説明

仮接着用接着剤

【課題】ハードディスク用のガラス基板の穴あけ加工時においてガラス基板同士を仮接着するための接着剤であって、穴あけ加工時の衝撃でも剥離しない充分な接着力と、穴あけ加工後に糊残りすることなく加熱した水中で容易に剥離できる剥離性とを両立した仮接着用接着剤を提供する。
【解決手段】ハードディスク用のガラス基板の穴あけ加工時においてガラス基板同士を仮接着するための接着剤であって、少なくとも、(メタ)アクリレート化合物、光重合開始剤、及び、気体発生剤を含有し、前記(メタ)アクリレート化合物の60重量%以上が、芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有し、前記(メタ)アクリレート化合物100重量部に対して、前記気体発生剤を5重量部以上含有する仮接着用接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク用のガラス基板の穴あけ加工時においてガラス基板同士を仮接着するための接着剤であって、穴あけ加工時の衝撃でも剥離しない充分な接着力と、穴あけ加工後に糊残りすることなく加熱した水中で容易に剥離できる剥離性とを両立した仮接着用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク用のガラス基板は、まず円盤状に成形したガラスの複数枚を接着剤を用いて貼り合わせて積層し、一括して中央部に穴あけ加工を施した後、剥離して個々のドーナッツ状ガラス基板を得る方法により製造されている。この方法によれば、極めて高い効率で大量のハードディスク用ガラス基板を製造することができる。
【0003】
このような製造方法に用いられる接着剤としては、ワックスや水溶性の接着剤が用いられていた。ワックスや水溶性の接着剤で接着された被着体は、80℃程度にまで加熱した水中に浸漬すると、ワックスや水溶性の接着剤が溶解することから、容易に剥離できる。しかしながら、これらの接着剤を用いた場合、剥離後のガラス基板上に糊残りすることがあるという問題があった。バードディスクでは、回転するガラス基板とヘッドとの間隔が狭いほど記憶容量を大きくすることができることから、ガラス基板上の糊残りは致命的な欠陥となる。また、溶解した接着剤を含む汚水が大量に発生するという問題もあった。
【0004】
これに対して、疎水性の接着剤に水溶性の溶剤を添加した接着剤(例えば、特許文献1)や、疎水性の接着剤に水溶性多糖類を添加した接着剤(例えば、特許文献2)を用いることも提案されている。しかしながら、これらの技術によって糊残りの問題は解消されたとしても、ガラス基板上には多糖類等の残渣が残ってしまう。これは上述したハードディスク基板とヘッドとの衝突、即ちヘッドのクラッシュの原因となる。また、汚水の発生の問題も解決できるものではなかった。
【0005】
易剥離性の接着剤としては、例えば特許文献3には、接着剤中に熱膨張性マイクロカプセル等の発泡剤を配合した接着剤が開示されている。このような接着剤を加熱すると、発泡剤により接着剤の全体が発泡して、被着体との接着面積が低減することから、容易に剥離することができる。しかしながら、このような発泡型の易剥離性接着剤では、被着体の表面に糊残りするという課題は解決できない。また、発泡のためには、通常130℃以上の高温にまで加熱する必要があり、加熱した水中にて剥離を行うためには圧力容器等を用いる必要があり、実用的ではなかった。
【0006】
特許文献4には、硬化型の粘着剤中にアゾ化合物等の気体発生剤を配合した粘着剤が開示されている。このような粘着剤に紫外線を照射したり加熱したりすると、粘着剤が硬化するとともに、気体発生剤から発生した気体が被着体との接着面に放出され、接着面の少なくとも一部を剥がすことから、容易に剥離することができる。しかしながら、特許文献4に記載された粘着剤は、常温における接着力が低く、ガラス基板の穴あけ加工時の衝撃によって剥離してしまうことがあるという問題があった。
【0007】
特許文献5には、接着剤付き基材フィルムを1軸又は2軸延伸機により延伸し、加熱することによりこの基材フイルムが収縮することを利用して基板との剥離を促進する方法が開示されている。しかしながら、特許文献5に記載された接着剤付き基材フィルムを用いても、実際にはガラス基板同士を剥離することは困難であった。
ガラス基板の穴あけ加工時の衝撃でも剥離しない充分な接着力と、加工後に糊残りすることなく容易に剥離できる剥離性とを両立した仮接着用接着剤が求められていた。
【特許文献1】特開2007−395329号公報
【特許文献2】特開2007−16141号公報
【特許文献3】特開2001−131507号公報
【特許文献4】特開2003−231867号公報
【特許文献5】特開2007−246860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ハードディスク用のガラス基板の穴あけ加工時においてガラス基板同士を仮接着するための接着剤であって、穴あけ加工時の衝撃でも剥離しない充分な接着力と、穴あけ加工後に糊残りすることなく加熱した水中で容易に剥離できる剥離性とを両立した仮接着用接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ハードディスク用のガラス基板の穴あけ加工時においてガラス基板同士を仮接着するための接着剤であって、少なくとも、(メタ)アクリレート化合物、光重合開始剤、及び、気体発生剤を含有し、前記(メタ)アクリレート化合物の60重量%以上が、芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物である仮接着用接着剤である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の仮接着用接着剤は、(メタ)アクリレート化合物、光重合開始剤、及び、気体発生剤を含有する。
上記(メタ)アクリレート化合物は、その60重量%以上が芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物である。芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物を一定以上含有することにより、本発明の仮接着用接着剤は、硬化物のガラス転移温度(Tg)が40℃以上となり、穴あけ加工時の衝撃でも剥離しない充分な接着力を発揮することができる。また、60℃以上に加熱した水中で剥離を行う際にも、必要以上に接着剤が軟化してしまわないことから、糊残りすることなく容易に剥離することができる。硬化物のガラス転移温度が40℃以下であると、気体発法剤にから発生した気体の圧力によりいったんガラス基板と接着剤とが剥離しても、再融着を起こしてしまい、容易に剥離することができない。好ましくは、芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物が70重量%以上である。
【0011】
また、上記(メタ)アクリレート化合物の50重量%が、芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する2官能以上の(メタ)アクリレート樹脂であることが好ましい。これにより、硬化後の接着剤が加熱した水中でも膨潤したり融着したりすることがないことから、ガラス基板との剥離が容易に行われる。
【0012】
上記芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物は、単官能のものであってもよく、2官能以上の多官能のものであってもよい。
【0013】
上記芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物は、例えば、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを常法に従って塩基性触媒の存在下で反応することにより得ることができる。
【0014】
上記芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物の原料となるエポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、2,2’−ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン類等が挙げられる。
【0015】
また、上記脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物としては、上記芳香族構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物を水添化した化合物も使用できる。
【0016】
上記芳香族を骨格に有する単官能の(メタ)アクリレート化合物のうち市販されているものとしては、例えば、2メタクリロキシエチル2ヒドキシプロピルフタレート(共栄社製、ライトエステルHO−MPP)、フェノールエチレオキサイド2モル変性アクリレート(東亞合成社製、M−101)、フェノールエチレオキサイド4モル変性アクリレート(東亞合成社製、M−102)、ノニルフェノールエチレオキサイド1モル変性アクリレート(東亞合成社製、M−111)、ノニルフェノールエチレオキサイド4モル変性アクリレート(東亞合成社製、M−113)、ノニルフェノールエチレオキサイド2.5モル変性アクリレート(東亞合成社製、M−117)、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート(東亞合成社製、M−5400)、2−ヒドロキシ3フェノキシプロピルアクリレート(東亞合成社製、M−5700)等が挙げられる。
【0017】
上記脂環式構造を骨格に有する単官能のアクリレート化合物のうち市販されているものとしては、例えば、2メタクロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸(共栄社製、ライトエステルHO−MPP)、ジシクロペンテニルアクリレート(日立化成社製、FA−511A)、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成社製、FA−512A)、ジシクロペンタニルアクリレート(日立化成社製、FA−513A)、イソボニルアクリレート(東亞合成社製、M−156)、t−ブチルシクロヘキシルアクリレート(ダイセルユーシービー社製、IRR164)等が挙げられる。
【0018】
上記脂環式構造を骨格に有する単官能のメタアクリレート化合物のうち市販されているものとしては、例えば、ジシクロペンテニルメタアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成社製、FA−512M)、ジシクロペンタニルメタアクリレート(日立化成社製、FA−513M)等が挙げられる。
【0019】
上記芳香族を骨格に有する多官能の(メタ)アクリレート化合物のうち市販されているものとしては、例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物ジメタクレート(共栄社製、ライトエステルBP−2EM)、ビスフェノールAのエチレンオキサイド4モル付加物ジメタクレート(共栄社製、ライトエステルBP−4EM)、ビスフェノールAのエチレンオキサイド6モル付加物ジメタクレート(共栄社製、ライトエステルBP−6EM)、ビスフェノールAのエチレンオキサイド10モル付加物ジメタクレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド20モル付加物ジメタクレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド4モル付加物ジメタクレート(共栄社製、ライトエステルBP−4PM)、ビスフェノールAのエチレンオキサイド10モル付加物ジアクリレート(共栄社製、ライトエステルBP−10Ea、ビスフェノールAのエチレンオキサイド4モル付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド6モル付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド10モル付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド20モル付加物ジアクリレート(サートマー社製、9035A)、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド4モル付加物ジアクリレート、ビスフェノールFのエチレンオキサイド2モル付加物ジアクりレート(東亞合成社製、M−208)、ビスフェノールFのエチレンオキサイド2モル付加物ジメタクレート、EB3700(ダイセルサイテック社製)、EB−3708(ダイセルサイテック社製)等が挙げられる。
【0020】
上記脂環式構造を骨格に有する多官能の(メタ)アクリレート化合物のうち市販されているものとしては、例えば、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(ダイセルサイテック社製、IRR214)、ジメチロールトリシクロデカンジメタクレート(共栄社製、ライトエステルDCP−M)等が挙げられる。このほか、水添ビスフェノールA骨格や水添ビスフェノールF骨格のエチレンオキサイド付加物やプロピレンオキサイド付加物も用いることができる。
【0021】
上記芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物は、エチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物であることが好ましい。エチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物を用いることにより、本発明の仮接着用接着剤の硬化物の親水性が高くなる。このため、後述するように穴あけ加工後の積層体を60℃以上に加熱した水中に浸漬して上記気体発生剤から気体を発生させたときに、剥離した接着剤とガラス基板との間に水が侵入し易くなる。その結果、極めて短時間で剥離を完了することができる。
【0022】
上記芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物のうちエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物の配合量としては、上記(メタ)アクリレート化合物100重量部に対する好ましい下限が10重量部、好ましい上限が95重量部である。上記芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物のうちエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物の配合量が10重量部未満であると、加熱した水中で剥離する際に速やかに剥がれないことがあり(剥離時間7分以下)、90重量部を超えて配合しても、それ以上の効果は得られない。上記芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物のうちエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物の配合量のより好ましい下限は20重量部、より好ましい上限は80重量部である。
【0023】
上記(メタ)アクリレート化合物として、上記芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物以外のものとしては特に限定されず、例えば、単官能のものとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、N−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2エチルへキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、多官能のものとしては、例えば、エチレングリコールジメタクレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,4ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクレート、1,6ヘキサンジオールジメタクレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,4ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクレート、エチレングリコール末端ジメトキシアクリレート、プロピレングリコール末端ジメトキシアクリレート、グリセリン末端ジメトキシアクリレート等が挙げられる。
【0024】
上記光重合開始剤としては特に限定されないが、250〜450nmの波長の光を照射することにより活性化されるものが挙げられる。
上記光重合開始剤としては、例えば、メトキシアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体化合物や、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物や、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール等のケタール誘導体化合物や、フォスフィンオキシド誘導体化合物、ビス(η5−シクロペンタジエニル)チタノセン誘導体化合物、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、クロロチオキサントン、トデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシメチルフェニルプロパン等の光ラジカル重合開始剤が挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
上記光重合開始剤の配合量としては、上記(メタ)アクリレート化合物100重量部に対する好ましい下限が0.2重量部、好ましい上限が5重量部である。上記光重合開始剤の配合量が0.2重量部未満であると、紫外線を照射しても仮接着用接着剤が硬化せずに接着できないことがあり、5重量部を超えて配合しても、それ以上の効果はえられない。上記光重合開始剤の配合量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は3重量部である。
【0026】
上記気体発生剤としては特に限定されないが、60℃以上に加熱することにより気体を発生するものが好適である。上記気体発生剤としては特に限定されないが、例えば、アゾ化合物、アジド化合物等が好適である。
【0027】
上記アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−メチルプロピル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−メチルエチル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−プロピル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−エチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドロレート、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラハイドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾイリン−2−イル]プロパン}ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミダイン)ハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−アミノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシアシル)−2−メチル−プロピオンアミダイン]、2,2’−アゾビス{2−[N−(2−カルボキシエチル)アミダイン]プロパン}、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアンカルボニックアシッド)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等が挙げられる。
これらのアゾ化合物は、熱等による刺激により窒素ガスを発生する。
【0028】
上記アジド化合物としては、例えば、3−アジドメチル−3−メチルオキセタン、テレフタルアジド、p−tert−ブチルベンズアジド、3−アジドメチル−3−メチルオキセタンを開環重合することにより得られるグリシジルアジドポリマー等のアジド基を有するポリマー等が挙げられる。これらのアジド化合物は、特定の波長の光、熱、超音波及び衝撃等による刺激を与えることにより分解して、窒素ガスを発生する。
【0029】
これらの気体発生剤のうち、上記アジド化合物は衝撃を与えることによっても容易に分解して窒素ガスを放出することから、取り扱いが困難であるという問題がある。更に、上記アジド化合物は、いったん分解が始まると連鎖反応を起こして爆発的に窒素ガスを放出しその制御ができないことから、爆発的に発生した窒素ガスによって被着体が損傷することがあるという問題もある。このような問題から上記アジド化合物の使用量は限定されるが、限定された使用量では充分な効果が得られないことがある。
【0030】
一方、上記アゾ化合物は、アジド化合物とは異なり衝撃によっては気体を発生しないことから取り扱いが極めて容易である。また、連鎖反応を起こして爆発的に気体を発生することもないため被着体を損傷することもなく、光の照射を中断すれば気体の発生も中断できることから、用途に合わせた接着性の制御が可能であるという利点もある。従って、上記気体発生剤としては、アゾ化合物を用いることがより好ましい。
【0031】
上記アゾ化合物は、10時間半減期温度が60℃以上であることが好ましい。10時間半減期温度が60℃未満であると、本発明の接着性物質は、キャストにより成形して乾燥する際に発泡を生じてしまったり、経時的に分解反応を生じて分解残渣がブリードしてしまったり、経時的に気体を発生して貼り合わせた被着体との界面に浮きを生じさせてしまったりすることがある。10時間半減期温度が60℃以上であれば、耐熱性に優れていることから、高温での使用及び安定した貯蔵が可能である。
【0032】
10時間半減期温度が60℃以上であるアゾ化合物としては、下記一般式(1)で表されるアゾアミド化合物等が挙げられる。下記一般式(1)で表されるアゾアミド化合物は、耐熱性に優れていることに加え、後述するアクリル酸アルキルエステルポリマー等の粘着性を有するポリマーへの溶解性にも優れ、接着性物質中に粒子として存在しないものとすることができる。
【0033】
【化1】

【0034】
式(1)中、R及びRは、それぞれ低級アルキル基を表し、Rは、炭素数2以上の飽和アルキル基を表す。なお、RとRは、同一であっても、異なっていてもよい。
【0035】
上記一般式(1)で表されるアゾアミド化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−メチルプロピル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−メチルエチル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−プロピル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−エチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]等が挙げられる。なかでも、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)及び2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]は、溶剤への溶解性に特に優れていることから好適に用いられる。
【0036】
上記気体発生剤は、本発明の仮接着用接着剤中に粒子として存在しないことが好ましい。なお、本明細書において、気体発生剤が粒子として存在しないとは、電子顕微鏡により本発明の接着性物質を観察したときに気体発生剤を確認することができないことを意味する。
【0037】
上記気体発生剤を粒子として存在しないようにするには、通常、本発明の仮接着用接着剤中に溶解する気体発生剤を選択するが、本発明の仮接着用接着剤中に溶解しない気体発生剤を選択する場合には、例えば、分散機を用いたり、分散剤を併用したりすることにより本発明の仮接着用接着剤中に気体発生剤を微分散させる。本発明の仮接着用接着剤中にアゾ化合物を微分散させるためには、気体発生剤は、微小な粒子であることが好ましく、更に、これらの微粒子は、例えば、分散機や混練装置等を用いて必要に応じてより細かい微粒子とすることが好ましい。すなわち、電子顕微鏡により本発明の仮接着用接着剤を観察したときに気体発生剤を確認することができない状態まで分散させることがより好ましい。
【0038】
上記気体発生剤の配合量としては、上記(メタ)アクリレート化合物100重量部に対する下限が5重量部である。上記気体発生剤の配合量が5重量部未満であると、気体を発生させても充分な剥離圧力が得られず、剥離ができない。上記気体発生剤の配合量の好ましい下限は7重量部である。一方、上記気体発生剤の配合量の好ましい上限は80重量部である。上記気体発生剤の配合量が80重量部を超えると、アクリレート化合物に溶解しないので保管時等、必要でない時に剥離が生じてしまうことがある。上記気体発生剤の配合量のより好ましい上限は60重量部である。
【0039】
本発明の仮接着用接着剤は、更に、フィラーを含有することが好ましい。フィラーを含有することにより、フィラーの周囲での気泡の発生が容易に起こり、剥離時間の短縮に繋がる。また、フィラーが均一に分散されていると、気泡の発生する部分に偏りがなくなり、剥離がスムーズに行われるという効果が得られる。
【0040】
上記フィラーとしては特に限定されず、例えば、無機化合物、シリカ、金属、プラスチック等からなるものが挙げられる。これらのフィラーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、シリカ、又は、プラスチックからなるものが好適である。
【0041】
上記フィラーの平均粒径の好ましい下限は20μm、好ましい上限は1000μmである。上記フィラーの平均粒径が20μm未満であると、フィラー周囲の気泡発生が不充分となることがあり、1000μmを超えると、接着剤の膜厚が必要以上に厚くなることがある。
【0042】
上記フィラーの配合量としては、上記(メタ)アクリレート化合物100重量部に対する好ましい下限が0.01重量部、好ましい上限が10重量部である。上記フィラーの配合量が0.01重量部未満であると、気泡発生がスムーズでなく剥離時間短縮にならないことがあり、10重量部を超えると、仮接着用接着剤の接着力が劣ることがある。上記フィラーの配合量のより好ましい下限は0.05重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0043】
本発明の仮接着用接着剤を製造する方法としては特に限定されず、上記(メタ)アクリレート化合物、光重合開始剤、及び、気体発生剤を従来公知の方法により混練する方法等が挙げられる。
【0044】
本発明の仮接着用接着剤を用いて、ハードディスク用ガラス基板を製造する方法について説明する。
まず、円盤状に成形したガラスの複数枚を、本発明の仮接着用接着剤を用いて貼り合わせて積層し、ガラス越しに紫外線を照射することにより仮接着用接着剤を硬化させる。これにより、穴あけ加工時の衝撃でも剥離しない充分な接着力が発現する。
なお、上記アゾ化合物、アジド化合物等の気体発生剤は、紫外線照射によっても気体を発生し得る。従って、気体発生剤から気体が発生しない程度の照射量の紫外線を照射するか、又は、気体発生剤の感光域から外れた波長の紫外線を照射する。
【0045】
次いで、複数枚のガラス基板を積層した状態で穴あけ加工を行う。穴あけ加工の具体的な方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0046】
穴あけ加工後の積層体を、60℃以上に加熱した水中に浸漬する。これにより上記気体発生剤から気体が発生し、接着面の少なくとも一部を剥離することから、容易に個々のガラス基板に剥離することができる。とりわけ、上記(メタ)アクリレート化合物として芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物のエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物を用いる場合には、極めて短時間に剥離を完了することができる。
円盤状に成形したガラスの複数枚を、本発明の仮接着用接着剤を用いて貼り合わせて積層し、ガラス越しに紫外線を照射することにより仮接着用接着剤を硬化させる工程と、複数枚のガラス基板を積層した積層体の穴あけ加工を行う工程と、穴あけ加工後の積層体を、60℃以上に加熱した水中に浸漬することにより剥離を行う工程とを有するハードディスク用ガラス基板の製造方法もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、ハードディスク用のガラス基板の穴あけ加工時においてガラス基板同士を仮接着するための接着剤であって、穴あけ加工時の衝撃でも剥離しない充分な接着力と、穴あけ加工後に糊残りすることなく加熱した水中で容易に剥離できる剥離性とを両立した仮接着用接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
脂環式多官能アクリレートとしてライトエステルDCP−M100重量部、単官能脂環式アクリレートとしてジシクロペンテニルアクリレート50重量部、多官能脂肪族アクリレートしてエポキシエステル40EM50重量部、光重合開始剤としてイルガキュアー379EG4重量部加え60℃に加熱し、2時間開始剤を溶解した。40℃以下に温度を下げた後、ガス発性剤としてアゾ化合物としてVF−096を20gとV−601を15gを加え透明になるまで溶解して、仮接着用接着剤を得た。
【0050】
(実施例2〜10、比較例1〜4)
表1〜3に従い、実施例1と同様にして仮接着用接着剤を製造した。
なお、本実施例、比較例においては、以下の化合物等を用いた。
【0051】
(1)芳香族を骨格に有する単官能(メタ)アクリレート化合物
フェノールエチレンオキサイド2モル変性アクリレート(東亞合成社製、M−101)
フェノールエチレンオキサイド4モル変性アクリレート(東亞合成社製、M−102)
【0052】
(2)脂環式構造を骨格に有する単官能(メタ)アクリレート化合物
ジシクロペンテニルアクリレート(日立化成社製、FA−511A)
ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成社製、FA−512A)
t−ブチルシクロヘキシルアクリレート(ダイセルユーシービー社製、IRR164)
【0053】
(3)芳香族を骨格に有する多官能(メタ)アクリレート化合物
ビスフェノールAのエチレンオキサイド4モル付加物ジメタクリレート(共栄社製、ライトエステルBP−4EM)
ビスフェノールAのエチレンオキサイド6モル付加物ジメタクリレート(共栄社製、ライトエステルBP−6EM)
ビスフェノールAのエチレンオキサイド20モル付加物ジアクリレート(サートマー社製、SR−9036)
EB3700(ダイセルサイテック社製、)
【0054】
(4)脂環式構造を骨格に有する多官能(メタ)アクリレート化合物
ジメチロールトリシクロデカンジメタクリレート(共栄社製、ライトエステルDCP−M)
ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(ダイセルサイテック社製、IRR214)
【0055】
(5)その他の(メタ)アクリレート化合物
エチレングリコール末端ジメトキシアクリレート(共栄社製、エポキシエステル40EM)
エチレングリコールジアクリレート(日本油脂社製、ライトエステルEG)
2エチルヘキシルメタクレート(日本油脂社製、ブレンマーEHMA)
グリセリン末端ジメトキシアクリレート(共栄社製、エポキシエステル80FAM)
【0056】
(6)光重合開始剤
2−(ジメチルアミノ)−2−[(4メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン(チバガイギー社製、イルガキュアー379EG)
ジフェニル(2,4,6トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド(チバガイギー社製、ダロキュアーTPO)
【0057】
(7)気体発生剤 10時間 半減温度
2,2’アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド](和光純薬社製、VF−096、96℃)
2,2’アゾビス(2メチルブチロニトリル)(和光純薬社製、V−59、67℃)
1,1’アゾビス(シクロヘキサンー1−カルボニトリル)(和光純薬社製、V−40、88℃)
ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬社製、V−601、66℃)
2,2’アゾビス(N−ブチロー2−メチルプロピオネート(和光純薬社製、Vam−110、110℃)
【0058】
(評価)
実施例1〜10、比較例1〜4で得られた仮接着用接着剤について、以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0059】
(1)接着力試験
得られた仮接着用接着剤を1枚のアルカリ硝子で出来たスライド硝子に垂らし同じスライド硝子をかぶせた。このときの接着面積は5mmΦであった。紫外線照射して、接着された1対の試験片を作製した。試験片をロイド製インストロンにて5mm/分の速度で引っ張り試験を行い接着力を測定した。
【0060】
(2)硬化収縮試験
MINIDENS&MINIDENS−TOL社製の自動密度計にて、比重法試験により接着剤の硬化前後の比重を測定することにより、体積収縮率を測定した。
【0061】
(3)ガラス転移温度の測定
粘弾性測定装置(IE計測社製、DVA−200)を用い20℃〜150℃での温度範囲で引っ張りモードによる計測を行いtanδのピークをもってガラス転移温度を測定した。
【0062】
(4)剥離試験
得られた仮接着用接着剤を1枚のアルカリ硝子で出来たスライド硝子に垂らし同じスライド硝子をかぶせた。このときの接着面積は5mmΦであった。紫外線照射して、接着された1対の試験片を作製した。
試験片を、60℃に加熱した水中に浸漬し、剥離の状況、剥離までに要した時間、剥離後の糊残りの有無を評価した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、ハードディスク用のガラス基板の穴あけ加工時においてガラス基板同士を仮接着するための接着剤であって、穴あけ加工時の衝撃でも剥離しない充分な接着力と、穴あけ加工後に糊残りすることなく加熱した水中で容易に剥離できる剥離性とを両立した仮接着用接着剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードディスク用のガラス基板の穴あけ加工時においてガラス基板同士を仮接着するための接着剤であって、
少なくとも、(メタ)アクリレート化合物、光重合開始剤、及び、気体発生剤を含有し、
前記(メタ)アクリレート化合物の60重量%以上が、芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有し、
前記(メタ)アクリレート化合物100重量部に対して、前記気体発生剤を5重量部以上含有する
ことを特徴とする仮接着用接着剤。
【請求項2】
(メタ)アクリレート化合物の50重量%が、芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する2官能以上の(メタ)アクリレート樹脂であることを特徴とする請求項1記載の仮接着用接着剤。
【請求項3】
芳香族及び/又は脂環式構造を骨格に有する(メタ)アクリレート化合物は、エチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物であることを特徴とする請求項1又は2記載の仮接着用接着剤。
【請求項4】
気体発生剤は、アゾ化合物及び/又はアジド化合物であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の仮接着用接着剤。
【請求項5】
更にフィラーを含有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の仮接着用接着剤。
【請求項6】
円盤状に成形したガラスの複数枚を、請求項1、2、3、4又は5記載の仮接着用接着剤を用いて貼り合わせて積層し、ガラス越しに紫外線を照射することにより仮接着用接着剤を硬化させる工程と、
前記複数枚のガラス基板を積層した積層体の穴あけ加工を行う工程と、
前記穴あけ加工後の積層体を、60℃以上に加熱した水中に浸漬することにより剥離を行う工程とを有する
ことを特徴とするハードディスク用ガラス基板の製造方法。

【公開番号】特開2010−79958(P2010−79958A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244485(P2008−244485)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】