説明

位相コントラストイメージングのための回転X線装置

本発明は、対象物1の位相コントラスト画像を生成するための、回転X線装置100、例えばCTスキャナに関する。装置100の特定の実施形態において、複数のX線源11、X線検出器30、及びアナライザ格子Gは回転ガントリ20に取り付けられ、一方リング状の位相格子Gは固定される。X線源は、X線がまず位相格子Gを横断する前に検査下の対象物を通過し、続いてアナライザ格子Gを通過するように配置される。これはX線源をリング状位相格子Gに対して軸方向にシフトすることによって、又はX線源をリングの内部に配置することのいずれかによって達成される。さらに、位相格子GとアナライザGは、例えば互いに対して傾斜される線格子によって実現される、空間的に変化する相対位相(及び/又は周期)を持つものとする。ガントリ20の回転中、X線源11の同期活性化は、位相格子GとアナライザGの間の異なる相対位置(従って位相)で、同じ視覚から対象物1の投影画像を生成することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対象物の位相コントラストX線画像を生成するための方法及び回転X線装置に関する。さらに、本発明はかかる方法を組み込むコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
古典的なX線イメージングは対象物によって生じるX線の吸収を測定するが、一方位相コントラストイメージングは、対象物を通過する際にX線が受ける位相シフトの検出を目的とする。文献(T.Weitkamp et al.,"X‐ray phase imaging with a grating interferometer",Optics Express 13(16),2005)に記載されている設計によれば、対象物が(コヒーレント)X線を照射される際に強度の最大値と最小値の干渉パターンを生成するために、位相格子が対象物の後ろに置かれる。対象物によって導入されるX線波における任意の位相シフトは、干渉パターンにいくらかの特徴的な変位を生じる。従ってこれらの変位を測定することは、関心のある対象物の位相シフトを再構成することを可能にする。
【0003】
上記のアプローチの問題点は、既存のX線検出器の実現可能なピクセルサイズが、干渉パターンの最大値と最小値の間の距離よりも(かなり)大きいことである。従ってこれらのパターンは直接的に空間分解されることができない。この問題に対処するため、検出器ピクセルのすぐ前に吸収格子を使用することで、干渉パターンの小さな小区分のみを検出器のピクセルで見ることが提案されている。ピクセルに対して吸収格子をシフトすることで、干渉パターンの構造(すなわち対象物なしのデフォルトパターンからのずれ)を回復することを可能にする。しかしながら光学素子の必要な動きは、位相コントラストイメージングが医学的環境において適用される場合に必要とされるように、特に高速かつ高精度でなされる必要がある場合には、容易ではない機械的作業である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この背景に基づいて、例えばコンピュータ断層撮影(CT)など、医用画像における応用に特に適した、対象物のX線位相コントラスト画像を生成するための手段を提供することが、本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1に記載の回転X線検出器、請求項14に記載の方法、及び請求項15に記載のコンピュータプログラムによって達成される。好ましい実施形態は従属請求項に開示される。
【0006】
本発明にかかる回転X線装置は、対象物の位相コントラスト画像、すなわち、像点の値が対象物によって送信X線に誘導される位相シフトに関連し、一方像点の位置は対象物に空間的に関連する(例えば投影又は断面マッピングを介する)ような画像、の生成に役立つ。"回転"という語が示す通り、X線装置は、対象物と生成(投影)画像の視角の間の相対的回転が可能であるように設計されるものとする。X線装置は次の構成要素を有する。
a)X線を生成するための少なくとも2つのX線源。X線源は好ましくは選択的に制御可能である、すなわち、例えば連続的に及び/又は互いに独立して活性化されることができる。さらに、2つのみではなくそれ以上のX線源が利用可能であることが好ましく、典型的な数は3及び8のX線源の間にある。
b)以下"DOE"と略される回折光学素子。DOEはX線源にさらされる、すなわち、X線源がアクティブである場合にX線源の放射によって衝突されるように配置される。
c)DOEによって生成される干渉パターンを検出するためのX線検出器。この目的のため、X線検出器はX線源の視点から見てDOEの後ろに配置される。
d)DOEの周期に対応する(例えばDOEの周期のほぼ二倍)、この検出器の空間感度を調節するためにX線検出器の前に配置されるアナライザ。こうしたアナライザの適用は、特に通常のX線感受性素子(例えば関連光検出器を備えるシンチレータを有するピクセル、又は直接変換材料を有するピクセル)と併せて有用であるが、これは通常のX線感受性素子が典型的に干渉パターンのピッチよりもかなり大きいサイズを持つためである。この場合、アナライザは干渉パターンの周期によって与えられる限度にX線検出器の空間分解能を増加させるために使用されることができる。アナライザは例えばUS 2007/0183580 A1に記載されているような吸収格子又はシンチレーション構造によって実現され得る。
【0007】
さらに、X線装置は次の特徴を持つものとする。
X線源、X線検出器、並びに、DOE及びアナライザのうちの一方(のみ)は、対象物が置かれることができる中心領域に対して回転軸周りに共通に回転可能である。DOE又はアナライザのいずれかはかかる回転に参加しないので(そうではなく通常は対象物に対して静止している)、DOEとアナライザの間には相対的回転がある。さらに、X線源、X線検出器、及びDOE/アナライザの回転は中心領域のみに対することに留意すべきである。すなわち、環境に対して、列挙された構成要素は静止し得る(一方対象物を有する中心領域は絶対運動をする)。
DOE及びアナライザは、これらが互いに対して回転軸周りに回転されるときに変化する相対位相及び/又は相対周期を持つ。この文脈において"位相"及び"周期"とは、それぞれDOE及びアナライザの光学活性構造、例えば線格子の場合は平行線のパターンをあらわす。さらに、この変化は、DOE又はアナライザ上の少なくとも1つの固定位置と、他の光学素子上の対応する最近点(上記最近点は素子の相対的回転に従って変化する)について判断される。
【0008】
X線源、X線検出器、及び、DOE又はアナライザを対象物に対して回転させることによって、該装置は異なる方向から対象物のX線投影画像を生成することを可能にする。DOE及びアナライザは互いに対して回転するので、DOEとアナライザ間の相対位相及び/又は周期はかかる収集手順中に対象物を通る所与の視線に対して変化する。従ってDOEとアナライザ間の相対シフトを単一の(回転)運動を介して実現することが可能である。この文脈において複数のX線源は、例えばX線源の各々が空間内の特定位置を通過する際にこれを活性化することによって、所与の視線に沿ってDOEとアナライザの異なる相対位置でX線投影画像を連続的に収集することを可能にする。
【0009】
該装置の"回転"イメージングは、例えば対象物を固定イメージング装置に対して回転させることによって、イメージング装置を静止対象物に対して回転させることによって、又は固定ハードウェアにおける画像生成作用(例えばアクティブなX線源又は読み出しピクセル)を静止対象物に対して回転させることによって実現され得ることに留意すべきである。考察を簡略化するため、以下、通常は一般性を失うことなく、X線源、X線検出器、及びDOE/アナライザは環境に対して回転し、一方対象物を有する中心領域は静止しているものとする。
【0010】
原則として、X線検出器は対応する感受性領域における測定を行うことを可能にする1つの単一の感受性素子を持ち得る。しかしながら、好ましくは検出器は複数のX線感受性素子(ピクセル)を持つアレイ、特に一次元又は二次元のアレイを有する。そして測定は複数の位置において同時に行われることができ、例えば空間分解二次元投影画像を一段階でサンプリングすることを可能にする。
【0011】
回折光学素子DOEはX線を照射されるときに所望の干渉パターンを生成することができるいかなる装置であってもよい。好ましくは、DOEは位相格子、すなわち、その線が、無視できるほどの吸収を持つがかなりの位相シフトを持ち、従ってX線光子の損失を最小限にするような格子を有する。
【0012】
回転軸周りの相対的回転に関するDOEとアナライザ間の可変位相及び/又は周期は、多くの方法で実現され得る。好ましい実施形態において、DOE及びアナライザは同一又は同様のパターン、例えば所与の周期で繰り返される平行線の格子を有し、これらのパターンのうちの第一のパターンにおいて回転軸に垂直な面に対して(わずかに)傾斜される。従ってパターン間の相対位相は、傾斜された第一のパターンが回転軸周りに回転する場合、連続的に変化する。第二のパターンは回転軸に対して回転的に不変であるように方向付けられ得るか、又は同様に回転軸に垂直な面に対して傾斜され得る。後者の場合、第二のパターンの傾斜は第一のパターンの傾斜とは異なり得る(すなわち、2つのパターンは互いに対しても傾斜される)。しかし好ましくは、この傾斜は第一のパターンと同じである。なぜならこの場合DOEとアナライザが任意の時点に対して回転軸周りの外周に沿って一定の相対位相及び/又は周期を持つためである。
【0013】
X線装置の別の実施形態において、DOE又はアナライザはリング上で回転軸周りに円周方向にのびる。こうした閉リングの設計は、好ましくは、X線源及びX線検出器と共通に回転しない構成要素(DOE又はアナライザ)に対して選ばれる。そしてこの構成要素は、これが永久的にX線源から検出器への光路内にあるように、環境に対して静止し得る(これは機械的に最も簡単な解決法である)。この場合対象物の投影画像は全360°範囲で生成されることができる。
【0014】
前述のリング状のDOE又はアナライザの場合においては、X線が対象物の(前ではなく)後ろでのみ上記リングを通過することに注意すべきである。この目的のため、X線源は好ましくは上記リングに対して軸方向に(すなわち回転軸に沿って)シフトされて配置され、その放射は中心領域に向かって傾斜される。付加的に又は代替的に、X線源は上記DOE又はアナライザリングの内部に配置され得る。
【0015】
少なくとも2つのX線源は好ましくは回転軸周りの円弧上に配置される。これはイメージング装置が回転する際、2つのX線源が中心領域/対象物に対して連続的に同じ位置を取ることを保証する。従って2つのX線源は対象物に対して全く同じ視覚からX線投影を生成することができる。
【0016】
X線源は、標的に衝突させられるときにX線を生成する電子を放出するためのカーボンナノチューブを備える少なくとも1つのカソードを随意に有し得る。カーボンナノチューブは、小型設計で高速スイッチング時間を可能にする優れた電子放出材料であることが示されている。従って例えば複数のカソードを備えるX線源及び/又は固定CTスキャナを構築することが可能である。カーボンナノチューブと、これらを用いて構築されることができるX線源についてのさらなる情報は文献において見られる(例えばUS 2002/0094064 A1,US 6 850 595、又はG.Z.Yue et al.,"Generation of continuous and pulsed diagnostic imaging x‐ray radiation using a carbon‐nanotube‐based field‐emission cathode",Appl.Phys.Lett.81(2),355‐8(2002)、これらは参照により本文に含まれる)。
【0017】
X線装置はさらに、第一のX線源と第二のX線源がそれぞれ中心領域に対して所与の空間位置を通過するときに、X線被爆の収集を引き起こすための制御装置を随意に有し得る。従って、同様の視覚を持つが、DOE及びアナライザの異なる相対設定を持つX線投影が生成されることができる。
【0018】
X線源がDOEの後ろの干渉パターンの生成のために必要な時間的及び空間的コヒーレンスを持つべきであることは既に述べた。X線源は格子の前に配置される空間的に広がった放射体を随意に有してもよく、"〜の前"という語はX線源に位置する視点をあらわす。広がった放射体は、従来のX線源において使用されるような標準的なアノードであることができ、単独で空間的にインコヒーレントであり得る。格子の助けを借りて、放射体は各々が(その長さに垂直な方向に)空間的にコヒーレントである複数の線放射体に効果的に分割される。
【0019】
X線装置は好ましくは、X線源とDOEの間のX線の経路内に配置される、対象物によって生じる位相シフトを決定するための評価装置をさらに有する。評価装置は、専用電子機器、関連ソフトウェアを有するデジタルデータ処理ハードウェア、又は両者の混合物によって随意に実現され得る。評価装置は、対象物によって誘導される位相シフトと、DOEの後ろで観察されることができる干渉パターンに得られる変化との間に明確な関連性があるという事実を利用する。つまり、この関連性を反転させることは、対象物の所望の位相コントラスト画像を予測することを可能にする。
【0020】
前述の実施形態のさらなる発展例において、評価装置はさらに、対象物の断面位相コントラスト画像を、異なる方向からとられた上記対象物の(位相コントラスト)投影から再構成するための再構成モジュールを有する。再構成モジュールは、吸収X線イメージングの分野の当業者に周知であるコンピュータ断層撮影(CT)のアルゴリズムを適用し得る。付加的に又は代替的に、再構成モジュールは異なる方向の投影から対象物の吸収画像を再構成するように適合され得る。
【0021】
本発明はさらに、対象物の位相コントラスト画像を生成するための方法に関し、該方法は次のステップを有する。
a)複数のX線源から選択される第一のX線源で上記対象物を照射するステップ。
b)対象物の後ろに配置される("後ろ"という語は第一のX線源に位置する視点をあらわす)、"DOE"と呼ばれる回折光学素子で干渉パターンを生成するステップ。
c)X線検出器を用いて、DOEの周期に対応する、検出器の空間感度を調節するアナライザを通して、前述の干渉パターンをサンプリングするステップ。
d)複数のX線源、X線検出器、及び、DOE又はアナライザのいずれかを、対象物に対して回転軸周りに同調して回転させ、それによってDOE及びアナライザの相対位相及び/又は周期を変化させるステップ。
e)複数のX線源から選択される第二のX線源を用いて、この第二のX線源が、前のステップa)において第一のX線源によってとられた位置をとるときに、ステップa)、b)、c)を繰り返すステップ。
【0022】
X線装置は典型的にはプログラム可能であり、例えばマイクロプロセッサ又はFPGAを含み得る。従って、本発明はさらに、計算装置上で実行される際に本発明にかかる方法のいずれかの機能性を提供するコンピュータプログラムを含む。
【0023】
さらに本発明は、コンピュータプロダクトを機械可読形式に保存し、データキャリア上に保存されたプログラムが計算装置上で実行される際に本発明の方法の少なくとも1つを実行する、例えばフロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、又はコンパクトディスク(CD‐ROM)といったデータキャリアを含む。
【0024】
現在、こうしたソフトウェアはしばしばダウンロード用にインターネット又は企業イントラネット上で提供されており、故に本発明はまた、本発明にかかるコンピュータプロダクトをローカルエリアネットワーク又は広域ネットワークを介して送信することも含む。計算装置はパーソナルコンピュータ又はワークステーションを含み得る。計算装置はマイクロプロセッサ及びFPGAのうちの1つを含み得る。
【0025】
上記の方法、コンピュータプログラム、データキャリア及び伝送手順は、不可欠な構成要素として上記X線装置のコンセプトを有する。従ってこれらの要素の詳細、利点、及び変更についてのさらなる情報については上記の説明が参照される。
【0026】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下に記載される実施形態(群)から明らかとなり、これらを参照して説明される。これらの実施形態は添付の図面の助けを借りて例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は本発明にかかる回転X線装置を図2のy軸に沿った断面で概略的に示す。
【図2】図2は該X線装置を斜視図で概略的に示す。
【図3】図3は対象物の第一の投影が第一のX線源で生成される第一の時点における該X線装置を上面図で概略的に示す。
【図4】図4は同じ視覚から対象物の第二の投影が第二のX線源で生成されるさらに後の時点における図3と同じ装置を示す。
【図5】図5は互いに対して傾斜されたDOEとアナライザを図示する。
【図6】図6は相対位相シフトの離散的段階を持つDOEとアナライザを図示する。
【図7】図7は回転軸に垂直な面に対して同様に傾斜された、2つの異なる時点におけるDOEとアナライザを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図面中の類似する参照数字は同一又は同様の構成要素をあらわす。
【0029】
位相コントラストX線イメージングは、X線が対象物を通過する際のX線の位相シフトの測定を目的とする。位相敏感測定の利点は、位相コントラストが吸収コントラストよりも桁違いに高い可能性があることである(A.Momose,"Phase sensitive imaging and phase tomography using X‐ray interferometers",Optics Express 11(19),2003;T.Weitkamp et al.,"X‐ray phase imaging with a grating interferometer",Optics Express 13(16),2005参照)。当初、位相敏感法の主な欠点は、非常に狭い帯域幅を持つX線源が必要とされることであった。しかしながらこの欠点は10%‐20%の帯域幅を実現する特殊フィルタとともに標準X線管を用いることによって克服されることができた(F.Pfeiffer et al.,"Phase retrieval and differential phase contrast imaging with low‐brilliance X‐ray sources",Nature Physics 2,pp258‐261,2006参照)。位相ステッピングと組み合わされると、多色X線源を用いながら位相敏感測定及び総X線吸収情報が得られる。
【0030】
既知の装置でX線の位相を測定するために、各幾何学的光線の少なくとも3つの単独測定が必要とされ、複数の格子のうちの少なくとも1つは、その格子定数の比率で光軸に垂直に移動させられなければならない。断層撮影は回転対象物を用いてこれらのアプローチにおいて実行され得、測定は測定装置の固定相対位置においてなされる。しかしながら、医療断層撮影システムの場合、データ収集は対象物(患者)の周りを連続的に回転するシステムを用いて実行されることが必須である。さらに、医療断層撮影システムにおいては、格子移動が正確に実行されるだけでなく、かなり高速で実行される必要があり、これは実行が非常に難しい。
【0031】
図1から図4は、上記の問題を扱うX線装置100を図示する。X線装置100はX線放射を生成するためのX線源モジュール10を有する。X線源モジュール10はケーシング内に複数の空間的に広がったX線源11,11'を有し、これらは例えば"広帯域"X線源の焦点(アノード)によって実現されることができ、通常は光軸(y軸)に垂直な数ミリメートルの延長部を持つ。さらに、高速スイッチングで大きなアノードを備える管設計を可能にすることから、カーボンナノチューブ(CNT)が対応するカソードのために使用されることが好ましい。格子Gは、各々が横断(z)方向に空間的にコヒーレントである線へと放射を分割するために、X線源11,11'の前に配置される。このアプローチについてのさらなる詳細は文献(例えば上記のPfeiffer et al.)に見られる。
【0032】
明確さを目的として、格子Gの1つのスリットの向こう側にy方向に伝播する1つの円筒波のみが図1に図示される。円筒波は、装置100によって画像化される、中心領域(x,y,z座標系の原点の周囲)に位置する例えば患者の身体などの対象物1を通過する。対象物1の材料はX線波に位相シフトを誘導し、対象物1の後ろに変更された(撹乱された)波面をもたらす。従って、光(y)軸に垂直な各位置zに対して、位相シフトΦ(z)は対応するX線経路に沿った材料特性に特徴的な波面に関連する。完全関数Φは関心のある対象物1の位相コントラスト投影画像である。
【0033】
位相シフト関数Φを決定するために、回折光学素子(DOE)が対象物1の後ろに配置される。示された実施例において、このDOEは光軸に垂直に広がるビームスプリッタ位相格子Gによって実現される(そのスリットは線源格子Gのスリットに平行である)。格子Gは、透過幾何学、すなわち対象物側と反対の空間において、干渉パターンを生成する。この干渉パターンは、固定座標y及びxにおいて強度関数I(z,Φ)によって特徴付けられることができる。
【0034】
DOE格子Gからの所定距離において、干渉パターンは図1に概略的に図示されるような強度の最大値と最小値の周期パターンに対応する。そしてこの干渉パターンをX線検出器30で測定することは、対象物1によって導入された位相シフトΦ(z)を推測することを可能にする。
【0035】
しかし実際には、格子Gから離れた干渉パターンIの測定は、2つの隣接する最大値又は最小値間の距離によって決定される所要空間分解能が、通常のX線検出器の感受性素子又はピクセル31のサイズよりもはるかに小さいので、簡単な作業ではない。この問題に対処するために、検出器ピクセル31のすぐ前にアナライザを置くことが文献において提案されている。このアナライザはここでは対象物の後ろの格子Gと基本的に同じ周期を持つ吸収格子Gによって実現される。吸収格子Gは小さな窓を与える効果を持ち、これを通して検出器は、周期的干渉パターンIの対応する小区分、例えば最大値の周囲の小領域を"見て"、こうしてこれらの小区分における強度を効果的に測定する。アナライザ格子Gをz方向にシフトすることによって、干渉パターンは複数の位置においてサンプリングされ得、これは干渉パターンを局所X線吸収とともに完全に再構成することを可能にする。かかる格子ステッピングアプローチの問題は、これが複雑で正確な機構を必要とすることである。この問題を回避するために、回転X線装置100は次の特徴を実現する。
X線装置100は、回転軸A(図面におけるz軸)周りの円弧上に配置される複数のX線源11,11'を有する。
X線源11,11'、ピクセル化X線検出器30、及びアナライザ格子Gは回転ガントリ20に取り付けられる。
位相格子Gは固定され、対象物1を有する中心領域の周りに完全なリング(図面には部分的にしか示されていない)としてのびる。
位相格子Gとアナライザ格子Gの相対的パターン位相は回転軸A周りに円周方向に変化する。
【0036】
図2は前述の構成要素の相対的空間配置を概略的斜視図で図示する。DOE Gが360°に及ぶ完全なリングであるとき、X線ビームは線源格子Gを通過しなければならないが、線源側のDOE格子Gは通過してはならない。これは、わずかなアキシャルオフセットで(第4世代CTガントリと同様)、又は、静止位相格子リングの内側に小さな、おそらくCNTベースの放射体を置くことによって、実施される。
【0037】
図3及び図4は上記X線装置100の動作をより詳細に図示する。図3では、固定部品(位相格子G及び対象物1)に対するガントリ部品(X線源11,11'、検出器30、アナライザG)の位置が第一の時点tにおいて示される。第一のX線源11はこの場合制御及び評価装置40によって活性化され、特定の視覚から対象物1を照射し、検出器30の反対側の部分に投影画像を生成する。位相格子G及びアナライザGはこの時点において特定の相対角度位置をとる。
【0038】
図4はさらに後の時点tにおける同じ構成要素を示す。ガントリ20は角度Δφだけ回転しており、第二のX線源11'は、第一のX線源11が時間tにおいてとっていた空間位置をとるようになっている。従って、第二のX線源11'が制御及び評価装置40によって活性化されると、これは第一のX線源11が時間tにおいて照射したのと同じ視覚から(静止)対象物1を照射することになる。しかしながら位相格子GとアナライザGの間の相対位置は、二回目の被爆において回転角度Δφによって変化している。位相格子Gとアナライザ格子Gの適切な設計により、この格子の相対移動は、位相ステッピングを伴う位相コントラストイメージングに必要な格子の相対シフトを実現することができる。
【0039】
第三のX線源11"によって図4に示される通り、複数のX線源は、これらが検出器上で相互に離れた感受性領域を照射するために十分な角距離を持つ場合、同時被爆及び検出器読み出しに同時に作用し得る。
【0040】
図5は、位相格子Gとアナライザ格子Gの第一の可能な実現を図示する。両格子は平行線のパターンによって規定される(位相格子Gの場合は位相シフト線、アナライザGの場合は吸収線)。これらの線は同じ周期を持つが、これらはスライス方向から外へ互いに対してわずかに傾斜される。より具体的には、回転された格子(この場合はアナライザG)の線は回転軸Aに垂直な(x,y)面に対して傾斜され(さもなければ線の回転は何も変化させない)、一方固定格子(G)の線はこの面に平行であり得る。
【0041】
図面は、前述の角度Δφについての2つの格子間の相対的回転が、線パターンの相対位相を変化させることを示す。傾斜は、X線源によってカバーされる角度による回転が、1つの格子定数のアナライザ及び位相格子の相対シフトをもたらすように選択される。特定の視覚からの位相コントラスト画像の再構成のために、位相格子G及びアナライザ格子Gの異なる相対位相を持つ数Nの(通常は3又は8の)投影が作られなければならない。従って格子の傾斜は、線パターン間の全周期シフトの1/N番目がガントリの各回転ステップΔφ後になされるように選ばれる。
【0042】
図6は、アナライザ格子Gの線が離散的段階でz方向にシフトされる、位相格子GとアナライザGの代替的な実施形態を図示する。
【0043】
図7は位相格子GとアナライザGの第三の実施形態を2つの時点t,tに対して図示する。この場合両格子は回転軸A(z軸)に垂直な(x,y)面に対して同様に(すなわち同じ角度だけ)傾斜される。従って回転角度Δφに対するアナライザGのシフトは、全検出器領域にわたって均一に2つの格子間の相対位相を時点tから時点tへ変化させる。この状態の空間的均一性は、特定時点において収集される投影を用いるその後の再構成手順を容易にする。
【0044】
要約すると、位相ステッピングを伴う微分位相コントラストCTのための幾何学及び装置が提案され、ここではガントリの回転のみが機械的に実現され、さらなる機械的に動かされる部分が必要ない。該装置は、固定子に取り付けられる位相格子リングGと、回転ガントリに取り付けられるアナライザ格子Gを使用する。両格子G,Gをわずかな角度だけ傾斜させることによって、格子の相対シフトがガントリ自体の回転によって実施される。ガントリの直径上に分布する複数のX線源11,11'は、位相格子とアナライザ格子の異なる相対位置で同じ回転角度を撮像する。収集及び再構成のために、ガントリは回転され、一方X線源は高速で切り替えられ、回転に同期される。線源と検出器の各組み合わせは、収集されるラドン投影空間に寄与し得る。加えて、同じラドン角度下において、異なる線源はアナライザ格子と位相格子の異なる相対位置で同じ投影を収集する。投影をソートすることで、格子の異なる相対シフト全てに対するラドン空間をもたらし、これは再構成への入力となる。
【0045】
最後に、本願において"有する"という語は他の要素又はステップを除外するものではなく、"a"又は"an"とは複数形を除外するものではなく、単一のプロセッサ又は他の装置が複数の手段の機能を満たし得ることが指摘される。本発明は、新たな特徴的機構の一つ一つ、及び特徴的機構のありとあらゆる組み合わせに存在する。さらに、請求項における参照符号はその範囲を限定するものと解釈されてはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の位相コントラスト画像を生成するための回転X線装置であって、
a)少なくとも2つのX線源と、
b)前記X線源にさらされる、DOEと呼ばれる回折光学素子と、
c)前記DOEによって生成される干渉パターンを検出するためのX線検出器と、
d)前記DOEの周期に対応する、前記X線検出器の空間感度を調節するために前記X線検出器の前に配置されるアナライザとを有し、
前記X線源、前記X線検出器、及び、前記DOE又は前記アナライザのいずれかが、前記対象物が置かれることができる中心領域に対して回転軸周りに回転可能であり、
前記DOE及び前記アナライザが、前記回転軸周りに互いに対して回転されるときに変化する相対位相及び/又は周期を持つ、X線装置。
【請求項2】
前記X線検出器がX線感受性素子のアレイを有する、請求項1に記載のX線装置。
【請求項3】
前記DOEが位相格子を有する、請求項1に記載のX線装置。
【請求項4】
前記アナライザが吸収格子を有する、請求項1に記載のX線装置。
【請求項5】
前記DOEと前記アナライザが同一又は同様の光学的パターンを有し、そのうちの少なくとも一方は前記回転軸に垂直な面に対して傾斜される、請求項1に記載のX線装置。
【請求項6】
前記DOE又は前記アナライザがリング上で前記回転軸周りに円周方向にのびる、請求項1に記載のX線装置。
【請求項7】
前記X線源が、前記リングに対して軸方向にシフトされて、及び/又は前記リングの内部に配置される、請求項6に記載のX線装置。
【請求項8】
前記X線源が前記回転軸周りの円弧上に配置される、請求項1に記載のX線装置。
【請求項9】
少なくとも1つのX線源がカーボンナノチューブを備える少なくとも1つのカソードを有する、請求項1に記載のX線装置。
【請求項10】
第一及び第二のX線源がそれぞれ前記中心領域に対する所定位置を通過するときにX線被爆の収集を引き起こすための制御装置を有する、請求項1に記載のX線装置。
【請求項11】
前記X線源のうちの少なくとも1つが、格子の前に配置される空間的に広がった放射体を有する、請求項1に記載のX線装置。
【請求項12】
前記X線源から前記X線検出器へのX線の経路において対象物によって生じる位相シフトを決定するための評価装置を有する、請求項1に記載のX線装置。
【請求項13】
前記評価装置が、対象物の断面位相コントラスト画像及び/又は吸収画像を、異なる方向からとられる前記対象物の投影から再構成するための再構成モジュールを有する、請求項12に記載のX線装置。
【請求項14】
対象物の位相コントラスト画像を生成するための方法であって、
a)複数のX線源から第一のX線源で前記対象物を照射するステップと、
b)前記対象物の後ろのDOEと呼ばれる回折光学素子で干渉パターンを生成するステップと、
c)X線検出器を用いて、前記DOEの周期に対応する、前記検出器の空間感度を調節するアナライザを通して、前記干渉パターンをサンプリングするステップと、
d)前記複数のX線源、前記X線検出器、及び、前記DOE又は前記アナライザのいずれかを、前記対象物に対して回転軸周りに同調して回転させ、それによって前記DOE及び前記アナライザの相対位相及び/又は周期を変化させるステップと、
e)前記複数のX線源のうちの第二のX線源を用いて、これが前記第一のX線源の前の位置をとるときに、ステップa)からc)を繰り返すステップとを有する方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法を実行することを可能にするためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−515143(P2011−515143A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500331(P2011−500331)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【国際出願番号】PCT/IB2009/051051
【国際公開番号】WO2009/115966
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】