説明

交通情報処理方法及び交通情報処理システム

【課題】管理対象道路を走行する車両の車両位置を特定するための計算処理を単純化し、計算機負荷を低減させる。
【解決手段】管理対象道路9上の各基点N、N・・に対応した矩形区画S、S・・を設定し、この矩形区画を管理対象道路9に割り付けて管理対象道路9を区画割りし、矩形区画の集合からなる評価管理区域の座標を定義する。各矩形区画を走行する車両7から収集された走行履歴情報8を取得し、その走行履歴情報8から算出したベクトル値が評価管理区域内にある場合、その走行履歴情報8は正常な情報であると判断する。これにより、各矩形区画を走行する車両7から取得した走行履歴情報8から当該車両の車両位置を容易に高い精度で特定することができる。よって、マップマッチングの計算処理を著しく簡易化及び高速化することができ、計算機負荷も格段に低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管理対象道路を走行する車両の交通情報を処理する交通情報処理方法、及び交通情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路上の交通に関する情報をユーザに提供する代表的なシステムとして、道路交通情報通信システム(Vehicle Information and Communication System;以下VICSと記す)があり、渋滞情報、目的地への所要時間、事故・故障車・工事情報のような様々な交通情報が提供されている。VICSによる交通情報を入手するためには、VICS対応の車載器、例えばナビゲーションシステムを搭載する必要があり、高速道路や幹線道路の路側に設置されたビーコンから発射された電磁波等を受信することで、自車両の位置情報や渋滞情報等をナビゲーションシステムの画面に表示することができる。
【0003】
また、ナビゲーションシステムのような車載器においては、全地球測位システム(Global Positioning System;以下GPSと記す)による自車位置の緯度経度情報と、VICSにより標準化された地図情報、すなわち「道路リンク」と呼ばれる交差点等で区切られた道路範囲を区域区画単位(メッシュ)とした地図情報を対応させ(マップマッチング)、自車両の位置特定や走行経路の算定を行っている。これにより、全国の道路地図情報をデジタルコードとして標準化された体系に組み込み、地図の共有化及び製品の標準化を図っている。
【0004】
従来システムの例として、例えば特許文献1では、メッシュ形状の区域区画単位に分割された電子地図において、この各々のメッシュに道路リンクのコードを付与し、地図上の経路探索等に活用した旅行時間算出システムが提示されている。一方、特許文献2では、標準の道路リンクを使用せず、独自の道路形状データを適用したデジタル地図の位置情報伝達方法が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−342874号公報
【特許文献2】特開2001−41757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されている旅行時間算出システムのように、従来の「道路リンク」を使用することを前提としてシステム構築を行うには、その全データを有していなければならないという問題があった。また、「道路リンク」は、全国の道路を網羅するものであるから、管轄道路が限定された地域であっても全国網を前提とした位置検索が行われ、個々の車両位置を特定する計算の都度、システムに高い計算処理性能が要求される。このため、例えば高速道路のような車両走行量の膨大な道路上での迅速な交通情報処理の手法としては適切ではなかった。
【0007】
また、「道路リンク」は、標準化された地図データコードであるため、例えば道路事業者であるユーザが道路図面を独自に追加することは容易ではない。このため、道路事業者が「道路リンク」を使用して道路交通情報システムを自社構築した場合には、新設道路の道路リンクコードがタイムリーに更新されなければシステムの運用に不都合が生じるという問題があった。このように、「道路リンク」を使用することを前提としたシステム構築
は、特定の地理的範囲の道路を管轄する事業者(例えば高速道路の道路管理者)、及びその利用者等の需要の実態に応えるものではなかった。
【0008】
一方、特許文献2に示されたような、従来の「道路リンク」を使用せずに独自の道路形状データを適用する方法では、地図上に緯度経度情報を当てはめる際に複雑な処理を必要とすることや、道路形状に合わせた区域区画単位の形状を都度定義する必要があることから、処理が大変煩雑であり、具体的な手法も確立されていなかった。
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、管理対象道路を走行する車両の車両位置を特定するための計算処理を単純化し、計算機負荷を低減させることが可能な交通情報処理方法及び交通情報処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る交通情報処理方法は、道路地図上において管理対象道路に対して車両の走行方向に複数の基点を互いに間隔を置いて配置するステップと、各基点に対応して設定された矩形区画を管理対象道路に割り付け、管理対象道路を区画割りするとともに、矩形区画の集合からなる評価管理区域の座標を定義するステップと、各矩形区画を走行する車両から収集された緯度経度情報及び時刻情報を含む走行履歴情報を取得するステップと、走行履歴情報が正常な情報であるか否かを車両ごとに判断し、正常な走行履歴情報を抽出するステップと、正常と判断された走行履歴情報をもとに各矩形区画を走行した車両の速度情報を算出するステップと、前記速度情報をもとにした統計処理により、管理対象道路を走行した車両に関する交通情報を求めるステップを有するものである。
【0011】
また、本発明に係る交通情報処理システムは、道路地図上において管理対象道路に対して車両の走行方向に複数の基点を互いに間隔を置いて配置し、各基点に対応して設定された矩形区画を管理対象道路に割り付け、管理対象道路を区画割りするとともに、矩形区画の集合からなる評価管理区域の座標を定義する評価管理区域設定手段と、各矩形区画を走行する車両から収集された緯度経度情報及び時刻情報を含む走行履歴情報を取得する走行履歴情報取得手段と、走行履歴情報取得手段により取得した走行履歴情報が正常な情報であるか否かを車両ごとに判断し、正常な走行履歴情報を抽出する正常情報抽出手段と、正常情報抽出手段により正常と判断された走行履歴情報をもとに、各矩形区画を走行した車両の速度情報を算出し、さらに前記速度情報をもとにした統計処理により管理対象道路を走行した車両に関する交通情報を求める統計処理手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、管理対象道路上の各基点に対応した矩形区画を設定し、この矩形区画により管理対象道路を区画割りするとともに、矩形区画の集合からなる評価管理区域の座標を定義するようにしたので、各矩形区画を走行する車両から取得した走行履歴情報をもとに当該車両の車両位置を容易に高い精度で特定することができ、また、位置特定のための計算処理を単純化し計算機負荷を低減させることができるため、大容量の交通量負荷への円滑な処理対応が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1に係る交通情報処理システムの構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る交通情報処理システムの評価管理区域の設定方法を説明する図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る交通情報処理システムの評価管理区域の設定方法を説明する図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る交通情報処理システムによる管理対象道路の直線部における矩形区画の割り付け方法を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る交通情報処理システムによって算出された各矩形区画を走行した車両の平均速度を示す図である。
【図6】本発明の比較例による区画割り付け方法を示す図である。
【図7】本発明の他の比較例による管理対象道路のカーブ部における矩形区画の割り付け方法を説明する図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る交通情報処理システムによる管理対象道路のカーブ部における矩形区画の割り付け方法を説明する図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係る交通情報処理システムによる管理対象道路のカーブ部における矩形区画の割り付け方法を説明する図である。
【図10】本発明の実施の形態3に係る交通情報処理システムの評価管理区域の設定方法を説明する図である。
【図11】本発明の実施の形態3に係る交通情報処理システムの初期値の設定例を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係る交通情報処理システムの評価間隔を設定するために必要な仰角、差分の算出方法を説明する図である。
【図13】本発明の実施の形態4に係る交通情報処理システムの正常情報抽出手段の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
以下に、本発明の実施の形態1に係る交通情報処理システムについて、図面に基づいて説明する。本実施の形態1に係る交通情報処理システムは、管理対象道路を走行する車両に搭載された車載器に記録された走行履歴情報を、DSRC(狭帯域通信)等を利用した送受信機により受信し、これをもとに管理対象道路を走行する車両の走行状態を判別し、渋滞情報、目的地への所要時間のような様々な交通情報をユーザに提供するものである。
【0015】
図1は、本実施の形態1に係る交通情報処理システムの構成を示す概略図である。本実施の形態1における交通情報処理システム1は、主に、管理対象の道路地図を含む地図情報が格納された地図情報データベース2と、管理対象道路を含む評価管理区域を設定する評価管理区域設定手段3と、評価管理区域を走行する車両7から走行履歴情報8を取得する走行履歴情報取得手段4と、正常な走行履歴情報8を抽出する正常情報抽出手段5と、正常な走行履歴情報8をもとに評価管理区域を走行する車両7の速度情報を算出し、さらに速度情報をもとにした統計処理により、管理対象道路9を走行した車両7に関する交通情報を求める統計処理手段6から構成される。
【0016】
また、車両7に搭載された車載器から伝送される走行履歴情報8には、車両7の現在位置を示す緯度経度情報81と時刻情報82が含まれ、これらの情報から当該車両の速度ベクトルを算出することができる。なお、フラグ情報83は、車両7が管理対象道路9を走行していることを示す判断情報であり、必要に応じて走行履歴情報8に付与される。このフラグ情報83については、後述の実施の形態4で説明する。
【0017】
評価管理区域設定手段3は、地図情報データベース2に格納された道路地図上において管理対象道路を含む評価管理区域を設定するものである。評価管理区域設定手段3による評価管理区域の設定方法について、図2〜図4を用いて説明する。まず、図2に示すように、管理対象道路9に対して、図中矢印で示す車両の走行方向11に、複数の基点N、N、N・・を互いに間隔を置いて配置する。本実施の形態1では、複数の基点N、N、N・・は、管理対象道路9の中央を示す線10上に所定間隔Aで配置されている。なお、各基点の間隔は一定でなくても良く、任意の間隔で配置することができる。
【0018】
このように、管理対象道路9の中央を示す線10上に定義した基点N、N、N・・を連続的に線分で結ぶことで、道路線形に沿った位置情報を表すことができる。このような基点を一般に道路リンクと言い、通常、所定間隔毎の区切りや交差点等の経路結節点(ノード)において定義される。
【0019】
次に、図3に示すように、各基点N、N、N・・に対応して設定された矩形区画S、S、S・・を管理対象道路9に割り付け、管理対象道路9を区画割りする。本実施の形態1では、矩形区画を形成する4つの線分のうちの2つの線分は、隣り合う2つの基点を結んだ線分と略平行に配置され、その長さは所定間隔Aと同じ長さに設定されている。また、残りの2つの線分は、上記2本の線分と略垂直に配置され、長方形を形成している。本実施の形態1における交通情報処理システム1の評価管理区域は、これらの矩形区画S、S、S・・の集合からなり、各基点及び各矩形区画の座標から評価管理区域の座標を定義することができる。
【0020】
管理対象道路9の直線部における矩形区画の割り付け方法について、図4を用いて説明する。なお、カーブ部における矩形区画の割り付け方法については、後述の実施の形態2で詳細に説明する。図4に示すように、例えば基点Nに対応する矩形区画Sを形成する4つの線分のうち、隣り合う2つの基点N、Nを結んだ線分abと平行な2つの線分de、hiの長さは、所定間隔Aと同じ長さに設定されている。また、基点N、Nを結んだ線分abと略垂直な2つの線分dh、eiの長さは、管理対象道路9の幅Wと、その幅の両外側にGPSの測位誤差Wを足した幅Wと同じ長さである。
【0021】
同様に、基点Nに対応する矩形区画Sを形成する4つの線分のうち、隣り合う2つの基点N、Nを結んだ線分bcと平行な2つの線分fg、jkの長さは、所定間隔Aと同じ長さであり、線分bcと略垂直な2つの線分fj、gkの長さは、管理対象道路9の幅Wと、その幅の両外側にGPSの測位誤差Wを足した幅Wと同じ長さある。
【0022】
管理対象道路9の直線部においては、隣り合う矩形区画S、Sを、重複させることなく、また隙間をあけることなく割り付けることができ、各矩形区画S、Sの集合(和)が交通情報処理システム1の評価管理区域となる。すなわち、評価管理区域の幅は、管理対象道路9の幅Wと、その幅の両外側にGPSの測位誤差Wを足した幅Wとなり、評価管理区域の長さは、管理対象道路9の長さ(距離)である。
【0023】
本実施の形態1では、管理対象道路9に単純な矩形区画を割り付けることにより、道路地図上において管理対象道路9を区画割りし、各矩形区画を走行する車両7から取得した走行履歴情報8により、車両7の走行位置を道路地図上に特定(マップマッチング)するものである。さらに、管理対象道路9を走行する車両7の走行履歴情報8から渋滞等の交通情報を得るためには、管理対象道路9を走行する車両であるかどうか、管理対象道路9のどの位置を走行する車両であるか、及び何台の車両が時速何キロで走行しているか、等の情報が必要である。
【0024】
マップマッチングの際には、以下の2つの点に留意する必要がある。1つ目は、GPSによる測位誤差を踏まえた評価をすること(データの信頼性)であり、2つ目は、多数の走行履歴情報から総合的に交通情報を算定すること(データの規範性)である。本実施の形態1では、これらの条件を踏まえて評価管理区域を設定している。
【0025】
本実施の形態1に係る交通情報処理システム1におけるマップマッチングの動作について、図4を用いて説明する。図4中、7a〜7iで示す矢印は、ある測定時刻期間に走行履歴情報8を伝送してきた車両7のベクトル値(ある位置における速度)を示している。このベクトル値は、走行履歴情報取得手段4が管理対象道路9を走行する車両7から取得
した走行履歴情報8である緯度経度情報81及び時刻情報82をもとに算出される。
【0026】
本実施の形態1では、各矩形区画S、Sごとに走行履歴情報8を集計し、各矩形区画S、S内に存在するベクトル値を抽出し、これに基づいて交通情報を算出する。図4では、基点Nに対応する矩形区画S内に存在するベクトル値は、7a、7b、7c、7d、7eであり、7fは評価管理区域外であるため排除される。同様に、基点Nに対応する矩形区画S内に存在するベクトル値は、7g、7h、7jであり、7iは評価管理区域外であるため排除される。
【0027】
また、正常情報抽出手段5は、走行履歴情報取得手段4により取得した走行履歴情報8が正常な情報であるか否かを車両7ごとに判断し、正常な走行履歴情報8を抽出する。本実施の形態1では、走行履歴情報8から算出したベクトル値が評価管理区域内にある場合、その走行履歴情報8は正常な情報であると判断する。すなわち、図4では、評価管理区域外であるベクトル値7f、7iを算出するために用いた走行履歴情報8を、正常な情報ではないと判断して排除する。
【0028】
このように正常情報抽出手段5により正常と判断された走行履歴情報8をもとに、統計処理手段6は、各矩形区画S、S、S・・を走行する車両の速度情報を算出する。さらに、算出された速度情報をもとにした統計処理により、管理対象道路9を走行した車両7の速度分布情報、具体的には管理対象道路9の特定区間の特定時刻期間における速度情報の算術平均値を求めるものである。なお、渋滞情報や目的地への所要時間等、その他の交通情報も必要に応じて求めることができる。
【0029】
統計処理手段6では、車両速度、または目的地への所要時間等の具体的な数値化を行うために、収集した情報のクレンジングを含めた抽出・平均化処理が行われる。その手順について以下に説明する。まず、各車両7から伝送された走行履歴情報8を収集する。次に、過去一定期間(例えばある時刻から5分間)に収集された走行履歴情報8をベクトル化(x、y、v)する。具体的には位置差分を時刻差分で除して速度(v)を求める。
【0030】
続いて、算出したベクトル値を評価管理区域である各矩形区画に当てはめて、評価管理区域外のベクトル値及び異常速度値等を除去する。その後、各矩形区画の速度(v)の平均値を算出する。例として、各矩形区画を走行した車両の平均速度を算出した結果を図5に示す。図5において、横軸はノード(基点)番号、縦軸は速度(km/h)であり、各ポイントはそれぞれの車両7の速度、太線は平均速度を示している。
【0031】
図5に示すように、管理対象道路9の評価管理区域を基点番号N、N・・に対応した矩形区画S、S・・で区画割りして管理し、各々の基点番号に対応する車両7の速度を算術平均することにより、管理対象道路9の特定区間において特定の時刻期間に走行した車両7の速度分布情報を求めることができる。
【0032】
以上のように、本実施の形態1によれば、管理対象道路9上の各基点N、N・・に対応した矩形区画S、S・・を設定し、この矩形区画を管理対象道路9に割り付けて管理対象道路9を区画割りするとともに、矩形区画の集合からなる評価管理区域の座標を定義するようにしたので、各矩形区画を走行する車両7から取得した走行履歴情報8から、当該車両の車両位置を容易に高い精度で特定することができる。これにより、マップマッチングの計算処理を著しく簡易化及び高速化することができ、管理対象道路9を走行した車両7に関する交通情報を求める際の計算機負荷も格段に低減させることができるため、大容量の交通量負荷への円滑な処理対応が可能である。
【0033】
さらに、本実施の形態1に係る交通情報処理システムでは、VICSにより標準化され
た地図情報(道路リンク)を使用せずに、道路線形に合致させた単純な矩形区画により評価管理区域を定義しているため、ユーザが新設道路等の道路図面を独自に追加、更新することも容易である。よって、新設道路等にも迅速な対応が可能であり、利便性が高く運用し易い。これらのことから、特定の地理的範囲の道路を管轄する事業者(例えば高速道路の道路管理者)及びその道路の利用者等の需要に応えることが可能なものである。
【0034】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、管理対象道路9の直線部における矩形区画の割り付け方法について説明したが、実際の道路においては、図2に示すように、カーブ部を含む様々な道路線形が存在するため、各矩形区画を道路線形に沿って適切に割り付ける必要がある。本発明の実施の形態2では、管理対象道路9のカーブ部における矩形区画の割り付け方法について述べる。なお、本実施の形態2に係る交通情報処理システム1の構成は、上記実施の形態1と同様であるので図1を流用して説明する。
【0035】
図6は、本実施の形態2の比較例である区画割り付け方法を示している。図6の比較例のように、GPS測位誤差Wを含む評価管理区域を想定し、所定間隔Aの基点で区切った評価管理領域は、直線部分においては図6に斜線で示すSのような矩形区画となるが、カーブ部においては、図6に斜線で示すS´のような扇型形状となる。このような扇型形状では、円弧をトレースした多角形を定義する必要が生じ、処理が複雑となる。そこで、本実施の形態2では、管理対象道路9のカーブ部においても、上記の比較例のような多角形による定義をすることなく、上記実施の形態1と同様の矩形区画を割り付け、矩形区画の集合からなる評価管理区域の座標を定義するものである。
【0036】
本実施の形態2による管理対象道路9のカーブ部における矩形区画の割り付け方法について、図7及び図8を用いて説明する。図7は、本実施の形態2の他の比較例によるカーブ部における矩形区画の割り付け方法を示している。図7に示す割り付け方法では、直線部である基点Nに対応する矩形区画Sに隣接して、カーブ部である基点Nに対応する矩形区画Sを幅方向に平行にずらして割り付けしている。このような割り付け方法では、道路線形に評価管理区域が合致していない隙間部分(図7中、qrtで示す三角形領域)が発生する。また、評価管理区域として必要でない不要部分(図7中、xyzで示す三角形領域)も発生する。
【0037】
そこで、図8に示すように、カーブ部における矩形区画を実際の道路線形に合わせて、仰角θ分だけ回転させて割り付ける方法が考えられる(上記実施の形態1で用いた図3は、図8に示す割り付け方法によるものである)。これにより、図7に示す比較例よりも、道路線形に沿った矩形区画の設定を行うことができる。なお、図7及び図8において、仰角を示すθの添え字「n」は、n番目の基点の(n+1)番目の基点に対する仰角であることを示している。
【0038】
各基点N、Nに対応する各矩形区画S、Sの幅は、各基点の所定間隔Aであり、一定値となっている。本実施の形態2では、各基点N、Nに対応して同一形状の矩形区画S、Sを割り付け、さらに(n+1)位置の基点に対する仰角θの分だけ回転させる。図8では、各矩形区画Sを仰角θの分だけ回転させて割り付け、道路線形にほぼ合致した評価管理区域を設定している。
【0039】
なお、本実施の形態2による割り付け方法においても、上記実施の形態1と同様に、カーブ部に設けられた基点Nに対応する矩形区画Sを形成する4つの線分のうち、隣り合う2つの基点N、Nを結んだ線分noと平行な2つの線分rt、yzの長さは、所定間隔Aと同じ長さに設定されている。また、線分noと略垂直な2つの線分ry、tzの長さは、管理対象道路9の幅Wと、その幅の両外側にGPSによる測位誤差Wを足した幅Wとほぼ同じ長さであり、これが管理評価区域の幅となる。
【0040】
本実施の形態2によれば、管理対象道路9のカーブ部においても、各基点に対応して単純な矩形区画を回転させて割り付けることにより、道路線形にほぼ合致した評価管理区域を設定することができる。
【0041】
実施の形態3.
上記実施の形態2では、管理対象道路9のカーブ部において、各基点の所定間隔Aと同じ幅の矩形区画を、各基点に対する仰角θの分だけ回転させて割り付けることにより、評価管理区域を設定する方法を説明した。しかし、上記実施の形態2に示した基点を中心として回転させる方法では、道路線形に評価管理区域が合致していない隙間部分(図8中、qrnで示す三角形領域)が発生し、この隙間部分に入った車両7の走行履歴情報8は排除されることになる。
【0042】
そこで、本発明の実施の形態3では、さらに道路線形に合致した評価管理区域を設定するために、矩形区画について一定の法則に基づいた補正を行うものである。なお、本実施の形態3に係る交通情報処理システム1の構成は、上記実施の形態1と同様であるので図1を流用して説明する。
【0043】
本実施の形態3による管理対象道路9のカーブ部における矩形区画の割り付け方法について、図9及び図10を用いて説明する。本実施の形態3では、図9に示すように、基点Nに対応する矩形区画Sを形成する4つの線分のうち、隣り合う2つの基点N、Nを結んだ線分mnと平行な2つの線分pq、uxの長さを、それぞれpq´、ux´に延長し、矩形区画Sをpq´x´uで示される範囲とした。これにより、矩形区画Sの横幅(線分pq´、ux´の長さ)は、所定間隔Aではなく、評価間隔Bに延長される。
【0044】
以上のような補正を行うことにより、車両7の走行履歴情報8の抽出範囲を、図9中、qq´x´xで示す矩形領域の分だけ拡大することができ、上記実施の形態2で発生した隙間部分(図8中、qrnで示す三角形領域)をカバーすることができる。このように補正した矩形区画を管理対象道路9に割り付け、管理対象道路9を区画割りした状態を図10に示す。このように、本実施の形態3による矩形区画の割り付け方法によれば、上記実施の形態2による割り付け方法(図3)のような隙間部分が発生せず、道路線形に合致した評価管理区域を設定することができる。
【0045】
次に、本実施の形態3における矩形区画の補正について、具体的な手順を説明する。まず、図11に示すような初期値を設定する。具体的には、管理対象道路9の基点(ノード)の緯度経度を所定間隔で定義し、この基点の座標をもとに管理対象道路9を所定の等間隔Aで区切る。さらに、道路線形に合致した評価管理区域を設定するために、以下に示す方法で仰角、差分を求め、これをもとに評価間隔Bを求める。
【0046】
評価間隔Bを設定するために必要な仰角、差分の算出方法について、図12を用いて説明する。
(1)基点N(n−1)の座標を(Xn−1、Yn−1)とする。
(2)これにより、基点Nの座標は、(X+dxn−1、Y+dyn−1)となる。
(3)その場合の仰角はθn−1となり、差分はDn−1で表される。
(4)仰角θは、
θ=ABS(tan−1[(Yi+1−Y)/(Xi+1−X)]−θi−1
で求められる。仰角θは、X、Yから導出する
(5)差分Dは、
=W/tanθ
で求められる。なお、Wは評価管理区域の幅である。
また、dx=Dcosθ、dy=Dsinθである。
【0047】
本実施の形態3によれば、管理対象道路9のカーブ部において、道路線形に合わせた仰角に応じて矩形区画を回転させ、さらに所定間隔Aを拡張した評価間隔Bを設定し、隣り合う矩形区画を部分的に重複させて配置することにより、道路線形に合致した隙間の無い評価管理区域を設定することができる。これにより、本実施の形態3における評価管理区域は、管理対象道路9と、その幅方向の両外側にGPSの測位誤差を足した領域を網羅することができるため、上記実施の形態2よりも多くの走行履歴情報8を取得することができ、データの規範性を高めることができる。
【0048】
実施の形態4.
上記実施の形態1〜3では、車両7から取得した走行履歴情報8から求めた速度ベクトル値が矩形区画中にあるかどうかで正常情報か否かを判断し、マップマッチングを行った。しかし、交通情報処理システム1の評価管理区域はGPSによる測位誤差を含んでいるため、例えば図13に示すように、管理対象道路9に並行して管理対象外道路12が敷設されている場合、この管理対象外道路12を走行する車両からの走行履歴情報を排除できないという問題が生じる可能性がある。
【0049】
そこで、本発明の実施の形態4では、走行履歴情報8に当該車両が管理対象道路9を走行していることを示す判断情報であるフラグ情報83が含まれる場合、そのフラグ情報83を含む走行履歴情報8は正常であると判断するようにしたものである。なお、本実施の形態4に係る交通情報処理システム1の構成は、上記実施の形態1と同様であるので図1を流用して説明する。
【0050】
本実施の形態4に係る交通情報処理システム1における正常情報抽出手段5の動作について、図13を用いて説明する。図13に示す例では、管理対象道路9が高速道路であり、管理対象道路9に並行して一般道である管理対象外道路12が敷設されている。この例では、評価管理区域である矩形区画Sにおいて、走行する2台の車両71、72から走行履歴情報8が伝送される。車両71は、管理対象道路9を走行しているので管理対象の車両であり、車両72は管理対象外道路12を走行しているので、管理対象外の車両である。
【0051】
本実施の形態4では、車両71が高速道路である管理対象道路9に入った時に、高速道路に入ったという情報を付与するフラグ情報83を車両71に搭載された車載器に書き込む。正常情報抽出手段5は、このフラグ情報83を読み取ることにより、車両71が管理対象道路9を走行する車両であると判断する。一方、一般道である管理対象外道路12を走行する車両72に搭載された車載器には、フラグ情報83が書き込まれないため、車両72から伝送された走行履歴情報8は、正常でないと判断され排除される。
【0052】
なお、別の方法として、当該車両の走行履歴情報8を送受信した送受信機(例えば高速道路の路側に設置)の機器番号を車載器に書き込み、この機器番号によって判断する方法もある。これらの方法はいずれも車載器の標準的な製品仕様に基づいた対応方法であり、車載器の標準仕様に合致した方法を採用することが望ましい。
【0053】
本実施の形態4によれば、走行履歴情報8に当該車両が管理対象道路9を走行していることを示す判断情報であるフラグ情報83が含まれる場合に、そのフラグ情報83を含む走行履歴情報8は正常であると判断するようにしたので、さらに高い精度で正常情報を抽
出することができ、より正確な交通情報の算出が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、高速道路の道路管理者のような特定の地理的範囲の道路を管轄する事業者及びその道路の利用者等のユーザに交通情報を提供する交通情報処理システムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 交通情報処理システム、2 地図情報データベース、3 評価管理区域設定手段、4 走行履歴情報取得手段、5 正常情報抽出手段、6 統計処理手段、
7、71、72 車両、8 走行履歴情報、9 管理対象道路、10 道路の中央を示す線、11 走行方向、12 管理対象外道路、81 緯度経度情報、82 時刻情報、
83 フラグ情報。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路地図上において管理対象道路に対して車両の走行方向に複数の基点を互いに間隔を置いて配置するステップ、
前記各基点に対応して設定された矩形区画を前記管理対象道路に割り付け、前記管理対象道路を区画割りするとともに、前記矩形区画の集合からなる評価管理区域の座標を定義するステップ、
前記各矩形区画を走行する車両から収集された緯度経度情報及び時刻情報を含む走行履歴情報を取得するステップ、
前記走行履歴情報が正常な情報であるか否かを車両ごとに判断し、正常な前記走行履歴情報を抽出するステップ、
正常と判断された前記走行履歴情報をもとに前記各矩形区画を走行した車両の速度情報を算出するステップ、
前記速度情報をもとにした統計処理により、前記管理対象道路を走行した車両に関する交通情報を求めるステップ、を有することを特徴とする交通情報処理方法。
【請求項2】
道路地図上において管理対象道路に対して車両の走行方向に複数の基点を互いに間隔を置いて配置し、前記各基点に対応して設定された矩形区画を前記管理対象道路に割り付け、前記管理対象道路を区画割りするとともに、前記矩形区画の集合からなる評価管理区域の座標を定義する評価管理区域設定手段、
前記各矩形区画を走行する車両から収集された緯度経度情報及び時刻情報を含む走行履歴情報を取得する走行履歴情報取得手段、
前記走行履歴情報取得手段により取得した前記走行履歴情報が正常な情報であるか否かを車両ごとに判断し、正常な前記走行履歴情報を抽出する正常情報抽出手段、
前記正常情報抽出手段により正常と判断された前記走行履歴情報をもとに、前記各矩形区画を走行した車両の速度情報を算出し、さらに前記速度情報をもとにした統計処理により前記管理対象道路を走行した車両に関する交通情報を求める統計処理手段を備えたことを特徴とする交通情報処理システム。
【請求項3】
請求項2に記載の交通情報処理システムであって、前記複数の基点は、前記管理対象道路の略中央を示す線上に任意の間隔で配置され、前記矩形区画を形成する4つの線分のうちの2つの線分は、隣り合う2つの前記基点を結んだ線分と略平行に配置されることを特徴とする交通情報処理システム。
【請求項4】
請求項3に記載の交通情報処理システムであって、前記矩形区画を形成する4つの線分のうち、隣り合う2つの前記基点を結んだ線分と略垂直な2つの線分の長さは、前記管理対象道路の幅と、その幅の両外側に全地球測位システム(GPS)の測位誤差を足したものとすることを特徴とする交通情報処理システム。
【請求項5】
請求項3に記載の交通情報処理システムであって、前記管理対象道路のカーブ部において、隣り合う前記矩形区画を部分的に重複させて配置することにより、前記評価管理区域が、前記管理対象道路と、その幅方向の両外側に全地球測位システム(GPS)の測位誤差を足した領域を網羅するようにしたことを特徴とする交通情報処理システム。
【請求項6】
請求項2に記載の交通情報処理システムであって、前記正常情報抽出手段は、前記走行履歴情報から求めた当該車両のベクトル値が前記評価管理区域内にある場合、その走行履歴情報は正常であると判断することを特徴とする交通情報処理システム。
【請求項7】
請求項2に記載の交通情報処理システムであって、前記正常情報抽出手段は、前記走行履歴情報に、当該車両が前記管理対象道路を走行していることを示す判断情報が含まれる
場合、その走行履歴情報は正常であると判断することを特徴とする交通情報処理システム。
【請求項8】
請求項2に記載の交通情報処理システムであって、前記統計処理手段は、前記各矩形区画を走行した車両の速度情報をもとに、前記管理対象道路の特定区間の特定時刻期間における速度情報の算術平均値を求めることを特徴とする交通情報処理システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2010−281775(P2010−281775A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137080(P2009−137080)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】