説明

位相固定ループ及びその動作方法

【課題】位相固定ループのロッキングタイムを減らすことができる、特にターゲット値(出力クロックの目標周波数)が変化しても常に短いロッキングタイムを有する位相固定ループ及びその動作方法を提供する。
【解決手段】位相固定ループは、入力クロックCLK_INの位相とフィードバッククロックCLK_FBの位相とを比較する位相比較部310と、位相比較部310の比較結果UP,DNに応じて周波数制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSを生成する制御部330と、周波数制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSに応答して出力クロックCLK_OUTを生成するオシレータ部340と、入力クロックCLK_INの周波数を検出して、検出結果に応じて初期値INIT_VALUEを制御部330に提供する初期値提供部350とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相固定ループ(PLL:Phase locked Loop)のロッキングタイム(locking time)を減らす技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外部のレファレンスクロック(reference clock)を入力として内部クロックを生成する技術は、高速同期システム(high speed synchronous system)に必須の要素である。最近ではモバイル機器でも高速同期システムが適用されている。一般的に、周波数が高まるほどシステムで消費する電力が増加することになるため、モバイル機器では特に電力消費を減らすための技術が必要となる。
【0003】
電力消費を減らすことを目的として、微細工程を利用して寄生(parasitic)成分を減少させ、電源電圧のレベルを低下させるなどの物理的な方法を利用することができるが、これには追加的な費用が発生する。したがって、システムの内部で電力消費を減らす方法が効果的である。このために、システムの内部で使用中でない回路を切断する方法を適用したり、該当回路の動作周波数を低下させる方法が多く使用される。このように、回路を接続または切断したり、その周波数を素早く変更することができるほど、より多くの場合において電力消費を減少させることができるようになる。
【0004】
したがって、内部クロックを生成する位相固定ループ(PLL)のような回路において、ロッキングタイムを減らすのは大変重要なことである。
【0005】
図1は従来の位相固定ループの構成図である。
【0006】
図1に示されたように、位相固定ループは、位相比較部110と、ローパスフィルタ部120と、制御部130と、オシレータ部140とを備える。
【0007】
位相比較部110は、入力クロックCLK_INの位相とフィードバッククロックCLK_FBの位相とを比較して、その結果をアップ信号UPとダウン信号DNとして出力する。
【0008】
ローパスフィルタ部120は、アップ信号UPおよびダウン信号DNに含まれているノイズ(noise)をフィルタリングする役割を果たす。
【0009】
制御部130は、ローパスフィルタ部120によってノイズが除去されたアップ信号UPおよびダウン信号DNに応答して、オシレータ制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSを生成する。制御部130は、アップ信号UPが活性化されたのか、またはダウン信号DNが活性化されたのかに応じて、オシレータ部140で生成するクロックCLK_OUTの周波数を増加または低下させるように、オシレータ制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSを生成する。
【0010】
オシレータ部140は、オシレータ制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSに応答して出力クロックCLK_OUTを生成する。出力クロックCLK_OUTの周波数(frequency)は、オシレータ制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSによって決定される。このようなオシレータ部140を一般的にDCO(Digital−Controlled Oscillator)という。
【0011】
図1では、出力クロックCLK_OUTがフィードバッククロックCLK_FBにフィードバック(feedback)される経路に(すなわち、フィードバックループに)何の回路も備えないものを例示したが、入力クロックCLK_INおよび出力クロックCLK_OUTの周波数を異なるようにしようとする場合には、フィードバックループに分周器(divider)をさらに備えることができる。
【0012】
位相固定ループは、出力クロックCLK_OUTの初期周波数(例、300MHz)から動作を開始し、位相比較部110の位相比較結果に応じて周波数を増加または低下させる方法で動作し、出力クロックCLK_OUTが目標とする周波数に到達すると、それ以上出力クロックCLK_OUTの周波数を変更させない。これを位相固定ループがロッキング(locking)されたと表現する。
【0013】
参考として、図1のようにフィードバックループに分周器が備えられていない場合には、出力クロックCLK_OUTの目標周波数は入力クロックCLK_INの周波数と同一である。もし、フィードバックループに分周器が備えられた場合には、出力クロックCLK_OUTの目標周波数は入力クロックCLK_INの周波数のN(分周比)倍となる。
【0014】
図2A、図2Bは、位相固定ループの動作で出力クロックCLK_OUTの周波数が目標周波数に向かって変わって行く過程を示した図である。
【0015】
図2Aは、出力クロックCLK_OUTの目標周波数TARGETが300MHzの場合の動作を示したものである。出力クロックCLK_OUTは、初期値INIである200MHzからスタートし、位相比較部110および制御部130の動作によって順次周波数が増加し、出力クロックCLK_OUTの周波数が300MHzに到達すると、位相固定ループがロッキングされる。図2Aの場合には、設定された出力クロックCLK_OUTの初期値INIと出力クロックCLK_OUTの目標周波数TARGETとが100MHzの差異を有するため、ロッキングタイムtLOCKが比較的短い。
【0016】
図2Bは、出力クロックCLK_OUTの目標周波数TARGETが600MHzの場合の動作を示したものである。出力クロックCLK_OUTは、初期値INIである200MHzからスタートし、位相比較部110および制御部130の動作によって順次周波数が増加し、出力クロックCLK_OUTの周波数が600MHzに到達すると、位相固定ループがロッキングされる。図2Bの場合には、設定された出力クロックCLK_OUTの初期値INIと出力クロックCLK_OUTの目標周波数TARGETとが大きい差異を有するため、ロッキングタイムtLOCKが非常に長い。
【0017】
従来の位相固定ループは、出力クロックの目標周波数に応じてロッキングタイムが変化する。特に、出力クロックの目標周波数と出力クロックの初期値との間に大きな差異が生じる場合には、ロッキングタイムが非常に長くかかる。
【0018】
さらには、最近のシステムは固定された動作周波数ではなく可変する多様な動作周波数で動作するため、上記のような位相固定ループのロッキングタイムは大きな問題になりうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第7,577,225号明細書
【特許文献2】米国特許第7,116,743号明細書
【特許文献3】米国特許第7,602,223号明細書
【特許文献4】米国特許第6,326,826号明細書
【特許文献5】国際公開第2005/008894号
【特許文献6】米国特許第7,573,955号明細書
【特許文献7】米国特許第7,545,222号明細書
【特許文献8】米国特許第5,495、205号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、前記した従来技術の問題点を解決するために提案されたもので、位相固定ループのロッキングタイムを減らすことにその目的がある。
【0021】
特に、ターゲット値(出力クロックの目標周波数)が変化しても、位相固定ループが常に短いロッキングタイムを有するようにすることにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記した目的を達成するための本発明に係る位相固定ループは、入力クロックの位相とフィードバッククロックの位相とを比較する位相比較部と、前記位相比較部の比較結果に応じて周波数制御信号を生成する制御部と、前記周波数制御信号に応答して出力クロックを生成するオシレータ部と、前記入力クロックの周波数を検出して、検出結果に応じて初期値を前記制御部に提供する初期値提供部とを備えている。
【0023】
前記位相固定ループが、前記位相比較部の比較結果を前記制御部に伝達するためのローパスフィルタ部をさらに備えていてもよい。
【0024】
また、本発明に係る位相固定ループが、入力クロックの位相とフィードバッククロックの位相とを比較する位相比較部と、前記位相比較部の比較結果に応答して充電電流および放電電流を生成するチャージポンプ部と、前記充電電流および前記放電電流に応答して制御電圧を生成するループフィルタと、前記制御電圧に応答して出力クロックを生成するオシレータ部と、前記入力クロックの周波数を検出して、検出結果に応じて初期制御電圧で前記ループフィルタを充電する初期値提供部とを備えている。
【0025】
また、本発明に係る位相固定ループの動作方法は、入力クロックの周波数を検出するステップと、前記周波数検出結果に応じて出力クロックの初期周波数を決定するステップと、前記入力クロックの位相とフィードバッククロックの位相とを比較するステップと、前記位相比較結果に応じて前記出力クロックの周波数を増加または低下させるステップとを含んでいる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、位相固定ループに入力される入力クロックの周波数が検出され、検出された周波数に基づいて位相固定ループから出力される出力クロックの初期周波数が決定される。したがって、出力クロックの目標周波数と類似した初期周波数から位相固定ループが動作を開始することになり、その結果、ロッキングタイムを大幅に短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来の位相固定ループの構成図である。
【図2A】位相固定ループの動作において出力クロックCLK_OUTの周波数が目標周波数に向かって変わって行く過程を示した図である。
【図2B】位相固定ループの動作において出力クロックCLK_OUTの周波数が目標周波数に向かって変わって行く過程を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態による位相固定ループの構成図である。
【図4】本発明の別の実施形態による位相固定ループの構成図である。
【図5】初期値提供部350、450におけるオーバーサンプリング方式による入力クロックCLK_INの周波数検出を説明するための図である。
【図6】図5と異なるオーバーサンプリング方式により初期値提供部350、450が入力クロックCLK_INの周波数を検出することを説明するための図である。
【図7A】本発明に係る位相固定ループの動作において出力クロックCLK_OUTの周波数が目標周波数に向かって変わって行く過程を示した図である。
【図7B】本発明に係る位相固定ループの動作において出力クロックCLK_OUTの周波数が目標周波数に向かって変わって行く過程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者が本発明の技術的思想を実施できる程度に、本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
図3は、本発明の一実施形態による位相固定ループの構成図である。
【0030】
図3に示されたように、位相固定ループは、入力クロックCLK_INの位相とフィードバッククロックCLK_FBの位相とを比較する位相比較部310と、位相比較部310の比較結果UP、DNに応じて周波数制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSを生成する制御部330と、周波数制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSに応答して出力クロックCLK_OUTを生成するオシレータ部340と、入力クロックCLK_INの周波数を検出して、検出結果に応じて初期値情報INI_VALUEを制御部330に提供する初期値提供部350とを備える。
【0031】
そして、位相比較部310の比較結果UP、DNを制御部330に伝達するためのローパスフィルタ部320をさらに備えることができる。
【0032】
位相比較部310は、入力クロックCLK_INの位相とフィードバッククロックCLK_FBの位相とを比較して、その結果をアップ信号UPまたはダウン信号DNとして出力する。
【0033】
ローパスフィルタ部320は、アップ信号UPまたはダウン信号DNに含まれているノイズをフィルタリング(filtering)する役割を果たす。ローパスフィルタ部320の役割はノイズを除去することであるため、位相固定ループ内にローパスフィルタ部330を備えていなくてもよい。もちろん、ローパスフィルタ部330が省略される場合には、位相固定ループの動作が少し不安定になることもある。
【0034】
制御部330は、ローパスフィルタ部320によってノイズが除去されたアップ信号UPまたはダウン信号DNに応答して、オシレータ制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSを生成する。制御部330は、アップ信号UPが活性化されたのか、またはダウン信号DNが活性化されたのかに応じて、オシレータ部340で生成するクロックCLK_OUTの周波数を増加または低下させるように、オシレータ制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSを生成する。
【0035】
従来の制御部(図1に符号130で示す)は、あらかじめ定められた初期値でオシレータ制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSを生成したが、本発明の制御部330は、初期値提供部350から伝達される初期値情報INI_VALUEに応じて出力クロックCLK_OUTの初期値を定める。例えば、初期値提供部350が、出力クロックCLK_OUTの初期値を400MHzに指示する情報INI_VALUEを提供すると、出力クロックCLK_OUTが400MHzの初期値を有するようにオシレータ制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSを生成する。同様に、初期値提供部350が、出力クロックCLK_OUTの初期値を600MHzに指示する情報INI_VALUEを提供すると、出力クロックCLK_OUTが600MHzの初期値を有するようにオシレータ制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSを生成する。
【0036】
初期値提供部350から提供された初期値情報INI_VALUEによって出力クロックCLK_OUTの初期値が定められた以後には、制御部330は、入力されたアップ信号UPまたはダウン信号DNに応答して、出力クロックCLK_OUTの初期値INI_VALUEから出力クロックCLK_OUTの周波数を増加または低下させるように制御する。
【0037】
オシレータ部340は、オシレータ制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSに応答して出力クロックCLK_OUTを生成する。これは、出力クロックCLK_OUTの周波数がオシレータ制御信号DCO_CONTROL_SIGNALSによって決定されるということを意味する。このようなオシレータ部340を一般的にDCOという。
【0038】
初期値提供部350は、入力クロックCLK_INの周波数を検出して、検出結果に応じて初期値情報INI_VALUEを制御部330に提供する。出力クロックCLK_OUTの目標周波数は入力クロックCLK_INによって決定される。フィードバックループが分周器を備えていない場合(すなわち、CLK_OUT=CLK_FBの場合)には、出力クロックCLK_OUTの目標周波数が入力クロックCLK_INと同一の周波数となり、フィードバックループが分周比1/Nである分周器を備えている場合には、出力クロックCLK_OUTの目標周波数は入力クロックCLK_INの周波数のN倍となる。したがって、初期値提供部350が入力クロックCLK_INの周波数を検出すると、出力クロックCLK_OUTの目標周波数とほとんど類似した値を初期値情報INI_VALUEとして制御部330に提供することができる。また、初期値提供部350が、入力クロックCLK_INの周波数を正確でなくとも概略的に検出しても、出力クロックCLK_OUTの目標周波数と類似した値を初期値情報INI_VALUEとして制御部330に提供することができる。
【0039】
初期値提供部350は、オーバーサンプリング(over sampling)方式を利用して入力クロックCLK_INの周波数を検出することができるが、オーバーサンプリングについては図と共に後述する。
【0040】
図4は、本発明の別の実施形態による位相固定ループの構成図である。
【0041】
図4では、図3の実施形態(デジタル方式)とは対照的に、アナログ方式の位相固定ループに本発明が適用された実施形態を示した。図4に示されたように、位相固定ループは、入力クロックCLK_INの位相とフィードバッククロックCLK_FBの位相とを比較する位相比較部410と、位相比較部410の比較結果UP、DNに応答して充電電流(charging current)と放電電流(discharging current)を生成するチャージポンプ部420と、充電電流または放電電流に応答して制御電圧VCTRLを生成するループフィルタ430と、制御電圧VCTRLに応答して出力クロックCLK_OUTを生成するオシレータ部440と、入力クロックCLK_INの周波数を検出して、検出結果に応じて初期制御電圧INI_VCTRLでループフィルタ430を充電する初期値提供部450とを備える。
【0042】
位相比較部410は、入力クロックCLK_INの位相とフィードバッククロックCLK_FBの位相とを比較して、その結果をアップ信号またはダウン信号として出力する。
【0043】
チャージポンプ部420は、アップ信号UPまたはダウン信号DNに応答して充電電流または放電電流を生成する。充電電流は制御電圧VCTRLのレベルを増加させるための電流であり、放電電流は制御電圧VCTRLのレベルを低下させるための電流である。したがって、チャージポンプ部420が充電電流を生成すると、ループフィルタ430に充電された電圧VCTRLのレベルが増加し、チャージポンプ部420が放電電流を生成すると、ループフィルタ430に充電された電圧VCTRLのレベルが低下する。
【0044】
オシレータ部440は、ループフィルタ430に充電されている制御電圧VCTRLに応答して出力クロックCLK_OUTを生成する。制御電圧VCTRLのレベルが高いほど出力クロックCLK_OUTの周波数は増加し、制御電圧VCTRLのレベルが低いほど出力クロックCLK_OUTの周波数は低下する。このようなオシレータ部440を一般的にVCO(Voltage−Controlled Oscillator)と呼ぶ。
【0045】
初期値提供部450は、入力クロックCLK_INの周波数を検出して、検出結果に応じて生成された初期制御電圧INI_VCTRLでループフィルタ430を充電する。出力クロックCLK_OUTの目標周波数は入力クロックCLK_INによって決定される。フィードバックループが分周器を備えていない場合には、出力クロックCLK_OUTの目標周波数が入力クロックCLK_INと同一の周波数になり、フィードバックループが分周比1/Nである分周器を備えている場合には、出力クロックCLK_OUTの目標周波数は入力クロックCLK_INの周波数のN倍となる。したがって、初期値提供部450が入力クロックCLK_INの周波数を検出すると、出力クロックCLK_OUTの目標周波数とほとんど類似した値が出力クロックCLK_OUTの初期値になるように、制御電圧VCTRLの初期値を設定することができる。初期値提供部450が入力クロックCLK_INの周波数を検出した結果、入力クロックCLK_INの周波数が高い場合には初期制御電圧INI_VCTRLを高く設定し、入力クロックCLK_INの周波数が低い場合には初期制御電圧INI_VCTRLを低く設定して、ループフィルタ430を充電する。初期値提供部450は、オーバーサンプリング方式を利用して入力クロックCLK_INの周波数を測定することができるが、オーバーサンプリングについての説明は図と共に後述する。
【0046】
図3の初期値提供部350はデジタル方式の情報INI_VALUEを制御部に提供する反面、図4の初期値提供部450は、アナログ方式の初期制御電圧INI_VCTRLでループフィルタ430を充電するという点が互いに異なる。
【0047】
本発明によれば、位相固定ループの動作初期に、初期値提供部450によって入力クロックCLK_INの周波数が測定され、その結果生成された初期制御電圧INI_VCTRLでループフィルタ430が充電される。そしてそれ以後は、位相比較部410の比較結果UP、DNに応じて制御電圧VCTRLが増加または低下され、出力クロックCLK_OUTの周波数が調節される。出力クロックCLK_OUTの初期周波数を目標周波数とほとんど類似するように設定することが可能なため、本発明の位相固定ループは速く目標周波数に到達することができる。すなわち、速いロッキングが可能である。
【0048】
簡単にまとめると、本発明の位相固定ループは、オープンループ(open loop)方式を利用して短い時間内で出力クロックCLK_OUTの周波数を目標周波数と類似するようにさせ、それ以後は、クローズドループ(closed loop)方式を利用して出力クロックCLK_OUTの周波数を目標周波数と正確に一致させるように動作する。
【0049】
図5は、初期値提供部350、450におけるオーバーサンプリング方式による入力クロックCLK_INの周波数検出を説明するための図である。
【0050】
初期値提供部350、450は、サンプリング基準信号SAMPLE0を所定遅延値で順次遅延させ、複数のサンプリング基準信号SAMPLE1〜Nを生成する。例えば、サンプリング基準信号SAMPLE1は、サンプリング基準信号SAMPLE0が0.2nsの分だけ遅延した信号であり、サンプリング基準信号SAMPLE2は、サンプリング基準信号SAMPLE1が0.2nsの分だけ遅延した信号である。
【0051】
複数のサンプリング基準信号SAMPLE0〜Nが得られれば、複数のサンプリング基準信号SAMPLE0〜Nそれぞれの立上りエッジ(rising edge)で、入力クロックCLK_INの論理値をサンプリングする。図5の下段はまさにこのような過程を表す。左側から一番目の矢印は、サンプリング基準信号SAMPLE0の立上りエッジで入力クロックCLK_INの論理値をサンプリングした結果「0」が検出されたことを表し、2番目の矢印は、サンプリング信号SAMPLE1の立上りエッジで入力クロックCLK_INの論理値をサンプリングした結果「0」が検出されたことを表す。同様に、3番目〜9番目の矢印は、各々サンプリング基準信号SAMPLE2〜8の立上りエッジで入力クロックCLK_INの論理値をサンプリングした結果「1」、「1」、「1」、「1」、「1」、「0」、「0」が検出されたことを表す。
【0052】
サンプリング基準信号SAMPLE0、1の立上りエッジでは「0」がサンプリングされ、サンプリング基準信号SAMPLE2〜6の立上りエッジでは「1」がサンプリングされ、サンプリング基準信号SAMPLE7、8の立上りエッジではまた「0」がサンプリングされる。このように、「0」→「1」→「0」でサンプリングされた場合の「1」がサンプリングされた区間の長さが、まさに入力クロックCLK_INの活性化区間の長さ(パルス幅)であるということができる。図5の場合には「1」が5回検出されており、サンプリング基準信号SAMPLE0〜N間の遅延値の差が0.2nsであるため、結局0.2ns×5=1nsが入力クロックCLK_INのパルス幅(半周期の長さ)と結論付けることができ、その結果、入力クロックCLK_INの周波数は1/(0.2ns×5×2)=500MHzと結論付けることができる。
【0053】
もし、サンプリング結果「1」→「0」→「1」がサンプリングされたとすると、「0」がサンプリングされた区間の長さを測定して、入力クロックCLK_INの周波数を感知できることはもちろんである。また、サンプリング基準信号SAMPLE0〜Nの個数およびサンプリング基準信号SAMPLE〜N間の遅延値も必要に応じて変更することができる。
【0054】
このような方式をオーバーサンプリング方式という。本発明の初期値提供部350、450は、オーバーサンプリング方式で入力クロックCLK_INの周波数を検出し、これを利用して初期値を設定する。
【0055】
サンプリング基準信号SAMPLE0には、立上りエッジを有するどのような信号も使用することができ、位相固定ループが適用されるシステム内で使用される信号のうちの1つを利用することができる。また、入力クロックCLK_INおよび出力クロックCLK_OUTも立上りエッジを有するため、これらをサンプリング基準信号として利用することもできる。
【0056】
図6は、図5と異なるオーバーサンプリング方式により初期値提供部350、450が入力クロックCLK_INの周波数を検出することを説明するための図である。
【0057】
入力クロックCLK_INの周波数を検出するために(a)、(b)、(c)の過程を経るが、各過程について説明する。
【0058】
(a)過程では、初期値提供部350は、サンプリング基準信号(SAMPLE0、図6に図示していない。図5を参照)を第1遅延値で順次遅延させ、複数のサンプリング信号SAMPLE<1:N>を生成する。そして、複数のサンプリング基準信号SAMPLE<0:N>の各々の立上りエッジ(図面の矢印)で入力クロックCLK_INの論理値をサンプリングする。入力クロックCLK_INの論理値が「0」→「1」→「0」とサンプリングされるか又は「1」→「0」→「1」とサンプリングされてはじめて入力クロックの周波数が分かるが、図6の(a)過程では、入力クロックが「0」→「1」とのみサンプリングされたため、入力クロックCLK_INの周波数が検出されなかった場合を表す。
【0059】
(b)過程では、(a)過程で入力クロックCLK_INの周波数検出に失敗したため、今度は第1遅延値よりさらに大きい第2遅延値でサンプリング基準信号SAMPLE0を順次遅延させ、改めて複数のサンプリング信号SAMPLE<1:N>を生成する。そして、改めて生成された複数のサンプリング基準信号SAMPLE<0:N>の各々の立上りエッジで入力クロックCLK_INの論理値をサンプリングする。
【0060】
図6の(b)過程でも(a)過程と同様に入力クロックCLK_INが「0」→「1」とのみサンプリングされたため、入力クロックCLK_INの周波数検出に失敗したことを表す。
【0061】
(c)過程では、(b)過程で入力クロックCLK_INの周波数検出に失敗したため、今度は第2遅延値よりさらに大きい第3遅延値でサンプリング基準信号SAMPLE0を順次遅延させ、改めて複数のサンプリング信号SAMPLE<1:N>を生成する。そして、改めて生成された複数のサンプリング基準信号SAMPLE<0:N>の各々の立上りエッジで入力クロックCLK_INの論理値をサンプリングする。(c)過程の場合には、入力クロックCLK_INの論理値が「0」→「1」→「0」とサンプリングされたため、入力クロックCLK_INの周波数検出に成功したことになる。
【0062】
過程(a)→(b)→(c)の順にサンプリング基準信号SAMPLE<0:N>間の遅延値が増える。サンプリング基準信号SAMPLE<0:N>間の遅延値が小さければ、入力クロックCLK_INの周波数をさらに高い解像度(resolution)で検出することができる。しかし、サンプリング基準信号SAMPLE<0:N>間の遅延値が小さい場合には、入力クロックCLK_INの周波数検出に失敗することもある。そのため、初期にはサンプリング基準信号SAMPLE<0:N>間の遅延値を小さく設定して、入力クロックCLK_INの周波数検出に失敗した場合には、改めてサンプリング基準信号SAMPLE<0:N>間の遅延値を次第に増やして周波数を検出することが好ましい。
【0063】
すなわち、まず(a)過程のような方式で入力クロックCLK_INの周波数を検出した以後、周波数の検出に成功すると動作を止め、周波数の検出に失敗すると(b)過程のような方式で入力クロックCLK_INの周波数を検出することができる。もちろん、(b)過程のような方式で再び入力クロックCLK_INの周波数の検出に失敗すると、(c)過程のような方式による入力クロックCLK_INの周波数検出動作を改めて行うことができる。
【0064】
図7A、7Bは、本発明に係る位相固定ループの動作で出力クロックCLK_OUTの周波数が目標周波数に向かって変わって行く過程を示した図である。
【0065】
図7Aは、出力クロックCLK_OUTの目標周波数TARGETが300MHzの場合の動作を示している。初期値提供部350、450の動作によって、出力クロックCLK_OUTの初期値INIが300MHzの近辺に設定され、初期値INIから出力クロックCLK_OUTの周波数が増加して目標周波数TARGETに到達するため、非常に短いロッキングタイムtLOCKとなることを確認することができる。
【0066】
図7Bは、出力クロックCLK_OUTの目標周波数TARGETが600MHzの場合の動作を示している。初期値提供部350、450の動作によって、出力クロックCLK_OUTの初期値INIが600MHzの近辺に設定され、初期値INIから出力クロックCLK_OUTの周波数が増加して目標周波数TARGETに到達するため、非常に短いロッキングタイムtLOCKとなることを確認することができる。
【0067】
このように、本発明によれば、入力クロックCLK_INがどのような周波数を有していても(すなわち、出力クロックCLK_OUTがどのような目標周波数を有していても)、常に、出力クロックCLK_OUTの目標周波数TARGETの近傍の値を、出力クロックCLK_OUTの初期周波数INIとして設定することが可能である。したがって、いかなる場合にも位相固定ループのロッキングタイムtLOCKを非常に短くすることができる。
【0068】
改めて図3ないし図7Bを参照して、本発明に係る位相固定ループの動作方法を説明する。
【0069】
(1)位相固定ループが動作を開始すると、まず初期値提供部350、450によって入力クロックCLK_INの周波数が検出される。そして、検出された入力クロックCLK_INの周波数に応じて、出力クロックCLK_OUTの初期周波数が決定される。デジタル位相固定ループ(図3)では、制御部330に初期値情報INI_VALUEを提供することによって、出力クロックCLK_OUTの初期値が設定され、アナログ位相固定ループ(図4)では、ループフィルタ430に初期値に対応する電圧INI_VCTRLを充電することによって、出力クロックCLK_OUTの初期値が設定される。
【0070】
(2)出力クロックCLK_OUTの初期値が設定された後には、入力クロックCLK_INの位相とフィードバッククロックCLK_FBの位相とが位相比較部310、410によって比較され、その結果UP、DNに応じて、出力クロックCLK_OUTの周波数を増加または低下させる。デジタル位相固定ループ(図3)の場合には、制御部330およびオシレータ部340の動作によって出力クロックCLK_OUTの周波数を増加または低下させ、アナログ位相固定ループ(図4)の場合には、チャージポンプ部420、ループフィルタ430、およびオシレータ部440の動作によって、出力クロックCLK_OUTの周波数を増加または低下させる。ここで、入力クロックCLK_INの位相とフィードバッククロックCLK_FBの位相とが比較され、その結果、出力クロックCLK_OUTの周波数を調節する過程が反復的に行われる。
【0071】
上記したように、本発明に係る位相固定ループは、(1)の方式で行われるオープンループ(open loop)動作によって、出力クロックCLK_OUTの初期周波数が目標周波数と類似するように設定され、(2)の方式で行われるクローズドループ(closed loop)動作によって、出力クロックCLK_OUTの周波数と目標周波数とが正確に一致する。
【0072】
本発明の技術思想は上記した好ましい実施形態により具体的に記述されているが、上記した実施形態はその説明のためのものであり、その制限のためのものではないということに注意しなければならない。また、本発明の技術分野における通常の知識を有する者ならば、本発明の技術思想の範囲内で多様な実施形態が可能であることが分かるであろう。
【符号の説明】
【0073】
310:位相比較部
320:ローパスフィルタ部
330:制御部
340:オシレータ部
350:初期値提供部
410:位相比較部
420:チャージポンプ部
430:ループフィルタ
440:オシレータ部
450:初期値提供部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力クロックの位相とフィードバッククロックの位相とを比較する位相比較部と、
前記位相比較部の比較結果に応じて周波数制御信号を生成する制御部と、
前記周波数制御信号に応答して出力クロックを生成するオシレータ部と、
前記入力クロックの周波数を検出して、検出結果に応じて初期値を前記制御部に提供する初期値提供部と、
を備えることを特徴とする位相固定ループ。
【請求項2】
前記位相固定ループが、前記位相比較部の比較結果を前記制御部に伝達するためのローパスフィルタ部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の位相固定ループ。
【請求項3】
前記初期値提供部が、オーバーサンプリングを利用して前記入力クロックのパルス幅を測定し、その測定結果に基づいて、前記入力クロックの周波数を検出するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の位相固定ループ。
【請求項4】
前記初期値提供部が、サンプリング基準信号を所定の遅延値で順次遅延させた第1ないし第N遅延信号の立上りエッジで、前記入力クロックの論理値を検出して前記入力クロックの周波数を検出するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の位相固定ループ。
【請求項5】
前記初期値提供部が、前記入力クロックの周波数検出のために、
サンプリング基準信号を第1遅延値で順次遅延させた第1ないし第N遅延信号の立上りエッジで、前記入力クロックの論理値を検出して前記入力クロックの周波数を検出する第1ステップと、
前記第1ステップの検出結果、前記入力クロックの周波数検出に失敗した場合に、前記第1遅延値より大きい第2遅延値で前記サンプリング基準信号を遅延させて、前記第1ないし第N遅延信号を改めて生成し、改めて生成された前記第1ないし第N遅延信号の立上りエッジで、前記入力クロックの論理値を検出して前記入力クロックの周波数を検出する第2ステップとを行うように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の位相固定ループ。
【請求項6】
前記第1ステップを行った結果、前記入力クロックの周波数が検出されると、前記初期値提供部の周波数検出動作を完了するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の位相固定ループ。
【請求項7】
入力クロックの位相とフィードバッククロックの位相とを比較する位相比較部と、
前記位相比較部の比較結果に応答して充電電流および放電電流を生成するチャージポンプ部と、
前記充電電流および前記放電電流に応答して制御電圧を生成するループフィルタと、
前記制御電圧に応答して出力クロックを生成するオシレータ部と、
前記入力クロックの周波数を検出して、検出結果に応じて初期制御電圧で前記ループフィルタを充電する初期値提供部と、
を備えることを特徴とする位相固定ループ。
【請求項8】
前記初期値提供部が、
オーバーサンプリングを利用して前記入力クロックのパルス幅を測定し、その測定結果に基づいて、前記入力クロックの周波数を検出するように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の位相固定ループ。
【請求項9】
前記初期値提供部が、
サンプリング基準信号を所定の遅延値で順次遅延させた第1ないし第N遅延信号の立上りエッジで、前記入力クロックの論理値を検出して前記入力クロックの周波数を検出するように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の位相固定ループ。
【請求項10】
前記初期値提供部が、前記入力クロックの周波数が高く検出されるほど前記初期制御電圧を高く設定するように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の位相固定ループ。
【請求項11】
前記初期値提供部が、前記入力クロックの周波数検出のために、
サンプリング基準信号を第1遅延値で順次遅延させた第1ないし第N遅延信号の立上りエッジで、前記入力クロックの論理値を検出して前記入力クロックの周波数を検出する第1ステップと、
前記第1ステップの検出結果、前記入力クロックの周波数検出に失敗した場合に、前記第1遅延値より大きい第2遅延値で前記サンプリング基準信号を遅延させて、前記第1ないし第Nサンプリング基準信号を遅延させて、前記第1ないし第N遅延信号を改めて生成し、改めて生成された前記第1ないし第N遅延信号の立上りエッジで、前記入力クロックの論理値を検出して前記入力クロックの周波数を検出する第2ステップとを行うように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の位相固定ループ。
【請求項12】
前記第1ステップを行った結果、前記入力クロックの周波数が検出されると、前記初期値提供部の周波数検出動作を完了するように構成されていることを特徴とする請求項11に記載の位相固定ループ。
【請求項13】
入力クロックの周波数を検出するステップと、
前記周波数検出結果に応じて出力クロックの初期周波数を決定するステップと、
前記入力クロックの位相とフィードバッククロックの位相とを比較するステップと、
前記位相比較結果に応じて前記出力クロックの周波数を増加または低下させるステップと、
を含むことを特徴とする位相固定ループの動作方法。
【請求項14】
前記位相を比較するステップと、前記周波数を増加または低下させるステップとを、反復的に行うを特徴とする請求項13に記載の位相固定ループの動作方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2012−5124(P2012−5124A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134074(P2011−134074)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(591024111)株式会社ハイニックスセミコンダクター (1,189)
【氏名又は名称原語表記】HYNIX SEMICONDUCTOR INC.
【住所又は居所原語表記】San 136−1,Ami−Ri,Bubal−Eup,Ichon−Shi,Kyoungki−Do,Korea
【Fターム(参考)】