位置判別システム及び通信方法
【課題】特定小電力無線による位置判別精度を向上し、中継機間における通信経路情報の交換低減が可能な位置判別システム及び通信方法を提供する。
【解決手段】位置判別システム1は、建物内の天井又は壁に設置された複数の中継機10(中継機10−1,中継機10−2,中継機10−3)と、位置判別ユニット12と、小型の送信機11と、を有している。送信機はペンダント型であるため送信機11を身に着けて常時携帯することができ、人が緊急時にスイッチを押し下げることにより送信機11はID情報を含む電波を送信する。メッシュ状に配置された幾つかの中継機10がその電波を受信し、受信した中継機10がそのID情報と受信電界強度を位置判別ユニット12に転送することにより、位置判別ユニット12が緊急事態の発生と、送信機11の場所を判別するものである。
【解決手段】位置判別システム1は、建物内の天井又は壁に設置された複数の中継機10(中継機10−1,中継機10−2,中継機10−3)と、位置判別ユニット12と、小型の送信機11と、を有している。送信機はペンダント型であるため送信機11を身に着けて常時携帯することができ、人が緊急時にスイッチを押し下げることにより送信機11はID情報を含む電波を送信する。メッシュ状に配置された幾つかの中継機10がその電波を受信し、受信した中継機10がそのID情報と受信電界強度を位置判別ユニット12に転送することにより、位置判別ユニット12が緊急事態の発生と、送信機11の場所を判別するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動する送信機の位置を推定する位置判別システム及び通信方法に関し、特に、特定小電力無線を利用した位置判別システム及び通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、移動する送信機から所定の電波を送信させ、電波を受信する複数の受信機によりその送信機の位置を高い精度で推定する位置判別システムが知られている。特許文献1には、送信機から固有の標識番号を電波に乗せて送信させ、既知の位置に設置される3つ以上の送受信機で受信して受信電界強度を測定し、受信電界強度と標識番号のデータを用いて送信機の位置を推定する位置判別システムが開示されている。
【0003】
特許文献1の位置判別システムは、無線エリア内において予め決められた各送受信機が送信機からの電波を受信し、受信電界強度と距離の関係から各送受信機から送信機までの距離をフリスの公式を補正して推定するものである。このような送信機と受信機の組み合わせで送信機の位置を推定しようとすると、位置推定精度は通信距離に比例し、通信エリアサイズ以上になる。そのため、位置精度を高めるためには送信機の送信出力を低くする又は、受信機の感度を低くして、受信機に対するエリアを狭め、受信機を多く配置する必要がある。
【0004】
そこで、本出願人は、特許文献2に示すような無線通信システムを開示している。特許文献2では特定小電力無線を使用して無線通信ゾーンを狭め、複数の中継局を介して通信する無線通信システムを構築することができるため、通信エリアサイズの小さい特定小電力無線の複数のノードを数多く接続することで位置推定精度を向上させると共に、中継局となる複数の子ノードを接続し、簡単なプロトコルで通信の信頼性を確保することを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−236166号公報
【特許文献2】特開2009−4975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されているように、送信機の送信する電波を3つ以上の送受信機により標識番号と受信電界強度を収集し、距離と受信電界強度の関係に基づきフリスの式で距離を求める際に、特許文献2に示されている無線通信システムを用いることで送信機の位置を精度良く推定することが可能となる。
【0007】
しかし、特許文献2のような簡単なプロトコルで通信を行うシステムでは無線の不感帯を無くすために無線ゾーンが重なり合うように中継機を配置する必要があり、送信機から送信される電波を複数の中継機が受信し、複数の中継機が標識番号と受信電界強度を同時に送信することにより無線上の衝突が発生する場合がある。この場合、1番目に強い受信電界強度の中継機からの標識番号と受信電界強度が消失した場合には、その次に強い受信電界強度の中継機からの配置場所を送信機の位置として認識することになり、位置判別を誤ることになる。また、複数の中継機による中継が必要な場合には、中継機間における通信経路情報の交換が増加することになる。
【0008】
位置判別の精度を上げるためには、いかに無線上での衝突を回避して情報の消失を防止し、中継機間における通信経路情報の交換低減が課題となっていた。そこで、本発明は特定小電力無線による位置判別精度を向上し、中継機間における通信経路情報の交換低減が可能な位置判別システム及び通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような目的を達成するために、本発明に係る位置判別システムは、自己のID情報を含む電波を送信する携帯型の送信機と、送信機が送信した電波を受信して送信機のID情報と受信電界強度を取得し、その受信電界強度をID情報とともに送信機の位置を表示するユニットに送信、又は、他の中継機を介して送信する複数の中継機と、少なくとも一つの中継機から送信されるID情報と受信電界強度とを収集し、最大受信感度の得られた中継機の配置場所を送信機の位置として表示する位置表示ユニットと、を有し、受信電界強度がしきい値を超える中継機は、その他の中継機よりも先に送信を開始することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る位置判別システムにおいて、中継機は、ランダム遅延により送信時期が調整されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る位置判別システムにおいて、送信機、中継機、位置判別ユニットは同じ周波数を利用し、送信時期を調整することにより情報の衝突を防止し、かつ、複数の中継機の中継先情報を中継機に記憶させ、中継自在なマルチホップで通信することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る位置判別システムの通信方法は、携帯型の送信機がID情報を含む電波を送信し、中継機は送信機が送信した電波を受信し、その受信電界強度をID情報と共に送信機の位置を表示する位置表示ユニットに送信、又は、他の中継機を介して送信する中継工程と、少なくとも一つの中継機から送信されるID情報と受信電界強度とを位置表示ユニットが収集し、最も大きな受信電界強度が得られた中継機の配置場所を送信機の位置として表示する位置表示工程と、を含み、中継工程は、受信電界強度がしきい値を超える中継機が、その他の中継機よりも先に送信を開始することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る位置判別システムの通信方法において、中継工程は、ランダム遅延により送信時期が調整されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る位置判別システムの通信方法において、中継工程では、送信機、中継機、位置判別ユニットともに同じ周波数を利用し、送信時期を調整することにより情報の衝突を防止し、かつ、複数の中継機の中継先情報を中継機に記憶させ、中継自在なマルチホップで通信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る位置判別システムと通信方法を使用することにより、特定小電力無線による位置判定の精度を向上させるという効果がある。また、中継機を中心とした経路情報を構築し、その経路情報を当該中継機に登録して固定化することにより中継機間における通信経路情報の交換を抑制するという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る位置判別システムの全体概要を示す概要図である。
【図2】本発明の実施形態に係る位置判別システムの構成を示す構成図である。
【図3】本実施形態に係る位置判別システムにおける通信タイミングを説明する説明図である。
【図4】図3に示した無線パケットのフォーマット構成を説明する説明図である。
【図5】本実施形態に係る無線ネットワークを説明する説明図である。
【図6】本実施形態に係る位置判別システムの中継経路の一例を説明する説明図である。
【図7】本実施形態に係る位置判別システムのメインルーチン処理を示すフローチャート図である。
【図8】本実施形態に係る中継機の処理フローを示すフローチャート図である。
【図9】図6の処理の流れによる中継機の処理を示したタイムチャート図である。
【図10】本実施形態に係る中継機のメモリに記憶された中継経路情報(ルーティング情報)を説明する説明図である。
【図11】他の実施形態に係る位置判別システムの無線ゾーンを説明する説明図である。
【図12】本実施形態に係る位置判別ユニットの表示例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0018】
図1は位置判別システム1の全体概要を示している。位置判別システム1は、建物内の天井又は壁に設置された複数の中継機10(中継機10−1,中継機10−2,中継機10−3)と、位置判別ユニット12と、小型の送信機11と、を有している。送信機はペンダント型であるため送信機11を身に着けて常時携帯することができ、人が緊急時にスイッチを押し下げることにより送信機11はID情報を含む電波を送信する。メッシュ状に配置された幾つかの中継機10がその電波を受信し、受信した中継機10がそのID情報と受信電界強度を位置判別ユニット12に転送することにより、位置判別ユニット12が緊急事態の発生と、送信機11の場所を判別するものである。
【0019】
ここで、送信機11と中継機10と位置判別ユニット12は、特定小電力無線により通信を確立しており、数十メートル間隔で中継機を配置して無線ネットワークを形成することで位置判別システムを構築することが可能である。この位置判別システムを、例えば、病院や介護施設等の緊急呼び出しシステムとして使用することにより、緊急時の呼び出しと、居場所を判別することも可能となる。
【0020】
図2は位置判別システム1の構成を示し、送信機11と複数の中継機10と位置判別ユニット12の構造を示している。本実施形態で特徴的な事項の一つは、送信機11の小型軽量化及び電池寿命を長くするため、送信機能だけに特化し、送信開始スイッチ13が押し下げられた後の電波の送信を極力短い時間(例えば、数秒)にするものである。送信機11は、中継機又は位置判別ユニットへID情報と送信する送信部15と、送信部15に接続されたアンテナ16と、送信開始スイッチ13と、送信開始スイッチ13が押下げられた場合にID情報を送信する制御部14と、を有している。
【0021】
中継機10は、送信機11からのID情報を受信する受信部17と、位置判別ユニット12へID情報等を送信する送信部18と、受信部17及び送信部18に接続されたアンテナ21と、送信機11から受信した電波の受信電界強度(Receive Signal Strength Indication:RSSI)を算出すると共にID情報の送受信を制御する制御部19と、中継情報等を記憶するメモリ28と、を有している。中継機10は、送信機11からのID情報を含む電波を受信すると、そのID情報と受信電界強度とを位置判別ユニット12へ送信する。なお、中継機10は建物の天井又は壁面の電灯近傍に取り付けられ、数十メートルの間隔でメッシュ状に配置されおり、複数の中継機10をリレーして位置判別ユニット12へ送信することが可能である。
【0022】
位置判別ユニット12は、中継機10からのID情報と受信電界強度(RSSI)を受信する受信部25と、中継機10や位置判別ユニット12へ情報を送信する送信部26と、受信部25及び送信部26に接続されたアンテナ27と、中継機10に対する中継情報,位置名称等の登録,判別した位置を表示する操作・表示部22と、ID情報の受信、操作・表示部22を制御する制御部23と、中継情報等を記憶するメモリ24と、を有している。位置判別ユニット12は複数の中継機10と通信を行い、受信電界強度の大きい電波を受信した中継機10の位置を送信機11の位置として操作・表示部22に表示する。また、位置判別ユニット12は、後述する最適な中継先を判別して各中継機に記憶させることでマルチホップの無線ネットワークを実現している。ここで、マルチホップによる無線ネットワークとは,送信機11、1つの中継機10及び位置判別ユニット12等の端末同士が直接通信するだけでなく,他の端末(中継機10)を経由することでより広い範囲の端末(中継機10)と通信を可能にする無線ネットワークのことである。
【0023】
図3は、位置判別システムにおける通信タイミングを示し、上側に受信側、下側に送信側の送受信タイミングを示している。本実施形態では受信処理における電力消費を低減させるために、例えば、N=500ms間隔で受信動作を数十ms実行させ、その後はスリープ状態にしている。また、送信処理では、実電文を送信する前にプリアンブルをNmsec以上繰り返し送信することで、間欠受信であってもプリアンブルの後に実電文が送信されることで実電文の受信を可能にしている。
【0024】
図4は図3に示した無線パケットのフォーマット構成を示している。送信側が送信する無線パケットには、プリアンブルと実電文が含まれている。プリアンブルにおいて送信側は、ビット同期、フレーム同期、システムID、送信ID及びエラーチェック用のCRCを繰り返し送信する。その後送信側は、受信側が間欠受信にてプリアンブルの繰り返し情報の受信準備が整うタイミングに実電文となるビット同期、フレーム同期、システムID,送信元ID、電文種別、データ長、データ及びCRC等を送信する。ここで、ビット同期から送信元IDまでは、プリアンブルと同様であるが、送信先IDの後の電文種別、データ長、データ等がプリアンブルと異なる。電文種別には、経路情報を構築することを目的とし、各中継機の通信状態を収集するための状態収集電文と、リレーすべき中継情報を各中継局に伝えるための経路構築電文がある。データ長は、その後に続くデータの長さを示し、データにはルーティングテーブルを作成するために必要な経路情報や受信電界強度等を格納することが可能である。
【0025】
図5は、位置判別システムの無線ネットワークを示し、無線ネットワークを構成する機器とその無線到達ゾーンを示している。図5には、1台の送信機11と4台の中継機(中継機10−1〜中継機10−4)と1台の位置判別ユニット12とが配置され、中継機10−1と中継機10−2との無線到達ゾーンが交わっていることから中継機10−1と中継機10−2との通信が可能である。同様にして、中継機10−1と中継機10−3、中継機10−2と中継機10−4、中継機10−4と中継機10−3、中継機10−3と位置判別ユニット12の通信が可能である。また、図5では、送信機11は中継機10−1と中継機10−2の中間に位置し、送信機11からの電波は、中継機10−1と中継機10―2によって受信され、2通りの中継経路により位置判別ユニット12へ送信される。第1の中継経路は、送信機11,中継機10−1,中継機10−3及び位置判別ユニット12であり、第2の中継経路は、送信機11,中継機10−2,中継機10−4,中継機10−3及び位置判別ユニット12である。
【0026】
図6は位置判別システムの中継経路の一例を示している。説明の都合上、送信機11の無線到達ゾーンを利用した通信方向を矢印で示し、無線到達ゾーンは省略した。最初に送信機11の送信開始スイッチが押し下げられると、送信機11(ID1)からID情報を含む電波が送信される。送信機11から送信された電波(無線パケット)は、中継機10−1(ID2)と中継機10−2(ID3)と中継機10−3(ID4)により受信される。次に、上述した状況下において、本実施形態における位置判別システムの処理の流れについて図7から図10を用いて説明する。
【0027】
図7は位置判別システムのメインルーチン処理を示し、メインルーチンの処理は複数の中継機と位置判別ユニットと送信機とが相互に関連して実行される。ステップS10の中継経路確認は、複数の中継機と位置判別ユニットとの中継経路の確認を行うものであり、中継機を設置した際の各中継機の配置場所や各ID情報及び中継経路が実際の位置判定システムと一致するかどうかを確認するものである。もし、中継経路が異なっている場合には、ステップS12の中継ルート設定により、位置判別ユニットが新しい中継経路を該当する中継機に記憶させる等の処理を実行する。なお、中継経路設定の処理内容の詳細は後述する。
【0028】
位置判別ユニットによる中継経路が正しく設定された後に、中継機と位置判別ユニットがステップS14の送信機位置判定とループ処理であるステップS16の繰り返しにより位置判定処理を実行する。この処理では、送信機から送信された無線パケットを中継機が受信し、その無線パケットの受信電界強度と送信機のID情報とを位置判別ユニットに無線パケットで送信する。位置判別ユニットは、少なくとも1つの中継機が受信した受信電界強度と送信機のID情報によりもっとも強い受信電界強度を示す中継機の位置を送信機の位置として判定する。なお、複数の中継機から同様の無線パケットを受信した場合は、複数の中継機の中間に送信機があるものとしてその予想位置を表示する場合もある。
【0029】
図8は中継機の処理フローを示し、図9は図6の処理の流れによる中継機の処理を示したタイムチャートであり、横軸に経過時間、縦軸に送信機と各中継機を示し、10msスロット毎の送受信タイミングを示している。以下、図6に示した位置判別システムの中継経路の一例に基づいて図8と図9を用いて処理の流れを説明する。図8において中継機が処理を開始すると、まず、間欠受信により送信機から送信される無線パケット等の信号を監視する。次に、図9に示すように、送信機のスイッチ押下が発生すると、送信機(ID1)はID1を含む無線パケットを送信し、ステップS20において、中継機10−1(ID2),中継機10−2(ID3)及び中継機10−3(ID4)がその無線パケットを受信する。
【0030】
各中継機はステップS22において、受信した無線パケットから送信元のID情報を復号してID情報を取り出し、送信機のID情報(ID1)で有るかどうかをステップS23にて判定する。ステップS23において、送信機からのID情報でないと判定すると、ステップS20に戻る。もし、ステップS24にて送信機からのID情報であると判定すると、ステップS24にて中継経路確認を行い、中継経路と中継回数をメモリから読み出す。次に、受信電界強度が大きい無線パケットを優先して送信するスロットを確保するために予め決められたスロット配分を確認する。ここで、優先して送信するスロットは0〜5(前半スロット)であり、通常に送信するスロットは6〜9(後半スロット)となる。なお、スロット配分確認の詳細については後述する。
【0031】
ここで、図6に示すように、中継機10−1(ID2)と中継機10−2(ID3)は、送信機11からの電波であるID情報が「ID1」であり、受信電界強度が一定値以上(RSSI大)となる電波を受信する。また、中継機10−3(ID4)はID情報が「ID1」で一定値未満(RSSI小)となる電波を受信する。なお、中継機10−4(ID5)は圏外となることから送信機11(ID1)からの電波を受信することができない。このため、送信機11からの無線パケットは、3つの中継機により受信され、3つの中継経路により位置判別ユニット12へ転送される。
【0032】
図8のステップS26〜ステップS30において、各中継機は、受信電界強度が一定値以上の場合は前半スロットにおいてランダム遅延を施すために0〜5の乱数を発生させ(ステップS28)、受信電界強度が一定値未満は後半スロットにおいてランダム遅延を施すため、6〜9の乱数を発生させる(ステップS30)。このようなランダム遅延を施すことにより、各中継機からの送信タイミングをずらすことが可能となる。
【0033】
ステップS32において、各中継機は、ID情報の送信を開始するまでの待ち時間を算出する。具体的には、受信電界強度が閾値を超える一定値以上の場合:ID情報送信開始待ち時間=待ち時間(ms)=10ms*(0〜5の乱数)・・(式1)、受信電界強度が閾値を下回る一定値未満の場合:ID情報送信変換待ち時間=待ち時間(ms)=10ms*(6〜9の乱数)・・(式2)を用いてID情報送信変換待ち時間を算出して、ステップS34に移る。なお、式1の0〜5と式2の6〜9の乱数は、中継経路の中継回数によってその取り得る値が制限され、例えば、式1では0〜3,式2では6〜7に制限される。
【0034】
このような処理により、受信電界強度がしきい値を超える中継機は、その他の中継機よりも先に送信を開始することができ、従来問題となっていた同時タイミングでの送信信号の衝突を防止することができる。また、各中継機は、複数回の中継が必要となる場合は、ステップS34において、上述したスロット配分確認に基づいて後段の送信先を確認し、ランダム遅延を伴う転送の準備を行う。
【0035】
図10はスロット配分確認に用いる中継機のメモリに記憶された中継経路情報(ルーティング情報)を示している。中継経路情報は、図7のステップS10,S12において、位置判別ユニットが各中継機にそれぞれ設定するものである。例えば、図10の中継機10−1(ID2)の中継経路情報は、「識別符号」として示される中継機10−2(ID3)を中継すると2回の中継回数で位置判別ユニットに送信可能であり、中継機10−3(ID4)を中継すると1回の中継回数で位置判別ユニットに送信可能であることを示している。また、図10の「受信レベル」は中継機における受信電界強度の受信レベルを示しており、図10の「決定」は中継回数が少ない中継機10−3(ID4)が初期設定で決定された中継先であることを示している。この中継経路情報により、各中継機は後段の送信先を知ることができる。
【0036】
図8のステップS36において、算出された待ち時間に基づき、各中継機は、ID情報とともに受信電界強度を送信する。ここで、図9の(A)第1サイクルに示すように、中継機10−1(ID2)は、大きな受信電界強度(RSSI)であるため、式1のランダム遅延により10ms遅れでID情報(ID1)と受信電界強度(RSSI大)を送信し、その無線パケットは中継機10−3(ID4)によって受信されることになる。次に、図9の(B)第2サイクルに示すように、中継機10−2(ID3)は、同様に式1に基づいて20ms遅れでID情報(ID1)と受信電界強度(RSSI大)を送信し、その無線パケットは中継機10−4(ID5)によって受信されることになる。
【0037】
図9の(C)第3サイクルに示すように、中継機10−3(ID4)は中継経路情報に基づいて1スロット間を開けてID情報(ID1)と受信電界強度(RSSI大)を送信し、その無線パケットは位置判別ユニット(ID0)によって受信される。次に、図9の(D)第4サイクルに示すように、中継機10−4(ID5)は第2サイクルで中継機10−2(ID3)から受信した無線パケットを中継経路情報に基づいて1スロット間を開けてID情報(ID1)と受信電界強度(RSSI大)を送信し、その無線パケットは中継機10−3(ID4)によって受信される。次に、中継機10−3(ID4)は次のスロットにおいて、ID情報(ID1)と受信電界強度(RSSI大)を送信し、その無線パケットは位置判別ユニット(ID0)によって受信される。
【0038】
中継機10−3(ID4)は、小さな受信電界強度(RSSI)であるため、式2に基づいて70ms遅れでID情報(ID1)と受信電界強度(RSSI)を送信し、その無線パケットは位置判別ユニット(ID0)によって受信される。なお、中継機は、送信機と受信機を有していることから、上述したように同じスロットにおける送受信を避けることで送信と受信を個別に行うことが可能である。
【0039】
上述した中継機の処理により、位置判別ユニット(ID0)は、送信機の近傍に位置する中継機からRSSIの大きい順に中継機10−1(ID2)及び中継機10−2(ID3),中継機10−3(ID4)の無線パケットを受信し、さらに、最大受信電界強度の中継機10−1(ID2)に対応する位置を送信機の位置として表示する。
【0040】
図11は他の実施形態に係る位置判別システム2の無線ゾーンを示している。本実施形態では、9台の中継機(10−1〜10−9)により広い無線ゾーンを形成し、さらに送信機11から中継機(10−1〜10−4)が等距離になるように送信機11を移動させた一例である。送信機11の移動位置によっては、最大4台の中継機10が大きな受信電界強度を示すことがあり、さらに、中継経路情報により中継回数が最大3回となる場合がある。このような場合には、図9で示したスロット数を増加させ、受信電界強度がしきい値を超える中継機10は、その他の中継機10よりも先に送信を開始することができる。さらに、中継機10の増加に伴い、最大RSSIを示す中継機10を送信機11の位置として判別するだけでなく、一定値以上の受信電界強度(RSSI)を組み合わせて送信機11の位置を判別することも好適である。
【0041】
図12は位置判別ユニットの表示例である。操作・表示部22には、中継機を配置した建物内の見取り図が表示され、中継機が配置されている場所に対応する位置に中継機が表示されている。本実施形態では、2種類の位置表示モードを有しており、第1の表示モードは送信機のスイッチが押下られると、図12に示すように、対応する中継機に送信機のID情報と、押下られた時間とを表示している。また、第2の表示モードは送信機のスイッチが押下られると、複数の中継機の受信電界強度に比例した中間地点を送信機の位置として表示し、複数の中継機からの受信である旨をテキストメッセージとして表示する。
【0042】
以上、上述したように、本実施形態に係る位置判別システムと通信方法を使用することにより、中継機で測定した受信電界強度と、特定小電力無線による近距離通信と、の組み合わせで位置判定の精度を向上させることができる。特定小電力無線としては従来の小電力通信システムの他に、第二世代小電力データ通信システム(ARIB STD−T66)を用いても好適である。また、中継機を中心とした経路情報を構築し、その経路情報を当該中継機に登録して固定化することにより中継機間における通信経路情報の交換を抑制することで、中継自在なマルチホップにおける通信トラフィックを低減させることができる。
【0043】
なお、本実施形態では、位置判別ユニットを用いて中継機の中継経路情報を管理したが、これに限定するものではなく、中継機の中継経路情報を管理するサーバ又は管理用ユニットを別途設け、複数の位置判別ユニットが当該サーバ又は管理用ユニットからID情報と受信電界強度を受信しても良く、送信機の位置判別を一括して判別し、その結果を位置判別ユニットに送信する位置判別システムでも好適である。
【符号の説明】
【0044】
1,2 位置判別システム、10 中継機、11 送信機、12 位置判別ユニット、13 送信開始スイッチ、15,18,26 送信部、16,21 アンテナ、17,25 受信部、14,19,23 制御部、22 操作・表示部、24,28 メモリ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動する送信機の位置を推定する位置判別システム及び通信方法に関し、特に、特定小電力無線を利用した位置判別システム及び通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、移動する送信機から所定の電波を送信させ、電波を受信する複数の受信機によりその送信機の位置を高い精度で推定する位置判別システムが知られている。特許文献1には、送信機から固有の標識番号を電波に乗せて送信させ、既知の位置に設置される3つ以上の送受信機で受信して受信電界強度を測定し、受信電界強度と標識番号のデータを用いて送信機の位置を推定する位置判別システムが開示されている。
【0003】
特許文献1の位置判別システムは、無線エリア内において予め決められた各送受信機が送信機からの電波を受信し、受信電界強度と距離の関係から各送受信機から送信機までの距離をフリスの公式を補正して推定するものである。このような送信機と受信機の組み合わせで送信機の位置を推定しようとすると、位置推定精度は通信距離に比例し、通信エリアサイズ以上になる。そのため、位置精度を高めるためには送信機の送信出力を低くする又は、受信機の感度を低くして、受信機に対するエリアを狭め、受信機を多く配置する必要がある。
【0004】
そこで、本出願人は、特許文献2に示すような無線通信システムを開示している。特許文献2では特定小電力無線を使用して無線通信ゾーンを狭め、複数の中継局を介して通信する無線通信システムを構築することができるため、通信エリアサイズの小さい特定小電力無線の複数のノードを数多く接続することで位置推定精度を向上させると共に、中継局となる複数の子ノードを接続し、簡単なプロトコルで通信の信頼性を確保することを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−236166号公報
【特許文献2】特開2009−4975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されているように、送信機の送信する電波を3つ以上の送受信機により標識番号と受信電界強度を収集し、距離と受信電界強度の関係に基づきフリスの式で距離を求める際に、特許文献2に示されている無線通信システムを用いることで送信機の位置を精度良く推定することが可能となる。
【0007】
しかし、特許文献2のような簡単なプロトコルで通信を行うシステムでは無線の不感帯を無くすために無線ゾーンが重なり合うように中継機を配置する必要があり、送信機から送信される電波を複数の中継機が受信し、複数の中継機が標識番号と受信電界強度を同時に送信することにより無線上の衝突が発生する場合がある。この場合、1番目に強い受信電界強度の中継機からの標識番号と受信電界強度が消失した場合には、その次に強い受信電界強度の中継機からの配置場所を送信機の位置として認識することになり、位置判別を誤ることになる。また、複数の中継機による中継が必要な場合には、中継機間における通信経路情報の交換が増加することになる。
【0008】
位置判別の精度を上げるためには、いかに無線上での衝突を回避して情報の消失を防止し、中継機間における通信経路情報の交換低減が課題となっていた。そこで、本発明は特定小電力無線による位置判別精度を向上し、中継機間における通信経路情報の交換低減が可能な位置判別システム及び通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような目的を達成するために、本発明に係る位置判別システムは、自己のID情報を含む電波を送信する携帯型の送信機と、送信機が送信した電波を受信して送信機のID情報と受信電界強度を取得し、その受信電界強度をID情報とともに送信機の位置を表示するユニットに送信、又は、他の中継機を介して送信する複数の中継機と、少なくとも一つの中継機から送信されるID情報と受信電界強度とを収集し、最大受信感度の得られた中継機の配置場所を送信機の位置として表示する位置表示ユニットと、を有し、受信電界強度がしきい値を超える中継機は、その他の中継機よりも先に送信を開始することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る位置判別システムにおいて、中継機は、ランダム遅延により送信時期が調整されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る位置判別システムにおいて、送信機、中継機、位置判別ユニットは同じ周波数を利用し、送信時期を調整することにより情報の衝突を防止し、かつ、複数の中継機の中継先情報を中継機に記憶させ、中継自在なマルチホップで通信することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る位置判別システムの通信方法は、携帯型の送信機がID情報を含む電波を送信し、中継機は送信機が送信した電波を受信し、その受信電界強度をID情報と共に送信機の位置を表示する位置表示ユニットに送信、又は、他の中継機を介して送信する中継工程と、少なくとも一つの中継機から送信されるID情報と受信電界強度とを位置表示ユニットが収集し、最も大きな受信電界強度が得られた中継機の配置場所を送信機の位置として表示する位置表示工程と、を含み、中継工程は、受信電界強度がしきい値を超える中継機が、その他の中継機よりも先に送信を開始することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る位置判別システムの通信方法において、中継工程は、ランダム遅延により送信時期が調整されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る位置判別システムの通信方法において、中継工程では、送信機、中継機、位置判別ユニットともに同じ周波数を利用し、送信時期を調整することにより情報の衝突を防止し、かつ、複数の中継機の中継先情報を中継機に記憶させ、中継自在なマルチホップで通信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る位置判別システムと通信方法を使用することにより、特定小電力無線による位置判定の精度を向上させるという効果がある。また、中継機を中心とした経路情報を構築し、その経路情報を当該中継機に登録して固定化することにより中継機間における通信経路情報の交換を抑制するという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る位置判別システムの全体概要を示す概要図である。
【図2】本発明の実施形態に係る位置判別システムの構成を示す構成図である。
【図3】本実施形態に係る位置判別システムにおける通信タイミングを説明する説明図である。
【図4】図3に示した無線パケットのフォーマット構成を説明する説明図である。
【図5】本実施形態に係る無線ネットワークを説明する説明図である。
【図6】本実施形態に係る位置判別システムの中継経路の一例を説明する説明図である。
【図7】本実施形態に係る位置判別システムのメインルーチン処理を示すフローチャート図である。
【図8】本実施形態に係る中継機の処理フローを示すフローチャート図である。
【図9】図6の処理の流れによる中継機の処理を示したタイムチャート図である。
【図10】本実施形態に係る中継機のメモリに記憶された中継経路情報(ルーティング情報)を説明する説明図である。
【図11】他の実施形態に係る位置判別システムの無線ゾーンを説明する説明図である。
【図12】本実施形態に係る位置判別ユニットの表示例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0018】
図1は位置判別システム1の全体概要を示している。位置判別システム1は、建物内の天井又は壁に設置された複数の中継機10(中継機10−1,中継機10−2,中継機10−3)と、位置判別ユニット12と、小型の送信機11と、を有している。送信機はペンダント型であるため送信機11を身に着けて常時携帯することができ、人が緊急時にスイッチを押し下げることにより送信機11はID情報を含む電波を送信する。メッシュ状に配置された幾つかの中継機10がその電波を受信し、受信した中継機10がそのID情報と受信電界強度を位置判別ユニット12に転送することにより、位置判別ユニット12が緊急事態の発生と、送信機11の場所を判別するものである。
【0019】
ここで、送信機11と中継機10と位置判別ユニット12は、特定小電力無線により通信を確立しており、数十メートル間隔で中継機を配置して無線ネットワークを形成することで位置判別システムを構築することが可能である。この位置判別システムを、例えば、病院や介護施設等の緊急呼び出しシステムとして使用することにより、緊急時の呼び出しと、居場所を判別することも可能となる。
【0020】
図2は位置判別システム1の構成を示し、送信機11と複数の中継機10と位置判別ユニット12の構造を示している。本実施形態で特徴的な事項の一つは、送信機11の小型軽量化及び電池寿命を長くするため、送信機能だけに特化し、送信開始スイッチ13が押し下げられた後の電波の送信を極力短い時間(例えば、数秒)にするものである。送信機11は、中継機又は位置判別ユニットへID情報と送信する送信部15と、送信部15に接続されたアンテナ16と、送信開始スイッチ13と、送信開始スイッチ13が押下げられた場合にID情報を送信する制御部14と、を有している。
【0021】
中継機10は、送信機11からのID情報を受信する受信部17と、位置判別ユニット12へID情報等を送信する送信部18と、受信部17及び送信部18に接続されたアンテナ21と、送信機11から受信した電波の受信電界強度(Receive Signal Strength Indication:RSSI)を算出すると共にID情報の送受信を制御する制御部19と、中継情報等を記憶するメモリ28と、を有している。中継機10は、送信機11からのID情報を含む電波を受信すると、そのID情報と受信電界強度とを位置判別ユニット12へ送信する。なお、中継機10は建物の天井又は壁面の電灯近傍に取り付けられ、数十メートルの間隔でメッシュ状に配置されおり、複数の中継機10をリレーして位置判別ユニット12へ送信することが可能である。
【0022】
位置判別ユニット12は、中継機10からのID情報と受信電界強度(RSSI)を受信する受信部25と、中継機10や位置判別ユニット12へ情報を送信する送信部26と、受信部25及び送信部26に接続されたアンテナ27と、中継機10に対する中継情報,位置名称等の登録,判別した位置を表示する操作・表示部22と、ID情報の受信、操作・表示部22を制御する制御部23と、中継情報等を記憶するメモリ24と、を有している。位置判別ユニット12は複数の中継機10と通信を行い、受信電界強度の大きい電波を受信した中継機10の位置を送信機11の位置として操作・表示部22に表示する。また、位置判別ユニット12は、後述する最適な中継先を判別して各中継機に記憶させることでマルチホップの無線ネットワークを実現している。ここで、マルチホップによる無線ネットワークとは,送信機11、1つの中継機10及び位置判別ユニット12等の端末同士が直接通信するだけでなく,他の端末(中継機10)を経由することでより広い範囲の端末(中継機10)と通信を可能にする無線ネットワークのことである。
【0023】
図3は、位置判別システムにおける通信タイミングを示し、上側に受信側、下側に送信側の送受信タイミングを示している。本実施形態では受信処理における電力消費を低減させるために、例えば、N=500ms間隔で受信動作を数十ms実行させ、その後はスリープ状態にしている。また、送信処理では、実電文を送信する前にプリアンブルをNmsec以上繰り返し送信することで、間欠受信であってもプリアンブルの後に実電文が送信されることで実電文の受信を可能にしている。
【0024】
図4は図3に示した無線パケットのフォーマット構成を示している。送信側が送信する無線パケットには、プリアンブルと実電文が含まれている。プリアンブルにおいて送信側は、ビット同期、フレーム同期、システムID、送信ID及びエラーチェック用のCRCを繰り返し送信する。その後送信側は、受信側が間欠受信にてプリアンブルの繰り返し情報の受信準備が整うタイミングに実電文となるビット同期、フレーム同期、システムID,送信元ID、電文種別、データ長、データ及びCRC等を送信する。ここで、ビット同期から送信元IDまでは、プリアンブルと同様であるが、送信先IDの後の電文種別、データ長、データ等がプリアンブルと異なる。電文種別には、経路情報を構築することを目的とし、各中継機の通信状態を収集するための状態収集電文と、リレーすべき中継情報を各中継局に伝えるための経路構築電文がある。データ長は、その後に続くデータの長さを示し、データにはルーティングテーブルを作成するために必要な経路情報や受信電界強度等を格納することが可能である。
【0025】
図5は、位置判別システムの無線ネットワークを示し、無線ネットワークを構成する機器とその無線到達ゾーンを示している。図5には、1台の送信機11と4台の中継機(中継機10−1〜中継機10−4)と1台の位置判別ユニット12とが配置され、中継機10−1と中継機10−2との無線到達ゾーンが交わっていることから中継機10−1と中継機10−2との通信が可能である。同様にして、中継機10−1と中継機10−3、中継機10−2と中継機10−4、中継機10−4と中継機10−3、中継機10−3と位置判別ユニット12の通信が可能である。また、図5では、送信機11は中継機10−1と中継機10−2の中間に位置し、送信機11からの電波は、中継機10−1と中継機10―2によって受信され、2通りの中継経路により位置判別ユニット12へ送信される。第1の中継経路は、送信機11,中継機10−1,中継機10−3及び位置判別ユニット12であり、第2の中継経路は、送信機11,中継機10−2,中継機10−4,中継機10−3及び位置判別ユニット12である。
【0026】
図6は位置判別システムの中継経路の一例を示している。説明の都合上、送信機11の無線到達ゾーンを利用した通信方向を矢印で示し、無線到達ゾーンは省略した。最初に送信機11の送信開始スイッチが押し下げられると、送信機11(ID1)からID情報を含む電波が送信される。送信機11から送信された電波(無線パケット)は、中継機10−1(ID2)と中継機10−2(ID3)と中継機10−3(ID4)により受信される。次に、上述した状況下において、本実施形態における位置判別システムの処理の流れについて図7から図10を用いて説明する。
【0027】
図7は位置判別システムのメインルーチン処理を示し、メインルーチンの処理は複数の中継機と位置判別ユニットと送信機とが相互に関連して実行される。ステップS10の中継経路確認は、複数の中継機と位置判別ユニットとの中継経路の確認を行うものであり、中継機を設置した際の各中継機の配置場所や各ID情報及び中継経路が実際の位置判定システムと一致するかどうかを確認するものである。もし、中継経路が異なっている場合には、ステップS12の中継ルート設定により、位置判別ユニットが新しい中継経路を該当する中継機に記憶させる等の処理を実行する。なお、中継経路設定の処理内容の詳細は後述する。
【0028】
位置判別ユニットによる中継経路が正しく設定された後に、中継機と位置判別ユニットがステップS14の送信機位置判定とループ処理であるステップS16の繰り返しにより位置判定処理を実行する。この処理では、送信機から送信された無線パケットを中継機が受信し、その無線パケットの受信電界強度と送信機のID情報とを位置判別ユニットに無線パケットで送信する。位置判別ユニットは、少なくとも1つの中継機が受信した受信電界強度と送信機のID情報によりもっとも強い受信電界強度を示す中継機の位置を送信機の位置として判定する。なお、複数の中継機から同様の無線パケットを受信した場合は、複数の中継機の中間に送信機があるものとしてその予想位置を表示する場合もある。
【0029】
図8は中継機の処理フローを示し、図9は図6の処理の流れによる中継機の処理を示したタイムチャートであり、横軸に経過時間、縦軸に送信機と各中継機を示し、10msスロット毎の送受信タイミングを示している。以下、図6に示した位置判別システムの中継経路の一例に基づいて図8と図9を用いて処理の流れを説明する。図8において中継機が処理を開始すると、まず、間欠受信により送信機から送信される無線パケット等の信号を監視する。次に、図9に示すように、送信機のスイッチ押下が発生すると、送信機(ID1)はID1を含む無線パケットを送信し、ステップS20において、中継機10−1(ID2),中継機10−2(ID3)及び中継機10−3(ID4)がその無線パケットを受信する。
【0030】
各中継機はステップS22において、受信した無線パケットから送信元のID情報を復号してID情報を取り出し、送信機のID情報(ID1)で有るかどうかをステップS23にて判定する。ステップS23において、送信機からのID情報でないと判定すると、ステップS20に戻る。もし、ステップS24にて送信機からのID情報であると判定すると、ステップS24にて中継経路確認を行い、中継経路と中継回数をメモリから読み出す。次に、受信電界強度が大きい無線パケットを優先して送信するスロットを確保するために予め決められたスロット配分を確認する。ここで、優先して送信するスロットは0〜5(前半スロット)であり、通常に送信するスロットは6〜9(後半スロット)となる。なお、スロット配分確認の詳細については後述する。
【0031】
ここで、図6に示すように、中継機10−1(ID2)と中継機10−2(ID3)は、送信機11からの電波であるID情報が「ID1」であり、受信電界強度が一定値以上(RSSI大)となる電波を受信する。また、中継機10−3(ID4)はID情報が「ID1」で一定値未満(RSSI小)となる電波を受信する。なお、中継機10−4(ID5)は圏外となることから送信機11(ID1)からの電波を受信することができない。このため、送信機11からの無線パケットは、3つの中継機により受信され、3つの中継経路により位置判別ユニット12へ転送される。
【0032】
図8のステップS26〜ステップS30において、各中継機は、受信電界強度が一定値以上の場合は前半スロットにおいてランダム遅延を施すために0〜5の乱数を発生させ(ステップS28)、受信電界強度が一定値未満は後半スロットにおいてランダム遅延を施すため、6〜9の乱数を発生させる(ステップS30)。このようなランダム遅延を施すことにより、各中継機からの送信タイミングをずらすことが可能となる。
【0033】
ステップS32において、各中継機は、ID情報の送信を開始するまでの待ち時間を算出する。具体的には、受信電界強度が閾値を超える一定値以上の場合:ID情報送信開始待ち時間=待ち時間(ms)=10ms*(0〜5の乱数)・・(式1)、受信電界強度が閾値を下回る一定値未満の場合:ID情報送信変換待ち時間=待ち時間(ms)=10ms*(6〜9の乱数)・・(式2)を用いてID情報送信変換待ち時間を算出して、ステップS34に移る。なお、式1の0〜5と式2の6〜9の乱数は、中継経路の中継回数によってその取り得る値が制限され、例えば、式1では0〜3,式2では6〜7に制限される。
【0034】
このような処理により、受信電界強度がしきい値を超える中継機は、その他の中継機よりも先に送信を開始することができ、従来問題となっていた同時タイミングでの送信信号の衝突を防止することができる。また、各中継機は、複数回の中継が必要となる場合は、ステップS34において、上述したスロット配分確認に基づいて後段の送信先を確認し、ランダム遅延を伴う転送の準備を行う。
【0035】
図10はスロット配分確認に用いる中継機のメモリに記憶された中継経路情報(ルーティング情報)を示している。中継経路情報は、図7のステップS10,S12において、位置判別ユニットが各中継機にそれぞれ設定するものである。例えば、図10の中継機10−1(ID2)の中継経路情報は、「識別符号」として示される中継機10−2(ID3)を中継すると2回の中継回数で位置判別ユニットに送信可能であり、中継機10−3(ID4)を中継すると1回の中継回数で位置判別ユニットに送信可能であることを示している。また、図10の「受信レベル」は中継機における受信電界強度の受信レベルを示しており、図10の「決定」は中継回数が少ない中継機10−3(ID4)が初期設定で決定された中継先であることを示している。この中継経路情報により、各中継機は後段の送信先を知ることができる。
【0036】
図8のステップS36において、算出された待ち時間に基づき、各中継機は、ID情報とともに受信電界強度を送信する。ここで、図9の(A)第1サイクルに示すように、中継機10−1(ID2)は、大きな受信電界強度(RSSI)であるため、式1のランダム遅延により10ms遅れでID情報(ID1)と受信電界強度(RSSI大)を送信し、その無線パケットは中継機10−3(ID4)によって受信されることになる。次に、図9の(B)第2サイクルに示すように、中継機10−2(ID3)は、同様に式1に基づいて20ms遅れでID情報(ID1)と受信電界強度(RSSI大)を送信し、その無線パケットは中継機10−4(ID5)によって受信されることになる。
【0037】
図9の(C)第3サイクルに示すように、中継機10−3(ID4)は中継経路情報に基づいて1スロット間を開けてID情報(ID1)と受信電界強度(RSSI大)を送信し、その無線パケットは位置判別ユニット(ID0)によって受信される。次に、図9の(D)第4サイクルに示すように、中継機10−4(ID5)は第2サイクルで中継機10−2(ID3)から受信した無線パケットを中継経路情報に基づいて1スロット間を開けてID情報(ID1)と受信電界強度(RSSI大)を送信し、その無線パケットは中継機10−3(ID4)によって受信される。次に、中継機10−3(ID4)は次のスロットにおいて、ID情報(ID1)と受信電界強度(RSSI大)を送信し、その無線パケットは位置判別ユニット(ID0)によって受信される。
【0038】
中継機10−3(ID4)は、小さな受信電界強度(RSSI)であるため、式2に基づいて70ms遅れでID情報(ID1)と受信電界強度(RSSI)を送信し、その無線パケットは位置判別ユニット(ID0)によって受信される。なお、中継機は、送信機と受信機を有していることから、上述したように同じスロットにおける送受信を避けることで送信と受信を個別に行うことが可能である。
【0039】
上述した中継機の処理により、位置判別ユニット(ID0)は、送信機の近傍に位置する中継機からRSSIの大きい順に中継機10−1(ID2)及び中継機10−2(ID3),中継機10−3(ID4)の無線パケットを受信し、さらに、最大受信電界強度の中継機10−1(ID2)に対応する位置を送信機の位置として表示する。
【0040】
図11は他の実施形態に係る位置判別システム2の無線ゾーンを示している。本実施形態では、9台の中継機(10−1〜10−9)により広い無線ゾーンを形成し、さらに送信機11から中継機(10−1〜10−4)が等距離になるように送信機11を移動させた一例である。送信機11の移動位置によっては、最大4台の中継機10が大きな受信電界強度を示すことがあり、さらに、中継経路情報により中継回数が最大3回となる場合がある。このような場合には、図9で示したスロット数を増加させ、受信電界強度がしきい値を超える中継機10は、その他の中継機10よりも先に送信を開始することができる。さらに、中継機10の増加に伴い、最大RSSIを示す中継機10を送信機11の位置として判別するだけでなく、一定値以上の受信電界強度(RSSI)を組み合わせて送信機11の位置を判別することも好適である。
【0041】
図12は位置判別ユニットの表示例である。操作・表示部22には、中継機を配置した建物内の見取り図が表示され、中継機が配置されている場所に対応する位置に中継機が表示されている。本実施形態では、2種類の位置表示モードを有しており、第1の表示モードは送信機のスイッチが押下られると、図12に示すように、対応する中継機に送信機のID情報と、押下られた時間とを表示している。また、第2の表示モードは送信機のスイッチが押下られると、複数の中継機の受信電界強度に比例した中間地点を送信機の位置として表示し、複数の中継機からの受信である旨をテキストメッセージとして表示する。
【0042】
以上、上述したように、本実施形態に係る位置判別システムと通信方法を使用することにより、中継機で測定した受信電界強度と、特定小電力無線による近距離通信と、の組み合わせで位置判定の精度を向上させることができる。特定小電力無線としては従来の小電力通信システムの他に、第二世代小電力データ通信システム(ARIB STD−T66)を用いても好適である。また、中継機を中心とした経路情報を構築し、その経路情報を当該中継機に登録して固定化することにより中継機間における通信経路情報の交換を抑制することで、中継自在なマルチホップにおける通信トラフィックを低減させることができる。
【0043】
なお、本実施形態では、位置判別ユニットを用いて中継機の中継経路情報を管理したが、これに限定するものではなく、中継機の中継経路情報を管理するサーバ又は管理用ユニットを別途設け、複数の位置判別ユニットが当該サーバ又は管理用ユニットからID情報と受信電界強度を受信しても良く、送信機の位置判別を一括して判別し、その結果を位置判別ユニットに送信する位置判別システムでも好適である。
【符号の説明】
【0044】
1,2 位置判別システム、10 中継機、11 送信機、12 位置判別ユニット、13 送信開始スイッチ、15,18,26 送信部、16,21 アンテナ、17,25 受信部、14,19,23 制御部、22 操作・表示部、24,28 メモリ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己のID情報を含む電波を送信する携帯型の送信機と、
送信機が送信した電波を受信して送信機のID情報と受信電界強度を取得し、その受信電界強度をID情報とともに送信機の位置を表示するユニットに送信、又は、他の中継機を介して送信する複数の中継機と、
少なくとも一つの中継機から送信されるID情報と受信電界強度とを収集し、最大受信感度の得られた中継機の配置場所を送信機の位置として表示する位置表示ユニットと、
を有し、
受信電界強度がしきい値を超える中継機は、その他の中継機よりも先に送信を開始することを特徴とする位置判別システム。
【請求項2】
請求項1に記載の位置判別システムにおいて、
中継機は、ランダム遅延により送信時期が調整されることを特徴とする位置判別システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の位置判別システムにおいて、
送信機、中継機、位置判別ユニットは同じ周波数を利用し、送信時期を調整することにより情報の衝突を防止し、かつ、複数の中継機の中継先情報を中継機に記憶させ、中継自在なマルチホップで通信することを特徴とする位置判別システム。
【請求項4】
携帯型の送信機がID情報を含む電波を送信し、中継機は送信機が送信した電波を受信し、その受信電界強度をID情報と共に送信機の位置を表示する位置表示ユニットに送信、又は、他の中継機を介して送信する中継工程と、
少なくとも一つの中継機から送信されるID情報と受信電界強度とを位置表示ユニットが収集し、最も大きな受信電界強度が得られた中継機の配置場所を送信機の位置として表示する位置表示工程と、
を含み、
中継工程は、受信電界強度がしきい値を超える中継機が、その他の中継機よりも先に送信を開始することを特徴とする位置判別システムの通信方法。
【請求項5】
請求項4に記載の位置判別システムの通信方法において、
中継工程は、ランダム遅延により送信時期が調整されることを特徴とする位置判別システムの通信方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の位置判別システムの通信方法において、
中継工程では、送信機、中継機、位置判別ユニットともに同じ周波数を利用し、送信時期を調整することにより情報の衝突を防止し、かつ、複数の中継機の中継先情報を中継機に記憶させ、中継自在なマルチホップで通信することを特徴とする位置判別システムの通信方法。
【請求項1】
自己のID情報を含む電波を送信する携帯型の送信機と、
送信機が送信した電波を受信して送信機のID情報と受信電界強度を取得し、その受信電界強度をID情報とともに送信機の位置を表示するユニットに送信、又は、他の中継機を介して送信する複数の中継機と、
少なくとも一つの中継機から送信されるID情報と受信電界強度とを収集し、最大受信感度の得られた中継機の配置場所を送信機の位置として表示する位置表示ユニットと、
を有し、
受信電界強度がしきい値を超える中継機は、その他の中継機よりも先に送信を開始することを特徴とする位置判別システム。
【請求項2】
請求項1に記載の位置判別システムにおいて、
中継機は、ランダム遅延により送信時期が調整されることを特徴とする位置判別システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の位置判別システムにおいて、
送信機、中継機、位置判別ユニットは同じ周波数を利用し、送信時期を調整することにより情報の衝突を防止し、かつ、複数の中継機の中継先情報を中継機に記憶させ、中継自在なマルチホップで通信することを特徴とする位置判別システム。
【請求項4】
携帯型の送信機がID情報を含む電波を送信し、中継機は送信機が送信した電波を受信し、その受信電界強度をID情報と共に送信機の位置を表示する位置表示ユニットに送信、又は、他の中継機を介して送信する中継工程と、
少なくとも一つの中継機から送信されるID情報と受信電界強度とを位置表示ユニットが収集し、最も大きな受信電界強度が得られた中継機の配置場所を送信機の位置として表示する位置表示工程と、
を含み、
中継工程は、受信電界強度がしきい値を超える中継機が、その他の中継機よりも先に送信を開始することを特徴とする位置判別システムの通信方法。
【請求項5】
請求項4に記載の位置判別システムの通信方法において、
中継工程は、ランダム遅延により送信時期が調整されることを特徴とする位置判別システムの通信方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の位置判別システムの通信方法において、
中継工程では、送信機、中継機、位置判別ユニットともに同じ周波数を利用し、送信時期を調整することにより情報の衝突を防止し、かつ、複数の中継機の中継先情報を中継機に記憶させ、中継自在なマルチホップで通信することを特徴とする位置判別システムの通信方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−90135(P2013−90135A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228864(P2011−228864)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000189486)上田日本無線株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000189486)上田日本無線株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
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