説明

位相同期ループ回路および半導体集積回路

【課題】 動作状態を正確に判定することができ、かつ低消費電力の位相同期ループ回路および半導体集積回路を提供する。
【解決手段】 動作状態判定部6は、ループフィルタ3から出力される制御電圧が所定の電圧範囲内にあるか否かに基づいて、PLL周波数シンセサイザが所望の動作状態であるか否かを判定する。電流制御回路51は、判定回路13からの判定信号に基づいて、PLL周波数シンセサイザが所望の動作状態を維持する範囲内において、帰還分周回路5の駆動電流を小さくするように制御する。したがって、PLL周波数シンセサイザの動作状態を正確に判定することができる。また、帰還分周回路5の誤動作を検出することも可能になる。さらに、電流制御回路51を設けたことによって、PLL周波数シンセサイザの低消費電力化が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、位相同期ループ回路および半導体集積回路に関し、特に、外部からの基準クロック信号に同期して内部クロック信号を生成する位相同期ループ回路および半導体集積回路に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星放送やケーブルテレビ放送を受信するチューナなどに用いられる局部発振源として、PLL(Phase Locked Loop:位相同期ループ)周波数シンセサイザが用いられる。PLL周波数シンセサイザは、外部からの基準クロック信号に同期して、所望の発振周波数の内部クロック信号を生成する。
【0003】
一般的なPLL周波数シンセサイザは、外部からの基準クロック信号と内部で生成した比較クロック信号の位相および周波数を比較し、比較結果に応じた位相差信号を出力する位相・周波数比較器と、位相差信号に応じた正/負の電流を供給するチャージポンプと、チャージポンプからの正/負の電流に応じて制御電圧を生成するループフィルタと、ループフィルタからの制御電圧に応じた発振周波数の内部クロック信号を生成する電圧制御発振器と、内部クロック信号を予め定められた分周比で分周して、比較クロック信号を生成する帰還分周回路とを備える。このPLL周波数シンセサイザは、帰還分周回路の分周比を変えることによって、発振周波数の逓倍率を任意に変更することができる。
【0004】
位相・周波数比較器において位相同期がとれたロック状態になれば、電圧制御発振器の発振周波数が固定される。従来のPLL周波数シンセサイザでは、位相・周波数比較器の出力信号に基づいて、所望の動作状態であるか否かを判別するものがあった。
【0005】
下記の特許文献1には、位相比較器およびチャージポンプの出力信号に基づいて、所望の動作状態であるか否かを判別する方法が開示されている。
【特許文献1】米国特許出願公開第5648744号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PLL周波数シンセサイザには、電圧制御発振器によって生成された内部クロック信号を分周してフィードバックさせる帰還分周回路が設けられる。この帰還分周回路の分周比をN(自然数)とすると、電圧制御発振器の発振周波数は基準クロック信号の周波数のN倍になる。ここで、帰還分周回路が誤動作して分周比がNからずれた場合、発振周波数は基準クロック信号の周波数のN倍にならず、所望の周波数の内部クロック信号が得られない。しかし、従来のように位相・周波数比較器の出力信号を用いて、所望の動作状態であるか否かを判別する方法では、位相同期がとれたロック状態であれば所望の動作状態であると判定されてしまい、帰還分周回路の誤動作を検出することができなかった。
【0007】
また、PLL周波数シンセサイザには、分周比が整数であるInteger-N型と、分周比が分数であるFractional-N型とがある。Fractional-N型のPLL周波数シンセサイザは、動作中に分周比Nを意図的に変化させることによって分数の分周比を実現する。位相・周波数比較器の動作を瞬間的に見ると、外部からの基準クロック信号の位相と帰還分周回路からの比較クロック信号の位相とが一致していない。このため、位相・周波数比較器からは位相が一致していないことを示す信号が出力される。したがって、従来のように位相・周波数比較器の出力信号を用いて所望の動作状態であるか否かを判別する方法では、Fractional-N型のPLL周波数シンセサイザが正常に動作していても、位相同期がとれたロック状態でないため誤動作をしていると判別されてしまい、動作状態を正確に判定することができなかった。
【0008】
それゆえに、この発明の主たる目的は、動作状態を正確に判定することができる位相同期ループ回路および半導体集積回路を提供することである。
【0009】
また、この発明の他の目的は、低消費電力の位相同期ループ回路および半導体集積回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係わる位相同期ループ回路は、外部からの基準クロック信号に同期して内部クロック信号を生成する位相同期ループ回路であって、基準クロック信号と内部クロック信号の位相および周波数を比較し、比較結果に応じた位相差信号を出力する位相・周波数比較器と、位相差信号に応じた制御電圧を生成するフィルタ部と、フィルタ部からの制御電圧に応じた発振周波数の内部クロック信号を生成する電圧制御発振器と、フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にある場合は、位相同期ループ回路が所望の動作状態であると判定し、フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にない場合は、位相同期ループ回路が所望の動作状態でないと判定し、判定結果を示す判定信号を出力する動作状態判定部とを備えたものである。
【0011】
この発明に係わる他の位相同期ループ回路は、外部からの基準クロック信号に同期して内部クロック信号を生成する位相同期ループ回路であって、基準クロック信号と内部で生成した比較クロック信号の位相および周波数を比較し、比較結果に応じた位相差信号を出力する位相・周波数比較器と、位相差信号に応じた制御電圧を生成するフィルタ部と、フィルタ部からの制御電圧に応じた発振周波数の内部クロック信号を生成する電圧制御発振器と、内部クロック信号を予め定められた分周比で分周して、比較クロック信号を生成する帰還分周回路と、フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にある場合は、位相同期ループ回路が所望の動作状態であると判定し、フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にない場合は、位相同期ループ回路が所望の動作状態でないと判定し、判定結果を示す判定信号を出力する動作状態判定部とを備えたものである。
【0012】
この発明に係わるさらに他の位相同期ループ回路は、外部からの第1の基準クロック信号に同期して内部クロック信号を生成する位相同期ループ回路であって、第1の基準クロック信号を予め定められた第1の分周比で分周して、第2の基準クロック信号を生成する入力分周回路と、第2の基準クロック信号と内部で生成した比較クロック信号の位相および周波数を比較し、比較結果に応じた位相差信号を出力する位相・周波数比較器と、位相差信号に応じた制御電圧を生成するフィルタ部と、フィルタ部からの制御電圧に応じた発振周波数の内部クロック信号を生成する電圧制御発振器と、内部クロック信号を予め定められた第2の分周比で分周して、比較クロック信号を生成する帰還分周回路と、フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にある場合は、位相同期ループ回路が所望の動作状態であると判定し、フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にない場合は、位相同期ループ回路が所望の動作状態でないと判定し、判定結果を示す判定信号を出力する動作状態判定部とを備えたものである。
【0013】
好ましくは、動作状態判定部は、フィルタ部からの制御電圧をアナログ値からデジタル値に変換するアナログ/デジタル変換器と、電圧制御発振器の制御電圧と発振周波数との関係を示すテーブルが予め格納される記憶部と、アナログ/デジタル変換器によってデジタル値に変換された制御電圧が、テーブルに従って定められる所定の電圧範囲内にあるか否かにに基づいて、判定信号を出力する判定回路とを含む。
【0014】
また好ましくは、さらに、アナログ/デジタル変換器と判定回路との間に介挿され、アナログ/デジタル変換器によってデジタル値に変換された制御電圧の所定時間ごとの平均値を算出する演算回路が設けられる。
【0015】
また好ましくは、さらに、判定信号に基づいて、位相同期ループ回路が所望の動作状態を維持する範囲内において、第1の分周回路の駆動電流を小さくする電流制御回路が設けられる。
【0016】
また好ましくは、電流制御回路は、通常動作モードにおいて非活性化され、低消費動作モードにおいて活性化される。
【0017】
この発明に係る半導体集積回路は、上記位相同期ループ回路が1チップの半導体基板上に集積されたものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係わる位相同期ループ回路では、基準クロック信号と内部クロック信号の位相および周波数を比較し、比較結果に応じた位相差信号を出力する位相・周波数比較器と、位相差信号に応じた制御電圧を生成するフィルタ部と、フィルタ部からの制御電圧に応じた発振周波数の内部クロック信号を生成する電圧制御発振器と、フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にある場合は、位相同期ループ回路が所望の動作状態であると判定し、フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にない場合は、位相同期ループ回路が所望の動作状態でないと判定し、判定結果を示す判定信号を出力する動作状態判定部とが設けられる。したがって、位相同期ループ回路の動作状態を正確に判定することができる。
【0019】
この発明に係わる他の位相同期ループ回路では、基準クロック信号と内部で生成した比較クロック信号の位相および周波数を比較し、比較結果に応じた位相差信号を出力する位相・周波数比較器と、位相差信号に応じた制御電圧を生成するフィルタ部と、フィルタ部からの制御電圧に応じた発振周波数の内部クロック信号を生成する電圧制御発振器と、内部クロック信号を予め定められた分周比で分周して、比較クロック信号を生成する帰還分周回路と、フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にある場合は、位相同期ループ回路が所望の動作状態であると判定し、フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にない場合は、位相同期ループ回路が所望の動作状態でないと判定し、判定結果を示す判定信号を出力する動作状態判定部とが設けられる。したがって、位相同期ループ回路の動作状態を正確に判定することができる。また、動作状態判定部はフィルタ部からの制御電圧に基づいて動作状態の判定を行なうため、帰還分周回路の誤動作を検出することも可能になる。
【0020】
この発明に係わるさらに他の位相同期ループ回路では、第1の基準クロック信号を予め定められた第1の分周比で分周して、第2の基準クロック信号を生成する入力分周回路と、第2の基準クロック信号と内部で生成した比較クロック信号の位相および周波数を比較し、比較結果に応じた位相差信号を出力する位相・周波数比較器と、位相差信号に応じた制御電圧を生成するフィルタ部と、フィルタ部からの制御電圧に応じた発振周波数の内部クロック信号を生成する電圧制御発振器と、内部クロック信号を予め定められた第2の分周比で分周して、比較クロック信号を生成する帰還分周回路と、フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にある場合は、位相同期ループ回路が所望の動作状態であると判定し、フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にない場合は、位相同期ループ回路が所望の動作状態でないと判定し、判定結果を示す判定信号を出力する動作状態判定部とが設けられる。したがって、位相同期ループ回路の動作状態を正確に判定することができる。また、動作状態判定部はフィルタ部からの制御電圧に基づいて動作状態の判定を行なうため、帰還分周回路の誤動作を検出することも可能になる。また、入力分周回路の第1の分周比を変えることよって、内部クロック信号の周波数ステップを変更することができる。
【0021】
好ましくは、動作状態判定部は、フィルタ部からの制御電圧をアナログ値からデジタル値に変換するアナログ/デジタル変換器と、電圧制御発振器の制御電圧と発振周波数との関係を示すテーブルが予め格納される記憶部と、アナログ/デジタル変換器によってデジタル値に変換された制御電圧が、テーブルに従って定められる所定の電圧範囲内にあるか否かに基づいて、判定信号を出力する判定回路とを含む。この場合は、テーブルに従って所定の電圧範囲を任意に設定することができる。これにより、ユーザは動作状態の判定精度を任意に調整することができる。
【0022】
また好ましくは、さらに、アナログ/デジタル変換器と判定回路との間に介挿され、アナログ/デジタル変換器によってデジタル値に変換された制御電圧の所定時間ごとの平均値を算出する演算回路が設けられる。この場合は、ノイズ耐性が強くなり、動作状態の判定精度が高くなる。
【0023】
また好ましくは、さらに、判定信号に基づいて、位相同期ループ回路が所望の動作状態を維持する範囲内において、第1の分周回路の駆動電流を小さくする電流制御回路が設けられる。この場合は、位相同期ループ回路の低消費電力化が実現される。
【0024】
また好ましくは、電流制御回路は、通常動作モードにおいて非活性化され、低消費動作モードにおいて活性化される。この場合は、ユーザは任意に低消費動作モードと通常動作モードとを使い分けて使用することができ、汎用性の高い位相同期ループ回路が実現される。
【0025】
この発明に係る半導体集積回路は、上記位相同期ループ回路が1チップの半導体基板上に集積されたものである。したがって、位相同期ループ回路の小型化、低コスト化、動作の安定化および低消費電力化が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1によるPLL周波数シンセサイザの概略構成を示すブロック図である。図1において、このPLL周波数シンセサイザは、位相・周波数比較器1と、チャージポンプ2と、ループフィルタ3と、電圧制御発振器(VCO)4と、帰還分周回路5と動作状態判定部6とを備える。動作状態判定部6は、アナログ/デジタル変換器(ADC)11と、メモリ12と、判定回路13とを含む。このPLL周波数シンセサイザは、外部からの基準クロック信号と内部で生成した比較クロック信号との位相差がなくなるように、電圧制御発振器4にフィードバック制御をかけることによって、所望の発振周波数の内部クロック信号を生成する。
【0027】
位相・周波数比較器1は、水晶発振器などで生成された基準クロック信号と帰還分周回路5からの比較クロック信号の位相および周波数を比較し、比較結果に応じた位相差信号UP,DNを出力する。チャージポンプ2は、位相・周波数比較器1からの位相差信号UPに応答してループフィルタ3に正電流を供給し、位相差信号DNに応答してループフィルタ3に負電流を供給する(ループフィルタ3から電流を引き抜く)。ループフィルタ3は、電圧制御発振器4の発振周波数を制御する制御電圧を生成する。チャージポンプ2およびループフィルタ3は、フィルタ部を構成する。電圧制御発振器4は、ループフィルタ3からの制御電圧に応じた発振周波数の内部クロック信号を生成する。帰還分周回路5は、電圧制御発振器4からの内部クロック信号を分周比Nで分周(周波数を1/N倍に変換)して比較クロック信号として出力する。帰還分周回路5の分周比Nは、外部からの設定信号により任意の値に設定され、所望の発振周波数の内部クロック信号が得られる。
【0028】
図2は、電圧制御発振器の制御電圧と発振周波数との関係を示すグラフである。図2を参照して、電圧制御発振器は、制御電圧が高いほど発振周波数が高くなる特性を有する。図1に示した電圧制御発振器4の発振周波数をfvcoとし、外部からの基準クロック信号の周波数をfrefとする。このとき、帰還分周回路5から出力される比較クロック信号の周波数はfvco/Nである。位相・周波数比較器1は、基準クロック信号の周波数frefと比較クロック信号の周波数fvco/Nと比較し、比較結果に応じた位相差信号UP,DNを出力する。具体的には、fvco/N<frefである場合は、発振周波数を高くするように指示する位相差信号UPを出力し、fvco/N>frefである場合は、発振周波数を低くするように指示する位相差信号DNを出力する。
【0029】
チャージポンプ2は、位相差信号UPに応答してループフィルタ3に電流を供給し、位相差信号DNに応答してループフィルタ3から電流を引き抜く。ループフィルタ3は、チャージポンプ2から電流が供給された場合は制御電圧を高くし、チャージポンプ2から電流が引き抜かれた場合は制御電圧を低くする。電圧制御発振器4は、制御電圧が高くされた場合は発振周波数を高くし、制御電圧が低くされた場合は発振周波数を低くする。
【0030】
たとえば、基準クロック信号の周波数frefが10MHz、電圧制御発振器4の発振周波数帯域が900〜1100MHzであって、1000MHzの発振周波数fvcoを得るようにPLL周波数シンセサイザを制御する場合について説明する。帰還分周回路5には、分周比100(=1000MHz/10MHz)を指示する設定信号が与えられる。この設定信号が与えられたときの電圧制御発振器4の発振周波数fvcoが1100MHzであったと仮定すると、帰還分周回路5から出力される比較クロック信号の周波数は11MHz(=1100MHz/100)となる。位相・周波数比較器1は、基準クロック信号の周波数10MHzと、比較クロック信号の周波数11MHzとを比較する。ここで、比較クロック信号の周波数が基準クロック信号の周波数よりも高いので、位相・周波数比較器1は電圧制御発振器4の発振周波数を低くするように指示する位相差信号DNを出力する。そして、発振周波数が1100MHzから低下して1000MHzよりも低くなると、比較クロック信号の周波数が基準クロック信号の周波数10MHzよりも低くなるため、位相・周波数比較器1は電圧制御発振器4の発振周波数を高くするように指示する位相差信号UPを出力する。
【0031】
このように、電圧制御発振器4にフィードバック制御をかけることによって、基準クロック信号の周波数frefと比較クロック信号の周波数をfvco/Nとを一致させるように動作する。これにより、所望の発振周波数fvco(=N×fref)の内部クロック信号が得られる。
【0032】
ここで、帰還分周回路5が誤動作し、分周比が設定値Nからずれる場合がある。この場合、発振周波数fvcoは基準クロック信号の周波数frefのN倍にならず、所望の周波数の内部クロック信号が得られない。たとえば、1000MHzの発振周波数fvcoを得るように分周比100(=1000MHz/10MHz)を指示する設定信号が与えられたにもかかわらず、帰還分周回路5の誤動作により分周比105で分周動作を行なうことがある。この場合、発振周波数が1050MHz(105×10MHz)で固定されて安定な動作状態となってしまう。このような帰還分周回路5の誤動作を正確に検出する必要がある。
【0033】
動作状態判定部6において、アナログ/デジタル変換器11は、ループフィルタ3から出力される制御電圧(アナログ値)をアナログ/デジタル変換する。メモリ(記憶部)12には、電圧制御発振回路4の制御電圧と発振周波数との関係を示すテーブルが予め格納される。
【0034】
図3は、メモリ12に予め格納される制御電圧と発振周波数との関係を示すテーブルである。図3を参照して、このテーブルは図2に示した制御電圧と発振周波数との関係を示すグラフに基づいて作成されたものであって、制御電圧0V〜3.05Vの範囲内において制御電圧が0.05Vごとに区分され、各々に対応する発振周波数が示されている。
【0035】
図1に戻って、判定回路13は、アナログ/デジタル変換器11からの制御電圧(デジタル値)が、メモリ12に格納されたテーブルに従って定められる所定の電圧範囲内にあるか否かに基づいて、PLL周波数シンセサイザが所望の動作状態であるか否かを判定する。たとえば、1000MHzの発振周波数fvcoを得たい場合は、ループフィルタ3から出力される制御電圧が1.45Vであればよい(図3参照)。ここで、判定回路13の判定基準を定めるしきい値電圧が±0.1Vである場合、判定回路13は、ループフィルタ3から出力される制御電圧が1.35〜1.55Vの範囲内、すなわち発振周波数が981〜1013MHzの範囲内であれば、所望の動作状態であると判定する。一方、ループフィルタ3から出力される制御電圧が1.35〜1.55Vの範囲外、すなわち発振周波数が981〜1013MHzの範囲外であれば、所望の動作状態でないと判定する。判定回路13は、この判定結果を示す判定信号を出力する。
【0036】
なお、判定回路13の判定基準を定めるしきい値電圧は任意に設定され、しきい値電圧に応じて動作状態の判定精度は異なる。具体的には、しきい値電圧をより低い値(たとえば、±0.05V)に設定すれば、動作状態の判定精度が高くなる。また、制御電圧をより細かく区分したテーブルを用いれば、動作状態の判定精度は高くなる。したがって、ユーザは動作状態の判定精度を任意に調整することができる。
【0037】
また、電圧制御発振器4の制御感度によっても、動作状態の判定精度は異なる。具体的には、電圧制御発振器4の制御感度が低いほど、すなわち制御電圧の変化量に対する発振周波数の変化量が小さいほど、動作状態の判定精度が高くなる。
【0038】
図4は、制御感度の低い電圧制御発振器の制御電圧と発振周波数との関係を示す他のテーブルであって、図3と対比される図である。図4のテーブルを参照して、図3のテーブルと異なる点は、発振周波数の範囲が850〜1159MHzから950〜1053MHzと狭くなっている点である。ここで、たとえば1000MHzの発振周波数fvcoを得たい場合、ループフィルタ3から出力される制御電圧が1.5Vであればよいものとする。ここで、判定回路13の判定基準を定めるしきい値電圧が±0.1Vである場合、判定回路13は、ループフィルタ3から出力される制御電圧が1.4〜1.6Vの範囲内、すなわち発振周波数が996〜1007MHzの範囲内であれば、所望の動作状態であると判定する。一方、ループフィルタ3から出力される制御電圧が1.4〜1.6Vの範囲外、すなわち発振周波数が996〜1007MHzの範囲外であれば、所望の動作状態でないと判定する。このように、制御感度の低い電圧制御発振器を用いた場合は、動作状態の判定精度が高くなる。
【0039】
なお、分周比がNである場合、発振周波数fvcoは基準クロック信号の周波数frefのN倍になるため、基準クロック信号の周波数が10MHzであれば発振周波数は10MHz単位で制御される。したがって、図3に示したテーブルを用いた場合は、分周比100を指示する設定信号が与えられた帰還分周回路5が分周比99〜101(発振周波数990〜1010MHz)で動作していれば、所望の動作状態であると判定される。また、図4に示したテーブルを用いた場合は、分周比100を指示する設定信号が与えられた帰還分周回路5が分周比100(発振周波数1000MHz)で動作している場合のみ、所望の動作状態であると判定される。
【0040】
メモリ13に予め格納するテーブルには、出荷前におけるテスト時の実測値を使用する。これにより、シミュレーション値や標準値(Typical値)を用いた場合に比べて、より正確な動作状態の判定が行なわれる。
【0041】
以上のように、この実施の形態1では、PLL周波数シンセサイザの動作状態を正確に判定することができる。また、動作状態判定部6はループフィルタ3から出力される制御電圧に基づいて動作状態の判定を行なうため、帰還分周回路5の誤動作を検出することも可能になる。
【0042】
また、このPLL周波数シンセサイザは1チップの半導体集積回路として実現され、放送受信チューナなどに搭載される。これにより、PLL周波数シンセサイザの小型化、低コスト化、動作の安定化および低消費電力化が実現される。
【0043】
なお、ここでは、帰還分周回路5を有するPLL周波数シンセサイザについて説明したが、帰還分周回路5が設けられていないPLL回路においても、動作状態判定部6によって、PLL回路の動作状態を正確に判定することができる。
【0044】
[実施の形態2]
図5は、この発明の実施の形態2によるPLL周波数シンセサイザの概略構成を示すブロック図であって、図1と対比される図である。図5のPLL周波数シンセサイザを参照して、図1のPLL周波数シンセサイザと異なる点は、入力分周回路21が追加されている点である。なお、図5において、図1と対応する部分においては同一符号を付し、その詳細説明を省略する。
【0045】
一般的に、分周比が分数であるFractional-N型のPLL周波数シンセサイザよりも分周比が整数であるInteger-N型のPLL周波数シンセサイザの方が回路構成が比較的簡単である。このため、Integer-N型のPLL周波数シンセサイザが用いられることが多い。このため、図1に示したPLL周波数シンセサイザがInteger-N型である場合、電圧制御発振器4の発振周波数fvcoは基準クロック信号の周波数frefのN倍、すなわち整数倍になる。基準クロック信号を生成する発振器には、安定度の高い水晶発振器を用いることが多い。たとえば、水晶発振器の発振周波数frefが10MHzである場合、PLL周波数シンセサイザの発振周波数fvcoは10MHzの整数倍となる。すなわち、PLL周波数シンセサイザの発振周波数fvcoは10MHzの周波数ステップで制御される。そこで、より細かい周波数ステップで制御できるようにするために、入力分周回路21が設けられる。
【0046】
入力分周回路21は、水晶発振器などで生成された基準クロック信号を分周比Mで分周(周波数を1/M倍に変換)して位相・周波数比較器1に与える。この入力分周回路21の分周比Mは、外部からの設定信号により任意の値に設定される。位相・周波数比較器1は、入力分周回路21からの基準クロック信号の周波数のfref/Mと、帰還分周回路5からの比較クロック信号の周波数fvco/Nとを比較し、比較結果に応じた位相差信号UP,DNを出力する。
【0047】
このPLL周波数シンセサイザは、電圧制御発振器4にフィードバック制御をかけることによって、入力分周回路21からの基準クロック信号の周波数fref/Mと比較クロック信号の周波数fvco/Nとを一致させるように動作する。これにより、所望の発振周波数fvco(=N×fref/M)の内部クロック信号が得られる。
【0048】
たとえば、基準クロック信号の周波数frefが10MHz、分周比Nが100、分周比Mが10である場合、電圧制御発振器4の発振周波数fvcoは100MHz(=100×10MHz/10)になる。この場合、電圧制御発振器4の発振周波数fvcoは、fref/M=1MHz(=10MHz/10)の整数倍となる。すなわち、PLL周波数シンセサイザの発振周波数fvcoは1MHzの周波数ステップで制御される。このため、より細かい周波数ステップで発振周波数fvcoを制御することができるようになる。
【0049】
したがって、この実施の形態2では、実施の形態1と同様に、PLL周波数シンセサイザの動作状態を正確に判定することができる。また、動作状態判定部6はループフィルタ3から出力される制御電圧に基づいて動作状態の判定を行なうため、帰還分周回路5の誤動作を検出することも可能になる。
【0050】
さらに、入力分周回路21の分周比Mを変えることよって、PLL周波数シンセサイザから出力される内部クロック信号の周波数ステップを任意に変更することができ、より細かな周波数ステップが実現できる。これにより、水晶発振器から所望の発振周波数が得られない場合でも、水晶発振器を取替えずに周波数ステップを変更することができるため利便性が向上し、低コスト化が図られる。
【0051】
[実施の形態3]
図6は、この発明の実施の形態3によるPLL周波数シンセサイザの概略構成を示すブロック図であって、図5と対比される図である。図6のPLL周波数シンセサイザを参照して、図5のPLL周波数シンセサイザと異なる点は、演算回路41が追加されている点である。なお、図6において、図5と対応する部分においては同一符号を付し、その詳細説明を省略する。
【0052】
動作状態判定部31において、演算回路41は、アナログ/デジタル変換器11からの制御電圧(デジタル値)を受け、所定時間ごとの制御電圧の平均値を算出する。判定回路13は、演算回路41からの制御電圧の平均値が、メモリ12に格納されたテーブルに従って定められる所定の電圧範囲内にあるか否かに基づいて、PLL周波数シンセサイザが所望の動作状態であるか否かを判定する。
【0053】
したがって、この実施の形態3では、平均値を用いてPLL周波数シンセサイザが所望の動作状態であるか否かの判定を行なうため、ノイズの影響を受けにくくなる。これにより、ノイズ耐性が強くなり、動作状態の判定精度が高くなる。
【0054】
[実施の形態4]
図7は、この発明の実施の形態4によるPLL周波数シンセサイザの概略構成を示すブロック図であって、図5と対比される図である。図7のPLL周波数シンセサイザを参照して、図5のPLL周波数シンセサイザと異なる点は、電流制御回路51が追加されている点である。なお、図7において、図5と対応する部分においては同一符号を付し、その詳細説明を省略する。
【0055】
一般的に、帰還分周回路は、誤動作しないようにするため駆動電流のマージンを十分大きくとった設計が行なわれる。帰還分周回路は、駆動電流が大きいほど最高動作周波数(分周動作が可能な動作周波数の最大値)が高い。このため、駆動電流が大きいほど高速動作が可能になり、正常な分周動作が保証される。しかし、必要以上の駆動電流を使用すると、消費電力が大きくなってしまう。近年、モバイル製品向けのPLL周波数シンセサイザの需要が増えており、低消費電力化が要望されている。
【0056】
そこで、この実施の形態4では、帰還分周回路5の駆動電流を制御するための電流制御回路51を設ける。電流制御回路51は、外部から低消費動作モードを示す制御信号によって活性化され、判定回路13からの判定信号に応答して、帰還分周回路5の駆動電流を制御する。この電流制御回路51は、外部から通常動作モードを示す制御信号が与えられているときは非活性化される。
【0057】
図8は、低消費動作モードにおける電流制御回路51の動作を説明するためのフローチャートである。図8を参照して、ステップS1において、電流制御回路51は、帰還分周回路5の駆動電流を電流IAだけ減少させる。次に、ステップS2において、判定回路13からの判定信号に基づいて、PLL周波数シンセサイザが所望の動作状態であるか否かを識別する。PLL周波数シンセサイザが所望の動作状態であれば(YES)、ステップS1に戻り、帰還分周回路5の駆動電流をさらに電流IAだけ減少させる。電流制御回路51は、判定回路13からの判定信号に基づいて、PLL周波数シンセサイザが所望の動作状態を維持することができなくなるまでこのステップS1,S2の動作を繰返す。そして、帰還分周回路5の誤動作が発生して、PLL周波数シンセサイザが所望の動作状態を維持することができなくなれば(NO)、ステップS3に進み、帰還分周回路5の駆動電流を電流IAだけ増加させて電流制御動作を終了する。これにより、PLL周波数シンセサイザは所望の動作状態に回復する。
【0058】
したがって、この実施の形態4では、電流制御回路51を設けたことによって、分周回路5の正常な分周動作が保証される範囲、すなわちPLL周波数シンセサイザが所望の動作状態を維持する範囲内において、その駆動電流が小さくなるように制御される。このため、PLL周波数シンセサイザの低消費電力化が図られる。また、ユーザは任意に低消費動作モードと通常動作モードとを使い分けて使用することができ、汎用性の高いPLL周波数シンセサイザが実現される。
【0059】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明の実施の形態1によるPLL周波数シンセサイザの概略構成を示すブロック図である。
【図2】電圧制御発振器の制御電圧と発振周波数との関係を示すグラフである。
【図3】メモリに予め格納される制御電圧と発振周波数との関係を示すテーブルである。
【図4】制御感度の低い電圧制御発振器の制御電圧と発振周波数との関係を示す他のテーブルである。
【図5】この発明の実施の形態2によるPLL周波数シンセサイザの概略構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態3によるPLL周波数シンセサイザの概略構成を示すブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態4によるPLL周波数シンセサイザの概略構成を示すブロック図である。
【図8】低消費動作モードにおける電流制御回路の動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0061】
1 位相・周波数比較器、2 チャージポンプ、3 ループフィルタ、4 電圧制御発振器、5 帰還分周回路、6,31 動作状態判定部、11 アナログ/デジタル変換器、12 メモリ、13 判定回路、21 入力分周回路、41 演算回路、51 電流制御回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの基準クロック信号に同期して内部クロック信号を生成する位相同期ループ回路であって、
前記基準クロック信号と前記内部クロック信号の位相および周波数を比較し、比較結果に応じた位相差信号を出力する位相・周波数比較器、
前記位相差信号に応じた制御電圧を生成するフィルタ部、
前記フィルタ部からの制御電圧に応じた発振周波数の前記内部クロック信号を生成する電圧制御発振器、および
前記フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にある場合は、前記位相同期ループ回路が所望の動作状態であると判定し、前記フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にない場合は、前記位相同期ループ回路が所望の動作状態でないと判定し、判定結果を示す判定信号を出力する動作状態判定部を備える、位相同期ループ回路。
【請求項2】
外部からの基準クロック信号に同期して内部クロック信号を生成する位相同期ループ回路であって、
前記基準クロック信号と内部で生成した比較クロック信号の位相および周波数を比較し、比較結果に応じた位相差信号を出力する位相・周波数比較器、
前記位相差信号に応じた制御電圧を生成するフィルタ部、
前記フィルタ部からの制御電圧に応じた発振周波数の前記内部クロック信号を生成する電圧制御発振器、
前記内部クロック信号を予め定められた分周比で分周して、前記比較クロック信号を生成する帰還分周回路、および
前記フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にある場合は、前記位相同期ループ回路が所望の動作状態であると判定し、前記フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にない場合は、前記位相同期ループ回路が所望の動作状態でないと判定し、判定結果を示す判定信号を出力する動作状態判定部を備える、位相同期ループ回路。
【請求項3】
外部からの第1の基準クロック信号に同期して内部クロック信号を生成する位相同期ループ回路であって、
前記第1の基準クロック信号を予め定められた第1の分周比で分周して、第2の基準クロック信号を生成する入力分周回路、
前記第2の基準クロック信号と内部で生成した比較クロック信号の位相および周波数を比較し、比較結果に応じた位相差信号を出力する位相・周波数比較器、
前記位相差信号に応じた制御電圧を生成するフィルタ部、
前記フィルタ部からの制御電圧に応じた発振周波数の前記内部クロック信号を生成する電圧制御発振器、
前記内部クロック信号を予め定められた第2の分周比で分周して、前記比較クロック信号を生成する帰還分周回路、および
前記フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にある場合は、前記位相同期ループ回路が所望の動作状態であると判定し、前記フィルタ部からの制御電圧が所定の電圧範囲内にない場合は、前記位相同期ループ回路が所望の動作状態でないと判定し、判定結果を示す判定信号を出力する動作状態判定部を備える、位相同期ループ回路。
【請求項4】
前記動作状態判定部は、
前記フィルタ部からの制御電圧をアナログ値からデジタル値に変換するアナログ/デジタル変換器、
前記電圧制御発振器の制御電圧と発振周波数との関係を示すテーブルが予め格納される記憶部、および
前記アナログ/デジタル変換器によってデジタル値に変換された制御電圧が、前記テーブルに従って定められる前記所定の電圧範囲内にあるか否かに基づいて、前記判定信号を出力する判定回路を含む、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の位相同期ループ回路。
【請求項5】
さらに、前記アナログ/デジタル変換器と前記判定回路との間に介挿され、前記アナログ/デジタル変換器によってデジタル値に変換された制御電圧の所定時間ごとの平均値を算出する演算回路を備える、請求項4に記載の位相同期ループ回路。
【請求項6】
さらに、前記判定信号に基づいて、前記位相同期ループ回路が所望の動作状態を維持する範囲内において、前記帰還分周回路の駆動電流を小さくする電流制御回路を備える、請求項2または請求項3に記載の位相同期ループ回路。
【請求項7】
前記電流制御回路は、通常動作モードにおいて非活性化され、低消費動作モードにおいて活性化される、請求項6に記載の位相同期ループ回路。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の位相同期ループ回路が1チップの半導体基板上に集積された半導体集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−180349(P2006−180349A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373372(P2004−373372)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】