説明

位置決め装置および制御方法

【課題】静止安定性を有する位置決め装置。
【解決手段】対象物を移動させる駆動力を発生する駆動部と、対象物を目標位置に向かって移動させるべく駆動部をサーボ制御する制御部と、対象物を、駆動力よりも大きな固定力で固定する固定部とを備え、移動した対象物が目標位置に到達した後、少なくとも固定部が対象物を固定するまで、制御部は、対象物が移動していた期間のサーボゲインよりも小さなサーボゲインでサーボ制御を継続する。上記位置決め装置において、浮上力を発生させて対象物を浮上させる浮上力発生部を更に備え、浮上力発生部が浮上力の発生を停止した後、少なくとも少なくとも固定部が対象物を固定するまで、制御部は、力発生部が対象物を浮上させていた期間のサーボゲインよりも小さなサーボゲインでサーボ制御を継続してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決め装置および制御方法に関する。より詳細には、サーボ制御により対象物を目標位置に位置決めする位置決め装置とその制御方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
サーボ制御されたアクチュエータを用いて、対象物を目標位置に向かって移動させる位置決め装置がある。下記の特許文献1には、サーボモータの軸を固定してから電力を遮断する制御装置が記載される。下記の特許文献2には、作動流体の圧力により駆動するピストンを備えた位置決め装置において、ピストンを停止させる場合の衝撃を緩和することが記載されている。
【0003】
また、また、下記の特許文献3には、エアシリンダを目標位置に停止させる場合に制御を切り換えることが記載される。更に、下記の特許文献4には、作動流体として空気を用いたサーボ機構において、サーボ利得を安定させることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平08−071970号公報
【特許文献2】特開平10−131902号公報
【特許文献3】特開平11−148502号公報
【特許文献4】特開平11−249746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、サーボ制御された位置決め装置は、対象物を目標位置に向かって高精度に移動させることができる。一方、位置決め装置の用途によっては、目標位置に対する位置精度よりも、目標位置に到達した対象物の静止安定性が重視される。当該用途において、高い静止安定性を求めて位置精度の高いサーボ制御を実装した場合、位置決め装置が高価になる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、上記課題を解決すべく、本発明の第1の形態として、対象物を移動させる駆動力を発生する駆動部と、対象物を目標位置に向かって移動させるべく駆動部をサーボ制御する制御部と、対象物を、駆動力よりも大きな固定力で固定する固定部とを備え、移動した対象物が目標位置に到達した後、少なくとも固定部が対象物を固定するまで、制御部は、対象物が移動していた期間のサーボゲインよりも小さなサーボゲインでサーボ制御を継続する位置決め装置が提供される。
【0007】
また、本発明の第2の形態として、対象物を移動させる駆動部と、対象物を目標位置に向かって移動させるべく駆動部をサーボ制御する制御部と、対象物を、駆動部の駆動力よりも大きな固定力で固定する固定部とを備えた位置決め装置の制御方法であって、移動した対象物が目標位置に到達した後、少なくとも固定部が対象物を固定するまで、制御部は、対象物が移動していた期間のサーボゲインよりも小さなサーボゲインでサーボ制御を継続する制御方法が提供される。
【0008】
上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これら特徴群のサブコンビネーションも発明となり得る。
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明する。しかしながら、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決に必須であるとは限らない。
【実施例1】
【0010】
図1は、位置決め装置100の構造を模式的に示す図である。位置決め装置100は、位置決め動作を実行する作動部101と、作動部101を制御する制御部102とを含む。
【0011】
作動部101は、位置決め装置100が設置される床等に固定された本体部111と、本体部111に対して一体に移動するシリンダ150およびステージ160とを有する。ステージ160の一端には、基準マーク170が保持される。基準マーク170は、例えば、透明なガラス基板において特定の点を示す光学的な模様である。
【0012】
例えば半導体装置の製造工程には、マスクあるいはレチクルと基板、積層する複数のダイあるいは基板、ダイとリードのように、微細な位置合わせが求められる段階が含まれる。このような段階では、相対位置が既知の複数の撮像装置により位置合わせの対象を撮像する。位置決め装置100は、当該撮像装置の視野内に基準マーク170を進退させて、複数の撮像装置の相対的位置を高精度に検出する目的で使用できる。
【0013】
本体部111は、基盤110、支柱120、案内部130およびピストン140を含む。基盤110は、水平に固定されて、位置決め装置100全体の動作の基準となる。支柱120は、基盤110上の異なる位置に離間して配置され、案内部130の両端を支持する。
【0014】
案内部130は、例えば水平に延在し、その略中央にピストン140を保持する。また、案内部130は、支柱120からピストン140に至る途中部分において、シリンダ150の側端面に挿通され、シリンダ150の移動方向を案内する。
【0015】
ピストン140は、シリンダ150の内部に位置する。シリンダ150の内部では、ピストン140の両側方に一対の圧力室152、154が形成される。これにより、一対の圧力室152、154の圧力が平衡するように、シリンダ150はピストン140に対して水平に移動する。
【0016】
更に、本体部111は、基盤110の上に配置されたエンコーダ180および固定機構190を具備する。エンコーダ180は、ピストン140の下面に、案内部130と平行に装着されたリニアスケール182の目盛りを検出して、基盤110に対するシリンダ150の移動量に対応するパルス信号を発生する。
【0017】
固定機構190は、基盤110に対して昇降するシュー192を備える。上昇したシュー192は、シリンダ150に当接してシリンダ150を案内部130に押しつける。これにより、シリンダ150は強固に固定され、移動しなくなる。一方、降下したシュー192は、シリンダ150から離間するので、シリンダ150の移動を妨げることがない。
【0018】
制御部102は、複数の制御弁232、242、252、262、一対の推力制御部230、240、浮上力制御部250、固定機構制御部260、サーボ制御部270およびシーケンス制御部280を備える。更に、制御部102は、制御弁232、242、252、262の各々に加圧された作動流体を供給する圧力源210と、制御弁232、242、252、262を介して作動流体を排出する排気部290とを有する。なお、作動流体としては、例えば乾燥空気を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0019】
圧力源210は、圧力計220を介して、制御弁232、242、252、262の各々に圧力の安定した作動流体を供給する。制御弁232、242は、推力制御部230、240により制御されて、開放または閉鎖される。
【0020】
推力制御部230、240の制御に従って、制御弁232、242が圧力室152、154を圧力源210に連通させた場合は、圧力室152、154のそれぞれに作動流体が供給される。また、制御弁232、242が、圧力室152、154を排気部290に連通させた場合は、圧力室152、154の内部が排気される。
【0021】
更に、推力制御部230、240は、サーボ制御部270の制御を受ける。サーボ制御部270は、エンコーダ180の発生したパルス信号を参照して、初期位置に対するシリンダ150の変位量を監視する。これにより、サーボ制御部270は、シリンダ150の現在位置と目標位置との差分を算出して、シリンダ150が目標位置に向かって移動するように、推力制御部230、240に指令を発信する。
【0022】
浮上力制御部250は、制御弁252を介して、ピストン140およびシリンダ150の摺動面に作動流体を供給する。これにより、ピストン140およびシリンダ150の摺動面には作動流体の層流が生じ、シリンダ150が円滑に移動する。
【0023】
なお、図示の例では案内部130およびシリンダ150の間に作動流体は供給されない。しかしながら、圧力室152、154から外部に向かって流れ出る作動流体は、案内部130およびシリンダ150の間で層流をなして両者の摩擦を低減する。このように、圧力源210、制御弁252および浮上力制御部250を含む一連の構造は、対象物としての基準マーク170を保持するステージ160およびシリンダ150を、作動流体により浮上させる。
【0024】
固定機構制御部260の制御の下に、制御弁262は、固定機構190を圧力源210または排気部290に連通させる。固定機構190が圧力源210に連通した場合は、作動流体が供給されてシュー192が上昇する。これにより、シリンダ150が案内部130に押しつけられて固定される。このように、固定機構190は、対象物たる基準マーク170を保持したステージ160およびシリンダ150を、案内部130向かって押しつけることにより固定する。
【0025】
一方、固定機構190が排気部290に連通した場合は、固定機構190から作動流体が排出される。これにより、シュー192が降下してシリンダ150は開放され、再び移動できるようになる。
【0026】
シーケンス制御部280は、上記した推力制御部230、240、浮上力制御部250および固定機構制御部260を統括して制御し、後述する制御手順を実行させる。なお、推力制御部230、240、浮上力制御部250および固定機構制御部260はいずれも電気回路として形成できるので統合してもよい。
【0027】
図2は、位置決め装置100の動作を説明する図である。なお、図2は、図1に示した位置決め装置100の異なる状態を示す。従って、図1と共通の構成要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0028】
例えば、推力制御部230が制御弁232を介して圧力室152を排気させ、一方、推力制御部240が制御弁242を介して圧力室154に作動流体を供給した場合、ピストン140に対して圧力室152、154から作用する作動流体の圧力が平衡するまで、シリンダ150は図中の左方に移動する。
【0029】
シリンダ150の移動に伴ってリニアスケール182も移動するので、エンコーダ180は、移動に伴って通過した目盛りの数に応じたパルス信号を出力する。サーボ制御部270は、エンコーダ180が出力したパルス信号を参照して、シリンダ150の移動量と目標位置との差分を算出し、推力制御部230、240にそれぞれ指令を発信する。
【0030】
このように、圧力源210、制御弁232、242および推力制御部230、240を含む一連の構造は、対象物としての基準マーク170を保持するシリンダ150およびステージ160を、作動流体の圧力により移動させる駆動部を形成する。
【0031】
上記のようにしてシリンダ150が目標位置まで移動した場合は、固定機構制御部260が、制御弁262を介して固定機構190に作動流体を供給することにより、シュー192を上昇させて、シリンダ150の下面に当接させる。更に、シュー192がシリンダ150を押し上げることにより、シリンダ150は案内部130に押しつけられて、その位置に固定される。こうして、シリンダ150は、目標位置に固定される。
【0032】
なお、上記のような機能に鑑み、固定機構190がシリンダ150を固定する場合の制動力は、シリンダ150を移動させる場合の推力よりも大きいことが望ましい。換言すれば、固定機構190は、シリンダ150を移動させる場合の推力に打ち勝ってシリンダ150の移動を制動できるのであれば、いかなる構造をも採り得る。
【0033】
また、目標位置まで移動したシリンダ150は、もはや移動しない。そこで、浮上力制御部250は、制御弁252を介して、ピストン140およびシリンダ150の摺動部に対する作動流体の供給を遮断しても差し支えない。
【0034】
図3は、上記のような位置決め装置100の制御部102の構造と動作を模式的に示すブロック図である。以下に説明する制御系は、デジタル信号処理により制御を実行するが、アナログ信号処理によって制御してもよい。また、以下の説明においては、圧力室152に関する信号を符号「a」により、圧力室154に関する信号を符号「b」により識別するが、図1および図2に示した参照番号も随時参照する。
【0035】
制御弁232、242における作動流体の質量流量について考えると、圧力室152、154の各々に供給される作動流体の質量は、制御弁232、242における作動流体の流量Ga、Gbの積分値に相当する。ただし、シリンダ150においては作動流体の外部への漏出がある。
【0036】
そこで、圧力室152からの漏出量Da、および、圧力室154からの漏出量Dbと、圧力室152、154に既存の作動流体の質量m0a、m0bと、流量Ga、Gbの積分値との総和が、圧力室152、154の各々における作動流体の質量となる。
【0037】
また、圧力室152、154の容積はシリンダ150の位置xに応じて変化し、シリンダ150の位置xの関数Va(x)、Vb(x)として表される。作動流体が空気等の気体である場合、圧力室152、154の各々における作動流体の圧力Pa、Pbは、状態方程式RT/Va(x)、RT/Vb(x)に従って決まる。
【0038】
圧力室152、154における受圧面積Sa、Sbを圧力Pa、Pbに乗ずることにより、圧力室152、154の各々で発生する推力Fa、Fbが決定される。更に、推力Fa、Fbの差分が、シリンダ150を移動させる推力Fを生じる加速度となる。なお、圧力室152、154における受圧面積Sa、Sbが相互に等しい場合、推力Fは圧力Pa、Pbの差圧Pに等価となる。
【0039】
推力Fは、可動部の質量に反比例した加速度特性(m/s)で可動部を加速する。可動部の加速度を時間積分すると、移動する可動部の速度v(m/s)となる。また、速度vを積分すると可動部の移動量x(m)が得られる。移動量x(m)は、リニアスケール182、エンコーダ180で形成されるリニアエンコーダによって観測することができる。
【0040】
上記のような特性を有する作動部101に対して、制御部102は、以下のような処理を実行する。エンコーダ180からは、シリンダ150の位置を示す移動量xを示す位置センサ信号が入力される。位置センサ信号は、デジタル変換されて位置信号として演算される。エンコーダ180が位置センサ信号をパルス信号として発生する場合は、パルスカウント値をそのまま位置信号として処理することもできる。
【0041】
位置信号から、目標位置を示す値を減算することにより、目標位置に対する現在位置の差分を示す位置残差信号Sig_pと、位置残差信号Sig_pを積分した積分帰還信号Sig_iとが生成される。これにより、Sig_pの積分値を帰還して、定常偏差に対する利得を向上させることができる。
【0042】
また、位置信号を微分し、更にデジタルフィルタにより位相補償演算することにより、可動部の速度vを示す速度信号Sig_vが生成される。なお、デジタル処理における微分演算は、制御計のサンプリング周期毎に、位置センサが取り込んだ位置信号を、サンプリング周期の時間で除する。
【0043】
即ち、作動流体として圧縮流体を用いる制御では積分項が3次となり、安定な帰還系を構築するには位置信号の2階微分値が帰還される。上記の例では、微分演算と位相補償演算により2階微分値の帰還と等価な系を形成している。これにより、安定な位置決め特性が得られる。
【0044】
これら、位置残差信号Sig_p、積分帰還信号Sig_iおよび速度信号Sig_vに、それぞれの利得倍率(Kv、Kp、Ki)を乗算することにより、位置目標信号Sig_Eが生成される。なお、位置目標信号Sig_Eは、下記の式1のように表すことができる。
Sig_E=Kp*Sig_p
+Ki*Sig_i
+Kv*Sig_v・・・式1
【0045】
上記このようにして生成した位置目標信号Sig_Eに基づいて、制御弁232、242の駆動信号が生成される。即ち、推力制御部230への指令信号のSig_Aは、例えば、下記の式2に示す演算により生成される。
Sig_A=Sig_E・・・式2
【0046】
この場合、推力制御部240への指令信号Sig_Bは、下記の式3に示す演算により生成される。
Sig_B=−Sig_E・・・式3
【0047】
推力制御部230、240は、それぞれ、サーボゲインKsa、Ksbを有し、入力された指令信号Sig_A、Sig_Bに従って、制御弁232、242への指令電流を発生する。制御弁232、242は、各々の流量特性g(S)に従って、指令電流に応じた流量で、圧力室152、154の作動流体を供給または排出する。
【0048】
図4は、シーケンス制御部280が制御部102において実行させる制御手順を詳細に示す流れ図である。位置決め動作が開始されると、シーケンス制御部280は、まず、浮上力制御部250に制御弁232を開放させて、ピストン140に対してシリンダ150を浮上させる(ステップS101)。これによりピストン140に対する摺動抵抗が低下して、シリンダ150が円滑に移動できる状態になる。
【0049】
次に、シーケンス制御部280は、サーボ制御部270にサーボ制御を開始させ、目標位置に向かってシリンダ150を移動させる(ステップS102)。やがて、エンコーダ180の出力したパルス信号に基づいて、シリンダ150が目標位置に到達したことが検出される(ステップS103)。
【0050】
シリンダ150が目標位置まで移動すると、シーケンス制御部280は、まず、少なくとも固定機構190がシリンダ150を固定するまで、シリンダ150が移動していた期間のサーボゲインよりも小さなサーボゲインで、サーボ制御部270にサーボ制御を継続する(ステップS104)。ここで設定されるサーボゲインの値は、例えば、シーケンス制御部280に格納されている。これにより、シリンダ150は、目標位置に静止する。
【0051】
なお、ステップS104においては、結果的にトータルゲイン(サーボゲインの総和)が小さくなればよい。従って、例えば、ゲインKp、ゲインKiを変化させずに、ゲインKvの値を単独で小さくしてもよい。
【0052】
このような場合、ゲインKvを10%下げることにより有効な効果が得られた。これにより、位置決め装置100の外乱に対する感度が低くなり、後述する固定動作が開始された場合に生じる衝撃等によってサーボ系に生じる影響を抑制できる。 換言すれば、ステップS104のような制御を実行することにより、固定動作等による衝撃を考慮することなく、位置決め装置100に高いトータルゲインを設定できる。
【0053】
また、3つのサーボゲイン(Kp、Ki、Kv)を全て一律に小さくしてもよい。この場合は、各ゲインを5%下げることにより、有意な効果が現れた。この場合も、位置決め装置100の外乱に対する感度が低くなり、サーボ系に対する外乱の影響を抑制することができた。
【0054】
次に、シーケンス制御部280は、浮上力制御部250に制御弁252を閉鎖させて、浮上力を停止させる(ステップS105)。更に、浮上力の停止と略同時に、シーケンス制御部280は、浮上力発生部が浮上力の発生を停止した後、少なくとも固定機構190がシリンダ150を固定するまで、浮上力制御部250がシリンダ150を浮上させていた期間のサーボゲインよりも小さなサーボゲイン、即ち、ステップS104よりも更に小さいサーボゲインで、サーボ制御部270にサーボ制御を継続させる(ステップS106)。これらにより、シリンダ150は、更に移動し難い状態で目標位置に静止する。
【0055】
なお、ステップS106においては、積分演算を実行する系のゲインKiを零まで小さくすることが有効であった。これにより、シリンダ150が停止したときに残っていた誤差分が積分系に蓄積されて、後述する固定機構190による固定が解かれた場合に、シリンダ150に対して急激な駆動力が発生することが防止される。即ち、ステップS106においては、サーボゲインKiをゼロまたはゼロに近い値とすることが好ましい。
【0056】
ただし、他のサーボゲイン(Kp、Kv)については変化させなくても差し支えないのでそのまま維持する。即ち、ゲインKiを減少させることにより、サーボ系のトータルゲインは減少するが、サーボ制御自体は継続される。これにより、シリンダ150が目標位置に到達した後も、サーボ制御を継続することができる。
【0057】
ここで、シーケンス制御部280は、シリンダ150が目標位置から所与の許容範囲に位置しているかどうかを検査する(ステップS107)。ここで、許容範囲とは、例えば、前述した撮像装置の例であれば、撮像装置の撮像視野内に基準マーク170が位置しているか否かが検査される。
【0058】
シリンダ150が許容範囲内外に位置している場合(ステップS107:NO)、シーケンス制御部280は、ステップS102においてシリンダ150が目標物に向かって移動していた期間のサーボゲインまで戻したサーボゲインで、サーボ制御部270にサーボ制御を継続させる(ステップS108)。これにより、外部からの振動等によりシリンダ150の位置が変位した場合にも、位置決めの精度が担保される。
【0059】
なお、この実施形態では、シリンダ150が所与の許容範囲内に位置していることを条件としてサーボゲインを元に戻すとした。しかしながら、上記条件が発生した場合の対応がこれに限定されるわけではない。例えば、リトライループ(ステップS107:NO)の発生回数に応じて、サーボゲインを段階的に戻すように制御してもよい。即ち、リトライループ(ステップS107:NO)3回目までは、ステップS103におけるサーボゲインの80%まで戻し、リトライ4回目以降はステップS103のサーボゲインの90%まで戻す、等ように制御してもよい。
【0060】
一方、シリンダ150が許容範囲内に位置している場合(ステップS107:YES)、シーケンス制御部280は、固定機構制御部260に、シリンダ150を固定させる(ステップS109)。これにより、シリンダ150は、固定機構190により固定されて、高い静止安定性の下に目標位置に静止する。なお、このような機能に鑑みて、固定機構190の固定力は、推力制御部230、240によるシリンダ150の駆動力よりも高いことが望ましい。
【0061】
なお、シリンダ150は固定機構190により固定されるので、サーボ制御部270がサーボ制御を実行してもシリンダ150は移動しない。しかしながら、シリンダ150が固定機構190により固定されている期間もサーボ制御を継続することにより、再び位置決め動作が開始された場合に、初期化を省いてサーボ制御を継続できる。
【0062】
このように、シーケンス制御部280は、固定機構190がシリンダ150を固定した後も、サーボ制御部270にサーボ制御を継続させてもよい。この場合のサーボ制御におけるサーボゲインは、ステップS105において小さくなったサーボゲインよりも更に小さくてもよい。
【0063】
このようにして、制御部102は、移動したシリンダ150が目標位置に到達した後、少なくとも固定機構190がシリンダを固定するまで、シリンダが移動していた期間のサーボゲインよりも小さなサーボゲインで、サーボ制御部270にサーボ制御を実行させる。これにより、静止位置を目標位置に合わせる精度を徒に向上させることなく、静止安定性の高い位置決め装置100が形成される。
【0064】
即ち、サーボゲインを低下させることによりシリンダ150に対する駆動力が低くなるので、固定機構190は、シリンダ150を確実に固定できる。このような位置決め装置100を用途に応じて装備させることにより、所期の静止安定性を維持しつつ、位置決め装置100を含む装置あるいは設備のコストを低減できる。
【0065】
なお、上記の実施形態では、空気等の作動流体を用いてシリンダ150を移動させているが、電動アクチュエータ等によりシリンダ150、固定機構190等を動作させた場合にも、上記制御の効果は有効になる。また、浮上部も、磁気、電界等により浮上力を得る構造としても差し支えない。
【0066】
図5は、位置決め装置100を含む較正装置300の構造と機能を模式的に示す図である。較正装置300は、例えば図5(a)に示すように、互いに水平方向に沿って配列された一対の撮像ユニット310の相対位置を較正する。また、較正装置300による相対位置の較正は、図5(b)に示すように、上下に対向して配置された一対の撮像ユニット310の相対位置を較正する場合にも有効になる。
【0067】
即ち、複数の撮像ユニット310の相対位置を高精度に検知する場合に、位置決め装置100は、双方の撮像ユニット310から共通に撮影される位置に基準マーク170を位置決めする。相対位置の較正が終了した後は、基準マーク170は、撮像ユニット310の撮像範囲から退避する。換言すれば、相対位置を較正する場合には、基準マーク170を、撮像ユニット310の撮像範囲に、その都度位置決めする。
【0068】
撮像ユニット310の各々は、レンズ312およびカメラ314をそれぞれ備える。レンズ312は画像を拡大する。カメラ314は、レンズ312が拡大した画像を撮像する。ここで、レンズ312の拡大率が大きい場合、カメラ314が撮像し得る視野は小さくなる。このため、基準マーク170は、カメラ314が撮像できる狭い視野に含まれる所定の位置に位置決めされることが求められる。
【0069】
観点を変えると、較正を実行する場合に位置決めされる基準マーク170の位置は、カメラ314の視野に入ってさえいれば、設定された位置目標に対する位置精度は要求されない。従って、カメラ314の視野の広さを基準に定められた許容範囲に入っていれば、それを越える位置精度は求められない。
【0070】
一方、撮像ユニット310の相対位置は、共通の基準マーク170を撮像することにより算出される。しかしながら、一対の撮像ユニット310が基準マーク170を全く同時に撮像できるとは限らないので、両方の撮像ユニット310による基準マーク170の撮像が完了するまでの間は、基準マーク170が一定の位置に高い精度で静止していることが求められる。
【0071】
このような場合に用いられる拡大率の大きな撮像ユニット310の視野は、数十μm程度になる。一方、位置合わせに求められる精度はサブμmとなる。従って、撮像ユニット310により基準マーク170を撮像し得る範囲には数十μm程度の幅があるが、撮像ユニット310の相対位置の位置合わせ精度への要求は高い。
【0072】
このように、位置決め装置100の位置決めの対象物は、複数の撮像ユニット310の相対位置を算出する場合に、複数の撮像ユニット310から共通に撮像される基準マーク170であり得る。これにより、絶対的な目標位置への位置決め精度を徒に高くすることなく、静止位置安定性を有する位置決め装置100を装備できるので、複数の撮像ユニット310を含む装置あるいは設備のコストを低減できる。
【0073】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。また、上記実施の形態に、多様な変更または改良を加え得ることが当業者に明らかである。更に、その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】位置決め装置100の構造を模式的に示す図である。
【図2】位置決め装置100の動作を説明する図である。
【図3】制御部102の構造と動作を模式的に示すブロック図である。
【図4】シーケンス制御部280が実行させる制御手順を詳細に示す流れ図である。
【図5】較正装置300の構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0075】
100 位置決め装置、101 作動部、102 制御部、110 基盤、111 本体部、120 支柱、130 案内部、140 ピストン、150 シリンダ、152、154 圧力室、160 ステージ、170 基準マーク、180 エンコーダ、182 リニアスケール、190 固定機構、192 シュー、210 圧力源、220 圧力計、230、240 推力制御部、232、242、252、262 制御弁、250 浮上力制御部、260 固定機構制御部、270 サーボ制御部、280 シーケンス制御部、290 排気部、300 較正装置、310 撮像ユニット、312 レンズ、314 カメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を移動させる駆動力を発生する駆動部と、
前記対象物を目標位置に向かって移動させるべく前記駆動部をサーボ制御する制御部と、
前記対象物を、前記駆動力よりも大きな固定力で固定する固定部と
を備え、
移動した前記対象物が前記目標位置に到達した後、少なくとも前記固定部が前記対象物を固定するまで、前記制御部は、前記対象物が移動していた期間のサーボゲインよりも小さなサーボゲインで前記サーボ制御を継続する位置決め装置。
【請求項2】
前記対象物が移動する場合に浮上力を発生させて前記対象物を浮上させ、前記対象物が目標位置に到達した場合は前記浮上力の発生を停止する浮上力発生部を更に備え、
前記浮上力発生部が前記浮上力の発生を停止した後、少なくとも前記固定部が前記対象物を固定するまで、前記制御部は、前記力発生部が前記対象物を浮上させていた期間のサーボゲインよりも小さなサーボゲインで前記サーボ制御を継続する請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項3】
前記駆動部は、作動流体の圧力により前記対象物を移動させ、
前記浮上力発生部は、前記作動流体の層流により前記対象物を浮上させる
請求項2に記載の位置決め装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記対象物が前記目標位置に到達してから前記対象物が前記固定部に固定されるまでの期間に、前記目標位置から所与の許容範囲を越えて前記対象物が変位した場合に、前記対象物が前記目標位置に向かって移動していた期間のサーボゲインまで戻したサーボゲインで前記サーボ制御を継続する請求項1から請求項3までの何れかに記載の位置決め装置。
【請求項5】
前記対象物の移動方向を案内する案内部を更に備え、
前記固定部は、前記対象物を前記案内部に向かって押しつけることにより前記対象物を固定する請求項1から請求項4までの何れかに記載の位置決め装置。
【請求項6】
前記対象物は、複数の撮像装置の相対位置を算出する場合に前記複数の撮像装置から共通に撮像される基準標識を含む請求項1から請求項5までの何れかに記載の位置決め装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記対象物が前記目標位置に到達してから前記対象物が前記固定部に固定されるまでの期間に、前記基準標識が前記撮像装置の撮像範囲の外に変位した場合に、前記サーボゲインを大きくする請求項6に記載の位置決め装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記対象物が前記固定部により固定された後も、前記サーボ制御を継続する請求項1から請求項7までの何れかに記載の位置決め装置。
【請求項9】
対象物を移動させる駆動部と、
前記対象物を目標位置に向かって移動させるべく前記駆動部をサーボ制御する制御部と、
前記対象物を、前記駆動部の駆動力よりも大きな固定力で固定する固定部と
を備えた位置決め装置の制御方法であって、
移動した前記対象物が前記目標位置に到達した後、少なくとも前記固定部が前記対象物を固定するまで、前記制御部は、前記対象物が移動していた期間のサーボゲインよりも小さなサーボゲインで前記サーボ制御を継続する制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−9376(P2010−9376A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168926(P2008−168926)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】