説明

付加質量型制振装置およびその取付け方法

【課題】重錘にロッドを通して一点を拘束したタイプの付加質量式制振装置について、設置現場で装置の固有振動数を容易に調整でき、またその調整機構が簡単でメンテナンスフリーである付加質量型制振装置を提供する。
【解決手段】アームを構成するロッド11と、重錘12と、ばね13と、減衰体14とから構成され、重錘12にロッド11を通してロッド11の一端をヒンジ16を介して外枠15に取付けることで拘束したタイプの付加質量型制振装置10において、ロッド11の他端に上記重錘12とは別に現地調整用(振動数調整用)の重錘17を設け、この重錘17の重量を調整することによって、制振装置の固有振動数を設置現場で容易に調整できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建築構造物の振動を付加重量を与えることによって抑制する付加質量型制振装置とその取付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁等の構造物の振動を抑制する方法として、付加振動体を設けて制振を行う技術には、各種の公知技術がある。
【0003】
このような付加質量型制振装置は、装置の固有振動数を制振対象の振動体の固有振動数に一致させることが必要である。しかし、制振対象の振動体は、設計段階における固有振動数の予想値と、施工後の固有振動数の実測値が異なる場合が多い。また、部材の劣化等が引き起こす固有振動数の経年変化にも対応する必要がある。こういった状況を鑑みると、付加質量型制振装置には設置現場で容易に調整できる機構を備えることが必要不可欠であり、このような技術に対しても、いくつかの公知技術がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、重錘にロッドを通してロッドの一端を支点で拘束したタイプの付加質量型制振装置に関して、制振装置の固有振動数を変化させる技術が開示されている。図5、図6は、特許文献1における制振装置の固有振動数の調整機構の例を示したものである。
【0005】
図5の例では、鉛直配置のロッド50の下端に重錘51を設け、ロッド50の上端をヒンジ52により回転自由となるように外枠53に固定した付加質量型制振装置において、ロッド50を内筒と外筒の二重の筒体から構成し、ウインチ54とワイヤー55あるいは油圧シリンダーを用いてロッド50の長さを変更することにより、装置の固有振動数を調節するものである。ロッド50の上部にはダンパー等の減衰体56が接続されている。
【0006】
図6の例では、水平配置のロッド60の一端をヒンジ62で外枠63に固定し、他端に設けた重錘61をモーター等によりロッド60上を移動させることにより、装置の固有振動数を調節するものである。ロッド60の重錘61とヒンジ62との間には、ばね64とダンパー等の減衰体65が設けられている。
【0007】
また、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2がある。この特許文献2の制振装置は、重錘と、てこ(アーム)と、ばねと、ダンパー用の鎖集合体と、鎖衝突体とを備え、重錘の振動をてこで拡大して、鎖集合体に伝達し、鎖の摩擦や衝突等で振動エネルギーを消費させるようにしたものである。
【特許文献1】実開平5−47246号公報
【特許文献2】特開平11−241435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の特許文献1の発明のように装置の固有振動数調整に機械的な機構や電気的な機構を使用すると、装置の固有振動数調整の機構が複雑になってしまい、安価な制振装置を提供する事ができない。また、油圧シリンダーやモーター等を使用した場合はメンテナンスが必要になってしまう。また、モーターを使用した機構を用いる際は固有振動数の調整時に電源が必要となり、使用上の制約を受ける。
【0009】
本発明は、上記のような問題点に着目し、重錘にロッドを通して一点を拘束したタイプの付加質量式制振装置について、設置現場で装置の固有振動数を容易に調整でき、またその調整機構が簡単でメンテナンスフリーである付加質量型制振装置およびその取付け方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る発明は、制振対象に付加重量を与えることによって振動を抑制する付加質量型制振装置において、重錘と減衰体を設けたアームの一端に支点が設けられ、前記アームの支点のある端部とは別のもう一方の端部に前記重錘とは別の振動数調整用の重錘が設けられていることを特徴とする付加質量型制振装置である。調整を行わない重錘は、アームの支点に近い位置でアームに固定し、ばねを介してフレームに支持させる。
【0011】
即ち、本発明は、例えば図1の概要図に示すように、アームを構成するロッド11と、重錘12と、ばね13と、減衰体14とから構成され、重錘12にロッド11を通してロッド11の一端をヒンジ16を介して外枠15に取付けることで拘束したタイプの付加質量型制振装置10に関して、ロッド11の他端に上記重錘12とは別に現地調整用(振動数調整用)の重錘17を設け、この重錘17の重量を調整することによって、制振装置の固有振動数を設置現場で容易に調整できるようにしたものである。
【0012】
ロッド11は、変位増幅アームであり、ロッド11に貫通させた重錘12を支点であるヒンジ16の近くに固定し、支点から遠く離れたロッド11の先端に現地調整用の重錘17を配置し、この重錘17の小さな重量変化で制振装置の固有振動数を大きく調整できるようにする。ばね13は、重錘17の位置に配置し、重錘12と外枠15とを接続し、静止時にロッド11が水平等の釣り合い状態を保持できるようにする。減衰体14は、振動エネルギーを吸収する装置であり、油圧ダンパー等を用いる。なお、このようなアームを水平に配置した横型に限らず、アームを鉛直に配置した縦型にも適用することができる。
【0013】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の付加質量型制振装置において、減衰体にアームから吊下げられた鎖集合体が用いられていることを特徴とする付加質量型制振装置である。
【0014】
この請求項2は、例えば図2に示すように、減衰体に鎖集合体を用いた場合である。鎖集合体は、鎖環の表面を粗面化処理したものや、複数種類の鎖環ピッチを有するものなど、種々のものを使用することができる。このような鎖集合体は、複数本の鎖を束ね、一端を結んだものであり、これらを1束あるいは複数束設置する。また、このような鎖集合体の下には鎖集合体の下部を支持する鎖衝突体を設け、鎖集合体の衝突による減衰効果を利用するのが好ましい。
【0015】
本発明の請求項3に係る発明は、制振対象に付加質量型制振装置を取り付ける方法において、請求項1または請求項2に記載の付加質量型制装置を容器内に収容し、この容器を制振対象の振動体に取付け、その後、振動数調整用の重錘の重量を調整して、制震装置の固有振動数を調整することを特徴とする付加質量型制振装置の取付け方法である。
【0016】
即ち、ロッド(アーム)と、重錘と、ばねと、鎖集合体等の減衰体と、現地調整用の重錘を全て収めた箱型等の容器を、例えば図3に示すように、制振対象の桁側面または内部に設置し、設置後に、制振対象の振動体の設計段階における固有振動数の予想値と施工後の固有振動数の実測値が異なる場合、あるいは部材の劣化等により固有振動数が経年変化を起こした場合等に、現地調整用の重錘の重量を調整して制震装置の固有振動数を調整する。
【0017】
以上のような本発明によれば、設置現場での振動数調整は、ばね直下の重錘の重量や位置を変化させることなく、現地調整用の重錘の重量を変化させるのみで広い振動数帯の調整が可能となる。これにより、調整時には、ハンドリングが容易であり、また制振装置を制振対象の振動体に設置した後は重機を解放できるため、例えば立体交差の既設橋への対応もしやすい、といった特徴を持つ制振装置の提供が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
【0019】
(1)ロッドに重錘を通して一端を支点で拘束した付加質量型制振装置において、前記重錘とは別の現地調整用の重錘を設けたため、この現地調整用の重錘の重量を変化させるだけで広い振動数帯の調整が可能となり、設置現場で制振装置の固有振動数を容易に調整することができる。
【0020】
(2)従来のような重錘を移動させるための機構が不要であり、制振装置を簡単な構造とすることができ、またメンテナンスも不要となり、安価な制振装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を図示する実施の形態に基いて説明する。図2は、本発明に係る付加質量型制振装置の一実施形態を示す斜視図である。図3は、本発明に係る付加質量型制振装置の設置例を示す斜視図である。図4は、本発明に係る付加質量型制振装置の追加重量と制振装置の固有振動数の関係を示すグラフである。
【0022】
図2の実施形態は、アームが水平に配置され、鉛直方向に振動するタイプの場合であり、この付加質量型制振装置20は、アームを構成するロッド21と、重錘22と、ばね23と、減衰体24と、箱型容器25と、ヒンジ26と、現地調整用(振動数調整用)の重錘27などから構成されている。
【0023】
ロッド21は、水平に配置された変位増幅アームであり、その一端をヒンジ26を介して箱型容器25(高さ1000mm×幅1200mm×奥行200mm)に取付け、鉛直方向に自由に回転できるようにした。重錘22は、重量を調整できるタイプであり(重量60〜220kg)、その上部にロッド21を貫通させ、ヒンジ26の近くに固定した。
【0024】
ばね23は、重錘22の位置に配置し、静止時にロッド21を水平に保持する。また、このばね23は、圧縮方向に使用し、支持装置28により圧縮ばねとしている。支持装置28は、箱型容器25の上部に取付けられた4本の吊下げロッド28aと、このロッド28aの下端に取付けられたばねの受け板28bと、重錘22の上面にヒンジ28cを介して取付けられ、受け板28bを貫通して上方に突出する1本の支持ロッド28dと、このロッド28dの上部に固定された押圧板28eとから構成されている。受け板28bと押圧板28dとの間にばね23が配置され、圧縮状態で重錘22等を支持することになる。
【0025】
減衰体24は、鎖集合体24aと、鎖衝突体24bから構成した。鎖集合体24aは、複数本の鎖を束ね、一端を結んだものであり、このような鎖集合体24aを複数束、ロッド21の重錘22から突出する端部の側面に配置し、その上端を固定した。鎖衝突体24bは、鎖集合体24aの下部を支持するストッパーであり、箱型容器25内に固定した。ロッド21が上下方向に揺動すると、鎖集合体24aが鎖衝突体24bに衝突することにより振動エネルギーが吸収され、減衰がなされる。
【0026】
現地調整用の重錘27は、ロッド21のヒンジ26とは反対側の先端部上に載置した。この重錘27は、後述するように、てこの原理から重錘22よりも重量の小さいものでよく、板状のものを複数枚積み重ねるようにした。
【0027】
以上のような構成部材を全て薄型の箱型容器25内に収納し、完成した薄型化された付加質量型制振装置20を設置現場へ搬送し、例えば図3に示すように、制振対象である振動体、例えば歩道橋等の桁30の側面または内部に設置する。設置直後、あるいは設置後数年を経過した後、現地調整用の重錘27の重量を増減して現地振動数調整を行う。
【0028】
現地調整用の重錘27(重量0〜30kg)をロッド21の先端に配置し、ばね直下の重錘22を60kgに初期設定し、ばね直下の重錘22を増加させた場合と、現地調整用の重錘27を増加させた場合について比較した。図4は、それぞれの場合の制振装置の固有振動数変化を表したものであり、この図4のグラフから、ばね直下の重錘22を160kg変化させた場合(60kg+0〜160kg) の効果は、現地調整用の重錘27を30kg変化させた場合の効果とほぼ同等であり、5倍以上調整の効率がよいことが分かる。これにより、制振装置の設置現場における固有振動数の調整が容易となる。また、ばね直下のメインの重錘を移動させるための仕組みも不要なので、制振装置が単純化され、固有振動数を調整する装置のメンテナンスも必要ない。
【0029】
なお、以上はアームを水平に配置した横型について説明したが、これに限らず、アームを鉛直に配置し水平に振動するタイプの制振装置にも本発明を適用できる。また、制振対象としては、橋梁、歩道橋、人口地盤、階上の体育館や講堂の床構造等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る付加質量型制振装置の概要を示す正面図である。
【図2】本発明に係る付加質量型制振装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る付加質量型制振装置の設置例を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る付加質量型制振装置の追加重量と制振装置の固有振動数の関係を示すグラフである。
【図5】従来の固有振動数を調整する機構を備えた付加質量型制振装置の一例を示す正面図である。
【図6】従来の固有振動数を調整する機構を備えた付加質量型制振装置の他の例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0031】
10…付加質量型制振装置
11…ロッド(アーム)
12…重錘
13…ばね
14…減衰体
15…外枠
16…ヒンジ
17…現地調整用(振動数調整用)の重錘
20…付加質量型制振装置
21…ロッド(アーム)
22…重錘
23…ばね
24…減衰体
24a…鎖集合体
24b…鎖衝突体
25…箱型容器
26…ヒンジ
27…現地調整用(振動数調整用)の重錘
28…支持装置
28a…吊下げロッド
28b…受け板
28c…ヒンジ
28d…支持ロッド
28e…押圧板
30…歩道橋等の桁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振対象に付加重量を与えることによって振動を抑制する付加質量型制振装置において、重錘と減衰体を設けたアームの一端に支点が設けられ、前記アームの支点のある端部とは別のもう一方の端部に前記重錘とは別の振動数調整用の重錘が設けられていることを特徴とする付加質量型制振装置。
【請求項2】
請求項1に記載の付加質量型制振装置において、減衰体にアームから吊下げられた鎖集合体が用いられていることを特徴とする付加質量型制振装置。
【請求項3】
制振対象に付加質量型制振装置を取り付ける方法において、請求項1または請求項2に記載の付加質量型制装置を容器内に収容し、この容器を制振対象の振動体に取付け、その後、振動数調整用の重錘の重量を調整して、制震装置の固有振動数を調整することを特徴とする付加質量型制振装置の取付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−177520(P2006−177520A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−374101(P2004−374101)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】