蔵され、特に防食油により処理されたものである場合には、前記工程(ii)を施す前に清浄化する工程(i)が必要である。
【0082】
工程(vi)において、前記液状被覆剤(1)を塗布した後に、被覆された金属板を、前記有機被覆のための所要の乾燥及び/又は架橋処理温度に加熱する。前記被覆された基材を、120乃至260℃の範囲内、好ましくは150℃乃至170℃の範囲内の所要基材温度(「最高金属温度」=TMP)に加熱する工程は連続加熱オーブン中において施してもよい。しかし、処理剤もまた、赤外線照射、特に近赤外線照射により、適切な乾燥及び/又は架橋処理温度に加熱してもよい。
【0083】
自動車製造における車体の製造において前述のような前被覆された金属板は所望の寸法及び形状に裁断されるに従って組み立てられた構造部材及び/又は組み立てられた末仕上げ車体は、防食保護されていない切断端部を有し、この端部をさらに防食保護することが必要である。このために、追加の防食処理が所謂ペイントショップ(塗装工場)において施され、最終的に自動車に通常の塗装構造が達成される。
【0084】
従って本発明は、他の様相において、方法(IV)に関するものであり、この方法(IV)は方法(III)の工程連鎖を拡張して、先ず露出している金属表面上、特に切断端部に結晶性リン酸塩層を析出沈着させ、それにより最終防食を達成し、特に切断端部における塗料システムの腐食剥落の防止を浸漬塗布手段を用いて達成する。前記方法(III)における有機被覆剤(1)による初めの被覆により導電性被覆層が形成される場合には、リン酸塩処理された切断端部及び前記方法(III)において、初めに被覆された表面を包含する全金属構造部材は、電着被膜(図1、方法(IVb))されてもよい。若し、この初めの被覆層の導電性が不十分であるならば前記リン酸塩処理された切断端部だけを電気−浸漬被覆し、初めに被覆された表面上に塗装構造がさらに形成されないようにされる。前記切断端部が、リン酸塩処理されていないが自己析出浸漬被覆層(AC)により被覆されている場合(図1、方法(IVc))にも上記の処理が施される。しかし、本発明は本発明方法による金属被覆により前処理された亜鉛表面は、特に端部腐食の抑制において優れているということを特徴とするものである。方法(IV)における電気−浸漬被覆及び方法(V)における追加塗料層の塗布を含む本発明方法の工程連鎖において、構造部材の、本発明(図1、方法(I))に従って前処理された亜鉛表面からなる部分の面積m2当り析出沈着した浸漬被覆層の量、及び/又は、自動車の車体用金属板を、石の衝撃からの保護及び金属表面中のすべての不均整を補正することを主な役割とする、塗布されるべき充填剤の量を、第2被覆(図1、方法(V))によって、防食保護及び塗料密着に関する性能を損ずることなしに、顕著に低下させることができる。
【0085】
他の様相において本発明は、亜鉛めっき及び/又は亜鉛合金めっきされた鋼材表面、及び本発明方法により前記水性処理剤(1)を用いる金属被覆によって前処理された、或は前記前処理の後に、例えば本発明方法(II−IV)に従って不動態化化成処理層及び/又は塗料によって被覆された亜鉛表面を、少なくとも部分的に有している金属構造部材に関する。
【0086】
上述の方法により前処理された鋼材表面又は構造部材は自動車製造工業における車輌の車体の製造、造船業、建設工業、及び白もの電気製品に用いられる。
実施態様
【0087】
本発明方法による金属被覆前処理のための電動力(EMF)を測定するための電気化学的測定プロセスを図2に示す。この測定系列は2個の化学半電池からなり、この電池では1個の半電池が金属(A)のカオチン及び/又は化合物を含む処理剤(A)を含み、他の半電池が金属(A)のカオチン及び/又は化合物を全く含まない点において、処理剤(1)とは異なる処理剤(2)を含んでいる。上記両半電池はソルトブリッジに接続され処理剤(1)中の金属(A)の金属電極と処理剤(2)中の亜鉛電極との間の電圧差が無電流法により測定される。プラスのEMF値は処理剤(1)中の金属(A)のカオチン及び/又は化合物の酸化還元電位Eredoxが、電極電位EZnよりも貴な値を有することを意味する。下記表1において、本発明の金属被覆に好適な、鉄(II)カオチン含有処理剤(1)に対するEMFを、図2に示したものと同様の測定系列に従って測定した結果が示されている。
【表1】

〔註〕*: 処理剤(1)の組成:
0.15モル/リットル H3PO2
0.033モル/リットル 乳酸
#: Fe(II)はFeSO4・7H2Oを表す
【0088】
亜鉛めっきされた鋼ストリップは、本発明に従って金属被覆(鉄被覆)前処理を施した後の、切断端部の保護の改善に関する態様を述べるために、電気亜鉛めっきされた鋼板(DC04,ZE75/75、自動車グレード)上に本発明方法(III)の工程系列が下記のように施される。上記方法により被覆されかつ処理された亜鉛めっき鋼板をその切断端部において、ナラ材ブロック(beechwood block)中で把握し、VDA気象変動テスト(621−415)に準拠して、一定含湿環境中に、10週間貯蔵した。
【0089】
本発明の実施例B1−B3
本発明方法(III)を、下記に詳述するように実施する。
(i)電気亜鉛めっきされた鋼板(ZE)を、アルカリ性洗浄剤(Ridoline(商標)C72,Ridoline(商標)B40;本願の出願人による浸漬及びスプレー洗浄製品)を用いて脱脂する。
(ii)金属被覆(鉄被覆)前処理を、50℃の水性媒体温度及び2.5のpH値において、t=2秒間(B1)及びt=5秒間(B2)の接触時間で施す。但し、この場合処理剤(1)は下記の構成を有している。
B1: 27.8g/リットルのFeSO4・7H2
B2: 13.9g/リットルのFeSO4・7H2
9.9g/リットルのH3PO2
3.0g/リットルの乳酸
(iii)前記前処理された鋼板を水道水中に浸漬することによってすすぎ洗いする工程。
(iv)主成分としてリン酸、リン酸マンガン、H2TiF6及びアミノメチル−置換ポリビニルフェノール(本願の出願人が3年販のGranodin(商標)1445T)を含む市販の前処理溶液を、ケムコーター(ローラー塗布法)を用いて前記金属表面に塗布する。これに80℃において乾燥を施し、得られたチタン含有被覆層をX−線蛍光分析法により測定したところその含有量は10乃至15mg/m2の間にあった。
(v)前記前処理された鋼板を水道水中に浸漬して、すすぎ洗いする工程。
(vi)ドイツ特許出願DE102007001654D(その実施例1参照)の実施例部に記載された組成に基いて、導電性顔料とに、黒鉛を含む市販の被覆剤(1)を、ケムコーターを用いて、前記前処理された鋼板に塗布し、乾燥器内において、160℃の基材温度に加熱して硬化させる。この被覆剤の塗布によって、1.8μmの厚さを有する乾燥被膜層が得られる。
【0090】
前記電気亜鉛めっき鋼板上の鉄の層状被覆を、前記工程(ii)の直後の10質量%の塩酸中の化学処理において溶解し、次に鉄の含有量を、X−線蛍光分析(RFA)を用いる純亜鉛基材(99.9%Zn)ついての実験と対比して原子吸光分光分析法(AAS)或はその他の方法により、測定することができる。実施例B1においては、処理工程(ii)おける金属被覆前処理による鉄(Fe)の付着量は約20mg/m2であると測定される。
【0091】
比較例V1
本発明方法(III)を改変して、実施例B1の工程(ii)、すなわち、金属被覆前処理を省略した。
【0092】
比較例V2
本発明方法(III)を変更して、実施例B1の工程(ii)の代りに、本出願人の市販製品(Granodine(商標)1303)によるアルカリ性不動態化前処理を、未審査ドイツ特許出願DE19733972(その表1、実施例1参照)に記載されている硝酸鉄(III)を主成分とする組成に従って施した。
【0093】
比較例V3
実施例B1において、本出願人による市販のアルカリ性洗浄系(Ridoline(商標)1565/Ridosol(商標)1237)を用いて脱脂した後、得られた鋼板を市販活性化処理溶液(Fixodine(商標)9112)中において活性化し、工程(vi)に類似の塗料系により被覆される前に三室構造リン酸塩処理浴中において、本出願人市販のgranodine(商標)958Aを用いて不動態化する。
【0094】
方法(III)に従う工程系の後に、すべての鋼板を切断端部が形成される方法に切断し、再び比較例V3に記載のリン酸塩処理に供する。
【0095】
次に、18−20μmの被覆被膜厚さを有する陰極浸漬被覆を前処理された全鋼板上に沈着させ、これを循環オーブン中において175℃において20分間熱処理する。全体において、亜鉛基材の防食前処理(図1、方法II及びIIb)によって開始され、かつ、車体製造のための塗装工場における浸漬被覆(図1、方法(IVb))の沈着により終了する工程系が実験的に再調整される。
【0096】
表2は、10週間の気象変動テストの後に切断端部における塗料被覆層の腐食剥離に関する結果を示す。塗料被覆層の剥離は切断端部の存在個所の違いにより変動の程度が進行するので、表2は、互に対応する被覆系について塗料被覆層の最大剥離長さをミリメートルで示している。
【表2】

【0097】
前記VDA気象変動テストの結果に基いて、従来の処理方法に比較して、切断端部における本発明の金属被覆前処理(鉄被覆)の優秀な防食保護作用が明らかになる。先行技術に記載されている鉄(III)含有溶液を用いるアルカリ不動態化は、リン酸処理された鋼板(V3)が不動態化前処理が施されていない鋼板(V1)に対比して、切断端部の改善された保護を提示しているが、しかしこの方法は本による金属被覆前処理(B1)よりも効果が低い。
【0098】
切断端部の腐食及び切断端部における塗料系の剥離最少にすることに関し、方法系IIa→IIIa→IIIb(図1参照)に従う被覆形のためのアルカリ前処理を施された亜鉛表面(V2)に比較して、本発明の前処理(B1,B2)によりすぐれた結果は、図3に示されている。さらに、本発明の前処理における鉄(II)濃度の減少(B2)とともに、切断端部における塗料被覆層の剥離の著しい抑制を、本発明に係る実施例に示されているように、処理剤(1)との接触時間を、2秒間(B1)から5秒間(B)に長くすることによって、達成し得るのである。同様に、図3に基けば、本発明の実施例(B1,B2)に示されているように本発明の工程連鎖中の本発明の前処理の省略(VI)が否定的(マイナス)は効果を示すことは明らかである。本発明の前処理なしで、従来のリン酸塩処理され、次に、電気浸漬被覆された、従来の亜鉛めっきされた表面(V3)もまた、切断端部における塗料被覆層に明らかな膨れ及び剥離を示すのである。
【0099】
前記金属被覆前処理(鉄被覆)を施すことにより、石衝撃テストの結果が改善されることもまた明白である。図4の写真は、先ず最初に、本発明の前処理によって、塗料の密着性が明らかに向上し、次に、塗料被覆層のあらゆる識別可能な腐食剥離が困難になることを示している。
【0100】
前記塗料被覆層の引っかきによる腐食剥離防止もまた、図5から明白なように本発明の前処理(亜鉛表面の鉄被覆)の利点を立証するものである。本発明方法に従って前処理された亜鉛表面(B1)上に、リン酸塩処理が施され、かつ浸漬被覆(V3)されただけの亜鉛めっき鋼材表面は、方法工程連鎖IIa→IIIa→IVb(図1参照)に従って化成処理され被覆された亜鉛めっき鋼材表面とを比較すると、塗料被覆層の腐食剥離をより低くすることが記載されている。実施例V2の処理方法において、方法工程1(図1参照)による本発明の前処理の省略は、塗料被覆層の腐食剥離に関して、引っかき部における全被覆層の性能を特に低させるのである。
【0101】
他の方法、すなわち本発明の前処理(図1、ジ\方法I参照)に続いてジルコニウムを主成分とする化成処理(図1、方法IIa)が施され、その直後に、すなわち有機被覆剤(図1、方法IIIa又はIIIb)を塗布し硬化することなしに、電気浸漬被覆層が沈着せしめられる(図1、方法IVa)方法において、ひっかき部における塗料被覆層の腐食剥離が著しく最少化されることを示すことができる。
【0102】
亜鉛めっきされた鋼板(ZE,Z)を先ず前述の方法に従って洗浄し脱脂し、イオン化水(k<1μScm-1)をもって中間すすぎ洗い(図1、方法I)を施し、実施例B1に記載の組成を有する処理剤による2秒間の、所定pH値における、50℃の温度の金属被覆を施すことにより前処理する。脱イオン水による中間すすぎ洗いの後に、施される化成処理は、
750ppmZnを含む量のH2ZrF6
20ppmCuを含む量のCu(NO32
10ppmSiを含む量のSiO2、及び
200ppmZnを含むZn(NO32
を含む酸性水性組成物中において、pH値4、接触時間90秒間、温度20℃に於て実施される(図1、方法IIa)。脱イオン水による別のすすぎ洗いの後に、電着被膜剤(CathoGuard500)を層厚さ20μmに塗布し、このようにして被覆された鋼板を、空気循環オーブン中において180℃において30分間硬化処理し、その後に、Clemenによる引っかきテスト用具を使用して、鋼基材の、鋼表面の中央部分に引っかききずをつける。表3は、本実験において測定されたように、VDA気象変更テストによるひっかききず上において得られた腐食値(塗料の真下において測定)を示す。
【表3】

〔註〕* 前処理なし
# pH値をアンモニア溶液又は硫酸により調整した。
Z 溶融浸漬亜鉛めっき鋼材
ZE 電気亜鉛めっき鋼材
【0103】
図6及び図7は、Fe(2p3/2)のX−線光電(XPS)データスペクトルに基づいて、本発明方法において塗布された薄い鉄被覆層は金属特性を有し、かつ鉄原子の明らかに50原子%を超える量が、金属形状にあることを証明している。このことは、図7の低結合エネルギーにおけるピーク1によって示される合計ピーク強さの、アルカリ性保護膜(V2)における個々のピークの強さに比較して、明白なシフトによって定量的に識別可能である、その定量化は、標準として、各個ピークの面積を測定することを可能にするGaussian各個ピーク法によりXP詳細スペクトルを数値的にフィッティング(調整)方法により行われる。表4は、それぞれの実験的前処理(V2)又は本発明の前処理(B1)の直後の鉄層の化学結合状態を定量的に示している。
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0104】
(原文記載なし)
【図1】

【図2】

【図6】

【図7】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきされた鋼材の表面を、金属(A)のカチオン及び/又は化合物を含有する、pH9以下の水性処理剤(1)に接触させることを含む、亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき鋼材表面を金属被覆前処理する方法であって、
所定の処理温度で、かつ所定濃度の金属(A)のカチオン及び/又は化合物を含有する前記水性処理剤(1)中において、前記金属(A)の金属電極で、測定された酸化還元電位Eredoxが、金属(A)のいかなるカチオン及び/又は化合物も含まない点のみにおいて、前記水性処理剤(1)とは異なる水性処理剤(2)に接触している前記亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき鋼材表面の電極電位Eznよりも貴な値を示すことを特徴とする、亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき鋼材表面を金属被覆前処理する方法。
【請求項2】
前記水性処理剤(1)中の前記金属(A)のカチオン及び/又は化合物の酸化還元電位Eredoxが、前記水性処理剤(2)と接触している亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきされた鋼材表面の電極電位Eznに対して、少なくとも+50mVだけ、好ましくは少なくとも+100mVだけ、より好ましくは、少なくとも+300mVだけ、但し、最高+800mVまで、より貴な値を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属(A)の、カチオン及び/又は化合物の前記濃度が、少なくとも0.001M、好ましくは、少なくとも0.01M、但し、0.2M以下、好ましくは0.1M以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属(A)のカチオン及び/又は化合物が鉄、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル、鉛、及び/又は錫のカチオン及び/又は化合物から選ばれる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記金属(A)のカチオン及び/又は化合物として、鉄(II)イオン及び/又は鉄(II)化合物が用いられる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記水性処理剤のpH値が、2以上かつ6以下、好ましくは4以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記水性処理剤(1)が、さらに、酸素及び/又は窒素配位子を有するキレート性錯体生成剤を含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記キレート性錯体生成剤がトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、1−アミノ−2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキサン、N−(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−三酢酸、エチレンジアミン−四酢酸、ジエチレントリアミン−五酢酸、1,2−ジアミノプロパン−四酢酸、1,3−ジアミノプロパン−四酢酸、酒石酸、乳酸、ムチン酸、グルコン酸及び/又はグルコヘプトン酸、並びに前記酸の塩及び立体異性体と、さらにまた、ソルビトール、グルコース及びグルカミン、並びにこれらの立体異性体から選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記キレート性錯体生成剤として、x−(N−R1−N−R2−アミノメチル)−4−ヒドロキシスチレンモノマー単位を含む水溶性及び/又は水分散性ポリマー化合物が用いられ、前記モノマー単位の化学式において、その芳香族環上の置換基位置xは、2,3,5又は6位であり、R1は4個以下の炭素原子を有するアルキル基を表し、R2は一般実験式:H(CHOH)mCH2−の置換基を表し、mは3以上5以下のヒドロキシメチレン基数を表し、前記ポリマー化合物は好ましくはポリ(5−ビニル−2−ヒドロキシ−N−ベンジル−N−グルカミン)である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記キレート性錯体生成剤のモル量の、前記金属(A)のカチオン及び/又は化合物の濃度に対するモル比が5:1以下、好ましくは2:1以下で、しかし1:5以上である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記水溶性及び/又は水分散性ポリマー化合物のモノマー単位の濃度として定義された前記キレート性錯体生成剤のモル量の、前記金属(A)のカチオン及び/又は化合物の濃度に対するモル比が、5:1以下、好ましくは2:1以下で、しかし、1:5以上である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記金属(A)のカチオン及び/又は化合物として、酸化段階+II及び/又は+IVにある錫のカチオン及び/又は化合物が用いられる、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
前記水性処理剤のpH値が4以上でかつ8以下、好ましくは6以下である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記水性処理剤がさらに、りん又は窒素のオキソ酸及びその塩から選ばれた促進剤を含み、但し前記オキソ酸において少なくとも1個のりん原子又は窒素原子が、中間酸化段階にある、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記水性処理剤が、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、ニトログアニジン、N−メチルモルホリンN−オキサイド、グルコヘプトナート、アスコルビン酸及び還元糖から選ばれた促進剤をさらに含む、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記促進剤の、前記金属(A)のカチオン及び/又は化合物の濃度に対するモル比が、2:1以下であり、好ましくは1:1以下で、しかし、1:5以上である、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記水性処理剤が、50ppm以下の、好ましくは10ppm以下で、しかし、0.1ppm以上の銅(II)カチオンをさらに含む、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記水性処理剤が、界面活性剤をさらに含む、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきされた鋼材表面を、前記水性処理剤に、1秒間以上、しかし、30秒間以下、好ましくは10秒間以下接触させる、請求項1乃至18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきされた鋼材表面を、前記水性処理剤に接触させることにより、金属(A)による金属被覆層が、1mg/m2以上、但し100mg/m2以下の、好ましくは50mg/m2以下の被覆層量をもって得られる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき鋼材表面に、中間洗浄及び/又は乾燥工程を施し、又は施さずに、これを水性媒体に接触させた後、金属被覆前処理された亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき鋼材表面に、不動態化処理を施す、請求項1乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
追加の層、特に有機塗料層又は塗料複合層を塗布するための追加加工工程が施される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1乃至20のいずれか1項に記載の方法に従って金属被覆された亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき鋼材表面を、少なくとも部分的に含む金属構造部材。
【請求項24】
追加被覆層、特に化成処理層及び/又は塗料層が塗布されている、請求項23に記載の金属構造部材。
【請求項25】
自動車製造における車体の製造、船舶製造、建設工業、及び、白物家電製品の製造における、請求項23又は24に記載の金属構造部材の使用。

【公表番号】特表2010−526206(P2010−526206A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504740(P2010−504740)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/055308
【国際公開番号】WO2008/135478
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】