交換結合膜と前記交換結合膜を用いた磁気検出素子
【目的】 従来では、積層フェリ構造の固定磁性層において、反強磁性層との界面と接する側の第1の磁性層には、CoFe合金の単層などを使用していたが、前記固定磁性層の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)と、抵抗変化率(ΔR/R)の双方を同時に向上させることはできなかった。
【構成】 第1の磁性層13には、元素X(例えばCr)を含有する領域Aが、反強磁性層4との界面4aから非磁性中間層12側にかけて存在するとともに、前記非磁性中間層12との界面12aから前記反強磁性層4側にかけての領域の一部に、前記元素Xを含まない領域Bが存在する。これによって固定磁性層3の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)と抵抗変化率(ΔR/R)とを同時に向上させることができる。
【構成】 第1の磁性層13には、元素X(例えばCr)を含有する領域Aが、反強磁性層4との界面4aから非磁性中間層12側にかけて存在するとともに、前記非磁性中間層12との界面12aから前記反強磁性層4側にかけての領域の一部に、前記元素Xを含まない領域Bが存在する。これによって固定磁性層3の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)と抵抗変化率(ΔR/R)とを同時に向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反強磁性層および強磁性層とから成り、前記反強磁性層と強磁性層との界面にて発生する交換結合磁界(Hex)により、前記強磁性層の磁化方向が一定の方向にされる交換結合膜および前記交換結合膜を用いた磁気検出素子に係り、特に前記強磁性層が積層フェリ構造で形成され、抵抗変化率と一方向性交換バイアス磁界(Hex*)等の再生特性や信頼性を向上させることが可能な交換結合膜及び前記交換結合膜を用いた磁気検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
図18は従来における磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0003】
図18に示す符号14はTaなどの下地層であり、その上にPtMnなどの反強磁性層30が形成されている。
【0004】
前記反強磁性層30の上には、固定磁性層31が形成されている。前記固定磁性層31は、磁性層34、36と非磁性中間層35の3層で形成された積層フェリ構造である。前記磁性層34、36は例えばCoFe合金で形成され、前記非磁性中間層35はRuなどで形成される。
【0005】
前記固定磁性層31の上にはCuなどで形成された非磁性材料層32が形成され、さらに前記非磁性材料層32の上にはNiFeなどで形成されたフリー磁性層33が形成されている。また前記フリー磁性層33の上にはTaなどで形成された保護層7が形成されている。
【0006】
前記下地層14から保護層7までの各層のトラック幅方向(図示X方向)の両側には、ハードバイアス層5が形成され、前記ハードバイアス層5の上には電極層8が形成されている。
【0007】
この形態の磁気検出素子では、磁場中アニールが施されることで、前記反強磁性層30と固定磁性層31のうち、前記反強磁性層30と接する側の第1の磁性層34との間で交換結合磁界(Hex)が発生すると、前記第1の磁性層34は例えば図示Y方向に磁化され、一方、非磁性材料層32と接する第2の磁性層36は、前記第1の磁性層34との間に働くRKKY相互作用による結合磁界によって、図示Y方向とは逆方向に磁化される。
【0008】
一方、前記フリー磁性層33の磁化は、前記ハードバイアス層5からの縦バイアス磁界によって図示X方向に揃えられる。
【特許文献1】特開2000−252548公報
【特許文献2】特開2000−149229号公報
【特許文献3】特開2000−113418公報
【特許文献4】特開2000−315305号公報
【特許文献5】特開2001−167410公報
【特許文献6】特開2000−31562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで図18に示すように固定磁性層31が積層フェリ構造で形成されるとき、実際に磁気抵抗効果に寄与する層は、第2の磁性層36である。
【0010】
従って前記電極層8から非磁性材料層32を中心にセンス電流が流れたとき、このセンス電流が前記第1の磁性層34に分流するとシャントロスとなり抵抗変化率(ΔR/R)の低下を招いた。
【0011】
そこで従来では、このシャントロスを低減させるべく、CoFe合金などで形成されていた第1の磁性層34にCrなどを添加し、前記第1の磁性層34の比抵抗を上げることが試みられた。
【0012】
これによって前記第1の磁性層34の比抵抗は上がり、前記電極層8からのセンス電流は前記第1の磁性層34に分流しにくくなり、抵抗変化率の向上を図ることができたが、その一方で、前記固定磁性層31における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)の低下が顕著になった。
【0013】
ここで一方向性交換バイアス磁界(Hex*)とは、主として反強磁性層30と第1の磁性層34間で発生する交換結合磁界(Hex)と、第1の磁性層34と第2の磁性層36間で作用するRKKY相互作用における結合磁界とを合わせた磁界のことである。
【0014】
図19は、図18と同様の積層構造で形成された磁気検出素子であって、第1の磁性層34をCoFeCr5at%で形成したときの、前記第1の磁性層34の膜厚と一方向性交換バイアス磁界(Hex*)との関係を示すグラフである。
【0015】
図19に示すように、前記第1の磁性層34をCoFe合金で形成したときは、非常に高い一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を示すのに対し、前記第1の磁性層34をCoFeCrで形成すると、前記一方向性交換バイアス磁界は急激に低下することがわかる。
【0016】
また図19に示すように、CoFeCrで形成された前記第1の磁性層34の膜厚を厚くしていくと、前記一方向性交換バイアス磁界(Hex*)は大きくなる傾向にあるが、前記第1の磁性層34を厚くしていくと、今度は、前記第1の磁性層34へのセンス電流の分流量が大きくなり、結局、従来では、固定磁性層31における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)と、抵抗変化率(ΔR/R)の向上とを同時に得ることができなかったのである。
【0017】
なお前記一方向性交換バイアス磁界(Hex*)が低下すると、前記固定磁性層31を適切にピン止めできず、静電気放電(ESD)によるダメージに弱くなりやすく、また通電信頼性の低下が問題となった。
【0018】
また図18に示すような磁気検出素子の構造において、トラック幅が狭くなると、前記固定磁性層31のトラック幅方向の両側端部付近では、前記ハードバイアス層5からの縦バイアス磁界の影響を強く受けて、前記固定磁性層の磁化がハイト方向(図示Y方向)から斜めに傾くといった問題があった。この磁化の傾きにより再生出力の低下やアシンメトリーの悪化を余儀なくされた。この問題は、エクスチェンジバイアス方式の磁気検出素子の場合にも同様に生じた。エクスチェンジバイアス方式の場合、2度の磁場中アニールを施すが、1回目でハイト方向に磁場中アニールを施して固定磁性層31の磁化をハイト方向に固定しても、2回目にトラック幅方向に磁場中アニールを施したとき、前記固定磁性層31の磁化がハイト方向から傾くのである。
【0019】
また記録密度の向上に伴い、磁気検出素子の素子高さ自体も小さくなってきており、静電気放電(ESD)等に対して弱くなっていた。
【0020】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、積層フェリ構造で形成された固定磁性層の第1の磁性層の膜構成等を改良して、抵抗変化率及び一方向性交換バイアス磁界(Hex*)等の再生特性及び固定磁性層の信頼性を同時に向上させることが可能な交換結合膜及び前記交換結合膜を用いた磁気検出素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、反強磁性層と強磁性層とが積層形成され、前記反強磁性層と強磁性層との界面で交換結合磁界が発生することで、前記強磁性層の磁化方向が一定方向にされる交換結合膜において、
前記強磁性層は、前記反強磁性層との界面と接して形成される第1の磁性層と、前記第1の磁性層と非磁性中間層を介して対向する第2の磁性層とを有して形成された積層フェリ構造であり、
前記磁性層のうち前記反強磁性層と接する側の第1の磁性層には、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有する領域が、前記反強磁性層との界面から前記非磁性中間層側にかけて存在するとともに、前記非磁性中間層との界面から前記反強磁性層側にかけての領域の一部に、前記元素Xを含まない領域が存在することを特徴とするものである。
【0022】
本発明では、前記第1の磁性層はCoFe合金を主体とし、元素Xを含む領域はCoFeX合金で形成され、元素Xを含まない領域はCoFe合金で形成されることが好ましい。
【0023】
本発明では、上記のように、積層フェリ構造で形成された固定磁性層の第1の磁性層の反強磁性層側には、元素Xが含まれており、一方、非磁性中間層側には前記元素Xを含まない領域が存在する。
【0024】
元素Xを含む磁性領域は、元素Xを含まない磁性領域に比べて比抵抗が大きくなっている。
【0025】
後述する実験結果によれば、元素Xを含む磁性領域が、反強磁性層との界面側に存在すると、前記反強磁性層と元素Xを含む磁性領域との間で発生する交換結合磁界(Hex)は、元素Xを含まない磁性領域を前記反強磁性層との界面に接して形成する場合に比べて大きくなることがわかった。
【0026】
一方、非磁性中間層を介してその上下の磁性層間で発生するRKKY相互作用における結合磁界は、非磁性中間層との界面側に、元素Xを含まない磁性領域が存在すると、元素Xを含む磁性領域を非磁性中間層との界面に接して形成する場合に比べて大きくなることがわかった。
【0027】
以上の実験結果から、本発明では、第1の磁性層に、反強磁性層との界面と接する側に元素Xを含む磁性領域を設け、一方、非磁性中間層との界面と接する側に元素Xを含まない磁性領域を設けたのである。これによって前記第1の磁性層と反強磁性層との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくできると同時に、RKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、したがって前記固定磁性層における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができる。
【0028】
それと同時に本発明では、前記第1の磁性層の反強磁性層との界面側に、元素Xを含んだ比抵抗の高い磁性領域が存在するため、センス電流が前記第1の磁性層に分流する量を小さくでき、いわゆるシャントロスを低減でき、本発明の交換結合膜を磁気検出素子に適用した場合に、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0029】
すなわち本発明によれば、固定磁性層における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくでき、耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができると共に、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができ、本発明における交換結合膜を用いれば、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能になる。
【0030】
また本発明は、反強磁性層と強磁性層とが積層形成され、前記反強磁性層と強磁性層との界面で交換結合磁界が発生することで、前記強磁性層の磁化方向が一定方向にされる交換結合膜において、
前記強磁性層は、前記反強磁性層との界面と接して形成される第1の磁性層と、前記第1の磁性層と非磁性中間層を介して対向する第2の磁性層とを有して形成された積層フェリ構造であり、
前記第1の磁性層は、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有して形成され、
前記第1の磁性層の前記反強磁性層との界面での前記元素Xの含有量は、前記非磁性中間層との界面での前記含有量に比べて多くなっていることを特徴とするものである。
【0031】
本発明では、第1の磁性層は、CoFe合金に元素Xが含有された磁性材料で形成されることが好ましい。
【0032】
この第2の発明では、第1の磁性層の非磁性中間層との界面側にも元素Xが含まれているがその含有量は微量であり、前記元素Xの含有量は、前記反強磁性層との界面側で大きくなるように調整されている。
【0033】
この発明においても、前記反強磁性層との界面で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくできると共に、RKKY相互作用における結合磁界を大きくすることができ、したがって固定磁性層における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができる。
【0034】
しかも第1の磁性層には元素Xが含まれているから比抵抗値が高く、したがってセンス電流が、前記第1の磁性層に分流する量を低減させることができ、抵抗変化率(ΔR/R)の向上を適切に図ることができる。
【0035】
従って本発明における交換結合膜及びこれを用いた磁気検出素子によれば、固定磁性層の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくでき、耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができるとともに抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができ、今後の高記録密度化においても適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0036】
なお上記した発明において、前記第1の磁性層の層内には、前記元素Xの含有量が、前記第反強磁性層との界面側から前記非磁性中間層の界面側に向けて徐々に少なくなる領域が存在することが好ましい。
【0037】
これは、第1の磁性層の層内で、いわゆる組成変調が起こっていることを意味する。この組成変調は、後述する製造方法に起因するものである。
【0038】
なお本発明では、CoYとFe100%−Yとの原子比率Yは、85%以上で96%以下であることが好ましい。
【0039】
また本発明では、前記元素Xの組成比は3at%以上で15at%以下であることが好ましい。
【0040】
また本発明では、前記第2の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントから前記第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントを引いた磁気モーメント差は、−0.63(T・nm)以上で0.63(T・nm)以下{ただし0(T・nm)を除く}であることが好ましい。後述する実験結果によれば、前記磁気モーメント差(Net Mst)を−0.63(T・nm)以上で0.63(T・nm)以下{ただし0(T・nm)を除く}にすると、第1の磁性層を元素Xを含まない磁性材料で形成した比較例に比べて、再生出力の効果的な向上を図ることができると共に、前記第2の磁性層の磁化傾斜角度をより0度に近づけることができる。
【0041】
「第2の磁性層の磁化傾斜角度」とは、ハイト方向を0度とし、そのハイト方向からの傾きを表す。なお実験方法については後で詳述する。前記第2の磁性層の磁化傾斜角度が小さいほど、アシンメトリーの増加や再生出力の低下を抑えることができて好ましい。
【0042】
このように本発明では、前記第1の磁性層の膜構成の適正化とともに、前記第2の磁性層と比較して前記第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントの大きさを適正化することで、さらなる再生特性の向上を図ることが可能になる。
【0043】
また本発明では、前記磁気モーメント差は負の値であることが好ましい。すなわち前記磁気モーメント差は−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)より小さいことが好ましい。後述する実験によれば、前記磁気モーメント差が−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)より小さいと、より第2の磁性層の磁化傾斜角度を0度に近づけることができると共に、再生出力についても従来に比べてより効果的に向上させることができる。前記磁気モーメント差を負の値にすると、従来のように元素Xを含まない磁性材料で第1の磁性層を形成した場合、この第1の磁性層に分流するセンス電流の比率が大きくなり、急激に再生出力は下がり始める。ところが本発明では、第1の磁性層に元素Xを含んだ比抵抗の高い領域が存在するため、前記磁気モーメント差を負の値にしても前記第1の磁性層に分流するセンス電流の比率は従来よりも小さく、よって本発明では前記磁気モーメント差を負の値にしても、従来に比べてより効果的に再生出力の向上を図ることができるのである。
【0044】
また本発明では前記第1の磁性層の膜厚は、前記第2の磁性層の膜厚よりも大きいことが好ましい。上記した単位面積当たりの磁気モーメントは、飽和磁化Msと膜厚tとの積で求められる。本発明では上記したように前記磁気モーメント差を負の値にすることが好ましく、すなわち第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントを第2の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントより大きくすることが好ましく、これを実現するには、前記第1の磁性層の膜厚を、前記第2の磁性層の膜厚よりも大きく形成することが好ましい。
【0045】
そして前記第1の磁性層の膜厚を前記第2の磁性層の膜厚よりも大きくすると、従来のように元素Xを含まない磁性材料で形成された第1の磁性層にあっては、前記第1の磁性層にセンス電流の分流する比率が大きくなるが、本発明では、前記第1の磁性層には元素Xを含んだ磁性領域が存在するため、前記第1の磁性層に分流するセンス電流の比率を従来より小さくでき、再生出力の低下を抑えることができる。
【0046】
それとともに、後述する実験結果では、前記第1の磁性層の膜厚を厚くしていっても、抵抗変化率(ΔR/R)の低下及び抵抗変化量(ΔRs)の低下を従来に比べて抑制でき、さらに一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくでき、第2の磁性層の磁化傾斜角度をより0度に近づけることができる。
【0047】
また本発明は、反強磁性層、固定磁性層、非磁性中間層、およびフリー磁性層を有し、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、
前記反強磁性層及び固定磁性層が上記したいずれかに記載された交換結合膜により形成されていることを特徴とするものである。
【0048】
また本発明は、反強磁性のエクスチェンジバイアス層、フリー磁性層、非磁性中間層、固定磁性層、および反強磁性層を有し、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、
前記エクスチェンジバイアス層とフリー磁性層間には、前記エクスチェンジバイアス層と接して形成される強磁性層と、前記強磁性層とフリー磁性層間に介在する非磁性中間層とが形成され、前記強磁性層、非磁性中間層及びフリー磁性層で積層フェリ構造を構成しており、
前記強磁性層が、上記のいずれかに記載された第1の磁性層として、前記フリー磁性層が第2の磁性層として機能していることを特徴とするものである。
【0049】
また本発明では、前記反強磁性層及び固定磁性層が上記したいずれかに記載された交換結合膜により形成されていることが好ましい。
【0050】
また本発明は、フリー磁性層の上下に積層された非磁性中間層と、一方の前記非磁性中間層の上および他方の非磁性中間層の下に位置する固定磁性層と、一方の前記固定磁性層の上および他方の固定磁性層の下に位置する反強磁性層とを有し、前記フリー磁性層よりも下側に形成された反強磁性層の下側にはシードレイヤが形成され、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、
前記反強磁性層及び固定磁性層が上記したいずれかに記載された交換結合膜により形成されていることを特徴とするものである。
【0051】
本発明における磁気検出素子であれば、例えば、積層フェリ構造の固定磁性層の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を適切に大きくでき、耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができるとともに、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくすることができ、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能になる。
【発明の効果】
【0052】
本発明における交換結合膜では、反強磁性層との界面側に形成された第1の磁性層と、非磁性中間層を介して前記第1の磁性層と対向する第2の磁性層とで構成される積層フェリ構造の固定磁性層において、前記第1の磁性層には、元素X(Crなど)を含有する領域が、前記反強磁性層との界面から非磁性中間層側にかけて存在するとともに、前記非磁性中間層との界面から前記反強磁性層側にかけての領域の一部に、前記元素Xを含まない領域が存在する膜構造であり、これにより前記反強磁性層との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくできるとともに、第1の磁性層と第2の磁性層間で発生するRKKY相互作用による結合磁界を大きくでき、したがって前記固定磁性層における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができる。
【0053】
また前記第1の磁性層には、元素Xを含む比抵抗値の高い磁性領域が存在するため、電極層から第1の磁性層に分流するセンス電流量を減少させ、いわゆるシャントロスを減少させることができ、したがって抵抗変化率を向上させることができる。
【0054】
以上のように、本発明では、前記固定磁性層における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくすることができ、したがって耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができると同時に、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくでき、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
図1は本発明の第1実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の全体構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。なお、図1ではX方向に延びる素子の中央部分のみを破断して示している。
【0056】
このシングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子は、ハードディスク装置に設けられた浮上式スライダのトレーリング側端部などに設けられて、ハードディスクなどの記録磁界を検出するものである。なお、ハードディスクなどの磁気記録媒体の移動方向はZ方向であり、磁気記録媒体からの洩れ磁界の方向はY方向である。
【0057】
図1の最も下に形成されているのはTa,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち1種または2種以上の元素などの非磁性材料で形成された下地層6である。前記下地層6は例えば50Å程度の膜厚で形成される。
【0058】
前記下地層6の上には、シードレイヤ22が形成されている。前記シードレイヤ22を形成することで、前記シードレイヤ22上に形成される各層の膜面と平行な方向における結晶粒径を大きくでき、耐エレクトロマイグレーションの向上に代表される通電信頼性の向上や抵抗変化率(ΔR/R)の向上などをより適切に図ることができる。
【0059】
前記シードレイヤ22はNiFeCr合金やCrなどで形成される。前記シードレイヤ22がNiFeCrで形成される場合、例えばその組成比は、(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%である。
【0060】
前記シードレイヤ22の上に形成された反強磁性層4は、元素Z(ただしZは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されることが好ましい。
【0061】
これら白金族元素を用いたZ−Mn合金は、耐食性に優れ、またブロッキング温度も高く、さらに交換結合磁界(Hex)を大きくできるなど反強磁性材料として優れた特性を有している。特に白金族元素のうちPtを用いることが好ましく、例えば二元系で形成されたPtMn合金を使用することができる。
【0062】
また本発明では、前記反強磁性層4は、元素Zと元素Z′(ただし元素Z′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されてもよい。
【0063】
なお前記元素Z′には、元素ZとMnとで構成される空間格子の隙間に侵入し、または元素ZとMnとで構成される結晶格子の格子点の一部と置換する元素を用いることが好ましい。ここで固溶体とは、広い範囲にわたって、均一に成分が混ざり合った固体のことを指している。
【0064】
侵入型固溶体あるいは置換型固溶体とすることで、前記Z−Mn合金膜の格子定数に比べて、前記Z−Mn−Z′合金の格子定数を大きくすることができる。これによって反強磁性層4の格子定数と固定磁性層3の格子定数との差を広げることができ、前記反強磁性層4と固定磁性層3との界面構造を非整合状態にしやすくできる。ここで非整合状態とは、前記反強磁性層4と固定磁性層3との界面で前記反強磁性層4を構成する原子と前記固定磁性層3を構成する原子とが一対一に対応しない状態である。
【0065】
また特に置換型で固溶する元素Z′を使用する場合は、前記元素Z′の組成比が大きくなりすぎると、反強磁性としての特性が低下し、固定磁性層3との界面で発生する交換結合磁界(Hex)が小さくなってしまう。特に本発明では、侵入型で固溶し、不活性ガスの希ガス元素(Ne,Ar,Kr,Xeのうち1種または2種以上)を元素Z′として使用することが好ましいとしている。希ガス元素は不活性ガスなので、希ガス元素が、膜中に含有されても、反強磁性特性に大きく影響を与えることがなく、さらに、Arなどは、スパッタガスとして従来からスパッタ装置内に導入されるガスであり、ガス圧を適正に調節するのみで、容易に、膜中にArを侵入させることができる。
【0066】
なお、元素Z′にガス系の元素を使用した場合には、膜中に多量の元素Z′を含有することは困難であるが、希ガスの場合においては、膜中に微量侵入させるだけで、熱処理によって発生する交換結合磁界(Hex)を、飛躍的に大きくできる。
【0067】
なお本発明では、好ましい前記元素Z′の組成範囲は、at%(原子%)で0.2から10であり、より好ましくは、at%で、0.5から5である。また本発明では前記元素ZはPtであることが好ましく、よってPt−Mn−Z′合金を使用することが好ましい。
【0068】
また本発明では、反強磁性層4の元素Xあるいは元素Z+Z′のat%を45(at%)以上で60(at%)以下に設定することが好ましい。より好ましくは49(at%)以上で56.5(at%)以下である。これによって成膜段階において、固定磁性層3との界面が非整合状態にされ、しかも前記反強磁性層4は熱処理によって適切な規則変態を起すものと推測される。
【0069】
前記反強磁性層4の上に形成されている固定磁性層3は3層構造となっている。
前記固定磁性層3は、前記反強磁性層4との界面と接する第1の磁性層13、および前記第1の磁性層13上に非磁性中間層12を介して形成された第2の磁性層11とで構成される。
なお前記固定磁性層3の材質や膜構成などについては後で詳しく説明する。
【0070】
前記固定磁性層3の上には非磁性材料層2が形成されている。前記非磁性材料層2は、例えばCuで形成されている。なお本発明における磁気検出素子が、トンネル効果の原理を用いたトンネル型磁気抵抗効果素子(TMR素子)の場合、前記非磁性材料層2は、例えばAl2O3等の絶縁材料で形成される。
さらに前記非磁性材料層2の上には2層膜で形成されたフリー磁性層1が形成される。
【0071】
前記フリー磁性層1は、NiFe合金膜9とCoFe膜10の2層で形成される。図1に示すように前記CoFe膜10を非磁性材料層2と接する側に形成することにより、前記非磁性材料層2との界面での金属元素等の拡散を防止し、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくすることができる。
【0072】
なお前記NiFe合金膜9は、例えば前記Niを80(at%)、Feを20(at%)として形成する。またCoFe膜10は、例えば前記Coを90(at%)、Feを10(at%)として形成する。また前記NiFe合金膜9の膜厚を例えば45Å程度、CoFe膜を5Å程度で形成する。また前記NiFe合金膜9、CoFe膜10に代えて、Co合金、CoFeNi合金などを用いてもよい。また前記フリー磁性層1を磁性材料の単層構造で形成してもよく、かかる場合、前記フリー磁性層1をCoFeNi合金で形成することが好ましい。
【0073】
また前記フリー磁性層1は、磁性層間に非磁性中間層が介在した積層フェリ構造であってもよい。
【0074】
前記フリー磁性層1の上には、金属材料あるいは非磁性金属のCu,Au,Agからなるバックド層15が形成されている。例えば前記バックド層15の膜厚は5〜20Å程度で形成される。
【0075】
前記バックド層15の上には、保護層7が形成されている。前記保護層7は、Taなどから成りその表面が酸化された酸化層(鏡面反射層)が形成されていることが好ましい。
【0076】
前記バックド層15が形成されることによって、磁気抵抗効果に寄与する+スピン(上向きスピン:up spin)の電子における平均自由行程(mean free path)を延ばし、いわゆるスピンフィルター効果(spin filter effect)によりスピンバルブ型磁気素子において、大きな抵抗変化率が得られ、高記録密度化に対応できるものとなる。なお前記バックド層15は形成されなくてもよい。
【0077】
図1に示す実施形態では、前記下地層6から保護層7までの積層膜の両側にはハードバイアス層5及び電極層8が形成されている。前記ハードバイアス層5からの縦バイアス磁界によってフリー磁性層1の磁化はトラック幅方向(図示X方向)に揃えられる。
【0078】
前記ハードバイアス層5,5は、例えばCo−Pt(コバルト−白金)合金やCo−Cr−Pt(コバルト−クロム−白金)合金などで形成されており、電極層8,8は、α−Ta、Au、Ru、Cr、Cu(銅)やW(タングステン)などで形成されている。なお上記したトンネル型磁気抵抗効果素子やCPP型磁気検出素子の場合、前記電極層8,8は、フリー磁性層1の上側と、反強磁性層4の下側にそれぞれ形成されることになる。
本発明は、上記したように、固定磁性層3が積層フェリ構造で形成されている。
【0079】
ここで反強磁性層4との界面と接する第1の磁性層13には、膜組成に以下の特徴点がある。
【0080】
すなわち本発明では、前記第1の磁性層13には、前記反強磁性層4との界面4aから非磁性中間層12側にかけて(図示Z方向)、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有する磁性領域が存在すると共に、前記非磁性中間層12との界面12aから前記反強磁性層4側にかけて(図示Z方向とは逆方向)の領域の一部に、前記元素Xを含まない磁性領域が存在するのである。
【0081】
図1に示すように例えば模式図的に示せば、点線で区切られた反強磁性層4側の領域Aは、元素Xを含有した磁性材料で形成されており、一方、前記点線で区切られた非磁性中間層12側の領域Bは、元素Xを含有しない磁性材料で形成される。
【0082】
なお領域A及びBとの境界は説明をしやすくするために便宜的に設けたもので、以下に説明するように前記第1の磁性層13は実際には元素Xにおける組成変調などを起しており、したがってこの境界を境として、元素Xの含有の有無がはっきりと分かれているわけではない。
【0083】
ここで具体的な材質を挙げると、本発明では、前記反強磁性層4側の領域AはCoFeX合金で形成され、一方、非磁性中間層12側の領域BはCoFe合金で形成されることが好ましい。
【0084】
本発明のように、反強磁性層4との界面側に元素Xを含んだ領域Aが存在すると、その領域Aでの比抵抗値は、元素Xを含まない領域Bのそれよりも大きくなる。
【0085】
そして後述する実験結果に示すように、前記反強磁性層4と元素Xを含有した領域Aとが接して形成されると、前記反強磁性層4と領域A間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくすることが可能である。
【0086】
一方、非磁性中間層12と、元素Xを含有しない領域Bとが接して形成されると、この領域Bと第2の磁性層11間で発生するRKKY相互作用における結合磁界を大きくすることができる。
【0087】
従って、主として前記反強磁性層4との間で発生する交換結合磁界(Hex)と、RKKY相互作用における結合磁界とを合わせた一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を適切に大きくすることが可能になる。
【0088】
しかも本発明では、前記第1の磁性層13には元素Xを含んだ比抵抗値の高い領域Aが存在するため、前記電極層8から流れるセンス電流が、前記第1の磁性層13に分流する量を減らすことができ、いわゆるシャントロスを低減でき、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0089】
すなわち本発明によれば、従来成し得なかった、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)の向上と、抵抗変化率(ΔR/R)の向上とを同時に得ることができる。
【0090】
一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくできると、前記固定磁性層3の第1の磁性層13及び第2の磁性層11のピン止めを適切に行うことができる。そしてその結果、耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることが可能になる。
【0091】
以上のように本発明によれば、通電信頼性の向上、および抵抗変化率の向上を同時に図ることができ、今後の高記録密度化においても適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0092】
次に前記第1の磁性層13の材質について説明する。本発明では、上記したように元素Xを含む領域AはCoFeX合金で、元素Xを含まない領域BはCoFe合金で形成されることが好ましいとした。これはCoFeを主体とした磁性材料で第1の磁性層13を形成すると、反強磁性層4との間で発生する交換結合磁界(Hex)やRKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、前記第1の磁性層13の磁化を適切にピン止めすることができるからである。
【0093】
ただし本発明では前記第1の磁性層13がCoFe合金を主体とした磁性材料で形成されることに限るものではない。例えば前記第1の磁性層13はNiFe合金を主体とした磁性材料で形成されることも可能である。かかる場合、元素Xを含む領域Aは、NiFeX合金で形成され、一方、元素Xを含まない領域Bは、NiFe合金で形成される。あるいは前記第1の磁性層13がCoFeNi合金を主体とした磁性材料、Coを主体とした磁性材料で形成されてもよく、かかる場合、元素Xを含む領域Aは、CoFeNiX合金、CoX合金で、元素Xを含まない領域Bは、CoFeNi合金、Coで形成される。
【0094】
なお元素Xには、Crを選択することが好ましい。これによって適切に第1の磁性層13の領域Aの比抵抗値を上げることができると共に、反強磁性層4との間で大きな交換結合磁界(Hex)を発生させることができる。前記CoFeCr合金で形成された磁性層であると、比抵抗値を概ね、50μΩ・cm程度にすることができる。
【0095】
また前記元素Xの組成比は3at%以上で15at%以下であることが好ましい。前記元素Xの組成比が3at%よりも小さいと、元素Xを含んだ領域Aでの比抵抗を適切に増大することができず、抵抗変化率(ΔR/R)の改善効果が得られないので好ましくない。
【0096】
一方、元素Xの組成比が15at%よりも大きくなると、前記反強磁性層4間で発生する交換結合磁界(Hex)が低下し、その結果、前記固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)の低下を招き好ましくない。
【0097】
またCoFeを主体とした磁性材料で、前記第1の磁性層13が形成されるとき、前記CoYとFe100%−Yとの原子比率Yは、85%以上で96%以下であることが好ましい。これによって第1の磁性層13の面心立方晶の構造が安定になり、これにより前記第1の磁性層13よりも上に位置する層の結晶配向性に悪影響を与えることが無くなる。
【0098】
次に第2の磁性層11は、CoFe合金で形成されることが好ましい。これによって、第1の磁性層13との間で発生するRKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、前記第2の磁性層11の磁化を適切にピン止めすることが可能になる。
【0099】
なお、本発明では前記第2の磁性層11がCoFe合金で形成されることに限定するものではなく、CoFeNi合金、CoあるいはNiFe合金などの磁性材料を使用することができる。
【0100】
次に本発明における固定磁性層3は積層フェリ構造であるため、適切に積層フェリ状態を得るには、前記第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメント(飽和磁化Ms×膜厚t)と、第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントとを異ならせることが必要である。
【0101】
これによって前記第1の磁性層13と第2の磁性層11間で発生するRKKY相互作用による結合磁界によって、前記第1の磁性層13と第2の磁性層11との磁化を適切に反平行状態にすることができる。なお前記第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントから前記第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメントを引いた磁気モーメント差(Net Mst)の適切な範囲については後述する。
【0102】
次に、前記第1の磁性層13と第2の磁性層11間に介在する非磁性中間層12は、Ru、Rh、Ir、Os、Cr、Re、Cuのうち1種または2種以上の合金で形成されることが好ましい。このうち本発明では、前記非磁性中間層12がRuで形成されることがより好ましい。これよって第1の磁性層13と第2の磁性層11間に発生するRKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、前記第1の磁性層13と第2の磁性層11との磁化を適切に反平行状態にすることができる。
【0103】
次に本発明では、後述する製造方法で説明するように、反強磁性層4にはPtMn合金など、熱処理を施すことによって前記第1の磁性層13との間で交換結合磁界(Hex)を発生させることができる反強磁性材料が使用されている。
【0104】
ところで、固定磁性層3の第1の磁性層13は、例えば反強磁性層4上に元素Xを含む、好ましくはCoFeX合金で形成された領域Aをスパッタ成膜した後、その上に元素Xを含まない好ましくはCoFe合金で形成された領域Bをスパッタ成膜する。
【0105】
そしてその後熱処理を施すわけであるが、このとき、前記領域Aと領域Bとの境界で元素Xが熱拡散し、領域B内にも元素Xが入り込み、領域Aの領域Bとの境界付近での元素Xは低下する。すなわち熱処理を施すことで、前記第1の磁性層13には元素Xの組成変調が起きている領域が存在するのである。
【0106】
従って、本発明では、前記第1の磁性層13の層内には、前記元素Xの含有量が、前記反強磁性層4との界面4a側から前記非磁性中間層12の界面12a側に向けて徐々に少なくなる領域が存在することを確認することができる。
【0107】
従って元素Xを含む領域Aと、元素Xを含まない領域Bの境界ははっきりと見て取ることは困難で、この境界部分では元素Xの組成変調が起こっているのである。
【0108】
次に第1の磁性層13の膜厚について以下に説明する。本発明では、前記第1の磁性層13の膜厚は10〜20Åであることが好ましい。そしてこの膜厚のうち元素Xを含んでいてもその組成比が3at%よりも低い領域(この領域では非磁性中間層12との界面12a付近では元素Xは0at%である)の膜厚は3〜10Åであり、元素Xを含み、元素Xの組成比が3at%以上となる領域の膜厚は、3〜15Åであることが好ましい。
【0109】
これによって前記反強磁性層4との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくすることができ、また第2の磁性層11との間で発生するRKKY相互作用による結合磁界を大きくでき、この結果、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を適切に大きくすることが可能になる。
【0110】
また元素Xを含み、元素Xの組成比が3at%以上となる領域の膜厚は、第1の磁性層13全体の膜厚に対して0%よりも大きく85%以下であると、前記第1の磁性層13へのセンス電流の分流量を適切に抑制でき、いわゆるシャントロスを低減でき、よって抵抗変化率(ΔR/R)を適切に向上させることが可能である。
【0111】
次に、元素Xを含む領域がCoFeX合金で形成され、元素Xを含まない領域がCoFe合金で形成されるとき、前記CoFeX合金で形成された領域が第1の磁性層13に占める膜厚比(CoFe合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)は、0より大きく0.61以下であることが好ましい。これにより抵抗変化率が従来(第1の磁性層がCoFeあるいはCoFeX合金のみで形成、以下同じ)よりも大きく、またプラトー磁界(Hpl)も従来より大きくなる。
【0112】
なおプラトー磁界(Hpl)とは図13のヒステリシスループに示すように、抵抗変化率が最大値(1.00)に対して0.98となるときの印加磁界の大きさを示す。プラトー磁界が大きいと、第1の磁性層13と第2の磁性層11の磁化の反平行状態が安定に保たれるので、前記プラトー磁界は大きい方が好ましい。
【0113】
または本発明では、(CoFeX合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0より大きく0.36以下であることが好ましい。これによって一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来よりも大きくでき、またプラトー磁界(Hpl)を従来よりも大きくできる。さらに抵抗変化率(ΔR/R)を従来よりも大きくできる。
【0114】
または本発明では、(CoFeX合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.82以下であることが好ましい。これによって、抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界(Hpl)を従来よりも大きくすることができる。
【0115】
または本発明では、(CoFeX合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.12以上で0.61以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率(ΔR/R)を従来よりも大きくすることができ、またプラトー磁界(Hpl)を30kA/m以上に大きくすることができる。
【0116】
または本発明では、(CoFeX合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.61以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界を30kA/m以上得ることができる。
【0117】
さらには本発明では、(CoFeX合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.36以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界を30kA/m以上得ることができ、さらに一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来よりも大きくすることができる。
【0118】
また上記した実施形態では、前記第1の磁性層13には、非磁性中間層12との界面12a付近では、元素Xを含まない領域が存在していたが、本発明では、前記第1の磁性層13全体に元素Xが含有されていても、以下の膜組成であれば、適切に固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくすることができる。
【0119】
すなわち本発明では、前記第1の磁性層13の前記反強磁性層4との界面4aでの前記元素Xの含有量が、前記非磁性中間層12との界面12aでの前記含有量に比べて多くなっている実施形態を提供することができる。
【0120】
この実施形態では、前記非磁性中間層12との界面12a付近でも元素Xが微量ながら含まれており、したがって元素Xは第1の磁性層13全体に含有された状態となっている。
【0121】
しかしながら、上記のように前記第1の磁性層13の非磁性中間層12との界面12a付近では、元素Xの含有量は微量で、好ましくはこの領域での前記元素Xは3at%よりも小さく、これにより前記第2の磁性層11との間で、適切な大きさのRKKY相互作用による結合磁界を発生させることができる。
【0122】
また、反強磁性層4との界面4a側では、前記第1の磁性層13に含まれる元素Xの含有量は多量で、好ましくは3at%以上で15at%以下であり、前記反強磁性層4との間で、適切な大きさの交換結合磁界(Hex)を発生させることが可能である。
【0123】
従って上記の膜構成によっても、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくすることができ、前記固定磁性層3のピン止めを適切に行うことができ、耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を適切に向上させることができる。
【0124】
しかも本発明では、前記第1の磁性層13は、元素Xを含む比抵抗値の大きい領域であるから、電極層8からのセンス電流が前記第1の磁性層13に分流する量を減らすことができ、いわゆるシャントロスを低減させることができ、したがって抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることが可能になっている。
【0125】
次に図2に示す磁気検出素子では、前記第1の磁性層13が、磁性層23と磁性層24との2層構造で構成される。
【0126】
この実施形態では、前記磁性層23、24のうち、反強磁性層4と接する側の磁性層23は、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含んだ磁性材料で形成されており、一方、非磁性中間層12と接する側の磁性層24は、元素Xを含まない磁性材料で形成されている。
【0127】
本発明では前記磁性層23はCoFeX合金で、磁性層24はCoFe合金で形成されることが好ましい。
【0128】
この実施形態では、前記反強磁性層4と接する側に元素Xを含む比抵抗の高い磁性層23が形成されたことで、前記反強磁性層4と磁性層23間で発生する交換結合磁界(Hex)を、元素Xを含まない磁性層を前記反強磁性層4に接して形成した場合に比べて大きくすることができる。
【0129】
また、前記非磁性中間層12と接する側に元素Xを含まない比抵抗の低い磁性層24が形成されたことで、前記第2の磁性層11との間で発生するRKKY相互作用における結合磁界を、元素Xを含む磁性層を前記非磁性中間層12に接して形成した場合に比べて大きくすることができる。
【0130】
従って本発明では、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができ、前記固定磁性層3のピン止めを適切に行うことができ、したがって耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができる。
【0131】
しかもこの実施形態では前記第1の磁性層13には、元素Xを含む比抵抗値の高い磁性層23が形成されていることで、前記電極層8から前記第1の磁性層13へのセンス電流の分流を減らし、いわゆるシャントロスを低減させることができ、したがって抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0132】
このように本発明によれば、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくでき、通電信頼性を向上させることができるとともに、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができ、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0133】
ところでこの実施形態では図1と異なり、第1の磁性層13が2層構造となっている。成膜段階では、図1の第1の磁性層13も図2と同じ2層構造であったが、磁場中熱処理を施すことで、2層の磁性層間で熱拡散を起し、このため前記第1の磁性層13は、あたかも単一層のようになる。
【0134】
一方、図2において、前記第1の磁性層13が2層構造として完成するのは、例えば反強磁性層4に熱処理を施さなくても、第1の磁性層13を構成する磁性層23との間で交換結合磁界(Hex)を発生し得る反強磁性材料を使用したり、あるいは熱処理を施す必要性があっても、その熱処理条件が、前記2層の磁性層23、24間で熱拡散を生じないほどの弱い条件であるからである。
【0135】
上記した理由から、図2では、第1の磁性層13が磁性層23、24の積層構造を保ったまま完成するのである。
【0136】
なお図2では、磁性層23、24は2層構造であるが、これが3層以上であってもかまわない。かかる場合でも、反強磁性層4との界面と接する側の磁性層を、元素Xを含む、例えばCoFeX合金で形成し、一方、非磁性中間層12との界面と接する側の磁性層を、元素Xを含まない、例えばCoFe合金で形成する。
【0137】
また図2において、元素Xを含む磁性層23の膜厚は、3〜15Åであることが好ましく、また元素Xを含まない磁性層24の膜厚は、3〜15Åであることが好ましい。また前記磁性層23の膜厚は、第1の磁性層13の膜厚に対して0よりも大きく85%以下であることが好ましい。
また元素Xの組成比は3at%以上で15at%以下であることが好ましい。
【0138】
これにより、反強磁性層4との間で大きな交換結合磁界(Hex)を発生させることができ、また第2の磁性層11との間で大きなRKKY相互作用における結合磁界を発生させることができ、よって固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができると共に、センス電流の第1の磁性層13への分流を減らし、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくすることができる。
【0139】
また本発明では、元素Xを含む磁性層23がCoFeX合金で形成され、元素Xを含まない磁性層24がCoFe合金で形成されるとき、前記CoFeX合金で形成された磁性層23が第1の磁性層13に占める膜厚比(CoFe合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)は、0より大きく0.61以下であることが好ましい。これにより抵抗変化率が従来(第1の磁性層がCoFeあるいはCoFeX合金のみで形成、以下同じ)よりも大きく、またプラトー磁界(Hpl)も従来より大きくなる。
【0140】
または本発明では、(CoFeX合金で形成された磁性層23の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0より大きく0.36以下であることが好ましい。これによって一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来よりも大きくでき、またプラトー磁界(Hpl)を従来よりも大きくできる。さらに抵抗変化率(ΔR/R)を従来よりも大きくできる。
【0141】
または本発明では、(CoFeX合金で形成された磁性層23の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.82以下であることが好ましい。これによって、抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界(Hpl)を従来よりも大きくすることができる。
【0142】
または本発明では、(CoFeX合金で形成された磁性層23の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.12以上で0.61以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率(ΔR/R)を従来よりも大きくすることができ、またプラトー磁界(Hpl)を30kA/m以上に大きくすることができる。
【0143】
または本発明では、(CoFeX合金で形成された磁性層23の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.61以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界を30kA/m以上得ることができる。
【0144】
さらには本発明では、(CoFeX合金で形成された磁性層23の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.36以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界を30kA/m以上得ることができ、さらに一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来よりも大きくすることができる。
【0145】
以上、詳述した図1及び図2に示す積層フェリ構造の固定磁性層3を構成する第1の磁性層13の構造は、他の構造の磁気検出素子にも適用可能である。
【0146】
図3は、他の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型薄膜素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。なお図1、2と同じ符号が付けられいる層は、図1、2と同じ層を示している。
【0147】
図3では、フリー磁性層1が、反強磁性層4の下側に形成されており、図1、2と比較すると積層構造が逆になっている。
【0148】
図3では、固定磁性層3が第1の磁性層13と、非磁性中間層12を介して前記第1の磁性層13と対向する第2の磁性層11との3層構造で構成されている。
【0149】
この実施形態においても反強磁性層4と接する側に形成された第1の磁性層13には、前記反強磁性層4との界面4a側に元素Xを含む磁性材料で形成された領域Aと、非磁性中間層12との界面12a側に元素Xを含まない磁性材料で形成された領域Bとが形成されている。
【0150】
前記領域Aは、CoFeX合金で形成され、領域Bは、CoFe合金で形成されることが好ましい。
【0151】
そして、前記第1の磁性層13が、上記した膜構成であると、前記反強磁性層4との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくできると共に、非磁性中間層12との間で発生するRKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、その結果、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくすることが可能である。
【0152】
従って、前記固定磁性層3のピン止めを適切に行うことができ、耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができる。
【0153】
しかも本発明では、前記第1の磁性層13に、元素Xが添加されたことによる比抵抗の高い領域Aが形成されたことで、電極層8からのセンス電流が前記第1の磁性層13に分流するのを減らし、いわゆるシャントロスを低減させることができ、よって抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0154】
このように本発明では、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくでき、通電信頼性を向上させることができると同時に、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができ、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0155】
なお第1の磁性層13の領域A、BのCoFe合金を主体とした磁性材料以外に使用できる材質や、組成比、膜厚、膜厚比などについては図1、2で説明したものと同じであるので、そちらを参照されたい。
【0156】
図4は本発明における他の磁気検出素子(デュアルスピンバルブ型薄膜素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0157】
図4に示すように、下から下地層6、シードレイヤ22、反強磁性層4、固定磁性層3、非磁性材料層2、およびフリー磁性層1が連続して積層されている。前記フリー磁性層1は3層膜で形成され、例えばCoFe膜10,10とNiFe合金膜9で構成される。さらに前記フリー磁性層1の上には、非磁性材料層2、固定磁性層3、反強磁性層4、および保護層7が連続して積層されている。
【0158】
また、下地層6から保護層7までの多層膜の両側にはハードバイアス層5,5、電極層8,8が積層されている。なお、各層は図1、2で説明した材質と同じ材質で形成されている。
【0159】
図4では、2層の固定磁性層3は、第1の磁性層13と、非磁性中間層12を介して前記第1の磁性層13と対向する第2の磁性層11との3層構造で構成されている。
【0160】
この実施形態においても反強磁性層4と接する側に形成された第1の磁性層13には、前記反強磁性層4との界面4a側に元素Xを含む磁性材料で形成で形成された領域Aと、非磁性中間層12との界面12a側に元素Xを含まない磁性材料で形成された領域Bとが形成されている。
【0161】
前記領域Aは、CoFeX合金で形成され、領域Bは、CoFe合金で形成されることが好ましい。
【0162】
そして、前記第1の磁性層13が、上記した膜構成であると、前記反強磁性層4との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくできると共に、非磁性中間層12との間で発生するRKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、その結果、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることが可能である。
【0163】
従って、前記固定磁性層3のピン止めを適切に行うことができ、耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができる。
【0164】
しかも本発明では、前記第1の磁性層13に、元素Xが添加されたことによる比抵抗の高い領域Aが形成されたことで、電極層8からのセンス電流が前記第1の磁性層13に分流するのを減らすことができ、いわゆるシャントロスを低減させることができ、よって抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0165】
このように本発明では、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくでき、通電信頼性を向上させることができると同時に、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができ、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0166】
なお第1の磁性層13の領域A、BのCoFe合金を主体とした磁性材料以外に使用できる材質や、組成比、膜厚、膜厚比などについては図1、2で説明したものと同じであるので、そちらを参照されたい。
【0167】
図5は、別の本発明における磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。なお図1と同じ符号が付けられている層は、図1と同じ層を示している。
【0168】
この実施形態では、フリー磁性層1上に非磁性中間層27が形成され、その上には、トラック幅方向(図示X方向)に所定の間隔(=トラック幅Tw)を開けて強磁性層28が形成され、さらに前記強磁性層28の上には反強磁性層(エクスチェンジバイアス層)29が形成されている。
【0169】
図5に示す実施形態では、前記強磁性層28との間で発生するRKKY相互作用における結合磁界によって、前記フリー磁性層1の磁化は図示X方向に向けられる。
【0170】
この実施形態では、前記強磁性層28の磁化は、反強磁性層29との間で発生する交換結合磁界(Hex)によって強固に固定され、前記強磁性層28と対向する位置に形成された前記フリー磁性層1の両側領域C、Cの磁化も、上記したRKKY相互作用による結合磁界により前記強磁性層28の磁化方向と反平行状態になって強固に固定される。
【0171】
一方、前記フリー磁性層1の中央領域Dの磁化は、その両側領域Cの磁化が図示X方向に向けられることで、図示X方向に揃えられるが、前記中央領域Dは外部磁界に対し反転できる程度に磁化された状態にあり、この中央領域Dの部分は実質的に磁気抵抗効果に寄与する部分となっている。
【0172】
図5に示す強磁性層28は、積層フェリ構造における固定磁性層3の第1の磁性層13といわば同じ機能を有しており(すなわち強磁性層28は、フリー磁性層1の両側領域Cの磁化を適切に固定するために設けられたもので、前記強磁性層28は実質的に磁気抵抗効果に寄与する層ではない)、前記強磁性層28は、前記第1の磁性層13と同じ膜構造を有している。
【0173】
すなわち前記強磁性層28には、反強磁性層29との界面と接する側に元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有する磁性材料で形成された領域Aがあり、一方、非磁性中間層27との界面と接する側に元素Xを含まない磁性材料で形成された領域Bが存在する。
【0174】
前記領域Aは、CoFeX合金で形成され、領域Bは、CoFe合金で形成されることが好ましい。
【0175】
そして、前記強磁性層28が、上記した膜構成であると、前記反強磁性層29との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくできると共に、非磁性中間層27との間で発生するRKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、その結果、フリー磁性層1における両側領域Cでの一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくすることが可能である。
【0176】
従って、前記フリー磁性層1の両側領域Cの磁化のピン止めを適切に行うことができ、耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができる。
【0177】
また図5には電極層が図示されていないが、前記電極層は、非磁性材料層2を中心としてセンス電流が流れるようにすれば、どの位置に形成されてもよく、例えば図5の積層体の図示X方向の両側に形成される。
【0178】
このように本発明では、フリー磁性層1の両側領域Cにおける一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくでき、通電信頼性を向上させることができ、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0179】
なお強磁性層28の領域A、BのCoFe合金を主体とした磁性材料以外に使用できる材質や、組成比、膜厚などについては図1、2で説明したものと同じであるので、そちらを参照されたい。
【0180】
また図5に示す実施形態では、図1ないし図4に図示されたハードバイアス層5が図示されていないが、図5に示す積層体の図示X方向の両側に前記ハードバイアス層5が形成され、その上に電極層8が形成された形態であってもよい。
【0181】
またこの実施形態では、前記強磁性層28、28間に形成された凹部37からは、前記非磁性中間層27表面が露出しているが、前記凹部37の部分に、前記強磁性層28の一部が残され、前記凹部37から前記強磁性層28表面が露出していても、あるいは前記凹部37に露出する前記非磁性中間層27が除去され、前記凹部37からフリー磁性層1の表面が露出していてもかまわない。
【0182】
また前記凹部37の部分に、前記強磁性層28の全部と反強磁性層29の一部が残されていてもかまわない。強磁性層28の一部または全部が残された状態であるとフリー磁性層1は積層フェリ(シンセティックフェリ)フリー層として機能し、磁気的なフリー磁性層1が薄くなったのと同様の効果が得られ、再生感度が向上する。
【0183】
また前記凹部37に前記強磁性層28の領域Aが残された構造であるとセンス電流が強磁性層28に分流するのを減らすことができ、いわゆるシャントロスを低減させることができ、よって抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0184】
なお図5に示す凹部37の形成方法であるが、例えば非磁性中間層27まで成膜した後、前記非磁性中間層27の中央上にリフトオフ用レジスト層を形成し、このレジスト層に覆われていない前記非磁性中間層27のトラック幅方向(図示X方向)における両側領域上に、強磁性層28及び反強磁性層29を成膜して、前記レジスト層除去する方法、あるいは反強磁性層29までべた膜で形成した後、前記反強磁性層29のトラック幅方向の両側領域上をレジスト層で保護し、一方、前記レジスト層に覆われていない中央の反強磁性層29及び強磁性層28をエッチングなどで掘り込んでいき前記凹部37を形成する。
【0185】
図6は、図5に示す磁気検出素子の変形例である。図6に示す磁気検出素子と図5に示す磁気検出素子との違いは、固定磁性層3における第1の磁性層13の膜構成にある。
【0186】
図5に示す磁気検出素子では、前記固定磁性層3を構成する第1の磁性層13の膜構成は従来と同様、元素Xを含まない例えばCoFe合金の単層である。一方、図6に示す磁気検出素子では、前記第1の磁性層13は図1と同様に、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有する磁性領域Aが、前記反強磁性層4との界面から前記非磁性中間層12側にかけて存在するととともに、前記非磁性中間層12との界面から前記反強磁性層4側にかけての領域の一部に、前記元素Xを含まない磁性領域Bが存在するのである。なお図2のように2層以上の積層構造で前記第1の磁性層13を形成することも可能である。
【0187】
これにより図6に示す実施形態では、より効果的に通電信頼性の向上、および抵抗変化率の向上を同時に図ることができ、今後の高記録密度化においても適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0188】
なお前記強磁性層28は、従来と同様に元素Xを含まない、例えばCoFe合金等の単層構造で形成され、一方、固定磁性層3を構成する第1の磁性層13は元素Xを含む磁性領域Aを有して形成されている実施形態であってもよい。
【0189】
次に図1ないし図6における第1の磁性層13と第2の磁性層11との磁気モーメント差(Net Mst)について以下に説明する。
【0190】
ここで前記磁気モーメント差とは、第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントから第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメントを引いた値のことである。
【0191】
本発明では前記磁気モーメント差は、−0.63(T・nm)以上で0.63(T・nm)以下{ただし0(T・nm)は除く}であることが好ましい。磁気モーメント差が−0.63(T・nm)よりも小さくなると、再生出力が急激に低下し始めることがわかっている。これは前記磁気モーメント差が負の値に大きくなると、すなわち前記第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメントが、前記第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントに比べて、より大きくなっていくと、前記第1の磁性層13へのセンス電流の分流量が増すからである。
【0192】
しかし上記したように本発明では前記磁気モーメント差は、負の値であっても−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)よりも小さければ、前記磁気モーメント差が正の値の場合に比べて若干、再生出力が上昇する傾向を見せる。一方、従来のように、前記第1の磁性層13をCoFe系合金などの元素Xを含有しない磁性材料層で形成した場合、前記磁気モーメント差を0(T・nm)よりも小さくしていくと、再生出力は単調な減少傾向を見せる。
【0193】
すなわち本発明のように前記第1の磁性層13に元素Xを含んだ磁性領域を設けることで、前記磁気モーメント差を−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)よりも小さい範囲内にすれば、再生出力を従来よりもより適切に向上させることが可能になるのである。
【0194】
次に本発明では前記磁気モーメント差を0.63(T・nm)以下に設定したが、前記磁気モーメント差を0.63(T・nm)よりも大きくすると、特に第2の磁性層11の磁化傾斜角度が大きくなってしまい、アシンメトリーの増加や再生出力の低下を余儀なくされる。
【0195】
ここで「第2の磁性層11の磁化傾斜角度」とは、ハイト方向(図示Y方向)と平行な方向を0度とし、このハイト方向からの傾きである。エクスチェンジバイアス型の磁気検出素子の製造における第2磁場中アニール後の第2の磁性層11の磁化傾斜角度は、まずハイト方向に第1の磁場中アニールを施した後、ハイト方向と直交するトラック幅方向(図示X方向)に第2の磁場中アニールを施した磁気検出素子(膜単体のべた膜)を用いて、固定磁性層の元の磁化方向と直交方向に磁場を印加して測定するR−H曲線により測定する。
【0196】
本発明では前記磁気モーメント差を−0.63(T・nm)以上で0.63(T・nm)以下に設定すると、従来に比べてより効果的に再生出力の向上を図ることができると共に、前記第2の磁性層11の磁化傾斜角度をより0度に近づけることが可能になる。
【0197】
また本発明では、前記磁気モーメント差は負の値であることが好ましい。すなわち本発明では前記磁気モーメント差は−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)より小さいことが好ましい。磁気モーメント差を負の値にすると、従来では再生出力は下がる傾向になるのに対し、本発明では再生出力は若干上昇する傾向にあり、従来に比べてより効果的に再生出力の向上を図ることが可能になる。しかも第2の磁性層11の磁化傾斜角度を磁気モーメント差が正の値である場合に比べて、より0度に近づけることができ、アシンメトリーを小さくでき、且つ再生出力の向上を図ることが可能になる。
【0198】
さらに本発明では、前記第1の磁性層13の膜厚は第2の磁性層11の膜厚よりも厚いことが好ましい。上記したように本発明では前記磁気モーメント差を−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)よりも小さくすることができる。前記磁気モーメント差が−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)よりも小さい範囲内では、第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメントの方が前記第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントよりも大きい。
【0199】
ここで単位面積当たりの磁気モーメントは、飽和磁化(Ms)と膜厚(t)との積で求めることができる。このため前記膜厚(t)を厚くすれば前記単位面積当たりの磁気モーメントを大きくすることができる。
【0200】
従って本発明では、磁気モーメント差を−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)よりも小さい範囲内に設定するために、前記第1の磁性層13の膜厚を第2の磁性層11の膜厚よりも大きい値に設定することが好ましい。
【0201】
前記第1の磁性層13の膜厚を前記第2の磁性層11の膜厚より大きくすることで、一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を増大でき、これにより前記第2の磁性層11の磁化傾斜角度を小さくすることが可能になる。
【0202】
また本発明では、前記第1の磁性層13に元素Xを含んだ比抵抗の高い磁性領域Aが存在するから、前記第1の磁性層13の膜厚を厚くしていっても、従来に比べて抵抗変化率(ΔR/R)及び抵抗変化量(ΔRs)の低下を抑制することができる。
【0203】
さらに反強磁性層4と接する第1の磁性層13の部分に元素Xを含んだ比抵抗の高い磁性領域Aが存在するから、前記反強磁性層4と第1の磁性層13間に発生する交換結合磁界(Hex)は高まり、前記第1の磁性層13の膜厚を厚くしたときの前記交換結合磁界の低下による、固定磁性層3の磁化傾斜角度を最小限に抑えることが可能になる。
【0204】
なお上記した「磁化傾斜角度」を小さくできる作用効果は、図1ないし図6に示す磁気検出素子の全てに有効に発揮される。図1ないし図4に示すハードバイアス方式では、前記固定磁性層3のトラック幅方向における両側端部の磁化がハードバイアス層5からの縦バイアス磁界の影響で傾く不具合を適切に改善できる。
【0205】
また一方、前記エクスチェンジバイアス方式における固定磁性層の「磁化傾斜角度」の測定は、まずハイト方向(図示Y方向)に第1の磁場中アニールを施し、次にトラック幅方向(図示X方向)に第2の磁場中アニールを施した後行なわれるが、このような磁場中アニールのパターンは図6のようなエクスチェンジバイアス方式の製造工程で使われる。
【0206】
従って図6のエクスチェンジバイアス方式において、2度の磁場中アニール後に、固定磁性層3の固定磁化方向が傾いたり、分散角が大きくなるといった不具合を抑制でき、従来に比べてより効果的に再生出力の増加やアシンメトリーの改善を図ることが可能になる。
【0207】
また図1ないし図6に示す磁気検出素子においてセンス電流が流れたときに発生するセンス電流磁界の向きは、固定磁性層3を構成する第1の磁性層13と第2の磁性層11の合成磁化方向と一致させることが好ましい。
【0208】
例えば図1において、固定磁性層3の第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメントが第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントよりも大きく、且つ前記第1の磁性層13の磁化が図示Y方向とは逆向きであり、第2の磁性層11の磁化が図示Y方向と同一方向である場合、固定磁性層3の合成磁化方向は図示Y方向と逆向きである。
【0209】
この固定磁性層3の合成磁化方向とセンス電流磁界の向きを一致させるため、図1に示す右側の電極層8から左側の電極層8にかけてセンス電流を流す。センス電流は主に非磁性材料層2を中心にして流れ、右ねじの法則により発生するセンス電流磁界は固定磁性層3側では図示Y方向とは逆向きに発生する。このように固定磁性層3の合成磁化方向とセンス電流磁界の向きを一致させることができると、固定磁性層3の磁化をより強固に固定でき、アシンメトリーの改善及び再生出力の向上や通電信頼性の向上など再生特性及び信頼性に優れた磁気検出素子を製造することが可能になる。
【0210】
図7は、図1から図6に示す磁気検出素子が形成された読み取りヘッドの構造を記録媒体との対向面側から見た断面図である。
【0211】
符号40は、例えばNiFe合金などで形成された下部シールド層であり、この下部シールド層40の上に下部ギャップ層41が形成されている。また下部ギャップ層41の上には、図1ないし図6に示す磁気検出素子42が形成されており、さらに前記磁気検出素子42の上には、上部ギャップ層43が形成され、前記上部ギャップ層43の上には、NiFe合金などで形成された上部シールド層44が形成されている。
【0212】
前記下部ギャップ層41及び上部ギャップ層43は、例えばSiO2やAl2O3(アルミナ)などの絶縁材料によって形成されている。図7に示すように、下部ギャップ層41から上部ギャップ層43までの長さがギャップ長Glであり、このギャップ長Glが小さいほど高記録密度化に対応できるものとなっている。
【0213】
本発明では、前記反強磁性層4の膜厚を小さくしてもなお大きな交換結合磁界(Hex)を発生させることができる。前記反強磁性層4の膜厚は、例えば70Å以上で形成され、300Å程度の膜厚であった従来に比べて前記反強磁性層4の膜厚を十分に小さくできる。このように大きな交換結合磁界(Hex)を得ることができるのは、本発明では、反強磁性層4と対向する側に元素Xを含んだ磁性材料、好ましくはCoFeX合金からなる、比抵抗の大きい領域Aの第1の磁性層13を形成しているからであり、これによって前記反強磁性層4の膜厚を薄く形成しても、十分に大きい交換結合磁界(Hex)を得ることが可能になっている。
【0214】
よって狭ギャップ化により高記録密度化に対応可能な薄膜磁気ヘッドを製造することができる。
【0215】
なお前記上部シールド層44の上には書き込み用のインダクティブヘッドが形成されていてもよい。
【0216】
なお本発明における磁気検出素子は、ハードディスク装置内に内蔵される磁気ヘッド以外にも磁気センサなどに利用可能である。
【0217】
次に本発明における磁気検出素子の製造方法について以下に説明する。図8を参照しながら説明する。なお図8は、製造方法を説明するための部分模式図である。
【0218】
まず基板25上に前記下地層6を形成する。なお前記下地層6は、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち少なくとも1種以上の元素で形成されていることが好ましい。次に前記下地層6上にシードレイヤ22をスパッタ成膜する。スパッタ成膜のときには、NiFeCrまたはCrで形成されたターゲットを用意する。前記シードレイヤ22を、例えば20Åから60Å程度でスパッタ成膜する。ちなみに前記シードレイヤ22をNiFeCrで形成するときは、例えばその組成比は概ね、(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%である。
【0219】
次に前記シードレイヤ22上に反強磁性層4をスパッタ成膜する。
本発明では、前記反強磁性層4を、元素Z(ただしZは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料でスパッタ成膜することが好ましい。
【0220】
また本発明では前記反強磁性層4を、Z−Mn−Z′合金(ただし元素Z′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Ir,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)でスパッタ成膜してもよい。
【0221】
また本発明では、前記元素Zあるいは元素Z+Z′の組成比を、45(at%)以上60(at%)以下とすることが好ましい。
【0222】
さらに前記反強磁性層4の上に固定磁性層3をスパッタ成膜する。
図8に示すように、前記固定磁性層3を第1の磁性層13と、その上に非磁性中間層12を介して形成された第2の磁性層11とで構成された積層フェリ構造とする。
【0223】
本発明では、前記第1の磁性層13を、以下のような方法によって形成する。すなわち本発明では、まず反強磁性層4上に、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含んだ磁性材料、例えば好ましくはCoFeX(より好ましくはCoFeCr)合金で形成された磁性層13aをスパッタ成膜する。前記Xの組成比は3at%以上で15at%以下であることが好ましい。
【0224】
そして、前記磁性層13a上に、前記元素Xを含まない磁性材料、例えば好ましくはCoFe合金で形成された磁性層13bをスパッタ成膜する。
【0225】
このように本発明では、前記第1の磁性層13を磁性層13aと磁性層13bとの2層構造で形成するわけであるが、磁性層13aには元素Xが含まれているため、前記磁性層13aの比抵抗値は磁性層13bの比抵抗値に比べて高くなっている。
【0226】
次に、前記第1の磁性層13の上に非磁性中間層12をスパッタ成膜する。前記非磁性中間層12をRu、Rh、Ir、Os、Cr、Re、Cuのうち1種または2種以上の合金で形成することが好ましい。
【0227】
次に前記非磁性中間層12上に第2の磁性層11をスパッタ成膜する。本発明では前記第2の磁性層11を如何なる磁性材料で形成してもよいが、前記第1の磁性層13との間で発生するRKKY相互作用による結合磁界を適切に大きくするには、CoFe合金を使用することが好ましい。
【0228】
次に、前記第2の磁性層11の上に、Cuなどで形成された非磁性材料層2、例えばCoFe合金膜10とNiFe合金膜9の2層で形成されたフリー磁性層1、Cuなどで形成されたバックド層15、および保護層7(例えばTaなどの酸化物で形成された鏡面反射層であってもよい)をスパッタ成膜する。
【0229】
次に熱処理を施す。反強磁性層4は上記したZ−Mn合金やZ−Mn−Z′合金で形成されることが好ましいが、これら反強磁性材料を使用する場合には、熱処理をしないと前記固定磁性層3との界面で交換結合磁界(Hex)を発生しない。したがって本発明では熱処理を施すことで前記反強磁性層4と固定磁性層3の第1の磁性層13との界面で交換結合磁界(Hex)を発生させることができる。またこのとき図示Y方向と平行な方向に磁場をかけることで前記固定磁性層3の磁化を図示Y方向と平行な方向に向け固定することができる。なお本発明では前記固定磁性層3は積層フェリ構造であるから、第1の磁性層13と第2の磁性層11の磁化は反平行状態になる。
【0230】
上記した熱処理を施すことで、元素Xが含有された例えばCoFeX合金からなる磁性層13aと、反強磁性層4との間に大きな交換結合磁界(Hex)を発生させることができる。
【0231】
一方、本発明では、前記非磁性中間層12と接する側の第1の磁性層13には、元素Xを含まない例えばCoFe合金からなる磁性層13bが設けられており、前記磁性層13bと第2の磁性層11との間で、大きなRKKY相互作用による結合磁界を発生させることができる。
【0232】
従って本発明によれば、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができる。
【0233】
ところで、上記した熱処理を施すことで、前記第1の磁性層13を構成する磁性層13aと磁性層13bとの間には熱拡散が生じ、前記磁性層13aと磁性層13bとの界面で元素が入り交じる。
【0234】
このため熱処理後では、図8に示すような磁性層13aと磁性層13b間に、はっきりとした境界を見ることはできず、前記第1の磁性層13は単一層のようになる。このため熱処理後における前記第1の磁性層13の組成比を測定すると、前記第1の磁性層13には組成変調が生じていることがわかる。
【0235】
この組成変調は、前記磁性層13aと磁性層13bの界面付近で、元素Xの組成比が、反強磁性層4側から非磁性中間層12側に向けて徐々に少なくなる領域として現われる。
【0236】
ただし、例えば前記反強磁性層4が、熱処理を必要としなくても第1の磁性層13との間で交換結合磁界(Hex)を発生し得る材質であったり、また熱処理条件も、前記第1の磁性層13を構成する磁性層13aと磁性層13b間で熱拡散を生じない程度の条件であった場合には、上記した組成変調は生じない場合があり、かかる場合、前記磁性層13aと磁性層13b間の界面をはっきりと見ることができたり、あるいは前記界面を見ることができないとしても、前記反強磁性層4側から非磁性中間層12側に向けて前記界面付近で、元素Xが急激に0at%に近づくような極端な元素Xの組成比の変動を見ることができる。
【0237】
なお、図8に示す製造方法では、前記第1の磁性層13を磁性層13aと磁性層13bの2層構造で構成したが、2層よりも多い製造構造であってもよい。かかる場合であっても反強磁性層4と接する側に元素Xを含む比抵抗の高い磁性層を設け、非磁性中間層12と接する側に元素Xを含まない比抵抗の低い磁性層を設ける。
【0238】
あるいは別の製造方法としては、前記第1の磁性層13の成膜時に、例えばCoFeからなるターゲットと、元素X(好ましくはCr)からなるターゲットを用意し、反強磁性層4との界面上に前記第1の磁性層13を成膜する初期段階では、まずCoFeからなるターゲットと、元素Xからなるターゲットの双方に電力を供給してCoFeCrからなる磁性層を成膜し、次に徐々に元素Xターゲットに対する電力を下げていき、これによって成膜されるCoFeXの元素X組成比を小さくしていき、最終段階では、元素Xターゲットに対する電力を0Wにして、元素Xを含まないCoFe合金からなる磁性層を成膜できるようにする。
【0239】
これによっても、反強磁性層4との界面では、元素Xを含む比抵抗の高いCoFeCr合金が存在するから前記反強磁性層4との間で大きな交換結合磁界(Hex)を発生させることができ、また非磁性中間層12との界面では、元素Xを含まない比抵抗の小さいCoFe合金が存在するから前記第2の磁性層11との間で大きなRKKY相互作用における結合磁界を発生させることができ、よって前記固定磁性層3の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができる。
【0240】
また本発明における磁気検出素子の製造方法によれば、前記第1の磁性層13に比抵抗の大きな磁性層13aが存在することから電極層から前記第1の磁性層13に分流するセンス電流量を減少させることができ、いわゆるシャントロスを低減させることができ、大きな抵抗変化率(ΔR/R)を得ることができる。
【0241】
なお上記した第1の磁性層13の製造方法は図2ないし図4のいずれの磁気検出素子の第1の磁性層の製造に利用できる。
【0242】
ただし図5や図6のようなエクスチェンジバイアス方式の磁気検出素子の場合、反強磁性層4と固定磁性層3間で交換結合磁界を発生させるだけでなく、強磁性層28と反強磁性層(エクスチェンジバイアス層)29との間でも交換結合磁界を発生させなければならない。
【0243】
このため、例えば非磁性中間層27までを成膜した段階で、まずハイト方向(図示Y方向)に磁場中アニールを施す。例えば磁場を10kOe(=約800kA/m)とし、温度を290度(℃)、時間を4時間とする。これにより前記反強磁性層4と固定磁性層3間に交換結合磁界を発生させて前記固定磁性層3の磁化を前記ハイト方向と平行な方向に固定する。
【0244】
次に前記強磁性層28と反強磁性層29を成膜し、2回目の磁場中アニールをトラック幅方向(図示X方向)に対し行う。例えば磁場を300(約24kA/m)Oeとし、温度を290度(℃)、時間を4時間とする。これにより前記強磁性層28と反強磁性層29間に交換結合磁界が発生する。
【0245】
このとき、第2の磁場中アニールの影響を受けて、磁化がハイト方向に固定されたはずの固定磁性層3が揺らぐ可能性がある。しかし本発明では、上記したように、第1の磁性層13と第2の磁性層11との磁気モーメント差(Net Mst)や膜厚を適正化していることで、第2の磁場中アニールによる前記第2の磁性層11のハイト方向(図示Y方向)からの傾き(磁化傾斜角度)を最小限に抑制できる。したがって本発明では、アシンメトリーが小さく且つ再生出力の大きいエクスチェンジバイアス方式の磁気検出素子を適切且つ容易に形成することが可能である。
【実施例】
【0246】
本発明では、以下の膜構成を有する積層膜を形成し、固定磁性層が磁性層の単層で形成されたときの、前記固定磁性層と反強磁性層間で発生する交換結合磁界(Hex)の大きさを、前記固定磁性層の材質を4種類用意して、それぞれについて測定した。
【0247】
膜構成は、下から、
シードレイヤ:(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%(55)/反強磁性層:Pt50at%Mn50at%(160)/固定磁性層:材質は表1を参照(20)/非磁性材料層:Cu(40)/フリー磁性層:[Co90at%Fe10at%(10)/Ni80at%Fe20at%(50)]/保護層:Ta(30)である。なお括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0248】
上記した膜構成の磁気検出素子を成膜したあと、熱処理を施して前記反強磁性層と固定磁性層間に交換結合磁界(Hex)を発生させ、それを測定した。その実験結果は、表1に示されている。
【0249】
【表1】
【0250】
表1に示すように、固定磁性層には、(Co0.9Fe0.1)95at%Cr5at%合金、Co90at%Fe10at%合金、Fe50at%Co50at%合金、Ni80at%Fe20at%合金をそれぞれ使用した。
【0251】
表1に示すように、固定磁性層にCoFeCr合金を使用したとき、CoFe合金を使用した場合に比べて交換結合磁界(Hex)を大きくできることがわかる。また固定磁性層にNiFe合金を使用した場合に比べても約2倍程度の高い交換結合磁界(Hex)を得ることができることがわかる。
【0252】
また表1の最も右側欄に記載されたのは、単位面積当たりの交換結合エネルギーJであるが、CoFeCr合金がもっとも高い交換結合エネルギーJを有していることがわかる。
【0253】
この実験からわかったことは、反強磁性層との間で大きな交換結合磁界(Hex)を発生させるには、固定磁性層にCoFe合金ではなく、CoFeCr合金を使用した方が好ましいということである。
【0254】
次に、以下の膜構成を有する積層膜を用いて、積層フェリ構造における固定磁性層の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)の大きさを、固定磁性層の第1の磁性層の材質が異なるそれぞれのサンプルに対して測定した。
【0255】
なおここで、前記一方向性交換バイアス磁界(Hex*)は、主として上記した反強磁性層との間で発生する交換結合磁界(Hex)と、固定磁性層を構成する第1の磁性層と第2の磁性層間で発生するRKKY相互作用による結合磁界とを合わせた磁界の大きさである。
【0256】
実験に使用した膜構成は下から、
シードレイヤ:(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%(55)/反強磁性層:Pt50at%Mn50at%(160)/固定磁性層:[第1の磁性層:材質は表2を参照(18)/非磁性中間層:Ru(8.7)/第2の磁性層:材質は表2を参照(22)]/非磁性材料層:Cu(21)/フリー磁性層:[Co90at%Fe10at%(10)/Ni80at%Fe20at%(18)]/非磁性材料層:Cu(10)/保護層:Ta(30)である。なお括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0257】
上記した膜構成の磁気検出素子を成膜した後、熱処理を施し、固定磁性層の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を測定した。
【0258】
【表2】
【0259】
表2に示すように、第1の磁性層及び第2の磁性層にCoFe合金を選択した場合が、最も高い一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を発生させることができることがわかる。
【0260】
また飽和磁界(Hs)も、他の試料に比べて非常に高いことがわかる。飽和磁界(Hs)は、非磁性中間層を介した第1の磁性層と第2の磁性層の磁化が共に同じ方向を向くときの磁界の大きさである。この飽和磁界(Hs)が大きいことは、第1の磁性層と第2の磁性層間で発生するRKKY相互作用による結合磁界が強く、前記第1の磁性層と第2の磁性層との磁化が反平行状態から崩れ難いことを意味する。
【0261】
すなわち、第1の磁性層及び第2の磁性層にCoFe合金を選択した場合には、最も第1の磁性層と第2の磁性層との磁化の反平行状態が崩れ難く、RKKY相互作用による結合磁界は、他の試料に比べて非常に高いものと推測することができる。
【0262】
このことと、表1から得られた結論を総合すると、反強磁性層との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくするために、第1の磁性層の反強磁性層側にCoFeCr合金からなる磁性層を形成し、RKKY相互作用による結合磁界を大きくするために、第1の磁性層の非磁性中間層側にCoFe合金からなる磁性層を形成する。
【0263】
これによって、反強磁性層とCoFeCr合金間で大きな交換結合磁界(Hex)を得ることができると共に、非磁性中間層側に形成された第1の磁性層のCoFe合金と、第2の磁性層間で発生するRKKY相互作用による結合磁界を大きくすることができ、したがって固定磁性層における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を、第1の磁性層をCoFe、あるいはCoFeCr合金の単層で形成した場合に比べて、大きくすることができる。
【0264】
次に以下の積層膜を用いて、第1の磁性層をCoFeCr合金とCoFe合金の積層構造で形成したときの前記CoFeCr合金の最適な膜厚及び膜厚比について種々の特性から規定することとした。
【0265】
前記積層膜の構成は、下から、
Si基板/アルミナ/シードレイヤ:(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%(60)/反強磁性層:Pt50at%Mn50at%(100)/固定磁性層:[第1の磁性層:(Co0.9Fe0.1)95at%Cr5at%(X)/Co90at%Fe10at%(14−X)/非磁性中間層:Ru(8.7)/第2の磁性層:Co90at%Fe10at%(3)/スペキュラー膜(CoFe−Oxide)/Co90at%Fe10at%(18)]/非磁性材料層:Cu(21)/フリー磁性層:Co90at%Fe10at%(20)/バックド層:Cu(4.5)/スペキュラー膜:Ta−Oxideである。なお括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0266】
下記の積層膜を成膜後、290℃で4時間、800kA/mの磁場中アニールを施した。なお実験後、第1の磁性層を構成するCoFeCr合金とCoFe合金間では拡散によって界面がはっきりと解らなくなった。
【0267】
実験では、上記した第1の磁性層を構成するCoFeCr合金の膜厚を0Åから14Åまで厚くしていき、一方、第1の磁性層を構成するCoFe合金の膜厚を14Åから0Åまで薄くしていった。なお第1の磁性層の膜厚は14Åに保たれている。
【0268】
そして前記CoFeX合金の膜厚X及び膜厚比(ここでいう膜厚比とは、第1の磁性層全体の膜厚に対するCoFeCr合金の膜厚の比のこと。図の横軸の膜厚値の下に括弧書きで記載された数値が膜厚比を表している)と抵抗変化率(ΔR/R)との関係について調べた。その実験結果を図9に示す。
【0269】
図9に示すように、CoFeCr合金の膜厚を厚くしていくほど徐々に抵抗変化率は上昇していくが、前記CoFeCr合金が10Åよりも厚くなると抵抗変化率は低下し始めることがわかる。
【0270】
CoFeCr合金の膜厚としては、少なくとも第1の磁性層がCoFe合金の単体で形成されている場合(すなわちCoFeCr合金の膜厚が0Å)の抵抗変化率(15.13%)よりも大きくなる膜厚を選択することが好ましい。
【0271】
従って本発明では、前記CoFeCr合金の膜厚を0Åよりも大きく13Å以下(膜厚比としては0より大きく0.93以下)とした。これにより15.13%以上の抵抗変化率を得ることができる。
【0272】
また前記CoFeCr合金の膜厚は3.7Å以上で11.5Å以下(膜厚比としては0.26以上で0.82以下)であることがより好ましく、これによって15.25%以上の抵抗変化率を得ることができる。
【0273】
次に、CoFeCr合金の膜厚とシード抵抗変化量(ΔRs)との関係について調べた。シード抵値が高いほど、抵抗変化率(ΔR/R)は高くなるものと考えられる。
【0274】
図10に示すように、CoFeCr合金の膜厚が厚くなるほどシード抵抗値は大きくなり、前記CoFeCr合金の膜厚が7Å程度以上になると前記シード抵抗値はほぼ一定値となることがわかる。
【0275】
この実験結果から、CoFeCr合金は、0Åよりも大きく14Åより小さい(膜厚比としては0より大きく1より小さい)範囲であれば、第1の磁性層がCoFe合金のみで形成された場合(すなわちCoFeCr合金の膜厚が0Åのとき)に比べてシード抵抗値を大きくでき、3.075Ω/□よりも大きいシード抵抗値を得ることができる。
【0276】
またCoFeCr合金の膜厚が2.3Å以上で14Åより小さい(膜厚比としては0.16以上で1より小さい)範囲であると、3.1Ω/□以上のシード抵抗値を得ることができる。
【0277】
さらにCoFeCr合金の膜厚が、7.0Å以上で14Åより小さい(膜厚比としては0.5以上で1より小さい)範囲であると、3.13Ω/□以上のシード抵抗値を得ることができる。
【0278】
ここで、上記したようにシード抵抗値は大きいほど、大きな抵抗変化率を得ることができると考えられたが、実際は図9、10に示すように、シード抵抗値が高い10Å以上の膜厚であっても、抵抗変化率は低下する傾向が見られた。これは次に説明する一方向性交換バイアス磁界(Hex*)の低下が影響を与えているものと考えられる。
【0279】
図11は、CoFeCr合金の膜厚と、一方向性交換バイアス磁界(Hex*)との関係を示すグラフである。
【0280】
図11に示すように、CoFeCr合金の膜厚を4Å程度にすると一方向性交換バイアス磁界(Hex*)は最も大きな値を取るが、それよりも厚い膜厚とすると前記一方向性交換バイアス磁界(Hex*)は低下してしまう。
【0281】
これはCoFeCr合金の膜厚が厚くなることで、第2の磁性層との間で発生するRKKY相互作用による結合磁界が低下するためであると考えられる。
【0282】
この図11の実験から、CoFeCr合金の膜厚は0Åよりも大きく5Å以下(膜厚比としては0より大きく0.36以下)であることが好ましい。これによって100kA/mよりも大きな一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を得ることができる。
【0283】
なお図9と同様に、CoFeCr合金の膜厚の絶対値の下に記載されている括弧書きの数値は、第1の磁性層全体の膜厚に対するCoFeCr合金の膜厚の膜厚比を示している。
【0284】
図11に示すように、CoFeCr合金の膜厚は5Åよりも大きくなると特に一方向性交換バイアス磁界(Hex*)の低下が顕著に現れるが、このHex*の低下により固定磁性層の磁化が不安定化するため、図9に示すように、抵抗変化率が低下していくものと考えられる。
【0285】
次に、CoFeCr合金の膜厚とプラトー磁界(Hpl)との関係について調べた。その実験結果を図12に示す。
【0286】
ここでプラトー磁界(Hpl)とは図13のヒステリシスループに示すように、抵抗変化率が最大値(1.00)に対して0.98となるときの印加磁界の大きさを示す。プラトー磁界が大きいと、第1の磁性層と第2の磁性層の磁化の反平行状態が安定に保たれるので、前記プラトー磁界は大きい方が好ましい。
【0287】
図12に示すように、CoFeCr合金が約4Åのときプラトー磁界は最大値を示す。そしてそれよりも前記CoFeCr合金の膜厚が厚くなっていくとプラトー磁界は徐々に低下していくことがわかる。
【0288】
図12の実験結果から、前記CoFeCr合金の膜厚が0Åよりも大きく14Åよりも小さい(膜厚比としては0より大きく1より小さい)範囲であれば、第1の磁性層がCoFe合金のみで形成された従来に比べて(すなわちCoFeCr合金の膜厚が0Å)、高いプラトー磁界(24kA/mよりも大きい)を得ることができる。
【0289】
また本発明では、前記CoFeCr合金の膜厚が3Å以上で8.5Å以下(膜厚比としては0.12以上0.61以下)であれば、30kA/m以上のプラトー磁界を得ることができる。
【0290】
以上の実験結果により、本発明では以下の膜厚比を好ましい範囲とした。
本発明では、前記CoFeCr合金で形成された磁性層が第1の磁性層に占める膜厚比(CoFeCr合金の膜厚/第1の磁性層の膜厚)は、0より大きく0.61以下であることが好ましい。これにより抵抗変化率が従来よりも大きく、またプラトー磁界(Hpl)も従来より大きくなる。
【0291】
または本発明では、(CoFeCr合金で形成された磁性層の膜厚/第1の磁性層の膜厚)の膜厚比は、0より大きく0.36以下であることが好ましい。これによって一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来よりも大きくでき、またプラトー磁界(Hpl)を従来よりも大きくできる。さらに抵抗変化率(ΔR/R)を従来よりも大きくできる。
【0292】
または本発明では、(CoFeCr合金で形成された磁性層の膜厚/第1の磁性層の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.82以下であることが好ましい。これによって、抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界(Hpl)を従来よりも大きくすることができる。
【0293】
または本発明では、(CoFeCr合金で形成された磁性層の膜厚/第1の磁性層の膜厚)の膜厚比は、0.12以上で0.61以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率(ΔR/R)を従来よりも大きくすることができ、またプラトー磁界(Hpl)を30kA/m以上に大きくすることができる。
【0294】
または本発明では、(CoFeCr合金で形成された磁性層の膜厚/第1の磁性層の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.61以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界を30kA/m以上得ることができる。
【0295】
さらには本発明では、(CoFeCr合金で形成された磁性層の膜厚/第1の磁性層の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.36以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界を30kA/m以上得ることができ、さらに一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来よりも大きくすることができる。
【0296】
次に本発明では、第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントから第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメントを引いた磁気モーメント差(Net Mst)と、再生出力との関係を調べた。
【0297】
実験に使用した膜構成は、下から、
アルミナ/シードレイヤ:(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%(60)/反強磁性層:Pt50at%Mn50at%(120)/固定磁性層:[第1の磁性層:(Co0.9Fe0.1)95at%Cr5at%(X)/Co90at%Fe10at%(10)/非磁性中間層:Ru(9)/第2の磁性層:Co90at%Fe10at%(22)/非磁性材料層:Cu(21)/フリー磁性層:[Co90at%Fe10at%(10)/Ni80at%Fe20at%(35)]/保護層:Ta(30)である。なお括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0298】
またトラック幅を0.2μm、素子高さを0.15μmとした。さらに縦バイアス磁界として残留磁化(Mr)と膜厚(t)との積が18.8(T・nm)の永久磁石膜を用いた。
【0299】
実験では前記第1の磁性層を構成する(Co0.9Fe0.1)95at%Cr5at%の膜厚Xを変化させて、前記第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントを変化させ、前記磁気モーメント差(Net Mst)と再生出力との関係を求めた。その実験結果が図14に示されている。
【0300】
図14には第1の磁性層がCo90at%Fe10at%合金の単層で形成された比較例も載せてある。この比較例では前記第1の磁性層の膜厚を変化させて前記第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントを変化させ、前記磁気モーメント差(Net Mst)と再生出力との関係を求めている。
【0301】
図14に示すように、比較例では、前記磁気モーメント差が小さくなるにつれて徐々に再生出力は低下している。特に比較例の場合、前記磁気モーメント差が負の値になると、急激に再生出力が低下する。
【0302】
前記磁気モーメント差が負の値になるには、前記第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントが第2の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントよりも大きくなるわけであるが、このような磁気モーメントの調整は、前記第1の磁性層の膜厚を厚くしていくことによって行なわれる。
【0303】
すなわち前記磁気モーメント差が小さくなるほど、前記第1の磁性層の膜厚が厚くなっているのである。このため比較例の場合、前記磁気モーメント差が小さくなるほど、前記第1の磁性層の膜厚が厚くなり、この第1の磁性層は比抵抗の小さいCoFe合金の単層で形成されているから前記第1の磁性層へのセンス電流の分流量が大きくなり、再生出力が大きく低下してしまう。
【0304】
一方、本発明の実施例では、前記磁気モーメント差が小さくなってもさほど再生出力は変化せずむしろ若干上昇する。この上昇傾向は前記磁気モーメント差が約−0.63(T・nm)まで見られる。しかし前記磁気モーメント差が−0.63(T・nm)よりも小さくなると前記再生出力は低下し始める。
【0305】
実施例において、磁気モーメント差が小さくなっても特にー0.63(T・nm)までの負の値でも前記再生出力の低下が見られないのは、前記第1の磁性層に比抵抗の大きいCoFeCr合金層が存在するためである。また磁気モーメント差が小さくなることによりトラック両側の永久磁石膜(ハードバイアス層)からの磁界によって固定磁性層の磁化が傾く量が減少することにより再生出力が若干、上昇する。
【0306】
このため前記磁気モーメント差が小さくなる、すなわち第1の磁性層の膜厚が厚くなっていっても前記第1の磁性層に分流するセンス電流量は小さく、比較例に比べて前記再生出力の改善を図ることができるのである。
【0307】
次に図14の実験に用いた磁気検出素子の多層膜構造を用いて、磁気モーメント差(Net Mst)と、エクスチェンジバイアスの製造工程であるハイト方向と直交方向(トラック幅方向)の第2の磁場中アニールを施した後の第2の磁性層の磁化傾斜角度との関係について調べた。
【0308】
なお前記固定磁性層は既にハイト方向への第1の磁場中アニールによって磁化固定された状態である。この第1磁場中アニールは、ハイト方向に10kOe(=約800kA/m)の磁場をかけ続け、このとき290度とした熱処理工程を4時間行っている。
【0309】
この状態で、次に第2の磁場中アニールを施す。第2の磁場中アニールはトラック幅方向に300Oe(=約24kA/m)の磁場をかけ続け、このとき290度(℃)とした熱処理工程を4時間行った。その後、ハイト方向を0度としたときの固定磁性層(第2の磁性層)の磁化のずれ(磁化傾斜角度)を印加磁場を90°方向として測定したR−H曲線を用いて測定した。その実験結果は図15に示されている。
【0310】
図15に示すように、磁気モーメント差(Net Mst)が小さくなっていくほど、前記第2の磁性層の磁化傾斜角度は小さくなっていくことがわかる。
【0311】
比較例及び実施例ともに同様の傾向を見せるが、比較例では磁気モーメント差が0.63(T・nm)程度あると、第2の磁性層の磁化傾斜角度が15度を越えてしまい、固定磁性層とフリー磁性層との磁化の直交関係が大きく崩れてしまう。一方、実施例では前記磁気モーメント差が0.63(T・nm)以下であると前記第2の磁性層の磁化傾斜角度は10度以下に抑えられ、さらに前記磁気モーメント差を−0.63(T・nm)程度にまで小さくすると前記第2の磁性層の磁化傾斜角度をほぼ0度にすることができる。
【0312】
前記第2の磁性層の磁化傾斜角度は小さいほど好ましく、これによりアシンメトリーを小さくでき、さらに再生出力の向上を図ることができる。本発明では図14及び図15に示す実験結果から前記磁気モーメント差の好ましい範囲を−0.63(T・nm)以上で0.63(T・nm)以下に設定した。ただし前記磁気モーメント差が0(T・nm)となる場合は除いた。磁気モーメント差が0(T・nm)ということは、第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントと第2の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントとが同じ値になる場合であるが、かかる場合、前記第1の磁性層及び第2の磁性層に磁化分散が発生し再生特性を劣化させるという問題点がある。よって第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントと第2の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントとは異なる値であることが好ましく、そこで本発明では磁気モーメント差が0(T・nm)となる場合を除いているのである。
【0313】
また前記磁気モーメント差のより好ましい範囲を−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)より小さい範囲とした。図14及び図15に示すように、前記磁気モーメント差を負の値にすると、ハードバイアス方式の場合は前記再生出力は磁気モーメント差が−0.63(T・nm)程度まで若干上昇する傾向を見せ、比較例に比べて効果的に再生出力の向上を図ることができる。またエクスチェンジバイアス方式の場合は、第2の磁性層の磁化傾斜角度を5度以下に抑えることができ、特に前記磁気モーメント差が−0.63(T・nm)付近では前記磁化傾斜角度をほぼ0度にすることが可能である。
【0314】
次に本発明では、前記第1の磁性層の膜厚を第2の磁性層の膜厚よりも大きい方が好ましいとした。単位面積当たりの磁気モーメントは、飽和磁化(Ms)と膜厚(t)との積で求めることができる。上記したように磁気モーメント差は負の値であることが好ましいとしたが、このように設定するには、第1の磁性層の膜厚を第2の磁性層の膜厚よりも大きくすることが好ましい。
【0315】
図16は、第1の磁性層の膜厚と抵抗変化率(ΔR/R)との関係を示すグラフ、図17は第1の磁性層の膜厚と抵抗変化量(ΔRs)との関係を示すグラフである。
【0316】
図16に示す「比較例」及び「実施例」における磁気検出素子の膜構成は図14の実験に使用したものと同じである。
【0317】
図16及び図17に示すように「比較例」及び「実施例」ともに前記第1の磁性層の膜厚が厚くなっていくと抵抗変化率(ΔR/R)及び抵抗変化量(ΔRs)は徐々に低下する。しかしグラフを見てわかるように「実施例」の方が「比較例」に比べて抵抗変化率及び抵抗変化量の低下量は小さい。これは「実施例」の磁気検出素子の第1の磁性層には、比抵抗が高いCoFeCr合金層が存在するためセンス電流が前記第1の磁性層に分流しにくいからである。
【0318】
このように本発明では、前記第1の磁性層の膜厚を厚くしていっても従来に比べて抵抗変化率(ΔR/R)及び抵抗変化量(ΔRs)の低下を適切に抑制できる。
【0319】
しかも前記第1の磁性層の膜厚を厚く形成できることにより、磁気モーメント差(Net Mst)の値を小さくできる結果として一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくすることができ、前記第2の磁性層の磁化傾斜角度を小さく抑えることができる。
【0320】
さらに反強磁性層と接する第1の磁性層の部分に例えばCoFeX合金層などの比抵抗の高い磁性領域を形成することで、前記反強磁性層と第1の磁性層間に発生する交換結合磁界(Hex)は高まり、前記第1の磁性層の膜厚を厚くしたときの前記第1の磁性層の交換結合磁界(Hex)の低下による固定磁性層の磁化傾斜を最小限に抑えることができる。
【0321】
上記したように、磁気モーメント差(Net Mst)や膜厚を適切に調整することで狭トラック化及び素子高さの狭小化においても、固定磁性層の磁化の揺らぎが小さく、アシンメトリーを改善でき及び再生出力が大きい、高記録密度化に優れた磁気検出素子を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0322】
【図1】本発明の第1実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図2】本発明の第2実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図3】本発明の第3実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図4】本発明の第4実施形態の磁気検出素子(デュアルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図5】本発明の第5実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図6】本発明の第5実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図7】磁気検出素子を有する薄膜磁気ヘッドの部分断面図、
【図8】本発明における磁気検出素子の製造方法を説明するための一工程図(模式図)、
【図9】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成されたときの、CoFeCr合金の膜厚と、抵抗変化率(ΔR/R)との関係を示すグラフ、
【図10】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成されたときの、CoFeCr合金の膜厚と、シード抵抗値(ΔRs)との関係を示すグラフ、
【図11】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成されたときの、CoFeCr合金の膜厚と、一方向性交換バイアス磁界(Hex*)との関係を示すグラフ、
【図12】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成されたときの、CoFeCr合金の膜厚と、プラトー磁界(Hpl)との関係を示すグラフ、
【図13】プラトー磁界を説明するためのヒステリスループの模式図、
【図14】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成された実施例と、第1の磁性層がCoFe合金の単層構造で形成された比較例の、磁気モーメント差(Net Mst)と再生出力との関係を示すグラフ、
【図15】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成された実施例と、第1の磁性層がCoFe合金の単層構造で形成された比較例の、磁気モーメント差(Net Mst)と第2の磁性層の磁化傾斜角度との関係を示すグラフ、
【図16】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成された実施例と、第1の磁性層がCoFe合金の単層構造で形成された比較例の、第1の磁性層の膜厚と抵抗変化率(ΔR/R)との関係を示すグラフ、
【図17】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成された実施例と、第1の磁性層がCoFe合金の単層構造で形成された比較例の、第1の磁性層の膜厚と抵抗変化量(ΔRs)との関係を示すグラフ、
【図18】従来における磁気検出素子を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図19】積層フェリ構造の第1の磁性層を、CoFe単層で形成した場合、CoFeCr単層で形成した場合の、前記第1の磁性層の膜厚と、一方向性交換バイアス磁界(Hex*)との関係を示すグラフ、
【符号の説明】
【0323】
1 フリー磁性層
2 非磁性材料層
3 固定磁性層(強磁性層)
4 反強磁性層
5 ハードバイアス層
6 下地層
7 保護層
8 電極層
11 第2の磁性層
12、27 非磁性中間層
13 第1の磁性層
15 バックド層
29 反強磁性層(エクスチェンジバイアス層)
22 シードレイヤ
23、24 磁性層
25 基板
28 強磁性層
【技術分野】
【0001】
本発明は、反強磁性層および強磁性層とから成り、前記反強磁性層と強磁性層との界面にて発生する交換結合磁界(Hex)により、前記強磁性層の磁化方向が一定の方向にされる交換結合膜および前記交換結合膜を用いた磁気検出素子に係り、特に前記強磁性層が積層フェリ構造で形成され、抵抗変化率と一方向性交換バイアス磁界(Hex*)等の再生特性や信頼性を向上させることが可能な交換結合膜及び前記交換結合膜を用いた磁気検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
図18は従来における磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0003】
図18に示す符号14はTaなどの下地層であり、その上にPtMnなどの反強磁性層30が形成されている。
【0004】
前記反強磁性層30の上には、固定磁性層31が形成されている。前記固定磁性層31は、磁性層34、36と非磁性中間層35の3層で形成された積層フェリ構造である。前記磁性層34、36は例えばCoFe合金で形成され、前記非磁性中間層35はRuなどで形成される。
【0005】
前記固定磁性層31の上にはCuなどで形成された非磁性材料層32が形成され、さらに前記非磁性材料層32の上にはNiFeなどで形成されたフリー磁性層33が形成されている。また前記フリー磁性層33の上にはTaなどで形成された保護層7が形成されている。
【0006】
前記下地層14から保護層7までの各層のトラック幅方向(図示X方向)の両側には、ハードバイアス層5が形成され、前記ハードバイアス層5の上には電極層8が形成されている。
【0007】
この形態の磁気検出素子では、磁場中アニールが施されることで、前記反強磁性層30と固定磁性層31のうち、前記反強磁性層30と接する側の第1の磁性層34との間で交換結合磁界(Hex)が発生すると、前記第1の磁性層34は例えば図示Y方向に磁化され、一方、非磁性材料層32と接する第2の磁性層36は、前記第1の磁性層34との間に働くRKKY相互作用による結合磁界によって、図示Y方向とは逆方向に磁化される。
【0008】
一方、前記フリー磁性層33の磁化は、前記ハードバイアス層5からの縦バイアス磁界によって図示X方向に揃えられる。
【特許文献1】特開2000−252548公報
【特許文献2】特開2000−149229号公報
【特許文献3】特開2000−113418公報
【特許文献4】特開2000−315305号公報
【特許文献5】特開2001−167410公報
【特許文献6】特開2000−31562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで図18に示すように固定磁性層31が積層フェリ構造で形成されるとき、実際に磁気抵抗効果に寄与する層は、第2の磁性層36である。
【0010】
従って前記電極層8から非磁性材料層32を中心にセンス電流が流れたとき、このセンス電流が前記第1の磁性層34に分流するとシャントロスとなり抵抗変化率(ΔR/R)の低下を招いた。
【0011】
そこで従来では、このシャントロスを低減させるべく、CoFe合金などで形成されていた第1の磁性層34にCrなどを添加し、前記第1の磁性層34の比抵抗を上げることが試みられた。
【0012】
これによって前記第1の磁性層34の比抵抗は上がり、前記電極層8からのセンス電流は前記第1の磁性層34に分流しにくくなり、抵抗変化率の向上を図ることができたが、その一方で、前記固定磁性層31における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)の低下が顕著になった。
【0013】
ここで一方向性交換バイアス磁界(Hex*)とは、主として反強磁性層30と第1の磁性層34間で発生する交換結合磁界(Hex)と、第1の磁性層34と第2の磁性層36間で作用するRKKY相互作用における結合磁界とを合わせた磁界のことである。
【0014】
図19は、図18と同様の積層構造で形成された磁気検出素子であって、第1の磁性層34をCoFeCr5at%で形成したときの、前記第1の磁性層34の膜厚と一方向性交換バイアス磁界(Hex*)との関係を示すグラフである。
【0015】
図19に示すように、前記第1の磁性層34をCoFe合金で形成したときは、非常に高い一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を示すのに対し、前記第1の磁性層34をCoFeCrで形成すると、前記一方向性交換バイアス磁界は急激に低下することがわかる。
【0016】
また図19に示すように、CoFeCrで形成された前記第1の磁性層34の膜厚を厚くしていくと、前記一方向性交換バイアス磁界(Hex*)は大きくなる傾向にあるが、前記第1の磁性層34を厚くしていくと、今度は、前記第1の磁性層34へのセンス電流の分流量が大きくなり、結局、従来では、固定磁性層31における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)と、抵抗変化率(ΔR/R)の向上とを同時に得ることができなかったのである。
【0017】
なお前記一方向性交換バイアス磁界(Hex*)が低下すると、前記固定磁性層31を適切にピン止めできず、静電気放電(ESD)によるダメージに弱くなりやすく、また通電信頼性の低下が問題となった。
【0018】
また図18に示すような磁気検出素子の構造において、トラック幅が狭くなると、前記固定磁性層31のトラック幅方向の両側端部付近では、前記ハードバイアス層5からの縦バイアス磁界の影響を強く受けて、前記固定磁性層の磁化がハイト方向(図示Y方向)から斜めに傾くといった問題があった。この磁化の傾きにより再生出力の低下やアシンメトリーの悪化を余儀なくされた。この問題は、エクスチェンジバイアス方式の磁気検出素子の場合にも同様に生じた。エクスチェンジバイアス方式の場合、2度の磁場中アニールを施すが、1回目でハイト方向に磁場中アニールを施して固定磁性層31の磁化をハイト方向に固定しても、2回目にトラック幅方向に磁場中アニールを施したとき、前記固定磁性層31の磁化がハイト方向から傾くのである。
【0019】
また記録密度の向上に伴い、磁気検出素子の素子高さ自体も小さくなってきており、静電気放電(ESD)等に対して弱くなっていた。
【0020】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、積層フェリ構造で形成された固定磁性層の第1の磁性層の膜構成等を改良して、抵抗変化率及び一方向性交換バイアス磁界(Hex*)等の再生特性及び固定磁性層の信頼性を同時に向上させることが可能な交換結合膜及び前記交換結合膜を用いた磁気検出素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、反強磁性層と強磁性層とが積層形成され、前記反強磁性層と強磁性層との界面で交換結合磁界が発生することで、前記強磁性層の磁化方向が一定方向にされる交換結合膜において、
前記強磁性層は、前記反強磁性層との界面と接して形成される第1の磁性層と、前記第1の磁性層と非磁性中間層を介して対向する第2の磁性層とを有して形成された積層フェリ構造であり、
前記磁性層のうち前記反強磁性層と接する側の第1の磁性層には、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有する領域が、前記反強磁性層との界面から前記非磁性中間層側にかけて存在するとともに、前記非磁性中間層との界面から前記反強磁性層側にかけての領域の一部に、前記元素Xを含まない領域が存在することを特徴とするものである。
【0022】
本発明では、前記第1の磁性層はCoFe合金を主体とし、元素Xを含む領域はCoFeX合金で形成され、元素Xを含まない領域はCoFe合金で形成されることが好ましい。
【0023】
本発明では、上記のように、積層フェリ構造で形成された固定磁性層の第1の磁性層の反強磁性層側には、元素Xが含まれており、一方、非磁性中間層側には前記元素Xを含まない領域が存在する。
【0024】
元素Xを含む磁性領域は、元素Xを含まない磁性領域に比べて比抵抗が大きくなっている。
【0025】
後述する実験結果によれば、元素Xを含む磁性領域が、反強磁性層との界面側に存在すると、前記反強磁性層と元素Xを含む磁性領域との間で発生する交換結合磁界(Hex)は、元素Xを含まない磁性領域を前記反強磁性層との界面に接して形成する場合に比べて大きくなることがわかった。
【0026】
一方、非磁性中間層を介してその上下の磁性層間で発生するRKKY相互作用における結合磁界は、非磁性中間層との界面側に、元素Xを含まない磁性領域が存在すると、元素Xを含む磁性領域を非磁性中間層との界面に接して形成する場合に比べて大きくなることがわかった。
【0027】
以上の実験結果から、本発明では、第1の磁性層に、反強磁性層との界面と接する側に元素Xを含む磁性領域を設け、一方、非磁性中間層との界面と接する側に元素Xを含まない磁性領域を設けたのである。これによって前記第1の磁性層と反強磁性層との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくできると同時に、RKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、したがって前記固定磁性層における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができる。
【0028】
それと同時に本発明では、前記第1の磁性層の反強磁性層との界面側に、元素Xを含んだ比抵抗の高い磁性領域が存在するため、センス電流が前記第1の磁性層に分流する量を小さくでき、いわゆるシャントロスを低減でき、本発明の交換結合膜を磁気検出素子に適用した場合に、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0029】
すなわち本発明によれば、固定磁性層における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくでき、耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができると共に、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができ、本発明における交換結合膜を用いれば、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能になる。
【0030】
また本発明は、反強磁性層と強磁性層とが積層形成され、前記反強磁性層と強磁性層との界面で交換結合磁界が発生することで、前記強磁性層の磁化方向が一定方向にされる交換結合膜において、
前記強磁性層は、前記反強磁性層との界面と接して形成される第1の磁性層と、前記第1の磁性層と非磁性中間層を介して対向する第2の磁性層とを有して形成された積層フェリ構造であり、
前記第1の磁性層は、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有して形成され、
前記第1の磁性層の前記反強磁性層との界面での前記元素Xの含有量は、前記非磁性中間層との界面での前記含有量に比べて多くなっていることを特徴とするものである。
【0031】
本発明では、第1の磁性層は、CoFe合金に元素Xが含有された磁性材料で形成されることが好ましい。
【0032】
この第2の発明では、第1の磁性層の非磁性中間層との界面側にも元素Xが含まれているがその含有量は微量であり、前記元素Xの含有量は、前記反強磁性層との界面側で大きくなるように調整されている。
【0033】
この発明においても、前記反強磁性層との界面で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくできると共に、RKKY相互作用における結合磁界を大きくすることができ、したがって固定磁性層における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができる。
【0034】
しかも第1の磁性層には元素Xが含まれているから比抵抗値が高く、したがってセンス電流が、前記第1の磁性層に分流する量を低減させることができ、抵抗変化率(ΔR/R)の向上を適切に図ることができる。
【0035】
従って本発明における交換結合膜及びこれを用いた磁気検出素子によれば、固定磁性層の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくでき、耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができるとともに抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができ、今後の高記録密度化においても適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0036】
なお上記した発明において、前記第1の磁性層の層内には、前記元素Xの含有量が、前記第反強磁性層との界面側から前記非磁性中間層の界面側に向けて徐々に少なくなる領域が存在することが好ましい。
【0037】
これは、第1の磁性層の層内で、いわゆる組成変調が起こっていることを意味する。この組成変調は、後述する製造方法に起因するものである。
【0038】
なお本発明では、CoYとFe100%−Yとの原子比率Yは、85%以上で96%以下であることが好ましい。
【0039】
また本発明では、前記元素Xの組成比は3at%以上で15at%以下であることが好ましい。
【0040】
また本発明では、前記第2の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントから前記第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントを引いた磁気モーメント差は、−0.63(T・nm)以上で0.63(T・nm)以下{ただし0(T・nm)を除く}であることが好ましい。後述する実験結果によれば、前記磁気モーメント差(Net Mst)を−0.63(T・nm)以上で0.63(T・nm)以下{ただし0(T・nm)を除く}にすると、第1の磁性層を元素Xを含まない磁性材料で形成した比較例に比べて、再生出力の効果的な向上を図ることができると共に、前記第2の磁性層の磁化傾斜角度をより0度に近づけることができる。
【0041】
「第2の磁性層の磁化傾斜角度」とは、ハイト方向を0度とし、そのハイト方向からの傾きを表す。なお実験方法については後で詳述する。前記第2の磁性層の磁化傾斜角度が小さいほど、アシンメトリーの増加や再生出力の低下を抑えることができて好ましい。
【0042】
このように本発明では、前記第1の磁性層の膜構成の適正化とともに、前記第2の磁性層と比較して前記第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントの大きさを適正化することで、さらなる再生特性の向上を図ることが可能になる。
【0043】
また本発明では、前記磁気モーメント差は負の値であることが好ましい。すなわち前記磁気モーメント差は−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)より小さいことが好ましい。後述する実験によれば、前記磁気モーメント差が−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)より小さいと、より第2の磁性層の磁化傾斜角度を0度に近づけることができると共に、再生出力についても従来に比べてより効果的に向上させることができる。前記磁気モーメント差を負の値にすると、従来のように元素Xを含まない磁性材料で第1の磁性層を形成した場合、この第1の磁性層に分流するセンス電流の比率が大きくなり、急激に再生出力は下がり始める。ところが本発明では、第1の磁性層に元素Xを含んだ比抵抗の高い領域が存在するため、前記磁気モーメント差を負の値にしても前記第1の磁性層に分流するセンス電流の比率は従来よりも小さく、よって本発明では前記磁気モーメント差を負の値にしても、従来に比べてより効果的に再生出力の向上を図ることができるのである。
【0044】
また本発明では前記第1の磁性層の膜厚は、前記第2の磁性層の膜厚よりも大きいことが好ましい。上記した単位面積当たりの磁気モーメントは、飽和磁化Msと膜厚tとの積で求められる。本発明では上記したように前記磁気モーメント差を負の値にすることが好ましく、すなわち第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントを第2の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントより大きくすることが好ましく、これを実現するには、前記第1の磁性層の膜厚を、前記第2の磁性層の膜厚よりも大きく形成することが好ましい。
【0045】
そして前記第1の磁性層の膜厚を前記第2の磁性層の膜厚よりも大きくすると、従来のように元素Xを含まない磁性材料で形成された第1の磁性層にあっては、前記第1の磁性層にセンス電流の分流する比率が大きくなるが、本発明では、前記第1の磁性層には元素Xを含んだ磁性領域が存在するため、前記第1の磁性層に分流するセンス電流の比率を従来より小さくでき、再生出力の低下を抑えることができる。
【0046】
それとともに、後述する実験結果では、前記第1の磁性層の膜厚を厚くしていっても、抵抗変化率(ΔR/R)の低下及び抵抗変化量(ΔRs)の低下を従来に比べて抑制でき、さらに一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくでき、第2の磁性層の磁化傾斜角度をより0度に近づけることができる。
【0047】
また本発明は、反強磁性層、固定磁性層、非磁性中間層、およびフリー磁性層を有し、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、
前記反強磁性層及び固定磁性層が上記したいずれかに記載された交換結合膜により形成されていることを特徴とするものである。
【0048】
また本発明は、反強磁性のエクスチェンジバイアス層、フリー磁性層、非磁性中間層、固定磁性層、および反強磁性層を有し、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、
前記エクスチェンジバイアス層とフリー磁性層間には、前記エクスチェンジバイアス層と接して形成される強磁性層と、前記強磁性層とフリー磁性層間に介在する非磁性中間層とが形成され、前記強磁性層、非磁性中間層及びフリー磁性層で積層フェリ構造を構成しており、
前記強磁性層が、上記のいずれかに記載された第1の磁性層として、前記フリー磁性層が第2の磁性層として機能していることを特徴とするものである。
【0049】
また本発明では、前記反強磁性層及び固定磁性層が上記したいずれかに記載された交換結合膜により形成されていることが好ましい。
【0050】
また本発明は、フリー磁性層の上下に積層された非磁性中間層と、一方の前記非磁性中間層の上および他方の非磁性中間層の下に位置する固定磁性層と、一方の前記固定磁性層の上および他方の固定磁性層の下に位置する反強磁性層とを有し、前記フリー磁性層よりも下側に形成された反強磁性層の下側にはシードレイヤが形成され、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、
前記反強磁性層及び固定磁性層が上記したいずれかに記載された交換結合膜により形成されていることを特徴とするものである。
【0051】
本発明における磁気検出素子であれば、例えば、積層フェリ構造の固定磁性層の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を適切に大きくでき、耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができるとともに、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくすることができ、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能になる。
【発明の効果】
【0052】
本発明における交換結合膜では、反強磁性層との界面側に形成された第1の磁性層と、非磁性中間層を介して前記第1の磁性層と対向する第2の磁性層とで構成される積層フェリ構造の固定磁性層において、前記第1の磁性層には、元素X(Crなど)を含有する領域が、前記反強磁性層との界面から非磁性中間層側にかけて存在するとともに、前記非磁性中間層との界面から前記反強磁性層側にかけての領域の一部に、前記元素Xを含まない領域が存在する膜構造であり、これにより前記反強磁性層との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくできるとともに、第1の磁性層と第2の磁性層間で発生するRKKY相互作用による結合磁界を大きくでき、したがって前記固定磁性層における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができる。
【0053】
また前記第1の磁性層には、元素Xを含む比抵抗値の高い磁性領域が存在するため、電極層から第1の磁性層に分流するセンス電流量を減少させ、いわゆるシャントロスを減少させることができ、したがって抵抗変化率を向上させることができる。
【0054】
以上のように、本発明では、前記固定磁性層における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくすることができ、したがって耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができると同時に、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくでき、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
図1は本発明の第1実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の全体構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。なお、図1ではX方向に延びる素子の中央部分のみを破断して示している。
【0056】
このシングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子は、ハードディスク装置に設けられた浮上式スライダのトレーリング側端部などに設けられて、ハードディスクなどの記録磁界を検出するものである。なお、ハードディスクなどの磁気記録媒体の移動方向はZ方向であり、磁気記録媒体からの洩れ磁界の方向はY方向である。
【0057】
図1の最も下に形成されているのはTa,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち1種または2種以上の元素などの非磁性材料で形成された下地層6である。前記下地層6は例えば50Å程度の膜厚で形成される。
【0058】
前記下地層6の上には、シードレイヤ22が形成されている。前記シードレイヤ22を形成することで、前記シードレイヤ22上に形成される各層の膜面と平行な方向における結晶粒径を大きくでき、耐エレクトロマイグレーションの向上に代表される通電信頼性の向上や抵抗変化率(ΔR/R)の向上などをより適切に図ることができる。
【0059】
前記シードレイヤ22はNiFeCr合金やCrなどで形成される。前記シードレイヤ22がNiFeCrで形成される場合、例えばその組成比は、(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%である。
【0060】
前記シードレイヤ22の上に形成された反強磁性層4は、元素Z(ただしZは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されることが好ましい。
【0061】
これら白金族元素を用いたZ−Mn合金は、耐食性に優れ、またブロッキング温度も高く、さらに交換結合磁界(Hex)を大きくできるなど反強磁性材料として優れた特性を有している。特に白金族元素のうちPtを用いることが好ましく、例えば二元系で形成されたPtMn合金を使用することができる。
【0062】
また本発明では、前記反強磁性層4は、元素Zと元素Z′(ただし元素Z′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されてもよい。
【0063】
なお前記元素Z′には、元素ZとMnとで構成される空間格子の隙間に侵入し、または元素ZとMnとで構成される結晶格子の格子点の一部と置換する元素を用いることが好ましい。ここで固溶体とは、広い範囲にわたって、均一に成分が混ざり合った固体のことを指している。
【0064】
侵入型固溶体あるいは置換型固溶体とすることで、前記Z−Mn合金膜の格子定数に比べて、前記Z−Mn−Z′合金の格子定数を大きくすることができる。これによって反強磁性層4の格子定数と固定磁性層3の格子定数との差を広げることができ、前記反強磁性層4と固定磁性層3との界面構造を非整合状態にしやすくできる。ここで非整合状態とは、前記反強磁性層4と固定磁性層3との界面で前記反強磁性層4を構成する原子と前記固定磁性層3を構成する原子とが一対一に対応しない状態である。
【0065】
また特に置換型で固溶する元素Z′を使用する場合は、前記元素Z′の組成比が大きくなりすぎると、反強磁性としての特性が低下し、固定磁性層3との界面で発生する交換結合磁界(Hex)が小さくなってしまう。特に本発明では、侵入型で固溶し、不活性ガスの希ガス元素(Ne,Ar,Kr,Xeのうち1種または2種以上)を元素Z′として使用することが好ましいとしている。希ガス元素は不活性ガスなので、希ガス元素が、膜中に含有されても、反強磁性特性に大きく影響を与えることがなく、さらに、Arなどは、スパッタガスとして従来からスパッタ装置内に導入されるガスであり、ガス圧を適正に調節するのみで、容易に、膜中にArを侵入させることができる。
【0066】
なお、元素Z′にガス系の元素を使用した場合には、膜中に多量の元素Z′を含有することは困難であるが、希ガスの場合においては、膜中に微量侵入させるだけで、熱処理によって発生する交換結合磁界(Hex)を、飛躍的に大きくできる。
【0067】
なお本発明では、好ましい前記元素Z′の組成範囲は、at%(原子%)で0.2から10であり、より好ましくは、at%で、0.5から5である。また本発明では前記元素ZはPtであることが好ましく、よってPt−Mn−Z′合金を使用することが好ましい。
【0068】
また本発明では、反強磁性層4の元素Xあるいは元素Z+Z′のat%を45(at%)以上で60(at%)以下に設定することが好ましい。より好ましくは49(at%)以上で56.5(at%)以下である。これによって成膜段階において、固定磁性層3との界面が非整合状態にされ、しかも前記反強磁性層4は熱処理によって適切な規則変態を起すものと推測される。
【0069】
前記反強磁性層4の上に形成されている固定磁性層3は3層構造となっている。
前記固定磁性層3は、前記反強磁性層4との界面と接する第1の磁性層13、および前記第1の磁性層13上に非磁性中間層12を介して形成された第2の磁性層11とで構成される。
なお前記固定磁性層3の材質や膜構成などについては後で詳しく説明する。
【0070】
前記固定磁性層3の上には非磁性材料層2が形成されている。前記非磁性材料層2は、例えばCuで形成されている。なお本発明における磁気検出素子が、トンネル効果の原理を用いたトンネル型磁気抵抗効果素子(TMR素子)の場合、前記非磁性材料層2は、例えばAl2O3等の絶縁材料で形成される。
さらに前記非磁性材料層2の上には2層膜で形成されたフリー磁性層1が形成される。
【0071】
前記フリー磁性層1は、NiFe合金膜9とCoFe膜10の2層で形成される。図1に示すように前記CoFe膜10を非磁性材料層2と接する側に形成することにより、前記非磁性材料層2との界面での金属元素等の拡散を防止し、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくすることができる。
【0072】
なお前記NiFe合金膜9は、例えば前記Niを80(at%)、Feを20(at%)として形成する。またCoFe膜10は、例えば前記Coを90(at%)、Feを10(at%)として形成する。また前記NiFe合金膜9の膜厚を例えば45Å程度、CoFe膜を5Å程度で形成する。また前記NiFe合金膜9、CoFe膜10に代えて、Co合金、CoFeNi合金などを用いてもよい。また前記フリー磁性層1を磁性材料の単層構造で形成してもよく、かかる場合、前記フリー磁性層1をCoFeNi合金で形成することが好ましい。
【0073】
また前記フリー磁性層1は、磁性層間に非磁性中間層が介在した積層フェリ構造であってもよい。
【0074】
前記フリー磁性層1の上には、金属材料あるいは非磁性金属のCu,Au,Agからなるバックド層15が形成されている。例えば前記バックド層15の膜厚は5〜20Å程度で形成される。
【0075】
前記バックド層15の上には、保護層7が形成されている。前記保護層7は、Taなどから成りその表面が酸化された酸化層(鏡面反射層)が形成されていることが好ましい。
【0076】
前記バックド層15が形成されることによって、磁気抵抗効果に寄与する+スピン(上向きスピン:up spin)の電子における平均自由行程(mean free path)を延ばし、いわゆるスピンフィルター効果(spin filter effect)によりスピンバルブ型磁気素子において、大きな抵抗変化率が得られ、高記録密度化に対応できるものとなる。なお前記バックド層15は形成されなくてもよい。
【0077】
図1に示す実施形態では、前記下地層6から保護層7までの積層膜の両側にはハードバイアス層5及び電極層8が形成されている。前記ハードバイアス層5からの縦バイアス磁界によってフリー磁性層1の磁化はトラック幅方向(図示X方向)に揃えられる。
【0078】
前記ハードバイアス層5,5は、例えばCo−Pt(コバルト−白金)合金やCo−Cr−Pt(コバルト−クロム−白金)合金などで形成されており、電極層8,8は、α−Ta、Au、Ru、Cr、Cu(銅)やW(タングステン)などで形成されている。なお上記したトンネル型磁気抵抗効果素子やCPP型磁気検出素子の場合、前記電極層8,8は、フリー磁性層1の上側と、反強磁性層4の下側にそれぞれ形成されることになる。
本発明は、上記したように、固定磁性層3が積層フェリ構造で形成されている。
【0079】
ここで反強磁性層4との界面と接する第1の磁性層13には、膜組成に以下の特徴点がある。
【0080】
すなわち本発明では、前記第1の磁性層13には、前記反強磁性層4との界面4aから非磁性中間層12側にかけて(図示Z方向)、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有する磁性領域が存在すると共に、前記非磁性中間層12との界面12aから前記反強磁性層4側にかけて(図示Z方向とは逆方向)の領域の一部に、前記元素Xを含まない磁性領域が存在するのである。
【0081】
図1に示すように例えば模式図的に示せば、点線で区切られた反強磁性層4側の領域Aは、元素Xを含有した磁性材料で形成されており、一方、前記点線で区切られた非磁性中間層12側の領域Bは、元素Xを含有しない磁性材料で形成される。
【0082】
なお領域A及びBとの境界は説明をしやすくするために便宜的に設けたもので、以下に説明するように前記第1の磁性層13は実際には元素Xにおける組成変調などを起しており、したがってこの境界を境として、元素Xの含有の有無がはっきりと分かれているわけではない。
【0083】
ここで具体的な材質を挙げると、本発明では、前記反強磁性層4側の領域AはCoFeX合金で形成され、一方、非磁性中間層12側の領域BはCoFe合金で形成されることが好ましい。
【0084】
本発明のように、反強磁性層4との界面側に元素Xを含んだ領域Aが存在すると、その領域Aでの比抵抗値は、元素Xを含まない領域Bのそれよりも大きくなる。
【0085】
そして後述する実験結果に示すように、前記反強磁性層4と元素Xを含有した領域Aとが接して形成されると、前記反強磁性層4と領域A間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくすることが可能である。
【0086】
一方、非磁性中間層12と、元素Xを含有しない領域Bとが接して形成されると、この領域Bと第2の磁性層11間で発生するRKKY相互作用における結合磁界を大きくすることができる。
【0087】
従って、主として前記反強磁性層4との間で発生する交換結合磁界(Hex)と、RKKY相互作用における結合磁界とを合わせた一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を適切に大きくすることが可能になる。
【0088】
しかも本発明では、前記第1の磁性層13には元素Xを含んだ比抵抗値の高い領域Aが存在するため、前記電極層8から流れるセンス電流が、前記第1の磁性層13に分流する量を減らすことができ、いわゆるシャントロスを低減でき、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0089】
すなわち本発明によれば、従来成し得なかった、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)の向上と、抵抗変化率(ΔR/R)の向上とを同時に得ることができる。
【0090】
一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくできると、前記固定磁性層3の第1の磁性層13及び第2の磁性層11のピン止めを適切に行うことができる。そしてその結果、耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることが可能になる。
【0091】
以上のように本発明によれば、通電信頼性の向上、および抵抗変化率の向上を同時に図ることができ、今後の高記録密度化においても適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0092】
次に前記第1の磁性層13の材質について説明する。本発明では、上記したように元素Xを含む領域AはCoFeX合金で、元素Xを含まない領域BはCoFe合金で形成されることが好ましいとした。これはCoFeを主体とした磁性材料で第1の磁性層13を形成すると、反強磁性層4との間で発生する交換結合磁界(Hex)やRKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、前記第1の磁性層13の磁化を適切にピン止めすることができるからである。
【0093】
ただし本発明では前記第1の磁性層13がCoFe合金を主体とした磁性材料で形成されることに限るものではない。例えば前記第1の磁性層13はNiFe合金を主体とした磁性材料で形成されることも可能である。かかる場合、元素Xを含む領域Aは、NiFeX合金で形成され、一方、元素Xを含まない領域Bは、NiFe合金で形成される。あるいは前記第1の磁性層13がCoFeNi合金を主体とした磁性材料、Coを主体とした磁性材料で形成されてもよく、かかる場合、元素Xを含む領域Aは、CoFeNiX合金、CoX合金で、元素Xを含まない領域Bは、CoFeNi合金、Coで形成される。
【0094】
なお元素Xには、Crを選択することが好ましい。これによって適切に第1の磁性層13の領域Aの比抵抗値を上げることができると共に、反強磁性層4との間で大きな交換結合磁界(Hex)を発生させることができる。前記CoFeCr合金で形成された磁性層であると、比抵抗値を概ね、50μΩ・cm程度にすることができる。
【0095】
また前記元素Xの組成比は3at%以上で15at%以下であることが好ましい。前記元素Xの組成比が3at%よりも小さいと、元素Xを含んだ領域Aでの比抵抗を適切に増大することができず、抵抗変化率(ΔR/R)の改善効果が得られないので好ましくない。
【0096】
一方、元素Xの組成比が15at%よりも大きくなると、前記反強磁性層4間で発生する交換結合磁界(Hex)が低下し、その結果、前記固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)の低下を招き好ましくない。
【0097】
またCoFeを主体とした磁性材料で、前記第1の磁性層13が形成されるとき、前記CoYとFe100%−Yとの原子比率Yは、85%以上で96%以下であることが好ましい。これによって第1の磁性層13の面心立方晶の構造が安定になり、これにより前記第1の磁性層13よりも上に位置する層の結晶配向性に悪影響を与えることが無くなる。
【0098】
次に第2の磁性層11は、CoFe合金で形成されることが好ましい。これによって、第1の磁性層13との間で発生するRKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、前記第2の磁性層11の磁化を適切にピン止めすることが可能になる。
【0099】
なお、本発明では前記第2の磁性層11がCoFe合金で形成されることに限定するものではなく、CoFeNi合金、CoあるいはNiFe合金などの磁性材料を使用することができる。
【0100】
次に本発明における固定磁性層3は積層フェリ構造であるため、適切に積層フェリ状態を得るには、前記第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメント(飽和磁化Ms×膜厚t)と、第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントとを異ならせることが必要である。
【0101】
これによって前記第1の磁性層13と第2の磁性層11間で発生するRKKY相互作用による結合磁界によって、前記第1の磁性層13と第2の磁性層11との磁化を適切に反平行状態にすることができる。なお前記第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントから前記第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメントを引いた磁気モーメント差(Net Mst)の適切な範囲については後述する。
【0102】
次に、前記第1の磁性層13と第2の磁性層11間に介在する非磁性中間層12は、Ru、Rh、Ir、Os、Cr、Re、Cuのうち1種または2種以上の合金で形成されることが好ましい。このうち本発明では、前記非磁性中間層12がRuで形成されることがより好ましい。これよって第1の磁性層13と第2の磁性層11間に発生するRKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、前記第1の磁性層13と第2の磁性層11との磁化を適切に反平行状態にすることができる。
【0103】
次に本発明では、後述する製造方法で説明するように、反強磁性層4にはPtMn合金など、熱処理を施すことによって前記第1の磁性層13との間で交換結合磁界(Hex)を発生させることができる反強磁性材料が使用されている。
【0104】
ところで、固定磁性層3の第1の磁性層13は、例えば反強磁性層4上に元素Xを含む、好ましくはCoFeX合金で形成された領域Aをスパッタ成膜した後、その上に元素Xを含まない好ましくはCoFe合金で形成された領域Bをスパッタ成膜する。
【0105】
そしてその後熱処理を施すわけであるが、このとき、前記領域Aと領域Bとの境界で元素Xが熱拡散し、領域B内にも元素Xが入り込み、領域Aの領域Bとの境界付近での元素Xは低下する。すなわち熱処理を施すことで、前記第1の磁性層13には元素Xの組成変調が起きている領域が存在するのである。
【0106】
従って、本発明では、前記第1の磁性層13の層内には、前記元素Xの含有量が、前記反強磁性層4との界面4a側から前記非磁性中間層12の界面12a側に向けて徐々に少なくなる領域が存在することを確認することができる。
【0107】
従って元素Xを含む領域Aと、元素Xを含まない領域Bの境界ははっきりと見て取ることは困難で、この境界部分では元素Xの組成変調が起こっているのである。
【0108】
次に第1の磁性層13の膜厚について以下に説明する。本発明では、前記第1の磁性層13の膜厚は10〜20Åであることが好ましい。そしてこの膜厚のうち元素Xを含んでいてもその組成比が3at%よりも低い領域(この領域では非磁性中間層12との界面12a付近では元素Xは0at%である)の膜厚は3〜10Åであり、元素Xを含み、元素Xの組成比が3at%以上となる領域の膜厚は、3〜15Åであることが好ましい。
【0109】
これによって前記反強磁性層4との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくすることができ、また第2の磁性層11との間で発生するRKKY相互作用による結合磁界を大きくでき、この結果、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を適切に大きくすることが可能になる。
【0110】
また元素Xを含み、元素Xの組成比が3at%以上となる領域の膜厚は、第1の磁性層13全体の膜厚に対して0%よりも大きく85%以下であると、前記第1の磁性層13へのセンス電流の分流量を適切に抑制でき、いわゆるシャントロスを低減でき、よって抵抗変化率(ΔR/R)を適切に向上させることが可能である。
【0111】
次に、元素Xを含む領域がCoFeX合金で形成され、元素Xを含まない領域がCoFe合金で形成されるとき、前記CoFeX合金で形成された領域が第1の磁性層13に占める膜厚比(CoFe合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)は、0より大きく0.61以下であることが好ましい。これにより抵抗変化率が従来(第1の磁性層がCoFeあるいはCoFeX合金のみで形成、以下同じ)よりも大きく、またプラトー磁界(Hpl)も従来より大きくなる。
【0112】
なおプラトー磁界(Hpl)とは図13のヒステリシスループに示すように、抵抗変化率が最大値(1.00)に対して0.98となるときの印加磁界の大きさを示す。プラトー磁界が大きいと、第1の磁性層13と第2の磁性層11の磁化の反平行状態が安定に保たれるので、前記プラトー磁界は大きい方が好ましい。
【0113】
または本発明では、(CoFeX合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0より大きく0.36以下であることが好ましい。これによって一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来よりも大きくでき、またプラトー磁界(Hpl)を従来よりも大きくできる。さらに抵抗変化率(ΔR/R)を従来よりも大きくできる。
【0114】
または本発明では、(CoFeX合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.82以下であることが好ましい。これによって、抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界(Hpl)を従来よりも大きくすることができる。
【0115】
または本発明では、(CoFeX合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.12以上で0.61以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率(ΔR/R)を従来よりも大きくすることができ、またプラトー磁界(Hpl)を30kA/m以上に大きくすることができる。
【0116】
または本発明では、(CoFeX合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.61以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界を30kA/m以上得ることができる。
【0117】
さらには本発明では、(CoFeX合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.36以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界を30kA/m以上得ることができ、さらに一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来よりも大きくすることができる。
【0118】
また上記した実施形態では、前記第1の磁性層13には、非磁性中間層12との界面12a付近では、元素Xを含まない領域が存在していたが、本発明では、前記第1の磁性層13全体に元素Xが含有されていても、以下の膜組成であれば、適切に固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくすることができる。
【0119】
すなわち本発明では、前記第1の磁性層13の前記反強磁性層4との界面4aでの前記元素Xの含有量が、前記非磁性中間層12との界面12aでの前記含有量に比べて多くなっている実施形態を提供することができる。
【0120】
この実施形態では、前記非磁性中間層12との界面12a付近でも元素Xが微量ながら含まれており、したがって元素Xは第1の磁性層13全体に含有された状態となっている。
【0121】
しかしながら、上記のように前記第1の磁性層13の非磁性中間層12との界面12a付近では、元素Xの含有量は微量で、好ましくはこの領域での前記元素Xは3at%よりも小さく、これにより前記第2の磁性層11との間で、適切な大きさのRKKY相互作用による結合磁界を発生させることができる。
【0122】
また、反強磁性層4との界面4a側では、前記第1の磁性層13に含まれる元素Xの含有量は多量で、好ましくは3at%以上で15at%以下であり、前記反強磁性層4との間で、適切な大きさの交換結合磁界(Hex)を発生させることが可能である。
【0123】
従って上記の膜構成によっても、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくすることができ、前記固定磁性層3のピン止めを適切に行うことができ、耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を適切に向上させることができる。
【0124】
しかも本発明では、前記第1の磁性層13は、元素Xを含む比抵抗値の大きい領域であるから、電極層8からのセンス電流が前記第1の磁性層13に分流する量を減らすことができ、いわゆるシャントロスを低減させることができ、したがって抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることが可能になっている。
【0125】
次に図2に示す磁気検出素子では、前記第1の磁性層13が、磁性層23と磁性層24との2層構造で構成される。
【0126】
この実施形態では、前記磁性層23、24のうち、反強磁性層4と接する側の磁性層23は、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含んだ磁性材料で形成されており、一方、非磁性中間層12と接する側の磁性層24は、元素Xを含まない磁性材料で形成されている。
【0127】
本発明では前記磁性層23はCoFeX合金で、磁性層24はCoFe合金で形成されることが好ましい。
【0128】
この実施形態では、前記反強磁性層4と接する側に元素Xを含む比抵抗の高い磁性層23が形成されたことで、前記反強磁性層4と磁性層23間で発生する交換結合磁界(Hex)を、元素Xを含まない磁性層を前記反強磁性層4に接して形成した場合に比べて大きくすることができる。
【0129】
また、前記非磁性中間層12と接する側に元素Xを含まない比抵抗の低い磁性層24が形成されたことで、前記第2の磁性層11との間で発生するRKKY相互作用における結合磁界を、元素Xを含む磁性層を前記非磁性中間層12に接して形成した場合に比べて大きくすることができる。
【0130】
従って本発明では、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができ、前記固定磁性層3のピン止めを適切に行うことができ、したがって耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができる。
【0131】
しかもこの実施形態では前記第1の磁性層13には、元素Xを含む比抵抗値の高い磁性層23が形成されていることで、前記電極層8から前記第1の磁性層13へのセンス電流の分流を減らし、いわゆるシャントロスを低減させることができ、したがって抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0132】
このように本発明によれば、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくでき、通電信頼性を向上させることができるとともに、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができ、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0133】
ところでこの実施形態では図1と異なり、第1の磁性層13が2層構造となっている。成膜段階では、図1の第1の磁性層13も図2と同じ2層構造であったが、磁場中熱処理を施すことで、2層の磁性層間で熱拡散を起し、このため前記第1の磁性層13は、あたかも単一層のようになる。
【0134】
一方、図2において、前記第1の磁性層13が2層構造として完成するのは、例えば反強磁性層4に熱処理を施さなくても、第1の磁性層13を構成する磁性層23との間で交換結合磁界(Hex)を発生し得る反強磁性材料を使用したり、あるいは熱処理を施す必要性があっても、その熱処理条件が、前記2層の磁性層23、24間で熱拡散を生じないほどの弱い条件であるからである。
【0135】
上記した理由から、図2では、第1の磁性層13が磁性層23、24の積層構造を保ったまま完成するのである。
【0136】
なお図2では、磁性層23、24は2層構造であるが、これが3層以上であってもかまわない。かかる場合でも、反強磁性層4との界面と接する側の磁性層を、元素Xを含む、例えばCoFeX合金で形成し、一方、非磁性中間層12との界面と接する側の磁性層を、元素Xを含まない、例えばCoFe合金で形成する。
【0137】
また図2において、元素Xを含む磁性層23の膜厚は、3〜15Åであることが好ましく、また元素Xを含まない磁性層24の膜厚は、3〜15Åであることが好ましい。また前記磁性層23の膜厚は、第1の磁性層13の膜厚に対して0よりも大きく85%以下であることが好ましい。
また元素Xの組成比は3at%以上で15at%以下であることが好ましい。
【0138】
これにより、反強磁性層4との間で大きな交換結合磁界(Hex)を発生させることができ、また第2の磁性層11との間で大きなRKKY相互作用における結合磁界を発生させることができ、よって固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができると共に、センス電流の第1の磁性層13への分流を減らし、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくすることができる。
【0139】
また本発明では、元素Xを含む磁性層23がCoFeX合金で形成され、元素Xを含まない磁性層24がCoFe合金で形成されるとき、前記CoFeX合金で形成された磁性層23が第1の磁性層13に占める膜厚比(CoFe合金の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)は、0より大きく0.61以下であることが好ましい。これにより抵抗変化率が従来(第1の磁性層がCoFeあるいはCoFeX合金のみで形成、以下同じ)よりも大きく、またプラトー磁界(Hpl)も従来より大きくなる。
【0140】
または本発明では、(CoFeX合金で形成された磁性層23の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0より大きく0.36以下であることが好ましい。これによって一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来よりも大きくでき、またプラトー磁界(Hpl)を従来よりも大きくできる。さらに抵抗変化率(ΔR/R)を従来よりも大きくできる。
【0141】
または本発明では、(CoFeX合金で形成された磁性層23の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.82以下であることが好ましい。これによって、抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界(Hpl)を従来よりも大きくすることができる。
【0142】
または本発明では、(CoFeX合金で形成された磁性層23の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.12以上で0.61以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率(ΔR/R)を従来よりも大きくすることができ、またプラトー磁界(Hpl)を30kA/m以上に大きくすることができる。
【0143】
または本発明では、(CoFeX合金で形成された磁性層23の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.61以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界を30kA/m以上得ることができる。
【0144】
さらには本発明では、(CoFeX合金で形成された磁性層23の膜厚/第1の磁性層13の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.36以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界を30kA/m以上得ることができ、さらに一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来よりも大きくすることができる。
【0145】
以上、詳述した図1及び図2に示す積層フェリ構造の固定磁性層3を構成する第1の磁性層13の構造は、他の構造の磁気検出素子にも適用可能である。
【0146】
図3は、他の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型薄膜素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。なお図1、2と同じ符号が付けられいる層は、図1、2と同じ層を示している。
【0147】
図3では、フリー磁性層1が、反強磁性層4の下側に形成されており、図1、2と比較すると積層構造が逆になっている。
【0148】
図3では、固定磁性層3が第1の磁性層13と、非磁性中間層12を介して前記第1の磁性層13と対向する第2の磁性層11との3層構造で構成されている。
【0149】
この実施形態においても反強磁性層4と接する側に形成された第1の磁性層13には、前記反強磁性層4との界面4a側に元素Xを含む磁性材料で形成された領域Aと、非磁性中間層12との界面12a側に元素Xを含まない磁性材料で形成された領域Bとが形成されている。
【0150】
前記領域Aは、CoFeX合金で形成され、領域Bは、CoFe合金で形成されることが好ましい。
【0151】
そして、前記第1の磁性層13が、上記した膜構成であると、前記反強磁性層4との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくできると共に、非磁性中間層12との間で発生するRKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、その結果、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくすることが可能である。
【0152】
従って、前記固定磁性層3のピン止めを適切に行うことができ、耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができる。
【0153】
しかも本発明では、前記第1の磁性層13に、元素Xが添加されたことによる比抵抗の高い領域Aが形成されたことで、電極層8からのセンス電流が前記第1の磁性層13に分流するのを減らし、いわゆるシャントロスを低減させることができ、よって抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0154】
このように本発明では、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくでき、通電信頼性を向上させることができると同時に、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができ、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0155】
なお第1の磁性層13の領域A、BのCoFe合金を主体とした磁性材料以外に使用できる材質や、組成比、膜厚、膜厚比などについては図1、2で説明したものと同じであるので、そちらを参照されたい。
【0156】
図4は本発明における他の磁気検出素子(デュアルスピンバルブ型薄膜素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0157】
図4に示すように、下から下地層6、シードレイヤ22、反強磁性層4、固定磁性層3、非磁性材料層2、およびフリー磁性層1が連続して積層されている。前記フリー磁性層1は3層膜で形成され、例えばCoFe膜10,10とNiFe合金膜9で構成される。さらに前記フリー磁性層1の上には、非磁性材料層2、固定磁性層3、反強磁性層4、および保護層7が連続して積層されている。
【0158】
また、下地層6から保護層7までの多層膜の両側にはハードバイアス層5,5、電極層8,8が積層されている。なお、各層は図1、2で説明した材質と同じ材質で形成されている。
【0159】
図4では、2層の固定磁性層3は、第1の磁性層13と、非磁性中間層12を介して前記第1の磁性層13と対向する第2の磁性層11との3層構造で構成されている。
【0160】
この実施形態においても反強磁性層4と接する側に形成された第1の磁性層13には、前記反強磁性層4との界面4a側に元素Xを含む磁性材料で形成で形成された領域Aと、非磁性中間層12との界面12a側に元素Xを含まない磁性材料で形成された領域Bとが形成されている。
【0161】
前記領域Aは、CoFeX合金で形成され、領域Bは、CoFe合金で形成されることが好ましい。
【0162】
そして、前記第1の磁性層13が、上記した膜構成であると、前記反強磁性層4との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくできると共に、非磁性中間層12との間で発生するRKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、その結果、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることが可能である。
【0163】
従って、前記固定磁性層3のピン止めを適切に行うことができ、耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができる。
【0164】
しかも本発明では、前記第1の磁性層13に、元素Xが添加されたことによる比抵抗の高い領域Aが形成されたことで、電極層8からのセンス電流が前記第1の磁性層13に分流するのを減らすことができ、いわゆるシャントロスを低減させることができ、よって抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0165】
このように本発明では、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくでき、通電信頼性を向上させることができると同時に、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができ、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0166】
なお第1の磁性層13の領域A、BのCoFe合金を主体とした磁性材料以外に使用できる材質や、組成比、膜厚、膜厚比などについては図1、2で説明したものと同じであるので、そちらを参照されたい。
【0167】
図5は、別の本発明における磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。なお図1と同じ符号が付けられている層は、図1と同じ層を示している。
【0168】
この実施形態では、フリー磁性層1上に非磁性中間層27が形成され、その上には、トラック幅方向(図示X方向)に所定の間隔(=トラック幅Tw)を開けて強磁性層28が形成され、さらに前記強磁性層28の上には反強磁性層(エクスチェンジバイアス層)29が形成されている。
【0169】
図5に示す実施形態では、前記強磁性層28との間で発生するRKKY相互作用における結合磁界によって、前記フリー磁性層1の磁化は図示X方向に向けられる。
【0170】
この実施形態では、前記強磁性層28の磁化は、反強磁性層29との間で発生する交換結合磁界(Hex)によって強固に固定され、前記強磁性層28と対向する位置に形成された前記フリー磁性層1の両側領域C、Cの磁化も、上記したRKKY相互作用による結合磁界により前記強磁性層28の磁化方向と反平行状態になって強固に固定される。
【0171】
一方、前記フリー磁性層1の中央領域Dの磁化は、その両側領域Cの磁化が図示X方向に向けられることで、図示X方向に揃えられるが、前記中央領域Dは外部磁界に対し反転できる程度に磁化された状態にあり、この中央領域Dの部分は実質的に磁気抵抗効果に寄与する部分となっている。
【0172】
図5に示す強磁性層28は、積層フェリ構造における固定磁性層3の第1の磁性層13といわば同じ機能を有しており(すなわち強磁性層28は、フリー磁性層1の両側領域Cの磁化を適切に固定するために設けられたもので、前記強磁性層28は実質的に磁気抵抗効果に寄与する層ではない)、前記強磁性層28は、前記第1の磁性層13と同じ膜構造を有している。
【0173】
すなわち前記強磁性層28には、反強磁性層29との界面と接する側に元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有する磁性材料で形成された領域Aがあり、一方、非磁性中間層27との界面と接する側に元素Xを含まない磁性材料で形成された領域Bが存在する。
【0174】
前記領域Aは、CoFeX合金で形成され、領域Bは、CoFe合金で形成されることが好ましい。
【0175】
そして、前記強磁性層28が、上記した膜構成であると、前記反強磁性層29との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくできると共に、非磁性中間層27との間で発生するRKKY相互作用における結合磁界を大きくでき、その結果、フリー磁性層1における両側領域Cでの一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくすることが可能である。
【0176】
従って、前記フリー磁性層1の両側領域Cの磁化のピン止めを適切に行うことができ、耐ESD及び耐エレクトロマイグレーションに代表される通電信頼性を向上させることができる。
【0177】
また図5には電極層が図示されていないが、前記電極層は、非磁性材料層2を中心としてセンス電流が流れるようにすれば、どの位置に形成されてもよく、例えば図5の積層体の図示X方向の両側に形成される。
【0178】
このように本発明では、フリー磁性層1の両側領域Cにおける一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくでき、通電信頼性を向上させることができ、今後の高記録密度化に適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0179】
なお強磁性層28の領域A、BのCoFe合金を主体とした磁性材料以外に使用できる材質や、組成比、膜厚などについては図1、2で説明したものと同じであるので、そちらを参照されたい。
【0180】
また図5に示す実施形態では、図1ないし図4に図示されたハードバイアス層5が図示されていないが、図5に示す積層体の図示X方向の両側に前記ハードバイアス層5が形成され、その上に電極層8が形成された形態であってもよい。
【0181】
またこの実施形態では、前記強磁性層28、28間に形成された凹部37からは、前記非磁性中間層27表面が露出しているが、前記凹部37の部分に、前記強磁性層28の一部が残され、前記凹部37から前記強磁性層28表面が露出していても、あるいは前記凹部37に露出する前記非磁性中間層27が除去され、前記凹部37からフリー磁性層1の表面が露出していてもかまわない。
【0182】
また前記凹部37の部分に、前記強磁性層28の全部と反強磁性層29の一部が残されていてもかまわない。強磁性層28の一部または全部が残された状態であるとフリー磁性層1は積層フェリ(シンセティックフェリ)フリー層として機能し、磁気的なフリー磁性層1が薄くなったのと同様の効果が得られ、再生感度が向上する。
【0183】
また前記凹部37に前記強磁性層28の領域Aが残された構造であるとセンス電流が強磁性層28に分流するのを減らすことができ、いわゆるシャントロスを低減させることができ、よって抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0184】
なお図5に示す凹部37の形成方法であるが、例えば非磁性中間層27まで成膜した後、前記非磁性中間層27の中央上にリフトオフ用レジスト層を形成し、このレジスト層に覆われていない前記非磁性中間層27のトラック幅方向(図示X方向)における両側領域上に、強磁性層28及び反強磁性層29を成膜して、前記レジスト層除去する方法、あるいは反強磁性層29までべた膜で形成した後、前記反強磁性層29のトラック幅方向の両側領域上をレジスト層で保護し、一方、前記レジスト層に覆われていない中央の反強磁性層29及び強磁性層28をエッチングなどで掘り込んでいき前記凹部37を形成する。
【0185】
図6は、図5に示す磁気検出素子の変形例である。図6に示す磁気検出素子と図5に示す磁気検出素子との違いは、固定磁性層3における第1の磁性層13の膜構成にある。
【0186】
図5に示す磁気検出素子では、前記固定磁性層3を構成する第1の磁性層13の膜構成は従来と同様、元素Xを含まない例えばCoFe合金の単層である。一方、図6に示す磁気検出素子では、前記第1の磁性層13は図1と同様に、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有する磁性領域Aが、前記反強磁性層4との界面から前記非磁性中間層12側にかけて存在するととともに、前記非磁性中間層12との界面から前記反強磁性層4側にかけての領域の一部に、前記元素Xを含まない磁性領域Bが存在するのである。なお図2のように2層以上の積層構造で前記第1の磁性層13を形成することも可能である。
【0187】
これにより図6に示す実施形態では、より効果的に通電信頼性の向上、および抵抗変化率の向上を同時に図ることができ、今後の高記録密度化においても適切に対応可能な磁気検出素子を製造することが可能である。
【0188】
なお前記強磁性層28は、従来と同様に元素Xを含まない、例えばCoFe合金等の単層構造で形成され、一方、固定磁性層3を構成する第1の磁性層13は元素Xを含む磁性領域Aを有して形成されている実施形態であってもよい。
【0189】
次に図1ないし図6における第1の磁性層13と第2の磁性層11との磁気モーメント差(Net Mst)について以下に説明する。
【0190】
ここで前記磁気モーメント差とは、第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントから第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメントを引いた値のことである。
【0191】
本発明では前記磁気モーメント差は、−0.63(T・nm)以上で0.63(T・nm)以下{ただし0(T・nm)は除く}であることが好ましい。磁気モーメント差が−0.63(T・nm)よりも小さくなると、再生出力が急激に低下し始めることがわかっている。これは前記磁気モーメント差が負の値に大きくなると、すなわち前記第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメントが、前記第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントに比べて、より大きくなっていくと、前記第1の磁性層13へのセンス電流の分流量が増すからである。
【0192】
しかし上記したように本発明では前記磁気モーメント差は、負の値であっても−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)よりも小さければ、前記磁気モーメント差が正の値の場合に比べて若干、再生出力が上昇する傾向を見せる。一方、従来のように、前記第1の磁性層13をCoFe系合金などの元素Xを含有しない磁性材料層で形成した場合、前記磁気モーメント差を0(T・nm)よりも小さくしていくと、再生出力は単調な減少傾向を見せる。
【0193】
すなわち本発明のように前記第1の磁性層13に元素Xを含んだ磁性領域を設けることで、前記磁気モーメント差を−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)よりも小さい範囲内にすれば、再生出力を従来よりもより適切に向上させることが可能になるのである。
【0194】
次に本発明では前記磁気モーメント差を0.63(T・nm)以下に設定したが、前記磁気モーメント差を0.63(T・nm)よりも大きくすると、特に第2の磁性層11の磁化傾斜角度が大きくなってしまい、アシンメトリーの増加や再生出力の低下を余儀なくされる。
【0195】
ここで「第2の磁性層11の磁化傾斜角度」とは、ハイト方向(図示Y方向)と平行な方向を0度とし、このハイト方向からの傾きである。エクスチェンジバイアス型の磁気検出素子の製造における第2磁場中アニール後の第2の磁性層11の磁化傾斜角度は、まずハイト方向に第1の磁場中アニールを施した後、ハイト方向と直交するトラック幅方向(図示X方向)に第2の磁場中アニールを施した磁気検出素子(膜単体のべた膜)を用いて、固定磁性層の元の磁化方向と直交方向に磁場を印加して測定するR−H曲線により測定する。
【0196】
本発明では前記磁気モーメント差を−0.63(T・nm)以上で0.63(T・nm)以下に設定すると、従来に比べてより効果的に再生出力の向上を図ることができると共に、前記第2の磁性層11の磁化傾斜角度をより0度に近づけることが可能になる。
【0197】
また本発明では、前記磁気モーメント差は負の値であることが好ましい。すなわち本発明では前記磁気モーメント差は−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)より小さいことが好ましい。磁気モーメント差を負の値にすると、従来では再生出力は下がる傾向になるのに対し、本発明では再生出力は若干上昇する傾向にあり、従来に比べてより効果的に再生出力の向上を図ることが可能になる。しかも第2の磁性層11の磁化傾斜角度を磁気モーメント差が正の値である場合に比べて、より0度に近づけることができ、アシンメトリーを小さくでき、且つ再生出力の向上を図ることが可能になる。
【0198】
さらに本発明では、前記第1の磁性層13の膜厚は第2の磁性層11の膜厚よりも厚いことが好ましい。上記したように本発明では前記磁気モーメント差を−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)よりも小さくすることができる。前記磁気モーメント差が−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)よりも小さい範囲内では、第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメントの方が前記第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントよりも大きい。
【0199】
ここで単位面積当たりの磁気モーメントは、飽和磁化(Ms)と膜厚(t)との積で求めることができる。このため前記膜厚(t)を厚くすれば前記単位面積当たりの磁気モーメントを大きくすることができる。
【0200】
従って本発明では、磁気モーメント差を−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)よりも小さい範囲内に設定するために、前記第1の磁性層13の膜厚を第2の磁性層11の膜厚よりも大きい値に設定することが好ましい。
【0201】
前記第1の磁性層13の膜厚を前記第2の磁性層11の膜厚より大きくすることで、一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を増大でき、これにより前記第2の磁性層11の磁化傾斜角度を小さくすることが可能になる。
【0202】
また本発明では、前記第1の磁性層13に元素Xを含んだ比抵抗の高い磁性領域Aが存在するから、前記第1の磁性層13の膜厚を厚くしていっても、従来に比べて抵抗変化率(ΔR/R)及び抵抗変化量(ΔRs)の低下を抑制することができる。
【0203】
さらに反強磁性層4と接する第1の磁性層13の部分に元素Xを含んだ比抵抗の高い磁性領域Aが存在するから、前記反強磁性層4と第1の磁性層13間に発生する交換結合磁界(Hex)は高まり、前記第1の磁性層13の膜厚を厚くしたときの前記交換結合磁界の低下による、固定磁性層3の磁化傾斜角度を最小限に抑えることが可能になる。
【0204】
なお上記した「磁化傾斜角度」を小さくできる作用効果は、図1ないし図6に示す磁気検出素子の全てに有効に発揮される。図1ないし図4に示すハードバイアス方式では、前記固定磁性層3のトラック幅方向における両側端部の磁化がハードバイアス層5からの縦バイアス磁界の影響で傾く不具合を適切に改善できる。
【0205】
また一方、前記エクスチェンジバイアス方式における固定磁性層の「磁化傾斜角度」の測定は、まずハイト方向(図示Y方向)に第1の磁場中アニールを施し、次にトラック幅方向(図示X方向)に第2の磁場中アニールを施した後行なわれるが、このような磁場中アニールのパターンは図6のようなエクスチェンジバイアス方式の製造工程で使われる。
【0206】
従って図6のエクスチェンジバイアス方式において、2度の磁場中アニール後に、固定磁性層3の固定磁化方向が傾いたり、分散角が大きくなるといった不具合を抑制でき、従来に比べてより効果的に再生出力の増加やアシンメトリーの改善を図ることが可能になる。
【0207】
また図1ないし図6に示す磁気検出素子においてセンス電流が流れたときに発生するセンス電流磁界の向きは、固定磁性層3を構成する第1の磁性層13と第2の磁性層11の合成磁化方向と一致させることが好ましい。
【0208】
例えば図1において、固定磁性層3の第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメントが第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントよりも大きく、且つ前記第1の磁性層13の磁化が図示Y方向とは逆向きであり、第2の磁性層11の磁化が図示Y方向と同一方向である場合、固定磁性層3の合成磁化方向は図示Y方向と逆向きである。
【0209】
この固定磁性層3の合成磁化方向とセンス電流磁界の向きを一致させるため、図1に示す右側の電極層8から左側の電極層8にかけてセンス電流を流す。センス電流は主に非磁性材料層2を中心にして流れ、右ねじの法則により発生するセンス電流磁界は固定磁性層3側では図示Y方向とは逆向きに発生する。このように固定磁性層3の合成磁化方向とセンス電流磁界の向きを一致させることができると、固定磁性層3の磁化をより強固に固定でき、アシンメトリーの改善及び再生出力の向上や通電信頼性の向上など再生特性及び信頼性に優れた磁気検出素子を製造することが可能になる。
【0210】
図7は、図1から図6に示す磁気検出素子が形成された読み取りヘッドの構造を記録媒体との対向面側から見た断面図である。
【0211】
符号40は、例えばNiFe合金などで形成された下部シールド層であり、この下部シールド層40の上に下部ギャップ層41が形成されている。また下部ギャップ層41の上には、図1ないし図6に示す磁気検出素子42が形成されており、さらに前記磁気検出素子42の上には、上部ギャップ層43が形成され、前記上部ギャップ層43の上には、NiFe合金などで形成された上部シールド層44が形成されている。
【0212】
前記下部ギャップ層41及び上部ギャップ層43は、例えばSiO2やAl2O3(アルミナ)などの絶縁材料によって形成されている。図7に示すように、下部ギャップ層41から上部ギャップ層43までの長さがギャップ長Glであり、このギャップ長Glが小さいほど高記録密度化に対応できるものとなっている。
【0213】
本発明では、前記反強磁性層4の膜厚を小さくしてもなお大きな交換結合磁界(Hex)を発生させることができる。前記反強磁性層4の膜厚は、例えば70Å以上で形成され、300Å程度の膜厚であった従来に比べて前記反強磁性層4の膜厚を十分に小さくできる。このように大きな交換結合磁界(Hex)を得ることができるのは、本発明では、反強磁性層4と対向する側に元素Xを含んだ磁性材料、好ましくはCoFeX合金からなる、比抵抗の大きい領域Aの第1の磁性層13を形成しているからであり、これによって前記反強磁性層4の膜厚を薄く形成しても、十分に大きい交換結合磁界(Hex)を得ることが可能になっている。
【0214】
よって狭ギャップ化により高記録密度化に対応可能な薄膜磁気ヘッドを製造することができる。
【0215】
なお前記上部シールド層44の上には書き込み用のインダクティブヘッドが形成されていてもよい。
【0216】
なお本発明における磁気検出素子は、ハードディスク装置内に内蔵される磁気ヘッド以外にも磁気センサなどに利用可能である。
【0217】
次に本発明における磁気検出素子の製造方法について以下に説明する。図8を参照しながら説明する。なお図8は、製造方法を説明するための部分模式図である。
【0218】
まず基板25上に前記下地層6を形成する。なお前記下地層6は、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち少なくとも1種以上の元素で形成されていることが好ましい。次に前記下地層6上にシードレイヤ22をスパッタ成膜する。スパッタ成膜のときには、NiFeCrまたはCrで形成されたターゲットを用意する。前記シードレイヤ22を、例えば20Åから60Å程度でスパッタ成膜する。ちなみに前記シードレイヤ22をNiFeCrで形成するときは、例えばその組成比は概ね、(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%である。
【0219】
次に前記シードレイヤ22上に反強磁性層4をスパッタ成膜する。
本発明では、前記反強磁性層4を、元素Z(ただしZは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料でスパッタ成膜することが好ましい。
【0220】
また本発明では前記反強磁性層4を、Z−Mn−Z′合金(ただし元素Z′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Ir,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)でスパッタ成膜してもよい。
【0221】
また本発明では、前記元素Zあるいは元素Z+Z′の組成比を、45(at%)以上60(at%)以下とすることが好ましい。
【0222】
さらに前記反強磁性層4の上に固定磁性層3をスパッタ成膜する。
図8に示すように、前記固定磁性層3を第1の磁性層13と、その上に非磁性中間層12を介して形成された第2の磁性層11とで構成された積層フェリ構造とする。
【0223】
本発明では、前記第1の磁性層13を、以下のような方法によって形成する。すなわち本発明では、まず反強磁性層4上に、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含んだ磁性材料、例えば好ましくはCoFeX(より好ましくはCoFeCr)合金で形成された磁性層13aをスパッタ成膜する。前記Xの組成比は3at%以上で15at%以下であることが好ましい。
【0224】
そして、前記磁性層13a上に、前記元素Xを含まない磁性材料、例えば好ましくはCoFe合金で形成された磁性層13bをスパッタ成膜する。
【0225】
このように本発明では、前記第1の磁性層13を磁性層13aと磁性層13bとの2層構造で形成するわけであるが、磁性層13aには元素Xが含まれているため、前記磁性層13aの比抵抗値は磁性層13bの比抵抗値に比べて高くなっている。
【0226】
次に、前記第1の磁性層13の上に非磁性中間層12をスパッタ成膜する。前記非磁性中間層12をRu、Rh、Ir、Os、Cr、Re、Cuのうち1種または2種以上の合金で形成することが好ましい。
【0227】
次に前記非磁性中間層12上に第2の磁性層11をスパッタ成膜する。本発明では前記第2の磁性層11を如何なる磁性材料で形成してもよいが、前記第1の磁性層13との間で発生するRKKY相互作用による結合磁界を適切に大きくするには、CoFe合金を使用することが好ましい。
【0228】
次に、前記第2の磁性層11の上に、Cuなどで形成された非磁性材料層2、例えばCoFe合金膜10とNiFe合金膜9の2層で形成されたフリー磁性層1、Cuなどで形成されたバックド層15、および保護層7(例えばTaなどの酸化物で形成された鏡面反射層であってもよい)をスパッタ成膜する。
【0229】
次に熱処理を施す。反強磁性層4は上記したZ−Mn合金やZ−Mn−Z′合金で形成されることが好ましいが、これら反強磁性材料を使用する場合には、熱処理をしないと前記固定磁性層3との界面で交換結合磁界(Hex)を発生しない。したがって本発明では熱処理を施すことで前記反強磁性層4と固定磁性層3の第1の磁性層13との界面で交換結合磁界(Hex)を発生させることができる。またこのとき図示Y方向と平行な方向に磁場をかけることで前記固定磁性層3の磁化を図示Y方向と平行な方向に向け固定することができる。なお本発明では前記固定磁性層3は積層フェリ構造であるから、第1の磁性層13と第2の磁性層11の磁化は反平行状態になる。
【0230】
上記した熱処理を施すことで、元素Xが含有された例えばCoFeX合金からなる磁性層13aと、反強磁性層4との間に大きな交換結合磁界(Hex)を発生させることができる。
【0231】
一方、本発明では、前記非磁性中間層12と接する側の第1の磁性層13には、元素Xを含まない例えばCoFe合金からなる磁性層13bが設けられており、前記磁性層13bと第2の磁性層11との間で、大きなRKKY相互作用による結合磁界を発生させることができる。
【0232】
従って本発明によれば、固定磁性層3における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができる。
【0233】
ところで、上記した熱処理を施すことで、前記第1の磁性層13を構成する磁性層13aと磁性層13bとの間には熱拡散が生じ、前記磁性層13aと磁性層13bとの界面で元素が入り交じる。
【0234】
このため熱処理後では、図8に示すような磁性層13aと磁性層13b間に、はっきりとした境界を見ることはできず、前記第1の磁性層13は単一層のようになる。このため熱処理後における前記第1の磁性層13の組成比を測定すると、前記第1の磁性層13には組成変調が生じていることがわかる。
【0235】
この組成変調は、前記磁性層13aと磁性層13bの界面付近で、元素Xの組成比が、反強磁性層4側から非磁性中間層12側に向けて徐々に少なくなる領域として現われる。
【0236】
ただし、例えば前記反強磁性層4が、熱処理を必要としなくても第1の磁性層13との間で交換結合磁界(Hex)を発生し得る材質であったり、また熱処理条件も、前記第1の磁性層13を構成する磁性層13aと磁性層13b間で熱拡散を生じない程度の条件であった場合には、上記した組成変調は生じない場合があり、かかる場合、前記磁性層13aと磁性層13b間の界面をはっきりと見ることができたり、あるいは前記界面を見ることができないとしても、前記反強磁性層4側から非磁性中間層12側に向けて前記界面付近で、元素Xが急激に0at%に近づくような極端な元素Xの組成比の変動を見ることができる。
【0237】
なお、図8に示す製造方法では、前記第1の磁性層13を磁性層13aと磁性層13bの2層構造で構成したが、2層よりも多い製造構造であってもよい。かかる場合であっても反強磁性層4と接する側に元素Xを含む比抵抗の高い磁性層を設け、非磁性中間層12と接する側に元素Xを含まない比抵抗の低い磁性層を設ける。
【0238】
あるいは別の製造方法としては、前記第1の磁性層13の成膜時に、例えばCoFeからなるターゲットと、元素X(好ましくはCr)からなるターゲットを用意し、反強磁性層4との界面上に前記第1の磁性層13を成膜する初期段階では、まずCoFeからなるターゲットと、元素Xからなるターゲットの双方に電力を供給してCoFeCrからなる磁性層を成膜し、次に徐々に元素Xターゲットに対する電力を下げていき、これによって成膜されるCoFeXの元素X組成比を小さくしていき、最終段階では、元素Xターゲットに対する電力を0Wにして、元素Xを含まないCoFe合金からなる磁性層を成膜できるようにする。
【0239】
これによっても、反強磁性層4との界面では、元素Xを含む比抵抗の高いCoFeCr合金が存在するから前記反強磁性層4との間で大きな交換結合磁界(Hex)を発生させることができ、また非磁性中間層12との界面では、元素Xを含まない比抵抗の小さいCoFe合金が存在するから前記第2の磁性層11との間で大きなRKKY相互作用における結合磁界を発生させることができ、よって前記固定磁性層3の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来に比べて適切に大きくすることができる。
【0240】
また本発明における磁気検出素子の製造方法によれば、前記第1の磁性層13に比抵抗の大きな磁性層13aが存在することから電極層から前記第1の磁性層13に分流するセンス電流量を減少させることができ、いわゆるシャントロスを低減させることができ、大きな抵抗変化率(ΔR/R)を得ることができる。
【0241】
なお上記した第1の磁性層13の製造方法は図2ないし図4のいずれの磁気検出素子の第1の磁性層の製造に利用できる。
【0242】
ただし図5や図6のようなエクスチェンジバイアス方式の磁気検出素子の場合、反強磁性層4と固定磁性層3間で交換結合磁界を発生させるだけでなく、強磁性層28と反強磁性層(エクスチェンジバイアス層)29との間でも交換結合磁界を発生させなければならない。
【0243】
このため、例えば非磁性中間層27までを成膜した段階で、まずハイト方向(図示Y方向)に磁場中アニールを施す。例えば磁場を10kOe(=約800kA/m)とし、温度を290度(℃)、時間を4時間とする。これにより前記反強磁性層4と固定磁性層3間に交換結合磁界を発生させて前記固定磁性層3の磁化を前記ハイト方向と平行な方向に固定する。
【0244】
次に前記強磁性層28と反強磁性層29を成膜し、2回目の磁場中アニールをトラック幅方向(図示X方向)に対し行う。例えば磁場を300(約24kA/m)Oeとし、温度を290度(℃)、時間を4時間とする。これにより前記強磁性層28と反強磁性層29間に交換結合磁界が発生する。
【0245】
このとき、第2の磁場中アニールの影響を受けて、磁化がハイト方向に固定されたはずの固定磁性層3が揺らぐ可能性がある。しかし本発明では、上記したように、第1の磁性層13と第2の磁性層11との磁気モーメント差(Net Mst)や膜厚を適正化していることで、第2の磁場中アニールによる前記第2の磁性層11のハイト方向(図示Y方向)からの傾き(磁化傾斜角度)を最小限に抑制できる。したがって本発明では、アシンメトリーが小さく且つ再生出力の大きいエクスチェンジバイアス方式の磁気検出素子を適切且つ容易に形成することが可能である。
【実施例】
【0246】
本発明では、以下の膜構成を有する積層膜を形成し、固定磁性層が磁性層の単層で形成されたときの、前記固定磁性層と反強磁性層間で発生する交換結合磁界(Hex)の大きさを、前記固定磁性層の材質を4種類用意して、それぞれについて測定した。
【0247】
膜構成は、下から、
シードレイヤ:(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%(55)/反強磁性層:Pt50at%Mn50at%(160)/固定磁性層:材質は表1を参照(20)/非磁性材料層:Cu(40)/フリー磁性層:[Co90at%Fe10at%(10)/Ni80at%Fe20at%(50)]/保護層:Ta(30)である。なお括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0248】
上記した膜構成の磁気検出素子を成膜したあと、熱処理を施して前記反強磁性層と固定磁性層間に交換結合磁界(Hex)を発生させ、それを測定した。その実験結果は、表1に示されている。
【0249】
【表1】
【0250】
表1に示すように、固定磁性層には、(Co0.9Fe0.1)95at%Cr5at%合金、Co90at%Fe10at%合金、Fe50at%Co50at%合金、Ni80at%Fe20at%合金をそれぞれ使用した。
【0251】
表1に示すように、固定磁性層にCoFeCr合金を使用したとき、CoFe合金を使用した場合に比べて交換結合磁界(Hex)を大きくできることがわかる。また固定磁性層にNiFe合金を使用した場合に比べても約2倍程度の高い交換結合磁界(Hex)を得ることができることがわかる。
【0252】
また表1の最も右側欄に記載されたのは、単位面積当たりの交換結合エネルギーJであるが、CoFeCr合金がもっとも高い交換結合エネルギーJを有していることがわかる。
【0253】
この実験からわかったことは、反強磁性層との間で大きな交換結合磁界(Hex)を発生させるには、固定磁性層にCoFe合金ではなく、CoFeCr合金を使用した方が好ましいということである。
【0254】
次に、以下の膜構成を有する積層膜を用いて、積層フェリ構造における固定磁性層の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)の大きさを、固定磁性層の第1の磁性層の材質が異なるそれぞれのサンプルに対して測定した。
【0255】
なおここで、前記一方向性交換バイアス磁界(Hex*)は、主として上記した反強磁性層との間で発生する交換結合磁界(Hex)と、固定磁性層を構成する第1の磁性層と第2の磁性層間で発生するRKKY相互作用による結合磁界とを合わせた磁界の大きさである。
【0256】
実験に使用した膜構成は下から、
シードレイヤ:(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%(55)/反強磁性層:Pt50at%Mn50at%(160)/固定磁性層:[第1の磁性層:材質は表2を参照(18)/非磁性中間層:Ru(8.7)/第2の磁性層:材質は表2を参照(22)]/非磁性材料層:Cu(21)/フリー磁性層:[Co90at%Fe10at%(10)/Ni80at%Fe20at%(18)]/非磁性材料層:Cu(10)/保護層:Ta(30)である。なお括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0257】
上記した膜構成の磁気検出素子を成膜した後、熱処理を施し、固定磁性層の一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を測定した。
【0258】
【表2】
【0259】
表2に示すように、第1の磁性層及び第2の磁性層にCoFe合金を選択した場合が、最も高い一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を発生させることができることがわかる。
【0260】
また飽和磁界(Hs)も、他の試料に比べて非常に高いことがわかる。飽和磁界(Hs)は、非磁性中間層を介した第1の磁性層と第2の磁性層の磁化が共に同じ方向を向くときの磁界の大きさである。この飽和磁界(Hs)が大きいことは、第1の磁性層と第2の磁性層間で発生するRKKY相互作用による結合磁界が強く、前記第1の磁性層と第2の磁性層との磁化が反平行状態から崩れ難いことを意味する。
【0261】
すなわち、第1の磁性層及び第2の磁性層にCoFe合金を選択した場合には、最も第1の磁性層と第2の磁性層との磁化の反平行状態が崩れ難く、RKKY相互作用による結合磁界は、他の試料に比べて非常に高いものと推測することができる。
【0262】
このことと、表1から得られた結論を総合すると、反強磁性層との間で発生する交換結合磁界(Hex)を大きくするために、第1の磁性層の反強磁性層側にCoFeCr合金からなる磁性層を形成し、RKKY相互作用による結合磁界を大きくするために、第1の磁性層の非磁性中間層側にCoFe合金からなる磁性層を形成する。
【0263】
これによって、反強磁性層とCoFeCr合金間で大きな交換結合磁界(Hex)を得ることができると共に、非磁性中間層側に形成された第1の磁性層のCoFe合金と、第2の磁性層間で発生するRKKY相互作用による結合磁界を大きくすることができ、したがって固定磁性層における一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を、第1の磁性層をCoFe、あるいはCoFeCr合金の単層で形成した場合に比べて、大きくすることができる。
【0264】
次に以下の積層膜を用いて、第1の磁性層をCoFeCr合金とCoFe合金の積層構造で形成したときの前記CoFeCr合金の最適な膜厚及び膜厚比について種々の特性から規定することとした。
【0265】
前記積層膜の構成は、下から、
Si基板/アルミナ/シードレイヤ:(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%(60)/反強磁性層:Pt50at%Mn50at%(100)/固定磁性層:[第1の磁性層:(Co0.9Fe0.1)95at%Cr5at%(X)/Co90at%Fe10at%(14−X)/非磁性中間層:Ru(8.7)/第2の磁性層:Co90at%Fe10at%(3)/スペキュラー膜(CoFe−Oxide)/Co90at%Fe10at%(18)]/非磁性材料層:Cu(21)/フリー磁性層:Co90at%Fe10at%(20)/バックド層:Cu(4.5)/スペキュラー膜:Ta−Oxideである。なお括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0266】
下記の積層膜を成膜後、290℃で4時間、800kA/mの磁場中アニールを施した。なお実験後、第1の磁性層を構成するCoFeCr合金とCoFe合金間では拡散によって界面がはっきりと解らなくなった。
【0267】
実験では、上記した第1の磁性層を構成するCoFeCr合金の膜厚を0Åから14Åまで厚くしていき、一方、第1の磁性層を構成するCoFe合金の膜厚を14Åから0Åまで薄くしていった。なお第1の磁性層の膜厚は14Åに保たれている。
【0268】
そして前記CoFeX合金の膜厚X及び膜厚比(ここでいう膜厚比とは、第1の磁性層全体の膜厚に対するCoFeCr合金の膜厚の比のこと。図の横軸の膜厚値の下に括弧書きで記載された数値が膜厚比を表している)と抵抗変化率(ΔR/R)との関係について調べた。その実験結果を図9に示す。
【0269】
図9に示すように、CoFeCr合金の膜厚を厚くしていくほど徐々に抵抗変化率は上昇していくが、前記CoFeCr合金が10Åよりも厚くなると抵抗変化率は低下し始めることがわかる。
【0270】
CoFeCr合金の膜厚としては、少なくとも第1の磁性層がCoFe合金の単体で形成されている場合(すなわちCoFeCr合金の膜厚が0Å)の抵抗変化率(15.13%)よりも大きくなる膜厚を選択することが好ましい。
【0271】
従って本発明では、前記CoFeCr合金の膜厚を0Åよりも大きく13Å以下(膜厚比としては0より大きく0.93以下)とした。これにより15.13%以上の抵抗変化率を得ることができる。
【0272】
また前記CoFeCr合金の膜厚は3.7Å以上で11.5Å以下(膜厚比としては0.26以上で0.82以下)であることがより好ましく、これによって15.25%以上の抵抗変化率を得ることができる。
【0273】
次に、CoFeCr合金の膜厚とシード抵抗変化量(ΔRs)との関係について調べた。シード抵値が高いほど、抵抗変化率(ΔR/R)は高くなるものと考えられる。
【0274】
図10に示すように、CoFeCr合金の膜厚が厚くなるほどシード抵抗値は大きくなり、前記CoFeCr合金の膜厚が7Å程度以上になると前記シード抵抗値はほぼ一定値となることがわかる。
【0275】
この実験結果から、CoFeCr合金は、0Åよりも大きく14Åより小さい(膜厚比としては0より大きく1より小さい)範囲であれば、第1の磁性層がCoFe合金のみで形成された場合(すなわちCoFeCr合金の膜厚が0Åのとき)に比べてシード抵抗値を大きくでき、3.075Ω/□よりも大きいシード抵抗値を得ることができる。
【0276】
またCoFeCr合金の膜厚が2.3Å以上で14Åより小さい(膜厚比としては0.16以上で1より小さい)範囲であると、3.1Ω/□以上のシード抵抗値を得ることができる。
【0277】
さらにCoFeCr合金の膜厚が、7.0Å以上で14Åより小さい(膜厚比としては0.5以上で1より小さい)範囲であると、3.13Ω/□以上のシード抵抗値を得ることができる。
【0278】
ここで、上記したようにシード抵抗値は大きいほど、大きな抵抗変化率を得ることができると考えられたが、実際は図9、10に示すように、シード抵抗値が高い10Å以上の膜厚であっても、抵抗変化率は低下する傾向が見られた。これは次に説明する一方向性交換バイアス磁界(Hex*)の低下が影響を与えているものと考えられる。
【0279】
図11は、CoFeCr合金の膜厚と、一方向性交換バイアス磁界(Hex*)との関係を示すグラフである。
【0280】
図11に示すように、CoFeCr合金の膜厚を4Å程度にすると一方向性交換バイアス磁界(Hex*)は最も大きな値を取るが、それよりも厚い膜厚とすると前記一方向性交換バイアス磁界(Hex*)は低下してしまう。
【0281】
これはCoFeCr合金の膜厚が厚くなることで、第2の磁性層との間で発生するRKKY相互作用による結合磁界が低下するためであると考えられる。
【0282】
この図11の実験から、CoFeCr合金の膜厚は0Åよりも大きく5Å以下(膜厚比としては0より大きく0.36以下)であることが好ましい。これによって100kA/mよりも大きな一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を得ることができる。
【0283】
なお図9と同様に、CoFeCr合金の膜厚の絶対値の下に記載されている括弧書きの数値は、第1の磁性層全体の膜厚に対するCoFeCr合金の膜厚の膜厚比を示している。
【0284】
図11に示すように、CoFeCr合金の膜厚は5Åよりも大きくなると特に一方向性交換バイアス磁界(Hex*)の低下が顕著に現れるが、このHex*の低下により固定磁性層の磁化が不安定化するため、図9に示すように、抵抗変化率が低下していくものと考えられる。
【0285】
次に、CoFeCr合金の膜厚とプラトー磁界(Hpl)との関係について調べた。その実験結果を図12に示す。
【0286】
ここでプラトー磁界(Hpl)とは図13のヒステリシスループに示すように、抵抗変化率が最大値(1.00)に対して0.98となるときの印加磁界の大きさを示す。プラトー磁界が大きいと、第1の磁性層と第2の磁性層の磁化の反平行状態が安定に保たれるので、前記プラトー磁界は大きい方が好ましい。
【0287】
図12に示すように、CoFeCr合金が約4Åのときプラトー磁界は最大値を示す。そしてそれよりも前記CoFeCr合金の膜厚が厚くなっていくとプラトー磁界は徐々に低下していくことがわかる。
【0288】
図12の実験結果から、前記CoFeCr合金の膜厚が0Åよりも大きく14Åよりも小さい(膜厚比としては0より大きく1より小さい)範囲であれば、第1の磁性層がCoFe合金のみで形成された従来に比べて(すなわちCoFeCr合金の膜厚が0Å)、高いプラトー磁界(24kA/mよりも大きい)を得ることができる。
【0289】
また本発明では、前記CoFeCr合金の膜厚が3Å以上で8.5Å以下(膜厚比としては0.12以上0.61以下)であれば、30kA/m以上のプラトー磁界を得ることができる。
【0290】
以上の実験結果により、本発明では以下の膜厚比を好ましい範囲とした。
本発明では、前記CoFeCr合金で形成された磁性層が第1の磁性層に占める膜厚比(CoFeCr合金の膜厚/第1の磁性層の膜厚)は、0より大きく0.61以下であることが好ましい。これにより抵抗変化率が従来よりも大きく、またプラトー磁界(Hpl)も従来より大きくなる。
【0291】
または本発明では、(CoFeCr合金で形成された磁性層の膜厚/第1の磁性層の膜厚)の膜厚比は、0より大きく0.36以下であることが好ましい。これによって一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来よりも大きくでき、またプラトー磁界(Hpl)を従来よりも大きくできる。さらに抵抗変化率(ΔR/R)を従来よりも大きくできる。
【0292】
または本発明では、(CoFeCr合金で形成された磁性層の膜厚/第1の磁性層の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.82以下であることが好ましい。これによって、抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界(Hpl)を従来よりも大きくすることができる。
【0293】
または本発明では、(CoFeCr合金で形成された磁性層の膜厚/第1の磁性層の膜厚)の膜厚比は、0.12以上で0.61以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率(ΔR/R)を従来よりも大きくすることができ、またプラトー磁界(Hpl)を30kA/m以上に大きくすることができる。
【0294】
または本発明では、(CoFeCr合金で形成された磁性層の膜厚/第1の磁性層の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.61以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界を30kA/m以上得ることができる。
【0295】
さらには本発明では、(CoFeCr合金で形成された磁性層の膜厚/第1の磁性層の膜厚)の膜厚比は、0.26以上で0.36以下であることが好ましい。これによって抵抗変化率を15.25%以上得ることができ、またプラトー磁界を30kA/m以上得ることができ、さらに一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を従来よりも大きくすることができる。
【0296】
次に本発明では、第2の磁性層11の単位面積当たりの磁気モーメントから第1の磁性層13の単位面積当たりの磁気モーメントを引いた磁気モーメント差(Net Mst)と、再生出力との関係を調べた。
【0297】
実験に使用した膜構成は、下から、
アルミナ/シードレイヤ:(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%(60)/反強磁性層:Pt50at%Mn50at%(120)/固定磁性層:[第1の磁性層:(Co0.9Fe0.1)95at%Cr5at%(X)/Co90at%Fe10at%(10)/非磁性中間層:Ru(9)/第2の磁性層:Co90at%Fe10at%(22)/非磁性材料層:Cu(21)/フリー磁性層:[Co90at%Fe10at%(10)/Ni80at%Fe20at%(35)]/保護層:Ta(30)である。なお括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0298】
またトラック幅を0.2μm、素子高さを0.15μmとした。さらに縦バイアス磁界として残留磁化(Mr)と膜厚(t)との積が18.8(T・nm)の永久磁石膜を用いた。
【0299】
実験では前記第1の磁性層を構成する(Co0.9Fe0.1)95at%Cr5at%の膜厚Xを変化させて、前記第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントを変化させ、前記磁気モーメント差(Net Mst)と再生出力との関係を求めた。その実験結果が図14に示されている。
【0300】
図14には第1の磁性層がCo90at%Fe10at%合金の単層で形成された比較例も載せてある。この比較例では前記第1の磁性層の膜厚を変化させて前記第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントを変化させ、前記磁気モーメント差(Net Mst)と再生出力との関係を求めている。
【0301】
図14に示すように、比較例では、前記磁気モーメント差が小さくなるにつれて徐々に再生出力は低下している。特に比較例の場合、前記磁気モーメント差が負の値になると、急激に再生出力が低下する。
【0302】
前記磁気モーメント差が負の値になるには、前記第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントが第2の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントよりも大きくなるわけであるが、このような磁気モーメントの調整は、前記第1の磁性層の膜厚を厚くしていくことによって行なわれる。
【0303】
すなわち前記磁気モーメント差が小さくなるほど、前記第1の磁性層の膜厚が厚くなっているのである。このため比較例の場合、前記磁気モーメント差が小さくなるほど、前記第1の磁性層の膜厚が厚くなり、この第1の磁性層は比抵抗の小さいCoFe合金の単層で形成されているから前記第1の磁性層へのセンス電流の分流量が大きくなり、再生出力が大きく低下してしまう。
【0304】
一方、本発明の実施例では、前記磁気モーメント差が小さくなってもさほど再生出力は変化せずむしろ若干上昇する。この上昇傾向は前記磁気モーメント差が約−0.63(T・nm)まで見られる。しかし前記磁気モーメント差が−0.63(T・nm)よりも小さくなると前記再生出力は低下し始める。
【0305】
実施例において、磁気モーメント差が小さくなっても特にー0.63(T・nm)までの負の値でも前記再生出力の低下が見られないのは、前記第1の磁性層に比抵抗の大きいCoFeCr合金層が存在するためである。また磁気モーメント差が小さくなることによりトラック両側の永久磁石膜(ハードバイアス層)からの磁界によって固定磁性層の磁化が傾く量が減少することにより再生出力が若干、上昇する。
【0306】
このため前記磁気モーメント差が小さくなる、すなわち第1の磁性層の膜厚が厚くなっていっても前記第1の磁性層に分流するセンス電流量は小さく、比較例に比べて前記再生出力の改善を図ることができるのである。
【0307】
次に図14の実験に用いた磁気検出素子の多層膜構造を用いて、磁気モーメント差(Net Mst)と、エクスチェンジバイアスの製造工程であるハイト方向と直交方向(トラック幅方向)の第2の磁場中アニールを施した後の第2の磁性層の磁化傾斜角度との関係について調べた。
【0308】
なお前記固定磁性層は既にハイト方向への第1の磁場中アニールによって磁化固定された状態である。この第1磁場中アニールは、ハイト方向に10kOe(=約800kA/m)の磁場をかけ続け、このとき290度とした熱処理工程を4時間行っている。
【0309】
この状態で、次に第2の磁場中アニールを施す。第2の磁場中アニールはトラック幅方向に300Oe(=約24kA/m)の磁場をかけ続け、このとき290度(℃)とした熱処理工程を4時間行った。その後、ハイト方向を0度としたときの固定磁性層(第2の磁性層)の磁化のずれ(磁化傾斜角度)を印加磁場を90°方向として測定したR−H曲線を用いて測定した。その実験結果は図15に示されている。
【0310】
図15に示すように、磁気モーメント差(Net Mst)が小さくなっていくほど、前記第2の磁性層の磁化傾斜角度は小さくなっていくことがわかる。
【0311】
比較例及び実施例ともに同様の傾向を見せるが、比較例では磁気モーメント差が0.63(T・nm)程度あると、第2の磁性層の磁化傾斜角度が15度を越えてしまい、固定磁性層とフリー磁性層との磁化の直交関係が大きく崩れてしまう。一方、実施例では前記磁気モーメント差が0.63(T・nm)以下であると前記第2の磁性層の磁化傾斜角度は10度以下に抑えられ、さらに前記磁気モーメント差を−0.63(T・nm)程度にまで小さくすると前記第2の磁性層の磁化傾斜角度をほぼ0度にすることができる。
【0312】
前記第2の磁性層の磁化傾斜角度は小さいほど好ましく、これによりアシンメトリーを小さくでき、さらに再生出力の向上を図ることができる。本発明では図14及び図15に示す実験結果から前記磁気モーメント差の好ましい範囲を−0.63(T・nm)以上で0.63(T・nm)以下に設定した。ただし前記磁気モーメント差が0(T・nm)となる場合は除いた。磁気モーメント差が0(T・nm)ということは、第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントと第2の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントとが同じ値になる場合であるが、かかる場合、前記第1の磁性層及び第2の磁性層に磁化分散が発生し再生特性を劣化させるという問題点がある。よって第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントと第2の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントとは異なる値であることが好ましく、そこで本発明では磁気モーメント差が0(T・nm)となる場合を除いているのである。
【0313】
また前記磁気モーメント差のより好ましい範囲を−0.63(T・nm)以上で0(T・nm)より小さい範囲とした。図14及び図15に示すように、前記磁気モーメント差を負の値にすると、ハードバイアス方式の場合は前記再生出力は磁気モーメント差が−0.63(T・nm)程度まで若干上昇する傾向を見せ、比較例に比べて効果的に再生出力の向上を図ることができる。またエクスチェンジバイアス方式の場合は、第2の磁性層の磁化傾斜角度を5度以下に抑えることができ、特に前記磁気モーメント差が−0.63(T・nm)付近では前記磁化傾斜角度をほぼ0度にすることが可能である。
【0314】
次に本発明では、前記第1の磁性層の膜厚を第2の磁性層の膜厚よりも大きい方が好ましいとした。単位面積当たりの磁気モーメントは、飽和磁化(Ms)と膜厚(t)との積で求めることができる。上記したように磁気モーメント差は負の値であることが好ましいとしたが、このように設定するには、第1の磁性層の膜厚を第2の磁性層の膜厚よりも大きくすることが好ましい。
【0315】
図16は、第1の磁性層の膜厚と抵抗変化率(ΔR/R)との関係を示すグラフ、図17は第1の磁性層の膜厚と抵抗変化量(ΔRs)との関係を示すグラフである。
【0316】
図16に示す「比較例」及び「実施例」における磁気検出素子の膜構成は図14の実験に使用したものと同じである。
【0317】
図16及び図17に示すように「比較例」及び「実施例」ともに前記第1の磁性層の膜厚が厚くなっていくと抵抗変化率(ΔR/R)及び抵抗変化量(ΔRs)は徐々に低下する。しかしグラフを見てわかるように「実施例」の方が「比較例」に比べて抵抗変化率及び抵抗変化量の低下量は小さい。これは「実施例」の磁気検出素子の第1の磁性層には、比抵抗が高いCoFeCr合金層が存在するためセンス電流が前記第1の磁性層に分流しにくいからである。
【0318】
このように本発明では、前記第1の磁性層の膜厚を厚くしていっても従来に比べて抵抗変化率(ΔR/R)及び抵抗変化量(ΔRs)の低下を適切に抑制できる。
【0319】
しかも前記第1の磁性層の膜厚を厚く形成できることにより、磁気モーメント差(Net Mst)の値を小さくできる結果として一方向性交換バイアス磁界(Hex*)を大きくすることができ、前記第2の磁性層の磁化傾斜角度を小さく抑えることができる。
【0320】
さらに反強磁性層と接する第1の磁性層の部分に例えばCoFeX合金層などの比抵抗の高い磁性領域を形成することで、前記反強磁性層と第1の磁性層間に発生する交換結合磁界(Hex)は高まり、前記第1の磁性層の膜厚を厚くしたときの前記第1の磁性層の交換結合磁界(Hex)の低下による固定磁性層の磁化傾斜を最小限に抑えることができる。
【0321】
上記したように、磁気モーメント差(Net Mst)や膜厚を適切に調整することで狭トラック化及び素子高さの狭小化においても、固定磁性層の磁化の揺らぎが小さく、アシンメトリーを改善でき及び再生出力が大きい、高記録密度化に優れた磁気検出素子を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0322】
【図1】本発明の第1実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図2】本発明の第2実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図3】本発明の第3実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図4】本発明の第4実施形態の磁気検出素子(デュアルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図5】本発明の第5実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図6】本発明の第5実施形態の磁気検出素子(シングルスピンバルブ型磁気抵抗効果素子)の構造を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図7】磁気検出素子を有する薄膜磁気ヘッドの部分断面図、
【図8】本発明における磁気検出素子の製造方法を説明するための一工程図(模式図)、
【図9】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成されたときの、CoFeCr合金の膜厚と、抵抗変化率(ΔR/R)との関係を示すグラフ、
【図10】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成されたときの、CoFeCr合金の膜厚と、シード抵抗値(ΔRs)との関係を示すグラフ、
【図11】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成されたときの、CoFeCr合金の膜厚と、一方向性交換バイアス磁界(Hex*)との関係を示すグラフ、
【図12】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成されたときの、CoFeCr合金の膜厚と、プラトー磁界(Hpl)との関係を示すグラフ、
【図13】プラトー磁界を説明するためのヒステリスループの模式図、
【図14】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成された実施例と、第1の磁性層がCoFe合金の単層構造で形成された比較例の、磁気モーメント差(Net Mst)と再生出力との関係を示すグラフ、
【図15】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成された実施例と、第1の磁性層がCoFe合金の単層構造で形成された比較例の、磁気モーメント差(Net Mst)と第2の磁性層の磁化傾斜角度との関係を示すグラフ、
【図16】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成された実施例と、第1の磁性層がCoFe合金の単層構造で形成された比較例の、第1の磁性層の膜厚と抵抗変化率(ΔR/R)との関係を示すグラフ、
【図17】第1の磁性層がCoFeCr合金とCoFe合金との2層構造で形成された実施例と、第1の磁性層がCoFe合金の単層構造で形成された比較例の、第1の磁性層の膜厚と抵抗変化量(ΔRs)との関係を示すグラフ、
【図18】従来における磁気検出素子を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図19】積層フェリ構造の第1の磁性層を、CoFe単層で形成した場合、CoFeCr単層で形成した場合の、前記第1の磁性層の膜厚と、一方向性交換バイアス磁界(Hex*)との関係を示すグラフ、
【符号の説明】
【0323】
1 フリー磁性層
2 非磁性材料層
3 固定磁性層(強磁性層)
4 反強磁性層
5 ハードバイアス層
6 下地層
7 保護層
8 電極層
11 第2の磁性層
12、27 非磁性中間層
13 第1の磁性層
15 バックド層
29 反強磁性層(エクスチェンジバイアス層)
22 シードレイヤ
23、24 磁性層
25 基板
28 強磁性層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反強磁性層と強磁性層とが積層形成され、前記反強磁性層と強磁性層との界面で交換結合磁界が発生することで、前記強磁性層の磁化方向が一定方向にされる交換結合膜において、
前記強磁性層は、前記反強磁性層との界面と接して形成される第1の磁性層と、前記第1の磁性層と非磁性中間層を介して対向する第2の磁性層とを有して形成された積層フェリ構造であり、
前記第1の磁性層には、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有する領域が、前記反強磁性層との界面から前記非磁性中間層側にかけて存在するととともに、前記非磁性中間層との界面から前記反強磁性層側にかけての領域の一部に、前記元素Xを含まない領域が存在することを特徴とする交換結合膜。
【請求項2】
前記第1の磁性層はCoFe合金を主体とし、元素Xを含む領域はCoFeX合金で形成され、元素Xを含まない領域はCoFe合金で形成される請求項1記載の交換結合膜。
【請求項3】
反強磁性層と強磁性層とが積層形成され、前記反強磁性層と強磁性層との界面で交換結合磁界が発生することで、前記強磁性層の磁化方向が一定方向にされる交換結合膜において、
前記強磁性層は、前記反強磁性層との界面と接して形成される第1の磁性層と、前記第1の磁性層と非磁性中間層を介して対向する第2の磁性層とを有して形成された積層フェリ構造であり、
前記第1の磁性層は、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有して形成され、
前記第1の磁性層の前記反強磁性層との界面での前記元素Xの含有量は、前記非磁性中間層との界面での前記含有量に比べて多くなっていることを特徴とする交換結合膜。
【請求項4】
前記第1の磁性層は、CoFe合金に元素Xが含有された磁性材料で形成される請求項3記載の交換結合膜。
【請求項5】
前記第1の磁性層の層内には、前記元素Xの含有量が、前記反強磁性層との界面側から前記非磁性中間層の界面側に向けて徐々に少なくなる領域が存在する請求項1ないし4のいずれかに記載の交換結合膜。
【請求項6】
CoYとFe100−Yとの原子比率Yは、85%以上で96%以下である請求項2または4に記載の交換結合膜。
【請求項7】
前記元素Xの組成比は3at%以上で15at%以下である請求項1ないし6のいずれかに記載の交換結合膜。
【請求項8】
前記第2の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントから前記第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントを引いた磁気モーメント差(Net Mst)は、−0.63(T・nm)以上で0.63(T・nm)以下{ただし0(T・nm)を除く}である請求項1ないし7のいずれかに記載の交換結合膜。
【請求項9】
前記磁気モーメント差は負の値である請求項8記載の交換結合膜。
【請求項10】
前記第1の磁性層の膜厚は、前記第2の磁性層の膜厚よりも大きい請求項9記載の交換結合膜。
【請求項11】
反強磁性層、固定磁性層、非磁性中間層、およびフリー磁性層を有し、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、
前記反強磁性層及び固定磁性層が請求項1ないし10のいずれかに記載された交換結合膜により形成されていることを特徴とする磁気検出素子。
【請求項12】
反強磁性のエクスチェンジバイアス層、フリー磁性層、非磁性中間層、固定磁性層、および反強磁性層を有し、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、
前記エクスチェンジバイアス層とフリー磁性層間には、前記エクスチェンジバイアス層と接して形成される強磁性層と、前記強磁性層とフリー磁性層間に介在する非磁性中間層とが形成され、前記強磁性層、非磁性中間層及びフリー磁性層で積層フェリ構造を構成しており、
前記強磁性層が、請求項1ないし10のいずれかに記載された第1の磁性層として、前記フリー磁性層が第2の磁性層として機能していることを特徴とする磁気検出素子。
【請求項13】
前記反強磁性層及び固定磁性層が請求項1ないし10のいずれかに記載された交換結合膜により形成されている請求項12記載の磁気検出素子。
【請求項14】
フリー磁性層の上下に積層された非磁性中間層と、一方の前記非磁性中間層の上および他方の非磁性中間層の下に位置する固定磁性層と、一方の前記固定磁性層の上および他方の固定磁性層の下に位置する反強磁性層とを有し、前記フリー磁性層よりも下側に形成された反強磁性層の下側にはシードレイヤが形成され、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、
前記反強磁性層及び固定磁性層が請求項1ないし10のいずれかに記載された交換結合膜により形成されていることを特徴とする磁気検出素子。
【請求項1】
反強磁性層と強磁性層とが積層形成され、前記反強磁性層と強磁性層との界面で交換結合磁界が発生することで、前記強磁性層の磁化方向が一定方向にされる交換結合膜において、
前記強磁性層は、前記反強磁性層との界面と接して形成される第1の磁性層と、前記第1の磁性層と非磁性中間層を介して対向する第2の磁性層とを有して形成された積層フェリ構造であり、
前記第1の磁性層には、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有する領域が、前記反強磁性層との界面から前記非磁性中間層側にかけて存在するととともに、前記非磁性中間層との界面から前記反強磁性層側にかけての領域の一部に、前記元素Xを含まない領域が存在することを特徴とする交換結合膜。
【請求項2】
前記第1の磁性層はCoFe合金を主体とし、元素Xを含む領域はCoFeX合金で形成され、元素Xを含まない領域はCoFe合金で形成される請求項1記載の交換結合膜。
【請求項3】
反強磁性層と強磁性層とが積層形成され、前記反強磁性層と強磁性層との界面で交換結合磁界が発生することで、前記強磁性層の磁化方向が一定方向にされる交換結合膜において、
前記強磁性層は、前記反強磁性層との界面と接して形成される第1の磁性層と、前記第1の磁性層と非磁性中間層を介して対向する第2の磁性層とを有して形成された積層フェリ構造であり、
前記第1の磁性層は、元素X(ただし元素Xは、Cr、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうち少なくとも1種以上の元素)を含有して形成され、
前記第1の磁性層の前記反強磁性層との界面での前記元素Xの含有量は、前記非磁性中間層との界面での前記含有量に比べて多くなっていることを特徴とする交換結合膜。
【請求項4】
前記第1の磁性層は、CoFe合金に元素Xが含有された磁性材料で形成される請求項3記載の交換結合膜。
【請求項5】
前記第1の磁性層の層内には、前記元素Xの含有量が、前記反強磁性層との界面側から前記非磁性中間層の界面側に向けて徐々に少なくなる領域が存在する請求項1ないし4のいずれかに記載の交換結合膜。
【請求項6】
CoYとFe100−Yとの原子比率Yは、85%以上で96%以下である請求項2または4に記載の交換結合膜。
【請求項7】
前記元素Xの組成比は3at%以上で15at%以下である請求項1ないし6のいずれかに記載の交換結合膜。
【請求項8】
前記第2の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントから前記第1の磁性層の単位面積当たりの磁気モーメントを引いた磁気モーメント差(Net Mst)は、−0.63(T・nm)以上で0.63(T・nm)以下{ただし0(T・nm)を除く}である請求項1ないし7のいずれかに記載の交換結合膜。
【請求項9】
前記磁気モーメント差は負の値である請求項8記載の交換結合膜。
【請求項10】
前記第1の磁性層の膜厚は、前記第2の磁性層の膜厚よりも大きい請求項9記載の交換結合膜。
【請求項11】
反強磁性層、固定磁性層、非磁性中間層、およびフリー磁性層を有し、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、
前記反強磁性層及び固定磁性層が請求項1ないし10のいずれかに記載された交換結合膜により形成されていることを特徴とする磁気検出素子。
【請求項12】
反強磁性のエクスチェンジバイアス層、フリー磁性層、非磁性中間層、固定磁性層、および反強磁性層を有し、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、
前記エクスチェンジバイアス層とフリー磁性層間には、前記エクスチェンジバイアス層と接して形成される強磁性層と、前記強磁性層とフリー磁性層間に介在する非磁性中間層とが形成され、前記強磁性層、非磁性中間層及びフリー磁性層で積層フェリ構造を構成しており、
前記強磁性層が、請求項1ないし10のいずれかに記載された第1の磁性層として、前記フリー磁性層が第2の磁性層として機能していることを特徴とする磁気検出素子。
【請求項13】
前記反強磁性層及び固定磁性層が請求項1ないし10のいずれかに記載された交換結合膜により形成されている請求項12記載の磁気検出素子。
【請求項14】
フリー磁性層の上下に積層された非磁性中間層と、一方の前記非磁性中間層の上および他方の非磁性中間層の下に位置する固定磁性層と、一方の前記固定磁性層の上および他方の固定磁性層の下に位置する反強磁性層とを有し、前記フリー磁性層よりも下側に形成された反強磁性層の下側にはシードレイヤが形成され、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、
前記反強磁性層及び固定磁性層が請求項1ないし10のいずれかに記載された交換結合膜により形成されていることを特徴とする磁気検出素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2006−32961(P2006−32961A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204078(P2005−204078)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【分割の表示】特願2002−100795(P2002−100795)の分割
【原出願日】平成14年4月3日(2002.4.3)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【分割の表示】特願2002−100795(P2002−100795)の分割
【原出願日】平成14年4月3日(2002.4.3)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
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