説明

付加型シリコーン樹脂組成物

【課題】ポリフタルアミド樹脂などの難接着性基材に対して優れた密着性を有するとともに、硫黄ガスバリアー性にも優れ、接着剤、シーリング剤、封止剤などとして有用な硬化性シリコーン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン(a)、1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するオルガノ水素ポリシロキサン(b)、付加反応触媒(c)、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤およびエポキシ基含有シランカップリング剤の反応物(d)を含有することを特徴とする付加型シリコーン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリフタルアミド樹脂などの難接着性基材に対して優れた密着性を有するとともに、硫黄ガスバリアー性にも優れ、接着剤、シーリング剤、封止剤などとして有用な付加型シリコーン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂は耐熱性に優れ、弾性を有することから接着剤、シーリング剤、封止剤などの各種用途に使用されており、最近ではLEDの接着剤や封止剤としての需要が増加しつつある。LED部材には各種エンジニアリングプラスチックが使用されているため、シリコーン樹脂にはこれらのエンジニアリングプラスチックへの密着性が求められている。しかしながら、ポリフタルアミド樹脂などのエンジニアリングプラスチックへの密着性が十分ではなく、改良が求められている。また、LEDの導通や反射用金属として用いられる銀の腐蝕を抑制するため、硫黄ガスバリア性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1〜4には、種々の付加硬化型シリコーン樹脂組成物が開示されているが、いずれもポリフタルアミド樹脂などのエンジニアリングプラスチックへの密着性が十分ではなく、更なる改良が必要であった。また、硫黄ガスバリア性についても十分ではなかった。
【特許文献1】特開2004-2783号公報
【特許文献2】特開2004-266134号公報
【特許文献3】特表2007-502346号公報
【特許文献4】特開2007-63538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はポリフタルアミド樹脂などの難接着性基材に対して優れた密着性を有するとともに、硫黄ガスバリアー性にも優れ、接着剤、シーリング剤、封止剤などとして有用な付加型シリコーン樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン(a)、1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するオルガノ水素ポリシロキサン(b)、付加反応触媒(c)、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤およびエポキシ基含有シランカップリング剤の反応物(d)を含有することを特徴とする付加型シリコーン樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の付加型シリコーン樹脂組成物はポリフタルアミド樹脂などのエンジニアリングプラスチックへの密着性に優れる。また、硫黄ガスバリアー性にも優れるため、LEDなどの各種電子部材の接着剤、シーリング剤、封止剤などとして特に適する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の付加型シリコーン樹脂組成物の各成分について説明する。SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン(a)は、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基などの炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンである。オルガノポリシロキサンは例えば主鎖がジオルガノシロキサンの繰返し単位であり、末端がトリオルガノシロキサン構造であるものが例示され、分岐や環状構造を有するものであってもよい。末端や繰返し単位中のケイ素に結合したオルガノ構造としてはメチル基、エチル基、フェニル基などが例示される。具体例としては、両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサンが挙げられる。
【0008】
1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するオルガノ水素ポリシロキサン(b)は、末端および/または繰返し構造中において、2個以上のSiH基を含有するオルガノポリシロキサンである。オルガノポリシロキサンは例えば主鎖がジオルガノシロキサンの繰返し単位であり、末端がトリオルガノシロキサン構造であるものが例示され、分岐や環状構造を有するものであってもよい。末端や繰返し単位中のケイ素に結合したオルガノ構造としてはメチル基、エチル基、フェニル、オクチル基などが例示され、これらの2個以上が水素基に置換されたものである。
【0009】
付加反応触媒(c)は、前記(a)成分と前記(b)成分のヒドロシリル化反応を促進させるために添加され、ヒドロシリル化反応の触媒活性を有する公知の金属、金属化合物、金属錯体などを用いることができる。特に白金、白金化合物、それらの錯体を用いることが好ましい。これらの触媒は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、助触媒を併用してもよい。付加反応触媒(c)の配合量は組成物全体に対して1ppm〜50ppmとすることが好ましく、より好ましくは5〜20ppmである。
【0010】
本発明の付加型シリコーン樹脂組成物は前記(a)〜(c)の各成分に加えて、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤およびエポキシ基含有シランカップリング剤の反応物(d)を含有することを特徴とする。ここで、(d)に代えて、単に(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤およびエポキシ基含有シランカップリング剤を前記(a)〜(c)の各成分と混合しても本願発明の効果は得られない。すなわち、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤およびエポキシ基含有シランカップリング剤を予め反応させ、前記(a)〜(c)の各成分と混合することが必要である。
【0011】
(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤は、分子内に(メタ)アクリロイル基およびアルコキシシリル基などの反応性シリル基を有する化合物である。具体的には、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0012】
エポキシ基含有シランカップリング剤は、分子内にエポキシ基およびアルコキシシリル基などの反応性シリル基を有する化合物である。エポキシ基含有シランカップリング剤の具体例として、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0013】
(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤とエポキシ基含有シランカップリング剤を反応させる条件として、23℃で雰囲気下であれば24時間程度攪拌混合することにより十分に反応が進行する。同様に、60℃で雰囲気下であれば8時間程度、80℃雰囲気下であれば4時間、100℃雰囲気下であれば2時間程度攪拌混合することにより十分に反応が進行する。
【0014】
(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤とエポキシ基含有シランカップリング剤を反応させる際に、さらにビニルトリメトキシシランやビニルトリエトキシシランなどのビニル基含有シランカップリング剤を反応させることもでき、この反応物を(d)成分として用いることによって、密着性や硫黄ガスバリアー性をさらに向上させることができる。ただし、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤に代えてビニル基含有シランカップリング剤を用いた場合、すなわちビニル基含有シランカップリング剤およびエポキシ基含有シランカップリング剤のみを反応させた生成物を(d)成分として用いた場合、本願発明の効果は発現しない。また、前記オルガノポリシロキサン(a)100重量部に対して、(d)成分を0.1〜20重量部配合することが好ましく、0.5〜10重量部配合することがより好ましい。
【0015】
本発明の硬化性シリコーン樹脂組成物には前記必須成分の他、各種樹脂、添加剤を配合できる。希釈剤の配合により、粘度、柔軟性等を調整できる。その具体例として、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ2−エチルヘキシルなどフタル酸エステル系の希釈剤、ジメチルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等のシリコーンオイル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アゼライン酸ジアルキル、セバシン酸ジブチル、エポキシ化大豆油、ポリプロピレングリコール、アクリルポリマー、α−オレフィンやその誘導体、植物油由来脂肪酸の2−エチルヘキシルエステル化合物等が挙げられる。
【0016】
粘度調整、粘性調整、増量などを目的として、炭酸カルシウム、硅砂、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、カオリン、二酸化ケイ素、メラミン等の充填材、硬化樹脂の補強のためにガラス繊維等の補強材、軽量化及び粘度調整などのためにシラスバルーン、ガラスバルーン等の中空体を添加できる。その他、酸化防止剤、顔料、防腐剤などを適宜使用することができる。
【0017】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0018】
反応物の調製
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名KBM−503)1重量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名KBM−403)1重量部を23℃雰囲気下で24時間攪拌混合し、反応物1を得た。また、前記化合物の他にビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名KBM−1003)を用い、表1の配合、反応条件にて同様に反応物2〜12を得た。
【0019】
【表1】

【0020】
付加型シリコーン樹脂組成物の調製
ポリメチルビニルシロキサン(粘度8.1Pa・s)100重量部に前記反応物1を1重量部添加した。次いで付加反応触媒として白金−ビニルシロキサン錯体を組成物全体に対して10ppmとなるよう添加し、さらにメチル水素ポリシロキサン(粘度4.9Pa・s)10重量部を添加混合することにより、実施例1の付加型シリコーン樹脂組成物を調製した。
【0021】
実施例1において、反応物1に代えて表2、3記載の配合にて各反応物、各シランカップリング剤を添加した他は実施例1と同様に行い、実施例2〜14、比較例1〜7の各付加型シリコーン樹脂組成物を得た。
【0022】
硬度
各付加型シリコーン樹脂組成物を150℃で1時間加熱することにより硬化させ、厚み2mmの試験体を作成した。JIS K6301に準拠し、硬度計Aを用いて硬度を測定した。
【0023】
密着性
各付加型シリコーン樹脂組成物をポリフタルアミド樹脂板(幅25mm、2mm厚)に塗布量50g/mm2で塗布し、別のポリフタルアミド樹脂板(幅25mm、2mm厚)を長さ方向に25mm重なり合うように貼り合わせてクリップで固定し、150℃雰囲気下で1時間硬化させた。23℃雰囲気下で24時間養生後、引張り速度50mm/分でせん断試験を行い、強度の測定および破壊状態の確認を行った。また、被着材として半光沢銀メッキSUS板(幅25mm、100μm厚、メッキ厚3〜7μm)を用いて、同様にせん断強度の測定および破壊状態の確認を行った。
【0024】
腐食性
銀メッキを施した銅板上に各付加型シリコーン樹脂組成物を塗布し、150℃で1時間加熱することにより硬化して厚み2mmの皮膜を形成した。該銅板を硫黄粉0.2gと共に100ccガラスビンに封入し、60℃または80℃雰囲気下で24時間放置した。放置後に銅板を取り出してシリコーン皮膜を剥がし、銀メッキの腐食の程度を確認して以下のように評価した。
○ :腐食なし
△ :部分的に腐食(薄い黒色)
× :全面腐食(黒色化)
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
実施例の各付加型シリコーン樹脂組成物はポリフタルアミド樹脂に対して優れた密着性を有しおり、60℃における硫黄ガスバリアー性にも優れていた。さらに、実施例3〜14においては、半光沢銀メッキSUSに対しても優れた密着性を有しており、80℃における硫黄ガスバリアー性にも優れていた。一方、比較例の各付加型シリコーン樹脂組成物はポリフタルアミド樹脂や半光沢銀メッキSUSに対する密着が低く、硫黄ガスバリアー性が低いため銀が腐食されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン(a)、1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するオルガノ水素ポリシロキサン(b)、付加反応触媒(c)、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤およびエポキシ基含有シランカップリング剤の反応物(d)を含有することを特徴とする付加型シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤とエポキシ基含有シランカップリング剤の反応物(d)が、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤およびビニル基含有シランカップリング剤の反応物であることを特徴とする請求項1記載の付加型シリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
前記オルガノポリシロキサン(a)100重量部に対して、(d)成分が、0.1〜20重量部配合されていることを特徴とする請求項1または2記載の付加型シリコーン樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−7126(P2012−7126A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146333(P2010−146333)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【特許番号】特許第4671309号(P4671309)
【特許公報発行日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】