説明

伝動ベルト補強用炭素繊維コード、その製造方法、およびこれを用いた伝動ベルト

【課題】優れた耐熱接着性と耐疲労性を発現し、かつ、ベルト走行時の単面のケバ立ちが抑制された伝動ベルト補強用炭素繊維コード、およびそれを用いた伝動ベルトを提供する。
【解決手段】炭素繊維束に、分子内に二重結合を有するポリウレタンを含む樹脂組成物を含浸させた後、これを2〜15回/10cmで片撚りし、その表面にゴム糊を付着させてなる伝動ベルト補強用炭素繊維コード、および無撚りの炭素繊維束に5〜50mg/dTexの張力下で、前記ポリウレタンを含む樹脂組成物を含浸させた後熱処理する工程A、樹脂組成物を含浸した炭素繊維束に片撚りを施す工程B、撚糸された炭素繊維束にゴム糊を付着させて張力下で熱処理を行う工程Cを含む製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトの芯体として好適に使用できる伝動ベルト補強用炭素繊維コードに関するものであり、詳しくは、ゴムと伝動ベルト補強用炭素繊維コードの接着性、およびゴム中での伝動ベルト補強用炭素繊維コードの耐疲労性、さらには、伝動ベルト端面の炭素繊維のケバ立ち性を改善した伝動ベルト補強用炭素繊維コードに関する。また、これを用いた伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は高強度、高弾性率、寸法安定性、耐熱性等の優れた特性を有するため、動力伝動ベルト等のゴム製品の補強材として注目されている。しかし、従来公知の繊維と比較し、炭素繊維はゴムとの接着性、およびゴム中での耐疲労性が劣るため、未だ実用化に至っていない。そのため、従来から接着性、耐疲労性の改善のため、これまで種々の改善策が検討されてきた。
【0003】
たとえば、一定値以上の破断伸度の炭素繊維束にポリウレタンを含む樹脂組成物を含浸し、熱処理した後、RFL接着剤で処理して得られるゴム補強用炭素繊維コードが開示されている(特許文献1)。該処方では、実用に足る十分な接着力が得られず、伝動ベルト補強材として使用した場合、疲労寿命が短いという問題がある。
【0004】
また、炭素繊維をエポキシウレタン樹脂の溶液に浸漬し、熱処理した後、アクリロイル基とエポキシ基を有するアクリレート化合物を含んだゴム糊で処理する方法が開示されている(特許文献2)。該処方では、ある程度の接着性、耐疲労性は発現するものの、伝動ベルト用としての実用的な接着性、耐疲労性は不充分であるという問題がある。
【0005】
また、炭素繊維束にエポキシ樹脂とゴムラテックスの混合物を含浸させ、熱処理した後、RFL接着剤で処理する方法が開示されている(特許文献3)。該処方では、ある程度の初期接着力、および耐疲労性は発現するものの、自動車のエンジンに用いられるOHC駆動用歯付きベルトのような高温雰囲気下で使用される伝動ベルトに用いられると、耐熱下での接着力が不足し、その結果、実用的な疲労寿命が得られないという問題がある。
【0006】
また、炭素繊維束に、エポキシ樹脂とアクリロニトリルブタジエンゴムを含浸させ、熱処理した後、ゴム糊で処理する処方が開示されている(特許文献4)。該処方では、高温雰囲気下での耐熱接着性も良好であるが、自動車オーバーヘッド・カムシャフト(OHC)用ベルトのような歯付きベルトの形態として、ベルト走行した場合、ベルト端面から炭素繊維の単糸がほつれ出てくるため、長時間の走行が不可能になるという問題を有していた。
【特許文献1】特開2002−71057号公報
【特許文献2】特公昭63−63671号公報
【特許文献3】特開昭60−181369号公報
【特許文献4】特開2004−100113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、優れた耐熱接着性と耐疲労性を発現し、かつ、ベルト走行時の単面のケバ立ちが抑制された伝動ベルト補強用炭素繊維コード、およびそれを用いた伝動ベルトを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、炭素繊維束に、分子内に二重結合を有するポリウレタンを含む樹脂組成物を含浸させた後、これを2〜15回/10cmで片撚りし、その表面にゴム糊を付着させてなる伝動ベルト補強用炭素繊維コードである。
【0009】
なお、本発明の伝動ベルト補強用炭素繊維コードにおいて以下の(1)〜(4)が好ましい条件であり、これらの条件の適応によりさらに優れた効果を期待することができる。(1)前記樹脂組成物の含浸量を、含浸後の乾燥重量で、前記炭素繊維コード全体の10〜30wt%。
前記炭素繊維束100重量部に対して、前記樹脂組成物の含浸量を、含浸後の乾燥重量で10〜30重量部とすること。
(2)前記ポリウレタンの臭素価(Br.V)が、1.0g/100g〜15.0g/100gであること。
(3)前記ポリウレタンのガラス転移温度が−80℃〜−30℃であり、かつ熱溶融温度が180℃〜260℃であること。
(4)前記伝動ベルト補強用炭素繊維コードのガーレー曲げ剛さが20000mg〜80000mgであること。
【0010】
また、本発明は、無撚りの炭素繊維束に5〜50mg/dTexの張力下で、分子内に二重結合を有するポリウレタンを含む樹脂組成物を含浸させた後熱処理する工程A、樹脂組成物を含浸した炭素繊維束に2〜15回/10cmの片撚りを施す工程B、撚糸された炭素繊維束にゴム糊を付着させて0.1〜0.8g/dTexの張力下で熱処理を行う工程Cを含むことを特徴とする伝動ベルト補強用炭素繊維コードの製造方法であり、また、前記の伝動ベルト補強用炭素繊維コードをベルト芯体として使用することを特徴とする伝動ベルトである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、実用上十分な耐熱接着性、耐疲労性に優れた伝動ベルト補強用炭素繊維コードを提供することができ、かつ、ベルト走行時のベルト端面からの炭素繊維の単糸のホツレが無く、長時間の走行が可能な伝動ベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のゴム補強用炭素繊維コード(以下コードと称す)は、伝動ベルト、特に歯付きベルトの用途として、実用的な性能を発現させるべく、鋭意検討した結果、ベルト走行時の高温雰囲気下に耐え得る耐熱接着性、繰り返し応力に耐えうる耐疲労性、ベルト端面からの単糸のケバ立ちの抑制を改良したものである。
【0013】
本発明に用いる炭素繊維束は、その製造方法が限定されるものではないが、紡糸工程により前駆体繊維を得て、その後、耐炎化(熱安定化、不融化)工程、炭化(炭素化)工程を経て炭素繊維束としたものを用いることができる。さらに熱処理を施した黒鉛繊維束も本発明でいうところの炭素繊維束に含むものである。なお、かかる炭素繊維束を得るに際しての各工程の処理温度、昇温速度、処理速度、延伸比、張力などの条件は目的とする炭素繊維束の特性によって適宜選択することができる。例えば前駆体繊維束を300℃未満の空気中で耐炎化処理し、かかる耐炎化繊維を300℃以上2000℃未満の不活性雰囲気中で炭化処理して炭素繊維束としたものを用いることができる。更に2000〜3000℃の不活性雰囲気中で熱処理して黒鉛繊維としたものを用いてもよい。
【0014】
本発明に用いる炭素繊維束の前駆体繊維束としては、ポリアクリロニトリル、レーヨン、リグニン、ポリビニルアルコール、ポリアセチレン、ピッチなどを原料とする各種前駆体繊維束が挙げられるが、特にこれらに限定するものではない。高強度という点では、ポリアクリロニトリルを原料とした前駆体が好ましく用いられる。前駆体繊維束はフィラメント数1000〜24000、好ましくは6000以上、12000以下である。
【0015】
前駆体繊維束を得るための紡糸方法としては、原料に応じて湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸、溶融紡糸などが挙げられる。操業性の点からは、湿式紡糸、乾湿式紡糸が好ましく用いられ、乾湿式紡糸がより好ましい。
【0016】
さらに、製品目的によっては得られた炭素繊維束を仕上げ処理することが好ましい。かかる仕上げ処理には表面処理やサイジング剤の付与などが含まれる。かかる表面処理法としては、気相中での加熱、紫外線等による酸化、液相中で酸化剤を用いた化学的酸化又は水溶液中で電気化学的手法により酸化する方法などが挙げられる。かかる処理により伝動ベルト補強用炭素繊維コードの強化繊維として用いる場合の樹脂との親和性、例えば接着性、濡れ性、分散性等の表面特性を高められる。さらに、サイジング剤を付与することにより集束性を増し、繊維の取り扱いが容易となる。炭素繊維束の形態としては、前駆体繊維の単糸を2本以上合わせて撚りをかけて熱処理をする有撚糸、単糸を2本以上合わせて撚りをかけて熱処理し、その後撚りを解く解撚糸、実質的に撚りをかけずに熱処理を行う無撚糸などがあるが、伝動ベルト補強用炭素繊維コードの加工性と強度特性のバランスを考慮すると無撚り糸とすることが必要であり、解撚糸を用いることも好ましい。
【0017】
本発明において用いる炭素繊維束は、その結節強度が通常500MPa以上であることが好ましく、より好ましくは600MPa以上、さらに好ましくは700MPa以上であることが良い。500MPa未満であると、耐疲労性が不足しがちとなり、本発明の用途に使用できないことがある。特に、結節強度が750MPaあれば、本発明の効果を奏するに当たり、十分であることが多い。
【0018】
さらに、本発明に用いる炭素繊維束は、その破断伸度が通常1.7%以上であり、好ましくは1.8%以上、より好ましくは1.9%以上であるのが良い。1.7%未満であると、過大な応力による変形を受けるとコードが破断し易くなり、本発明の用途に使用できないことがある。なお、本発明の目的には炭素繊維の破断伸度は2.5%あれば十分である。
【0019】
本発明における炭素繊維束は、その表面に溶解度パラメータ(SP値)が9.0〜12.0(cal)1/2/(cm)3/2の範囲にあるサイジング剤を付与されたものであることが好ましい。SP値が9.0未満の場合、ゴム配合物との接着性が充分に得られないことがある。また、SP値が12.0を越える場合、単繊維同士が凝集しやすく充分な耐疲労性が得られないことがある。ここで、溶解性パラメータ(SP値)とは、相溶性の指標であり、Polym.Eng.Sci.,14(2),147−154(1974)に記載されたFedorsの方法により分子構造から求められる。
【0020】
かかるサイジング剤の炭素繊維束に対する付着量は、好ましくは0.1〜1.5重量%、より好ましくは0.3重量%以上、1.3重量%以下の範囲内であるのがよい。これらサイジング剤を炭素繊維束に付与する方法としては、例えば、サイジング剤を溶解又は分散させたサイジング液中に炭素繊維を通過させることで炭素繊維表面に付着させ、その後加熱して溶媒を除去する方法がある。
【0021】
本発明において溶解性パラメータ(SP値)が9.0〜12.0となるサイジング剤としてはいかなるものでも用いることが可能であるが、エポキシ基を有する化合物が好ましく用いられる。
【0022】
本発明に使用する炭素繊維束は、その総繊度が3000dTex〜10000dTexであることが好ましく、より好ましくは、4000dTex〜8000dTexが良い。3000dTex未満であると、樹脂組成物を含浸処理する工程において、フィラメント切れがおこることがあり、工程通過性が悪くなることがある。10000dTexを越えるとであると、樹脂組成物を炭素繊維束内部まで含浸させることが困難になることがあり、炭素繊維コードの耐疲労性が不足することがある。
【0023】
本発明に使用する炭素繊維束は、予め撚りがかけれていない無撚のものが好ましく、よりがあったとしても、5個/m以下のよりであるのが好ましい。無撚であることにより、炭素繊維束に樹脂組成物が含浸されやすくなり、炭素繊維束の内部まで十分に樹脂が含浸されることが可能となる。
【0024】
本発明の伝動ベルト補強用炭素繊維コードは、上述した特定の炭素繊維束に、下記に記す特定のポリウレタンを含む樹脂組成物を含浸させ、さらにゴム糊で処理することで得られる。炭素繊維束に含浸する樹脂組成物は、炭素繊維の単糸同士の擦過を防止する機能、炭素繊維表面、およびゴム糊との接着性を発現する接着剤としての機能、耐熱下、長時間の走行においても柔軟性を保持できる耐熱性の高い樹脂としての機能、炭素繊維フィラメント同士を結束する集束剤としての機能が求められ、下記のような特定の樹脂組成物を使用することにより、上記機能が有効に発現できる。
【0025】
本発明の伝動ベルト補強用炭素繊維コードは、上記炭素繊維束に、分子内に二重結合を有するポリウレタンを含む樹脂組成物を含浸させることが必要である。分子内に二重結合を有することで、ゴム糊との接着力が発現し、伝動ベルト補強用コードとして強固な接着力が発現する。また、ポリウレタンが一定の抗張力、モジュラスを有することで、炭素繊維コードの耐疲労性を発現し、また、炭素繊維フィラメントを拘束することで、ベルト端面からのケバ立ちを抑制する。
【0026】
本発明で用いることのできる分子内に二重結合を有するポリウレタンは、その製造方法は特に限定されるものでは無いが、例えば、活性アミノ基含有ポリウレタンエマルジョンに、水の存在下、重合性不飽和基含有イソシアネート化合物を添加し、反応させて得られる。
【0027】
前記活性アミノ基含有ポリウレタンエマルジョンは、2個以上の活性水素を含有する化合物と有機ポリイソシアネートとの反応により得られる分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを水中に乳化分散し、その後、同一分子内に少なくとも2個の一級アミノ基と少なくとも1個の二級アミノ基とを有するポリアミンを添加し反応させて得られる。2個以上の活性水素を含有する化合物としては、末端又は分子中に2個以上のヒドロキシル基を含むもので、一般に公知のポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルエステル、ポリチオエーテル、ポリアセタール、ポリブタジエン、ポリシロキサン等のポリオール化合物が挙げられる。なお、必要により、低分子量の1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、エチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等のグリコール、トリオール等を使用してもよい。
【0028】
前記重合性不飽和基含有イソシアネート化合物は、同一分子内に(メタ)アクリロイル基、アリル基およびスチレン基からなる群から選択される少なくとも1個の基と少なくとも1個のイソシアネート基とを含有する化合物とすることができる。
【0029】
ここで、前記重合性不飽和含有イソシアネートの具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、シクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の一般的な有機ポリイソシアネート又はこれらの2量体もしくは3量体と、ヒドロキシルメタアクリレート、ヒドロキシルアクリレート等のアクリロイル基含有ヒドロキシル基化合物および/又はこれらのアルキレンオキサイド付加物、又はアリルアルコール及び/又はアリルアルコールのアルキレンオキサイド付加物との付加反応生成物等が挙げられる。
【0030】
一方、前記有機ポリイソシアネート化合物としては、従来より慣用されている芳香族、脂肪族又は脂環族の有機ポリイソシアネートが使用される。例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の有機ポリイソシアネート又はこれらの混合物が挙げられる。
【0031】
本発明で使用する分子内に二重結合を有するポリウレタンの好ましい具体例としては、同一分子内に(メタ)アクリロイル基、アリル基またはスチレン基を含有するポリウレタンであり、例えば“スーパーフレックスR5002”(第一工業製薬(株)製、)、“2546D”(第一工業製薬(株)製)、 “スーパーフレックスE−2000”(第一工業製薬(株)製)、“F2008D”(第一工業製薬(株)製)などが挙げられる。
【0032】
また、前記ポリウレタンの乾燥皮膜の抗張力は、5N/mm〜30N/mmであることが好ましく、より好ましくは8N/mm〜25N/mm、さらに好ましくは10N/mm〜20N/mmであるのが良い。5N/mm未満であると、ベルト走行中の繰り返し応力に耐えることができず、樹脂が破壊し、炭素繊維フィラメント同士の擦過が生じ、結果として十分な疲労寿命が得られない可能性がある。また、30N/mmを越えると、コードが硬くなり、耐疲労性が悪くなることがある。
【0033】
さらに、前記ポリウレタンの乾燥皮膜の100%モジュラスは、0.5N/mm〜5N/mmであることが好ましく、より好ましくは0.7N/mm〜4N/mm、さらに好ましくは0.8N/mm〜3N/mmであるのが良い。5N/mm未満であると、樹脂の凝集力が弱く、ベルト走行時の単面からの炭素繊維フィラメントのケバ立ちを抑制することができないことがある。5N/mmを越えると、コードが硬くなり、耐疲労性が悪くなることがある。
【0034】
ここで、ポリウレタンの乾燥皮膜の物性は次のようにして求めた値である。すなわち、ガラス平面上にポリウレタンエマルジョンを流延し、室温にて24時間乾燥し、80℃にて6時間乾燥、その後、100℃にて30分加熱して、ポリウレタンの乾燥皮膜を得る。ここで、膜厚は、0.5mm〜1.0mmになるように調整した。得られた乾燥皮膜を、ダンベル3号型試験片に打ち抜き、測定サンプルとした。これをテンシロンを用いて引張試験を行い、抗張力および100%モジュラスを読み取った。
【0035】
前記二重結合を有するポリウレタンの臭素価(Br.V)は、1.0g/100g〜15.0g/100gであるのが好ましく、より好ましくは2.0g/100g〜15.0g/100g、より好ましくは3.0g/100g〜10.0g/100gであるのが良い。1.0g/100g未満であると、ゴム糊との接着力が発現せず、ベルト走行した場合、コード/ゴム界面の剥離が早期に発生し、十分な疲労寿命が得られないことがある。15.0g/を越えると、耐熱性が不充分になることがあり、ベルト走行時に十分な疲労寿命が得られないことがある。
【0036】
また、前記ポリウレタンは、ガラス転移温度が−80℃〜−30℃であるのが良く、好ましくは−70℃〜−40℃であるのがよい。−80℃未満であると、収束性が悪くなることがあり、ベルト走行時の炭素繊維フィラメントのケバ立ちを抑制することができないことがある。−30℃を超えると、寒冷地でのベルト走行時に樹脂の柔軟性が失われ、耐疲労性が悪くなることがある。
【0037】
また、前記ポリウレタンは、熱溶融温度が180℃〜260℃であるのが良く、好ましくは200℃〜240℃であるのが良い。180℃未満であると、樹脂の耐熱性が乏しくなり、ベルトの耐疲労性が悪くなることがある。260℃を超えると、樹脂の収束性が悪くなることがあり、ベルト走行時の炭素繊維フィラメントのケバ立ちを抑制することができないことがある。
また、本発明に用いられる樹脂組成物は、接着性を向上させる観点から、エポキシ樹脂および/または、ゴムラテックスが含まれていても良い。
【0038】
本発明で用いられるエポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、いかなる化合物を用いても差し支えない。
【0039】
分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物は特に限定されないが、例えば、分子内に水酸基を有する化合物から得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、分子内にアミノ基を有する化合物から得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、分子内にカルボキシル基を有する化合物から得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、分子内に不飽和結合を有する化合物から得られる環式脂肪族エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネートなどの複素環式エポキシ樹脂、あるいはこれらから選ばれる2種類以上のタイプが分子内に混在するエポキシ樹脂などを用いることができる。
【0040】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンのようなハロゲン含有エポキシド類との反応により得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールFと前記ハロゲン含有エポキシド類との反応により得られるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニルと前記ハロゲン含有エポキシド類との反応により得られるビフェニル型エポキシ樹脂、レゾルシノールと前記ハロゲン含有エポキシド類との反応により得られるレゾルシノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールSと前記ハロゲン含有エポキシド類との反応により得られるビスフェノールS型エポキシ樹脂、多価アルコール類と前記ハロゲン含有エポキシド類との反応生成物であるポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ビス−(3,4−エポキシ−6−メチル−ジシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシシクロヘキセンエポキシドなどの不飽和結合部分を酸化して得られるエポキシ樹脂、その他ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、およびこれらのハロゲンあるいはアルキル置換体などを使用することができる。
【0041】
中でも、伝動ベルト補強用炭素繊維コードの柔軟性を発現するため、環状構造を有しない脂肪族系エポキシ樹脂が好ましく、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなど多価アルコール類とエピクロロヒドリンとの反応物を好ましく用いることができる。とりわけ、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルは、耐屈曲疲労性の向上に特に効果的であり、好ましく用いられる。
【0042】
また本発明に用いられるエポキシ樹脂は、エポキシ当量が50〜500が好ましく、より好ましくは100以上、300以下が良い。エポキシ当量が50未満であると、ゴム補強用炭素繊維コードの柔軟性が乏しくなり、結果として耐屈曲疲労性が不十分となることがある。500を越えると接着性が乏しくなることがある。
【0043】
本発明における樹脂組成物に含むことのできるゴムラテックスは特に限定されるものではなく、ブタジエンゴムラテックス、イソプレンゴムラテックス、ウレタンゴムラテックス、天然ゴムラテックス、スチレン−ブタジエンゴムラテックス、アクリロニトリル−ブタジエンゴムラテックス、水素化アクリロニトリルブタジエンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックスおよびビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックスなどが使用できる。これらは単独でも使用できるし、混合して使用することもできる。
【0044】
ゴムラテックスの種類は、伝動ベルトに用いるゴム基材との相性により適宜選択することができる。例えば、ゴム基材として、水素化アクリロニトリルブタジエンゴムを用いる場合には、ゴムラテックスの全ゴム成分100重量%中、アクリロニトリルブタジエンゴムラテックスに由来するゴム成分が、50重量%以上を占めることが好ましい。さらに好ましくは、水素化アクリロニトリルブタジエンゴムラテックスが占めることが、耐熱性の観点から好ましい。
【0045】
また本発明の伝動ベルト補強用炭素繊維コードは、上記樹脂組成物が含浸された後に撚りを掛けられたものであることが必要である。その撚り数は2〜15回/10cm、好ましくは3〜12回/10cm、より好ましくは5〜10回/10cmである。15回/10cmを超えると、キンク(局部的によりが詰まったり、戻ったりした状態)が発生しやすくなり、強力低下、操業性悪化につながることがある。2回/10cm未満であると、撚り数が十分でないため、曲げの応力を受けた時に応力を分散できず、一点に集中することから、疲労が進行しやすくなり、結果として耐疲労性が不足することがある。また、コード径、強力を目的に応じて調整するため、前記下撚りした炭素繊維コードを数本引き揃えて上撚りを施しても良い。この時、上撚り数は好ましくは1回/10cm〜10回/10cm、より好ましくは2回/10cm〜8回/10cmが良い。10回/10cmを超えると、キンクが発生しやすくなり、強力低下、操業性悪化につながることがある。1回/10cm未満であると、撚り数が十分でないため、曲げの応力を受けた時に応力を分散できず、一点に集中することから、疲労が進行しやすくなり、結果として耐疲労性が不足することがある。撚りの付与は通常用いられる撚糸方法を用いることができ、例えばリング撚糸機を使用することができるが、下撚りしたコードを数本引き揃えて上撚りを施す場合は、撚糸工程の安定性を高める目的から、ロープの製造工程に用いられているストランダーも好ましく使用される。
【0046】
本発明の伝動ベルト補強用炭素繊維コードは、上記撚糸コードの表層部にゴム糊を付着させてなるものである。ゴム糊を付着させないと、ベルト基材との接着性が不充分となり、十分な疲労寿命が得られないことがある。
【0047】
本発明で用いられるゴム糊とは、ゴム配合物と、ポリイソシアネート化合物を必須とする組成物を有機溶剤に溶解させたものである。ゴム配合物とは、ゴムに加硫剤を含んだものをいい、このゴム配合物には、さらに加硫促進剤、老化防止剤などの添加剤を含んでもよい。
【0048】
ゴム配合物は特に限定されるものではなく、用いるゴム基材にあわせて適宜選択することができる。ゴム配合物に含まれるゴムは、例えば天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン酢ビゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム等がある、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム等があり、これらの中から単独あるいは混合して用いることができる。
【0049】
加硫剤としては、硫黄、硫黄化合物および有機過酸化物があるが、硫黄化合物としては塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド等があるが、一般的には硫黄が使用される。また、加硫剤の有機過酸化物としては、例えばジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキサイド)−ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン−3,1,3−ビス−(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、4,4−ジ−t−オキシパレリック酸−n−ブチル、2,2−ジ−t−ブチルパーオキシブタン等が挙げられる。加硫剤としては、架橋反応を引き起こすものであれば特に有機過酸化物と硫黄化合物に限定されるものではない。ただ、好ましくは加工時の温度で架橋反応が極度に進まない加硫剤がより好ましい。
【0050】
加硫剤の添加量(配合量)としてはゴム100重量部に対して0.5重量部以下であることが好ましい。特に好ましくは0.1重量部未満である。0.5重量部を越えるとゴム組成物の架橋が進み、接着剤で処理されたコードが硬くなり、ひいてはゴム中での耐屈曲疲労性が極度に低下するなどの問題が生じる。加硫効果を得るためには、通常は0.001重量部以上使用する。
【0051】
ゴム糊に含まれるポリイソシアネート化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート等のポリイソシアネートが好ましく用いられる。また、かかるポリイソシアネートにトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のように分子内に活性水素を2以上有する化合物を反応させて得られる多過アルコール付加ポリイソシアネートや、前記ポリイソシアネートにフェノール類、第3級アルコール類、第2級アミン類等のブロック化剤を反応させて、ポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック化したブロック化ポリイソシアネートも、ポリイソシアネート化合物として好適に用いられる。
【0052】
ポリイソシアネート化合物の添加量(配合量)としてはゴム100重量部に対して0.001〜0.5重量部であることが好ましい。特に好ましくは0.005〜0.1重量部である。
【0053】
ゴム糊に使用される有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、通常、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、エーテル類、トリクロロエチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素、メチルエチルケトン等が好適に用いられ、最も好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレンである。
【0054】
本発明のコードにおいて、炭素繊維束に付着せしめる樹脂化合物の含浸量は、含浸後の乾燥重量で、炭素繊維コード全体の10〜30wt%とすることが好ましく、より好ましくは15wt%以上、さらに好ましくは18wt%以上、より好ましくは27wt%以下、さらに好ましくは25wt%以下であるのが良い。樹脂組成物の付着量が10wt%未満であると、炭素繊維単糸同士の擦過が生じ、耐疲労性が不足することがある。30wt%を越えると、粘着性が増大し、取り扱い性が困難になることがある。
【0055】
また、ゴム糊は、炭素繊維コード全体に対して3〜15wt%が好ましく、より好ましくは4wt%以上、さらに好ましくは5wt%以上、より好ましくは13wt%以下、さらに好ましくは10wt%以下であるのが良い。ゴム糊の付着量が3wt%未満であると、ゴムとの接着性が不足することがあり、15wt%を越えると、コードの柔軟性が不足し、耐疲労性が不良になることがある。
【0056】
また、本発明において、樹脂組成物中のポリウレタンの含有量は、樹脂組成物の乾燥重量100重量部に対し、ポリウレタンが60重量部以上が好ましく、より好ましくは80重量部以上であるのがよい。60重量部未満であると、樹脂の収束性が悪化し、ベルト走行時に端部から炭素繊維フィラメントのケバ立ちが発生することがある。
【0057】
また、本発明のコードはガーレー曲げ硬さ試験器で測定されるコードのガーレー曲げ硬さが20000〜80000mgであることが好ましく、より好ましくは25000mg以上、さらに好ましくは30000mg以上、より好ましくは70000mg以下、さらに好ましくは60000mg以下であるのがよい。20000mg未満であると、曲げ圧縮応力に弱く、耐疲労性が不足することがある。80000mgを越えると、コードが座屈しやすくなり、繰り返しの応力を受けた際に一点に疲労が蓄積し、結果として耐疲労性が不良になることがある。コードのガーレー曲げ剛さは、樹脂組成物の付着量、熱処理条件、処理工程での張力で調整することができる。
【0058】
本発明のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法は、無撚りの炭素繊維束に5〜50mg/dTexの張力下で、分子内に二重結合を有する樹脂組成物を含浸させた後熱処理する工程A、樹脂組成物を含浸した炭素繊維束に2〜15回/10cmの片撚りを施す工程B、撚糸された炭素繊維束にゴム糊を付着させて0.1〜0.8g/dTexの張力下で熱処理を行う工程Cを含むものであり、すなわち、これら工程を組み合わせた処理を特徴とするものである。
【0059】
分子内に二重結合を有する樹脂組成物は水に分散された水分散体として用いることが、簡便な処理を行うにあたり好適である。この樹脂組成物の水分散体を第1処理液と呼ぶ。第1処理液には、接着性を向上させる観点からエポキシ樹脂および/またはゴムラテックスが含まれていることが好ましい。
【0060】
また、第1処理液の固形分濃度は10〜30重量%が好ましく、より好ましくは15〜25重量%が良い。10重量%未満であると、繊維束への付着量が不十分となり、結果として耐屈曲疲労性が不十分となることがある。30重量%を越えると、樹脂組成物の安定性が不十分となることがある。
【0061】
さらに、該第1処理液は、25℃における粘度が30〜150mPa・sが好ましく、より好ましくは40mPa・s以上、さらに好ましくは50mPa・s以上、より好ましくは120mPa・s以下が良い。30mPa・s未満であると、第1処理液の繊維束からの脱落が多く、固形分付着量が不十分になることがある。150mPa・sを越えると繊維束内部へ第1処理液を浸透させることが困難になることがあり、結果としてコードの耐屈曲疲労性が不十分になることがある。
【0062】
次に本発明の伝動ベルト補強用炭素繊維コードの製造方法について詳述する。
炭素繊維束に第1処理液を付着させる方法は、特に限定されないが、例えばコンピュートリーターを用い、ディップタンクに処理液を満たし、ここに炭素繊維束を通過させる手法が挙げられる。この時、ディップタンク内の炭素繊維束の張力は5〜50mg/dTexであることが必要であり、好ましくは8mg/dTex以上、さらに好ましくは10mg/dTex以上、好ましくは90mg/dTex以下、さらに好ましくは80mg/dTex以下であるのが良い。5mg/dTex未満であると、炭素繊維がディップタンク内のロールから外れやすくなり、プロセス性が悪化することがある。50mg/dTexを越えると、炭素繊維束内部への第1処理液の浸透性が悪くなることがあり、結果として耐疲労性が不足することがある。その後、水分の除去、樹脂組成物の炭素繊維束への定着を促すため熱処理を施す必要がある。熱処理条件は特に規程されないが、接着性の発現と処理の簡便性から、100〜240℃にて60〜300秒の1段階の処理を行うことが好ましい。ここで熱処理条件が不足していると、接着性が不良となることがあり、また過剰な熱処理を行うとコードの柔軟性が悪化し、かつ、コード内にボイドが残り、空隙率が高くなり、耐疲労性が悪くなることがある。ここで空隙率を低くすることと、コード表面のブリスター発生を抑え、表面品位を高める目的から、好ましくは、100〜150℃にて60〜180秒の処理を行った後、150〜240℃にて60〜240秒処理を行う2段階の熱処理を行うことが好ましい。
【0063】
本発明の製造方法では、第1処理液を付着させた後に、2〜15回/10cmの片撚りを施すことが必要であり、好ましくは3回/10cm以上、より好ましくは5回/10cm以上であり、好ましくは12回/10cm以下、より好ましくは10回/10cm以下であるのが良い。15回/10cmを超えると、キンクが発生しやすくなり、強力低下、操業性悪化につながることがある。2回/10cm未満であると、応力を分散できず、一点に集中することから、耐屈曲疲労性が不足することがある。また、コード径、強力を目的に応じて調整するため、前記下撚りしたコードを数本引き揃えて上撚りを施しても良い。この時、上撚り数は好ましくは1〜10回/10cm、より好ましくは2回/10cm以上、8回/10cm以下が良い。10回/10cmを超えると、キンクが発生しやすくなり、強力低下、操業性悪化につながることがある。1回/10cm以下であると、撚り数が十分でないため、耐屈曲疲労性が不足することがある。撚りの付与は通常用いられる撚糸方法を用いることができ、例えばリング撚糸機を使用することができる。また、コード表面の粘着性が高く、リング撚糸機での撚糸が困難な場合は、トラベラーを用いないフライヤー撚糸機が好適に使用される。下撚りしたコードを数本引き揃えて上撚りを施す場合は、撚糸工程の安定性を高める目的から、フライヤー撚糸機が好ましく使用される。
【0064】
さらに本発明のゴム補強用炭素繊維コードの製造方法では、撚糸を行った後に更に、ゴム糊処理を行うことが必要である。詳しくは、ゴム糊を付着させ、一定張力をかけながら熱処理を行うことが必要である。
【0065】
無撚りの炭素繊維束に、分子内に二重結合を有する樹脂組成物を含浸させて熱処理する工程の後、ゴム糊を付着させて熱処理を行い、その後に撚糸を行う製造方法では、本発明の伝動ベルト補強用炭素繊維コードは得られない。撚糸工程を最後に行って得られるゴム補強用炭素繊維コードは、撚り戻りが発生し、取り扱い性が悪くなることや、被着ゴムにトッピングする際に、撚りが戻る部分が生じ、応力が均一に伝達されず、耐疲労性が悪くなることがある。さらには、コードの横断面の断面形状が楕円になり、被着ゴムに並行にトッピングする際、コード同士の重なりが生じることがあり、耐疲労性が悪くなることがある。
【0066】
ゴム糊の処理方法は、特に規程されないが、例えばコンピュートリーターを用いて、上記撚糸コード(第1処理液を付着、熱処理し、撚糸したコード)をゴム糊(このゴム糊を第2処理液と呼ぶ)を貯留させたディップタンク内を通過させ、熱処理することによって得られる。ここで、ゴム糊の濃度は10〜30重量%が好ましく、さらに好ましくは15重量%以上、25重量%以下が好ましい。10重量%未満であると、ゴム糊の付着量が不十分となり、接着力が不十分となることがある。ゴム糊の濃度が30重量%を超えると、ゴム糊の保存安定性が悪くなることがあり、固形分が凝集してくるため濃度低下等がおこり均一にゴム糊を付着させることが困難となる。ここで、ゴム糊の濃度とは、ゴム糊に含まれる乾燥後の固形物質の重量を乾燥前のゴム糊の重量で除した値である。
【0067】
ゴム糊付着工程を経たコードは、熱処理することが必要であるが、この時、コード断面の真円性向上の目的から、0.1g/dTex〜0.8g/dTexの張力をかけながら熱処理を施すことが必要である。張力を付与することで、コードの集束性が向上し、コード断面が真円化が促され、熱処理することでゴム糊がコード全体を覆い、断面の形状が固定される。ここで、張力が0.1g/dTex未満であると、コードの集束力が悪くなり、断面扁平度が楕円状になることがある。0.8g/dTexを越えると、熱処理プロセス途中のガイドロール形状がコード形状を固定化し、楕円状になることがある。また、熱処理が不足すると、ゴム糊の凝集力が不足し、接着性が不足することがある。また、過剰な熱処理を行うとコードが硬くなり、耐疲労性が悪化することがある。
【0068】
以上のように処理して得られる伝動ベルト補強用炭素繊維コードを被着ゴムと密着させ、通常の処理条件にて加硫接着することによつて、炭素繊維と被着ゴムとの間に強固な接着を達成することが可能となる。
【0069】
本発明の伝動ベルトは、ゴムを含んでなる基材が、前記炭素繊維コードにより補強されてなるものである。
【0070】
ここで基材100重量%中、ゴムは50〜100重量%含まれていることが好ましい。
【0071】
基材に含まれるゴムの具体例としては、特に限定されないが、アクリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エピクロロヒドリンンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、多硫化ゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム等を使用することができる。自動車OHC用タイミングベルト用途は、高温下での耐熱性、耐溶剤性が求められることから、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムが最も好ましく用いられる。
【0072】
なお、基材には、主成分であるゴム以外に、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、クマロン樹脂、フェノール樹脂等の有機充填剤、ナフテン系オイル等の軟化剤、老化防止剤、加硫助剤、加工助剤等を必要に応じて含ませてもよい。
【0073】
本発明の伝動ベルトは、例えば、次の方法により製造することができる。すなわち、一方向に引き揃えたコードを、両面からゴムを主成分として含むシート状の基材で挟み込んだ後、かかるコード/ゴム複合体をプレス機内で加熱・加圧し、ゴムを加硫させ、成形する方法である。
【0074】
本発明の伝動ベルトは、コードとゴム基材が高い接着力を有しているため、炭素繊維コードの強力が伝動ベルトの高い強力を発現し、高負荷伝達性を有するとともに、高い耐屈曲疲労性を有するものである。また、同様に炭素繊維コードの弾性率がベルト伸びに反映され、従来のガラス繊維コードで補強されたベルトに対し、伸びが少なくなり、精密駆動、高負荷の確実な伝動に効果を発揮する。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0076】
また、本発明における各種評価方法は、以下に示すとおりである。
【0077】
<炭素繊維コードの評価方法>
(1)接着剥離力(平剥離法)
20×150×6(mm)の未加硫ゴム配合物(表1)上の長手方向に、20/炭素繊維コードのコード径)本で求められる本数の炭素繊維コードを平行に敷き詰め、3MPaの加圧下で160℃、30分間プレス加硫を行い、放冷後、ゴムからコードを剥離することにより測定した。剥離スピードは50mm/minで行い、その時の剥離力をN/20mmで表示した。
【0078】
(2)耐屈曲疲労性評価方法(FS法)
JIS L−1017の記載のファイヤストン法(FS法)に準じた方法で測定した。表1に記載の未加硫ゴムシートをドラムに捲回し、その上に炭素繊維コードを15本/20mmの打ち込み本数で等間隔に捲回し、さらにその上に同一のゴムシートを捲回し、ゴム/コード/ゴムの三層体を準備した。この三層体の上に厚み調整のためのゴムシートを重ね、25×370×5(mm)のベルト状試験片を作製した。これを3MPaの加圧下、160℃、30分間プレス加硫を行い、ベルト状試験片を得た。これをゴム裁断器にて、20×370×5(mm)の形状に裁断し、端面に炭素繊維コードが露出する平ベルト状の試験片を得た。該試験片を1インチプーリーにかけ、190回/分の回転数で、140℃雰囲気下、48時間往復摩擦運動させた。疲労後の試験片からコードを取り出し、強力を測定した。疲労前と疲労後の強力の比(強力保持率、%で示す)を耐屈曲疲労性の指標とした。
【0079】
(3)ベルト端面ケバ立ち性
上記(2)FS試験にて、48次間後にベルト端面から炭素繊維フィラメントのケバ立ち性を目視で判定し、ケバ立ちの量に応じて(C:多い、B:多少あり、A:全くケバ立ち無し)の三段階で判定した。
【0080】
(4)ガーレー曲げ硬さ
1インチ長さの炭素繊維コード試料を安田精機(株)製の「Gurley's stiffness tester」を用い、JIS L1096(1990年)、6.20.1(A法(ガーレー法))に記載の方法に準じて測定し、以下の数式を用いてガーレー曲 げ硬さを計算した。曲げ回数は1往復とした。
S(ガーレー曲げ硬さ(mg))=R×(W×1+W×2+W×4)×L/W×3.96
、W、W=荷重(g)および取りつけ位置、R=目盛り読み、L=コード長さ−0.5(インチ)、W=糸巾(インチ)
【0081】
<原材料>
(ポリウレタン)
・ポリウレタンA:“スーパーフレックスR5002”(第一工業製薬(株)製、抗張力13N/mm、100%モジュラス3.3N/mm、熱溶融温度220℃、ガラス転移温度−38℃、分子内二重結合含有)
・ポリウレタンB:“2546D”(第一工業製薬(株)製、抗張力7.2N/mm、100%モジュラス0.8N/mm、熱溶融温度245℃、ガラス転移温度−56℃、分子内二重結合含有)
・ポリウレタンC:“スーパーフレックスE−2000”(第一工業製薬(株)製、抗張力18N/mm、100%モジュラス0.8N/mm、熱溶融温度220℃、ガラス転移温度−38℃、分子内二重結合含なし)
・ポリウレタンD:“F2008D”(第一工業製薬(株)製、抗張力25N/mm、100%モジュラス15N/mm、熱溶融温度225℃、ガラス転移温度−69℃、分子内二重結合含有)
・ポリウレタンE:“F2218E”(第一工業製薬(株)製、抗張力8.4N/mm、100%モジュラス0.8N/mm、熱溶融温度40℃、ガラス転移温度−3℃、分子内二重結合有)
・ポリウレタンF:“スーパーフレックス470”(第一工業製薬(株)製、抗張力45N/mm、100%モジュラス2.3N/mm、熱溶融温度120℃、ガラス転移温度−31℃、分子内二重結合なし)
・ポリウレタンG:“スーパーフレックス460”(第一工業製薬(株)製、抗張力27N/mm、100%モジュラス1.8N/mm、熱溶融温度110℃、ガラス転移温度−21℃、分子内二重結合なし)。
【0082】
(ゴムラテックス)
・ラテックスA:水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムラテックス:“ZLX−A”(日本ゼオン(株)製、固形分濃度40.0%の水分散体)。
【0083】
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂A:ソルビトールポリグリシジルエーテル:”デナコール”EX−614B(ナガセ化成工業(株)製)。
【0084】
(炭素繊維束)
・ 炭素繊維A:”トレカ”(登録商標)T700GC−6K−31E(東レ(株)製):4000dTex、無撚糸、6000フィラメント、引張弾性率230GPa。
【0085】
実施例1〜5、比較例1〜9
コンピュートリーターシングルディッピングマシン(米リッツラー社製)を用いて、以下に示す、炭素繊維束を10m/分の速度で搬送し、表2に示す樹脂組成物の水溶液を付与し、200℃で240秒熱処理した。ここで、樹脂組成物、炭素繊維コードの作製に当たり、以下に示す原材料を用いた。
【0086】
続いて、リング撚糸機を用いてZ方向の下撚りを表4に示す撚り数で加えた。続いて、表3に示すゴム糊を付与し、120℃で120秒間熱処理した。
【0087】
得られた炭素繊維コードの樹脂付着量、撚り数は表4に示した。得られたコードのガーレー曲げ剛さを前記評価方法に準じて測定し、また、コードを表1に示す未加硫ゴム配合物を用いて、前記評価方法に準じて加硫し、剥離接着力、耐屈曲疲労性、ベルト端部ケバ立ち性を評価した。各実施例、比較例の評価結果を表4に纏めて示した。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
【表4】

【0092】
表4に示す評価結果から判るように、本発明による伝動ベルト補強用炭素繊維コードは接着性、耐疲労性に優れ、かつ、ベルト走行時の端面からのケバ立ちが抑制されていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維束に、分子内に二重結合を有するポリウレタンを含む樹脂組成物を含浸させた後、これを2〜15回/10cmで片撚りし、その表面にゴム糊を付着させてなる伝動ベルト補強用炭素繊維コード。
【請求項2】
前記樹脂組成物の含浸量を、含浸後の乾燥重量で、前記炭素繊維コード全体の10〜30wt%とすることを特徴とする請求項1に記載の伝動ベルト補強用炭素繊維コード。
【請求項3】
前記ポリウレタンのガラス転移温度が−80℃〜−30℃であり、かつ熱溶融温度が180℃〜260℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の伝動ベルト補強用炭素繊維コード。
【請求項4】
前記伝動ベルト補強用炭素繊維コードのガーレー曲げ剛さが20000mg〜80000mgであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の伝動ベルト補強用炭素繊維コード。
【請求項5】
無撚りの炭素繊維束に5〜50mg/dTexの張力下で、分子内に二重結合を有するポリウレタンを含む樹脂組成物を含浸させた後熱処理する工程A、樹脂組成物を含浸した炭素繊維束に2〜15回/10cmの片撚りを施す工程B、撚糸された炭素繊維束にゴム糊を付着させて0.1〜0.8g/dTexの張力下で熱処理を行う工程Cを含むことを特徴とする伝動ベルト補強用炭素繊維コードの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の前記伝動ベルト補強用炭素繊維コードをベルト芯体として使用することを特徴とする伝動ベルト。

【公開番号】特開2007−154382(P2007−154382A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354602(P2005−354602)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】