説明

人間協調ロボットシステム

【課題】人間がロボットに接触しうる環境においても人間の安全を確保する。
【解決手段】ロボット(2)と人間(1)とが領域を共有して協調作業を行う人間協調ロボットシステムにおいて、ロボットの先端に取付けられた作業機器(3)に設置されるかまたはロボットに設置された力センサ(4)を具備し、力センサの検出値が所定の値を超えた場合には記ロボットを停止または力センサの検出値が小さくなるようにロボットの動作を制御するようになっており、ロボットは、人間から力センサの設置位置よりも遠位に位置する第一ロボット部位(6)と、力センサの設置位置よりも人間に対して近位に位置する第二ロボット部位(7)とを含んでおり、ロボットシステムは、ロボットが人間に最も接近した場合においても人間による第一ロボット部位への接触を防止するように人間の作業領域を制限する制限部(5)を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットと人間とが同じ作業空間を同時に共有して協調作業を行う人間協調ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産現場において人間とロボットとを混在して配置し、生産作業を分割して、人間とロボットとに分担させる人間協調ロボットシステムが開発されている。そのような人間協調ロボットシステムには、生産のランニングコストを削減すると共に生産効率を向上させるのに期待されている。
【0003】
しかしながら、人間協調ロボットシステムにおいては、ロボットが人間に衝突したり、ロボットのアーム間に人間の指が挟込まれる等の危険性がある。特に、ロボットが高速で動作可能であったり、ロボットの出力が大きい場合には、人間はロボットから過大な力を受ける可能性がある。従って、このような危険性に対する安全対策が人間協調ロボットシステムに求められている。
【0004】
従来のロボットシステムは、ロボットが周辺に衝突したときにロボットのマニピュレータ部に発生する異常トルクに基づいて衝突を検出する衝突検出機能が備わっている。この衝突検出機能により衝突が検出されると、ロボットの動作を停止する等の衝突力を軽減する制御が行われ、それにより、ロボットおよびロボットに取付けられた機器ならびに周辺機器が破損するのを最小限に抑えている。
【0005】
しかしながら、人間とロボットとの間の衝突を検出するために衝突検出機能を使用する場合には、人間の安全を確保するために衝突の感度を高くする必要がある。このため、ロボットの各部に設けられたギアや減速機等の摩擦トルクを高精度で推定することが求められる。ところが、摩擦トルクは外気温やロボットの動作状態で変動するので、摩擦トルクを高精度で推定することは難しい。従って、ロボットの各マニピュレータ部のトルクから人間とロボットとの間の衝突を高精度で検出して人間に危害が及ばないようにすることは困難であった。
【0006】
また、特許文献1から特許文献4には、物体を運搬する運搬ロボットが開示されている。このような運搬作業は、寸法の大きな運搬物や重い運搬物を運搬するときに人間とロボットとが運搬物の両端を担持する協調作業である。そして、ロボットと運搬物との間に設けられた力センサは、協調作業を行う人間が加える力の方向を検出し、ロボットがその方向へ運搬を補助する。これら特許文献1から特許文献4に開示される手法では、運搬物を介して人間とロボットとの間に発生する発生力を検出し、その発生力が所定の値を越えないようにロボットを制御することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3099067号
【特許文献2】特許第4168441号
【特許文献3】特開2008−213119号公報
【特許文献4】特開2009−34755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、運搬物を介することなしに人間がロボットに直接的に接触する場合には人間とロボットとの間に発生する力は検出されない。また、力を検出する力センサをロボットのアームとハンドとの間などに取付けた場合であっても、センサが検出できないロボットのアーム部分に人間が接触したことは検出できない。このため、従来技術において人間とロボットとが直接接触する可能性がある場合には、安全な協調作業が可能なロボットシステムを提供することはできなかった。
【0009】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、人間とロボットとの間に接触が起こりうる環境においても人間の安全を確保することのできる人間協調ロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、ロボットと人間とが領域を共有して協調作業を行う人間協調ロボットシステムにおいて、前記ロボットの先端に取付けられた作業機器に設置されるかまたは前記ロボットに設置された力センサを具備し、該力センサの検出値が所定の値を超えた場合には前記ロボットを停止または前記力センサの検出値が小さくなるように前記ロボットの動作を制御するようになっており、前記ロボットは、前記人間から前記力センサの設置位置よりも遠位に位置する第一ロボット部位と、前記力センサの設置位置よりも前記人間に対して近位に位置する第二ロボット部位とを含んでおり、さらに、前記ロボットシステムは、前記ロボットが前記人間に最も接近した場合においても前記人間による動作中の前記ロボットの前記第一ロボット部位への接触を防止するように前記人間の作業領域を制限する制限部を具備する、ことを特徴とする人間協調ロボットシステムが提供される。
【0011】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記力センサが前記ロボットと前記作業機器との間に設置された。
【0012】
3番目の発明によれば、1番目発明において、前記ロボットは基台と、前記作業機器を取付けるための作業機器取付部とを含んでおり、前記力センサが前記作業機器取付部と前記ロボットの前記基台との間に設置されている。
【0013】
4番目の発明によれば、1番目から3番目のいずれかの発明において、前記制限部は、前記第二ロボット部位が通過可能な少なくとも一つの開口部が形成された安全柵である。
【0014】
5番目の発明によれば、4番目の発明において、前記安全柵は、前記ロボットが前記人間に最も接近した場合における前記力センサの位置に設置されるか、または前記力センサの位置よりも前記人間に近位の位置に設置されている。
【0015】
6番目の発明によれば、1番目から3番目のいずれかの発明において、前記制限部は、前記人間が前記第一ロボット部位に接近するのを検出するエリアセンサであり、該エリアセンサの二次元検出領域には、前記第二ロボット部位が通過可能な少なくとも一つの検出無効領域が形成されている。
【0016】
7番目の発明によれば、6番目の発明において、前記エリアセンサの前記二次元検出領域は、前記ロボットが前記人間に最も接近した場合における前記力センサの位置に設定されるか、または前記力センサの位置よりも前記人間に近位の位置に設定されている。
【0017】
8番目の発明によれば、1番目から3番目のいずれかの発明において、前記制限部が、前記ロボット、前記作業機器または前記力センサ上に設置されている。
【0018】
9番目の発明によれば、8番目の発明において、前記制限部が板状部材である。
【0019】
10番目の発明によれば、9番目の発明において、前記板状部材が、前記力センサの設置位置に設置されるか、または前記力センサの設置位置よりも前記人間に近位の位置に設置されている。
【0020】
11番目の発明によれば、8番目の発明において、前記制限部が、前記人間が前記第一ロボット部位に接近するのを検出するエリアセンサである。
【0021】
12番目の発明によれば、11番目の発明において、前記エリアセンサが、前記力センサの設置位置に設置されるか、または前記力センサの設置位置よりも前記人間に近位の位置に設置されている。
【発明の効果】
【0022】
1番目の発明においては、制限部が設けられているので、人間は、動作中のロボットの力センサよりも人間に近位に位置するロボットの部位(第二ロボット部位)のみに接触できる。また、力センサに基づく制御によって、人間と第二ロボット部位とが接触するときに、人間がロボットから過大な力を受けるのを回避することができ、人間がロボットのあらゆる部位から過大な力を受けるのを避けられる。従って、人間とロボットとの間に接触が起こりうる環境においても人間の安全を確保した協調作業を行うことができる。
【0023】
2番目の発明において、力センサをロボットと作業機器との間に設置した場合には、ロボットの本体が第一ロボット部位となり、作業機器が第二ロボット部位になる。人間は作業機器にのみ接触できるので、人間の安全を確保した協調作業を行うことができる。
【0024】
3番目の発明において、力センサを作業機器取付部とロボットの基台との間に設置する場合には、第一ロボット部位は人間から遠位の場所に設定されるので、制限部を人間から遠位の位置に設置できるようになる。それゆえ、人間の作業領域を広く確保でき、人間の作業性を損なうことなしに、安全な協調作業を行うことができる。
【0025】
4番目の発明においては、開口部が形成された安全柵を制限部として使用している。従って、人間は第二ロボット部位にのみ物理的に接触できる。このため、過大な力を発生させうる第一ロボット部位から人間を確実に分離することができる。
【0026】
5番目の発明において、ロボットが人間に最も接近した場合における力センサの位置に安全柵を設置した際には、人間が第一ロボット部位に接触するのを防止できる。そのような力センサの位置よりも人間に近位の位置に安全柵を設置した際には、不具合によりロボットが所定の位置よりも人間側に接近した場合であっても、人間が第一ロボット部位に接触するのを避けられる。
【0027】
6番目の発明においては、人間とロボットとは検出領域の検出無効領域のみを通じて互いに接触できるので、ロボットの第一ロボット部位の領域と人間の領域とを確実に分離することができる。また、検出無効領域を自由に設定できるエリアセンサを用いた場合には、人間とロボットとの協調作業の場所を変更したり、周辺環境に干渉しないように検出領域を変更することにより、協調作業の自由度を向上させられる。
【0028】
7番目の発明においては、ロボットが人間に最も接近した場合における力センサの位置にエリアセンサを設置した際には、動作中のロボットの第一ロボット部位と人間とが接触するのを防止できる。そのような力センサの位置よりも人間に近位の位置にエリアセンサを設置した際には、不具合によりロボットが所定の位置よりも人間側に接近した場合であっても、人間が動作中のロボットの第一ロボット部位に接触するのを避けられる。
【0029】
8番目の発明においては、制限部をロボット、作業機器または力センサ上に搭載することにより、ロボットの位置・姿勢によらずに動作中のロボットの第一ロボット部位と人間とが接触するのを防止できる。その結果、より自由度の高い人間協調ロボットシステムを提供できる。
【0030】
9番目の発明においては、第一ロボット部位の領域と人間の領域とを物理的に確実に分離できる。
【0031】
10番目の発明においては、力センサの位置に板状部材を設置した場合には、第一ロボット部位と人間とが接触するのを防止できる。力センサの位置よりも人間に近位の位置に板状部材を設置した場合には、不具合によりロボットが所定の位置よりも人間側に接近した場合であっても、人間が第一ロボット部位に接触するのを避けられる。
【0032】
11番目の発明においては、エリアセンサを用いているので、周辺環境との干渉が生じないように検出エリアを容易に最適化できる。さらに、ロボット動作に応じて検出エリアを動的に変更することもでき、従って、人間協調ロボットシステムの自由度を向上させられる。
【0033】
12番目の発明においては、力センサの位置にエリアセンサを設置した場合には、動作中のロボットの第一ロボット部位と人間とが接触するのを防止できる。力センサの位置よりも人間に近位の位置にエリアセンサを設置した場合には、不具合によりロボットが所定の位置よりも人間側に接近した場合であっても、人間が動作中のロボットの第一ロボット部位に接触するのを避けられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第一の実施形態における人間協調ロボットシステムの側面図である。
【図2】一つの実施形態における人間協調ロボットシステムの部分斜視図である。
【図3】図2に示される人間協調ロボットシステムの側面図である。
【図4】本発明の第二の実施形態における人間協調ロボットシステムの側面図である。
【図5】他の実施形態における人間協調ロボットシステムの側面図である。
【図6】本発明の第三の実施形態における人間協調ロボットシステムの斜視図である。
【図7】本発明の第四の実施形態における人間協調ロボットシステムの側面図である。
【図8】さらに他の実施形態における人間協調ロボットシステムの部分斜視図である。
【図9】本発明の第五の実施形態における人間協調ロボットシステムの斜視図である。
【図10】本発明の第六の実施形態における人間協調ロボットシステムの側面図である。
【図11】図10に示される人間協調ロボットシステムの変更例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は、本発明の第一の実施形態における人間協調ロボットシステムの側面図である。図1に示される人間協調ロボットシステムでは、協調して作業を行うために人間1とロボット2とが互いに近位の位置に在る。図1に示される実施形態においては、ロボット2は垂直多関節型マニピュレータであり、その基台は床部Lに固定されている。
【0036】
図1に示されるように、ロボット2の一部には力センサ4が取付けられており、力センサ4は図示しない制御装置に接続されている。人間1とロボット2とが接触したときに力センサ4の検出値が所定の閾値を越えると、制御装置は、ロボット2を停止するか、または力センサ4の検出値が小さくなるようにロボット2を動作させる。このようにして、力センサ4は、ロボット2が人間1に対して過大な力を発生するのを制限する。
【0037】
ここで、人間1から見て力センサ4よりも遠位に位置するロボット2の部分を第一ロボット部位6、力センサ4よりも人間1に近位に位置するロボット2の部分を第二ロボット部位7と呼ぶ。第二ロボット部位7は、力センサ4によって過大な力が人間1に対して発生しないように制限されている部位であり、人間1に対して危害を及ぼさない。
【0038】
これに対し、第一ロボット部位6と人間1とが接触した場合には、人間1は第一ロボット部位6から過大な力を受ける可能性がある。特に、ロボット2が高速動作可能な場合、またはロボット2の出力が大きい場合には、人間1はさらに過大な力をロボット2から受ける。
【0039】
このため、本発明においては、人間1の作業領域を制限する制限部5が人間1とロボット2との間に設けられている。この制限部5によって、人間1と動作中のロボットの第一ロボット部位6とは互いに接触しないようにされると共に、人間1は、人間1に危害を及ぼさない第二ロボット部位7のみに接触できる。従って、本発明においては、人間1と動作中のロボットの第一ロボット部位6との接触を制限する制限部5と、第二ロボット部位7が過大な力を発生させないようにする力センサ4とによって、ロボット2のあらゆる部位から過大な発生力を受けることなしに、人間1はロボット2との安全な協調作業を行うことができる。
【0040】
人間1と動作中のロボットの第一ロボット部位6との接触を制限する制限部5は様々な形態をなすことができる。図2は、一つの実施形態における人間協調ロボットシステムの部分斜視図である。図2においては、制限部5が安全柵50である。
【0041】
図2に示されるように、ロボット2には作業機器3が取付けられており、力センサ4はロボット2と作業機器3との間に配置されている。作業機器3は、ロボット2に取付けられて作業を行う機器である。作業機器3は、部品の把持などハンドリングを行うハンド用途、ネジ締め、接着剤塗布、挿入作業または溶接を行う組み立て用途、レーザポインタによる人間1への作業指示、人間1に対する補助作業を行う補助作業用途もしくは治具用途などを有する。
【0042】
図2においては、第二ロボット部位7は作業機器3であり、第一ロボット部位6は作業機器3を除いたロボット2本体である。制限部5である安全柵50は、人間1と第一ロボット部位6との間の接触を制限する。図示されるように、安全柵50には開口部15が形成されている。開口部15は、人間1と第二ロボット部位7とが接触しうる最小限の寸法である。人間1および第二ロボット部位7(作業機器3)は、この開口部15を通じて互いに接触し、また、人間1は開口部15を越えて第一ロボット部位6に接触することはできない。
【0043】
このように、ロボット2と作業機器3との間に力センサ4が設置されているので、人間1とロボット2とが協調作業を行う際に、第二ロボット部位7としての作業機器3は人間1に過大な力を与えない。そして、制限部5としての安全柵50が配置されているので、人間1は、過大な力を受ける可能性のある第一ロボット部位6に直接的に接触することはない。人間1は、開口部15を通った第二ロボット部位7にのみ接触でき、従って、安全な協調作業を行うことが可能となる。
【0044】
実際には、人間1とロボット2とが協調作業を行う際に、人間1とロボット2とが接触する必要性のある部位は作業機器3のみであることが多い。図2に示される実施形態においては、人間1に対する接触が作業機器3のみに限定されるので、必要最小限の制限で安全な協調作業を行うことが可能となる。
【0045】
図3は、図2に示される人間協調ロボットシステムの側面図である。図3においては、ロボット2がそのアームを水平方向に限界まで延ばしている。その結果、アームの先端に取付けられた作業機器3は安全柵50の開口部15を越えて人間1に最も接近している。図3に実線で示されるように、安全柵50は、ロボット2のアームが水平方向に延びたときにロボット2の力センサ4に対応した位置に設置されている。また、図3において破線で示される安全柵51は、力センサ4に対応した位置よりもさらに人間に接近した位置に設置されている。
【0046】
図3に実線で示されるように、安全柵50が力センサ4に対応する位置に設置される場合には、第一ロボット部位6が安全柵5を越えて人間1の作業領域に侵入することは無い。従って、人間1と第一ロボット部位6とが接触するのを完全に防止できる。
【0047】
また、図3に破線で示されるように、安全柵51が力センサ4に対応する位置よりも人間1に接近した位置に設置される場合には、ロボット2の不具合が原因で通常のストロークを超えてロボット2が人間1に接近したとしても、力センサ4の位置が安全柵51を超えることはない。従って、ロボット2に不具合が起きた場合であっても、人間1と第一ロボット部位6との接触が回避され、安全な協調作業を行うことが可能である。
【0048】
図4は、本発明の第二の実施形態における人間協調ロボットシステムの側面図である。図4においては、作業機器3はロボット2の先端に設けられた作業機器取付部10に取付けられている。また、ロボット2は、床部Lに設置された基台11上に設置されており、力センサ41は、基台11と作業機器取付部10との間に配置されている。
【0049】
図4においては、安全柵50の少なくとも一部分を人間1から遠ざかる方向に傾斜させられる。それゆえ、第二の実施形態においては、図3に示される場合と比較すると、安全柵50の少なくとも一部分は人間1からより遠位に位置することになる。その結果、第二の実施形態においては、人間1の作業領域をより広く確保することが可能である。
【0050】
図5は、他の実施形態における人間協調ロボットシステムの側面図である。図5においては、力センサ42が、作業機器3に内蔵されている。図5における安全柵50は、ロボット2がそのアームを水平方向に限界まで延ばしたときの力センサ42に対応した位置に設置されている。このため、力センサ4がロボット2と作業機器3との間に設置されている場合と比較すると、第一ロボット部位6の領域をより大きく確保することができる。ロボット2の動作可能範囲はより広くなるので、ロボット動作の自由度を低下させることなしに、人間1とロボット2との協調作業を行うことが可能となる。
【0051】
図6は、本発明の第三の実施形態における人間協調ロボットシステムの斜視図である。図6においては、安全柵50の代わりに、エリアセンサ8が制限部5として配置されている。エリアセンサ8は例えば光カーテンやレーザ光を走査して物体を検出するレーザスキャナセンサであり、レーザ光等を発して反射から物体侵入を検出するためのセンサヘッド8aと、センサヘッド8aにより形成される二次元の検出領域8bとを含んでいる。図6に示される検出領域8bは、人間1とロボット2との間を仕切る鉛直面である。
【0052】
図6におけるセンサヘッド8aは、人間1およびロボット2の上方に設置されている。ただし、センサヘッド8aは周辺環境などに応じて人間1およびロボット2の下方および/または側方に設けられていてもよい。さらに、複数のエリアセンサ8を設置するようにしてもよく、その場合には、より細かな検出領域を画定することができる。
【0053】
図6に示されるように、検出領域8bには必要最小限の検出無効領域12が含まれている。このような検出無効領域12においては人間1およびロボット2の作業機器3等が進入したとしても、センサヘッド8aによって検出されないものとする。図6においては、単一の検出無効領域12が、検出領域8bにおいてロボット2の作業機器3に対応する場所から床部まで下方に延びている。ただし、検出無効領域12の形状は図6の内容に制限されず、第二ロボット部位7が通過できるあらゆる形状の検出無効領域12を採用してもよい。
【0054】
図6においては、第二ロボット部位7、例えば作業機器3が検出領域8bの検出無効領域12を通じて人間1の作業領域に進入する。次いで、人間1が第二ロボット部位7に接触して、協調作業を行うことができる。
【0055】
また、検出領域8bを自由に設定可能なエリアセンサ8を採用してもよい。この場合には、生産ラインに応じて変化する周辺環境に対して検出領域8bおよび検出無効領域12を自由に変更できる。つまり、ロボット2の姿勢および協調作業の内容に応じて柔軟にかつ動的に検出無効領域12を設定することができる。
【0056】
さらに、検出無効領域12の有効/無効を切替えることにより、人間1とロボット2とが分離された領域で独立して一時的に作業するように変更することも可能である。さらに、人間1やロボット2もしくは作業機器3の位置を監視するカメラ(図示しない)を設けてもよい。このカメラにより、人間1と第一ロボット部位6とが接触するのを監視できるので、カメラを制限部5またはエリアセンサ8の代わりに利用できる。
【0057】
図3を再び参照して分かるように、エリアセンサ8の検出領域8bが安全柵50の代わりになるように、エリアセンサ8を設置してもよい。また、エリアセンサ8の検出領域81bが安全柵51の代わりになるように、エリアセンサ8を設置することも可能である。検出領域81bが安全柵51の代わりになるようにエリアセンサ8を設置した場合には、検出領域81bは力センサ4よりも人間1により近位の位置になる。従って、検出領域81bに検出遅れが生じた場合またはロボット2に不具合が生じた場合であっても、人間1と動作中のロボット2との接触を確実に防止することができる。
【0058】
図7は、本発明の第四の実施形態における人間協調ロボットシステムの側面図である。図7においては、制限部5としてフランジ9がロボット2の一部分に直接的に取付けられている。フランジ9は、作業機器3に取付けられてもよく、また力センサ4に直接的に取付けられてもよい。なお、力センサ4はロボット2と作業機器3との間だけでなく、ロボット2の他の場所に取付けられてもよい。
【0059】
図7に示される実施形態においては、フランジ9はロボット2の動作に追従して移動する。従って、ロボット2の位置および姿勢に関わらずに、人間1と第一ロボット部位6との間の接触を確実に防止することができ、また、ロボットシステムの自由度を高めることも可能である。
【0060】
さらに、図7に示されるように、フランジ9を力センサ4に設置する場合には、人間1がフランジ9を越えて第一ロボット部位6に接触するのを回避できる。また、同様な形状のフランジ92bを力センサ4よりも人間1に近い部位、例えば作業機器3に設置する場合には、人間1と第一ロボット部位6との接触をより確実に回避することが可能となる。
【0061】
図8はさらに他の実施形態における人間協調ロボットシステムの部分斜視図である。図8においては、フランジ9の具体例として、略円形の板状部材91が示されている。
【0062】
この場合には、板状部材91によって人間1は第一ロボット部位6から物理的に確実に隔離され、人間1は第二ロボット部位7にのみ接触可能となる。前述したように第二ロボット部位7は力センサ4によって、人間1に過大な力がかからないように制御されている。このため、板状部材91と力センサ4とによって、人間1はロボット2と安全に協調作業を行うことができる。
【0063】
前述したように、板状部材91は、人間1と第一ロボット部位6との接触を防止できる限り、作業機器3上に設置してもよく、また力センサ4上に設置してもよい。さらに、力センサ4をロボット2の一部に設置してもよく、また作業機器3の内部に設置することも可能である。
【0064】
図9は、本発明の第五の実施形態における人間協調ロボットシステムの斜視図である。図9においては、エリアセンサ92が、人間1が第一ロボット部位6に接触できないようにする制限部5としての役目を果たす。そして、エリアセンサ92はロボット2の先端付近に取付けられたセンサヘッド92aと、センサヘッド92aにより形成された二次元の検出領域92bとを含んでいる。
【0065】
図9に示される実施形態においては、センサヘッド92aはロボット2と作業機器3の間に設置された力センサ4上に設けられている。ただし、センサヘッド92aは作業機器3上に設置してもよく、またはロボット2の他の部分に設置してもよい。さらに、複数のセンサヘッド92aを設置して、より細かな検出領域92bを画定することも本発明の範囲に含まれる。
【0066】
人間1が第一ロボット部位6(ロボット2本体)に接触しようとする場合には、エリアセンサ92が人間1と第一ロボット部位6とが接近するのを検出する。これにより、制御装置(図示しない)はロボット2が停止または退避行動をとるよう制御する。それゆえ、人間1が第一ロボット部位6と接触して過大な力を受けることはない。
【0067】
また、検出領域92bを自由に設定可能なエリアセンサ92を採用してもよい。この場合には、生産ラインに応じて変化する周辺環境に対して検出領域92bを自由に変更できる。
【0068】
図7を再び参照して分かるように、エリアセンサ92の検出領域92bがフランジ9の代わりになるように、センサヘッド92aを作業機器3に設置してもよい。また、センサヘッド92aを力センサ4上に設置することも可能である。センサヘッド92aを作業機器3上に設置した場合には、検出領域92bは力センサ4よりも人間1により近位の位置になる。従って、検出領域92bに検出遅れが生じた場合またはロボット2に不具合が生じた場合であっても、人間1と動作中のロボット2との接触を確実に防止することができる。
【0069】
前述した実施形態におけるロボット2は、その基台11が床部Lに固定された垂直多関節型マニピュレータである。しかしながら、他の形態のロボット2、例えば水平多関節型ロボットまたはパラレルリンク構造のロボットを採用してもよい。
【0070】
図10は本発明の第六の実施形態における人間協調ロボットシステムの側面図である。図10におけるロボット2は、その基台11が床部L上を摺動可能な走行台車13上に配置されている。図10において、ロボット2と作業機器3との間に配置された力センサ4が過大な力を検出したり、制限部5により、人間1が第一ロボット部位6に接触したのを検出した場合には、ロボット2のアーム部だけでなく、走行台車13も停止または後退動作を取るように制御する。従って、第六の実施形態においても、人間1とロボット2とが安全な協調作業を行うことが可能となる。なお、安全柵5の代わりに、前述したのと同様な壁状物および/またはエリアセンサを採用してもよい。
【0071】
さらに、図11は、図10に示される人間協調ロボットシステムの変更例を示す図である。図11に示されるように、ロボット2のアームの代わりに、鉛直方向に延びる延長部14を備えた走行台車13を含むロボット2を採用してもよい。この場合には、延長部14の先端に作業機器3が取付けられていて、力センサ4は作業機器3と延長部14との間に配置されている。このような場合であっても、前述したのと同様な効果が得られるのは明らかであろう。
【符号の説明】
【0072】
1 人間
2 ロボット
3 作業機器
4、41、42 力センサ
5 制限部
6 第一ロボット部位
7 第二ロボット部位
8 エリアセンサ
8a センサヘッド
8b 検出領域
9 フランジ
10 作業機器取付部
11 基台
12 検出無効領域
13 走行台車
14 延長部
15 開口部
50、51 安全柵
81a センサヘッド
81b 検出領域
91 板状部材
92 エリアセンサ
92a センサヘッド
92b 検出領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットと人間とが領域を共有して協調作業を行う人間協調ロボットシステムにおいて、
前記ロボットの先端に取付けられた作業機器に設置されるかまたは前記ロボットに設置された力センサを具備し、該力センサの検出値が所定の値を超えた場合には前記ロボットを停止または前記力センサの検出値が小さくなるように前記ロボットの動作を制御するようになっており、
前記ロボットは、前記人間から前記力センサの設置位置よりも遠位に位置する第一ロボット部位と、前記力センサの設置位置よりも前記人間に対して近位に位置する第二ロボット部位とを含んでおり、
さらに、前記ロボットシステムは、前記ロボットが前記人間に最も接近した場合においても前記人間による動作中の前記ロボットの前記第一ロボット部位への接触を防止するように前記人間の作業領域を制限する制限部を具備する、ことを特徴とする人間協調ロボットシステム。
【請求項2】
前記力センサが前記ロボットと前記作業機器との間に設置された、ことを特徴とする請求項1に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項3】
前記ロボットは基台と、前記作業機器を取付けるための作業機器取付部とを含んでおり、前記力センサが前記作業機器取付部と前記ロボットの前記基台との間に設置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項4】
前記制限部は、前記第二ロボット部位が通過可能な少なくとも一つの開口部が形成された安全柵である、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項5】
前記安全柵は、前記ロボットが前記人間に最も接近した場合における前記力センサの位置に設置されるか、または前記力センサの位置よりも前記人間に近位の位置に設置されている、ことを特徴とする請求項4に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項6】
前記制限部は、前記人間が前記第一ロボット部位に接近するのを検出するエリアセンサであり、該エリアセンサの二次元検出領域には、前記第二ロボット部位が通過可能な少なくとも一つの検出無効領域が形成されている、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項7】
前記エリアセンサの前記二次元検出領域は、前記ロボットが前記人間に最も接近した場合における前記力センサの位置に設定されるか、または前記力センサの位置よりも前記人間に近位の位置に設定されている、ことを特徴とする請求項6に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項8】
前記制限部が、前記ロボット、前記作業機器または前記力センサ上に設置されている、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項9】
前記制限部が板状部材である、ことを特徴とする請求項8に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項10】
前記板状部材が、前記力センサの設置位置に設置されるか、または前記力センサの設置位置よりも前記人間に近位の位置に設置されている、ことを特徴とする請求項9に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項11】
前記制限部が前記人間が前記第一ロボット部位に接近するのを検出するエリアセンサである、ことを特徴とする請求項8に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項12】
前記エリアセンサが、前記力センサの設置位置に設置されるか、または前記力センサの設置位置よりも前記人間に近位の位置に設置されている、ことを特徴とする請求項11に記載の人間協調ロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−40626(P2012−40626A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182314(P2010−182314)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト、人間・ロボット協調型セル生産組立システム(次世代産業用ロボット分野)、(先進工業国対応型セル生産組立システムの開発)」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】